説明

巻上機、巻上機の回生電力処理方法

【課題】巻上下用電動機の巻下げ運転時の回生電力をキャパシタに蓄電することと商用交流電源に返すことを併用することにより、エネルギーを無駄なく利用できる巻上機、及び巻上機の回生動力処理方法を提供する。
【解決手段】インバータ11、巻上下用電動機12、制御装置13、キャパシタ23、電源切換器(電磁開閉器18、19)、充電検出器27を備え、制御装置13は、巻下運転時に充電検出器27がキャパシタ23の未充電を検出していることを条件に巻上下用電動機12を電源切換器を介してインバータ11に接続し、回生電力をキャパシタ23に充電すると共に、キャパシタ23の満充電を検出していることを条件に、巻上下用電動機12を電源切換器を介して商用交流電源10に接続し、回生電力を商用交流電源10に送電する機能を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上下用電動機がインバータからの駆動電力で駆動される電気ロープホイストや電気チェーンブロック等の巻上機、及び巻上機の回生電力処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようにインバータを備え、巻上下用電動機の駆動をインバータの出力で行うようにした巻上機では、巻下運転時に巻上下用電動機が回生エネルギー(回生電力)を発生する。この回生エネルギーを処理して巻上下用電動機に回生制動をかける方法として、回生電力(回生電流)を制動抵抗器に通電し、熱エネルギーに変える方法が従来より行われている。この方法は制動抵抗器から発生する多量の熱の対策が必要で、巻上下用電動機の容量が大きい場合、巻上下運転が高頻度で行われると、大きい容量の制動抵抗器が必要となる上、発生する熱を効果的に放熱する等の熱対策が難しいという問題がある。また、熱エネルギーに変えて放熱することにより、エネルギーが無駄に消費されることにもなる。
【0003】
上記制動抵抗器を用いない方法として、回生コンバータを設け、巻下運転時に巻上下用電動機で発生する回生電力を回生コンバータで電源周波数の電力に変換し、電源側に返す方法もある。この方法は、制動抵抗が必要ないし、省エネルギーともなる。しかしながら、回生コンバータの形状寸法が大きい上、且つコストが高い(インバータの2倍以上)という問題がある。
【0004】
また、特許文献1に示すように、巻上機の下降運転時に巻上下用電動機をインバータ側に接続し、インバータによる回転駆動とし、回転速度が商用交流電源の周波数に相当する定格速度になると、巻上下用電動機を商用電源側に接続し、商用交流電源により巻上下用電動機を運転するようにしたものもある。また、特許文献2に示すようにインバータの直流部にキャパシタを接続し、巻上下用電動機の巻き下げ運転時の回生電力を蓄電し、巻き上げ運転時に該蓄電した電力を巻上下用電動機に供給するようにしたものもある。
【特許文献1】特開2000−175472号公報
【特許文献2】特開2007−267504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記引用文献1に記載の巻上機は、制動抵抗が必要なく、発熱対策も必要なく、コストも安価にでき、巻下運転時に巻上下用電動機が発生する回生電力を商用交流電源側に返すことができるという利点があるが、インバータ駆動の巻上機の特徴である緩停止できないという問題がある。引用文献2に記載のものでは、キャパシタ容量を最大荷重×最大揚程に設定する必要があり、容量の大きいキャパシタを必要とし、コストが高く、装置寸法も大きくなるという問題がある。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、巻上下用電動機の巻下げ運転時の回生電力をキャパシタに蓄電することと商用交流電源に返すことを併用することにより、装置の小型化を図り、エネルギーを無駄なく利用できる巻上機、及び巻上機の回生電力処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機、制御装置を備え、該制御装置の制御によりインバータを制御し、該巻上下用電動機を起動して巻上下運転を行う巻上機において、キャパシタと、電源切換器と、充電検出器を設け、制御装置は、巻下運転時に充電検出器が前記キャパシタの未充電を検出していることを条件に、巻上下用電動機を電源切換器を介してインバータに接続し、該巻上下用電動機が発電する電力をキャパシタに充電すると共に、充電検出器が前記キャパシタの満充電を検出していることを条件に巻上下用電動機を電源切換器を介して商用交流電源に接続し、該巻上下用電動機が発電する電力を商用交流電源に送電し、巻上運転時に充電検出器が検出するキャパシタの充電電力が完放電又は所定量以下になっていないことを条件にキャパシタに充電されている電力をインバータを介して巻上下用電動機に供給すると共に、充電検出器が検出する前記キャパシタの充電電力が完放電又は所定量以下になっていることを条件に電源切換器を介して商用交流電源からの電力を巻上下用電動機に供給する機能を備えていることを特徴とする。
