説明

振動片および発振器

【課題】熱伝導によるQ値の低下を防止することができる振動片及び発振器を提供する。
【解決手段】本発明の振動片20は、振動により圧縮応力又は引張り応力を受ける第1領
域と、前記第1領域の圧縮応力又は引張り応力と相反する引張り応力又は圧縮応力を受け
る第2領域を有する振動体を備え、前記振動体表面における前記第1領域と前記第2領域
の間に前記振動体よりも熱伝導率の高い膜を少なくとも1層形成し、前記膜は、前記第1
領域と前記第2領域の間で少なくとも1層が削除された凹部60を形成したことを特徴と
している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に振動片および発振器の熱伝導によるQ値の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、振動片として1対の振動腕が互いに接近又は離反する向きに振動する音叉型の圧
電振動片が広く用いられている。このような音叉型振動片を屈曲振動させたとき、その振
動エネルギーに損失が生じると、CI値の増加やQ値の低下などの振動子の性能を低下さ
せる原因となっていた。この振動エネルギーの損失の一因として熱伝導が考えられている

【0003】
図8は圧電振動片の熱伝導の説明図である。図8において圧電振動片1は、連結部2か
ら延出する2本の平行な振動腕3,4を備えている。この状態で図示しない励振電極に所
定の電圧を印加すると、振動腕3,4は、互いに離反する振動状態のとき、斜線領域Aに
示すように振動腕3,4の外側の根元付近で圧縮応力が作用する。一方、斜線領域Bに示
すように振動腕3,4の内側の根元付近では引張り応力が作用する。また振動腕3,4が
離反から接近の振動状態のときには、斜線領域Aでは引張り応力が作用し、斜線領域Bで
は圧縮応力が作用する。圧縮応力が作用する領域は温度が上昇し、引張り応力が作用する
領域は温度が下降する。屈曲振動する振動腕の圧縮部と引張応力を受ける伸張部との間で
発生する熱伝導により、振動エネルギーの損失が生じる。このような熱伝導により生じる
Q値の低下は、熱弾性損失と呼ばれている。
【0004】
熱弾性損失によるQ値低下を防止又は抑制するために、矩形断面を有する振動腕の中心
線上に溝又は孔を形成した音叉型の振動子が開示されている(例えば特許文献1)。
【0005】
特許文献1によれば、一般に温度差を原因として生じる固体の内部摩擦の場合によく知
られた歪みと応力の関係式から、熱弾性損失は、屈曲振動モードの振動子において、振動
数が変化したときに、緩和振動数fm=1/2πτ(ここでπは円周率、τは緩和時間)
でQ値が極小となる、と説明されている。このQ値と周波数との関係を一般的に表すと、
図9の曲線Fのようになる。同図において、Q値が極小Q0となる周波数が熱緩和周波数
f0(=1/2πτ)である。またf/f0=1を境にして周波数が高い領域(1<f/
f0)が断熱的領域となり、周波数が低い領域(f/f0<1)が等温的領域となる。
【0006】
一方、基本波モード振動の周波数が高い周波数安定性を有し、Q値が高い音叉形状の屈
曲振動子として図10に示すような屈曲振動片がある。図10は従来の屈曲振動片の構成
概略を示す図である。同図(1)は平面図を示し、(2)は(1)のA−A線断面図を示
している。図示のように屈曲振動片100は、音叉腕102と音叉腕基部104を備え、
音叉腕102の上下面に溝106を設け、この溝106の側面部に電極110,112を
配置している。また電極に対抗して音叉腕102の側面に極性の異なる電極114,11
6を配置している(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平2−32229号公報
【特許文献2】特開2005−39767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2の溝を形成した構成によれば、図10(2)に示すように音叉腕102
の圧縮領域と引張り領域間の熱伝達経路が溝106によって途中で狭められている。その
