説明

撮像デバイス

【課題】
光導電膜の厚膜化や光導電膜への印加電圧の過度な増大を伴わず、大幅に感度を向上させるとともに、高い光電変換効率と安定したアバランシェ増倍を両立できるアバランシェ増倍方式の撮像デバイスを提供する。
【解決手段】
光入射側に配設される第1透光性電極と、第1透光性電極に積層され、第1透光性電極を介して入射する入射光を光電変換する第1光電変換部と、第1光電変換部に積層され、第1光電変換部で生成される電荷が注入されて発光する第1電界発光薄膜部と、第1電界発光薄膜部に積層される第2透光性電極と、第2透光性電極に積層され、第1電界発光薄膜部で発光され第2透光性電極を透過した光を光電変換する第2光電変換部と、第2光電変換部で生成される信号電荷を2次元の画像信号として読み出す信号読み出し部とを含み、第1光電変換部又は第2光電変換部は光電変換部内で電荷のアバランシェ増倍を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光を信号電荷に変換するための光電変換部に高電界を印加した際に生じるアバランシェ増倍現象を利用した高感度な撮像デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、非晶質セレン(a−Se)を主体とする光導電膜に高電界を印加すると、内部でアバランシェ増倍現象が生じることが知られており、この現象を利用した高感度撮像管や高感度固体撮像素子が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このようなアバランシェ増倍現象を利用した撮像デバイスは、個々の使用目的に応じて効果を上げているが、より高品位な画像を得るために、さらなる高感度化、高S/N化を図ることが求められている。
【0004】
これまで高感度化を図る手段としては、光導電膜を厚くして電荷(正孔)の走行距離を長くすることにより、光導電膜内の原子と電荷の衝突によるイオン化の回数を増やしてアバランシェ増倍率を向上させる手段が知られている。例えば、約3500Vのバイアス電圧を印加した厚さ35μmの非晶質セレンを主体とする光導電膜において1000倍のアバランシェ増倍率が得られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、さらに高S/N化を図る手段としては、可視光波長領域のほぼ全域に亘り100%近い光電変換効率を有するセレン化カドミウム(CdSe)製の薄膜を、非晶質セレンを主体とする光導電膜の光入射側に接合することにより、長波長光に対する光電変換効率を改善する手段が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−174480号公報
【特許文献2】特開平7−192663号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2004年映像情報メディア学会年次大会、12−3
【非特許文献2】2002年映像情報メディア学会年次大会、14−2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、さらにアバランシェ増倍率を高めて高感度化を図るために光導電膜を厚くすると、膜内に捕獲される電荷(電子)の総数が増加するため、特に光導電膜の光入射側近傍の電界が、外部からの電荷の注入を阻止する機能を超えるほどに高まり、光導電膜に欠陥が生じやすくなるという問題があった。
【0009】
また、光導電膜を厚くすると、光導電膜に印加する電圧も高くなるため、撮像管では高耐圧なカップリングコンデンサが必要となり、浮遊容量が増加して、信号のS/Nが劣化するという問題や、厚膜化による膜の静電容量の減少に伴って、膜の走査側表面に蓄積される信号電荷による表面電位の変化が大きくなるため、走査電子ビームのベンディングに起因する画像歪が生じ易くなる等の問題があった。
【0010】
さらに、アバランシェ増倍現象を利用した固体撮像素子では、高輝度光が入射した場合や光導電膜に欠陥が生じた場合に、光導電膜に印加するバイアス電圧がCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor; 相補型金属酸化膜半導体)素子に直接印加されるため、何らかの耐電圧保護手段を付加しなければならないという問題があった。
