説明

平坦化物の製造方法、平坦化物、被処理面の平坦化方法

【課題】より高い平坦性を有する平坦化物が得られる平坦化物の製造方法、平坦化物、及び被処理面の平坦化方法を提供する。
【解決手段】少なくとも基材1を有する平坦化物の製造方法であって、近接場光4a,4b,4cを用いて被処理面をエッチングする近接場エッチング処理工程を有する平坦化物の製造方法とする。また、平坦化物は、この平坦化物の製造方法で製造される。さらに、被処理面の平坦化方法は、近接場光を用いて被処理面をエッチングすることにより、この被処理面2の最大突起5a,5b,5c長(Rmax)を10nm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平坦化物の製造方法、この製造方法で得られる平坦化物、及び被処理面の平坦化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の包装材料として用いられるガスバリア性シートにおいては、内容物の品質を劣化させる要因である酸素・水蒸気の影響を防ぐために、樹脂フィルム基材上にガスバリア層が形成されている。しかしながら、樹脂フィルム基材表面の凹凸により、ガスバリア層が樹脂フィルム基材の表面を十分に被覆することができない場合があり、十分なガスバリア特性を得ることが容易ではないという問題がある。
【0003】
また、ディスプレイ用フィルム基板等、昨今ガラス基板にかわる電子デバイス用基板にも、素子の劣化を防ぐための酸素・水蒸気に対するガスバリア性が必要であるので、上記ガスバリア性シートの採用が試みられているが、樹脂フィルム基材表面の凹凸ひいてはガスバリア性シートの表面の凹凸により、十分な特性を有するものが得られていないのが現状である。さらに、有機ELディスプレイ素子等の用途に用いられるガスバリア性シートにおいては、ガスバリア性シートの表面に設けられた透明導電層(電極)の凹凸(突起)により、電流が短絡するという問題もある。
【0004】
以上から、樹脂フィルム基材の凹凸、ひいてはガスバリア性シート表面の凹凸を低減して、平坦な樹脂フィルム基材、ガスバリア性シートを得ることが重要な課題となっている。
【0005】
こうした課題につき、特許文献1には、被加工物を、反応ガスを含む雰囲気中に配置し、被加工物に電気エネルギーまたは光エネルギーを加え、プラズマを発生させ、被加工物を構成する原子または分子を揮発性物質に変えて、被加工物の少なくとも片面を平滑化処理するもので、被加工物が基材自体、基材上にガスバリア層を積層したもの、基材上にガスバリア層、透明導電層を積層したものの中の少なくとも一つである平滑化処理方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、チャンバー内に被加工物を配置し、チャンバー内に加圧状態のガスを噴出させて、断熱膨張によりガスクラスターを形成し、形成されたガスクラスターが電子を照射され、ガスクラスターイオンとなり、被加工物にこのガスクラスターイオンを照射して、被加工物の少なくとも片面を平滑化処理するもので、被加工物が基材自体、基材上にガスバリア層を積層したもの、基材上にガスバリア層、透明導電層を積層したものの中の少なくとも一つである平滑化処理方法が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−50711号公報(請求項1、第0030段落、第0033段落、第0038段落)
【特許文献2】特開2004−58415号公報(請求項1、第0030段落、第0033段落、第0038段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2で採用される平滑化処理方法は、基材の表面等を大きく平坦化できる方法として非常に有用なものではある。しかしながら、ガスバリア性シートには、より高いガスバリア性、短絡を防止するためのより高い平坦性が求められるようになっており、さらなる平坦化を実現する新しい平坦化物の製造方法、被処理面の平坦化方法が求められている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、より高い平坦性を有する平坦化物が得られる平坦化物の製造方法を提供することを目的とする。より具体的には、平坦化物表面の凹凸が低減され、また電流短絡を引き起こす起因となる大きな突起がない平坦化物の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、より高い平坦性を有する平坦化物の製造方法で製造された平坦化物を提供することを目的とする。より具体的には、平坦化物表面の凹凸が低減され、また電流短絡を引き起こす起因となる大きな突起がない平坦化物を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、より高い平坦性を有する被処理面が得られる被処理面の平坦化方法を提供することを目的とする。より具体的には、被処理面の凹凸が低減され、また電流短絡を引き起こす起因となる大きな突起がない被処理面が得られる被処理面の平坦化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が鋭意検討した結果、近接場光を用いて被処理面をエッチングする手法を利用することにより、被処理面をナノレベルで平坦化できることがわかった。より具体的には、近接場光を用いることにより、被処理面に存在する微小突起を選択的にエッチング除去できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の平坦化物の製造方法は、少なくとも基材を有する平坦化物の製造方法であって、近接場光を用いて被処理面をエッチングする近接場エッチング処理工程を有することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、少なくとも基材を有する平坦化物の製造方法であって、近接場光を用いて被処理面をエッチングする近接場エッチング処理工程を有するので、被処理面をナノレベルで平坦化することができるようになり、その結果、より高い平坦性を有する平坦化物が得られる平坦化物の製造方法を提供することができる。
【0015】
本発明の平坦化物の製造方法においては、前記近接場エッチング処理工程の前に、前記被処理面を事前に平坦化処理する前処理工程を設けることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、近接場エッチング処理工程の前に、被処理面を事前に平坦化処理する前処理工程を設けるので、近接場エッチング処理工程の前の段階であらかじめ平坦性が高い被処理面を得ることができ、微小突起を選択的にエッチングする近接場エッチングの利点をより発揮しやすくなり、その結果、より高い平坦性を有する被処理面を得やすくなる。
