説明

干渉計及び面形状測定方法

【課題】被検面が非球面であってもその面形状を高精度に測定する。
【解決手段】測定光発生用の光ファイバー18Mから射出して被検面2Sを介した測定光LMと参照光とを干渉させて得られる干渉縞35に基づいて被検面2Sの面形状を測定する干渉計10において、複数の位置QA〜QCで参照光LA〜LCを射出する参照光発生用の光ファイバー18A〜18Cと、参照光LA〜LCの発生を切り替えるシャッター24A〜24Cと、参照光毎に得られる干渉縞から求められる面形状を合成する信号処理装置32とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定光と参照光とを干渉させて得られる干渉縞に基づいて被検面の面形状を測定する干渉計及び面形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検面が球面である場合の面形状(球面形状)の測定には、フィゾー干渉計やトワイマン・グリーン干渉計が用いられてきた。これらの干渉計は基準面を必要とし、その基準面との比較により球面形状を測定するため、測定精度は基準面の面精度を超えることが出来ない。
そこで、基準面を必要としない干渉計として、ピンホールの回折により生じた理想的な球面波(回折波面)を基準波面として、球面形状を高精度に測定できるポイントディフラクション干渉計(Point Diffraction Interferometer:以下、点回折干渉計という。)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2679221号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近は、被検面として非球面形状を高精度に測定することが求められている。従来の点回折干渉計を用いて非球面形状を測定する場合、被検面上の位置によって曲率半径が異なり、それに応じて測定光の波面の曲率半径も異なるため、得られる干渉縞上の位置によって干渉縞の密度(単位長さ当たりの縞の本数)が異なってくる。そのため、点回折干渉計では、仮に一部の領域で干渉縞が粗になり、干渉縞の位相分布、ひいては面形状を高精度に測定できたとしても、他の領域では干渉縞が密になり、面形状の高精度な測定が困難となる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、被検面が非球面であってもその面形状を高精度に測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による干渉計は、測定光発生部から射出して被検面を介した測定光と参照光とを干渉させて得られる干渉縞に基づいてその被検面の面形状を測定する干渉計において、複数の位置でその参照光を射出する参照光発生部を備えるものである。
また、本発明による面形状測定方法は、測定光発生部から射出して被検面を介した測定光と参照光とを干渉させて得られる干渉縞に基づいてその被検面の面形状を測定する面形状測定方法において、複数の位置でその参照光を順次射出して、それぞれその干渉縞を検出する工程と、複数のその干渉縞から選択された干渉縞からその被検面の面形状を求める工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の位置で参照光を射出してそれぞれ被検面からの測定光と干渉させることにより、複数の干渉縞が得られる。これらの干渉縞のうち例えば密度がより粗い干渉縞を用いることによって、被検面が非球面であってもその面形状を高精度に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(A)は第1の実施形態の干渉計の構成を示す図、(B)は図1(A)の一部をIB方向から見た図である。
【図2】(A)は図1(A)の撮像素子上に形成される干渉縞を示す図、(B)は測定光と参照光LBとから形成される干渉縞を示す図、(C)は測定光と参照光LAとから形成される干渉縞を示す図である。
【図3】干渉縞の密度の一例を示す図である。
【図4】面形状の測定動作の一例を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施形態の変形例の要部を示す図である。
