説明

接合部材及びその製造方法

【課題】 特に従来に比べて確実な封止と流路を高精度に形成でき、更には接合界面での気泡混入を効果的に抑制できる接合部材及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 表面11aに流路(溝部)13が形成された第1基材11の前記表面11aにシリコーンゴムシート(封止部材)14をローラー15を用いて貼り合わせ、第1基材11の表面11aとシリコーンゴムシート14とを密着させる。続いて、シリコーンゴムシート14と第2基材12の平坦面12a間に液状樹脂16を塗布し、その状態で、加熱しながら第1基材11と第2基材12を加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細流路を備えるバイオチッププレート等の接合部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
μ−TAS(Micro-Total Analysis Systems)等に使用されるバイオチッププレートは、透明性に優れ且つ低蛍光の基材同士を貼り合わせた構造である。
【0003】
一方のプレートには流路を構成する溝が設けられており、他方は平板状のプレートであり、これらプレート同士の接合には接着剤を用いる方法と熱圧着を用いる方法が知られている。
【0004】
しかしながら接着剤を用いて接合する場合、前記接着剤が溝形状で形成された微細流路内に入り込むため、微細流路が閉塞してしまうことが多かった。また、閉塞まで至らない場合でも、流路の大きさが場所によって変化等して流量が安定しない問題が発生した。一方、このような問題を回避するために接着剤の塗布量を少なくすると接着が不十分で封止不良となりやすかった。また無色透明で且つ低蛍光の接着剤が存在せず、あるいは低蛍光の接着剤であっても溶剤等の影響でプレート側を白濁させてしまう等の不具合が生じた。
【0005】
また熱圧着によりプレート間を接合する場合、接合に時間がかかり、生産性が悪いといった問題があった。また接合に必要な圧力が高く、その結果、微細流路が潰れたり、プレートにクラックが発生する不具合も生じやすかった。また接合面に予め有機溶剤を塗布した場合では、プレートから発生する蛍光や光散乱が増加しやすくなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/050791号
【特許文献2】特開2008−49311号公報
【特許文献3】特開2006−78414号公報
【特許文献4】特開2006−53094号公報
【特許文献5】特開2008−8880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の各特許文献にはいずれもバイオチッププレート(マイクロチッププレート)に関する発明が開示されている。
【0008】
しかしながら特許文献1〜5に記載された発明はいずれも両プレート間を接着シートや接着剤にて接合するものである。
【0009】
また、両プレート間にシートを介在させた構成では、接合界面に気泡が混入すると、そこで屈折率が変わってしまい高精度な光学測定を行えないのと、信頼性低下に繋がるため、気泡混入を抑制することは重要な課題であった。
【0010】
また特許文献5に記載された発明には、溝部が形成されたプレートの表面に接着剤を塗布し、続いてフィルムの蓋材を貼り合わせる工程が開示されている。特許文献5では、接着剤が溝部内に入り込まないように塗布しているが、溝部を避けて接着剤を塗布することは難しいしまた煩雑な塗布作業になる。また仮に溝部を避けて接着剤を塗布できても加圧によって接着剤は溝部内にはみ出しやすく、結局、溝部内に接着剤が入り込まないように制御することは難しい。
【0011】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に従来に比べて確実な封止と流路を高精度に形成でき、更には接合界面での気泡混入を効果的に抑制できる接合部材及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1基材と第2基材とを接合して成り、少なくとも検出領域が光透過性とされた接合部材の製造方法において、
凹形状の溝部が形成された前記第1基材の溝形成面に光透過性の封止部材を密着させ、前記溝部の前記溝形成面側の開口を塞ぐ工程、