【0008】
上記のように、巻下運転時にキャパシタの未充電である(満充電でない)ことを条件に巻上下用電動機が発電する電力をキャパシタに充電すると共に、キャパシタの満充電であることを条件に巻上下用電動機が発電する電力を商用交流電源に送電し、巻上運転時にキャパシタの完放電又は充電電力が所定量以下を検出していないことを条件にキャパシタに充電されている電力を巻上下用電動機に供給すると共に、キャパシタの完放電又は充電電力が所定量以下となっていることを条件に商用交流電源からの電力を巻上下用電動機に供給するので、巻下運転時に巻上下用電動機が発電する回生電力を無駄にすることなく、有効に利用することができる。
【0009】
また、本発明は、上記巻上機において、商用交流電源の位相を検出する位相検出器を備え、インバータはその出力の位相を示す位相信号を出力する機能を備え、制御装置は、巻下運転時にインバータ出力により巻下運転開始から商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から所定減速度で減速する減速巻下運転を行う機能と、高速巻下運転時にインバータをその出力周波数を商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転し、位相検出器で検出した位相信号とインバータからの位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、電源切換器を介して巻上下用電動機をインバータから商用交流電源に切り換え、高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータをその出力周波数が商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転し、位相検出器で検出した位相信号とインバータからの位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源を電源切換器を介して商用交流電源からインバータに切り換える切換機能とを備えたことを特徴とする。
【0010】
上記のように制御装置の切換機能により、巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になった時、キャパシタにが満充電であったら、インバータをその出力周波数が商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、位相検出器で検出した位相信号とインバータからの位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源を電源切換器を介してインバータから商用交流電源に切り換える。また、高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータをその出力周波数が商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、位相検出器で検出した位相信号とインバータからの位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源を商用交流電源からインバータに切り換える。これにより、巻下運転時に巻上下用電動機が発電する回生電力を無駄にすることなく、有効に利用することができる。また、極めて簡単な構成で、巻上下用電動機をインバータ出力から商用交流電源へ、商用交流電源からインバータに切り換えたとき、巻上下用電動機に衝撃を与えることなく、スムーズに切り換えることができる。
【0011】
また、本発明は、上記巻上機において、電源切換器と、商用交流電源の電力位相を検出する位相検出器と備え、インバータは、位相検出器で検出された検出位相信号を受けて、その出力を商用交流電源に同期させ、同期が完了したら制御装置に同期完了信号を出力する機能を備え、制御装置は、巻下運転時にインバータ出力により巻下運転開始から商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から所定減速度で減速する減速巻下運転を行う機能と、高速巻下運転時にインバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源をインバータから商用交流電源に切り換え、高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源を商用交流電源からインバータに切り換える切換機能とを備えたことを特徴とする。
【0012】
