説明

感光性組成物及び平版印刷版

【課題】本発明は、赤外光のレーザーによる走査露光に対し、高感度で、かつセーフライト耐性及び耐刷性に優れたネガ型感光性組成物、及びこれを利用した平版印刷版を提供することを課題とする。
【解決手段】ラジカルを発生する化合物、ビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有する重合体、分子内にビニル基が置換したフェニル基を2個以上有するモノマー、及び下記化1で表される増感色素を含有することを特徴とする感光性組成物。
化1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネガ型の感光性組成物に関する。用途としては、感光性樹脂、印刷版、インキ、塗料、接着剤、架橋剤、光学レンズ材料、光ファイバーコーティング、三次元造形、ホログラフィー記録材料、プリント配線板やIC等の電子材料に利用可能な感光性組成物に関する。更に、レーザー等の走査露光による画像形成が可能な前記感光性組成物に関する。更に、前記感光性組成物を利用した平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線に感応し、照射部に於いて架橋反応が進行する光架橋システムは、その機構から大別して光ラジカル系と光カチオン系に分けられる。光ラジカル系としては主にアクリレート類と光ラジカル発生剤との組み合わせによる系が主流であり、室温硬化性が良好で、硬化速度が速いことが特徴の一つであるが、一方で、十分な光照射を行っても重合反応率が100%に達せず、残存するアクリレートモノマーによる硬化物物性への悪影響や、硬化物からのアクリレートモノマーのブリード、及び強アルカリ条件での硬化物の加水分解による劣化などの種々の問題を抱えている。
【0003】
これに対して光カチオン系に於いては、ヨードニウム塩やスルホニウム塩等のオニウム塩系光カチオン発生剤等を利用して、エポキシ系化合物のカチオン開環重合あるいはビニルエーテル類のカチオン重合を利用する等の方法で同様な光架橋システムが構築されている。この場合の最大の利点は酸素による重合阻害を受けない点であり、空気中の硬化反応に利用されている。欠点としては、硬化速度が低い場合が多く、また架橋反応を進行させるために放射線照射後に加熱処理(ポストキュア)が必要であることや、塩基性物質が存在すると重合阻害を受けること等の問題があった。
【0004】
更に、半導体レーザーの著しい進歩によって700〜1300nmの近赤外レーザー光源を容易に利用出来るようになった事に伴い、該レーザー光に対応する感光性材料及び感光性平版印刷版が注目されている。
【0005】
上記可視光〜近赤外光に感光性を有する光重合性組成物として、特開平9−134007号公報にはエチレン性不飽和結合を有するラジカル重合可能な化合物と400〜500nmに吸収ピークを持つ光増感色素と重合開始剤とを含有する平版印刷版材料が開示され、特開昭62−143044号、同昭62−150242号、同平5−5988号、同平5−194619号、同平5−197069号、同2000−98603号公報等には、有機ホウ素アニオンと色素との組み合わせが開示され、特開平4−31863号、同平6−43633号公報には色素とs−トリアジン系化合物との組み合わせが開示され、特開平7−20629号、同平7−271029号公報にはレゾール樹脂、ノボラック樹脂、赤外線吸収剤及び光酸発生剤の組み合わせが開示され、特開平11−212252号、同平11−231535号公報には特定の重合体と光酸発生剤と近赤外増感色素の組み合わせが開示されている。
【0006】
また、ビニル基が置換したフェニル基を2個以上有する重合性モノマー及びそれを用いた感光性組成物が知られており、例えば、特開平2−53783号公報(特許文献1)、特開2001−290271号公報(特許文献2)、特開2003−26744号公報(特許文献3)に記載されている。
【0007】
また、重合性モノマーとして、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、ビニルピリジン等の含窒素不飽和モノマーを光硬化性組成物に用いることが、特開平11−106413号公報(特許文献4)に記載されている。また、エチレン性不飽和基を有する光重合性化合物としてN−ビニルピロリドンを用いることが、特開平8−297364号公報(特許文献5)に記載されている。
【0008】
上述した感光性組成物を利用した平版印刷版において、近赤外半導体レーザー対応の印刷版は、白色蛍光灯下または黄色セーフライト下で取り扱われることが可能となる。この暗所作業を必要としないハンドリングの容易さが該印刷版の長所の一つとされているが、前記先行技術に記載されている増感色素の中で実用性が高いとされている増感色素は、増感効率が高いが故に、上記セーフライトに対しても極めて僅かながら分光増感作用を示すため、長時間のセーフライト暴露に対しては、これらの増感色素のセーフライトに対する耐性(以下セーフライト耐性と記す)は必ずしも満足できるレベルではなかった。中でも前記特開2001−290271号公報(特許文献2)などに記載の感光性組成物を利用した平版印刷版は、特に高感度であるためにセーフライト耐性が問題となる場合が多かった。一方、上記セーフライト耐性に問題のない色素は増感効率が低いものが多く、結果として露光により形成される画像の強度が低下し、印刷版の耐刷性に悪影響を及ぼすものがほとんどであった。よって、上記諸事情を解決できるセーフライト耐性と耐刷性を同時に満足する増感色素が切望されていた。
【0009】
一方、特開平11−258800号公報(特許文献6)には、アルカリ可溶性ポリマー(実質的にはフェノール樹脂のみについての記載)、近赤外線吸収剤、潜在性ブレンステッド酸および特定のピリジニウム塩からなるネガ型感光性組成物が開示されている。該公報においては、近赤外線吸収剤の具体例として、3位にスピロ環を有する3H−インドールから誘導される色素が例示されているが、これらの増感色素を用いた場合のセーフライト耐性や耐刷性に対する影響は記載されていない。また、該公報の感光性組成物は、実質的にフェノール樹脂の架橋を利用した感光性組成物であるため、前記特開2001−290271号公報(特許文献2)などに述べられているような、ビニル基のラジカル重合を利用した感光性組成物については記載されていない。従ってこれら特定構造の増感色素が、ビニル基のラジカル重合を利用した感光性組成物のセーフライト耐性および耐刷性に及ぼす影響については、全く予測できるものではなかった。
【特許文献1】特開平2−53783号公報
【特許文献2】特開2001−290271号公報
【特許文献3】特開2003−26744号公報
【特許文献4】特開平11−106413号公報
【特許文献5】特開平8−297364号公報
【特許文献6】特開平11−258800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、赤外光のレーザーによる走査露光に対し、高感度で、かつセーフライト耐性及び耐刷性に優れたネガ型感光性組成物、及びこれを利用した平版印刷版を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に記載の感光性組成物を用いることによって上記課題を基本的には解決できることを見出した。
1)ラジカルを発生する化合物、ビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有する重合体、分子内にビニル基が置換したフェニル基を2個以上有するモノマー、及び下記化1で表される増感色素を含有することを特徴とする感光性組成物。
【0012】
【化1】

