説明

微細構造を製造するレーザー設備のためのマスクを製造するための方法及び装置

マスク投影技術により固体の表面に微細構造を形成するためのレーザー設備のマスク及び/又はダイヤフラムを製造するための方法において、レーザー放射を散乱させる決められた不透過面部を、マスク及び/又はダイヤフラム基材に、後者をフェムト秒、ピコ秒、又はフッ素レーザー光を用いて粗化・改変させることにより製造する。このようなマスク及びダイヤフラムは、その寿命と精度が大幅に改善され、例えば、固体の表面の回折格子アレイに配置されて、高輝度のスペクトル色及び混合色を生成するのに用いられるブレーズド格子を形成するのに使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1及び14の前提部分に係る、微細構造を形成するレーザー設備のためのマスク及び/又はダイヤフラムを製造するための方法及び装置に関する。以下、簡略化の目的で、マスクのみについて説明するが、本明細書においてこの表現はダイヤフラムも包含するものである。
【背景技術】
【0002】
あるレーザー設備では、例えば本発明の出願人による特許文献1に開示されているように、マスク投影技術によって微細構造を形成する。このレーザーは、例えば、波長が248ナノメートル(nm)のKrFエキシマレーザーである。このようなレーザー設備によって実施されるマスク投影技術には、交換装置に配置されるマスク及びダイヤフラムの組み合わせが必要である。
【0003】
マスクは、レーザー光の所定の強度プロファイルを整形することによってマスク表面のある部分にのみ該レーザー光を通過させるのに用いられる。その結果、高エネルギーレーザーを照射すると、マスクには、変形や大きな摩耗に繋がり得る高い応力が印加される。照射された光がマスク表面の非透過領域を通過するのを防止するための可能性としては、吸収、反射、又は散乱が考えられる。
【0004】
第1の可能性として、ラッカー塗装をこれらの領域に施すことができるが、ラッカー塗装は長期間応力に耐えられない。光リソグラフィも同様である。第2の可能性として、誘電体ミラーを所望の位置に配置することができる。しかしながら、この技術は非常に制約が多い。
【0005】
散乱領域を形成するためには、エッチング技術が当該技術分野において現在知られているが、この技術は精度が低すぎる。上記の不都合は、特に、マスクが例えば光学的に効果をもたらす回折格子や同様の微細構造を形成するために用いられる場合に顕著となる。透明度の低い領域を比較的粗く形成する技術のこの深刻な欠点は、サンドブラストによって形成を行う特許文献2に記載の表面粗加工にも当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2007/012215号
【特許文献2】特開2002−011589号公報
【0007】
従って、本発明の第1の目的は、微細構造を形成するためのレーザー設備に使用するのに適した、高耐摩耗性且つ寸法が安定したマスク及びダイヤフラムを製造するための方法及び装置を提供することである。この目的は、請求項1に記載の方法と、請求項14に記載の装置とによって達成される。
【0008】
請求項1の方法により製造されたマスク及びダイヤフラムは、高輝度のスペクトル色や、それに基づき高光強度の混合色を生成する光学的な効果を有する回折格子を形成するのに特に適している。先行技術の回折格子は、溝、及びリブ状格子であり、それに基づき、本発明の第2の目的は、光を照射させるとより高い色強度及びより純粋なスペクトル色を提供する回折格子を形成するために、請求項1により製造されたマスク及びダイヤフラムを使用することである。この目的は、請求項5によって達成される。
【0009】
以下、本発明を、例示的な実施例の図面を参照しながら、詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】固体の表面に回折格子アレイを直接形成するための2つのレーザー設備を有する本発明に係る装置の概略図を示す。
【図2】マスク及びダイヤフラムの組み合わせを用いたレーザー光の強度整形を示す。
【図3】好適なブレーズド格子構造の断面図を示す。
【図4】図3のブレーズド格子構造を形成するための第1のマスクを示す。
【図5】図3のブレーズド格子構造を形成するための第2のマスクを示す。
【図6】三角形状のコラム又はピット断面を有するコラム又はブラインドホール格子の形態の他の回折格子を示す。
【図7】関連する色画素を有する回折格子アレイを示す。
【図8】人間の眼では分解できない、複数の異なる色画素領域から形成されるサブ領域を示す。
【実施例】
【0011】
