説明

成膜装置、成膜方法および記憶媒体

【課題】成膜原料として用いるCo(CO)を気相供給する際に、その分解を極力抑制して不純物の少ないCo膜を再現性よく成膜することができる成膜装置を提供すること。
【解決手段】成膜装置は、チャンバー1と、チャンバー内でウエハWを加熱するためのヒーター5と、チャンバー1外に配置された、成膜原料としてコバルトカルボニルを収容する成膜原料容器31と、成膜原料容器31から気体状のコバルトカルボニルをチャンバー1に供給するための配管43と、チャンバー1内を減圧排気する排気機構23と、成膜原料容器31から配管43を介してチャンバー1に気体状のコバルトカルボニルを供給するための手段38と、原料容器31および配管43の温度をコバルトカルボニルの分解開始温度未満に制御する温度コントローラ60と、原料容器31内にCOガスを供給する手段37とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD法によりCo膜を成膜する成膜装置、成膜方法および記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、半導体デバイスの高速化、配線パターンの微細化等に呼応して、Alよりも導電性が高く、かつエレクトロマイグレーション耐性等も良好なCuが配線として注目されており、このような用途には電解メッキが用いられている。電解メッキによるCu配線のシードとしては、埋め込み性を向上させる観点から、従来のCuからCoへの変更が検討されている。
【0003】
一方、MOS型半導体におけるソース・ドレイン電極、ゲート電極へのSiとのコンタクトに、Co膜またはNi膜を成膜した後にシリサイド化したCoSiが用いられつつある。
【0004】
Co膜やNi膜の成膜方法としては、スパッタリングに代表される物理蒸着(PVD)法が多用されていたが、半導体デバイスの微細化にともなってステップカバレッジが悪いという欠点が顕在化している。
【0005】
そこで、Co膜の成膜方法として、Coを含む原料ガスの熱分解反応や、当該原料ガスの還元性ガスによる還元反応にて基板上にCo膜を成膜する化学蒸着(CVD)法が用いられつつある。このようなCVD法により成膜されたCo膜は、ステップカバレッジ(段差被覆性)が高く、細長く深いパターン内への成膜性に優れているため、微細なパターンへの追従性が高く、Cuメッキのシード層やコンタクト層として好適である。
【0006】
CVD法によるCo膜については、成膜原料としてコバルトカルボニル(Co(CO))を用い、これをチャンバー内に気相供給してチャンバー内に配置された基板上で熱分解させる方法が発表されている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journalof The Electrochemical Society, 146(7) 2720-2724 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、Co(CO)は気化温度と分解温度が近いことから、Co(CO)を気化させてチャンバー内に供給する過程で分解反応が生じ、再現性あるCo膜の成膜が困難である。また、Co(CO)を気化させて輸送している間にCo(CO)が分解すると、分解物が配管に残り装置の信頼性が低下してしまうとともに、配位子となる部分からカーボン、酸素が分解し、それらがCo膜中に取り込まれてCo膜を汚染させてしまう。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、成膜原料として用いるCo(CO)を気相供給する際に、その分解を極力抑制して不純物の少ないCo膜を再現性よく成膜することができる成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
また、そのような成膜方法を実行するためのプログラムを記憶した記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、基板上にCo膜を成膜する成膜装置であって、基板が収容される処理容器と、前記処理容器内で基板を加熱するための加熱機構と、前記処理容器外に配置された、成膜原料としてコバルトカルボニルを収容する成膜原料容器と、前記成膜原料容器から気体状のコバルトカルボニルを前記処理容器に供給するための配管と、前記処理容器内を減圧排気する排気機構と、前記原料容器から前記配管を介して前記処理容器に気体状のコバルトカルボニルを供給するための供給手段と、前記成膜原料容器および前記配管の温度をコバルトカルボニルの分解開始温度未満に制御する制御手段と、前記原料容器内にCOガスを供給するCOガス供給手段とを具備することを特徴とする成膜装置を提供する。
