説明

排気浄化触媒用の温度制御装置

【課題】車両が惰力走行しているとき、排気浄化触媒の温度低下を抑制でき、かつ、車両の減速度が低下することを抑制できる排気浄化触媒用の温度制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの排気浄化触媒と、車両の走行エネルギで発電する発電機と、排気浄化触媒を加熱する加熱装置とを有し、車両の惰力走行時にエンジンで燃料の供給を停止し、かつ、発電機で発電をおこない、その電力で排気浄化触媒を加熱することの可能な排気浄化触媒用の温度制御装置において、車両が惰力走行し、かつ、エンジンで燃料の供給が停止されているときに、排気浄化触媒の温度が活性温度未満であるか否かを判断する温度判断手段と、排気浄化触媒の温度が活性温度未満であるときに、加熱装置で排気浄化触媒を加熱する制御に加えて、エンジンに燃料を供給して燃焼させ、発生する排気ガスの熱で排気浄化触媒の温度を上昇させる制御をおこなう燃料供給手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のエンジンから排出された排気ガスを浄化する排気浄化触媒を備え、その排気浄化触媒を加熱することの可能な温度制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンが搭載された車両では、このエンジンで燃料を燃焼させて生じたトルクを車輪に伝達して駆動力が発生する。また、エンジンで燃料を燃焼させるときには排気ガスが発生し、この排気ガスが排気管を経由して大気中に放出される。ここで、排気ガスには有害物質が含まれているため、排気浄化触媒により有害物質を除去している。このように、エンジンに接続された排気管に排気浄化触媒を設けた車両の一例が、特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1においては、エンジンとしてディーゼルエンジンが記載されており、そのエンジンの排気通路には、触媒および電気加熱触媒が設けられている。また、特許文献1に記載された車両はオルタネータを有しており、エンジンとオルタネータとが動力伝達可能に接続されている。さらに、オルタネータは、コントロールスイッチを介在させて、バッテリおよび電気加熱触媒に接続されている。そして、エンジン加速時には、エンジンから排出された高温の排気ガスが触媒に触れて、効率よく浄化される。これに対して、エンジン減速時には、必要に応じて、エンジンのスロットルバルブを閉じ、かつ、燃料噴射の停止を指令することが記載されている。さらに、エンジン減速が検知されると、コントロールスイッチがバッテリから電気加熱触媒側に切り替えられるとともに、車両の運動エネルギがエンジンを経由してオルタネータに伝達され、そのオルタネータで発電が開始される。そして、オルタネータから電気加熱触媒に電力が供給されて電気加熱触媒が加熱され、その電気加熱触媒で排気ガスが浄化されるため、エンジン減速時も、電気加熱触媒の活性化を促進できるものとされている。なお、車両の減速時における燃料カット制御は、特許文献2にも記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−200851号公報
【特許文献2】特開平11−107805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、エンジンの燃料噴射を停止し、かつ、オルタネータで発電をおこなうと、車両の減速度が大きくなり、車両の運転者に違和感を与える虞があった。
【0006】
この発明は上記事情を背景としてなされたものであって、車両の惰力走行中に排気浄化触媒の温度が低下することを抑制でき、かつ、車両の減速度が変化して運転者が違和感を持つことを回避できる、排気浄化触媒用の温度制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、車両に搭載され、かつ、燃料を燃焼させることにより、車輪に伝達するトルクを発生するエンジンと、このエンジンで燃料が燃焼されたときに発生する排気ガスを浄化する排気浄化触媒と、前記車両の走行エネルギを電力に変換する発電機と、この発電機から電力が供給されて発熱する加熱装置とを有し、前記車両が走行しているときに前記エンジンへの燃料の供給を停止するとともに、前記車両の走行エネルギを前記発電機に伝達して発電をおこない、発生した電力を前記加熱装置に供給して発熱させ、その熱で前記排気浄化触媒の温度を上昇させることの可能な、排気浄化触媒用の温度制御装置において、前記エンジンで燃料の供給が停止され、かつ、前記車両が惰力走行し、かつ、前記発電機で発電した電力を前記加熱装置に供給して、その加熱装置で前記排