図1において、2つのレーザー設備を用いて回折格子を製造するための装置を示す。図の左側のレーザー設備は、例えばブレーズド格子アレイを製造するのに適したエキシマレーザー設備であり、右側のレーザー設備は、一方では格子構造を製造するためのマスク及び/又はダイヤフラムを形成するために用いられ、他方では、直接作用型リップル(ripple)格子構造を製造するか、エキシマレーザーによって製造された格子構造にリップル(ripple)の間隔の変化に基づく第2の格子構造を重畳するようになっているフェムト又はピコ秒レーザー設備である。
【0012】
第1レーザー設備L1は、波長が248ナノメートル(nm)のKrFエキシマレーザーを備え、マスク投影技術により固体の表面に微細構造を製造するために用いられる。第2レーザー設備L2は、中心波長が775nm又はその周波数2倍(frequency−doubled)若しくは周波数3倍(frequency−tripled)波長のフェムト秒レーザー15を備え、固体の表面にナノ構造、例えばリップル(ripple)格子構造を製造したり、焦点技術によりマスクを形成したりするために用いられる。本願の目的のために、「固体」という表現は、レーザーを用いてその表面に微細構造の回折格子を製造することができるあらゆる基材を包含することを意味し、例えば、ガラス、ガラス又はサファイアからなる時計ガラス、セラミックス、適切な合成材料、及び、宝飾品又はコインの主に金属からなる表面、また特に、包装箔や有機固体をエンボス加工するためのエンボス金型やエンボスプレート等のエンボス工具の硬質材料でコーティングした表面が含まれる。こうした表面は予め前処理されていてもよいし、化学的又は機械的に処理されていてもよいし、また構造化されていてもよい。硬質材料コーティングとしては、例えば、四面体結合非晶質炭素(ta−C)や、炭化ホウ素(WC)、炭化ホウ素(B4C)、炭化ケイ素(SiC)、又は同様の硬質材料が考えられる。
【0013】
上記微細構造は、例えば、1〜2μmの格子周期を有するいわゆるブレーズド格子とすることができ、上記ナノ構造は、例えば、300nm〜1000nmの周期を有し光回折格子として機能する自己組織化リップル構造(self−organized ripple structure)とすることができる。以下に説明するように、光を照射すると、角度に応じた分散、すなわち回折によるスペクトル色の分離を発生させるものであればどのような回折、及び光学的作用構造の周期的アレイでもよい。
【0014】
図1において示す第1レーザー、つまりエキシマレーザー1は、ここではその光2が矩形断面を有する。このレーザー光の強度は、減衰器3によって調節、及び変更できる。ホモジナイザー3A及び視野レンズ3Bによって、レーザー光断面に亘る均一な強度分布が、均一スポットHSに形成される。微細構造を製造するのに必要なレーザー光断面に亘る強度プロファイルは、均一スポットHSに位置付けられたマスク18によって、この均一な強度分布から成形される。
【0015】
マスクの後に、好ましくは該マスクに接触するように配置されるダイヤフラム6の開口の幾何学的形状によって、マスク18により整形されるレーザー光の強度プロファイルの断面形状又は輪郭形状が生成される。マスク18及びダイヤフラム6は、マスク・ダイヤフラム交換装置に位置付けられる。
【0016】
KrFエキシマレーザーの代わりに、波長が193nmのArFエキシマレーザー、波長が157nmのフッ素(F2)レーザー、又は波長が308nmのXeClエキシマレーザーを、第1レーザー1として使用することができる。
【0017】
フェムト秒レーザーの代わりに、波長が1064nm又はその周波数2倍(frequency−doubled)波長の532nm、又はその周波数3倍(frequency−tripled)波長の266nmのNd:YAG型ピコ秒レーザーを、第2レーザー15として使用することができる。
【0018】
図2も参照すると、マスク18及びダイヤフラム6によって整形されたレーザー光は、このレーザー光に適切な結像光学系8を通過するように光を案内する偏光ミラー7にぶつかる。結像光学系8は、例えば8:1の所定の結像スケールで、エンボスローラ10上のta−C層の表面9に微細構造のための適切なレーザー強度プロファイルを結像する。回転矢印11によって、エンボスローラ10を所定の角度だけその長手方向軸周りに回転させることができることを示す。エンボスローラ10は、変位装置32上に配置される。
【0019】
レーザー光のパワー、ひいては強度を調整、監視、且つ安定させるために、レーザー光のごく一部を、ビームスプリッタ4によってパワーメーター5に向ける。パワーメーター5は、減衰器3及び/又はレーザー1の制御のためのデータを送信する。このパワーメーター5は、レーザー光強度プロファイル測定装置5Aに選択的に交換してもよく、このことは図1において両矢印で示す。装置5及び5Aは、均一スポットHSすなわちマスク平面におけるレーザー光のパワー及び強度分布を正確に測定することができるように、ビームスプリッタ4から、均一スポットHSに位置付けられるマスク18と同じ距離に位置決めされる。カメラ26が、微細構造化プロセスを観察するために用いられる。この目的のために、偏光ミラー7には、248nm波長のエキシマレーザー放射は反射するが可視光は通過させる干渉層が組み込まれている。
