説明

微小物体移動方法、微小物体移動システム、およびそれを用いた液体混合システム

【課題】ナノスケールやマイクロメートルオーダーの微小物体を非接触で運動制御する一手法として,光圧を用いることが知られている。しかし、従来では高NAの光学系を用いており、装置の小型化が進まず、例えば光マイクロチップのような微小構造体中に用いることが困難であった。
【解決手段】端面を半球状に研磨した光ファイバから放射させた、集光度が低い3本のビーム(レーザ光線)で正三角形状の循環経路を構成する。ビームの集光が緩やかである場合、照射対象に対してビームの放射方向とビーム断面内の中心方向に光圧が作用する。この性質を利用することでレーザビーム網に沿って、マイクロメートルオーダーの微小物体を循環運動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物体移動方法、微小物体移動システムおよびそれを用いた液体混合システムに係り、特に、弱い集光状態の放射光であっても微小物体の運動が制御可能であり、またビームにより微小物体を移動させるシステムの小型化を実現する、微小物体移動方法、微小物体移動システムおよびそれを用いた液体混合システムに関する。
【背景技術】
【0002】
直径が数ミクロンの物体を光により捕捉し操作する試みは、1970年のAshkinの論文発表に端を発し、多くの研究機関で行われている。これらの主たる方式は高NA(Numerical Aperture:開口数)の光学系から発せられた強力に集光された一本のレーザビームが照射対象である微小物体により屈折されることにより生じる引力により微小物体を補足し、また、光学系の操作(移動)によりビームの焦点位置を変化させることで微小物体を移動させるというものである(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
また、微小物体の形状の工夫により、捕捉力を回転力に変換させ、マイクロポンプの回転子として利用する技術(例えば特許文献2参照)や、ホログラム技術によりビーム断面内に光の渦を発生させこれにより光捕捉された微小物体を運動制御する手法も知られている。
【0004】
更に、レーザ光線を微小物体に対して斜めに入射し、光圧で支持台(床面)に押し付けることで捕捉する方法も知られている。これは、レーザを支持台に照射する際、レーザの勾配力と散乱力の支持台方向の成分がそれぞれ逆向きになることを利用し、それらの合力が0になるところで微小物体を静止させ、捕捉するものである。また、この原理を利用して、2本のビームの勾配力の合力が、2本のビームの散乱力の合力と重力の総和と釣り合った場所に微小物体を保持することも可能である。この技術によれば、支持台から離れた(浮いた)位置で微小物体を捕捉し、ビームの切り替えによって捕捉位置を回転軸として微小物体を回転させることができる(例えば非特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−94396号公報
【特許文献2】特開平10−70890号公報
【非特許文献1】上野秀揮、田口耕造、池田正宏,「光ファイバを用いた光マニピュレーション」,電子情報通信学会技術研究報告,1997.06.13,Vol.97,No.94(MW97 35−45),p.45−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1,2の如く微小物体を回転させる場合には、その回転軸上に、対物レンズを必要とする高NA(例えばNA=1.25程度)の光学系を設置する必要がある。また、微小物体は光学系の移動に伴って移動させるので、光学系を駆動する機構も必要となる。つまり、回転子となる微小物体の実質的な占有空間に対して、余剰な空間が生じる。
【0006】
また上記の方式はいずれも、高NAの実現やホログラムを生成するための複雑な光学系が必要であり、システム全体のコンパクト化が困難である。
【0007】
特に、高NAの光学系を用いる場合は、微小物体とそれらを分布させる媒質との間の屈折率差が捕捉力に依存するという問題がある。
【0008】
図16を参照して具体的に説明する。図16は、高い屈折率を有する微小物体30に対して、高NAの1本の光ビームBを照射した場合の概要図である。
【0009】
微小物体30に高NAで入射した光ビームBは、その表面で反射し、微小物体30には細矢印の如く、反射光による力Frおよび透過光による力Fdが働く。またそれぞれの力Fr、Fdを光軸方向成分(Fr1、Fd1)と、ビームの断面方向成分(Fr2、Fd2)とに分けた場合、光軸方向成分Fr1、Fd1が微小物体30に働く斥力(散乱力に相当)および引力となる。
【0010】
図16においては入射光方向(左矢印:便宜上、−Fd1と表記する)の合力が引力であり、透過光方向(右矢印:Fr1、Fd1)の合力が斥力である。また、斥力のうち破線矢印が反射光による斥力(反射光の光軸方向成分Fr1)である。
【0011】
高NAの1本の光ビームでトラップする方式では、捕捉する微小物体30とその周囲の媒質との屈折率差が大きくなりすぎると、微小物体30への入射光の物体表面での反射の影響が無視できなくなり、それによる斥力Fr1が、入射する透過光による光圧の光軸方向成分(引力−Fd1)と微小物体を透過した光による光圧の光軸方向成分(斥力Fd1)に加わることで、断面方向成分(勾配力に相当)Fd2、Fr2より斥力の支配が大きくなってゆくため、捕捉力の低下が生じる。すなわち、同一の媒質中に存在する微小物体であれば、その屈折率が大きいほど微小物体30の捕捉(固定)という目的においては不利になるといえる。
【0012】
しかしながら、微小物体30の屈折率が周囲媒質のそれより大きい場合は、その量は少なくなるとしても、光は微小物体30内に必ず進入するため断面方向成分の力Fd2、Fr2が皆無になることはない。
【0013】
従って、例えば上記の非特許文献1の如く、支持台上の微小物体に対してビームを照射したり、2本のビームを微小物体に対して対向して照射することにより、ビームの断面方向成分Fd2、Fr2も利用して微小物体を捕捉、操作する方法も研究されている。
【0014】
しかし、例えば非特許文献1の技術は、ビームの散乱力および勾配力の支持台方向の成分を利用して支持台に微小物体を押し付けることにより微小物体を捕捉、操作するものであり、ある程度の大きさの支持台が必要となり、小型化にも限界がある。
【0015】
これらの技術は、例えば移動する微小物体を駆動機構に用いることで、小型のマニピュレータやアクチュエータとしての利用が望まれている。しかし、既述の如くこれらの方法では、システム全体のコンパクト化が進まないなどの物理的な制限によって、用途が限られる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、係る課題に鑑みてなされ、第1に、3以上のビームが交差し、該ビームにより多角形状が構成される位置にビーム照射手段を配置し、前記ビームのうち1つのビームをオン状態として微小物体に照射する工程と、該1つのビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該1つのビーム内に保持し、該1つのビームが前記微小物体に与える散乱力により該1つのビーム内に該微小物体を移動させる工程と、前記1つのビームに隣り合う他のビームをオン状態とし、オン状態の2つのビームの交差点付近に前記微小物体を捕捉させる工程と、前記1つのビームをオフ状態とし、オン状態の前記他のビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該他のビーム内に保持し、該他のビームが前記微小物体に与える散乱力により該他のビーム内に該微小物体を移動させる工程とを具備し、前記1つのビームのオン状態と前記2つのビームのオン状態とを順次切り替えることにより前記多角形状のビーム内に前記微小物体を循環させることにより解決するものである。
【0017】
また、前記ビームは、循環する前記微小物体の回転軸に対して垂直に照射されることを特徴とするものである。
【0018】
また、前記微小物体は前記2つのビームのそれぞれの勾配力および散乱力の釣り合いにより前記交差点付近に捕捉されることを特徴とするものである。
【0019】
また、前記微小物体が前記多角形状の隣り合う2つの辺を移動する期間、前記1つのビームはオン状態が維持されることを特徴とするものである。
【0020】
第2に、3以上のビームが交差し、該ビームによって多角形状を構成する位置に配置されたビーム照射手段と、前記ビームのうち、1つのビームのオン状態と、該1つのビームおよび他のビームのオン状態とを順次切り替える切り替え手段と、前記ビームの放射方向上に配置された微小物体と、を有し、前記切り替え手段は、前記1つのビームをオン状態として前記微小物体に照射し、該1つのビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該1つのビーム内に保持し、該1つのビームが前記微小物体に与える散乱力により該1つのビーム内に該微小物体を移動させ、該1つのビームに隣り合う他のビームをオン状態とし、オン状態の2つのビームの交差点付近に前記微小物体を捕捉させ、前記1つのビームをオフ状態とし、オン状態の前記他のビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該他のビーム内に保持し、該他のビームが前記微小物体に与える散乱力により該他のビーム内に該微小物体を移動させ、前記1つのビームのオン状態と前記2つのビームのオン状態とを順次切り替えることにより前記多角形状のビーム内に前記微小物体を循環させることにより解決するものである。
【0021】
また、前記ビーム照射手段は、循環する前記微小物体の回転軸に対して前記ビームを垂直に照射することを特徴とするものである。
【0022】
また、前記微小物体は前記2つのビームのそれぞれの勾配力および散乱力の釣り合いにより前記交差点付近に捕捉されることを特徴とするものである。
【0023】
また、前記切り替え手段は、前記微小物体が前記多角形状の隣り合う2つの辺を移動する期間、前記1つのビームのオン状態を維持することを特徴とするものである。
【0024】
