説明

強誘電体薄膜、強誘電体キャパシタ及びその製造方法

【課題】抗高電性、自発分極性、特に疲労特性などの点で優れた強誘電体薄膜、該薄膜を備えた強誘電体キャパシタ及びその製造方法の提供。
【解決手段】強誘電体酸化物結晶の微粒子を酸化ケイ素マトリックスが結合した構成の強誘電体薄膜であって、前記微粒子が、ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物を結晶化させた後にガラスマトリックス成分を除去することによって得られる、平均一次粒子径が20〜100nmの結晶性微粒子であり、かつ、膜厚が80〜400nmであることを特徴とする強誘電体薄膜。下部電極と、該強誘電体薄膜と、上部電極とが基体上にこの順で設けられている強誘電体キャパシタ及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強誘電体薄膜、強誘電体キャパシタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、低消費電力の不揮発性メモリとして、通常のDRAMの高誘電体層を強誘電体薄膜に置き換え、強誘電体薄膜が上部電極及び下部電極により挟持されてなるMIM(Metal−Insulator−Metal)キャパシタを備えた1T1C(1−Transistor−1−Capacitor)型強誘電体メモリが開発の主力となってきている。これは、ビット線−プレート線間にトランジスタのソース、ドレイン及びMIMキャパシタが直列に接続され、トランジスタをオンすることで強誘電体の分極の向きを感知するメモリであり、フラッシュメモリ、SRAMといった従来の不揮発性メモリと比較して消費電力が低いという特徴を有する。近年では、携帯機器向けの不揮発性メモリとして、強誘電体メモリの適用が検討されていることにともない、消費電力のさらなる低減が必要不可欠となっている。そのため、特にMIMキャパシタ中の強誘電体層の薄膜化による抗電界の低電圧化が急務とされている。
【0003】
従来、このような強誘電体薄膜の形成方法としては、スパッタリング法などの物理的気相成膜法(PVD)やMOCVD法などの化学的気相成長法、及び化学的溶液成膜法(溶液法)が提案されている。このうち、溶液法は、特殊で高価な装置を必要とせず、最も安価かつ簡便に強誘電体薄膜を形成できることが知られている。また溶液法は精密な組成制御が容易であり、多くの強誘電体材料に見られる、組成の違いによる特性変動を抑制できるというメリットがあるため、非常に有効な強誘電体薄膜作製方法の一つとして検討が進められ、実用化されつつある。しかしながら、溶液法は、高温での焼成が必要とされるため、配線基板上に電子部品が装着された状態で強誘電体層を設ける場合には適用できず、高集積化の際の問題になっている。
【0004】
これに対応するため、溶液法による強誘電体薄膜の作製において、焼成温度の低減に関して様々な手法が提案されてきている。例えば、前駆体の構造を適切に制御する方法(特許文献1)や、常誘電体であるケイ酸ビスマスをあらかじめコート液に添加しておく方法(非特許文献1)が挙げられるが、これらの方法を用いて薄膜状の強誘電体層を形成する場合における焼成温度は、いずれも550℃程度までの低減が限界であった。例えば、アルミニウム製配線が形成された基板上に強誘電体層を形成する場合、アルミニウムの耐熱温度(450℃程度)を超えてしまい、種々の半導体基板の製造プロセスに汎用的に適用できないという問題があった。このようなことから、強誘電体層形成時の焼成温度を500℃まで、好ましくは450℃にまで低下させることが求められている。
【0005】
この問題を解決するため、我々は特許文献2において、ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物を結晶化させた後にガラスマトリックス成分を除去することによって得られる、平均一次粒子径が100nm以下で、かつアスペクト比が2以上の板状もしくは針状の結晶性微粒子をあらかじめコート液中に添加しておく方法を提案している。この方法を用いれば、該結晶性微粒子が結晶核として働くため、焼成温度を500℃程度まで低減可能となる。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5925183号明細書
【特許文献2】国際公開第04/097854号パンフレット
