説明

手持式作業機の防振装置

【課題】 コイルスプリングに捻じ込まれた保持部材を容易に取り外すことができる防振装置を提供し、手持式作業機のメンテナンスや修理を短時間で簡単に行うことができるようにする。
【解決手段】 防振装置50は、手持式作業機10の二つの部材16、18を、コイルスプリング54を介して接続する。コイルスプリング54の一部54aは、一方の部材16に固定された第1保持部材52によって保持され、他部54bは、他方の部材18に固定された第2保持部材56によって保持される。第1保持部材52と第2保持部材56の少なくとも一方には、コイルスプリング54に螺合するねじ溝52a、56aと、汎用の締付工具が係合可能な工具係合部53a、57aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手持式作業機に関し、特に、手持式作業機の防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に手持式作業機の防振装置が開示されている。この防振装置は、手持式作業機の二つの部材の間に配置され、コイルスプリングを介して二つの部材を互いに接続する。この種の防振装置は、一例ではあるが、原動機(例えばエンジン)と、ユーザが把持するグリップとの間に配置され、原動機の振動がユーザへ伝達することを防止する。
【0003】
防振装置のコイルスプリングは、各部材に固定された保持部材によって保持される。即ち、コイルスプリングの一端は、一方の部材に固定された第1の保持部材によって保持され、コイルスプリングの他端は、他方の部材に固定された第2の保持部材によって保持される。各々の保持部材は、螺旋状に伸びるねじ溝が形成されており、コイルスプリングに捻じ込まれることで、コイルスプリングの各端にしっかりと固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−116074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
手持式作業機は、メンテナンスや修理のために分解されることがあり、この場合に、防振装置を分解することも必要となることもある。しかしながら、コイルスプリングに捻じ込まれた保持部材を、コイルスプリングから取り外すことは容易な作業ではない。加えて、使用歴の長い手持式作業機では、コイルスプリングの端部が保持部材に固着していることもあり、この場合、コイルスプリングから保持部材を取り外すために、多大な時間と労力が費やされてしまう。
【0006】
上述の実情を鑑み、本発明は、コイルスプリングに捻じ込まれた保持部材を容易に取り外すことができる防振装置を提供し、手持式作業機のメンテナンスや修理を短時間で簡単に行うことができるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る防振装置は、手持式作業機の二つの部材の間に配置され、その二つの部材を互いに接続するコイルスプリングと、前記二つの部材の一方に固定されるとともに、コイルスプリングの一方の端部を保持する第1保持部材と、前記二つの部材の他方に固定されるとともに、コイルスプリングの他方の端部を保持する第2保持部材を備えている。そして、第1保持部材と第2保持部材の少なくとも一方には、コイルスプリングに螺合するねじ溝と、汎用の締付工具が係合可能な工具係合部が形成されている。この場合、工具係合部は、ねじ溝の中心軸(螺旋の中心軸)に対して、同軸上に形成されていることが好ましい。
【0008】
この防振装置では、保持部材に汎用の締付工具を係合させることができ、締付工具を利用することによって、コイルスプリングから保持部材を簡単に取り外すことができる。また、締付工具によって保持部材に大きな力を加えられるので、コイルスプリングの端部が保持部材に固着している場合でも、コイルスプリングから保持部材を容易に取り外すことができる。なお、保持部材をコイルスプリングへ捻じ込む場合にも、同様に締付工具を利用することができるので、防振装置の組み立ても簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る防振装置によると、一般的な締付工具を利用し、保持部材をコイルスプリングから容易に取り外すことができる。そして、この防振装置を採用することで、手持式作業機の分解作業が容易となり、そのメンテナンスや修理を比較的に短時間で行うこと可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例のエンジンカッターを右方(駆動側)から見た図。
【図2】実施例のエンジンカッターを上方から見た図。
【図3】図1中のIII−III線における断面図。
【図4】図3に示す防振装置を分解して示す斜視図。
【図5】図3に示す防振装置を分解して示す斜視図であって、図4とは異なる視点で示すもの。