【0011】
一方、さらに高S/N化を図るために、非晶質セレンを主体とする光導電膜の光入射側にセレン化カドミウム(CdSe)製の薄膜を、非晶質セレンを主体とする光導電膜の光入射側に接合した場合には、両方の膜に印加する電界を独立的に制御することが難しく、セレン化カドミウム製薄膜内での高い光電変換効率と非晶質セレン膜内での安定したアバランシェ増倍との両立が困難になるという問題があった。
【0012】
そこで、本発明の第1の目的は、光導電膜の厚膜化や光導電膜への印加電圧の過度な増大を伴うことなく、大幅に感度を向上させた高品質のアバランシェ増倍方式の撮像デバイスを提供することである。
【0013】
また、本発明の第2の目的は、高い光電変換効率と安定したアバランシェ増倍を両立できる新構造のアバランシェ増倍方式の撮像デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一局面の撮像デバイスは、光入射側に配設される第1透光性電極と、前記第1透光性電極に積層され、前記第1透光性電極を介して入射する入射光を光電変換する第1光電変換部と、前記第1光電変換部に積層され、前記第1光電変換部で生成される電荷が注入されて発光する第1電界発光薄膜部と、前記第1電界発光薄膜部に積層される第2透光性電極と、前記第2透光性電極に積層され、前記第1電界発光薄膜部で発光され前記第2透光性電極を透過した光を光電変換する第2光電変換部と、前記第2光電変換部で生成される信号電荷を2次元の画像信号として読み出す信号読み出し部とを含み、且つ前記第1光電変換部又は前記第2光電変換部の少なくともいずれかが、前記光電変換部内で電荷のアバランシェ増倍を行う。
【0015】
また、前記第1光電変換部及び前記第2透光性電極の面積が、前記第1電界発光薄膜部の面積より大きく、且つ前記第1電界発光薄膜部が外気と接触しないように密封されてもよい。
【0016】
また、前記第2光電変換部に積層され、前記第2光電変換部で生成される電荷が注入されて発光する第2電界発光薄膜部と、前記第2電界発光薄膜部に積層される第3透光性電極と、前記第3透光性電極に積層され、前記第2電界発光薄膜部で発光され前記第3透光性電極を透過した光を光電変換する第3光電変換部とをさらに含み、且つ前記第3光電変換部が、該第3光電変換部内で電荷のアバランシェ増倍を行い、前記信号読み出し部は、前記第3光電変換部で生成される信号電荷を2次元の画像信号として読み出してもよい。
【0017】
また、前記第2光電変換部及び前記第3透光性電極の面積が、前記第2電界発光薄膜部の面積より大きく、且つ前記第2電界発光薄膜部が外気と接触しないように密封されてもよい。
【0018】
また、前記第3光電変換部は、シリコンウェハの片面に整列配備して形成されたフォトダイオードアレイで構成されてもよい。
【0019】
また、前記第2光電変換部は、シリコンウェハの片面に整列配備して形成されたフォトダイオードアレイで構成されてもよい。
【0020】
また、前記第2透光性電極は、オプティカルファイバープレートの一方の面に形成される一の第2透光性電極と、前記オプティカルファイバープレートの他方の面に形成される他の第2透光性電極とで構成されており、前記第2光電変換部は、前記他の第2透光性電極に積層されてもよい。
【0021】
また、前記信号読み出し部は、シリコンウェハの片面に整列配備されたCCD型又はCMOS型又はTFT型スイッチング素子アレイで構成されてもよい。
【0022】
本発明によれば、光電変換部内での電荷のアバランシェ増倍現象が生じるほどの電界を、すべての光電変換部ないしは第1光電変換部以外の光電変換部に印加することにより、従来技術の課題であった光導電膜の厚膜化や光導電膜への印加電圧の過度な増大を伴うことなく、大幅に感度を高めた高品質のアバランシェ増倍方式の撮像デバイスを提供できるほか、高い光電変換効率と安定したアバランシェ増倍が両立するアバランシェ増倍方式の撮像デバイスを提供できるという特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る撮像デバイスの概念を示す図である。
【図2】実施の形態1の撮像デバイス40の構成を示す断面図である。
