説明

抗老化剤

【課題】 新規抗老化剤の提供。
【解決手段】 本発明はプロウロキナーゼ活性化阻害剤及び/又はウロキナーゼ阻害剤、特に下記一般式(1)で表されるトラネキサム酸のアミド体及び化粧品学的に許容されるその塩からなる群より選択される1種または2種以上を含有する抗老化剤を提供する:
【化1】


(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子、炭素数1〜18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記一般式(2)を示し
【化2】


[式中、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子を示し、n=0〜3である。])。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロウロキナーゼ活性化阻害剤及び/又はウロキナーゼ阻害剤を活性成分として含有する抗老化剤を提供する。特に、本発明は、プロウロキナーゼ活性化阻害剤たるトラネキサム酸のアミド誘導体または化粧品学的に許容されるその塩を有効成分として含有する抗老化剤、詳しくは乾燥によるしわの形成を抑える及び/又は形成したしわを改善するのに有効な皮膚外用剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
化粧および皮膚科学分野では、皮膚に対する乾燥雰囲気・日光の照射をはじめとする外界環境の影響や加齢による損傷を改善もしくは治療すべく多種多様な手段が提案され、また、試みられている。例えば、乾燥による皮膚変化としては、しわの形成、硬化もしくは弾力性の低下等が主なものとしてあげられる。
【0003】
このような変化の原因として、皮膚真皮におけるコラーゲン、エラスチン、グルコサミノグリカンからなる膠原線維、弾性線維の機能低下に主な関心が向けられている。これまで、このような変化を防止もしくは修復する手段として、コラーゲン線維減損の防止により角質やしわを抑制するためのヒドロキシカルボン酸類の使用(例、特許第253339号公報)、ヒト線維芽細胞におけるグルコサミノグリカン(具体的にはヒアルロン酸)の産生能を亢進することにより真皮において保湿効果を奏するリゾリン脂質の使用(特開平8−67621号公報)が検討されている。
【0004】
一方、乾燥・洗浄などを原因とする肌荒れに関し、これまでの化粧品研究とは異なる観点からの研究の結果、肌荒れ発生にタンパク分解酵素(プロテアーゼ)が重要な役割を果たしていることが明らかとされている。例えば、皮膚の正常な角化過程においては表皮細胞内のプロテアーゼが重要な役割を果たしていると考えられているが、乾燥・洗浄剤等の刺激によって表皮細胞が異常増殖した皮膚では、本来ならば表皮基底層付近に局在しているプラスミノーゲンが表皮全層に活性なプラスミンとして散在していることが明らかにされてきた(北村ら:粧技誌;29(2), 133頁(1995)(非特許文献1))。プラスミンはその前駆体であるプラスミノーゲンがプラスミノーゲンアクチベーター(PA)によって活性化されたプロテアーゼであり、血液凝固系において血栓形成の抑制という重要な役割を果たしているが、過剰産生されると非特異的なタンパク分解作用により組織や細胞を破壊したり、毛細血管の拡張、血管浸透性の亢進、平滑筋の収縮、疼痛といった、炎症、アナフィラキシーショックの原因となり得る有害なペプチドを生じ、生体にとって悪影響を及ぼすことが知られている。
【0005】
また、ひとたび皮膚のバリアー機能が破壊されると、表皮細胞の異常増殖や皮膚の外観に変化が生じる以前に、PAの1つであるウロキナーゼの活性が皮膚の上層で高まることも明らかにされている。ウロキナーゼは細胞増殖を促す作用を有しているため、過剰に増加することが表皮肥厚の原因の一つになっていると考えられる。ウロキナーゼはその不活性前駆体であるプロウロキナーゼの切断・活性化により生成される。従って、プロウロキナーゼのウロキナーゼに至る活性化を抑制することで、乾燥や洗浄剤などの刺激によって生ずる肌荒れ・ニキビなどの表皮の増殖異常の改善、防止を図ることができる(特開2003-2821公報(特許文献3))。
【0006】
このように、乾燥・洗浄などを原因とする肌荒れなどにおけるプロテアーゼの役割・関与、あるいはその対処方法についての研究はある程度なされているが、乾燥などによる老化現象、特にしわの形成における各種プロテアーゼの役割・関与については十分に解明されていない。
【特許文献1】特開平6-72843号公報
【特許文献2】特開2002-212068号公報
【特許文献3】特開2003-2821号公報
【非特許文献1】粧技誌;29(2),133頁(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術とは全く異なる新たな切り口で、抗老化剤、特に乾燥によるしわの形成を抑える及び/又は形成したしわを改善するのに有効な皮膚外用剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、角層水分量が低く、しわのできやすいとされる乾燥肌とウロキナーゼ(プラスミノーゲンアクチベーター)活性との関係を調べたところ、乾燥肌においてウロキナーゼ活性が有意に亢進していることを見出した。そして、プロウロキナーゼのウロキナーゼに至る活性化を阻害する薬剤(以下、単に「プロウロキナーゼ活性化阻害剤」と称する場合がある)をかかる乾燥肌に適用し、ウロキナーゼ活性を抑えることで、しわ形成を有意に改善・防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って、本発明は下記の発明を提供する。
[1] プロウロキナーゼ活性化阻害剤及び/又はウロキナーゼ阻害剤を活性成分として含有する、乾燥によるしわ形成の防止及び/又は形成したしわの改善のための抗老化剤。
[2] プロウロキナーゼ活性化阻害剤を活性成分として含有する、乾燥によるしわ形成の防止及び/又は形成したしわの改善のための抗老化剤。
[3] 前記プロウロキナーゼ活性化阻害剤が下記一般式(1)で表されるトラネキサム酸のアミド体及び化粧品学的に許容されるその塩からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、[1]又は[2]の抗老化剤:
【化1】