【0020】
エンボスローラ10の表面領域全体に亘って構造化されるta−C層上に結像光学系8によって結像されるレーザー光の結像面の正確に定められた位置を調節するために、エンボスローラの位置及び理想の幾何学形状からの製造に関連するずれを、エンボスローラの位置調査のための装置16によって、例えば、三角測定法によって測定する。そして、これらの測定データは、変位装置32によるエンボスローラ10の自動調節及び構造化プロセス中の変位装置32のZ軸の補正制御に使用される。
【0021】
すでに図1に係る例示的な実施例の説明において簡潔に述べたように、マスク投影技術によるエキシマレーザー構造化プロセスに必要な強度プロファイルは、マスク及びダイヤフラムによって整形される。
【0022】
以下、このプロセスを、図2を参照しながらより詳細に説明する。均一スポットHSにおけるレーザー光29の均一な強度分布74から、エンボスローラ10上のta−C層に製造すべき微細構造に必要なレーザー光断面に亘る強度プロファイルが、均一スポットHS内に位置決めされたマスク18によって整形される。この概略図において、マスク18は、グリッド状に配置された透過領域19と、レーザー光を透過しない表面領域20とを有し、これにより、立法形状の強度プロファイル部を有するグリッド状強度プロファイル75を形成する。
【0023】
レーザー光の方向でマスクの後に、好ましくは該マスクに接触するように配置されるダイヤフラム6によって、マスク18によってその開口又は透過面領域の幾何学的形状で整形されるレーザー光の強度プロファイルの断面形状が生成される。この図示の例において、ダイヤフラムの開口6Tの形状、言い換えると、ダイヤフラムの不透過部6P内のレーザー光を透過する表面領域の形状は、三角形状であり、その結果、ダイヤフラムを通過後、レーザー光29Aの強度プロファイル76は、三角形状の断面形状を呈する。
【0024】
図2において、マスク18の格子周期、並びに、マスクを通過した後のレーザー光の強度プロファイル75,76の立法形状強度プロファイル部の厚さ及び間隔を、X座標軸方向により拡大させて図示する。一例としてマスク投影設備の結像比が8:1とすると、マスクによって整形されたレーザー光29Aにより固体の表面9、例えばエンボスローラ10上のta−C層に0.5〜5μmの格子周期を有する格子構造を製造するためには、マスクの格子周期は4〜20μmとする。実際には、均一スポットHSの表面領域とマスク18の構造化表面との互いに等しい大きさが8mm×8mm=64mm2の場合、図2の概略図示とは対照的に、構造化されるマスク領域は、2000〜400の格子周期を有するストライプ状格子から構成され、それにより整形されるレーザー光は、2000〜400の立法形状の強度プロファイル部から構成される。
【0025】
以下の説明においてマスク構造と称する、マスク18の透過面領域の大きさ、形状、間隔、位置、及び数によって、ta−C層に所定の光学的効果を有する微細構造を形成するためのレーザー光の強度プロファイルが決まり、ダイヤフラム6によって、レーザー光の強度プロファイルの断面形状、ひいては、エンボスローラ上の微細構造化された領域素子の幾何学形状が決まる。「領域素子」という表現は、ここでは、レーザー光とローラ表面の相対的な移動無しに、マスク及びダイヤフラムにより整形されて、ta−Cコーティングされたローラ表面上にレーザー光パルス列で結像されるレーザー光により構造化される、エンボスローラ又はエンボス金型上の表面を示すために使用される。
【0026】
従って、マスク構造を変化させることによって、特に、マスクをレーザー光の光軸周りに所定の角度回転させることによって、マスクによって整形され合焦光学系8によってエンボスローラのta−C層上に結像されるレーザー光の強度プロファイルの配向を変化させることができ、これにより、多色光を照射することによる微細構造化された領域素子の光学的効果、例えば、視線方向や視野角並びに色や強度を変化させることができる。
【0027】
ダイヤフラム6をレーザー光の光軸周りに所定の角度回転させることによって、ダイヤフラムによって整形され合焦光学系によってエンボスローラ上のta−C層に結像されるレーザー光の断面形状の配向が変化し、これにより、エンボスローラの表面上の、レーザーにより構造化される領域素子の配向が変化する。
【0028】
微細構造化された領域素子は、特定のパターンに応じて並置してもよいし、マスクを所定の角度回転後に、この所定の角度の状態で同一の微細構造に重畳させてもよい。さらに、異なるマスクを使用する場合は、異なる微細構造を領域素子において重畳させることができる。それらを並置する場合、領域素子は同一の又は異なる表面形状及び微細構造を有してもよい。