【図3】実施の形態2の撮像デバイス50のターゲット部とCMOS素子アレイの構成を示す断面図である。
【図4】実施の形態3の撮像デバイス60の構成を示す断面図である。
【図5】実施の形態4の撮像デバイス70の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0025】
図1は、本発明に係る撮像デバイスの概念を示す図であり、光の入射面から順に、第1透光性電極1、第1光電変換部2、電界発光薄膜部3、第2透光性電極4、第2光電変換部5の順序で積層された積層構造を有するターゲット部9と、信号読み出し部6から構成される。
【0026】
第1光電変換部2は、第1透光性電極1に積層され、第1透光性電極1を介して入射した光を吸収し、電荷に変換(光電変換)する。
【0027】
電界発光薄膜部3は、第1光電変換部2に積層され、第1光電変換部2で生成された電荷(図1では正孔)が注入されるとともに、第2透光性電極4を介して、第1光電変換部2から注入された電荷と反対の極性を有する電荷(図1では電子)が注入され、両者が再結合した際に発光する。
【0028】
第2光電変換部5は、電界発光薄膜部3の中で発光した光を、電界発光薄膜部3に積層された第2透光性電極4を介して吸収し、電荷に変換(光電変換)する。
【0029】
信号読み出し部6は、第2光電変換部5で生成された信号電荷を2次元の画像信号として読み出す。
【0030】
なお、第1光電変換部2ないしは第2光電変換部5の少なくともいずれかが、前記光電変換部内で電荷のアバランシェ増倍を行ってもよい。
【0031】
[実施の形態1]
図2は、実施の形態1の撮像デバイスの構成を示す図であり、(A)は撮像デバイスのガラス管の中心軸を含む断面を示し、(B)は撮像デバイスのガラス管の径方向の断面を示す。
【0032】
図2(A)に示すように、実施の形態1の撮像デバイス40は、撮像管である。このため、実施の形態1の撮像デバイス40は、透光性基板10、金属ピン11、インジウムリング12、ターゲット部20、電子ビーム源31、及びガラス管32を含む。
【0033】
透光性基板10は、光を透過する基板であり、例えば、ガラス基板を用いてもよいし、その他、透明な樹脂等の光を透過する種々の材料を用いてもよい。
【0034】
金属ピン11は、透光性基板10を貫通して設けられており、一端が透光性電極21と電気的に接続され、他端は電源34に接続されている。金属ピン11は、電源34が出力するバイアス電圧を光導電膜22に印加するために設けられている。
【0035】
なお、図2(B)に示すように、金属ピン11は、平面視で、光導電膜25の走査領域25Cから外れた位置に配設されている。
【0036】
インジウムリング12は、透光性基板10とガラス管32の間をシールするとともに、電源35に接続されている。
【0037】
ターゲット部20は、光が入射される入射面21A側から順に、透光性電極21、光導電膜22、電界発光薄膜23、透光性電極24、光導電膜25の順序で積層された積層構造を有する。なお、ターゲット部20は、図1に示す状態とは天地を逆にした状態で、透光性基板10の上に、透光性電極21、光導電膜22、電界発光薄膜23、透光性電極24、及び光導電膜25を順番に積層することによって作製することができる。
【0038】
透光性電極21は、透光性基板10の光入射面10Aとは反対の面(図中下側の面)10Bに形成される第1透光性電極の一例である。透光性電極21は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)製の薄膜電極であればよい。
【0039】
光導電膜22は、透光性電極21に積層される第1光電変換部の一例である。光導電膜22には、透光性電極21及び金属ピン11を介して電源34が接続されている。
【0040】
光導電膜22は、入射した光を吸収し、電荷に変換(光電変換)するとともに、電源34から印加されるバイアス電圧により、アバランシェ増倍現象による電荷の増倍を行う。光導電膜22は、アバランシェ増倍現象を実現できるのであれば、種々の材料から構成されてもよい。例えば、光導電膜22は、非晶質セレンで構成することができ、必要に応じて、他の添加物を含んでもよい。
【0041】
