説明

成形同時加飾用シートおよびこれを用いた加飾成形品の製法

【課題】微細な凹凸模様の加飾成形品を製造する際に用いる加飾用シートであって、それ自身を製造する際は勿論のこと、該シートを用いて加飾成形品を製造する際に熱や圧力を受けたときでも、また、絞りの深い形状の製品に微細な凹凸模様を形成する場合でも、微細な凹凸が変形したり消失したりすることなく設計通りの凹凸を確実に形成することのできる加飾用シートを提供すること。
【解決手段】基材シートの片面に加飾層が形成された加熱成形可能な成形同時加飾用のシートであって、基材シートの加飾層形成面とは反対側の面がエンボス加工され、該エンボス加工面の凹凸が水溶性樹脂層で埋められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品(例えば、コンソールパネルやスイッチパネルなど)や電気製品などの加飾部品(例えば、携帯電話や各種調理器具の入力パネルなど)の製造に使用する成形同時加飾用シートと、これを用いた加飾成形品の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や電気製品などに用いられる加飾成形品は、一般に絞りの深い形状の製品が多いことから、通常、加熱成形によって絞り加工された加飾用シートが用いられている。そして最近では、深絞り性や外観の意匠性だけでなく、表面に触れたときの触感を高めるため微細な凹凸を形成しようとする要望も強くなっている。こうした要望に沿うべく表面に微細な凹凸を形成した加飾用シートとしては、例えば特許文献1に記載されている様な、エンボス加工により表面に凹凸を形成した化粧用シートが知られている。
【0003】
しかし、この特許文献1に記載されたエンボス加工技術は、表面の熱可塑性樹脂フィルムを熱加工して凹凸を設ける方法であるため、微細な凹凸になると、加熱成形する際の熱で表面の熱可塑性樹脂フィルムが軟化し、せっかく形成した微細な凹凸が変形したり消失したりする問題があった。また、加飾用シートの加熱成形時に凹凸を維持できたとしても、その後で受ける成形同時加飾時の熱と圧力で凹凸が変形したり消失し、設計通りの表面凹凸を得ることができない。そのため上記特許文献1に記載の化粧用シートは、絞りの深い形状の製品を製造するための加飾用シートとしては使用できなかった。
【特許文献1】特開2005−081676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の様な従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、微細な凹凸模様の加飾成形品を製造する際に用いる加飾用シートであって、それ自身を製造する際は勿論のこと、該シートを用いて加飾成形品を製造する際に熱や圧力を受けたときでも、また、絞りの深い形状の製品に微細な凹凸模様を形成する場合でも、微細な凹凸が変形したり消失したりすることなく設計通りの凹凸を確実に形成することのできる加飾用シートを提供し、更には、該加飾用シートを用いた加飾成形品の製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決することのできた本発明の加飾用シートは、基材シートの片面に加飾層が形成された加熱成形可能な成形同時加飾用シートであって、基材シートの加飾層形成面とは反対側の面がエンボス加工され、該エンボス加工面の凹凸が水溶性樹脂層で埋められているところに要旨を有している。
【0006】
本発明に係る成形同時加飾用シートにおける上記水溶性樹脂層は、量産を図るため押出成形法によって形成することができ、また、成形同時加飾用シートの前記加飾層は、基材シートをエンボス加工した後に形成するのがよい。
【0007】
