説明

拡散面一点微小変位自動計測処理装置

【課題】拡散面でも面垂直方向の変位を非接触で測定可能になっているが、現段階では干渉縞の移動距離を目視で計測してあらかじめ用意した校正データに照らし合わせて測定面の変位を算出する作業が必要である。これは煩雑な作業であり、またシステム全体の自動化を妨げている。これを除いて自動計測を可能にする必要がある。
【解決手段】
測定面である拡散面と参照面からの反射光によって生じる同心円上の干渉縞を光学装置で読み取り、この画像データ上で円中心方向への沈み込みまたは円中心からの湧き上がりの移動量を算出して、これを相殺するように参照面を面垂直方向に変位させ、この変位させた量は測定面の面垂直方向の変位と同じであるので、この変位させた量を測定面の面垂直方向の変位として示す。これによって、自動計測が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は面の垂直方向の変位を非接触に自動的に計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に拡散面であっても照射レーザーのスポット径を小さく絞ることにより、拡散面からの反射光をあたかも鏡面からの反射光のように得ることが可能となり、この測定面からの反射光と参照光からの反射光との干渉によって干渉縞を形成して、測定面の面垂直方向の変位が同心円上の干渉縞の円中心方向への沈み込みまたは湧き上がりの移動となって表示され、移動量から測定面の変位が算出される方法がすでに提案されている。
【非特許文献1】レーザー研究、Vol.32、pp538〜542,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
加工中の製品の加工面の垂直方向の変位を非接触で高精度に自動計測する要求に対し、レーザーを用いた微小変位計測では、規則性のある反射光を得るために測定物は鏡面である必要があるが、実製品の測定において、被測定物が鏡面であるという条件は非常に少なく、拡散面であることが多い。
【0004】
拡散面でも変位は非接触で測定可能になっているが、現段階では干渉縞の移動距離を目視で計測してあらかじめ用意した校正データに照らし合わせて測定面の変位を算出する作業が必要である。これは煩雑な作業であり、これを除くために自動計測を可能にする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を、測定面である拡散面と参照面からの反射光によって生じる同心円状の干渉縞を光学装置で読み取り、この画像データ上で円中心方向への沈み込みまたは円中心からの湧き上がりの移動量を算出して、これを相殺するように参照面を面垂直方向に変位させ、この変位させた量は測定面の面垂直方向の変位と同じであるので、この変位させた量を測定面の面垂直方向の変位として示す。これによって、自動計測が可能になる。
【0006】
同心円状の干渉縞の円中心方向への沈み込みまたは円中心からの湧き上がりの移動を算出する部分において、画面上の同心円状の干渉縞から目視であらかじめおおよその円中心座標を与え、この円中心のX座標上の円弧内の任意の点からY方向の円弧との交点を求め,その半径が最大になる点をX方向に走査をして求める。この中間点が新たに円中心座標となる。
【0007】
このようにハフ変換でなく、円中心を求めた後、画像データ上で改めて円弧を認識して、その移動量を実時間で算出して、測定面の変位を相殺する参照面の変位を与えるための駆動信号を算出して駆動装置に与える。このときの参照面に与えた変位を表示すれば計測が自動化されたことになる。
【発明の効果】
【0008】
被測定物が鏡面でない拡散面である加工中の製品の加工面の凹凸や面垂直変位を非接触で高精度に実時間で自動計測することが可能になる。このことは加工や検査方法を大きく変えることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図は正確なスケールで描かれているものではなく、図面を見やすくするために誇張して描かれている部分がある。
【実施例】
【0010】
1.自動化アルゴリズム
図1は本実施例の自動計測を行うためのシステム構成例を表した図である。
図2は拡散面である測定面と参照面からの反射光で作られる同心円状の干渉縞の写真である。図3は自動計測を行うために必要となる動作を表したフローチャート図である。
【0011】
図1に示すように円情報の抽出は、CCDカメラから取り込んだ干渉縞画像を2値化処理によって二値化した後、円の中心部から上下方向に画素を走査して円を検出する。測定面が変位する前の画像から抽出した円情報を基準と決めておき、変位した後の画像と円情報を比較することにより、円情報の変位が検出できる。
【0012】
検出された円情報の変位をもとに、PZT駆動電圧をPZTに印加する。PZTは参照面に取り付けられており、参照面を光軸方向に移動させる。基準画像と比較し、測定面の移動と差分がなくなるまで参照面のPZTの印加電圧を自動制御することにより、測定面の変位量が分かる。常に参照面は測定面の移動を補うように実時間で動くことになる。円情報の抽出処理からPZTに印加し、参照面距離の補正が1回完了するまでの時間内の変位距離が1/2波長(±1/4波長)より小さい変位を検出することができる。このループを繰り返せば理論的には計測範囲の制限はない。