光導電膜22として非晶質セレンを用いる場合には、光導電膜の内部で電荷のアバランシェ増倍現象が生じるほどの高いバイアス電圧を、光導電膜22の膜厚に応じて電源34から印加すればよい。
【0042】
電界発光薄膜23は、光導電膜22に積層され、正孔と電子の再結合によって発光する電界発光薄膜の一例である。電界発光薄膜23には、光導電膜22で増倍された電荷(正孔)が注入されるとともに、透光性電極24を介して電荷(電子)が注入され、電荷(正孔)と電荷(電子)が再結合した際に発光する。
【0043】
電界発光薄膜23を構成する材料は、電界印加時に光導電膜22から正孔を、また透光性電極24から電子を注入することができる注入機能や、注入された電荷(電子ないしは正孔の少なくとも一方)を電界により移動させる輸送機能、電子と正孔の再結合の場を提供してこれを発光につなげる発光機能等を有するものであればよい。また電界発光薄膜の材料構成は、電界印加時に透光性電極24から電界発光薄膜に注入された電荷(電子)が光導電膜22に流入し難いことが好ましい。
【0044】
電界発光薄膜23は、具体的には、例えば、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系等の系の蛍光増白剤や、金属キレート化オキシノイド化合物、スチリルベンゼン系化合物、ジスチリルピラジン誘導体、ポリフェニル系化合物、12−フタロペリノン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン、ナフタルイミド誘導体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ピラジリン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、スチリルアミン誘導体、クマリン系化合物、芳香族ジメチリディン化合物、8−キノリノール誘導体の金属錯体等の有機材料で構成することができる。
【0045】
透光性電極24は、電界発光薄膜23に積層される第2透光性電極の一例であり、インジウムリング12を介して、電源35及び信号読み出し装置36に接続される。透光性電極24は、光導電膜22と電界発光薄膜23の側壁を覆い、透光性基板10の光入射面10Aとは反対の面(図中下側の面)10Bまで形成されている。透光性電極24は、例えば、酸化インジウムスズから構成される。
【0046】
なお、電界発光薄膜23は、光導電膜22と透光性電極24によって外気と触れないように密封されている。
【0047】
また、光導電膜22と透光性電極24の平面視での面積は、電界発光薄膜23の平面視での面積より大きく、透光性電極24の平面視での面積は、光導電膜22の平面視での面積より大きい。
【0048】
この場合に、透光性電極21、光導電膜22、電界発光薄膜23、透光性電極24、及び光導電膜25の平面視での円形の中心は、略一致しているものとする。
【0049】
光導電膜25は、透光性電極24に積層される第2光電変換部の一例である。光導電膜25には、透光性電極24及びインジウムリング12を介して電源35が接続されている。
【0050】
光導電膜25は、電界発光薄膜23の中で発光した光を吸収し、電荷に変換(光電変換)するとともに、電源35から印加されるバイアス電圧により、アバランシェ増倍現象により電荷の増倍を行う。光導電膜25は、光導電膜22と同様に、アバランシェ増倍現象を実現できれば、種々の材料から構成されてよい。例えば、光導電膜25は、非晶質セレンで構成することができ、必要に応じて、他の添加物を含んでもよい。光導電膜25として非晶質セレンを用いる場合には、光導電膜25の膜厚に応じて、光導電膜の内部で電荷のアバランシェ増倍現象が生じるほどの高いバイアス電圧を電源35から印加すればよい。
【0051】
電子ビーム源31は、ガラス管32内に配置される電子放出源の一例であり、陰極材料をヒータで加熱して電子雲を励起する装置である。電子雲として励起された電子は、電子ビーム30として出射される。
【0052】
ガラス管32は、ガラス製の管状部材であり、インジウムリング12によって透光性基板10とシールされることにより、内部空間は真空に保持される。このガラス管32の内部には、電子ビーム源31が配置される。なお、ガラス管32の外側には、図示しない偏向コイル及び集束コイルが配置され、電子ビーム30を偏向・集束させる。