【図6】(A)は第2の実施形態の干渉計の構成を示す図、(B)は図6(A)の一部をVIB方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態につき図1〜図4を参照して説明する。本実施形態は、非球面よりなる被検面の面形状を点回折干渉計で測定する場合に本発明を適用したものである。
図1(A)は本実施形態の点回折干渉型の干渉計10の概略構成図、図1(B)は図1(A)の一部をIB方向から見た図である。図1(A)において、凹面ミラーよりなる被検ミラー2がミラーホルダ4を介して駆動装置6に保持されている。被検ミラー2の非球面よりなる反射面が被検面2Sである。被検面2Sの回転対称軸である非球面軸8上において、被検面2Sを球面近似したときの曲率中心を仮に近似中心8Cと呼ぶ。
【0010】
干渉計10は、可干渉性があり直線偏光のレーザビームを射出する例えばHe−Neレーザ又は固体レーザ等のレーザ光源12と、そのレーザビームから分岐した測定光LMを近似中心8Cの近傍の位置QMから被検面2Sに照射する測定光照射系と、測定光LMの被検面2S上での照射領域を制限する例えば矩形(又は円形等)の開口が形成された絞り26と、そのレーザビームから分岐した3個の参照光LA,LB,LCを所定配列(後述)で配置された3箇所の位置QA,QB,QC(図1(B)参照)から、かつ被検面2Sより反射される測定光LMが照射される結像レンズ28(後述)に向けて照射する参照光照射系とを備えている。さらに、干渉計10は、被検面2Sより反射された測定光LMと参照光LA〜LCとをほぼ平行光束にする結像レンズ28と、ほぼ平行光束にされた測定光LMと参照光LA〜LCとの干渉縞35を受光する例えば2次元CCDよりなる2次元の撮像素子30と、撮像素子30の検出信号を処理する信号処理装置32と、干渉計10の動作を制御するコンピュータよりなる制御装置34とを備えている。
【0011】
被検面2Sと撮像素子30の受光面とはほぼ対向するように配置されている。以下、撮像素子30の受光面に平行な平面上で直交するようにX軸及びY軸を取り、XY平面に垂直にZ軸を取って説明する。図1(A)では、被検面2Sの非球面軸8は、YZ平面上にある。この場合、駆動装置6は、非球面軸8の回りのθ方向に被検ミラー2を回転可能であり、かつ駆動装置6は、被検ミラー2を保持した状態で、近似中心8Cをほぼ中心としてX軸に平行な軸の回りのφ方向に回転テーブル(不図示)によって回転可能である。さらに、駆動装置6は、被検ミラー2を保持した状態で、XYテーブル(不図示)によってX方向、Y方向にも移動可能である。駆動装置6は、不図示のZテーブルによってZ方向にも移動可能である。本実施形態では、被検面2Sは例えばY方向にシフトされる。
【0012】
上記の測定光照射系は、レーザ光源12から射出されるレーザビームを測定光LMと参照光とに分岐するビームスプリッタ14Aと、分岐された測定光LMを集光するレンズ16Mと、集光された測定光LMを位置QMまで伝送する偏波面保存シングルモード型の光ファイバー18Mとを有する。即ち、位置QMには、光ファイバー18Mの射出端の中心である点光源部PMが配置される。
【0013】
また、上記の参照光照射系は、ビームスプリッタ14Aから分岐された参照光を往復するように反射する第1反射部材20A及び第2反射部材20Bと、第2反射部材20BをZ方向に駆動する例えばピエゾ素子よりなる駆動素子22と、反射部材20A,20Bを通過した参照光から参照光LA,LB,LCを分岐するビームスプリッタ14B,14C及びミラー14Dとを有する。制御装置34が駆動素子22を介して第2反射部材20BのZ方向の位置を制御することで、参照光LA〜LCの位相を制御できる。
【0014】
さらに、参照光照射系は、参照光LA,LB,LCをそれぞれ集光するレンズ16A,16B,16Cと、集光された参照光LA,LB,LCをそれぞれ位置QA,QB,QCまで伝送する偏波面保存シングルモード型の光ファイバー18A,18B,18Cと、光ファイバー18A〜18Cの入射面で参照光LA〜LCを随時遮光するシャッター24A〜24Cとを有する。シャッター24A〜24Cは制御装置34によって開閉される。位置QA〜QCには、図1(B)に示すように、光ファイバー18A〜18Cの射出端の中心である点光源部PA〜PCが配置される。被検面2Sで反射された測定光LM及び参照光LA〜LCは撮像素子30上で偏光方向が平行になるように、光ファイバー18M,18A〜18Cの射出端の回転角が設定されている。これによって、撮像素子30上で測定光LMと参照光LA〜LCとはそれぞれ干渉縞を生成する。