前記第2基材と前記封止部材間に光透過性の液状樹脂を塗布した状態で、前記第1基材と前記第2基材間を加圧する工程、
を有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、まず第1基材の溝部が形成された溝形成面に例えばローラーで気泡を押し出しながら、光透過性のシート状の封止部材を密着させ、溝部の前記溝形成面側の開口を塞ぐ。その状態が、図3(a)である。図3(a)(b)は比較例であり、符号1は第1基材であり、符号2がゴムシート(封止部材)である。図3(a)の形態では、流路(溝部)3に圧力が加わると、図3(b)に示すようにゴムシート2が変形して流路3が膨れたり最悪の場合、ゴムシート2が破損する恐れもある。したがって図3に示す比較例の形態では流量を高精度に調整するμ−TASやマイクロリアクタ等に適用できない。
【0014】
そこで本発明は封止部材を第1基材の溝形成面に密着させるとともに、前記封止部材を第1基材と第2基材との間に挟み込み、第2基材の剛性により上記のように例えば流路(溝部)に圧力が加わっても流路の形状が変形するのを防止できる。
【0015】
しかも本発明では封止部材により溝部の開口を塞いで確実な封止を実現でき、また従来のように接着剤を用いた場合のように、溝部が潰されて溝部の大きさが変化してしまう等の不具合は生じない。また、封止部材を介在させることで第1基材と第2基材間を加圧したときに、第1基材及び第2基材にクラックが生じたりまた溝部が潰れるといった不具合を抑制できる。
【0016】
さらに本発明では、封止部材と第2基材の平坦面間に光透過性の液状樹脂を塗布し、その状態で第1基材と第2基材間を加圧している。液状樹脂は、封止部材と第2基材間の隙間を埋めて気泡を外部へ追い出す。また液状樹脂の塗布により封止部材と第2基材間を滑らしながら位置合わせでき第1基材と第2基材間を高精度に位置合わせすることが可能になる。
【0017】
本発明では、前記封止部材は前記液状樹脂を硬化してシート状に成形したものであることが好ましい。また前記封止部材及び液状樹脂には、2液混合付加反応型のシリコーンゴム材料を使用し、加熱しながら前記第1基材と前記第2基材間を加圧することが好ましい。
【0018】
これにより透明性が高く且つ低蛍光にでき、高精度な光学測定を実現でき信頼性が高い接合部材を製造できる。また第1基材と第2基材間のクッション性を効果的に高めることができ、第1基材と第2基材間を加圧したときに、第1基材や第2基材にクラック等が発生するのをより高効果的に防止できる。
【0019】
また本発明では、前記第1基材及び前記第2基材を、シクロオレフィン、ガラス、アクリル樹脂、及びPDMSのうちいずれかにより形成することが好ましい。これにより透明性が高く且つ低蛍光にでき、高精度な光学測定を実現でき信頼性が高い接合部材を製造できる。
【0020】
また本発明では、前記第1基材と前記第2基材間を分子接着することが好ましい。具体的には、前記第1基材の溝形成面に前記封止部材を密着させる前に、
前記第1基材、前記第2基材及び前記封止部材の少なくともいずれか1つを、以下の化2に示すポリシラン化合物の溶液に浸漬させて、表面に被膜を形成することが好ましい。
【0021】
【化2】

【0022】
ここで、R11〜R1n、及びR212nの計2n個のRは下記に示すA、Bのうちいずれかであり、AとBのモル比は40:60〜60:40の間である。
【0023】
Aは主鎖炭素数2〜5の炭化水素であって、下記のうちいずれかの構造をもち、
CH2=CA・CB・CC・CD・CE
CH2=CA−X−CB・CC・CD
CH2=CA・CB−X−CC・CD
CH2=CA・CB・CC−X−CD
CH2=CA・CB・CC・CD−X−
ただしXは−NH−、−S−、−O−のうちいずれかから選ばれ、
A〜CEは、−CO−、−CH2−、−C(CH32−、−C(C252−、−CH=、−CCH3=、−CC25=、−CCH3(C25)−、のいずれかで、CB〜CEについては空白でもよい。
【0024】
また、Bはハロゲンもしくは主鎖炭素数1〜3の炭化水素で、
X−CA・CB・CC
の構造をもつ。ただしXはハロゲンもしくはアルコキシ基、CA〜CCは、−CO−、−CH2−、−C(CH32−、−CH=、−CCH3=、空白、のいずれかから選ばれる。
【0025】