第3に、2以上の液体が流れる3以上の経路を辺とし、該経路の結合部を頂点として多角形状を構成した循環経路と、1つの前記結合部に設けられた放出経路と、他の前記結合部にそれぞれ設けられた前記液体の流入経路と、前記循環経路内に配置された微小物体と、それぞれの前記経路内にビームを照射し、交差する該ビームが記循環経路内で多角形状を構成する位置に配置されたビーム照射手段と、前記ビームのうち、1つのビームのオン状態と、該1つのビームおよび他のビームのオン状態とを順次切り替える切り替え手段とを有し、前記切り替え手段は、前記1つのビームをオン状態として前記微小物体に照射し、該1つのビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該1つのビーム内に保持し、該1つのビームが前記微小物体に与える散乱力により該1つのビーム内に該微小物体を移動させ、該1つのビームに隣り合う他のビームをオン状態とし、オン状態の2つのビームの交差点付近に前記微小物体を捕捉させ、前記1つのビームをオフ状態とし、オン状態の前記他のビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該他のビーム内に保持し、該他のビームが前記微小物体に与える散乱力により該他のビーム内に該微小物体を移動させ、前記1つのビームのオン状態と前記2つのビームのオン状態とを順次切り替えることにより前記循環経路に非接触で前記ビーム内に前記微小物体を循環させ、前記循環経路内で前記2以上の液体を混合させ、前記放出経路から混合液を放出することにより解決するものである。
【0025】
また、前記ビーム照射手段は、循環する前記微小物体の回転軸に対して前記ビームを垂直に照射することを特徴とするものである。
【0026】
また、前記微小物体は前記2つのビームのそれぞれの勾配力および散乱力の釣り合いにより前記交差点付近に捕捉されることを特徴とするものである。
【0027】
また、前記切り替え手段は、前記微小物体が前記循環経路の隣り合う2つの辺を移動する期間、前記1つのビームのオン状態を維持することを特徴とするものである。
【0028】
また、前記循環経路、前記ビーム照射手段、前記微小物体、前記流入経路および前記放出経路とを1つのマイクロチップに集積化することを特徴とするものである。
【0029】
また、前記循環経路の内壁は毛状突起を有することを特徴とするものである。
【0030】
また、前記流入経路と前記結合部の間はオリフィス構造を有することを特徴とするものである。
【0031】
また、前記流入経路にそれぞれ接続し、前記2以上の液体が収容される収容部を有することを特徴とするものである。
【0032】
第4に、照射するn本のビームが頂点nの多角形状を構成する位置に配置されたビーム照射手段と、前記ビームのオン状態とオフ状態を切り替える切り替え手段と、前記ビームの放射方向上に配置された(n−1)個の微小物体と、を有し、切り替え手段は、前記ビームの全てをオン状態として該ビームに対応して配置された前記微小物体に照射し、前記ビームが一部の前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該ビーム内に保持し、該ビームが該微小物体に与える散逸力により該ビーム内に該微小物体を移動させ、他のビームの交差点で他の微小物体を捕捉させ、移動する前記一部の微小物体と、捕捉される前記他の微小物体とを逐次切り替えて前記ビーム内を循環させることにより解決するものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、複数のビームのそれぞれの、放射方向の散乱力とビーム断面方向の勾配力の合力を利用することにより、低NAの光学系で生成した弱い集光状態のビーム(放射光)であっても微小物体の運動を制御できる。低NAの光学系は、例えば先端をレンズ状に研磨した光ファイバで実現でき、装置の簡素化、小型化が実現する。これにより、光マイクロチップの様な微小構造体中にも、微小物体を循環移動させる方法およびシステムを容易に実現できる。
【0034】
低NAのビームにより微小物体に生じる勾配力は微小物体をビーム内に閉じ込めるように作用し、散逸力は微小物体に対して斥力として作用するため、微小物体はビーム(第1のビーム)をレールとしてこれに乗るように、第1のビーム内を移動する。ここで、別のビーム(第2のビーム)を第1のビームに交差させることにより、微小物体の運動方向を変更できる。すなわち支持台やガイドを設けることなく、ビームをレールとして微小物体の運動方向の制御や、方向の変更が自由に設定できる。従って、三次元構造の光ビームのネットワークに沿って微小物体を移動させることができる。
【0035】
具体的には、3以上のビームが多角形状を構成するようにビーム照射手段を配置し、ビームによる循環経路を形成し、多角形の中心を回転軸として、循環径路に沿って微小物体を循環移動させることができる。
【0036】
またビームが微小物体に与える勾配力と散乱力によって微小物体を移動、捕捉するため、微小物体の回転軸(ビームにより構成される多角形の中心を貫く法線)に対して垂直な位置に、駆動光学系である低NAのビーム照射手段を配置する平面構造で実現できることから、装置の厚みが抑えられる。
【0037】
更に、低NAの(集光が不完全な)ビームを用いることにより、散乱力(反射光および透過光の光軸方向成分の力)を斥力として働かせることができる。微小物体に対する勾配力(ビームの断面方向成分の力)が失われない限り、散乱力がビームの放射方向に沿った斥力になることは、その目的上問題ではなく、むしろ物体の移動速度を高める利点として作用することになる。
【0038】
つまり、本実施形態では、微小物体を確実に、すなわち、経路を逸脱することなく(経路内に保持した状態で)所定の位置まで移動させることを可能にすることができる。
【0039】
微小物体を移動させるための、物理的なクリーク内や支持台などにビームで押さえつけるように微小物体を移動させる従来方法では、支持台等との摩擦が発生し、スムーズな移動が阻まれる。しかし、本実施形態では、微小物体のガイドとなるクリークや支持台が不要であるので、スムーズで高速な移動が可能となる。
【0040】
また、ビームや微小物体を押さえつける支持台が不用であり、駆動力となる光は例えばファイバによる外部供給ができるため、コンパクトかつ堅牢な装置の実現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の実施形態を、図1から図13を参照して説明する。
【0042】
本実施形態の微小物体移動方法は、3以上のビームが交差し、該ビームにより多角形状が構成される位置にビーム照射手段を配置し、前記ビームのうち1つのビームをオン状態として微小物体に照射する工程と、該1つのビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該1つのビーム内に保持し、該1つのビームが前記微小物体に与える散乱力により該1つのビーム内に該微小物体を移動させる工程と、前記1つのビームに隣り合う他のビームをオン状態とし、オン状態の2つのビームの交差点付近に前記微小物体を捕捉させる工程と、前記1つのビームをオフ状態とし、オン状態の前記他のビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該他のビーム内に保持し、該他のビームが前記微小物体に与える散乱力により該他のビーム内に該微小物体を移動させる工程とから構成され、前記1つのビームのオン状態と前記2つのビームのオン状態とを順次切り替えることにより前記多角形状のビーム内に前記微小物体を循環させるものである。
【0043】
図1は、本実施形態の微小物体移動方法を説明するフロー図であり、図2から図4は微小物体移動方法を説明するビームと微小物体の概要図である。
【0044】
第1工程(図1 ステップS1):3以上のビームが交差し、ビームにより多角形状が構成される位置にビーム照射手段を配置し、ビームのうち1つのビームをオン状態として微小物体に照射する工程。
【0045】
ここでは一例として、3本のビームによって三角形の循環経路を構成した場合について説明する。図2は循環経路の平面概要図である。
【0046】
図2を参照して、実線及び破線の如く第1のビーム21、第2のビーム22、第3のビーム23をそれぞれ照射する第1ビーム照射手段11、第2ビーム照射手段12、第3ビーム照射手段13を対向するように配置する。尚、以下の説明においてはオン状態のビームを実線で示し、オフ状態のビームを破線で示す。
【0047】
ここで各ビームは、レーザビームであり、第1〜第3ビーム照射手段11、12、13は例えば半導体レーザに接続した光ファイバである。第1光ファイバ11、第2光ファイバ12、第3光ファイバ13は、それぞれ先端が、直径約3μmの半球状に研磨された先球光ファイバであり、弱い集光状態(低NA(Numerical Aperture:開口数))の光を放射する。第1〜第3光ファイバ11〜13のNAは、0.148程度である。
【0048】
第1〜第3光ファイバ11、12、13は、それぞれが照射する第1のビーム21、第2のビーム22、第3のビーム23が互いに交差し、各ビーム21〜23を同時に照射した場合に、それらを辺とする正三角形状が形成されるような位置に配置する。すなわち、各ビーム21、22、23の、正三角形の内角となる交差角度θは、60度である。3つの光ファイバ11、12、13は同一の水平面内に配置され、第1〜第3のビーム21、22、23は同一の水平面内に存在する。
【0049】
また各ビーム11、12、13の交差点間の距離L1および各光ファイバ11、12、13の先端から隣接する光ファイバ先端の交差位置までの距離L1’は、十数μm程度(一例として、L1=9.5μm、L1’=13.2μm)とする。尚、ここでは各光ファイバ11、12、13の位置を特定するために上記の構成を示して説明しているが、本実施形態において3つのビームが同時に照射され、ビームによる正三角形状が形成されることはない。
【0050】
微小物体3は、その形状が例えば球体、楕円体などの粒子であり、その場合の直径または短軸方向の幅は、例えば5μm〜10μm程度である。
【0051】
上記の位置に各光ファイバ11、12、13を固定した後、第1光ファイバ11の延長線上に微小物体3を配置して、第1のビーム21をオン状態として微小物体3に照射する。このとき、第2のビーム22および第3のビームはオフ状態である。
【0052】
第2工程(図1 ステップS2):1つのビームが微小物体に与える勾配力により微小物体を1つのビーム内に保持し、1つのビームが微小物体に与える散乱力により1つのビーム内に微小物体を移動させる工程。
【0053】
図3(A)を参照して、第1光ファイバ(先球光ファイバ)11から照射された第1のビーム(放射光)21は、緩やかに集光されたレーザビームとなる。
【0054】
ここでは、緩やかに集光されたビームの一例として、平行ビームを微小物体3に照射した場合の概要図を示す。微小物体3は、例えば、媒質(水:屈折率n=1.33)中に浮遊するポリスチレン(屈折率n=1.6)とする。
【0055】
微小物体3に、低NAの第1のビーム(ここでは平行ビーム)21が入射すると、第1のビーム21は微小物体3内を透過する。尚、この場合反射光による力は無視できるほど小さい(入射パワーの数%)いため、ここでの図示は省略する。
【0056】
