説明

抗グリケーション組成物、これを含有する飲食物、飲食物用添加剤、化粧品組成物及び医薬用組成物、並びにヒドロキシイソフラボンの製造方法

【課題】的確且つ安全に抗グリケーション作用が得られ、穏やか且つ継続的に使用できる抗グリケーション組成物、これを含有する飲食物、飲食物用添加剤、化粧品組成物及び医薬用組成物、並びにヒドロキシイソフラボンの製造方法を提供する。
【解決手段】本抗グリケーション組成物は下記化学式(1)等で表される化合物のうちの少なくとも1種を含有する。この組成物はイソフラボン含有組成物を発酵させて得られる。本飲食物、飲食物用添加剤及び化粧用組成物は本抗グリケーション組成物を含有する。本方法はイソフラボン配糖体及び/又はイソフラボンアグリコンを合計10質量%以上含有する組成物を発酵させる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗グリケーション組成物、これを含有する飲食物、飲食物用添加剤、化粧品組成物及び医薬用組成物、並びにヒドロキシイソフラボンの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、抗グリケーション作用を示す新規な組成物に関する。また、本発明は、この抗グリケーション組成物を含有する飲食物、飲食物用添加剤、化粧品組成物及び医薬用組成物に関する。更に、本発明は、イソフラボンアグリコンからの変換効率に優れたヒドロキシイソフラボンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシイソフラボンは、イソフラボン配糖体(以下、単に「配糖体」ともいう)からイソフラボンアグリコン(以下、単に「アグリコン」ともいう)を生成し、更に、このアグリコンをヒドロキシル化して得られる。ダイジン、グリシチン及びゲニスチンなどはA環7位に糖が結合された配糖体である。この配糖体から糖を解離させることでアグリコンを生成できるが、この解離反応を触媒できる酵素としてはβ−グルコシダーゼが知られている。しかし、アグリコンからヒドロキシイソフラボンを得る方法は知られていなかった。これに対して、下記特許文献1及び2は、大豆の発酵によりヒドロキシイソフラボンが生成され得ること、即ち、発酵によりアグリコンをヒドロキシル化できることを示した。
【0003】
また、グリケーション(非酵素的糖化反応)とは、糖と蛋白質等が非酵素的に結合する反応である。蛋白質は生理機能に大きく関わっており、グリケーションによる糖化で本来の機能や役目を発揮できなくなり各種の機能障害をもたらすと考えられている。グリケーションは多段的に生じ、アマリド化合物を経た後、脱水・重合等の反応を経て終結糖化物質(AGEs)を形成する。AGEsは、加齢に伴い生体内に蓄積され、種々の老化現象に関与しているものと考えられている。また、糖尿病の合併症で生じる腎障害及び網膜症にもAGEsが関与していることが指摘されている。グリケーションを直接的に阻害する抗グリケーション剤としてはアミノグアニジン及びその誘導体等が知られている。しかし、長期使用した場合には副作用を生じることが心配されている。尚、ヒドロキシイソフラボン類に抗酸化力が認められることは下記特許文献2及び3に示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−86682号公報
【特許文献2】特開平10−243790号公報
【特許文献3】特開2002−309251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2には、発酵によりヒドロキシイソフラボンが得られることが示されている。しかし、得られるヒドロキシイソフラボンの量は極めて微量(例えば、上記特許文献1の実施例からは収量は0.0017%程度であり、イソフラボン類全体に対するヒドロキシイソフラボンの割合は4%程度であることが考えられる)である。
更に、大豆粉等のイソフラボンが含有される組成物を発酵させてヒドロキシイソフラボンを得ようとした場合、配糖体とアグリコンとヒドロキシイソフラボンとの混合物が得られ、この混合物からヒドロキシイソフラボンを分取する必要がある。しかし、特に中間生成物であるアグリコンと、目的物質であるヒドロキシイソフラボンとは構造が近似しており、工業的にこれらを分離することは困難である。このため、上記混合物からヒドロキシイソフラボンのみを分取すること、及びイソフラボン類に対するヒドロキシイソフラボンの濃度を高くすることができない。従って、ヒドロキシイソフラボンを高効率に製造しようとすれば、発酵段階でイソフラボン類全体に対する、特にアグリコンに対するヒドロキシイソフラボンの割合が高い混合物を得る必要がある。しかし、依然としてアグリコンからヒドロキシイソフラボンへの変換を触媒する酵素は知られておらず、ヒドロキシイソフラボンを高濃度に得る方法も知られていない。また、上記特許文献1〜3にはグリケーションについての検討はなされていない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、的確且つ安全に抗グリケーション作用が得られ、穏やか且つ継続的に使用できる抗グリケーション組成物並びにこれを含有する飲食物、飲食物用添加剤、化粧品組成物及び医薬用組成物を提供することを目的とする。更に、発酵手段を用いて高効率にヒドロキシイソフラボンを得るヒドロキシイソフラボンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ヒドロキシイソフラボンの製造及びその効能についての検討を行った。その結果、高濃度にイソフラボンを含有する原料を用いた場合に、特異的にイソフラボン類に対するヒドロキシイソフラボンの含有割合が高い組成物が得られることを知見した。即ち、例えば、イソフラボン含有量1%の原料を発酵させてイソフラボン類のうち5%がヒドロキシイソフラボンである組成物を得ることができた場合、イソフラボン含有量10%の原料を用いれば同様にイソフラボン類のうち5%がヒドロキシイソフラボンとなることが予測される。しかし、本発明者らは原料内のイソフラボン含有量が高い場合には、イソフラボン類中のヒドロキシイソフラボンの含有量が50%近くなるほど、著しく高い濃度でヒドロキシイソフラボンが含まれ得ることを知見した。更に、得られたヒドロキシイソフラボン含有組成物について、抗グリケーション作用を検討した結果、優れた抗グリケーション作用が発現されることを知見した。本発明は、これらの知見に基づきなされたものである。
【0008】
本発明は以下に示すとおりである。
〈1〉下記化学式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボンのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする抗グリケーション組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