気浄化触媒の温度を上昇させているときに、前記排気浄化触媒の温度が、触媒の活性温度未満であるか否かを判断する温度判断手段と、この温度判断手段により、前記排気浄化触媒の温度が触媒の活性温度未満であると判断された場合は、前記発電機で発電をおこない、かつ、その電力を前記加熱装置に供給してその加熱装置で前記排気浄化触媒の温度を上昇させる制御に加えて、前記エンジンで燃料の供給および燃焼を開始して排気ガスを発生させ、その排気ガスの熱で前記排気浄化触媒の温度を上昇させる制御をおこなう燃料供給手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記燃料供給手段は、前記エンジンへ供給する燃料の供給量に基づいて、その燃料の供給により生じるエンジントルクの増加量を求める手段を含み、前記エンジンで燃料が燃焼されて車両の減速度が変化することを抑制するために、前記燃料供給手段により求められたエンジントルクの増加量に基づいて、前記発電機で増加する発電量を求める発電量制御手段を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記エンジンから前記車輪に至る動力伝達経路に、入力回転数と出力回転数との比を変更可能な変速機が設けられており、前記エンジンで燃料の供給が停止されている時に、前記車両の目標減速度を求める目標減速度算出手段と、前記エンジンで燃料の供給が停止されている時に、前記変速機の変速比制御により実現可能な車両の減速度を求める実現減速度算出手段と、前記エンジンで燃料の供給が停止されている時に、前記車両の目標減速度と実現減速度との偏差が相対的に少なくなる変速比を、前記変速機の変速比として選択する変速比制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1の構成に加えて、前記発電機で発電をおこない、かつ、その電力を前記加熱装置に供給してその加熱装置で前記排気浄化触媒の温度を上昇させる制御をおこなうときの発電量の増加分を求める発電量制御手段と、前記燃料供給手段は、前記発電機の発電量の増加による車両の減速度が変化することを抑制するために、前記発電量制御手段で求められた発電量に基づいて、前記エンジンに燃料を供給するときのエンジントルクを求める手段を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、車両が惰力走行し、かつ、エンジンで燃料の供給が停止されているときに、排気浄化触媒の温度が、触媒の活性温度未満であると判断された場合は、エンジンで燃料の供給および燃焼を開始する。すると、エンジンで排気ガスが発生して、その排気ガスの熱で排気浄化触媒の温度が上昇する。このため、車両で加速要求が生じてエンジンに供給する燃料が増加する場合に備えて、排気浄化触媒による排気ガスの浄化機能を、予め確保しておくことができる。また、エンジンで燃料の供給が停止されている状態から、エンジンで燃料の微量供給を開始し、エンジンの動力で発電をおこなう発電機の発電量を増加する制御がおこなわれる。このため、加速要求が発生する以前には、車両の減速度が変化することを抑制できる。したがって、車両の乗員が違和感を持つことを回避できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、エンジンへ供給する燃料の供給量に基づいて、その燃料の供給により生じるエンジントルクの増加量を求め、求められたエンジントルクの増加量に基づいて、発電機で増加する発電量を求める制御がおこなわれる。したがって、車両の減速度の低下を抑制できる。
【0013】
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、エンジンで燃料の供給が停止されている時に、車両の目標減速度を求め、かつ、変速機の変速比制御により実現可能な車両の減速度を求め、かつ、車両の目標減速度と実現減速度との偏差が相対的に少なくなる変速比を、変速機の変速比として選択する。したがって、車両の惰力走行時において、車両の目標減速度と実現減速度との偏差が相対的に大きくなることを抑制できる。