これにより、微小物体3には細矢印の如く透過光による力Fdが働く。そして、透過光による力Fdを光軸方向成分(Fd1)と、第1のビーム21の断面方向成分(Fd2)とに分けた場合、光軸方向成分Fd1が微小物体30に働く斥力および引力となる。
【0057】
図3(A)においては入射光方向(左矢印:便宜上、−Fd1と表記する)の合力が引力であり、透過光方向(右矢印:Fd1)の合力が斥力である。そして、この場合斥力Fd1が引力−Fd1より若干大きく、微小物体3には第1のビーム21の放射方向の力(斥力Fd1)が作用する。
【0058】
一方、第1のビーム21の断面方向成分の力Fd2は、微小物体3を互いに外側に引っ張るように作用し、第1のビーム21の断面方向の平衡状態が作られる。
【0059】
ここで例えば、図3(B)に示すように、何らかの外力により微小物体3がビーム断面の中心から外れ、微小物体3の中心がOからO’に変位したとする。この場合、入射および、透過光の関係も図3(C)に示すように変遷し、その結果としてビーム断面方向成分の力Fd2の平衡状態が崩れ、微小物体3を元の中心Oに戻そうとする復元力が生じることになる。このように、微小物体3は、断面方向成分の力Fd2の釣り合いによって、第1のビーム21から逸脱することなくビーム内(ビーム上)に保持される。
【0060】
以降では、これらの力を大きさによらず、微小物体3の質量中心に作用する力の方向に着目して説明する。つまり、第1のビーム21の放射方向に向かう力(ビームの透過光(及び若干の反射光)の斥力(光軸方向成分の力)として散乱力Fg、第1のビーム21内に当該微小物体3を保持する力(ビームの断面方向成分の力)として勾配力Fgを用いて説明する。
【0061】
すなわち、このように緩やかに集光した第1のビーム21が微小物体3に照射されると、第1のビーム21が微小物体3によって屈折し、微小物体3には第1のビーム21の放射方向に向かう散乱力Fs1と、第1のビーム21断面内に当該微小物体3を保持する勾配力Fg1とが働く。
【0062】
勾配力Fg1は、微小物体3を第1のビーム21内に閉じ込めるように作用し、散乱力Fs1は、微小物体3に対して斥力として作用する。これにより微小物体3は、第1のビーム21の勾配力Fg1により第1のビーム21内に保持されたまま、散乱力Fs1によって第1のビーム21の内部を、当該ビームの放射方向に移動する。つまり、外部の支持台やクリークなどの物理的なガイドを用いることなく、微小物体3は、第1のビーム21をレールとしてこの内部を移動する(図2)。
【0063】
第3工程(図1 ステップS3):1つのビームに隣り合う他のビームをオン状態とし、オン状態の2つのビームの交差点付近に微小物体を捕捉させる工程。
【0064】
図4(A)を参照して、第1のビーム21内を移動する微小物体3が、第1のビーム21と第2のビーム22の交差点付近に達したとき、第1のビーム21のオン状態を維持したまま隣り合う第2のビーム22もオン状態とする。第2のビーム22のレーザパワーは第1のビーム21と同等とする。すなわち、微小物体3が多角形状の隣り合う2つの辺(となるビーム)を移動する期間、第1のビーム21はオン状態が維持される。
【0065】
第1のビーム21と第2のビーム22は、同一水平面内に存在するので、これらの交差点においては、微小物体3は第1のビーム21に加えて、第2のビーム22の影響も受ける。すなわち、微小物体3には、第2のビーム22の勾配力Fg2および散乱力Fs2も働く。
【0066】
このとき、第1のビーム21と第2のビーム22の交差角度(これらを2辺とする正三角形の内角)θが60度で、レーザパワーが共に3mW程度〜15mW程度の範囲の同等の値であるとき、微小物体3に働く2つのビーム21、12の勾配力Fg1、Fg2と散乱力Fs1、Fs2が釣り合い、交差点付近で微小物体3を捕捉することができる。つまり、第1のビーム21内を移動していた微小物体3は、第2のビーム22との交差点付近で捕捉されその位置で浮遊状態で保持される。
【0067】
尚、ここでは第1のビーム21と第2のビーム22のレーザパワーと同等とした。しかし各ビームにおいて、勾配力Fgは、散乱力Fsの2倍の強さがある。従って、2本のビームのレーザパワーに2倍以内の相違が生じても、交差点付近における捕捉は十分可能である。
【0068】
第4工程(図1 ステップS4):1つのビームをオフ状態とし、オン状態の他のビームが微小物体に与える勾配力により微小物体を他のビーム内に保持し、他のビームが微小物体に与える散乱力により他のビーム内に微小物体を移動させる工程。
【0069】
次に、図4(B)を参照して、第1のビーム21をオフ状態とし、第2のビーム22のみオン状態を維持する。第3のビーム23もオフ状態である。これにより、第1のビーム21と第2のビーム22の交差点付近で保持された微小物体3には、第2のビーム22の勾配力Fg2および散乱力Fs2のみが働く。
【0070】
勾配力Fg2は、微小物体3を第2のビーム22内に閉じ込めるように作用し、散乱力Fs2は、微小物体3に対して斥力として作用する。これにより微小物体3は、第2のビーム21の勾配力Fg2により第2のビーム22内に保持されたまま、散乱力Fs2によって第2のビーム22の内部を、当該ビームの放射方向に移動する。
【0071】
つまり微小物体3は、第1のビーム21をレールとして第1のビーム21内に保持されつつ移動し、第1のビーム21と第2のビーム22の交差点付近で、あたかも一旦停止するかのごとく捕捉され、第2のビーム22の放射方向に方向を転換し、その後は第2のビーム22をレールとして第2のビーム22内に保持されつつ移動する。
【0072】
ここで、微小物体3が楕円体の場合は、楕円体の長軸が各ビームの放射方向になるように移動し、2つのオン状態のビームによりそれらの交差点付近で捕捉される。そして第1のビーム21がオフ状態となり、第2のビーム22のみがオン状態となると、楕円体の長軸方向を回転させて第2のビーム22の放射方向に移動する。
【0073】
第5工程(図1 ステップS5):1つのビームのオン状態と2つのビームのオン状態とを順次切り替える工程。
【0074】
その後、第2工程から第4工程と同様に、1つのビームがオン状態となる場合と、2つのビームが同時にオン状態となる場合とを順次切り替える。
【0075】
すなわち、図示は省略するが、第2のビーム22内を移動する微小物体3が、第2のビーム22と第3のビーム23の交差点付近に達したとき、第2のビーム22のオン状態を維持したまま隣り合う第3のビーム23もオン状態とする。第3のビーム23のレーザパワーは第2のビーム22と同等とする。
【0076】
第2のビーム22と第3のビーム23は、同一水平面内に存在するので、これらの交差点においては、微小物体3は第2のビーム22に加えて、第3のビーム23の勾配力Fg3および散乱力Fs3も働く。つまり、第2のビーム22内を移動していた微小物体3は、第3のビーム23との交差点付近において勾配力Fg2、Fg3および散乱力Fs2、Fs3が釣り合うことにより捕捉されその位置で保持される。
【0077】
その後、第2のビーム22をオフ状態とし、第3ビーム23のみオン状態を維持する。これにより、交差点付近で保持された微小物体3には、第3のビーム23の勾配力Fg3および散乱力Fs3のみが働く。これにより微小物体3は、第3のビーム23の勾配力Fg3により第3のビーム23内に保持されたまま、散乱力Fs3によって第3のビーム23をレールとしてその内部を、当該ビームの放射方向に移動する。
【0078】
更に、微小物体3が、第3のビーム23と第1のビーム21の交差点付近に達したとき、第3のビーム23のオン状態を維持したまま隣り合う第1のビーム21もオン状態とする。第3のビーム23と第1のビーム21は、同一水平面内に存在するので、これらの交差点において、微小物体3に勾配力Fg3、Fg1および散乱力Fs3、Fs1が働き、これらが釣り合うことによって捕捉されその位置で保持される。
【0079】
以降同様に、第1〜第3のビーム21、12、13を、1つのビームのみオンする期間と、2つのビームが同時にオンする期間とが交互になるよう、順次切り替えることにより、微小物体3には1つのビームの散乱力Fsおよび勾配力Fgの合力が働き、ビーム上を移動する期間と、2つのビームの散乱力Fsおよび勾配力Fgの合力が働き、捕捉および保持される期間とを発生させることができる。
【0080】
これにより、クリークなどの物理的なガイドを設けることなく、第1〜第3のビーム21、12、13のみをレールとして、換言すれば自由空間内で光圧以外の支持手段を設けることなく、ビームで構成された循環経路内に微小物体3を移動させることができる。微小物体3は、各ビームを辺とした多角形の中心を回転軸Rとして、循環経路内を移動する(図4(B)白抜き矢印参照)。
【0081】
従来の高NAの1ビームの光でトラップする方法では、捕捉対象となる微小物体と周囲媒質との屈折率差が大きすぎると、ビームの断面方向成分に対して光軸方向成分(斥力)の寄与が大きくなるため(図16参照)、微小物体とそれらを分布させる媒質との間の屈折率差が捕捉力に依存するという問題がある。すなわち、微小物体を捕捉する目的では、高NAの1本のビームの場合、散乱力を引力として作用させるため、屈折率が大きいと捕捉しにくくなる。
【0082】
しかし、本実施形態では、低NAの(集光が不完全な)ビームを用いることにより、散乱力を斥力として働かせることができる。微小物体3に対する勾配力が失われない限り、散乱力がビームの放射方向に沿った斥力になることは、その目的上問題ではなく、むしろ物体の移動速度を高める利点として作用することになる。
【0083】
また、微小物体3をレーザビームの断面中央に留めるように作用する勾配力は、レーザビームが微小物体3内に僅かでも侵入すれば作用することから、微小物体3が完全なる反射物質でない限りは微小物体3をビーム断面内に保持しようとする力が作用する。
【0084】
つまり、本実施形態では微小物体3をある一点に停留させることのみに留まらず、微小物体を確実に、すなわち、経路を逸脱することなく(経路内に保持した状態で)所定の位置まで移動させることを可能にするものである。
【0085】
物理的なクリーク内や支持台などにビームで押さえつけるように微小物体を移動させる従来方法では、支持台等との摩擦が発生し、スムーズな移動が阻まれる。しかし、本実施形態では、微小物体3の物理的なガイドとなるクリークや支持台が不要であるので、スムーズで高速な循環移動が可能となる。
【0086】
図5を参照して、各ビームの切り替えについて説明する。
【0087】
レーザ照射の切り替えは、微小物体3が1つのビーム内に入ると同時に行うのが理想的である。すなわち、図2および図4の関係を維持して正確に切り替えることができれば、各ビームを1つずつオンすることで上記の如く微小物体3を循環運動させることができる。