(式中、R1及びR2は水素原子、炭素数1〜18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記一般式(2)を示し、R1及びR2はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【化2】

[式中、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子を示し、n=0〜3である。])。
[4] 前記ウロキナーゼ阻害剤がアミロライド、酸化亜鉛及び酸化亜鉛と他の無機または有機化合物との複合体からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかの抗老化剤。
【0010】
[5] プロウロキナーゼの活性化を阻害する及び/又はウロキナーゼの活性を阻害することを特徴とする、乾燥によるしわ形成の防止及び/又は形成したしわの改善のための方法。かかる方法には、治療方法、予防方法、美容方法、化粧方法などが含まれる。
[6] プロウロキナーゼの活性化を阻害することを特徴とする、乾燥によるしわ形成の防止及び/又は形成したしわの改善のための方法。
[7] 前記プロウロキナーゼの活性化の阻害が、下記一般式(1)で表されるトラネキサム酸のアミド体及び化粧品学的に許容されるその塩からなる群より選択される1種または2種以上を肌に適用することにより達成される、[5]又は[6]の方法:
【化3】

(式中、R1及びR2は水素原子、炭素数1〜18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記一般式(2)を示し、R1及びR2はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【化4】

[式中、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子を示し、n=0〜3である。])。
[8] 前記ウロキナーゼ阻害剤がアミロライド、酸化亜鉛及び酸化亜鉛と他の無機または有機化合物との複合体からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、[5]〜[7]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、抗老化剤、特に乾燥によるしわの形成を抑える及び/又は形成したしわを改善するのに有効な皮膚外用剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ウロキナーゼは血栓溶解酵素の一つであるセリンプロテアーゼであり、フィブリン溶解酵素の前駆酵素であるプラスミノーゲンを活性型プラスミンに転化する働きを有する。生体内ではウロキナーゼはその不活性前駆体プロウロキナーゼの切断・活性化によりその活性を発現する。上述のとおり、乾燥などによる肌荒れの生じた皮膚においてウロキナーゼの活性が亢進されることは見出されているが(特開2003-22821)、乾燥による皮膚老化、特にしわの形成との関連についてはなにひとつ解明されていない。なお、本発明でいう「老化」とは、加齢に伴う皮膚変化であり、詳しくは「皮膚のしわが増える」、「皮膚がたるむ」、「皮膚のはりが低下する」等のような美容上好ましくない様々な変化のことをいう。また、「しわ」とは、皮丘・皮溝で構成されるきめに比べ、はっきり筋目として現れる皮膚の形態変化であり、皮膚老化が外観に現れるもっとも顕著な変化の一つをいう。顔面や首、その他の身体各部に現れ、増加し、深くなると加齢したように見える。これらは乾燥などによる角質層上の一部剥離や皮溝の部分的消失を伴う肌荒れやニキビ面皰等を伴うとは形態的な点で本質的に区別される。
【0013】
本発明でいう「しわの防止」とは、本発明に係る抗老化剤を皮膚に予め適用することで、乾燥環境など、しわの形成されやすい環境に曝される肌のしわ形成を未然に抑制することを意味する。また、本発明でいう「形成したしわの改善」とは、上記しわの形成されやすい環境に曝されたことで形成された肌上のしわの長さ、深さ、数などを有意に減少させることをいう。このような「しわの防止」、「形成したしわの改善」の有無は、定量的又は定性的手段により判定することが可能であり、精度を高めるために例えば二重遮蔽対比較法(ICHガイドラインE9)により判定することが可能である。
【0014】
本発明に係るプロウロキナーゼ活性化阻害剤たる上記トラネキサム酸のアミド体および化粧品学的に許容されるその塩は、例えば、ActaPharm. Suecica, 7, 441(1970); J. Med. Chem., 15, 247(1972) 等に記載の方法に従い、合成することができる。
【0015】
例えば、トラネキサム酸のアミノ基を適当な保護基、例えば、ベンジルオキシカルボニル基等によって保護した後、該保護体または該保護体の反応性誘導体にアミン成分を反応させることにより、トラネキサム酸保護体のアミド体が製造される。該保護体の反応性誘導体としては酸クロライド、酸ブロマイドのような酸ハライド、混合酸無水物等が好適である。その後、該保護基を接触還元等により脱離し、トラネキサム酸のアミド体が製造される。
【0016】
上記トラネキサム酸アミド体は、所望によりその化粧品学的に許容される塩、例えば塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸塩、あるいは酢酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸塩等とすることができる。
【0017】
具体的に物質名を例示すれば、トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−n−ヘキシル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−n−ヘキシル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−n−ヘプチル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−n−ヘプチル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−n−ブチル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−n−ブチル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−n−プロピル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−シクロヘキシル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−シクロヘキシル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N,N−ジシクロヘキシル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N,N−ジエチル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N,N−ジエチル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−ベンジル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−ベンジル−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−(4′−メトキシフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−(4′−メトキシフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−(4′−エトキシフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−(4′−エトキシフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−(2′−メチルフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−(2′−メチルフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−(3′−メチルフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−(3′−メチルフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、N−(4′−クロロフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド、塩酸N−(4′−クロロフェニル)−トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボンアミド等があげられる。
【0018】
本発明に係るウロキナーゼ阻害剤としては、アミロライド、酸化亜鉛及び酸化亜鉛と他の無機または有機化合物との複合体などが挙げられる。
【0019】
前記プロウロキナーゼ活性化阻害剤及び/又はウロキナーゼ阻害剤の合計配合量は抗老化剤全量中0.001〜30質量%、特に0.01〜15質量%であることが好ましい。0.001 質量%未満では、本発明の抗老化効果が十分に発揮されず、30質量%を越えると使用性上好ましくない。プロウロキナーゼ活性化阻害剤:ウロキナーゼ阻害剤の活性の比は特に制限されることはないが、1〜3:5〜8であることが好ましい。
【0020】
本発明の抗老化剤の剤型は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水- 油二層系、水- 油- 粉末三層系等、どのような剤型でも構わない。また、本発明の抗老化剤の用途も任意であり、ローション、乳液、クリーム、ジェル、パック等のフェーシャル化粧料やファンデーション、口紅、アイシャドー等のメーキャップ化粧料やボディー化粧料、芳香化粧料、洗浄料、軟膏、浴用剤等に用いることができる。本発明の抗老化剤は外皮に塗布して使用するのが特に好ましい。塗布方法は特に限定されるものではないが、例えば表皮に1日1回以上、例えば1日1から3回、塗布する皮膚面積に応じて適量、例えば1〜5ml塗布するのが好ましい。
【0021】
また、上記必須成分以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、乳化剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0022】
その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、火棘の果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0023】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、この実施例により、本発明の技術的範囲が限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下の実施例等で、配合量を表す数値は、特に断わらない限り、配合される対象全体に対する質量%で表される。
【実施例】
【0024】
試験1) 乾燥肌とウロキナーゼ活性との関係
冬期に肌が乾燥しやすい女性42名を被験者として、その角層上におけるウロキナーゼ活性を測定した。詳しくは、予め角層水分量をSKINCON−200(アイ・ビイ・エス(株))で測定した上記被験者の被験部位たる頬にセロハンテープを軽く押し付け、角層外層を剥離した。採取した角層をプラスミノーゲンを含むフィブリン平板上に静置し、37℃において180時間放置した。フィブリン平板の溶解によりウロキナーゼ活性の存在を確認した。以下の表に42名分のデーターをまとめた結果を示す。
【表1】