【0013】
式中、Z1、Z2は環状構造を完成させるのに必要な原子群を表す。V1、V2は置換基または縮環構造を表す。R1、R2は脂肪族基を表す。Lはシアニン構造を完成させるのに必要な共役メチン構造を表す。X-は対アニオンを表す。
【0014】
2)走査露光用である上記1)に記載の感光性組成物。
3)近赤外レーザーによる露光用である上記1)または2)に記載の感光性組成物。
4)上記1)〜3)のいずれか1つに記載の感光性組成物を利用した平版印刷版。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、赤外光のレーザーによる走査露光に対し、高感度で、かつセーフライト耐性及び耐刷性に優れたネガ型感光性組成物を提供すること、及びこれを利用した平版印刷版を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に用いられる増感色素について、以下に詳細に述べる。前記化1の式中、Z1、Z2は環状構造を完成させるのに必要な原子群を表す。この環状構造とは、具体的には、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などにより構成される3員環以上の環状構造を意味しており、中でも4〜10員環が好ましい。そして特に5〜7員環の炭化水素環(例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘプタン環など)、及び複素環(例えばピペリジン環、テトラヒドロピラン環など)が好ましい。なおこれらの環には、当業界で周知の置換基を有していても良い。
【0017】
1、V2は置換基または縮環構造を表す。この置換基の具体例としては、脂肪族基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−オクチル基などのアルキル基、アリル基、ブテニル基などのアルケニル基、プロパルギル基などのアルキニル基、ベンジル基などのアラルキル基など)、芳香族基(例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基など)、複素環基(例えば、フリル基、チエニル基など)、オキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基などのアリールオキシ基、ヒドロキシ基など)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基などがある。また以上述べた置換基としてのV1、V2は必ずしも存在していなくても良い。また縮環構造の例としては、ベンゾ縮環、ナフト縮環、フラン縮環などがある。そして以上述べた置換基および縮環構造上には、さらに当業界で周知の置換基を有していても良い。
【0018】
1、R2は脂肪族基(前述のV1、V2の脂肪族基の場合に同義)を表す。Lはシアニン構造を完成させるのに必要な共役メチン構造を表す。この共役メチン構造の具体例としては、下記化2で表されるものなどが挙げられる。うち好ましいものは、L−3、L−4、L−5であり、中でも特にL−3が好ましい。X-は対アニオンを表す。以上述べた増感色素の含有量は、感光性組成物の全組成物に対して0.01〜10質量%の範囲が適当であり、0.05〜5質量%の範囲が特に好ましい。
【0019】
【化2】

