説明

後処理装置の昇温制御装置

【課題】 後処理装置の排気浄化触媒に対するHC供給による触媒昇温の初期における触媒の過昇温を抑制する。
【解決手段】 昇温制御装置のECU(10)の目標HC供給量設定部(102)は、触媒(42)の上流側端部の温度を表す触媒内上流温度センサ(61)の出力に基づいて昇温初期の目標HC供給量を設定する。軽油添加インジェクタ(50)は、目標HC供給量に基づき触媒の上流側で排ガス中に軽油(HC)を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルパティキュレートフィルタと排気浄化触媒とを有する後処理装置の昇温制御装置に関し、特に、HC供給による触媒昇温の初期における触媒の過昇温を抑制するようにした昇温制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気中に含まれているパティキュレート(以下、PMという)を大気中に放出すると大気汚染を招くことから、エンジン排気系にディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFという)を設けてPMを捕集するようにしているが、捕集されたPMの増加に伴う排圧上昇によりエンジン性能が低下するおそれがあるため、PMを燃焼除去してDPFを再生するようにしている。また、エンジン低負荷時には排気温度が低いので、DPF再生時にHCなどの未燃焼料をDPFの上流側の排気中に供給し、DPFに担持された酸化触媒により未燃焼料が酸化される際に生じる酸化熱を利用してPMを燃焼させることがある。但し、DPF再生に好適な燃料供給量は吸入空気量や排気流量によっても変化し、このため、DPF再生中にエンジン回転数が減少すると排気中の燃料濃度が過大になってDPF温度が過度に上昇するおそれがあり、また、排気流量が増加すると排気中の燃料濃度が過小になってDPF温度が充分に上昇せず、PMが燃焼しない可能性がある。
【0003】
そこで、特許文献1に記載の排気処理装置は、DPFの上流側および下流側に温度センサを設け、DPFへの燃料供給量を上流側温度センサにより検出された排気温度が上昇するにつれて減量する一方、吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量の増加に伴って増量するように算出し、この様に算出した燃料供給量を下流側温度センサにより検出されたDPF温度に応じて補正して、DPF再生時のエンジン運転状態に適した燃料供給を行うようにしている。
【特許文献1】特開平5−44434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の排気浄化装置は、既述のように、上流側温度センサにより検出されたDPF上流側の排気温度に基づいて算出したDPFへの燃料供給量を下流側温度センサにより検出されたDPF温度(実際はDPF下流側の排気温度)に応じて補正するが、DPFの上流側や下流側の排気温度はDPF再生時のDPF温度を必ずしも良好に反映するものではなく、DPF再生時の燃料供給量を良好に制御することは実際には困難である。
【0005】
また、排気浄化装置(後処理装置)の構成は種々であり、DPFと排気浄化触媒とを有する後処理装置の場合、排気浄化触媒にHCなどの未燃燃料を供給して触媒昇温を行うことがある。そして、この様な触媒昇温に際して、触媒の上流側や下流側の排気温度に基づくHC供給制御を行うとすれば、触媒の上流側および下流側の排気温度が共に触媒温度を良好に代表するものではなく、特に、触媒各部の温度が均一化されるに至らない昇温過渡時(昇温過渡状態)にあっては排気温度と触媒温度との乖離が大きいので、触媒温度を良好に制御することは困難である(図3を参照)。
【0006】
特に、昇温初期では触媒がその上流側端部から温度上昇し始めるので、触媒温度分布は触媒の上流側端部で触媒温度が高く且つ下流側端部で低いものとなる。このため、触媒の上流側端部の温度は、触媒の上流側や下流側の排気温度よりも相当高くなり、その様な排気温度に基づいて設定した目標HC供給量になるようにHC供給を行うと、触媒とくにその上流側端部が過昇温し易くなり(図3を参照)、触媒がその分劣化するという不具合が生じる。
【0007】