結果の示すとおり、ウロキナーゼ活性を有する角層水分量は、ウロキナーゼ活性を有しない角層水分量と比べ、統計学上有意に低かった。従って、角層水分量が多く、いわゆる潤いのあるとされる肌に比べ、角層水分量の低い、いわゆるしわの形成しやすい乾燥肌においては、ウロキナーゼの活性が有意に亢進していることが明らかとなった。
【0025】
試験2) 試験試料4週連用後の皮膚表面状態(レプリカ)に基づく小じわの評価
プロウロキナーゼ活性化阻害剤であるトラネキサム酸メチルアミド塩酸塩0.7%を含有する及び含有しない以下の処方の配合化粧水(A)及び(P)それぞれを調製した。
【表2】

この配合化粧水を用い、顔面頬部の肌荒れが左右同程度の成人男女モニター40名(男性28名、女性12名)について、二重遮蔽対比較法により、トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩のしわ防止効果を評価した。
【0026】
詳しくは、1日2回洗顔後、各被験者自身により、右顔面部に「右用」と表示した試料を、左顔面部に「左用」と表示した試料を適量塗布させた。なお、「右用」、「左用」試料が配合化粧水(A)、(P)のいずれであるかは被験者毎に記録してある。試験試料の塗布は、「右用」は右掌、「左用」は左掌で行うように指示し、両試験試料の混合を避けるようにした。
【0027】
試験開始日とその4週間後を観察測定日とし、左右の目尻から真下3cmのところにリキッドライナーで黒小点(観察部位の目印)をつけ、その点を中心にシリコンラバー製レプリカ剤(資生堂社製 Lot No.220161)を用いて顔面左右頬部の皮膚表面レプリカを採取した。採取したレプリカを実体顕微鏡(オリンパス社製)を用い、10倍の拡大率で黒小点(観察部位の目印)を中心に観察し、下記表に示した判定基準に基づいて判定者が顔面左右頬部における皮膚表面状態の程度を評価し、評点を与えた。4週後と試験開始日の評点の差を改善度とした。
【表3】