【0020】
以下に本発明に用いられる増感色素の具体例を示すが、もちろんこれらは本発明をなんら限定するものではない。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
上記増感色素は、公知の合成ルートに従って容易に合成することが出来る。以下に代表的な合成例を述べる。
【0025】
D−4の合成
1−エチル−2−メチル−3,3−ペンタメチレン−3H−インドリウムヨージド2.2g、N−(2,5−ジアニリノメチレンシクロペンチリデン)ジフェニルアミニウムパークロラート1.7g、2−プロパノール15mlを混合し、浴温95℃、攪拌下に無水酢酸1.3gを加え、さらに3分後にトリエチルアミン1.3gを加えた。同温にて1時間攪拌後、温時に析出晶を濾取し、フィルター上にて2−プロパノールにて洗浄後乾燥して、1.9gのD−4を得た。吸収極大806nm(メタノール溶液)。
【0026】
本発明の感光性組成物は、ラジカル発生剤を含有する。ラジカル発生剤としては公知の化合物を用いることができる。例えば、有機ホウ素塩、トリハロアルキル置換された化合物(例えばトリハロアルキル置換された含窒素複素環化合物としてs−トリアジン化合物およびオキサジアゾール誘導体、トリハロアルキルスルホニル化合物)、ヘキサアリールビスイミダゾール、チタノセン化合物、ケトオキシム化合物、チオ化合物、有機過酸化物、オニウム塩(特開2003−114532号公報に記載のヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩)等が挙げられる。これらのラジカル発生剤の中でも、特に有機ホウ素塩、トリハロアルキル置換化合物が好ましく用いられる。更に好ましくは、有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物を組み合わせて用いることである。
【0027】
有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記一般式で表される。
【0028】
【化6】

【0029】
式中、R21、R22、R23およびR24は各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R21、R22、R23およびR24の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0030】
有機ホウ素塩を構成するカチオンとしては、アルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が挙げられるが、好ましくは、オニウム塩であり、例えばテトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。また上述の有機ホウ素アニオンは、前記増感色素のカウンターアニオンであっても良い。
【0031】
【化7】

【0032】
他の好ましいラジカル発生剤として、トリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0033】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を以下に示す。
【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
上述したようなラジカル発生剤の含有量は、前記増感色素に対して、10〜1000質量%の範囲が好ましく、更に20〜500質量%の範囲が特に好ましい。
【0037】
本発明の感光性組成物は、分子内に2個以上の重合性二重結合を有する多官能重合性モノマーもしくはオリゴマーを含有するのが好ましい。かかるモノマーもしくはオリゴマーの分子量は1万以下で、好ましくは5000以下である。該化合物としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基が置換したフェニル基等の重合性二重結合を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0038】
重合性二重結合としてアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールグリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールエポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ピロガロールトリアクリレート等が挙げられる。
【0039】
重合性二重結合としてビニル基が置換したフェニル基を有する化合物は、代表的には下記一般式で表される。
【0040】
【化10】

