説明

携帯情報端末および地磁気センサの補正用プログラム

【課題】 本体を回転させることなく、搭載される地磁気センサのオフセットの補正を行うことができる携帯情報端末および携帯情報端末の制御装置に組み込まれる地磁気センサの補正用プログラムを提供する。
【解決手段】 図(a)に示すように、表示部18aにおいて、現在地の景観に対して傾斜して地図MAPaが表示されている携帯電話機MPがユーザに携帯され、左回転の指示の機能が割り当てられているカーソルキー9aが押下され、地図MAPaが左に回転する。その後、地図MAPaが、図(b)に示す地図MAPbのように、現在地の景観と一致して表示されるようになる。そして、地図と現在地の景観とが一致したことがユーザに確認されると、カーソルキー9aが開放され、確認ボタン10が押下され、地図が回転した量がオフセット値として採用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在地を表示するGPS(Global Positioning System)ナビゲーション機能を搭載した携帯情報端末に係り、特に、搭載される地磁気センサのオフセットの補正を行う携帯情報端末および地磁気センサの補正用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地磁気を検出する地磁気センサと、地図を表示するための表示画面と、地図のDB(Data Base)とを備え、この地磁気センサによって検出された地磁気に基づいて方位測定を行う、所謂、ナビゲーション機能を有する携帯電話機、モバイル機といった、携帯情報端末が知られている。測定された方位は、地図の表示に利用される。一例として挙げると、位置検出を行うGPSシステムによって得た現在位置情報に基づいた地図を、携帯電話機の向き(方位)に合わせて表示する機能を有する携帯電話機が登場している。
【0003】
ところで、従来の地磁気センサは、スピーカ等や電子部品とともに携帯電話機内部に搭載される。かかるスピーカ等から漏れる磁場や、強い外部磁場により、電子部品のパッケージ等の金属が着磁され、これから漏れる磁場が存在するため、地磁気センサはこれらの携帯電話機内部に存在する磁場をも検出してしまう。これらの磁場の影響により、かかる方位円の中心は原点からシフトする。このシフトをオフセットという。このようなオフセットがあると、地磁気センサの測定値に基づいてオフセットがないことを前提として算出した方位は、実際の方位と異なってしまう。そのため地磁気センサの測定値から該オフセットを補正する必要がある。
【0004】
しかし、携帯電話機内部に存在する磁場は、温度変化や経時変化によって強度や方向が変化し、上述したオフセットが変化するため、従来の地磁気センサを内部に搭載した携帯電話機においては、例えば、使用前に地磁気センサのオフセットの補正を行う必要がある。オフセットの補正は、携帯電話機を1周以上回転させつつその間磁気センサの測定を行うキャリブレーションに基づいて行うことができる。
【0005】
ここで、感度方向として水平面内の二軸(X軸、Y軸方向)をもつ地磁気センサを搭載した携帯電話機を一定の磁場の下、水平に保ったままゆっくりと等速度にて1周以上回転させて、地磁気センサの出力をモニタするとある円を描く。この円を方位円という。このような方位円は、理想的にはX軸、Y軸の交差する原点を中心とし、所定の半径を有するものとなる。
【0006】
この間における、X軸、Y軸方向のそれぞれの地磁気センサの検出値の最大値から最小値を減算して2で割った値をそれぞれの地磁気センサの感度情報とし、最大値と最小値とを加算して2で割った値をオフセット情報として、X軸、Y軸方向の地磁気センサの検出結果から該オフセットを除去することにより、地磁気センサの測定値を補正して、前述した方位測定に使用する測定値を得ている。
【0007】
しかしながら、上述した従来の地磁気センサの補正方法を用いる携帯電話機においては、地磁気センサの検出値の最大値、最小値を求めるため、携帯電話機を平面上において1周以上回転させる必要がある。しかも、携帯電話機の回転速度が速すぎると、真の最大値、最小値を検出できなくなる場合が発生し、逆に遅すぎると、読み取りデータ数が膨大になり、メモリがオーバフローする等、回転速度が一定の範囲から外れた場合に、補正の精度が劣化したり、補正ができなくなってしまい、該携帯電話機の回転速度を微調整しつつ回転させなくてはならないというという問題があった。また、上述した携帯電話機において、ユーザからみると、該携帯電話機を回転させることによって、キャリブレーションが本当にうまくいったかを確認し難いという問題もあった。
【0008】
