説明

導電性樹脂塗装金属板

【課題】接触圧力が小さくても十分な導電性を発揮することのできる樹脂塗装金属板の提供。
【解決手段】金属板の表面に、導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜が被覆された導電性樹脂塗装金属板であって、導電性粒子が導電性樹脂皮膜中20〜65質量%の範囲で含まれており、導電性樹脂皮膜における樹脂のTgが−10℃〜+30℃であり、導電性樹脂皮膜の厚さが1.2〜14μmであり、導電性粒子の含有量をw(質量%)、導電性粒子の平均粒径をr(μm)、導電性樹脂皮膜の厚さをt(μm)としたときに、下記式(1)を満足する導電性樹脂塗装金属板である。 36≦w×(r/t)≦200 (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオビジュアル(AV)機器、パーソナルコンピュータ周辺機器、インターネット接続機器、車載用情報端末等の電子機器用筺体の構成素材として有用な導電性に優れた樹脂塗装金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器分野の最近の動向として、情報処理・伝達能力の高速化、記録容量の増大等さらなる高性能化が進んでおり、電子機器から漏洩する電磁波は増加する傾向にある。漏洩電磁波が増加すると、その電子機器の周辺に配置された精密機械等の誤作動を招くことになるため、対策が必要となっており、電磁波のシールド性(導電性)を高めてその漏洩を防ぐべく、電子機器メーカはより導電性の高い金属板を求める状況にある。また、コストダウンの観点から、金属板を接合する際のネジ等の部品をできるだけ減らすことも要求されており、金属板同士の接合部における接触圧力(10〜12gf/mm2程度の軽接触圧力下)でも良好な導電性を発揮する金属板が望まれている。
【0003】
従来から、樹脂塗装金属板に導電性を付与するには、樹脂皮膜中に導電性粒子を含有させる方法が知られている。例えば、特許文献1には鱗片状ニッケルを樹脂に添加して導電性を付与したプレコート金属板が開示されているが、導電性以外には耐プレッシャーマーク性を評価しているだけで、最近の樹脂塗装金属板に求められるような曲げ加工性や耐疵付き性等については検討されていない。
【0004】
また、本願出願人による特許文献2には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に磁性粉末を含有させた樹脂製磁性被膜を被覆した樹脂塗装鋼板が示されているが、上記の通り、最近では、金属板同士の接合部における接触圧力が小さくても良好な導電性を発揮することが望まれており、この点での検討が不足していた。
【特許文献1】特開平7−314601号公報
【特許文献2】特開2006−161129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、接触圧力が小さくても良好な導電性を発揮することのできる樹脂塗装金属板の提供を課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属板の表面に、導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜が被覆された導電性樹脂塗装金属板であって、導電性粒子が導電性樹脂皮膜中20〜65質量%の範囲で含まれており、導電性樹脂皮膜における樹脂のTgが−10℃〜+30℃であり、導電性樹脂皮膜の厚さが1.2〜14μmであり、導電性粒子の含有量をw(質量%)、導電性粒子の平均粒径をr(μm)、導電性樹脂皮膜の厚さをt(μm)としたときに、下記式(1)を満足することを特徴としている。
36≦w×(r/t)≦200 (1)
【0007】
上記樹脂皮膜は有機溶剤可溶型ポリエステル樹脂を含む原料組成物から得られるものであることが好ましく、上記金属板が合金化溶融亜鉛めっき鋼板である構成は、本発明の好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性樹脂塗装金属板は、特定のTgを有する樹脂皮膜の中に、皮膜厚と一定の関係を有する平均粒径を有する導電性粒子を特定量添加している。これにより、樹脂皮膜が変形し易くなり、導電性粒子が樹脂皮膜表面から適度に露出することが可能となる。従って、金属板同士を接合する際の接触圧力が小さくても、元々露出している導電性粒子はもとより、樹脂皮膜に被覆されていた導電性粒子も樹脂皮膜の変形により露出して接触するため、良好な導電性を発揮することができた。
