説明

排出ガスセンサの異常診断装置

【課題】空燃比センサの異常を精度良く検出できるようにする。
【解決手段】空燃比をリーン方向に制御したときの所定期間における検出空燃比(空燃比センサ出力)変化量に基づいてリーン方向の応答特性値を求めると共に、空燃比をリッチ方向に制御したときの所定期間における検出空燃比の変化量に基づいてリッチ方向の応答特性値を求める。更に、リーン方向の応答特性値をリッチ方向の応答特性値で除算してリーン/リッチ応答比を求めると共に、リッチ方向の応答特性値をリーン方向の応答特性値で除算してリッチ/リーン応答比を求める。そして、リーン方向の応答特性値とリーン/リッチ応答比をそれぞれ異常判定値と比較して空燃比センサのリーン方向の応答性の異常の有無を判定し、リッチ方向の応答特性値とリッチ/リーン応答比をそれぞれ異常判定値と比較して空燃比センサのリッチ方向の応答性の異常の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に設置された排出ガスセンサの異常の有無を判定する排出ガスセンサの異常診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関を搭載した車両では、排気管に排出ガス浄化用の触媒を設置すると共に、この触媒の上流側に空燃比センサや酸素センサ等の排出ガスセンサを設置し、この排出ガスセンサの出力に基づいて排出ガスの空燃比を目標空燃比に一致させるように空燃比(燃料噴射量等)をフィードバック制御することで、排出ガスの空燃比が触媒の浄化ウインドの範囲内になるように制御して、触媒の排出ガス浄化効率を高めるようにしたものがある。このような排出ガス浄化システムにおいては、排出ガスセンサが劣化して空燃比制御精度が低下した状態(つまり排出ガス浄化効率が低下した状態)で運転が続けられるのを防ぐために、排出ガスセンサの劣化診断を行うようにしたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平1−155257号公報)に記載されているように、排出ガスの空燃比をリッチからリーンに制御するリーン制御とリーンからリッチに制御するリッチ制御とを交互に実行して、リーン制御実行中に排出ガスセンサの出力が所定区間を通過するのに要した応答時間と、リッチ制御実行中に排出ガスセンサの出力が所定区間を通過するのに要した応答時間とに基づいて排出ガスセンサの性能を評価するようにしたものがある。
【特許文献1】特開平1−155257号公報(第1頁等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らは、リーン制御とリッチ制御とを交互に実行して、リーン制御したときの所定期間における空燃比センサ出力(検出空燃比)の変化量に基づいてリーン方向の応答特性値を算出すると共に、リッチ制御したときの所定期間における空燃比センサ出力の変化量に基づいてリッチ方向の応答特性値を算出し、そのリーン方向の応答特性値とリッチ方向の応答特性値の平均値を所定の異常判定値と比較して空燃比センサの異常(応答性の劣化)の有無を判定するシステムを研究しているが、その研究過程で、次のような新たな課題が判明した。
【0005】
空燃比センサは、必ずしもリーン方向の応答性とリッチ方向の応答性がほぼ均等に劣化するとは限らず、一方向の応答性のみが劣化する可能性がある。しかし、上述したように空燃比センサのリーン方向の応答特性値とリッチ方向の応答特性値の平均値を劣化判定パラメータとする異常診断方法では、空燃比センサの一方向の応答性のみが劣化した場合に、その影響が劣化判定パラメータ(リーン方向の応答特性値とリッチ方向の応答特性値の平均値)に現れにくく、空燃比センサが正常な場合と空燃比センサの一方向の応答性のみが劣化した場合との間で、劣化判定パラメータに差が出にくい傾向がある。
【0006】