【0015】
光ファイバー18M,18A〜18Cのコア径は例えば数μm〜10μm程度であり、測定光LMを射出する点光源部PM及び参照光LA〜LCを射出する点光源部PA〜PCはそれぞれ実質的に点光源として作用する。従って、点光源部PMから被検面2Sに射出される測定光LMは実質的に球面波であり、点光源部PA〜PCから射出される参照光LA〜LCも実質的に球面波である。
【0016】
光ファイバー18Mの点光源部PMから射出される測定光LMは、絞り26で制限されて被検面2Sに照射される。そして、被検面2Sから反射された測定光LMは、位置QMの近似中心8Cに対してほぼ対称な位置にある集光領域36に集光されてから、結像レンズ28を経て撮像素子30に入射する。この場合、測定光LMは被検面2S上で非球面軸8を含まない部分領域に照射されている。このように被検面2Sの非球面上で非球面軸8を含まない領域を球面波(測定光LM)で照明すると、その反射波面には非点収差の成分が多く含まれるため、その反射光の集光領域36は図1(B)に示すように楕円状の領域となる。
【0017】
また、被検面2Sを適切にアライメントすることにより、測定光LMの点光源部PMに対して測定光LMの集光領域36を図1(B)のように配置することが可能である。ここでは、集光領域36のY方向の幅が最小になるようにアライメントされ、さらに集光領域36の全体が測定光LMの点光源部PMに対してわずかにY方向にずれるように、被検面2Sの角度が調整されている。さらに、参照光LA〜LCを発生する点光源部PA〜PCが配置される位置QA〜QCは、測定光LMの集光領域36の長手方向(ここではX方向)に概ね平行な直線上に配列されている。
【0018】
また、図2(A)〜図2(C)は図1(A)内の2次元の撮像素子30の受光面を示す。撮像素子30上の測定光LMが照射される領域は、図1(A)の絞り26で規定される開口に対応する例えば矩形の領域3Sであり、図1(B)の点光源部PA〜PCから発生する参照光LA〜LCは、一例として領域3Sを含むほぼ点線で囲まれる領域に照射される。なお、図2(A)の領域3S内に形成される干渉縞35は、参照光LA〜LCを同時に照射した場合に、参照光LA〜LCと測定光LMとの干渉によって形成される少なくとも3つの干渉縞が重なったものである。本実施形態では、参照光LA〜LCは順次照射されるため、実際に領域3Sに形成される干渉縞35は一つである。
【0019】
撮像素子30上に形成される干渉縞35の密度は、集光領域36と参照光LA〜LCの点光源部PA〜PCとの位置関係で決まる。集光領域36内のある点について考えると、その点と点光源部PA〜PCとの間隔が大きいほど、その点に対応する画像領域での干渉縞密度は高くなる。従来のように参照光の点光源部が1つである点回折干渉計においては干渉縞密度が高くなりすぎて、干渉縞の位相が検出できない場合でも、本実施形態では、3個の参照光の点光源部PA〜PCがあるため、いずれかの参照光LA〜LCと測定光LMとの干渉縞を検出することによって、干渉縞密度を低減でき、干渉縞の位相の検出が可能になり、ひいては被検面2Sの面形状を高精度に検出できる。
【0020】
なお、測定光LMの集光領域36を点光源部PMに対してずらす方向は、Y方向の正負の2通りあるが、被検面形状ごとに集光領域36のサイズが小さくなる方向を選択するとよい。そのため、被検面2Sの横ずらし方向の切換えが行われる。あるいは光学系をY方向に反転する反転機構を備えてもよい。
次に、本実施形態の干渉計10による被検面2Sの面形状の測定動作の一例につき図4のフローチャートを参照して説明する。この動作は制御装置34によって制御される。
【0021】
先ず、図4のステップ102において、駆動装置6等を駆動して、絞り26の開口内に被検ミラー2の被検面2Sの被検領域を移動する。次のステップ104において、制御装置34は、制御用のパラメータi及びjの値を1として、レーザ光源12の発光を開始させ、被検面2Sに対する測定光LMの照射を開始する。次のステップ106において、シャッター24Aのみを開いて、光ファイバー18Aを介してi番目の参照光(ここでは1番目の参照光LA)を撮像素子30上の測定光LMに重ねて照射する。そして、図2(C)に示すように、撮像素子30で測定光LMと参照光LAとの干渉縞35Aの光強度分布を測定する。なお、図2(C)の矩形の領域3Sを+X方向に例えばほぼ同じ幅のI個(ここでは3個)の部分領域3SA,3SB,3SCに分割した場合、干渉縞35Aは、−X方向の端部の部分領域3SA内で粗い密度になり、それ以外の部分領域3SB,3SCでは密度が高くなる。