【0009】
また、樹脂皮膜のTgを適性範囲に定めることで、曲げ加工性や耐疵付き性も良好となった。さらに、金属板として硬度の高い合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いると、樹脂塗装金属板に加えられた圧力を樹脂皮膜が緩和しようとして変形するため、導電性粒子の接触確率が一層向上する。
【0010】
よって、本発明の導電性樹脂塗装金属板は、電子機器の筺体の構成部材として有用であり、特に、金属板同士の接合部における接触圧力が小さい場合に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る導電性樹脂塗装金属板(単に樹脂塗装金属板ということがある)は、樹脂皮膜中の導電性粒子の含有量w(質量%)、樹脂皮膜における樹脂のTg(℃)、樹脂皮膜厚さt(μm)が、それぞれ一定範囲内にあり、かつ、導電性粒子の平均粒径をr(μm)としたときに、w、r、tが、下記式(1)を満足するところに特徴を有している。
36≦w×(r/t)≦200 (1)
【0012】
まず、t、w、式(1)、rについて説明する。
【0013】
樹脂皮膜厚さtは1.2〜14μmとする。1.2μmより薄いと、曲げ加工をしたときに導電性粒子が皮膜から剥がれ落ちることがあるため好ましくない。14μmを超えると導電性が低下する上に、コスト的な観点からも好ましくない。tは、2〜9μmがより好ましく、3〜8μmがさらに好ましい。tは、皮膜質量から比重換算する方法によって測定しても良いし、あるいは、樹脂皮膜の断面を顕微鏡観察(SEM写真観察)して測定してもよい。
【0014】
樹脂皮膜中、導電性粒子の含有量wは20〜65質量%とする。20質量%未満では十分な導電性が発現せず、65質量%を超えると皮膜中のマトリックス樹脂の量が相対的に減少して、皮膜に亀裂が入りやすくなるため好ましくない。wは、30〜60質量%がより好ましく、35〜55質量%がより好ましい。
【0015】
上記式(1)においては、wは上述の通り樹脂皮膜中の導電性粒子の含有量であり、(r/t)は、rが導電性粒子の平均粒径であるので、樹脂皮膜の厚みtに対し、導電性粒子がどれだけ大きいか、すなわち、樹脂皮膜表面から外に突出している導電性粒子の長さの指標となる値である。本発明では、導電性との関係で、w・(r/t)を36以上200以下とする。36未満では、十分な導電性が発揮しないおそれがあり、200を超えると、導電性粒子が皮膜から脱落し易くなるため、好ましくない。w・(r/t)の好ましい下限は45、より好ましい下限は50であり、好ましい上限は150、より好ましい上限は120である。
【0016】
導電性粒子の平均粒径rは、上記式(1)を満足させられる範囲であれば特に限定されないが、大体3〜30μm程度である。なお、この平均粒径rは、レーザー回折法(散乱式)による50%体積平均粒子径である。導電性粒子の粒度分布は、取り立ててシャープである必要はなく、市販のものをそのまま用いることができ、用途に応じて適宜、篩やメッシュを用いて分級すればよい。
【0017】
本発明で用い得る導電性粒子としては、金属粒子か、無機または有機ポリマー粒子表面に金属等の導電性層を設けたもの等が挙げられる。金属粒子としては、磁性粉、ニッケル、リン化鉄等が、導電性、耐食性の観点から使用可能である。金属板に、さらに電磁波吸収性能を付与する必要性がある場合には、良好な導電性を有し、かつ、電磁波吸収性を兼備する磁性金属粉末を、導電性粒子として用いるとよい。このような磁性金属粉末としては、パーマロイ(Ni−Fe系合金でNi含有量が35質量%以上のもの)やセンダスト(Si−Al−Fe系合金)等が好適である。
【0018】
