説明

形状測定装置および形状測定方法

【課題】顕微鏡の被写界深度を大幅に超えた立体形状を持つ被測定物を、被測定物や顕微鏡等を移動させることなく、短時間で効率的に、高精度な形状測定を行うことができる形状測定装置および形状測定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る形状測定装置1は、被測定物100に向けて平行光Rを照射する照明装置30と、被測定物100を挟んで照明装置30と対向する位置に、前記平行光の光軸と自身の光軸が一致するように配置される被写界深度の大きな顕微鏡40と、顕微鏡40により拡大された被測定物100の像を、0.2μm乃至2μmの分解能で撮像するカメラ50と、平行光Rが被測定物100の測定部分の外周形状を映し出すように平行光R内に被測定物100の測定部分を配置する保持装置20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の形状、特に微小切削工具の形状を測定する形状測定装置および形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント回路基板や半導体パッケージ等の穴加工には、微小なドリル等の切削工具が使用されている。近年では、電子回路の小型化、集積化に伴い、このような穴加工等の機械加工に対してミクロン単位の加工精度が要求されるようになってきている。
【0003】
加工精度の向上には、微小切削工具の形状精度を向上させることが重要であり、微小切削工具の製造においては、多様な項目の形状測定からなる形状検査が実施されている。工具の大きさが微小になると、マイクロメータやダイヤルゲージ等による形状測定が不可能となるため、微小切削工具の形状検査では、顕微鏡等で拡大した像を撮像して画像処理を行う方法(例えば、特許文献1参照)や、透過型または反射型レーザ装置を用いた方法(例えば、特許文献2参照)等が採用されている。
【特許文献1】特開2000−74644号公報
【特許文献2】特開2003−207318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、顕微鏡等で拡大した像を撮像する方法においては、拡大率によっては被写界深度がせいぜい数十ミクロンから数ミクロン程度となるため、工具の輪郭が3次曲線で構成されているような場合、撮像範囲のうち一部の合焦点部分については鮮明な画像が得られるが、その他の被写界深度を超える部分については不鮮明な画像しか得ることができないという問題があった。
【0005】
特に、螺旋状の溝が形成されたツイストドリルのウェブ厚を全長にわたって測定する場合や、エンドミルの刃先形状を測定するような場合は、被写界深度を大幅に超える範囲の撮像が必要となるため、一度の撮像で鮮明な画像を得ることができず、工具または顕微鏡を移動させながら複数回の撮像を行い、これにより得られた複数の画像を合成した上で画像処理を行う必要があった。
【0006】
同様に、透過型または反射型のレーザ装置を用いた方法においても、上述のような測定を行う場合には工具またはレーザ装置を移動または回転させて測定を行う必要があった。
【0007】
従って、上記特許文献1または2に示されるような従来の測定方法によってツイストドリルやエンドミル等の複雑な形状を有する工具の形状を測定する場合、被測定物である工具、または顕微鏡もしくはレーザ装置等を移動または回転させながら測定を行う必要があるため、測定に時間がかかり、効率が悪いという問題があった。また、測定精度が移動または回転の精度に制約されるため、精度の高い測定を行うには、工具や顕微鏡等を高精度に移動させるための移動機構が必要となるため、装置が複雑になると共にコストが上昇するという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、被測定物や顕微鏡等を移動または回転させることなく、短時間で効率的に、高精度な形状測定を行うことができる形状測定装置および形状測定方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、被測定物に向けて平行光を照射する照明装置と、前記被測定物を挟んで前記照明装置と対向する位置に、前記平行光の光軸と自身の光軸が一致するように配置される顕微鏡と、前記顕微鏡により拡大された前記被測定物の像を、0.2μm乃至2μmの分解能で撮像するカメラと、前記平行光が前記被測定物の測定部分の外周形状を映し出すように前記平行光内に前記被測定物の測定部分を配置する保持装置と、を備え、前記顕微鏡の被写界深度を超える前記被測定物の立体形状を測定することを特徴とする、形状測定装置である。
【0010】
(2)本発明はまた、前記カメラの1画素に対応する前記被測定物の撮像範囲が0.2μm乃至2μmに設定されることを特徴とする上記(1)に記載の形状測定装置である。
【0011】