更に本発明の製法は、上記の成形同時加飾用シートを用いて加飾成形品を製造するための有用な方法として位置付けられる発明であり、第1の製法は、上記の成形同時加飾用シートを加熱成形する工程、加熱成形した該加飾用シートの不要部分を切除する工程、該加飾用シートにおける水溶性樹脂層を成形金型の内壁面側にして該加飾用シートを成形金型内に装入配置する工程、成形金型内に成形用樹脂を射出して成形する工程、成形金型から該加飾成形品を取り出す工程、取り出した該加飾成形品表面の水溶性樹脂層を水洗除去する工程、を順次実施するところに特徴を有している。
【0008】
また第2の製法は、上記の成形同時加飾用シートを加熱成形する工程、該加飾用シートにおける水溶性樹脂層を成形金型の内壁面側にして該加飾用シートを成形金型内に装入配置する工程、成形金型内に成形用樹脂を射出して成形する工程、成形金型から該加飾成形品を取り出す工程、取り出した該加飾成形品の表面の水溶性樹脂層を水洗除去する工程、水溶性樹脂層が除去された成形同時加飾用シートの不要部分を切除する工程、を順次実施するところに特徴を有し、更に第3の製法は、上記の成形同時加飾用シートを加熱成形する工程、該加飾用シートの水溶性樹脂層を成形金型の内壁面側にして該加飾用シートを成形金型内に装入配置する工程、成形金型内に成形用樹脂を射出して成形する工程、成形金型から該加飾成形品を取り出す工程、取り出した該加飾成形品から成形同時加飾用シートの不要部分を切除する工程、該加飾成形品の表面の水溶性樹脂層を水洗除去する工程、を順次実施するところに特徴を有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成形同時加飾用シートは、エンボス加工面の凹凸が水溶性樹脂層で埋められているので、該シートを加熱成形する際に表面の熱可塑性樹脂フィルムが軟化しても、固化した水溶性樹脂層によって凹凸が背面側から支持され、軟化した熱可塑性樹脂の行き場がないので、凹凸が微細であっても変形したり消失したりすることがない。また、この加飾用シートを用いて成形同時加飾品を製造する際にも、成形樹脂の熱や圧力を水溶性樹脂層が吸収すると共に凹凸を支持するので、凹凸が変形したり消失したりすることもない。従って、本発明の成形同時加飾用シートは、成形同時加飾成形によって深い絞り加工を行った場合でも、成形の後で水溶性樹脂層を水洗除去することで微細な凹凸を確実に顕出させることができ、優れた感触の凹凸を有する同時加飾成形品を容易に得ることができる。
【0010】
また本発明の製法によれば、上記成形同時加飾用シートを使用し、加熱成形後に不要部分をカットしてから成形金型に装入して成形用樹脂の射出成形を行い、該成形金型から該加飾成形品を取り出した後に、該加飾成形品の表面の水溶性樹脂層を剥離除去するか、或は、加熱成形後に成形金型に装入して成形用樹脂の射出成形を行い、該成形金型から該加飾成形品を取り出した後に、加飾用シート表面の水溶性樹脂層の水洗除去と加飾用シートの不要部分の切除を行うことにより、絞りの深い成形品であっても、表面に設計通りの微細な凹凸が形成された同時加飾成形品を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の加飾用シートは、上記の様に基材シートの片面に加熱成形可能な熱可塑性樹脂シートであって、例えば図1(断面拡大説明図)に示す如く、基材シート1の片面側に加飾層2が形成されると共に、該加飾層2とは反対側の面はエンボス加工によって凹凸模様3が形成され、更に該凹凸模様3の凹凸は水溶性樹脂4で埋められている。
【0012】
ここで基材シート1の構成素材は、加熱成形で任意の形状に成形可能な熱変形性(熱可塑性)の素材であれば種類の如何は問わないが、好ましい素材としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、無延伸または低延伸のポリエステル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、無延伸または低延伸のポリオレフィン系樹脂(中でもポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂など)、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニル系樹脂の如き、熱変形の容易な熱可塑性樹脂が例示される。