【0029】
太陽光に近い白色光放射を回折させたり、回折格子に多色光、例えば昼光色蛍光ランプや白熱電球の光(以下、本明細書では簡潔に「光」と称する)を照射したりすると、波長に応じた回折角度により、いわゆる回折角度分散が起こる。すなわち、光子が特定の波長を有するスペクトル色への、すなわち単色光への分離が起こる。従って、どの回折次数も重ならない場合には、これらのスペクトル色のみが回折光において観察される。
【0030】
本発明によれば、回折格子アレイを用いることによって、該回折格子アレイの1つ又は複数の所定の視野角及び1つ又は複数の所定の方位視線方向で見える複数の光子波長のスペクトル色が重畳されることにより、混合色が形成される。微細なサブ領域=人間の眼の分解能未満の色画素領域において異なる格子周期を有する、固体の表面の回折格子アレイを用いることによって、該回折格子アレイに光を照射すると、意図する用途に応じて選択される原色スペクトルの波長である回折スペクトルに現れる3つの異なる原色スペクトル波長の赤、緑、及び青の光子から、混合色が好適に生成される。よって、混合色を人間の眼で見る場合には、原色スペクトルの赤には630nmの波長λred、緑には530nmの波長λgreen、青には430nmの波長λblueが例えば有利である。
【0031】
回折格子アレイは、主に赤、緑、及び青に対して敏感な3つの異なる種類の視色素を含む人間の眼の錐体光受容体と同様に、例えば、原色の赤、緑、及び青を生成する色画素回折格子領域から構成されてもよい。適用可能な回折格子の種類には、例えばマスク投影技術によるエキシマレーザーを用いた構造化により製造される、溝、及びリブ状格子、コラムグリッド格子、及びブレーズド格子、或いは、焦点技術によるフェムト又はピコ秒レーザーの照射又は両構造の重畳化により製造される所定の調整リップル(ripple)格子周期を有する自己組織化リップル(ripple)格子が挙げられる。
【0032】
光の所定の入射角又は分散照射のために、それぞれ、色画素領域内の回折格子の格子周期及び配向によって、スペクトル色の回折方向、ひいては、個々の色画素の原色の視野角及び方位視線方向が決まる。この点に関し、少なくとも1つの方位視線方向における少なくとも1つの視野角で効果的な混色を実現するために、少なくとも1つの回折次数の回折角度及び回折方向が混合色の各波長について同一となるように、混合色の波長を選択しアレイの回折格子を配列させなければならない。
【0033】
以下、ブレーズド格子構造の形成及び該ブレーズド格子構造を形成するのに適したマスクの製造について、図3〜8を参照しながら説明する。ブレーズド格子において、分離性能の最大値ひいては最も高い強度最大値はステップの法線SNに対する反射方向に常に位置付けられるので、分離性能の最大値ひいては最も高い強度最大値は、ステップの傾斜を変化させることによって、すなわち、ブレーズ角αBを変化させることによって回折次数が0次の場合の最大値からより高い回折次数の場合の最大値にシフトさせることができる。αBが変化する時、格子周期g及び入射光の入射角αeが一定である限り、回折角度αm=異なる回折次数の視野角そしてひいては格子の回折の最大値の位置は変化しない。更に、図3において、sはブレーズド格子の側部を、hはブレーズド格子の高さを、eSは入射ビームを、GNは格子の法線を、SNはステップの法線をそれぞれ示す。
【0034】
格子表面のほぼ全体、より正確には、格子の凹部の長さと該凹部の数を掛けたステップの幅sによって形成される表面が回折に利用されるため、回折の強度ひいては回折されたスペクトル色の観察輝度は、ブレーズド格子において、単純なストライプ状格子=溝、及びリブ状格子における回折よりも実質的に高くなる。
【0035】
図3のブレーズド格子構造は、図4のマスクを用いて製造される。このマスクは、その不透過面がフェムト秒レーザー又はF2レーザー光によって製造できる石英ガラス基材からなる。また、上記エキシマレーザーを照射すると同時にマスクを走査してブレーズド格子構造を製造するための透過三角形状領域は使用しない。フェムト秒レーザーパルス又はフッ素レーザーパルスを照射することによって、石英基材の表面が粗化、及び改変されて、入射光が吸収されずに散乱するようになる。「改変」という表現は、本明細書では、基材の材料密度、構造、及び屈折率の変更を表す。このようにして、このようなマスクの非常に低い熱負荷、高い寸法精度、及び非常に長い寿命が確保できる。
【0036】
