説明

成膜量測定方法及び成膜量測定装置

【課題】成膜中における基板上の表面温度を正確に測定することができる表面温度測定方法及び表面温度測定装置を提供すること。
【解決手段】ウエハWの放射光を所定波長領域にわたって複数の波長範囲に分ける分光器14と、分光器14によって得られた複数の波長範囲の光の強度をそれぞれ検出するアレイセンサ15と、アレイセンサ15によって検出された複数の波長範囲毎の強度を累積加算して放射強度の積分値を算出するとともに、温度と積分値との関係が予め関連付けられたリファレンスデータに基づいて積分値から表面温度を算出するコンピュータ17とを具備するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ等の基板上に薄膜を成膜するプロセス中に基板の表面温度や成膜量を測定する表面温度測定方法及び表面温度測定装置に関する。また、本発明は、ウエハ等の基板上に薄膜を成膜するプロセス中に最上層の膜厚を測定する成膜量測定方法及び成膜量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウエハ(基板)表面に薄膜を成膜するプロセス中にそのウエハの表面温度を測定する場合には、ウエハステージ内部に熱電対等のセンサを置いて測定する接触法を用いて温度測定を行ったり、ウエハ表面上方に放射温度計を配置し、温度が上がることによって変化する1波長あるいは2波長の放射光強度を検出し、温度測定を行ったりしていた。
【0003】
一方、薄膜の成膜量は、連続的なスペクトル分布をもつ光源から光をウエハ基板上に照射し、成膜量が増加することによって変化する反射光の干渉強度を検出し成膜量測定を行っていた。
【0004】
また、同様にして、膜構造(膜数、膜種、膜付け順序等)を理想的なモデルにして理論波形を求め、理論波形と波形マッチングすることで成膜量を決定していた。
【0005】
なお、基板の温度を測定するために熱放射光を検知素子で検出して温度に換算することは知られている(例えば、「特許文献1」参照)。
【特許文献1】特開平07−134069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した表面温度測定方法にあっては、次のような問題があった。すなわち、接触法の場合には、熱電対の周辺が成膜されにくくなり、不均一になる等の問題があった。
【0007】
また、放射分光強度を検出し温度測定する方法では、ウエハ等の基板上に積層した膜の種類や構造、厚さなどが異なる場合、膜の上面と下面での繰り返し反射による干渉の影響を受け、測定波長で十分な検出感度が得られず、正確な膜の表面温度の測定ができなかった。
【0008】
一方、上述した成膜量測定方法にあっては、次のような問題があった。すなわち、反射した光が照射した光に比べて波長特性がどう変化したかを検出して膜厚を演算するため、成膜プロセスのように数百度の高温になってくると、放射光の影響が無視できなくなり成膜量が正しく測定できなくなる。
【0009】
また、ウエハが高速で回転するような成膜装置では、回転による偏心や面振れの影響を受けるため、反射光を安定して再現性よく測定することができなくなり成膜量が正しく測定できなくなる。
【0010】
さらに、複数層からなる膜の膜構造を予め理想的なモデルにして理論波形を算出するため、膜構造が既知でないかぎり正確な成膜量測定ができない。
【0011】
そこで本発明は、成膜中における基板上の表面温度を正確に測定することができる表面温度測定方法及び表面温度測定装置を提供することを目的としている。また、本発明は、成膜中における成膜量を正確に測定することができる成膜量測定方法及び成膜量測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、基板の表面温度を測定する表面温度測定方法において、上記基板の放射光を所定波長領域にわたって複数の波長範囲に分ける分光工程と、この分光工程によって得られた上記複数の波長範囲の光の強度をそれぞれ検出する検出工程と、この検出工程によって検出された上記複数の波長範囲毎の強度を累積加算して放射強度の積分値を算出する積分値算出工程と、温度と積分値との関係が予め関連付けられたリファレンスデータに基づいて上記積分値から上記表面温度を算出する表面温度算出工程とを具備するようにした。
【0013】
請求項2に記載された発明は、基板の表面温度を測定する表面温度測定装置において、上記基板の放射光を所定波長領域にわたって複数の波長範囲に分ける分光部と、この分光部によって得られた上記複数の波長範囲の光の強度をそれぞれ検出する検出部と、この検出部によって検出された上記複数の波長範囲毎の強度を累積加算して放射強度の積分値を算出する積分値算出部と、温度と積分値との関係が予め関連付けられたリファレンスデータに基づいて上記積分値から上記表面温度を算出する表面温度算出部とを具備するようにした。