【0011】
また、本発明は、基板が収容される処理容器と、前記処理容器内で基板を加熱するための加熱機構と、前記処理容器外に配置された、成膜原料としてコバルトカルボニルを収容する成膜原料容器と、前記成膜原料容器から気体状のコバルトカルボニルを前記処理容器に供給するための配管と、前記処理容器内を減圧排気する排気機構とを有する成膜装置を用いて、基板上にCo膜を成膜する成膜方法であって、前記成膜原料容器内にCOガスを供給する工程と、前記成膜原料容器内のコバルトカルボニルを気化させて前記配管を介して前記処理容器に気体状のコバルトカルボニルを供給する工程と、前記成膜原料容器内および前記配管内の温度をコバルトカルボニルの分解開始温度未満に制御する工程と、前記処理容器内に供給された気体状のコバルトカルボニルを加熱された基板上で分解させて基板上にCo膜を堆積させる工程とを有することを特徴とする成膜方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記成膜方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成膜原料容器内にCOガスを導入するとともに、成膜原料容器内および配管内の温度をコバルトカルボニルの分解開始温度未満に制御するので、コバルトカルボニルの分解を処理容器内の基板に至るまで十分に抑制することができ、再現性の高い成膜を行うことができる。また、コバルトカルボニルの分解物が不純物としてCo膜に取り込まれることが抑制され、不純物の少ないCo膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置を示す略断面である。
【図2】Co(CO)の減圧TGのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
<本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る成膜装置を示す略断面である。
この成膜装置100は、気密に構成された略円筒状のチャンバー1を有しており、その中には被処理基板である半導体ウエハWを水平に支持するためのサセプタ2が、後述する排気室の底部からその中央下部に達する円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。このサセプタ2はAlN等のセラミックスからなっている。また、サセプタ2にはヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5にはヒーター電源6が接続されている。一方、サセプタ2の上面近傍には熱電対7が設けられている。熱電対7の信号は後述する温度コントローラ60に伝送されるようになっている。そして、温度コントローラ60は熱電対7の信号に応じてヒーター電源6に指令を送信し、ヒーター5の加熱を制御してウエハWを所定の温度に制御するようになっている。なお、サセプタ2には3本のウエハ昇降ピン(図示せず)がサセプタ2の表面に対して突没可能に設けられており、ウエハWを搬送する際に、サセプタ2の表面から突出した状態にされる。
【0017】
チャンバー1の天壁1aには、円形の孔1bが形成されており、そこからチャンバー1内へ突出するようにシャワーヘッド10が嵌め込まれている。シャワーヘッド10は、後述するガス供給機構30から供給された成膜用のガスをチャンバー1内に吐出するためのものであり、その天板11には成膜原料ガスが導入されるガス導入口12が設けられている。シャワーヘッド10の内部にはガス拡散空間13が形成されており、シャワーヘッド10の底板14には多数のガス吐出孔15が設けられている。そして、ガス導入口12からガス拡散空間13に導入されたガスがガス吐出孔15からチャンバー1内に吐出されるようになっている。
【0018】
チャンバー1の底壁には、下方に向けて突出する排気室21が設けられている。排気室21の側面には排気管22が接続されており、この排気管22には真空ポンプや圧力制御バルブ等を有する排気装置23が接続されている。そしてこの排気装置23を作動させることによりチャンバー1内を所定の真空度まで減圧することが可能となっている。
【0019】
チャンバー1の側壁には、ウエハ搬送室(図示せず)との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口24と、この搬入出口24を開閉するゲートバルブGとが設けられている。また、チャンバー1の壁部には、ヒーター26が設けられており、成膜処理の際にチャンバー1の内壁を加熱することが可能となっている。ヒーター26にはヒーター電源27から給電されるようになっている。