【0014】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、加熱装置で排気浄化触媒の温度を上昇させる制御をおこなうときの発電量の増加分を求め、発電機の発電量の増加による車両の減速度が変化することを抑制するために、発電量の増加分に基づいて、エンジンに燃料を供給するときのエンジントルクを求めることができる。したがって、減速度の増加を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、請求項1の発明では、加熱装置の熱及び排気ガスの熱の両方で、排気浄化触媒の温度を上昇させることができる。また、請求項2の発明では、エンジントルクの増加による減速度の低下分を、発電機の発電量を増加することで、減速度の変化を抑制する。これに対して、請求項4の発明では、発電量の増加による減速度の増加分を、エンジントルクを増加することで、減速度の変化を抑制する。つぎに、この発明の具体例を図面に基づいて説明する。図2は、この発明の対象である車両1の概念図である。車両1には駆動力源としてエンジン2が搭載されている。このエンジンは、車輪3に伝達するトルクを発生する動力装置である。具体的に説明すると、エンジン2の燃焼室に燃料を供給して燃焼させ、その熱エネルギを運動エネルギに変換して出力する。このエンジン2としては、内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。このエンジン2の出力軸から車輪3に至る動力伝達経路には、変速機4が設けられている。この変速機4は、入力回転数と出力回転数との比を変更可能である。変速機4としては、変速比を段階的(不連続)に変更可能な有段変速機、または、変速比を無段階(連続的)に変更可能な無段変速機を用いることができる。
【0016】
ここで、有段変速機としては、遊星歯車式変速機、選択歯車式変速機、常時噛み合い式変速機などが挙げられる。無段変速機としては、ベルト式無段変速機、トロイダル式無段変速機などが挙げられる。この具体例では、変速機4として有段変速機が用いられている場合について説明する。この変速機4の動力伝達状態を制御するために、パーキングポジション、リバースポジション、ニュートラルポジション、ドライブポジションなどのシフトポジションを選択可能であり、ドライブポジションが選択された場合は、変速機4の入力軸と出力軸との間で動力伝達が可能となる。この変速機4としては、ドライブポジションが選択された場合に、例えば、第1速ないし第8速の変速段を選択的に切り替え可能な有段式変速機を用いることができる。この変速機4は、変速段を示す数字が相対的に大きいほど、変速比が相対的に小さくなる構成である。
【0017】
また、この変速機4は、動力伝達経路を切り替えるための摩擦係合装置(図示せず)を有しており、その摩擦係合装置の係合および解放を制御することにより、ドライブポジションにおける変速段が変更される構成である。この摩擦係合装置には、クラッチおよびブレーキが含まれており、摩擦係合装置が複数設けられている。さらに、摩擦係合装置の係合および解放を制御するアクチュエータ5が設けられている。このアクチュエータ5としては、公知の油圧式アクチュエータ、公知の電磁式アクチュエータなどを用いることができる。なお、変速機4から車輪3に至る動力伝達経路には終減速機14が設けられている。この終減速機14の減速比は制御できない構成である。
【0018】
一方、エンジン2の燃料室には、排気マニホルド6を介在させて排気管7が接続されている。この排気管7は、車両1のフロアーの下方に設けられており、燃焼室で燃料が燃焼されたときに発生する排気ガスを大気中に排出する過程で通る通路である。また、この排気管7の途中には、排気浄化触媒8が設けられている。この排気浄化触媒8は、排気ガスに含まれている有害成分、例えば、窒素酸化物、炭化水素、一酸化炭素などを吸着除去する装置であり、特に、三元触媒が用いられている。排気浄化触媒8は、三元触媒の雰囲気が理論空燃比のときに、排気ガス中の有害成分となる窒素酸化物、炭化水素、一酸化炭素などを最大効率で浄化する役割を果すものである。また、三元触媒に代表される排気浄化触媒の浄化性能は、一般に、使用時の排気浄化触媒8の温度に大きく依存することが知られている。例えば、排気浄化触媒8として貴金属触媒を使用する場合において該触媒の有する浄化性能を有効に発揮させるためには、触媒温度を、ある一定の活性温度、例えば約200℃以上に昇温させておくことが必要である。なお、排気ガス中の有害成分を触媒反応により浄化しうる排気浄化触媒であればいかなる排気浄化触媒でもよく、例えば、炭化水素のみの浄化を目的とした選択酸化触媒などを用いることも可能である。
【0019】
さらに、前記エンジン2の出力軸には、前記変速機4の他にオルタネータ(交流発電機)9が動力伝達可能に接続されている。エンジン2からオルタネータ9に至る動力伝達経路には、伝動装置10が設けられている。この伝動装置10は、プーリ、ベルト、スプロケット、チェーン、ギヤ、クラッチなどを選択的に用いて構成されている。また、オルタネータ9には電気回路を介在させて蓄電装置11が接続されている。この蓄電装置11としては、放電および充電をおこなうことの可能な二次電池、例えばバッテリまたはキャパシタを用いることができる。そして、この蓄電装置11には加熱ヒータ12が接続されている。この加熱ヒータ12は、蓄電装置11から電力が供給されると、その電気エネルギを熱エネルギに変換して出力する加熱装置である。この加熱ヒータ12は、排気浄化触媒8を加熱するために、車両1のフロアーの下方に設けられている。なお、蓄電装置11の電力は、補機装置、例えば、照明装置、ワイパモータ、スタータモータなどにも供給される。
