説明

感光性樹脂組成物及びそれを用いた回路基板

【課題】新規な副生成物の出ない光塩基発生剤とアルカリ現像可能な可溶性ポリイミドを用い、従来の感光性樹脂組成物では困難であった、光塩基発生剤による副生成物がなく、さらに高温キュアの必要がないアルカリ現像可能な感光性ポリイミド樹脂組成物及びそれを用いた回路基板を提供すること。
【解決手段】本発明の感光性樹脂組成物は、光塩基発生剤(A)と可溶性ポリイミド(B)とを含有する感光性樹脂組成物であって、前記光塩基発生剤(A)は、光による解裂で塩基を生成する解裂部位を環状構造内に含む環状化合物を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光塩基発生剤を用いた新規な感光性樹脂組成物及びそれを用いた回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、高い絶縁性、耐熱耐寒性、高強度などの優れた特性に基づいて様々な分野で応用されている。近年、伸長著しいフレキシブルプリント配線板(以下、FPCと省略する)においては、ポリイミドが基材、カバーレイとして用いられている。近年のIC実装技術の高度化や高密度化とあいまってFPCも配線の微細化が求められており、ポリイミドを用いたカバーレイにも高度な加工性が求められている。FPCの製造においては、ポリイミド基材を機械的に打ち抜き、位置合わせを行って貼り合わせを行うので、位置合わせ精度を高くできないという問題があった。これを解決すべく、アクリレ−ト樹脂やエポキシ樹脂を用いたソルダレジストフィルムをベースにした感光性フィルムの検討がなされてきたが、可撓性などの物性面でポリイミドには及ばなかった(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
感光性ポリイミドとしては、例えば(メタ)アクリル酸などのオレフィン化合物と光ラジカル発生剤を併用したネガ型の感光性ポリイミドの提案があるが、絶縁膜として用いる場合は、露光、現像後に共存するオレフィン化合物を加熱、分解して除去する必要がある。この場合、現像後に200 ℃以上の高温加熱が必要である(例えば、特許文献4)。また、感光基を側鎖に有するポリアミド酸エステルを用いた提案もあるが、この場合も現像後に300℃〜450℃程度でキュアし、側鎖の感光基を分解しイミド化する必要がある(例えば、特許文献5)。これらの感光性ポリイミド又は感光性ポリアミド酸エステルは、FPCのカバーレイとして用いる場合は高温でのキュアが回路基板を傷める懸念がある。
【0004】
光塩基発生剤を用いた感光性ポリイミドとしては、ポリイミド前駆体のポリアミド酸とアシルオキシイミノ基を有する光塩基発生剤を用いた提案がある(例えば、特許文献6)。しかしながら、従来知られている非環状型の光塩基発生剤は、光開裂後、ラジカル種が2つの分子に分かれて存在するため、ラジカル種同士が拡散して再カップリングの確率が低下し、アミンへの変換効率が低くなるので、樹脂100重量部に対して100重量部程度添加することが必要であり、膜の機械物性が悪化する懸念がある。また、アミンと共にアルデヒド化合物やケトン化合物の副生成物が完全に離れた分子として生成する。生成した副生成物は、ネガ型フォトリソグラフィーのプロセスにおいては、現像液に溶出して膜減りの要因となる懸念がある。また、副生成物の揮発性が高い場合、臭気を伴ったり、フォトリソグラフィーの光学系を汚染する懸念がある。
【特許文献1】特開昭56−6498号公報
【特許文献2】特開昭61−243869号公報
【特許文献3】特開平6−332171号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2002/023276
【特許文献5】特開2001−194783号公報
【特許文献6】特開平6−295063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされるものであり、従来の感光性樹脂組成物では困難であった、光塩基発生剤の添加量を低減することができ、さらに光塩基発生剤による副生成物がない感光性ポリイミド樹脂組成物及びそれを用いた回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の感光性樹脂組成物は、光塩基発生剤(A)と可溶性ポリイミド(B)とを含有する感光性樹脂組成物であって、前記光塩基発生剤(A)は、式(1)で表されるアシルオキシイミノ基を含有する化合物、及び/又は式(2)で表されるカルバモイルオキシイミノ基を含有する化合物を含有することを特徴とする。
【化1】

(式中、Xは−(CH−基、脂環式基、アリーレン基、−(CH−基と脂環式基とが結合したもの、−(CH−基とアリーレン基とが結合したもの、から選択され、nは2〜7の整数、Rは芳香族基又は置換アルキル基である)
【化2】

(式中、Yは−(CH−基、脂環式基、アリーレン基、−(CH−基と脂環式基とが結合したもの、−(CH−基とアリーレン基とが結合したもの、から選択され、mは2〜7の整数、Rは芳香族基又は置換アルキル基である)
【0007】
本発明の感光性樹脂組成物においては、光照射のみにより、又は光照射及び加熱により、照射部と未照射部との間で溶解度差又は/及び溶解速度差を生じてアルカリ水溶液で現像が可能であるネガ型感光性樹脂組成物であることが好ましい。
【0008】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記可溶性ポリイミド(B)が式(3)で表される繰り返し単位を含む可溶性ポリイミドであることが好ましい。
【化3】

