説明

形状測定装置

【課題】毛髪表面の断面形状(表面輪郭形状)、毛髪表面の段差を高精度に測定できる形状測定装置の実現。
【解決手段】測定すべき毛髪に向けて走査ビームを投射する対物レンズ13を含み、毛髪からの反射光を受光して毛髪表面の共焦点画像を撮像する共焦撮像装置と、複数の毛髪を、その長手軸線方向であるX軸方向に支持すると共にX軸と直交するY軸方向そって所定の間隔で整列支持する毛髪支持手段15と、X軸方向及びY軸方向に移動可能で、前記毛髪支持手段を支持するステージ14とその駆動手段と、対物レンズとステージとの間の相対距離を変化させる手段16と、共焦点撮像装置から出力される画像信号に基づき、毛髪表面の断面画像情報及び/又は毛髪表面に存在する段差の大きさを示す段差情報を出力する信号処理装置10とを有する。ステージは、測定される毛髪の本数及び測定点の座標情報に基づき、ジグザグ状に設定された移動経路に沿って移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪の表面形状、特に毛髪表面の断面画像や毛髪表面に存在する段差の大きさを示す段差情報を出力する形状測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛髪の表面には、薄い層状の毛小皮であるキューティクルが毛根から毛先に向かって形成されている。このキューティクルは、毛髪の痛み度合いと関連しており、キューティクルが剥がれると枝毛や切れ毛の原因となる。また、キューティクルの成分は、ケラチン(タンパク質)であり、アルカリ性の溶液に溶けやすい性質がある。よって、石鹸やシャンプーは油分を落とすアクカリ性のため、シャンプーを頻繁に用いると、キューティクルが剥離する原因となるだけでなく、キューティクルの毛羽立ちやリストアップの原因となる。これに対して、シャンプーの後に用いられるリンスは酸性であり、シャンプーされた毛髪を弱酸性に戻し、油分を補う効果がある。従って、毛髪表面の断面形状や段差の大きさを測定することは、シャンプーやリンス等の化粧品の性能評価を行う上で、極めて有益な方法である。
【0003】
毛髪表面の凹凸形状を測定する方法として、レーザ顕微鏡を用いる測定方法が既知である(例えば、特許文献1参照)。この既知の測定方法では、測定されるべき毛髪について、そのレプリカが作成され、レプリカの表面の形状がレーザ顕微鏡により観察されている。そして、レプリカを光軸方向に移動させながら画像が形成され、一走査線上の凹凸データが取得されている。
【特許文献1】特開平5−256631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
毛髪表面の凹凸の大きさないし段差の大きさは、0.5μm程度である。従って、毛髪のレプリカを作成し、作成されたレプリカの表面形状を測定する方法では、測定誤差に加えてレプリカ作成工程における誤差が加算されるため、最終的な誤差が大きすぎ、測定データの信頼性に問題があった。
【0005】
各種化粧品の性能評価に有益なデータを取得するには、1本の毛髪について多数の測定点について測定を行って、測定精度を高める必要がある。しかしながら、1本の毛髪について手動で測定点を位置決めしながら測定したのでは、毛髪の測定点の位置合せが煩雑であり、測定に長時間かかる不具合が発生する。
【0006】
さらに、測定された凹凸データについて、手動で凹部及び凸部の高さ方向の位置を計測して段差の大きさを求めたのでは、高さ測定に長時間かかり、例えば性能評価に必要なデータの取得に1週間程度かかる不具合が生じてしまう。
【0007】
本発明の目的は、毛髪表面の断面形状(表面輪郭形状)を直接測定でき、毛髪表面の段差の大きさを高精度に測定できる形状測定装置を実現することにある。
さらに、本発明の別の目的は、1回の測定操作により複数本の毛髪について測定できると共に各毛髪について多数の測定点が設定されても短時間で測定できる形状測定装置を提供することにある。
さらに、本発明の別の目的は、毛髪の表面段差の大きさを多数の測定点について自動的に測定できる形状測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による形状測定装置は、毛髪の断面輪郭形状を測定する形状測定装置であって、
測定すべき毛髪に向けて走査ビームを投射する対物レンズを含み、毛髪からの反射光を受光して毛髪表面の共焦点画像を撮像する共焦撮像装置と、
複数の毛髪を、その長手軸線方向であるX軸方向に支持すると共にX軸と直交するY軸方向そって所定の間隔で整列支持する毛髪支持手段と、