【図6】図1中のVI−VI線における断面図。
【図7】図6に示す防振装置を分解して示す。
【図8】図6に示す防振装置を分解して示す斜視図であって、図7とは異なる視点で示すもの。
【図9】コイルスプリングを示す図であって、図9(A)は、コイルスプリングをその軸方向に沿って見た平面図であり、図9(B)は、図9(A)中のB−B線における断面図である。
【図10】コイルスプリングの変形例を示す図であって、図10(A)は、コイルスプリングをその軸方向に沿って見た平面図であり、図10(B)は、図10(A)中のB−B線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態では、保持部材の工具係合部が、少なくとも平行な二面を有する柱状部であることが好ましく、一例ではあるが、六角柱の形状を有する柱状部であることがより好ましい。このような構造の係合部には、例えばスナパ(オープンエンドレンチ)、めがねレンチ、ボックスレンチ、モンキーレンチといった、ボルトやナットの締め付けに用いられる汎用の締付工具を係合させることができる。
【0012】
本発明の一実施形態では、保持部材の工具係合部が、少なくとも平行な二面を有する凹部であることが好ましく、一例ではあるが、断面形状が六角形の穴部であることが好ましい。このような構造の係合部には、例えば六角レンチといった、六角穴付きボルトの締め付けに用いられる汎用の締付工具を係合させることができる。
【0013】
本発明の一実施形態では、保持部材の工具係合部が、「+」形状の凹部又は「−」形状の凹部であることが好ましい。このような構造の係合部には、例えばプラスドライバやマイナスドライバといった、スクリュウの締め付けに用いられる汎用のスクリュウドライバを係合させることができる。
【実施例】
【0014】
図面を参照し、本発明の実施例であるエンジンカッターについて説明する。図1は、エンジンカッター10の側面図を示しており、図2は、エンジンカッター10の平面図を示している。エンジンカッター10は、円板状の回転刃12と、その回転刃12を駆動する本体14を備えている。回転刃12は、石質材料や金属材料を切断可能であり、エンジンカッター10は、例えば建築現場においてコンクリートや鉄骨材料の切断に用いられる。
【0015】
図1、図2に示すように、エンジンカッター10を水平面Hに載置すると、回転刃12は、本体14に対して水平方向の一方側に位置する。以下の説明では、エンジンカッター10を水平面Hに載置した状態を基準とし、本体14に対して回転刃12が位置する水平方向の一方側を前方と称し、その反対方向を後方と称する。また、鉛直上方を単に上方と称し、鉛直下方を単に下方と称する。また、図2に示すように、前後方向に垂直な水平方向の一方側を左方と称し、前後方向に垂直な水平方向の他方側を右方と称する。従って、回転刃12は、本体14の前方に位置し、その回転軸は左右方向に伸びている、と表現させる。即ち、回転刃12は、水平面Hの上方において、水平面Hに対して垂直に保持されている。
【0016】
本体14には、前方ハンドル16と後方グリップ26が設けられている。前方ハンドル16は、パイプ材で形成されており、ユーザによって把持されるハンドルであるとともに、本体14の強度を確保するフレームも兼ねている。前方ハンドル16は、本体14の右方側面から、本体14の上方及び左方を通り、本体14の下部へと伸びている。後方グリップ26は、本体14の後方下部に設けられている。後方グリップ26は、本体14からループ状に伸びている。後方グリップ26には、スロットルレバー28等の操作スイッチが設けられている。
【0017】
通常、ユーザは、左手によって前方ハンドル16を把持し、右手によって後方グリップ26を把持して、エンジンカッター10を保持する。そして、ワークに対してエンジンカッター10を移動させ、回転刃12によってワークを切断する。このように、エンジンカッター10は、ユーザによって保持される手持式のエンジンカッター10である。ここで、上記のようにユーザがエンジンカッター10を保持した時、ユーザは本体14の左方に位置することになる。通常、ユーザはエンジンカッター10の左方に位置することから、エンジンカッター10の左方側はユーザ側とも称される。
【0018】
本体14は、回転刃12を駆動するためのエンジン18を備えている。エンジン18は、4ストローク型のレシプロエンジンである。4ストローク型のエンジンは、2ストローク型のエンジンと比較して、未燃焼ガスの排出が少なく、燃費効率が高い(燃料消費量が少ない)といった利点を持つ。なお、エンジン18は、4ストローク型のレシプロエンジンに限られず、2ストローク型のレシプロエンジンや、他の形式のエンジンであってもよい。
【0019】