結果、圧縮領域と引張り領域間で温度が平衡状態になるまでの緩和時間τが長くなる。こ
れにより図9に示す断熱的領域では、溝106を形成することで、曲線F自体の形は変化
せず、緩和周波数の低下に伴って、曲線Fが曲線F1の位置まで周波数の低下方向にシフ
トしたことになる。このため矢印aに示すようにQ値が高くなる。ところが、電極を形成
すると、曲線Fが曲線F2の位置までシフトし、矢印bに示すようにQ値が低下してしま
う。この原因として、電極が熱伝達経路を形成することが考えられる。すなわち電極材料
のように導電性を有する材料は熱伝導率が大きい。導電性材料では金属のフォノンのほか
に電子が熱エネルギーを運搬する。図10(2)の矢印に示すように、熱伝導が水晶材料
に加えて、電極を介しても行なわれるため、緩和時間τが早くなり、緩和周波数の上昇に
伴って、曲線Fが曲線F2の位置まで周波数の上昇方向にシフトしたと考えられる。
【0009】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点を解決するため、熱伝導によるQ値の低下を防
止することができる振動片および、これを実装した発振器を提供することを目的としてい
る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
〔適用例1〕振動により圧縮応力又は引張り応力を受ける第1領域と、前記第1領域の圧
縮応力又は引張り応力と相反する引張り応力又は圧縮応力を受ける第2領域を有する振動
体を備え、前記振動体表面における前記第1領域と前記第2領域の間に前記振動体よりも
熱伝導率の高い膜を少なくとも1層形成し、前記膜は、前記第1領域と前記第2領域の間
で少なくとも1層が削除された凹部を形成したことを特徴とする振動片。
【0011】
これによれば、振動による圧縮応力又は引張り応力を交互に受ける第1及び第2の領域
の間で振動体表面に形成した膜の一部が削除されるので、圧縮領域と引張り領域の熱伝達
経路が制限されて緩和時間が長くなり、緩和周波数が低下する。このため、熱伝導に起因
するQ値の低下を防止して高くすることができる。
【0012】
〔適用例2〕前記振動体は溝部を備え、前記溝部に前記凹部を形成したことを特徴とする
適用例1に記載の振動片。
溝部を形成することにより圧縮領域と引張り領域で温度が平衡状態になるまでの緩和時
間が長くなり、緩和周波数が低下して熱伝導に起因するQ値の低下を防止して高くするこ
とができる。
【0013】
〔適用例3〕前記振動体が屈曲振動をするものであることを特徴とする適用例1又は適用
例2に記載の振動片。
これにより屈曲振動により生じる圧縮応力又は引張り応力に伴う熱伝導によるQ値の低
下を防止して高くすることができる。
【0014】
〔適用例4〕適用例1ないし適用例3のいずれか1に記載の前記振動片を用いたことを特
徴とする発振器。
これにより上記記載の振動片を備え、熱伝導によるQ値の低下が改善された発振器を得
ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態の振動片の構成概略を示す図である。
【図2】振動片のA−A線断面図である
【図3】膜材料の熱伝導率を示す図である。
【図4】第2実施形態の振動片の特徴部分を示す断面図である。
【図5】第3実施形態の振動片の特徴部分を示す平面図である。
【図6】第4実施形態の振動片の特徴部分を示す断面図である。
【図7】本発明の振動片を実装した発振器を示す図である。
【図8】圧電振動片の熱伝導の説明図である。
【図9】緩和周波数とQ値の極小値との関係を示す図である。
【図10】従来の屈曲振動片の構成概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の振動片および発振器を添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。なお本
実施形態の振動片は、音叉型圧電振動片を用いて以下説明するが、振動片はこれに限らず
、振動によって温度上昇部分と温度低下部分が対向するように発生するものであればよい