(3)本発明はまた、前記被測定物は、棒状であり、測定部分の外径が0.01mm乃至0.2mmであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の形状測定装置である。
【0012】
(4)本発明はまた、前記被測定物は、外周面に螺旋状の溝が形成されており、前記保持装置は、前記平行光の光軸と前記螺旋状の溝の一部が平行となるように前記被測定物を配置することを特徴とする、上記(1)、(2)または(3)に記載の形状測定装置である。
【0013】
(5)本発明はまた、前記被測定物は、切削工具であることを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の形状測定装置である。
【0014】
(6)本発明はまた、前記被測定物は、ドリルであることを特徴とする、上記(5)に記載の形状測定装置である。
【0015】
(7)本発明はまた、平行光を照射する照明装置と、前記平行光の光軸と自身の光軸が一致するように配置された顕微鏡との間において、被測定物の測定部分を、前記平行光が前記被測定物の測定部分の外周形状を映し出すように、前記平行光内に配置し、前記顕微鏡により拡大された前記被測定物の測定部分の像を、0.2μm乃至2μmの分解能で撮像することで、前記顕微鏡の被写界深度を超える前記被測定物の立体形状を測定することを特徴とする、形状測定方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る形状測定装置および形状測定方法によれば、被測定物や顕微鏡等を移動させることなく、短時間で効率的に、高精度な形状測定を行うことができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するためのひとつの形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。
【0018】
まず、本実施形態に係る形状測定装置1の構成について説明する。図1は形状測定装置1の平面図であり、図2は形状測定装置1の正面図である。これらの図に示されるように、形状測定装置1は、ベース10と、ベース10上面の中央やや左よりに配設された保持装置20と、保持装置20の左側のベース10上面に配設された照明装置30と、保持装置20の右側のベース10上面に配設された顕微鏡40と、顕微鏡40に配設されたカメラ50と、カメラ50と電気的に接続された画像処理装置60から構成されている。
【0019】
ベース10は、略直方体状の定盤であり、形状測定装置1の基台となる部分である。なお、本実施形態では、保持装置20、照明装置30、顕微鏡40およびカメラ50を1つのベース10の上面に一体的に配設しているが、これらの保持装置20、照明装置30、顕微鏡40およびカメラ50を複数の基台上に分けて配設するようにしてもよい。
【0020】
保持装置20は、被測定物100を保持する装置であり、ベース10上面に配設された回転ステージ22と、回転ステージ22の上面に配設された保持スタンド24と、保持スタンド24の上部に設けられたチャック26から構成されている。
【0021】
回転ステージ22は、略円盤状の部材であり、略水平面において自身の中心軸周りに回転自在に、ベース10上面に配設されている。この回転ステージ22は、図示を省略したモータまたは手動によって回転すると共に、任意の回転角度で静止状態を維持することが可能に構成されている。本実施形態では、この回転ステージ22を回転させることによって、被測定物100の向きを照明装置30が発する平行光Rの光軸に対して所定の角度に傾けるようになっている。また、図示は省略しているが、回転ステージ22の上面は、保持スタンド24を任意の位置に配設可能に構成されている。
【0022】
保持スタンド24は、被測定物100の測定部分が顕微鏡40の観察範囲内となるように、回転ステージ22の上面において被測定物100の寸法に応じた適宜の位置に配設されている。また、図示は省略しているが、保持スタンド24には、チャック26を昇降させて被測定物100の保持高さを変更可能な昇降機構が設けられている。
【0023】
チャック26は、被測定物100を複数の部材によって挟持するように構成されている。また、チャック26は、図示を省略したモータまたは手動によって、保持した被測定物100を軸心周りに回転可能に構成されている。すなわち、本実施形態では、チャック26に保持した被測定物100を被測定物100の軸心周りに回転させ、任意の回転角度で静止状態を維持させることが可能となっている。
【0024】
照明装置30は、被測定物100に向けて平行光Rを照射する装置であり、LED等の光源、およびコリメータレンズ等の平行光生成部から構成されている。この照明装置30は、顕微鏡40から見た場合に、被測定物100の背後から顕微鏡40の観察範囲内に平行光Rを照射するように配設されている。
【0025】