【0013】
基材シート1の厚さも特に制限されないが、成形同時加飾に用いられるシートとして好ましいのは10〜1000μmの範囲である。
【0014】
該基材シート1の片面側に形成される加飾層2の具体例としては、単色もしくは2色以上の抽象柄、幾何学的な連続もしくは不連続模様柄、全面べた印刷、プライマー印刷絵柄、凹凸模様柄など、意匠性を高めるための様々の模様柄を挙げることができ、これらは基材シート1に対してグラビア印刷、スクリーン印刷、凸版印刷、インキジェット印刷、レーザー印刷など、任意の印刷法によって形成することができ、またこれらは単独印刷のほか任意の組合せで複合印刷することも可能である。
【0015】
またエンボス加工とは、基材シートの表面に任意の凹凸模様を形成する加工を言い、例えば木目導管模様、ドット模様、ヘアライン模様、ストライプ模様など、需要者の希望に応じた任意の凹凸模様を採用できる。これらの模様は、基材シート1の全面に設けてもよく、或は部分的に設けてもよい。凹凸模様3がヘアライン模様やストライプ模様の場合、好ましくは、例えば線幅0.05〜0.15mmの線状パターンで5〜200μm程度の深さに形成するのがよい。
【0016】
本発明では、上記エンボス加工部を構成する凹凸模様3を水溶性樹脂4で埋めておくことで、追って詳述する如く、該加飾用シート自体の成形時もしくは該加飾用シートを用いた同時加飾成形時における、該凹凸模様3の安定保持を図るところに最大の特徴を有している。
【0017】
即ち、凹凸模様3をそのままの状態で加熱成形した場合、該シートの加熱成形によって凹凸部分も同時に軟化し、凹凸模様3が引き伸ばされて変形したり消失し、設計通りの凹凸模様3を確保できないことがある。ところが、該凹凸模様3の外面側が水溶性樹脂4で埋められていると、加熱成形時に該凹凸模様3の部分でシート素材が軟化しても、その背面側で固化している水溶性樹脂4がシート素材の軟化流動を阻止して凹凸を保持するため、該凹凸模様3は設計通りの深さと形状に維持される。従って、同時加飾成形後に該凹凸模様3の外面側に位置する水溶性樹脂4を水洗除去してやれば、同時加飾成形品の表面には、設計通りの形状と深さの凹凸模様3を有する加飾成形品を得ることができる。
【0018】
上記エンボス加工の方法は特に制限されないが、代表的なのは次の様な方法である。即ち図2は、エンボス加工法を例示する側面説明図であり、表面に所望の凹凸模様を形成したエンボスロール5と、通常の平滑円状の表面を有するバックアップロール6を使用し、これらエンボスロール5とバックアップロール6の間に基材シート1を導き、エンボスロール5とバックアップロール6とで基材シート1を適当な温度と圧力で加熱加圧することで、エンボスロール5の表面に設けられた凹凸を基材シート1の表面に転写する例を示している。
【0019】
エンボスロール5として一般的に用いられるのは、鋼などの金属製で外周面に任意の凹凸が彫刻されたロールである。ロール外周面に凹凸を刻設する方法としては、機械加工によって凹凸を形成する方法、マスキング材とエッチング材を用いた化学的処理法などを採用することも可能であるが、様々の凹凸パターンの形成可能性や作業効率などを考慮して工業的に有用な方法は、例えば2次元方向もしくは3次元方向に制御動される高エネルギービーム(電子ビームやレーザービームなど)照射装置を使用し、設計された制御パターンで金属ロール表面に高エネルギービームを照射し、ロール表面を加熱溶融させて所定の凹凸模様を形成する方法である。即ち、該高エネルギービームを制御動させることによってロール表面に所定の凹凸模様が彫刻され、また該ビームの強度を調整することで凹凸模様の深さ等を任意に調整することができる。該凹凸模様を形成したエンボスロールには、必要によりクロムメッキ等で表面処理したり、或は炭窒化処理などの表面硬化処理を施したりすることで耐久性を高めることも有効である。
【0020】