本体14は、カッターアーム44を備えている。カッターアーム44は、本体14の右方側に位置しており、本体14の前方に向けて伸びている。カッターアーム44は、エンジン18に固定されているとともに、その前方端には回転刃12及び回転刃12を覆う回転刃カバー46が設けられている。カッターアーム44は、エンジン18の出力するトルクを回転刃12へ伝達する伝達機構である。そして、伝達機構であるカッターアーム44が設けられた本体14の右方側は、一般に駆動側と称されることがある。また、カッターアーム44には、リコイルスタータ36が設けられている。リコイルスタータ36は、エンジン18の駆動軸に接続されており、ユーザは、リコイルスタータ36によってエンジン18を始動させる。
【0020】
本体14は、ケーシング24を備えている。ケーシング24は、樹脂材料で形成されている。ケーシング24の内部には、エンジン18へ供給する空気をろ過するフィルタや、フィルタによってろ過された空気に燃料を混合するキャブレタ等が設けられている。ケーシング24には、前述した後方グリップ26が一体に形成されており、後方グリップ26に配置されたスロットルレバー28は、ケーシング24の内部でキャブレタに接続されている。また、ケーシング24は、その下方部分が燃料タンクとなっており、燃料給油口30が設けられている。
【0021】
本体14は、ガード40を備えている。ガード40は、本体14の前方下部に位置している。本体14の前方下部は、回転刃12からワークの切粉が飛散する位置である。ガード40は、飛散したワークの切粉を本体14の下方に向けて反射し、ワークの切粉がユーザに向けて飛散することを防止する。ガード40には、一対のローラ42が設けられている。ここで、ガード40は、前方ハンドル16に固定されているとともに、カッターアーム44に取り付けられている。言い換えれば、前方ハンドル16は、ガード40を介して、エンジン18に固定されたカッターアーム44に取り付けられている。
いる。
【0022】
エンジンカッター10では、使用時にエンジン18、カッターアーム44、回転刃12において振動が発生する。そのことから、前方ハンドル16や、後方グリップ26が一体に形成されたケーシング24が、エンジン18やカッターアーム44に対して取り付けられる取付位置には、ユーザに伝わる振動を抑制するための防振装置が設けられている。なお、エンジンカッター10では、三種類の防振装置が、合計して4箇所に設けられている。以下では、特徴的な二種類の防振装置50、60について、その構造や機能を詳細に説明する。
【0023】
図3は、図1中のIII−III線断面図であり、ボルト20によるの取付位置に設けられた防振装置50を示している。図4、図5は、防振装置50を分解して示す斜視図である。ここで、図4は、分解した防振装置50を右前方から見たときの斜視図を示し、図5は、分解した防振装置50を左前方から見たときの斜視図を示している。
【0024】
図3、4、5に示すように、防振装置50は、第1保持部材52と、コイルスプリング54と、第2保持部材56を備えている。コイルスプリング54は、前方ハンドル16とエンジン18の間に配置され、前方ハンドル16とエンジン18を互いに接続している。なお、図4、図5では、エンジン18が図示省略されている。前方ハンドル16とエンジン18の間にコイルスプリング54が介在することで、エンジン18から前方ハンドル16への振動伝達が抑制される。それにより、前方ハンドル16を把持するユーザが受ける不快感や疲労感が緩和される。
【0025】
コイルスプリング54は、第1保持部材52と第2保持部材56によって保持されている。第1保持部材52は、コイルスプリング54の一端54aを保持するとともに、ボルト20によって前方ハンドル16に固定されている。一方、第2保持部材56は、コイルスプリング54の他端54bを保持しているとともに、ボルト70によってエンジン18に固定されている。第1保持部材52には、ねじ溝52aが形成されている。ねじ溝52aは、螺旋状に伸びており、コイルスプリング54に螺合する。第1保持部材52は、コイルスプリング54に捻じ込まれることで、コイルスプリング54の一端54aにしっかりと固定される。また、ねじ溝52aの終点位置には、コイルスプリング54の一端54aに当接するストッパ壁52bが設けられている。同様に、第2保持部材56にも、ねじ溝56aとストッパ壁56bが設けられている。
【0026】
第1保持部材52は、略円柱形状を有しており、その一方の端面に突出部53が形成されている。突出部53は、前方ハンドル16に設けられた凹部16bに嵌り込み、それによって第1保持部材52が定位置に位置決めされる。図4によく示されるように、突出部53の一部には、工具係合部53aが形成されている。工具係合部53aは、六角形の断面を有する六角柱の形状となっており、ボルトやナットを締め付ける汎用の締付工具(例えばスパナやめがねレンチ)が係合可能に構成されている。また、工具係合部53aは、ねじ溝52aの螺旋の中心軸に対して、同軸上に設けられている。それにより、第1保持部材52は、汎用の締付工具を利用して、コイルスプリング54に簡単に捻じ込むことができ、かつ、コイルスプリング54から簡単に取り外す(緩める)ことができる。なお、工具係合部53aは、六角柱の形状に限られず、少なくとも平行な二面(いわゆる二面幅)を有する形状であってもよい。