【0028】
以下の表に40名分のデーターをまとめた結果を示す。
【表4】

表中、
「A>P」は配合化粧水Aの塗布による改善度が、配合化粧水Pの塗布による改善度を上回った場合;
「A=P」は改善度が同等の場合;
「A<P」は配合化粧水Aの塗布による改善度が、配合化粧水Pの塗布による改善度を下回った場合;
である。
【0029】
結果の示すとおり、0.7%のトラネキサム酸メチルアミド塩酸塩を配合した化粧水(配合(A))の連用は、トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩の配合されていない化粧水(配合(B))に比べ、しわの形成を統計学的に有意に抑制した。従って、角層上でのウロキナーゼ活性を抑制することにより、乾燥などを原因とするしわ形成を抑制できることが明らかとなった。
【0030】
処方例1:化粧水
本発明に係る抗老化効果を発揮する有効成分を配合した化粧水の処方例を示す。
No. 名称 配合量
1 グリセリン 1
2 ジプロピレングリコール 12
3 クエン酸 0.02
4 メチルパラベン 0.1
5 エタノール(95%) 8
6 POEメチルグルコシド 3
7 POE(24)POP(13)デシルテトラデシルエーテル 0.4
8 クエン酸ナトリウム 0.08
9 ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン 0.5
10 チオタウリン 0.01
11 アデノシン3リン酸−2ナトリウム 0.01
12 ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
13 EDTA−3Na 0.01
14 ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム 0.05
15 ヒドロキシエチルセルロース 0.15
16 フィトステロール 0.1
17 イブキジャコウエキス 0.5
18 ブナの芽エキス 0.2
19 アセンヤクエキス 2
20 クララエキス 1
21 トラネキサム酸エチルアミド塩酸塩 0.6
22 精製水 残余
23 香料 適量
24 色材 適量
【0031】
処方例2:乳液1
本発明に係る抗老化効果を発揮する有効成分を配合した乳液の処方例を示す。
No. 名称 配合量
1 メチルポリシロキサン 2
2 デカメチルシクロペンタシロキサン 2
3 セイフショテイヘンセイアルコール 5
4 グリセリン 6
5 1,3−ブチレングリコール 5
6 ポリオキシエチレンメチルグルコシド 3
7 ヒマワリユ 0.1
8 スクワラン 0.5
9 水酸化カリウム 0.1
10 メタリン酸ナトリウム 0.05
11 パラオキシ安息香酸エステル 0.2
12 ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム 0.05
13 シャクヤクエキス 1
14 ユキノシタ抽出液 0.5
15 ヨクイニンエキス 2
16 ペパーミント抽出液 0.1
17 メリッサ抽出液 0.5
18 キサンタンガム 0.05
19 カルボキシビニルポリマー 0.15
20 アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.1
21 トラネキサム酸プロピルアミド乳酸塩 1.2
22 酸化亜塩 5.0
23 精製水 残余
24 香料 適量
25 色材 適量
【0032】
処方例3:乳液2
本発明に係る抗老化効果を発揮する有効成分を配合した乳液の別の処方例を示す。
No. 名称 配合量
1 メチルポリシロキサン 1
2 ベヘニルアルコール 1
3 バチルアルコール 0.5
4 ノウグリセリン 10
5 1,3−ブチレングリコール 7
6 エリスリトール 1.5
7 コウカユ 5
8 スクワラン 8
9 テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 2
10 イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 1.5
11 モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン 1
12 水酸化カリウム 0.1
13 メタリン酸ナトリウム 0.1
14 フェノキシエタノール 0.5
15 カルボキシビニルポリマー 0.15
16 エイジツエキス 0.5
17 セイヨウノコギリソウ抽出液 0.1
18 ハマメリス抽出液 0.5
19 ヒオウギ抽出液 1
20 ラベンダー抽出液 2
21 トラネキサム酸ヘキシルアミドクエン酸塩 1.5
22 シリカ被覆酸化亜塩 5.0
23 精製水 残余
24 香料 適量
25 色材 適量
【0033】
処方例4:クリーム1
本発明に係る抗老化効果を発揮する有効成分を配合したクリームの処方例を示す。
No. 名称 配合量
1 流動パラフィン 5.00
2 ワセリン 1.00
3 メチルポリシロキサン 1.00
4 ステアリルアルコール 2.00
5 ベヘニルアルコール 2.00
6 ノウグリセリン 8.00
7 ジプロピレングリコール 5.00
8 マカデミアナッツユ 0.50
9 硬化油 3.00
10 スクワラン 4.00
11 ステアリン酸 2.00
12 ヒドロキシステアリン酸コレステリル 0.50
13 2−エチルヘキサン酸セチル 4.00
14 ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.01
