説明

情報処理装置および情報処理方法

【課題】 病状の経過が類似する症例データを適切に検索できるようにする。
【解決手段】 類似症例検索装置100であって、異なる時期に撮影された同一の被検体に対する複数の医用画像それぞれから特徴量を抽出し、疾患進行モデルを構築する疾患進行モデル構築機能と、症例データを読み出す手段と、検査データを取得する手段と、前記検査データに含まれる複数の医用画像それぞれから抽出された特徴量を、前記モデルを用いて補間し、該補間された特徴量を用いて、前記検査データと前記症例データとの類似度を演算する類似症例検索機能と、前記演算された類似度に基づいて選択された症例データを表示するモニタ111とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、類似する症例データを検索するための情報処理技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、病院情報システム(HIS)や画像保管通信システム(PACS)等の医用情報システムの普及に伴って、医用文書及び医用画像の電子化が進展している。なお、HISとは、Hospital Information System の略語であり、PACSとは、Picture Archiving and Communication System の略語である。
【0003】
これにより、以前はフィルムに現像されてからシャーカステン上で見ることが多かった医用画像(X線画像、CT画像、MRI画像など)は、現在、デジタル化され、モニタ上で見ることが可能となっている。
【0004】
具体的には、デジタル化された医用画像(医用画像データ)はPACS等に保管され、必要な時にPACSから読み出し、読影端末のモニタ上で読影することが可能となっている。
【0005】
また、診療記録等の医用文書も診療録データとして電子化され、被検体である患者の診療録データをHIS等から読み出し、読影端末のモニタ上で見ることが可能となっている。
【0006】
このように電子化された環境では、読影医は、読影の依頼箋を電子的なメッセージによって受け取り、当該メッセージに基づいて該当する患者の医用画像データをPACSから読み出し、読影端末の読影専用モニタ上に表示させながら診断を行うこととなる。また、必要に応じて患者の診療録データをHISから読み出して、別のモニタ上に表示させながら診断を行うこととなる。
【0007】
一方で、読影医の読影時の負担軽減を目的として、医用画像データを画像解析することにより疾患部位等を自動検出して、コンピュータ支援診断を行う医用画像処理装置の開発が進められている。なお、以下、かかるコンピュータ支援診断を、CAD(Computer-Aided Diagnosis)と称する。
【0008】
このようなCADでは、異常陰影候補を疾患部位として自動検出し、表示することができる。具体的には、X線画像等の医用画像データをコンピュータ処理することにより、癌等による異常な腫留陰影や高濃度の微小石灰化陰影等を検出し、表示させることができる。このため、CADを用いれば、読影医の読影時の負荷を軽減させることができるとともに、読影精度を向上させることができるようになる。
【0009】
更に、読影医の読影時の負荷を軽減させるための技術として、例えば、下記特許文献1が挙げられる。当該特許文献1によれば、医用画像データから異常候補を自動検出するとともに、異常候補の部位を囲む領域(以降、関心領域と呼ぶ)を自動設定することができるため、読影医が関心領域を手動で設定する手間を省くことが可能となる。
【0010】
一方で、読影医による読影時の読影精度を更に向上させるための技術開発も求められている。一般に、読影医が医用画像データを読影して診断を行う際に、読影中の医用画像データに写った患部が見慣れない画像特徴を持つ場合や、類似した画像特徴を持つ疾患が複数存在する場合などには、診断名の判断に迷うことがある。
【0011】
このような場合に、迷った読影医は、通常、他のベテランの読影医に相談するか、あるいは、自身で医学書等の文献を調べて、疑わしい疾患名に関する画像特徴の解説文を読むといった作業を行う。あるいは、写真付きの医学文献を調べ、読影中の医用画像データに写った患部と類似した写真を探し出し、当該写真の疾患名を調べることで、診断の参考にするといった作業を行う。
【0012】
しかしながら、相談できる他のベテランの読影医が常に近くにいるとは限らない。また、医学文献を調べたとしても、読影中の医用画像データに写った患部と類似した写真あるいは画像特徴の解説文が必ずしも見つかるとは限らない。
【0013】
そこでこのような問題を電子的な手段で解決し読影精度の向上を図るべく、近年、類似症例検索装置の開発が進められてきている。類似症例検索装置の基本的な考え方は、過去に蓄積した症例データの中から何らかの基準に基づき複数の症例データを検索し、読影医に表示することにより、診断の支援を行おうとするものである。
【0014】
類似症例検索における一般的な方法としては、読影中の医用画像データと画像特徴量が類似する類似画像データを、過去に蓄積した画像データベースから検索する方法が知られている。
【0015】
更に、疾患の進行状況等の経過観察の結果に基づいて診断を行う場合にあっては、一時点での医用画像データの類否だけではなく、同じ患者について異なる時期に撮影された複数の医用画像データに基づいて、経過の類否を判断する方法もある。かかる方法の場合、経過が類似する症例データを提示することで、病気の診断のみならず、その後の検査計画や治療計画の立案等において、信頼性の高い参考情報を提示することが可能となるという利点がある。
【0016】
このように、同じ患者について異なる時期に撮影された複数の医用画像データに基づいて、経過の類否を判断することで診断を支援する類似症例検索方法としては、例えば、下記特許文献2が挙げられる。
【0017】
特許文献2によれば、検査対象の時系列の医用画像データの各医用画像データと画像特徴量が類似し、かつ検査対象の時系列の医用画像データと撮影の時間間隔が等しい症例データを、病状の経過が類似する症例データとして提示することが可能となる。
【特許文献1】特開2007−325641号公報
【特許文献2】特開2007−287018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献2に開示された発明の場合、経過が類似する症例データの候補として、検査対象の時系列の医用画像データと撮影の時間間隔が等しい症例データしか提示することができない。
【0019】
つまり、たとえ実際の経過が類似していたとしても、検査対象の時系列の医用画像データと撮影の時間間隔が異なる症例データについては、類似する症例データとして提示されることがないという問題がある。
【0020】
このため、経過が類似する症例データの検索に際しては、撮影の時間間隔に関わらず適切に検索できるように構成することが、読影精度の向上の観点から望ましい。
