説明

巻掛け伝動装置の油圧制御装置

【課題】油室の油圧を制御する電磁弁に通電できない状態で巻掛け伝動装置を駆動した場合でも変速を生じさせることのできる油圧制御装置を提供する。
【解決手段】供給用制御弁SP1,SS1および排圧用制御弁SP2,SS2は、通電を遮断した場合に閉制御される常閉型の弁を含み、一方の油圧室20に連通されている供給用制御弁SP1および排圧用制御弁SP2に対する通電が遮断されてこれらの制御弁SP1,SP2が閉じている状態で、一方の油圧室20の容積が拡大することによって一方の油圧室20に所定の圧油の貯留部から圧油が吸入されることを許容する供給手段36と、その供給手段36を介して一方の油圧室20に圧油が吸入される場合に、他方の油圧室21からドレイン箇所に排圧させる排圧手段38とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ベルトやチェーンなどの伝動部材が巻き掛けられた駆動側プーリや従動側プーリなど回転部材の溝幅を変化させて伝動部材の巻き掛け半径を変化させることにより変速を行う巻掛け伝動装置に関し、特にそれらの回転部材に供給する油圧を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の伝動装置は、ベルトやチェーンなどの巻き掛け半径に応じた変速比を設定でき、その一例として、ベルト式無段変速機は、駆動側のプーリと従動側のプーリとに対するベルトの巻き掛け半径を変化させることにより、これらのプーリの回転数の比率である変速比を変化させるように構成されている。車両に搭載されているベルト式無段変速機では、各プーリをいわゆるV溝を備えた構成とし、その溝幅を油圧によって変化させることによりベルトの巻き掛け半径すなわち変速比を変化させるように構成されている。また、この種の変速機におけるトルクの伝達は、ベルトと各プーリとの間の摩擦力によって行われるから、各プーリがベルトを挟み付けるいわゆる挟圧力を、伝達するべきトルクに応じて高低に制御している。
【0003】
ベルト式無段変速機における油圧制御装置の例が、特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1に記載されているベルト式無段変速機における駆動側プーリ(以下、仮にプライマリプーリと記す)は、プーリ軸に固定された固定シーブと、その固定シーブに対して接近・離隔するようにプーリ軸上に配置された可動シーブとによって構成され、その可動シーブの背面側に設けられた油圧室に圧油を供給することにより、各シーブの間に形成されているV溝の幅を狭くしてベルトの巻き掛け半径を増大させ、またその油圧室から圧油を排出することによりV溝の幅を広くしてベルトの巻き掛け半径を減少させるように構成されている。また、従動側プーリ(以下、仮にセカンダリプーリと記す)は、プライマリプーリと同様に、プーリ軸に取り付けられた固定シーブと、プーリ軸上をその軸線方向に前後動する可動シーブとによって構成され、その可動シーブの背面側に設けられた油圧室の油圧によって、各シーブによるベルトの挟圧力を生じさせ、必要な伝達トルク容量を設定するように構成されている。その油圧源は、油圧ポンプと蓄圧器(アキュムレータ)とによって構成され、その油圧源と各プーリの油圧室とを連通しているいわゆる供給油路に電気的に制御される供給側制御弁が設けられ、また各油圧室には電気的に制御される排出側制御弁が連通されて設けられている。
【0004】
そして、特許文献1に記載された油圧制御装置では、各電磁弁が、ソレノイドに通電することにより入力側ポートと出力側ポートとが連通する開弁状態に切り替わり、ソレノイドに対する通電を遮断することによりスプリングなどの弾性力で、入力側ポートと出力側ポートとが遮断されて閉弁状態に切り替わるいわゆる二方向電磁制御弁によって構成されている。すなわち、変速比を高車速側の変速比に低下させる場合や挟圧力を増大させる場合には、供給側制御弁に通電することにより供給側制御弁を開いてプライマリプーリの油圧室やセカンダリプーリの油圧室に油圧を供給し、また変速比を低車速側の変速比に増大させる場合や挟圧力を低下させる場合には、排出側制御弁に通電することにより排出側制御弁を開いてプライマリプーリの油圧室やセカンダリプーリの油圧室から油圧を排出させるように構成されている。
【0005】
特許文献2に記載されている油圧制御装置では、油圧ポンプや蓄圧機などからプライマリプーリの油圧室に油圧を供給する油路から分岐してプライマリプーリの油圧室をドレイン箇所に接続する油路が設けられ、その油路にライン圧が零(0)でない場合に、その油路を遮断し、ライン圧が零(0)の場合に油路を開放する切換弁が介在されて構成されている。すなわち、各電磁弁に対する通電が遮断されることによりプライマリプーリの油圧室が油圧源やドレイン箇所に対して閉鎖あるいは密閉され、かつライン圧が零(0)になった場合に、プライマリプーリの油圧室とドレイン箇所とをバイパスすることによりドレイン箇所に貯留された圧油をプライマリプーリの油圧室に供給してベルト式無段変速機の変速比を小さくするアップシフトができるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第0985855号明細書
【特許文献2】特開平11−182667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に記載された油圧制御装置においては、プライマリプーリ側の各電磁弁およびセカンダリプーリ側の各電磁弁に対する通電を遮断すると、すなわちオフ制御すると、プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各油圧室に対する圧油の供給および排出が止められて圧油が油圧室に閉じ込められるので、変速比およびベルト挟圧力を維持することができる。また一方、ベルト式無段変速機では、各プーリの回転が止まっている状態ではベルトの巻き掛け半径を変更することができないので、その無段変速機が搭載されている車両が停止する場合には、変速比は最も低車速側の最大変速比もしくはこれに近い変速比に設定される。
【0008】
そのため、上述した特許文献1に記載されているような従来のベルト式無段変速機における油圧制御装置では、その無段変速機のための電子制御装置やこれを含む電気系統に異常が生じたり、車両のメインスイッチをオフにしたりして各電磁弁に通電できない状態で車両を牽引するなどのことによって走行させた場合、最も低速側の変速比である大きい変速比が設定された状態で無段変速機が駆動されることになる。その場合、牽引速度が低く、無段変速機の出力側の回転数が低回転数であっても、変速比が大きいために入力側の回転数が高回転数になり、そのため、例えば無段変速機の入力側に前後進切替機構が連結されていれば、その前後進切替機構を構成しているいずれかの回転部材の回転数が高くなる。
【0009】