上記のように制御装置の切換機能により、巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になった時、キャパシタが満充電であったら、インバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源をインバータから商用交流電源に切り換える。また、高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源を商用交流電源からインバータに切り換える。これにより、巻下運転時に巻上下用電動機が発電する回生電力を無駄にすることなく、有効に利用することができる。また、極めて簡単な構成で、巻上下用電動機をインバータ出力から商用交流電源へ、商用交流電源からインバータに切り換えたとき、巻上下用電動機に衝撃を与えることなく、スムーズに切り換えることができる。
【0013】
また、本発明は、商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機、制御装置を備え、該制御装置の制御によりインバータを制御し、該巻上下用電動機を起動して巻上下運転を行う巻上機の回生電力処理方法であって、巻下運転時にキャパシタの未充電状態にある(満充電状態にない)場合、巻上下用電動機をインバータに接続し、該巻上下用電動機が発電する回生電力をキャパシタに充電すると共に、キャパシタの満充電状態にある場合、巻上下用電動機を商用交流電源に接続し、該巻上下用電動機が発電する回生電力を商用交流電源に送電し、巻上運転時にキャパシタの完放電又は充電電力が所定量以下でない場合、キャパシタに充電されている電力をインバータを介して巻上下用電動機に供給すると共に、キャパシタの完放電又は充電電力が所定量以下である場合、商用交流電源からの電力を前記巻上下用電動機に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インバータ駆動の巻上機の特徴である緩停止という機能を維持しながら、巻下運転中に巻上下用電動機が発電する回生電力を殆ど無駄なく利用でき、地球温暖化の抑制に貢献できる巻上機、及び回生電力処理方法を提供できる。また、簡単で安価に構成できる電源切換部で、巻上下用電動機をインバータから商用交流電源へ、商用交流電源からインバータへ切換時に、巻上下用電動機に衝撃を与えることがない巻上機を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る巻上機のシステム構成を示す図である。図示するように、本巻上機は、商用交流電源10、インバータ11、巻上下用電動機(誘導電動機)12、制御装置13を備えている。14は操作ボックスで、該操作ボックス14に巻上用押ボタンスイッチ15と、巻下用押ボタンスイッチ16を備えている。また、巻上用押ボタンスイッチ15は、低速巻上用の1段目スイッチ15aと高速巻上用の2段目スイッチ15bを備え、巻下用押ボタンスイッチ16は、低速巻下用の1段目スイッチ16aと高速巻下用の2段目スイッチ16bを備えている。
【0016】
巻上用押ボタンスイッチ15の1段目スイッチ15a、2段目のスイッチ15bを操作することにより、その信号は制御装置13に入力され、巻下用押ボタンスイッチ16の1段目スイッチ16a、2段目スイッチ16bを操作することにより、その信号は制御装置13に入力されるようになっている。17は商用交流電源10のR相・S相間の電圧位相を検出する位相検出器であり、その位相検出信号S1は制御装置13に入力されるようになっている。18、19は電源切換用の電磁開閉器で、電磁開閉器18は巻上下用電動機12を接点18aを介してインバータ11側に接続する電磁開閉器、電磁開閉器19は巻上下用電動機12を接点19aを介して商用交流電源10に接続する電磁開閉器である。
【0017】
23は後に詳述するように、巻上下用電動機12が巻下運転時に発電する回生電力を充電するためのキャパシタである。該キャパシタ23は、トランジスタT1、T2を備えた双方向チョッパ回路26を介してインバータ11の直流部(図示せず)に接続されている。27はキャパシタ23の充電状態を検出する充電検出器であり、該充電検出器27の充電検出信号S6は制御装置13に入力されるようになっている。双方向チョッパ回路26のトランジスタT1、T2をON・OFFする制御信号S7、S8は制御装置13から出力されるようになっている。
【0018】
20は巻上下用電動機12を拘束する機械式ブレーキであり、インバータ11の出力のV相に接続されたダイオードスタック21からの直流電流が通電するとブレーキ20は開放され、電磁開閉器22の接点22aが閉じ、ブレーキ20への直流電流が遮断されると、ブレーキ20が作動し、制動力が作用するようになっている。なお、電磁開閉器22は制御装置13により制御される。24は荷重吊り用フック(図示せず)が上限に達したら巻上運転を停止させる上限スイッチ、25は荷重吊り用フックが下限に達したら巻下運転を停止させる下限スイッチであり、制御装置13に接続されている。制御装置13からインバータ11には正転(巻上)指令信号S2、逆転(巻下)指令信号S3、高速指令信号S4が出力され、インバータ11から制御装置13には後に詳述するインバータの出力の位相を示す位相信号S5が出力される。