バックアップロール6の素材も特に制限されないが、一般的なのは、鋼製ロールの表面にゴム系材料を被覆して付勢力を与えたものが好ましく使用される。ゴム系材料としては、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等の合成ゴムや天然ゴム、半合成ゴムなどが特に制限なく使用できる。
【0021】
上記エンボス加工によって形成される凹凸3を埋める様に形成される水溶性樹脂4は、前述した如く凹凸3が形成された基材シート1を加熱成形する際に、凹凸3が熱で溶融乃至軟化して変形したり平坦化して接触感が失われるのを阻止するために設けられるもので、1)固化前の状態ではエンボス部の凹凸を埋め得る流動性を有し、2)凹凸を埋めた後は、乾燥などで固化することにより硬質化して該凹凸を表面側から支持する機能を果たし、3)加熱成形後は温水などで処理することで容易に除去し得る特性を備えたものであればよく、種類の如何は特に問わない。
【0022】
しかし、工業的規模での実用性を考慮して好ましい素材は、水溶性のアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などの合成樹脂や、各種澱粉やアルギン酸ソーダ、ゼラチンなどの天然水溶性高分子、或はそれらの各種変性物などが例示される。それら合成樹脂や天然高分子、或はそれらの変性物は、固化後に加湿もしくは水と接触させることで水に可溶化するものであれば、部分的に架橋構造を有するものであっても構わない。また場合によっては、前記凹凸部の内面側に水溶性の高い薄膜を形成した後、その外面側に水に難溶性の樹脂を充填し、水溶性の高い薄膜を水溶化させることで全体を凹凸のエンボス部から剥離除去できる様にすることも可能である。
【0023】
水溶性樹脂層の厚みは、エンボスの凹部を埋めることができる厚さがあればよく、エンボスの凸部には水溶性樹脂層が形成されていなくともよい。また、エンボスの凹部の深さの半分程度を埋める厚さであってもそれなりの効果が発揮される。
【0024】
水溶性樹脂層をエンボスの凹部だけでなく凸部にも形成する場合は、凸部の頂部から100μm未満の範囲に抑えるのがよい。厚さが100μmを超えても、エンボス部の凹凸保持効果は飽和してそれ以上に優れた効果が発揮されるわけではなく、むしろ水溶性樹脂層の除去に時間がかかって生産性を低下させるからである。
【0025】
エンボス部を構成する微細な凹凸の表面側に水溶性樹脂層を形成する方法にも格別の制限はなく、例えばディップコート、リップコート、リバースコート、スクリーン印刷、押出コート法、加熱軟化コート法など、様々のコート法を採用できるが、中でも特に好ましいのは押出コート法または加熱軟化コート法である。これらの方法は、基材シートに形成された凹凸に与えるダメージが少なく且つ厚膜に形成し易いため、凹凸の隙間を埋めるのに特に適しているからである。
【0026】
成形同時加飾用シートの製法としては、例えば次の様な手順が例示されるが、勿論下記の方法に制限されるものではない。
【0027】
(1)基材シートの片面側に加飾層を形成した後、該加飾層側にゴム製の艶ロールを配置し、加飾層形成面とは反対面側に所望のエンボスロールをセットして加熱加圧することによりエンボス加工し、次いでエンボス加工面に水溶性樹脂層を形成する方法。
【0028】
(2)基材シートの片面側に鏡面艶ロール、その反対面側に所望のエンボスロールをセットし、加熱加圧してエンボス加工し、次いで、基材シートのエンボス加工面とは反対の面に加飾層を形成し、最後にエンボス加工面に水溶性樹脂層を形成する方法。
【0029】
(3)基材シートの片面側に鏡面艶ロールをセットし、その反対面側に所望のエンボスロールをセットして加熱加圧することによりエンボス加工し、次いで該エンボス加工面に水溶性樹脂層を形成した後、最後に、基材シートの水溶性樹脂層形成面とは反対側の面に加飾層を形成する方法。
【0030】
次に、本発明に係る上記成形同時加飾用シートを用いた加飾成形品の製法について説明する。
【0031】
