説明

導電部材およびこれを備える電子機器

【課題】筐体内部への水の浸入をより確実に防ぐことのできる導電部材、およびこれを備える電子機器を提供する。
【解決手段】導電部材2は、誘電体からなる筐体1の外部の導電パターン3と、該筐体1の内部の電子部品30とを電気的に接続するものであり、上記筐体1を貫通する柱状の導電部材2であって、上記筐体1と接する側面にフランジ状の突出部2aが少なくとも1つ設けられているので、筐体1と導電部材2との接触長を長くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体の内部と外部とを電気的に接続する導電部材およびこれを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、筐体の内部と外部とを電気的に接続するために、筐体中に導電部材を通した電子機器が広く用いられている(下記特許文献1、2)。
【0003】
このうち、特許文献1には、金属製のピンを筐体にインサート成形した携帯電話機が記載されている。これについて、図6に基づいて説明する。図6は、従来技術を示す図であり、金属製のピンを筐体にインサート成形した携帯電話機の要部断面図である。
【0004】
図示のように、携帯電話機200は、該携帯電話機200の筐体を構成する樹脂部203と、該樹脂部203にインサート成形されるインサート板金201と、同じく樹脂部203にインサート成形されるピン202とを含む。
【0005】
上記の構成によれば、固着されたインサート板金201とピン202とが樹脂部203にインサート成形されているため、インサート板金201と筐体内部の回路等との電気的な接続が、簡易な構成で、しかも筐体内部の気密性を保ちつつ実現される。また、これにより、ある程度の防水機能も生じる。また、同文献には、ピン202の側面に溝部を設けることによって、ピン202と樹脂部203の固着を強固にし、防水性を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−263283号公報(2010年11月18日公開)
【特許文献2】特開2009−66916号公報(2009年4月2日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術では、防水性が不十分となるおそれがあると考えられる。すなわち、ピンをインサート成形する場合、ピンの周囲に微小な孔(樹脂が充填されなかった部分)が生じることが多々ある。そして、このような孔により、防水性が確保できなくなることがある。
【0008】
特に、溝部を設けたピンをインサート成形する場合、細い溝部の中に樹脂が入り込めずにピンと樹脂部との間に隙間が生じるおそれがあると考えられ、防水性が確保できなくなることが懸念される。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、筐体内部への水の浸入をより確実に防ぐことのできる導電部材、およびこれを備える電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の導電部材は、誘電体からなる筐体の外部の導電パターンと、該筐体の内部の電子部品とを電気的に接続するものであり、上記筐体を貫通する柱状の導電部材であって、上記筐体と接する側面にフランジ状の突出部が少なくとも1つ設けられていることを特徴としている。
【0011】
上記の構成によれば、筐体と接する側面にフランジ状の突出部が設けられているため、このような突出部が設けられていない従来の構成と比べて、筐体と導電部材との接触長を長くすることができる。また、突出部を複数設ける場合であっても、突出部の間隔を広く取ることによって、溝部を設ける従来の構成と比べて、筐体と導電部材との間の隙間が生じにくい形状とすることが容易である。
【0012】
したがって、上記の構成によれば、筐体外部から水等が浸入することをより確実に防ぐことができる。
【0013】
なお、上記導電部材は、上記アンテナと上記回路とを直接的に接続するものであってもよいし、例えば配線等のような他の導電部材を介して間接的に接続するものであってもよい。
【0014】
