説明

振動子の製造方法

【課題】拡散のプロセスやウェットエッチング液の性質、状態によらずに振動子を作製するための製造方法を提供する。
【解決手段】基板表面に高濃度不純物層を形成する工程と、高濃度不純物層上にマスクを形成する工程と、マスクを振動子の形状にパターニングする工程と、ドライエッチングによりパターニングした振動子の下方を残して少なくとも基板に達するまで高濃度不純物層を除去する工程と、ウエットエッチングにより高濃度不純物層の下方を除去して梁状の振動子を形成する工程と、高濃度不純物層上に形成したマスクを除去する工程と、
を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動式センサに用いられる振動子に関し、特に拡散のプロセスやウェットエッチング液の性質、状態によらずに独立なパラメーターによって形状を決定できようにしたSi単結晶振動子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2(a〜d)は従来のSi単結晶振動子の製造工程の一例を示す断面図である。図2(a)において、Si基板4(n+)の上面にボロン(B)を拡散する(振動子を形成する)領域以外の部分を酸化膜5でマスクする。
【0003】
次に、図2(b)に示すように、基板4(n+)の振動子を形成する領域にボロン(p++)を拡散する。この時、拡散部6と共に領域“AR02”にp型不純物が低濃度にドーピングされた下ギャップ犠牲層(p+)が形成される。
【0004】
次に、図2(c)に示すように、酸化膜5を除去する。最後に、図2(d)に示すように、拡散部6(p++)を残すように、領域”AR02”に形成された下ギャップ犠牲層(p+)を水酸化テトラメチルアンモニウムやヒドラジン等のアルカリ溶液でエッチングする。この時、基板4にはアルカリ溶液の電位に対して“+”の電圧を印加しておく。
【0005】
このエッチングは、拡散部6(p++)と下ギャップ犠牲層(p+)の不純物の濃度の差を利用したものである。基板4は印加された電圧により、アルカリ溶液と接する面が陽極酸化されるので、アルカリ溶液から保護される。このエッチングにより、基板4(n+)と拡散部6(p++)の間に空隙部ができる。
【0006】
振動子となる領域を基板4へのボロン拡散において形成するため、拡散部6の形状が不純物の拡散方程式で規定される単純な形状となる。さらに、拡散部6の寸法(深さ)及びボロン濃度は、拡散源の濃度と量、拡散温度、拡散時間で安定に決めることができる。
【0007】
この結果、基板4の上面にボロンを拡散する領域以外の部分を酸化膜5でマスクし、基板4の振動子を形成する領域にボロンを拡散し、酸化膜5を除去すると共に拡散部6を残すように、領域“AR02”に形成された下ギャップ犠牲層を水酸化テトラメチルアンモニウムやヒドラジン等のアルカリ溶液でエッチングすることにより、拡散部6の形状が不純物の拡散方程式で規定される単純な形状となり、振動子の寸法及びボロン濃度が安定に決められるので、形状のばらつきが小さく、安定に形成することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−001400号公報
【特許文献2】特開平11−135805号公報
【特許文献3】特開2008−078202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、図2に示す従来例においては、拡散とウェットエッチングによってSi単結晶梁を形成している。
拡散は、図2(b)のようにマスク酸化膜の縁から横方向にも進むので、梁の幅を拡散深さまで考慮して決めなければならない。従って、梁の寸法が拡散条件によっても変動することになってしまう。
【0010】
アルカリ液のエッチングレートは液温や液の混合比(ヒドラジンと水等)、液中の不純物量等によって変動しやすくバラつきが大きい。梁を形成するためにはこのような液で、梁の周囲四面(上面、底面と両側面)をエッチングすることになるので形状が安定しない。また、様々な不純物濃度の梁を形成したい場合、エッチングレートは不純物濃度にも依存するため同じ条件でエッチングできない。
【0011】
このようにウェットエッチングによる梁形成では、安定した形状の梁の作製が困難である。
従って本発明は、拡散のプロセスやウェットエッチング液の性質、状態によらずに独立なパラメーターによって形状を決定することが可能な、Si単結晶梁の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の振動子の製造方法の発明においては、