【0088】
しかし、後述するが、微小物体3の移動速度はレーザパワーに依存するため、移動し始める時刻とビームの切り替え時刻を厳密に同期させることは容易でない。また物理的なガイドを設けず、ビームの光圧のみを支持手段とするため、切り替えのタイミングがずれることにより、微小物体3が循環経路から脱落するなど安定性の観点からも妥当ではない。
【0089】
そこで、各ビームのオン、オフの切り替えをデューティー比50%の任意の周期で設定し、3つのビーム(レーザ)相互の切り替えを1/3周期位相させ、2つのビームが同時にオンする期間と、1つのビームのみがオンする期間とが交互になるように設定する。
【0090】
図5は、本実施形態の第1ビーム21、第2ビーム22、第3ビーム23の切り替えを示すタイミングチャートである。
【0091】
図の如く、期間t1においては、第1のビーム21および第3のビーム23がオン(Hレベル)で、第2のビーム22がオフ(Lレベル)である。期間t2は、図2の状態であり、第1のビーム21のみHレベルで第2のビーム22、第3のビーム23がLレベルである。期間t3は、図4(A)の状態であり、第1のビーム21および第2のビーム22がHレベルで第3のビーム23がLレベルであり、期間t4は、図4(B)の状態であり、第2のビーム22のみHレベルで第1のビーム21および第3のビーム23がLレベルである。
【0092】
このように、1つのビームのみがオン(Hレベル)となる期間と、2つのビームが同時にオン(Hレベル)となる期間を交互に切り替える。またHレベルとなるビームは、必ず直前にオン状態であったビームが含まれるよう、第1のビーム21から第3のビーム23を順次切り替える。すなわち、2つのビームをオンする場合は、直前にオンしていた1つのビームを含み、1つのビームをオンする場合には直前にオンしていた2つのビームのうちいずれか1つ(微小物体3が移動してきたビーム)をオフする。
【0093】
また根拠は後述するが、各ビーム21、12、13のレーザパワーP[mW]と、一辺を移動するのに係る時間T[s]の関係を定式化すると、以下の(1)式が得られる。
【0094】
T=1.7/P (1)
つまり、各ビームの切り替えのタイミングをこの条件に合わせることで、循環運動を安定させることができる。
【0095】
例えば、各ビームのレーザパワーが10.625mWの場合、オン、オフの切り替え時間は、0.08sとすると、安定した循環運動を継続させることができる。
【0096】
図6は、本発明の第2の実施形態として微小物体移動システムを説明する概略図である。図6(A)はシステム全体の概要図であり、図6(B)(C)は、ビーム照射手段の拡大図である。
【0097】
図6(A)の如く、微小物体移動システムは、第1、第2、第3ビーム照射手段11、12、13と、切り替え手段6とを有する。
【0098】
第1ビーム照射手段11、第2ビーム照射手段12、第3ビーム照射手段13は、例えばそれぞれ半導体レーザ4に接続した光ファイバである。半導体レーザ4は、例えば波長1.48μmの半導体レーザであり、これをCW駆動し、SCコネクタによりシングルモードとなる光ファイバ11、12、13に接続する。各半導体レーザ4のレーザパワーは、3mW程度〜15mW程度であり、一例として、いずれも14.26mWとする。各半導体レーザ4には、それぞれ電流発生手段5が接続し、さらにこれらを制御する切り替え手段6に接続する。切り替え手段(コンピュータ)6は、半導体レーザ4に供給する電流を調整し、レーザのオン、オフの周期とレーザパワーを制御する。
【0099】
また、ここでは微小物体3の運動を監視するための、電子顕微鏡8およびCCDカメラ9、モニタ10を設けている。
【0100】
図6(B)を参照して、第1光ファイバ11は先端の直径φが約3μmの半球状に研磨された先球光ファイバである。これにより、弱い集光状態(低NA(Numerical Aperture:開口数)の光を放射する。第1光ファイバ11先端のテーパー角度αは30度であり、コアの幅dは例えば10μmである。この構成は、第2光ファイバ12、第3光ファイバ13も同様である。
【0101】
図2の如く、第1〜第3光ファイバ11、12、13は、それぞれが照射する第1の(レーザ)ビーム21、第2の(レーザ)ビーム22、第3の(レーザ)ビーム23が互いに交差し、各ビーム21〜23を同時に照射した場合に、それらによって正三角形状が形成されるような位置に配置する。
【0102】
図6(C)は、第1、第2、第3光ファイバ11、12、13と微小物体3の配置の関係を示す図であり、図6(A)のV方向から見た側面図である。このように、3つの光ファイバ11、12、13は同一の水平面内に配置される。また、微小物体3は、各光ファイバ11、12、13から照射される第1のビーム21、第2のビーム22、第3のビーム23と同一の水平面内に配置される。
【0103】
各光ファイバ11、12、13の先端から隣り合うファイバ先端の交差位置までの距離L1’は、それぞれ十数μm程度とし、一例として13.2μmとする。
【0104】
動作は以下の通りである。
【0105】
切り替え手段6は、各半導体レーザ4を制御することにより、3つのビーム21、22、23のうち、1つのビームのオン状態と、2つのビームのオン状態とを順次切り替える。
【0106】
すなわち、切り替え手段6は、第1のビーム21をオン状態として当該ビームの延長線上に配置された微小物体3に照射する。微小物体3は、その形状が例えば球体、楕円体などの粒子であり、その場合の直径または短軸方向の幅は、例えば5μm〜10μm程度である。ここでは、一例として屈折率1.59で直径が5μm程度の樹脂系材料(例えばポリスチレン)の球体とする。
【0107】
既述の如く、微小物体を捕捉する目的では、高NAの1本のビームの場合、散乱力を引力として作用させるため、屈折率が大きいと捕捉しにくくなる上、装置の小型化が問題である。
【0108】
また、一般には弱い集光状態(低NA)の光を用いる場合に、微小物体3の屈折率が小さいと運動能力が低下する。しかし一方で、低NAの(集光が不完全な)ビームの場合は、そもそも散乱力が斥力として働く。そして本実施形態では、散乱力と勾配力の合力を利用して移動させ、更に、複数のビームで循環経路を形成することにより、ビームの交差点で微小物体を捕捉させることで、ビーム内に微小物体3を循環移動させるものである。
【0109】
つまり、本実施形態は、ビーム内に微小物体を保持した状態で、経路(ビーム)から逸脱することなく循環移動させるものであり、微小物体3の屈折率の大小が及ぼす影響はほとんどないといってよい。
【0110】
このため本実施形態では、ポリスチレンの微小物体3を採用できる。ポリスチレンは樹脂系材料では最大の屈折率を持っており、運動させるには好適である。尚、屈折率が変わっても、捕捉のためのビームの交差角度(60度〜120度)の条件は変わらない。
【0111】
切り替え手段6によって照射された第1のビーム21は、緩やかに集光されたレーザビームであり、これにより微小物体3には第1のビーム21断面内に当該微小物体3を保持する勾配力Fg1と、第1のビーム21の放射方向に向かう散乱力Fs1が働く。
【0112】
これにより微小物体3は、第1のビーム21の勾配力Fg1により第1のビーム21内に保持されたまま、散乱力Fs1によって第1のビーム21の内部を、当該ビームの放射方向に移動する。つまり、外部の支持台やクリークなどの物理的なガイドを用いることなく、微小物体3は、第1のビーム21をレールとしてこの内部を移動する(以下図4を参照)。
【0113】
第1のビーム21内を移動する微小物体3が、第1のビーム21と第2のビーム22の交差点付近に達したとき、切り替え手段6は、第1のビーム21のオン状態を維持したまま隣り合う第2のビーム22もオン状態とする。第2のビーム22のレーザパワーは第1のビーム21と同等とする。
【0114】
第1のビーム21と第2のビーム22は、同一水平面内に存在するので、これらの交差点においては、微小物体3は第1のビーム21に加えて、第2のビーム22の影響も受ける。すなわち、微小物体3には、第2のビーム22の勾配力Fg2および散乱力Fs2も働く。
【0115】
これにより、微小物体3に働く勾配力Fg1、Fg2と散乱力Fs1、Fs2が釣り合い、交差点付近で微小物体3を捕捉することができる。つまり、第1のビーム21内を移動していた微小物体3は、第2のビーム22との交差点付近で捕捉されその位置で浮遊状態で保持される。
【0116】
次に、切り替え手段6は、第1のビーム21をオフ状態とし、第2のビーム22のみオン状態を維持する。これにより、交差点付近で保持された微小物体3には、第2のビーム22の勾配力Fg2および散乱力Fs2のみが働く。これにより微小物体3は、第2のビーム21の勾配力Fg2により第2のビーム22内に保持されたまま、散乱力Fs2によって第2のビーム22の内部を、当該ビームの放射方向に移動する。
【0117】
第2のビーム22内を移動する微小物体3が、第2のビーム22と第3のビーム23の交差点付近に達したとき、切り替え手段6は、第2のビーム22のオン状態を維持したまま隣り合う第3のビーム23もオン状態とする。第3のビーム23のレーザパワーは第2のビーム22と同等とする。
【0118】
第2のビーム22と第3のビーム23は、同一水平面内に存在するので、これらの交差点においては、微小物体3は第2のビーム22に加えて、第3のビーム23の勾配力Fg3および散乱力Fs3も働く。微小物体3は、これらの釣り合いにより捕捉されその位置で保持される。
【0119】
その後、切り替え手段6は、第2のビーム22をオフ状態とし、第3ビーム23のみオン状態を維持する。これにより、交差点付近で保持された微小物体3には、第3のビーム23の勾配力Fg3および散乱力Fs3のみが働き、微小物体3は第3のビーム23をレールとしてその内部を、当該ビームの放射方向に移動する(図4(B)参照)。
【0120】
更に、微小物体3が、第3のビーム23と第1のビーム21の交差点付近に達したとき、切り替え手段6は、第3のビーム23のオン状態を維持したまま隣り合う第1のビーム21もオン状態とする。これにより第3のビーム23と第1のビーム21の交差点において、微小物体3は捕捉されその位置で保持される。
【0121】
以降同様に、切り替え手段6は、第1〜第3のビーム21、12、13のうち、1つのビームのみオンする期間と、2つのビームが同時にオンする期間とが交互になるよう、順次切り替える。これにより、微小物体3には1つのビームの散乱力Fsおよび勾配力Fgの合力によってビーム上を移動する期間と、2つのビームの散乱力Fsおよび勾配力Fgの合力によって捕捉および保持される期間とを発生させることができる。
【0122】