【0019】
上記構成の巻上機において、操作ボックス14の巻上用押ボタンスイッチ15の操作により低速巻上用の1段目スイッチ15aが閉じると制御装置13は巻上信号の入力と判断し、インバータ11に正転(巻上)指令信号S2を出力し、続いて高速巻上用の2段目スイッチ15bが閉じると高速信号の入力と判断し、インバータ11に高速指令信号S4を出力する。また、巻下用押ボタンスイッチ16の操作により低速巻下用の1段目スイッチ16aが閉じると制御装置13は巻下信号の入力と判断し、インバータ11に逆転(巻下)指令信号S3を出力し、続いて高速巻下用の2段目スイッチ16bが閉じると高速信号の入力と判断し、インバータ11に高速指令信号S4を出力する。
【0020】
巻上用押ボタンスイッチ15の1段目スイッチ15aを閉じることにより、インバータ11に正転(巻上)指令信号S2が入力されるとインバータ11から巻上下用電動機12に正転位相順の電力が供給され、巻上下用電動機12が所定の加速度で低速巻上運転速度まで加速される。ここで2段目スイッチ15bを閉じることにより、高速指令信号S4が入力されると巻上下用電動機12は更に所定の加速度で商用交流電源周波数での高速巻上運転速度まで加速される。高速巻上運転速度で所定の巻上位置近傍に達した、2段目スイッチ15bを開き低速巻上運転速度で所定の巻上位置まで巻き上げ、ここで1段目スイッチ15aを開くことにより所定の巻上位置に停止する。
【0021】
上記所定の巻上位置から巻下げる場合は、巻下用押ボタンスイッチ16の1段目スイッチ16aを閉じることにより、インバータ11に逆転(巻下)指令信号S3が入力されるとインバータ11から巻上下用電動機12に逆転位相順の電力が供給され、巻上下用電動機12が所定の加速度で低速巻下運転速度まで加速される。ここで2段目スイッチ16bを閉じることにより、高速指令信号S4が入力されると巻上下用電動機12は更に所定の加速度で商用交流電源周波数での高速巻下運転速度まで加速される。高速巻下運転速度で所定の巻下位置近傍に達したら、2段目スイッチ16bを開き低速巻下運転速度で所定の巻下位置まで巻き下げ、ここで1段目スイッチ16aを開くことにより停止する。
【0022】
制御装置13は充電検出器27からの充電検出信号S6により、キャパシタ23の充電状態を監視する。そして制御装置13は低速巻下運転及び高速巻下運転において、キャパシタ23が未充電状態(満充電でなく充電できる状態)のときは双方向チョッパ回路26のトランジスタT1、T2をON・OFFする制御信号S7、S8を出力し、巻上下用電動機12が発電した電力をインバータ11の直流部からキャパシタ23に充電する。また、制御装置13は高速巻下運転において、キャパシタ23が満充電であるときは、後に詳述するような手法により、巻上下用電動機12が発電した回生電力を商用交流電源10に送電する。また、制御装置13は低速巻上運転及び高速巻上運転において、キャパシタ23が完放電でない状態(放電できる電力がある状態)のときは、双方向チョッパ回路26のトランジスタT1、T2をON・OFFする制御信号S7、S8を出力し、キャパシタ23に充電されている電力をインバータ11の直流部に供給する。これによりキャパシタ23に充電電力があるうちは、その電力でインバータ11を介して巻上下用電動機12の巻上運転を行い、キャパシタ23に放電する電力がない場合は、商用交流電源10からの電力での巻上運転を行う。
【0023】
上記のように巻下運転時にキャパシタ23が未充電状態(満充電ではなく充電できる状態)であることを条件に、巻上下用電動機12の発電電力をキャパシタ23に充電し、巻上運転時にはキャパシタ23が完放電になるまで、キャパシタ23に充電された電力で巻上下用電動機12を運転するので、巻上下用電動機12の回生電力を無駄なく利用できる。キャパシタ23は充放電能力の優れたキャパシタで、例えば株式会社指月電気製作所製の電気二重層コンデンサを用いる。
【0024】
また、予期せぬ停電に備えて、キャパシタ23の充電電力を制御用電力として利用して巻き上げた荷物を安全に巻き下げるために、キャパシタ23の充電電力が完全放電される前、即ちキャパシタ23に充電電力が所定量残っている状態で、キャパシタ23の充電電力による巻き上げ運転から、商用交流電源10による巻上げ運転に切り換えてもよい。この場合のキャパシタ23に残す充電電力の所定量とは、巻き上げている荷物を巻き下げるのに必要な制御装置13及びインバータ11に供給する制御用電力をいう。