【0013】
2.同心円状の中心座標とその同心円の半径抽出アルゴリズム
図4は同心円状の干渉縞の円中心座標とその第1円と第2円の半径算出の求め方を表した図である。
【0014】
円情報の抽出に用いる方法として、一般的にハフ変換を用いることが多いが、基本となるハフ変換では、縦×横がNドットの画面を扱った場合Nの4乗のオーダーで処理回数が増えることから、処理の高速化は困難である。別のハフ変換では、処理時間の低減を図ることができるが。それでも、画像サイズ256x256の円検出に0.8〜288秒かかることから、根本的な処理時間の低減にはならない。
【0015】
本発明では、干渉縞が一定の中心点から湧き沈みする性質を利用し、中心から縦方向に走査していき、谷部分の円情報を検出する手法を用いる。手法そのものは単純な走査であるので、最大でも画像の縦サイズ分だけ走査することにより、円情報を抽出することができる。
【0016】
この円検出方法は、干渉縞の性質である、ある一定の点を中心に縞の湧き沈みが起こる性質を利用する。同じ測定物の測定で、干渉縞の中心の位置がずれることは考えにくいので、目視により縞の中心位置をあらかじめ決めておく。そして、入力された中心点から縦方向に走査を開始する。二値画像の干渉縞の谷は黒画素となり、また谷は幅を持つため、黒画素が縦方向に連続して出現した点を円との接点と考える。この縦方向に連続して出現する点の数は円を検出するための最適な値が与えられる。ここで最小の円を第1円、2番目に小さい円を第2円とする。第2円の検出には、第1円で検出した円の接点からさらに外方向に走査を行うことによって求まる。
【0017】
図4において,目視による中心点の決定では、本来の中心点とのずれが起こることが予想されるので、入力された中心点からX方向に走査範囲を広げておき、円との2つの交点を求め,交点間の距離が最大になる線の中間点を新たに円の中心座標とする。
【0018】
中心座標が決まった後、その捜査線上の第1円の交点から第1円の半径を求め,さらに交点からさらに走査を延ばし,第2円との交点を求め,これから第2円の半径を求める。
【0019】
本発明では、干渉縞画像に対し画像処理を施すことにより、微小変位の検出を図るが、干渉縞である図2の画像から分かるように、円中心部に近い縞の明暗のほうが間隔が大きく、鮮明に写っている。そのため画像処理では、円中心付近の円情報を用いる。干渉縞そのものを用いるのではなく、縞にある暗(谷)の部分を用いる。縞そのものを画像処理に用いない理由は、干渉縞の明度自体が安定していないためである。撮影状況によるところも大きいが、実験中では干渉縞の中心から最初の谷と2番目の谷から安定して円情報が得られる。
【0020】
3.実施装置
図5は自動計測の実験装置を示す。図1において、干渉の生ずる場所にスクリーンを配置し、干渉縞の明暗のパターンを映し出し、CCDカメラによりパソコンに取り込む。スクリーンは必ずしも必要ではないが、スクリーンを用いない場合には、光電変換素子を用いての計測が必要となる。ディジタル画像処理系を用いることにより、時間的な応答は幾分劣化してしまうが、同心円状の干渉縞の2 次元的な変化を追随することができる。
【0021】
CCDカメラからパソコンに取り込まれた画像は、画像処理により同心円情報を抽出後、基準となる画像との比較を行い、差分を補正するように参照面駆動のPZTに印加電圧を加える。印加電圧は、ヒステリシス特性によるグラフを基に制御する。なお今回の実験では、変位の分かっている測定面として、PZTによって面垂直方向に駆動される拡散面を用いて実験を行った。
【0022】
実験で用いた光学系は、光源にHe−Neガスレーザ(波長633nm)を用い、ビームエキスパンダにより、直径20mmの平行ビームに拡大する。その後、焦点距離f=150mmの突レンズでビームを収束させる。焦点でのスポット径は、6.04マイクロmとなる。CCDカメラの解像度は、640x640である。
【0023】
4.動作結果
図6は自動計測を動作させたときの画面の一例を示す。図7は図2のグレイスケールの同心円状の干渉縞にしきい値処理を用いて2値化を行った結果である。図8は参照面駆動用PZT印加電圧と参照面垂直変位を表したグラフである。図9は測定面駆動用PZT印加電圧と参照面垂直変位を表したグラフである。表1は同心円状の干渉縞の円中心座標とその第1円と第2円の半径算出例である。表2は負帰還をかけて自動計測を行った結果例である。
【0024】
図6に示すように、自動計測を動作させたときの画面は同心円状の干渉縞を見てあらかじめ入力されたおおよその中心座標表示と、測定面が変位する前の最初の干渉縞に対して求められた第1円と第2円の半径(図6の基準値)と、測定面を変位させた後の干渉縞に対して求められた第1円と第2円の半径(図6の現在値)と、その時に参照面を垂直方向に移動させるためにPZTにかけた電圧と、電圧から図9を用いて算出された変位が、示される。第1円と第2円の半径は測定面が変位する前と後では、負帰還がかかっているため理論的には同じである。従って測定面の変位と参照面の変位は等しい。
【0025】
表1は図4で示すように2値化された同心円状の円から、目視で与えられた第1円と第2円のおおよその中心座標と、算出された中心座標と、算出された第1円と第2円の半径を示した結果である
【0026】
【表1】

【0027】