本発明の目的は、後処理装置の排気浄化触媒に対するHC供給による触媒昇温の初期における触媒の過昇温を抑制するようにした後処理装置の昇温制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、エンジンの排気管内に配されディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)と排気浄化触媒とを有する後処理装置の昇温制御装置において、触媒内上流温度センサにより検出された排気浄化触媒の上流側端部の温度に基づいてHC供給量設定手段により昇温初期の目標HC供給量を設定し、この目標HC供給量に基づきHC供給手段により排気浄化触媒の上流側で排ガス中にHCを供給することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1のものにおいて、HC供給量設定手段が、触媒内中心温度センサにより検出された排気浄化触媒の中心部の温度に基づいて昇温維持時の目標HC供給量を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、触媒内上流温度に基づいて昇温初期の目標HC供給量を設定するので、後処理装置の排気浄化触媒の上流側での排ガス中へのHC供給量を触媒の上流側端部における実際触媒温度に応じて精密に制御することができ、昇温初期に生じ易い触媒上流側端部の過昇温を確実に防止することができる。
すなわち、HC供給による昇温時、排気浄化触媒はその上流側端部から温度上昇し、次いで触媒の中心部ないし下流側端部の温度が上昇するため、昇温初期(昇温過渡状態の初期)には触媒上流側端部の温度上昇が顕著であり、HC供給量が過大であると触媒上流側端部が過昇温され易い。この点、触媒内上流温度センサは触媒内部において触媒の上流側端部に設けられ、同センサの出力は触媒の上流側端部における温度を良好に反映するものとなっており、昇温初期の目標HC供給量をこのセンサ出力(触媒内上流温度)に基づいて設定することにより昇温初期の触媒上流側端部の過昇温を防止することができる(図2を参照)。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1のものにおいて、触媒内中心温度に基づいて昇温維持時の目標HC供給量を設定するので、昇温維持時の触媒温度を目標温度に良好に維持することができる。
すなわち、請求項1の発明による昇温初期の制御により触媒上流側端部に過昇温を来すことなく触媒昇温が行われた後、請求項2の発明による昇温維持時の制御が開始される。この昇温維持時(昇温過渡状態の中期ないし後期)においても触媒の上流側や下流側の排気温度は双方共に触媒温度を必ずしも良好に代表するものではなく、排気温度と触媒温度とが大きく乖離するため、排気温度に基づいてHC供給制御(触媒温度制御)を実施したときの制御応答性は良好とはいえず、触媒温度を目標温度に安定に維持することは困難である(触媒下流側の排気温度に基づく昇温制御の場合に触媒温度(触媒内中心温度)が大きく変動することを図3に示す)。この点、触媒内中心温度センサは触媒内部において触媒の中心部に設けられ、同センサの出力は触媒中心部における温度すなわち触媒温度を良好に反映し、従って、昇温維持時の目標HC供給量をこのセンサ出力(触媒内中心温度)に基づいて設定することにより、昇温維持時の制御応答性を向上させて触媒温度を目標温度に安定に維持することができる(図2を参照)。
【0012】
なお、昇温維持時には、触媒の上流側端部が排気流入により冷却されるので、触媒内上流温度センサにより検出される温度は実際の触媒温度(触媒内中心温度)よりも低めになるため、触媒内上流温度センサ出力よりも触媒内中心温度センサ出力の方が実際触媒温度を良好に反映し、従って、昇温維持時の目標HC供給量を触媒内中心温度センサ出力に基づいて設定することによってより良好な触媒温度制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態による後処理装置の昇温制御装置を説明する。
図1において、参照符号1は、エンジンたとえばコモンレール式ディーゼルエンジンを示し、参照符号10は、エンジン制御装置および昇温制御装置の主要部をなす電子制御ユニット(以下、ECUという)を示す。
【0014】
詳細な図示を省略するが、コモンレール式ディーゼルエンジン1は、ニードル弁ならびにこのニードル弁の先端側および基端側に設けられた燃料室および制御室を有した燃料インジェクタを気筒毎に備え、燃料室および制御室は燃料通路を介して蓄圧室に接続され、制御室は燃料戻し通路を介して燃料タンクに接続されている。そして、ECU10の制御下で、燃料インジェクタに設けられた電磁弁が開くと、蓄圧室内から供給された高圧燃料が燃料インジェクタを通じてエンジン1の燃焼室に噴射され、電磁弁が閉じると燃料噴射が終了するものとなっており、このように電磁弁の開閉弁時期を制御することで燃料噴射開始・終了時期(燃料噴射量)が調節される。