【0020】
さらにまた、車両1に搭載された装置およびシステムを制御するコントローラとして、電子制御装置13が設けられている。この電子制御装置13には、車速、アクセルペダルの操作状態(アクアセル開度)、エンジン回転数、オルタネータ9の回転数、変速機4の入力回転数および出力回転数、シフトポジションなどを検知するセンサおよびスイッチの信号、さらには排気浄化触媒8の温度を検出する温度センサ15の信号が入力される。この電子制御装置13からは、エンジン回転数およびエンジントルクを制御する信号、ドライブポジションにおける変速機4の変速段を制御する信号、オルタネータ9の発電量を制御する信号、加熱ヒータ12より排気浄化触媒8を加熱するタイミングおよび加熱温度を制御する信号などが出力される。
【0021】
つぎに、車両1で実行可能な制御例を説明する。図1に示された車両1においては、アクセルペダルの操作状態(アクセル開度)および車速に基づいて、車両1における目標駆動力が求められる。まず、アクセルペダルが踏み込まれている場合におこなわれる制御例を説明する。前記のように電子制御装置13に信号が入力されると、車速およびアクセル開度に基づいて、車両1における目標駆動力が求められ、その目標駆動力に基づいて目標エンジンパワーが求められ、その目標エンジンパワーに基づいて、目標エンジン回転数および目標エンジントルクが求められる。そして、アクセルペダルが踏み込まれている場合は、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づける制御をおこない、かつ、実エンジントルクを目標エンジントルクに近づける制御をおこなう。ここで、エンジン2では、吸入空気量、点火時期、燃料噴射量などを制御することにより、エンジン出力を制御可能である。これらの制御を実行するために、電子制御装置13には各種のデータおよびマップが予め記憶されている。また、エンジン2で動力を発生する際に生じた排気ガスが排気管7を経由して大気中に排出される過程で、排気浄化触媒8において、排気ガス中の有害物質が吸着除去される。
【0022】
一方、車速およびアクセル開度をパラメータとして変速機4の変速段を制御する変速マップが予め決定され、そのマップが電子制御装置13に記憶されている。そして、ドライブポジションが選択され、かつ、アクセルペダルが踏み込まれている場合は、この変速マップに基づいて、変速機4の変速段が制御される。このようにして、エンジン出力および変速機4の変速段が制御されるとともに、エンジントルクが変速機4を経由して車輪3に伝達されて、駆動力が発生する。
【0023】
つぎに、車両1が惰力走行する際に実行される制御例を、図1に基づいて説明する。まず、車両1が減速状態にあり、かつ、アイドル状態にあるか否かが判断される(ステップS1)。ここで、アイドル状態とは、アクセルペダルが踏み込まれておらず、燃料の供給によってエンジン2が自律回転可能な回転数に制御されていることである。このステップS1で否定的に判断された場合は、エンジン2の燃料噴射を制御するフェーズFpass が「Fpass =0」とされ(ステップS2)、この制御ルーチンを終了する。これは、前述したように、エンジン出力を目標エンジン出力に近づけるように、燃料の供給量が制御されることを意味する。
【0024】
これに対して、ステップS1で肯定的に判断された場合は、フェーズFpass が、燃料カットフェーズ「1」にあるか否かが判断される(ステップS3)。ここで、燃料カットとは、エンジン2への燃料供給を停止する制御であり、ステップS3の判断はアクセルペダルの踏み込み状態(アクセル開度)およびエンジン回転数に基づいておこなわれる。このエンジン回転数は、燃料カットをおこなった後、再びエンジン2に燃料を供給したときに、燃料が燃焼してエンジン2が自律回転できることを前提として決定された値である。
【0025】
このステップS3で肯定的に判断された場合は、燃料の供給が停止されているときの車両1の目標減速度Fdecが計算される(ステップS4)。電子制御装置13には、車速とアクセル開度とをパラメータとして、目標駆動力(正)および目標減速度(負)を求めるマップが記憶されており、このマップを用いてステップS4の計算がおこなわれる。このステップS4についで、エンジン2の摩擦トルクTemin と、変速機4の変速比gとを乗算することにより、実現可能な減速度が計算される(ステップS5)。このステップS5では、変速機4の全ての変速段について、実現可能な減速度が求められる。