そこで、前述したような場合に、特許文献2に記載されているように、プライマリプーリの油圧室とドレイン箇所とをバイパスし、プライマリプーリの油圧室における遠心油圧の発生に伴ってドレイン箇所に貯留されている圧油をプライマリプーリの油圧室に供給することにより、無段変速機の変速比を小さくするアップシフトをおこなって前後進切換機構を構成している回転部材の回転数を低下させることが考えられる。しかしながら、特許文献2に記載された構成では、電子制御装置やこれを含む電気系統に異常が生じたり、車両のメインスイッチをオフにした場合に、セカンダリプーリの油圧室から油圧を排出させる排出側制御弁に対する通電も遮断されるのでセカンダリプーリの油圧室においても圧油が閉じ込められることになる。また、そのような状態で車両を牽引するなどのことによって走行させると、セカンダリプーリにおいては、プライマリプーリにおけるベルトの巻掛け半径の増大に伴ってベルト巻掛け半径が小さくなるようにベルトに張力が発生するから、セカンダリプーリの油圧室ではその油圧が増大し、その結果、ベルト挟圧力が過大になってベルトの発熱が増大したり、ベルト式無段変速機の変速比を小さくできない可能性がある。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、制御弁を制御できない状態で巻掛け伝動装置が駆動された場合に、巻掛け伝動装置が駆動されることによって変速比を小さくすることの可能な油圧制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、一対の回転部材に環状の伝動部材が巻掛けられるとともに、それらの回転部材に油圧が供給されて前記環状の伝動部材が巻掛けられる溝幅を狭くする油圧室がそれぞれ設けられ、各油圧室が電気的に制御される供給用制御弁を介して油圧源に接続されるとともに、各油圧室が電気的に制御される排圧用制御弁を介してドレイン箇所に接続される巻掛け伝動装置の油圧制御装置において、前記供給用制御弁および前記排圧用制御弁は、通電を遮断した場合に閉制御される常閉型の弁を含み、一方の前記油圧室に連通されている前記供給用制御弁および排圧用制御弁に対する通電が遮断されてこれらの制御弁が閉じている状態で、前記一方の油圧室の容積が拡大することによって前記一方の油圧室に所定の圧油の貯留部から圧油が吸入されることを許容する供給手段と、その供給手段を介して前記一方の油圧室に圧油が吸入される場合に、他方の前記油圧室から前記ドレイン箇所に排圧させる排圧手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記供給手段は、前記一方の油圧室と前記貯留部とを連通する油路に設けられてその油路における前記貯留部から前記一方の油圧室に向けた圧油の流動を許容し、これとは反対方向の圧油の流動を阻止する一方向弁を含むことを特徴とする巻掛け伝動装置の油圧制御装置である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記他方の油圧室を前記ドレイン箇所に連通する排圧用制御弁は、通電している場合に前記他方の油圧室と前記ドレイン箇所との連通を遮断し、通電しない場合に前記他方の油圧室と前記ドレイン箇所とを連通する常開型の弁を含み、前記他方の排圧用制御弁と前記ドレイン箇所とを連通する油路に前記排圧手段が設けられていることを特徴とする巻掛け伝動装置の油圧制御装置である。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記排圧手段は、前記供給用制御弁および前記排圧用制御弁に通電ができない場合にリリーフ圧が低下させられてそのリリーフ圧以上の油圧を前記他方の油圧室から前記ドレイン箇所に排圧するリリーフ弁、あるいは所定油圧以上の油圧が作用した場合に前記他方の油圧室と前記ドレイン箇所とを連通してその所定油圧以上の油圧を前記ドレイン箇所に排圧するように構成された一方向弁を含むことを特徴とする巻掛け伝動装置の油圧制御装置である。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記一方の供給用制御弁は、前記一方の油圧室と前記油圧源とを連通する第1の油路に設けられ、前記他方の供給用制御弁は、前記第1の油路に設けられた前記一方の供給用制御弁より前記油圧源側の所定箇所に連通されかつ前記他方の油圧室に対して前記油圧源から前記油圧を供給する第2の油路に設けられていることを特徴とする巻掛け伝動装置の油圧制御装置である。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記一対の回転部材のうち駆動力源からトルクが入力される入力側回転部材が、その入力側回転部材に対して入力されるトルクの方向を反転させる前後進切替機構に連結されていることを特徴とする巻掛け伝動装置の油圧制御装置である。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれかの発明において、前記環状の伝動部材は、ベルトを含み、前記一対の回転部材は、前記ベルトが巻き掛けられる溝幅を変更可能な駆動側プーリと、前記ベルトが巻き掛けられる溝幅を変更可能な従動側プーリとを含むことを特徴とする巻掛け伝動装置の油圧制御装置である。
【発明の効果】
【0018】
この発明の油圧制御装置によれば、各供給用制御弁および各排圧用制御弁に対して通電できない状態では、各制御弁は閉じた状態になる。この各制御弁が閉じた状態では、各油圧室は、油圧源やオイルパンなどの圧油の貯留部(すなわち、ドレイン箇所)に対して閉鎖あるいは密閉されて各油圧室の内部に圧油が閉じ込められる。また、このような状態で一方の油圧室、すなわち駆動側の回転部材もしくはプーリに付設されている油圧室の容積が拡大することに伴って、他方の油圧室、すなわち従動側の回転部材もしくはプーリに付設されている油圧室の容積が減少すると、駆動側の油圧室に所定の圧油の貯留部から圧油の吸入が許容され、従動側の油圧室においてはその油圧がオイルパンに排圧されるように構成されている。より具体的には、各油圧室が油圧源やオイルパンに対して閉鎖あるいは密閉された状態で各回転部材が回転すると、各油圧室の内部では、遠心力に起因する圧力、すなわち遠心油圧が発生する。その遠心油圧は、回転数が高いほど高くなるから、例えば巻掛け伝動装置が停止していて最大変速比が設定されている状態で各油圧室に遠心油圧が生じると、駆動側の回転部材の回転数が従動側の回転部材の回転数に対して相対的に高回転数になり、その駆動側の油圧室の内部圧力が高くなる。そのため駆動側の回転部材もしくはプーリが環状の伝動部材を挟み付ける力が、従動側の回転部材もしくはプーリが環状の伝動部材を挟み付ける力より大きくなるから、駆動側の回転部材における溝幅が次第に小さくなって環状の伝動部材の巻き掛け半径が次第に大きくなる。また、駆動側の回転部材における溝幅が狭くなることに伴って、駆動側の油圧室では、その容積が拡大して駆動側の油圧室に対して油圧を供給する方向の圧力、すなわち、いわゆる負圧が生じる。