(式中αは4価の有機基、βは少なくとも1以上のカルボキシル基を有する2価の有機基、bは2価の有機基である。複数あるαはそれぞれ同じでも異なっていても良い。xは1以上の整数を表し、yは0以上の整数を表す)
【0009】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記可溶性ポリイミド(B)がシリコーン鎖を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記可溶性ポリイミド(B)が、光照射のみにより、もしくは光照射及び加熱により架橋し得る官能基をもつ末端構造Wを有する、式(4)で表されることが好ましい。
【化4】

(式中のα、β、b、x、yは式(3)と同じである)
【0011】
本発明の感光性樹脂組成物においては、さらに光増感剤(C)を含有することが好ましい。
【0012】
本発明の感光性樹脂組成物においては、さらにアミド化触媒(D)を含有することが好ましい。
【0013】
本発明のフィルムは、上記感光性樹脂組成物で構成されたことを特徴とする。
【0014】
本発明の積層フィルムは、キャリアフィルムと、前記キャリアフィルム上に設けられた請求項8記載のフィルムと、を具備することが好ましい。
【0015】
本発明の積層フィルムにおいては、前記フィルム上に形成されたカバーフィルムを具備することが好ましい。
【0016】
本発明の回路基板は、上記フィルム、又は上記積層フィルムを用いて構成されたカバーレイを具備することを特徴とする。
【0017】
本発明の回路基板の製造方法は、上記感光性樹脂組成物を用いて、少なくとも、配線を有する基材上に樹脂組成物層を形成する工程と、前記樹脂組成物層にパターン露光を行う工程と、前記パターン露光後の樹脂組成物層に対してアルカリ水溶液を用いて現像処理を行う工程と、現像処理後の樹脂組成物層をキュアする工程と、を具備することを特徴とする。
【0018】
本発明の回路基板の製造方法は、少なくとも、上記フィルム、又は上記積層フィルムを、配線を有する基材上にラミネートして樹脂組成物層を形成する工程と、前記樹脂組成物層にパターン露光を行う工程と、前記パターン露光後の樹脂組成物層に対してアルカリ水溶液を用いて現像処理を行う工程と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の感光性樹脂組成物は、光による解裂部位を環状構造内に含む環状化合物を含有する光塩基発生剤(A)と可溶性ポリイミド(B)を含有するので、副生成物として生成するケトンが遊離しないアルカリ可溶な感光性ポリイミド樹脂組成物を提供し、アルカリ現像によるフォトリソグラフィーを実現することができる。すなわち、光塩基発生剤(A)と可溶性ポリイミド(B)とを組み合わせることにより、該組成物の光照射部と未照射部のアルカリ現像液に対する溶解度差又は溶解速度差を大きくし、良好にアルカリ現像することができる新規な感光性樹脂組成物及びそれを用いた回路基板を提供することができる。また、該光塩基発生剤(A)は、環状の構造であるため、光による開裂後のラジカル再カップリングの効率を公知の非環状化合物より高くすることも可能になり、塩基の発生効率を向上することができるため、光塩基発生剤の添加量を減らせることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の光塩基発生剤(A)は、波長が200nmから500nmの光に対して良好に分解し、塩基を発生することができる。その際、本発明の光塩基発生剤は、アシルオキシイミノ基又はカルバモイルオキシイミノ基が環状構造に含まれているため、光解裂反応で生成するラジカル種同士が共有結合で結ばれており、副生成物が生成しない。さらに、本発明における光塩基発生剤は、光による開裂後発生するラジカル種同士が共有結合で結ばれているため、ラジカル再カップリングの効率が、非環状型の光塩基発生剤より高くなり、塩基の発生効率を向上させることが可能である。
【0021】
本発明における光塩基発生剤は例えば、式(1)で表される化合物である。
【化5】

(式中、Xは−(CH−基、脂環式基、アリーレン基、−(CH−基と脂環式基とが結合したもの、−(CH−基とアリーレン基とが結合したもの、から選択され、nは2〜7の整数、Rは芳香族基又は置換アルキル基である)
【0022】
また、例えば式(2)で表される化合物である。
【化6】

(式中、Yは−(CH−基、脂環式基、アリーレン基、−(CH−基と脂環式基とが結合したもの、−(CH−基とアリーレン基とが結合したもの、から選択され、mは2〜7の整数、Rは芳香族基又は置換アルキル基である)
【0023】
光塩基発生剤が式(1)で表される場合、光による開裂後、ラジカルカップリングの効率の観点から、nが2から7が好ましい。さらに好ましくはnが3から7である。
【0024】
式(1)中、Rは芳香族基又は置換アルキル基である。芳香族基とは、例えば、フェニル基やナフチル基などである。これらは置換基を有していても良い。置換アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、フェノキシ基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基などが挙げられる。
【0025】
光塩基発生剤が式(2)で表される場合は、感光性樹脂組成物との相溶性の面からmが2から7が好ましい。
【0026】
式(2)中、Rは芳香族基又は置換アルキル基である。芳香族基とは、例えば、フェニル基やナフチル基などである。これらは置換基を有していても良い。置換アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、フェノキシ基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基などが挙げられる。
【0027】
本発明の光塩基発生剤は、単官能の化合物でも、多官能の化合物でもよい。単官能のものとして、例えば式(5)に示すものが挙げられ、多官能のものとして、例えば式(6)に示すものが挙げられる。
【化7】