これにより第1基材と第2基材間の接着強度を高めることができる。特に接着剤を用いずに接着できることで従来のように流路が潰れることなく、高精度な寸法で流路を形成できる。
【0026】
また本発明における接合部材は、表面に凹形状の溝部が形成された第1基材と、第2基材と、前記第1基材の溝形成面に密着して設けられ、前記溝部の前記溝形成面側の開口を塞ぐ封止部材と、前記封止部材と前記第2基材間に介在する光透過性の樹脂硬化層とを有し、少なくとも検出領域が光透過性とされていることを特徴とするものである。
【0027】
これにより、溝部に対する確実な封止が可能であり、また溝部が潰されることなく高精度な寸法により前記溝部を形成できる。また封止部材と第2基材間に気泡が入り込むのを適切に抑制でき、高精度な光学測定を実現でき、信頼性の高い接合部材にできる。
【0028】
本発明では、前記封止部材及び前記樹脂硬化層は、2液混合付加反応型のシリコーンゴム材料により形成されることが好ましい。これにより透明性が高く且つ低蛍光を実現でき、より効果的に高精度な光学測定を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、溝部に対する確実な封止が可能であり、また溝部が潰されることなく高精度な寸法により前記溝部を形成できる。また、封止部材と第2基材間に気泡が入り込むのを適切に抑制でき、また第1基材と第2基材間の位置合わせも容易に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態のバイオチッププレート(接合部材)の製造方法を示す工程図であり、各図は製造工程中のバイオチッププレートを厚さ方向から切断した縦断面図である。
【図2】図1(d)の一部を拡大して示したバイオチッププレートの部分拡大縦断面図、
【図3】比較例としてのバイオチッププレートの縦断面図、
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は本実施形態のバイオチッププレート(接合部材)の製造方法を示す工程図であり、各図は製造工程中のバイオチッププレートを厚さ方向から切断した断面図で示されている。
【0032】
本実施形態におけるバイオチッププレート10は、μ−TAS等に適用される。基本的には微細な流路13に微量の検体となる液を流しその液の特性を測定するものである。例えば光源をバイオチッププレートの検出領域(測定領域)に流された検体液に当て、検体から発生する蛍光や、近接場光等の弱い光を測定する。したがってバイオチッププレート10は透明度が高く且つ低蛍光で形成され、少なくとも検出領域(流路13を含む部分)が光透過性とされている。
【0033】
以下、図1を参照して、本実施形態におけるバイオチッププレート10の製造工程を説明する。
【0034】
まず、図1(a)の工程では、プレート状の第1基材11の表面11aに凹形状の流路(溝部)13を形成する。
【0035】
流路13の深さ寸法は、10〜500μm程度である。流路13をエッチング技術等により形成することができる。また流路13の平面形状は使用用途によって種々変更される。
【0036】
本実施形態では図1に示す流路13が形成された第1基材11を、次の化3に示すポリシラン化合物の溶液に浸漬させて、第1基材11の表面11aに被膜を形成することが好適である。なおこの実施形態では表面11aのみならず第1基材11の全周面に前記被膜が形成される。
【0037】
【化3】

【0038】
ここで、R11〜R1n、及びR212nの計2n個のRは下記に示すA、Bのうちいずれかであり、AとBのモル比は40:60〜60:40の間である。
【0039】
Aは主鎖炭素数2〜5の炭化水素であって、下記のうちいずれかの構造をもち、
CH2=CA・CB・CC・CD・CE
CH2=CA−X−CB・CC・CD
CH2=CA・CB−X−CC・CD
CH2=CA・CB・CC−X−CD
CH2=CA・CB・CC・CD−X−
ただしXは−NH−、−S−、−O−のうちいずれかから選ばれ、
A〜CEは、−CO−、−CH2−、−C(CH32−、−C(C252−、−CH=、−CCH3=、−CC25=、−CCH3(C25)−、のいずれかで、CB〜CEについては空白でもよい。
【0040】
また、Bはハロゲンもしくは主鎖炭素数1〜3の炭化水素で、
X−CA・CB・CC