本発明者らの実験結果によれば、図7に示すように、一方向の応答性のみが劣化した空燃比センサを用いて検出した劣化判定パラメータのばらつき範囲の大部分が、正常な空燃比センサを用いて検出した劣化判定パラメータのばらつき範囲と重なってしまうことが判明した。このため、空燃比センサのリーン方向の応答特性値とリッチ方向の応答特性値の平均値を劣化判定パラメータとする異常診断方法では、空燃比センサの一方向の応答性のみが劣化した場合に、その異常を精度良く検出することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、従って本発明の目的は、排出ガスセンサの一方向の応答性のみが劣化した場合でも、その異常を精度良く検出することができる排出ガスセンサの異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、排出ガスの空燃比をリーン方向に制御したときの排出ガスセンサの応答特性(以下「リーン方向応答特性」という)と排出ガスの空燃比をリッチ方向に制御したときの排出ガスセンサの応答特性(以下「リッチ方向応答特性」という)とに基づいて排出ガスセンサの異常の有無を判定する排出ガスセンサの異常診断装置において、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性のうちの少なくとも一方を考慮し且つリーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との比較結果も考慮して排出ガスセンサの異常の有無を判定するようにしたものである。
【0009】
排出ガスセンサが正常な場合は、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性がほぼ同じになるが、排出ガスセンサの一方向の応答性のみが劣化すると、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性のうちの一方が他方よりも大きく(又は小さく)なるため、排出ガスセンサが正常な場合と排出ガスセンサの一方向の応答性のみが劣化した場合との間で、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との比較結果(つまり劣化判定パラメータ)に差が出やすくなる。従って、劣化判定パラメータとして、リーン方向応答特性やリッチ方向応答特性に加えて、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との比較結果を用いれば、排出ガスセンサの一方向の応答性のみが劣化している状態であるか否かを精度良く判定することが可能となり、排出ガスセンサの一方向の応答性のみが劣化した場合でも、その異常を精度良く検出することができる。
【0010】
この場合、請求項2のように、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との比較結果として、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との比又は差を用いるようにしても良い。このようにすれば、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性を簡単に比較することができる。
【0011】
リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との比を用いる場合には、例えば、請求項3のように、リーン方向応答特性又はリッチ方向応答特性が所定の異常判定値を越えて且つリーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との比が所定の異常判定値を越えた場合に、排出ガスセンサの異常有りと判定するようにすると良い。つまり、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との比を異常判定値と比較することで、排出ガスセンサの一方向の応答性のみが劣化した異常を精度良く検出することができると共に、リーン方向応答特性やリッチ方向応答特性を異常判定値と比較することで、排出ガスセンサの応答性が劣化した方向を特定することができる。
【0012】
また、リーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との差を用いる場合には、例えば、請求項4のように、リーン方向応答特性又はリッチ方向応答特性が所定の異常判定値を越えて且つリーン方向応答特性とリッチ方向応答特性との差が所定の異常判定値を越えた場合に、排出ガスセンサの異常有りと判定するようにすると良い。このようにしても、排出ガスセンサの一方向の応答性のみが劣化した異常を精度良く検出することができると共に、排出ガスセンサの応答性が劣化した方向を特定することができる。
【0013】