こうしたことに対応して、例えば、特許文献1には、3軸(X軸、Y軸、Z軸方向)の磁気センサを用いて、該磁気センサのX軸およびY軸方向についてのキャリブレーンョン動作中にZ軸周りの回転角を測定し、該回転角が90°から180°の間に分布したり、90°と180°との間を往復するような動作が起きた場合、該磁気センサによる測定を実行し、該測定値により補正されたオフセット計測値によって該磁気センサの測定値を補正する方位角計測装置が記載されている。該方位角計測装置は、上述したキャリブレーション動作の開始のときに自分が向いている方向を上にして(ヘディングアップ)地図情報を画面に表示し、表示された地図情報が実際の現地の状況と一致していない場合、該地図情報が実際の現地の状況と一致するまで、ユーザに上述した回転を行わせることによりキャリブレーションを数回行う。ここで、ユーザは該地図情報が実際の現地の状況と一致したことをもってキャリブレーションを停止する。
【0009】
しかし、該公報に係る発明においても、キャリブレーションを行うためには、従来と同様に、該方位角計測装置を手に持って回転させるので、該方位角計測装置の回転速度を微調整することが困難であり、前述した問題を解決することはできない。
【特許文献1】特開2004−12416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、本体を回転させることなく、搭載される地磁気センサのオフセットの補正を行うことができる携帯情報端末および携帯情報端末の制御装置に組み込まれる地磁気センサの補正用プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、この発明では、以下の手段を提案している。
請求項1に係る発明は、地磁気センサと、位置情報を取得する位置情報取得手段と、地図情報を記憶する地図情報記憶手段と、前記地磁気センサの出力および前記位置情報ならびに前記地図情報に基づいて現在地における地図を表示する表示手段と、前記地図を任意の回転方向、角度に回転させる地図回転手段と、前記地図と前記現在地の景観とが一致した場合、前記地図の回転方向および角度に応じて前記地磁気センサのオフセット値を更新するキャリブレーション手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、携帯情報端末の制御用コンピュータに、地磁気センサの出力および位置情報ならびに地図情報に基づいて現在地における地図を表示するステップと、前記地図を任意の回転方向、角度に回転させるステップと、前記地図と前記現在地の景観とが一致した場合、前記地図の回転方向および角度に応じて前記地磁気センサのオフセット値を更新するステップとを実行させるための地磁気センサの補正用プログラムを提供する。
これらの発明によれば、従来のように携帯情報端末自体を回転させる代わりに、携帯情報端末に表示された地図が回転した量に基づいて、オフセット値のキャリブレーションが行われる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地図を現在地の景観と一致するように、回転速度を微調整しつつ回転させることにより、従来のように携帯情報端末自体を回転させるのに比して、キャリブレーションを簡単な操作によって行うことができる効果がある。また、地図が現在地の景観と一致したことをもって、キャリブレーションが本当にうまくいったことを確認し易くなる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照し、この発明の一実施形態について説明する。
図2に示すように、携帯電話機MPは、操作キー類を有する筐体1と、両面に液晶表示部を有する筐体2とから構成される。尚、図2(a)に示すように、筐体1の短手の辺に沿うX軸および筐体1の長手の辺に沿うY軸ならびに筐体1の厚み方向の辺に沿い、鉛直上向きに伸びるZ軸を想定する。尚、X軸およびY軸ならびにZ軸は互いに直交する。
【0015】
筐体1および筐体2は、各筐体の短辺において連結部を介して連結され、一方の筐体が他方の筐体に対して回動可能なように構成されており、2つの筐体が筐体の厚み方向に沿って重なった状態となるように折り畳むことができる。
【0016】
ここで、携帯電話機MPの各筐体の各面を以下のように定義する。すなわち、筐体1の操作キー類を有する面を操作面とし、操作面と反対の面を背面とする。また、筐体2の面のうち、表示部18a(表示手段)が設けられている面を主表示面とし、主表示面と反対の面を表の面とする。
【0017】
また、この携帯電話機MPは、GPSによる測位機能を有すると共に、CDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)方式の通信機能を有している。