【0026】
前記のように「燃料カットフェーズ1」であり、かつ、車両1が惰力走行している場合は、車両1の運動エネルギがエンジン2に伝達されて出力軸が回転(空転)し、エンジンブレーキ力が発生する。このエンジンブレーキ力に基づいて、車両1の減速度が変化するため、ステップS5の処理をおこなっているのである。図1でステップS5を示す枠内に記載された「Fdec」は、実現可能な減速度を意味し、ステップS5を示す枠内に記載された「1」、「2」・・・「8」の数字は、それぞれ変速機4の変速段を意味している。
【0027】
このステップS5についで、目標減速度と、変速機4の変速段で実現可能な減速度との偏差が求められる(ステップS6)。この偏差は、各変速段の全てについて求められる。また、ステップS6では、実現可能な減速度と目標減速度との偏差が最も小さい変速段が求められ、変速機4の変速段として「実現可能な減速度と目標減速度との偏差が最も小さい変速段」が選択される。このステップS6についで、ステップS7の処理がおこなわれる。このステップS7では、まず、変速機4の変速比の変更により生じるエンジントルクの変化量(増加量)ΔTalt1が、数式(1)を用いて求められる。
【0028】
ΔTalt1=ΔFdec(x) /g(x) ・・・(1)
【0029】
この数式(1)において、Fdec(x) は、車両1の減速時におけるエンジントルクであり、g(x)は、変速機4の変速比である。そして、ステップS7では、変速機4の変速比の変更にともなうオルタネータ9の発電トルクの増加量ΔPalt1を、数式(2)を用いて求める。
【0030】
ΔPalt1=ΔTalt1*Ne*k ・・・(2)
【0031】
この数式(2)において、Neはエンジン回転数であり、k は係数である。そして、オルタネータ9の発電トルクの増加量ΔPalt1から、オルタネータ9の発電量ΔPaltを求め(ステップS8)、オルタネータ9の発電量を、発電量ΔPaltとするための制御信号を、電子制御装置13から出力する(ステップS9)。さらに、オルタネータ9の発電量ΔPaltを加熱ヒータ12に供給して、加熱ヒータ12で電気エネルギを熱エネルギに変換し、排気浄化触媒8を加熱し(ステップS10)、ステップS11に進む。なお、ステップS3で否定的に判断された場合も、ステップS11に進む。
【0032】
このステップS11では、排気浄化触媒8の温度Tcatが検出される。ついで、排気浄化触媒8の温度Tcatが、活性温度Kassei(例えば200℃)未満であるか否かが判断される(ステップS12)。このステップS12で肯定的に判断された場合は、排気ガスの熱により排気浄化触媒8を加熱して、その排気浄化触媒8の温度を上昇させるために、エンジン2に供給する燃料の増量分に基づいて、燃料の増加後におけるエンジントルクΔTeを、数式(3)により求める(ステップS13)。
【0033】
ΔTe=ΔTe+dTe ・・・(3)
【0034】
ここで、「+dTe 」は、現在のエンジントルクに、燃料の増加分に相当するエンジントルクを加算する意味である。さらに、エンジン2の燃料噴射を制御するフェーズFpass を燃料噴射フェーズ2とし、エンジン2に対する燃料の供給を開始する(ステップS14)。ついで、ステップS13で求めたエンジントルクΔTeを用いて、オルタネータ9における発電トルクの増加分ΔTalt2を求め、かつ、オルタネータ9の発電出力の増加分ΔPalt2を数式(4)から求める(ステップS15)。
【0035】
ΔPalt2=ΔTalt2*Ne*k ・・・(4)
【0036】
さらに、オルタネータ9の出力ΔPaltを数式(5)により求める(ステップS16)。
【0037】
ΔPalt=ΔPalt1+ΔPalt2 ・・・(5)
【0038】
そして、オルタネータ9の出力を出力ΔPaltとする制御信号を、電子制御装置13から出力する(ステップS17)。さらに、オルタネータ9で発電された電力ΔPaltを加熱ヒータ12に供給して、加熱ヒータ12で電気エネルギを熱エネルギに変換して排気浄化触媒8を加熱し(ステップS18)、ステップS1に戻る。一方、ステップS12で否定的に判断された場合は、エンジン2に供給する燃料を微小量減少させるとともに、燃料減少によるエンジントルクΔTeを、数式(6)により求める(ステップS19)。
【0039】
ΔTe=ΔTe−dTe ・・・(6)
【0040】