また、上記導電部材は、該導電部材を固定した金型内に樹脂を充填することによって、該樹脂からなる上記筐体と一体成形されるものであり、上記導電部材は、上記金型に固定するときの向きを反転させても、上記導電パターンと上記電子部品とを電気的に接続することができる形状であることが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、導電部材は、金型に固定するときの向きを反転させても、導電パターンと電子部品とを電気的に接続することができる形状である。よって、導電部材を筐体と一体成形する際の方向の制約が緩和される。これにより、該導電部材を備えた電子機器の製造工程における、筐体と導電部材を一体成形する工程において、導電部材をいずれの向きで金型に固定するかを判断する必要がなくなる。
【0016】
また、上記導電部材は、上記導電パターンと接続する側の端部と、上記電子部品と接続する側の端部との間を流れる電流が、該導電部材上の何れの経路を通るかにかかわらず、該両端部間で位相差が生じない形状となっていることが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、導電パターンと接続する側の端部と、電子部品と接続する側の端部との間を流れる電流が、該導電部材上の何れの経路を通るかにかかわらず、該両端部間で位相差が生じない形状となっている。したがって、突出部を設けた場合であっても、導電パターンと電子部品との間において、安定した位相で電流を流すことができる。
【0018】
なお、両端部間で位相差が生じない形状とする場合、例えば導電部材の表面形状が、導電部材の柱状部分の中心軸に対して線対称となるようにすればよい。言い換えれば、この中心軸周りに任意の角度だけ回転させても外観が変わらないような形状となるようにすればよい。
【0019】
また、上記導電部材は、上記突出部が両端部に設けられていることが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、突出部が両端部に設けられているので、該両端部のそれぞれにおける導電パターンまたは電子部品との接触面積(あるいは導電パターンまたは電子部品に接続する配線等との接触面積)を広くすることができる。したがって、導電パターンと電子部品とを結ぶ電気的な接続をより確実なものとすることができる。
【0021】
また、上記導電部材は、上記両端部に設けられた突出部の間に少なくとも1つの突出部がさらに設けられていることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、突出部が少なくとも3つ設けられているため、筐体と導電部材との接触長をさらに長くして、防水性能をさらに高めることが可能になる。
【0023】
また、本発明の電子機器は、上記課題を解決するために、筐体と、該筐体を貫通する請求項1から5の何れか1項に記載の導電部材と、上記導電パターンと、上記電子部品とを備える電子機器であって、上記導電部材を介して上記電子部品と上記導電パターンとを電気的に接続する構成である。
【0024】
上記の構成によれば、上記導電部材を介して導電パターンと電子部品とを電気的に接続するので、筐体外部から水等が浸入しにくい。つまり、筐体の外部に導電パターンを備えた防水性能の高い電子機器を提供することができる。
【0025】
また、上記電子機器では、上記導電パターンは、導電ペーストを上記筐体の外表面に塗布することによって形成されたものであることが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、導電パターンが導電ペーストの塗布によって形成されたものであるため、導電部材が筐体の表面から突出している場合であっても、凹んでいる場合であっても、導電パターンと導電部材とが直接に接続される。つまり、上記の構成によれば、導電部材の露出の程度にかかわらず、導電パターンと導電部材とを他の配線等を介することなく確実かつ強固に接続することができる。
【0027】
また、上記のような構成の電子機器を製造する際には、繊細なパターンや、曲面的なパターン等、板金では構成が困難な導電パターンを形成することができるので、設計の自由度を向上させることができるという利点がある。
【0028】
また、上記電子機器では、上記導電パターンは、可撓性を有する印刷版を用いた印刷により、上記導電ペーストを上記筐体の外表面に塗布することによって形成されたものであることが好ましい。
【0029】
上記の構成によれば、可撓性を有する印刷版を用いた印刷によって導電パターンが形成されている。これにより、筐体上の導電パターンを形成する面(導電部材が露出している部分を含む)に多少の凹凸がある場合であっても、導電パターンと導電部材とを他の配線等を介することなく確実かつ強固に接続することができる。さらに、製造工程においては、多数の筐体に対して効率よく導電パターンを形成することができるという利点がある。
【0030】