前記X軸方向及びY軸方向に移動可能に支持され、前記毛髪支持手段を支持するステージと、
前記対物レンズとステージとの間の相対距離を変化させる手段と、
前記ステージをX軸方向及びY軸方向に移動させるステージ駆動手段と、
共焦点撮像装置から出力される画像信号に基づき、毛髪表面の断面画像情報及び/又は毛髪表面に存在する段差の大きさを示す段差情報を出力する信号処理装置とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明では、光ビームにより試料表面を2次元走査する共焦点撮像装置ないし共焦点走査装置を用い、対物レンズと毛髪との間の相対距離を変えながら複数の2次元共焦点画像を撮像する。撮像された2次元共焦点画像と対物レンズと毛髪との間の相対距離情報とを用い、毛髪表面の3次元画像を形成し、3次元画像情報を用いて毛髪の長手軸線方向に沿って切って示す断面形状画像を作成する。断面形状画像を形成することにより、毛髪の長手軸線方向の位置に対する表面高さ分布を示す表面高さ分布曲線が得られる。当該表面高さ分布曲線について微分処理を行うことにより、毛髪表面に存在する段差の山の部位に対応する第1の変曲点及びその表面高さ並びに谷の部位に相当する第2の変曲点及びその高さ位置が検出される。そして、これら第1の変曲点における表面高さ位置と第2の変曲点の表面高さ位置との差分を検出することにより、毛髪表面に形成された段差ないしキューティクルの大きさが自動的に測定することができる。
【0010】
本発明では、毛髪を整列支持する支持手段を用い、測定される複数の毛髪を X軸方向及びこれと直交するY軸方向並びにX軸及びY軸と直交するZ軸方向に整列支持する。支持手段は、X軸方向に延在すると共にY軸方向にそって所定のピッチで形成した複数の支持溝を有し、これらの支持溝内に測定すべき毛髪を配置する。そして、ステージのX及びY方向の移動を制御するステージ制御手段を設け、ステージ制御手段によりジグザグ状のステージ移動経路を設定する。操作者がキーボードのような入力装置を用いて1回の測定操作により測定される毛髪の本数及び毛髪1本当たりの測定点数を入力すると、ステージの移動経路が自動的に規定されるので、1本の毛髪当たり多数の測定点が設定されても、短時間で測定を完了することができ、測定のスループットが大幅に同大する利点が達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、測定される複数の毛髪をX、Y及びZ軸方向に整列支持する支持手段を用いると共に、ステージのX及びY軸方向に沿うジグザグ状の移動経路を設定するステージ制御手段を用いているので、1回の測定操作で多数の毛髪について測定できると共に毛髪1本当たりに多数の測定点が設定されても、短時間で毛髪表面の段差を測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による形状測定装置の光学系の構成を示す図である。
【図2】毛髪支持手段の一例を示す図である。
【図3】ステージの移動経路を示す図である。
【図4】毛髪の断面形状を示す表面高さ分布曲線の実測値を示すグラフである。
【図5】信号処理装置の一例を示す図である。
【図6】キューティクルごとに段差の大きさを算出するアルゴリズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明による形状測定装置の光学系の構成を示す線図である。本発明では、共焦点撮像装置を用いて毛髪表面の断面輪郭形状を撮像する。図1を参照するに、照明光源1として、水銀ランプを用いる。尚、キセノンランプ等の水銀ランプ以外の種々の照明光源も用いることができる。照明光源1から出射した照明ビームは、複数の光ファイバが円形に積層された光ファイババンドル2に入射し、光ファイバを伝搬して、断面がほぼ円形の発散性ビームとして出射し、フィルタ3に入射する。フィルタ3は、入射した光ビームから例えば緑の波長光(e線:波長546nm)を出射させる。フィルタから出射した光ビームは、集束性レンズ4により平行ビームに変換されてスリット5に入射する。スリット5は、集束性レンズ4の瞳位置に配置され、第1の方向(紙面と直交する方向)に延在する細長い開口部を有する。ここで、第1の方向は、毛髪の長手軸線であるX方向に対応する。スリット5の開口部の幅は、例えば10〜20μmに設定する。従って、スリット5から第1の方向に延在する細長いライン状の光ビームが出射する。このライン状の光ビームは、ビームスプリッタとして機能するハーフミラー6で反射し、リレーレンズ7を経て走査装置として機能する振動ミラー8に入射する。