【0015】
エンジン1は、吸気マニホールド11に接続された吸気管12と、排気マニホールド13に接続された排気管14とを有している。吸気管12の途中には、過給機20のコンプレッサ21とインタークーラ31と吸気スロットル弁32が配されている。吸気スロットル弁32の開度は、吸気スロットル弁駆動部33を介してECU10により可変調整される。吸気スロットル弁32の開度を絞ることにより排気温度を上昇させることができる。一方、排気管14の途中には、過給機20のタービン22、排気ブレーキ15、軽油添加インジェクタ50、後処理装置40および図示しないマフラが設けられている。
【0016】
過給機20のコンプレッサ21とタービン22は同期回転可能に連結され、エンジン1から排出される排気ガスの流れにより発生したタービン22の回転力によりコンプレッサ21を回転させ、コンプレッサ21により加圧された吸気をエンジン1に供給するようになっている。この際、加圧されて高温になった空気はインタークーラ31で冷却され、これにより吸入空気の密度を高めて充填効率を向上させてエンジン出力を増大するようにしている。
【0017】
過給機20にはタービン22をバイパスする排気バイパス通路(図示略)が設けられ、このバイパス通路の途中に設けられた過給機20のウエイストゲート23をウエイストゲート駆動部24を介してECU10により開閉制御して、タービン回転(コンプレッサ回転)を増減させて吸気管12に供給される吸気の圧力を増減するようになっている。過給機ウエイストゲート23を開くことにより排気温度を上昇させることができる。同様に、排気ブレーキ駆動部16を介してECU10により排気ブレーキ15を開閉可能になっており、排気ブレーキ15を閉じることにより排気昇温可能である。
【0018】
図1中、参照符号36は、排気マニホールド13から吸気管12に延びるEGR通路を示し、このEGR通路36を介して排ガスの一部を再還流ガスとしてエンジン1に供給するようになっている。EGR通路36の途中には、再還流ガスを冷却してエンジン1へのガス充填密度を高めるEGRクーラ37と、再還流ガスのエンジン1への供給および供給遮断のためのEGR弁38が設けられている。EGR弁38は、EGR弁駆動部39を介してECU10により開閉制御または開度調整される。
【0019】
後処理装置40は、これに流入した排ガスに含まれるNOxおよびPMを低減するものである。本実施形態の後処理装置40は、PMを捕集して燃焼除去するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)41と、DPF41の前段に配され軽油添加インジェクタ50から供給された軽油(HC)を還元剤として用いて排ガス中のNOxを浄化するNOx吸蔵触媒(排気浄化触媒)42と、DPF41の後段に配され例えば余剰のHCを酸化する後段触媒43とを有している。
【0020】
軽油添加インジェクタ50は、NOx吸蔵触媒42に軽油(HC)を噴射するものであり、軽油添加インジェクタ駆動部51を介してECU10により開閉制御されるものになっており、この際、軽油添加インジェクタ50からの軽油の噴射量は、例えばエンジン回転数、燃料噴射量、および目標触媒温度と実際触媒温度との偏差に基づいて決定される。
図1中、参照符号61は、NOx吸蔵触媒42の内部において排ガス流れ方向にみて触媒42の上流側端部(前部)に設けられた触媒内上流排気温度センサ(触媒内上流温度センサ)であり、NOx吸蔵触媒42の上流側端部に形成された図示しない孔を挿通する温度検出端を有し、NOx吸蔵触媒42の上流側端部における排気温度(触媒温度)を検出するようになっている。また、参照符号62は、NOx吸蔵触媒42の内部において触媒42の中心部に設けられた触媒内中心排気温度センサ(触媒内中心温度センサ)であり、NOx吸蔵触媒42の中心部に形成された図示しない孔を挿通する温度検出端を有し、NOx吸蔵触媒42の中心部における排気温度(触媒温度)を検出するものとなっている。温度センサ61、62により検出された触媒温度データ(実際触媒温度)は触媒温度制御に供される。
【0021】