また、上記電子機器では、上記導電パターン上に保護層が設けられていることが好ましい。
【0031】
上記の構成によれば、保護層によって、塗布された導電体材料(導電パターン)が剥がれることを防ぐことができる。なお、保護層は、アンテナの性能に影響を与えない材質のものであり、導電体材料を保護するだけの強度を有するものであればよい。ここでアンテナの性能に影響を与えない、とは、保護層4の有無でアンテナの性能が著しく劣化しないことを意味する。
【0032】
例えば、上記保護層は、樹脂などを含む塗装コーティングによって形成したものであってもよいし、PETなどの材料のシート材を貼り付けたり、熱や圧力で圧着したものであってもよい。塗装コーティングの場合、筐体の塗装が保護層としても機能するため、塗装とは別に保護層の形成を行う場合と比べて、電子機器の製造工程を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明の導電部材は、誘電体からなる筐体の外部の導電パターンと、該筐体の内部の電子部品とを電気的に接続するものであり、上記筐体を貫通する柱状の導電部材であって、上記筐体と接する側面にフランジ状の突出部が少なくとも1つ設けられている構成である。
【0034】
したがって、このような突出部が設けられていない従来の構成と比べて、筐体と導電部材との接触長を長くし、筐体外部から水等が浸入することをより確実に防ぐことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態にかかる通信機器の概略構成を説明する図である。
【図2】上記通信機器が備える導電部材の形状の一例を示す図であり、同図(a)は側面図であり、同図(b)は斜視図であり、同図(c)は上面図である。
【図3】上記導電部材の他の例を示す図であり、同図(a)は側面図であり、同図(b)は斜視図であり、同図(c)は上面図である。
【図4】上記通信機器の筐体の外表面上に、上記導電部材に接触するように導電パターンを設ける工程の手順の一例を示す図である。
【図5】上記導電パターンを保護層で被覆した上記通信機器の要部断面図である。
【図6】従来技術を示す図であり、金属製のピンを筐体にインサート成形した携帯電話機の要部断面図である。
【図7】上記通信機器における導電パターンと通信回路とを導電部材を介して接続する構成と同等の機能を実現するために、本発明者らが検討した他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施の形態について、図1から図5に基づいて詳細に説明する。
【0037】
〔通信機器の構成〕
本発明の一実施形態にかかる通信機器(電子機器)の構成について、図1に基づいて説明する。図1は、通信機器100の概略構成を説明する図である。なお、図1には、通信機器100の一部の断面を示す斜視図と、断面の部分拡大図とが含まれる。
【0038】
図示のように、通信機器100は、筐体1、導電部材2、導電パターン3、バネ端子20、給電線21、および通信回路(電子部品)30を備えている。なお、導電パターン3が形成されている面は、通信機器100の背面であり、同図には示していないが、前面には表示部が設けられている。つまり、通信機器100は、タブレット型の通信機器(例えばスマートフォン、電子書籍端末、タブレットPC等)である。ただし、通信機器100は、筐体を有し、他の機器から情報を受信する機能、および他の機器に情報を送信する機能の少なくとも一方を備えているものであればよく、上記の例に限られない。
【0039】
筐体1は、誘電体からなり、通信機器100の外形を構成しており、筐体1の内部の空間には、通信機器100が備える電子部品等が格納される。同図には示していないが、筐体1は、前面側の筐体と背面側の筐体とを接続して構成されており、導電部材2および導電パターン3は背面側の筐体に設けられている。筐体1は、誘電体からなる非透水性の素材であればよく、例えば樹脂などによって構成することもできる。なお、筐体1は、導電部材2および導電パターン3と接する部分が誘電体で構成されていればよく、全ての部分を誘電体で構成する必要はない。
【0040】
導電部材2は、筐体1を貫通するように筐体1に埋め込まれている導電体であり、筐体1の内部と外部とを電気的に接続するものである。また、導電部材2は、導電性を有するものであればよく、例えば金属によって構成することができる。導電部材2は、筐体1に固定されていればよく、固定方法は限定されないが、例えば、導電部材2は筐体1と一体成形されていることが好ましい。
【0041】