【0021】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、経過が類似する症例データを適切に検索できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の目的を達成するために本発明に係る情報処理装置は以下のような構成を備える。即ち、
異なる時期に撮影された同一の被検体に対する複数の医用画像それぞれから特徴量を抽出し、特徴量の時間変化のモデルを構築する構築手段と、
異なる時期に撮影された同一の被検体に対する複数の医用画像を含む症例データを、データベースから読み出す読出手段と、
検査対象となる被検体について異なる時期に撮影された複数の医用画像を含む検査データを取得する取得手段と、
前記症例データに含まれる複数の医用画像それぞれから抽出された特徴量、または前記検査データに含まれる複数の医用画像それぞれから抽出された特徴量のいずれかを、前記モデルを用いて補間する補間手段と、
前記補間手段により補間された特徴量を用いて、前記検査データに含まれる複数の医用画像と、前記症例データに含まれる複数の医用画像との類似度を演算する演算手段と、
前記演算された類似度に基づいて選択された症例データを出力する出力手段とを備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、経過が類似する症例データを適切に検索することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0025】
[第1の実施形態]
<1.医用情報システムの全体構成及び類似症例検索装置の構成>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る類似症例検索装置(情報処理装置)を備える医用情報システムの全体構成及び類似症例検索装置の構成を示す図である。
【0026】
図1において、類似症例検索装置100は、制御部110、モニタ111、マウス112、キーボード113を有する。
【0027】
制御部110は、中央演算処理装置(CPU)101、主メモリ102、磁気ディスク103、表示メモリ104、共通バス105を有する。そして、CPU101が主メモリ102に格納された制御プログラムを実行することにより、症例データベース120、医用画像データベース130および診療録データベース140との通信、類似症例検索装置100全体の制御等、各種制御が実行される。
【0028】
CPU101は、類似症例検索装置100を構成する各構成要素の動作制御を行う制御プログラムを実行したり、本装置の主機能である類似症例検索プログラムを実行したりする。主メモリ102は、CPU101が実行する制御プログラムを格納したり、CPU101による類似症例検索プログラム実行時の作業領域を提供したりする。
【0029】
磁気ディスク103は、オペレーティングシステム(OS)、周辺機器のデバイスドライバ等の制御プログラムのほか、後述する症例データ生成機能、疾患進行モデル構築機能、類似症例検索機能を実現する類似症例検索プログラムを格納する。また、類似症例検索プログラムが使用する各種データを格納する。
【0030】
表示メモリ104は、モニタ111のための表示用データを一時記憶する。モニタ111は、例えばCRTモニタや液晶モニタ等であり、表示メモリ104から出力された表示用データに基づいて画像を表示する。
【0031】
マウス112及びキーボード113は、ユーザがポインティング入力及び文字等の入力を行う際に用いる構成要素である。これらの各構成要素は共通バス105により互いに通信可能に接続されている。
【0032】
なお、医用情報システムの構成は、図1の構成例に限定されるものではなく、例えば、医用画像データベース130として既存のPACSを利用するようにしてもよい。また、診療録データベース140として既存のHISのサブシステムである電子カルテシステムを利用するようにしてもよい。
【0033】
また、類似症例検索装置100に外部記憶装置、例えばFDD、HDD、CDドライブ、DVDドライブ、MOドライブ、ZIPドライブ等を接続し、それらのドライブから症例データや医用画像データ、診療録データを読み込むように構成してもよい。
【0034】
このような医用情報システムを構築することにより、類似症例検索装置100では、LAN150を介して症例データベース120から症例データを読み出すことができる。また、医用画像データベース130から医用画像データを、診療録データベース140から診療録データをそれぞれ読み出すことができる。
【0035】
なお、医用画像データベース130に格納される「医用画像データ」には、単純X線画像(レントゲン画像)、X線CT画像、MRI画像、PET画像、SPECT画像、超音波画像等が含まれるものとする。
【0036】
また、診療録データベース140に格納される「診療録データ」には、被検体である患者の個人情報(氏名、生年月日、年齢、性別等)、臨床情報(様々な検査値、主訴、既往歴、治療歴等)等が含まれるものとする。また、医用画像データベース130に格納された患者の医用画像データへの参照情報および主治医の所見情報なども含まれるものとする。さらに、診断が進んだ段階での診療録データにあっては、確定診断名も含まれるものとする。
【0037】
一方、症例データベース120に格納される「症例データ」とは、同一の患者に関して異なる時期に撮影された医用画像データ及びこれに対応する診療録データと、時系列の医用画像データを解析することで得られたデータとを関連付けた情報をいうものとする。
【0038】
症例データは、類似症例検索装置100の類似症例検索プログラムにおける症例データ生成機能が実行されることにより生成され、症例データベース120に格納される。具体的には、医用画像データベース130に保管された医用画像データおよび診療録データベース140に保管された診療録データの一部をコピーしたもの、またはそれらへのリンク情報として生成され、格納される。
【0039】
表1に、症例データベース120に格納される症例データテーブルの一例を示す。症例データテーブルとは、同じ項目から成る複数の症例データを規則正しく並べたデータの集まりである。表1では、同一患者の医用画像データは、同一の症例データID(これは患者IDと等価)で関連付けられている。
【0040】
【表1】

【0041】
なお、本実施形態に係る類似症例検索装置100では、症例データを生成したうえで、類似症例検索機能を実行する。具体的には、検査対象の患者の医用画像データ(検査対象画像と称す)と、当該患者の過去の時系列の医用画像データを合わせた情報(検査対象症例と称す)とをクエリとして、症例データベース120から経過が類似する症例データを検索する。
【0042】
なお、このとき、検査対象症例の画像特徴量についての離散的な時系列データ(以降、離散時系列データと呼ぶ)を補間することで、検査対象症例と撮影の時間間隔が異なる症例データとの類似度の演算を可能にする。検査対象症例の離散時系列データの補間方法としては、例えば検査対象症例と一部の撮影の時間間隔が同じで、かつ類似する医用画像データを有する症例データに含まれる他の医用画像データを用いて行う方法が考えられる。