1)基板表面に高濃度不純物層を形成する工程、
2)前記高濃度不純物層上にマスクを形成する工程、
3)前記マスクを振動子の形状にパターニングする工程、
4)ドライエッチングにより前記パターニングした振動子の下方を残して少なくとも前記基板に達するまで前記高濃度不純物層を除去する工程、
5)ウエットエッチングにより前記高濃度不純物層の下方を除去して梁状の振動子を形成する工程、
6)工程2で前記高濃度不純物層上に形成したマスクを除去する工程、
を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項2においては、請求項1に記載の振動子の製造方法の発明において、
前記高濃度不純物層はp++拡散層又はp++エピタキシャル成長層であることを特徴とする。
【0014】
請求項3においては、請求項1に記載の振動子の製造方法の発明において、
前記ドライエッチングはシリコン深堀エッチング装置を用いて行うことを特徴とする。
【0015】
請求項4においては、請求項1に記載の振動子の製造方法の発明において、
前記ウエットエッチングはアルカリ液で電解エッチングにより行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1〜4によれば、
1)Si単結晶梁幅が寸法精度の良いマスクによって決まるようになり,エッチングの不安定さが梁幅に影響しなくなる。
2)ドライエッチングではエッチングが垂直に進むため,梁の断面形状が単純な長方形に近い形状となり,従来の方法では避けられない梁両端の横方向拡散に起因する曲面部がなくなり,梁内の不純物分布は深さのみに依存するようになる。
【0017】
3)従来の方法では,梁の振動子としての特性を正確に考える場合,曲面部も含めた梁の断面の二次元的な不純物の分布を考慮に入れなければならなかったが,深さ方向の分布を考えるだけでよくなる。
4)ウェットエッチングする面が梁下面のみになり,エッチングのバラつきが梁形状に影響しにくくなる。また、エッチング時間を短くできるため,バラつきの量も小さくなる。
【0018】
5)従来の方法ではアルカリエッチング時に梁上面が常に液に接していた。高濃度不純物層のエッチングレートは低いとはいえ,梁上面の若干のエッチングは避けられなかった。本発明では深堀エッチングのマスクをそのままアルカリエッチングのマスクにも使用できるため,梁上面部がエッチング液に直接触れることを避けることができる。その結果、梁上面のエッチングを防ぎ梁の厚みの減少,及びそれに伴う寸法のバラつきを防ぐことができる。
【0019】
6)ドライエッチングのエッチングレートバラつきに関しては,振動子寸法には影響しない。即ち、振動子幅は上述のとおりマスクのパターンの精度で決まり,振動子の厚さに関しては,拡散深さによって決まるからである。例えSiドライエッチングのレートがバラついてエッチングの深さがバラついても振動子の厚さに直接影響することはない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の振動子の製作工程の実施形態の一例を示す要部断面図(a〜e)である。
【図2】従来の振動子の製作工程の一例を示す要部断面図(a〜d)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1(a〜e)は本発明の振動子の製作工程を示す要部断面である。
工程に従って説明する。
工程(a)n型Si基板1にSi単結晶梁となる高濃度B拡散層(p++)2を例えば4〜5μm程度の深さに形成する(図1(a))。
【0022】
Si基板への高濃度B拡散は、例えば表面の不純物濃度を1.5×1020cm-3程度とした場合、基板とのPN接合部近くの不純物濃度は1×1019cm-3以下となる。
本発明ではこのB拡散層(p++)2の深さ方向の不純物濃度の違いによるエッチング速度の違い又は基板と高濃度B拡散層のエッチング速度の違いを利用する。
【0023】
工程(b)高濃度B拡散層(p++)2の表面に例えば0.5μm程度の厚さのマスク(例えばSiO2膜)3を形成し、例えば20μm×1mm程度の梁の形にパターニングを行う(図1(b))。
【0024】
工程(c)シリコン深堀エッチング装置でドライエッチングを行い、高濃度B層(p++)2の下部の基板まで深堀を行う(図1(c))。
Si深堀エッチングではエッチングが垂直に進むため、梁の断面形状が単純な長方形に近い形状となり、図2で述べた従来の方法では避けられない梁両端の横方向拡散に起因する曲面部がなくなり、梁内の不純物分布は深さのみに依存するようになる。
【0025】