〈2〉イソフラボン含有組成物を発酵させて得られた上記〈1〉に記載の抗グリケーション組成物。
〈3〉上記発酵は、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾープス属、及びモナスカス属のうちの少なくとも1種の微生物による発酵である上記〈2〉に記載の抗グリケーション組成物。
〈4〉上記イソフラボン含有組成物は、該イソフラボン含有組成物全体に対してイソフラボン配糖体及び/又はイソフラボンアグリコンを合計10質量%以上含有する上記〈2〉又は〈3〉に記載の抗グリケーション組成物。
〈5〉上記発酵は、液体培養による発酵である上記〈2〉乃至〈4〉のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物。
〈6〉イソフラボン配糖体、イソフラボンアグリコン及び上記ヒドロキシイソフラボンのうちの少なくとも該ヒドロキシイソフラボンを含有し、
イソフラボン配糖体、イソフラボンアグリコン及び該ヒドロキシイソフラボンの合計を100質量%とした場合に、該ヒドロキシイソフラボンが25質量%以上含有される上記〈1〉乃至〈5〉のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物。
〈7〉上記〈1〉乃至〈6〉のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする飲食物。
〈8〉上記〈1〉乃至〈6〉のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする飲食物用添加剤。
〈9〉上記〈1〉乃至〈6〉のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする化粧品組成物。
〈10〉皮膚外用化粧品組成物である上記〈9〉に記載の化粧品組成物。
〈11〉上記〈1〉乃至〈6〉のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする医薬用組成物。
〈12〉イソフラボン含有組成物を発酵させる発酵工程を備えるヒドロキシイソフラボンの製造方法であって、
上記イソフラボン含有組成物は、該イソフラボン含有組成物全体に対してイソフラボン配糖体及び/又はイソフラボンアグリコンを合計10質量%以上含有することを特徴とするヒドロキシイソフラボンの製造方法。
〈13〉上記発酵は、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾープス属、及びモナスカス属のうちの少なくとも1種の微生物による発酵である上記〈12〉に記載のヒドロキシイソフラボンの製造方法。
〈14〉上記発酵は、液体培養による発酵である上記〈12〉又は〈13〉に記載のヒドロキシイソフラボンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗グリケーション組成物によれば、的確且つ安全に抗グリケーション作用が得られる。また、穏やかに且つ継続的に使用することができる。
イソフラボン含有組成物を発酵させて得られた場合は、確実且つ効率よく有効成分を含有させることができる。
発酵をアスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾープス属及びモナスカス属のうちの少なくとも1種の微生物により行った場合は、特に抗グリケーション作用に優れた抗グリケーション組成物が得られる。
イソフラボン含有組成物がイソフラボン配糖体及び/又はイソフラボンアグリコンを合計10質量%以上含有する場合は、特異的に高濃度にヒドロキシイソフラボンが含有される組成物が得られ、より優れた抗グリケーション効果を得ることができる。
発酵を液体培養で行った場合には、高濃度にヒドロキシイソフラボンが含有される組成物が得られ、更に優れた抗グリケーション効果を得ることができる。
イソフラボン配糖体、イソフラボンアグリコン及びヒドロキシイソフラボンの合計に対してヒドロキシイソフラボンが25質量%以上含有される場合は、特に優れた抗グリケーション効果を得ることができる。
【0010】
本発明の飲食物によれば、的確且つ安全に抗グリケーション作用が得られる。また、穏やかに且つ継続的に使用することができる。
本発明の飲食物用添加剤によれば、的確且つ安全に抗グリケーション作用が得られる。また、穏やかに且つ継続的に使用することができる。
本発明の化粧品組成物によれば、的確且つ安全に抗グリケーション作用が得られる。また、穏やかに且つ継続的に使用することができる。
皮膚外用化粧品組成物である場合は、皮膚外用として的確且つ安全に抗グリケーション作用が得られる。また、穏やかに且つ継続的に使用することができる。
本発明の医薬用組成物によれば、的確且つ安全に抗グリケーション作用が得られる。また、穏やかに且つ継続的に使用することができる。
【0011】
本発明のヒドロキシイソフラボンの製造方法によれば、イソフラボン類に対するヒドロキシイソフラボンの含有割合が特異的に高い組成物が得られ、高効率にヒドロキシイソフラボンを得ることができる。
発酵がアスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾープス属、及びモナスカス属のうちの少なくとも1種の微生物による場合は、より高効率にヒドロキシイソフラボンを製造できる。
発酵が液体培養による発酵である場合は、更に高効率にヒドロキシイソフラボンを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]抗グリケーション組成物
本発明の抗グリケーション組成物は、下記化学式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボンのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

尚、以下では、化学式(1)の化合物(8−OHダイゼイン)を「化合物(1)」、化学式(2)の化合物(8−OHゲニステイン)を「化合物(2)」、化学式(3)の化合物(8−OHグリシテイン)を「化合物(3)」、化学式(4)の化合物(6−OHダイゼイン)を「化合物(4)」、化学式(5)の化合物(3’−OHダイゼイン)を「化合物(5)」ともいう。
【0013】
上記「化合物(1)」は、ダイゼイン(イソフラボン誘導体の1種である)の誘導体であって、8位(A環の8位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物である。
上記「化合物(2)」は、ゲニステイン(イソフラボン誘導体の1種である)の誘導体であって、8位(A環の8位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物である。
上記「化合物(3)」は、グリシテイン(イソフラボン誘導体の1種である)の誘導体であって、8位(A環の8位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物である。