【化8】

【0028】
光塩基発生剤の量に特に制限はないが、感光性や硬化後の樹脂の機械的特性を考慮して、可溶性ポリイミド100重量部に対して1重量部から50重量部配合することが好ましい。より好ましくは3重量部から30重量部である。もっとも好ましくは5重量部から20重量部である。
【0029】
本発明の感光性樹脂組成物は、該光塩基発生剤と公知の光塩基発生剤とを併用することも可能である。例えば、非環状のアシルオキシイミノ化合物、非環状のカルバモイルオキシム化合物、カルバモイルヒドロキシルアミン化合物、カルバミン酸化合物、ホルムアミド化合物、アセトアミド化合物、カルバメート化合物、ベンジルカルバメート化合物、ニトロベンジルカルバメート化合物、スルホンアミド化合物、イミダゾール誘導体化合物、アミンイミド化合物、ピリジン誘導体化合物、α−アミノアセトフェノン誘導体化合物、4級アンモニウム塩誘導体化合物、α−ラクトン環誘導体化合物、アミンイミド化合物、フタルイミド誘導体化合物などである。なかでも比較的アミンの発生効率が高いアシルオキシイミノ化合物が好ましい。さらに好ましくは、光照射により一分子から1以上4以下のアミノ基を発生することができるアシルオキシイミノ化合物が好ましい。さらに好ましくは2以上3以下のアミノ基を発生することができるアシルオキシイミノ化合物である。これら公知の光塩基発生剤の添加量はできるだけ少ない方が好ましい。
【0030】
次に、可溶性ポリイミド(B)について説明する。
本発明の可溶性ポリイミドとは、有機溶剤に可溶なポリイミドである。有機溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。有機溶剤に可溶とは、これらから選ばれる溶剤の1種もしくは複数の混合溶剤に、少なくとも5重量%以上、好ましくは10重量%以上溶解することを意味する。
【0031】
本発明の感光性樹脂組成物は、光塩基発生剤(A)と可溶性ポリイミド(B)を含有する樹脂組成物であり、可溶性ポリイミドのアルカリ現像液に対する溶解性が、光照射部と未照射部で変化する。本発明の可溶性ポリイミドは、アルカリ溶解性を付与する親水性の官能基を導入することができる。親水性の官能基とは、例えばカルボキシル基、アルコール性の水酸基、フェノール性の水酸基、スルフォニル基、アミド基、カルボニル基、エステル基、エ−テル基、などである。なかでも酸性基が好ましく、カルボキシル基、フェノール性の水酸基が好ましい。
【0032】
また、本発明の可溶性ポリイミドには、光塩基発生剤(A)より発生する塩基と反応性を持つ官能基とを導入することができる。
【0033】
このような塩基と反応性を持つ官能基とは、例えばエポキシ基、オキセタン基、ビニル基、チオール基、カルボキシル基などである。塩基との反応性及びアルカリ溶解性の観点からカルボキシル基が好ましい。
【0034】
カルボキシル基を有する可溶性ポリイミドとは、例えば式(3)で表される可溶性ポリイミドである。
【化9】

(式中αは4価の有機基、βは少なくとも1以上のカルボキシル基を有する2価の有機基、bは2価の有機基である。複数あるαはそれぞれ同じでも異なっていても良い。xは1以上の整数を表し、yは0以上の整数を表す)
【0035】
式(3)中、αは4価の有機基である。ポリイミドはテトラカルボン酸二無水物とジアミンを原料として、ポリアミド酸を経由して合成することが可能である。αは、例えば式(7)で表されるテトラカルボン酸二無水物によりポリイミド中に導入することができる。
【化10】

【0036】
このようなテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物などの脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレングリコールビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル酸二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、などが挙げられる。
【0037】
好ましくは、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレングリコールビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。特に、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)又はエチレングリコールビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)は、感光性フィルムとした際に現像性を改善する観点から好ましい。
【0038】
また、ポリイミドに溶剤可溶性を付与する観点から、ヘキサフルオロイソプロピリデン基を有するテトラカルボン酸二無水物もしくは脂肪族テトラカルボン酸二無水物もしくは対称性を有さないテトラカルボン酸二無水物を導入することが好ましい。
【0039】
このようなテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、1,5−シクロオクタジエン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物(COEDA)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物(MCTC、EpiclonB−4400)、5−カルボキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,6,−トリカルボン酸−2,3:5,6−二無水物(NDA)、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物(リカシッドTDA−100)、などである。これらテトラカルボン酸二無水物は単独又は組み合わせて用いることができる。
【0040】
次にβについて説明する。βはカルボキシル基を有する2価の有機基であり、ポリイミドを合成する際に、式(8)で表されるジアミンにより導入することができる。
【化11】