【0041】
式中、Z3は連結基を表し、R31、R32は水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等を表す。R33は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R34は置換可能な基または原子を表す。m3は0〜4の整数を表し、k3は2以上の整数を表す。m3が2以上の場合、R34はそれぞれ同じでも異なっていても良い。
【0042】
上記一般式について更に詳細に説明する。Z3の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R35)−、−C(O)−O−、−C(R36)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR35及びR36は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0043】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらには置換基が結合していても良い。
【0044】
上記一般式で表される化合物の中でも好ましい化合物が存在する。即ち、R31及びR32は水素原子でR33は水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)で、k3は2〜10の化合物が好ましい。以下に具体例を示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0045】
【化11】

【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【0049】
【化15】

【0050】
上記したような多官能重合性モノマーもしくはオリゴマーの含有量は、前述した増感色素に対して、300〜3000質量%の範囲が好ましい。
【0051】
本発明の感光性組成物は、バインダーポリマーを含有するのが好ましい。かかるポリマーとしては、アルカリ可溶性のポリマーが好ましく、そのためにはカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として含む重合体であることが好ましい。この場合、共重合体中に於けるカルボキシル基含有モノマーの割合は、共重合体トータル組成100質量%中に対して5質量%以上99質量%以下であることが好ましく、更に10〜90質量%の範囲が好ましい。これ以下の割合では共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合がある。
【0052】
本発明に好ましく用いられるバインダーポリマーとしては、側鎖に重合性二重結合を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として含む共重合体が特に好ましい。共重合体の側鎖に重合性二重結合を導入するためのモノマーは後述するが、共重合体組成に於ける側鎖に重合性二重結合を有するモノマーの割合として、共重合体トータル組成100質量%中に対して5質量%以上95質量%以下であることが好ましく、10〜95質量%の範囲がより好ましく、更に20〜90質量%の範囲が好ましい。
【0053】
側鎖に重合性二重結合を有する重合体を得るためのモノマーとしては、例えば、ビニル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリルアミド、アリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリルアミド、1−プロペニル−(メタ)アクリレート、β−フェニルビニル−(メタ)アクリレート、α−クロロビニル−(メタ)アクリレート、β−メトキシビニル−(メタ)アクリレート、ビニル−チオ−(メタ)アクリレート等が挙げられ、また、重合性二重結合としてビニルが置換したフェニル基を有する重合体も好ましく用いられる。
【0054】
本発明に好ましく用いられる側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する重合体とは、該フェニル基が直接もしくは連結基を介して主鎖と結合したものであり、連結基としては特に限定されず、任意の基、原子又はそれらの複合した基が挙げられる。また、前記フェニル基は置換可能な基もしくは原子で置換されていても良く、また、前記ビニル基はハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等で置換されていても良い。上記した側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する重合体とは、更に詳細には、下記一般式で表される基を側鎖に有するものである。
【0055】
【化16】

【0056】
式中、Z4は連結基を表し、R41、R42は、水素素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等を表し、R43は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R44は置換可能な基又は原子を表す。n4は0又は1を表し、m4は0〜4の整数を表し、k4は1〜4の整数を表す。m4が2以上の場合、R44はそれぞれ同じでも異なっていても良い。
【0057】
上記一般式について更に詳細に説明する。Z4の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R45)−、−C(O)−O−、−C(R46)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基、及び下記化18で表される基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR45及びR46は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していても良い。
【0058】
【化17】

【0059】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。上記一般式で表される基の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものでは無い。
【0060】
【化18】