【0053】
電源34は、光導電膜22にバイアス電圧を印加する第1電源の一例である。電源34の正極性端子は、金属ピン11を介して透光性電極21に接続されている。また、電源34の負極性端子はインジウムリング12に接続されている。このため、電源34、金属ピン11、透光性電極21、光導電膜22、電界発光薄膜23、透光性電極24、及びインジウムリング12によって閉回路が形成される。
【0054】
電源35は、光導電膜25にバイアス電圧を印加する第2電源の一例である。電源35の正極性端子は、インジウムリング12を介して透光性電極24に接続されている。また、電源35の負極性端子は電子ビーム源31に接続されている。このため、電源35、インジウムリング12、透光性電極24、光導電膜25、走査用の電子ビーム30、及び電子ビーム源31によって閉回路が形成される。
【0055】
信号読み出し装置36は、光導電膜25内で発生した電荷を撮像信号として読み出すための装置である。
【0056】
次に、実施の形態1の撮像デバイスの動作について、一例として、光導電膜22、及び光導電膜25に非晶質セレンを用いた場合を取り上げて、以下に説明する。
【0057】
透光性電極21を透過した入射光は、光導電膜22に吸収されて光電変換により電子−正孔対を生成する。透光性電極21には電源34の正極性端子が接続されているので、生成された電子−正孔対のうちの正孔は、電界に沿って電界発光薄膜23の方向に移動する。
【0058】
この際、光導電膜22に内部で電荷のアバランシェ増倍現象が生じるほどの高いバイアス電圧が電源34から印加されているので、電界発光薄膜23の方向へ移動する正孔がアバランシェ増倍現象を起こし、増倍された正孔が電界発光薄膜23へ注入される。
【0059】
光導電膜22から電界発光薄膜23へ注入された正孔は、透光性電極24から電界発光薄膜23に注入される電子と再結合して、電界発光薄膜23内で光に変換される。この際、電界発光薄膜23内へ電子が十分に注入される構造となっていれば、電界発光薄膜23の中で発光する光の強度は光導電膜22から注入される正孔の数に比例する。
【0060】
光導電膜25のビーム走査面25Aの電位は、走査終了直後は電子ビーム源31と同じ電位となり、光導電膜25には電源35で設定された電圧と同じバイアス電圧が印加される。
【0061】
その後、光導電膜22から注入された正孔により電界発光薄膜23の中で発光した光が光導電膜25に入射すると、吸収された光で光導電膜25内に電子−正孔対が生成される。
【0062】
透光性電極24には電源35の正極性端子が接続されているので、光導電膜25内で生成された電子−正孔対のうち正孔は、電源35による電界に沿って光導電膜25のビーム走査面25Aまで移動する。
【0063】
この際、光導電膜25に内部で電荷のアバランシェ増倍現象が生じるほどの高いバイアス電圧が電源35から印加されているので、ビーム走査面25Aに移動する正孔がアバランシェ増倍現象を起こし、その正孔が光導電膜25のビーム走査面25Aに到達すると、ビーム走査面25Aの電位は正方向に変化する。
【0064】
正方向に上昇したビーム走査面25Aの電位は、次の電子ビーム走査によって再び電子ビーム源31と同じ電位に戻るが、その際に閉回路に流れる電流変化が透光性電極24及びインジウムリング12を経て信号読み出し装置36から撮像信号として取り出される。
【0065】
以上の動作において、実施の形態1の撮像デバイス40の全体としての電荷増倍率は、光導電膜22のアバランシェ増倍率と、電界発光薄膜23の発光効率と、光導電膜25の光電変換効率と、光導電膜25のアバランシェ増倍率の積に比例する。
【0066】
従って、実施の形態1の撮像デバイス40の電荷増倍率を向上するためには、電界発光薄膜23の発光効率と、発光した光の光導電膜25への導入効率、及び光導電膜25の光電変換効率とを向上させる必要がある。
【0067】
まず、電界発光薄膜23の発光効率を向上させるには、電界発光薄膜23からの光の取り出し効率が重要な要素となる。電界発光薄膜23内で電荷の再結合により生じた光は等方的に放射されるため、正孔の進行方向に対して逆向きに放射された光は信号光に寄与しない。
【0068】