上記「化合物(4)」は、ダイゼイン(イソフラボン誘導体の1種である)の誘導体であって、6位(A環の6位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物である。
上記「化合物(5)」は、ダイゼイン(イソフラボン誘導体の1種である)の誘導体であって、3’位(B環の3位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物である。
【0014】
本抗グリケーション組成物に含有されるイソフラボン類に対する上記化合物(1)〜(5)の割合は特に限定されないが、イソフラボン類全体を100質量%とした場合に、上記化合物(1)〜(5)の含有割合は10質量%以上(更には25質量%以上、特に35質量%以上、通常80質量%以下)とすることができる。尚、上記イソフラボン類とは、イソフラボン配糖体、イソフラボンアグリコン及びヒドロキシイソフラボンを意味する。
また、本抗グリケーション組成物に含有される上記化合物(1)〜(5)の量は特に限定されず、目的用途により適宜の含有量とすればよいが、化合物(1)〜(5)は合計で1mg以上(好ましくは10mg以上、更に好ましくは20mg以上、通常60mg以下)含有されることが好ましい。含有量が0.1mg未満では十分な抗グリケーション作用を得ることができない場合があるからである。
【0015】
本発明の抗グリケーション組成物はどのようにして得られたものであってもよいが、イソフラボン含有組成物を発酵させて得られたものであることが好ましい。
上記「イソフラボン含有組成物」は、上記イソフラボン類を含有する組成物であるが、通常、イソフラボン配糖体及びイソフラボンアグリコン、特にイソフラボン配糖体が多く含有される。イソフラボン含有組成物に含有されるイソフラボン類の量は特に限定されないが、通常、イソフラボン組成物全体100質量%に対してイソフラボン類が0.1%以上含有されればよいが、10質量%以上含有されることが好ましい。イソフラボン類の含有量が10質量%未満であると発酵により得られる前記化合物(1)〜(5)のイソフラボン類全体に対する割合が過度に少なく十分な抗グリケーション作用を得ることができない場合がある。このイソフラボン類の含有量は10〜100質量%であることが好ましく、25〜99質量%であることがより好ましく、35〜90質量%であることが更に好ましく、40〜80質量%であることが特に好ましい。イソフラボン含有量の上限は特に限定されず、実質的にイソフラボン類のみからなるイソフラボン含有組成物を用いることもできる。
【0016】
上記イソフラボン含有組成物としては、イソフラボン類が濃縮されて含有された植物抽出物が挙げられる。合成によってイソフラボンを得ることもできるが、通常、イソフラボン類は植物から抽出されたものの方が安価であり、安定して供給されている。尚、大豆加工食品等の製造後に得られる雪花菜などの残渣成分を用いることもできるが、これらは本発明における化合物(1)〜(5)を得る目的においてはイソフラボン類の合計含有量が少ないためにイソフラボン類の合計含有量が上記範囲となるように濃縮して用いることができる。
【0017】
上記植物抽出物を得るための植物としては、豆科植物、バラ科植物、アヤメ科植物、桑科植物及びヒユ科植物などが挙げられる。これらのなかでは豆科植物が好ましい。豆科植物は他の植物に比べてイソフラボン類の含有量が多いからである。更に、豆科植物のなかでも、ソラマメ亜科の植物が好ましい。ソラマメ亜科の植物としては、インゲンマメ連(ダイズ属、クズ属、ササゲ属、キマメ属、ナタマメ属、フジマメ属、デイゴ属、トビカズラ属、パキリスズ属、インゲンマメ属、シカクマメ属、ヒスイカズラ属など)、シャジクソウ連(ウマゴヤシ属、シナガワハギ属など)、ソラマメ連(ソラマメ属、エンドウ属、レンリソウ属、ヒラマメ属など)、アエスキノメネ連(ラッカセイ属など)、ヒヨコマメ連(ヒヨコマメ属など)、クララ連(フジキ属、クララ属など)、テフロシア連(アフゲキア属、デリス属、ナツフジ属、フジ属など)、センダイハギ連(センダイハギ属、ムラサキセンダイハギ属など)等が挙げられる。これらのなかではインゲンマメ連及びシャジクソウ連が好ましい。
【0018】
上記イソフラボン含有組成物の形態には特に限定はない。即ち、例えば、上記植物抽出物のままの状態であり液状物であってもよい。また、植物抽出物を濃縮した液状物であってもよい。更に、これらの液状物を乾燥等により固形化した固形物(例えば、粉状物又は粒状物等)であってもよい。後述するように本発明の目的においてイソフラボン含有組成物は、これらのなかでは液状物であることが好ましい。従って、上記のうち固形物は、発酵に際しては水等の溶媒に溶解又は分散させて用いることが好ましい。上記固形物としては、市販品として、アイソマックス30(株式会社常磐植物化学研究所製、イソフラボン含有量30質量%)、アイソマックス80(株式会社常磐植物化学研究所製、イソフラボン含有量80質量%)、ソヤフラボンHG(不二製油株式会社製、イソフラボン含有量50質量%)等が挙げられる。
【0019】
上記「発酵」は、微生物及び酵素(酵素にあっては前記微生物に由来するか否かをとわない)のうちの少なくともいずれかがイソフラボン含有組成物に作用して、イソフラボン類から上記化合物(1)〜(5)のうちの少なくとも1種が生成されることを意味する。また、この発酵のおいては、上記微生物を用いる場合、発酵過程においてこの微生物の増減はとわない。
発酵に用いる微生物の種類は安全性が保障されている限り特に限定されず、糸状菌(麹菌等)を用いてもよく、細菌(酵母菌、枯草菌及び乳酸菌等)を用いてもよく、これらを併用してもよい。上記化合物(1)〜(5)を効率的に得ることができるからである。
【0020】
上記微生物としては、アスペルギルス属、リゾープス属、モナスカス属、ムコール属、ノイロスポア属及びペニシリウム属等が挙げられる。これらの微生物は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの微生物のなかでは、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾープス属及びモナスカス属が好ましい。これらの微生物によれば前記化合物(1)〜(5)を更に効率的に得ることができるからである。
【0021】
上記アスペルギルス属としては、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・ニガー、アルペルギルス・グラウカス、アルペルギルス・フェティデス、アルペルギルス・タマリ、アルペルギルス・ウサミ等が挙げられる。ペニシリウム属としては、ペニシリウム・ロックフォルテ、ペニシリウム・カマンベルティ等が挙げられる。リゾープス属としては、リゾープス・オリゴスポラス及びリゾープス・ジャパニカス等が挙げられる。モナスカス属としてはモナスカス・アンカ及びモナスカス・パーパレウス等が挙げられる。これらのなかでは、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・オリゼが好ましい。これらの微生物によれば前記化合物(1)〜(5)を特に効率的に得ることができるからである。