ここで、「−dTe 」は、現在のエンジントルクから、燃料の減量分に相当するトルクを減算する意味である。このステップS19は、前記ステップS3で否定的に判断され、かつ、前記ステップS12で否定的に判断された場合におこなわれる制御であり、このステップS19の処理によりエンジン2に供給される燃料が徐々に減少(スイープダウン)される。このステップS19についで、エンジン2に燃料が供給されている状態から、燃料カットフェーズに移行するか否かが判断される(ステップS20)。
【0041】
このステップS20では、エンジントルクΔTeが、判断値K 未満であるか否かによりおこなわれる。判断値K は、燃料カットフェーズに移行するか否かを判断するために、電子制御装置13に予め記憶されている基準トルク(負の値)である。ここで、エンジントルクΔTeが、判断値K 以上(正に近い)であれば、ステップS20で否定的に判断されて、ステップS14に進む。これに対して、エンジントルクΔTeが、判断値K 未満であれば、ステップS20で肯定的に判断されて、エンジン2の燃料噴射を制御するフェーズFpass を燃料カットフェーズ1とし(ステップS21)、ステップS1に戻る。
【0042】
図1に示された制御例に対応するタイムチャートの一例を、図3に基づいて説明する。時刻t1以前は、車両が定常走行しており、アイドル状態にはない時を示している。これは、ステップS1で否定判断された場合に相当する。この時刻t1以前においては、目標駆動力が正で一定であり、かつ、エンジンで燃料が一定量供給されている。この時刻t1以前においては、エンジントルクが車輪3に伝達されて駆動力が生じている。また、時刻T1以前においては、オルタネータの発電量が一定となっている。これは、補機装置の発電要求により、オルタネータの発電量が決定されている。また、排気浄化触媒の温度も一定である。
【0043】
そして、時刻t1以降は目標駆動力が低下し、かつ、エンジンに供給される燃料が減少し、かつ、排気浄化触媒の温度が低下している。なお、オルタネータの発電量は時刻t1以降も一定である。この時刻t1以降の状態変化は、ステップS3で否定判断され、かつ、ステップS12で否定判断され、かつ、ステップS20で否定判断されるルーチンに対応している。ついで、時刻t2以降は、目標駆動力が正から負に切り替わり、かつ、燃料の供給が停止されている。また、オルタネータの発電量が増加し、かつ、排気浄化触媒の温度が200℃未満になっている。この時刻t2以降の状態変化は、ステップS3で否定的に判断されてステップS12に進み、ステップS12で否定的に判断されてステップS21に進み、再度ステップS3に進んでそのステップS3で肯定的に判断されてステップS4ないしステップS10の処理をおこない、ステップS12で肯定判断されるルーチンに対応している。
【0044】
さらに、時刻t3以降では、目標駆動力が負で一定に制御され、かつ、燃料の供給が再開されている。また、オルタネータの発電量は増加しており、かつ、排気浄化触媒の温度が上昇している。これは、ステップS13ないしステップS18の処理対応するものである。さらに、時刻t4以降は、目標駆動力が負で一定に制御され、かつ、燃料の供給量が一定に制御されている。また、オルタネータの発電量は一定であり、かつ、排気浄化触媒の温度が一定になっている。
【0045】
このように、図1の制御例によれば、車両1が惰力走行し、かつ、エンジン2で燃料の供給が停止されているときに、排気浄化触媒8の温度が、触媒の活性温度未満であると判断された場合は、エンジン2へ燃料を微量供給して燃焼させ、エンジン2で排気ガスを発生させ、その排気ガスの熱で排気浄化触媒8の温度を上昇させる制御がおこなわれる。したがって、車両1で加速要求が生じて燃料の供給量が増加する場合に備えて、排気浄化触媒8による排気ガスの浄化機能を確保しておくことができる。また、エンジン2で燃料の供給が停止されている状態で、エンジン2へ燃料を微量供給し、その燃料を供給した分に相当するエンジントルクの増加分を、オルタネータ9で発電量を増加する制御がおこなわれる。このため、車両1で加速要求が発生する前に、エンジン2から車輪3に伝達されるトルクが増加することはなく、車両1の減速度が変化(減少)することを抑制できる。したがって、車両1の乗員が減速度の変化に違和感を持つことを回避できる。つまり、車両2における目標減速度の維持と、排気浄化触媒8の機能維持とを両立できる。
【0046】