そこで、電界発光薄膜23の材料として、光導電膜22で吸収されやすい波長の光を発する電界発光材料を選択すればよい。これにより、光導電膜22側に放射された発光は光導電膜22に吸収されて再度電荷に変換されるため、再び電界発光薄膜23に注入されることになり、電界発光薄膜23の発光効率を向上させることができる。
【0069】
ここで、電界発光薄膜を用いた一般的な発光デバイスでは、電界発光薄膜内で生じた光を空気中に取り出す際、界面での反射により光の取り出し効率が大幅に低下してしまう。
【0070】
このような光の取り出し効率の低下を抑制するために、実施の形態1の撮像デバイス40は、電界発光薄膜23、透光性電極24、及び光導電膜25の間に空気層が形成されないように電界発光薄膜23、透光性電極24、及び光導電膜25を積層し、かつ、光導電膜25を透光性電極24よりも屈折率の高い材料で作製する。
【0071】
このような構成により、電界発光薄膜23内における光の反射による閉じ込め効果を回避でき、電界発光薄膜23における光の取り出し効率の低下を抑制することが可能になり、その結果、発光した光の光導電膜25への導入効率を向上させることができる。
【0072】
なお、電界発光薄膜23の膜厚を100nmオーダーにすることで、電界発光薄膜23内での光の散乱による解像度の劣化や自己吸収による光の減衰は無視できる。
【0073】
また、光導電膜25の光電変換効率を向上させるためには、電界発光薄膜23の発光波長が光導電膜25で吸収されやすくなるように、光導電膜25と電界発光薄膜23の材料を選択すればよい。これにより、光導電膜25の光電変換効率を大幅に向上させることができる。
【0074】
以上のように構成した実施の形態1の撮像デバイス40の全体での電荷増倍率は、光導電膜22と光導電膜25のアバランシェ増倍率の積にほぼ等しくなる。このため、光導電膜22又は光導電膜25を厚くすることなく、光導電膜22又は光導電膜25に印加するバイアス電圧を特に向上させることなしに、高い電荷増倍率を実現することが可能となる。
【0075】
以上に説明したように光導電膜22又は光導電膜25を厚くすることなく、バイアス電圧を特に向上させることなしに、高い電荷増倍率を実現するには、光導電膜22、光導電膜25がそれぞれダイオード構造をなし、電源34、電源35が接続された状態で膜内への電荷の注入が抑止されていることが必要である。
【0076】
また、電界発光薄膜23については、光導電膜22及び透光性電極24から電界発光薄膜23への電荷の注入が容易であり、かつ、電界発光薄膜23から光導電膜22及び透光性電極24への電荷の流出が抑止されていることが重要である。
【0077】
なお、以上では、二層の光導電膜22、25を含む撮像デバイス40について説明したが、電界発光薄膜を介してさらに多段の光導電膜を積層し、それぞれにアバランシェ増倍が生じるほどのバイアス電圧を印加して動作させれば、撮像デバイスに含まれる全ての光導電膜の増倍率の積に比例する高い増倍率を実現することができる。
【0078】
[実施例]
次に、実施の形態1のターゲット部20の具体的な実施例について説明する。
【0079】
実施の形態1の実施例のターゲット部20は、図2に示すターゲット部20と同一の構成を有する。このため、実施の形態1の実施例のターゲット部20を説明するにあたっては、図2を援用するものとする。
【0080】
透光性基板10は、直径が26.4mmの透光性ガラス製の円板状の基板である。透光性基板10の光入射面10Aとは反対の面(図中下側の面)10Bに、第1透光性電極として、直径20mm、膜厚30nmの酸化インジウムスズ製の透光性電極21をスパッタ蒸着法により形成し、その上に第1光電変換部、第1電界発光薄膜部、第2透光性電極、第2光電変換部として、順次、光導電膜22、電界発光薄膜23、透光性電極24、光導電膜25を形成した。
【0081】
光導電膜22は、直径22mm、膜厚4μmの非晶質セレンを真空蒸着法により形成した。電界発光薄膜23は、直径20mmのα−NPD(膜厚50nm)/Alq(膜厚50nm)接合膜を真空蒸着法により形成した。
【0082】
透光性電極24は透光性電極21と同様に膜厚30nmの酸化インジウムスズで形成したが、インジウムリング12と接続するため、直径が22mm以上25mm以下の範囲となるように形成した。
【0083】