【0041】
このようなジアミンとしては、カルボキシル基を有するジアミンであれば、特に限定されないが、例えば、3,5−ジアミノ安息香酸などのジアミノ安息香酸類;3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラカルボキシビフェニルなどのカルボキシビフェニル化合物類;3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシジフェニルメタン、2,2−ビス[3−アミノ−4−カルボキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−アミノ−3−カルボキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−カルボキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラカルボキシジフェニルメタンなどのカルボキシジフェニルメタンなどのカルボキシジフェニルアルカン類;3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラカルボキシジフェニルエーテルなどのカルボキシジフェニルエーテル化合物;3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラカルボキシジフェニルスルホンなどのジフェニルスルホン化合物;2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−カルボキシフェノキシ)フェニル]プロパンなどのビス[(カルボキシフェノキシ)フェニル]アルカン化合物類;4,4’−ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェノキシ)ビフェニルなどのビス(カルボキシフェノキシ)ビフェニル化合物類;2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−カルボキシフェノキシ)フェニル]スルホンなどのビス[(カルボキシフェノキシ)フェニル]スルホン化合物を挙げることができる。
【0042】
中でも、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジアミノ安息香酸はアルカリ溶解性が良好であり、好ましい。
【0043】
これらカルボキシル基を有するジアミンは単独又は組み合わせて用いることができる。
【0044】
次にbについて説明する。bは、2価の有機基であり、ポリイミドを合成する際に、式(9)で表されるジアミンにより導入することができる。
【化12】

【0045】
このようなジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、5−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、6−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,5−ジアミノ−3’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5−ジアミノ−4’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,7−ジアミノフルオレン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)−ビフェニル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチル)フェノキシ]−オクタフルオロビフェニルなどの芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェンなどの芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4−ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などの脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミンが挙げられる。
【0046】
また、水酸基を有するジアミンを用いてもよい。例えば、2,4−ジアミノフェノールなどのジアミノフェノール類;3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラヒドロキシビフェニルなどのヒドロキシビフェニル化合物類;3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラヒドロキシジフェニルメタンなどのヒドロキシジフェニルメタンなどのヒドロキシジフェニルアルカン類;3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラヒドロキシジフェニルエーテルなどのヒドロキシジフェニルエーテル化合物;3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラヒドロキシジフェニルスルホンなどのジフェニルスルホン化合物;2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]プロパンなどのビス[(ヒドロキシフェニル)フェニル]アルカン化合物類;4,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドキシフェノキシ)ビフェニルなどのビス(ヒドキシフェノキシ)ビフェニル化合物類;2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]スルホンなどのビス[(ヒドロキシフェノキシ)フェニル]スルホン化合物、を挙げることができる。
【0047】
好ましいものとしては、ポリイミドフィルムのガラス転移点の観点より、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンが挙げられる。
【0048】
また、ジアミンとしてシリコーン鎖を有するジアミンを用いることにより、シリコーン鎖を有するポリイミドを得ることができる。シリコーン鎖を有するポリイミドはガラス転移点、フィルムの伸度、フィルムの屈曲性の観点より好ましい。
【0049】
シリコーン鎖を有するジアミンは、例えば、ジアミノシロキサンを用いることができる。ジアミノシロキサンとは具体的には、式(10)で表されるジアミノシロキサンなどである。
【化13】

(Rは2価の炭化水素基、kは1〜10の整数である)
【0050】
これらのジアミン成分は、単独又は組み合わせて用いることができる。
【0051】
本発明に係る可溶性ポリイミドは、上記の1つ以上のテトラカルボン酸二無水物と上記の2つ以上のジアミンをモノマーとして用い、適当な溶媒中で混合しポリイミド前駆体であるポリアミド酸を合成した後、反応液を加熱しイミド化し合成することができる。このとき、ジアミンにはカルボキシル基を有するジアミンから選ばれる1つ以上のジアミンを含むことが必須である。モノマーの仕込みの量としてフィルムにした際の機械物性の観点より、(全テトラカルボン酸二無水物)/(全ジアミン)のモル比は0.95以上1.05以下が好ましい。
【0052】
合成に用いる溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサンメチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性溶媒が挙げられる。
【0053】
これらの溶媒の他、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、炭化水素類が挙げられる。
【0054】
ケトン類とは、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、などである。エステル類とは酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、蓚酸ジエチル、炭酸ジメチル、マロン酸ジエチル、などである。エーテル類とはジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、などである。ハロゲン化炭化水素類とはジクロロメタン、1,2−ジクロルエタン、クロロホルム、1,4−ジクロルブタン、トリクロルエタン、クロルベンゼン、o−ジクロロベンゼン、などである。炭化水素類とはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどである。これらは単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0055】
イミド化は加熱のみによって行っても良く、触媒を添加し加熱を行っても良い。触媒としては、例えば、酸無水物やラクトン、及び塩基を使用することができる。酸無水物としては、例えば無水酢酸などが挙げられる。ラクトンとしては、γ−バレロラクトンが好ましく、塩基としてはピリジン及び/又はメチルモルフォリンが好ましい。
【0056】
イミド化を加熱により、又は触媒添加し加熱による行う場合、加熱温度としては、150〜200℃が好ましく、160〜180℃がより好ましい。
【0057】
イミド化反応に伴い生成する水は、水と共沸する溶剤、例えばトルエンやキシレンと共に反応系外に取り除くことができる。
【0058】
得られた反応液はそのままポリイミドワニスとして用いることができる。
【0059】
可溶性ポリイミドは、カルボキシル基を有するユニットとカルボキシル基を有さないユニットとを含み、組成はx及びyによって示される。具体的には、xは1以上の整数であり、yは0以上の整数である。カルボキシル基を有するユニットの導入は、アルカリ現像性の観点より好ましい。
【0060】
アルカリ現像性の観点より、(カルボキシル基を含むユニットの数x)/(全ユニットx+y)の比率は、0.01以上1以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.2以上0.9以下、さらに好ましくは0.3以上0.8以下である。
【0061】
また、本発明の可溶性ポリイミドは、末端に感光性の官能基を有していても良い。末端の感光性の官能基は例えば、式(4)のWで表される。
【化14】