【0017】
本発明の平坦化物の製造方法においては、前記基材の表面を前記被処理面とすることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、基材の表面を被処理面とするので、平坦化物表面の表面粗さに影響を与える一因となる基材表面の凹凸を除去してその表面の平坦性を高くすることができるようになり、その結果、平坦化物の平坦性をより高くしやすくなる。
【0019】
本発明の平坦化物の製造方法においては、前記近接場エッチング処理工程の前に、前記基材の上に第1セラミック層を形成する第1セラミック層形成工程を設け、前記第1セラミック層の表面を前記被処理面とすることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、近接場エッチング処理工程の前に、基材の上に第1セラミック層を形成する第1セラミック層形成工程を設け、この第1セラミック層の表面を被処理面とするので、平坦化物表面の表面粗さに影響を与える一因となる第1セラミック層表面の凹凸を除去してその表面の平坦性を高くすることができるようになり、その結果、平坦化物の平坦性をより高くしやすくなる。
【0021】
本発明の平坦化物の製造方法においては、前記近接場エッチング処理工程の後に、第2セラミック層を形成する第2セラミック層形成工程を設けることが好ましい。
【0022】
この発明によれば、近接場エッチング処理工程の後に、第2セラミック層を形成する第2セラミック層形成工程を設けるので、平坦化された第1セラミック層の上に第2セラミック層をさらに形成することになり、その結果、表面突起のより少ない平坦化物が得やすくなる。
【0023】
本発明の平坦化物の製造方法においては、前記近接場エッチング処理工程の前に、前記基材の上に透明導電層を形成する透明導電層形成工程を設け、前記透明導電層の表面を前記被処理面とすることが好ましい。
【0024】
この発明によれば、近接場エッチング処理工程の前に、基材の上に透明導電層を形成する透明導電層形成工程を設け、透明導電層の表面を被処理面とするので、透明導電層表面を平坦化することができるようになり、その結果、平坦化物を、例えば有機ELディスプレイ素子のような微小突起の影響を受けやすい電子デバイス・ディスプレーに適用できるようになる。
【0025】
本発明の平坦化物の製造方法においては、塩素が存在する雰囲気下に前記被処理面を保持し、該被処理面に存在する突起近傍で発光する近接場光によって塩素ラジカルを発生させ、該塩素ラジカルを前記突起と反応させて前記突起を除去することにより、前記近接場エッチング処理工程が行われることが好ましい。
【0026】
この発明によれば、塩素が存在する雰囲気下に被処理面を保持し、この被処理面に存在する突起近傍で発光する近接場光によって塩素ラジカルを発生させ、この塩素ラジカルを上記突起と反応させて突起を除去することにより、近接場エッチング処理工程が行われるので、被処理面に存在する微小突起を選択的にエッチング除去しやすくなり、その結果、平坦化物の平坦性をより高くしやすくなる。
【0027】
本発明の平坦化物の製造方法においては、前記平坦化物の表面の最大突起長(Rmax)が10nm以下であることが好ましい。
【0028】
この発明によれば、平坦化物の表面の最大突起長(Rmax)が10nm以下であるので、被処理面をナノレベルで平坦化することとなり、その結果、平坦化物の平坦性をより高くしやすくなる。
【0029】
本発明の平坦化物の製造方法においては、前記基材が樹脂フィルム又はガラス板であることが好ましい。
【0030】
この発明によれば、基材が樹脂フィルム又はガラス板であるので、平坦化物としてフィルム状のもの、又はガラス平板状のものを得ることができるようになり、その結果、ガスバリア性シートやガラス基材を用いた透明電極を提供できるようになる。
【0031】
上記課題を解決するための本発明の平坦化物は、本発明の平坦化物の製造方法で製造されることを特徴とする。
【0032】
この発明によれば、平坦化物が本発明の平坦化物の製造方法で製造されるので、被処理面をナノレベルで平坦化することができるようになり、その結果、より高い平坦性を有する平坦化物の製造方法で製造された平坦化物を提供することができる。
【0033】
本発明の平坦化物においては、前記平坦化物がガスバリア性シートであることが好ましい。
【0034】
この発明によれば、平坦化物がガスバリア性シートであるので、より高い平坦性が求められる分野に本発明の平坦化物を適用することになり、その結果、本発明を用いる意義が大きくなる。
【0035】
上記課題を解決するための本発明の被処理面の平坦化方法は、近接場光を用いて被処理面をエッチングすることにより、該被処理面の最大突起長(Rmax)を10nm以下とすることを特徴とする。
【0036】
この発明によれば、近接場光を用いて被処理面をエッチングすることにより、この被処理面の最大突起長(Rmax)を10nm以下とするので、被処理面をナノレベルで平坦化することとなり、その結果、より高い平坦性を有する被処理面が得られる被処理面の平坦化方法を提供することができる。
【0037】
本発明の被処理面の平坦化方法においては、塩素が存在する雰囲気下に前記被処理面を保持し、該被処理面に存在する突起近傍で発光する近接場光によって塩素ラジカルを発生させ、該塩素ラジカルを前記突起と反応させて前記突起を除去することにより前記エッチングが行われることが好ましい。
【0038】
この発明によれば、塩素が存在する雰囲気下に被処理面を保持し、この被処理面に存在する突起近傍で発光する近接場光によって塩素ラジカルを発生させ、この塩素ラジカルを上記突起と反応させて突起を除去することによりエッチングが行われるので、被処理面に存在する微小突起を選択的にエッチング除去しやすくなり、その結果、被処理面の平坦性をより高くしやすくなる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の平坦化物の製造方法によれば、より高い平坦性を有する平坦化物が得られる平坦化物の製造方法を提供することができる。より具体的には、平坦化物表面の凹凸が低減され、また電流短絡を引き起こす起因となる大きな突起がない平坦化物が得られる平坦化物の製造方法を提供することができる。
【0040】
本発明の平坦化物によれば、より高い平坦性を有する平坦化物の製造方法で製造された平坦化物を提供することができる。より具体的には、平坦化物表面の凹凸が低減され、また電流短絡を引き起こす起因となる大きな突起がない平坦化物を提供することができる。