【0020】
ガス供給機構30は、成膜原料である固体状のコバルトカルボニル(Co(CO))を貯留する成膜原料容器31を有している。成膜原料容器31の周囲にはヒーター32が設けられ、これにより成膜原料であるコバルトカルボニル(Co(CO))を加熱して気化するようになっている。ヒーター32にはヒーター電源48から給電されるようになっている。
【0021】
成膜原料容器31には、上方からガス導入配管33が挿入されている。ガス導入配管33にはバルブ34が介装されている。ガス導入配管33はCOガス配管35とキャリアガス配管36に分岐されており、COガス配管35にはCOガス供給源37が、キャリアガス配管36にはキャリアガス供給源38が接続されている。COガス配管35には流量制御器としてのマスフローコントローラ39およびその前後のバルブ40が介装されており、キャリアガス配管36には流量制御器としてのマスフローコントローラ41およびその前後のバルブ42が介装されている。キャリアガスとしてはArガスまたはNガスを好適に用いることができる。
【0022】
COガスは、気化したコバルトカルボニル(Co(CO))の分解を抑制するために導入される。すなわち、Co(CO)は分解されることによりCOを生成するが、成膜原料容器31にCOを供給してCO濃度を高くすることにより、Co(CO)が分解してCOを生成する反応が抑制される。一方、キャリアガスは成膜原料容器31内で気化して生成されたCo(CO)ガスをチャンバー1に搬送するために導入される。なお、COガスにキャリアガスの機能を持たせてもよく、その場合には別途のキャリアガスは不要である。
【0023】
成膜原料タンク31には、上方から成膜原料ガス供給配管43が挿入されており、成膜原料ガス供給配管43の他端はガス導入口12に接続されている。そして、ヒーター32により加熱されて気化されたCo(CO)ガスがキャリアガスにより成膜原料ガス供給配管43内を搬送されてガス導入口12を経てシャワーヘッド10へ供給される。成膜原料ガス供給配管43の周囲には、ヒーター44が設けられている。ヒーター44にはヒーター電源49から給電される。また、成膜原料ガス供給配管43には、流量調整バルブ45と、そのすぐ下流側の開閉バルブ46と、ガス導入口12の直近の開閉バルブ47とが設けられている。
【0024】
成膜原料ガス供給配管43のバルブ47の上流には、希釈ガス供給配管61が接続されている希釈ガス配管61の他端には、希釈ガスとして例えばArガスまたはNガス等を供給する希釈ガス供給源62が接続されている。希釈ガス配管61には流量制御器としてのマスフローコントローラ63およびその前後のバルブ64が介装されている。なお、希釈ガスはパージガスや安定化ガスとしても機能する。
【0025】
上記チャンバー1の壁部には熱電対51が取り付けられ、上記成膜原料容器31内には熱電対52が取り付けられ、上記成膜原料ガス供給配管43には熱電対53が取り付けられており、これら熱電対51、52、53は温度コントローラ60に接続されている。上述した熱電対7も含めて、これら熱電対が検出した温度検出信号は温度コントローラ60に送られる。温度コントローラ60には上述のヒーター電源6、27、48、49が接続されている。そして、温度コントローラ60は、上述した熱電対7,51,52,53の検出信号に応じてヒーター電源6、27、48、49に制御信号を送り、サセプタ2の温度、チャンバー1の壁部の温度、成膜原料容器31内の温度、成膜原料ガス供給配管43内の温度を制御するようになっている。
【0026】
成膜原料であるコバルトカルボニル(Co(CO))は、成膜原料容器31においてヒーター32で加熱されて気化され、成膜原料ガス供給配管43内をヒーター44で加熱されることで気体状のままチャンバー1内に供給されるが、この時のコバルトカルボニル(Co(CO))の加熱温度は、温度コントローラ60によって分解開始温度未満の温度に制御される。具体的には、後述するように、コバルトカルボニルの減圧TG(熱重量分析計)で把握される分解開始温度は45℃であるため、45℃未満に制御することが好ましい。
【0027】
また、成膜の際のウエハWの温度(成膜温度)は、120〜300℃に制御されることが好ましく、チャンバー1の壁部(内壁)の温度は、Co(CO)ガスの分解温度未満に制御されることが好ましい。
【0028】