15 ジコニュウカガタモノステアリン酸グリセリン 3.00
16 水酸化カリウム 0.15
17 メタリン酸ナトリウム 0.01
18 パラオキシアンソクコウ酸エステル 0.30
19 エデト酸3ナトリウム 0.01
20 4−TERT−ブチル−4′−メトキシジベンゾイルメタン 0.05
21 ジパラメトキシケイヒ酸モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル 0.05
22 カルボキシビニルポリマー 0.10
23 緑茶抽出液 0.10
24 エリスリトール 0.50
25 ヨモギ抽出液 1.00
26 バーチ抽出液 0.50
27 ボタンピ抽出液 2.00
28 トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩 0.90
29 シリカ被覆酸化亜鉛 3.00
30 精製水 残余
31 香料 適量
32 色材 適量
【0034】
処方例5:クリーム2
本発明に係る抗老化効果を発揮する有効成分を配合したクリームの別の処方例を示す。
No. 名称 配合量
1 メチルポリシロキサン 2
2 デカメチルシクロペンタシロキサン 10
3 オクタメチルシクロテトラシロキサン 15
4 ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 3
5 政府所定変性アルコール 2
6 イソプロパノール 1
7 ノウグリセリン 3
8 ジプロピレングリコール 5
9 ポリエチレングリコール6000 1
10 メタリン酸ナトリウム 0.05
11 パラオキシ安息香酸エステル 0.3
12 エデト酸3ナトリウム 0.05
13 ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム 0.01
14 トリメトキシケイヒ酸メチルビス(トリメチルシロキシ)
シリルイソペンチル 0.1
15 ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 1.5
16 ポリビニルアルコール 0.5
17 ヒドロキシエチルセルロース 0.5
18 トリメチルシロキシケイ酸 2
19 ビワ抽出液 0.5
20 L−アルギニン 0.5
21 活性酵母エキス 0.5
22 コラデカバロ抽出液 0.1
23 L−セリン 0.1
24 トラネキサム酸エチルアミド酢酸塩 1.0
25 精製水 残余
26 香料 適量
27 色材 適量
【0035】
処方例6:ジェル
本発明に係る抗老化効果を発揮する有効成分を配合したジェルの処方例を示す。
No. 名称 配合量
1 ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 5
2 ジプロピレングリコール 3
3 1,3−ブチレングリコール 10
4 ポリエチレングリコール1500 1
5 ポリオキシエチレンメチルグルコシド 1
6 ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール 5
7 水酸化カリウム 0.3
8 パラオキシ安息香酸エステル 0.2
9 エデト酸−3Na 0.05
10 ヒドロキシプロピルメチルセルロース 1
11 カルボキシビニルポリマー 0.5
12 コリアンダーエキス 0.5
13 アルテア抽出液 0.5
14 シャクヤク抽出液 0.5
15 メリッサ抽出液 1
16 油溶性甘草エキス 1
17 トラネキサム酸エチルアミドリン酸塩 0.8
18 精製水 残余
19 香料 適量
20 色材 適量
【0036】
処方例7:ピールオフマスク
本発明に係る抗老化効果を発揮する有効成分を配合したピールオフマスクの処方例を示す。
No. 名称 配合量
1 グリセリン 3
2 1,3−ブチレングリコール 8
3 ポリエチレングリコール1500 2
4 クエン酸 0.1
5 クエン酸ナトリウム 0.2
6 KOH 0.05
7 メタリン酸ナトリウム 0.01
8 パラオキシ安息香酸エステル 0.15
9 キサンタンガム 0.05
10 カルボキシビニルポリマー 0.15
11 エイジツエキス 0.1
12 オウゴンエキス 0.5
13 活性酵母エキス 0.5
14 グルタチオン 0.1
15 トラネキサム酸ベンジルアミド硫酸塩 0.5
16 酸化亜塩 1.0
17 精製水 残余
18 香料 適量
19 色材 適量
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、抗老化剤、特に乾燥によるしわの形成を抑える及び/又は形成したしわを改善するのに有効な皮膚外用剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロウロキナーゼ活性化阻害剤及び/又はウロキナーゼ阻害剤を活性成分として含有する、乾燥によるしわ形成の防止及び/又は形成したしわの改善のための抗老化剤。
【請求項2】
プロウロキナーゼ活性化阻害剤を活性成分として含有する、乾燥によるしわ形成の防止及び/又は形成したしわの改善のための抗老化剤。
【請求項3】
前記プロウロキナーゼ活性化阻害剤が下記一般式(1)で表されるトラネキサム酸のアミド体及び化粧品学的に許容されるその塩からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1又は2記載の抗老化剤:
【化1】