【0014】
請求項3に記載された発明は、基板上に成膜されている最上層の膜の成膜量を測定する成膜量測定方法において、上記基板からの放射光に基づいて放射光強度分布を測定する実測放射光強度分布測定工程と、上記膜の成膜開始前の上記基板からの放射光に基づいて得られた基準放射光強度分布に対する上記実測放射光強度分布の比である相対放射光強度分布を求める相対放射光強度分布演算工程と、透過光理論から導かれた理論放射光強度分布と上記相対放射光強度分布と比較することで、上記膜の成膜量を算出する成膜量算出工程とを具備するようにした。
【0015】
請求項4に記載された発明は、請求項3に記載された発明において、上記理論放射光強度分布と上記相対放射光強度分布との比較は、波形マッチングにより行うようにした。
【0016】
請求項5に記載された発明は、請求項3に記載された発明において、上記理論放射光強度分布と上記相対放射光強度分布との比較は、上記理論放射光強度分布に対する上記相対放射光強度分布の極値の波長シフト量に基づいて行うようにした。
【0017】
請求項6に記載された発明は、基板上に成膜されている最上層の膜の成膜量を測定する成膜量測定装置において、上記基板からの放射光に基づいて放射分光強度分布を測定する実測放射光強度分布測定部と、上記膜の成膜開始前の上記基板からの放射光に基づいて得られた基準放射光強度分布に対する上記実測放射光強度分布の比である相対放射光強度分布を求める相対放射光強度分布演算部と、透過光理論から導かれた理論放射光強度分布と上記相対放射光強度分布と比較することで、上記膜の成膜量を算出する成膜量算出部とを具備するようにした。
【0018】
請求項7に記載された発明は、基板上に成膜されている最上層の膜の成膜量を測定する成膜量測定方法において、連続なスペクトル分布を持つ照射光を照射した状態における成膜開始前の上記基板からの上記照射光の反射光及び上記基板からの放射光に基づいて第1分光強度分布を測定する第1分光強度分布測定工程と、上記照射光の照射を停止した状態における成膜開始前の上記基板からの放射光に基づいて第2分光強度分布を測定する第2分光強度分布測定工程と、連続なスペクトル分布を持つ照射光を照射した状態における成膜中の上記基板からの上記照射光の反射光及び上記基板からの放射光に基づいて第3分光強度分布を測定する第3分光強度分布測定工程と、上記照射光の照射を停止した状態における成膜中の上記基板からの放射光に基づいて第4分光強度分布を測定する第4分光強度分布測定工程と、上記第1分光強度分布及び第2分光強度分布に基づいて上記反射光のみの基準反射光強度分布を求める第1演算工程と、上記第3分光強度分布及び第4分光強度分布に基づいて上記反射光のみの実測反射光強度分布を求める第2演算工程と、上記基準反射光強度分布に対する上記実測反射光強度分布の比である相対反射光強度分布を求める相対反射光強度分布演算工程と、予め成膜量との関係が既知である参照反射光強度分布と上記相対反射光強度分布と比較することで、上記膜の成膜量を算出する成膜量算出工程とを具備するようにした。
【0019】
請求項8に記載された発明は、基板上に成膜されている最上層の膜の成膜量を測定する成膜量測定装置において、連続なスペクトル分布を持つ照射光を照射した状態における成膜開始前の上記基板からの上記照射光の反射光及び上記基板からの放射光に基づいて第1分光強度分布を測定する第1分光強度分布測定部と、上記照射光の照射を停止した状態における成膜開始前の上記基板からの放射光に基づいて第2分光強度分布を測定する第2分光強度分布測定部と、連続なスペクトル分布を持つ照射光を照射した状態における成膜中の上記基板からの上記照射光の反射光及び上記基板からの放射光に基づいて第3分光強度分布を測定する第3分光強度分布測定部と、上記照射光の照射を停止した状態における成膜中の上記基板からの放射光に基づいて第4分光強度分布を測定する第4分光強度分布測定部と、上記第1分光強度分布及び第2分光強度分布に基づいて上記反射光のみの基準反射光強度分布を求める第1演算部と、上記第3分光強度分布及び第4分光強度分布に基づいて上記反射光のみの実測反射光強度分布を求める第2演算部と、上記基準反射光強度分布に対する上記実測反射光強度分布の比である相対反射光強度分布を求める相対反射光強度分布演算部と、予め成膜量との関係が既知である参照反射光強度分布と上記相対反射光強度分布と比較することで、上記膜の成膜量を算出する成膜量算出部とを備えるようにした。
【0020】