【0022】
また、上記各種微生物の形態は特に限定されない。即ち、例えば、下記(1)〜(4)の状態のものを1種又は2種以上用いることができる。(1)斜面培地等に保存してある菌体又は胞子、(2)予めYPG培地等の適宜好ましい培地で培養を行った得られた培養液、(3)各種培地を用いて培養した後、回収した菌体、(4)蒸し米等の固形培地に菌体が生育した麹の状態のもの(日本酒製造、味噌製造等で行われる麹を作る過程を経た麹)。これらのなかでは胞子よりも菌体が好ましい。従って、(1)のうちの菌体及び(2)〜(4)が好ましい。これらのなかでも、斜面培地から液体培地へ植菌して前培養した菌を予め滅菌したイソフラボン含有組成物(本培地)に添加して用いることが特に好ましい。
尚、上記微生物としては、自然的に又はニトロソグアニジン等の化学物質、X線及び紫外線等により人為的な変異手段により生成し、微生物学的性質が変異した変異株も用いることができる。更に、発酵は液体発酵でもよく、固体発酵でもよい。更に、連続発酵でもよく、2種以上の菌株を混合した混合発酵でもよい。
【0023】
上記発酵における培養条件(発酵条件)は特に限定されないが、培養を行うための培地を用いることができる。培地は液体培地であってもよく、固形培地であってもよいが、液体培地が好ましい。化合物(1)〜(5)を得る目的において、得られる組成物中のイソフラボン類全体に対するヒドロキシイソフラボンの割合をより高くすることができるからである。即ち、この発酵は発酵タンク内における液体培養による発酵であることが好ましい。
【0024】
また、培地には、液体培地及び固形培地に関係なく、種々の成分を含有させることができる。この成分としては、微生物に対する栄養源や、培地成分等が挙げられる。
栄養源としては、各種炭素源及び窒素源などを用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。上記炭素源としては、糖類及びデンプン類が挙げられる。即ち、例えば、単糖類(グルコース等)、二糖類(スクロース等)、糖蜜、デンプン(トウモロコシ、馬鈴薯など)等が挙げられる。一方、窒素源としては、イーストエキス、ペプトン、肉エキス、酵母、フィッシュミール、大豆蛋白分解物、カゼイン、アミノ酸、尿素、アンモニウム塩及び硝酸塩等が挙げられる。更に上記炭素源と窒素元素との両方の性質を併せ有する大豆粕、脱脂大豆粉末、コーンスティープリカー等を用いることができる。その他、カリウム塩(酢酸カリウム等)、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及びリン酸塩等の無機塩類ビタミン類、発育促進剤等を併せて用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
更に、培地成分としては、pH調整剤(各種酸及びアルカリ)、及び緩衝剤(リン酸緩衝液、酢酸−リン酸緩衝液、クエン酸−リン酸緩衝液)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
後述するように予め培養した微生物及び麹等を発酵に用いる場合には、上記のうちの栄養源は必ずしも用いる必要はなく、上記pH調整剤及び緩衝剤のうちの少なくとも一方のみを用いて発酵を行うこともできる。一方、それ以外の場合(即ち、微生物を培養している状態で用いる場合)は、通常、上記栄養源やpH調整剤や緩衝剤などを用いる。
【0026】
その他、通常、水が含有される。更に、有機溶媒を含有してもよい。有機溶媒としては、アルコール類(エタノール、メタノール、プロパノールなど)、エステル類(酢酸エチル、酢酸メチルなど)及びケトン類(メチルエチルケトンなど)が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかではアルコール類が好ましく、特にエタノールが好ましい。有機溶媒を用いる場合、その含有量は特に限定されないが、通常、培養組成物全体100質量%に対して0.1〜40質量%である。この含有量は1〜20質量%が好ましく、1〜8質量%が特に好ましい。更に、液体培養を行う場合には、消泡剤を用いることが好ましい。
また、これらの各種他成分は、培養当初から含有されてもよく、培養の途中で添加して用いてもよい。
【0027】
更に、発酵に際しては、通常、通気攪拌を行う。また、培地のpH(特に発酵時)は、3.0〜8.0とすることが好ましい。この範囲では発酵を安定的に行うことができる。更に、この培地のpHは4.0〜6.0が好ましく、4.5〜6.5が更に好ましい。この範囲では特に効率よく上記化合物(1)〜(5)を高濃度に得ることができる。更に、培養温度についても、発酵が行われる限り特に制限はないが、培養温度は、通常15〜50℃、好ましくは20〜45℃、更に好ましくは25〜35℃である。
【0028】
上記イソフラボン含有組成物の発酵により得られた抗グリケーション組成物は、発酵により得られた状態のまま用いてもよく(即ち、培地と共に用いてもよい)、後加工を行ってもよい。後加工としては、抽出処理、濃縮処理、濾過処理、乾燥処理、滅菌処理、pH調整、脱臭処理、脱色処理等を行うことができる。これらは1種のみを行ってもよく2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記抽出処理における上記化合物(1)〜(5)を含有する抽出物を得るための抽出方法、抽出条件については特に限定はない。抽出溶媒としては、水又は熱水の他、水又は熱水をpH調整したpH調整液、メタノール及びエタノール等のアルコール、酢酸エチル等のエステル、n−ヘキサン等の有機溶媒、並びにこれらの有機溶媒と水又は熱水との混合溶媒等を用いることができる。上記抽出溶媒としては、水又は熱水、アルコール(メタノール及びエタノール等)、及び水又は熱水とアルコールとの混合溶媒が好ましい。上記熱水の温度は、通常、40〜100℃、好ましくは50〜80℃、更に好ましくは50〜70℃である。また、抽出の際の抽出溶媒のpHは通常3〜7、好ましくは4〜6、更に好ましくは4〜5である。抽出温度は特に制限されないが、常温又は加熱抽出が好ましい。加熱抽出の場合、加熱温度としては通常40〜100℃、好ましくは50〜80℃、更に好ましくは50〜70℃である。加熱温度をかかる範囲とすることにより、上記化合物(1)〜(5)を変質させることなく抽出を効率的に行うことができる。また必要に応じて分画及び精製等の工程を経ることができる。
【0030】