の構造をもつ。ただしXはハロゲンもしくはアルコキシ基、CA〜CCは、−CO−、−CH2−、−C(CH32−、−CH=、−CCH3=、空白、のいずれかから選ばれる。
【0041】
なお、図1(c)の工程に示される第2基材12も、予め、上記の化3に示すポリシラン化合物の溶液に浸漬されて、第2基材12の全周囲面にわたって第1基材11と同様に被膜が形成されている。
【0042】
さらに図1(b)の工程に示されるシリコーンゴムシート(封止部材)14の表面に前記被膜が形成されてもよい。本実施形態では、第1基材11、第2基材12及びシリコーンゴムシート14のうち少なくともいずれか1つに前記被膜が形成される構成でもよいが、少なくとも接合界面を備える第1基材11及び第2基材12の双方に前記被膜が形成されることが好適である。
【0043】
続いて、図1(b)の工程では、第1基材11の流路13が形成された表面(流路形成面)11aに光透過性のシリコーンゴムシート14を直接、貼り合わせて密着させる。
【0044】
シリコーンゴムシート14は、その厚さが第1基材11の厚さに比べて薄く且つ軟質である。
【0045】
シリコーンゴムシート14は、2液混合付加反応型のシリコーンゴム材料を硬化して成形したものであることが好適である。
【0046】
2液型は1液型に比べて、架橋、硬化等の反応を遅延させる必要がなく、架橋剤、硬化剤、反応抑制剤等の添加が少なくて済む。また付加反応型は、メインとなるシリコーン樹脂にビニル基や水素を予め付加しておき、それらが加熱・白金触媒存在下で反応することで架橋する。これに対して、縮合反応型では、添加した架橋剤が自ら分解してゴムを構成する主な樹脂同士を反応させるため、付加型に比べて多くの架橋剤の添加が必要になる。このため、2液混合付加反応型のシリコーンゴムとすることで、シリコーンゴムシート14を無色透明にでき且つ低蛍光に形成できる。また2液混合付加反応型シリコーンゴム材料には触媒として白金が含まれているので組成分析により2液混合付加反応型シリコーンゴム材料であることを立証することが可能である。
【0047】
図1(b)に示すように、例えばローラー15でシリコーンゴムシート14と第1基材11間に介在する気泡を押し出しながらシリコーンゴムシート14を第1基材11の表面11aに貼り合わせ、前記流路13の表面11a側の開口を塞ぐ。
【0048】
上記シリコーンゴムシート14は接着性がない(非接着性である)が、ある程度のタック性を有しているため、貼りあわせるときに気泡を巻き込みやすい。図1(b)に示すようにローラー15によりシリコーンゴムシート14を第1基材11の表面11aに直接貼り合わせることでシリコーンゴムシート14と第1基材11間を気泡を追い出しつつ適切に密着させることが可能である。
【0049】
シリコーンゴムシート14のシート厚は、0.05〜1mm程度であることが好適である。
【0050】
本実施形態では、シリコーンゴムシート14に代えて別の封止部材(樹脂シート)を用いることも可能であるが、透明度が高く且つ低蛍光であることが必要でさらに弾性変形が可能で(ゴム弾性を備えることが好適である)、シート状に成形加工できる材質であることが好適である。
【0051】
次に図1(c)に示す工程では、光透過性の液状樹脂16をシリコーンゴムシート14の平坦な表面14aに塗布する。ここで「液状」とは塗布後、流動性を有する状態を指し、液体状のみならずペースト状も含む。粘性やチクソ性が高いものであっても、プレート同士を貼り合わせるために必要なレベルの圧力によって流動し、広がるものは上記「液状」の範疇に含まれる。
【0052】
液状樹脂16は、シリコーンゴムシート14と同様に、2液混合付加反応型のシリコーンゴム材料であることが好適である。すなわち未硬化のA液とB液の混合液をシリコーンゴムシート14の表面14aに滴下する。
【0053】
あるいは液状樹脂16を第2基材12の第1基材11との対向面に形成された平坦面12aに塗布してもよいし、第2基材12の平坦面12aと、シリコーンゴムシート14の表面14aの双方に液状樹脂16を塗布してもよい。
【0054】
そして図1(d)に示す工程では、第1基材11と第2基材12を貼り合わせ、加熱しながら両者の間に圧力を与えて第1基材11と第2基材12間を接合する。
【0055】