導電パターン3は、筐体1上に設けられている導電膜であり、導電部材2に接触している。導電パターン3は、それ自体では保形性を有さない(自己保形性を有さない)導電膜である。例えば、フレキシブルプリント基板等の可撓性を有する導電膜、または、導電ペーストが塗布されてなる導電膜であってもよい。
【0042】
導電ペーストは、粘性を有する導電体材料であり、少なくとも、金属粉および溶剤からなるものであり、好ましくは、金属粉、バインダー樹脂および溶剤からなるものである。導電ペーストが塗布されてなる導電膜は、例えば、乾燥により溶剤が除去されていてもよく、溶剤が一部残留していてもよい。
【0043】
導電ペーストの塗布方法としては種々の方法を採ることができるが、好適には、筐体1および導電部材2の形状に適合するように、可撓性を有する印刷版を用いた印刷(例えば、フレキソ印刷、オフセット印刷、シルク印刷、パッド印刷等)により塗布することが好ましい。
【0044】
なお、導電パターン3の形状は特に限定されず、通信機器100の設計等に応じて適宜設定することができる。例えば、図示の例では導電パターン3が導電部材2の端部の全面を覆っているが、導電パターン3と導電部材2との電気的な接続が充分に維持される限度で、一部のみを覆うような形状であってもよい。
【0045】
また、導電部材2の他の端部は、筐体1の内部に配置された、導電部材2を筐体1の内部から外部に向かう方向に押し付けるバネ端子20と電気的に接続している。そして、バネ端子20は、給電線21を介して通信回路30と電気的に接続している。
【0046】
そして、通信機器100において、導電パターン3は、導電部材2、バネ端子20、および給電線21を介して通信回路30から給電され、アンテナとして動作するようになっている。この場合、導電部材2のバネ端子20と接続する側の端部は、導電パターン3に給電する給電線21に接続するための電極となる。
【0047】
〔導電部材の構成と主な特徴点〕
導電部材2は、拡大断面図に示すように、軸部2bの両端部に突出部2aが設けられた構成である。突出部2aを設けることによって、突出部2aを設けない場合と比べて、筐体1と導電部材2との接触面積を広くすることができるので、導電部材2を筐体1内に安定的に固定することができる。
【0048】
また、筐体1と導電部材2との接触長を長くすることができるので、筐体1と導電部材2との隙間から水が筐体内に浸入しにくい。つまり、突出部2aを設けることによって、通信機器100の防水性能を向上させることができる。
【0049】
また、図示の例のように、両端部に突出部2aを設けた構成によれば、突出部2aを設けない場合と比べて、導電部材2と、導電パターン3およびバネ端子20のそれぞれとの接触面積を広くすることができる。これにより、導電部材2と、導電パターン3およびバネ端子20との電気的な接続の確実性を向上することができる。
【0050】
なお、突出部2aの導電パターン3に接する側の端面は、平坦であってもよいが、粗面化されていることが好ましい。これにより、突出部2aと導電パターン3との接続をより強固にすることができる。
【0051】
また、図示の例では、突出部2aは、導電パターン3に接する側の端面が、筐体1の外表面(導電パターン3が形成されている面)と同一の平面を構成している。これにより、導電パターン3が均一な平面状に形成される。ただし、突出部2aの導電パターン3に接する側の端面は、導電パターン3の性能に影響を与えない範囲であれば、筐体1の外表面よりも突出していてもよいし、筐体1の外表面から凹んでいてもよい。
【0052】
なお、図示の例では、バネ端子20に接する側の突出部2aは、その端部が筐体1の内表面(導電パターン3が形成されている面の反対側の面)から突出している。これは、この端部を金型内に固定して、筐体1をインサート成形したことによる。ただし、この端部は筐体1の内表面と同一平面上にあってもよいし、筐体1の内表面から凹んでいてもよい。
【0053】
そして、図示の例では、同一の形状の突出部2aが円柱状の軸部2bの両端部に設けられている。このため、導電部材2は、同図の左右方向に該導電部材2を2等分する平面(突出部2aの端面に平行な平面)に対して面対称な形状となっている。言い換えれば、突出部2aの端面に平行でかつ軸部2bの中心軸を通る直線に対して、180度回転対称な形状となっている。
【0054】
これにより、通信機器100の製造工程における、導電部材2を金型内に固定し、そこに樹脂を流し込んで筐体1と導電部材2とを一体に成形する工程(インサート成形工程)において、導電部材2を配置する向きの制約が緩和される。
【0055】