さらに、エンジン2へ供給する燃料の供給量に基づいて、その燃料の供給により生じるエンジントルクの増加量を求め、求められたエンジントルクの増加量に基づいて、オルタネータ9で増加する発電量を求める制御がおこなわれる。したがって、車両1の減速度の変化を一層確実に抑制できる。さらにまた、エンジン2への燃料の供給が停止されている時に、車両1の目標減速度を求め、かつ、変速機4の変速比制御により実現可能な車両1の減速度を求め、かつ、車両1の目標減速度と実現減速度との偏差が相対的に少なくなるように、変速機4の変速比を制御する。したがって、車両1の惰力走行時において、車両1の目標減速度と実現減速度との偏差が相対的に大きくなることを抑制できる。なお、蓄電装置11の充電量が満杯であるときでも、オルタネータ9で発電して、その電力を加熱ヒータ12に供給可能である。上記の実施例では、足により操作されるアクセルペダルの操作状態に基づいて、車両における目標駆動力が求められる構成であるが、手により操作(押す、引く、回転するのいずれでもよい)されるレバー、ノブなどの操作状態に基づいて、車両における目標駆動力が求められる構成の車両においても、図1の制御を実行可能である。
【0047】
ここで、図1のフローチャートに示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1からステップS3に進み、そのステップS3で肯定判断されて、ステップS4ないしステップS11を経由してステップS12に進み、そのステップS12でおこなう処理が、この発明の温度判断手段に相当する。この温度判断手段であるステップS12で肯定的に判断されてステップS14に進み、そのステップS14でおこなわれる処理が、この発明の燃料供給手段に相当する。さらに、ステップS3で肯定的に判断されて、ステップS5ないしステップS11を経由してからステップS12に進み、そのステップS12で肯定的に判断されてステップS15に進み、そのステップS15およびステップS16およびステップS17でおこなわれる処理が、請求項2の発明の発電量制御手段に相当する。さらに、ステップS4が、この発明の目標減速度算出手段に相当し、ステップS5が、この発明の実現減速度算出手段に相当し、ステップS6が、この発明の変速比制御手段に相当する。
【0048】
つぎに、請求項4に対応する制御例を、図4のフローチャートに基づいて説明する。この図4のフローチャートは、図1のフローチャートの一部の処理を変更したものである。図4のフローチャートにおいて、図1と同じステップ番号が付されたステップでは、図1と同じ処理をおこなう。この図4において、ステップS12で肯定的に判断された場合は、加熱ヒータ8で排気浄化触媒8を昇温させるために必要な電力量から、オルタネータ9における発電量の増加分を求める(ステップS31)。このステップS31では、オルタネータ9の発電トルクの増加分および発電パワーの増加分も求められる。このステップS31の処理をおこなうために、温度と、発電量および発電トルクおよび発電パワーとの関係を実験的に求めたマップもしくはデータが、電子制御装置13に記憶されている。
【0049】
このステップS31についで、オルタネータ9の出力が計算される(ステップS32)とともに、オルタネータ9の出力を制御する信号が出力される(ステップS33)。さらに、増加分の電力を含むオルタネータ9で発電した電力が加熱ヒータ12に供給される(ステップS34)。さらに、オルタネータ9の発電量の増加により車両の減速度が増加することを抑制するために、エンジントルクの増加分を求める(ステップS35)とともに、エンジン2の燃料噴射を制御するフェーズFpass を燃料噴射フェーズ2とし、エンジン2に対する燃料の供給を開始し(ステップS36)、リターンする。なお、図4の制御例では、ステップS21で否定的に判断された場合は、ステップS35に進む。この図4の制御例においては、加熱ヒータ9で排気浄化触媒8の温度を上昇させる制御をおこなうときに、オルタネータ9における発電量の増加分を求め、オルタネータ9の発電量の増加による車両1の減速度が変化することを抑制するために、発電量の増加分に基づいて、エンジン2に燃料を供給するときのエンジントルクを求めることができる。したがって、車両1の減速度の増加を抑制できる。この図4では、ステップS31およびステップS32およびステップS33が、請求項4の発電量制御手段に相当し、ステップS35が、請求項4の燃料供給手段に相当する。
【0050】
さらに、この実施例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、車両1が、この発明の車両に相当し、車輪3が、この発明の車輪に相当し、エンジン2が、この発明のエンジンに相当し、排気浄化触媒8が、この発明の排気浄化触媒に相当し、オルタネータ9が、この発明の発電機に相当し、加熱ヒータ12が、この発明の加熱装置に相当し、変速機4が、この発明の変速機に相当する。なお、上記の実施例では、車両の走行エネルギがエンジンを経由して発電機に伝達される構成であるが、車両の走行エネルギがエンジンを経由することなく発電機に伝達される構成の車両においても、図1の制御を実行可能である。例えば、後輪とエンジンとが動力伝達可能に接続され、発電機と前輪とが動力伝達可能に接続された四輪駆動車でもよい。または、前輪とエンジンとが動力伝達可能に接続され、発電機と後輪とが動力伝達可能に接続された四輪駆動車でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の制御例を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す制御例を実行可能な車両の概念図である。