この駆動側の油圧室の容積拡大に伴って駆動側の油圧室に油圧を供給する方向の圧力が生じることによって、あるいは駆動側の油圧室から油圧が次第に抜けることによって駆動側の油圧室における油圧が所定油圧以下になると、貯留部に貯留されている圧油が供給手断を介して駆動側の油圧室に供給あるいは吸引される。一方、従動側の回転部材もしくはプーリでは、駆動側の回転部材における溝幅の減少に伴って従動側の回転部材における溝幅が次第に拡がって環状の伝動部材の巻き掛け半径が次第に減少する。また、従動側の回転部材における溝幅の拡大に伴って、従動側の油圧室では、その容積が減少して従動側の油圧室における油圧が上昇する。すると、従動側の油圧室とオイルパンとが排圧手段を介して連通されて従動側の油圧室における油圧がオイルパンに排出あるいは排圧される。このように、各制御弁に通電できない状態で巻掛け伝動装置を駆動した場合、各油圧室に対する油圧の供給もしくは排出を制御できないとしても、各回転部材が回転することによりアップシフトを生じさせて駆動側(入力側)の回転部材もしくはプーリの回転数を下げることができる。また、環状の伝動部材を挟み付ける圧力が過大になることを回避もしくは抑制でき、その結果、巻掛け伝動装置での発熱や摩耗などを防止もしくは抑制することができる。
【0019】
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、一方の油圧室、すなわち駆動側の油圧室と貯留部とを連通する油路に、一方の油圧室から貯留部に向けた圧油の流動を禁止するとともに、貯留部から駆動側の油圧室に向けた圧油の流動を許容する一方向弁が設けられている。したがって、駆動側の油圧室の容積拡大に伴って貯留部の圧油が駆動側の油圧室に吸入あるいは供給される。その結果、駆動側の油圧室に対する油圧の供給を制御できない状態で、巻掛け伝動装置を駆動した場合の変速を可能にすることができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、排圧用制御弁に常開型の弁あるいは常閉型の弁を選択することができ、また、排圧用制御弁とドレイン箇所とを連通する油路に排圧手段が設けられている。したがって、既存の構成を利用して各制御弁に通電できない状態で巻掛け伝動装置を駆動した場合の変速を可能にすることができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、排圧手段に通電が遮断された場合にリリーフ圧が低下させられそのリリーフ圧以上の従動側の油圧室の油圧をドレイン箇所に排出するように構成されたリリーフ弁、あるいは所定圧以上の油圧が作用した場合に従動側の油圧室からドレイン箇所に排圧するように構成された一方向弁を選択することができる。したがって、既存の構成を利用して各制御弁に通電できない状態で巻掛け伝動装置を駆動した場合の変速を可能にすることができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、常閉型の供給用制御弁が設けられている第1の油路および第2の油路によって、各回転部材もしくはプーリの油圧室が連通された閉鎖系が形成され、その閉鎖系の内部に油圧を閉じ込めることができる。そのため、各回転部材もしくはプーリにおける油圧室の油圧を電気的に制御できない状態で巻掛け伝動装置が動作する場合に、油圧源から相対的に高い油圧が各油圧室に供給されないので、各油圧室の油圧を相対的に低くでき、環状の伝動部材を挟み付ける圧力が過大になることを回避もしくは抑制できる。その結果、巻掛け伝動装置での発熱や摩耗などを防止もしくは抑制することができる。
【0023】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、各制御弁に通電できない状態で巻掛け伝動装置を動作させた場合に、その入力側の回転数すなわち前後進切替機構の回転数を低下させることができる。
【0024】
請求項7の発明によれば、請求項1ないし6のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、ベルト式無段変速機において、上述した効果と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ベルト式無段変速機を対象としたこの発明に係る油圧制御装置の一例を示す部分的な油圧回路図である。
【図2】図1に示す構成の油圧制御装置の作用を説明するための図である。
【図3】図1に示す構成の油圧制御装置を改良した例を示す部分的な油圧回路図である。
【図4】図3に示す構成の油圧制御装置を改良した他の例を示す部分的な油圧回路図である。
【図5】図3に示す構成の油圧制御装置を更に改良した他の例を示す部分的な油圧回路図である。
【図6】この発明で対象とすることのできる車両の動力伝達経路の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明は、ベルトなどの巻き掛け伝動部材を介してプーリなどの一対の回転部材の間で動力を伝達し、かつその巻き掛け伝動部材の回転部材に対する巻き掛け状態を変化させて変速比を変更するように構成された変速機を対象とする油圧制御装置である。したがって、この発明における伝動部材は、上記のようなベルト以外にチェーンなどの環状あるいは無端状の伝動部材を含み、また回転部材はプーリやスプロケットなどが巻き掛けられ、その伝動部材の巻き掛け半径を変更して変速比を変化させることのできる回転部材を含む。
【0027】
以下の説明では、車両に搭載されるベルト式の無段変速機を例に採って説明する。図6は、内燃機関(エンジン)1を駆動力源とした車両に搭載した例を示している。この発明における駆動力源は、モータであってもよく、あるいは内燃機関とモータとを組み合わせたハイブリッドタイプのものであってもよい。そのエンジン1の出力側にロックアップクラッチ2を備えたトルクコンバータ3が接続されている。このトルクコンバータ3は従来知られているものと同様の構成であって、エンジン1に連結されているフロントカバー4と一体のポンプインペラー5に対向してタービンランナー6が配置され、そのタービンランナー6が出力要素となっている。これらポンプインペラー5とタービンランナー6との間には、それらの速度比が小さい状態でポンプインペラー5から吐出されたオイルをその流れの向きを変化させてタービンランナー6に供給するステータ7が配置されている。そのステータ7は図示しない一方向クラッチを介して所定の固定部に連結されている。
【0028】
ロックアップクラッチ2はタービンランナー6と一体となって回転するように構成されている。このロックアップクラッチ2は、上記のフロントカバー4の内面に対向して配置された環状の部材であって、フロントカバー4の内面との間の油圧が相対的に高くなることにより、フロントカバー4から離れて解放状態になり、またこれとは反対側の油圧が相対的に高くなることによりフロントカバー4の内面に押し付けられて、トルク伝達を行う係合状態となるように構成されている。