【0043】
しかし、症例データに含まれる医用画像データを用いて、検査対象症例の画像特徴量を補間し、連続する時系列データを生成することは難しい。そこで、本実施形態では、類似症例検索機能の実行に際して、疾患進行モデル構築機能を動作させ、まず疾患の連続的な時系列の進行パターンを平均化したモデル(画像特徴量の時間変化のモデル)を複数作成する。そして、作成した複数の疾患進行モデルの中から検査対象症例が最も合致するものを選択し、該選択した平均的な疾患進行モデルを、検査対象症例固有の離散時系列データに適合させることで、連続する時系列データを実現するための補間を行う。なお、以下では、作成された複数のモデルを、「疾患進行モデル」と称することとする。
【0044】
以下、類似症例検索プログラムにより実現される各機能(症例データ生成機能、疾患進行モデル構築機能、類似症例検索機能)の詳細について説明する。
【0045】
<2.症例データ生成機能>
はじめに、図2のフローチャートを用いて、症例データ生成機能の詳細について説明する。ここでは、表1のように、同一患者の時系列の医用画像データとそこから抽出される画像特徴量、診療録データとを関連付けて保存する場合について説明する。
【0046】
ステップS201では、CPU101がマウス112やキーボード113の入力に応じて、症例データベース120に格納される医用画像データ(格納対象画像と称す)を、医用画像データベース130から読み出し、類似症例検索装置100に入力する。
【0047】
格納対象画像の入力処理は、例えば、上述したように、CPU101が、医用画像データベース130からLAN150を介して格納対象画像を受信することで実現される。或いは、CPU101が、類似症例検索装置100に接続された記憶装置、例えばFDD、CD−RWドライブ、MOドライブ、ZIPドライブ等の各種記憶媒体から格納対象画像を読み出すことで実現される。
【0048】
ステップS202では、CPU101が、格納対象画像に対応する診療録データを診療録データベース140から選択する。診療録データの選択処理は、格納対象画像に付随する症例データIDと等しい症例データIDが付随された診療録データを、診療録データベース140から抽出することで実現される。
【0049】
ステップS203では、CPU101が、格納対象画像と同一患者の症例データを症例データベース120から抽出する。症例データの抽出処理では、まず、格納対象画像に付随する症例データIDと等しい症例データIDが付随された症例データを症例データベース120から抽出する。そして、格納対象画像が新規の症例データかどうかを示すフラグNewを定義し、症例データベース120から抽出された場合にはNew=Fと設定する。一方、抽出されなかった場合には、格納対象画像を新規の症例データとみなし、フラグNew=Tと設定する。
【0050】
ステップS204では、CPU101が、格納対象画像から疾患部位領域を認識する。疾患部位領域の認識処理は、CPU101がモニタ111上に格納対象画像を表示した後、読影医によって指定された領域を主メモリ102上に記憶することで実現される。
【0051】
具体的には、読影医がマウス112を操作することで指定した、疾患部位領域が最も適切に描出されていると読影医が判断したスライス(関心スライスと称す)の番号及び関心スライス中の関心領域の座標を記憶する。
【0052】
そして、モニタ111上に、ステップS203において抽出された症例データの中から格納対象画像と撮影時期とが最も近い過去の症例データを表示し、さらに疾患部位の関心領域を表示する。このとき、格納対象画像から、過去の症例データの関心領域と同一の疾患部位を表す関心領域を読影医が指定し、指定された関心領域を主メモリ102上に記憶する。これにより、格納対象画像から過去の症例データと同一の疾患部位の関心領域を抽出する。
【0053】
ただし、格納対象画像から疾患部位領域を認識する処理は、これに限られない。例えば、特許文献1に記載されているCAD技術により、読影医の手を介さずに、格納対象画像を画像解析することにより疾患部位の存在位置を自動的に検出して、さらに疾患部位を囲む関心領域を自動設定するように構成してもよい。
【0054】
なお、この処理は、ステップS203においてフラグNew=Fが設定された場合にのみ行う。
【0055】
ステップS205では、CPU101が、ステップS204において認識された関心領域を画像解析し、疾患の特徴を表す画像特徴量を抽出する。画像特徴量ベクトルFの各要素{f,f,・・・f}(nは画像特徴量の要素数)は、例えば、対象となる疾患(異常)が肺結節の場合にあっては、結節の大きさ、結節内部と辺縁とのコントラスト差、結節内部の濃度の平均・分散、結節領域の境界の複雑さ等となる。
【0056】
ステップS206では、CPU101が、格納対象画像と、ステップS202において抽出された診療録データとを関連付ける。更に、ステップS203において抽出された症例データ、ステップS204において認識された疾患部位領域、ステップS205において抽出された画像特徴量を関連付ける。
【0057】
これらの関連付け処理は、まず格納対象画像、診療録データ、疾患部位領域、画像特徴量を、一つの検査データとして関連付ける。次に、ステップS203においてフラグNew=Fが設定されていた場合、格納対象画像と、抽出した症例データの各画像の撮影時期を比較し、時系列に並ぶように格納対象画像を含む検査データを症例データに追加する。これにより、同一IDの症例データにおいて、医用画像データが時系列に関連付けられることとなる。
【0058】
一方、New=Tが設定されていた場合は、新規の症例データであるため、症例データとの関連付け処理は行わない。そして、新たな症例データとして症例データベース120に格納する。
【0059】
以上の処理により、表1の症例データテーブル上に示された症例データの格納が行われる。なお、表1における、確定診断名、疾患の進行度などの項目は、診療録データから取得したものである。
【0060】
<3.疾患進行モデル構築機能>
次に、図3のフローチャートを用いて、疾患進行モデル構築機能の詳細について説明する。なお、疾患の進行パターンは、主に、疾患の性質や患者の年齢層や性別によって異なる変化を呈する。そこで、本実施形態に係る類似症例検索装置100では、疾患の性質・患者の年齢層・患者の性別に応じて異なるグループを定義し(以降、症例グループと呼ぶ)、症例グループごとに疾患進行モデルを構築することとする。
【0061】
表2は、疾患の性質・患者の年齢層・患者の性別ごとに定義した症例グループの一例を表している。
【0062】
【表2】

【0063】
なお、症例グループごとに疾患進行モデルを構築するにあたっては、まず、症例データベース120に格納された各症例データを上記の症例グループに分類する。そして、症例グループごとに、そのグループに含まれる各症例データの時系列での進行パターンを平均化したパターンを求め、疾患進行モデルとする。
【0064】