。即ち、振動片は圧電体に限られるものではなく、また振動モードも屈曲振動に限るもの
ではない。図1は第1実施形態の振動片の構成概略を示す図である。図2は図1のA−A
線断面図である。
【0017】
振動片20は、図示のように、基部22と、基部22から延びる一対の振動腕24と、
一対の支持腕32を備えている。ここで本実施形態では振動片20の材料として水晶を用
いている。振動片20は水晶以外にもタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、チタン酸
ジルコン酸鉛等の圧電材料、シリコン半導体などの半導体材料、またはその他絶縁体材料
などを適用することが可能である。
【0018】
振動体となる振動腕24は、基部22に接続される根元部において、基部側に向けて幅
を拡げてあり、広い幅で基部22に接続するので剛性が高くなっている。図2に示すよう
に振動腕24には、第1及び第2の面のそれぞれに長手方向に溝部となる長溝30が形成
されている。この長溝30によって熱弾性損失が低減し、効率的に振動することとなり、
さらには電界効率の向上(即ち励振効率の向上)によってCI値を下げることができる。
【0019】
支持腕32は、基部22から一対の振動腕24の伸びる方向とは交差方向(例えば垂直
方向)であってそれぞれ相互に反対方向に延び、一対の振動腕24の延びる方向に屈曲し
てさらに延びている。屈曲することで、支持腕32は小型化される。支持腕32は図示し
ないパッケージなどに取り付けられる部分であり、支持腕32での取り付けによって振動
腕24及び基部22はパッケージ内で浮いた状態となる。なお本実施形態では、支持腕3
2が2本の振動腕24を挟むように両脇に配置されているが、支持腕32が振動腕24の
間に少なくとも1本配置されている形態であってもよい。
【0020】
基部22には、相互に対向方向に一対の切り込み38が形成されている。一対の切り込
み38は、基部22の、支持腕32が接続する部分よりも振動腕24に近い位置に形成さ
れている。切り込み38によって振動腕24の振動の伝達の多くが相殺されるので、振動
が基部22や支持腕32を介して外部に伝達すること(振動漏れ)を抑制し、CI値の上
昇を防止することができる。
【0021】
振動片20上には電極40が形成されている。電極40は、第1及び第2の電極42,
44を含む。第1及び第2の電極42,44は、異なる電位に接続するために、電気的に
分離されている。電極40は、一例として、圧電体との密着性の高い下地層(例えばCr
層)と、その上の電気抵抗が低く酸化しにくい層(例えばAu層)の2層で形成している

【0022】
図3は振動片に形成する膜材料の熱伝導率を示す図である。ここで振動片20に形成す
る膜は電極40のほかにも、保護膜、調整膜、駆動材料などを形成する場合がある。
【0023】
本発明の膜材料は、振動体の材料となる水晶(結晶X軸方向又は結晶Y軸方向における
熱伝導);6.2Wm−1−1,水晶(結晶Z軸方向における熱伝導);10.4Wm
−1−1よりも高い材料を用いている。膜材料は一例として、Ag、Al、Au、C(
ダイヤモンド)、Cr、Cu、Mo、Ni、Si、Ti、Pt、AIN、ZnOなどを用
いることができる。また振動片20の表面に皮膜する膜を複数積層する場合には、下層よ
りも上層の熱伝導率が高くなるように形成している。なお振動体の材料として水晶以外の
ものを用いる場合には、その材料よりも熱伝導率の高い材料を膜材料として用いている。
【0024】
1つの振動腕24の長溝30内(内側面及び底面)には第1の励振電極46が形成され
ている。具体的には、1つの振動腕24の第1及び第2の面(表面又は裏面)に形成され
た長溝30にそれぞれ、一対の第1の励振電極46が背中合わせに形成されている。第1
の面の長溝30に形成された第1の励振電極46は第1の面上に至るように形成されても
よい。第2の面の長溝30に形成された第1の励振電極46は第2の面上に至るように形
成されてもよい。一対の第1の励振電極46は電気的に接続されている。一方の振動腕2
4に形成された一対の第1の励振電極46の電気的接続は、他方の振動腕24の第2の励