切り替え手段6は、1つのビームをオンする期間と2つのビームをオンする期間は、図5の如きタイミングで切り替える。微小物体3の動きを完全に停止させない程度に、微小物体3を瞬時に捕捉するタイミングで、これらのビームの切り替えを行うことで、安定した循環運動が可能となる。
【0123】
また、本実施形態では、従来の如く、上方から微小物体にビームを照射して回転させる必要がなく、微小物体の回転軸(多角形の中心を貫く法線)に対して垂直な位置に低NAの駆動光学系(ビーム)を配置する平面構造でよい(図6(C))参照)。つまり、回転子となる微小物体3と、当該微小物体3を移動させるビームが同じ水平面内に存在し、微小物体3が3つのビームが存在する平面内を循環移動する。このため、従来の構成と比較して、装置の厚みを抑えることができ、小型化が実現する。
【0124】
第1〜第3ビーム照射手段11、12、13に先球光ファイバを用いることで、光捕捉・操作に対する自由度が大きくなり、これらの光ファイバを光コネクタを用いて(装置外部の)光源と接続させる構造を有する場合、波長もしくは最大出力の異なる光源への変更が容易である。
【0125】
また、第1〜第3ビーム照射手段11、12、13は、例えば単一のレンズでもよい。その場合光源(半導体レーザ)も装置内に内蔵させ、それを単一のレンズで平行ビームに近い形で微小物体3に照射させることにより、同様に実施できる。
【0126】
このように本実施形態では、低NAの光学系でよいので光マイクロチップの様な微小構造体中にも容易に集積化できる。また、光ビームにより微小物体に生じる勾配力は微小物体を光ビーム内に閉じ込めるように作用し、散乱力は微小物体に対して斥力として作用するため、微小物体は光ビームのレールに乗って移動する。
【0127】
また、別の光ビームを元の光ビームに交差させることにより、微小物体の運動方向を変更できる。つまり複数のビームで循環経路を形成することで、その径路に沿って微小物体を循環運動させることができる。このように本実施形態では、自由空間中を完全に光の力だけで導き運動させることができるので、他の物理的なガイド(支持台やクリーク)が不要であり、小型化した装置を安価に実現できる。
【0128】
尚、本実施形態では3つのビームにより三角形状の循環経路を形成する場合を例に説明したが、四角形状、五画形状等、他の多角形状であっても、レーザパワーと、交差点間の距離L1を適宜選択することにより、同様に実施できる。その場合、多角形の内角となる2つのビームの交差角度θは、60度〜120度程度までが好適である。
【0129】
上記の方法による微小物体の循環移動を実験により確認したので、以下これについて説明する。
【0130】
まず、2本のレーザビームにより微小物体(以下微小物体)に生じる光圧の特性を調べた。実験に用いた装置の構成は、図6(A)と同様である。
【0131】
図7を参照して、実験は研磨により端面を球状にした2本の光ファイバ(先球光ファイバ)121、122を用いて行った。捕捉用光源(ビーム)は波長1.48μmのピッグテールつき半導体レーザであり、これをCW駆動し、SCコネクタによりシングルモードとなる光ファイバ121、122に結合して用いた。
【0132】
光ファイバ121、122は実験のために全方向へ自由に移動できるものとする。例えば、光ファイバ121、122は油圧式マニピュレータに取り付けられており、xyz軸方向にファイバ121、122の位置を移動させることが可能である。
【0133】
実験に用いた光ファイバの先球の直径は3μmであり、微小物体103は屈折率1.59、直径5μmのポリエスチレン球である。ポリエスチレン球はガイドやクリークなどが存在しない分散媒質(水道水)に分散させた。また、光ファイバ121、122は同一の水平面内に配置させた(図6(C)参照。)。
【0134】
光ファイバ121、122の先端形状は、図6(B)に示す本実施形態の光ファイバ11〜13と同様である。
【0135】
まず、2本のレーザビームの交差角度と微小物体103に働く力の関係を調べた。
【0136】
2本のビームを対向させた場合、微小物体に対してビーム断面の中心に向かって働く力とビーム放射方向に働く力が釣り合い、微小物体103は捕捉され静止する。
【0137】
この状態を起点とし、レーザビームの交差角度を180度から10度ずつ狭めてゆき、捕捉限界の交差角度を調べた。
【0138】
その結果、レーザビームの60度までの交差角度において微小物体103が捕捉可能であることが確認できた。このことから、レーザビームの交差角度が拡がることで微小物体に働く捕捉力は強まっていくといえる。
【0139】
また、交差位置とファイバ端面との距離の依存性の有無を調べた。
【0140】
図7は、2本の先球光ファイバの配置角度と、微小物体の関係を示している。
【0141】
2本の光ファイバ121、122の配置角度(それぞれから照射されるレーザビーム211、112の交差点における角度)θ’を90度に固定し、その交差点に微小物体103を捕捉させた。この状態において矢印の如く一方の光ファイバ122を他方の光ファイバ121からのビーム211の光軸に沿って平行に移動させる。
【0142】
この状態において微小物体103に双方の光ファイバ121、122からレーザビーム211、212の光圧が十分に働いている範囲内では、光ファイバ122の移動に合わせて、光ファイバ121からのビーム211の光軸に沿って、微小物体103は移動する。光ファイバ121からの放射光の放射方向に働く力による微小物体103の捕捉力のため、光圧の均衡が崩れた地点からビーム放射方向に働く力の影響力を調べた。
【0143】
実験の結果、2本のレーザパワーを等しく14.26mWとした場合、光ファイバ121の先端から微小物体103までの距離が13.2μmの位置まで、微小物体103の捕捉を維持することができた。
【0144】
また、双方のレーザパワーを3.8mWとした場合においても、同じ位置(13.2μmを超えた位置)で捕捉不可能となった。これらの結果から、微小物体103に対してビーム放射方向に働く力は、ファイバの先端からの距離に依存しないことがわかった。即ち、レーザパワーを変えても微小物体103が捕捉できる距離に差異が無いことから、直径3μmの光ファイバを用いた場合、先端からの距離が13.2μmまでは、微小物体103に対してレーザビームの放射方向に働く力(散乱力)と断面内に保持する力(勾配力)とが働く光圧特性が成り立ち、2本の光ファイバ121、122の先端から微小物体103までの距離がこの範囲内であれば、微小物体103を安定に運動制御できるといえる。
【0145】
更に、双方のレーザパワーに差異を設けることにより、ビームの散乱力と勾配力の比率を調べた。
【0146】
双方のレーザパワーを等しく14.26mWとした上で、相互の配置角度を90度とした。この状態で微小物体を捕捉し、一方のレーザパワーを次第に低下させていくことで微小物体が捕捉できなくなる相互のレーザパワーの差を求めた。
【0147】
実験の結果、一方のレーザパワーを7.23mWまで低下させた時、微小物体の捕捉が不可能となった。このことから、散乱力に対して勾配力は約2倍の強さがあるといえる。即ち、2本のレーザパワーに若干の相違が生じても、十分な捕捉力があると判断できる。
【0148】
また、対向するファイバ121、122からの放射光に捕捉された微小物体が交互に切り替えられたレーザビームによってどのように運動するかを調べた。
【0149】
図8は0.4sの周期にてレーザパワーで切り替えた場合の微小物体の変位を測定した結果である。
【0150】
各々のレーザパワーは14.26mWであり、変位の中心はファイバ121、122間の中心である。最終的に片方のファイバに微小物体103が接触してしまったが、安定した往復運動が認められた。特に、レーザビームの切り替わりの過渡時間においても、微小物体103をビーム断面内に捕らえ、レーザビームに沿って移動させることが可能であることが確認できた。
【0151】
また、対向するレーザビームの中心軸をずらすことで、楕円軌道で微小物体を往復させることも可能であった。
【0152】
以上のことから、レーザを瞬間的に切り換えても微小物体に対してビーム断面内に保持する力とビーム放射方向に働く力が加わると考えられ、レーザビームを切り換えることで、レーザビームに沿って微小物体を連続的に運動させることができる。
【0153】
更に、レーザビームの微小物体に対する光圧特性(散乱力および勾配力の関係)から、ビームの交差角度を60度以上、ファイバの先端から微小物体の距離を13.2μm以内とし、レーザビームを切り換えることで、複数のレーザ網に沿って微小物体を安定に運動制御させることが可能になると予測された。そこで、これを実験により検証した。
【0154】
循環運動の経路として、独立の光源をもつ3本の光ファイバ(先球光ファイバ)からの放射光により正三角形を構成することとした。これらのファイバから放射されるレーザビームは120度で交差することから、上記の条件(60度以上)を満たすことになる。また、移動経路の一辺の長さ(レーザの交差点間の距離L1)は9.5μmとした(光ファイバ先端から隣り合う光ファイバ先端の交差点までの拒理L1’は13.2μmである。)。各レーザ素子に供給する電流はコンピュータで調整し、点滅の周期とレーザパワーを制御する。その他の条件は上記の2本の光ファイバの場合と同様である。
【0155】
レーザ照射の切り替えは、図5の如く、各レーザの点滅をデューティー比50%の任意の周期で設定し、3つのレーザ相互の切り替えを1/3周期移相させ、2つのレーザが同時に点灯する時間帯(期間)と1つだけが点灯する時間帯(期間)とが交互になるように設定した。
【0156】
これにより、微小物体3に対して、1つのビームの散逸力および勾配力が働く期間と、2つのビームの散逸力および勾配力が働く期間とを設けることとなる。合力が作用する期間の初期においては二つの力の合力は微小物体の移動を担うが最終的には、上述の通り、微小物体を補足することになり、循環運動の安定度が向上することが期待できる。
【0157】
一方で交差点付近での微小物体3の捕捉時間は、循環運動の連続性や円滑さに寄与し、かつレーザパワーとの相関関係も無視できない。そこで、3本のレーザパワーを一律に14.26mWとした場合と、同じく8.57mWとした場合について、各レーザの点滅周期を先に述べた移相関係を維持しつつ徐々に短縮させ、それぞれのレーザパワーに対して円滑に循環運動を行うための切り替え条件を調べた。
【0158】
図9は、レーザパワーが14.26mWの条件における最適な微小物体の循環運動の様子を示す図である。尚、図9では各ビーム21、22、23は図示されないので、第1〜第3光ファイバ11、12、13を用いて説明する。
【0159】