【0025】
このキャパシタ23に残した所定量の充電電力は、図示しない非常電源回路を経由して制御装置13及びインバータ11にキャパシタ23の充電電力として供給するが、この巻下げ中に発生する巻上下電動機の回生電力をキャパシタ23に充電しながら巻下げ運転を行うので、キャパシタ23に残す所定量の充電電力は最小とすることができる。言い換えると、このようにすることにより停電時の非常電源を別途用意する必要なく、且つ、キャパシタ23の容量を最大限活用することができるので、装置の小型化を向上させることができる。
【0026】
また、キャパシタ23の容量は、巻上機毎にその運転パターン(巻上げ運転に必要な電力と巻下げ運転で回収できる回生電力の発生パターン)によって、その容量を適宜選択するようにするので、装置の小型化が容易となる。
【0027】
インバータ11は後述するように、その出力の位相を示す位相信号S5を出力する機能を有し、該位相信号S5が制御装置13に入力されるようになっている。上記巻下運転において、巻上用押ボタンスイッチ15の1段目スイッチ15aを閉じることにより、インバータ11に正転(巻上)指令信号S2が入力されるとインバータ11から巻上下用電動機12に正転位相順の電力が供給され、巻上下用電動機12が所定の加速度で低速巻上運転速度まで加速される。ここで2段目スイッチ15bを閉じることにより、高速指令信号S4が入力されると巻上下用電動機12は更に所定の加速度で商用交流電源周波数での高速巻上運転速度まで加速される。高速巻上運転速度で所定の巻上位置近傍に達した、2段目スイッチ15bを開き低速巻上運転速度で所定の巻上位置まで巻き上げ、ここで1段目スイッチ15aを開くことにより所定の巻上位置に停止する。この低速巻上運転及び高速巻上運転において、キャパシタ23が完放電となっていないときは、制御装置13から双方向チョッパ回路26のトランジスタT1、T2をON、OFFする制御信号S7、S8を送り、キャパシタ23に充電されている電力をインバータ11の直流部に供給する。キャパシタ23が完放電状態になったら商用交流電源10からの電力をインバータ11に供給する。
【0028】
巻下用押ボタンスイッチ16の1段目スイッチ16aを閉じることにより、インバータ11に逆転(巻下)指令信号S3が入力されるとインバータ11から巻上下用電動機12に逆転位相順の電力が供給され、巻上下用電動機12が低速巻下運転となり、2段目スイッチ16bを閉じることにより、高速巻下運転速度となり、該高速巻下運転速度で所定の巻下位置近傍に達したら、2段目スイッチ16bを開き低速巻下運転速度で所定の巻下位置まで巻き下げ、ここで1段目スイッチ16aを開くことにより停止する。この低速巻下運転及び高速巻下運転において、制御装置13はキャパシタ23が未充電の状態にあるときは、双方向チョッパ回路26のトランジスタT1、T2に制御信号S7、S8を送り、巻上下用電動機12で発電した電力をインバータ11の直流部からキャパシタ23に充電する。
【0029】
また、キャパシタ23が満充電状態で充電できない場合、巻下用押ボタンスイッチ16の2段目スイッチ16bを閉じ、高速巻下運転速度に達したら、インバータ11はその出力周波数が商用交流電源10の周波数より所定量(例えば周波数差2Hz)ずらして運転する。制御装置13はインバータ11からの位相信号S5と位相検出器17で検出された位相検出信号S1とにより、商用交流電源10の位相とインバータ11の出力の位相が同期した瞬間に電磁開閉器18を不動作としてその接点18aを開き、電磁開閉器19を動作としてその接点19aを閉じる。これにより、巻上下用電動機12の電源がインバータ11から商用交流電源10に切り換わる。このように、インバータ11の出力周波数が商用交流電源10の周波数より所定量ずらして運転し、インバータ11の出力と商用交流電源10の位相が同期して時にインバータ11から商用交流電源10に切り換えるので、この切り換え時に、巻上下用電動機12に衝撃を与えることがない。
【0030】
上記商用交流電源10に切り換え所定の巻下位置近傍に達したら、2段目スイッチ16bを開くことにより、制御装置13からの高速指令信号S4が遮断され逆転(巻下)指令信号S3となる。これにより、インバータ11はその出力周波数が商用交流電源10の周波数より所定量(例えば周波数差2Hz)ずらして運転する。そして制御装置13はインバータ11からの位相信号S5と位相検出器17で検出された位相検出信号S1とにより、商用交流電源10の位相とインバータ11の出力の位相が同期した瞬間に電磁開閉器18を動作させ、電磁開閉器19を不動作にする。これにより、電磁開閉器18の接点18aが閉じ、電磁開閉器19の接点19aが開き、巻上下用電動機12の電源を商用交流電源10からインバータ11の出力に切り換える。これにより、切り換え時に、巻上下用電動機12に衝撃を与えることがない。
【0031】