【0061】
【化19】

【0062】
【化20】

【0063】
【化21】

【0064】
上記一般式で表される基の中には好ましいものが存在する。即ち、R41及びR42が水素原子でR43が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であるものが好ましい。更に、連結基としては複素環を含むものが好ましくk4は1〜4の整数、m4は0〜4の整数、n4は0又は1であるものが好ましい。
【0065】
上記のカルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸−2−カルボキシエチルエステル、メタクリル酸−2−カルボキシエチルエステル、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン等のような例が挙げられる。
【0066】
本発明に好ましく用いられるバインダーポリマーは、上述したカルボキシル基を有するモノマー及び側鎖に重合性二重結合を有するモノマー以外にも共重合体中に他のモノマー成分を導入して多元共重合体として合成、使用することが出来る。こうした場合に共重合体中に組み込むことが出来るモノマーとして、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アミノスチレン、クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル等のメタクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アリールエステル或いはアルキルアリールエステル類、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基を有するメタクリル酸エステル類、メタクリル酸−2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸−2−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有メタクリル酸エステル類、或いはアクリル酸エステルとしてこれら対応するメタクリル酸エステルと同様の例、或いは、リン酸基を有するモノマーとしてビニルホスホン酸等、或いは、アリルアミン、ジアリルアミン等のアミノ基含有モノマー類、或いは、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩、メタリルスルホン酸およびその塩、スチレンスルホン酸およびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有するモノマー類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、或いは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、或いはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを適宜共重合モノマーとして使用することが出来る。これらのモノマーの共重合体中に占める割合としては、先に述べた共重合体組成中に於ける側鎖に重合性二重結合を有するモノマーおよびカルボキシル基含有モノマーの好ましい割合が保たれている限りに於いて任意の割合で導入することが出来る。
【0067】
上記のような重合体の分子量については好ましい範囲が存在し、質量平均分子量で1000から100万の範囲であることが好ましく、さらに1万から30万の範囲にあることが特に好ましい。
【0068】
本発明に好ましく用いられる側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する共重合体の例を下記に示す。式中、数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0069】
【化22】

【0070】
【化23】

【0071】
【化24】

【0072】
【化25】

【0073】
【化26】

【0074】
上記の例以外のバインダーポリマーの例としてはフェノール性水酸基を有するポリマーが挙げられ、ポリビニルフェノール、フェノール樹脂、ポリヒドロキシベンザール等も用いる事が出来る。
【0075】
上述したバインダーポリマーの感光性組成物における含有比率は、感光性組成物の全組成物に対して10〜90質量%が適当であり、20〜80質量%の範囲が好ましく、特に30〜70質量%の範囲が好ましい。
【0076】
本発明の感光性組成物は、上述した成分以外にも種々の目的で他の成分を添加することも好ましく行われる。例えば、保存性を向上させる目的で、ヒンダードフェノール化合物やヒンダードアミン化合物を添加することが好ましく行われる。
【0077】
感光性組成物を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0078】
本発明の感光性組成物は、平版印刷版の感光層として好ましく用いることができる。この場合の感光層自体の厚みは、支持体上に0.5ミクロンから10ミクロンの範囲の乾燥厚みで形成することが好ましく、さらに1ミクロンから5ミクロンの範囲であることが耐刷性を大幅に向上させるために極めて好ましい。感光層は、公知の種々の塗布方式を用いて支持体上に塗布、乾燥される。支持体については、例えばポリエステルフィルムやポリエチレン被覆紙を使用しても良いが、より好ましい支持体は、研磨され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板である。
【0079】
上記のようにして支持体上に形成された感光層を有する材料を平版印刷版として使用する為には、これに密着露光或いはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋する事でアルカリ性現像液に対する溶解性が低下する事から、後述するアルカリ性現像液により非露光部を溶出する事でパターン形成が行われる。
【0080】
アルカリ性現像液としては、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアンモニウムハイドロキサイド等のようなアルカリ性化合物を溶解した水性現像液が良好に非露光部を選択的に溶解し、下方の支持体表面を露出出来る為極めて好ましい。更に、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種アルコール類をアルカリ性現像液中に添加する事も好ましく行われる。
【0081】
現像液には更にアニオン性の界面活性剤を含有するのが好ましく、これによって一段と溶出性が改良される。かかるアニオン性界面活性剤としては、高級脂肪酸硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられるが、これらの中でもアルキルナフタレンスルホン酸塩が好ましい。アニオン性界面活性剤の含有量は、現像液1リットル当たり1〜50gの範囲が好ましく、特に3〜30gの範囲が好ましい。
【0082】
上記したアルカリ性現像液を用いて現像処理を行った後に、アラビアガム、デキストリン類等を使用して通常のガム引きが好ましく行われる。
【0083】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、その効果はもとより本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0084】
下記組成の感光性組成物の塗液を作製した。次いで該塗液を、厚みが0.24mmの砂目立て処理及び陽極酸化処理を施したアルミニウム板上に、乾燥厚みが2.0μmになるよう塗布し、75℃で5分間乾燥を行い、試料を作製した。
<塗液>
バインダー樹脂(前記P−1:質量平均分子量約5万) 6.0質量部
光重合開始剤(前記BC−6) 1.0質量部
光重合開始剤(前記T−4) 0.2質量部
重合性モノマー(前記C−5) 1.5質量部
増感色素(前記本発明の色素および下記比較色素) 0.3質量部
ベーシックブルー7 0.1質量部
1,4−ジオキサン 45.0質量部
【0085】
【化27】