顕微鏡40は、複数のレンズを組み合わせて構成されており、被測定物100の拡大された像を得るためのものである。顕微鏡40は、照明装置30が発する平行光Rの光軸(進行方向)と自身の光軸(撮像方向)が一致するように配設されている。なお、本実施形態では、顕微鏡40の拡大率は、ズーム機能および付加レンズ等によって被測定物100の寸法に応じた適宜の拡大率に変更することが可能となっている。
【0026】
カメラ50は、本実施形態ではCCDカメラであり、顕微鏡40によって拡大された被測定物100の像を撮像するものである。本実施形態のカメラ50は、サイズが1/1.8インチ(7.18mm×5.32mm)、画素数が192万画素(1600×1200)の撮像素子(CCD)を備えている。従って、一画素の寸法が約4.4μm×4.4μmであるため、例えば顕微鏡40のズーム拡大率を3.3倍とした場合、1画素当たり約1.3μmの撮像を行うことが可能となっている。これにより、約1.3μmの分解能を得るようにする。
【0027】
本実施形態では、上述のように顕微鏡40の拡大率を変更することによって、被測定物に合わせた分解能を得ることが可能となっている。具体的には、顕微鏡40の拡大率を2.2倍〜22倍の範囲で変化させることにより、1画素当たり約2μm〜約0.2μmの範囲の撮像を行うことが可能となっている。これにより、約2μm〜約0.2μmの範囲の分解能を確保することが可能である。なお、カメラ50の備える撮像素子のサイズまたは画素数の変更によっても分解能を変化させることができる。
【0028】
上述のように、照明装置30は被測定物の背後から平行光Rを照射するため、カメラ50は、被測定物100の拡大されたシルエット像を撮像することとなる。カメラ50によって撮像された画像データは、ケーブル52を介して画像処理装置60に出力される。
【0029】
画像処理装置60は、カメラ50から出力された画像データに基づいて各種画像処理や演算処理を実行することによって、被測定物100の測定データを導出する装置である。画像処理および演算処理の詳細については説明を省略するが、各種の既知の手法を採用することができる。カメラ50によって撮像された画像データ、および画像処理装置60によって導出された測定データは、図示を省略したハードディスク等の記憶媒体に記憶されると共に、必要であれば図示を省略した表示装置やプリンタ等に出力される。
【0030】
次に、本実施形態に係る被測定物100について説明する。図3(a)は、被測定物100の外観を示した図である。本実施形態では、被測定物100はマイクロドリルであり、同図に示されるように、小径のボディ部110、および大径のシャンク部120から構成されている。
【0031】
図3(b)は、被測定物100のボディ部110を拡大して示した図である。同図に示されるように、ボディ部110は、先端に2つの切れ刃112が形成されると共に、外周面に2条の螺旋状の溝114が形成された、いわゆるツイストドリルとなっている。本実施形態の被測定物100は、ボディ部110の外径Dが0.1mm、溝長Lが1.2mm、ねじれ角θが37度となっている。なお、本実施形態に係る形状測定装置1は、その他の寸法のマイクロドリルについても形状測定可能であることは言うまでもない。
【0032】
図4(a)および(b)は、被測定物100のボディ部110の断面を示した図であり、同図(a)はボディ部110の中間部の断面を示した図であり、同図(b)はボディ部110の基端部の断面を示した図である。これらの図に示されるように、本実施形態の被測定物100では、ウェブ厚T(2条の溝114の底部の間の厚み)が先端から基端に向けて漸次増大するようになっており、いわゆるウェブテーパが設けられている。
【0033】
ボディ部各部におけるウェブ厚、およびウェブテーパの傾斜度は、マイクロドリルの性能および品質に直結する重要な形状パラメータとなっており、マイクロドリルの重要な検査項目となっている。
【0034】
次に、形状測定装置1による被測定物100のウェブ厚T、およびウェブテーパの傾斜度の測定手順について説明する。
【0035】
図5は、ウェブ厚Tおよびウェブテーパの傾斜度を測定する場合の撮像方向を示した図である。同図では、撮像方向を左向きの矢印で示している。被測定物100はツイストドリルであるため、溝114が螺旋状に形成されている。従って、溝114の断面形状を撮像するには、溝114の一部と平行となる方向、すなわち被測定物100の軸心からねじれ角θだけ傾いた方向から撮像する必要がある。
【0036】
従って、形状測定装置1では、まず、チャック26に被測定物100を固定した後に、回転ステージ22をねじれ角θだけ回転させることによって、被測定物100の上側の溝114が顕微鏡40の光軸(撮像方向)と平行になるようにする。これにより、被測定物100の上側の溝114は、照明装置30から照射される平行光Rの光軸とも平行になる。そして、照明装置30によって平行光Rを被測定物100に照射し、顕微鏡40により拡大された被測定物100の像をカメラ50で撮像する。次に、被測定物100を180度回転させて、先程とは上下を逆にした状態の被測定物100を撮像する。