【0041】
本発明の被処理面の平坦化方法によれば、より高い平坦性を有する被処理面が得られる被処理面の平坦化方法を提供することができる。より具体的には、被処理面の凹凸が低減され、また電流短絡を引き起こす起因となる大きな突起がない被処理面が得られる被処理面の平坦化方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0043】
[平坦化物の製造方法]
本発明の平坦化物の製造方法は、少なくとも基材を有する平坦化物の製造方法であって、近接場光を用いて被処理面をエッチングする近接場エッチング処理工程を有する。これにより、被処理面をナノレベルで平坦化することができるようになり、その結果、より高い平坦性を有する平坦化物が得られる平坦化物の製造方法を提供することができる。
【0044】
(近接場エッチング処理工程)
近接場エッチング処理工程では近接場光を用いて被処理面がエッチングされる。すなわち、通常、微小な突起が存在する被処理面に光を照射すると、突起の先端に近接場光が発生するので、これを利用してこれら突起のエッチングを行うのである。こうしたエッチング方法は、特に制限はされないが、塩素が存在する雰囲気下に被処理面を保持し、この被処理面に存在する突起近傍で発光する近接場光によって塩素ラジカルを発生させ、この塩素ラジカルを突起と反応させて突起を除去する方法によって行われることが好ましい。これにより、被処理面に存在する微小突起を選択的にエッチング除去しやすくなり、その結果、平坦化物の平坦性をより高くしやすくなる。
【0045】
図1は、近接場エッチング処理工程の一例を示す模式的概念図(断面図)である。図1に示すように、平坦化物の製造過程における中間品1を、不活性な塩素分子(光吸収端波長400nm)を所定の圧力(例えば100Pa)で封入した雰囲気中に保持する。そして、中間品1の表面を被処理面2として、532nmのレーザー光3(Nd:YAGレーザー光、2W)を照射する。これにより、被処理面2の突起近傍5a,5b,5cの部分で近接場光4a,4b,4cが発光し、非断熱過程によって塩素分子を分解(塩素ラジカルが発生)して、この塩素ラジカルが突起5a,5b,5cと反応することで、突起5a,5b,5cのエッチングが行われる。そして、エッチングによって平坦化が進み、突起5a,5b,5cが除去されると、近接場光が発生しなくなるので、エッチング反応が自動的に停止することになる。
【0046】
なお、図1では、近接場エッチング処理工程での塩素が存在する雰囲気として不活性な塩素分子を所定の圧力で封入しているが、エッチング処理特性に応じて封入する圧力を適宜調整してもよい。また、照射する光としては、532nmのレーザー光3(Nd:YAGレーザー光、2W)に限られず、光発振器として、例えば、GaAs等の半導体レーザー、ArF等のガスレーザー等の各種レーザーを用いることもできる。また、レーザー光の強度も適宜調整すればよい。
【0047】
(前処理工程)
近接場エッチング処理工程の前に、被処理面を事前に平坦化処理する前処理工程を設けることが好ましい。これにより、近接場エッチング処理工程の前の段階であらかじめ平坦性が高い被処理面を得ることができ、微小突起を選択的にエッチングする近接場エッチングの利点をより発揮しやすくなり、その結果、より高い平坦性を有する被処理面を得やすくなる。
【0048】
すなわち、近接場エッチング処理工程は、上述のとおり、一般には、近接場光を用いて被処理面上に存在する微小な突起をエッチングするものである。このため、近接場エッチング処理工程での作用効果をより発揮する観点から、同工程が施される前にあらかじめ被処理面を前処理して、被処理面を微小な突起が存在する程度まで平坦化をしておくことが好ましい。こうした前処理工程は、特に制限はなく、従来公知の表面処理手法を適宜用いることができる。ただ、被処理面を相対的に平坦化し、被処理面の表面粗さに寄与する主要因が表面上の微小な突起となるようにするという観点からは、湿式エッチング、CMP(Chemical Mechanical Polishing)により被処理面を研磨することが好ましい。また、通常のCMP法で用いられる研磨テープよりも細かい研磨テープが用い、よりソフトな研磨を行うことによりナノレベルの表面処理を行ってもよい。このように、前処理工程の際の手法・条件は、被処理面の材質、堅さ、粗さ等の諸条件を考慮して、最適なものを適宜選択すればよい。
【0049】
(近接場エッチング処理工程を行うタイミング)
本発明の平坦化物の製造方法において、近接場エッチング処理工程が施されるタイミングは、特に制限されず、平坦化物の層構成に応じて適宜被処理面を選択すればよい。そこで、以下では、近接場エッチング処理工程を行う好ましいタイミングについてそのいくつかを説明する。具体的には、基板を被処理面とする例、第1セラミック層を被処理面とする例、及び透明導電層を被処理面とする例について説明する。
【0050】
(イ)基板を被処理面とする例
本発明の平坦化物の製造方法においては、基材の表面を被処理面とすることが好ましい。すなわち、平坦化物に用いる基材の表面に対して近接場エッチング処理工程を施すことが好ましい。これにより、平坦化物表面の表面粗さに影響を与える一因となる基材表面の凹凸を除去してその表面の平坦性を高くすることができるようになり、その結果、平坦化物の平坦性をより高くしやすくなる。
【0051】
基材としては、特に制限はないが、樹脂フィルム又はガラス板であることが好ましい。これにより、平坦化物としてフィルム状のもの、又はガラス平板状のものを得ることができるようになり、その結果、ガスバリア性シートやガラス基材を用いた透明電極を提供できるようになる。但し、被処理面の平坦性を向上させるという近接場エッチング処理工程の意義からは、基材の表面が一定程度の表面粗さを有することが好ましいので、基材として、平坦性の高いガラス板よりも、樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0052】
基材に用いる樹脂フィルムとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリシルセスキオキサン、ポリノルボルネン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等のフレキシブル基板を用いることができる。基材として用いる樹脂フィルムは、好ましくは100℃以上、特に好ましくは150℃以上の耐熱性を有するものが適当である。また、樹脂フィルムは、積層体として用いてもよい。
【0053】