【0018】
図1において、同実施形態による携帯電話機MPは、RFアンテナ8と、表示部18a、18bと、マイク27と、受話音用スピーカ28と、地磁気センサモジュール30(地磁気センサ)と、着信音用スピーカ41と、CPU(Central Processing Unit)101(表示手段)(キャリブレーション手段)と、ROM(Read Only Memory)102(地図情報記憶手段)と、RAM(Random Access Memory)103と、RF(Radio Frequency)送受信部104と、キー入力部105と、音声処理部107と、GPS受信部108(位置情報取得手段)と、音源部109と、GPSアンテナ110(位置情報取得手段)と、バスライン120とから構成される。尚、上述した携帯電話機MPの構成は、従来におけるGPSを搭載した携帯電話機と同様である。
【0019】
RFアンテナ8がRF送受信部104に接続される。マイク27および受話音用スピーカ28が音声処理部107に接続される。着信音用スピーカ41が音源部109に接続される。GPSアンテナ110がGPS受信部108に接続される。
【0020】
RFアンテナ8は図示しない無線基地局と電波の送受信を行う。RF送受信部104は信号の送受信に係る処理を行う。このRF送受信部104は、局部発振器等を備え、受信時にRFアンテナ8から出力された受信信号に対して予め定められた周波数の局部発信信号を混合することにより、受信信号を中間周波数(IF)の受信IF信号に変換し、内部の変復調部へ出力する。該変復調部は、受信IF信号を予め定められた周波数のベースバンド信号に変換すると共に、このベースバンド信号をデジタル信号に変換し、内部のCDMA部へ出力する。該CDMA部は、および受信された信号の復号化処理を行い、変復調部から出力されたベースバンド信号を復号化する。
【0021】
また、RF送受信部104内のCDMA部は、送信用の信号を符号化してベースバンド信号に変換し、変復調部へ出力し、変復調部は、CDMA部から出力された送信用のデジタルのベースバンド信号によってIF周波数の信号の変調を行うことにより、アナログ信号に変換して、さらにRF信号へ周波数変換し、該RF信号をRFアンテナ8へ出力する。
【0022】
音声処理部107は、通話時の音声に係る処理を行う。この音声処理部107は、通話時にマイク27から出力されたアナログの音声信号をデジタル信号に変換し、送信用の信号としてRF送受信部104内のCDMA部へ出力する。また、音声処理部107は、通話時にRF送受信部104内のCDMA部によって復号化された音声データを示す信号に基づいて、着信音用スピーカ28を駆動するためのアナログの駆動信号を生成し、着信音用スピーカ28へ出力する。マイク27は、ユーザによって入力された音声に基づいた音声信号を生成し、音声処理部107へ出力する。着信音用スピーカ28は、音声処理部107から出力された信号に基づいて、通話の相手の音声を発生する。
【0023】
GPSアンテナ110は、GPS衛星から送信された電波を受信し、この電波に基づいた受信信号をGPS受信部108へ出力する。GPS受信部108はこの受信信号を復調し、受信信号に基づいて、GPS衛星の正確な時刻情報や電波の伝播時間等の情報を取得する。GPS受信部108は取得した情報に基づいて、3以上のGPS衛星までの距離を算出し、三角測量の原理により、3次元空間上の位置(緯度・経度・高度等)(位置情報)を算出する。
【0024】
CPU101は携帯電話機MP内部の各部を制御する。このCPU101は、RF送受信部104、音声処理部107、GPS受信部108、地磁気センサモジュール30、ROM102、RAM103、キー入力部105および表示部18a、18bと、バスライン120を介して制御信号あるいはデータの入出力を行う。
【0025】
ROM102は、CPU101が実行する各種のプログラムを記憶する。また、出荷検査時に測定された地磁気センサモジュール30の初期特性値等を記憶する。また、実使用時において、オフセットの補正が必要であるか否かの基準となるオフセット基準データを記憶する。オフセット基準データとは、出荷検査時に測定された地磁気センサモジュール30によって測定された出力の方位円の半径をさすものとし、初期オフセット値と地磁気強度とからなる。また、ROM102は地図データのDBとしての領域を有し、該領域において地図情報を記憶する。
【0026】
RAM103は、CPU101によって処理されるデータ等を一時的に記憶する。また、RAM103は、後述するように、地磁気センサモジュール30のオフセット計測値および測定データをも記憶する。