【0014】
振動ミラー8には、駆動回路9が接続され、駆動回路9は信号処理装置10から供給される制御信号に基づき振動ミラーを駆動する。振動ミラー8は、所定の偏向角度だけ回動し、入射するライン状の光ビームを第1の方向と直交する第2の方向(Y方向)に偏向するビーム走査装置として機能する。信号処理装置10は、振動ミラーの回転角度情報に基づいて、光ビームのY方向の位置情報を取得する。尚、振動ミラーの代りに、ポリゴンミラー等の他の走査装置を用いることも可能である。振動ミラー8から出射したライン状の光ビームは、リレーレンズ11及び12を経て対物レンズ13に入射する。
【0015】
対物レンズ13は、入射したライン状の光ビームを集束し、ステージ14に配置したプレート状の毛髪支持部材15上に整列支持される毛髪に向けて投射する。従って、毛髪の表面は、第1の方向(X方向)に延在するライン状の光ビームにより、直交する第2の方向(Y方向)に走査される。
【0016】
対物レンズ13にはモータ16が連結され、信号処理装置10から供給される駆動制御信号により光軸方向に沿って移動することができる。対物レンズの光軸方向の位置は位置センサ17により検出され、信号処理装置10に供給される。ここで、モータ16は、対物レンズとステージ上の毛髪との間の光軸方向の相対距離、すなわち、光ビームの集束点と毛髪との間の相対距離を変化させる手段として機能する。尚、対物レンズは、例えば10nmの分解能で光軸方向に移動することができる。
【0017】
共焦点走査装置の特性より、対物レンズ13を光軸方向に移動させながら振動ミラー8を駆動して毛髪の表面の2次元共焦点画像を複数回撮像し、各画素毎に最大輝度値を発生する光軸方向の位置を検出することにより、毛髪表面の3次元形状情報(3次元画像)を取得することができる。また、取得した3次元形状情報に基づき、毛髪の表面形状を断面として示す表面輪郭形状(断面形状情報)を取得することができる。
【0018】
ステージ14は、XYステージにより構成され、信号処理装置10から供給される駆動信号に基づきX軸方向及びY軸方向に自在に移動する。また、ステージのX及びY方向の位置情報は、ステージ位置センサ18により検出され、ステージの位置情報として信号処理装置10に供給される。後述するように、ステージ14はX方向及びY方向にジッグザッグ状に移動し、1回の一連の撮像操作により複数本の毛髪について設定された複数の測定点の3次元画像を撮像する。尚、信号処理装置10は、画像情報を処理する処理装置として機能すると共にステージの移動を制御するステージ制御手段としても機能する。ステージの移動を制御するステージ制御手段として、信号処理装置10は別にコントローラを設けることも可能である。
【0019】
測定されるべき毛髪は、毛髪支持部材15上にX及びY方向に整列支持する。毛髪からの反射ビームは、対物レンズ13により集光され、リレーレンズ12及び11を経て振動ミラー8に入射し、振動ミラーによりデスキャンされる。振動ミラー8から出射した反射ビームは、結像レンズとして作用するレンズ7を通過し、ハーフミラー6を透過し、ポジショナ19を経てリニアイメージセンサ20に入射する。リニアイメージセンサ20は、第1の方向(X軸方向)と対応する方向に配列された複数の受光素子を有し、入射したライン状の反射ビームを受光する。リニアイメージセンサのライン状に配列された受光素子列は、枠により入射開口が制限されているから、各受光素子の前面にピンホールが配置されているものとほぼ同等である。従って、毛髪からの反射光をリニアイメージセンサにより受光することにより、共焦点光学系が構成される。
【0020】
リニアイメージセンサの各受光素子に蓄積された電荷は、信号処理装置10から供給される読出制御信号により順次読み出され、毛髪表面の1次元画像信号として出力される。リニアイメージセンサから出力される画像信号は、増幅器21で増幅され、信号処理装置10に供給される。信号処理装置は、画像処理ボードを有し、受け取った画像信号、振動ミラーの回転角度情報を用いて毛髪表面の2次元画像を生成する。
【0021】
測定すべき毛髪は、その長手軸線がX方向に延在するように毛髪支持手段15に装着され、X方向に所定の間隔で設定された複数の測定点において、対物レンズの光軸方向の位置を変えながら2次元画像が撮像される。従って、信号処理装置10は、リニアイメージセンサ20から出力される画像信号と対物レンズの位置情報とを用いて、毛髪の3次元画像を各測定点ごとに順次撮像する。
【0022】