これは、導電部材2を金型に固定するときの向きを180度反転させた場合であっても、導電パターン3と通信回路30との電気的な接続は同様に実現されるからである。例えば、同図において導電パターン3と接している側の端面がバネ端子20と接し、バネ端子20と接している側の端面が導電パターン3と接するような向きとしてもよい。なお、導電部材2は、これを金型に固定するときの向きを180度反転させた場合であっても、導電パターン3と通信回路30との電気的な接続が同様に実現される限度において、上述のような対称性が崩れていてもよい。例えば、一方の突出部2aの端部が平面状であり、他方の突出部2aの端部が凸状になっていたとしても、導電パターン3と通信回路30との電気的な接続が同様に実現されるのであれば構わない。
【0056】
ここで、図示の例において、導電部材2は、導電パターン3とは直接接続し、通信回路30とはバネ端子20および給電線21を介して間接に接続されているが、この例に限られない。すなわち、導電部材2は、他の導電部材を介して導電パターン3と間接的に接続してもよいし、通信回路30を導電部材2の真下に配置する等して導電部材と通信回路30とを直接的に接続してもよい。また、間接的な接続には、直流電流が流れないような接続も含まれ、例えば導電部材2と導電パターン3間にシートなどを配置して、導電部材2と導電パターン3とを容量結合する方法も含まれる。
【0057】
また、図示の導電部材2は、軸部2bの中心軸に対して線対称な形状である。このため、電部材2を流れる電流が、導電部材2上の何れの経路を通るかにかかわらず、両端部間で位相差が生じない。これにより、導電パターン3のアンテナとしての特性を安定させることができる。
【0058】
〔導電部材の形状〕
導電部材2の形状について、図2に基づいてより詳細に説明する。図2は、導電部材2の形状の一例を示す図であり、同図(a)は側面図であり、同図(b)は斜視図であり、同図(c)は上面図である。なお、同図の導電部材2は、正面図、背面図、右側面図、および左側面図のいずれも同図(a)と同じであり、下面図は同図(c)と同じである。
【0059】
同図(a)〜(c)に示すように、導電部材2は、円柱状の軸部2bの両端部に突出部2aがそれぞれ設けられたピン状の形状である。これにより、側面から見て「I」の字のような形状となっている。なお、突出部2aと軸部2bは、導電部材2の部分を示す名称であり、突出部2aと軸部2bが別の部材であることを意味しない。
【0060】
突出部2aは、軸部2bの側面から突出したフランジ状(鍔状)の部分である。図示の突出部2aは円柱状の形状であり、上面と下面の一方が導電パターン3またはバネ端子20と接触する部位となり、他方の中央部で軸部2bと接続している。また、図示の例では、突出部2aの高さ(上面から底面までの高さ)が軸部2bの高さよりも低くなっているが、そうでなくてもかまわない。
【0061】
なお、突出部2aは、導電部材2と筐体1との接触長をできるだけ長くするために設けられており、突出部2aの形状は、突出部2aを設けない場合と比べて筐体1との接触長が長くなるようなものであればよく、図示の例に限られない。また、両端部の突出部2aの形状がそれぞれ異なっていてもよい。例えば、突出部2aの高さがそれぞれ異なっていてもよい。つまり、片側の突出部2aの厚みが、他方の突出部2aよりも厚くなっていてもよい。
【0062】
例えば、角柱状であってもよいし、中心軸に対して非対称(例えば上面および底面が楕円)であってもよい。また、側面図において台形となるような形状(円錐の一部分に相当する形状)であってもよい。さらに、図示の例では、軸部2bの中心軸と、突出部2aの中心軸とが一致しているが、これらの中心軸がずれていてもよい。
【0063】
なお、確実な防水を行うため、突出部2aは、筐体1と導電部材2との接触長(導電部材2の両端部を最短距離で結ぶ線分のうち、筐体1と接する部分の長さ)が、突出部2aを設けない場合と比べて1.2倍以上となるような形状とすることが望ましい。このような形状とすることによって、従来例と比較して充分な防水効果が得られることが経験則によりわかっている。
【0064】
また、導電部材2を筐体1にインサート成形する場合、突出部2aの対向する面間の距離が近接しすぎていると、突出部2a間に樹脂が充填されない部分が生じるおそれがある。このため、突出部2aは、上記の問題が発生しない程度の間隔が空くように設けることが好ましい。なぜならば、インサート成形をするときには導電部材2の周囲からこの突出部2a間に向かって樹脂が充填されていくが、周囲の樹脂肉厚の厚みに対して突出部2a間があまりに狭いと、充填不足(ショートショット)が発生するためである。この間隔は、樹脂の粘性等にもよるが、本願発明者らの経験則上、通常のABS樹脂などの場合は0.2mm程度以上とすることが好ましい。