まず第1の方法は、上記成形同時加飾用シートを所定の形状に加熱成形する工程、加熱成形した該加飾用シートの不要部分を切除する工程、該加飾用シートの水溶性樹脂層を成形金型の内壁面側にして該加飾用シートを成形金型内に装入配置する工程、成形金型内に成形用樹脂を射出して成形する工程、成形金型から該加飾成形品を取り出す工程、取り出した該加飾成形品表面の水溶性樹脂層を水洗除去する工程、を順次実施する方法である。
【0032】
即ち例えば図3の断面概略工程説明図に示す如く、上記の様にして得た成形同時加飾用シートAを適当な温度に加熱し、該シートAの加飾層2を内側(従って凹凸模様3と水溶性樹脂層4を外側)にして加熱成形用金型Bに押付け、加飾成形品の外形・寸法に応じた形状に成形する[図3(A),(B)]。次いで、冷却してから成形シートCを脱型した後、該成形シートCを打抜用金型D,Dにセットし、これら金型D,Dに設けられたカット用の凹凸E〜Eによって不要部分C’,C’を切除する[図3(C),(D),(E)]。
【0033】
不要部の切除された成形シートCは、次いで割型構造の同時加飾成形用金型F,Gの内面側に加飾層2を内空側にしてセットし、成形金型Gに設けられた射出口Gから成形用樹脂Hを注入することによって射出成形する[図3(F),(G)]。その後、樹脂Hが冷却固化してから脱型し、成形用樹脂Hの表面に成形シートCが接合一体化した同時加飾成形中間体Iを得る[図3(H)]。
【0034】
この中間体Iは、成形シートCにおけるエンボス加工面を構成する凹凸3の表面側に、先に説明した如く水溶性樹脂層4が形成されており、一連の加熱成形工程で該凹凸3が変形したり消失したりするのを阻止している。しかし、同時加飾成形の終了によって該水溶性樹脂層4の役割は終えているので、その後は同時加飾成形品の表面で一体化した成形シートCの表面を、温水洗浄もしくは超音波水洗など任意の方法で水洗し、該表面に存在する水溶性樹脂層4を洗浄除去する[図3(I)]。そうすると、図3(J)に示す如くエンボス加工の凹凸3が同時加飾成形品の表面に露出し、所定の接触感を有する成形同時加飾製品Sを得ることができる。
【0035】
第2の方法は、上記成形同時加飾用シートを所定の形状に加熱成形する工程、該加飾用シートの水溶性樹脂層を成形金型の内壁面側にして該加飾用シートを成形金型内に装入配置する工程、成形金型内に成形用樹脂を射出して成形する工程、成形金型から該加飾成形品を取り出す工程、該加飾成形品の表面の水溶性樹脂層を水洗除去する工程、水溶性樹脂層が水洗除去された成形同時加飾用シートの不要部分を切除する工程、を順次実施する方法である。
【0036】
この方法は、例えば図4の断面概略工程説明図に示す如く、成形同時加飾用シートAを適当な温度に加熱し、該シートAの加飾層2を内側(従って凹凸模様3と水溶性樹脂層4を外側)にして加熱成形用金型Bに押付け、加飾成形品の外形・寸法に応じた形状に成形する[図4(A),(B)]。次いで、冷却してから成形シートCを脱型した後[図4(C)]、該シートCを割型構造の同時加飾成形用金型F,Gの内面側に加飾層2を内空側にしてセットし、成形金型Gに設けられた射出口Gから成形樹脂Hを注入することによって射出成形する[図4(D),(E)]。その後、樹脂Hが冷却固化してから脱型し、成形用樹脂Hの表面に成形シートCが接合一体化した同時加飾成形中間体Iを得る[図4(F)]。
【0037】
この中間体Iは、成形シートCにおけるエンボス加工面を構成する凹凸3の表面側に、先に説明した如く水溶性樹脂層4が形成されており、一連の加熱成形工程で該凹凸3が変形したり消失するのを阻止している。しかし、この同時加飾成形によって該水溶性樹脂層4の役割は終えているので、その後は同時加飾成形品の表面で一体化した成形シートCの表面を、温水洗浄もしくは超音波水洗など任意の方法で水洗し、該表面に存在する水溶性樹脂層4を洗浄除去すると[図4(G)]、エンボス加工の凹凸3が同時加飾成形品の表面に露出する[図4(H)]。
【0038】
次いでこれを打抜用金型Dにセットし、金型Dに設けられたカット用の刃E,Eによって不要部分C’,C’を切除すると、所定の接触感を有する同時加飾成形品Sが得られる[図4(I),(J),(K)]。