【0037】
図6は、照明装置30から照射される平行光Rの進路を示した図である。同図に示されるように、照明装置30から照射される平行光Rは、照明装置30から顕微鏡40に向けて直線的に進行し、最終的に顕微鏡40内に進入する。このときに、被測定物100によって遮られた部分は影となるため、顕微鏡40によって拡大された像は、被測定物100の外周形状が映し出されたシルエット像となる。また、上述のように平行光Rの光軸は被測定物100の上側の溝114と平行となっているため、平行光Rの一部は上側の溝114に沿って溝114内を通過して顕微鏡40内に進入する。すなわち、本実施形態では、上側の溝114の断面形状が表現されたシルエット像が得られるようになっている。また、本実施形態では、被測定物100のボディ部110の全範囲に平行光Rを照射する(平行光Rの照射範囲内にボディ部110を配置する)ことによって、溝114の全範囲を一度に撮像するようになっている。
【0038】
図7は、形状測定装置1によって実際に撮像した被測定物100の画像である。同図に示されるように、形状測定装置1によれば、溝114の先端から基端までの全範囲を一度に撮像し、鮮明な画像を得ることができる。
【0039】
画像処理装置60は、各種画像処理および演算処理を実行し、撮像した2つの画像データについて上側の溝114の底部から軸心までの距離をそれぞれ算出する。そして、2つの画像データから得られた値を加算することによって溝114の先端側端部から基端側端部までの各部分のウェブ厚Tを算出する。そして、先端側端部から基端側端部までのウェブ厚Tの変化率からウェブテーパの傾斜度を算出する。
【0040】
このように、本実施形態に係る形状測定装置1では、溝114の先端から基端までの全範囲を一度に撮像することが可能であり、2回の撮像で効率的にウェブ厚Tおよびウェブテーパの傾斜度を測定することができるようになっている。
【0041】
なお、被測定物100を撮像方向からねじれ角θだけ傾けた場合、図5に示されるように、溝の先端側端部から基端側端部までの距離Sは、S=L×cosθ=1.2×cos(37)≒0.96mmとなる。
【0042】
被測定物100の位置のばらつきを考慮すると、測定を行うためには被測定物100よりも大きな範囲の画像が必要となる。従って、被測定物100の溝114の全範囲を一度に撮像するには、0.96mm以上の被写界深度が必要となる。しかしながら、例えば本実施形態で採用している顕微鏡40は、長焦点タイプではあるものの被写界深度は約0.35mmとなっている。すなわち、顕微鏡40を従来通りに使用したのでは、溝114の1/3程度の領域しか鮮明な画像を得ることができない。
【0043】
そこで、本実施形態の形状測定装置1では、長焦点タイプの顕微鏡40と平行光Rを照射する照明装置30を組み合わせることによって顕微鏡40の被写界深度を大幅に超える立体形状である溝114の全範囲を一度に撮像することを可能としている。以下、図8(a)〜(d)を用いて、その原理について説明する。
【0044】
図8(a)〜(d)は、レンズを通過する光の進路、およびレンズにより生成される像を示した概略図である。なお、実際の顕微鏡40は、複数のレンズが組み合わされた構造となっているが、基本的な原理はレンズが1つの場合と同じなので、ここでは、1つの凸レンズを使用した場合に簡略化して説明する
同図(a)および(b)は、通常の照明装置を使用した場合を示した図である。通常の照明装置からは、様々な方向へ光がランダムに照射される。これらの光のうち、例えば、レンズ42の光軸と平行に進む平行光R1はレンズ42で屈折して反対側の焦点Fを通過し、レンズ42の中心を通過する光R2はそのまま直進し、レンズ42の手前の焦点Fを通過した光R3はレンズ42で屈折してレンズ42の光軸と平行な方向に進む。
【0045】
このようなレンズの特性により、同図(a)に示されるように、合焦点位置Aに配置された物体200表面の1点を通過した光は、カメラ50のCCD面Cにおいて1点に収束する。すなわち、カメラ50のCCD面Cには、ピントの合った鮮明な像200aが生成される。
【0046】
しかし、同図(b)に示されるように、合焦点位置Aから離れたその他の位置Bに配置された物体202表面の1点を通過した光は、CCD面Cの手前の位置Dで1点に収束し、CCD面Cにおいては比較的大きな幅Wの範囲に分散する。従って、CCD面Cには、輪郭が幅Wの範囲でぼやけた不鮮明な像202aが生成されることとなる。このように、輪郭が比較的大きな幅でぼやけた像202aからは、画像処理によって物体202の輪郭を特定することは困難であり、形状測定は不可能となる。
【0047】
同図(c)および(d)は、本実施形態に係る照明装置30を使用した場合を示した図である。照明装置30はレンズ42の光軸と平行に進む平行光Rを照射するためのものであるが、一部の光は若干拡散し、平行光Rに対して角度を有する方向に進む拡散光R4となる。なお、同図(c)および(d)では、平行光Rに対する角度が最大となる拡散光R4を図示している。