基材の厚さについても特に制限はないが、可とう性及び形態保持性の観点から、通常6μm以上、好ましくは12μm以上、また、通常400μm以下、好ましくは250μm以下の範囲とする。
【0054】
基材は、基材準備工程において製造される。基材として樹脂フィルムを用いる場合には、その製造方法も従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。また、基材に延伸フィルムを用いてもよい。延伸の方法も従来公知の一般的な方法を用いればよい。延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍とすることが好ましい。また、基材としてガラス板を用いる場合にも、その製造方法は従来公知の一般的な方法により製造することができる。
【0055】
基材準備工程において製造された基材は、近接場エッチング処理工程、又は前処理工程及び近接場エッチング処理工程を施され、その表面が平坦化される。そして、基材の表面を平坦化することにより、製造される平坦化物の表面の粗さも抑えることができるようになる。上述のとおり、樹脂フィルムを用いた基材は、その表面が一定程度の粗さを有するので、近接場エッチング処理工程、又は前処理工程及び近接場エッチング処理工程を行う意義が大きい。
【0056】
基材の表面を被処理面とする場合における、本発明の平坦化物の製造方法の具体的な工程例につき、以下その数例を紹介する。平坦化物を基材のみで構成する場合には、基材準備工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)、を行うことになる。また、平坦化物を基材/第1セラミック層で構成する場合には、基材準備工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)→第1セラミック層形成工程、を行うことになる。さらに、平坦化物を基材/第1セラミック層/第2セラミック層で構成する場合には、基材準備工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)→第1セラミック層形成工程→第2セラミック層形成工程、を行うことになる。そして、平坦化物を基材/第1セラミック層/第2セラミック層/透明導電層で構成する場合には、基材準備工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)→第1セラミック層形成工程→第2セラミック層形成工程→透明導電層形成工程、を行うことになる。なお、第1セラミック層形成工程、第2セラミック層形成工程、及び透明導電層形成工程についての詳細は後述する。また、基材と第1セラミック層との間、第1セラミック層と第2セラミック層との間、第2セラミック層と透明導電層との間に、他の層を挿入する場合には、所定の工程(所定の層の形成工程)を所定のタイミングで行えばよい。
【0057】
(ロ)第1セラミック層を被処理面とする例
本発明の平坦化物の製造方法においては、近接場エッチング処理工程の前に、基材の上に第1セラミック層を形成する第1セラミック層形成工程を設け、この第1セラミック層の表面を被処理面とすることが好ましい。すなわち、基材上に直接又は他の層を介して第1セラミック層を設け、この第1セラミック層の表面に対して近接場エッチング処理工程を施すことが好ましい。これにより、平坦化物表面の表面粗さに影響を与える一因となる第1セラミック層表面の凹凸を除去してその表面の平坦性を高くすることができるようになり、その結果、平坦化物の平坦性をより高くしやすくなる。
【0058】
第1セラミック層形成工程は、セラミック材料(無機材料)で第1セラミック層を形成するものであればよく特に制限はない。好ましいのは、第1セラミック層を、ガスバリア性を有する無機材料で形成することである。すなわち、第1セラミック層をガスバリア層とすることが好ましい。この場合、セラミック材料(無機材料)としては、例えば酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ホウ素、酸化ハフニウム、酸化バリウム、酸化錫、酸化亜鉛等の酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化マグネシウム等の窒化物;炭化珪素等の炭化物、硫化物等を挙げることができる。また、それらから選ばれた二種以上の複合体を用いてもよい。こうした複合体としては、例えば、2種以上の酸化物を用いる複合酸化物、2種以上の酸化物及び窒化物を用いる複合金属酸窒化物、酸素と窒素を含有する無機酸化窒化物、さらに炭素を含有してなる無機酸化炭化物、無機窒化炭化物、無機酸化窒化炭化物等を挙げることができる。より具体的には、無機酸化物(MO)、無機窒化物(MN)、無機炭化物(MC)、無機酸化炭化物(MO)、無機窒化炭化物(MN)、無機酸化窒化物(MO)、無機酸化窒化炭化物(MO)で、好ましいMは、Si、Al、Ti等の金属元素である。なかでも、MをSiとし、酸化珪素からなる膜は、透明性が高くかつガスバリア性も良好となり、一方、窒化珪素はさらに高いガスバリア性を発揮するので好ましく用いられる。特に好ましくは、酸化珪素と窒化珪素の複合体(無機酸化窒化物(SiO))である。酸化珪素の含有量が多いと透明性が向上し、窒化珪素の含有量が多いとガスバリア性が向上する。その他、2種以上の酸化物を用いる複合酸化物として、例えば、MaMbO、MaMbMcO等を挙げることができる。さらに、2種以上の酸化物及び窒化物を用いる複合金属酸窒化物として、例えば、MaMbOや、MaMbMcO等を挙げることができる。ここで、Ma、Mb、及びMcは異なる金属元素を表し、それぞれ、例えば、Sn、Zn、Si、Al、Ti等を挙げることができる。また、第1セラミック層には、上述の材料の他所定の添加剤や不純物が所定量含有されていてもよい。
【0059】
第1セラミック層形成工程における第1セラミック層の形成方法は、特に制限はないが、セラミック材料(無機材料)を用いるという観点から、真空成膜法とすることが好ましい。具体的には、第1セラミック層は、真空蒸着法、スパッタリング法(例えば、RFスパッタリング法、DCスパッタリング法)、イオンプレーティング法、熱CVD法、及びプラズマCVD法等の方法を適用して形成される。これらの方法は、基材や第1セラミック層の種類、成膜材料の種類、成膜のし易さ、工程効率等を考慮して、適宜選択する。
【0060】