【0039】
第3の方法は、上記成形同時加飾用シートを所定の形状に加熱成形する工程、該加飾用シートの水溶性樹脂層を成形金型の内壁面側にして該加飾用シートを成形金型内に装入配置する工程、成形金型内に成形用樹脂を射出して成形する工程、成形金型から該加飾成形品を取り出す工程、成形同時加飾用シートの不要部分を切除する工程、該加飾成形品の表面の水溶性樹脂層を水洗除去する工程、を順次実施する方法である。
【0040】
この方法は、例えば図5の断面概略工程説明図に示す如く、成形同時加飾用シートAを適当な温度に加熱し、該シートAの加飾層2を内側(従って凹凸模様3と水溶性樹脂層4を外側)にして加熱成形用金型Bに押付け、加飾成形品の外形・寸法に応じた形状に成形する[図5(A),(B)]。次いで、冷却してから成形シートCを脱型した後[図5(C)]、該シートCを割型構造の同時加飾成形用金型F,Gの内面側に加飾層2を内空側にしてセットし、成形金型Gに設けられた射出口Gから成形樹脂Hを注入することによって射出成形する[図5(D),(E)]。その後、樹脂Hが冷却固化してから脱型し、成形用樹脂Hの表面に成形シートCが接合一体化した同時加飾成形中間体Iを得る[図5(F)]。
【0041】
次いでこれを打抜用金型Dにセットし、金型Dに設けられたカット用の刃E,Eによって不要部分C’,C’を切除する[図5(G),(H),(I)]。
【0042】
この中間体は、成形シートCにおけるエンボス加工面を構成する凹凸3の表面側に、先に説明した如く水溶性樹脂層4が形成されており、一連の加熱成形工程で該凹凸3が変形したり消失するのを阻止している[図5(I)]。しかし、この同時加飾成形によって該水溶性樹脂層4の役割は終えているので、その後は同時加飾成形品の表面で一体化した成形シートCの表面を、温水洗浄もしくは超音波水洗など任意の方法で水洗し、該表面に存在する水溶性樹脂層4を洗浄除去する。そうすると、図5(J)に示す如くエンボス加工の凹凸3が製品の表面に露出し、同時加飾成形品Sを得ることができる。
【0043】
尚、上記製法を実施する際に採用される成形法としては、射出成形法が最も一般的であるが、加飾成形品の形状などによっては圧縮成形法やブロー成形法、更には真空成形法や圧空成形法などを任意に選択して採用することができる。また、加飾用シートの不要部を切除する方法としては、図示した様な圧縮カット法のほか、押出カット法やサンドブラスト法などを採用することも可能であり、水溶性樹脂層の除去法としては、温水洗浄や超音波洗浄、流水洗浄、ジェット水洗浄などが制限なく採用できる。
【0044】
更に本発明の成形同時加飾用シートは薄いフィルム乃至シート状であり、小サイズから中サイズ、大サイズに亘る様々のサイズの成形品の成形同時加飾用として様々の用途に幅広く活用することができ、場合によっては成形品の一部の加飾にも無理なく適用できる。
【0045】
特に本発明によれば、微細な凹凸模様からなるエンボス部が、該シートの製造工程や取扱い工程、更には成形同時加飾工程で受ける熱によって変形したり消失するのを確実に防止できるので、様々の製品のエンボス加工による接触感の向上に幅広く活用できる。
【実施例】
【0046】
以下、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実験例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0047】
実施例1
基材シートとして厚さ100μmのアクリル系熱可塑性樹脂フィルムを使用し、その片面に直径200mmの鋼製鏡面艶ロール、その反対面側に直径200mmのエンボスロールを配置してエンボス加工を行った。エンボスロールとしては、クロム鋼製ロールの表面に凹凸模様として、線幅0.08mm(深さ12μm)から線幅1.25mm(深さ80μm)までの線を含む木目導管模様(陰模様)を刻設したロールを使用し、該木目導管模様をアクリル系熱可塑性樹脂フィルムの片面に転写した。