【0048】
同図(c)に示されるように、合焦点位置Aに配置された物体200表面の1点を通過した平行光Rおよび拡散光R4は、同図(a)の場合と同様に、カメラ50のCCD面Cにおいて1点に収束し、CCD面Cには、ピントの合った鮮明な像200aが生成される。一方、同図(d)に示されるように、その他の位置Bに配置された物体202表面の1点を通過した光は、同図(b)の場合と同様に、CCD面Cの手前の位置Dで1点に収束し、CCD面Cにおいて幅Wの範囲に分散する。
【0049】
しかし、照明装置30から照射される拡散光R4は、通常の照明装置から照射されるランダムな光と比べて遙かに広がりが小さい、すなわち拡散光R4の平行光Rに対する角度はごく小さいものであるため、CCD面Cにおいて光が分散する幅Wは、同図(b)の場合と比較して小さいものとなる。従って、同図(d)の場合は、CCD面Cにおいて、輪郭が若干ぼやけてはいるものの十分な精度で形状測定を行うことが可能な像202aが生成されることとなる。
【0050】
このように、本実施形態に係る形状測定装置1では、平行光Rを照射する照明装置30を使用することによって、顕微鏡40のレンズ42の合焦点位置Aから離れたその他の位置Bに配置された物体202についても、十分に鮮明な像を撮像することが可能となっている。すなわち、形状測定装置1は、顕微鏡40(レンズ42)の持つ被写界深度よりも大きな被写界深度で被測定物100を撮像することが可能となっている。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る形状測定装置1は、被測定物100に向けて平行光を照射する照明装置30と、被測定物100を挟んで照明装置30と対向する位置に平行光の光軸と自身の光軸が一致するように配置される顕微鏡40と、顕微鏡40により拡大された被測定物100の像を、0.2μm乃至2μmの分解能で撮像するカメラ50と、平行光が被測定物100の測定部分の外周形状を映し出すように平行光内に被測定物100の測定部分を配置する保持装置20と、を備え、顕微鏡40の被写界深度を超える被測定物100の立体形状を測定する。
【0052】
また、本実施形態に係る形状測定方法は、平行光を照射する照明装置30と、平行光の光軸と自身の光軸が一致するように配置された顕微鏡40との間において、被測定物100の測定部分を、平行光が被測定物100の測定部分の外周形状を映し出すように、平行光内に配置し、顕微鏡40により拡大された被測定物100の測定部分の像を、1画素あたり0.2μm乃至2μmの範囲で撮像する。
【0053】
このようにすることで、微小な被測定物を拡大して撮像する場合に、十分な分解能を得ながらも被写界深度を大きくすることが可能となり、被測定物の広い範囲にわたって鮮明な画像を撮像することができる。従って、例えばドリル等の螺旋状の溝のように、被測定物の測定部分の輪郭が3次曲線で構成されているような場合であっても、一度の撮像で測定部分の全範囲の鮮明な画像を得ることが可能となる。これにより、被測定物100や顕微鏡40を移動させることなく、短時間で効率的に形状の測定を行うことができる。
【0054】
また、保持装置20は、平行光の光軸と螺旋状の溝114の一部が平行となるように被測定物100を配置するため、螺旋状の溝の全範囲についての鮮明な画像を、一度の撮像で得ることができる。また、溝114の断面形状を正確に撮像することができるため、高精度な形状測定を行うことができる。
【0055】
なお、本発明は、極めて広い被写界深度を持ち、且つ、高い分解能を実現しているため、被測定物100の測定部分の外径が0.01mm乃至0.2mmである場合に特に好適である。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、被測定物100の測定部分の外径は0.2mmより大きくてもよい。
【0056】
また、本発明は、一度の撮像で、立体形状を広い奥行き測定範囲にわたって鮮明な画像を得ることができるため、輪郭が3次曲線で構成された複雑な形状を有すると共に厳しい形状精度が要求される切削工具の形状を測定する場合に好適である。また、一度の撮像で螺旋状の溝の全範囲の鮮明な画像を得ることができるため、ドリルまたはエンドミルを測定する場合に特に好適である。
【0057】
また、カメラの撮像素子の寸法と画素数によって適宜変更は必要となるが、例えば、一画素の寸法が約4.4μm×4.4μmで、画素数が192万画素(1600×1200)の撮像素子(CCD)の場合には、顕微鏡40の拡大率は2.2倍乃至22倍であることが望ましい。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、顕微鏡40の拡大率は2.2倍未満であってもよいし、22倍より大きくてもよい。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明に係る形状測定装置および形状測定方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0059】