光導電膜25は、光導電膜22と同様に、直径22mm、膜厚4μmの非晶質セレンを真空蒸着法により形成した。また、光導電膜25のビーム走査面25Aに、膜厚0.1μmの三硫化アンチモン(Sb)を圧力0.1〜0.4Torrのアルゴン(Ar)ガス雰囲気中で蒸着した。三硫化アンチモン層は、電子ビーム30で光導電膜25から電荷(正孔)を読み取るときに、電子ビーム30の照射による二次電子の放出を抑制するためと、電子ビーム30の電子が光導電膜25に入るのを抑制するために設けられる。
【0084】
このようにして形成した実施の形態1の実施例のターゲット部20を、図2に示す撮像デバイス40に組み込み、テレビカメラに実装し、光導電膜22及び光導電膜25に約480Vのバイアス電圧を印加したところ、光導電膜22と光導電膜25のアバランシェ増倍率の積に相当する増倍率1000倍を得ることができた。実施の形態1の実施例におけるバイアス電圧は、非特許文献1に記載の約3500Vのバイアス電圧に比べて大幅に低い値である。
【0085】
このように、実施の形態1の実施例のターゲット部20を用いれば、光導電膜22、25の厚膜化や光導電膜22、25に印加するバイアス電圧の過度な増大を伴うことなく、大幅に感度を高めたアバランシェ増倍方式の撮像デバイス40を提供できることが分かった。
【0086】
なお、以上では、透光性基板10に、第1透光性電極、第1光電変換部、第1電界発光薄膜部、第2透光性電極、及び第2光電変換部としての透光性電極21、光導電膜22、電界発光薄膜23、透光性電極24、及び光導電膜25をそれぞれ形成したが、電界発光薄膜部、透光性電極、及び光電変換部の組をさらにもう一段積層してもよい。
【0087】
すなわち、透光性基板10に、第1透光性電極、第1光電変換部、第1電界発光薄膜部、第2透光性電極、及び第2光電変換部としての透光性電極21、光導電膜22、電界発光薄膜23、透光性電極24、及び光導電膜25をそれぞれ形成し、さらに、第2電界発光薄膜部、第3透光性電極、及び第3光電変換部を形成してもよい。
【0088】
この場合に、第2光電変換部及び第3透光性電極の平面視での面積が、第2電界発光薄膜部の平面視での面積より大きく、且つ前記第2電界発光薄膜部が外気と接触しないように密封されていてもよい。また、第3光電変換部で生成される信号電荷を信号読み出し装置36が2次元の画像信号として読み出すように構成すればよい。この場合、第2光電変換部で光電変換により生成された正孔は第2電界発光薄膜部に注入され、第3透光性電極から第2電界発光薄膜部に注入される電子と再結合して発光し、この発光が第3光電変換部で光電変換される。
【0089】
[実施の形態2]
図3は、実施の形態2の撮像デバイスの構成を示す断面図である。
【0090】
図3に示すように、実施の形態2の撮像デバイス50は、透光性基板10、ターゲット部200、絶縁層210、CMOS素子アレイ220、及び電源234を含む。以下、実施の形態1の撮像デバイス40と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0091】
ターゲット部200は、透光性電極21、光導電膜202、電界発光薄膜23、及び透光性電極24を含む。透光性電極21と透光性電極24との間には、電源234からバイアス電圧が印加される。
【0092】
絶縁層210は、ターゲット部200とCMOS素子アレイ220とを密着させ、且つ両者の間の絶縁を確保するために配設される。また、絶縁層210は、電界発光薄膜23の発光を透過させてCMOS素子アレイ220に入射させることが必要であるため、透過性の高い絶縁材料で作製される必要がある。
【0093】
また、光の取り出し効率の低下を抑制するために、実施の形態2の撮像デバイス50は、電界発光薄膜23及び透光性電極24の間に空気層が形成されないように電界発光薄膜23、透光性電極24、絶縁層210、及びCMOS素子アレイ220を積層し、かつ、絶縁層210を透光性電極24よりも屈折率の高い材料で作製している。
【0094】
CMOS素子アレイ220は、絶縁層側表面に整列配備されたフォトダイオードアレイ221で構成される第2光電変換部と、フォトダイオードアレイ221内で生成された信号電荷を読み取るためのCMOS型スイッチング素子アレイ222で構成される信号読み出し部を含み、それぞれは実施の形態1の光導電膜25及び信号読み出し装置36の代わりに配設される。