上記濃縮処理は、溶媒を除去して化合物(1)〜(5)の含有割合を高くする処理である。これにより高濃度に化合物(1)〜(5)を含有する抗グリケーション組成物を得ることができる。濃縮方法は特に限定されず、減圧濃縮、加熱濃縮、真空濃縮等の方法を用いることができる。上記濾過処理は、従来公知の各種方法を用いて行うことができる。これにより培地や残渣等を取り除くことができる。上記乾燥処理は、溶媒を加熱除去(熱風乾燥など)・自然乾燥除去などして乾燥させてもよく、真空乾燥法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法等を用いて乾燥させてもよい。
【0031】
上記滅菌処理は、従来公知のオートクレーブを用いた方法、加熱処理を行う方法等を用いることができる。上記pH調整は、培養時に要した特定のpHを中性に戻す調整等として行うことができる。上記脱臭処理及び脱色処理は、イオン交換樹脂、活性炭カラム及び透析膜等のうちの少なくとも1種を用いて行うことができる。
これらの処理はいずれも化合物(1)〜(5)に影響しない範囲で行う処理である。
【0032】
本発明の抗グリケーション組成物では、用いるイソフラボン含有組成物によってもその成分は変動するが、例えば、抗グリケーション組成物に含有されるイソフラボン類(配糖体、アグリコン及びヒドロキシイソフラボン)全体を100質量%とした場合に、抗グリケーション組成物中に含有される化合物(1)〜(5)の合計割合は10質量%以上(更には、25質量%以上、特に35質量%以上、通常80質量%以下)とすることができる。
また、抗グリケーション組成物全体に対する化合物(1)〜(5)の含有割合も特に限定されないが、例えば、化合物(1)〜(5)の合計量を100質量%とした場合に、化合物(1)を10〜50質量%、化合物(2)を10〜50質量%、化合物(3)を10〜30質量%、化合物(4)を0.1〜10質量%、化合物(5)を0.1〜10質量%の割合で含有できる。
このような組成割合においては特に優れた抗グリケーション作用を発揮させることができる。
【0033】
また、本発明の抗グリケーション組成物による抗グリケーション作用は、蛋白質(即ち、糖とメイラード反応するタンパク質、更に換言すればアミノ基を有するアミノ酸残基を有するタンパク質)、ペプチド及びアミノ酸のいずれにも適用し得るが、特に蛋白質においてその効果に優れる。更に、この蛋白質の種類は特に限定されず、種々の生体内蛋白質に対して有効である。なかでも、血中タンパク質、血管組織中タンパク質、皮膚組織中タンパク質及び水晶体中タンパク質に対して特に有効であり、更には、これらのなかでもアルブミン、ヘモグロビン、コラーゲン、フィブロネクチン及びケラチンに対して優れた抗グリケーション作用が発揮される。
【0034】
本発明の抗グリケーション組成物は、各種の用途に用いることができる。この用途には特に限定はされないが、例えば、飲食物、飲食物用添加剤、化粧品組成物及び医薬用組成物等に用いることができる他、更に、化粧品素材、皮膚外用剤、頭皮外用剤等にも用いることができる。特に飲食物、飲食物用添加剤、化粧品組成物及び医薬用組成物等に好適に配合できる。これらについては後述する。
【0035】
[2]飲食物及び飲食物用添加剤
本発明の飲食物及び飲食物用添加剤は、本発明の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする。これらに含まれる上記抗グリケーション組成物については、前記抗グリケーション組成物がそのまま適用される。
【0036】
本発明の飲食物としては、固形菓子類(キャンディー、飴玉、チューイングガム及びビスケット)等の固形食品、ドリンク剤及び清涼飲料水等の飲料、クリーム状食品及びジャム状食品の半流動食品、ゲル状食品、顆粒状食品及び粉末状食品(直接摂取又は水に溶解もしくは分散させて飲用等)。カプセル状食品(ソフトカプセル、ハードカプセル等)、錠剤状食品(トローチ剤等)、抽出用食品(湯に浸して抽出成分を飲用するパック状食品及び健康茶等)などが挙げられる。本発明の抗グリケーション組成物が配合された飲食物は、健康食品及び機能性食品等として提供できる。
【0037】
前記抗グリケーション組成物を飲食物に配合する方法は特に限定されず、例えば、油脂、エタノール、プロピレングリコール及びグリセリン等のアルコール、並びにこれらの混合物等に前記抗グリケーション組成物を混合、分散又は溶解させて、その後、飲食物に配合して本発明の飲食物を得ることができる。また、バインダとして作用するアラビアガム及びデキストリン等と前記抗グリケーション組成物とを混合した後に乾燥等させて顆粒状、粉末状等の形態の本発明の飲食物を得ることができる。
本発明の飲食物に含有される抗グリケーション組成物の量には特に限定されず、飲食物の種類等により適量を含有できるが、例えば、飲食物全体に、前記化合物(1)〜(5)のうちの少なくとも1種(2種以上の場合には合計量)を1〜100mg、特に10〜20mg含有することが好ましい。上記化合物の含有量が上記範囲内であれば、優れた抗グリケーション作用を発揮させることができる。
【0038】
一方、本発明の飲食物用添加剤としては、液状添加剤、クリーム状及びジャム状の半流動性添加剤、ゲル状添加剤、顆粒状添加剤及び粉末状添加剤(直接摂取又は水に溶解もしくは分散させて飲用等)、錠剤状添加剤などが挙げられる。抗グリケーション組成物を飲食物用添加剤に配合する方法は特に限定されず、例えば、前記飲食物におけると同様な方法を用いることができる。
本発明の飲食物用添加剤に含有される抗グリケーション組成物の量には特に限定されず、飲食物用添加剤の種類等により適量を含有できるが、例えば、飲食物用添加剤全体を100質量%とした場合に、前記化合物(1)〜(5)のうちの少なくとも1種(2種以上の場合には合計量)を1〜100質量%、特に10〜30質量%含有することが好ましい。上記化合物の含有量が上記範囲内であれば、優れた抗グリケーション作用を発揮させることができる。
【0039】
[3]化粧品組成物
本発明の化粧品組成物は、本発明の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする。これらに含まれる上記抗グリケーション組成物については、前記抗グリケーション組成物がそのまま適用される。
【0040】
本発明の化粧品組成物としては、パック、パックシート、各種パウダー、化粧水、リップクリーム、チーククリーム、ファンデーションクリーム、乳液、ローション、ボディローション、クレンジングローション、洗顔クリーム、スキンケアクリーム、ヘアーリンス、ヘアーリキッド等が挙げられる。また、これらの化粧品組成物には、その種類により、必要に応じて、他の成分、例えば、植物エキス、ビタミン、ビタミン様物質、ミネラル、低級アルコール類、多価アルコール類、油脂類、界面活性剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、防腐剤及び香料等を添加することもできる。