【0027】
音源部109は、着信音用スピーカ41を備え、着信やメール受信等を、音によってユーザに報知する。また、コンテンツサーバからダウンロードしたコンテンツデータによって生成された楽音を再生する。尚、着信音用スピーカ41は図2(d)に示すように、筐体1の背面に設けられる。
【0028】
キー入力部105は、図2(a)に示すように、電話を受けるときに使用する開始キー3、電話を終了するとき、または電源のオン/オフに使用する終了キー4と、数値キーおよびコードキーからなるテンキー5と、およびリダイアルキー7と、カーソル操作用のカーソルキー9a、9b(地図回転手段)、9c、9dと、各キー操作による動作指示の確定に使用される確認ボタン10と、漢字・数字等の変換用の変換キー11等を備え、ユーザによる操作結果を示す信号をCPU101へ出力する。
【0029】
カーソルキー9a、9bは、それぞれ、表示部18aに表示される地図MAPaを左右に回転させる機能が割り当てられており、一回の押下により地図MAPaが一定の角度だけ回転するようにしており、結果的に、カーソルキー9aまたは9bを押下しているときのみ地図MAPaが回転し、カーソルキー9aまたは9bが開放される(押下されなくなる)と地図MAPaの回転が停止するようなっている。
【0030】
表示部18a、18bは、液晶表示器によって構成され、電子メールを送信する際に作成された文章の文字情報、各種メニューの内容等を含む各種データ、さらにはその詳細な内容等が表示されるようになっている。表示部18aは筐体2の主表示面に設けられ、液晶表示部18bは筐体2の表の面に設けられる。
【0031】
地磁気センサモジュール30は、図3に示すような構成であり、同一水平面上に設定されて、互いに直交するX軸、Y軸の各々の軸方向(感磁方向)の地磁気(磁界)を検出するGMR(Giant Magnetoresistive)素子からなる磁気センサ31、32と、磁気センサ31、32の検出出力信号SxもしくはSy(方位情報)を選択的に出力する切換器33と、切換器33の出力信号を増幅する増幅器34と、増幅器34の出力信号のA/D(Analog/Digital)変換を行うA/Dコンバータ35と、A/Dコンバータ35の出力信号を地磁気センサモジュール30の外部に出力するためのI/F(インターフェイス)部36とを備えている。尚、地磁気センサモジュール30は、磁気センサ31、32の感磁方向が、前述したX軸およびY軸とそれぞれ平行になるように、図2(a)に示すように、筐体1内の中央部に取り付けられている。これにより、地磁気センサモジュール30の感磁方向がX軸およびY軸となる。以上、2軸の地磁気センサモジュール30について説明したが、3軸の地磁気センサモジュールを必要とする場合、上述したX軸およびY軸に対して互いに垂直にZ軸を設定し、該Z軸方向を感磁方向とする磁気センサを追加する。
【0032】
磁気センサ31、32は、X軸方向、Y軸方向の地磁気の強さに応じた検出出力信号Sx、Syを出力する。切換器33は、磁気センサ31、32の検出出力信号Sx、Syを選択的に増幅器34の入力端へ出力する。増幅器34は切換器33から出力された磁気センサ31もしくは32の検出出力信号SxもしくはSyを増幅してA/Dコンバータ35に出力する。A/Dコンバータ35は、検出出力信号SxもしくはSyをディジタル化し、I/F(インターフェイス)部36を介して、バスライン120に出力する。
【0033】
次に、携帯電話機MPの方位測定方法の原理について、説明する。尚、本実施形態においては、携帯電話機MPの操作面がほぼ水平な状態にて置かれ、地磁気センサモジュール30に加わる外部磁界が地磁気のみであるとして説明する。ここで、携帯電話機MPの方位angとは、携帯電話機MPの筐体1の操作面がほぼ水平である場合において、図2(a)に示す携帯電話機MPの操作面手前部(例えば、マイク27)から連結部の中央に向うベクトル、即ちY軸の正方向に向うベクトルの方位のこととする。また、上述した検出出力信号SxおよびSyをX軸、Y軸をそれぞれ横軸、縦軸にしたグラフにプロットすると、図4に示すような方位円を描く。
【0034】
このとき、携帯電話機MPの上方向(Y軸方向)の方位を求めると、方位angの基準(0°)は北であり、同方位angは東、南、および、西の順に回転するにつれて、それぞれ90°、180°および270°となる。尚、中間の方位もそれぞれの出力値により求まる。
【0035】
ところで、地磁気は南から北に向う磁界である。従って、携帯電話機MPの筐体1の操作面がほぼ水平である場合、地磁気センサモジュール30のX軸方向の磁気センサ31およびY軸方向の磁気センサ32の出力は、余弦波状、および正弦波状にそれぞれ変化する。