次に樹脂皮膜の主たる成分であるマトリックス樹脂について説明する。本発明の樹脂塗装金属板は、上記導電性粒子がマトリックス樹脂中に分散されてなる樹脂皮膜が金属板の表面に形成されたものである。マトリックス樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、およびこれら樹脂の混合物または変性した樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂の原料として用いると、得られる硬化塗膜は硬くなりすぎて変形能の小さいものとなってしまうので、本発明においては好ましくない。本発明の樹脂塗装金属板は、主に電子機器の筐体に使用されるため、曲げ加工性、皮膜密着性、耐食性等の特性が要求されることを考慮すると、有機溶剤可溶型(非晶性)のポリエステル樹脂が好ましい。
【0019】
有機溶剤可溶型のポリエステル樹脂としては、東洋紡績社製の「バイロン(登録商標)」シリーズが、豊富な種類のものを入手することができる点で好適である。ポリエステル樹脂は、メラミン樹脂等で架橋してもよい。メラミン樹脂としては、住友化学社製の「スミマール(登録商標)」シリーズや、三井サイテック社製の「サイメル(登録商標)」シリーズがある。
【0020】
本発明の樹脂塗装金属板は、金属板に形成されている樹脂皮膜中のマトリックス樹脂のTgが−10℃〜+30℃でなければならない。Tgをこの範囲に設定することで、樹脂皮膜の変形能が向上し、導電性粒子の適度な露出が可能となるからである。Tgが−10℃より低いと、マトリックス樹脂が柔らかすぎて耐疵付き性に劣るが、Tgが30℃を超えると樹脂の変形能が低下し、導電性が低下するため好ましくない。
【0021】
マトリックス樹脂のTgとは、実際に樹脂皮膜全体のTg測定により測定されるTgの値を意味する。樹脂皮膜には、マトリックス樹脂(樹脂+架橋剤の場合も有り得る)のほか、防錆剤や艶消し剤、顔料等の公知の添加剤が含まれ得るが、Tgは、分散された固体添加物の影響を受けないためである。
【0022】
従って、マトリックス樹脂を架橋しない場合には、マトリックス樹脂のTgが樹脂皮膜全体のTgとなる。また、架橋する場合は架橋後のマトリックス樹脂のTgが−10℃〜+30℃となるように、架橋剤の配合量を適切に調節すればよい。なお、樹脂と架橋剤の比率は、加工性等と耐久性とのバランスの観点から、乾燥後の樹脂皮膜中に架橋剤(反応後)が5〜30質量%となるように、配合することが好ましい。
【0023】
本発明におけるTgの測定は、金属板から樹脂皮膜を削り取って、示差走査熱量計(DSC)で、窒素雰囲気下、温度範囲−100℃〜180℃、昇温速度20℃/minで行う。
【0024】
前記した東洋紡績社製のバイロン(登録商標)シリーズのTgを示せば以下の通りである。バイロン103(47℃)、バイロン200(67℃)、バイロン220(53℃)、バイロン226(65℃)、バイロン240(60℃)、バイロン245(60℃)、バイロン270(67℃)、バイロン280(68℃)、バイロン290(72℃)、バイロン296(71℃)、バイロン300(7℃)、バイロン500(4℃)、バイロン530(5℃)、バイロン550(−15℃)、バイロン560(7℃)、バイロン600(47℃)、バイロン630(7℃)、バイロン650(10℃)、バイロンGK110(50℃)、バイロンGK130(15℃)、バイロンGK140(20℃)、バイロンGK150(20℃)、バイロンGK180(0℃)、バイロンGK190(11℃)、バイロンGK250(60℃)、バイロンGK330(16℃)、バイロンGK590(15℃)、バイロンGK640(79℃)、バイロンGK680(10℃)、バイロンGK780(36℃)、バイロンGK810(46℃)、バイロンGK880(84℃)、バイロンGK890(17℃)、バイロンBX1001(−18℃)等が挙げられる。これらのTgは、カタログに記載された温度である。また、これらの分子量(Mn)は3×103〜30×103の範囲である。
【0025】
本発明の樹脂塗装金属板の原板としては、アルミニウム板、銅板、冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金めっき鋼板等が用い得る。なかでも、亜鉛と鉄族元素(Fe,Co,Ni)との合金めっき鋼板が好ましい。これらの合金めっき鋼板は、金属板として硬度の高いものであるので、樹脂塗装金属板に加えられた圧力を金属板の変形で緩和するのではなく、樹脂皮膜が緩和しようとして変形するため、導電性粒子の接触確率が一層向上する。また、これらの合金めっき鋼板の中でも、亜鉛と鉄とを合金化しためっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)がさらに好適である。鉄は電磁波吸収性に優れ、めっき中の鉄が電磁波の吸収に寄与するため、GA鋼板を原板として用いることで、より高い電磁波シールド性を発揮することができる。