上記手段を講じた結果、次のような作用が生じる。すなわち、請求項1に記載された発明では、基板の放射光から得られた複数の波長範囲毎の強度を累積加算して放射強度の積分値を求めることで十分な検出感度を得ることができ、さらに温度と積分値との関係が予め関連付けられたリファレンスデータに基づいて積分値から表面温度を算出することで、正確な測定を行うことができる。
【0021】
請求項2に記載された発明では、基板の放射光から得られた複数の波長範囲毎の強度を累積加算して放射強度の積分値を求めることで十分な検出感度を得ることができ、さらに温度と積分値との関係が予め関連付けられたリファレンスデータに基づいて積分値から表面温度を算出することで、正確な測定を行うことができる。
【0022】
請求項3に記載された発明では、成膜開始前における基準放射光強度分布に対する実測放射光強度分布の比である相対放射光強度分布を求め、理論放射光強度分布と相対放射光強度分布と比較するようにしているので、光学系の影響を相殺させることができ、さらには外乱等により生じたノイズをキャンセルできるので、膜の成膜量をノイズ等に乱されることなく正確に算出することができる。すなわち、原理的には外乱等によるノイズをキャンセルできるので、ノイズに対して強い測定ができる。
【0023】
請求項4に記載された発明では、理論放射光強度分布と相対放射光強度分布との比較は、波形マッチングにより行うようにした。
【0024】
請求項5に記載された発明では、理論放射光強度分布と相対放射光強度分布との比較は、理論放射光強度分布に対する相対放射光強度分布の極値の波長シフト量に基づいて行うようにした。
【0025】
請求項6に記載された発明では、成膜開始前における基準放射光強度分布に対する実測放射光強度分布の比である相対放射光強度分布を求め、理論放射光強度分布と相対放射光強度分布と比較するようにしているので、光学系の影響を相殺させることができ、さらには外乱等により生じたノイズをキャンセルできるので、膜の成膜量をノイズ等に乱されることなく正確に算出することができる。すなわち、原理的には外乱等によるノイズをキャンセルできるので、ノイズに対して強い測定ができる。
【0026】
請求項7に記載された発明では、照射光を照射した場合と照射しない場合における強度分布を測定することで、照射光によって生じた反射光のみの強度分布を測定することができる。さらに、成膜前と成膜後の反射光のみの強度分布を測定し、成膜前に対する成膜後の反射光のみの強度分布を測定し、予め成膜量との関係が既知である参照反射光強度分布と比較するようにしているので、光学系の影響を相殺させることができるとともに、膜の構造が既知でなくとも、成膜量を測定することが可能である。
【0027】
請求項8に記載された発明では、照射光を照射した場合と照射しない場合における強度分布を測定することで、照射光によって生じた反射光のみの強度分布を測定することができる。さらに、成膜前と成膜後の反射光のみの強度分布を測定し、成膜前に対する成膜後の反射光のみの強度分布を測定し、予め成膜量との関係が既知である参照反射光強度分布と比較するようにしているので、光学系の影響を相殺させることができるとともに、膜の構造が既知でなくとも、成膜量を測定することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
請求項1及び2に記載された発明によれば、成膜中における基板上の表面温度を正確に測定することができる。
【0029】
請求項3乃至8に記載された発明によれば、成膜中における成膜量を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る表面温度測定装置10の構成を示す図である。
【0031】
表面温度測定装置10は、ウエハ(基板)Wを保持するウエハステージ11と、ウエハWに対向配置されウエハWからの放射光を集光するレンズ12と、その一端がレンズ12に対向配置され、レンズ12により集光された放射光を導く光ファイバ13と、この光ファイバ13の他端に対向配置され、所定範囲の波長を所定の波長ステップ毎に分光する分光器14と、この分光器14に取り付けられ、分光された光の強度を波長ステップ毎に検出し、光強度の積分値として出力するアレイセンサ15と、このアレイセンサ15からの信号を収集して、A/D変換する信号処理回路16と、この信号処理回路16からの出力が入力された光強度の積分値に基づいて放射光の強度分布を算出するコンピュータ17とを備えている。一方、コンピュータ17には複数のリファレンスデータから構成されるテーブルを格納した記憶部18が接続されている。なお、ウエハステージ11の底部にはヒータ11aが設けられている。