本発明の化粧品組成物に含有される抗グリケーション組成物の量には特に限定されず、化粧品組成物の種類等により適量を含有できるが、例えば、化粧品組成物全体を100質量%とした場合に、前記化合物(1)〜(5)のうちの少なくとも1種(2種以上の場合には合計量)を0.01〜1質量%、特に0.05〜0.2質量%含有することが好ましい。上記化合物の含有量が上記範囲内であれば、優れた抗グリケーション作用を発揮させることができる。
【0041】
本発明の化粧品組成物としては、特に皮膚外用化粧品組成物が挙げられる。本発明の抗グリケーション組成物は優れたグリケーション阻害作用等を有するため、皮膚に塗布して用いる化粧品に特に有用である。前記抗グリケーション組成物を有効成分として含有する皮膚外用化粧品組成物は、抗グリケーション組成物と、皮膚外用化粧品組成物に用いられる他の配合剤とを用いて調製することができる。上記他の配合剤としては、例えば、スクワラン及びホホバ油等の液体油、ミツロウ及びセチルアルコール等の固体油、各種の活性剤、グリセリン及び1,3ーブチレングリコール等の保湿剤等が挙げられる。この皮膚外用化粧品組成物の形態には特に限定はない。この皮膚外用化粧品組成物は、例えば、ローション、クリーム及び乳液等、目的に応じて種々形態とすることができる。
【0042】
この皮膚外用化粧品組成物において、抗グリケーション組成物の含有量には特に限定されず、皮膚外用化粧品組成物の種類等により適量を含有できるが、例えば、皮膚外用化粧品組成物全体を100質量%とした場合に、前記化合物(1)〜(5)のうちの少なくとも1種(2種以上の場合には合計量)を0.01〜1質量%、特に0.05〜0.2質量%含有することが好ましい。上記化合物の含有量が上記範囲内であれば、優れた抗グリケーション作用を発揮させることができる。
【0043】
[4]医薬用組成物
本発明の医薬用組成物は、本発明の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする。これらに含まれる上記抗グリケーション組成物については、前記抗グリケーション組成物がそのまま適用される。
【0044】
本発明の医薬用組成物は、抗グリケーション作用を有する。この抗グリケーション作用は、蛋白質(即ち、糖とメイラード反応するタンパク質、更に換言すればアミノ基を有するアミノ酸残基を有するタンパク質)、ペプチド及びアミノ酸のいずれにも適用し得るが、特に蛋白質においてその効果に優れる。更に、この蛋白質の種類は特に限定されず、種々の生体内蛋白質に対して有効である。なかでも、血中タンパク質、血管組織中タンパク質、皮膚組織中タンパク質及び水晶体中タンパク質に対して特に有効であり、更には、これらのなかでもアルブミン、ヘモグロビン、コラーゲン、フィブロネクチン及びケラチンに対して優れた抗グリケーション作用が発揮される。従って、本発明の医薬用組成物を適用できる症状としては、種々の老化現象、例えば、動脈硬化、関節炎、老化による心肺機能の低下、糖尿病(特にその合併症、腎障害及び網膜症等)等が挙げられる。
【0045】
この医薬用組成物には、上記抗グリケーション組成物以外にも他の成分を含有できる。他の成分としては、例えば、成形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、滑沢剤、担体、溶剤、増量剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、増粘剤、被覆剤、吸収促進剤、凝固剤、保存剤(安定剤、防湿剤、着色防止剤、酸化防止剤等)、矯味剤、矯臭剤、着色剤、消泡剤、無痛化剤、帯電防止剤及びpH調節剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
また、この医薬用組成物の形態は特に限定されない。即ち、例えば、固形状、粉末状、顆粒状、クリーム状、液状等とすることができる。また、上記各々の形態において、錠剤(糖衣錠、ゼラチン被包錠、胃溶性被覆錠、腸溶性被覆錠、トローチ剤、水溶性フィルムコーティング錠等)、カプセル剤(硬質ゼラチンカプセル剤及び軟質カプセル剤等)、散剤、顆粒剤、液剤、軟膏剤及び貼付剤などとすることができる。更に、これらの各々は経口剤、注射剤、シロップ剤、坐剤及び外用剤として用いることができる。
【0047】
[5]ヒドロキシイソフラボンの製造方法
本発明のヒドロキシイソフラボンの製造方法は、イソフラボン含有組成物を発酵させる発酵工程を備えるヒドロキシイソフラボンの製造方法であって、
上記イソフラボン含有組成物は、該イソフラボン含有組成物全体に対してイソフラボン配糖体及び/又はイソフラボンアグリコンを合計10質量%以上含有することを特徴とする。
更に、上記発酵は、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾープス属、及びモナスカス属のうちの少なくとも1種による発酵であることが好ましく、特に上記発酵は、液体培養による発酵であることが好ましい。
本発明の製造方法における「イソフラボン含有組成物」及び「発酵」等に関しては前記抗グリケーション組成物において説明した各々をそのまま適用できる。
本製造方法によれば、得られる組成物中に含有されるイソフラボン類(配糖体、アグリコン及びヒドロキシイソフラボン)全体を100質量%とした場合に、上記化合物(1)〜(5)の含有割合を10質量%以上(更には25質量%以上、特に35質量%以上、通常80質量%以下)とすることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(1)前培養
グルコース1質量%、イーストエキス0.5質量%、及び水98.5質量%を混合し、更にpHを5.4に調整し、前培養に用いる培地(前培養培地)を得た。
この前培養培地50mlを三角フラスコ(300mL)に入れ、オートクレーブ内121℃の環境下で20分間滅菌を行った。その後、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi IAM2210)の胞子を保存用のPDA斜面培地から1白金耳取り出し、上記滅菌を行った前培養培地に植菌した。次いで、振とう培養装置を用いて、回転速度180rpm、温度30℃の環境下で24時間培養を行った。
【0049】
(2)本培養(イソフラボン含有組成物の発酵)
スクロース1質量%、イーストエキス0.5質量%、イソフラボン素材(即ち、イソフラボン含有組成物)1.6質量%、消泡剤(信越化学工業株式会社製、KM72F)0.04質量%、及び水96.86質量%を混合し、更にpHを5.1に調整し、本培養に用いる培地(本培養培地)を得た。
この本培養培地2.5Lを5Lのジャーファメンターに入れ、オートクレーブ内121℃の環境下で20分間滅菌を行った。その後、上記(1)で培養した培養液50mlを上記滅菌した本培養培地に植菌した。次いで、通気量0.5L/分、撹拌速度300rpm、温度30℃の環境下で72時間培養を行った。