【0022】
次のステップ108において、制御装置34は、パラメータjが所定の整数J(例えば4以上の整数)に達したかどうかを判定する。ここでは、jは整数Jより小さいため、動作はステップ110に移行して、制御装置34は駆動素子22(位相変調部)を介して参照光LAの位相を2π/Jだけ変化させて、パラメータjの値を1増加させる。これは位相シフト法で干渉縞の位相分布を求めることを意味している。そして、パラメータjが整数Jになるまで、ステップ106の干渉縞35Aの光強度分布の測定が繰り返される。ステップ108でパラメータjが整数Jに達したときに、動作はステップ112に移行し、信号処理装置32が、それまでに得られたJ個の干渉縞35Aの光強度分布の情報から撮像素子30の各画素毎の干渉縞の位相(位相分布)α1(X,Y)を計算する。
【0023】
次のステップ114において、制御装置34は、パラメータiが所定の整数I(参照光LA〜LCの個数でここではI=3)に達したかどうかを判定する。ここでは、パラメータiは整数Iより小さいため、動作はステップ116に移行し、制御装置34は、パラメータiの値を1だけ増加させ、パラメータjを1に設定する。その後、動作はステップ106に戻り、今度は図1(A)のシャッター24Bのみを開いて、撮像素子30上で測定光LMと2番目の参照光LBとの干渉縞35Bの光強度分布を測定する。図2(B)に示すように、干渉縞35Bは、中央の部分領域3SBで密度が粗くなり、両端の部分領域3SA,3SCでは密度が高くなる。この場合にも、ステップ110で駆動素子22を介して参照光LBの位相を2π/Jだけ変化させながら、J回だけ干渉縞の光強度分布が測定され、その後のステップ112で、干渉縞35Bの各画素毎の位相α2(X,Y)が計算される。
【0024】
同様にして、次に図1(A)のシャッター24Cのみを開いてステップ106〜112の動作が繰り返されて、測定光LMと参照光LCとの干渉縞の各画素毎の位相α3(X,Y)が計算される。そして、ステップ114でパラメータiが整数Iに達したときに、動作はステップ118に移行し、信号処理装置32では、図2(B)の矩形の領域3S(被検領域に対応する領域)を上述のように+X方向に例えばほぼ同じ幅の3個の部分領域3SA,3SB,3SCに分割し、部分領域3SA〜3SC毎に対応する参照光LA〜LCを用いたときの位相分布より、被検面2Sの面形状を求める。なお、このように領域3Sを分割する方法については後述する。また、ステップ112では、予め参照光LA〜LC毎に対応する部分領域3SA〜3SCの位相分布を計算しておいてもよい。
【0025】
次のステップ120において、信号処理装置32では、3つの部分領域3SA〜3SC毎に求めた面形状が境界部で接続されるように、例えば部分領域3SB及び3SCの面形状のオフセット(例えば位相分布段階でのオフセット成分)を補正する。これによって、領域3Sに対応する被検面2S上の領域での面形状が求められる。
次のステップ122において、制御装置34は、被検面2S上で他の被検領域が残っているかどうかを判定する。そして、他の被検領域が残っている場合には、ステップ102に戻り、駆動装置6等を介して絞り26の開口内に他の被検領域を移動した後、ステップ104〜120までの動作を繰り返して、当該被検領域の面形状を求める。
【0026】
ステップ122で他の被検領域がない場合には、ステップ124に移行し、信号処理装置32は、被検面2S上の複数の被検領域に関して求めた面形状が境界部で接続されるように、各面形状のX方向、Y方向の位置、及び傾斜角等のオフセットを補正する。その後、複数の面形状を接続(合成)することで、被検面2Sの所定範囲内の非球面の面形状が求められる。
【0027】
次に、図3は、被検面2Sとしての非球面の面形状測定において、撮像素子30上に形成される干渉縞の密度の一例を示す。なお、図3の干渉縞の密度は、例えば測定光LMの波面が参照光LA〜LCの波面より進んでいる場合の干渉縞の密度の符号を正としている。被検面2S(非球面)の全体形状は、例えば直径280mm、非球面量100μmであり、非球面軸8から100mm離れた位置を中心とする40mm×40mmの正方形領域の面形状を測定する場合を想定している。その正方形領域のX方向、Y方向のローカル座標(被検面2S上での座標)を(X’、Y’)として、−20mm≦X’≦20mm、−20mm≦Y’≦20mmとする。この場合、図3は、X’=−20mmの直線に対応する撮像素子30の受光面上の線分36A上(図2(B)、図2(C)参照)での干渉縞密度をプロットしたものである。