【0032】
このように構成された表面温度測定装置10では、次のようにして成膜プロセス中のウエハW上の膜の表面温度を測定する。すなわち、ヒータ11aによって昇温されたウエハステージ11上に置かれたウエハWの表面からの放射光をレンズ12で集め、光ファイバ13で分光器14に導く。分光器14では、所定の波長ステップ毎に分解された光をアレイセンサ15に導く。アレイセンサ15では、各センサ毎に所定の波長ステップ幅の光強度の積分値を検出する。この積分値を信号処理回路16においてA/D変換して、コンピュータ17に取り込む。
【0033】
コンビュータ17では積分値に基づいて放射光の波長分布Q(d,t,λ)を算出する。さらに、この波長分布Q(d,t,λ)に基づいて積分範囲を全波長とする全波長強度積分値G(d,t)=∫Q(d,t,λ)dλを算出する。
【0034】
この全波長強度積分値Gは、膜の種類、構造、厚さによって予め記憶部18に格納されているテーブルに基づいて規格化され、温度が求められる。
【0035】
次に、テーブルについて説明する。膜の種類、構造、厚さが異なると、放射率が異なるので膜の表面温度に対する全波長強度積分値Gの関係は、例えば図2の(a)に示すように積分値の絶対量の異なる曲線となる。例えば、τK(ケルビン温度)のときの積分値Gref =G(d,τ)で規格化することを考えると、Gk=G(d,t)/Gref となる。
【0036】
なお、リファレンスデータであるGref は膜の種類、構造、厚さに応じて、予め、接触法等でτKの較正をとっておく。このとき規格積分値Gkは図2の(b)に示すように、膜の種類、構造、厚さによらず温度に対して同じ曲線を描く。したがって規格積分特性を理論的に示すことができれば、規格積分値Gkの値から被測定物の膜の表面温度を推定することができる。すなわち、膜の種類、構造、厚さに応じてあらかじめリファレンス値Gref を求めてテーブルを用意しておくことで、あらゆる種類、構造、厚さの膜の表面温度を求めることができる。
【0037】

一方、黒体輻射理論によると、黒体の放射光分布はM=C1/λ/(exp (C2/λτ)−1)で与えられる。ここでC1は第一放射定数(2πhc)、C2は第二放射定数(ch/k)である(λ:波長、h:プランク定数、k:ボルツマン定数、c:光速)。Mを全波長について積分すると、いわゆるステファン・ボルツマン(Stefan−Boltzmann)の法則 Msb=στが得られる。ここでσはステファン・ボルツマン定数(2π5 ・k/15c/h)である。今τKでの理論積分値Msb(τK)で規格化すると、規格理論積分値Mk=Msb/Msb(τK)を得る。Mkは表面温度の4乗に比例する。
【0038】
図3に示すように実測値から演算された規格積分値Wkは黒体輻射理論から導かれた規格理論積分値Mkによく従うので、規格積分値Wkに対応する膜の表面温度を理論曲線Mkから推定することができる。
【0039】
上述したように本第1の実施の形態に係る表面温度測定装置10では、成膜プロセス中におけるウエハWの高精度な表面温度測定ができる。また、ウエハWの膜の種類、構造、厚さが変わっても高精度な表面温度測定ができる。
【0040】
なお、上述した第1の実施の形態においては、積分範囲を全波長としたが、積分範囲を特定の波長域に限定する方法もある。すなわち、実際の放射分光は測定系の感度や被測定物の光学特性の影響を強く受ける。特に、測定感度の低い波長域では放射分光強度が理論値に比べ不当に低く測定されてしまうことが多いので、表面温度を正しく算出できなくなる。また、被測定物の光学特性、例えばSiウエハでは波長が1μmをこす赤外域では透過率が100%に近くなり、ウエハWを昇温するヒータ11aの温度をウエハWの表面温度として誤測定してしまうことがある。
【0041】
このため、測定系の感度特性や被測定物の光学特性の影響を受けない波長域に限定して強度積分値を求め、表面温度を算出することができる。すなわち、Msbに相当する理論式はMsb=∫Mdλ(積分範囲はλ1<λ<λ2)となり、上述した第1の実施の形態と同様な方法で温度測定ができる。波長域を限定することで、測定系の感度特性や被測定物の光学特性に影響を最小限に抑えた精度の高い温度測定が可能となる。
【0042】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る成膜量測定装置20の構成を示す図である。
【0043】