液状樹脂16は、加圧によりシリコーンゴムシート14と第2基材12間の隙間に広がり、前記隙間を埋めて気泡を外部へ押し出す。シリコーンゴムシート14の表面14aのタック性は強いため、その表面14aに液状樹脂16を塗布したことにより、巻き込んだ気泡を追い出すことが可能になる。また、第2基材12とシリコーンゴムシート14間を滑らすことができ、その結果、第1基材11と第2基材12間を高精度に位置決めすることが可能になる。
【0056】
液状樹脂16は熱硬化されて樹脂硬化層17としてシリコーンゴムシート14と第2基材12との間に介在する(図1(d)参照)。
【0057】
ただし上記したように、シリコーンゴムシート14及び液状樹脂16が共に、2液混合付加反応型のシリコーンゴム材料であると、樹脂硬化層17はゴム状となりシリコーンゴムシート14と樹脂硬化層17は図2に示すように一体化する(点線で示す部分がシリコーンゴムシート14と樹脂硬化層17との界面であるが、このような界面を分析できるわけではない)。しかしながら、第1基材11と第2基材12間を加圧して液状樹脂16が外方へ向けて押し出されたときにシリコーンゴムシート14の外周部14bから外方へ向けて突出する突出部17aが樹脂硬化層17に形成されやすく、図2に示す突出部17aの存在により、シリコーンゴムシート14と第2基材12間に樹脂硬化層17が介在していることを立証できる。あるいは、シリコーンゴムシート14と樹脂硬化層17とから成るシートのシート厚が例えば流路13から離れた外周部分で薄くなっていれば、その部分には樹脂硬化層17がないことがわかり、シリコーンゴムシート14と第2基材12間の少なくとも検出領域を含む部分に樹脂硬化層17が介在していることを立証できる。また、シリコーンゴムシート14と樹脂硬化層17とで組成が異なる場合には組成分析によっても立証できる。
【0058】
図1で説明したように本実施形態は、凹形状の流路13が形成された第1基材11の表面(流路形成面)11aにシリコーンゴムシート(封止部材)14を密着させ流路13の表面11a側の開口を塞ぎ、その後、シリコーンゴムシート14と第2基材12の平坦面12a間に液状樹脂16を塗布して第1基材11と第2基材12間を加圧する製造工程に特徴的部分がある。
【0059】
本実施形態では、流路13をシリコーンゴムシート14により適切に封止でき、また第1基材11と第2基材12間を加圧したときシリコーンゴムシート14の弾性変形により確実な封止を実現できる。したがって例えば流路13に注入された検体液の液漏れが生じたりする不具合は生じない。また従来のように接着剤を用いて接合する場合のように流路13の大きさが変化したりあるいは潰れるといった不具合も生じず、流路13を高精度な大きさにて形成できる。また流路13上を封止するシリコーンゴムシート14はシリコーンゴムシート14に比べて剛性の高い第2基材12により抑えられているから流路13に圧力がかかっても流路13の大きさが変化することはなく、またシリコーンゴムシート14が前記圧力により破損したりすることも無い。
【0060】
しかも本実施形態では液状樹脂16により、シリコーンゴムシート14と第2基材12間の隙間を埋めて気泡を外部へ追い出すことが可能になり第2基材12とシリコーンゴムシート14間を適切に密着させることが出来る。このように気泡が入るのを抑制できるため、検出領域(測定領域)に屈折率が異なる媒質の介在を抑制でき、高精度な光学測定を行うことが可能である。さらに、液状樹脂16をシリコーンゴムシート14と第2基材12間に介在させることで、滑りが良くなり第1基材11と第2基材12の位置合わせを高精度に行うことも出来る。
【0061】
さらに本実施形態の接合方法では従来のような精密な接着塗布(印刷)工程が必要なく、従来に比べて第1基材11と第2基材12間を簡単な接合工程にて接合でき、生産効率を向上させることが可能である。
【0062】
以上により本実施形態のバイオチッププレート(接合部材)10の製造方法に基づけば、流路(溝部)13に対する確実な封止とともに前記流路13を寸法精度良く所定形状で形成でき、さらに第1基材11と第2基材12間に気泡の混入を抑制できる高い透明度且つ低蛍光のバイオチッププレート10を生産性良く製造できる。
【0063】
本実施形態において「高い透明度」及び「光透過性」とは、450〜600nm(好ましくは400〜900nm)の波長において光透過率が85%以上(好ましくは90%以上)である状態を指す。
【0064】