【0027】
第2保持部材56は、略円柱形状を有しており、その中心軸に沿って貫通孔57が形成されている。貫通孔57は、ボルト70を通過させる貫通孔であり、ボルト70は、第2保持部材56の貫通孔57を通って、エンジン18に締め付けられている。図5によく示されるように、貫通孔57の一部には、工具係合部57aが形成されている。工具係合部57aは、六角形の断面を有する六角穴の形状となっており、六角穴付きボルトを締め付ける汎用の締付工具(例えば六角レンチ)が係合可能に構成されている。また、工具係合部57aは、ねじ溝56aの螺旋の中心軸に対して、同軸上に設けられている。それにより、第2保持部材56は、汎用の締付工具を利用して、コイルスプリング54に簡単に捻じ込むことができ、かつ、コイルスプリング54から簡単に取り外す(緩める)ことができる。
【0028】
図6は、図1中のVI−VI線断面図であり、ボルト38による取付位置に設けられた防振装置60を示している。図7、図8は、防振装置60を分解して示す斜視図である。ここで、図7は、分解した防振装置60を右前方から見たときの斜視図を示し、図8は、分解した防振装置60を左前方から見たときの斜視図を示している。
【0029】
図6、7、8に示すように、防振装置60は、第1保持部材62と、コイルスプリング64と、第2保持部材66を備えている。コイルスプリング64は、前方ハンドル16に固定されたガード40と、エンジン18に固定されたカッターアーム44の間に配置され、ガード40とカッターアーム44を互いに接続している。前方ハンドル16に固定されたガード40と、エンジン18に固定されたカッターアーム44の間にコイルスプリング64が介在することで、エンジン18から前方ハンドル16への振動伝達が抑制される。それにより、前方ハンドル16を把持するユーザが受ける不快感や疲労感が緩和される。
【0030】
コイルスプリング64は、第1保持部材62と第2保持部材66によって保持されている。第1保持部材62は、コイルスプリング64の一端64aを保持するとともに、ボルト72によってガード40に固定されている。一方、第2保持部材66は、コイルスプリング64の他端64bを保持しているとともに、ボルト38によってカッターアーム44に固定されている。第1保持部材62には、ねじ溝62aが形成されている。ねじ溝62aは、螺旋状に伸びており、コイルスプリング64に螺合する。第1保持部材62は、コイルスプリング64に捻じ込まれることで、コイルスプリング64の一端64aにしっかりと固定される。また、ねじ溝62aの終点位置には、コイルスプリング64の一端64aに当接するストッパ壁62bが設けられている。同様に、第2保持部材66にも、ねじ溝66aとストッパ壁66bが設けられている。
【0031】
第1保持部材62は、略円柱形状を有しており、その中心軸に沿って貫通孔63が形成されている。貫通孔63は、ボルト72を通過させる貫通孔であり、ボルト72は、第1保持部材62の貫通孔63を通って、ガード40に締め付けられている。図8によく示されるように、貫通孔63の一部には、工具係合部63aが形成されている。工具係合部63aは、六角形の断面を有する六角穴の形状となっており、六角穴付きボルトを締め付ける汎用の締付工具(例えば六角レンチ)が係合可能に構成されている。また、工具係合部63aは、ねじ溝62aの螺旋の中心軸に対して、同軸上に設けられている。それにより、第1保持部材62は、汎用の締付工具を利用して、コイルスプリング64に簡単に捻じ込むことができ、かつ、コイルスプリング64から簡単に取り外す(緩める)ことができる。
【0032】
第2保持部材66は、略円柱形状を有しており、その中心軸に沿って貫通孔67が形成されている。貫通孔67は、ボルト38が捻じ込まれるねじ孔であり、ボルト38は、カッターアーム44を挟んで、第2保持部材66に締め付けられている。図7によく示されるように、貫通孔67の一部には、工具係合部67aが形成されている。工具係合部67aは、六角形の断面を有する六角穴の形状となっており、六角穴付きボルトを締め付ける汎用の締付工具(例えば六角レンチ)が係合可能に構成されている。また、工具係合部67aは、ねじ溝66aの螺旋の中心軸に対して、同軸上に設けられている。それにより、第2保持部材66は、汎用の締付工具を利用して、コイルスプリング64に簡単に捻じ込むことができ、かつ、コイルスプリング64から簡単に取り外す(緩める)ことができる。
【0033】