成膜量測定装置20は、ウエハ(基板)Wを保持するウエハステージ21と、ウエハWに対向配置されウエハWからの放射光を集光するレンズ22と、その一端がレンズ22に対向配置され、レンズ22により集光された放射光を導く光ファイバ23と、この光ファイバ23の他端に対向配置され、所定範囲の波長を所定の波長ステップ毎に分光する分光器24と、この分光器24に取り付けられ、分光された光の強度を波長ステップ毎に検出し、光強度の積分値として出力するアレイセンサ25と、このアレイセンサ25からの信号を収集して、A/D変換する信号処理回路26と、この信号処理回路26からの出力が入力された光強度の積分値に基づいて放射光の強度分布を算出するコンピュータ27とを備えている。コンピュータ27には複数のリファレンスデータから構成されるテーブルを格納した記憶部28が接続されている。なお、ウエハステージ21の底部にはヒータ21aが設けられている。
【0044】
このように構成された成膜量測定装置20では、次のようにして成膜プロセス中のウエハW上の膜の成膜量dを測定する。すなわち、ヒータ21aによって昇温されたウエハステージ21上に置かれたウエハWの表面からの放射光をレンズ22で集め、光ファイバ23で分光器24に導く。分光器24では、所定の波長ステップ毎に分解された光をアレイセンサ25に導く。アレイセンサ25では、各センサ毎に所定の波長ステップ幅の光強度の積分値を検出する。この積分値を信号処理回路26においてA/D変換して、コンピュータ27に取り込み、放射光分布を算出する。これを成膜直前と、成膜中に行う。
【0045】
図5は、成膜直前のウエハWから得られた基準放射光分布Aと、成膜中のウエハWから得られた実測放射光分布Aについて説明する図である。すなわち、基準放射光分布A(d,t,λ)=Tn−1 (Tn−2 (…T1(Ra(t,λ))…))で示され、ウエハWからの放射光Ra(t,λ)がウエハW上の膜(最下位層〜第n−1層)を透過する時の繰り返し反射の影響が考慮されたものである。この基準放射光分布Aは図6の(a)に示すような分布となる。
【0046】
一方、実測放射光分布Aは、A(d,t,λ)=T(Tn−1 (…T1(Ra(t,λ))…))で示され、ウエハWからの放射光Ra(t,λ)がウエハW上の膜(最下位層〜最上位層)を透過する時の繰り返し反射の影響が考慮されたものである。この実測放射光分布Aは図6の(b)に示すような分布となる。なお、図6の(b)中α1,α2,α3はそれぞれ異なる成膜量における実測放射光分布を示している。
【0047】
ここで、基準放射光分布A(d,t,λ)に対する実測放射光分布A(d,t,λ)の比、すなわち相対放射光分布B(d,t,λ)=A(d,t,λ)/A(d,t,λ)をとると、図7の(a)に示すように、最上位層nだけの影響をあらわすものに変換できる。
【0048】
なお、相対放射光分布B(d,t,λ)に変換する演算により光ファイバ23や分光器24など光学系の特性および外乱からのノイズの影響をキャンセルされたものとなり、成膜量dの測定精度が向上することになる。
【0049】
次に、相対放射光分布Bを理論放射光分布Brにマッチングすることで成膜量dを算出する。すなわち、最上位層nの屈折率N(n,k)がわかっていると、最上位層nだけの影響をあらわす理論放射光分布Br(d,t,λ)は繰り返しを考慮した単層透過光理論から計算できる。このため、相対放射光分布B(d,t,λ)とマッチングすることにより、成膜中の最上位層nの成膜量dが推定できる。なお、マッチングの方法としては、例えば相対放射光分布Bと理論放射光分布Brとの差K=B(d,t,λ)−Br(d,t,λ)の絶対値の和が最小になるBr(d,t,λ)を探す方法がある。
【0050】
実際の放射分光は測定系の感度の影響を強く受けるため、測定感度の低い波長域では放射分光強度が理論計算値に比ぺ不当に低く測定されてしまうことが多いので、成膜量を正しく算出できなくなることがある。この場合、成膜量が増加すると放射分光強度波形が長波長側にシフトしていく特性を利用し、強度波形極値の波長シフト量から成膜量を推定することができる。この方法は測定感度の影響に強いという特徴を持つ。
【0051】
上述したように本第2の実施の形態に係る成膜量測定装置20では、成膜中のウエハWの最上層の成膜量を高精度に測定することができる。また、ウエハWが高速回転するような反射光測定に不向きな条件下でも放射光を利用することで高精度な成膜量測定ができる。なお、成膜量測定装置20を成膜装置に設け、成膜量が予め設定された値に達した時点で成膜を終了させることで、成膜量の終点制御のできる成膜装置を提供することができる。
【0052】
図8は、本第2の成膜量測定装置20の変形例に係る成膜量測定装置30の要部を示す図である。なお、図8において図4と同一機能部分には同一符号を付し、その説明は省略する。成膜量測定装置30が上述した成膜量測定装置20と異なる点は、複数の測定点において成膜量を測定するために、放射光をレンズ31a,31b及び光ファイバ32a,32bで分光器33a,33b及びアレイセンサ34a,34bに導くことで、複数に分けて受光するようにしてもよい。