(式中、R1及びR2は水素原子、炭素数1〜18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記一般式(2)を示し、R1及びR2はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【化2】

[式中、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子を示し、n=0〜3である。])。
【請求項4】
前記ウロキナーゼ阻害剤がアミロライド、酸化亜鉛及び酸化亜鉛と他の無機または有機化合物との複合体からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の抗老化剤。
【請求項5】
プロウロキナーゼの活性化を阻害する及び/又はウロキナーゼの活性を阻害することを特徴とする、乾燥によるしわ形成の防止及び/又は形成したしわの改善のための方法。
【請求項6】
プロウロキナーゼの活性化を阻害することを特徴とする、乾燥によるしわ形成の防止及び/又は形成したしわの改善のための方法。
【請求項7】
前記プロウロキナーゼの活性化の阻害が、下記一般式(1)で表されるトラネキサム酸のアミド体及び化粧品学的に許容されるその塩からなる群より選択される1種または2種以上を肌に適用することにより達成される、請求項5又は6記載の方法:
【化3】

(式中、R1及びR2は水素原子、炭素数1〜18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記一般式(2)を示し、R1及びR2はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【化4】

[式中、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子を示し、n=0〜3である。])。

【公開番号】特開2006−8550(P2006−8550A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184939(P2004−184939)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】