振電極48によって図られる。
【0025】
また1つの振動腕24の側面には第2の励振電極48が形成されている。具体的には、
振動腕24の第1及び第2の面に接続される厚み方向の面であって、反対方向を向く両側
面に、それぞれ、一対の第2の励振電極48が背中合わせに形成されている。それぞれの
第2の励振電極48は、第1及び第2の面の少なくとも一方(あるいは両方)上に至るよ
うに形成されてもよい。一対の第2の励振電極48は、振動腕24の長溝30が形成され
ていない部分(例えば先端部)において、第1及び第2の面の少なくとも一方(あるいは
両方)上に形成された接続電極50によって電気的に接続されている。
【0026】
一方の振動腕24に形成された第1の励振電極46と、他方の振動腕24に形成された
第2の励振電極48とは基部22上の引き出し電極52で電気的に接続されている。引き
出し電極52は、第2の励振電極48が形成される振動腕24の隣に並ぶ支持腕32上に
至るまで形成されている。引き出し電極52は、支持腕32の第1及び第2の面(あるい
はさらに側面)に形成してもよい。支持腕32上で、引き出し電極52を外部との電気的
接続部分にすることができる。電気的に接続された第1の励振電極46、第2の励振電極
48、接続電極50、及び引き出し電極52によって、第1及び第2の励振電極46,4
8のそれぞれが構成される。1つの振動腕24において、第1及び第2の電極42,44
のそれぞれが構成される。1つの振動腕24において、第1及び第2の励振電極46,4
8間に電圧を印加して、振動腕24の側面を伸縮されることで振動24を振動させる。
【0027】
本実施形態の長溝30に形成した膜となる第1の励振電極46は、前述のように下層の
Crと上層のAuの積層構造である。この第1の励振電極46は、図2に示すように上層
のAu膜を平面視して底面部分を削除した凹部60を形成している。この凹部60は、図
1では長溝30に沿って形成しているが、少なくとも圧縮領域又は引張り領域の間、すな
わち振動腕24の根元部に形成するとよい。また振動片20に皮膜する膜を2層以上積層
させた構造の場合、上層の熱伝導率の高い材料を削除するようにしている。
【0028】
なお本発明の振動片20は、熱弾性損失が断熱的領域、すなわち振動体の機械的な共振
周波数frを振動体単体での熱緩和周波数f0で除した値fr/f0が、1<fr/f0
の関係を満たす高周波数の領域を対象としている。ここで振動体単体とは、電極等の金属
膜などを一切配置していない振動体である。例えば振動体の材料として水晶を用いる場合
には、水晶以外の材料が一切配置されていない状態の振動体をいう。
【0029】
なお一般的に、熱緩和振動数fmは、下式で求まることが知られている。
【数1】

ここで、πは円周率、kは振動腕の振動方向の熱伝導率、ρは振動腕の質量密度、C
は振動腕の熱容量、aは振動腕の振動方向の幅である。
【0030】
数式1の熱伝導率k、質量密度ρ、熱容量Cに振動腕の材料そのものの定数を入力し
た場合、求まる熱緩和振動数fmは振動腕に溝を設けていない場合の熱緩和振動数となる

【0031】
上記構成による本発明の振動片20は、励振電極をパッケージの接続電極50と電気的
に接続して固定する。この状態で励振電極に所定の電圧を印加すると、振動腕24は互い
に接近又は離反する向きに屈曲振動する。即ち振動により振動体となる振動腕24は、圧
縮応力又は引張り応力を受ける第1領域と、この第1領域の圧縮応力又は引張り応力に相
反する引張り領域又は圧縮領域を受ける第2領域を有している。
【0032】
この屈曲振動によって、振動腕24の根元部で圧縮応力と引張り応力が発生する。振動
腕24が互いに接近する向きに屈曲すると、根元部に内側(例えば第1領域)では、圧縮
応力が作用し、外側(例えば第2領域)では引張り応力が作用する。この機械的歪みによ
って、圧縮応力を受けた部分は温度が上昇し、引張り応力を受けた部分は温度が低下する
。一方、振動腕24が互いに離反する向きに屈曲すると、根元部の内側では、引張り応力
が作用して温度が低下し、外側では圧縮応力が作用して温度が上昇する。このように振動