図9(A)が開示の状態(0s)である。その後図9(B)の如く第1光ファイバ11(からのビーム)がオン状態で、第2光ファイバ12方向に移動する。図9(C)の如く開始から0.16s後に微小物体3は、第2光ファイバ12の先端(第1のビームと第2のビームの交差点付近)で捕捉され、図9(D)の如く0.24s後には第2のビームをレールとして第3光ファイバ13方向に移動する。図9(E)の如く0.32s後には、第3光ファイバ13の先端で捕捉されたのち、第1光ファイバ11方向に移動する。図9(F)の如く、開始から0.4s後には、微小物体3は第1光ファイバ11の先端で捕捉される。
【0160】
この場合の微小物体の循環運動は1分間以上継続した。一方、レーザの切り替えタイミングが不適切である場合は、最長でも30s程度しか循環させることができなかった。
【0161】
微小物体が正三角形上の経路を継続的に円滑に循環した場合、一辺を移動するのに要した時間は、レーザパワーが14.26mWの条件では0.125s、8.57mWにおいては0.2sであった。
【0162】
図9では、各々のレーザのオン・オフを図5に示すデューティー比50%のタイミングで行うことで3つのレーザの出力切り替えを行っている。図9の結果より微小物体3が三角形上の経路を一周するのに要した時間は0.4sであるので、捕捉と移動の時間は等しくそれぞれ0.066s(66ms)となる。
【0163】
これら二つの条件下の結果より、レーザパワーP[mW]と、一辺を移動するのに掛かる時間T[s]の関係を定式化し、上述の(1)式を得た。
【0164】
図10を参照して、レーザパワーPと移動時間Tについて説明する。図10(A)はレーザの出力制御を図5に示す位相関係で行った場合の、循環運動を維持するための条件を示すものである。図10(B)は、レーザ切り替えのタイミングを示す図である。
【0165】
図10(A)は、横軸がレーザパワーP[mW]であり、縦軸が移動時間T[s]である。ただし、レーザパワーPが3.82mWより低い場合および14.26mWより高い場合は微小物体3への捕捉力が弱く安定に循環運動させることができなかった。
【0166】
(1)式の妥当性を検証するために、レーザパワーを11.45mW、6.63mW、3.82mWとした各々の場合について、一辺の移動時間を測定した。その結果(1)式あるいは図10から予測される速さと一致した。このことから、(1)式の妥当性が確認できた。
【0167】
また、微小物体3の移動速度はレーザパワーに依存することが判った。
【0168】
図10(A)において、示された曲線より上の領域では、微小物体3の移動よりもレーザの切り替えが遅れる、すなわち、2本のレーザビームの交差位置を微小物体3が通り過ぎてからレーザの切り替えが行われる条件を示し、一方、曲線より下の領域では、微小物体3の移動よりもレーザの切り替えが早い、すなわち、微小物体3がビームの交差位置に到達する前にレーザの切り替えが行われる条件を示すものである。いずれの場合も循環運動の継続が不可能となる。
【0169】
尤も、レーザの切り替えタイミングは、それぞれのレーザのオン・オフをデューティー比50%で行うことが絶対条件ではない。三角形経路の場合、最大で図10(B)に示すようなオン・オフの時間幅が1対2すなわちデューティー比33%の場合まで動作可能である。
【0170】
この場合、レーザビームの交差位置では、微小物体に対する捕捉作用は無く、むしろ次の進行方向に向けて弾かれる動作となる。
【0171】
この場合、三角形の経路であれば、14.26mWのレーザ出力で操作した場合、微小物体が1周に要する時間は約0.2s(200ms)となる。
【0172】
この実験より、ビーム交差角度を60度以上、ファイバの先端から捕捉位置までの距離を13.2μm以内とする条件下で、レーザビームの切り替え操作により複数の光軸(ビーム)に沿って微小物体を移動させることが可能であるという結果を得た。
【0173】
最適なレーザの切り替えタイミング(パワー比が2:1以上のレーザビームの切り替え)である場合、微小物体3が大きな外乱の影響を受けない限り、円滑な循環運動を維持させることができた。このことから安定した微小物体の循環条件としては、微小物体の動きを完全に停止させない程度に微小物体を瞬時に捕捉するタイミングで、交差する2本のレーザビームを切り替えることで安定な巡回運動が可能となるといえる。
【0174】
次に図11を参照して、本発明の第3の実施形態として、上記の微小物体移動システムを用いた液体混合システムの一例について説明する。図11(A)は、液体混合システムの平面図であり、図11(B)は、図11(A)の循環経路の概要を示す拡大側面図である。
【0175】
近年、超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成、医療検査・診断、環境測定などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、センサーなど)を微細化して1チップ(プレート)上に集積化したシステムが開発されている。
【0176】
これらは、一般に検査チップ、分析チップ、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab-on-chips)、バイオチップ、マイクロリアクタ・チップなどとも称されており、以下これらをマイクロチップと総称する。
【0177】
本実施形態の液体混合システム(マイクロチップ)200は、流入経路101と、放出経路102と、循環経路105と、微小物体3と、ビーム照射手段111、112、113と、切り替え手段と、から構成され、より具体的にはこれらを1つのチップ(プレート)上に集積化した生体内内蔵用のマイクロチップ200である。
【0178】
循環経路105は、2以上の液体が流れる3以上の経路を辺とし、該経路の結合部を頂点として多角形状を構成したものである。ここでは、一例として正三角形状の循環経路105を示す。
【0179】
循環経路105は、マイクロチップ100の基板となるプレート表面をマイクロドリル等で加工したクリークである。このクリークは、微小物体3のガイドとなるものではなく、あくまでも液体の流路となるものである。基板の材料としては、無機材質または有機材質のいずれでもよく、無機材質の一例としては金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス、セラミックスなどである。有機材質の一例としてはプラスチック、ゴムなどである。
【0180】
循環経路105の1つの結合部は放出経路102が設けられ、他の2つの結合部にはそれぞれ第1の液体の流入経路101および第2の液体の流入経路103が設けられる。流入経路102のそれぞれには、第1の液体および第2の液体の収容部107、108が設けられ、これらもマイクロチップ100に集積化される。放出経路102は第1の液体および第2の液体の混合液の流路となる。すなわち、微小物体103によって経路を流れる第1の液体と第2の液体を混合し、これらの混合液を例えば血管などに放出する液体混合システムである。
【0181】
微小物体3は、循環経路105内に配置された樹脂材料からなる球体であり、サイズおよび材料は第1および第2実施形態と同様である。
【0182】
ビーム照射手段111、112、113は、それぞれの経路内にビームを照射し、交差するビームが循環経路内で多角形状(正三角形状)を構成する位置に配置される。ビーム照射手段は、例えばマイクロレンズである。
【0183】
第1〜第3マイクロレンズ111、112,113は、それらが照射するビームが各経路の中心付近を通り、交差して正三角形状を構成するように、各経路の延長線上に配置される。
【0184】
切り替え手段6は、マイクロチップ100内に集積化されたマイクロコンピュータであり、ビームの切り替えを行う。尚、切り替え手段6の動作及びそれに伴う微小物体の運動についても、第1および第2実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0185】
第3の実施形態では、液体の流路となる物理的な循環経路(クリーク)105内部に、これに沿ってビームによる多角形状の経路を形成し、クリーク105に非接触でビーム21、22、23内に微小物体3を循環させる。
【0186】
回転子となった微小物体3の運動により、微小物体3の前後で圧力差が生じる。これにより液体が循環経路105内に吸引され、循環経路105内を流れる2以上の液体がを混合される。更に、微小物体3の運動による圧力差により、放出経路102から混合液が放出されるものである。
【0187】
また、クリーク105の内壁には液体の混合を促すため、微小な毛状突起106が設けられている。
【0188】
また、流入経路101と結合部の間は図11(B)の破線丸印の如くオリフィス構造を有し、液体の逆流を防止するとともに2液の混合を促す構成となっている。更に、図示は省略するが、逆流を効率よく抑えるために、逆流防止弁を設けても良い。
【0189】
更に、マイクロチップ100には、光ファイバに接続する発光素子(半導体レーザ)41、42、43と、ビーム照射手段であるマイクロレンズ111、112、113が内蔵されている。マイクロレンズ111、112、113は、半導体レーザ41、42、43の放散光を平行ビームにするコリメートレンズである。光源となる半導体レーザ41、42、43は微小な構造が可能であるため、マイクロレンズ111、112、113を利用することでこれらを全てチップ100内に埋め込むことができる。半導体レーザ41、42、43を駆動させるバッテリーもチップ内に埋め込むことが可能である。本実施形態では、この程度の簡単な光学系で実現できる。
【0190】
また、本実施形態の物理的な循環経路(クリーク)105は、液体の流路となるものである。本実施形態で液体の混合を促す場合、第1の液体および第2の液体は効率よく装置内に流入させるために層流とする必要がある。一方、それらの液を混合させるときには装置内に乱流が発生する構造にする必要がある。これらの2つの要求を満たすために、クリークの壁面に微小な毛状突起(凹凸構造)106を設ける。
【0191】
クリークに毛状突起106を施した場合、壁面に支持される、あるいは、接触して回転子(微小物体)が移動する従来の方式では、必ず大きな摩擦力により微小物体の運動効率が低下してしまう。
【0192】
しかし本実施形態では、クリーク105内壁に毛状突起106のように特殊な構造を施した場合であっても、微小物体3がビーム21、22、23に包まれて、すなわち、クリーク105の壁面に非接触の状態で運動するため、駆動力の損失が少なくなる利点を有する。
【0193】
図12は、比較のために、図11の液体混合システムに従来の高NAの光学系を採用した場合を示す、図11(B)に対応する側面図である。
【0194】
この図では、微小物体3をクリーク105に沿って移動させることを示しており、対物レンズ50を機械的に平行移動させることによりレーザそのものを平行移動させる構造を示している。別に、反射ミラーなどを用いて光学的にビームの放射方向を変える方式も考えられるが、いずれの場合にせよ、チップと駆動光学系の位置関係は図12に示すようになる。