第1セラミック層形成工程において形成される第1セラミック層(ガスバリア層)の厚さは、通常10nm以上、500nm以下とする。この範囲とすれば、ガスバリア性、フレキシビリティを確保しつつ、色味の調整もしやすくなり、生産性も確保しやすい。なお、第1セラミック層を被処理面として、近接場エッチング処理工程、又は前処理工程及び近接場エッチング処理工程を施す場合には、研磨による第1セラミック層の厚さの減少を考慮し、第1セラミック層形成工程において、上記減少分を予測して、厚さを所望の厚さよりも多少厚く形成することが好ましい。
【0061】
第1セラミック層形成工程により、基材の上に第1セラミック層が形成されるが、第1セラミック層は、直接基材上に形成されてもよいし、基材と第1セラミック層との間に、接着性を確保するためのアンカー層や平坦性を確保するための平坦化層等の1以上の他の層を挿入し、これら各層の上に第1セラミック層を形成してもよい。
【0062】
第1セラミック層形成工程において製造された第1セラミック層は、近接場エッチング処理工程、又は前処理工程及び近接場エッチング処理工程を施され、その表面が平坦化される。そして、第1セラミック層の表面を平坦化することにより、製造される平坦化物の表面の粗さも抑えることができるようになる。
【0063】
第1セラミック層形成工程、近接場エッチング処理工程、又は前処理工程・近接場エッチング処理工程を経た後に、第2セラミック層を形成する第2セラミック層形成工程を設けることが好ましい。これにより、平坦化された第1セラミック層の上に第2セラミック層をさらに形成することになり、その結果、表面突起のより少ない平坦化物が得やすくなる。
【0064】
第2セラミック層形成工程では、セラミック材料(無機材料)で第2セラミック層を形成するものであればよく特に制限はない。好ましいのは、第2セラミック層を、ガスバリア性を有する無機材料で形成することである。このように、第2セラミック層は、第1セラミック層で説明したものと同様の材料、製造方法、厚さ等で形成すればよいので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0065】
第1セラミック層の表面を被処理面とする場合における、本発明の平坦化物の製造方法の具体的な工程例につき、以下その数例を紹介する。平坦化物を基材/第1セラミック層で構成する場合には、基材準備工程→第1セラミック層形成工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)、を行うことになる。さらに、平坦化物を基材/第1セラミック層/第2セラミック層で構成する場合には、基材準備工程→第1セラミック層形成工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)→第2セラミック層形成工程、を行うことになる。そして、平坦化物を基材/第1セラミック層/第2セラミック層/透明導電層で構成する場合には、基材準備工程→第1セラミック層形成工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)→第2セラミック層形成工程→透明導電層形成工程、を行うことになる。なお、透明導電層形成工程についての詳細は後述する。また、基材と第1セラミック層との間、第1セラミック層と第2セラミック層との間、第2セラミック層と透明導電層との間等に、他の層を挿入する場合には、所定の工程(所定の層の形成工程)を所定のタイミングで行えばよい。また、基材表面や透明導電層表面も被処理面として、これら被処理面に対して近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)をさらに行ってもよい。
【0066】
(ハ)透明導電層を被処理面とする例
本発明の平坦化物の製造方法においては、近接場エッチング処理工程の前に、基材の上に透明導電層を形成する透明導電層形成工程を設け、この透明導電層の表面を被処理面とすることが好ましい。すなわち、基材上に直接又は他の層を解して透明導電層を設け、この透明導電層の表面に対して近接場エッチング処理工程を施すことが好ましい。これにより、透明導電層表面を平坦化することができるようになり、その結果、平坦化物を、例えば有機ELディスプレイ素子のような微小突起の影響を受けやすい電子デバイス・ディスプレーに適用できるようになる。また、基材上に透明導電層を設けることで、平坦性を具備した透明電極とすることができる。ここで、基材に樹脂フィルムを用いれば透明電極フィルムとすることができ、基材にガラス板を用いれば透明電極板とすることができる。
【0067】
透明導電層形成工程は、透明な導電材料で透明導電層を形成するものであればよく特に制限はない。透明導電層に用いる材料としては、例えば、酸化スズ、酸化インジウム、ITO、ATO、IZO又は銀等を挙げることができる。
【0068】
透明導電層形成工程における透明導電層の形成方法は、特に制限はないが、例えば、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD等のドライコート法、めっき法、印刷法、スプレーコート法等のウェットコート法を挙げることができる。
【0069】
透明導電層形成工程において形成される透明導電層の厚さは、通常2nm以上、1000nm以下とする。この範囲とすれば、導電性を確保しつつ、それ自身の応力も制御されてフレキシビリティに優れ、透明性も高く保ちやすくなる。また、上記範囲とすれば、生産性も確保しやすくなる。なお、透明導電層を被処理面として、近接場エッチング処理工程、又は前処理工程及び近接場エッチング処理工程を施す場合には、研磨による透明導電層の厚さの減少を考慮し、透明導電層形成工程において、上記減少分を予測して、厚さを所望の厚さよりも多少厚く形成することが好ましい。
【0070】
透明導電層形成工程により、基材の上に透明導電層が形成されるが、透明導電層は、直接基材上に形成されてもよいし、基材と透明導電層との間に、接着性を確保するためのアンカー層、平坦性を確保するための平坦化層、第1セラミック層、及び第2セラミック層等の1以上の他の層を挿入してもよい。透明導電層は電極として使用されるのが通常なので、透明導電層は平坦化物の最上面(表面)に設けられることが好ましい。
【0071】
透明導電層形成工程において製造された透明導電層は、近接場エッチング処理工程、又は前処理工程及び近接場エッチング処理工程を施され、その表面が平坦化される。そして、透明導電層の表面を平坦化することにより、製造される平坦化物の表面の粗さも抑えることができるようになる。
【0072】