ところで、排出ガスセンサの異常診断精度を確保するには、内燃機関の運転状態(回転速度、吸入空気量等)が安定する定常運転状態で異常診断を行うことが好ましい。しかし、車両走行中は、運転者や道路状況等によっては定常運転状態の継続時間が異常診断に必要な時間よりも短くなることが多くなって、異常診断の実行頻度が少なくなる可能性がある。
【0014】
そこで、請求項5のように、内燃機関がアイドル運転状態のときに排出ガスセンサの異常診断を許可するようにしても良い。このようにすれば、内燃機関の運転状態が安定した状態が比較的長く継続するアイドル運転状態のときに排出ガスセンサの異常診断を実行することができ、排出ガスセンサの異常診断精度を確保しながら異常診断の実行頻度を多くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例を図1乃至図6に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
【0016】
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18には、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられ、各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍に、それぞれ燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0017】
一方、エンジン11の排気管23(排気通路)には、排出ガスの空燃比を検出する空燃比センサ24(排出ガスセンサ)が設けられ、この空燃比センサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
【0018】
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、エンジン11のクランク軸27が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ28が取り付けられている。このクランク角センサ28の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0019】
これら各種センサの出力は、制御回路(以下「ECU」と表記する)29に入力される。このECU29は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁21の燃料噴射量や点火プラグ22の点火時期を制御する。
【0020】
その際、ECU29は、図示しない空燃比フィードバック制御プログラムを実行して、空燃比センサ24の出力に基づいて排出ガスの空燃比を目標空燃比に一致させるように空燃比(燃料噴射量等)をフィードバック制御することで、排出ガスの空燃比が触媒25の浄化ウインドの範囲内(例えばストイキ付近)に収まるように制御して、触媒25の排出ガス浄化効率を高める。
【0021】
また、ECU29は、後述する図3乃至図5に示す空燃比センサ異常診断用の各プログラムを実行することで特許請求の範囲でいう異常診断手段としての役割を果たし、次のようにして第1の空燃比センサ異常診断と第2の空燃比センサ異常診断を行う。
【0022】
第1の空燃比センサ異常診断では、所定の異常診断実行条件が成立したときに、図2に示すように、目標空燃比をリッチからリーンに切り換えることで燃料噴射量を減量補正して排出ガスの空燃比をリーン方向に変化させるリーン制御と、目標空燃比をリーンからリッチに切り換えることで燃料噴射量を増量補正して排出ガスの空燃比をリッチ方向に変化させるリッチ制御とを交互に実行する燃料噴射ディザ制御を実行する。
【0023】
そして、目標空燃比を切り換える毎に、切換前後の目標空燃比の差を目標空燃比変化量としてを求めると共に、目標空燃比の切換後の所定期間における空燃比センサ24の出力の変化量を検出空燃比変化量として求める。これらの目標空燃比変化量及び検出空燃比変化量を検出する処理を所定回数だけ繰り返した後、検出空燃比変化量の平均値(つまりリーン方向の検出空燃比変化量とリッチ方向の検出空燃比変化量の平均値)を目標空燃比変化量の平均値で除算して空燃比センサ24の応答特性値を求める。
【0024】