(式中のα、β、b、x、yは式(3)と同じである。)
【0062】
Wは光照射のみにより、もしくは光照射及び加熱により架橋し得る官能基末端構造を表す。また、Wは光塩基発生剤(A)に由来する塩基の存在下で光照射のみにより、もしくは光照射及び加熱により架橋し得る官能基を有する末端構造であってもよい。
【0063】
光照射のみにより、もしくは光照射及び加熱により架橋し得る官能基とは、例えば、ケイ皮酸を有する官能基類、マレイミド基類、などである。ケイ皮酸を有する官能基類とは、例えばシンナモイル基、シンナミリデンアセチル基、カルコン基、スチリルピリジン基などである。マレイミド基類とは、マレイミド基、α−フェニルマレイミド基などである。
【0064】
光照射のみにより、もしくは光照射及び加熱により架橋し得る末端構造Wは、具体的には、例えば以下のような方法で導入することができる。例えば、ケイ皮酸を末端構造Wに導入するには、ケイ皮酸クロリドとポリイミドのアミン末端を反応させることにより可能である。例えば、マレイミド基を末端構造Wに導入するには、無水マレイン酸とポリイミドのアミン末端を反応させることにより可能である。
【0065】
光塩基発生剤(A)に由来する塩基の存在下で光照射のみにより、もしくは光照射及び加熱により架橋し得る官能基とは、アミンと該官能基で架橋構造を形成し得るもの、又はアミンが触媒となり該官能基同士で架橋を形成し得るものである。具体的には、例えば、カルボキシル基、エチレン性不飽和二重結合、アセチレン性不飽和結合、などである。
【0066】
光塩基発生剤(A)に由来する塩基の存在下で光照射のみにより、もしくは光照射及び加熱により架橋し得る末端構造Wとしては、具体的には例えば、式(11)又は式(12)又は式(13)などが挙げられる。
【化15】