成膜装置100は制御部70を有し、この制御部70により各構成部、例えば温度コントローラ60、排気装置23、マスフローコントローラ、流量調整バルブ、バルブ等の制御等を行うようになっている。温度コントローラ60に関しては、温度コントローラ60により制御すべき部分の温度設定等を行う。この制御部70は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えたプロセスコントローラ71と、ユーザーインターフェース72と、記憶部73とを有している。プロセスコントローラ71には成膜装置100の各構成部が電気的に接続されて制御される構成となっている。ユーザーインターフェース72は、プロセスコントローラ71に接続されており、オペレータが成膜装置100の各構成部を管理するためにコマンドの入力操作などを行うキーボードや、成膜装置100の各構成部の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなっている。記憶部73もプロセスコントローラ71に接続されており、この記憶部73には、成膜装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ71の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に所定の処理を実行させるための制御プログラムすなわち処理レシピや、各種データベース等が格納されている。処理レシピは記憶部73の中の記憶媒体(図示せず)に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスク等の固定的に設けられているものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0029】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて所定の処理レシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ71の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0030】
<本実施形態に係る成膜装置による成膜方法の説明>
次に、以上のように構成された成膜装置を用いて行われる成膜方法について説明する。
【0031】
まず、成膜原料容器31内に、成膜原料として固体状のコバルトカルボニル(Co(CO))を装入した状態とし、さらに、チャンバー1内のサセプタ2の温度、およびチャンバー1の壁部の温度を成膜の際の温度に制御する。次いで、ゲートバルブGを開け、図示しない搬送装置によりウエハWをチャンバー1内に導入し、サセプタ2上に載置する。Co膜を電解メッキによるCu配線のシードとして用いる場合にはウエハWとしては、表面に下地となるSiOxCy系絶縁膜(x、yは正の数)もしくは有機物系絶縁膜、および下層配線となるAl、CuまたはW導電体が形成されたものが用いられる。また、コンタクト層として用いられる場合には、ウエハWとして、表面にソース・ドレイン電極となるシリコン基板面が露出しているか、表面にポリシリコン膜が形成されたものが用いられる。
【0032】
次いで、チャンバー1内を排気装置23により排気してチャンバー1内の圧力を10〜5000Pa(0.075〜37.5Torr)とし、ヒーター5によりサセプタ2を加熱してサセプタ2の温度(ウエハ温度)を好ましくは120〜300℃に制御する。
【0033】
そして、バルブ46を閉じバルブ47、64を開けて希釈ガス供給源62からチャンバー1内に希釈ガスを供給して安定化を行う。
【0034】
一方、ヒーター32および44により、成膜原料容器31および成膜原料ガス供給配管43をコバルトカルボニル(Co(CO))の分解開始温度未満の所定温度に厳密に温度制御しつつ加熱しておき、所定時間希釈ガスによる安定化を行った後、希釈ガスの供給を停止し、または所定流量で希釈ガスを供給したまま、COガスおよびキャリアガスを成膜原料容器31に供給するとともに、バルブ46を開けて成膜原料容器31内で気化したCo(CO)ガスをキャリアガスにより成膜原料ガス供給配管43内を搬送させ、シャワーヘッド10を介してチャンバー1内に供給する。
【0035】
チャンバー1内に供給されたCo(CO)ガスは、サセプタ2内のヒーター5により所定温度に加熱されたウエハWの表面に至り、そこで熱分解してCo膜が形成される。
【0036】
このようにしてCo膜を成膜した後、パージ工程を行う。パージ工程では、成膜原料タンク31へのキャリアガスの供給を停止してCo(CO)の供給を停止した後、排気装置23の真空ポンプを引き切り状態とし、希釈ガス供給源62から希釈ガスをパージガスとしてチャンバー1内に流してチャンバー1内をパージする。この場合に、できる限り迅速にチャンバー1内をパージする観点から、キャリアガスの供給は断続的に行うことが好ましい。