【0028】
図3において、曲線C1は、図2(B)の測定光LMと参照光LBとの干渉縞の密度であり、曲線C2は、図2(C)の測定光LMと端部の参照光LAとの干渉縞の密度である。曲線C1,C2から、中央からX方向に離れた位置では、測定光LMと端部の参照光LAとの干渉縞の密度の方が0に近い(より粗である)ため、測定光LMと参照光LAとの干渉縞を用いることによって、干渉縞の密度が粗くなり、位相の測定精度、ひいては面形状の測定精度が向上することが分かる。このために、上記のステップ118では、撮像素子30上の領域3SをX方向に3分割し、分割後の各部分領域3SA〜3SCで測定光LMと参照光LA〜LCとの干渉縞を用いることで、部分領域3SA〜3SCで測定される干渉縞の密度を粗くしている。
【0029】
このように、参照光LA〜LCの点光源部PA〜PCを適切に選ぶことにより、得られる干渉縞密度を低減できることが分かる。
また、上記の測定光と各参照光との干渉縞の解析結果には、被検面が非球面形状であるために発生する偏り形状、入射球面波が傾いていることによる偏り形状、参照光の点光源部PA〜PCの位置に依存した偏り形状が重畳する。予め、設計非球面形状、入射角度、参照光点光源の配列をもとに補正量を算出しておき、データの補正を施すことが好ましい。さらに、各位相分布データにはオフセット成分の不定性があるので、重複領域が整合するようにデータの合成を実施することが好ましい。
【0030】
本実施形態によれば、面形状を高分解能で測定可能であるため、干渉縞の空間周波数帯域を増加することができる。
また、本実施形態では、被検面の部分領域を多数の画素数をもった撮像素子30で測定できるので、被検面の形状誤差の高周波成分を測定できるという利点もある。
本実施形態の作用効果等は以下の通りである。
【0031】
(1)本実施形態の干渉計10は、光ファイバー18Mを含む測定光照射系(測定光発生部)から射出して被検面2Sを介した測定光LMと参照光とを干渉させて得られる干渉縞に基づいて被検面2Sの面形状を測定する干渉計において、3箇所の位置QA〜QCで参照光LA〜LCを射出する光ファイバー18A〜18Cを含む参照光照射系(参照光発生部)を備えている。
【0032】
また、干渉計10による面形状の測定方法は、その測定光照射系から射出して被検面2Sを介した測定光LMと参照光とを干渉させて得られる干渉縞に基づいて被検面2Sの面形状を測定する面形状測定方法において、3箇所の位置QA〜QCで参照光LA〜LCを順次射出して、それぞれその干渉縞35A,35B等を検出するステップ106と、複数の干渉縞から選択された干渉縞(例えば図2(B)の部分領域3SAでは測定光LMと参照光LAとの干渉縞35A、中央の部分領域3SBでは測定光LMと参照光LBとの干渉縞35Bなど)から被検面2Sの面形状を求めるステップ118とを含んでいる。
【0033】
本実施形態によれば、3つの位置QA〜QCで参照光LA〜LCを順次射出してそれぞれ被検面2Sからの測定光LMと干渉させることにより、3つの干渉縞が得られる。これらの干渉縞のうち例えば密度がより粗い干渉縞を用いることによって、被検面2Sが非球面であってもその面形状を高精度に測定できる。
なお、本実施形態では、3箇所の位置QA〜QCで順次参照光LA〜LCを射出しているが、例えば2箇所の位置又は4箇所以上の位置で順次参照光を照射して、それぞれ測定光との干渉縞を検出してもよい。参照光を射出する位置の個数が多いほど、より非球面度の高い非球面の面形状を高精度に検出できる。
【0034】
(2)また、干渉計10では、複数の位置QA〜QCにそれぞれ光ファイバー18A〜18Cの射出端の中心である点光源部PA〜PC(参照光射出口)を配置している。また、シャッター24A〜24C(発光制御装置)によって、点光源部PA〜PCを順次切り替えて参照光LA〜LCを射出している。従って、参照光LA〜LCが複数個あっても、撮像素子30上では測定光LMと1つの参照光との干渉縞のみが形成されるため、その位相分布を正確に求めることができる。
【0035】