図2は上記巻下運転時の切換タイミングを示す図である。時刻t1で巻下用押ボタンスイッチ16の1段目スイッチ16aのONにより、逆転指令信号S3が出力され、所定の加速度で加速され、時刻t2で低速巻下速度に達する。時刻t3で巻下用押ボタンスイッチ16の2段目スイッチ16bのONにより、高速指令信号S4が出力され、所定の加速度で加速され、時刻t4で高速巻下運転速度に達する。該高速巻下運転速度で巻下げ所定位置の近傍に到達した時刻t6で巻下用押ボタンスイッチ16の2段目スイッチ16bをOFFとすることにより、時刻t8からインバータ11の出力周波数を所定減速度で低減させ、時刻t9で低速巻下減速に達する。その所定の巻き下げ位置に達した時刻t10で巻下用押ボタンスイッチ16の1段目スイッチ16aをOFFすることにより、逆転指令信号S3を停止して、巻上下用電動機12を停止する。
【0032】
上記時刻t1から時刻t11の巻下運転において、キャパシタ23が満充電でなく充電できる場合は、巻上下用電動機12で発電する電力をキャパシタ23に充電する。また、キャパシタ23が満充電状態で充電できない状態で、高速巻下運転速度で運転されているときは(時刻t5〜時刻t7)、インバータ11をその出力周波数を商用交流電源10の周波数より所定量ずらして運転し、インバータ11からの位相信号S5と位相検出器17で検出された位相検出信号S1とにより、商用交流電源10とインバータ11の出力が同期した時点で巻上下用電動機12の電源をインバータ11の出力から商用交流電源10に切り換え(電磁開閉器18の接点18aをOFF、電磁開閉器19の接点19aをON)、巻上下用電動機12を交流電源周波数で巻下運転を行い、発電する回生電力を商用交流電源10に返す。また、時刻t6では、インバータ11をその出力周波数を商用交流電源10の周波数より所定量ずらして運転し、インバータ11からの位相信号S5と位相検出器17で検出された位相検出信号S1とにより、商用交流電源10とインバータ11の出力が同期した時刻t7に巻上下用電動機12の電源を商用交流電源10からインバータ11の出力に切り換え(電磁開閉器19の接点19aをOFF、電磁開閉器18の接点18aをON)、インバータ11の出力で巻下運転を行う。
【0033】
上記巻上機において、キャパシタ23の容量を適切に設定することにより、回生制動用の抵抗器を必要としないようにできる。なお、図示は省略するが、小容量の回生抵抗器を設けておき、キャパシタ23が満充電状態で充電できない場合で、巻下運転時の巻下開始から高速巻下運転になるまでの間(図2の時刻t1〜t5の間)、及び高速巻下運転から巻上下用電動機12をインバータ11に切り換える停止までの間(図2の時刻t7〜時刻t11の間)に、巻上下用電動機12が発電する電力をこの上記回生抵抗器で消費するようにしてもよい。この場合、回生抵抗器で消費する電力(エネルギー)は、図2の斜線を付した部分で、更にキャパシタ23が満充電状態で充電できない場合であるから、小さい容量の抵抗器で済む。
【0034】
図3はインバータ11のU相出力と該インバータ11から出力されるインバータ出力の位相を示す位相信号S5の波形例を示す図である。図示するように、(a)に示すインバータ11のU相出力の波形に対して、(b)に示すようなU相出力の位相を示す位相信号S5が出力される。このような位相信号S5を出力することは、インバータ11が周波数変換装置なので、自ら作り出す出力電圧の位相情報として外部に出力することであり、インバータの機能(インバータの付随的機能)として容易なことである。制御装置13でインバータ11からの上記位相信号S5と位相検出器17で検出された商用交流電源10の位相検出信号S1と比較し、両者が一致した時点(同期した時点)で巻上下用電動機12の電源をインバータ11の出力から商用交流電源10に或いは商用交流電源10からインバータ11の出力に切り換える。
【0035】
図4は上記巻下運転時の巻上下用電動機12の電源をインバータ11の出力から商用交流電源10に切換時の商用交流電源R相の電圧波形、インバータのU、V、W相の電圧波形、負荷電流波形例を示す図である。ここでは商用交流電源周波数とインバータ11の周波数差を2Hzとして、両電源が同期した瞬間にインバータ11の出力から商用交流電源10に切り換えている。切換時間(巻上下用電動機12がインバータ11及び商用交流電源10のいずれにも接続されていない時間)ΔT≒12.8msで、巻上下用電動機12に衝撃を与えることなく、切り換えることができることを確認した。
【0036】
図5は上記巻下運転時の巻上下用電動機12の電源を商用交流電源10からインバータ11の出力に切換時の商用交流電源R相の電圧波形、インバータのU、V、W相の電圧波形、負荷電流波形例を示す図である。ここでは商用交流電源周波数とインバータ11の周波数差を2Hzとして、両電源が同期した瞬間に商用交流電源10からインバータ11の出力に切り換えている。切換時間ΔT≒13.8msで、巻上下用電動機12に衝撃を与えることなく、切り換えることができることを確認した。