なお、シリコーンゴムシート14を先に第2基材12の平坦面12aに密着させた後、シリコーンゴムシート14と第1基材11の表面11a間に液状樹脂16を塗布して第1基材11と第2基材12間を加圧すると液状樹脂16が流路(溝部)13内に入り込み、流路13を高精度に形成できない。したがって本実施形態では、シリコーンゴムシート14を先に第1基材11の表面11aに密着させた後、シリコーンゴムシート14と第2基材12の平坦面12a間に液状樹脂16を塗布して第1基材11と第2基材12間を加圧している。
【0065】
本実施形態では第1基材11及び第2基材12を、シクロオレフィン、ガラス、アクリル樹脂、及びPDMSのうちいずれかにより形成することが好ましい。第1基材11及び第2基材12は、大量生産によりコストを抑えるためにプラスチック材であることが好ましく、特に、シクロオレフィンポリマー(COP)、あるいはシクロオレフィンコポリマー(COC)により形成されることが好適である。
【0066】
COPには、日本ゼオン製の商品名ゼオネックスやゼオノア、日本合成ゴム製の商品名アートンや、COCには、日本化成工業の商品名オプトレッツ、ポリプラスチックス製の商品名トーパスを好ましく使用できる。これらはいずれも無色透明で且つ低蛍光材料である。上記ゼオネックスであると無アルカリガラスの数倍レベルの蛍光に抑えることが出来る。
【0067】
また、第1基材11及び第2基材12は、0.5mm〜5mmの厚みのプレートで形成されることが好ましい。
【0068】
また上記したように本実施形態では、シリコーンゴムシート14及び液状樹脂16を共に2液混合付加反応型のシリコーンゴム材料で形成することが好適である。これにより、より効果的に透明性が高く且つ低蛍光を実現できる。ところで、シリコーンゴムシート14及び液状樹脂16を共に2液混合付加反応型のシリコーンゴム材料で形成した場合、シリコーンゴムシート14及び液状樹脂16に接着性がない。なおタック性を有するため第1基材11と第2基材12間を貼着できるが接着強度に劣る。このため、十分な接着強度を得るために、本実施形態では、表面11aに流路13が形成された第1基材11及び第1基材11との対向面が平坦面12aである第2基材12を、上記の化3に示すポリシラン化合物の溶液に浸漬させて、第1基材11及び第2基材12の表面に被膜を形成している。
【0069】
そして図1(d)の工程にて、第1基材11と第2基材12間を加熱しながら加圧すると、シリコーンゴムシート14と第1基材11間及び樹脂硬化層17と第2基材12間が分子接着により強固に接着される。具体的には被膜の例えばビニル基とシリコーンゴムシート14とが反応し、また被覆のアルコキシ基と基材とが反応して接着強度を高めることができる。
【0070】
ただし本実施形態では分子接着によらず、例えば、検出領域(測定領域)から離れた外周部分に市販の接着剤を塗布して第1基材11と第2基材12間を接着固定してもよいし、あるいは、第1基材11と第2基材12とを外部から圧力を加えた状態(接着等を行わない)で保持することも出来る。
【0071】
また図1では、第1基材11と第2基材12とを接合したバイオチッププレート10の製造方法であったが、基材を3層以上の積層構造とすることも可能である。
【0072】
また流路13の形態等によっては、シリコーンゴムシート14の流路13と対向する位置に液を通すための開口部を設けることもあるが、流路13の幅よりシリコーンゴムシート14の開口部の幅を広げておくことで、液状樹脂16が多少、開口部の部分にはみ出しても、液の流れへの影響を最小限に抑えることが可能である。
【実施例】
【0073】
まず日本ゼオン製のシクロオレフィンコポリマー材料(ゼオネックス480R)を用いて2種類の基材(プレート)を射出成形した。すなわち表面に幅100μm、深さ100μmの溝が縦横に形成された第1基材と、平板状の第2基材とを用意した。いずれの基材も、大きさは75mm×25mm×1mmであった。これら基材を以下の3種類の方法で接合した。
【0074】
(接着剤を用いて接合する方法)
市販の接着剤を用いて第1基材と第2基材間を接合する方法である。第2基材の平坦面に接着剤を少量滴下し、スクレーパーで薄く均一に延ばした後、第1基材の流路形成面側を接着剤の塗布面に対向させてローラーで押圧し、両基材を密着させた。
【0075】