【化16】

(式中Rはb若しくはβで表される2価の有機基である。)
【化17】

(式中Rはエチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和結合を含有する2価の有機基である。)
【0067】
式(11)中のRは、3価の芳香族又は脂肪族からなる有機基であり、アミン末端をトリカルボン酸無水物により末端封止することで導入することができる。トリカルボン酸無水物とは、例えば、無水トリメリト酸、ヘキサヒドロ無水トリメリト酸である。
【0068】
式(12)中のRは、2価の芳香族又は脂肪族からなる有機基であり、酸無水物末端をカルボキシル基とアミノ基を同一分子内に持つ化合物により末端封止することで導入することができる。このような化合物とは、例えば、アミノ酸やアミノ安息香酸類などである。アミノ酸とは、例えばアルファ炭素上の置換基が水素、又はアルキル基であるグリシン、アラニン、パリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン;アルファ炭素上の置換基が水酸基を含むセリン、トレオニン、チロシン;アルファ炭素上の置換基がS原子を含むシステイン、メチオニン;さらにカルボキシル基を2つ有するアスパラギン酸、グルタミン酸である。アミノ安息香酸類とは、o−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸などである。
【0069】
式(13)中のRは、エチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和結合を含有する2価の有機基である。エチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和結合は、エチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和結合を含有する酸無水物でポリイミドを末端封止することにより導入することができる。エチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和結合を含有する酸無水物とは、無水マレイン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、シクロヘキセンジカルボン酸無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−フェニルエチルフタル酸無水物などである。
【0070】
末端構造Wがない場合は、ジカルボン酸無水物でポリイミド末端を封止しても良い。この際に用いられるジカルボン酸無水物とは、例えば、無水フタル酸、フェニルエチルフタル酸無水物、無水コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、メチルノルボルナンジカルボン酸無水物、などである。
【0071】
本発明の感光性樹脂組成物は、さらに光増感剤(C)を含んでいても良い。光増感剤を含むと、光塩基発生剤の分解が促進でき、露光量の低減が可能になる。光増感剤(C)としては特に制限はなく、公知の光増感剤を用いることができる。例えば、芳香族物アジド類として、アジドアントラキノン、アジドベンザルアセトフェノンなど;クマリン化合物のクマリン、ケトクマリン、3,3’−カルボニルビス(ジエチルアミノクマリン)など;芳香族ケトン類として、ベンズアントロン、フェノントレンキノン、ベンジル、ベンゾフェノン、p,p’−テトラメチルジアミノベンゾフェノンなど;芳香族アミン類として、N−フェニルジエタノールアミン、N−フェニルグリシン、p−ニトロアニリン、2,4−ジニトロアニリン、2−クロロ−4−ニトロアニリン、2,6−ジニトロ−4−ニトロアニリン、ミヒラ−ケトンなど;チオキサントン化合物として、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン;芳香族炭化水素類として、アントラセン、ナフタレン、ジフェニル、p−ニトロジフェニル;キノン類として、アントラキノン、ナフトキノン、ベンゾキノンなどが挙げられる。
【0072】
この他、例えば特開平3−239703号公報、特開平5−289335号公報に記載された複素環を有するクマリン化合物;特開昭63−221110号公報に記載された3−ケトクマリン化合物;特開平4−221958号公報、特開平4−219756号公報に記載されたキサンテン色素;特開平6−19240号公報に記載されたピロメテン色素;特開昭47−2528号公報、特開昭54−155292号公報、特開昭56−166154号公報、特開昭59−56403号公報に記載された(p−ジアルキルアミノベンジリデン)ケトン、スチリル系色素;特開平6−295061号公報に記載されたジュロリジル基を有する増感色素;特開平11−326624号公報に記載のジアミノベンゼン化合物などを挙げることができる。なかでも300〜450nm付近に吸収を持つ化合物が好ましく、具体的にはベンゾフェノン類、クマリン化合物、チオキサントン化合物、芳香族ケトン類、ミヒラ−ケトン類が好ましい。 用いる光増感剤の量は特に制限はないが、感光性や硬化後の樹脂の機械的特性を考慮して、可溶性ポリイミド100重量部に対して1重量部から50重量部配合することが好ましい。さらに好ましくは3重量部から30重量部である。
【0073】
本発明の感光性樹脂組成物は、さらにアミド化触媒(D)を含んでいてもよい。アミド化触媒を含むと、発生したアミンと可溶性ポリイミド中のカルボキシル基との反応が促進されるため、露光、現像後の加熱温度を低下させることが可能である。
【0074】
アミド化触媒(D)としては、例えば、可溶性ポリイミド中のカルボキシル基と活性エステルを形成する化合物、又はカルボキシル基の求電子性を高めることができる化合物を用いることができる。このような化合物として例えば、ボロキシン化合物、N−ヒドロキシ化合物、3級アミン、リン酸エステル、アミン塩、ウレア化合物、有機酸、ルイス酸、などが挙げられる。ボロキシン化合物としては、2,4,6−トリス−(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボロキシン、2,4,6−トリス−(3−ニトロフェニル)ボロキシン、2,4,6−トリス−(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボロキシン、2,4,6−トリス−(4−トリフルオロメチルフェニル)ボロキシンなどである。
【0075】
N−ヒドロキシ化合物としては、例えば、N−ヒドロキシベンゾトリアゾ−ル、N−ヒドロキシスクシイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、N−ヒドロキシピペリジンなどである。3級アミンとしては例えば、トリエチルアミン、ピリジン、4,4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネンなどである。リン酸エステルとしては例えば、(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)−フォスフォニックジフェニルエステルなどである。アミン塩としては、例えば、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリウムクロリド、ジアザビシクロウンデセンのp−トルエンスルホン酸塩、フェノール塩、オクチル酸塩、ギ酸塩、フタル酸塩などである。ウレア化合物としては例えば、N、N−ジメチルウレア誘導体、同一分子中にウレタン基を含有するウレア化合物などである。有機酸としては例えば、ベンゼンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フェノールなどである。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体などである。なかでもボロキシン化合物が好ましい。
【0076】
用いるアミド化触媒の量は特に制限はないが、感光性や硬化後の樹脂の機械的特性を考慮して、可溶性ポリイミド100重量部に対して1重量部から20重量部配合することが好ましい。より好ましくは2重量部から10重量部である。
【0077】