【0036】
以上のことから、携帯電話機MPの方位angは以下の(a)〜(d)に場合分けして求めることができる。
(a)Sx、Syについて、Sx>0、且つ、|Sx|>|Sy|が成立すると、方位ang=tan−1(Sy/Sx)となる。
(b)Sx<0、且つ、|Sx|>|Sy|が成立すると、ang=180°+tan−1(Sy/Sx)となる。
(c)Sy>0、且つ、|Sx|<|Sy|が成立すると、ang= 90°−tan−1(Sx/Sy)となる。
(d)Sy<0、且つ、|Sx|<|Sy|が成立すると、ang=270°−tan−1(Sx/Sy)となる。
但し、上記(a)〜(d)の何れかにより求められた方位angが負の場合は、同方位angに360°を加えた値を方位angとする。また、求められた方位angが360°以上であれば、同方位aから360°を減じた値を方位angとする。
【0037】
しかし、携帯電話機MP内には、前述したように、着信用スピーカ28に代表されるように多くの永久磁石部品が含まれ、これらの部品から磁場が漏洩している。そのため、携帯電話機MP内の予め定められた箇所に配置された地磁気センサモジュール30には、これらの永久磁石部品による漏洩磁界(地磁気以外による外部磁界)が加わっている。この結果、X軸方向の磁気センサ31の出力は、漏洩磁界のX軸成分に応じた出力だけシフト(平行移動)し、同様に、Y軸方向の磁気センサ32の出力は、漏洩磁界のY軸成分に応じたオフセットだけシフトし(オフセット)、それぞれのシフトした出力を「オフセット計測値」という。そのため、携帯電話機MPにおいて正確な方位を測定するためには、上述したオフセット計測値を測定値から差し引くといった、演算により、オフセットを除去して測定値の補正を行う必要がある。
【0038】
次に、本実施形態による携帯電話機MPの地磁気センサモジュール30のオフセットのキャリブレーションの動作を説明する。オフセットのキャリブレーションとは、オフセット計測値を求めるための外部磁気を測定することをいう。
【0039】
ここで、図5に示すように、ユーザHuが、通りSTRの方向を向き、且つ、本発明の実施形態における携帯電話機MPを、筐体1を水平に保って、通りSTRの方向に真っ直ぐに向けて携帯して立っている状態を想定する。
【0040】
先ず、携帯電話機MPの電源が投入され、携帯電話機MPの動作が開始する。以下、図5、図6〜図7に示すフローチャートおよび図8〜9を参照して、携帯電話機MPの地磁気センサモジュール30のオフセットのキャリブレーションの動作を説明する。
【0041】
先ず、オフセットのキャリブレーションを指示するキャリブレーション開始ボタン(トリガーキー、図示しない)が押される。次に、CPU101がGPS受信部108からGPSデータを受信し、該GPSデータから現在の位置情報を取得し、前述した携帯電話機MPの方位測定の原理より、地磁気センサモジュール30から現在の方位情報を取得し、取得した位置情報および方位情報に基づいて、図8(a)に示すように、表示部18aに地図MAPaを表示する(ステップSp1)。このとき、表示部18aにおいて、携帯電話機MPを携帯しているユーザHuの存在位置である現在位置PPと、携帯電話機MPの方位angの基準である方向を示す矢印ARとが、地図MAPaの上に表示される。
【0042】
次に、左右回転ボタンであるカーソルキー9a、または9bのいずれかが押下されたか否かが判断される(ステップSp2)。判断が「NO」であった場合、地図MAPaは回転せず、ステップSp1に戻り、以下のステップSp1〜Sp2の動作が繰り返される。
【0043】
一方、ステップSp2における判断が「YES」であった場合、ステップSp3に移行し、例えば、カーソルキー9aが押された場合、地図MAPa全体が現在位置PPを中心に左方向に回転する。
尚、カーソルキー9bにはカーソルキー9aとは逆に、地図MAPaを右方向に回転させる機能を持たせる。これにより、矢印ARを通りSTRの道路と平行にする動作を容易にしている。また、カーソルキー9aまたは9bを押下したときの地図MAPaの回転速度を選択できるようにしてもよい。例えば、矢印ARと通りSTR道路とが平行に近づいたところでユーザが遅い回転速度を選択することにより、正確に合わせることができる。
【0044】
そして、ユーザによって、図8(b)に示すように、矢印ARと、通りSTRの道路とが平行になり、地図MAPaと現在地の景観とが一致したことが確認され、カーソルキー9aが開放され、確認ボタン10が押下されたか否かが判断される(ステップSp4)。判断が「NO」であった場合、ステップSp3に戻り、以下のステップSp3〜Sp4の動作が繰り返される。