図2は毛髪支持手段15及び装着された毛髪の状態を示す図であり、図2(A)は線図的平面図、図2(B)は側方から見た側面図であり、図2(C)は支持溝内に支持された毛髪の支持状態を示す図である。毛髪支持手段15は、支持プレート30を有する。支持プレート30には、第1の方向(X方向に対応する)に延在する支持溝31a〜31eを第1の方向と直交する第2の方向(Y方向に対応する)にそって所定の等間隔で形成する。尚、支持溝の数は5本に限られず、種々の本数に設定することができる。各支持溝31a〜31eの両端には、第1の把持手段32a〜32e及び第2の把持手段33a〜33eをそれぞれ設ける。支持溝31と第1及び第2の把持手段32及び33は同一軸線上に形成する。第1及び第2の把持手段32及び33は、V字状の溝と毛髪を把持する隙間を有し、毛髪の一端側をV字溝を介して隙間内に挟み込むことにより毛髪の端部が固定される。
【0023】
支持溝31a〜31eは、図2(B)に示すように、毛髪を収納支持するためのV字状の断面を有する。尚、支持溝の断面形状は、V字状に限らず、毛髪を支持する種々の形状に設定することができる。測定すべき毛髪は、V字状の支持溝内に配置することにより、その長手軸線はX方向に延在するように配置され、その両端を把持手段32及び33により把持する。これにより、毛髪は、その長手方向にテンションが作用した状態に支持され、X方向及びY方向に整列する。また、長手軸線方向にそってテンションが作用した状態で支持されるので、毛髪の測定エリアのほぼ全長にわたって対物レンズの光軸方向(Z軸方向)に対しても直線状に整列する。この結果、毛髪支持手段15を、その支持溝31a〜31eがX方向に対して平行となるようにステージ14上に配置すれば、測定されるべき毛髪は、その長手軸線が光ビームの延在方向(X方向)と平行に配列される。
【0024】
図3は、測定中におけるステージの移動経路を説明する図である。本例では、対物レンズ13はX及びY方向には固定され、毛髪が装着された毛髪支持手段を保持するステージ14をX及びY方向にジグザグ状に移動させて各毛髪に設定された測定点を順次移動する。本例では、毛髪支持手段15には、5本の毛髪がY方向に所定の間隔で整列支持され、ステージは、対物レンズの光軸が5本の毛髪上を順次走査するように移動する。各測定点において、ステージは静止し、対物レンズを光軸方向に移動させながら、ライン状の光ビームをY方向に走査して複数の2次元画像を撮像する。
【0025】
ステージの移動経路40は、移動開始点41から移動終了点42に至る間にジグザグ状に設定する。初めに、移動開始点41から移動を開始、第1の測定点43aに到達する。第1の測定点において、複数の2次元画像を撮像する。続けて、所定のピッチだけX方向に移動し、第2の測定点43bに到達し、同様に複数の2次元画像を撮像する。この動作を設定された測定点について順次繰り返す。本例では、1本の毛髪について6個の測定点が設定されるものとし、6個の測定点についての撮像動作が終了すると、1本の毛髪についての撮像操作は終了する。最終的に、5本の毛髪についてそれぞれ6個の測定点において複数の2次元画像を撮像する。勿論、説明の便宜上6個の測定点を図示したが、1本の毛髪に対する測定点の数は任意に設定することができ、入力された本数情報に対応した数の測定点が設定される。また、1回の測定操作により測定する毛髪の本数も任意に設定することができる。
【0026】
1本の毛髪について設定される測定点の座標情報は、X方向のステージの移動距離とキーボート等の入力装置を介して信号処理装置に入力された測定点の数から求めることができる。そして、信号処理装置は、入力された測定点の数とX方向のステージの移動距離とに基づいて各測定点の座標を算出し、得られた測定点の座標情報に基づきステージ移動経路上に所定の間隔で移動するようにステージを制御する。
【0027】
図3(B)は、1本の毛髪に設定された撮像エリア43を示す。本例では、ライン状光ビームは毛髪の延在方向であるX方向に延在するように設定され、ライン状光ビームをX方向と直交するY方向に走査することにより毛髪の2次元画像を撮像する。この場合、Y方向の走査時間は、振動ミラー8の回動角度で規定され、毛髪の直径は高々200μm程度であるから、振動ミラーの回動角度は極めて小さいものである。この結果、2次元画像の撮像時間は極めて短時間となり、高いスループットが達成される。
【0028】