【0037】
パージ工程が終了後、ゲートバルブGを開け、図示しない搬送装置により、搬入出口24を介してウエハWを搬出する。これにより、1枚のウエハWの一連の工程が終了する。
【0038】
以上のようにしてCo膜を成膜するに際し、成膜原料容器31および成膜原料ガス供給配管43がCo(CO)ガスの分解開始温度未満の温度に制御されているため、成膜原料容器31内で気化により生成されたCo(CO)ガスが成膜原料容器31から成膜原料ガス供給配管43を経てチャンバー1内に至るまでの間、その温度が分解開始温度未満となりCo(CO)の分解を抑制することができる。また、成膜原料容器31内にCOガスを導入することにより、その中のCO濃度が高くなり、Co(CO)が分解してCOを生成する反応を抑制することができる。
【0039】
このように、Co(CO)を気化させる温度および生成されたCo(CO)ガスのチャンバー1へ輸送する際の温度をCo(CO)ガスの分解開始温度未満の温度にするとともに、成膜原料容器31内にCo(CO)ガスの分解を抑制可能なCOガスを導入するので、Co(CO)を気化させてチャンバー内に供給する過程での分解反応を極めて効果的に抑制することができ、ほぼウエハW上のみで分解反応を生じさせることができるため、再現性あるCo膜の成膜を実現することができる。
【0040】
また、Co(CO)ガスがウエハWに至る前に分解された場合には、配位子であるCOがさらに分解されてカーボン、酸素を生成し、また、分解途中のCO(CO)がウエハWに堆積することにより、ウエハW上でもカーボン、酸素を生成するため、これらがCo膜中に不純物として取り込まれるが、本実施形態のようにCo(CO)ガスがウエハWに至るまで分解が抑制されることにより、ウエハW表面でCo(CO)が分解して生成するCOガスはさらに分解されることなく速やかにチャンバー1から排出されるので、Co膜にカーボン、酸素が不純物として取り込まれることが防止され、不純物の少ないCo膜を得ることができる。
【0041】
さらに、このようにCo(CO)ガスがウエハWに至るまで分解が抑制されるため、Co(CO)ガス分解物が配管等に残って装置の信頼性を低下させることを回避することができ、また、チャンバー等に成膜されるCo膜は最小限に抑えられ、装置のメンテナンス性を極めて高いものとすることができる。
【0042】
さらにまた、単に温度制御のみの場合には、安全性を考慮すると、Co(CO)の気化温度(成膜原料容器31の温度)および輸送温度(成膜原料ガス供給配管43内の温度)を、安全性を考慮して例えば35℃以下といった余裕を持った温度に制御せざるを得ず、Co(CO)ガスの生成量が制限されてしまうが、本実施形態のようにこれらの温度制御に加えて成膜原料容器31内へのCOガスの導入を実施することにより、Co(CO)の気化温度および輸送温度を分解開始温度未満の範囲内のより高い温度に制御することが可能となり、Co(CO)ガスの生成量をより多くすることができる。これにより、成膜処理のスループットを高めることができる。
【0043】
Co(CO)ガスのような化合物の分解温度については、通常、DTA(示差熱分析)で把握され、DTAで求めたCo(CO)ガスの分解開始温度は51℃であり、この温度は、文献(THE MERCK 10th edition 3067.)に記載された分解開始である52℃と極めて近い。しかし、減圧TGによる重量変化から、より厳密に分解温度を把握したところ、図2に示すように、分解開始温度は45℃であった。この結果から判断すると、成膜原料容器31および成膜原料ガス供給配管43の加熱温度を45℃未満に制御することが好ましい。下限は事実上室温となるので、室温以上45℃未満に制御することが好ましい。
【0044】
成膜の際のウエハWの温度(成膜温度)に関しては、DTAで求めたCo(CO)ガスの分解終了温度が120℃であることから、120℃以上であればCo(CO)ガスをCoとCOに完全に分解させることができる。一方、300℃を超えるとCoが凝集してしまう。このため、成膜温度は120〜300℃が好ましい。
【0045】
チャンバー1の壁部(内壁)の温度はCo(CO)ガスの分解温度未満であることが好ましい。これによりチャンバー1の内壁に達したCo(CO)ガスが分解してCo膜中の不純物が増加することを防止することができる。
【0046】