本発明の感光性樹脂組成物には、公知の添加剤を必要に応じて添加することができる。具体的には、密着性向上剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、可塑剤、ワックス類、充填剤、顔料、染料、発泡剤、消泡剤、脱水剤、帯電防止剤、抗菌剤、防カビ剤、難燃剤、レベリング剤、分散剤、ラジカル重合開始剤、エチレン性不飽和化合物などである。
【0078】
本発明の感光性樹脂組成物は、溶液の状態で用いても良いが、フィルムを形成する事が好ましい。フィルムを形成する際は、光塩基発生剤(A)、ポリイミド(B)、必要に応じて光増感剤(C)及び必要に応じてアミド化触媒(D)を任意の溶剤中にて混合後、任意の方法で乾燥することにより得ることができる。
【0079】
本発明の樹脂組成物で構成されたフィルムは、キャリアフィルムを具備する積層フィルムに加工することができる。また、前記積層フィルムはカバーフィルムを具備していても良い。
【0080】
キャリアフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムや金属フィルムなどの任意のキャリアフィルムを用いることができる。
【0081】
カバーフィルムは、例えば、低密度ポリエチレンフィルムなど任意の防汚用のフィルムや保護用のフィルムを用いることができる。
【0082】
本発明の感光性樹脂組成物を用いて、回路基板を製造することが可能である。回路基板を製造する工程は、少なくとも配線を有する基材上に樹脂組成物層を積層する工程と、前記樹脂組成物層にパターン露光を行う工程と、前記パターン露光後の樹脂組成物層に対してアルカリ水溶液を用いて現像処理を行う工程と、現像後にキュアする工程を具備する。配線を有する基材とは、例えば、ガラスエポキシ基板、ガラスマレイミド基板などの硬質な基材、あるいはポリイミドフィルムなどのフレキシブルな基材などの任意の基材上に配線を有するものである。
【0083】
中でも特に、本発明の感光性樹脂組成物は、フレキシブルな基材上に配線を有するフレキシブルプリント配線板のカバーレイとして好適に用いることができる。
【0084】
フレキシブルプリント配線板の基板としては、ポリイミドフィルムなどのフレキシブルな基材を用いることができる。本発明の感光性樹脂組成物を用いてフレキシブルプリント配線板のカバーレイとする場合は、例えば本発明の感光性樹脂組成物を溶剤に溶解させてなる塗工液を、配線を有する基材上に塗布したり、この塗工液を乾燥してなる、いわゆるフィルム、又は積層フィルムに加工して、基材上に貼付することができる。
【0085】
塗工液を調製する場合は、例えば、溶剤を使用して調製することができる。溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトンなどの一般的な有機溶剤を用いることが可能である。また、塗工液には合成したポリイミド溶液をそのまま用いることができる。
【0086】
本発明の感光性樹脂組成物を含む塗工液を、配線を有する基材上に塗布する方法としては、例えば浸漬法、キャスティング法、スプレー法、スクリーン印刷法、回転塗布法などの方法が挙げられる。このような方法で、配線を有する基材上に塗工液を塗布し、溶剤の大部分を加熱乾燥することにより配線を有する基材上にカバーレイを形成する。このようにして、配線を有する基材と、この配線を覆うように前記基材上に形成され、本発明の感光性樹脂組成物で構成されたカバーレイと、を具備するフレキシブルプリント配線板を作製することができる。
【0087】
フィルム又は積層フィルムを作製する場合は、上記塗工液をポリエチレンテレフタレートフィルムや金属フィルムなどの任意のキャリアフィルム上に任意の方法で塗布し、その後乾燥させてドライフィルム化する。このようにして、キャリアフィルムとドライフィルムとを含む積層フィルムとすることができる。また、ドライフィルム上に、低密度ポリエチレンフィルムなど任意の防汚用のフィルムや保護用のフィルムなどのカバーフィルムを少なくとも1層設けて積層フィルムとしても良い。また、上記積層フィルムよりキャリアフィルム及び/又はカバーフィルムを剥離し、フィルムとしても良い。
【0088】
本発明の感光性樹脂組成物で構成されたドライフィルムを、配線を有する基材上に熱ラミネート法、熱プレス法、熱真空ラミネート法など任意の方法でラミネートする。このようにして、配線を有する基材と、この配線を覆うように前記基材上に形成され、本発明の感光性樹脂組成物で構成されたカバーレイと、を具備するフレキシブルプリント配線板を作製することができる。
【0089】
これらの方法によって形成されたカバーレイの膜厚には特に制限はないが、回路特性などの点から、4〜50μmであることが好ましく、6〜40μmであることがより好ましく、10〜30μmであることが特に好ましい。
【0090】
感光性フィルムを該カバーレイとして用いる場合は、少なくとも配線を有する基材上に樹脂組成物層を形成する工程と、前記樹脂組成物層にパターン露光を行う工程と、前記パターン露光後の樹脂組成物層に対してアルカリ水溶液を用いて現像処理を行う工程と、を具備することが好ましい。
【0091】
本発明の感光性樹脂組成物は、光照射のみにより、又は光照射及び加熱により、照射部と未照射部との間で溶解度差又は/及び溶解速度差を生じてアルカリ水溶液で現像が可能であるネガ型感光性樹脂組成物であるので、この感光性樹脂組成物で構成されたカバーレイに、所望のパターンが描かれたネガ型のマスクを通して光照射した後、必要に応じて加熱する。
【0092】
次いで、未露光部を適当なアルカリ現像液で溶解除去した後、ポストキュアをすることにより、所望のパターンを作製する。これにより、従来機械的に打ち抜いていたフレキシブルプリント配線板のカバーレイを光により加工することができる。
【0093】
光照射に用いる光源は特に制限はないが、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、タングステンランプ、アルゴンレーザー、ヘリウムカドミウムレーザーなどが挙げられる。中でも波長が200nmから500nmの光を効率的に照射できる高圧水銀灯、超高圧水銀灯、が好ましい。
【0094】
光照射後、現像前に加熱する際の温度は現像性の観点から160℃以下が好ましい。加熱は、空気雰囲気下、窒素雰囲気下のいずれで行っても良い。また、加熱方法としては特に制限はないが、オーブン、焼成炉、ホットプレートなどを用いて行うことができる。
【0095】
現像に用いるアルカリ水溶液としては特に制限はないが、例えば炭酸ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液などが挙げられる。現像方法としては特に制限はないが、例えば浸漬現像、パドル現像、スプレー現像などが挙げられる。
【0096】
ポストキュアの温度としては、基材上の配線を傷めない観点より、100℃以上200℃以下が好ましい。より好ましくは120℃以上180℃以下である。ポストキュアは、空気雰囲気下、窒素雰囲気下のいずれで行っても良い。また、ポストキュア方法としては特に制限はないが、オーブン、焼成炉、ホットプレートなどを用いて行うことができる。
【0097】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態における数値や成分についてこれに限定されず、適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、アルカリ現像可能なフォトリソグラフィーを利用したパターニング工程に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光塩基発生剤(A)と可溶性ポリイミド(B)とを含有する感光性樹脂組成物であって、前記光塩基発生剤(A)は、式(1)で表されるアシルオキシイミノ基を含有する化合物、及び/又は式(2)で表されるカルバモイルオキシイミノ基を含有する化合物を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xは−(CH−基、脂環式基、アリーレン基、−(CH−基と脂環式基とが結合したもの、−(CH−基とアリーレン基とが結合したもの、から選択され、nは2〜7の整数、Rは芳香族基又は置換アルキル基である)
【化2】