【0037】
図6は50Hz系と60Hz系の同期点周期表を示す図である。図はA系周波数をXとし、B系周波数Yとして、A系B系とも同期点よりスタートした場合の1サイクル後の時間差(波形のズレ時間)は、
(1/X)−(1/Y)=T1
となり、この時間差T1により再度、同期点になるまでの時間(同期点の周期)T2を、
2={(1/X)/T1}×(1/X)
として算出した同期点周期表を示す表である。A系、B系の周波数差が多い程、同期点の周期は短くなる。A系とB系の周波数差を最大2Hzとした場合で位相検出器17の検出条件で周波数差±2Hzとなるので、同期点の周期は0.52(sec)となる。これは電源が理想状態での場合であるから、検出途中で電圧、周波数変動により時間T2が長くなる場合がある。
【0038】
図7は本発明に係る巻上機の他のシステム構成を示す図である。同図において、図1と同一符号を付した部分は同一又は相当部分を示すのでその説明は省略する。巻下運転時にキャパシタ23が満充電の状態にあり、巻上下用電動機12で発電した電力をキャパシタ23に充電できないとき、該電力を商用交流電源10に送電する必要がある。この場合、ここでは位相検出器17で検出した商用交流電源10の位相検出信号S1をインバータ11に送り、該インバータ11はその出力の位相を商用交流電源10の位相に同期するように運転する。そして同期が完了した時点でインバータ11から制御装置13に同期完了信号S9を出力する。制御装置13はこの同期完了信号を受けて、電磁開閉器18の接点18aを開き、電磁開閉器19の接点19aを閉じて、巻上下用電動機12の電源をインバータ11から商用交流電源10に切り換えるようになっている。
【0039】
上記のように巻下運転に際してキャパシタ23が満充電の状態にあり、巻上下用電動機12で発電した電力をキャパシタ23に充電できないとき、インバータ11の出力を商用交流電源10の位相に同期させ、同期が完了した時点で、電磁開閉器18の接点18aを開き、電磁開閉器19の接点19aを閉じるので、巻上下用電動機12に衝撃を与えることなく、巻上下用電動機12の電源をインバータ11から商用交流電源10に切り換えることができる。インバータが周波数変換装置なので、このような同期完了信号S9を出力することも、自ら作り出す出力電圧の位相を他の系統の電圧の位相に同期させ、同期完了と同時に同期完了信号S9を出力することも、インバータの機能(インバータの付随的機能)として容易なことである。このように、インバータ10に位相検出器17による商用交流電源10の位相検出信号S1を受けて、その出力位相を商用交流電源10に同期させ、同期完了信号S9を制御装置13に出力する機能を設けるだけで、商用交流電源10での高速巻下運転時に巻上下用電動機12で発電する回生電力を商用交流電源10に返すことができる。
【0040】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載のない何れの形状や材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、上記実施形態例では、2段変速の巻上機を例に説明したが、本発明は1段変速の巻上機にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る巻上機のシステム構成例を示す図である。
【図2】本発明に係る巻上機の巻下運転時の切換タイミングを示す図である。
【図3】本発明に係る巻上機の巻下運転時のインバータから出力される位相信号を示す図である。
【図4】本発明に係る巻上機の巻下運転時の電源をインバータから商用交流電源に切換時の波形を示す図である。
【図5】本発明に係る巻上機の巻下運転時の電源を商用交流電源からインバータに切換時の波形を示す図である。
【図6】50Hz系と60Hz系の同期点周期表を示す図である。
【図7】本発明に係る巻上機の他のシステム構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10 商用交流電源
11 インバータ
12 巻上下用電動機
13 制御装置
14 操作ボックス
15 巻上用押ボタンスイッチ
16 巻下用押ボタンスイッチ
17 位相検出器
18 電磁開閉器
19 電磁開閉器
20 ブレーキ
21 ダイオードスタック
22 電磁開閉器
23 キャパシタ
24 上限スイッチ
25 下限スイッチ
26 双方向チョッパ回路
27 充電検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機、制御装置を備え、該制御装置の制御によりインバータを制御し、該巻上下用電動機を起動して巻上下運転を行う巻上機において、