【0086】
【化28】

【0087】
上記で得られた試料の平版印刷版としての印刷性能を評価した。830nmに発光する半導体レーザーを搭載したイメージセッター[大日本スクリーン製造(株)製、PTR−4000]を使用して、2400dpi、ドラム回転速度1000rpm、版面露光エネルギー70mJ/cm2で露光を行った。露光後、メタ珪酸ナトリウムを0.7質量%含有する水溶液を現像液として30℃で20秒間現像を行い、オフセット印刷機[リョービ(株)製;Ryobi560]に取り付け、インキ[大日本インキ化学工業(株)製;FINE INKニューチャンピオン墨(N)]及び湿し水[(株)日研化学研究所製;アストロマークIIIの1%水溶液]を用いて印刷を行った。その結果を表1に示す。なお表1における耐刷性とは、〜15万枚:○、〜7万枚:△、3万枚以下:×の3段階評価である。なお比較色素CD−1、CD−3およびCD−5〜7を使用したサンプルは、感度不足によると思われる画像部の欠陥が、耐刷試験前のサンプルにおいて観察された。また、セーフライト耐性を以下の方法にて評価した。ナショナル製UVカット蛍光灯K−40Aを用いて、23℃50%RHの環境で、照度約400ルクスの条件下に上記試料を1時間暴露し、その後上記と同様の露光および現像処理を行って、暴露なしのフレッシュサンプルからの非画像部の濃度変化を、マクベス反射濃度計RD−918を用いて比較した。なお表1におけるセーフライト耐性とは、○:濃度上昇0.01未満、△:同0.01以上〜0.03未満、×:0.03以上の3段階評価である。結果を、あわせて表1に示す。
【0088】
【表1】

【実施例2】
【0089】
実施例1のバインダー樹脂に代えて前記P−3を、そして重合性モノマーとして前記C−15を使用した以外は同様の試験を実施したところ、実施例1と同様の結果が得られた。
【0090】
上記実施例の結果より明らかなように、本発明の感光性組成物は、高感度でかつセーフライト耐性に優れていることが分かる。また該感光性組成物を平版印刷版として使用した場合には、近赤外レーザーによる走査露光に対しても十分高感度であり、またセーフライト耐性および耐刷性のいずれの特性も良好な感光性組成物が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の活用例としては、感光性樹脂、印刷版、インキ、塗料、接着剤、架橋剤、光学レンズ材料、光ファイバーコーティング、三次元造形、ホログラフィー記録材料、プリント配線板やIC等の電子材料への応用が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカルを発生する化合物、ビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有する重合体、分子内にビニル基が置換したフェニル基を2個以上有するモノマー、及び下記化1で表される増感色素を含有することを特徴とする感光性組成物。
【化1】

式中、Z1、Z2は環状構造を完成させるのに必要な原子群を表す。V1、V2は置換基または縮環構造を表す。R1、R2は脂肪族基を表す。Lはシアニン構造を完成させるのに必要な共役メチン構造を表す。X-は対アニオンを表す。
【請求項2】
走査露光用である請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項3】
近赤外レーザーによる露光用である請求項1または2に記載の感光性組成物。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれか1つに記載の感光性組成物を利用した平版印刷版。

【公開番号】特開2007−121450(P2007−121450A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310279(P2005−310279)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】