また、上記の実施形態では、予め撮像素子30上の領域3Sを部分領域3SA〜3SCに分割し、各部分領域3SA〜3SC毎に密度が粗くなると予測される干渉縞の光強度分布を検出している。
これに対して、撮像素子30によって各干渉縞毎に測定される縞密度(例えば明るい部分の密度)の分布を求め、信号処理装置32では、複数の干渉縞のうち、所定の密度よりも粗い(又は最も密度が粗い)干渉縞密度が得られる領域の干渉縞を選択し、選択された干渉縞の位相分布を合成してもよい。これによって、被検面2Sの面形状によって、得られる干渉縞の密度が複雑に変化する場合でも、その面形状をより高精度に測定できる。
【0036】
(3)また、本実施形態では、測定光LMの集光領域36(集光点におけるスポット形状)の長手方向と概ね平行な直線上に、参照光LA〜LCが射出される複数の位置QA〜QCが配置されている。これによって、容易に測定光LMと参照光LA〜LCとの複数の干渉縞のうちいずれかの干渉縞の密度が粗くなる。
なお、参照光LA〜LCが配置される複数の位置QA〜QCは、必ずしも集光領域36の長手方向と平行な直線上に配置しなくともよい。即ち、位置QA〜QCは、例えば参照光LA〜LCと測定光LMとの干渉縞の密度がそれぞれできるだけ粗くなるように設定してもよい。
【0037】
なお、上記の実施形態では点光源部PA〜PCとして光ファイバー18A〜18Cの射出端を用いたが、図5に示すように、レンズ16A〜16Cのアレイとピンホール板42に形成されたピンホール42a〜42cのアレイとを組み合わせて、点光源部PA〜PCと同等の参照光LA〜LCの発生部を形成してもよい。
図5において、レーザ光源12から射出されビームスプリッタ14Aで分岐された参照光は、ミラー14E、ビームスプリッタ14F,14C、及びミラー14Dによって3つの参照光LA〜LCに分岐され、参照光LA〜LCはレンズ16A〜16Cによってピンホール42a〜42c(参照光射出口)上に集光される。従って、ピンホール42a〜42cを図1(B)の位置QA〜QCに対応する位置に配置することによって、光ファイバーを用いることなく、参照光LA〜LCを実質的に点光源から球面波として射出できる。
【0038】
[第2の実施形態]
次に本発明の第2の実施形態につき図6(A)及び図6(B)を参照して説明する。図6(A)及び図6(B)において図1(A)及び図1(B)に対応する部分には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。図6(A)はこの実施形態の干渉計10Aの概略構成図、図6(B)は図6(A)の一部をVIB方向から見た図である。
【0039】
図6(A)の干渉計10Aは、参照光照射系としては、参照光LAのみを発生する光ファイバー18A等の部材を備え、光ファイバー18Aの射出端を保持装置38で固定し、保持装置38を駆動装置40(位置切り替え機構)でX方向に移動可能である。この場合、駆動装置40によって、光ファイバー18Aの射出端の中心である点光源部PAを、図6(B)に示すように、測定光LMの集光領域36の長手方向に沿って配列される3箇所の位置QA〜QCに順次移動し、それぞれ参照光LAと測定光LMとの干渉縞を撮像素子30で検出することによって、第1の実施形態と同様に被検面2Sの非球面形状を高精度に測定できる。
【0040】
この実施形態によれば、参照光LAを射出する点光源部PAを種々の配置で、かつ多くの位置に容易に移動できるため、様々な被検面2Sの面形状をそれぞれ高精度に測定できる。
なお、上記の第1及び第2の実施形態では次のような変形が可能である。
(1)上記の実施形態では、被検面2Sは非球面であるが、干渉計10,10Aは被検面の球面精度を測定する場合にも適用可能である。
【0041】
さらに、上記の実施形態の干渉計10,10Aは、レンズ等の屈折部材の表面の面形状を測定する場合にも適用可能である。
(2)上記の実施形態では干渉縞解析に位相シフト法を用いているが、干渉縞にはキャリア縞が重畳するので、周知のフーリエ変換縞解析法を用いることも可能である。この場合、光学部材20A,20B及び駆動素子22を含む位相シフト機構は不要になり、振動などの外乱に強いなどの利点がある。
また、フーリエ変換縞解析法を用いる場合、例えば図1(A)及び図1(B)に示す例では、参照光LA〜LCの点光源部PA〜PCが配置される位置QA〜QCと集光領域36とのY方向の間隔を互いに異ならせて、参照光LA〜LCと測定光LMとによって形成される3つの干渉縞のキャリア縞のピッチを異ならせてもよい。このように3つの干渉縞のキャリア縞のピッチが異なる場合には、3つの干渉縞を同時に撮像素子30の受光面に形成した状態で、その3つの干渉縞毎の位相分布を解析できる可能性がある。