以上のように、本実施例の防振装置50、60では、コイルスプリング54、64から保持部材52、56、62、66を取り外す際に、ユーザは汎用の締付工具を利用することができる。従って、コイルスプリング54、64の端部が保持部材52、56、62、66に固着しているような場合でも、締付工具によって保持部材52、56、62、66に大きな力を加えることができ、コイルスプリング54、64から保持部材52、56、62、66を容易に取り外すことができる。また、保持部材52、56、62、66をコイルスプリング54、64へ捻じ込む場合にも、同様に締付工具を利用することができるので、防振装置50、60の組み立ても簡単に行うことができる。そのことから、ユーザは、エンジンカッター10の修理やメンテナンスを、比較的に短時間で簡単に行うことができる。
【0034】
ここで、エンジンカッター10の修理やメンテナンスにおいて、コイルスプリング54、64から保持部材52、56、62、66を取り外す具体例について説明する。第1に、防振装置50、60では、大きな力や強い振動を受け続けた結果、コイルスプリング54、64や保持部材52、56、62、66に損傷が生じることがある。この場合、その損傷したコイルスプリング54、64又は保持部材52、56、62、66を交換するために、コイルスプリング54、64から保持部材52、56、62、66を取り外すことが必要となる。このときユーザは、上記したように締付工具を利用することによって、コイルスプリング54、64から保持部材52、56、62、66を簡単に取り外すことができる。
【0035】
あるいは、エンジンカッター10では、エンジン18に故障が生じることもあり、故障したエンジン18の修理を行うために、防振装置50、60の分解が必要となることもある。例えば図3を参照すると、先ず、エンジンカッター10からエンジン18を取り外すために、ユーザはボルト20を取り外す必要がある。次いで、エンジン18の修理において邪魔にならないように、ユーザはエンジン18から防振装置50を取り外す必要がある。エンジン18から防振装置50を取り外す場合、通常、ユーザはコイルスプリング54を第2保持部材56に対して回転させることができ、コイルスプリング54及び第1保持部材52を、エンジン18から簡単に取り外すことができる。その後、必要に応じて、ボルト70及び第2保持部材56をエンジン18から取り外せばよい。
【0036】
しかしながら、例えば長期に亘って使用されたエンジンカッター10では、コイルスプリング54の端部が、第2保持部材56へ強固に固着していることもある。この場合、エンジン18からコイルスプリング54を上記のように取り外すことはできない。防振装置50をエンジン18から取り外すためには、先ず、コイルスプリング54から第1保持部材52を取り外し、次いで、第2保持部材56をエンジン18に固定しているボルト70を取り外すことが必要となる。ここで、第1保持部材52には、第2保持部材56と同様に、コイルスプリング54の端部が固着していることも多い。しかしながら、ユーザは、締付工具を利用することによって、コイルスプリング54から第1保持部材52を簡単に取り外すことができる。そして、第1保持部材52を取り外すことで、コイルスプリング54が取り付けられた状態のままでも、第2保持部材56を固定しているボルト70を簡単に取り外すことができる。あるいは、締付工具によって第1保持部材52を回転させた結果、第1保持部材52とコイルスプリング54が一体となって回転し、コイルスプリング54を第2保持部材56から取り外せることもある。いずれにしても、締付工具を利用することで、エンジン18から防振装置50を簡単に取り外すことができる。なお、エンジン18が故障した場合に限られず、オーバーホールといったエンジン18のメンテナンスを行う場合にも、エンジンカッター10からエンジン18が取り外されるとともに、そのエンジン18から防振装置50、60が取り外されることもある。
【0037】
上記した防振装置50、60の分解及び組み立てにおいて、本実施例の防振装置50、60では、専用の工具ではなく、汎用の締付工具を用いることができる。六角レンチやスパナといった汎用の締付工具は広く流通しているので、ユーザは、分解及び組み立てに使用する締付工具を、簡単に入手することができる。あるいは、多くのユーザは、六角レンチやスパナといった汎用の締付工具を既に所有している。そのようなユーザは、防振装置50、60の分解や組み立てに用いる締付工具を新たに用意する必要がなく、無用な出費を避けることができる。なお、ここでいうユーザには、エンジンカッター10の所有者や利用者だけでなく、その修理に携わる者が広く含まれる。
【0038】