即ち、従来方法では、梁の振動子としての特性を正確に考える場合、曲面部も含めた梁の断面の二次元的な不純物の分布を考慮に入れなければならなかったが、工程(c)によれば深さ方向の分布を考えるだけでよくなる。
【0026】
また、ウェットエッチングする面が梁下面のみになり、エッチングのバラつきが梁形状に影響しにくくなり、従来例に比較してエッチング時間を短くできるため形状のバラつきの量も小さくなる(従来の方法ではアルカリエッチング時に梁上面が常に液に接していた。高濃度BドープSiのエッチングレートは低いとはいえ、梁上面の若干のエッチングは避けられなかった)
【0027】
工程(c)では深堀エッチングのマスク(酸化膜)3をそのままアルカリエッチングのマスクにも使用できるため、梁上面部がエッチング液に直接触れることを避けられる。これによって梁上面のエッチングを防ぎ梁の厚みの減少、及びそれに伴う寸法のバラつきを防ぐことができる。
【0028】
またSi深堀エッチングのエッチングレートバラつきに関しては、振動子寸法には影響しない。振動子幅は上述のようにマスク酸化膜のパターンの精度で決まり、振動子の厚さに関しては、拡散深さによって決まるからである。例えSi深堀エッチングのレートがバラついて深堀の深さがバラついても振動子の厚さに直接影響しない。
工程(d)梁下部をアルカリ液で電解エッチングし、Si単結晶梁を浮かせる。(図1(d))
【0029】
工程(a)で述べたように、基板1上の高濃度拡散層(p++)2は上方が不純物濃度1.5×1020cm-3程度である。この不純物濃度は下方に行くほど薄くなりの基板とのPN接合部近くの不純物濃度は1×1019cm-3以下となっている。このような不純物濃度勾配を有する層に対してアルカリ液で電解エッチングすると不純物濃度が薄い方(下方)から横方向にエッチングされて振動子となる梁が形成される。
工程(e)マスク酸化膜3を除去する。(図1(e))
その結果、形成された梁は高濃度B(p++)による張力を持った振動子となる。
【0030】
上述の製作工程によれば、Si単結晶梁幅が寸法精度の良いマスク酸化膜によって決まるようになり、エッチングの不安定さが梁幅に影響しなくなる。
【0031】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えば実施例では拡散部の不純物濃度や梁(振動子)の寸法など具体的な数値をあげて説明したが、これらの寸法や数値は適宜変更可能である。
【0032】
不純物層の形成としてはB拡散としたが、例えばBをp++エピタキシャル成長により形成してもよい。その場合、振動子に相当する層の下部のp++エピタキシャル成長層の不純物濃度を順次(又は最下層のみ例えば0.5μm程度)上層より薄く形成すれば、その部分のみをエッチングすることができる。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0033】
1、4 Si基板
2、6 拡散部(振動子・・・高濃度層)
3、5 マスク(酸化膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)基板表面に高濃度不純物層を形成する工程、
2)前記高濃度不純物層上にマスクを形成する工程、
3)前記マスクを振動子の形状にパターニングする工程、
4)ドライエッチングにより前記パターニングした振動子の下方を残して少なくとも前記基板に達するまで前記高濃度不純物層を除去する工程、
5)ウエットエッチングにより前記高濃度不純物層の下方を除去して梁状の振動子を形成する工程、
6)工程2で前記高濃度不純物層上に形成したマスクを除去する工程、
を含むことを特徴とする振動子の製造方法。
【請求項2】
前記高濃度不純物層はp++拡散層又はp++エピタキシャル成長層であることを特徴とする請求項1に記載の振動子の製造方法。
【請求項3】
前記ドライエッチングはシリコン深堀エッチング装置を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の振動子の製造方法。
【請求項4】
前記ウエットエッチングはアルカリ液で電解エッチングにより行うことを特徴とする請求項1に記載の振動子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−40652(P2012−40652A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185025(P2010−185025)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】