【0042】
(3)上記の実施形態では、結像レンズ28を備えた光学系を用いているが、例えば参考文献「Gary E. Sommargren, et al.: Proceedings of SPIE Vol. 4688, pp.316-328 (2002)」に開示されているような結像レンズを用いない点回折干渉計に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0043】
2…被検ミラー、2S…被検面、10,10A…干渉計、18M…測定光発生用の光ファイバー,18A〜18C…参照光発生用の光ファイバー、22…駆動素子、26…絞り、28…結像レンズ、30…2次元の撮像素子、32…信号処理装置、42…ピンポール板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光発生部から射出して被検面を介した測定光と参照光とを干渉させて得られる干渉縞に基づいて前記被検面の面形状を測定する干渉計において、
複数の位置で前記参照光を射出する参照光発生部を備えることを特徴とする干渉計。
【請求項2】
前記参照光発生部は前記複数の位置にそれぞれ配置される複数の参照光射出口を有することを特徴とする請求項1に記載の干渉計。
【請求項3】
前記複数の位置にある前記複数の参照光射出口を順次切り替えて前記参照光を射出させる発光制御装置と、
前記参照光を順次切り替えて射出させて得られる複数の前記干渉縞のうち、所定の干渉縞密度が得られる領域の干渉縞を選択して合成する処理装置と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の干渉計。
【請求項4】
前記参照光発生部の参照光射出口を前記複数の位置に順次配置する位置切り替え機構と、
前記複数の位置に配置される前記参照光射出口から順次射出される前記参照光によって得られる複数の前記干渉縞のうち、所定の干渉縞密度が得られる領域の干渉縞を選択して合成する処理装置と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の干渉計。
【請求項5】
前記被検面の測定対象領域を制限するために、前記被検面に近接して配置される絞り部材を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の干渉計。
【請求項6】
前記被検面は非球面であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の干渉計。
【請求項7】
前記被検面を通過した前記測定光の集光点におけるスポット形状の長手方向と概ね平行な直線上に、前記参照光が射出される前記複数の位置が配置されることを特徴とする請求項6に記載の干渉計。
【請求項8】
前記被検面上の前記測定光が照射される照明領域を切り替える照明領域切り替え機構を備え、
前記照明領域を切り替えて得られる複数の前記被検面の面形状を合成することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の干渉計。
【請求項9】
測定光発生部から射出して被検面を介した測定光と参照光とを干渉させて得られる干渉縞に基づいて前記被検面の面形状を測定する面形状測定方法において、
複数の位置で前記参照光を順次射出して、それぞれ前記干渉縞を検出する工程と、
複数の前記干渉縞から選択された干渉縞から前記被検面の面形状を求める工程と、
を含むことを特徴とする面形状測定方法。
【請求項10】
前記被検面は非球面であり、
前記被検面を通過した前記測定光の集光点におけるスポット形状の長手方向と概ね平行な直線上に、前記参照光が射出される前記複数の位置を配置することを特徴とする請求項9に記載の面形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21921(P2011−21921A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165311(P2009−165311)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】