【0045】
一方、ステップSp4における判断が「YES」であった場合、ステップSp5に移行し、地図を回転させた方向および角度から仮のオフセット値が算出される。以上の動作により、地図MAPaが回転した量より、仮のオフセット値が算出される。
【0046】
ここで、ステップSp5における、携帯電話機MPの地磁気センサモジュール30のオフセットのキャリブレーションの動作の詳細を図9(a)〜(b)を参照して説明する。 このとき、地図MAPaが現在地の景観と比較して角度α°だけ傾いており、角度α°だけ地図MAPaを回転させて、地図MAPbに移行させることを想定する。
【0047】
このとき、図9(a)に、原点である点Oに置かれた携帯電話機MPから、矢印によって示された点P1を計測したときに実際に計測される点P1’を示す。上述したように、携帯電話機MPの表示部18aに、地図MAPaが現在地の景観と比較して角度α°だけ傾いていたのを修正したために、図中の矢印の延長線である、直線OP1と角度α°をなす直線(点線)OP1’と方位円との交点の近傍の磁気データが計測されることによって、実際には点P1’が計測されるということになる。そのため、図9(b)に示すように、直線OP1と平行であり、且つ、点P1’を通る直線P1’P1’’(一点鎖線)の上のどこかに実際の原点であるO’があることになる。これにより、Y軸成分は確定しないが、X軸成分が確定した実際の原点O’が得られることになる。ここで、原点Oから実際の原点O’までのベクトルが、仮のオフセット値となり、該オフセット値によって、RAM103に格納されているオフセット値が更新される。
【0048】
上述したように、実際の原点O’はY軸成分が確定していないため、以下の手順によって、実際の原点O’のY軸成分を確定する。
【0049】
すなわち、図9(c)に示すように、現在の原点Oから直線P1’P1’’に引いた垂線との交点を新しい原点である原点O’とする。そして、携帯電話機MPの位置を原点Oから新しい原点O’に移動し、上述した方向と同一、または、180°の方位差以外の角度により示される方位に携帯電話機MPを向ける。このとき、原点O’はY軸成分が確定していない仮の原点であるため、地図MAPbが現在地の景観と比較して傾いている。そこで、角度β°だけ地図MAPbを回転させて、地図MAPbを現在地の景観と一致させることを想定する。
【0050】
次に、ステップSp1と同様に、CPU101がGPS受信部108からGPSデータを受信し、該GPSデータから現在の位置情報を取得し、地磁気センサモジュール30から現在の方位情報を取得し、取得した位置情報および方位情報に基づいて、表示部18aに地図を表示する(ステップSp6)。このとき、表示部18aにおいて、携帯電話機MPを携帯しているユーザHuの存在位置である現在位置PPと、携帯電話機MPの方位angの基準である方向を示す矢印ARとが、地図の上に表示される。
【0051】
次に、ステップSp2と同様に、左右回転ボタンであるカーソルキー9a、または9bのいずれかが押下されたか否かが判断される(ステップSp7)。判断が「NO」であった場合、地図は回転せず、ステップSp6に戻り、以下のステップSp6〜Sp7の動作が繰り返される。
【0052】
一方、ステップSp7における判断が「YES」であった場合、ステップSp8に移行し、地図全体が回転する。そして、ステップSp4と同様に、ユーザによって、矢印ARと、通りSTRの道路とが平行になり、地図と現在地の景観とが一致したことが確認され、カーソルキー9aまたは9bが開放され、確認ボタン10が押下されたか否かが判断される(ステップSp9)。判断が「NO」であった場合、ステップSp8に戻り、以下のステップSp8〜Sp9の動作が繰り返される。
【0053】
一方、ステップSp9における判断が「YES」であった場合、ステップSp10に移行し、地図を回転させた方向および角度から正式なオフセット値が算出される。以上の動作により、地図MAPaが回転した量より、正式なオフセット値が算出される。
【0054】
ここで、ステップSp10における、携帯電話機MPの地磁気センサモジュール30のオフセットのキャリブレーションの動作の詳細を図9(d)を参照して説明する。 このとき、地図が現在地の景観と比較して角度β°だけ傾いており、角度β°だけ地図を回転させることを想定する。
【0055】