焦点技術によるフェムト秒レーザー又はマスク投影技術によるF2レーザーを用いて石英ガラス基材にマスクを製造する方法において、透過透明三角形状領域を自由にする不透明領域が、最小可能合焦又は結像断面Fを走査し、図4において灰色で塗りつぶされた小円(fsレーザー)又は黒色で塗りつぶされた小円(F2レーザー)で表されるレーザーパルスを重畳させることによって製造される。小さい正方形は、正方形状の断面形状を有するレーザー光を使用してもよいことを示す。このようにして、白で示す透過三角形状領域を除き、図4において灰色で示す表面領域の全体を走査する。より詳細には、走査される領域の表面が、これらの領域がエキシマレーザーの入射するレーザー光の部分を散乱することによって該レーザー光に対する不透過領域として働くように、適切なフルエンスのレーザー光により粗化、及び改変される。
【0037】
量Gは、透過三角形の底辺長であり、ここではこのマスクを用いてエキシマレーザーマスク投影技術によりブレーズド格子を製造するために結像比8:1を使用するため、8×格子定数gと等しい。それに対応して、H及びφはそれぞれ透過三角形の高さ及び底角であり、Iは、マスク走査方向における透過三角形間の距離である。F2レーザー設備を使用する場合、異なる結像比25:1が使用される。
【0038】
若しくはブレーズド格子構造は、図5に示すストライプ状マスク79を用いて製造してもよい。このストライプ状マスクは、2つの異なるストライプ幅を有する。これらのストライプ幅は、所定の線形又はステップ関数に応じて各ストライプ幅に亘って0と1との間でまた1と0との間で透過率が変化するブレーズド格子凹部を製造するために必要とされるような幅である。ここで再び、8g及び8g×sinαBという符号は、マスク投影技術によりブレーズド格子構造を形成する際に使用される結像比8:1から導き出される。
【0039】
fs又はF2レーザー設備を用いて形成できる適切なマスクを製造する方法は、数多くの変形が可能である。第1レーザー設備L1すなわちマスク投影技術によるエキシマレーザー1のための設備においてブレーズド格子構造を製造するために、選択したマスクを適切なダイヤフラムと一緒に交換装置に載置する。ダイヤフラムは、マスクと同じ製造技術によって製造することができる。マスク又はダイヤフラムのための基材としては、石英ガラス(SiO2)、サファイア(Al2O3)、フッ化カルシウム(CaF2)、又はフッ化マグネシウム(MgF2)が使用できる。
【0040】
フェムト秒レーザーを使用して、格子構造に配置されるリップル(ripple)を製造して、混合可能なスペクトル色を形成することが可能になる。各スペクトル色を形成するための所望の格子定数を生成する異なるリップル(ripple)間隔を調節可能に形成するために、リップルの形成中基材の平面をレーザー光に対して所定の角度だけ傾斜させる。
【0041】
すでに述べたように、眼は、200μm×200μmの領域を分解することしかできないため、正方形状色画素の最大辺長は、200μmを3で割った値=66.67μmよりも小さくする必要がある。そして、混合色を生成するために、200μm×200μmのサブ領域には、原色の赤、緑、及び青の少なくとも9つの正方形状色画素が含まれる。各色画素は、当然、原色として単一のスペクトル色を含む。従って、辺長が33.33μmの色画素の場合、図8に示すサブ領域81は、原色の赤、緑、及び青の合計36個の正方形状色画素82,83,84を含む。
【0042】
このような大きさにすることにより、例えば、眼で見ることはできないが適合した分光器により検出可能な異なる色の1つ又は幾つかの色画素を特定のサブ領域に分散させた新しい認証機構が可能になる。
【0043】
以下、図8のサブ領域81による格子構造のための例示的な計算を示す。正方形状色画素の辺長が33.33μm、光の入射が垂直、回折角度=赤、緑、及び青の視野角である30°であり、格子周期の計算値が、gred=1.26μm、ggreen=1.06μm、及びgblue=0.86μmの場合、赤色の正方形状画素は29の格子周期を、緑色の正方形状画素は38の格子周期を、青色の正方形状画素は47の格子周期をそれぞれ含む。
【0044】
色画素の回折強度は、格子周期の数、すなわち、色画素内の格子凹部の全長、また、原色の波長によって決まる。強度は、個々の原色画素の表面領域の大きさ又は数によってのみ制御することができる。この点に関し、光源といった異なる要因を考慮に入れる必要がある。すなわち、例えば、昼間の太陽光、朝の太陽光、夕方の太陽光、昼光色蛍光ランプ、白熱電球等があり、これらは出射波長帯に亘る強度特性が異なるため、各スペクトル色の強度に影響を及ぼす。更に、人間の眼、すなわち、原色の選択された波長に対する人間の眼の明所視分光感度を考慮に入れる必要がある。
【0045】
DIN5033規格のカラーチャートに基づく計算によれば、例えば、白色は、それぞれが33.33μm×33.33μmの画素表面積を有する36個の色画素からなる200μm×200μmのサブ領域が、14個の赤色画素82と、10個の緑色画素83と、12個の青色画素84とから構成される画素レイアウトでは、視線方向において格子の回折によって生成された上記スペクトル色の赤、緑、及び青から得られる。同じ計算によれば、22個の赤画素82と、3個の緑画素83と、11個の青画素84とからなる画素レイアウトでは、ピンク色が得られる。同じ計算に基づき、21個の赤画素82と、7個の緑画素83と、8個の青画素84とからなる画素レイアウトでは、肌色が得られる。