【0195】
従来の方法では、ビーム(レーザ)は、回転子となる微小物体3の回転軸に対して垂直方向に照射するため、回転軸の延在方向に対物レンズ50および発光素子等の光学系を配置する必要があり、マイクロチップの厚み方向のサイズが増大する。また対物レンズ50を移動させる機械的な駆動機構も必要となり、マイクロチップの小型化には限界がある。
【0196】
しかし、本実施形態では、上方から微小物体3にビームを照射して回転させる必要がなく、微小物体3の回転軸に対して垂直な位置に低NAの駆動光学系(ビーム)21、22、23を配置する平面構造でよい(図11(B))。従って、従来の構成と比較して、マイクロチップ100の大幅な薄型化が実現できる。
【0197】
尚、本実施形態では、一例として体内内蔵用のマイクロチップ100として、図11の如き構成を示したが、マイクロチップ100上には、流入経路101と循環経路105、微小物体3とレーザ照射手段が集積化され収容部107、108についてはマイクロチップ外に配置されてもよい。また、光ファイバを介して外部から導光してもよく、更にレーザやバッテリーがマイクロチップ100外に配置されてもよい。これらは、目的に応じて適宜変更することができる。
【0198】
図13を参照して、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0199】
第2の実施形態は、各ビームを所定のタイミングで切り替えることなく、微小物体3を循環運動させるものである。
【0200】
すなわち、照射するn本のビームが頂点nの多角形状の循環経路を構成する位置にビーム照射手段を配置し、この循環経路内に(n−1)個の微小物体を配置する。そして、ビームのオン状態とオフ状態を切り替える切り替え手段(不図示)は、全てのビームをオン状態とする。これ以外の、ビーム照射手段や微小物体の詳細は、第1から第3の実施形態と同様であり、同一構成要素は同一符号で示す。
【0201】
図13では、ビームが3本の場合を例に説明する。
【0202】
不図示のビーム切り替え手段は、ビーム照射手段(先球光ファイバ)11、12、13から照射される第1ビーム21、第2ビーム22、第3ビーム23を常にオン状態とし、ビームによる三角形(n=3)の循環経路を形成する。
【0203】
それぞれのレーザパワーは同等とし、各ビームの交差転換の距離L1、L1’も全て同等である。本実施形態の切り替え手段(不図示)は、全てのビーム21、12、13を同時にオン状態とし、それを維持する。この循環経路内(ビームの放射方向上)に2個(n−1)個の微小物体3(第1の微小物体3a、第2の微小物体3b)を配置する。
【0204】
図13(A)の如く、第1のビーム21と第2のビーム22の交差点に第1の微小物体3aが捕捉されているとする。この状態で、第2の微小物体3bが第3のビーム23をレールとして移動し、図13(B)の如く、共にオン状態の第1のビーム21と第3のビーム23の交差点に、第2の微小物体3bが捕捉される。このとき、第1のビーム21は、第2の微小物体3bにより遮断され、第1の微小物体3aには照射されない(到達しない)状態となる。
【0205】
つまり、切り替え手段により第3のビーム23がオフされたと同じ状態となり、第1のビーム21と第2のビーム22の交差点に捕捉されていた第1の微小物体3aは、第2のビーム22の散乱力Fs2および勾配力Fg2のみを受け、第2のビーム22をレールとしてこの内部を移動する。
【0206】
第1の微小物体3aは、第2のビーム22と第3のビーム23の交差点で捕捉される。これにより、第3のビーム23が遮断され、第2の微小物体3bに照射されない状態となる。すなわち、第1のビーム21と第3のビーム23の交差点に捕捉されていた第2の微小物体3bには、第1のビーム21の散逸力Fs1および勾配力Fg1のみが働き、第1のビーム21をレールとしてこの内部を移動する。
【0207】
第2の微小物体3bは、第1のビーム21と第2のビーム22の交差点で捕捉される(図13(A)参照)。これにより、第2のビーム22が遮断され、第1の微小物体3aに照射されない状態となる。すなわち、第3のビーム23と第1のビーム21の交差点に捕捉されていた第1の微小物体3aには、第3のビーム23の散乱力Fs3および勾配力Fg3のみが働き、第3のビーム21をレールとしてこの内部を移動する。
【0208】
このように、第2の実施形態では、頂点nの多角形(n角形)状の循環経路を構成するビームを全てオン状態とし、循環経路中に(n−1)個の微小物体を移動させ、2本のレーザの交差点で微小物体3を捕捉する。そして、ビーム内を移動する微小物体3および/または捕捉された微小物体3によって、当該微小物体3のレールとなっているビームの、当該微小物体より前方への照射を遮断する。
【0209】
これにより、各ビームを辺とする多角形の中心を回転軸Rとして、ビーム内を微小物体3が循環移動する。
【0210】
遮断されていない2つのビームの交差点では、他の微小物体が捕捉されており、ビームの遮断により他の微小物体の捕捉状態が解除され、当該他の微小物体がビーム内を移動することになる。
【0211】
ここで、全部のビームを同時に放射した状態で、循環運動の安定を乱すことなく捕捉可能な交差位置の数を安定点と称するとその数は、頂点nを2で除した商となる。また、安定点が複数の場合、それらは隣り合って存在することはない。
【0212】
つまり、図13に示す三角形の場合、回転子となる微小物体3は2個であり、安定点は1つの頂点である。四角形の場合、微小物体3は3個となり安定点は、対角線上に存在する2個の頂点である。五角形の場合、微小物体3は4個、安定点は、隣り合わない2個の頂点であり、六角形の場合、微小物体3は5個、安定点はそれぞれ隣り合わない3個の頂点である。
【0213】
図14および図15を参照して、循環経路(ビームで構成する多角形)が三角形の場合(図14)と、四角形の場合(図15)について、微小物体3が初期状態から移動を繰り返し再び初期状態に戻るまでの状態遷移図を示す。
【0214】
各頂点の白丸は安定点で捕捉された微小物体3を示し、黒丸は1つのビーム上には存在するが捕捉されていない(安定状態にない)微小物体3を示す。また実線はビームが照射されていることを示し、破線はビームが微小物体により遮断されていることを示す。更に図14(B)及び図15(B)の矢印は、ビームの照射(放射)方向を示し、図14(C)から図14(G)、図15(C)から図15(G)においては省略しているが同じ方向に照射されるとする。
【0215】
図14を参照して、ビームで構成する多角形が三角形の場合は、2つの微小物体3(3a、3b)を用いる。動作は以下の通りである。
【0216】
先ず、1つの頂点(安定点)に、微小物体3aが捕捉されている(安定状態である)とする(図14(A))。ここで、別の微小物体3bが他の頂点に入ると(図14(B))、他の頂点は、微小物体3aによりビームの一方(第1ビーム)が遮断されているので、ビームによる交差点が形成されず、安定点とはならない。つまり微小物体3bは安定状態ではなく、すなわち捕捉されていない状態である。しかし微小物体3bは、第2ビーム上に存在しているためこの中を移動し、現在存在している頂点の次の頂点を目指して移動を開始する。このとき微小物体3aは安定点にあるため、移動しない。
【0217】
微小物体3bは次の頂点に達すると(図14(C))、微小物体3bは第2ビームおよび第3ビームの交差点で安定(捕捉)状態となる。同時に、微小物体3bの影響により、微小物体3aに照射されていた第3ビームが遮断され、微小物体3aが不安定になる。これにより、微小物体3aが現在存在している頂点の次の頂点を目指して移動を開始する。
【0218】
次の状態では(図14(D))、微小物体3aが安定状態となり、これによりビームが遮断され微小物体3bが不安定状態となるので、これが次の頂点を目指して移動を開始する。
【0219】
この現象を繰り返し(図14(E)〜(G))、6手目で初期状態(図14(B)に戻る。もし、微小物体3a、3bを区別せず、微小物体3の配置状態のみで判断すれば、図14(B)(E)と、図14(C)(F)と、図14(D)(G)の3つの状態(形態)の繰り返しとなる。
【0220】
図15を参照して、ビームで構成する多角形が四角形の場合は、3つの微小物体3(3a、3b、3c)を用いる。動作は以下の通りである。
【0221】
先ず、対角線上の2つの頂点(安定点)に、微小物体3a、3cが捕捉されている(安定状態である)とする(図15(A))。ここで、別の微小物体3bが他の頂点に入ると(図15(B))、当該頂点は、微小物体3aによりビームの一方が遮断されているため、微小物体3bは安定状態ではなく、すなわち捕捉されていない状態となる。しかし微小物体3bは、他のビーム上に存在しておりこの中を移動しようとする。微小物体3bにより、安定点の微小物体3cに照射されていた他のビームは遮断され、微小物体3cも不安定となる。すると、微小物体3bと微小物体3cが不安定となり、それぞれ対応するビームに沿って(ビーム内を)、各々の存在していた頂点の次の頂点を目指して移動を開始する。このとき微小物体3aは安定点にあるため、移動しない。尚、この場合循環経路内の安定点としては2個であるが、動作に関与する安定点は1個である。
【0222】
微小物体3b、3cは次の頂点に達すると(図15(C))、微小物体3bは安定(捕捉)状態となり、微小物体3cはその頂点でも不安定状態を維持する。同時に、微小物体3cの影響により、微小物体3aに照射されていたビームの1つが遮断され、微小物体3aが不安定になる。これにより、微小物体3cと微小物体3aが現在存在している頂点の次の頂点を目指して移動を開始する。このとき、微小物体3bは安定点にあり、移動しない(図15(C))。
【0223】
次の状態では(図15(D))、微小物体3cが安定状態となり、微小物体3b、3aが不安定状態となるので、これらが次の頂点を目指して移動を開始する。
【0224】
この現象を繰り返し(図15(E)〜(G))、6手目で初期状態(図15(B)に戻る。もし、微小物体3a〜3cを区別せず、微小物体3の配置状態のみで判断すれば、図15(B)(D)(F)、と図15(C)(E)(G)の2つの状態(形態)の繰り返しとなる。
【0225】
同様に、循環経路が五角形状の場合には、4つの微小物体を区別した場合は21手、区別しない場合は5つの状態(形態)の繰り返しとなる。
【0226】
本実施形態も、レーザパワーおよび各交差点間の距離、交差点での捕捉時間を適宜選択することにより、安定且つ円滑に、微小物体の循環運動を実現することができる。
【0227】