尚、上記イソフラボン素材(即ち、イソフラボン含有組成物)は、ソヤフラボンHG(不二製油株式会社製、イソフラボン類含有量50質量%)0.8質量%と、ソルゲン40{ソルバー・プラント・エクストラクツ社製(Solbar Plant Extracts)、イソフラボン類含有量40質量%以上)}0.8質量%との混合物である。即ち、イソフラボン含有組成物全体を100質量%とした場合のイソフラボン類の合計含有量は45質量%である。
【0050】
(3)抽出及び粉末化
上記(2)の培養を終えた後、ジャーファメンターから培養液約2.4Lを回収し、撹拌羽付きタンクへ投入した。その後、7.5Lのエタノールをこの撹拌羽付きタンクへ更に投入し、25℃の環境下で3時間撹拌し、抽出を行った。その後、得られた抽出液を、ブフナーロートを設置した吸引瓶を用い、5A濾紙介して固液分離した。
次いで、固液分離により得られた抽出液約10Lをエバポレーターで減圧濃縮し、約2Lにまで濃縮した。その後、凍結乾燥法により粉末化し、本発明の抗グリケーション組成物(イソフラボン発酵物)を24.5g得た。
【0051】
(4)高速液体クロマトグラフ測定
上記(3)までに得られた粉末をエタノール水溶液(水溶液全体に対してエタノール70質量%)に溶解して上記(3)で得られた粉末の濃度が1mg/mLとなるHPLC測定用液を調製した。このHPLC測定用液をフィルター濾過(フィルターサイズ0.45nm)し、下記条件の高速液体クロマトグラフ測定に供した。得られたチャートとその基データを図1に、更に、結果を表1に示した。尚、濃度算出にあたっては各イソフラボンについて別途作成した検量線より求めた換算係数を用いて算出している。ODIについてはアグリコンの換算係数を用い、アグリコン相当量として算出している。
HPLC条件
カラム;CAPCELL PAC C18 UG120 3.0×150mm
+ガードカラム(ODS)
移動相;A−0.1%ギ酸、B−アセトニトリル、A:B=85:15→30:70
の2段グラジエント
流速 ;0.6mL/分
カラム温度;35℃
注入量;10μL
検出器;SPD−M10A(株式会社島津製作所製)
検出波長;254nm(230〜360nm)
【0052】
【表1】

【0053】
上記図1及び表1からイソフラボン類全体に対して、特異的にヒドロキシイソフラボンが多く検出されていることが分かる。上記表1に示すように化合物(1)が4.3質量%、化合物(2)が4.1質量%及び化合物(3)が3.3質量%含有されていることが確認された。これらのヒドロキシイソフラボン類がイソフラボン類全体に占める割合は約52質量%と極めて多い。
【0054】
(5)化合物(1)の分取
上記(3)までに得られた抗グリケーション組成物5gをメタノールに溶解して抽出作業を行い、下記条件のODS分取用カラムを用いて分取HPLCを繰り返すことにより、126mgの白色粉末である化合物(1)の分離精製を行った。
分取HPLC条件
カラム;Develosil ODS−15/30 50mm×500mm
移動相;メタノール/水(35:65 v/v)
流速 ;26mL/分
カラム温度;30℃
検出器;SPD−M10A(株式会社島津製作所製)
検出波長;254nm(230〜360nm)
【0055】
(6)化合物(1)の同定
上記(5)で分取された白色粉末を、EI−MS、及び高分解能EI−MSに供した。また、上記(5)で分取された白色粉末をDMSO−dに溶解し、H−NMR、13C−NMR、H−HCOSY、HMQC及びHMBCに供した。その結果を下記に示す。下記結果からこの化合物は化合物(1)であることが分かる。
EI−MS ; m/z:270(M),152([M−118]),118。
H−NMR ; δH(DMSO−d):10.28(1H,br.s,OH−8)、9.50(1H,br.s,OH−4’)、9.40(1H,br.s,OH−7)、8.33(1H,s,H−2)、7.48(1H,d,J=8.7Hz,H−5)、7.4(2H,d,J=8.5Hz,H−2’,H−6’)、6.96(1H,d,J=8.7Hz,H−6)、6.82(2H,d,J=8.5z,H−3’,H−5’)。
13C−NMR ; δC(DMSO−d):175.3(C−4)、157.3(C−4’)、152.7(C−2)、150.1(C−7)、146.9(C−9)、133.0(C−8)、130.3(C−2’,C−6’)、123.1(C−3)、122.8(C−1’)、117.6(C−10)、115.8(C−5)、115.1(C−3’、C−5’)、114.1(C−6)。
HREI−MS ; m/z(M):Calcd for C1510;270.0528、found:270.0526。
【0056】
(7)抗グリケーション作用の確認1
下記成分{蛋白質及び糖(還元糖)}を含有する200mMリン酸緩衝液(pH7.4)0.98mLと下記抗グリケーション組成物20μLとをエッペンドルフチューブに入れ、37℃の温度下にて5.8日間反応させた。その後、AGEsによる蛍光強度測定を行った。更に、合計12.7日となるようにそのまま反応させて、同様に蛍光強度測定を行った。その結果を表2に示す。また、蛍光強度測定に関する測定条件を下記に示した。
反応液
蛋白質;牛胎仔血清アルブミン20mg/mL、
糖(還元糖);D−フルクトース500mM
抗グリケーション組成物;上記(5)で分取された白色粉末をDMSOに溶解し、濃度5mM及び濃度1mMに各々調製した液体20μL
測定条件
5.8日間及び12.7日間、各々反応させた反応液を50倍に希釈し、励起波長350nm、蛍光波長425nmにて蛍光強度測定を行った。また、各反応液0.6mLに同量の10%TCA溶液を加えて撹拌し、その後、氷冷して3500rpmで遠心分離して沈殿物と上清とに分離させた。このうちの沈殿物に5%TCA溶液を1.2mL加えて撹拌し、同様の操作を3回繰り返して行い沈殿物に8Mグアニジン塩酸塩溶液を1.8mL加えて、沈殿物を完全に溶解させた後、100倍に希釈して得られた液体についても同様に蛍光強度測定を行った。
【0057】
尚、この蛍光強度測定は、グリケーションにより生成される最終生成物であるAGEsが特異的に蛍光能を示すために、この蛍光強度を測定することで、間接的にAGEsの相対濃度を比較できることを利用したものである。
【0058】
【表2】

【0059】
上記表2の結果より、非沈殿物における実験結果においても、沈殿物における実験結果においても、実験例1(コントロール)における蛍光強度は5.8日間で10.9倍に増加され、12.7日間で12.9倍にまで増加されている。これはAGEsの生成量がこれだけ増えていることを示すものである。この結果に対して、本実施例である実験例2{1mM−化合物(1)}における蛍光強度は5.8日間で1.7倍、12.7日で2.7倍であり、著しく小さくなっている。即ち、それだけAGEsの生成が抑制されていることを示す結果である。同様に、本実施例である実験例3{5mM−化合物(1)}における蛍光強度は5.8日間で1.5倍、12.7日で1.8倍であり、同様に著しく小さくなっていることが分かる。更に、実験例3では、実験例2に比べて濃度が高いものを使用しているために、特に12.7日におけるAGEs生成濃度が抑制されていることが分かる。