このとき、図9(d)に、原点である点O’に置かれた携帯電話機MPから、矢印によって示された点P2を計測したときに実際に計測される点P2’を示す。上述したように、携帯電話機MPの表示部18aに、地図MAPaが現在地の景観と比較して角度β°だけ傾いていたのを修正したために、図中の矢印の延長線である、直線O’P2と角度β°をなす直線(点線)O’P2’と方位円との交点の近傍の磁気データが計測されるということになる。そして、図9(b)に示す事項と同様に、図9(d)に示すように、直線O’P2と平行であり、且つ、点P2’を通る直線P2’P2’’ (一点鎖線) に対して原点O’から垂線を引き、該垂線と直線P2’P2’’との交点を最終的な原点である原点O’’とする。これにより、Y軸成分も確定し、実際の原点O’’が得られることになる。そして、原点Oから最終的な原点O’’までのベクトルが正式なオフセット値となり、該オフセット値によって、RAM103に格納されている、前述した仮のオフセット値が更新される。
【0056】
次に、更新されたオフセット値に基づいて、ステップSp1、6と同様に、CPU101がGPS受信部108からGPSデータを受信し、該GPSデータから現在の位置情報を取得し、地磁気センサモジュール30から現在の方位情報を取得し、取得した位置情報および方位情報に基づいて、表示部18aに地図を表示する(ステップSp11)。そして、携帯電話機MPの地磁気センサモジュール30のオフセットのキャリブレーションの動作が終了する。
【0057】
以上のように、本実施形態によれば、携帯電話機MPを手中に固定したまま、カーソルキー9aまたは9bを押下することにより、オフセットの影響により現在地の景観に比して一定の角度だけ傾斜している地図MAPaを、回転速度を微調整しつつ回転させて現在地の景観と一致させ、該回転量から該オフセット値を算出し、該オフセット値によって、RAM103に格納されているオフセット値を更新することが可能になる。そのため、従来のように携帯電話機MP自体を回転させてオフセットのキャリブレーションを行うのに比して、キャリブレーションを簡単な操作によって行うことができる。
【0058】
また、本実施形態においては、キャリブレーションの終了後、携帯電話機MPの表示部18aにおいて、現在地の景観と一致した地図MAPbが表示されるため、ユーザは、該地図の向きが現在地の景観と一致していることをもって、該キャリブレーションが本当にうまくいったかを視覚的に確認することができる。
【0059】
ここで、ナビゲーションを使用する場合においても、目安となる建物等の位置関係によって、その場所における方位を認識することが多いと思われるが、例えば、携帯電話機MPを道路と平行なもの(例、適当な建造物)に当てて、現在地の景観と携帯電話機MPの筐体1および2との方位をきっちり合わせることにより、建造物等の正確な方位の情報を利用して、地磁気センサモジュール30のキャリブレーションを行うこともできるので、本発明は有効である。
【0060】
尚、本実施形態においては、地磁気センサとして、GMR素子を想定したが、地磁気センサの種類はこれに限定されず、TMR(Tunneling Magnetoresistive)素子、MR(Magnetoresistive)素子等の磁気抵抗効果素子や、ホール素子、MI(Magneto Impedance)素子、フラックスゲートセンサ等、どんなものでもよい。
特に、ホール素子のような特性の温度変化の激しい素子では、温度によるオフセット変化を補正するために使用できる。またMI素子のような着磁しやすいものでは、素子自身の着磁による影響の除去手段として有効である。
【0061】
また、本実施形態においては、カーソルキー9aまたは9bの一回の押下により地図MAPaが一定の角度だけ回転するようして、結果的に、カーソルキー9aまたは9bを押下しているときのみ地図MAPaが回転し、カーソルキー9aまたは9bを押下しなくなると地図MAPaの回転が停止するようにしたが、以下のようにして、地図MAPaを自動的に回転させて地図MAPaと現在地の景観とを一致させてもよい。すなわち、CPU101の制御プログラムにおいて、調整モードをサポートし、特定のキー操作によって該調整モードに移行するようにし、カーソルキー9aまたは9bの押下により、地図MAPaが自動回転して、地図MAPaが現在地の景観と一致したときに確認ボタン10を押下することにより、地図MAPaを停止させてもよい。結果的に、地図MAPaと現在地の景観とを一致させることができれば、どんな方法でもよい。
【0062】
また、本実施形態においては、図6〜図7に示すフローチャートのステップSp1〜Sp5の処理と、ステップSp6〜Sp10の処理とにより、2回の地図補正によってオフセット値を決定しているが、例えば、携帯電話機MPの表示部18aに表示される地図の縮尺によっては、オフセット値の精度の要求が高くならない場合もあり、ステップSp1〜Sp5の処理によって求められる仮のオフセット値をそのまま使用してもよい。また、ステップSp6〜Sp10の処理を繰り返すことにより、地図補正を3回以上行うようにして、オフセット値の精度をさらに高めるようにしてもよい。