【0053】
図9は、本発明の第3の実施の形態に係る成膜量測定装置40の構成を示す図である。
【0054】
成膜量測定装置40は、ウエハ(基板)Wを保持するウエハステージ41と、ウエハWに対向配置されウエハWからの放射光を集光するレンズ42と、その一端がレンズ42に対向配置され、レンズ42により集光された放射光を導く光ファイバ43と、この光ファイバ43の他端に対向配置され、所定範囲の波長を所定の波長ステップ毎に分光する分光器44と、この分光器44に取り付けられ、分光された光の強度を波長ステップ毎に検出し、光強度の積分値として出力するアレイセンサ45と、このアレイセンサ45からの信号を収集して、A/D変換する信号処理回路46と、この信号処理回路46からの出力が入力された光強度の積分値に基づいて放射光の強度分布を算出するコンピュータ47とを備えている。コンピュータ47には複数のリファレンスデータから構成されるテーブルを格納した記憶部48が接続されている。なお、ウエハステージ41の底部にはヒータ41aが設けられている。
【0055】
一方、レンズ42と光ファイバ43との間にはハーフミラー50が配置されている。このハーフミラー50にはレンズ51を介して光源52からの照射光が照射され、ウエハステージ41に照射されるようになっている。また、光源52には、光源点滅回路53が接続されている。
【0056】
このように構成された成膜量測定装置40では、次のようにして成膜プロセス中のウエハW上の膜の成膜量dを測定する。予め成膜前に測定を行う。すなわち、光源52をONにして、レンズ51、ハーフミラー50を介してウエハW上に照射する。照射された光は、ウエハWの表面で反射し、反射光となる。一方、ヒータ41aによって昇温されたウエハステージ41上に置かれたウエハWの表面から放射光が放射する。これら反射光と放射光とをレンズ42で集め、光ファイバ43で分光器44に導く。分光器44では、所定の波長ステップ毎に分解された光をアレイセンサ45に導く。アレイセンサ45では、各センサ毎に所定の波長ステップ幅の光強度の積分値を検出する。この積分値を信号処理回路46においてA/D変換して、コンピュータ47に取り込む。
【0057】
これによってコンピュータ47では、反射光と放射光が一緒になった第1分光強度分布P1(d,t,λ)が得られる。一方、光源52をOFFにしてウエハWの放射光のみから同様の測定を行って第2分光強度分布P2(d,t,λ)を得る。
【0058】
ここで、第1分光強度分布P1と第2分光強度分布P2との差Lは反射光のみの基準反射光強度分布となり、記憶部38に記憶される。 なお、L=Rn―1 (Rn−2 (…R1(S(λ)・J(λ))…))であって、光源52の波長分布S(λ)と照射光学系及び受光光学系の影響J(λ)の積に、ウエハW上の膜(最下位層(1)〜第n−1層(n−1))を光が繰り返し反射するときの影響が考慮されたものである。
【0059】
次に、成膜を開始する。光源52をONにしてウエハWからの放射光及び反射光から同様の測定を行って第3分光強度分布P3(d,t,λ)を得る。さらに、光源52をOFFにしてウエハWからの放射光のみから同様の測定を行って第4分光強度分布P4(d,t,λ)を得る。
【0060】
ここで、第3分光強度分布P3と第4分光強度分布P4との差Lは反射光のみの実測反射光強度分布となる。なお、L=R(Rn−1 (…R1(S(λ)・J(λ))…))であって、光源52の波長分布S(λ)と照射光学系及び受光光学系の影響J(λ)の積に、ウエハW上の膜(最下位層(1)〜最上位層(n))を光が繰り返し反射するときの影響が考慮されたものである。
【0061】
この実測反射光強度分布Lは図11の(a)に示すような分布となる。なお、図11の(a)中β1,β2,β3はそれぞれ異なる成膜量における実測波長分布を示している。
【0062】
ここで、基準反射光強度分布L(d,t,λ)に対する実測反射光強度分布L(d,t,λ)の比、すなわち相対反射光強度分布F(d,t,λ)=L(d,t,λ)/L(d,t,λ)をとると、図12の(a)に示すように、最上位層nだけの影響をあらわすものに変換できる。
【0063】
なお、相対反射光強度分布F(d,t,λ)に変換する演算により光ファイバ43や分光器44など光学系の特性および外乱からのノイズの影響をキャンセルされたものとなり、成膜量dの測定精度が向上することになる。
【0064】