以上のようにして成膜されたCo膜は、電解メッキで形成されたCu配線のシード膜として好適である。また、CVD−Cu膜の下地膜として用いることもできる。さらには、コンタクト層として用いる場合には、シリコン基板表面またはポリシリコン膜の表面に以上のようにしてCo膜を成膜した後、不活性ガス雰囲気または還元ガス雰囲気でシリサイド化のための熱処理を行う。この際の熱処理の温度は、450〜800℃が好ましい。
【0047】
<本発明の他の適用>
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、成膜原料であるコバルトカルボニルの供給手法についても上記実施形態の手法に限定する必要はなく、種々の方法を適用することができる。
【0048】
また、被処理基板として半導体ウエハを用いた場合を説明したが、これに限らず、フラットパネルディスプレイ(FPD)基板等の他の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1;チャンバー
2;サセプタ
5;ヒーター
10;シャワーヘッド
23;排気装置
30;ガス供給機構
31;成膜原料容器
37;COガス供給源
60;温度コントローラ
70;制御部
71;プロセスコントローラ
73;記憶部(記憶媒体)
W;半導体ウエハ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にCo膜を成膜する成膜装置であって、
基板が収容される処理容器と、
前記処理容器内で基板を加熱するための加熱機構と、
前記処理容器外に配置された、成膜原料としてコバルトカルボニルを収容する成膜原料容器と、
前記成膜原料容器から気体状のコバルトカルボニルを前記処理容器に供給するための配管と、
前記処理容器内を減圧排気する排気機構と、前記成膜原料容器から前記配管を介して前記処理容器に気体状のコバルトカルボニルを供給するための供給手段と、
前記原料容器および前記配管の温度をコバルトカルボニルの分解開始温度未満に制御する制御手段と、
前記原料容器内にCOガスを供給するCOガス供給手段と
を具備することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記原料容器および前記配管の温度を45℃未満に制御することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記加熱機構は、基板を120〜300℃の範囲の温度で加熱することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
基板が収容される処理容器と、前記処理容器内で基板を加熱するための加熱機構と、前記処理容器外に配置された、成膜原料としてコバルトカルボニルを収容する成膜原料容器と、前記成膜原料容器から気体状のコバルトカルボニルを前記処理容器に供給するための配管と、前記処理容器内を減圧排気する排気機構とを有する成膜装置を用いて、基板上にCo膜を成膜する成膜方法であって、
前記成膜原料容器内にCOガスを供給する工程と、
前記成膜原料容器内のコバルトカルボニルを気化させて前記配管を介して前記処理容器に気体状のコバルトカルボニルを供給する工程と、
前記成膜原料容器内および前記配管内の温度をコバルトカルボニルの分解開始温度未満に制御する工程と、
前記処理容器内に供給された気体状のコバルトカルボニルを加熱された基板上で分解させて基板上にCo膜を堆積させる工程と
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
前記成膜原料容器内および前記配管内の温度を45℃未満に制御することを特徴とする請求項4に記載の成膜方法。
【請求項6】
Co膜を堆積させる際の基板表面の加熱温度を120〜300℃の範囲に制御することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記Co膜はシリコンの上に成膜され、成膜後、不活性ガス雰囲気または還元ガス雰囲気でシリサイド化のための熱処理を行うことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項8】
コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項4から請求項7のいずれかの成膜方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−63850(P2011−63850A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215416(P2009−215416)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】