このシステムを、図11の如きマイクロチップに集積化してもよい。図11において、切り替え手段を設けず、常時オン状態の3本のビームが循環経路(クリーク)に沿って、正多角形状を構成するように、レーザ照射手段(先球光ファイバ)を配置する。動作は図11および図13から図15における説明と同様である。
【0228】
この場合、微小物体3そのものが液体の流入経路/放出経路の弁をかねることになり、更に効率よく液体の混合・放出が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0229】
本発明は、マイクロリアクター、マイクロポンプ、マイクロアクチュエータ等への適用が想定される。また、例えば医療分野における埋め込み型輸液ポンプなどにも応用できる。さらに、工学分野だけでなく生物や化学分野など広い分野へ応用できるものであり、多岐の製品が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】本発明の微小物体移動方法を説明するフロー図である。
【図2】本発明の微小物体移動方法を説明する平面概要図である。
【図3】本発明の微小物体移動方法を説明する断面概要図である。
【図4】本発明の微小物体移動方法を説明する平面概要図である。
【図5】本発明の微小物体移動方法を説明するタイミングチャートである。
【図6】本発明の微小物体移動システムを説明する概要図である。
【図7】本発明の微小物体移動方法を説明する平面概要図である。
【図8】本発明の微小物体移動方法を説明する特性図である。
【図9】本発明の微小物体移動方法を説明する平面図である。
【図10】本発明の微小物体移動方法を説明する(A)特性図、(B)タイミングチャートである。
【図11】本発明の液体混合システムを説明する(A)平面概要図、(B)断面概要図である。
【図12】本発明の液体混合システムと比較するための、他の液体混合システムを示す断面概要図である。
【図13】本発明の微小物体移動方法を説明する平面概要図である。
【図14】本発明の微小物体移動方法を説明する状態遷移図である。
【図15】本発明の微小物体移動方法を説明する状態遷移図である。
【図16】従来の微小物体の捕捉方法を説明する概要図である。
【符号の説明】
【0231】
11 第1ビーム照射手段
12 第2ビーム照射手段
13 第3ビーム照射手段
21 第1のビーム
22 第2のビーム
23 第3のビーム
3、3a、3b、3c 微小物体
4 半導体レーザ
5 電流発生手段
6 切り替え手段(コンピュータ)
θ 交差角度
Fg、Fg1、Fg2、Fg3 勾配力
Fs、Fs1、Fs2、Fs3 散乱力
P レーザパワー
T 移動時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上のビームが交差し、該ビームにより多角形状が構成される位置にビーム照射手段を配置し、前記ビームのうち1つのビームをオン状態として微小物体に照射する工程と、
該1つのビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該1つのビーム内に保持し、該1つのビームが前記微小物体に与える散乱力により該1つのビーム内に該微小物体を移動させる工程と、
前記1つのビームに隣り合う他のビームをオン状態とし、オン状態の2つのビームの交差点付近に前記微小物体を捕捉させる工程と、
前記1つのビームをオフ状態とし、オン状態の前記他のビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該他のビーム内に保持し、該他のビームが前記微小物体に与える散乱力により該他のビーム内に該微小物体を移動させる工程とを具備し、
前記1つのビームのオン状態と前記2つのビームのオン状態とを順次切り替えることにより前記多角形状のビーム内に前記微小物体を循環させることを特徴とする微小物体移動方法。
【請求項2】
3以上のビームが交差し、該ビームによって多角形状を構成する位置に配置されたビーム照射手段と、
前記ビームのうち、1つのビームのオン状態と、該1つのビームおよび他のビームのオン状態とを順次切り替える切り替え手段と、
前記ビームの放射方向上に配置された微小物体と、を有し、
前記切り替え手段は、前記1つのビームをオン状態として前記微小物体に照射し、該1つのビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該1つのビーム内に保持し、該1つのビームが前記微小物体に与える散乱力により該1つのビーム内に該微小物体を移動させ、該1つのビームに隣り合う他のビームをオン状態とし、オン状態の2つのビームの交差点付近に前記微小物体を捕捉させ、
前記1つのビームをオフ状態とし、オン状態の前記他のビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該他のビーム内に保持し、該他のビームが前記微小物体に与える散乱力により該他のビーム内に該微小物体を移動させ、
前記1つのビームのオン状態と前記2つのビームのオン状態とを順次切り替えることにより前記多角形状のビーム内に前記微小物体を循環させることを特徴とする微小物体移動システム。
【請求項3】
2以上の液体が流れる3以上の経路を辺とし、該経路の結合部を頂点として多角形状を構成した循環経路と、
1つの前記結合部に設けられた放出経路と、
他の前記結合部にそれぞれ設けられた前記液体の流入経路と、
前記循環経路内に配置された微小物体と、
それぞれの前記経路内にビームを照射し、交差する該ビームが記循環経路内で多角形状を構成する位置に配置されたビーム照射手段と、
前記ビームのうち、1つのビームのオン状態と、該1つのビームおよび他のビームのオン状態とを順次切り替える切り替え手段とを有し、
前記切り替え手段は、前記1つのビームをオン状態として前記微小物体に照射し、該1つのビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該1つのビーム内に保持し、該1つのビームが前記微小物体に与える散乱力により該1つのビーム内に該微小物体を移動させ、該1つのビームに隣り合う他のビームをオン状態とし、オン状態の2つのビームの交差点付近に前記微小物体を捕捉させ、
前記1つのビームをオフ状態とし、オン状態の前記他のビームが前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該他のビーム内に保持し、該他のビームが前記微小物体に与える散乱力により該他のビーム内に該微小物体を移動させ、
前記1つのビームのオン状態と前記2つのビームのオン状態とを順次切り替えることにより前記循環経路に非接触で前記ビーム内に前記微小物体を循環させ、前記循環経路内で前記2以上の液体を混合させ、前記放出経路から混合液を放出することを特徴とする液体混合システム。
【請求項4】
前記ビームは、循環する前記微小物体の回転軸に対して垂直に照射されることを特徴とする請求項1に記載の微小物体移動方法。
【請求項5】
前記微小物体は前記2つのビームのそれぞれの勾配力および散乱力の釣り合いにより前記交差点付近に捕捉されることを特徴とする請求項1に記載の微小物体移動方法。
【請求項6】
前記微小物体が前記多角形状の隣り合う2つの辺を移動する期間、前記1つのビームはオン状態が維持されることを特徴とする請求項1に記載の微小物体移動方法。
【請求項7】
前記ビーム照射手段は、循環する前記微小物体の回転軸に対して前記ビームを垂直に照射することを特徴とする請求項2に記載の微小物体移動システム。
【請求項8】
前記微小物体は前記2つのビームのそれぞれの勾配力および散乱力の釣り合いにより前記交差点付近に捕捉されることを特徴とする請求項2に記載の微小物体移動システム。
【請求項9】
前記切り替え手段は、前記微小物体が前記多角形状の隣り合う2つの辺を移動する期間、前記1つのビームのオン状態を維持することを特徴とする請求項2に記載の微小物体移動システム。
【請求項10】
前記ビーム照射手段は、循環する前記微小物体の回転軸に対して前記ビームを垂直に照射することを特徴とする請求項3に記載の液体混合システム。
【請求項11】
前記微小物体は前記2つのビームのそれぞれの勾配力および散乱力の釣り合いにより前記交差点付近に捕捉されることを特徴とする請求項3に記載の液体混合システム。
【請求項12】
前記切り替え手段は、前記微小物体が前記循環経路の隣り合う2つの辺を移動する期間、前記1つのビームのオン状態を維持することを特徴とする請求項3に記載の液体混合システム。
【請求項13】
前記循環経路、前記ビーム照射手段、前記微小物体、前記流入経路および前記放出経路とを1つのマイクロチップに集積化することを特徴とする請求項11に記載の液体混合システム。
【請求項14】
前記循環経路の内壁は毛状突起を有することを特徴とする請求項3に記載の液体混合システム。
【請求項15】
前記流入経路と前記結合部の間はオリフィス構造を有することを特徴とする請求項3に記載の液体混合システム。
【請求項16】
前記流入経路にそれぞれ接続し、前記2以上の液体が収容される収容部を有することを特徴とする請求項3に記載の液体混合システム。
【請求項17】
照射するn本のビームが頂点nの多角形状を構成する位置に配置されたビーム照射手段と、
前記ビームのオン状態とオフ状態を切り替える切り替え手段と、
前記ビームの放射方向上に配置された(n−1)個の微小物体と、を有し、
切り替え手段は、前記ビームの全てをオン状態として該ビームに対応して配置された前記微小物体に照射し、
前記ビームが一部の前記微小物体に与える勾配力により該微小物体を該ビーム内に保持し、該ビームが該微小物体に与える散逸力により該ビーム内に該微小物体を移動させ、
他のビームの交差点で他の微小物体を捕捉させ、
移動する前記一部の微小物体と、捕捉される前記他の微小物体とを逐次切り替えて前記ビーム内を循環させることを特徴とする微小物体移動システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−23042(P2009−23042A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187996(P2007−187996)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年1月22日 社団法人 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報 Vol.106 No.513」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月27日 社団法人 応用物理学会発行の「2007年(平成19年)春季 第54回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】