透明導電層の表面を被処理面とする場合における、本発明の平坦化物の製造方法の具体的な工程例につき、以下その数例を紹介する。平坦化物を透明電極として用いるため、平坦化物を基材/透明導電層で構成する場合には、基材準備工程→透明導電層形成工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)、を行うことになる。ここで、基材と透明導電層との間に他の層を挿入する場合には、所定の工程(所定の層の形成工程)を所定のタイミングで行えばよい。また、基材表面も被処理面として、近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)をさらに行ってもよい。
【0073】
さらに、平坦化物を透明電極付きのガスバリア性シート等として用いるため、平坦化物を基材/第1セラミック層/透明導電層で構成する場合には、基材準備工程→第1セラミック層形成工程→透明導電層形成工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)、を行うことになる。ここで、基材と第1セラミック層との間、第1セラミック層と透明導電層との間、に他の層を挿入する場合には、所定の工程(所定の層の形成工程)を所定のタイミングで行えばよい。また、基材表面や第1セラミック層表面を被処理面として、これら被処理面に対して近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)をさらに行ってもよい。
【0074】
また、平坦化物を透明電極付きのガスバリア性シート等として用いるため、平坦化物を基材/第1セラミック層/第2セラミック層/透明導電層で構成する場合には、基材準備工程→第1セラミック層形成工程→第2セラミック層形成工程→透明導電層形成工程→近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)、を行うことになる。ここで、基材と第1セラミック層との間、第1セラミック層と第2セラミック層との間、及び第2セラミック層と透明導電層との間、に他の層を挿入する場合には、所定の工程(所定の層の形成工程)を所定のタイミングで行えばよい。また、基材表面や第1セラミック層表面を被処理面として、これら被処理面に対して近接場エッチング処理工程(必要に応じて近接場エッチング処理工程の前に前処理工程を行う。)をさらに行ってもよい。
【0075】
(製造される平坦化物)
本発明の平坦化物の製造方法で製造される平坦化物の表面の最大突起長(Rmax)は、10nm以下であることが好ましい。これにより、被処理面をナノレベルで平坦化することとなり、その結果、平坦化物の平坦性をより高くしやすくなる。
【0076】
以上説明した、本発明の平坦化物の製造方法を用いることにより、より高い平坦性を有する平坦化物が得られやすくなる。より具体的には、平坦化物表面の凹凸が低減され、また電流短絡を引き起こす起因となる大きな突起がない平坦化物を提供しやすくなる。
【0077】
[平坦化物]
本発明の平坦化物は、上述の本発明の平坦化物の製造方法で製造される。これにより、被処理面をナノレベルで平坦化することができるようになり、その結果、より高い平坦性を有する平坦化物の製造方法で製造された平坦化物を提供することができる。こうした平坦化物は、採用する層構成により種々の用途に用いることができ、例えば、食品や医薬品等の包装材料、タッチパネル、ディスプレイ用フィルム基板、照明用フィルム基板、太陽電池用フィルム基板、サーキットボード用フィルム基板等を挙げることができる。また、ディスプレイ用封止フィルム、照明用封止フィルム、太陽電池用封止フィルム、サーキットボード用封止フィルムなど従来ガラスを利用していたものに代替できる、軽くて割れない、曲げられる電子デバイス用部材に用いる封止フィルムとして本発明の平坦化物を利用することもできる。さらに、本発明の平坦化物は、ガラスや金属、ウエハー基板上に薄膜を形成した形態で利用することもできる。このように、表面の平坦性がナノレベルで要求されるような用途に本発明の平坦化物を採用することができるのである。以下に、上記用途に採用可能な本発明の平坦化物の具体例をいくつか説明する。
【0078】
図2は、本発明の平坦化物の一例を示す模式的な断面図である。平坦化物10aは、基材6から構成され、基材6の表面を被処理面2として近接場エッチング処理工程が施されている。これにより平坦性の高い基材6を得ることができるので、所定の用途に平坦化物10aを用いることができるようになる。基材6の詳細についてはすでに説明したので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0079】
図3は、本発明の平坦化物の他の一例を示す模式的な断面図である。平坦化物10bは、基材6と、基材6上に形成された透明導電層7から構成され、透明導電層7の表面を被処理面2として近接場エッチング処理工程が施されている。なお、平坦化物10bにおいては、透明導電層7の表面に対して近接場を用いたエッチングが行われているが、これに加えて又はこれに代えて、基材6の表面を被処理面として近接場エッチング処理工程を施してもよい。
【0080】
平坦化物10bでは、透明導電層7が電極として機能する。これにより平坦性の高い透明電極を得ることができるので、所定の用途に平坦化物10bを用いることができるようになる。より具体的には、基材6を樹脂フィルムとすればフィルム状の透明電極とすることができ、基材6をガラス板とすれば板状の透明電極を得ることができる。基材6、透明導電層7の詳細についてはすでに説明したので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0081】
本発明の平坦化物は、ガスバリア性シートであることが好ましい。これにより、より高い平坦性が求められる分野に本発明の平坦化物を適用することになり、その結果、本発明を用いる意義が大きくなる。そこで、以下では、本発明の平坦化物をガスバリア性シートとする場合の具体例のいくつかを説明する。
【0082】
図4は、本発明の平坦化物のさらに他の一例を示す模式的な断面図である。平坦化物10cは、基材6と、基材6上に形成された第1セラミック層8と、から構成され、第1セラミック層8の表面を被処理面2として近接場エッチング処理工程が施されている。なお、平坦化物10cにおいて、第1セラミック層8の表面に対して近接場を用いたエッチングが行われているが、これに加えて又はこれに代えて、基材6の表面を被処理面として近接場エッチング処理工程を施してもよい。
【0083】
平坦化物10cでは、第1セラミック層8がガスバリア層として機能する。これにより平坦性の高いガスバリア性シートを得ることができ、所定の用途に平坦化物10cを用いることができるようになる。基材6、第1セラミック層8の詳細についてはすでに説明したので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0084】