【0029】
さらに、上記のトルクコンバータ3に続けて前後進切替機構8がトルクコンバータ3と同一軸線上に配置されている。この前後進切替機構8は入力されたトルクをそのまま出力する前進状態と、入力されたトルクの向きを反転させて出力する後進状態とを切り替えるためのものであり、図6に示す例では、ダブルピニオン型の遊星歯車機構を主体にして構成されている。すなわち、外歯歯車であるサンギヤ9と同心円上に内歯歯車であるリングギヤ10が配置されており、これらのギヤ9,10の間に、キャリヤ11によって自転自在および公転自在に保持された複数対のピニオンギヤが配置されている。互いに対をなしている二つのピニオンギヤ12,13は、互いに噛み合っており、一方のピニオンギヤ12はサンギヤ9に噛み合い、かつ他方のピニオンギヤ13はリングギヤ10に噛み合っている。
【0030】
サンギヤ9は、前述したトルクコンバータ3におけるタービンランナー6に図示しない中間軸を介して連結され、したがって入力要素となっている。また、このサンギヤ9とキャリヤ11との間には、油圧によって制御されて、これらサンギヤ9とキャリヤ11とを選択的に連結して前進状態を設定する前進クラッチ14が設けられている。さらに、リングギヤ10の回転を選択的に止めて後進状態を設定する後進ブレーキ15が設けられている。この後進ブレーキ15は、前進クラッチ14と同様に、湿式多板ブレーキなどの油圧によって係合・解放の状態に制御され、かつ油圧に応じた伝達トルク容量となるブレーキによって構成されている。したがって、このリングギヤ10が反力要素となっている。
【0031】
これらトルクコンバータ3および前後進切替機構8と同一の軸線上に、ベルト式無段変速機16におけるプライマリプーリ(駆動側プーリ)17が配置されている。そして、そのプライマリプーリ17とキャリヤ11とが連結されている。すなわちキャリヤ11が上述したダブルピニオン型の遊星歯車機構における出力要素となっている。このベルト式無段変速機16は、従来知られているものと同様の構成であって、プライマリプーリ17と平行にセカンダリプーリ(従動側プーリ)18が配置されており、これらのプーリ17,18にベルト19が巻き掛けられ、そのベルト19を介して各プーリ17,18の間でトルクを伝達し、また各プーリ17,18に対するベルト19の巻き掛け半径を変化させることにより変速比を変更するように構成されている。
【0032】
より具体的に説明すると、各プーリ17,18は、それぞれ、固定シーブとその固定シーブに対して接近・離隔する可動シーブとを備えており、それら固定シーブと可動シーブとによって断面形状がV字状のベルト溝を形成し、そのベルト溝にベルト19が巻き掛けられている。そして、その可動シーブを固定シーブに対して前後動させることにより溝幅を変化させ、それに伴ってベルト19の巻き掛け半径を変化させて変速比を制御するように構成されている。このように変速比を変化させるために可動シーブを前後動させるとともに、各プーリ17,18がベルト19を挟み付ける挟圧力を作用させるために可動シーブを押圧する油圧室20,21が各プーリ17,18に設けられている。各プーリ17,18とベルト19との間のトルクの伝達は、両者の間の摩擦力によって行われるから、ベルト式無段変速機16における伝達トルク容量は油圧に応じた容量となる。そして、セカンダリプーリ18に一体化されている出力軸22が、カウンタギヤユニット23を介してデファレンシャル24に連結され、そのデファレンシャル24から左右の車輪25に動力を分配して伝達するように構成されている。
【0033】
上記のようにエンジン1から車輪25に駆動力を伝達する伝達経路は、互いに直列に連結された上記のトルクコンバータ3および前後進切替機構8ならびにベルト式無段変速機16を主体にして構成されており、これらの伝動部材を制御するための油圧制御装置26が設けられている。この油圧制御装置26は、電気的に制御されて各伝動部材に対して制御油圧を出力するように構成されており、この油圧制御装置26に対して指令信号を出力し、また前記エンジン1に対して指令信号を出力する電子制御装置(ECU)27が設けられている。
【0034】
上記のベルト式無段変速機を対象としたこの発明に係る油圧制御装置の一例を図1に示してある。図1に示す例は、油圧ポンプ28と、その油圧ポンプ28で発生させた油圧を蓄える蓄圧器(アキュムレータ)29とを油圧源とする例であり、その油圧ポンプ28は前述したエンジン1によって駆動され、あるいは図示しないモータによって駆動されて油圧を発生するように構成されている。その油圧ポンプ28の吐出口は、逆止弁30を介してアキュムレータ29に連通されている。その逆止弁30は、油圧ポンプ28からアキュムレータ29に向けて圧油が流れる場合に開き、これとは反対方向の圧油の流れを阻止するように閉弁する一方向弁である。また、アキュムレータ29は、蓄圧室に弾性体で押圧されたピストンや弾性膨張体などを容器内に収容し、その弾性力以上の圧力で油圧を蓄えるように構成されている。なお、油圧ポンプ28から吐出した油圧やアキュムレータ29から吐出する油圧を適宜のライン圧に調圧するレギュレータバルブ(図示せず)を適宜設けてもよい。
【0035】
油圧源である油圧ポンプ28あるいはアキュムレータ29からプライマリプーリ17における油圧室20に圧油を供給する供給油路31には、供給用制御弁SP1が設けられている。この供給用制御弁SP1は、いわゆる常閉型(ノーマルクローズタイプ)の電磁弁であって、弁体を閉弁位置に押しているスプリングとそのスプリングの弾性力を減殺して弁体を開弁位置に押す電磁力を発生する電磁コイルとを備えており、したがってその電磁コイルに通電していない状態では、スプリングの弾性力により閉弁状態となるように構成されている。したがって図1に示す例では、供給用制御弁SP1は電磁二方弁によって構成されている。上記の供給油路31が、この発明に係る第1の油路に相当する。
【0036】
また、油圧源からセカンダリプーリ18における油圧室21に油圧を供給する供給油路32が設けられている。この供給油路32は、油圧源からプライマリプーリ17の油圧室20に圧油を供給する供給油路31から分岐した油路として構成することができ、この供給油路32には、供給用制御弁SS1が設けられている。図1に示す例では、供給用制御弁SS1は、プライマリプーリ17側の供給用制御弁SP1と同様にいわゆる常閉型(ノーマルクローズタイプ)の電磁弁であって、弁体を閉弁位置に押しているスプリングとそのスプリングの弾性力を減殺して弁体を開弁位置に押す電磁力を発生する電磁コイルとを備えており、したがってその電磁コイルに通電していない状態では、スプリングの弾性力により閉弁状態となるように構成されている。したがって図1に示す例では、供給用制御弁SS1は電磁二方弁によって構成されている。上記の供給油路32が、この発明に係る第2の油路に相当する。
【0037】