この後、応答特性値を所定の異常判定値と比較する。その結果、応答特性値が異常判定値よりも小さいと判定された場合には、空燃比センサ24のリーン方向の応答性とリッチ方向の応答性が両方とも異常である(劣化している)と判定する。一方、応答特性値が異常判定値以上であると判定され場合には、空燃比センサ24のリーン方向の応答性とリッチ方向の応答性のうちの少なくとも一方が正常である(劣化していない)と判定する。
【0025】
また、第2の空燃比センサ異常診断では、前記第1の空燃比センサ異常診断と同様に、所定の異常診断実行条件が成立したときに、リーン制御とリッチ制御とを交互に実行する燃料噴射ディザ制御を実行する。
【0026】
そして、リーン制御に切り換えたときには、切換前後の目標空燃比の差をリーン方向の目標空燃比変化量としてを求めると共に、目標空燃比の切換後の所定期間における空燃比センサ24の出力の変化量をリーン方向の検出空燃比変化量として求める。一方、リッチ制御に切り換えたときには、切換前後の目標空燃比の差をリッチ方向の目標空燃比変化量としてを求めると共に、目標空燃比の切換後の所定期間における空燃比センサ24の出力の変化量をリッチ方向の検出空燃比変化量として求める。
【0027】
これらの目標空燃比変化量及び検出空燃比変化量を検出する処理を所定回数だけ繰り返した後、リーン方向の検出空燃比変化量の平均値をリーン方向の目標空燃比変化量の平均値で除算して空燃比センサ24のリーン方向の応答特性値を求めると共に、リッチ方向の検出空燃比変化量の平均値をリッチ方向の目標空燃比変化量の平均値で除算して空燃比センサ24のリッチ方向の応答特性値を求める。
【0028】
更に、リーン方向の応答特性値をリッチ方向の応答特性値で除算してリーン/リッチ応答比(リッチ方向の応答特性値に対するリーン方向の応答特性値の比)を求めると共に、リッチ方向の応答特性値をリーン方向の応答特性値で除算してリッチ/リーン応答比(リーン方向の応答特性値に対するリッチ方向の応答特性値の比)を求める。
【0029】
この後、リーン方向の応答特性値を所定の異常判定値と比較すると共に、リーン/リッチ応答比を所定の異常判定値と比較する。その結果、リーン方向の応答特性値が異常判定値よりも小さいと判定され、且つ、リーン/リッチ応答比が異常判定値よりも小さいと判定された場合には、空燃比センサ24のリーン方向の応答性が異常である(劣化している)と判定する。一方、リーン方向の応答特性値が異常判定値以上であると判定され場合、又は、リーン/リッチ応答比が異常判定値以上であると判定された場合には、空燃比センサ24のリーン方向の応答性が正常である(劣化していない)と判定する。
【0030】
更に、リッチ方向の応答特性値を所定の異常判定値と比較すると共に、リッチ/リーン応答比を所定の異常判定値と比較する。その結果、リッチ方向の応答特性値が異常判定値よりも小さいと判定され、且つ、リッチ/リーン応答比が異常判定値よりも小さいと判定された場合には、空燃比センサ24のリッチ方向の応答性が異常である(劣化している)と判定する。一方、リッチ方向の応答特性値が異常判定値以上であると判定され場合、又は、リッチ/リーン応答比が異常判定値以上であると判定された場合には、空燃比センサ24のリッチ方向の応答性が正常である(劣化していない)と判定する。
【0031】
第1の空燃比センサ異常診断又は第2の空燃比センサ異常診断で空燃比センサ24の異常有りと判定された場合には、異常フラグをONにセットし、運転席のインストルメントパネルに設けられた警告ランプ30(図1参照)を点灯したり、或は運転席のインストルメントパネルの警告表示部(図示せず)に警告表示して運転者に警告すると共に、その異常情報(異常コード等)をECU29のバックアップRAM(図示せず)等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶する。
【0032】
以下、ECU29が実行する図3乃至図5に示す空燃比センサ異常診断用の各プログラムの処理内容を説明する。
【0033】
[第1の空燃比センサ異常診断]
図3に示す第1の空燃比センサ異常診断プログラムは、ECU29の電源オン中に所定周期で繰り返し実行される。本プログラムが起動されると、まず、ステップ101で、異常診断実行条件が成立しているか否かを、例えば、次の(1) と(2) の条件によって判定する。
(1) 空燃比センサ24が活性状態であること
(2) エンジン11がアイドル運転状態であること