ここで、複数の症例データを平均化したモデルを求めるためには、症例データの時系列の医用画像データを同一の座標で対応付ける必要がある。本実施形態では各症例データの時系列の医用画像データを疾患の進行度に基づき同一時間軸上で対応付ける。以下、これらの処理の流れを図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0065】
ステップS301では、CPU101が、症例データベース120内の各症例データにおける時系列の医用画像データの画像特徴量から、画像特徴量の離散時系列データを作成する。
【0066】
ここでは、各症例データにおける複数の画像特徴量ベクトルFの間で、要素ごとの対応付けを行う。ある症例データにおける医用画像データごとの画像特徴量ベクトルを、F={f,f,・・・,f}とする。
【0067】
ここで、kは医用画像データごとの画像特徴量ベクトルの番号を、nは画像特徴ベクトルの要素数をそれぞれ表す。このとき、同一の症例データに含まれる全ての医用画像データの間でFの各要素を対応付ける。例えば表1の症例データIDが1の症例データの場合、1つ目の画像特徴量の要素に関して、f・f・f・f・fの5つを対応付ける。その他の要素も同様の対応付けを行う。
【0068】
そして、対応付けられた各要素に関して、横軸に時間、縦軸に画像特徴量の値をとった座標系を構築し、この座標系でプロットした画像特徴量を各要素の離散時系列データとする。
【0069】
図4は、画像特徴量の1つ目の要素に関する離散時系列データのグラフである。ステップS301における各処理は、症例データベース120に含まれる全ての症例データに対して行われる。
【0070】
ステップS302では、CPU101が、ステップS301において作成された各症例データにおける離散時系列データを、前述の表2で表される症例グループの何れかに分類する。
【0071】
例えば、「確定診断名:診断名1」、「患者性別:男性」、「患者年齢層:高年齢」の症例データであれば、「症例グループID:3」に分類される。ステップS302における処理は、症例データベース120に含まれる全ての症例データに対して行われる。
【0072】
ステップS303では、CPU101が、症例グループの総数をN、処理対象の症例グループID:iを1に設定する。
【0073】
ステップS304では、CPU101が、処理対象の症例グループID:i(以下、グループID:iと呼ぶ)に属する全ての離散時系列データを同一の座標軸で対応付ける。なお、ステップS304における処理の一例を以下に示す。但し、離散時系列データの対応付け処理は、下記の方法に限定されるものではない。
【0074】
図4に示すように、離散時系列データの各時点において、診断名が確定していれば、疾患の進行度も確定している。そこで、この疾患の進行度を基準に離散時系列データ間の対応付けを行う。
【0075】
具体的には、時間軸上において疾患の進行度が付与された二つの離散時系列データをそれぞれD、Dとする。さらに、DとDの時間軸上に付与された疾患の進行度(ここでは5段階で表す)の集合をそれぞれPとPとする。なお、P及びPの値は、それぞれ時系列における診断済み症例の個数だけ存在する。このとき、Dに対してDを時間軸方向にのみ平行移動させ、PとPの各値の位置が最も近くなる位置で平行移動を止めて位置合わせを行う。
【0076】
これにより、互いの疾患の各進行度が最も近くなるようにDとDとが対応付けられたことになる。なお、かかる対応付け処理は、グループID:iに含まれる全ての離散時系列データの間で行われる。
【0077】
ステップS305では、CPU101が、ステップS304において同一の座標軸上に対応付けられたグループID:iに属する離散時系列データに基づいて、疾患進行モデルを作成する。
【0078】
具体的には、同一の座標軸上にプロットされた全ての離散時系列データの点に最小二乗法を適用することで、疾患進行モデルのパターンを作成する。疾患進行モデルは、画像特徴量ベクトルFの要素{f,f,・・・f}ごとに作成する。そして、グループID:iの疾患進行モデルのベクトルM={M,M,・・・M}とする。
【0079】
図5は、同一の座標軸上にプロットされたグループID:iに属する4つの症例データに関する画像特徴量fの離散時系列データに対して、最小二乗法を適用して得られた疾患進行モデルM(点線で表された曲線)を表す図である。
【0080】
ステップS306では、CPU101が、ステップS305において得られた疾患進行モデルのベクトルMを保存する。Mを保存する先は、症例データベース120であってもよいし、磁気ディスク103であってもよい。
【0081】
ステップS307では、CPU101が、グループID:iの値を1増加させる。
【0082】
ステップS308では、CPU101が、グループID:iの値を認識し、iの値が症例グループの総数N以下であればステップS304に戻り、そうでなければ疾患進行モデル構築処理を終了する。
【0083】
以上の処理により、症例グループごとの疾患進行モデルの構築が行われる。そして症例グループごとの疾患進行モデルが構築されることで、類似症例検索機能の実行が可能となる。
【0084】
<4.類似症例検索機能>
次に、図6のフローチャートを用いて、類似症例検索機能の詳細について説明する。
【0085】
なお、本実施形態では、図3の疾患進行モデル構築処理が実行されることにより生成された疾患進行モデルを、検査対象症例に関する画像特徴量の離散時系列データに対して適合させることで、離散時系列データの補間を行う。
【0086】
そして、補間された離散時系列データと、症例データベース120内の各症例データの離散時系列データとを比較して、両者の類似度を演算する。このとき、補間された離散時系列データを利用することで、検査対象症例と任意の撮影時間間隔の離散時系列データとの類似度を演算することが可能となる。
【0087】
そして、演算した類似度に基づき検査対象症例に類似する症例データを選定し、時系列で提示する。以下、フローチャートに従って詳細に説明する。
【0088】
ステップS601では、CPU101が、マウス112やキーボード113の入力に応じて、検査対象画像を医用画像データベース130から読み出し、類似症例検索装置100に入力する。当該入力処理は、図2のステップS201と同様の工程であるため、詳細な説明は省略する。
【0089】
ステップS602では、CPU101が、検査対象画像に対して、症例データベース120から同一患者の症例データを抽出し、抽出した症例データに含まれる時系列の医用画像データを関連付ける。このとき、検査対象画像と同一患者の症例データが、予め症例データベース120に格納されているものとする。
【0090】
当該関連付け処理のうち、症例データの抽出処理は、図2のステップS202からステップS205までの処理と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略する。なお、当該関連付け処理の過程で、検査対象画像の疾患部位領域の認識、及び画像特徴量の抽出が行われる。そして、抽出した症例データと検査対象画像とが症例データIDに基づいて関連付けられる。
【0091】