【0063】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での設計変更も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態における携帯電話機MPの構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態における携帯電話機MPの外観を示す図である。
【図3】同実施形態における地磁気センサモジュール30の構成を示すブロック図である。
【図4】地磁気センサモジュール30における検出出力信号SxおよびSyによって描かれる方位円を示す図である。
【図5】同実施形態における携帯電話機MPのキャリブレーションを行う際のシチュエーションを示す図である。
【図6】同実施形態における携帯電話機MPにおける、キャリブレーションの動作を示すフローチャートである。
【図7】同実施形態における携帯電話機MPにおける、キャリブレーションの動作を示すフローチャートである。
【図8】同実施形態における携帯電話機MPの表示部18aにおいて表示される地図MAPaおよび矢印ARによって、オフセットを測定する様子を示す図である。
【図9】同実施形態における携帯電話機MPの地磁気センサモジュール30のオフセットのキャリブレーションの動作の詳細を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1、2・・・筐体、3・・・開始キー、4・・・終了キー、5・・・テンキー、7・・・リダイアルキー、8・・・RF(Radio Frequency)アンテナ、9a、9b・・・カーソルキー(地図回転手段)、9c、9d・・・カーソルキー、10・・・確認ボタン、11・・・変換キー、18a・・・表示部(表示手段)、18b・・・表示部、27・・・マイク、28・・・受話音用スピーカ、30・・・地磁気センサモジュール(地磁気センサ)、31、32・・・磁気センサ、33・・・切換器、34・・・増幅器、35・・・、A/D(Analog/Digital)コンバータ、36・・・I/F(インターフェイス)部、41・・・着信音用スピーカ、101・・・CPU(Central Processing Unit)(表示手段)(キャリブレーション手段)、102・・・ROM(Read Only Memory)(地図情報記憶手段)、103・・RAM(Random Access Memory)、104・・・RF(Radio Frequency)送受信部、105・・・キー入力部、107・・・音声処理部、108・・・GPS(Global Positioning System)受信部(位置情報取得手段)、109・・・音源部、110・・・GPSアンテナ(位置情報取得手段)、120・・・バスライン、AR・・・矢印、Hu・・・ユーザ、MAPa、MAPb・・・地図、MP・・・携帯電話機、PP・・・現在位置、STR・・・通り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地磁気センサと、
位置情報を取得する位置情報取得手段と、
地図情報を記憶する地図情報記憶手段と、
前記地磁気センサの出力および前記位置情報ならびに前記地図情報に基づいて現在地における地図を表示する表示手段と、
前記地図を任意の回転方向、角度に回転させる地図回転手段と、
前記地図と前記現在地の景観とが一致した場合、前記地図の回転方向および角度に応じて前記地磁気センサのオフセット値を更新するキャリブレーション手段と、
を備えたことを特徴とする携帯情報端末。
【請求項2】
携帯情報端末の制御用コンピュータに、
地磁気センサの出力および位置情報ならびに地図情報に基づいて現在地における地図を表示するステップと、
前記地図を任意の回転方向、角度に回転させるステップと、
前記地図と前記現在地の景観とが一致した場合、前記地図の回転方向および角度に応じて前記地磁気センサのオフセット値を更新するステップと、
を実行させるための地磁気センサの補正用プログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−266800(P2006−266800A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83750(P2005−83750)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】