【図3】図1のフローチャートに対応するタイムチャートの一例である。
【図4】この発明の他の制御例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
1…車両、3…車輪、2…エンジン、8…排気浄化触媒、9…オルタネータ、12…加熱ヒータ、4…変速機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、かつ、燃料を燃焼させることにより、車輪に伝達するトルクを発生するエンジンと、このエンジンで燃料が燃焼されたときに発生する排気ガスを浄化する排気浄化触媒と、前記車両の走行エネルギを電力に変換する発電機と、この発電機から電力が供給されて発熱する加熱装置とを有し、前記車両が走行しているときに前記エンジンへの燃料の供給を停止するとともに、前記車両の走行エネルギを前記発電機に伝達して発電をおこない、発生した電力を前記加熱装置に供給して発熱させ、その熱で前記排気浄化触媒の温度を上昇させることの可能な、排気浄化触媒用の温度制御装置において、
前記エンジンで燃料の供給が停止され、かつ、前記車両が惰力走行し、かつ、前記発電機で発電した電力を前記加熱装置に供給して、その加熱装置で前記排気浄化触媒の温度を上昇させているときに、前記排気浄化触媒の温度が、触媒の活性温度未満であるか否かを判断する温度判断手段と、
この温度判断手段により、前記排気浄化触媒の温度が触媒の活性温度未満であると判断された場合は、前記発電機で発電をおこない、かつ、その電力を前記加熱装置に供給してその加熱装置で前記排気浄化触媒の温度を上昇させる制御に加えて、前記エンジンで燃料の供給および燃焼を開始して排気ガスを発生させ、その排気ガスの熱で前記排気浄化触媒の温度を上昇させる制御をおこなう燃料供給手段と
を備えていることを特徴とする排気浄化触媒用の温度制御装置。
【請求項2】
前記燃料供給手段は、前記エンジンへ供給する燃料の供給量に基づいて、その燃料の供給により生じるエンジントルクの増加量を求める手段を含み、
前記エンジンで燃料が燃焼されて車両の減速度が変化することを抑制するために、前記燃料供給手段により求められたエンジントルクの増加量に基づいて、前記発電機で増加する発電量を求める発電量制御手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化触媒用の温度制御装置。
【請求項3】
前記エンジンから前記車輪に至る動力伝達経路に、入力回転数と出力回転数との比を変更可能な変速機が設けられており、
前記エンジンで燃料の供給が停止されている時に、前記車両の目標減速度を求める目標減速度算出手段と、
前記エンジンで燃料の供給が停止されている時に、前記変速機の変速比制御により実現可能な車両の減速度を求める実現減速度算出手段と、
前記エンジンで燃料の供給が停止されている時に、前記車両の目標減速度と実現減速度との偏差が相対的に少なくなる変速比を、前記変速機の変速比として選択する変速比制御手段と
を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の排気浄化触媒用の温度制御装置。
【請求項4】
前記発電機で発電をおこない、かつ、その電力を前記加熱装置に供給してその加熱装置で前記排気浄化触媒の温度を上昇させる制御をおこなうときの発電量の増加分を求める発電量制御手段と、
前記燃料供給手段は、前記発電機の発電量の増加による車両の減速度が変化することを抑制するために、前記発電量制御手段で求められた発電量に基づいて、前記エンジンに燃料を供給するときのエンジントルクを求める手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化触媒用の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−90730(P2010−90730A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258864(P2008−258864)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】