表3は、検査対象画像と抽出した症例データとが関連付けられた結果を示している。表3に示すように、抽出した症例データには、過去に撮影された同一患者の時系列の医用画像データにおける疾患部位領域と画像特徴量とが含まれている。このため、検査対象画像と同一患者の時系列の医用画像データに関するこれらの情報が、検査対象症例として関連付けられることとなる。
【0092】
【表3】

【0093】
ステップS603では、CPU101が、ステップS602において関連付けられた検査対象症例の時系列の医用画像データに関する画像特徴量から、離散時系列データを作成する。具体的には、まず、表2に示す検査対象画像の画像特徴量Fを、F={f,f,・・・f}とする。そして、図3のステップS301と同様の処理により、Fと、抽出した症例データにおける各医用画像データの画像特徴量ベクトルFとを、要素ごとに対応付ける。
【0094】
なお、図7は、対応付けられた後の、1つ目の画像特徴量に関する離散時系列データのグラフを示す図である。
【0095】
ステップS604では、CPU101が、疾患進行モデルに基づき、検査対象の離散時系列データを補間する。まず、検査対象症例を表2の症例グループに分類し、該当する症例グループに対応する疾患進行モデルを選択する。これにより、検査対象症例に最も合致する疾患進行モデルを選択したこととなる。
【0096】
疾患進行モデルが症例データベース120に格納されている場合には、症例データベース120から選択し、磁気ディスク103に格納されている場合には、磁気ディスク103から選択する。
【0097】
例えば、検査対象症例が「確定診断名:診断名1」、「患者性別:男性」、「患者年齢層:高年齢」に属する場合には、「症例グループID:3」に該当する疾患進行モデルのベクトルMが選択される。そして、選択した疾患進行モデルを、検査対象症例の離散時系列データに適合させる。
【0098】
図8は、画像特徴量fに関する検査対象症例の離散時系列データdに対して、疾患進行モデルMを適合させることで、dを補間した一例を示している。ただし、d:{f19,f18,f17,f16,f}とする。
【0099】
当該処理は以下の手順で実行される(但し、疾患進行モデルに基づく補間処理は、下記の方法に限定されるものではない)。
【0100】
まず、疾患進行モデルMを複数の制御点に分割した後、スプライン曲線Cで近似する。ここでは、分割間隔αを、離散時系列データの時間全体の1/10とする。
【0101】
次に、検査対象症例の離散時系列データdと、この曲線Cとを、図3のステップS304と同様の処理により位置合わせする。
【0102】
そして、曲線C上の制御点の幾つかをd上の点に置き換えて再度スプライン曲線Cを引き直す。例えば、dに含まれる各点fから一定距離内(この例では上記αを適用する)に含まれる制御点を、それぞれ点fと置き換える。
【0103】
これにより、平均的な疾患進行モデルに基づいた上で、離散時系列データdを通る固有の連続的な時系列データが作成されることとなる。このデータを画像特徴量fに関する検査対象症例の補間時系列データと呼び、データqと表す。その他の画像特徴量f,・・・fについても同様の処理を行うことで、補間時系列データのベクトルQ={q,q,・・・q}が作成される。
【0104】
ステップS605では、CPU101が、ステップS604において作成された検査対象症例の補間時系列データと、症例データベース120内に格納された各症例データの離散時系列データとの類似度をそれぞれ演算する。
【0105】
類似度の演算処理では、まず、図3のステップS304と同様に、検査対象症例の補間時系列データと、比較する症例データID:iの離散時系列データとの間で、互いの疾患の各進行度が最も近くなるように、両者を同一時間軸上で位置合わせする。
【0106】
ここで、症例データID:iの離散時系列データのベクトルをD={d,d,・・・,d}と呼ぶことにする。
【0107】
次に、データQとデータDの類似度Sを演算する方法の一例を以下に示す。但し、類似度Sの演算方法は下記の方法に限定されるものではない。
【0108】
データQは連続する時系列データであるため、離散時系列データDの時間軸上の各時点に対応するデータを有している。そこで、データQから、データDにおける離散的な時点と同じ時点のデータをプロットした離散時系列データを抜き出し、Q’={q’,q’,・・・,q’}とする。
【0109】
データQ’とデータDとは、互いに同一の離散的な時点でのデータを有するため、各時点における互いの画像特徴量を比較することで、時間的にずれのない画像特徴量の比較を行うことができる。
【0110】
ここで、データDの離散的な時点をp,p,・・・,p(但し、mは離散点の合計数)とする。そして、ある一時点p(1≦j≦m)におけるQ’とDの画像特徴量ベクトルをそれぞれFT,pjとFi,pjとする。このとき、それらの類似度si,pjを演算する式の一例を式(1)に示す。
【0111】
【数1】

【0112】
さらに、時系列での類似度Sを演算する式の一例を式(2)に示す。
【0113】
【数2】

【0114】
ここでは、各時点での類似度si,pjの平均値を時系列での類似度Sとしている。症例データベース120に含まれるその他の症例データと、検査対象症例との類似度も同様の方法で演算する。
【0115】
ステップS606では、CPU101が、ステップS605において演算された類似度に基づいて、検査対象症例に類似する症例データを選定する。本実施形態では、検査対象症例に対する類似度が高い順に複数個(定数bとする)選択する。ここでは例えば、b=5を適用し、5個選定する。
【0116】
ステップS607では、CPU101が、ステップS606において選定された類似する症例データ(類似症例データ)を時系列で提示する。
【0117】
図9は、本実施形態における類似症例データの提示方法の一例を示す図である。図9に示すように、時間軸を横軸にとり、その上に検査対象症例に関する時系列の疾患部位の関心画像を配置する。このとき、撮影日時や診断名、疾患の進行度も配置する。そして、ステップS605において位置合わせされた類似症例データを、類似度が高い順に、同様の方法で表示する。選択された類似症例データに関して、治療行為が行われている場合には、治療行為の方法も合わせて表示する。
【0118】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る類似症例検索装置では、時系列の画像特徴量の離散値を補間した補間時系列データを用いて類似度の演算を行う構成とした。
【0119】
この結果、検査対象症例と撮影や検査の時間間隔が異なっていた場合であっても、経過が類似する類似症例データを提示することが可能となる。
【0120】
また、本実施形態に係る類似症例検索装置では、類似症例データに対応する患者に対して施されていた検査や治療行為も合わせて提示する構成とした。これにより、検査対象症例の診断に役立つ情報だけではなく、検査方針や治療方針を検討する際に読影医の方針決定に役立つ情報も提供することが可能となる。
【0121】
(第1の実施形態の変形例1)