腕24の根元部分では、内側と外側で温度勾配が生じ、その傾斜は、振動腕24が互いに
接近又は離反する向きによって逆向きになる。
【0033】
ここで図2に示すように、温度勾配による熱が圧縮領域から長溝30を通って引張り領
域へと伝達される。このとき圧縮領域と引張り領域の熱伝達経路が長溝30によって途中
で狭められている。その結果、圧縮領域と引張り領域で温度が平衡状態になるまでの緩和
時間τは、長溝30がない構造の緩和時間τ0よりも長くなる。これは図中破線で示すよ
うに、振動腕24の幅方向に沿って長溝30の幅Tをみかけ上T1まで長くしたのと等価
と考えることができるからである。加えて本実施形態の長溝30に形成した膜となる第1
の励振電極46は、上層のAuに凹部60を形成しているため、熱伝導率の高いAuを経
由する熱伝達経路が遮断されている。このように緩和時間が長くなると、fm=1/2π
τの関係式より、緩和周波数は低くなる。
【0034】
これを図9に示す周波数とQ値の関係で見ると、曲線F自体の形状は変わらないが、緩
和周波数の低下に伴って、曲線Fが曲線F1方向(周波数の低下方向)へシフトしたこと
になる。従って、所望の使用周波数が断熱的領域である場合には、Q値は常に、従来構造
における極小値Q0よりも高くなる。このように本実施形態の振動片20は、圧縮領域(
第1又は第2領域)と引張り領域(第2又は第1領域)の間の長溝30の電極に凹部60
を設けることによって、Q値を高く設定し、高性能化を図ることができる。
【0035】
図4は、第2実施形態の振動片の特徴部分の断面図である。図示のように第2実施形態
の振動腕24は、長溝30の底面を露出させた凹部60aを形成している。具体的には、
長溝30に第1の励振電極46、すなわち下層に圧電体と密着性の高いCr層を形成して
、上層に電気抵抗が低く酸化し難いAu層を形成する際に、長溝30の底面に電極を形成
しないように一部除去した凹部60aを形成する。これにより長溝30の底面から振動腕
24を露出させている。なお凹部60aは、長溝30に沿って形成してもよく、または少
なくとも圧縮領域又は引張り領域の間、すなわち振動腕24の根元部に形成するとよい。
【0036】
このような第2実施形態の振動片によれば、振動体の材料よりも熱伝導率の高い膜に凹
部を設け、膜部分の圧縮領域と引張り領域の熱伝達経路を遮断し、長溝30のみを熱伝達
経路としている。従って図1,2に示す振動片と同様に、緩和時間が長くなり、緩和周波
数が低くなってQ値を高くすることができる。
【0037】
図5は、第3実施形態の振動片の特徴部分を示す平面図である。図示のように第3実施
形態の振動腕24と第1実施形態の振動腕との構成上の相違は、長溝30に形成した膜と
なる第1の励振電極の先端部62に凹部を形成しない点である。その他の構成は第1実施
形態の振動片20と同一である。
【0038】
第3実施形態の振動片は、振動腕24の長溝30の先端部62の底面に膜となる第1の
励振電極46を形成し、長溝30の先端部62と根元部61を除く底面に凹部60を形成
している。これにより長溝30を平面視すると、先端部62と根元部61の間で囲まれた
部分が凹部60となる。
なお、第3実施形態の振動腕に第2実施形態の凹部60aを適用する構成とすることも
できる。
【0039】
このような第3実施形態の振動片によれば、振動腕24の凹部60により、緩和時間を
長くすることができる。また長溝30の先端部に凹部60を形成せず、電極を形成するこ
とにより、電気的導通を図ることができ、オーミックロス(抵抗損)を低減することがで
きる。
【0040】
図6は第4実施形態の振動片の特徴部分を示す断面図である。図示のように第4実施形
態の振動片は振動腕24aに長溝を形成していない。
同図(1)の振動腕24aは、振動体表面に膜となる第1の励振電極46を形成する際
、第1実施形態の振動片と同様に、上層のAu層に凹部60を設けている。
【0041】
また同図(2)の振動片24aは、振動体表面に膜となる第1の励振電極46を形成す
る際、第2実施形態の振動片と同様に、上下層を削除した凹部60aを設けている。
