説明

工具長測定方法及び工具長測定装置

【課題】 スキップ信号が読み込まれない場合であっても、工具の移動を確実に停止させることができる工具長測定方法及び工具測定装置を提供する。
【解決手段】 工具を4所定位置から所定方向に移動させて、前記工具4によりレーザー光6を遮光したときの、前記工具4の前記所定位置からの移動量に基づいて前記工具の長さを測定する工具長測定方法において、前記工具4がレーザー光6を遮光していることを示すスターティック信号Bが検知されたとき、前記工具4のレーザー装置本体5へ接近する方向への移動を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を所定位置から所定方向に移動させてレーザー光を遮光したときの工具の移動量に基づいて工具長を測定する測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光により工具長を測定する装置として、従来例えば、特許文献1には、投光器から受光器に向けてレーザー光を射出し、工具がレーザー光を遮断したときの座標値によって工具長を算出する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−138097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の工具長測定装置では、前記工具がレーザー光を遮光すると、該レーザー光を遮光していない状態から遮光している状態に移行したことを示すスキップ信号がプログラム制御装置に入力される。プログラム制御装置は、スキップ信号が入力されると即時に前記工具の移動を停止し、工具長測定プログラムを続行する。
【0005】
前記従来の工具長の測定においては、操作者が手動操作により工具を鉛直下方への移動・一次停止を繰り返しながら徐々に移動させる場合がある。この場合に、前記工具が前記レーザー光を遮光する寸前の位置で一次停止の指示が出されると、機械としては停止であるが、前記工具は慣性で僅かに下降して前記レーザー光を遮光し、スキップ信号が出力される。一時停止機能が作動している間は、プログラム制御は行われないため、前記スキップ信号は読み込まれない。従って、操作者が次に移動指令を出すと、前記レーザー光が遮光されているにも関わらず、操作者が指令した分だけ前記工具は移動し、前記工具がレーザー装置本体に接触又は衝突するという問題が懸念される。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、スキップ信号が読み込まれない場合であっても、工具の移動を確実に停止させることができる工具長測定方法及び工具測定装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、工具を所定位置から所定方向に移動させて、前記工具によりレーザー光を遮光したときの、前記工具の前記所定位置からの移動量に基づいて前記工具の長さを測定する工具長測定方法において、前記工具がレーザー光を遮光していることを示す第1信号(スターティック信号)が検知されたとき、前記工具のレーザー装置本体へ接近する方向への移動を停止することを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の工具長測定方法において、前記レーザー光が遮光されていない状態から、前記工具がレーザー光を遮光する状態へと移行した際に出力される第2信号(スキップ信号)が検知されたとき、工具長測定プログラムを続行すると共に、前記第1信号は、前記第2信号より遅延して出力されることを特徴としている。
【0009】
請求項3の発明は、工具を所定位置から所定方向に移動させて、前記工具によりレーザー光を遮光したときの、前記工具の前記所定位置からの移動量に基づいて工具の長さを測定する工具長測定装置において、前記レーザー光を発生するレーザー光発生部と、該レーザー光発生部で発生したレーザー光を受信するレーザー光受信部と、前記工具がレーザー光を遮光していることを示す第1信号を出力する第1信号出力部とを含むレーザー装置本体と、前記第1信号を検知したとき、前記工具のレーザー装置本体へ接近する方向への移動を停止するプログラム制御装置とを備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3に記載の工具長測定装置において、前記レーザー装置本体は、前記レーザー光が遮光されていない状態から、前記工具がレーザー光を遮光する状態へと移行した際に第2信号を出力する第2信号出力部を更に備え、前記第1信号は、前記第2信号より遅延して出力されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1,3の発明によれば、前記工具がレーザー光を遮光していることを示す第1信号(スターティック信号)が検知されたとき、前記工具のレーザー装置本体へ接近する方向への移動を停止するようにしたので、例えば、工具がレーザー光を遮光する寸前の位置で一次停止の指示が出されたため、工具がレーザー光を遮光していない状態から遮光している状態に移行したことを示すスキップ信号が読み込まれない場合であっても、前記工具のレーザー装置本体側への移動を停止することができ、前記工具がレーザー装置本体に接触又は衝突するのを防止できる。
【0012】
請求項2,4の発明によれば、前記工具がレーザー光を遮光していることを示す第1信号(スターティック信号)は、前記工具がレーザー光を遮光したことを示す第2信号(スキップ信号)より遅延して出力されるので、プログラム制御装置は前記第2信号を確実に読み込むことができ、工具長測定プログラムを確実に続行できる。
【0013】