図3を用いて説明した疾患進行モデル構築処理は、例えば、疾患の性質や、患者の性別や年齢ごとに異なる疾患の進行パターンが統計的に既知である場合にあっては、当該統計的なデータに基づいて実行するようにしても良い。
【0122】
(第1の実施形態の変形例2)
図6のステップS606における類似症例データの選定処理では、画像特徴量の変化パターンの類似度に基づいて類似症例データを提示することとしたが、例えば、それ以外の臨床情報との比較に基づいて、類似症例データを提示するようにしても良い。
【0123】
患者の性別と年齢の情報は、検査対象症例や症例データベース120内の症例データを症例グループに分類する際に考慮されるが、それ以外の臨床情報として、患者の既往歴や喫煙歴、遺伝子情報なども類似症例データを絞りこむ際に考慮するようにしてもよい。
【0124】
また、患者の既往歴や喫煙歴は確定診断名と相関がある可能性があり、遺伝子情報は、薬品の効果と相関がある可能性がある。このため、これらの情報が検査対象症例と等しい症例データに選定対象を絞りこむことで、類似症例データの検索精度を向上させることができる。
【0125】
(第1の実施形態の変形例3)
図6のステップS607における、類似症例データを時系列で提示する処理は、例えば、疾患の進行度の変化と相関の高い画像特徴量を少なくとも一つ選び、この画像特徴量の離散時系列データを提示するようにしてもよい。
【0126】
例えば、検査対象となる疾患が肺結節である場合、疾患の進行度の変化と、肺結節の大きさの変化は相関が高い。従って、これにより類似症例データにおける肺結節の大きさの変化を表す離散時系列データを提示することで、検査対象症例の肺結節の大きさが今後どのような変化を辿るかを予測することが可能となる。
【0127】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では疾患進行モデルを、疾患の性質・患者の年齢層・患者の性別ごとに分類する構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0128】
一般に、疾患の治療を行った場合は、治療行為によって、疾患が異なる進行パターンを辿る。そこで、本実施形態では、治療開始後(以降、予後と呼ぶ)の症例グループを新たに定義し(以降、予後症例グループと呼ぶ)、対応する進行パターンのモデル(以後、治療進行モデルと呼ぶ)を構築することとする。
【0129】
なお、本実施形態における医用情報システムの全体構成及び類似症例検索装置の構成は、上記第1の実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。また、治療開始前(以降、治療前と呼ぶ)の疾患進行モデルは、第1の実施形態と同じ方法で構築されるため、説明を省略する。
【0130】
表4は、予後症例グループの一例を示している。予後の疾患の進行は治療前の疾患の進行に依存するため、予後症例グループは、治療前症例グループを細分化したものとなる。例えば、治療前症例グループID:1は、予後症例グループID:1〜6に細分化される。
【0131】
【表4】

【0132】
治療進行モデルの構築方法に関しては、「手術なし」の場合は、投薬治療により疾患の状態が連続的に変化するため、治療前の疾患進行モデルと同様に図3のフローチャートに基づいて構築を行う。
【0133】
但し、「手術あり」の場合は、手術前は「手術なし」と同じ状態であるが、手術後は疾患部位が切除され、疾患の状態が全く異なる。そのため、「手術あり」の場合には、症例データの術後の離散時系列データに基づき、同様の方法で治療進行モデル(術後治療進行モデルと呼ぶ)を構築する。これと区別するため、「手術なし」の治療進行モデルを術前治療進行モデルと呼ぶことにする。
【0134】
また、本実施形態では、症例データベース120に格納される症例データとして、第1実施形態で説明した症例データに、治療状況に関する項目(治療前・治療開始時点・予後の何れか)を追加した症例データを用いることとする。
【0135】
表5に、本実施形態における症例データベース120に保管される症例データテーブルの一例を示す。
【0136】
【表5】

【0137】
<2.類似症例検索機能>
次に、図10のフローチャートを用いて、本実施形態に係る類似症例検索装置100における類似症例検索処理の流れについて説明する。
【0138】
本実施形態では、検査対象症例の離散時系列データを、治療前と予後の二つのデータに分割し、それぞれ疾患進行モデルと治療進行モデルに基づいて離散時系列データを補間する。さらに、治療前と予後のそれぞれに関して、補間したデータと症例データベース120内の症例データとの類似度を演算する(第1の演算手段及び第2の演算手段)。
【0139】
更に、症例データごとに、治療前と予後の類似度の両方に基づいて、総合的な類似度(総合類似度)を演算する。そして、演算した類似度に基づき検査対象症例に類似する症例データを選定し、時系列で提示する。なお、以下の説明において、上記第1の実施形態の図6のフローチャートと同様の処理を行う工程については、図6のいずれの工程に対応するかを記載するにとどめ、詳細の説明は省略する。
【0140】
ステップS1001からステップS1003までの処理は、図6のステップS601からステップS603までの処理と同様である。また、ステップS1005及びステップS1006の処理は、ステップS604及びステップS605の処理と同様である。
【0141】
ステップS1004では、CPU101が、ステップS1003において作成された各症例データの画像特徴量の離散時系列データを治療前と予後とで分割する。
【0142】
ステップS1007では、CPU101が、前述の治療進行モデルに基づき、検査対象の予後の離散時系列データ(予後離散時系列データと呼ぶ)を補間する。
【0143】
具体的には、図6のステップS604と同様に、検査対象症例を表4の予後症例グループに分類し、該当する予後症例グループに対応する治療進行モデルを選択する。
【0144】
このとき、検査対象症例が「手術あり」の場合であり、かつ手術前に投薬治療を行っていた場合には、該当する術後治療進行モデルに加え、同じ投薬治療を行っている術前治療進行モデルも選択する。
【0145】
その後、ステップS604と同様の処理で、治療進行モデルを検査対象症例の離散時系列データに適合させる。術前治療進行モデル・術後治療進行モデルの両方を選択した場合には、術前の予後離散時系列データ・術後の予後離散時系列データに対して、それぞれのモデルを適合させる。
【0146】
ステップS1008では、CPU101が、ステップS1007において作成された検査対象症例の予後補間時系列データと、症例データベース120に格納された各症例データの離散時系列データとの類似度Spostをそれぞれ演算する。
【0147】
具体的には、図6のステップS605と同様の処理を行う。但し、予後補間時系列データが、術前治療進行モデル・術後治療進行モデルの二つの進行モデルに基づいて生成されていた場合には、補間時系列データを術前と術後に分ける。そして、それぞれに対して類似度の演算を行った後、(3)式を用いて重み付け平均をとった値を、Spostとする。