【0046】
人間の眼の分解能について言及したのは、生成されるスペクトル混合色が機械可読及び分析可能ではないということを意味するものではない。特に認証機構の場合、認証機構は一般的に出来る限り小さくすべきであるが、機械による読み取りが特に適切である。
【0047】
所定の光の入射角に対し、色画素領域内の回折格子の格子周期及び配向によって、スペクトル色の回折方向、ひいては個々の画素の原色の視野角及び方位視線方向が決まる。この点に関し、少なくとも1つの方位視線方向における少なくとも1つの視野角で効果的な混色を実現するために、少なくとも1つの回折次数の回折角度及び回折方向が混合色の各波長について同一となるように、混合色の個々の波長に対して異なる格子周期を選択しアレイの回折格子を配列させなければならない。
【0048】
図3によれば、ブレーズド格子77において、αBは、回折格子凹部の傾斜角度(ブレーズ角)であり、回折角度αmは、格子の法線GNと各回折次数zの回折された単色ビーム部分gsの強度最大の回折方向との間の角度であり、従って、所定の入射角αeにおけるこのビームの視野角αm及び視線方向gSを示す。
【0049】
回折角度αmは、入射光の波長と、入射角αeと、格子周期gとによって決まる。回折された単色ビーム部分の「方位視線方向」aBという表現は、格子の法線と回折方向gSとによって定まる平面の格子平面GEとの交線の、格子の法線GNを起点とする方向のことを指し、方位角αzによって特徴付けられる。図7を参照されたい。図7において、sBは、回折されたビームの視線方向を示す。
【0050】
従って、混合色のための視野角は更に、異なる色画素の種類の一致する格子周期に依存し、視線方向は、異なる色画素領域における、該混合色を形成するために必要な格子構造、すなわち、格子凹部GFの配向によって決まる。混合色の形成は、十分な数の異なる色画素領域によって形成される最大200μm×200μmの人間の眼では分解不可能なサブ領域内で達成されなければならない。
【0051】
色画素内の格子凹部GFが複数の方位配向を有する場合、複数の視線方向が実現できる。例えば、サブ領域内に含まれる原色の複数の画素の一方の半分の格子構造が、該画素の他方の半分の格子構造に対して垂直に配置されている場合、特に格子を拡散白色光で照射すると、互いに垂直な2本の方位視線方向aBができる。図8を参照のこと。しかし、この目的を達成するためには、サブ領域内の色画素の総数の半分の数が混合色を生成するのに十分でなくてはならない。しかしながら、この場合、混合色は2本の方位視線方向のそれぞれにおいて強度が低下して感知される。
【0052】
また同様に、互いに120°ずれた3本の方位視線方向を実現することもできる。図6によれば、コラムグリッド格子80によって、すなわち、異なる断面形状、例えば円形状、三角形状、四角形状、又は六角形状且つ異なる寸法の隆起又は相補的ピットの形態のコラムPによって、複数の方位視線方向を実現できる。例えば、三角形状のコラム又はピットの断面によって、2/3π=120°ずれた3本の方位視線方向aBが得られる。
【0053】
原色に対して異なる画素サイズを選択する場合、最大限可能な混合色の強度を達成するためにサブ領域を完全に色画素で埋められるよう、より大きな画素の辺長は、最も小さい画素の辺長の整数倍としなければならない。強度の低下、すなわち、暗化効果は、サブ領域に、例えばta−C層基材の場合には構造化されていない、又は、光の波長を吸収若しくは異なる方向に回折させる格子構造を有する画素領域を挿入することによって達成できる。
【0054】
混合色を形成するために原色の強度を制御するためには、例えばブレーズド格子は溝、及びリブ状格子よりも高い強度を生成するので、色画素の数及び表面積並びに視線方向における画素の回折次数の選択に加えて、サブ領域の原色の画素に異なる種類の回折格子を利用することもできる。
【0055】
本発明によれば、回折格子アレイは、金属、金属合金、ガラス、硬質表面を有する合成材料、及びta−C層、或いは硬質金属等の他の硬質材料、炭化タングステンや炭化ホウ素等の炭化物の表面に適用される。より具体的には、回折格子アレイは、耐摩耗性硬質材料、例えば、認証機構、色パターン、又は包装箔の色効果を有するサインをエンボス加工するためのエンボス工具に適用できる。ただし、エンボス加工を施す材料の物性及びエンボス加工のパラメータに基づき、意図する回折‐光学的効果に最適な回折格子パターンをエンボス加工されたポジ型が表すような、断面形状及び微細構造の寸法を有するように、エンボス工具上の回折格子構造のネガ型を設計しなければならない。