図4は、図1〜図3に示す本発明による形状測定装置で実際に測定された1つの測定点における毛髪表面の断面形状(表面輪郭形状)を示す。図4において、横軸は毛髪の長手軸線方向位置を示し、縦軸は表面高さを示す。この測定データは、1つの測定点において撮像された毛髪の3次元画像の基準線(1本の走査線)上における表面高さ分布(表面高さ分布曲線)を示す。図4のデータに示されるように、毛髪表面に形成されているキューティクルの大きさが明瞭に撮像されており、各キューティクルは山の部分と谷の部分とで構成され、各キューティクルは毛髪の長手軸線方向に連続的に形成されている。この測定データより、表面高さ分布曲線における隣接する山の部分と谷の部分との間の表面高さがキューティクルの大きさないし毛髪表面の段差の大きさとなる。
【0029】
図4の測定データに基づき、本発明では、表面高さ分布曲線の隣接する山の部位の高さ位置と谷の部位における高さ位置との距離の差を求め、毛髪の表面段差の大きさないしキューティクル段差の大きさとする。表面高さ分布曲線について微分処理を行い、微係数が正から負に転換する変曲点が谷の部分に相当し、微係数が負から正に転換する変曲点が谷の部分に相当する。従って、互いに隣接する変曲点の表面高さ方向位置の値を求めることにより、表面段差の大きさが求められる。
【0030】
図5は、信号処理装置の一例を示す図である。初めに、ステージの移動経路の設定について説明する。キーボード装置のような入力装置50を介して、1回の測定操作により測定される毛髪の本数及び毛髪1本当たりの測定点数が入力される。この測定条件は、測定点ピッチ算出手段51に供給される。測定点ピッチ算出手段51は、ステージのX方向の移動全長距離d1(図3参照)と入力された毛髪1本当たりの測定点数から測定点間のピッチ(間隔)を算出する。算出された測定点間のピッチは毛髪の本数情報と共に移動経路設定手段52に供給される。移動経路設定手段52は、算出された測定点間のピッチd2と、毛髪支持手段15に形成されている支持溝のY方向の配列ピッチd3(図3参照)と、測定開始点41の座標とを用い、1回の測定操作におけるステージの移動経路を設定する。設定された移動経路は、ステージ駆動回路(図示せず)に供給され、ステージは設定された移動経路にそって測定点ごとに3次元画像を撮像する。そして、ステージが測定終了点42に到達すると、1回の測定操作は終了する。
【0031】
毛髪表面の断面として見た断面形状及び毛髪表面の凹凸の大きさを示す段差情報の生成方法について説明する。リニアイメージセンサ20から出力され、増幅器21に増幅された画像信号は、A/D変換器53によりデジタル信号に変換されて信号処理装置10に入力する。画像信号は2次元画像形成手段54に供給され、毛髪の2次元画像を表す2次元画像信号が形成される。形成された2次元画像信号は、最大輝度値検出手段55に供給される。最大輝度値検出手段55には、対物レンズ13の光軸方向の位置を検出する位置センサ17から対物レンズの位置情報も供給される。本発明では、対物レンズの光軸方向の位置を変えながら複数の2次元画像が撮像されるので、3次元画像形成手段5には対物レンズの焦点が光軸方向に変位した複数の2次元画像が順次入力する。
【0032】
一方、共焦点撮像装置の特性として、毛髪表面からの反射光の強度は、対物レンズの焦点が毛髪表面と一致したとき最大となる。従って、対物レンズを光軸方向に変位させながら複数の2次元画像を撮像し、撮像素子から出力される輝度値が最大となるZ軸方向の位置を各画素ごとに検出することにより、毛髪表面の3次元画像が形成される。最大輝度値検出手段55は、順次入力する2次元画像について、位置センサ17から供給される対物レンズの光軸方向の位置情報を用いて輝度値が最大となるZ軸方向の位置を各画素ごとに検出する。そして、各画素の最大輝度値は共焦点画像形成手段56に供給され、毛髪表面の2次元共焦点画像が形成される。形成された2次元共焦点画像信号は画像メモリ57に供給され、必要に応じてモニタ等の表示装置に供給され、毛髪表面の2次元共焦点画像を表示することができる。
【0033】
最大輝度値検出手段55は、位置センサ17から供給される対物レンズの光軸方向(Z軸方向)の位置情報を用いて、最大輝度値を発生する各画素の光軸方向の位置を検出してZ軸画像形成手段58に供給する。Z軸画像形成手段58は、輝度値が最大となる各画素のZ軸方向の位置を示すZ軸画像を形成する。このZ軸画像は、断面形状形成手段59に供給される。断面形状形成手段59は、毛髪の延在方向であるX方向に沿う基準線ないし走査線上の各画素のZ軸方向の位置を抽出し、断面形状を形成する。すなわち、Z軸画像は、毛髪表面のZ軸方向の位置を各画素ごとに示す情報であるから、任意の基準線ないし走査線に沿う画素のZ軸方向の位置を抽出することにより、毛髪表面を断面として表示する断面画像、すなわち基準線に沿う毛髪表面の高さ分布曲線(Z軸プロファイル)が得られる。この表面高さ分布曲線は、図4に示すように、毛髪の延在方向の位置に対する毛髪の表面高さを連続的に示す曲線である。尚、基準線の設定方法として、例えば毛髪支持手段に形成された支持溝のY軸方向の中心座標を通りX方向に延在する直線を用いることができる。得られた毛髪の断面画像信号は、メモリ60に供給する。そして、必要に応じて毛髪の断面輪郭形状(表面高さ分布曲線)をモニタ上に表示することができる。