【0048】
次いで、該フィルムのエンボス加工面とは反対側の面に、絵柄層としてアクリル樹脂系インキ(大日本インキ化学社製の商品名「VGS」)を用いた木目模様印刷を行った。この際、接着剤としては塩化ビニル樹脂系の接着剤(昭和高分子社製の商品名「K−2」)を使用した。
【0049】
その後、エンボス加工により成形した前記木目導管模様部の表面全域に、押出成形法によって水溶性のアクリル系樹脂(大日本インキ化学社製の商品名「CG5000」)を全面コート(押出機のダイ下温度は170〜190℃、コート厚みは80〜100μm、溶融伸長比:ダイリップ開度/コート厚みは31、ライン速度は80m/分)した後、ドクターナイフでエンボス加工面の凸部上の樹脂を掻き取り、実質的にエンボス凹部のみに水溶性樹脂層を残し、本発明の成形同時加飾用シートを得た。
【0050】
次に、上記で得た成形同時加飾用シートを用いて成形同時加飾品の成形を行った。即ち、まず、例えば前記図3などでも説明した様に、該加飾用シートを、真空成形により160℃で3秒間加熱してから真空吸引し、大気圧で所定の形状に整えてから不要部を切除する。次いでこの成形同時加飾用シートを、2分割構造の成形金型の内面側に、該加飾用シートの絵柄層をキャビティーの内空部側にして装入配置する。次いで、耐熱性アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(電気化学社製の商品名「マレッカ」)を成形温度260℃で圧入して射出成形し、室温まで冷却した後、脱型して金型から同時加飾成形品を取り出す。
【0051】
その後、60℃の水を充満させた超音波洗浄機の浴槽内に上記加飾成形品を浸漬し、2500〜3000Hzの超音波を30秒間照射することによって、エンボス部表面の水溶性樹脂層を剥離除去し、エンボス部の前記木目導管模様を露出させた。
【0052】
得られた加飾成形品は、加飾層の木目模様パターンと表面の木目導管状の凹凸模様がマッチし、本杢様の優れた外観と接触感を有するものであった。
【0053】
実施例2
基材シートとして厚さ75μmのアクリル系熱可塑性樹脂フィルムを使用し、その片面に、絵柄層として部分マスキングと真空蒸着を採用した部分アルミニウム蒸着層を形成した。次いで該蒸着層の背面側に、接着剤として塩化ビニル系樹脂(昭和高分子社製の商品名「K−2」)を使用し、バッカーシートとして厚さ1.0mmのアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂シート(筒中プラスチック社製の商品名「タフエースR」)を貼り合わせた。
【0054】
次いで、上記シートのバッカーシート貼り合せ面側に直径200mmのゴム製艶ロール、その反対面側には直径200mmのエンボスロールを配置してエンボス加工を行った。エンボスロールとしては、クロム鋼製ロールの表面に凹凸模様として、線幅0.05mm(深さ12μm)から線幅0.25mm(深さ80μm)までの線を含むヘアライン模様(陰模様)を刻設したロールを使用し、該ヘアライン模様を上記アクリル系熱可塑性樹脂フィルムの片面に転写した。
【0055】
次いで、エンボス加工により成形した前記ヘアライン模様部の表面全域に、カーテンスプレー型ホットメルト添加装置(サンツール社製)を用いてポリビニルアルコール系の水溶性樹脂(電気化学社製の商品名「デンカポバール」)をスプレーした後、スパイラルコート型ホットメルト添加装置(サンルーツ社製)を用いて上記と同じポリビニルアルコール系水溶性樹脂を、付着量が約4g/mとなる様にコートし、本発明の成形同時加飾用シートを得た。
【0056】
次に、上記で得た成形同時加飾用シートを用いて成形同時加飾品の成形を行った。即ち、上記で得た成形同時加飾用シートを120℃で2秒間加熱し、5気圧で圧縮空気成形により加圧成形してから不要部を切除する。加圧成形された該加飾用シートを、2分割構造の成形金型の内面側に、絵柄層をキャビティーの内空部側にして装入配置した後、耐熱性アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(電気化学社製の商品名「マレッカ」)を成形温度260℃で圧入して射出成形し、樹脂が室温まで冷却した後、金型から同時加飾成形品を取り出す。