負帰還時に参照面のPZTにかける電圧はプログラム内で計算されるため、この駆動電圧から参照面の変位距離は算出される。駆動電圧と参照面の変位距離との関係は円弧が一つ分沈み込んだり、湧き上がったりする距離が1/2波長分に相当することから図8に示されるように前もって求めておく。同様に擬似的に物体の変位を与える測定用PZTの場合も図9のように求めておく。PZTは一般的に図8のようにヒステリシスを持つが測定面用には必要無いと考え、ここには記載しなかった。
【0028】
表2に示すように実際に負帰還をかけて測定した検出結果は10.9671[nm]となっている。負帰還がかかって同心円の第1円または第2円が動いて重なることが確認された上に、表示された値である。従って自動計測はされていると考えられる。
【0029】
【表2】

【0030】
これに対して測定面駆動用PZTに印加した電圧から図9を用いて算出した変位は61.7nmであった。自動計測時に大きな誤差が出るのは、一つには参照面にかかる電圧が時系列的に増加、すなわち移動が単一方向でないため、参照面駆動用PZTの電圧から変位を算出するときに、図8で示されるヒステリシスの範囲で適当な値を出してしまうためと考える。これを解決するためにはヒステリシスのない参照面駆動素子を用いなければならない。
【0031】
また、測定面のPZTを駆動させないまま微小変位の計測を行ったときに、本来ならば基準画像と変位後の干渉縞の大きさは変わらないはずであるが、変位検出時に干渉縞の大きさが変化してしまうため、参照面駆動用PZTが動作し、変位量がプラスマイナス5[nm] 程度検出されてしまう。これは部屋の温度や振動を受けるためと考える。
【0032】
本発明では、レーザー干渉計を用いた拡散面における一点に対して微小変位計測の自動化を実現した。この自動計測装置は同心円状のレーザー干渉縞の円抽出にハフ変換を用いていないので、高速化されたシステムを構成することができた。
【0033】
図7は図2のグレイスケールの同心円状の干渉縞に2値化処理を行った結果である。2値化処理により、良好な2値画像が得られていることや、2値画像からの円情報検出も良好な結果を得ている。また、2値化処理の開始から円情報検出が完了するまでの処理時間を、GetTickCount()関数で計測したが、20ms前後で検出され、ハフ変換の手法と比較し、処理対象画像サイズは大きくなっているのに、処理速度は短縮されており、高速化が実現できている。
【産業上の利用可能性】
【0034】
製品や加工中の面垂直方向の変位を自動的に計測できることによって、生産工程の中に、製品の測定や加工検査を組み込むことが可能になり、結果として省人化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】自動計測を行うためのシステム構成例を表した図である。
【図2】同心円状の干渉縞の写真である。
【図3】自動計測を行うためのフローチャート図である。
【図4】同心円状の干渉縞の円中心座標とその第1円と第2円の半径算出の求め方を表した図である。
【図5】自動計測の実施をしたときの写真である。
【図6】自動計測動作時の同心円状の干渉縞の第1円と第2円の半径算出と測定面変位算出を行った時の表示例である。
【図7】同心円状の干渉縞の2値化例した図である。
【図8】参照面駆動用PZT印加電圧と参照面変位を表したグラフである。
【図9】測定面駆動用PZT印加電圧と参照面変位を表したグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1 測定面
2 参照面
3 PZT
4 ビームスプリッタ
5 レンズ
6 スクリーン
7 CCDカメラ
8 レーザビーム
9 コンピュータ
10 レーザエキスパンダ
11 レーザ発信器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散面の面垂直方向の変位を計測する装置において、
拡散面と参照面からの反射光によって生じる干渉縞と、
これを読みとる光学装置と、
この画像を処理して拡散面の変位によって生じる同心円上の干渉縞の円中心方向への沈み込みまたは円中心からの湧き上がりの移動を算出する部分と
干渉縞の移動を参照面の面垂直方向の変位によって相殺させる部分と
相殺するために参照面に面垂直方向に与えた変位から拡散面の面垂直方向の変位を算出する部分と、
を備えた、
ことを特徴とする計測処理装置
【請求項2】
請求項1に記載の同心円状の干渉縞の円中心方向への沈み込みまたは円中心からの湧き上がりの移動を算出する部分において、
画面上の同心円状の干渉縞から目視であらかじめおおよその円中心座標を与え、この円中心のX座標上の円弧内の任意の点からY方向の円弧との交点を求め,その半径が最大になる点をX方向に走査をして求める。この中間点が新たに円中心座標となる。このようにハフ変換でなく円の中心を求める、
ことを特徴とする計測処理装置。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−71663(P2007−71663A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258340(P2005−258340)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】