図5は、本発明の平坦化物のさらに他の一例を示す模式的な断面図である。平坦化物10dは、基材6と、基材6上に形成された第1セラミック層8と、第1セラミック層8上に形成された第2セラミック層9と、から構成され、第1セラミック層8の表面を被処理面2として近接場エッチング処理工程が施されている。なお、平坦化物10dにおいて、第1セラミック層8の表面に対して近接場を用いたエッチングが行われているが、これに加えて又はこれに代えて、基材6の表面を被処理面として近接場エッチング処理工程を施してもよい。
【0085】
平坦化物10dでは、第1セラミック層8及び第2セラミック層9がそれぞれガスバリア層として機能する。これにより平坦性の高いガスバリア性シートを得ることができ、所定の用途に平坦化物10dを用いることができるようになる。基材6、第1セラミック層8、及び第2セラミック層9の詳細についてはすでに説明したので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0086】
図6は、本発明の平坦化物のさらに他の一例を示す模式的な断面図である。平坦化物10eは、基材6と、基材6上に形成された第1セラミック層8と、第1セラミック層8上に形成された第2セラミック層9と、第2セラミック層9上に形成された透明導電層7と、から構成され、第1セラミック層8の表面を被処理面2として近接場エッチング処理工程が施されている。なお、平坦化物10eにおいて、第1セラミック層8の表面に対して近接場を用いたエッチングが行われているが、これに加えて又はこれに代えて、基材6及び/又は透明導電層7の表面を被処理面として近接場エッチング処理工程を施してもよい。
【0087】
平坦化物10eにおいては、第1セラミック層8及び第2セラミック層9がそれぞれガスバリア層として機能するとともに、透明導電層7が電極として機能する。これにより平坦性の高い透明電極付きのガスバリア性シートを得ることができ、所定の用途に平坦化物10eを用いることができるようになる。基材6、第1セラミック層8、第2セラミック層9、及び透明導電層7の詳細についてはすでに説明したので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0088】
以上説明した本発明の平坦化物によれば、より高い平坦性を有する平坦化物の製造方法で製造された平坦化物が得られやすくなる。より具体的には、平坦化物表面の凹凸が低減され、また電流短絡を引き起こす起因となる大きな突起がない平坦化物が得られやすくなる。
【0089】
[被処理面の平坦化方法]
本発明の被処理面の平坦化方法は、近接場光を用いて被処理面をエッチングすることにより、この被処理面の最大突起長(Rmax)を10nm以下とする。これにより、被処理面をナノレベルで平坦化することとなり、その結果、より高い平坦性を有する被処理面が得られる被処理面の平坦化方法を提供することができる。
【0090】
近接場光を用いて被処理面をエッチングする方法は、特に制限されないが、塩素が存在する雰囲気下に被処理面を保持し、この被処理面に存在する突起近傍で発光する近接場光によって塩素ラジカルを発生させ、この塩素ラジカルを上記突起と反応させて突起を除去することにより行われることが好ましい。これにより、被処理面に存在する微小突起を選択的にエッチング除去しやすくなり、その結果、被処理面の平坦性をより高くしやすくなる。こうしたエッチングの方法は、すでに説明したとおりであるので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0091】
以上説明した、本発明の被処理面の平坦化方法によれば、より高い平坦性を有する被処理面が得られる被処理面の平坦化方法を提供することができる。より具体的には、被処理面の凹凸が低減され、また電流短絡を引き起こす起因となる大きな突起がない被処理面が得られる被処理面の平坦化方法を提供することができる。
【実施例】
【0092】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)
基材として、ソーダライム研磨ガラス(セントラル硝子株式会社製、厚さ:0.7mm、Rmax:4nm)を用い、この研磨ガラス表面を被処理面として、近接場エッチング処理工程を行った。具体的には、上記ソーダライム研磨ガラスを純水超音波洗浄した後に、近接場エッチング装置にセットした。そして、同装置内を排気した後、塩素ガスを導入し、装置内圧力を100Paにした。次いで、532nmのレーザー光(Nd:YAGレーザー光、2W)を基板表面に照射し、150分経過後に、上記ソーダライム研磨ガラスを装置から取り出した。そして、近接場エッチング処理後の被処理面たるソーダライム研磨ガラスの表面粗さを測定したところ、Rmax=1nmとなっていた。
【0094】
なお、被処理面の表面粗さ(Rmax)の測定は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)として、セイコーインスツルメンツ社製のNanopics−1000を用い、JIS B0601に準拠して、20μmの範囲にて最大突起長(Rmax)を測定することにより評価を行った。表面粗さの測定は、以下の実施例、比較例でも同様の方法を用いた。
【0095】
(実施例2)
基材として、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(帝人デュポン株式会社製:Q−65F(商品名)、厚さ:200μm)を用い、基材上に第1セラミック層としてのSiON膜を、RFスパッタリング法(高純度化学製SiONターゲット:純度3N)にて、厚さ100nmとなるように形成して第1セラミック層形成工程を行った。次いで、超音波洗浄を5分間行い、160℃×1時間の高温処理を行った。
【0096】
こうして得た中間品につき、第1セラミック層の表面を被処理面として近接場エッチング処理工程を行ったが、まず処理前に第1セラミック層の表面粗さを測定したところ、Rmax=15nmであった。次いで、実施例1と同様の方法で、被処理面に対して近接場エッチング処理工程を施し、平坦化物を得た。その結果、処理後の被処理面(第1セラミック層)の表面粗さは、Rmax=5nmとなった。
【0097】
(実施例3)