【0148】
【数3】

【0149】
但し、Sは術前の離散時系列データの類似度、Sは術後の離散時系列データの類似度を表す。また、uは実数の定数であり、ここでは、検査対象症例の予後時系列データにおける、術前の予後離散時系列データの時間間隔が占める割合を表すものとする。
【0150】
ステップS1009では、CPU101が、ステップS1006及びステップS1008においてそれぞれ演算された、治療前と予後の類似度に基づいて、検査対象症例に類似する症例データを選定する。
【0151】
本実施形態では、同一症例データに関して、下記の式4を用いて治療前の類似度(Spreとする)と予後の類似度Spostの重み付け平均をとった値を、総合的類似度として演算するものとする。
【0152】
【数4】

【0153】
但し、vは実数の定数であり、ここでは、検査対象症例の離散時系列データ全体における、治療前時系列データの時間間隔が占める割合を表している。
【0154】
そして、図6のステップS606と同様に、検査対象症例に対する総合的類似度が高い方から順に複数個選択する。
【0155】
ステップS1010では、CPU101が、ステップS1009において選定された類似症例データを時系列で提示する。
【0156】
図11は、本実施形態における類似症例データの提示方法の一例を示す図である。図11は、第1実施形態における図9と同様の表示形態である。ただし、図11の場合、治療行為まで行われている検査対象症例に対して、治療前の疾患の進行状況だけではなく、術前・術後の投薬治療の進行状況についても類似する症例が提示される(第1の出力手段及び第2の出力手段)。
【0157】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る類似症例検索装置では、疾患の進行状況が異なる治療前と治療後、及び術前と術後を区別して、異なる疾患進行モデルによって離散時系列データを補間し、別々に類似度を演算する構成とした。
【0158】
これにより、例えば、検査対象症例が治療行為まで行われていた症例であった場合に、治療前の疾患進行モデルのみに基づいて離散時系列データを補間すると、治療前の疾患進行モデルとの不一致が生じてしまうといった問題を解決することが可能となる。
【0159】
さらに、検査対象症例の治療前の進行パターンと、症例データベース120に格納された症例データの予後の進行パターンとが偶然近かった場合に、本来は類似症例データではないにも関わらず、類似度が高い症例データとして提示されてしまうといった問題を解決することが可能となる。
【0160】
この結果、より正確な離散時系列データの補間と類似度の演算が可能となる。
【0161】
(第2の実施形態の変形例1)
ステップS1009では、類似症例データの選定方法として、治療前と予後のそれぞれの類似度から演算した総合的類似度が高い順に特定の数だけ選定する方法を用いることとしたが、これに限定されるものではない。例えば、治療前と予後のそれぞれに関して、類似度が高い順に特定の数だけ症例データを選定するようにしてもよい。
【0162】
これにより、治療前と予後のそれぞれに着目した類似症例を提示することが可能となる。当該方法によれば、治療前の疾患の進行状況のみが類似している症例データを複数提示し、それらの予後の進行状況がどう異なるかを参考にしたい場合に、有効となる。また、その逆の場合にも同様に有効である。
【0163】
さらに、予後における術前と術後の類似度を別々に演算することで、治療前と術前、術後のそれぞれに着目した類似症例データを提示するようにしてもよい。これにより、例えば術後の経過のみが類似する類似症例データを提示して、治療方針計画などの参考にすることが可能となる。
【0164】
(第2の実施形態の変形例2)
本実施形態では、治療進行モデルの構築に際して、表4で示したように、治療方法として「手術の有無」・「投薬した薬品」に応じて症例グループを作成することとしたが、症例グループを分類する治療方法はこれに限られない。
【0165】
その他にも疾患の進行パターンに影響を及ぼす可能性がある治療方法として、「放射線治療」などが挙げられる。したがって、放射線治療に応じて症例グループを作成するようにしてもよい。同様に、類似症例データの提示に際して、治療情報として「放射線治療」の情報を提示するようにしてもよい。
【0166】
[第3実施形態]
上記第1及び第2の実施形態では、検査対象症例の離散時系列データを補間した補間時系列データと、症例データベース120内の症例データの離散時系列データとを比較することで、類似度の演算を行うこととしたが、本発明はこれに限定されない。
【0167】
上記第1及び第2の実施形態とは逆に、検査対象症例の離散時系列データと、症例データベース120内の症例データの離散時系列データを補間した補間時系列データとを比較することで、類似度の演算を行うように構成してもよい。
【0168】
当該構成では、症例データベース120内の症例データの離散時系列データを補間する処理を予め実行しておき、類似症例検索時にCPU101がアクセスし易い磁気ディスク103内に格納しておく。そして類似症例検索の際には、磁気ディスク103に格納された各症例データの補間時系列データを、検査対象症例の離散時系列データとの比較のために読み出す。
【0169】
かかる構成によれば、症例データベース120内の症例データの補間時系列データを、予め磁気ディスク103内に格納しておくため、類似症例検索を実行する際に補間時系列データを作成する処理を省くことが可能となる。
【0170】
この結果、類似症例検索の際に検査対象症例の離散時系列データを補間する必要がなくなり、上記第1及び第2の実施形態に比べ、類似症例検索処理の時間を短縮させることが可能となる。
【0171】
[他の実施形態]
なお、本発明は、複数の機器(例えばホストコンピュータ、インタフェース機器、リーダ、プリンタなど)から構成されるシステムに適用しても、一つの機器からなる装置(例えば、複写機、ファクシミリ装置など)に適用してもよい。
【0172】
また、本発明の目的は、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録したコンピュータ読取可能な記憶媒体を、システムあるいは装置に供給するよう構成することによっても達成されることはいうまでもない。この場合、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読出し実行することにより、上記機能が実現されることとなる。なお、この場合、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0173】
プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピ(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどを用いることができる。
【0174】