【0056】
任意の所望のマスクや任意の所望のダイヤフラムをエキシマレーザーのビーム経路上に載置することを可能にするダイヤフラム及びマスク用交換装置を有する第1レーザー設備L1によって、異なる格子定数を有する多数の異なる格子構造だけではなく、格子構造領域の外側輪郭について数多くの設計が可能になる。従って、正方形、矩形、三角形、平行四辺形、六角形、或いは可能であれば円形等の複数のサブ領域から構成される構造化領域素子の形状を設計することが可能である。これらの領域素子には、色や混合色を形成するための最も多様な格子領域が可能である。配置の仕方によっては、例えば、3つの平行四辺形又は複数の線を有する星から構成される3次元のキューブのようなパターンを形成することも可能である。
【0057】
更に、2つのレーザー設備によって、最も多様な格子構造を重畳させることが可能になる。例えば、特に認証機構としても使用できるような色及び混合色の他の組み合わせを形成するために、まず、エキシマレーザーを用いて、パターンに配置された特定の格子構造及び領域素子を製造し、その上にフェムト秒レーザーを用いて、リップル(ripple)格子構造を適用することができる。また、格子周期や格子凹部の配向に階段状の変化をつけることにより、回折格子パターンを傾斜又は回転させて、異なる視野角や、階段状又は連続的な色の変化、色パターン又は色画像が現れたり消えたりといったことも実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の表面に微細構造を形成するためのレーザー設備のマスク及び/又はダイヤフラムであって、そのレーザー放射を透過しない領域が入射レーザー放射を散乱させるものであるマスク及び/又はダイヤフラムを製造する方法において、レーザー放射を散乱させる前記領域を、フェムト秒、ピコ秒、又はフッ素レーザー光を照射することによって、粗化、及び改変させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基材が、石英ガラス(SiO2)、サファイア(Al2O3)、フッ化カルシウム(CaF2)、又はフッ化マグネシウム(MgF2)であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フェムト秒レーザーの中心波長が、775nm、又はその周波数2倍(frequency−doubled)若しくは周波数3倍(frequency−tripled)波長であり、
前記フッ素レーザーの波長が、157nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
多数の透明な三角形を有するマスク(78)又は段階的な透明度を有する多数のストライプを有するマスク(79)を製造することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
固体の表面に微細構造を形成するための、請求項1〜4の方法により製造されたマスク又はダイヤフラムの使用であって、少なくとも1つのダイヤフラムと共に少なくとも1つのマスクを回転且つ交換装置に配置し、前記少なくとも1つのマスクを、エキシマレーザー設備のマスク投影ユニットの均一スポット(HS)に位置付けて、ブレーズド格子(77)の形成に使用する、マスク及びダイヤフラムの使用。
【請求項6】
前記ブレーズド格子(77)は回折格子アレイに配置されており、前記ブレーズド格子の格子周期gが0.5μmから5μmの範囲であり、前記ブレーズド格子は線状又は円形状であることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
各回折格子アレイがサブ領域から構成され、前記サブ領域が、人間の眼の分解能よりも低い値を有する長手方向寸法を有するとともに少なくとも1つの画素を含み、画素が、単一のスペクトル色を生成するための限定された回折格子構造であり、前記単一のスペクトル色が、選択された格子パラメータと、少なくとも1つの決められた方位視野角(aB)且つ決められた回折角度(αm)における入射角(αe)とにより回折するものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の使用。
【請求項8】
各前記サブ領域が、同一の回折角度(αm)且つ同一の方位視野角(aB)において、2つの異なるスペクトル色を生成する異なる格子定数をそれぞれ有する少なくとも2つの画素を含むことを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
少なくとも1つの所定の視線方向において異なるスペクトル色が重畳されて混合色を生成するように、画素領域及び/又は画素数を選択することを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