図9は、図3、4、5に示したコイルスプリング54を単体で示している。ここで、図9(A)は、コイルスプリング54をその軸方向に沿って見た平面図であり、図9(B)は、図9(A)中のB−B線における断面図である。図9に示すように、コイルスプリング54の端部54t(詳しくは、一端54aを含む四半周分)では、その曲率半径Rが、一端54aに近づくにつれて徐々に大きくなっている。この構造によると、第1保持部材52を、コイルスプリング54へ簡単に捻じ込むことができる。なお、同様の構造は、コイルスプリング54の他方の端部(詳しくは、他端54bを含む四半周分)にも設けられており、第2保持部材56も同様に、コイルスプリング54へ簡単に捻じ込むことができる。
【0039】
図示省略するが、図6、7、8に示したコイルスプリング64についても、その長さや巻径等は異なるが、その各々の端部については、図9に示したコイルスプリング54の端部54tと同様に構成されている。
【0040】
図10は、コイルスプリング54の変形例を示している。このコイルスプリング54では、その端部54tが接線方向に沿って直線的に伸びている。それにより、中心軸54cからの距離R(この距離Rは、曲率半径に相当する)が、各端54a、54bに近づくにつれて徐々に大きくなっている。このような端部の形状によっても、各々の保持部材52、56を、コイルスプリング54へ簡単に捻じ込むことができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0042】
例えば、各々の保持部材52、56、62、66に形成する工具係合部53a、57a、63a、67aは、上述した形状のものに限定されず、汎用の締付工具が係合可能な他の形状に変更することができる。例えば、工具係合部53a、57a、63a、67aは、「+」形状の凹部又は「−」形状の凹部とすることができ、このような凹部には、プラスドライバやマイナスドライバといった、スクリュウの締め付けに用いられる汎用のスクリュウドライバを係合させることができる。
【0043】
本実施例で説明した防振装置50、60は、エンジンカッターに限らず、例えばチェーンソーやヘッジトリマといった他の種類の手持式作業機にも、同様に採用することができる。そして、その手持式作業機は、エンジンを原動機とするものに限られず、モータを原動機とする電動式の手持式作業機であってもよい。
【0044】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0045】
10:エンジンカッター
12:回転刃
14:本体
16:前方ハンドル
18:エンジン
20、38、70、72:ボルト
24:ケーシング
26:後方グリップ
28:スロットルレバー
40:ガード
44:カッターアーム
50、60:防振装置
52、62:第1保持部材
52a、62a:第1保持部材のねじ溝
52b、62b:第1保持部材のストッパ壁
53:第1保持部材の突出部
53a、63a:第1保持部材の工具係合部
54、64:コイルスプリング
54a、64a:コイルスプリングの一端
54b、64b:コイルスプリングの他端
54c:コイルスプリングの中心軸
54t:コイルスプリングの端部
56、66:第2保持部材
56a、66a:第2保持部材のねじ溝
56b、66b:第2保持部材のストッパ壁
57a、67a:第2保持部材の工具係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手持式作業機の防振装置であって、
手持式作業機の二つの部材の間に配置され、その二つの部材を互いに接続するコイルスプリングと、
前記二つの部材の一方に固定されるとともに、前記コイルスプリングの一方の端部を保持する第1保持部材と、
前記二つの部材の他方に固定されるとともに、前記コイルスプリングの他方の端部を保持する第2保持部材を備え、
前記第1保持部材と前記第2保持部材の少なくとも一方には、前記コイルスプリングに螺合するねじ溝と、汎用の締付工具が係合可能な工具係合部が、形成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記工具係合部は、前記ねじ溝の螺旋の中心軸に対して、同軸上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された防振装置を有する手持式作業機。
【請求項4】
ユーザが把持する少なくとも一つのハンドルが、前記防振装置を介して取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の手持式作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−212771(P2011−212771A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81578(P2010−81578)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】