【0034】
これらの(1) と(2) の条件を両方とも満たせば、異常診断実行条件が成立するが、上記(1) と(2) の条件のうちのいずれか一方でも満たさない条件があれば、異常診断実行条件件が不成立となる。
このステップ101で、異常診断実行条件が不成立であると判定された場合には、ステップ102以降の処理を行うことなく、本プログラムを終了する。
【0035】
一方、上記ステップ101で、異常診断実行条件が成立していると判定された場合には、ステップ102以降の処理を次のようにして実行する。まず、ステップ102で、初期化処理を実行した後、ステップ103に進み、目標空燃比をリッチからリーンに切り換えることで燃料噴射量を減量補正して排出ガスの空燃比をリーン方向に変化させるリーン制御と、目標空燃比をリーンからリッチに切り換えることで燃料噴射量を増量補正して排出ガスの空燃比をリッチ方向に変化させるリッチ制御とを交互に実行する燃料噴射ディザ制御を実行し、切換前の目標空燃比と切換後の目標空燃比との差を目標空燃比変化量として求める。
【0036】
この後、ステップ104に進み、目標空燃比を切り換えた時点Sで空燃比センサ24で検出した空燃比(空燃比センサ24の出力)を第1の検出空燃比として計測する。尚、目標空燃比を切り換えてから所定時間が経過した時点Sで第1の検出空燃比を計測するようにしても良い。
【0037】
この後、ステップ105に進み、目標空燃比を切り換えてからの経過時間を計測するタイマをインクリメントした後、ステップ106に進み、タイマが所定値以上であるか否かをによって目標空燃比を切り換えてから所定時間が経過したか否かを判定し、目標空燃比を切り換えてから所定時間が経過したと判定された時点Eで、ステップ107に進み、空燃比センサ24で検出した空燃比(空燃比センサ24の出力)を第2の検出空燃比として計測する。
【0038】
この後、ステップ108に進み、第1の検出空燃比と第2の検出空燃比との差を検出空燃比変化量として求め、この検出空燃比変化量及び目標空燃比変化量をECU29のRAM等に記憶する。
【0039】
この後、ステップ109に進み、検出空燃比変化量の検出回数をカウントアップする共に、タイマを「0」にクリアした後、ステップ110に進み、検出空燃比変化量の検出回数が所定値以上であるか否かを判定する。検出空燃比変化量の検出回数が所定値よりも小さい場合には、ステップ103に戻り、検出空燃比変化量の検出回数が所定値以上になるまで、目標空燃比変化量及び検出空燃比変化量を求めて、検出空燃比変化量の検出回数をカウントアップする処理(ステップ103〜110の処理)を繰り返す。
【0040】
その後、ステップ110で、検出空燃比変化量の検出回数が所定値以上であると判定されたときに、ステップ111に進み、検出空燃比変化量の平均値を目標空燃比変化量の平均値で除算して空燃比センサ24の応答特性値を求めた後、ステップ112に進み、応答特性値が異常判定値以上であるか否かを判定する。
【0041】
その結果、応答特性値が異常判定値よりも小さいと判定された場合には、ステップ113に進み、空燃比センサ24のリーン方向の応答性とリッチ方向の応答性が両方とも異常である(劣化している)と判定する。一方、上記ステップ112で、応答特性値が異常判定値以上であると判定され場合には、空燃比センサ24のリーン方向の応答性とリッチ方向の応答性のうちの少なくとも一方が正常である(劣化していない)と判定する。
【0042】
[第2の空燃比センサ異常診断]
図4及び図5に示す第2の空燃比センサ異常診断プログラムは、ECU29の電源オン中に所定周期で繰り返し実行される。本プログラムが起動されると、まず、ステップ201で、前記図3のステップ101と同様の異常診断実行条件が成立しているか否かを判定し、異常診断実行条件が成立していると判定された場合に、初期化処理を実行した後、リーン制御とリッチ制御とを交互に実行する燃料噴射ディザ制御を実行し、切換前の目標空燃比と切換後の目標空燃比との差を目標空燃比変化量として求める(ステップ202,203)。
【0043】
更に、目標空燃比を切り換えた時点Sで空燃比センサ24で検出した空燃比(空燃比センサ24の出力)を第1の検出空燃比として計測する。尚、目標空燃比を切り換えてから所定時間が経過した時点Sで第1の検出空燃比を計測するようにしても良い(ステップ204)。
【0044】