【0026】
成型性を確保するという観点からすれば、Fe、Ni、Co含有量は、いずれも5〜20質量%程度に制御することが好ましい。溶融めっき法の詳細なめっき条件は特に限定されず、合金化に通常用いられている方法を採用することができる。めっきの付着量は、電磁波吸収性を考慮すると少ない方が良く、例えば、50g/m2以下であることが好ましく、40g/m2以下であることがより好ましく、35g/m2以下であることがさらに好ましく、30g/m2以下であることが最も好ましい。めっき付着量の下限は、電磁波吸収性の観点からは特に限定されないが、耐食性等を考慮すると、5g/m2であることが好ましく、10g/m2であることがより好ましい。
【0027】
本発明の樹脂塗装金属板を製造するには、樹脂皮膜の原料組成物を調製し、これを金属板に塗布・乾燥する方法を採用するのが好ましい。原料組成物は、マトリックス樹脂、必要により添加される架橋剤等を、有機溶剤等で希釈して塗工に適した粘度にしたものを用いる。有機溶剤としては特に限定されないが、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。原料組成物の固形分濃度は5〜45質量%程度が好ましい。
【0028】
上記原料組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、艶消し剤、体質顔料、防錆剤、沈降防止剤、ワックス等、樹脂塗装金属板分野で用いられる各種公知の添加剤を添加してもよい。また、カーボンブラック等の放熱性付与のための添加剤を添加してもよい。
【0029】
上記原料組成物を金属板に塗布する方法は特に限定されず、バーコーター法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等が採用可能である。塗布後には乾燥を行うが、架橋剤添加系においては、架橋剤が反応し得る温度で加熱乾燥を行うことが好ましい。具体的には、100〜250℃で、1〜5分程度加熱乾燥を行うとよい。なお、金属板には、耐食性向上、樹脂皮膜との密着性向上等を目的として、予めクロメート処理やリン酸塩処理等の公知の表面処理(下地処理)を施しておいてもよい。あるいは、環境汚染等を考慮して、ノンクロメート処理した金属板を使用してもよい。
【0030】
本発明の樹脂塗装金属板は、上記したように導電性粒子を含有する樹脂皮膜が金属板上に積層されたものであり、例えば電子機器の筺体として用いる場合には、この樹脂皮膜が筺体内側になるように用いる。必要に応じて、耐疵付き性や耐指紋性等を高めるため、上記樹脂皮膜の表面に、さらに別の樹脂皮膜(上塗り層)を施してもよい。ただし、上塗り層は、導電性粒子の露出を妨げて導電性を低下させることのない薄膜であることが重要であり、具体的には0.2〜1.5μm、より好ましくは0.4〜1.2μm程度とする。
【実施例】
【0031】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更実施は本発明に含まれる。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0032】
〔金属板〕
用いた金属板とその略称を以下に示す。なお、めっきは金属板の両面に行った。
GA:合金化溶融亜鉛めっき鋼板…板厚;0.8mm、めっき付着量;片面30g/m2ずつ、めっき中のFe量;8.6%
EG:電気亜鉛めっき鋼板…板厚;0.8mm、めっき付着量;片面20g/m2ずつ
GI:溶融亜鉛めっき鋼板…板厚;0.6mm、めっき付着量;片面60g/m2ずつ
Al:アルミニウム板…板厚;0.6mm
【0033】
〔マトリックス樹脂〕
東洋紡績社製の有機溶剤可溶型ポリエステル樹脂バイロン(登録商標)シリーズを用いた。用いた種類とTgを示す。
バイロン550(Tg:−15℃)、バイロン500(Tg:4℃)、バイロンGK130(Tg:15℃)、バイロンGK140(Tg:20℃)、バイロンGK780(Tg:36℃)、バイロン296(Tg:71℃)
【0034】
〔架橋剤〕
メラミン樹脂(「スミマール(登録商標)M−40ST」:住友化学社製)を用いた。
【0035】