更に、ECU10には負荷センサ71、クランク角センサ72などの各種センサが接続されている。負荷センサ71は、図示しないアクセルペダルの踏込量すなわちアクセル開度をエンジン負荷として検出し、クランク角センサ72は、エンジン1のクランクシャフト(図示略)の回転をエンジン回転数として検出するものである。
ECU10は、負荷センサ71により検出されたエンジン負荷とクランク角センサ72により検出されたエンジン回転数とに基づいてエンジン1の運転領域を判別し、エンジン運転域に応じてエンジン1の各インジェクタ(図示略)の電磁弁をオンオフして燃料噴射時期および燃料噴射量を制御するものになっている。
【0022】
上記構成のディーゼルエンジン1は、公知のようにリーン空燃比で運転され、このリーン空燃比運転中、エンジン1から排出される排ガス中に含まれるNOx(窒素酸化物)がNOx吸蔵触媒42に吸蔵される。そして、NOx吸蔵量が一定以上まで増大すると、エンジン1のリッチスパイク運転が行われ、NOx吸蔵触媒42に吸蔵されていたNOxが放出され、還元除去される。また、燃料中に含まれる硫黄分によりNOx吸蔵触媒42がS被毒されるとNOx吸蔵触媒42の排ガス浄化作用が低下するので、NOx吸蔵触媒42に吸着されたS成分を還元除去するSパージを行うべく、燃料噴射時期を遅角したり膨張行程後半で追加燃料を噴射し更には排気ブレーキ15や過給機ウエイストゲート23等の吸排気アクチュエータをオン動作させるなどの、排気温度(触媒温度)を上昇させるための昇温制御が実施される。
【0023】
また、排ガス中に含まれるPMの大気中への排出量を低減するため、PMがDPF41により捕集されるが、PM捕集量が一定以上まで増大するとDPF41の目詰まりによる排圧上昇によってエンジン運転性能が低下するおそれがあるので、捕集されたPMを燃焼除去してDPF41を再生するため、昇温制御が実施される。
本実施形態では、NOx吸蔵触媒42のSパージ時やDPF41の再生時の昇温制御にあたり、ECU10の制御下で軽油添加インジェクタ50を例えば所定のデューティ比で周期的に開作動させて排ガス中に軽油(HC)を噴射し、これによりHC供給を行って排気温度(触媒温度)を上昇させるものとなっている。なお、排気昇温を更に促進するため、例えば排気ブレーキ15を閉じると共に過給機ウエイストゲート23を開くなど、排気ブレーキ15、ウエイストゲート23、吸気スロットル弁32、EGR弁38等の吸排気アクチュエータを排気流量減少方向に制御するようにしてもよい。
【0024】
上記の昇温制御自体は基本的には従来の昇温制御と変わるところはないが、本発明は、HC供給による昇温の初期(昇温過渡状態の初期)の目標HC供給量を触媒内上流温度センサ61の出力(触媒内上流温度)に基づいて設定し、昇温維持時(昇温過渡状態の中期ないし終期)の目標HC供給量を触媒内中心温度センサ62の出力(触媒内中心温度)に基づいて設定する点に特徴がある。
【0025】
上記の昇温制御に関連して、図1に示すように、ECU10は、触媒内上流温度センサ61及び触媒内中心温度センサ62に接続された温度センサ選択部101を備えている。この温度センサ選択部101は、図2に例示するように、温度センサ61により検出された触媒内上流温度が温度センサ62により検出された触媒内中心温度よりも所定温度小さくなるまでは、昇温が初期段階にあると判定して触媒内上流温度センサ61を目標HC供給量設定部102に接続し或いは温度センサ61からの触媒内上流温度データを同設定部102に供給する一方、温度センサ61により検出された触媒内上流温度が温度センサ62により検出された触媒内中心温度よりも所定温度小さくなったときに、昇温初期が終了したと判定して触媒内中心温度センサ62を目標HC供給量設定部102に接続し或いは温度センサ62からの触媒内中心温度データを同設定部102に供給するものになっている。
【0026】
図2において、破線および実線は、触媒内上流排気温度センサ61および触媒内中心排気温度センサ62により検出される触媒内上流温度および触媒内中心温度(ここではNOx吸蔵触媒42の内部における触媒の上流側端部および中心部での排ガス温度)を示し、一点鎖線および二点鎖線は触媒出口ガス温度および触媒入口ガス温度を示す。なお、図2中、触媒内上流温度を示す破線の一部を太くすることにより触媒内上流温度に基づいて昇温初期における昇温制御を実施することを表し、また、触媒内中心温度を示す実線の一部を太くすることにより触媒内中心温度に基づいて昇温維持時の昇温制御を実施することを表した。