さらに、プライマリプーリ17における油圧室20をオイルパンなどのドレイン箇所に連通させる排出油路33には、排圧用制御弁SP2が設けられている。この排圧用制御弁SP2は、図1に示す例では、いわゆる常閉型(ノーマルクローズタイプ)の電磁弁であって、弁体を閉弁位置に押しているスプリングとそのスプリングの弾性力を減殺して弁体を開弁位置に押す電磁力を発生する電磁コイルとを備えており、したがってその電磁コイルに通電していない状態では、スプリングの弾性力により閉弁状態となるように構成されている。したがって、排圧用制御弁SP2は電磁二方弁によって構成されている。
【0038】
またさらに、セカンダリプーリ18における油圧室21から油圧を抜く排出油路34には、排圧用制御弁SS2が設けられている。この排圧用制御弁SS2は、プライマリプーリ17側の排圧用制御弁SP2と同様に、図1に示す例では、いわゆる常閉型(ノーマルクローズタイプ)の電磁弁であって、弁体を閉弁位置に押しているスプリングとそのスプリングの弾性力を減殺して弁体を開弁位置に押す電磁力を発生する電磁コイルとを備えており、したがってその電磁コイルに通電していない状態では、スプリングの弾性力により閉弁状態となるように構成されている。したがって、排圧用制御弁SS2は電磁二方弁によって構成されている。
【0039】
上記の各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2は、前述したECU27から出力される制御信号によって動作するように構成されている。したがって上記のベルト式無段変速機16が搭載されている車両のメインスイッチ(図示せず)がオフになっている場合や、電気的なフェールが生じている場合などにおいては、各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2に通電されず、それぞれがオフ状態になる。その場合、図1に示す例では、各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2が常閉型のものであるから、これらに通電できない状態では各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2が閉じるので、各油圧室20,21あるいはこれらを接続している油路が、油圧ポンプ28やアキュムレータ29などの油圧源およびオイルパンに対して遮断されて油圧室20,21が閉鎖あるいは密閉されるように構成されている。
【0040】
そして、図1に示す例では、オイルパンからプライマリプーリ17における油圧室20に圧油を供給する供給用バイパス油路35が設けられている。この供給用バイパス油路35は、供給油路31における供給用制御弁SP1よりもベルト式無段変速機16側から分岐した油路として構成することができる。この供給用バイパス油路35には、この発明に係る供給手段の一例として逆止弁36が設けられている。この逆止弁36は、オイルパンからプライマリプーリ17における油圧室20に向けて圧油が流れる場合に開き、これとは反対方向の圧油の流れを阻止するように閉弁する一方向弁である。この逆止弁36は、その一例として、油圧源からプライマリプーリ17における油圧室20に向けて圧油が流れる場合に、油圧源から油圧室20に供給される油圧によって弁体が閉弁位置に押されて閉弁し、油圧室20における油圧がオイルパンにおける油圧と同じかそれよりも低下した場合に、すなわち負圧によって弁体が開弁位置に移動して開弁するように構成されている。
【0041】
また、供給油路32からオイルパンに圧油を供給あるいは排出する排圧用バイパス油路37が設けられている。この排圧用バイパス油路37は、供給油路32における供給用制御弁SS1よりもベルト式無段変速機16側から分岐した油路として構成することができる。この排圧用バイパス油路37には、この発明に係る排圧手段が設けられている。図1に示す例では、排圧手段の一例として電磁リリーフ弁38が排圧用バイパス油路37に設けられている。この電磁リリーフ弁38は、通電量が多くなるに従ってリリーフ圧が高くなるように構成された排圧弁であり、通電されていない状態でリリーフ圧が最も低くなる。この電磁リリーフ弁38は、油圧源からセカンダリプーリ18における油圧室21に油圧を供給してセカンダリプーリ18において最大挟圧力を発生させる場合であっても油圧をリリーフしないように相対的に高いリリーフ圧が設定されるようになっている。これとは反対に、車両のメインスイッチがオフになっていたり、電気的なフェールが生じたりして、電磁リリーフ弁38に通電できない場合に、そのリリーフ圧は予め定められた相対的に低い圧力に設定されるようになっている。すなわち、供給油路32および排圧用バイパス油路37の油圧が、電磁リリーフ弁38で設定されるリリーフ圧に制限されるようになっている。
【0042】
したがって、各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2に通電できないことにより各油圧室20,21が閉鎖あるいは密閉され、かつ車両が例えば牽引されて走行する場合に、プライマリプーリ17の油圧室20における油圧がオイルパンにおける油圧と同じかそれよりも低下すると、逆止弁36が開弁してオイルパンから油圧室20に圧油が供給されるとともに、電磁リリーフ弁38のリリーフ圧が相対的に低圧に設定されることにより電磁リリーフ弁38を介してリリーフ圧以上のセカンダリプーリ18における油圧室21の油圧がオイルパンに排出されてベルト式無段変速機16がアップシフトできるように構成されている。
【0043】
つぎに図1に示す構成の油圧制御装置の作用について説明する。図2は、図1に示す構成の油圧制御装置の作用を説明するための図である。エンジン1が正常に機能して車両が走行している場合には、油圧ポンプ28が動作して油圧を発生し、その油圧が各供給油路31,32に供給され、また必要に応じてアキュムレータ29に蓄圧される。なお、各供給油路31,32における油圧は、プライマリーレギュレータバルブなどによってエンジン1の出力に応じたライン圧、あるいはアクセル開度などの車両に対する駆動要求量に応じたライン圧に制御される。ECU27が供給用制御弁SP1に対して供給油路31を開放するための制御信号を出力し、プライマリプーリ17の油圧室20に対して圧油が供給されると、ベルト19に作用している張力に抗して、その可動シーブが固定シーブ側に押されて溝幅が狭くなり、その結果、ベルト19の巻き掛け半径が大きくなって、変速比が低下するアップシフトが生じる。所定の変速比が設定されている状態で、ECU27が供給用制御弁SP1に対して閉止のための制御信号を出力すると、プライマリプーリ17の油圧室20に対する圧油の供給が停止し、油圧室20が油圧源やオイルパンに対して閉鎖あるいは密閉されて圧油が閉じ込められるので、変速比が一定に維持される。
【0044】