次に、相対反射光強度分布Fをリファレンスデータ(参照反射光強度分布)Frefと比較することで成膜量dを算出する。ここでいうリファレンスデータFrefというのは、薄膜干渉の理論計算により求めた計算値、または事前に同じ成膜条件下で膜付けしたときの実測値のことであり、最上位層nだけの影響を表す信号である。いずれの場合も、リファレンスデータFrefと成膜量dとの関係が定量的に既知となる。
【0065】
図12の(a)に示すように、最上位層nだけの影響を表す信号Fは、積層している最上位層の成膜量に依存する。相対反射光分布Fは成膜量が増加すると長波長側に波長シフトするので、例えば相対反射光分布Fの極値に注目し、その波長シフト量を求めれば、リファレンスデータFrefと比較して最上位層の膜厚dを推定することができる。
【0066】
図12の(b)は成膜量dと相対反射光分布Fの極値の波長シフト量との関係をプロットしたものである。これにより、下地膜の膜構造に依存することなく、最上位層の成膜量を正確に、簡単に測定することが可能である。
【0067】
上述したように本第3の実施の形態に係る成膜量測定装置40では、成膜中のウエハWの最上層の成膜量を高精度に測定することができる。また、ウエハWの下地膜の膜構造に依存することなく簡単に最上位層の膜厚測定ができる。さらに、測定系の感度特性や被測定物の光学特性の影響に強い高精度な膜厚測定ができる。なお、成膜量測定装置40を成膜装置に設け、成膜量が予め設定された値に達した時点で成膜を終了させることで、成膜量の終点制御のできる成膜装置を提供することができる。
【0068】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る表面温度測定装置を示す構成図。
【図2】同表面温度測定装置における温度と強度との関係を示す図。
【図3】同表面温度測定装置における理論強度と実測強度との関係を示す図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る成膜量測定装置を示す構成図。
【図5】同成膜量測定装置における測定原理を示す説明図。
【図6】同成膜量測定装置により測定された放射光強度分布を示す図。
【図7】(a)は相対放射光強度分布を示す図、(b)は理論放射光強度分布を示す図。
【図8】第2の実施の形態の変形例に係る成膜量測定装置の要部を示す構成図。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る成膜量測定装置を示す構成図。
【図10】同成膜量測定装置により測定された反射光強度分布を示す図。
【図11】(a)は相対放射光強度分布を示す図、(b)は成膜量と極値の発生した波長との関係を示す図。
【符号の説明】
【0070】
10…表面温度測定装置
11…ウエハステージ
12,31a,31b…レンズ
13,32a,32b…光ファイバ
14,33a,33b…分光器
15,34a,34b…アレイセンサ
16…信号処理回路
17…コンピュータ
18…記憶部
20,30,40…成膜量測定装置
53…光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面温度を測定する表面温度測定方法において、
上記基板の放射光を所定波長領域にわたって複数の波長範囲に分ける分光工程と、
この分光工程によって得られた上記複数の波長範囲の光の強度をそれぞれ検出する検出工程と、
この検出工程によって検出された上記複数の波長範囲毎の強度を累積加算して放射強度の積分値を算出する積分値算出工程と、
温度と積分値との関係が予め関連付けられたリファレンスデータに基づいて上記積分値から上記表面温度を算出する表面温度算出工程とを具備したことを特徴とする表面温度測定方法。
【請求項2】
基板の表面温度を測定する表面温度測定装置において、
上記基板の放射光を所定波長領域にわたって複数の波長範囲に分ける分光部と、
この分光部によって得られた上記複数の波長範囲の光の強度をそれぞれ検出する検出部と、
この検出部によって検出された上記複数の波長範囲毎の強度を累積加算して放射強度の積分値を算出する積分値算出部と、
温度と積分値との関係が予め関連付けられたリファレンスデータに基づいて上記積分値から上記表面温度を算出する表面温度算出部とを具備したことを特徴とする表面温度測定装置。
【請求項3】
基板上に成膜されている最上層の膜の成膜量を測定する成膜量測定方法において、
上記基板からの放射光に基づいて放射光強度分布を測定する実測放射光強度分布測定工程と、
上記膜の成膜開始前の上記基板からの放射光に基づいて得られた基準放射光強度分布に対する上記実測放射光強度分布の比である相対放射光強度分布を求める相対放射光強度分布演算工程と、