【非特許文献1】Ferroelectrics,271巻,289頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記したような従来技術の問題点に鑑み、溶液法で強誘電体薄膜を得る場合に、比較的低温度、特に、500℃以下、さらには450℃以下の温度で焼成ができるために、高集積化に必要な論理回路上への強誘電体薄膜の形成が可能になり、かつ抗高電性、自発分極性、特に疲労特性などの点で優れた特性を有する強誘電体薄膜、該強誘電体薄膜を備えた強誘電体キャパシタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鋭意研究を続けたところ、上記目的を達成することができる、下記の構成を有することを特徴とするものである。
【0009】
(1)強誘電体酸化物結晶の微粒子を酸化ケイ素マトリックスが結合した構成の強誘電体薄膜であって、前記微粒子が、ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物を結晶化させた後にガラスマトリックス成分を除去することによって得られる、平均一次粒子径が20〜100nmの結晶性微粒子であり、かつ、膜厚が80〜400nmであることを特徴とする強誘電体薄膜。
【0010】
(2)下部電極層と、(1)に記載の強誘電体薄膜からなる強誘電体層と、上部電極層とが基体上にこの順で設けられている強誘電体キャパシタ。
【0011】
(3)下部電極層と前記強誘電体層との間及び前記強誘電体層と前記上部電極層との間の少なくとも一方に、強誘電体酸化物結晶の微粒子を実質的に含まない誘電体層を有する(2)に記載の強誘電体キャパシタ。
【0012】
(4)基体上に2層の電極層と該電極層間に挟持された強誘電体層とを有する強誘電体キャパシタを製造する方法において、下記工程A〜Dを含むことを特徴とする強誘電体キャパシタの製造方法。
工程A:基体上に下部電極層を形成する工程。
工程B:ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物を結晶化した後、ガラスマトリックス成分を除去して平均一次粒子径が20〜100nmの結晶性微粒子を得る工程。
工程C:工程Bで得られた結晶性微粒子と、加水分解性シラン化合物又はそのオリゴマーと、液状媒体とを含む流動性組成物を塗布し、乾燥後200〜500℃で焼成して酸化ケイ素を形成することにより、強誘電体酸化物結晶の微粒子を酸化ケイ素マトリックスが結合した構成の膜厚80〜400nmの強誘電体層を形成する工程。
工程D:上部電極層を形成する工程。
【0013】
(5)前記工程Aと工程Cとの間及び前記工程Cと工程Dとの間の少なくとも一方にさらに下記工程Eを含む、(4)に記載の強誘電体キャパシタの製造方法。
【0014】
工程E:加水分解性シラン化合物又はそのオリゴマーと液状媒体とを含む流動性組成物を塗布し、乾燥、焼成して酸化ケイ素からなる誘電体層を形成する工程。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半導体製造プロセスと整合のよい、500℃以下の低温焼成をともなう塗布法により強誘電体薄膜及び強誘電体キャパシタを提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に示すように、強誘電体キャパシタは一般に、シリコン基板などの半導体基板1の表面に酸化ケイ素膜又は窒化ケイ素膜からなる絶縁膜2が形成された基体を使用し、この基体の絶縁膜2上に、下部電極層3/強誘電体層4/上部電極層5がこの順で設けられた構成となっている。また、基体としては、セラミックス基板、ガラス基板、その他の絶縁性表面を有する基板なども使用できる。
【0017】
本発明の強誘電体キャパシタは、導電性膜からなる2層の電極層によって強誘電体層4が挟持されるように構成される。ここで、2層の電極層(上部電極層5及び下部電極層3)は同一の物質を主体として構成されていても、異なる物質から構成されていてもよい。該導電性膜は白金、アルミニウム、チタン、イリジウム、ルテニウム、タングステン、ニッケルなどを主体とする金属膜であると好ましいが、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などを主体とする導電性の金属酸化物膜や、タングステンシリサイド、ニッケルシリサイドなどのシリサイド膜や、導電性のあるポリシリコンであってもよい。ここで、上記導電性膜を形成する(工程A及び工程C)方法は特に限定されず、公知の方法、すなわちスパッタリング法や真空蒸着法、化学気相成長法などを使用できる。また、これらの導電性膜は異種同士を積層してあってもよい。例えば、チタン膜と白金膜とを積層すれば、基体との密着性の高い電極が得られることが知られている。