【0034】
毛髪の表面高さ分布曲線(Z軸プロファイル)を示す断面形状信号は、微分手段61に供給される。微分手段61は、入力した表面高さ分布曲線について、毛髪の延在方向の距離を変数として微分処理を行い、微係数を算出する。算出された微係数は、第1の変曲点検出手段62及び第2の変曲点検出手段63にそれぞれ供給される。第1の変曲点検出手段62は、微係数が正から負に反転する変曲点を検出し、その表面高さ位置、すなわち、毛髪表面の山の部位の高さ方向(Z軸方向)の位置を各山の部位ごとに出力する。また、第2の変曲点検出手段63は、微係数が負から正に反転する変曲点を検出し、その表面高さ、すなわち、毛髪表面の谷の部位における高さ方向の位置を各谷の位置ごとに出力する。
【0035】
第1及び第2の変曲点検出手段62及び63から出力される表面高さ情報は、第1及び第2の加算手段64及び65にそれぞれ供給される。第1の加算手段64は、山の部位の高さ位置の値を加算する。また、第2の加算手段65は、谷の部位の表面高さ位置の値を加算する。第1及び第2の加算手段から出力される加算値は、差分手段66に供給する。差分手段66は、山の部位の高さ位置の値の加算出力と谷の部位における高さ位置の値の加算出力との差分を算出し、段差情報として出力する。すなわち、1つの測定点における毛髪表面の山の部位と谷の部位との高さ方向の差分の平均値が出力される。この平均値は、毛髪表面に形成されているキューティクルの大きさの平均値を指標するデータとなる。
【0036】
勿論、図5に示す毛髪表面の段差の大きさを指標する情報は一例であり、これ以外の種々の方法により毛髪表面の段差ないしキューティクルの大きさを指標するデータを算出することも可能である。例えば、毛髪の長手軸線方向に隣接する谷の部位と山の部位の高さ方向位置の値の差分(各キューティクルの大きさ)をそれぞれ算出し、算出された差分を加算して平均値を求めることも可能である。或いは、平均値以外のデータとして、標準偏差を算出して出力することも可能である。
【0037】
差分手段66からの出力は、毛髪の1つの測定点の表面段差出力である。従って、各毛髪に設定された複数の測定点において測定された段差データから毛髪1本についての平均値を算出することができる。差分手段66からの出力信号を毛髪の段差算出手段67に供給する。毛髪の段差算出手段67には、移動経路設定手段からの供給される移動経路情報も供給される。毛髪の段差算出手段は、各毛髪ごとに設定された測定点についての段差の平均値が供給され、この平均値を用いて1本の毛髪についての段差の平均値を算出する。或いは、1本の毛髪について、段差の平均値だけでなく、平均値に加えて標準偏差等の各種データを算出することも可能である。
【0038】
毛髪表面の段差測定の変形例について説明する。本例では、毛髪表面に存在するキューティクルを検出し、検出されたキューティクルごとにキューティクル段差を検出する。図6はキューティクルごとに段差の大きさを算出するアルゴリズムを示す図である。初めに、Z軸画像形成手段により形成された各画素ごとにZ軸方向の位置データで構成されるZ軸画像から、Z軸方向の位置を濃淡輝度に変換した濃淡輝度画像を形成する。この場合、例えばZ軸方向の位置が低いほど低輝度とし、表面の高さが高くなるにしたがって高輝度とする。生成された輝度画像と、共焦点画像形成手段により形成された各画素が最大輝度値を示す共焦点画像とを組み合わせて、濃淡輝度情報で構成されるF−Z画像を生成する(ステップ1)。尚、組み合わせの方法として、例えば各画素ごとに輝度値を加算してF−Z画像とすることができる。
【0039】
続いて、F−Zフィルタを用いて低輝度の部分についてマスキング処理を行い、F−Z画像について急激に輝度が低下する部分を抽出する(ステップ2)毛髪表面のキューティクルは、ウロコ状に形成され、毛髪の長手軸線方向にそって表面高さが徐々に高くなり、最も高い位置に到達すると急激に低くなる特性がある。従って、F−Z画像についてマスキング処理を行うことにより、キューティクルの毛髪の長手軸線方向において高さが急激に低下する境界が検出され、検出された境界は隣接するキューティクルの境界に対応する。