なお第4実施形態の凹部は、少なくとも圧縮領域又は引張り領域の間、すなわち振動腕
24aの根元部に形成するとよい。
【0042】
このような第4実施形態の振動片によれば、振動体の材料よりも熱伝導率の高い膜に凹
部を設け、膜部分の圧縮領域と引張り領域の熱伝達経路を遮断し、長溝30のみを熱伝達
経路としている。従って図1,2に示す振動片と同様に、緩和時間が長くなり、緩和周波
数が低くなってQ値を高くすることができる。
図7は本発明の振動片を実装した発振器を示す図である。
【0043】
本実施形態に係る発振器200は、上述した振動片20と、IC素子212と、IC素
子212及び振動片20を収容するパッケージ210、およびパッケージ210の開口部
を封止するリッド220とを主な構成要素としている。
【0044】
パッケージ210は、セラミックグリーンシート等を積層して焼成した箱体であり、凹
状に形成されたキャビティ内部には、振動片20を実装するための内部実装電極214が
形成されている。パッケージ210の外部には、底面に、外部実装端子が形成されている
。外部実装端子は、図示しないスルーホール等を介して、内部実装電極214と電気的に
接続されている。
リッド220は、パッケージ210の上面開口部を封止するものである。構成部材とし
ては、金属またはガラスを用いることができる。
【0045】
上記のような構成のパッケージ210に対し、IC素子212と、振動片20を実装す
る。IC素子212の実装にはワイヤボンディングを用い、振動片20の実装には、導電
性接着剤216を用いる。IC素子212、振動片20を実装したパッケージ210の開
口部を封止する際、リッド220は接合部材を介して接合される。
このような構成の発振器は、熱伝導によるQ値の低下が改善された発振器とすることが
できる。
【符号の説明】
【0046】
1………屈曲振動片、2………連結部、3………振動腕、4………振動腕、20………振
動片、22………基部、24………振動腕、30………長溝、32………支持腕、40…
……電極、42………第1の電極、44………第2の電極、46………第1の励振電極、
48………第2の励振電極、50………接続電極、52………引き回し電極、60………
凹部、61………根元部、62………先端部、100………屈曲振動片、102………音
叉腕、104………音叉腕基部、106………溝、110………電極、112………電極
、114………電極、116………電極、200………発振器、210………パッケージ
、212………IC素子、214………内部実装電極、216………導電性接着剤、22
0………リッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動により圧縮応力又は引張り応力を受ける第1領域と、前記第1領域の圧縮応力又は
引張り応力と相反する引張り応力又は圧縮応力を受ける第2領域を有する振動体を備え、
前記振動体表面における前記第1領域と前記第2領域の間に前記振動体よりも熱伝導率
の高い膜を少なくとも1層形成し、
前記膜は、前記第1領域と前記第2領域の間で少なくとも1層が削除された凹部を形成
したことを特徴とする振動片。
【請求項2】
前記振動体は溝部を備え、前記溝部に前記凹部を形成したことを特徴とする請求項1に
記載の振動片。
【請求項3】
前記振動体が屈曲振動をするものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載
の振動片。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の前記振動片を用いたことを特徴とする
発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−233204(P2010−233204A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291927(P2009−291927)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】