【0057】
その後、得られた成形品のエンボス部表面を覆っているポリビニルアルコール系水溶性樹脂層を50℃の流水で洗い流し、エンボス部の前記ヘアライン模様を露出させることによって同時加飾成形品の製造を終えた。
【0058】
得られた成形品は、表面にリアルなヘアライン状の接触感を有する金属調の加飾製品であった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る成形同時加飾用シートを例示する一部断面説明図である。
【図2】エンボス加工の例を示す一部断面説明図である。
【図3】本発明の製法を例示する断面概略工程説明図である。
【図4】本発明の他の製法を例示する断面概略工程説明図である。
【図5】本発明の更に他の製法を例示する断面概略工程説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1 基材シート
2 加飾層
3 凹凸(エンボス部)(模様)
4 水溶性樹脂(層)
A 成形同時加飾用シート
B 成形型
C 成形シート
,D 打抜き用型
F,G 金型
H 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの片面に加飾層が形成された加熱成形可能な成形同時加飾用のシートであって、基材シートの加飾層形成面とは反対側の面がエンボス加工され、該エンボス加工面の凹凸が水溶性樹脂層で埋められていることを特徴とする成形同時加飾用シート。
【請求項2】
前記水溶性樹脂層が押出成形法により形成されたものである請求項1に記載の成形同時加飾用シート。
【請求項3】
前記請求項1または2に記載された成形同時加飾用シートを用いて加飾成形品を製造する方法であって、上記成形同時加飾用シートを所定の形状に加熱成形する工程、加熱成形した該加飾用シートの不要部分を切除する工程、該加飾用シートの水溶性樹脂層を成形金型の内壁面側にして該加飾用シートを成形金型内に装入配置する工程、成形金型内に成形用樹脂を射出して成形する工程、成形金型から該加飾成形品を取り出す工程、取り出した該加飾成形品表面の水溶性樹脂層を水洗除去する工程、を順次実施することを特徴とする成形同時加飾成形品の製法。
【請求項4】
前記請求項1または2に記載された成形同時加飾用シートを用いて加飾成形品を製造する方法であって、上記成形同時加飾用シートを所定の形状に加熱成形する工程、該加飾用シートの水溶性樹脂層を成形金型の内壁面側にして該加飾用シートを成形金型内に装入配置する工程、成形金型内に成形用樹脂を射出して成形する工程、成形金型から該加飾成形品を取り出す工程、該加飾成形品の表面の水溶性樹脂層を水洗除去する工程、水溶性樹脂層が水洗除去された成形同時加飾用シートの不要部分を切除する工程、を順次実施することを特徴とする成形同時加飾成形品の製法。
【請求項5】
前記請求項1または2に記載された成形同時加飾用シートを用いて加飾成形品を製造する方法であって、上記成形同時加飾用シートを所定の形状に加熱成形する工程、該加飾用シートの水溶性樹脂層を成形金型の内壁面側にして該加飾用シートを成形金型内に装入配置する工程、成形金型内に成形用樹脂を射出して成形する工程、成形金型から該加飾成形品を取り出す工程、成形同時加飾用シートの不要部分を切除する工程、該加飾成形品の表面の水溶性樹脂層を水洗除去する工程、を順次実施することを特徴とする成形同時加飾成形品の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−49545(P2008−49545A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226803(P2006−226803)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】