この後、目標空燃比を切り換えてから所定時間が経過したと判定された時点Eで、空燃比センサ24で検出した空燃比(空燃比センサ24の出力)を第2の検出空燃比として計測する(ステップ205〜207)。
【0045】
この後、ステップ208に進み、目標空燃比をリッチからリーンに切り換えたリーン制御中であるか否かを判定する。その結果、リーン制御中であると判定された場合には、ステップ209に進み、第1の検出空燃比と第2の検出空燃比との差をリーン方向の検出空燃比変化量として求め、このリーン方向の検出空燃比変化量及びリーン方向の目標空燃比変化量をECU29のRAM等に記憶する。
【0046】
一方、上記ステップ208で、目標空燃比をリッチからリーンに切り換えたリーン制御中ではない(つまり目標空燃比をリーンからリッチに切り換えたリッチ制御中である)と判定された場合には、ステップ210に進み、第1の検出空燃比と第2の検出空燃比との差をリッチ方向の検出空燃比変化量として求め、このリッチ方向の検出空燃比変化量及びリッチ方向の目標空燃比変化量をECU29のRAM等に記憶する。
【0047】
この後、ステップ211に進み、リーン方向及びリッチ方向の検出空燃比変化量の検出回数をカウントアップする共に、タイマを「0」にクリアした後、ステップ212に進み、検出空燃比変化量の検出回数が所定値以上であるか否かを判定する。検出空燃比変化量の検出回数が所定値よりも小さい場合には、ステップ203に戻り、検出空燃比変化量の検出回数が所定値以上になるまで、目標空燃比変化量及び検出空燃比変化量を求めて、検出空燃比変化量の検出回数をカウントアップする処理(ステップ203〜212の処理)を繰り返す。
【0048】
その後、ステップ212で、検出空燃比変化量の検出回数が所定値以上であると判定されたときに、図5のステップ213に進み、リーン方向の検出空燃比変化量の平均値をリーン方向の目標空燃比変化量の平均値で除算して空燃比センサ24のリーン方向の応答特性値を求めると共に、リッチ方向の検出空燃比変化量の平均値をリッチ方向の目標空燃比変化量の平均値で除算して空燃比センサ24のリッチ方向の応答特性値を求める。
【0049】
更に、ステップ214に進み、リーン方向の応答特性値をリッチ方向の応答特性値で除算してリーン/リッチ応答比(リッチ方向の応答特性値に対するリーン方向の応答特性値の比)を求めると共に、リッチ方向の応答特性値をリーン方向の応答特性値で除算してリッチ/リーン応答比(リーン方向の応答特性値に対するリッチ方向の応答特性値の比)を求める。
【0050】
この後、ステップ215に進み、リーン方向の応答特性値が異常判定値よりも小さいか否かを判定すると共に、リーン/リッチ方応答比が異常判定値よりも小さいか否かを判定する。その結果、リーン方向の応答特性値が異常判定値よりも小さいと判定され、且つ、リーン/リッチ応答比が異常判定値よりも小さいと判定された場合には、ステップ216に進み、空燃比センサ24のリーン方向の応答性が異常である(劣化している)と判定する。一方、上記ステップ215で、リーン方向の応答特性値が異常判定値以上であると判定され場合、又は、リーン/リッチ応答比が異常判定値以上であると判定された場合には、ステップ217に進み、空燃比センサ24のリーン方向の応答性が正常である(劣化していない)と判定する。
【0051】
この後、ステップ218に進み、リッチ方向の応答特性値が異常判定値よりも小さいか否かを判定すると共に、リッチ/リーン応答比が異常判定値よりも小さいか否かを判定する。その結果、リッチ方向の応答特性値が異常判定値よりも小さいと判定され、且つ、リッチ/リーン応答比が異常判定値よりも小さいと判定された場合には、ステップ219に進み、空燃比センサ24のリッチ方向の応答性が異常である(劣化している)と判定する。一方、上記ステップ218で、リッチ方向の応答特性値が異常判定値以上であると判定され場合、又は、リッチ/リーン応答比が異常判定値以上であると判定された場合には、ステップ220に進み、空燃比センサ24のリッチ方向の応答性が正常である(劣化していない)と判定する。
【0052】