キャパシタと、電源切換器と、充電検出器を設け、
前記制御装置は、巻下運転時に前記充電検出器が前記キャパシタの未充電を検出していることを条件に、前記巻上下用電動機を前記電源切換器を介して前記インバータに接続し、該巻上下用電動機が発電する電力を前記キャパシタに充電すると共に、前記充電検出器が前記キャパシタの満充電を検出していることを条件に前記巻上下用電動機を前記電源切換器を介して前記商用交流電源に接続し、該巻上下用電動機が発電する電力を前記商用交流電源に送電し、巻上運転時に前記充電検出器が検出する前記キャパシタの充電電力が完放電又は所定量以下になっていないことを条件に前記キャパシタに充電されている電力を前記インバータを介して前記巻上下用電動機に供給すると共に、前記充電検出器が検出する前記キャパシタの充電電力が完放電又は所定量以下となっていることを条件に前記電源切換器を介して前記商用交流電源からの電力を前記巻上下用電動機に供給する機能を備えていることを特徴とする巻上機。
【請求項2】
請求項1に記載の巻上機において、
前記商用交流電源の位相を検出する位相検出器を備え、
前記インバータはその出力の位相を示す位相信号を出力する機能を備え、
前記制御装置は、巻下運転時に前記インバータ出力により巻下運転開始から前記商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から所定減速度で減速する減速巻下運転を行う機能と、前記高速巻下運転時に前記インバータをその出力周波数が前記商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転し、前記位相検出器で検出した位相信号と前記インバータからの位相信号とにより、前記インバータ出力と前記商用交流電源とが同期した時点で、前記電源切換器を介して前記巻上下用電動機を前記インバータから前記商用交流電源に切り換え、前記高速巻下運転から前記減速巻下運転に移行する際には、前記インバータをその出力周波数が前記商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転し、前記位相検出器で検出した位相信号と前記インバータからの位相信号とにより、前記インバータ出力と前記商用交流電源とが同期した時点で、前記巻上下用電動機の電源を前記電源切換器を介して前記商用交流電源から前記インバータに切り換える切換機能とを備えたことを特徴とする巻上機。
【請求項3】
請求項1に記載の巻上機において、
電源切換器と、前記商用交流電源の電力位相を検出する位相検出器と備え、
前記インバータは、前記位相検出器で検出された検出位相信号を受けて、その出力を前記商用交流電源に同期させ、同期が完了したら前記制御装置に同期完了信号を出力する機能を備え、
前記制御装置は、巻下運転時に前記インバータ出力により巻下運転開始から前記商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から所定減速度で減速する減速巻下運転を行う機能と、前記高速巻下運転時に前記インバータからの同期完了信号を受けて前記巻上下用電動機の電源を前記インバータから前記商用交流電源に切り換え、前記高速巻下運転から前記減速巻下運転に移行する際には、前記インバータからの同期完了信号を受けて前記巻上下用電動機の電源を前記商用交流電源から前記インバータに切り換える切換機能とを備えたことを特徴とする巻上機。
【請求項4】
商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機、制御装置を備え、該制御装置の制御によりインバータを制御し、該巻上下用電動機を起動して巻上下運転を行う巻上機の回生電力処理方法であって、
巻下運転時に前記キャパシタの未充電状態にある場合、前記巻上下用電動機を前記インバータに接続し、該巻上下用電動機が発電する回生電力をキャパシタに充電すると共に、前記キャパシタの満充電状態にある場合、前記巻上下用電動機を前記商用交流電源に接続し、該巻上下用電動機が発電する回生電力を前記商用交流電源に送電し、巻上運転時に前記キャパシタが完放電又は充電電力が所定量以下でない場合、前記キャパシタに充電されている電力を前記インバータを介して前記巻上下用電動機に供給すると共に、前記キャパシタが完放電又は充電電力が所定以下である場合、前記商用交流電源からの電力を前記巻上下用電動機に供給することを特徴とする巻上機の回生電力処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−240108(P2009−240108A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85493(P2008−85493)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】