意図する用途に応じて、原色スペクトル赤、緑、及び青の波長を選択し、前記混合色を人間の眼によって見えるものとする場合、前記3色が、波長λredが630nmの赤、波長λgreenが530nmの緑、及び波長λblueが430nmの青であることを特徴とする請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
前記サブ領域の最大長手方向寸法が200μmであり、それに関連する画素領域の最大長手方向寸法が66.67μmであることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
複数のサブ領域を、固体の表面に適用し、並置させてサイン、画像、ロゴ、又は認証機構を形成することを特徴とする請求項7〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記固体の表面が、包装箔をエンボス加工するためのエンボスローラ又はエンボス金型の、硬質材料でコーティングされた表面であり、前記硬質材料コーティングが、ta−C、炭化ホウ素(WC)、炭化ホウ素(B4C)、炭化ケイ素(SiC)、又は同様の硬質材料からなることを特徴とする請求項12に記載の使用。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置であって、
ブレーズド格子、溝、及びリブ状格子、又はコラムグリッド格子を製造するための第1レーザー設備(L1)が、波長が248nmのKrFエキシマレーザー(1)、又は波長が193nmのArFエキシマレーザー、又は波長が157nmのフッ素レーザー、又は波長が308nmのXeClエキシマレーザーを備え、
リップル(ripple)構造を製造するための第2レーザー設備(L2)が、中心波長が775nm又はその周波数2倍若しくは3倍波長のフェムト秒レーザー(15)或いは、波長が1064nm又はその周波数2倍若しくは3倍波長のNd:YAG型のピコ秒レーザーを備えることを特徴とする装置。
【請求項15】
前記第1レーザー(1)とその結像光学系(8)との間に、少なくとも1つのマスク及びダイヤフラムの組み合わせ(18,6)が配置され、多数のマスク及びダイヤフラムの組み合わせが回転且つ交換装置に配置され、前記交換装置が、前記マスク(18)の1つ及び前記ダイヤフラム(6)の1つの両方を、互いに独立させて前記レーザー(1)のビーム経路(29)上に載置するようになっており、前記マスク(18)及びダイヤフラム(6)が、ホルダー内に配置されるとともに、直線的又は回転的に変位可能且つそれらの周りに回転可能であることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記マスク(6)が、ブレーズド格子を製造するための三角形状マスク(78)又はストライプ状マスク(79)であることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
包装箔に回折‐光学的効果を有する領域をエンボス加工するためのエンボスローラ又はエンボス金型上に、領域を構造化するための請求項14〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
コーティングされた若しくはコーティングされていない時計部品、ガラス若しくはサファイアからなる時計ガラス、コイン、又は装飾物の一部に、回折‐光学的効果を有するサイン又は認証機構を製造するための14〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
請求項17により構造化したローラ又はエンボス金型を用いてエンボス加工された包装箔であって、スペクトル色の色画素、又は混合色を形成するための異なる色の色画素を含む回折‐光学的効果を有する領域及び/又は認証機構を有することを特徴とする包装箔。
【請求項20】
回折‐光学的効果を有する領域、認証機構、及び/又はロゴが設けられていない位置において、サテン仕上げが施されていることを特徴とする請求項19に記載の包装箔。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−514180(P2013−514180A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543432(P2012−543432)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【国際出願番号】PCT/CH2010/000295
【国際公開番号】WO2011/072409
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(501372606)ボエグリ − グラビュル ソシエテ アノニム (12)
【Fターム(参考)】