透過光理論から導かれた理論放射光強度分布と上記相対放射光強度分布と比較することで、上記膜の成膜量を算出する成膜量算出工程とを具備していることを特徴とする成膜量測定方法。
【請求項4】
上記理論放射光強度分布と上記相対放射光強度分布との比較は、波形マッチングにより行うことを特徴とする請求項3に記載の成膜量測定方法。
【請求項5】
上記理論放射光強度分布と上記相対放射光強度分布との比較は、上記理論放射光強度分布に対する上記相対放射光強度分布の極値の波長シフト量に基づいて行うことを特徴とする請求項3に記載の成膜量測定方法。
【請求項6】
基板上に成膜されている最上層の膜の成膜量を測定する成膜量測定装置において、
上記基板からの放射光に基づいて放射分光強度分布を測定する実測放射光強度分布測定部と、
上記膜の成膜開始前の上記基板からの放射光に基づいて得られた基準放射光強度分布に対する上記実測放射光強度分布の比である相対放射光強度分布を求める相対放射光強度分布演算部と、
透過光理論から導かれた理論放射光強度分布と上記相対放射光強度分布と比較することで、上記膜の成膜量を算出する成膜量算出部とを具備していることを特徴とする成膜量測定装置。
【請求項7】
基板上に成膜されている最上層の膜の成膜量を測定する成膜量測定方法において、
連続なスペクトル分布を持つ照射光を照射した状態における成膜開始前の上記基板からの上記照射光の反射光及び上記基板からの放射光に基づいて第1分光強度分布を測定する第1分光強度分布測定工程と、
上記照射光の照射を停止した状態における成膜開始前の上記基板からの放射光に基づいて第2分光強度分布を測定する第2分光強度分布測定工程と、
連続なスペクトル分布を持つ照射光を照射した状態における成膜中の上記基板からの上記照射光の反射光及び上記基板からの放射光に基づいて第3分光強度分布を測定する第3分光強度分布測定工程と、
上記照射光の照射を停止した状態における成膜中の上記基板からの放射光に基づいて第4分光強度分布を測定する第4分光強度分布測定工程と、
上記第1分光強度分布及び第2分光強度分布に基づいて上記反射光のみの基準反射光強度分布を求める第1演算工程と、
上記第3分光強度分布及び第4分光強度分布に基づいて上記反射光のみの実測反射光強度分布を求める第2演算工程と、
上記基準反射光強度分布に対する上記実測反射光強度分布の比である相対反射光強度分布を求める相対反射光強度分布演算工程と、
予め成膜量との関係が既知である参照反射光強度分布と上記相対反射光強度分布と比較することで、上記膜の成膜量を算出する成膜量算出工程とを具備していることを特徴とする成膜量測定方法。
【請求項8】
基板上に成膜されている最上層の膜の成膜量を測定する成膜量測定装置において、
連続なスペクトル分布を持つ照射光を照射した状態における成膜開始前の上記基板からの上記照射光の反射光及び上記基板からの放射光に基づいて第1分光強度分布を測定する第1分光強度分布測定部と、
上記照射光の照射を停止した状態における成膜開始前の上記基板からの放射光に基づいて第2分光強度分布を測定する第2分光強度分布測定部と、
連続なスペクトル分布を持つ照射光を照射した状態における成膜中の上記基板からの上記照射光の反射光及び上記基板からの放射光に基づいて第3分光強度分布を測定する第3分光強度分布測定部と、
上記照射光の照射を停止した状態における成膜中の上記基板からの放射光に基づいて第4分光強度分布を測定する第4分光強度分布測定部と、
上記第1分光強度分布及び第2分光強度分布に基づいて上記反射光のみの基準反射光強度分布を求める第1演算部と、
上記第3分光強度分布及び第4分光強度分布に基づいて上記反射光のみの実測反射光強度分布を求める第2演算部と、
上記基準反射光強度分布に対する上記実測反射光強度分布の比である相対反射光強度分布を求める相対反射光強度分布演算部と、
予め成膜量との関係が既知である参照反射光強度分布と上記相対反射光強度分布と比較することで、上記膜の成膜量を算出する成膜量算出部とを備えていることを特徴とする成膜量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−212477(P2007−212477A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121212(P2007−121212)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【分割の表示】特願平10−262894の分割
【原出願日】平成10年9月17日(1998.9.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】