【0027】
本実施形態のHC供給量設定部102は、例えば、エンジン回転数、燃料噴射量、および、目標触媒温度と温度センサ61または62により検出された実際触媒温度との偏差に基づいて、目標HC供給量(ここでは軽油添加インジェクタ50からの軽油の目標噴射量)を設定するものになっている。例えば、エンジン回転数および燃料噴射量に応じて設定した基本HC供給量を、目標触媒温度と実際触媒温度との偏差に応じて設定した補正量にて補正して目標HC供給量を求めるようにしている。そして、目標軽油噴射量(目標HC供給量)に従って軽油添加インジェクタ駆動部51が動作し、これにより、軽油添加インジェクタ50(HC供給手段)から目標量の軽油(HC)が噴射されることになる。
【0028】
さて、HC供給による昇温時、NOx吸蔵触媒42はその上流側端部から温度上昇し、次いで、触媒42の中心部ないし下流側端部の温度が上昇するため、昇温初期にはNOx吸蔵触媒42の上流側端部の温度上昇が顕著になる。従って、一般には、HC供給量が過大になって触媒上流側端部が過昇温され易い。
例えば、図3に示すように触媒出口ガス温度に基づいてHC供給制御を行う場合、HC供給による昇温の初期のHC供給量が過大になって触媒の上流側端部が過昇温されてしまう。
【0029】
図3において、一点鎖線および二点鎖線は触媒の下流側および上流側の温度センサ(共に図示略)によりそれぞれ検出される触媒出口ガス温度および触媒入口ガス温度を示し、また、実線および破線は触媒内中心温度および触媒内上流温度(例えば触媒内部における触媒の中心部および上流側端部での排ガス温度)を示す。なお、図3中、触媒出口ガス温度を示す一点鎖線を太くすることにより、触媒出口ガス温度に基づいて昇温制御を実施することを表した。
【0030】
HC供給による昇温の初期には、NOx吸蔵触媒42はその上流側端部から温度上昇し、次いで、触媒42の中心部ないし下流側端部の温度が上昇するため、触媒出口ガス温度は、触媒温度とくに触媒上流側端部の温度(触媒内上流温度)の上昇に対して相当の遅れをもって上昇することになり、従って、触媒出口温度は実際の触媒温度を代表しない。それにも関わらず、図3の場合のように触媒出口ガス温度に基づいてHC供給制御を行うと、触媒に対するHC供給量が過大になり、触媒内上流温度が図3に示すように増大する。すなわち、触媒上流側端部が過昇温されてしまい、触媒が劣化することになる。特にNOx吸蔵触媒の場合、触媒がその一部でも過昇温による劣化をきたすと、触媒のNOx浄化性能の低下が問題になる。
【0031】
この点、本発明の昇温制御装置は、触媒内上流温度センサ61の出力(触媒内上流温度)に基づいて昇温初期の目標HC供給量を設定して、NOx吸蔵触媒42の上流側端部の過昇温を防止するようにしている。温度センサ61は、NOx吸蔵触媒42の内部において触媒上流側端部に設けられ、そのセンサ出力は触媒上流側端部の実際温度を良好に反映するものとなっている。従って、温度センサ61の出力に基づくHC供給制御によれば、NOx吸蔵触媒42の上流側での排ガス中へのHC供給量を精密に制御することができ、同触媒42の上流側端部の過昇温を確実に防止することができる。
【0032】
本発明では触媒昇温の初期段階の終了後に昇温維持時の制御を開始するが、既述のように、この昇温維持時の制御では、触媒内中心温度センサ62の出力に基づいて昇温維持時の目標HC供給量を設定して昇温維持時の触媒温度を目標温度に良好に維持するようにしている。
従来、図3に示すように触媒下流側の排気温度に基づく昇温制御を行うことがあるが、この場合、触媒温度を目標温度に安定に維持することは困難である。すなわち、昇温初期に限らず、昇温維持時(昇温過渡状態の中期ないし後期)においても、触媒の上流側や下流側の排気温度は双方共に触媒温度を必ずしも良好に代表するものではなく、排気温度と触媒温度とが大きく乖離するため、排気温度に基づいてHC供給制御(触媒温度制御)を実施したときの制御応答性は良好とはいえず、触媒温度を目標温度に安定に維持することが困難になるからである。
【0033】
この点、本発明において、触媒内中心温度センサ62はNOx吸蔵触媒42の内部において触媒42の中心部に設けられ、同センサ62の出力は触媒中心部における温度すなわち触媒温度を良好に反映し、従って、昇温維持時の目標HC供給量をこのセンサ出力に基づいて設定することにより、図2に示すように、昇温維持時の制御応答性を向上させて触媒温度を目標温度に安定に維持することができる。