【0065】
軸部2bは、円柱状の形状であり、その端面のそれぞれで突出部2aと接続している。軸部2bは、両端部に突出部2aが接続可能な柱状の形状であればよく、円柱状に限られず、角柱状であってもよい。また、その太さも均一でなくてもよい。
【0066】
以上のことから、突出部2aおよび軸部2bの形状は、筐体1と一体成形された導電部材2が、導電パターン3とバネ端子20とを接続可能なものであればよい。そして、突出部2aを設けない場合と比べて筐体1と導電部材2との接触長が長くなるようなものであればよい。
【0067】
このため、例えば突出部2aの何れかまたは両方を軸部2bの端部以外の位置に設けてもよい。また、突出部2aが軸部2b上の任意の位置に1つのみ設けられた形状としてもよい。
【0068】
ただし、導電部材2を流れる電流が、導電部材2上の何れの経路を通るかにかかわらず、両端部間で位相差が生じない形状となっていることが好ましい。具体的には、中心軸(上面の中心と底面の中心とを結ぶ軸)に対して線対称な形状(中心軸を通るいずれの平面で切断した場合であっても、その切断面の形状が中心軸に対して線対称となる形状)とすることが好ましい。言い換えれば、この中心軸周りに任意の角度だけ回転させた形状が、回転前の形状と一致するような形状とすることが好ましい。
【0069】
これは、アンテナで使用する高周波数帯の電流は表皮効果によって、導電部材2の表面上を伝わるため、導電部材2の表面形状によってはその導電経路によって位相差が生じ、アンテナとしての特性が安定しなくなるためである。
【0070】
また、導電部材2は、同図の左右方向に該導電部材2を2等分する平面(突出部2aの端面に平行な平面)に対して面対称な形状とすることが好ましい。言い換えれば、中心軸を通るいずれの平面で切断した場合であっても、その切断面の形状が、中心軸と直交し、導電部材2の両端部から等距離にある直線に対して線対称となる形状であることが好ましい。これにより、通信機器100の製造工程における、インサート成形工程において、導電部材2を配置する向きの制約が緩和されるためである。
【0071】
〔導電部材の他の例〕
導電部材2の他の例について、図3に基づいてより詳細に説明する。図3は、導電部材2の他の例を示す図であり、同図(a)は側面図であり、同図(b)は斜視図であり、同図(c)は上面図である。なお、同図の導電部材2も、正面図、背面図、右側面図、および左側面図のいずれも同図(a)と同じであり、下面図は同図(c)と同じである。
【0072】
図3の導電部材2は、図2の例と比べてさらに1つの突出部2aが設けられている点で相違している。具体的には、図2と同様の構成の突出部2aが軸部2bの両端部に設けられており、これに加えて両端部の突出部2a間に1つの突出部2aが設けられている。これにより、側面から見て「王」の字のような形状となっている。
【0073】
図3の例によれば、図2の例と比べて、筐体1と導電部材2との接触長がさらに長くなるので、防水性能をさらに高めることが可能になる。なお、図3では、中央の突出部2aが、両端部の突出部2aから等距離となるような位置に設けられているが、いずれかの突出部2a寄りの位置に設けてもよい。また、4つ以上の突出部2aを設けてもよい。
【0074】
〔通信機器の製造工程について〕
通信機器100の製造工程は、導電部材2が埋め込まれている筐体1を形成する第1の工程と、第1の工程の後に、筐体1の外表面上に導電部材2に接触するように導電パターン3を設ける第2の工程とを含む。
【0075】
第1の工程では、例えば、導電部材2と筐体1とを一体成形してもよい。すなわち、予め形成された導電部材2を、筐体1を成型するための金型内に固定し、金型を閉じた後に、筐体1を形成するための誘電体材料を金型内に充填し、固化することによって一体成形(インサート成形)することができる。
【0076】
なお、形成後の筐体1に導電部材2を挿入することによって、筐体1に導電部材2を埋め込んでもよい。この場合、突出部2aを一端部のみに設けた導電部材2を筐体1に埋め込んだ後で、熱カシメ等により他端部に突出部2aを形成することが好ましい。また、いずれの端部にも突出部2aを有さない導電部材2を筐体1に埋め込んだ後、同様にして両端部に突出部2aを形成してもよい。
【0077】