〔導電性粒子〕
・Fe−Ni合金磁性粉(三菱製鋼製パーマロイ:78Ni−1Mo−FP;平均粒径7.6μm;表ではFe−Niと省略)
・ニッケル粉(日興リカ社製「CNS−10」;平均粒径6.3μm;表ではNiと省略)
・リン化鉄(福田金属箔工業社製「P−Fe−350」を平均粒径7.0μmとなるように粉砕機で粉砕したもの)
【0036】
なお、これらの平均粒径は、Leeds&Northrup社製のマイクロトラックFRA9220を用いて、レーザー回折法(散乱式)により測定した50%体積平均粒子径である。
【0037】
〔樹脂皮膜用原料組成物の調製〕
Tgの異なる各種樹脂と、上記架橋剤(固形分80%)を質量比9:1で混合してマトリックス樹脂とし、導電性粒子を表1〜表10に示した量(樹脂皮膜中の含有量w)となるように添加し、さらに、放熱用のカーボンブラック(三菱化学社製;粒子径25nm)を組成物固形分100%中、10%となるように添加した。この原料組成物の固形分濃度が10〜30%となるように、キシレン/シクロヘキサノン混合溶剤(キシレン:シクロヘキサノン=1:1)で希釈して、ハンドホモジナイザで10000rpmで10分撹拌し、原料組成物を調製した。
【0038】
なお、Tgが−6℃の樹脂は、バイロン550とバイロン600を、85:15で混合したものであり、Tgが26℃の樹脂は、バイロンGK140とバイロンGK780を、63:37で混合したものである。
【0039】
〔上塗り塗料の調製〕
表10に示したTgを有するバイロン500とバイロンGK780とバイロン296を用いた。各種樹脂と上記架橋剤とを質量比9:1で混合し、固形分濃度が7.5%となるように、キシレン/シクロヘキサノン混合溶剤(キシレン:シクロヘキサノン=1:1)で希釈して、ハンドホモジナイザで10000rpmで10分撹拌し、上塗り塗料を調製した。
【0040】
〔樹脂塗装金属板の作製〕
樹脂皮膜用原料組成物を、表1〜表10に示した膜厚となるように表1〜表10に示した各種金属板にバーコートで塗工し、熱風乾燥炉内にて到達板温230℃で約120秒間焼き付けして、樹脂塗装金属板を作製した。
【0041】
〔Tgの測定〕
JIS K 7121に基づき、示差走査熱量計(商品名:Thermo Plus DSC8230:リガク社製)を用いて測定した。具体的には、上記のようにして作製した樹脂塗装金属板から、カッターナイフで樹脂皮膜を削り取り、サンプルを採取した。このサンプルを示差走査熱量計にセットし、−100℃に冷却し、安定したところで、20℃/分の速さで、180℃まで昇温し、得られたDSC曲線からガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0042】
〔導電性の測定および評価基準〕
テスター[(株)カスタム製アナログテスタCX−270N]を用い、以下のようにして、樹脂塗装金属板の表面の電気抵抗を測定した。図1に示すように、2本の端子を樹脂皮膜との角度が45°になるように持ち、30mm/秒の平均速度で樹脂皮膜表面を軽くなぞる。測定長さは100mmとした。測定時の圧力は、端子の自重(7g)のみとなるように、軽接触下で行った。測定開始から1秒間以上経過して測定値(抵抗値)が安定したところで、抵抗値を読み取った。この操作を測定場所を変えて合計10回行い、その平均値を抵抗値とした。この抵抗値が500Ω以下なら、実用上問題ないとして○、500Ωを超えていたら、導電性が悪いとして×とした。
【0043】
〔曲げ加工性〕
JIS K5600−5−1の耐屈曲性試験に記載のタイプ2の試験装置を用いて、0T曲げ(180゜曲げ)を行い、曲げた後の樹脂皮膜(曲げ後は樹脂皮膜が曲げ部外側にある)の剥離状態を目視で観察し、剥離があれば×、なければ○とした。
【0044】
〔耐疵付き性〕
JIS K5600−5−4に準拠した鉛筆硬度試験を行い、Hの鉛筆で疵付きなしを○、疵付き有りを×とした。
【0045】
実験No.1
樹脂皮膜のTgと導電性の関係を検討した。金属板はGA、導電性粒子はFe−Ni合金磁性粉(平均粒径r:7.6μm)を用いた。導電性粒子量wは50%と一定にし、樹脂皮膜厚tは6μm前後および9μm前後に調整した。測定結果を表1に示した。樹脂皮膜のTgが−10℃〜+30℃の範囲にあれば、導電性、曲げ加工性、耐疵付き性の全てに優れていることがわかる。
【0046】
【表1】