【0018】
本発明の強誘電体キャパシタは、上記の2層の電極層間に、強誘電体結晶の微粒子(以下、単に強誘電体結晶微粒子ともいう。)を酸化ケイ素マトリックスが結合した構成の強誘電体層を備える。ここで、強誘電体結晶微粒子の例としては、一般式ABOで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有するPb(Mg1/3Nb2/3)O、PbTiO、PbZrO、BaTiO、SrTiO及びそれら相互の固溶体からなる群より選ばれる1種以上の微粒子が挙げられる。また、一般式(Bi2+(Bim−1Ti3.5m−0.52−[mは1〜5の整数である。]、一般式Sr1−xBi2+xTa[xは0〜0.8]で表される層状ペロブスカイト型の結晶構造を有する微粒子からなる誘電体であると好ましい。
【0019】
本発明において、強誘電体結晶微粒子としては、特に高い結晶性を有することから、ガラスマトリックス中で強誘電体粒子を結晶化させた後ガラスマトリックス成分を除去することによって得られる粒子を用いる。すなわち、ガラス母材融液中に強誘電体粒子として結晶化させる成分を溶解させておき、融液を急速冷却してガラス化させた後、再度加熱アニールを行うことで母材中に微結晶を析出させるガラス結晶化法により得られる粒子である。析出した微結晶は、ガラスマトリックスを適宜の薬液等によって溶解させることにより取り出される。
【0020】
かかるガラスマトリックス中で結晶化させた超微粒子は、形態の制御が容易であり、アニール処理の条件等によって比較的異方性の大きい微粒子を作製しやすく、アスペクト比の大きい粒子が得られ易いという特徴も併せ有している。
【0021】
上記ガラス母材としては、ホウ酸系、リン酸系、ケイ酸系などが使用できるが、溶融性や目的酸化物との複合化合物の製造のし易さやマトリックスの溶離の容易性などの点から、ホウ酸系のガラス母材が好ましく用いられる。
【0022】
以下に、強誘電体酸化物粒子の製造をチタン酸ビスマス微結晶を作製する方法を例にとって具体的に説明すると、次の〔1〕〜〔4〕の工程で強誘電体粒子を得ることができる。
【0023】
〔1〕ガラス形成成分(例えば、酸化ホウ素)と、目的とする強誘電体酸化物組成の金属酸化物(例えば、酸化ビスマスと酸化チタン)とを混合し、1200℃以上の温度で全体を熔融させる[熔融]。
【0024】
〔2〕熔融ガラスを急速冷却させることによって強誘電体酸化物組成の金属イオンを含むガラスを得る[ガラス化]。
【0025】
〔3〕550℃〜700℃程度の温度でアニール処理を行うことでガラス中に強誘電体酸化物の結晶核を形成させ、アニール条件を制御して所定の粒子径まで成長させる[結晶化]。
【0026】
〔4〕酸、水、あるいはその混合物によりガラス母材成分(例えば、酸化ホウ素)を取り除き強誘電体粒子(例えば、BiTi12)得る[リーチング]。
【0027】
上記一連の工程によれば、アニール温度領域において非常に粘度の高いガラスを母材として結晶化を行っているため、強誘電体粒子の粒子径や粒子形態の制御が容易であり、また結晶性の高い微結晶が得られるという特徴がある。
【0028】
この強誘電体結晶微粒子の平均一次粒子径は、20〜100nmとする。平均一次粒子径が20nm未満であると、強誘電性が発現しにくく、一方、100nmを超えると薄膜の平坦性をそこなうおそれがあるため、いずれも好ましくない。
【0029】
また、酸化ケイ素マトリックスは、前記強誘電体結晶微粒子のバインダーとして機能する成分であり、耐電圧特性を向上させ、膜形成性を付与する働きを有する。ここで、酸化ケイ素とは、厳密にSiOの組成になっている必要はなく、シロキサン結合の網目構造を有する非晶質成分として存在していればよい。また、酸化ケイ素マトリックス中には、質量比で5%程度を限度とする少量成分としてホウ素、アルミニウム、チタン、亜鉛、鉛、ビスマス、スズ、ジルコニウム、ニオブ、タンタルなどのガラス形成イオンが含まれていてもよい。
【0030】