第2の工程では、例えば、導電ペーストを筐体1の外表面上に塗布して所望のパターンを形成し、乾燥等させることにより、導電パターン3を形成してもよい。導電ペーストの塗布方法としては種々の方法を採ることができるが、好適には、可撓性を有する印刷版を用いた印刷(例えば、フレキソ印刷、オフセット印刷、シルク印刷、パッド印刷等)により塗布することが好ましい。これについて、図4に基づいて説明する。
【0078】
図4は、第2の工程の手順の一例を示す図である。まず、図4(a)に示すように、予め表面に導電ペースト3’によって所望のパターンを形成しておいた印刷版50を、第1の工程において形成した筐体1の外表面(導電部材2が露出している部分を含む)に対して接近させる。そして、図4(b)に示すように、筐体1の外表面に対して印刷版50を押しつけることにより、導電ペースト3’のパターンを転写する(図4(c))。
【0079】
この後、導電ペースト3’のパターンを乾燥させることにより、図4(d)に示すように、導電パターン3を形成することができる。なお、印刷版50に設けられた孔から導電ペースト3’を押し出すシルク印刷の手法を用いてもよい。
【0080】
また、フレキシブルプリント基板によって導電パターン3を構成する場合には、筐体1の外表面にフレキシブルプリント基板を貼付することにより、導電パターン3を構成することができる。
【0081】
〔導電パターンの保護〕
図1の例では、筐体1上で導電パターン3が露出しているが、導電パターン3は保護層などを設けることによって保護されていることが好ましい。これについて、図5に基づいて説明する。図5は、導電パターン3を保護層で被覆した通信機器100の要部断面図である。
【0082】
図示のように、導電パターン3上にさらに保護層4を設けることによって、導電パターン3が損傷することを防ぐことができる。この保護層4を形成する工程は、図4に示した導電パターン3の形成工程の後で行えばよい。
【0083】
なお、保護層4は、アンテナの性能に影響を与えない材質のものであり、導電パターン3を保護するだけの強度を有するものであればよい。ここで、アンテナの性能に影響を与えない、とは、保護層4の有無でアンテナの性能が著しく劣化しないことを意味する。保護層4としては、例えば、コーティング剤(例えば、樹脂溶液)によって形成されるものを好適に用いることができる。また、このコーティング剤の塗布は、筐体1の塗装を兼ねていてもよい。また、PETなどのシート材を保護層4として導電パターン3上に貼り付けたり、熱や圧力で圧着することで保護することも可能である。
【0084】
〔他の構成との比較〕
本願の発明者らは、上記通信機器100における導電パターン3と通信回路30とを導電部材2を介して接続する構成に至るまでに、様々な構成を検討している。これについて、図7に基づいて説明する。図7は、通信機器100における導電パターン3と通信回路30とを導電部材2を介して接続する構成と同等の機能を実現するために、本発明者らが検討した他の構成を示す図である。
【0085】
図7(a)は、導電ピン82が樹脂部(筐体1に相当)81を貫通して突出し、その突出部分を導電性の接着剤86によって板金83に接着する構成である。この構成では、接着剤86において、突出部分を覆うための厚さを確保する必要があり、また、樹脂部81と板金83とを固定するための強度を得るための接着材容積が必要となる。そのため、薄型化が困難であるという問題がある。
【0086】
図7(b)は、樹脂部81に埋め込まれた導電ピン82が、上下に配置された板金83および85に対してポゴピン84によって接続する構成である(板金85に対してはポゴピンに替えて突起によって接続してもよい)。この構成では、ポゴピン84によって曲げられない剛性を確保するために、板金83を厚くする必要があり、ポゴピン84自体の厚さもあるため、薄型化が困難であるという問題がある。
【0087】
図7(c)は、図7(b)とほぼ同様の構成であるが、導電ピン82の側面に突起82bを設けて樹脂部81にめり込ませる点が異なっている。この構成では、図7(b)に示す構成と同様の問題の他、樹脂部81と導電ピン82との間において防水性が損なわれるという問題がある。
【0088】
図7(d)は、導電部83を、筐体81の外から内へ筐体81の側面を通って引き込み、バネ端子87に接続した構成である。この構成では、導電部83をプリントまたはLDS(Laser Direct Structure)で構成した場合、折り返し部分で断線し易くなる。一方、導電部83をMID(Molded Interconnect Device)で構成した場合には、導通部83の筐体内への引き込み部分において防水性が失われる。また、筐体81の嵌合部分は一般的に構造が複雑であり、導電部83の形状が複雑になるか又は配置自体ができない場合がある。また、配置できた場合でも、導電部83を長い距離引き回す必要があるため、アンテナとして用いる場合に性能が劣化することがある。