また、プライマリプーリ17についての排圧用制御弁SP2に通電してこれを開動作させると、プライマリプーリ17の油圧室20から油圧がオイルパンに排出されるので、ベルト19の張力により、プライマリプーリ17の可動シーブが固定シーブに対して後退移動させられ、その結果、溝幅が拡大してベルト19の巻き掛け半径が小さくなる。すなわち、ダウンシフトが生じる。このように、プライマリプーリ17の油圧室20の圧油を制御することにより、変速が実行される。そして、その変速比は、エンジン1の回転数が燃費の良い回転数となるように制御され、また加速時や減速時には、要求に応じて加速度やエンジンブレーキ力が生じる変速比に、過渡的に制御される。さらに、減速して停車する場合には、最も低速側の変速比である最大変速比に制御される。
【0045】
これに対して、セカンダリプーリ18における油圧室21の油圧は、必要なベルト挟圧力を生じさせるように制御される。例えば、車両のアクセル開度が増大してエンジン1の出力が増大する場合には、セカンダリプーリ18についての供給用制御弁SS1に対して開動作させる制御信号が出力され、その結果、油圧源からセカンダリプーリ18における油圧室21に油圧が供給されて挟圧力が増大する。これとは反対に、アクセル開度が減少してエンジン1の出力トルクが低下する場合、セカンダリプーリ18についての排圧用制御弁SS2を開く制御信号が出力され、排圧用制御弁SS2が開いてセカンダリプーリ18における油圧室21から排圧されることにより挟圧力が低下する。なお、セカンダリプーリ18における油圧室21の油圧すなわち挟圧力は、エンジン1が出力するトルクもしくはベルト式無段変速機16に入力されるトルクに応じた圧力に制御される。
【0046】
この発明に係る上記の油圧制御装置によれば、各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2に通電できずにこれらを動作させることができない状態であっても、変速を生じさせることができる。具体的に説明すると、各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2は、通電が遮断されてオフ状態になっている場合に、閉弁状態になっている。しかしながら、プライマリプーリ17の油圧室20とオイルパンとは、供給用バイパス油路35によって連通されており、その供給用バイパス油路35には、逆止弁36が設けられている。この逆止弁36は、油圧室20の容積が拡大することによって、オイルパンに貯留されている圧油を油圧室20に吸引あるいは供給する場合に開弁するようになっている。また、セカンダリプーリ18の油圧室21は、排圧用バイパス油路37を介してオイルパンに連通されており、その排圧用バイパス油路37には、電磁リリーフ弁38が設けられている。電磁リリーフ弁38は、各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2がオフ状態となった場合に、そのリリーフ圧が相対的に低い圧力に設定あるいは変更されてそのリリーフ圧以上の油圧室21の油圧をオイルパンに排出できるようになっている。すなわち、油圧室21の容積の減少に伴って排圧するようになっている。さらにまた、各供給用制御弁SP1,SS1は、通電されないことによりオフ状態になるので、アキュムレータ29の油圧は、各油圧室20,21に供給されない。したがって、アキュムレータ29は、その内部に相対的に高い油圧を蓄えた状態が維持されるようになっている。
【0047】
車両が停止している状態では、変速比が最大になっており、プライマリプーリ17に対するベルト19の巻き掛け半径が最小になり、かつセカンダリプーリ18に対するベルト19の巻き掛け半径が最大になっている。この状態で、ECU27がフェールし、あるいは車両のメインスイッチがオフにされて各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2に通電できず、かつ車両が牽引されるなどのことによって走行すると、車輪25から伝達されるトルクによりベルト式無段変速機16が駆動される。すなわち、セカンダリプーリ18に出力軸22からトルクが伝達されてこれが回転すると、そのトルクがベルト19を介してプライマリプーリ17に伝達されてプライマリプーリ17が回転する。その場合、変速比が最大になっていることにより、プライマリプーリ17がセカンダリプーリ18より高速で回転する。
【0048】
各油圧室20,21は、それぞれのプーリ17,18と一体となって回転するから、各油圧室20,21の内部にある圧油に遠心力が作用して遠心油圧が発生する。その遠心油圧は、回転速度(回転数)の二乗に比例して大きくなるから、変速比が大きい状態では、プライマリプーリ17の回転数がセカンダリプーリ18の回転数より高回転数であるために、プライマリプーリ17の油圧室20で発生する遠心油圧が、セカンダリプーリ18の油圧室21での遠心油圧より高圧になる。そのため、プライマリプーリ17においては、その可動シーブが固定シーブ側に移動してプライマリプーリ17における溝幅が狭くなり、ベルト19の巻き掛け半径が増大する。可動シーブが固定シーブ側に移動することに伴って油圧室20の容積は拡大し、油圧室20に接続されている供給油路31および排出油路33ならびに油圧室20とオイルパンとを連通する供給用バイパス油路35には、油圧室20に圧油を供給する方向の圧力、すなわち負圧が生じる。油圧室20の容積が拡大することによって弁体が開弁位置に移動してオイルパンと油圧室20とが連通される。オイルパンと油圧室20とが連通されると、可動シーブの移動に伴う上記の負圧によってオイルパンに貯留されている圧油が油圧室20に供給される。
【0049】
一方、セカンダリプーリ18では、その固定シーブと可動シーブとの間隔がベルト19によって押し広げられてベルト19の巻き掛け半径が減少し、その可動シーブの移動に伴ってセカンダリプーリ18の油圧室21の容積が減少して油圧室21における油圧が上昇する。また、前述したように各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2に通電できないことにより油圧室21が油圧源やオイルパンに対して閉鎖あるいは密閉されている場合に、排圧用バイパス油路37に設けられた電磁リリーフ弁38は、そのリリーフ圧が予め定められた相対的に低い圧力に設定される。したがって、セカンダリプーリ18における溝幅が拡大することに伴い、電磁リリーフ弁38のリリーフ圧を超える油圧室21の油圧がオイルパンに排出される。このようにして変速比が「1」に近づくように低下するアップシフトが生じる。
【0050】