強誘電体層の酸化ケイ素マトリックスは、ゾルゲル法によりシロキサン結合を形成するケイ素化合物(以下、単にケイ素化合物ともいう。)から形成されることが好ましい。また、後述の誘電体層の誘電体も同様にゾルゲル法によりケイ素化合物から形成される酸化ケイ素であることが好ましい。これらケイ素化合物としては加水分解性ケイ素化合物やそのオリゴマーが好ましく、特に一般式RSi(R’)4−aで表される加水分解性ケイ素化合物やそのオリゴマーが好ましい。その他、シラザンなどの酸化ケイ素となりうるケイ素化合物を使用することもできる
上記一般式において、Rはケイ素原子に直結する炭素原子を有する有機基を表し、炭素原子数1〜8のアルキル基が好ましく、特に炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基が最も好ましい。R’は加水分解性基を表し、ケイ素原子に直結する酸素原子や窒素原子を有する有機基、ハロゲン原子、アミノ基などが好ましい。ケイ素原子に直結する酸素原子を有する有機基としては、炭素原子数1〜8のアルコキシ基やアシル基が好ましく、ケイ素原子に直結する窒素原子を有する有機基としては、アルキルアミノ基やイソシアネート基が好ましい。R’としては、炭素数1から4のアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基とエトキシ基が好ましい。aは0〜2の整数であり、特に0又は1であることが好ましい。2種以上の上記化合物の混合物の場合の平均のaは整数でなくてもよい。aが2の場合の2個のRは異なっていてもよく、2〜4個のR’も互いに異なっていてもよいが、複数個のR、複数個のR’はそれぞれ通常は同一の基である。
【0031】
上記一般式で表されるケイ素化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどのテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどのジアルキルジアルコキシシラン類がある。
【0032】
上記加水分解性ケイ素化合物のオリゴマーは、加水分解性ケイ素化合物を部分的に加水分解縮合して得られるオリゴマーであり、その縮合度は特に限定されるものではないは、常温で液状又は溶媒可溶性である程度の縮合度を有するオリゴマーであることが好ましい。
【0033】
強誘電体層のマトリックスである酸化ケイ素は、aが0でない上記ケイ素化合物やそのオリゴマーよりゾルゲル法で形成された、Si−C結合を含む酸化ケイ素であることが好ましい。aが0でない上記ケイ素化合物としてはaが1の化合物が好ましい。Si−C結合を含む酸化ケイ素は、aが0でない上記ケイ素化合物もしくはそのオリゴマーから、又は、aが0でない上記ケイ素化合物とaが0の上記ケイ素化合物の混合物もしくはその混合物から得られるオリゴマーから、形成されることが好ましい。特に、aが1である上記ケイ素化合物もしくはそのオリゴマー、又は、aが1である上記ケイ素化合物を主成分としてaの平均が0.5〜1.5である上記ケイ素化合物の混合物もしくはそのオリゴマーから、形成されることが好ましい。
【0034】
Si−C結合を含む酸化ケイ素を用いることにより、強誘電体層中の応力を緩和する効果を高めることができ、特にaが1である上記ケイ素化合物やそのオリゴマーを使用することにより、前記有機ケイ素化合物の加水分解縮合反応で副生する水やアルコール及び前記Rの一部が分解して生じる化合物などが焼成の際に抜けた場合の穴が小さく、ピンホールになりにくい。
【0035】
強誘電体層は、強誘電体結晶の微粒子と、加水分解性シラン化合物又はそのオリゴマーと、液状媒体とを含む流動性組成物を塗布し、乾燥後200〜500℃で焼成して酸化ケイ素を形成する工程(工程B)で形成されることが好ましい。上記流動性組成物(以下、第1の流動性組成物という。)は、上記強誘電体結晶微粒子の粉末とケイ素化合物と液状媒体を所定の割合で混合して作製される。混合の方法としては公知の方法を用いることができ、具体的にはボールミル、ビーズミル、スターラー、還流法などを用いて撹拌する方法が挙げられる。もちろん、上記第1の流動性組成物中には、強誘電体結晶微粒子の分散を助けるための分散剤や、塗膜の濡れ性やレベリング性を向上させるための各種添加剤を含んでいてもよい。液状媒体としては、エタノールや1−プロパノールなどのアルコール類、酢酸メチルなどのエステル系溶媒、その他の沸点が120℃以下の有機溶媒が好ましい。このような低沸点有機溶媒を使用することにより、被膜を乾燥する際の液状組成物の粘度を急激に上げることができ、強誘電体結晶微粒子の凝集を抑制可能となる。
【0036】