また両面接着テープを用いる場合には、まず第2基材の平坦面に両面接着テープを貼り、続いて第1基材の流路形成面側を両面接着テープに対向させてローラーで押圧し、両基材を密着させた。
【0076】
7品目の液状接着剤と5品目の両面接着テープを夫々用いて12種類のサンプル(サンプル1〜12)を作製した。
【0077】
(熱圧着にて接合する方法)
第2基材の表面に少量の溶剤を塗布して、自然乾燥させた後、両基材間を5MPaにて加圧し、110℃で2時間処理してサンプル13を作製した。
【0078】
(封止部材(シリコーンゴムシート)と液状樹脂を用いた接合方法)
3種類のシリコーンゴムシートを用いた。1つ目のシートは、熱加硫型ミラブルゴム(厚さ0.5mm)であり、2つ目のシートは、電子線架橋型のシリコーンゴムシート(厚さ0.4mm)であり、3つ目のシートは、信越シリコーン製のKE1935シリコーンシートである。信越シリコーン製の2液混合付加反応型のシリコーンゴム成形材料であるKE1935のA液とB液を混合して型に入れ、熱硬化させてシリコーンゴムシートを作製した。シート厚は0.5mmであった。
【0079】
続いて、各基材と各シリコーンゴムシートとを次の化4に示すビニルメトキシシランの0.5重量%エタノール溶液に室温で3分間浸漬した。
【0080】
【化4】

【0081】
続いて、各シリコーンゴムシートを夫々第1基材の流路形成面上に載置し、ローラを用いて気泡が入らないようにシートの一端から気泡を追い出しつつシリコーンゴムシートと流路形成面とを密着させた。
【0082】
続いて、各シリコーンゴムシートの表面に未硬化のKE1935のA液とB液との混合液を数滴、滴下し、各第2基材を各シリコーンゴムシートの表面に載置し、両基材を治具で固定した状態で、オーブンにセットして、120℃で5分間プレスしてサンプル14〜16を作製した。
【0083】
上記各サンプルに対して次の実験を行った。
(破壊強度試験)
各サンプルの四隅を固定し、中央部に上方から一定の速度にて、荷重を加え徐々に増やしていき、第1基材と第2基材とが剥離するか、基材が破壊したときの荷重を測定した。このとき熱圧着で接合したサンプル13での破壊強度3.5kgfを基準にして、この破壊強度を上回る場合を合格(OK)、下回る場合を不合格(NG)とした。
【0084】
(蛍光の測定)
各サンプルを顕微鏡上にセットし、斜め上から励起光となる532nmの緑色単色光を照射した。一方、顕微鏡の対物レンズからの光を、光路を切り替えてセンサに導けるようになっており、センサには585nmの狭帯域フィルタが付いており、この光の強度をもって相対値であるが蛍光強度とした。
【0085】
なお、第1基材と第2基材とを重ねただけの状態で蛍光測定を行っており、このときの蛍光強度(790)を基準値とした。また各サンプルの蛍光強度を基準値で割り、2倍以内なら好ましい蛍光強度であるとした。
【0086】
(通液試験)
インクで着色した水滴を流路の入り口から滴下し、流路の出口を小型の真空ポンプで吸ったときに液が流路内に流れ、さらに液が流路外へ漏れ出したり、しみだしたりしなければ合格とした。
【0087】
(目視試験)
白濁や着色等の透明度の変化やムラ、さらには気泡の混入等をチェックした。
【0088】
上記サンプル1〜13の実験結果を表1に、サンプル14〜16の実験結果を表2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1の接着剤を用いて接合したサンプル1〜12のうち、アクリル系の接着剤やシリコーン系の接着剤では、接合強度は十分であったが、蛍光値が非常に高く、さらに通液試験のいくつかのサンプルで結果が不合格(NG)となった。また両面テープを用いたサンプルには目視試験で気泡の存在が確認されたものがあった。
【0092】
また表1に示すようにシアノアクリレート系の接着剤を用いたサンプルでは、接着面の一部が白濁しまた接合強度及び通液試験がいずれも不合格(NG)であった。
【0093】
また熱圧着で接合したサンプル13では、蛍光強度は比較的低くなったが(基準値の約3.7倍)、通液試験が不合格(NG)となり、また流路が潰れていることが確認された。
【0094】
表2に示すシリコーンゴムシートを用いた接合によるサンプルでは、サンプル14で蛍光強度が白濁のため測定不能となった。サンプル15,16は、いずれも、接合強度、通液試験、及び目視試験が合格(OK)であったが、サンプル15の蛍光強度はやや高くなった。