したがって、図1に示すように構成された油圧制御装置によれば、ベルト式無段変速機16の入力回転数であるプライマリプーリ17の回転数が、出力側のセカンダリプーリ18の回転数に近づくように低下するので、プライマリプーリ17に連結されている前述した前後進切替機構8の回転数が低下し、前後進切替機構8で発生するギヤノイズなどの騒音を低減することができる。また、各油圧室20,21には、アキュムレータ29などの油圧源の油圧が作用しないので、各油圧室20,21の油圧を相対的に低くできる。さらにまた、セカンダリプーリ18においては、その油圧室21から電磁リリーフ弁38のリリーフ圧を超える油圧をオイルパンに排出できるように構成されているので、セカンダリプーリ18における可動シーブの移動が可能となるとともに、その油圧およびベルト挟圧力が過大になることを防止もしくは抑制できる。そして、牽引などによってベルト式無段変速機16を回転させてトルクを伝達している状態におけるベルト挟圧力を確保するとともに、ベルト挟圧力を必要最低限の圧力とすることができる。その結果、ベルト19の発熱や変速機全体としての耐久性の低下を抑制することができる。
【0051】
図3に、図1に示す構成を改良した例を模式的に示してある。ここに示す例は、セカンダリプーリの油圧室から油圧を抜く排出油路における排圧用制御弁を常開型の弁にするとともに、その排出油路における排圧用制御弁よりオイルパン側に所定のリリーフ圧で排圧するリリーフ弁を設けた例である。図3に示す排圧用制御弁SS2NOは、通電されない状態では開弁状態を維持するように構成された常開型(ノーマルオープンタイプ)の電磁二方弁であり、スプリングの弾性力を弁体に対して開弁状態を維持するように作用させ、かつその弾性力を減殺して弁体を閉弁位置に移動させるように作用する電磁コイルを備えている。図3に示す排圧用制御弁SS2NOの一方のポートがセカンダリプーリ18における油圧室21に接続され、他方のポートがオイルパンに連通されている。
【0052】
また、リリーフ弁39は、常時、所定のリリーフ圧が設定されたリリーフ弁であってよく、また前述したようにリリーフ圧を変更することができる可変型の電磁リリーフ弁であってもよい。リリーフ弁39のリリーフ圧は、予め定められた相対的に低い圧力に設定されており、そのリリーフ圧は、一例として、牽引などによってベルト式無段変速機16を回転させてトルクを伝達させている状態における必要最低限のベルト挟圧力を生じさせることができる油圧室21の油圧と同等の圧力とすることができる。
【0053】
このように、図3に示すように構成された油圧制御装置においては、各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2NOに通電できない状態では、排圧用制御弁SS2NOは開いた状態になり、セカンダリプーリ18における油圧室21の油圧がリリーフ弁39に供給される。また、リリーフ弁39のリリーフ圧は、必要最低限のベルト挟圧力を発生させることができる最低圧力に設定されており、そのリリーフ圧を超える圧力がリリーフ弁39に作用すると、油圧室21とオイルパンとが連通されて油圧室21の油圧がオイルパンに排圧される。この状態で車両を牽引するなどのことによって走行させると、車両が停止している状態ではベルト式無段変速機16の変速比が最大になっているから、プライマリプーリ17の回転数がセカンダリプーリ18の回転数より高回転数になって、プライマリプーリ17の油圧室20で発生する遠心油圧が、セカンダリプーリ18の油圧室21での遠心油圧より高圧になる。そして、プライマリプーリ17の可動シーブがその固定シーブ側に移動することに伴って油圧室20の容積が拡大して供給用バイパス油路35および逆止弁36を介してオイルパンに貯留されている圧油が油圧室20に供給される。
【0054】
一方、セカンダリプーリ18においては、ベルト19の張力により、その可動シーブが固定シーブに対して後退移動させられることにより溝幅が拡大してベルト19の巻き掛け半径が小さくなる。セカンダリプーリ18における油圧室21は、排圧用制御弁SS2NOを介してリリーフ弁39に接続されているから、油圧室21の油圧は、リリーフ弁39のリリーフ圧に制限されるようになる。すなわち、油圧室21におけるリリーフ圧を超える油圧が、オイルパンに排圧され、油圧室21は、上記の必要最低限のベルト挟圧力を生じさせることができる油圧に設定されるようになる。このようにして変速比が「1」に近づくように低下するアップシフトが生じる。
【0055】
したがって、図3に示すように構成された油圧制御装置によれば、ベルト式無段変速機16の入力回転数であるプライマリプーリ17の回転数が、出力側のセカンダリプーリ18の回転数に近づくように低下するので、プライマリプーリ17に連結されている前述した前後進切替機構8の回転数が低下し、前後進切替機構8で発生するギヤノイズなどの騒音を低減することができる。また、各油圧室20,21の内部で遠心油圧が発生するとしても、供給用制御弁SP1,SS1が閉弁状態となっているので、各油圧室20,21にはアキュムレータ29などの油圧源の油圧が作用しない。そのため、各油圧室20,21の油圧を相対的に低くすることができる。さらにまた、油圧室21の油圧は、リリーフ弁39のリリーフ圧に制限されるので、セカンダリプーリ18における可動シーブの移動が可能となるとともに、その油圧が過大になることを防止もしくは抑制できる。そして、これにより牽引などによってベルト式無段変速機16を回転させてトルクを伝達している状態におけるベルト挟圧力を確保するとともに、ベルト挟圧力を必要最低限の圧力とすることができる。その結果、ベルト19の発熱や変速機全体としての耐久性の低下を抑制することができる。
【0056】
図4に示す例は、上記の図3に示す構成におけるリリーフ弁に替えて、逆止弁を設けた例である。この逆止弁40は、セカンダリプーリ18における油圧室21からオイルパンに向けて圧油が流れる場合に開き、これとは反対方向の圧油の流れを阻止するように閉弁する一方向弁である。この逆止弁40は、その一例として、スプリングの弾性力を弁体に対して閉弁状態を維持するように作用させ、その弾性力を減殺して弁体を開弁位置に移動させるように油圧室21の油圧が作用するように構成されている。そのスプリングの弾性力は、一例として牽引などによってベルト式無段変速機16を回転させてトルクを伝達させている状態において、セカンダリプーリ18に必要最低限のベルト挟圧力を生じさせることができる油圧室21の油圧に抗して弁体を閉弁位置に維持できる弾性力に設定することができる。
【0057】
このように、図4に示すように構成された油圧制御装置においては、セカンダリプーリ18において、スプリングの弾性力を超える油圧が逆止弁40に作用すると、セカンダリプーリ18における油圧室21とオイルパンとが連通されて油圧室21の油圧がオイルパンに排圧され、その可動シーブの固定シーブに対する後退移動が可能となってセカンダリプーリ18における溝幅が拡大してベルト19の巻き掛け半径が小さくなる。このようにして変速比が「1」に近づくように低下するアップシフトが生じる。
【0058】
したがって、図4に示すように構成された油圧制御装置によれば、変速比をアップシフトできることによって、ベルト式無段変速機16のプライマリプーリ17の回転数を低下させるとともに、これに連結されている前後進切替機構8の回転数を低下させることができ、その結果、前後進切替機構8で発生するギヤノイズなどの騒音を低減することができる。また、油圧室21の油圧は、逆止弁40の弾性力によって制限されるので、セカンダリプーリ18におけるベルト挟圧力を確保できるとともに、そのベルト挟圧力を必要最低限の圧力とすることができる。その結果、ベルト19の発熱や変速機全体としての耐久性の低下を抑制することができる。