上記第1の流動性組成物において、上記強誘電体結晶微粒子の酸化物基準での含有量(質量%)と、上記ケイ素化合物のSiO基準での含有量(質量%)との比が95/5〜50/50であることが好ましい。ケイ素化合物の含有量がこれ未満になると強誘電体層としての機械的強度に乏しくなり、また、耐電圧特性が低下するおそれがある。一方、ケイ素化合物の含有量がこれを超えると強誘電体層としての誘電特性が低下するおそれがある。
【0037】
上記第1の流動性組成物を下部電極層3(又は、後述のように、誘電体層)上に塗布する方法については特に限定はされず、公知の方法を用いることができる。一例を挙げるとスクリーン印刷法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、転写印刷法、カーテンフローコート法、ミスト法などがある。なかでも、強誘電体層を精度よく成膜する方法としては、スピンコート法もしくはミスト法が好適に用いられる。
【0038】
第1の流動性組成物を塗布して成膜した塗膜を乾燥して液状媒体を除去し、その後焼成して強誘電体層を形成する。焼成温度は200〜500℃が好ましい。焼成温度がこれ未満では、ケイ素化合物の縮合が充分に起こらず、強誘電体層の機械的強度や誘電特性が充分に得られないおそれがある。一方、焼成温度がこれを超えると強誘電体層の熱収縮により電気特性、特にリーク電流特性をそこなうおそれがあるうえ、特性の向上はあまり見られず、非経済的でもある。さらに、特に鉛系の強誘電体結晶微粒子を用いる場合には、鉛の昇華が起こるために上限温度は注意して設定する必要がある。焼成時間は温度や雰囲気によっても異なるが、好ましくは1分〜60分で行われる。また、焼成工程においては、焼成温度を変化させることが可能であり、例えば焼成初期から200℃、300℃、500℃に段階的に温度を上げて焼成することができる。
【0039】
本発明の強誘電体キャパシタにおいて、強誘電体層の膜厚は200〜400nmとする。これより薄いと所望の耐電圧特性が得られないおそれがあり、逆にこれより厚くすると静電容量特性が低下するおそれがあり、いずれも好ましくない。なお、塗布−乾燥−焼成からなる一回のプロセスでは所望の層厚が得られない場合には、このプロセスを繰り返して行うことができることはもちろんである。
【0040】
本発明の強誘電体キャパシタは、下部電極層と強誘電体層の間及び強誘電体層と上部電極層との間の少なくとも一方に強誘電体結晶の微粒子を実質的に含まない誘電体層を有することが好ましい。強誘電体結晶の微粒子を実質的に含まない誘電体層を有することにより、強誘電体層の平坦性が充分に得られない場合であっても強誘電体層表面の平坦性を向上できる。誘電体層は、少なくとも強誘電体層と上部電極層の間に存在することが好ましい。さらに、強誘電体層と上部電極層の間及び下部電極層と強誘電体層の間の2ヶ所に存在することがより好ましい。
【0041】
誘電体層の膜厚(誘電体層が2層存在する場合は各々の誘電体層の膜厚)は20〜50nm程度とすることが好ましい。膜厚が20nm未満であると、強誘電体層表面の平坦性及び耐電圧を向上させる効果が発現しにくく、一方、膜厚が50nmを超えると静電容量特性が低下するおそれがある。誘電体層が2層存在する場合はそれらの膜厚の合計は70nm以下が好ましい。なお、本発明の強誘電体キャパシタにおける強誘電体層(第1図の強誘電体層4)とは強誘電体層と誘電体層とを合わせたものであってもよい。
【0042】
誘電体層は前記のようにゾルゲル法で形成された酸化ケイ素の層であることが好ましい。このゾルゲル法で形成された酸化ケイ素の層とすることにより、強誘電体層全体の平坦性をより向上できる。さらに、強誘電体層全体におけるクラックやピンホールの発生を高度に抑制でき、リーク電流特性を向上できる。
【0043】
この酸化ケイ素の層はさらにSi−C結合を実質的に含まない酸化ケイ素であることが好ましい。特にaが0である前記ケイ素化合物やそのオリゴマー、さらに好ましくはテトラアルコキシシランやそのオリゴマーを使用することにより、誘電体層を容易に形成でき、強誘電体層全体の平坦性及び酸素プラズマ耐性を向上させる効果が得られやすい。
【0044】
誘電体層は、加水分解性シラン化合物又はそのオリゴマーと液状媒体とを含む流動性組成物を塗布し、乾燥後焼成して酸化ケイ素を形成する(工程D)方法で形成されることが好ましい。この流動性組成物(以下、第2の流動性組成物という。)は、加水分解性シラン化合物又はそのオリゴマーとそれを溶解する有機溶媒を含む溶液であることが好ましい。有機溶媒としては、メタノールやエタノールなどのアルコール類、酢酸メチルなどのエステル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、その他の沸点が150℃以下の有機溶媒が好ましい。