(式中、Yは−(CH−基、脂環式基、アリーレン基、−(CH−基と脂環式基とが結合したもの、−(CH−基とアリーレン基とが結合したもの、から選択され、mは2〜7の整数、Rは芳香族基又は置換アルキル基である)
【請求項2】
前記感光性樹脂組成物は、光照射のみにより、又は光照射及び加熱により、照射部と未照射部との間で溶解度差又は/及び溶解速度差を生じてアルカリ水溶液で現像が可能であるネガ型感光性樹脂組成物であることを特徴とする請求項1記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記可溶性ポリイミド(B)が式(3)で表される繰り返し単位を含む可溶性ポリイミドであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の感光性樹脂組成物。
【化3】

(式中αは4価の有機基、βは少なくとも1以上のカルボキシル基を有する2価の有機基、bは2価の有機基である。複数あるαはそれぞれ同じでも異なっていても良い。xは1以上の整数を表し、yは0以上の整数を表す)
【請求項4】
前記可溶性ポリイミド(B)がシリコーン鎖を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記感光性樹脂組成物は、前記可溶性ポリイミド(B)が、光照射のみにより、もしくは光照射及び加熱により架橋し得る官能基をもつ末端構造Wを有する、式(4)で表されることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の感光性樹脂組成物。
【化4】

(式中のα、β、b、x、yは式(3)と同じである)
【請求項6】
前記感光性樹脂組成物は、さらに光増感剤(C)を含有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記感光性樹脂組成物は、さらにアミド化触媒(D)を含有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の感光性樹脂組成物で構成されたことを特徴とするフィルム。
【請求項9】
キャリアフィルムと、前記キャリアフィルム上に設けられた請求項8記載のフィルムと、を具備することを特徴とする積層フィルム。
【請求項10】
前記フィルム上に形成されたカバーフィルムを具備することを特徴とする請求項9記載の積層フィルム。
【請求項11】
請求項8記載のフィルム、又は請求項9若しくは請求項10記載の積層フィルムを用いて構成されたカバーレイを具備することを特徴とする回路基板。
【請求項12】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の感光性樹脂組成物を用いて、少なくとも、配線を有する基材上に樹脂組成物層を形成する工程と、前記樹脂組成物層にパターン露光を行う工程と、前記パターン露光後の樹脂組成物層に対してアルカリ水溶液を用いて現像処理を行う工程と、現像処理後の樹脂組成物層をキュアする工程と、を具備することを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項13】
少なくとも、請求項8に記載のフィルム、又は請求項9若しくは請求項10記載の積層フィルムを、配線を有する基材上にラミネートして樹脂組成物層を形成する工程と、前記樹脂組成物層にパターン露光を行う工程と、前記パターン露光後の樹脂組成物層に対してアルカリ水溶液を用いて現像処理を行う工程と、を具備することを特徴とする回路基板の製造方法。

【公開番号】特開2008−3582(P2008−3582A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135569(P2007−135569)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】