実施例2で得た中間品につき、被処理面たる第1セラミック層表面に対して近接場エッチング処理工程を行う前に、前処理工程として以下の処理を行った。すなわち、研磨装置(トッキ株式会社製:アルミナ研磨テープ1μm研磨剤)にて、表面研磨前処理(研磨圧力30g/cm、揺動速度60rpm、研磨速度2mm/sec)を行った。次いで、超音波洗浄を5分間行い、160℃×1時間の高温処理を行った。上記研磨装置は、基本的にはCMP法を用いるものであり、通常のCMP法で用いられる研磨テープよりも細かい研磨テープが用いられることによりソフトな研磨が可能となり、ナノレベルの表面処理がされるようになっている。
【0098】
ここで、研磨処理後の第1セラミック層表面の表面粗さを測定したところ、Rmax=9nmであった。
【0099】
次いで、第1セラミック層の表面を被処理面として、実施例1と同様の方法で被処理面に対して近接場エッチング処理工程を施した。そして、近接場エッチング処理工程の後、第1セラミック層表面の表面粗さを測定したところ、Rmax=3nmであった。その後、さらに、実施例2と同様のRFスパッタリング法を用いて、第1セラミック層の上に第2セラミック層としてのSiON膜(厚さ100nm)を形成して第2セラミック層形成工程を行った。得られた平坦化物の表面粗さ(第2セラミック層の表面粗さ)を測定したところ、Rmax=3nmとなった。
【0100】
(比較例1)
前処理工程及び近接場エッチング処理工程を行わなかったこと以外は、実施例3と同様にして平坦化物を得た。第2セラミック層の表面粗さを測定したところ、Rmax=24nmとなった。
【0101】
(実施例4)
実施例3で得られた平坦化物に対して、第2セラミック層上に、さらに透明導電層としてのITOを、DCスパッタリング法(東ソー製ITOターゲット:純度3N)にて厚さ150nmとなるように形成して透明導電層形成工程を行った。そして、透明導電層の表面粗さを測定したところ、Rmax=8nmとなった。
【0102】
(比較例2)
比較例1で得られた平坦化物に対して、第2セラミック層上に、さらに透明導電層としてのITOを、実施例4と同様にして形成した。そして、透明導電層の表面粗さを測定したところ、Rmax=71nmとなった。
【0103】
(実施例5)
実施例4で得られた平坦化物に対して、透明導電層の表面を被処理面とし、実施例1と同様の方法で、被処理面に対して近接場エッチング処理工程を施した。処理後に、平坦化層の表面粗さ(透明導電層の表面粗さ)を測定したところ、Rmax=2nmとなった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】近接場エッチング処理工程の一例を示す模式的概念図である。
【図2】本発明の平坦化物の一例を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の平坦化物の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の平坦化物のさらに他の一例を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の平坦化物のさらに他の一例を示す模式的な断面図である。
【図6】本発明の平坦化物のさらに他の一例を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0105】
1 中間品
2 被処理面
3 レーザー光
4,4a,4b,4c 近接場光
5,5a,5b,5c 突起
6 基材
7 透明導電層
8 第1セラミック層(ガスバリア層)
9 第2セラミック層(ガスバリア層)
10,10a,10b,10c,10d,10e 平坦化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材を有する平坦化物の製造方法であって、近接場光を用いて被処理面をエッチングする近接場エッチング処理工程を有することを特徴とする平坦化物の製造方法。
【請求項2】
前記近接場エッチング処理工程の前に、前記被処理面を事前に平坦化処理する前処理工程を設ける、請求項1に記載の平坦化物の製造方法。
【請求項3】
前記基材の表面を前記被処理面とする、請求項1又は2に記載の平坦化物の製造方法。
【請求項4】
前記近接場エッチング処理工程の前に、前記基材の上に第1セラミック層を形成する第1セラミック層形成工程を設け、前記第1セラミック層の表面を前記被処理面とする、請求項1又は2に記載の平坦化物の製造方法。
【請求項5】
前記近接場エッチング処理工程の後に、第2セラミック層を形成する第2セラミック層形成工程を設ける、請求項4に記載の平坦化物の製造方法。
【請求項6】
前記近接場エッチング処理工程の前に、前記基材の上に透明導電層を形成する透明導電層形成工程を設け、前記透明導電層の表面を前記被処理面とする、請求項1又は2に記載の平坦化物の製造方法。
【請求項7】
塩素が存在する雰囲気下に前記被処理面を保持し、該被処理面に存在する突起近傍で発光する近接場光によって塩素ラジカルを発生させ、該塩素ラジカルを前記突起と反応させて前記突起を除去することにより、前記近接場エッチング処理工程が行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の平坦化物の製造方法。
【請求項8】
前記平坦化物の表面の最大突起長(Rmax)が10nm以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の平坦化物の製造方法。
【請求項9】
前記基材が樹脂フィルム又はガラス板である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の平坦化物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の平坦化物の製造方法で製造されることを特徴とする平坦化物。
【請求項11】
前記平坦化物がガスバリア性シートである、請求項10に記載の平坦化物。
【請求項12】
近接場光を用いて被処理面をエッチングすることにより、該被処理面の最大突起長(Rmax)を10nm以下とすることを特徴とする被処理面の平坦化方法。
【請求項13】
塩素が存在する雰囲気下に前記被処理面を保持し、該被処理面に存在する突起近傍で発光する近接場光によって塩素ラジカルを発生させ、該塩素ラジカルを前記突起と反応させて前記突起を除去することにより前記エッチングが行われる、請求項12に記載の被処理面の平坦化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−110897(P2010−110897A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282804(P2008−282804)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】