【0040】
続いて、Z軸画像から毛髪の基準線に沿う断面形状プロファイル(表面高さ分布曲線)を抽出する(ステップ3)。
【0041】
断面形状プロファイルにステップ2で形成された境界画像を重ね合わせ、各キューティクルの境界を示す境界部を設定し、隣接する境界部により区分けされる領域を測定区間として設定する(ステップ4)。この境界部を設定することにより、断面形状プロファイルにおける個々のキューティクルのX軸線方向の範囲が設定される。
【0042】
設定された各測定区間内の最も高い部位の表面高さ方向の位置(最大値)と最も低い部位の表面高さ方向位置(最小値)を抽出し、最大値と最小との差分を形成する。得られた差分は、キューティクル段差の高さないし大きさを示す。例えば、得られた段差の大きさについて平均値を算出し、当該測定点における段差の大きさとすることができる。本例では、各キューティクルごとに段差の大きさを測定しているので、毛髪支持手段に取り付けられた毛髪が光軸方向に湾曲しても、Z軸方向の整列誤差の無いキューティクル段差が測定される利点が達成される。
【0043】
本発明は上述した実施例だけに限定されず、種々の変更や変形が可能である。例えば、上述した実施例では、共焦点撮像装置としてライン状の光ビームを用いて毛髪表面を走査する構成としたが、単一のレーザビームを用いて毛髪表面を走査する共焦点撮像装置ないし共焦点走査装置を用いることも可能である。この場合、例えばレーザ光源から出射したレーザビームを2次元スキャナを用いてX及びY方向に2次元走査し、対物レンズを光軸方向に移動させながら当該走査ビームを毛髪表面に向けて投射する。毛髪表面からの反射光は対物レンズを介して例えばラインセンサのような撮像装置により受光して、毛髪表面の2次元画像及び3次元画像を形成する。そして、図5又は図6に示す信号処理を行い、毛髪表面の断面形状画像を得ることも可能である。
【0044】
さらに、上述した実施例では、走査ビームの集束点と毛髪表面との間の距離を変化させる方法として、対物レンズを光軸方向に移動させたが、毛髪を支持するステージを対物レンズの光軸方向にそって移動させることにより走査ビームの集束点と毛髪表面との間の相対距離を変化させることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 光源
2 光ファイバ
3 フィルタ
4 集束レンズ
5 スリット
6 ハーフミラー
7 レンズ
8 振動ミラー
9 駆動回路
10 信号処理装置
11,12 リレーレンズ
13 対物レンズ
14 ステージ
15 毛髪支持手段
16 モータ
17 位置センサ
18 ステージ位置センサ
19 ポジショナ
20 リニアイメージセンサ
21 増幅器
30 支持プレート
30a〜30e 支持溝
31 毛髪
40 ステージ移動経路
41 走査開始点
42 走査終了点
43 測定点



【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪の断面輪郭形状を測定する形状測定装置であって、
測定すべき毛髪に向けて走査ビームを投射する対物レンズを含み、毛髪からの反射光を受光して毛髪表面の画像を撮像する共焦点撮像装置と、
複数の毛髪を、その長手軸線方向であるX軸方向に支持すると共にX軸と直交するY軸方向そって所定の間隔で整列支持する毛髪支持手段と、
前記X軸方向及びY軸方向に移動可能に支持され、前記毛髪支持手段を支持するステージと、
前記対物レンズとステージとの間の相対距離を変化させる手段と、
前記ステージをX軸方向及びY軸方向に移動させるステージ移動手段と、
共焦点撮像装置から出力される画像信号に基づき、毛髪表面の断面情報及び/又は毛髪表面に存在する段差の大きさを示す段差情報を出力する信号処理装置とを有することを特徴とする形状測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の形状測定装置において、さらに、前記ステージの移動経路を設定するステージ制御手段を有し、当該ステージ制御手段は、毛髪についての測定点を示す座標情報に基づき、X軸方向及びY軸方向にそってジグザグ状のステージ移動経路を設定し、1回の測定操作により複数本の毛髪について形状測定が行われると共に各毛髪について複数の測定点について形状測定が行われることを特徴とする形状測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