【0059】
図5に示す例は、上記の図3および図4に示す構成におけるリリーフ弁や逆止弁を取り除いた例である。すなわち、図5に示す例において、各制御弁SP1,SP2,SS1,SS2NOに通電できない状態では、排圧用制御弁SS2NOは、開いた状態となっており、セカンダリプーリ18における油圧室21とオイルパンとが連通され、油圧室21の油圧が制限されることなくオイルパンに供給あるいは排出されるようになっている。
【0060】
したがって、図5に示すように構成された油圧制御装置によれば、セカンダリプーリ18における油圧室21からオイルパンに対する油圧の供給あるいは排出が制限されないので、セカンダリプーリ18におけるベルト挟圧力が油圧による必要最低限の圧力と同じかそれよりも小さくなったり、あるいは零(0)となり、セカンダリプーリ18におけるベルト19を介したトルク伝達が遮断されたり、あるいは伝達トルク容量が低減される。その結果、プライマリプーリ17にトルクが伝達されず、あるいは伝達されるトルク容量が小さくなるから、プライマリプーリ17が回転しなかったり、あるいはその回転数が低くなったりする。そしてプライマリプーリ17に連結されている前後進切替機構8も回転しなかったり、あるいはその回転数が低い状態となる。その結果、前後進切替機構8で発生するギヤノイズなどの騒音を未然に防止もしくは低減することができる。また、ベルト式無段変速機16がトルクを伝達しないので、ベルト19の発熱や変速機全体としての耐久性の低下を抑制することができる。
【0061】
なお、この発明で対象とする伝動装置は、ベルト式無段変速機以外の伝動装置であってもよく、例えばチェーンをスプロケットなどの回転部材に巻き掛け、その巻き掛け半径を変化させることのできる変速機であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…エンジン、 8…前後進切替機構、 16…ベルト式無段変速機、 17…プライマリプーリ(駆動側プーリ)、 18…セカンダリプーリ(従動側プーリ)、 19…ベルト、 20,21…油圧室、 27…ECU(電子制御装置)、 28…油圧ポンプ、 29…アキュムレータ、 31,32…供給油路、 SP1,SS1…供給用制御弁、 33,34…排出油路、 35…供給用バイパス油路、 37…排圧用バイパス油路、 38…電磁リリーフ弁、 SP2,SS2…排圧用制御弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の回転部材に環状の伝動部材が巻掛けられるとともに、それらの回転部材に油圧が供給されて前記環状の伝動部材が巻掛けられる溝幅を狭くする油圧室がそれぞれ設けられ、各油圧室が電気的に制御される供給用制御弁を介して油圧源に接続されるとともに、各油圧室が電気的に制御される排圧用制御弁を介してドレイン箇所に接続される巻掛け伝動装置の油圧制御装置において、
前記供給用制御弁および前記排圧用制御弁は、通電を遮断した場合に閉制御される常閉型の弁を含み、
一方の前記油圧室に連通されている前記供給用制御弁および排圧用制御弁に対する通電が遮断されてこれらの制御弁が閉じている状態で、前記一方の油圧室の容積が拡大することによって前記一方の油圧室に所定の圧油の貯留部から圧油が吸入されることを許容する供給手段と、
その供給手段を介して前記一方の油圧室に圧油が吸入される場合に、他方の前記油圧室から前記ドレイン箇所に排圧させる排圧手段とを備えている
ことを特徴とする巻掛け伝動装置の油圧制御装置。
【請求項2】
前記供給手段は、前記一方の油圧室と前記貯留部とを連通する油路に設けられてその油路における前記貯留部から前記一方の油圧室に向けた圧油の流動を許容し、これとは反対方向の圧油の流動を阻止する一方向弁を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の巻掛け伝動装置の油圧制御装置。
【請求項3】
前記他方の油圧室を前記ドレイン箇所に連通する排圧用制御弁は、通電している場合に前記他方の油圧室と前記ドレイン箇所との連通を遮断し、通電しない場合に前記他方の油圧室と前記ドレイン箇所とを連通する常開型の弁を含み、
前記他方の排圧用制御弁と前記ドレイン箇所とを連通する油路に前記排圧手段が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の巻掛け伝動装置の油圧制御装置。
【請求項4】
前記排圧手段は、前記供給用制御弁および前記排圧用制御弁に通電ができない場合にリリーフ圧が低下させられてそのリリーフ圧以上の油圧を前記他方の油圧室から前記ドレイン箇所に排圧するリリーフ弁、あるいは所定油圧以上の油圧が作用した場合に前記他方の油圧室と前記ドレイン箇所とを連通してその所定油圧以上の油圧を前記ドレイン箇所に排圧するように構成された一方向弁を含む
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の巻掛け伝動装置の油圧制御装置。
【請求項5】
前記一方の供給用制御弁は、前記一方の油圧室と前記油圧源とを連通する第1の油路に設けられ、
前記他方の供給用制御弁は、前記第1の油路に設けられた前記一方の供給用制御弁より前記油圧源側の所定箇所に連通されかつ前記他方の油圧室に対して前記油圧源から前記油圧を供給する第2の油路に設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の巻掛け伝動装置の油圧制御装置。
【請求項6】
前記一対の回転部材のうち駆動力源からトルクが入力される入力側回転部材が、その入力側回転部材に対して入力されるトルクの方向を反転させる前後進切替機構に連結されている
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の巻掛け伝動装置の油圧制御装置。
【請求項7】
前記環状の伝動部材は、ベルトを含み、
前記一対の回転部材は、前記ベルトが巻き掛けられる溝幅を変更可能な駆動側プーリと、前記ベルトが巻き掛けられる溝幅を変更可能な従動側プーリとを含む
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の巻掛け伝動装置の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−107736(P2012−107736A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258994(P2010−258994)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】