即ち、仮に第1信号が先に読み込まれると、該第1信号に基づいて工具の移動を停止する指令が出され、工具長測定プログラムを続行できなくなるが、本発明では第1信号が遅延して出力されるのでこの問題を回避できる。従って、通常使用されるプログラムには影響を及ぼすことはなく、かつ前記の特殊な操作により第2信号が読み込まれない場合には、第1信号により工具の移動を停止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1に係る工具長測定方法及び工具長測定装置を説明するための正面側から見た斜視図である。
【図2】工具がレーザー装置本体の真上に位置したときの正面図である。
【図3】前記工具がレーザー光を遮光したときの正面図である。
【図4】前記工具が前記レーザー光が遮光しない位置に上昇したときの正面図である。
【図5】前記工具がレーザー光を遮光しているときの正面図である。
【図6】前記レーザー装置本体から出力される信号のタイミングチャートである。
【図7】工具長測定プログラムにおける制御動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1〜図7は、本発明の実施例1による工具長測定方法及び測定装置を説明するための図である。
【0017】
図において、1は工作機械の主軸であり、該主軸1の下方にはワーク(不図示)が搭載されるテーブル2が配置されている。前記主軸1は、Z 軸方向に移動可能に構成され、該主軸1の下端部には、工具4が装着されている。
【0018】
また本実施例の工作機械は、工具長測定装置7を備えている。この工具長測定装置7は、レーザー装置本体5と、工作機械のNC制御装置が兼用されているプログラム制御装置3とを含む構成となっている。
【0019】
前記レーザー装置本体5は、凹型ブロック状に形成されており、左内側壁5aにはレーザー光6を発生する発生器6aが配設され、右内側壁5a′には、前記レーザー光6を受信する受信器6bが配設されている。また前記レーザー装置本体5の外側壁5bには、電源ケーブル5cが接続されている。
【0020】
また、前記レーザー装置本体5は、スキップ信号出力部5dと、スターティック信号出力部5eとを備えている。前記スキップ信号出力部5dは、前記工具4が前記レーザー光6を遮光したことを示すスキップ信号(第2信号)A、つまりレーザー光が遮光されていない状態から遮光される状態へと移行したことを示す信号を出力する。また前記スターティック信号出力部5eは、前記工具4が前記レーザー光6を遮光していることを示すスターティック信号(第1信号)B、つまり前記工具4がレーザー光6を遮光している状態が継続していることを示す信号を出力する。
【0021】
前記スキップ信号Aは、前記工具4がレーザー光6を遮光していない状態ではロー状態を維持し(図2参照)、工具4がレーザー光6を遮光していない状態から遮光する状態に移行したときハイ状態に切り換わる20msec程度の矩形波である(図3参照)。従って、スキップ信号Aは、工具4がレーザー光6を遮光したその瞬間に一個だけ出力され、その後、工具4がレーザー光6を遮光している状態が継続しても出力されない。なお、前記スキップ信号Aは、前記工具4がレーザー光6を遮光している状態から遮光しない状態に移行した際にも一個出力される(図4参照)。
【0022】
一方、前記スターティック信号Bは、本来、前記レーザー装置本体5において、レーザー光6が前記発生器6aから前記受信器6bに正常に通光していることを、ハイ状態を維持することにより確認するためのものである(図2参照)。そして前記工具4がレーザー光6を遮光している状態ではローに切り換わり、工具4がレーザー光6を遮光している状態が継続している間は前記ロー状態を維持する(図3参照)。なお、スターティック信号Bは、工具4がレーザー光6を遮光しない状態に移行した後は、ハイ状態を維持する(図4参照)。
【0023】
前記スキップ信号A,スターティック信号Bは、それぞれケーブル5f,5gを介して前記プログラム制御装置3に入力される。
【0024】
ここで、図6に示すように、前記スキップ信号Aは、前記工具4の先端が前記レーザー光6を遮光した実際の瞬間から所定の応答遅れ時間(例えば40μsec)経過後にローからハイに立ち上がるのに対し、前記スターティック信号Bは、前記スキップ信号Aの立ち上がりから所定の遅延時間遅れてハイからローに切り換わる。
【0025】
本実施例1における工具長測定動作を主として図7のフローチャートに沿って説明する。
【0026】
工具長測定プログラムがスタートすると、スキップモードがオンされ、前記主軸1の下端面1aのZ軸座標Z1が読み込まれ(図2参照)、続いて主軸1の下方移動が開始される(ステップS1〜S3)。
【0027】
そして、前記工具4の先端が前記レーザー光6を遮光したとき前記スキップ信号Aにおける矩形波が出力され、これから所定の遅延時間経過後にスターティック信号Bがハイからローに切り換わり、これらの信号がプログラム制御装置3に入力される。このプログラム制御装置3において、前記スキップ信号Aが検知されると(ステップS4)、前記プログラム制御装置3が前記主軸1の下方移動を停止させ(ステップS5)、さらに工具長測定プログラムを続行する(ステップS6,S7)。
【0028】
具体的には、前記プログラム制御装置3は、前記主軸1を、前記工具4がレーザー光6を遮光しない位置まで上方に移動させ、ここから再び低速で下方に移動させ、工具4がレーザー光6を遮光したときの前記下端面1aのZ軸座標Z2を読み込み(図4参照)、この読み込んだZ軸座標Z2等から工具長を求める。
【0029】
一方、前記ステップS4において、例えば工具4がレーザー光6を遮光する直前において一次停止の指令が入力されたような特殊な理由により、前記スキップ信号Aが前記プログラム制御装置3で検知されない場合に、前記スターティック信号Bが検知された場合(ステップS8)には、前記プログラム制御装置3は、前記工具長測定プログラムを停止するとともに、前記主軸1の下方移動を停止させる(ステップS9,S10)。