【0045】
上記第2の流動性組成物を強誘電体層(又は、下部電極層3)上に塗布する方法については特に限定はされず、強誘電体層を形成する際使用した方法と同様の方法を用いればよい。
【0046】
第2の流動性組成物を塗布して成膜した塗膜を乾燥して液状媒体を除去し、その後焼成して誘電体層を形成する。焼成温度は200〜500℃が好ましい。焼成温度がこれ未満では、ケイ素化合物の縮合が充分に起こらず、強誘電体層としての機械的強度や誘電特性が充分に得られないおそれがある。一方、焼成温度がこれを超えると強誘電体層の熱収縮により電気特性、特にリーク電流特性をそこなうおそれがあるうえ、特性の向上はあまり見られず、非経済的でもある。焼成時間は温度や雰囲気によっても異なるが、好ましくは1分〜60分で行われる。また、焼成工程においては、焼成温度を変化させることが可能であり、例えば前記強誘電体層形成の場合と同様に段階的に温度を上げて焼成することができる。誘電体層を下部電極層上に形成する場合は200〜350℃で1〜5分程度焼成を行うことが好ましく、また強誘電体層上に形成する場合は150℃程度で塗膜を乾燥させた後、200〜450℃で焼成を行うことが好ましい。
【0047】
上記のように下部電極層3上に強誘電体層4を形成した後、該誘電体層4上に上部電極層5を形成して本発明の薄膜誘電体キャパシタが得られる。上部電極層5を形成する(工程C)方法は特に限定されず、下部電極層3を形成する際使用した方法と同等の方法を用いればよい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるわけではない。なお、得られた強誘電体層の評価は、以下のようにして行った。
【0049】
層厚:触針式表面粗さ測定装置(Sloan社製、DekTak2020)を用いて測定した。
【0050】
残留分極:ファンクションジェネレータ、コンデンサなどを用いて、Sawyer−Tower回路を作製し、アナログオシロスコープを用いて、3V印加時及び6V印加時において測定した。
【0051】
リーク電流特性:残留分極測定に用いた試料にソースメータ(ケースレーインスツルメンツ製、6430)を接続し、デジタルマルチメータを用いて、3Vでのリーク電流を測定した。
【0052】
[強誘電体粒子BaTiOの作製]
炭酸バリウム、酸化チタン(ルチル)、及び酸化ホウ素を、BaO、TiO、及びBとしてそれぞれ50.0、25.0、及び25.0モル%となるよう秤量し、エタノール少量を用いて自動乳鉢でよく湿式混合した後乾燥させて原料粉末とした。得られた原料粉末を、融液滴下用のノズルのついた白金製容器(ロジウム10%含有)に充填し、ケイ化モリブデンを発熱体とした電気炉において1350℃で2時間加熱し、完全に熔融させた。次いで、ノズル部を加熱し、融液を電気炉の下に設置された双ロール(ロール径150mm、ロール回転数50rpm、ロール表面温度30℃)に滴下しフレーク状固形物を得た。
【0053】
得られたフレーク状固形物は透明を呈し、粉末X線回折の結果、非晶質物質であることが確認された。このフレーク状固形物を、590℃で12時間加熱し、結晶化処理を行った。次いで、このフレーク粉を80℃に保った1mol/Lの酢酸水溶液中に添加し12時間撹拌したのち遠心分離、水洗浄、乾燥を行って白色粉末を得た。
【0054】
得られた白色粉末を粉末X線回折によって同定したところ、正方晶のチタン酸バリウム結晶のみからなる粉末であり、透過型電子顕微鏡によって観察を行った結果、平均一次粒子径は30〜50nmであった。
【0055】
[例1]
シリカゾル(東京応化工業製:商品名OCD T−7、SiO換算濃度:10質量%)に対し、上記で得られたBaTiO微粒子の1−プロパノール分散液(濃度:10質量%)を質量比1:4で混合し、強誘電体層形成用の組成物Aを得た。
【0056】
絶縁膜2付シリコン基板1(50mm×50mm)の表面に厚さ300nmのアルミニウム薄膜からなる下部電極層3をスパッタ法で形成し、次いで上記組成物Aをスピンコート法(回転数:3000rpm)により20秒間塗布し、ホットプレートを用いて200℃で2分間乾燥させた後、酸素雰囲気中、450℃で5分間、焼成を行って強誘電体層を形成した。上記の塗布−乾燥−焼成からなる操作を再度繰り返して強誘電体層4とした。