例えば、カメラ50は、上記実施形態で示したCCDカメラに限定されるものではなく、CMOSカメラ等その他の方式のカメラであってもよい。
【0060】
また、上記実施形態ではマイクロドリルを測定する場合の例を示したが、本発明に係る形状測定装置および形状測定方法によれば、ドリル以外にも、エンドミル、リーマ、フライスおよびホブ等の各種切削工具の形状測定を効率的に行うことができる。また、本発明に係る形状測定装置および形状測定方法によれば、例えばネジ、スクリュおよびカム等の切削工具以外の各種物品についても形状測定を効率的に行うことができる。
【0061】
また、本発明の実施の形態に記載された作用および効果は、本発明から生じるひとつの好適な作用および効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用および効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の形状測定装置および形状測定方法は、ドリルやエンドミル等の切削工具の形状測定だけでなく、ネジやカムその他の各種物品の形状測定の分野においても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の携帯に係る形状測定装置の平面図である。
【図2】形状測定装置の正面図である。
【図3】(a)被測定物の外観を示した図である。(b)被測定物のボディ部を拡大して示した図である。
【図4】(a)および(b)被測定物のボディ部の断面を示した図である。
【図5】ウェブ厚およびウェブテーパの傾斜度を測定する場合の撮像方向を示した図である。
【図6】照明装置から照射される平行光の進路を示した図である。
【図7】形状測定装置によって実際に撮像した被測定物の画像である。
【図8】(a)〜(d)レンズを通過する光の進路、およびレンズにより生成される像を示した概略図である。
【符号の説明】
【0064】
1 形状測定装置
20 保持装置
30 照明装置
40 顕微鏡
50 カメラ
100 被測定物
114 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物に向けて平行光を照射する照明装置と、
前記被測定物を挟んで前記照明装置と対向する位置に、前記平行光の光軸と自身の光軸が一致するように配置される顕微鏡と、
前記顕微鏡により拡大された前記被測定物の像を、0.2μm乃至2μmの分解能で撮像するカメラと、
前記平行光が前記被測定物の測定部分の外周形状を映し出すように前記平行光内に前記被測定物の測定部分を配置する保持装置と、を備え、
前記顕微鏡の被写界深度を超える前記被測定物の立体形状を測定することを特徴とする、形状測定装置。
【請求項2】
前記カメラの1画素に対応する前記被測定物の撮像範囲が0.2μm乃至2μmに設定されることを特徴とする請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項3】
前記被測定物は、棒状であり、測定部分の外径が0.01mm乃至0.2mmであることを特徴とする、
請求項1または2に記載の形状測定装置。
【請求項4】
前記被測定物は、外周面に螺旋状の溝が形成されており、
前記保持装置は、前記平行光の光軸と前記螺旋状の溝の一部が平行となるように前記被測定物を配置することを特徴とする、
請求項1、2または3に記載の形状測定装置。
【請求項5】
前記被測定物は、切削工具であることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載の形状測定装置。
【請求項6】
前記被測定物は、ドリルであることを特徴とする、
請求項5に記載の形状測定装置。
【請求項7】
平行光を照射する照明装置と、前記平行光の光軸と自身の光軸が一致するように配置された顕微鏡との間において、
被測定物の測定部分を、前記平行光が前記被測定物の測定部分の外周形状を映し出すように、前記平行光内に配置し、前記顕微鏡により拡大された前記被測定物の測定部分の像を、0.2μm乃至2μmの分解能で撮像することで、
前記顕微鏡の被写界深度を超える前記被測定物の立体形状を測定することを特徴とする、形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−122086(P2010−122086A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296339(P2008−296339)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(508345139)エフエー・ビジョン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】