また、コンピュータが読出したプログラムコードを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現される場合に限られない。例えば、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0175】
さらに、記憶媒体から読出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれた後、前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれる。つまり、プログラムコードがメモリに書込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって実現される場合も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る類似症例検索装置(情報処理装置)を備える医用情報システムの全体構成及び類似症例検索装置の構成を示す図である。
【図2】症例データ生成処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】疾患進行モデル構築処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】離散時系列データのグラフである。
【図5】疾患進行モデルを表す図である。
【図6】類似症例検索処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】離散時系列データのグラフである。
【図8】補間された離散時系列データのグラフである。
【図9】類似症例データの提示方法の一例を示す図である。
【図10】類似症例検索処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】類似症例データの提示方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0177】
100 類似症例検索装置
102 症例データベース
103 医用画像データベース
104 診療録データベース
105 LAN
110 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる時期に撮影された同一の被検体に対する複数の医用画像それぞれから特徴量を抽出し、特徴量の時間変化のモデルを構築する構築手段と、
異なる時期に撮影された同一の被検体に対する複数の医用画像を含む症例データを、データベースから読み出す読出手段と、
検査対象となる被検体について異なる時期に撮影された複数の医用画像を含む検査データを取得する取得手段と、
前記症例データに含まれる複数の医用画像それぞれから抽出された特徴量、または前記検査データに含まれる複数の医用画像それぞれから抽出された特徴量のいずれかを、前記モデルを用いて補間する補間手段と、
前記補間手段により補間された特徴量を用いて、前記検査データに含まれる複数の医用画像と、前記症例データに含まれる複数の医用画像との類似度を演算する演算手段と、
前記演算された類似度に基づいて選択された症例データを出力する出力手段と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記補間手段は、被検体の疾患の性質、被検体の性別、被検体の年齢、疾患の治療方法のうちの少なくともいずれか1つに基づいて選択されたモデルを用いて前記特徴量を補間することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記補間手段は、前記複数の医用画像を治療前に撮影された医用画像と予後に撮影された医用画像とに分けて、それぞれの医用画像から抽出された特徴量について補間することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記演算手段は、前記検査データに含まれる複数の医用画像と前記症例データに含まれる複数の医用画像との類似度を、治療前に撮影された医用画像と予後に撮影された医用画像とに分けて、演算することを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記演算手段は、
治療前に撮影された医用画像を含む前記検査データと治療前に撮影された医用画像を含む前記症例データとの類似度を演算する第1の演算手段と、
予後に撮影された医用画像を含む前記検査データと予後に撮影された医用画像を含む前記症例データとの類似度を演算する第2の演算手段と
を備えることを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記出力手段は、
前記第1の演算手段により演算された類似度と、前記第2の演算手段により演算された類似度とを用いて演算した総合類似度に基づいて選択された症例データを出力することを特徴とする請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記出力手段は、
前記第1の演算手段により演算された類似度に基づいて選択された症例データを出力する第1の出力手段と、
前記第2の演算手段により演算された類似度に基づいて選択された症例データを出力する第2の出力手段と
を備えることを特徴とする請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項8】
異なる時期に撮影された同一の被検体に対する複数の医用画像それぞれから特徴量を抽出し、特徴量の時間変化のモデルを構築する構築工程と、
異なる時期に撮影された同一の被検体に対する複数の医用画像を含む症例データを、データベースから読み出す読出工程と、
検査対象となる被検体について異なる時期に撮影された複数の医用画像を含む検査データを取得する取得工程と、
前記症例データに含まれる複数の医用画像それぞれから抽出された特徴量、または前記検査データに含まれる複数の医用画像それぞれから抽出された特徴量のいずれかを、前記モデルを用いて補間する補間工程と、
前記補間工程において補間された特徴量を用いて、前記検査データに含まれる複数の医用画像と、前記症例データに含まれる複数の医用画像との類似度を演算する演算工程と、
前記演算された類似度に基づいて選択された症例データを出力する出力工程と
を備えることを特徴とする情報処理装置における情報処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載の情報処理方法をコンピュータによって実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項8に記載の情報処理方法をコンピュータによって実行させるためのプログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−165127(P2010−165127A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6117(P2009−6117)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】