【0030】
なお、前記スターティック信号Bに関してより具体的に述べれば、スターティック信号Bがハイからローに切り換わり、ロー状態が所定時間、例えば前記スキップ信号Aの矩形波長(20msec)の間継続した場合に、スターティック信号Bが検知されたと判断するようにすれば良い。
【0031】
このように、本実施例1では、前記工具4が前記レーザー光6を遮光したことを示すスキップ信号Aが検知されたときには、工具長測定プログラムを続行し、工具4がレーザー光6を遮光していることを示すスターティック信号Bが検知されたときには、前記工具長測定プログラムを停止するとともに、前記工具4の移動を停止するようにした。そのため通常の状態では、工具長測定プログラムを支障なく実行でき、かつ何らかの理由でスキップ信号Aが検知されない場合でも、前記工具4の残りの移動量をキャンセルするので、前記工具4が前記レーザー装置本体5に接触又は衝突するのを防止できる。
【0032】
また、前記スキップ信号Aは従来通りの矩形波であり、スターティック信号Bは、レーザー装置本体5が正常にレーザー光6を発生していることを確認するために従来から採用されている信号を、非常時の主軸移動停止信号として利用しているので、従来の工具長測定装置にハード的な改造を加える必要がなく、コスト増を抑制しつつ、前記工具4が前記レーザー装置本体5に接触又は衝突することを防止できる。
【0033】
さらにまた、前記工具4がレーザー光6を遮光していることを示すスターティック信号Bは、前記工具4がレーザー光6を遮光したことを示すスキップ信号Aより遅延して出力されるので、プログラム制御装置3は前記スキップ信号Aを確実に読み込むことができ、工具長測定プログラムを確実に続行できる。
【0034】
即ち、仮にスターティック信号Bが先に読み込まれると、該スターティック信号Bに基づいて工具4の下方移動を停止する指令が出され、工具長測定プログラムを続行できなくなる。しかし本実施例1では、スターティック信号Bがスキップ信号Aより遅延して出力されるので、前記工具長測定プログラム続行不能の問題を回避できる。従って、通常使用される工具長測定プログラムには影響を及ぼすことはなく、かつ前記の特殊な操作によりスキップ信号Aが読み込まれない場合には、スターティック信号Bにより工具4の移動を停止でき、装置の破損の問題を防止できる。
【0035】
なお、前記実施例にて、スターティック信号がスキップ信号よりも遅延して出力されると説明したが、その意味するところは、上述の通り、スターティック信号自体が遅延して出力されるという場合だけでなく、出力されたスターティック信号がプログラム制御装置によって読み込まれるタイミングが、スキップ信号のそれよりも遅延しているという場合も含むものである。即ち、スターティック信号とスキップ信号が同時に出され、先にスキップ信号を、後から遅れてスターティック信号を、それぞれプログラム制御装置が読み込んでも、前記実施形態と同じ効果が得られる。
【符号の説明】
【0036】
3 プログラム制御装置
4 工具
5 レーザー装置本体
5d スキップ信号(第2信号)発生部
5e スターティック信号(第1信号)発生部
6 レーザー光
6a レーザー光発生部
6b レーザー光受信部
7 工具長測定装置
A スキップ信号(第2信号)
B スターティック信号(第1信号)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を所定位置から所定方向に移動させて、前記工具によりレーザー光を遮光したときの、前記工具の前記所定位置からの移動量に基づいて前記工具の長さを測定する工具長測定方法において、
前記工具がレーザー光を遮光していることを示す第1信号が検知されたとき、前記工具のレーザー装置本体へ接近する方向への移動を停止する
ことを特徴とする工具長測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の工具長測定方法において、
前記レーザー光が遮光されていない状態から、前記工具がレーザー光を遮光する状態へと移行した際に出力される第2信号が検知されたとき、工具長測定プログラムを続行すると共に、
前記第1信号は、前記第2信号より遅延して出力される
ことを特徴とする工具長測定方法。
【請求項3】
工具を所定位置から所定方向に移動させて、前記工具によりレーザー光を遮光したときの、前記工具の前記所定位置からの移動量に基づいて工具の長さを測定する工具長測定装置において、
前記レーザー光を発生するレーザー光発生部と、該レーザー光発生部で発生したレーザー光を受信するレーザー光受信部と、前記工具がレーザー光を遮光していることを示す第1信号を出力する第1信号出力部、とを含むレーザー装置本体と、
前記第1信号を検知したとき、前記工具のレーザー装置本体へ接近する方向への移動を停止するプログラム制御装置と
を備えたことを特徴とする工具長測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の工具長測定装置において、
前記レーザー装置本体は、前記レーザー光が遮光されていない状態から、前記工具がレーザー光を遮光する状態へと移行した際に第2信号を出力する第2信号出力部を更に備え、
前記第1信号は、前記第2信号より遅延して出力される
ことを特徴とする工具長測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−18093(P2012−18093A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156106(P2010−156106)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000146847)株式会社森精機製作所 (204)
【Fターム(参考)】