【0034】
なお、昇温維持時には、NOx吸蔵触媒42の上流側端部が排気流入により冷却されるので、触媒内上流温度センサ61により検出される温度は実際の触媒温度(触媒内中心温度)よりも低めになるため、触媒内上流温度センサ61の出力よりも触媒内中心温度センサ62の出力の方が実際触媒温度を良好に反映し、従って、昇温維持時の目標HC供給量を触媒内中心温度センサ出力に基づいて設定することによってより良好な触媒温度制御を行うことができるのである。
【0035】
上述のように、本発明のHC供給による昇温制御では、HC供給量をきめ細かく制御するものとなっており、昇温のために要する合計HC供給量を抑制することができるので燃費が向上する。また、触媒温度をきめ細かく制御するので、触媒温度を目標温度に安定に維持することができ、従って、本発明は、触媒温度要件が厳格なNOx吸蔵触媒42のSパージを行うのに特に好適する。
【0036】
以上で本発明の好適実施形態による昇温制御装置についての説明を終了するが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々に変形可能である。
例えば、上記実施形態では、HC供給手段として軽油添加インジェクタを用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、メイン噴射に続く膨張行程で追加燃料を噴射するポスト噴射を行うことにより排気管内にHCを供給するようにしても良い。また、上記実施形態ではDPFの前段に配される排気浄化触媒としてNOx吸蔵触媒を用いたが、酸化触媒などのその他の触媒を前段触媒として用いても良い。また、後段触媒を設けることは必須ではない。また、上記実施形態では、触媒内上流温度が触媒内中心温度よりも所定温度小さくなったときに昇温初期の終了を判定するようにしたが、これに限定されず、例えば触媒内上流温度が触媒内中心温度に等しくなったときに昇温初期が終了したと判定するようにしても良く、また、昇温開始から所定時間が経過したときに昇温初期の終了を判定するようにしても良い。その他、本発明はその発明の範囲内において種々に変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態による後処理装置の昇温制御装置を示す概略図である。
【図2】図1に示した昇温制御装置による昇温制御の基礎となる触媒内上流温度および触媒内中心温度の時間的変化を、触媒入口ガス温度および触媒出口ガス温度の時間的変化と共に示す図である。
【図3】従来の昇温制御の基礎となる触媒出口ガス温度の時間的変化を、触媒入口ガス温度、触媒内上流温度および触媒内中心温度の時間的変化と共に示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 エンジン
10 ECU
40 後処理装置
41 DPF
42 NOx吸蔵触媒
50 軽油添加インジェクタ(HC供給手段)
61 触媒内上流温度センサ
62 触媒内中心温度センサ
101 温度センサ選択部
102 目標HC供給量設定部(HC供給量設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気管内に配されディーゼルパティキュレートフィルタと排気浄化触媒とを有する後処理装置の昇温制御装置において、
上記排気浄化触媒の上流側端部の温度を検出する触媒内上流温度センサと、上記触媒内上流温度センサにより検出された温度に基づいて昇温初期の目標HC供給量を設定するHC供給量設定手段と、上記目標HC供給量に基づき上記排気浄化触媒の上流側で排ガス中にHCを供給するHC供給手段とを備えることを特徴とする後処理装置の昇温制御装置。
【請求項2】
上記排気浄化触媒の中心部の温度を検出する触媒内中心温度センサを更に備え、上記HC供給量設定手段は、上記触媒内中心温度センサにより検出された温度に基づいて昇温維持時の目標HC供給量を設定することを特徴とする請求項1に記載の後処理装置の昇温制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−266220(P2006−266220A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88511(P2005−88511)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】