【0047】
実験No.2
樹脂皮膜のTgが−6℃となる樹脂と、GAおよびFe−Ni合金磁性粉を用い、導電性粒子量wと樹脂皮膜厚(膜厚)tを変化させることで、式(1)のw・(r/t)を変化させ、導電性との関係を検討した。測定結果を表2に示した。wが20〜65%で、w・(r/t)が36以上200以下であれば、導電性、曲げ加工性、耐疵付き性の全てに優れていることがわかる。
【0048】
【表2】

【0049】
実験No.3
金属板の種類と導電性粒子の種類が導電性に及ぼす影響を検討し、表3にその結果を示した。導電性粒子が異なっていても、式(1)を満足しない場合は導電性が悪く、金属板や導電性粒子が異なっていても、式(1)を満足する場合は、導電性、曲げ加工性、耐疵付き性の全てに優れていることがわかる。
【0050】
【表3】

【0051】
実験No.4
樹脂皮膜のTgが4℃となる樹脂を用いて、実験No.2と同様の実験を行い、結果を表4に示した。実験No.2と同じ傾向を示していた。
【0052】
【表4】

【0053】
実験No.5
樹脂皮膜のTgが4℃となる樹脂を用いて、実験No.3と同様の実験を行い、結果を表5に示した。実験No.3と同じ傾向を示していた。
【0054】
【表5】

【0055】
実験No.6
樹脂皮膜のTgが15℃となる樹脂を用いて、実験No.2と同様の実験を行い、結果を表6に示した。実験No.2と同じ傾向を示していた。
【0056】
【表6】

【0057】
実験No.7
樹脂皮膜のTgが15℃となる樹脂を用いて、実験No.3と同様の実験を行い、結果を表7に示した。実験No.3と同じ傾向を示していた。
【0058】
【表7】

【0059】
実験No.8
樹脂皮膜のTgが26℃となる樹脂を用いて、実験No.2と同様の実験を行い、結果を表8に示した。実験No.2と同じ傾向を示していた。
【0060】
【表8】

【0061】
実験No.9
樹脂皮膜のTgが26℃となる樹脂を用いて、実験No.3と同様の実験を行い、結果を表9に示した。実験No.3と同じ傾向を示していた。
【0062】
【表9】

【0063】
実験No.10
樹脂皮膜のTgが−15℃および36℃となる樹脂を用いて、式(1)を満足する場合の特性を検討し、結果を表10に示したが、−15℃のものは耐疵付き性に劣り、36℃のものは導電性に劣ることが確認できた。
【0064】
また、樹脂皮膜のTgが4℃となる樹脂を用いて、上塗り塗膜が形成された場合の特性を検討し、結果を表10に示した。上塗り塗膜は薄膜であるため、Tgが高くても導電性に悪影響を与えることはなかった。
【0065】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の樹脂塗装金属板は、電子機器の筺体の構成部材として有用である。上記電子機器としては、CD、LD、DVD、CD−ROM、CD−RAM、PDP、LCD等の情報記録製品;パーソナルコンピュータ、カーナビゲーションシステム、カーオーディオビジュアル機器等の電気・電子・通信関連製品;プロジェクター、テレビ、ビデオ、ゲーム機等のオーディオビジュアル機器等が挙げられる。さらに、コピー機、プリンター等の複写機の構成部材として、また、エアコン室外機等の電源ボックスカバーや制御ボックスカバーとして、さらには、自動販売機や冷蔵庫等の構成部材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】樹脂塗装金属板の導電性の測定方法の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面に、導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜が被覆された導電性樹脂塗装金属板であって、
導電性粒子が導電性樹脂皮膜中20〜65質量%の範囲で含まれており、導電性樹脂皮膜における樹脂のTgが−10℃〜+30℃であり、導電性樹脂皮膜の厚さが1.2〜14μmであり、導電性粒子の含有量をw(質量%)、導電性粒子の平均粒径をr(μm)、導電性樹脂皮膜の厚さをt(μm)としたときに、下記式(1)を満足することを特徴とする導電性樹脂塗装金属板。
36≦w×(r/t)≦200 (1)
【請求項2】
上記樹脂皮膜が、有機溶剤可溶型ポリエステル樹脂を含む原料組成物から得られるものである請求項1に記載の導電性樹脂塗装金属板。
【請求項3】
上記金属板が、合金化溶融亜鉛めっき鋼板である請求項1または2に記載の導電性樹脂塗装金属板。

【図1】
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【公開番号】特開2008−238406(P2008−238406A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77702(P2007−77702)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】