空燃比センサ24が正常な場合は、リーン方向の応答特性値とリッチ方向の応答特性値がほぼ同じになるが、空燃比センサ24の一方向の応答性のみが劣化すると、リーン方向の応答特性値とリッチ方向の応答特性値のうちの一方が他方よりも大きく(又は小さく)なるため、空燃比センサ24が正常な場合と空燃比センサ24の一方向の応答性のみが劣化した場合との間で、リーン/リッチ応答比やリッチ/リーン応答比に差が出やすくなる。本発明者らの実験結果によれば、図6に示すように、一方向の応答性のみが劣化した空燃比センサ24を用いて検出したリーン/リッチ応答比やリッチ/リーン応答比のばらつき範囲が、正常な空燃比センサ24を用いて検出したリーン/リッチ応答比やリッチ/リーン応答比のばらつき範囲とほとんど重ならないことが判明した。
【0053】
従って、本実施例1のように、リーン方向の応答特性値やリッチ方向の応答特性値を異常判値と比較する共に、リーン/リッチ応答比やリッチ/リーン応答比を異常判定値と比較すれば、空燃比センサ24の一方向の応答性のみが劣化している状態であるか否かを精度良く判定することが可能となり、空燃比センサ24の一方向の応答性のみが劣化した場合でも、その異常を精度良く検出することができて、空燃比センサ24の異常診断精度を向上させることができる。
【0054】
しかも、本実施例1では、リーン方向の応答特性値とリーン/リッチ応答比をそれぞれ異常判定値と比較することで空燃比センサ24のリーン方向の応答性の異常の有無を判定し、リッチ方向の応答特性値とリッチ/リーン応答比をそれぞれ異常判定値と比較することで空燃比センサ24のリッチ方向の応答性の異常の有無を判定するようにしたので、空燃比センサ24の一方向の応答性のみが劣化した異常を精度良く検出することができると共に、空燃比センサ24の応答性が劣化した方向を特定することができる。
【0055】
ところで、空燃比センサ24の異常診断精度を確保するには、エンジン11の運転状態(回転速度、吸入空気量等)が安定する定常運転状態で異常診断を行うことが好ましい。しかし、車両走行中は、運転者や道路状況等によっては定常運転状態の継続時間が異常診断に必要な時間よりも短くなることが多くなって、異常診断の実行頻度が少なくなる可能性がある。
【0056】
その点、本実施例1では、エンジン11がアイドル運転状態のときに空燃比センサ24の異常診断を実行するようにしたので、エンジン11の運転状態が安定した状態が比較的長く継続するアイドル運転状態のときに空燃比センサ24の異常診断を実行することができ、空燃比センサ24の異常診断精度を確保しながら異常診断の実行頻度を多くすることができる。
【0057】
しかしながら、本発明の空燃比センサ24の異常診断を実行する運転状態は、アイドル運転状態のみに限定されず、アイドル運転状態以外の定常運転状態のときに空燃比センサ24の異常診断を実行するようにしても良いことは言うまでもない。
【0058】
また、上記実施例1では、空燃比センサ24の一方向の応答性のみが劣化した異常の有無を判定する際に、リーン/リッチ応答比(リーン方向の応答特性値/リッチ方向の応答特性値)やリッチ/リーン応答比(リッチ方向の応答特性値/リーン方向の応答特性値)を用いるようにしたが、リーン/リッチ応答差(リーン方向の応答特性値−リッチ方向の応答特性値)やリッチ/リーン応答差(リッチ方向の応答特性値−リーン方向の応答特性値)を用いるようにしても良い。
【0059】
例えば、リーン方向の応答特性値を所定の異常判定値と比較すると共に、リーン/リッチ応答差を所定の異常判定値と比較する。その結果、リーン方向の応答特性値が異常判定値よりも小さいと判定され、且つ、リーン/リッチ応答差が異常判定値よりも小さいと判定された場合には、空燃比センサ24のリーン方向の応答性が異常である(劣化している)と判定する。一方、リーン方向の応答特性値が異常判定値以上であると判定され場合、又は、リーン/リッチ応答差が異常判定値以上であると判定された場合には、空燃比センサ24のリーン方向の応答性が正常である(劣化していない)と判定する。
【0060】
更に、リッチ方向の応答特性値を所定の異常判定値と比較すると共に、リッチ/リーン応答差を所定の異常判定値と比較する。その結果、リッチ方向の応答特性値が異常判定値よりも小さいと判定され、且つ、リッチ/リーン応答差が異常判定値よりも小さいと判定された場合には、空燃比センサ24のリッチ方向の応答性が異常である(劣化している)と判定する。一方、リッチ方向の応答特性値が異常判定値以上であると判定され場合、又は、リッチ/リーン応答差が異常判定値以上であると判定された場合には、空燃比センサ24のリッチ方向の応答性が正常である(劣化していない)と判定する。
【0061】