【0089】
図7(e)は、筐体81に開口Eを設け、開口Eにフレキシブルプリント基板83を通す構成である。この構成では、例えば、フレキシブルプリント基板83をアンテナとして用いるときの給電点の位置の制約等、形状的な制約が多く、防水性能も失われる。
【0090】
図7(f)は、樹脂部81に導電ピン82が埋め込まれており、外観側においてナット板金90がネジ89によって固定されており、導電ピン82の内部側の面82aに対して、基板の実装バネなどを接続する構成である。なお、樹脂部81の側壁と導電ピン82との間に防水リング88を設けてもよい。この構成では、形成のために共締め、カシメ、接着(ガスケット、導電性接着材または導電性テープなど)が必要となり、ナット板金90に強度が必要となる。そのため、ナット板金90の形状の自由度が低下する。
【0091】
以上のように、本実施形態に係る通信機器100における導電パターン3と通信回路30とを導電部材2を介して接続する構成は、図7(a)〜(f)に示すような構成に対しても、有利な効果を有している。
【0092】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、筐体の内部と外部とを導電部材で電気的に接続する電子機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 筐体
2 導電部材
2a 突出部
2b 軸部
3 導電パターン
4 保護層
30 通信回路(電子部品)
50 印刷版
100 通信機器(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体からなる筐体の外部の導電パターンと、該筐体の内部の電子部品とを電気的に接続するものであり、上記筐体を貫通する柱状の導電部材であって、
上記筐体と接する側面にフランジ状の突出部が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする導電部材。
【請求項2】
上記導電部材は、該導電部材を固定した金型内に樹脂を充填することによって、該樹脂からなる上記筐体と一体成形されるものであり、
上記導電部材は、上記金型に固定するときの向きを反転させても、上記導電パターンと上記電子部品とを電気的に接続することができる形状であることを特徴とする請求項1に記載の導電部材。
【請求項3】
上記導電部材は、上記導電パターンと接続する側の端部と、上記電子部品と接続する側の端部との間を流れる電流が、該導電部材上の何れの経路を通るかにかかわらず、該両端部間で位相差が生じない形状となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の導電部材。
【請求項4】
上記突出部が両端部に設けられていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の導電部材。
【請求項5】
上記両端部に設けられた突出部の間に少なくとも1つの突出部がさらに設けられていることを特徴とする請求項4に記載の導電部材。
【請求項6】
筐体と、該筐体を貫通する請求項1から5の何れか1項に記載の導電部材と、上記導電パターンと、上記電子部品とを備える電子機器であって、上記導電部材を介して上記電子部品と上記導電パターンとを電気的に接続することを特徴とする電子機器。
【請求項7】
上記導電パターンは、導電ペーストを上記筐体の外表面に塗布することによって形成されたものであることを特徴とする請求項6に記載の電子機器。
【請求項8】
上記導電パターンは、可撓性を有する印刷版を用いた印刷により、上記導電ペーストを上記筐体の外表面に塗布することによって形成されたものであることを特徴とする請求項7に記載の電子機器。
【請求項9】
上記導電パターン上に保護層が設けられていることを特徴とする請求項7または8に記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−42312(P2013−42312A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177318(P2011−177318)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】