の形状測定装置において、前記ステージ制御手段は、入力された毛髪の本数及び毛髪1本当たりの測定点の数に基づき、前記移動経路中に設定される測定点のX軸及びY軸方向の座標を示す座標情報を形成する手段を有することを特徴とする形状測定装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の形状測定装置において、前記毛髪支持手段は毛髪を支持する支持プレートを有し、当該支持プレートの表面には、前記X軸方向に延在すると共に前記Y軸方向に沿って所定の間隔で形成され、毛髪が配置される複数の支持溝が形成され、各支持溝のX軸方向の両端には毛髪を把持する把持手段がそれぞれ設けられ、測定されるべき毛髪は支持溝中に配置されると共に把持手段により把持されることにより、前記X及びY軸方向並びにZ軸方向に整列支持されることを特徴とする形状測定装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の形状測定装置において、前記共焦点撮像装置は前記対物レンズとステージ上の毛髪との間の相対距離を変えながら複数の2次元画像を撮像し、
前記信号処理装置は、共焦点撮像装置から出力される画像信号を用いて、毛髪の長手軸線に対する表面高さ分布を示す表面高さ分布曲線を形成する手段と、表面高さ分布曲線から前記長手軸線方向の微係数分布を算出する微分手段と、微係数が正から負に反転する変曲点及びその表面高さを検出する第1の変曲点検出手段と、微係数が負から正に反転する変曲点及びその表面高さを検出する第2の変曲点検出手段とを有し、
前記第1の変曲点検出手段及び第2の変曲点検出手段からの出力信号に基づいて毛髪表面の段差の大きさを示す段差情報を出力することを特徴とする形状測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の形状測定装置において、前記信号処理装置は、さらに、前記第1の変曲点検出手段から出力される各変曲点における表面高さを加算する第1の加算手段と、前記第2の変曲点検出手段から出力される各変曲点における表面高さを加算する第2の加算手段と、第1の加算手段からの出力と第2の加算手段からの出力との差分を算出する差分手段とを含み、前記差分手段から1つの測定点における毛髪表面の段差情報の平均値が出力されることを特徴とする形状測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の形状測定装置において、前記信号処理装置は、さらに、前記差分手段からの出力信号と前記ステージ制御手段から出力されるステージ移動経路情報とを用いて、各毛髪について設定された複数の測定点の段差データの平均値を算出する手段を有することを特徴とする形状測定装置。
【請求項8】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の形状測定装置において、前記共焦点撮像装置は前記対物レンズとステージ上の毛髪との間の相対距離を変えながら複数の2次元画像を撮像し、
前記信号処理装置は、共焦点撮像装置から出力される画像信号を用いて、毛髪の長手軸線に対する表面高さ分布を示す表面高さプロファイルを形成する手段と、表面高さプロファイルから各キューティクルの前記長手軸線方向範囲を求める手段と、各キューティクルごとに表面高さの最大値と最小値とを求める手段とを有し、
求めた表面高さの最大値と最小値とに基づいてキューティクル段差情報を出力することを特徴とする形状測定装置。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の形状測定装置において、前記共焦点型撮像装置は、光ビームを発生する光源装置と、光源装置から出射した光ビームを2次元走査するスキャナと、スキャナから出射した光ビームを測定されるべき毛髪に向けて投射する対物レンズと、毛髪から出射した反射ビームを対物レンズを介して受光する光検出手段とを含むことを特徴とする形状測定装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−92409(P2013−92409A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233646(P2011−233646)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000115902)レーザーテック株式会社 (184)
【Fターム(参考)】