【0057】
さらに、該強誘電体層4上に、膜厚500nm、面積が1mmのアルミニウム製の上部電極層5を真空蒸着法により形成して誘電特性評価用試料とした。ヒステリシス特性などの評価結果を表1に示す。
【0058】
[例2]
例1と同様にシリコン基板上にアルミニウム薄膜からなる下部電極層3を形成し、次いで例1と同じ組成物Aをスピンコート法により塗布し、ホットプレートを用いて200℃で2分間乾燥させた後、大気雰囲気中、450℃で5分間、焼成を行って強誘電体層を形成した。上記の塗布−乾燥−焼成からなる操作を再度繰り返して強誘電体層4とした。
【0059】
次に、上記で得られた強誘電体層4上に、シリカゾル(東京応化工業製:商品名OCD T−2、SiO換算濃度:2.95質量%)からなる組成物Bをスピンコート法(回転数:3000rpm)により20秒間塗布し、ホットプレートを用いて200℃で2分間乾燥させた後、酸素雰囲気中、450℃で30分間、焼成を行って誘電体層を形成した。
【0060】
さらに、その上に例1と同じ上部電極層5を形成して誘電特性評価用試料とした。ヒステリシス特性などの評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の強誘電体薄膜を上部電極及び下部電極により挟持してなる強誘電体キャパシタは、半導体回路のメモリ素子として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】例1の強誘電体キャパシタの断面図を示す図
【符号の説明】
【0064】
1:半導体基板
2:絶縁膜
3:下部電極層
4:強誘電体層
5:上部電極層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体酸化物結晶の微粒子を酸化ケイ素マトリックスが結合した構成の強誘電体薄膜であって、
前記微粒子が、ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物を結晶化させた後にガラスマトリックス成分を除去することによって得られる、平均一次粒子径が20〜100nmの結晶性微粒子であり、
かつ、膜厚が80〜400nmである
ことを特徴とする強誘電体薄膜。
【請求項2】
下部電極層と、請求項1に記載の強誘電体薄膜からなる強誘電体層と、上部電極層とが基体上にこの順で設けられている強誘電体キャパシタ。
【請求項3】
下部電極層と前記強誘電体層との間及び前記強誘電体層と前記上部電極層との間の少なくとも一方に、強誘電体酸化物結晶の微粒子を実質的に含まない誘電体層を有する請求項2に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項4】
基体上に2層の電極層と該電極層間に挟持された強誘電体層とを有する強誘電体キャパシタを製造する方法において、下記工程A〜Dを含むことを特徴とする強誘電体キャパシタの製造方法。
工程A:基体上に下部電極層を形成する工程。
工程B:ガラスマトリックス中で強誘電体酸化物を結晶化した後、ガラスマトリックス成分を除去して平均一次粒子径が20〜100nmの結晶性微粒子を得る工程。
工程C:工程Bで得られた結晶性微粒子と、加水分解性シラン化合物又はそのオリゴマーと、液状媒体とを含む流動性組成物を塗布し、乾燥後200〜500℃で焼成して酸化ケイ素を形成することにより、強誘電体酸化物結晶の微粒子を酸化ケイ素マトリックスが結合した構成の膜厚80〜400nmの強誘電体層を形成する工程。
工程D:上部電極層を形成する工程。
【請求項5】
前記工程Aと工程Cとの間及び前記工程Cと工程Dとの間の少なくとも一方にさらに下記工程Eを含む、請求項4に記載の強誘電体キャパシタの製造方法。
工程E:加水分解性シラン化合物又はそのオリゴマーと液状媒体とを含む流動性組成物を塗布し、乾燥、焼成して酸化ケイ素からなる誘電体層を形成する工程。

【図1】
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【公開番号】特開2006−261491(P2006−261491A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78703(P2005−78703)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】