また、上記実施例1では、空燃比センサ24の応答特性値として、所定期間における検出空燃比変化量(空燃比センサ24出力の変化量)を目標空燃比変化量で除算した値を用いるようにしたが、これに限定されず、所定期間における空燃比センサ24出力の変化量や変化速度(変化率)、或は、空燃比センサ24出力が所定区間を通過するのに要した応答時間等を、空燃比センサ24の応答特性値として用いるようにしても良い。
【0062】
また、上記実施例1では、空燃比センサ24の異常診断に本発明を適用したが、空燃比センサ以外の排出ガスセンサ(例えば酸素センサ等)の異常診断に本発明を適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例におけるエンジン制御システム全体の概略構成図である。
【図2】空燃比センサの異常診断方法を説明するためのタイムチャートである。
【図3】第1の空燃比センサ異常診断プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】第2の空燃比センサ異常診断プログラムの処理の流れを示すフローチャート(その1)である。
【図5】第2の空燃比センサ異常診断プログラムの処理の流れを示すフローチャート(その2)である。
【図6】実施例1の異常診断において空燃比センサが正常な場合と空燃比センサの一方向の応答性のみが劣化した場合の劣化判定パラメータのばらつき状態を示す図である。
【図7】比較例の異常診断において空燃比センサが正常な場合と空燃比センサの一方向の応答性のみが劣化した場合の劣化判定パラメータのばらつき状態を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、16…スロットルバルブ、21…燃料噴射弁、22…点火プラグ、23…排気管(排気通路)、24…空燃比センサ(排出ガスセンサ)、25…触媒、29…ECU(異常診断手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設置された排出ガスセンサと、排出ガスの空燃比をリーン方向に制御したときの前記排出ガスセンサの応答特性(以下「リーン方向応答特性」という)と排出ガスの空燃比をリッチ方向に制御したときの前記排出ガスセンサの応答特性(以下「リッチ方向応答特性」という)とに基づいて前記排出ガスセンサの異常の有無を判定する異常診断手段とを備えた排出ガスセンサの異常診断装置において、
前記異常診断手段は、前記リーン方向応答特性と前記リッチ方向応答特性のうちの少なくとも一方を考慮し且つ前記リーン方向応答特性と前記リッチ方向応答特性との比較結果も考慮して前記排出ガスセンサの異常の有無を判定することを特徴とする排出ガスセンサの異常診断装置。
【請求項2】
前記異常診断手段は、前記リーン方向応答特性と前記リッチ方向応答特性との比較結果として、前記リーン方向応答特性と前記リッチ方向応答特性との比又は差を用いることを特徴とする請求項1に記載の排出ガスセンサの異常診断装置。
【請求項3】
前記異常診断手段は、前記リーン方向応答特性又は前記リッチ方向応答特性が所定の異常判定値を越えて且つ前記リーン方向応答特性と前記リッチ方向応答特性との比が所定の異常判定値を越えた場合に、前記排出ガスセンサの異常有りと判定することを特徴とする請求項2に記載の排出ガスセンサの異常診断装置。
【請求項4】
前記異常診断手段は、前記リーン方向応答特性又は前記リッチ方向応答特性が所定の異常判定値を越えて且つ前記リーン方向応答特性と前記リッチ方向応答特性との差が所定の異常判定値を越えた場合に、前記排出ガスセンサの異常有りと判定することを特徴とする請求項2に記載の排出ガスセンサの異常診断装置。
【請求項5】
前記異常診断手段は、内燃機関がアイドル運転状態のときに前記排出ガスセンサの異常診断を許可する手段を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の排出ガスセンサの異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−262945(P2007−262945A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87293(P2006−87293)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】