【0060】
沈殿物に対する実験結果も同様な蛍光が認められる。即ち、実験例4(コントロール)における蛍光強度は5.8日間で9.3倍に増加され、12.7日間で11.1倍にまで増加されている。この結果に対して、本実施例である実験例5{1mM−化合物(1)}における蛍光強度は5.8日間で1.6倍、12.7日で2.7倍であり、著しく小さい。同様に、本実施例である実験例6{5mM−化合物(1)}における蛍光強度は5.8日間で1.4倍、12.7日で2.0倍であり、同様に著しく小さい。実験例6では、実験例5に比べて濃度が高いものを使用しているために、特に12.7日におけるAGEs生成濃度が抑制されていることも同様である。
【0061】
(8)抗グリケーション作用の確認2
上記(3)で得られた抗グリケーション組成物(イソフラボン発酵物)を用い、上記(7)と同様に抗グリケーション作用を確認した。また、実験例8及び13では上記(3)で得られた抗グリケーション組成物を70%エタノール水溶液に溶解して1mg/mLの濃度となるように調整して使用した。同様に実験例9及び14では上記(3)で得られた抗グリケーション組成物を70%エタノール水溶液に溶解して0.5mg/mLの濃度となるように調整して使用した。更に、既知の抗グリケーション作用を有する成分であるアミノグアニジンを陽性対照として用い、同様の濃度として使用した。その結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3の結果からも実験例7及び12であるコントロールに比べてAGEs生成が抑制されていることから、本組成物に優れた抗グリケーション作用が認められることが分かる。更に、実験例10、11、15及び16であるアミノグアニジンと比較しても優れた抗グリケーション作用が発揮されていることが分かる。即ち、実験例10では5.8日で5.3倍及び12.7日で6.4倍、実験例11では5.8日で7.8倍及び12.7日で9.5倍、実験例15では5.8日で5.1倍及び12.7日で6.4倍、実験例16では5.8日で9.6倍及び12.7日で10.2倍である。
これに対して、実験例8では5.8日で1.3倍及び12.7日で1.9倍、実験例9では5.8日で1.1倍及び12.7日で1.6倍、実験例13では5.8日で1.2倍及び12.7日で1.8倍、実験例14では5.8日で1.5倍及び12.7日で2.9倍であり、いずれも同じ濃度で比べた場合には著しく優れた抗グリケーション作用が認められ、いずれも5〜7倍程度の効果が認められていることが分かる。
【0064】
尚、本発明は、上記具体的実施例に限定されない。本発明は、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の抗グリケーション組成物は、安全に、穏やか且つ継続的に使用できる抗グリケーション組成物である。本発明の抗グリケーション組成物は、飲食物、飲食物用添加剤及び化粧品組成物等に配合して用いることができる。即ち、本発明は、飲食物、飲食物用添加剤及び化粧品組成物等の分野において利用することができる他、医薬品としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例で得られた本発明品をHPLCに供して得られたチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボンのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする抗グリケーション組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項2】
イソフラボン含有組成物を発酵させて得られた請求項1に記載の抗グリケーション組成物。
【請求項3】
上記発酵は、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾープス属、及びモナスカス属のうちの少なくとも1種の微生物による発酵である請求項2記載の抗グリケーション組成物。
【請求項4】
上記イソフラボン含有組成物は、該イソフラボン含有組成物全体に対してイソフラボン配糖体及び/又はイソフラボンアグリコンを合計10質量%以上含有する請求項2又は3に記載の抗グリケーション組成物。
【請求項5】
上記発酵は、液体培養による発酵である請求項2乃至4のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物。
【請求項6】
イソフラボン配糖体、イソフラボンアグリコン及び上記ヒドロキシイソフラボンのうちの少なくとも該ヒドロキシイソフラボンを含有し、
イソフラボン配糖体、イソフラボンアグリコン及び該ヒドロキシイソフラボンの合計を100質量%とした場合に、該ヒドロキシイソフラボンが25質量%以上含有される請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする飲食物。
【請求項8】
請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする飲食物用添加剤。
【請求項9】
請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする化粧品組成物。
【請求項10】
皮膚外用化粧品組成物である請求項9に記載の化粧品組成物。
【請求項11】
請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の抗グリケーション組成物を含有することを特徴とする医薬用組成物。
【請求項12】
イソフラボン含有組成物を発酵させる発酵工程を備えるヒドロキシイソフラボンの製造方法であって、
上記イソフラボン含有組成物は、該イソフラボン含有組成物全体に対してイソフラボン配糖体及び/又はイソフラボンアグリコンを合計10質量%以上含有することを特徴とするヒドロキシイソフラボンの製造方法。
【請求項13】
上記発酵は、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾープス属、及びモナスカス属のうちの少なくとも1種の微生物による発酵である請求項12に記載のヒドロキシイソフラボンの製造方法。
【請求項14】
上記発酵は、液体培養による発酵である請求項12又は13に記載のヒドロキシイソフラボンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−56576(P2008−56576A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232762(P2006−232762)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(591155884)株式会社東洋発酵 (21)
【Fターム(参考)】