【0095】
サンプル16は、気泡の混入も流路の潰れもなく確実な封止がなされており、表2に示すように、蛍光強度、接合強度、通液試験、及び目視試験の全ての試験で合格であった。そしてサンプル16に実際に件体液を流して光学測定を行ったところ、安定した測定を行うことができた。
【符号の説明】
【0096】
10 バイオチッププレート
11 第1基材
12 第2基材
13 流路
14 シリコーンゴムシート(封止部材)
15 ローラー
16 液状樹脂
17 樹脂硬化層
17a 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材と第2基材とを接合して成り、少なくとも検出領域が光透過性とされた接合部材の製造方法において、
凹形状の溝部が形成された前記第1基材の溝形成面に光透過性の封止部材を密着させ、前記溝部の前記溝形成面側の開口を塞ぐ工程、
前記第2基材と前記封止部材間に光透過性の液状樹脂を塗布した状態で、前記第1基材と前記第2基材間を加圧する工程、
を有することを特徴とする接合部材の製造方法。
【請求項2】
前記封止部材は前記液状樹脂を硬化してシート状に成形したものである請求項1記載の接合部材の製造方法。
【請求項3】
前記封止部材及び前記液状樹脂には、2液混合付加反応型のシリコーンゴム材料を使用し、加熱しながら前記第1基材と前記第2基材間を加圧する請求項1又は2に記載の接合部材の製造方法。
【請求項4】
前記第1基材及び前記第2基材を、シクロオレフィン、ガラス、アクリル樹脂、及びPDMSのうちいずれかにより形成する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の接合部材の製造方法。
【請求項5】
前記第1基材と前記第2基材間を分子接着する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の接合部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1基材の溝形成面に前記封止部材を密着させる前に、
前記第1基材、前記第2基材及び前記封止部材の少なくともいずれか1つを、以下の化1に示すポリシラン化合物の溶液に浸漬させて、表面に被膜を形成する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の接合部材の製造方法。
【化1】

ここで、R11〜R1n、及びR212nの計2n個のRは下記に示すA、Bのうちいずれかであり、AとBのモル比は40:60〜60:40の間である。
Aは主鎖炭素数2〜5の炭化水素であって、下記のうちいずれかの構造をもち、
CH2=CA・CB・CC・CD・CE
CH2=CA−X−CB・CC・CD
CH2=CA・CB−X−CC・CD
CH2=CA・CB・CC−X−CD
CH2=CA・CB・CC・CD−X−
ただしXは−NH−、−S−、−O−のうちいずれかから選ばれ、
A〜CEは、−CO−、−CH2−、−C(CH32−、−C(C252−、−CH=、−CCH3=、−CC25=、−CCH3(C25)−、のいずれかで、CB〜CEについては空白でもよい。
また、Bはハロゲンもしくは主鎖炭素数1〜3の炭化水素で、
X−CA・CB・CC
の構造をもつ。ただしXはハロゲンもしくはアルコキシ基、CA〜CCは、−CO−、−CH2−、−C(CH32−、−CH=、−CCH3=、空白、のいずれかから選ばれる。
【請求項7】
表面に凹形状の溝部が形成された第1基材と、第2基材と、前記第1基材の溝形成面に密着して設けられ、前記溝部の前記溝形成面側の開口を塞ぐ封止部材と、前記封止部材と前記第2基材間に介在する樹脂硬化層とを有し、少なくとも検出領域が光透過性とされていることを特徴とする接合部材。
【請求項8】
前記封止部材及び前記樹脂硬化層は、2液混合付加反応型のシリコーンゴム材料により形成される請求項7記載の接合部材。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−53091(P2011−53091A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202436(P2009−202436)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】