【0095】
なお、第2光電変換部の一例であるフォトダイオードアレイ221は、シリコン基板(シリコンウェハ)に半導体製造工程で作製した半導体素子である。また、信号読み出し部の一例であるCMOS型スイッチング素子アレイ222は、シリコン基板(シリコンウェハ)に半導体製造工程で作製した半導体素子である。
【0096】
なお、実施の形態2の撮像デバイス50のCMOS素子アレイ220は、第2光電変換部と信号読み出し部とを含む素子の一例である。
【0097】
図2において、実施の形態2のターゲット部200は、光が入射される入射面21A側から順に、透光性電極21、光導電膜202、電界発光薄膜23、透光性電極24の順序で積層された配置構成となっている。
【0098】
透光性電極21は、透光性基板10の光入射面10Aとは反対の面10Bに形成される第1透光性電極の一例である。
【0099】
光導電膜202は、入射した光を吸収し、電荷に変換(光電変換)するとともに、電源234からバイアス電圧が印加され、アバランシェ増倍現象による電荷の増倍を行う。
【0100】
光導電膜202は、アバランシェ増倍現象を実現できれば、種々の材料から構成されてよい。例えば、光導電膜202は、非晶質セレンから構成されてよく、必要に応じて、他の添加物を含んでもよい。光導電膜202として非晶質セレンを用いる場合には、光導電膜202の膜厚に応じて、内部で電荷のアバランシェ増倍現象が生じるほどの高いバイアス電圧が電源234から印加される。
【0101】
電界発光薄膜23は、光導電膜202に積層され、光導電膜202で増倍されて注入される電荷(正孔)と、透光性電極24を介して注入される電荷(電子)とが再結合した際に発光する電界発光薄膜部の一例である。
【0102】
透光性電極24は、電界発光薄膜23に積層される第2透光性電極の一例である。
【0103】
電源234は、第1電源の一例であり、電源234の正極性端子は透光性電極21に接続されている。また、電源234の負極性端子は透光性電極24に接続されており、透光性電極21、光導電膜202、電界発光薄膜23、及び透光性電極24を介して閉回路が形成される。
【0104】
透光性電極24を介して電界発光薄膜23の発光がフォトダイオードアレイ221に入射すると、光電変換によって電荷が発生し、フォトダイオードアレイ221に信号電荷として蓄積される。
【0105】
フォトダイオードアレイ221に蓄積された信号電荷は、CMOS型スイッチング素子アレイ222により、所定のタイミングで信号電圧に変換された後、外部に読み出され、撮像信号として取り出される。
【0106】
次に、実施の形態2の撮像デバイスの動作について、一例として、光導電膜202に非晶質セレンを用いた場合を取り上げて、以下に説明する。
【0107】
透光性電極21を透過した入射光は、光導電膜202に吸収され、光導電膜202内で光電変換されて、電子−正孔対が生成される。
【0108】
透光性電極21には、電源234の正極性端子が接続されていることから、生成された電子−正孔対のうち正孔は、電界に沿って電界発光薄膜23の方向に移動する。
【0109】
ここで、光導電膜202には、内部で電荷のアバランシェ増倍現象が生じるほどの高いバイアス電圧が電源234から印加されているので、移動する正孔がアバランシェ増倍現象を起こし、増倍された正孔が電界発光薄膜23へ注入される。
【0110】
光導電膜202から電界発光薄膜23へ注入された正孔は、透光性電極24から電界発光薄膜23に注入される電子と再結合して、電界発光薄膜23内で光に変換される。
【0111】
電界発光薄膜23の中で発光した光は、透光性電極24及び絶縁層210を透過して、CMOS素子アレイ220内の絶縁層側表面に整列配備されたフォトダイオードアレイ221に入射し、信号電荷として蓄積される。
【0112】
CMOS素子アレイ220内のフォトダイオードアレイ221に蓄積された電荷は、読み出し回路222により、所定のタイミングで信号電圧に変換された後、外部に読み出され、撮像信号として取り出される。
【0113】
以上のように、実施の形態2の撮像デバイス50は、光導電膜202に印加されるバイアス電圧がCMOS素子アレイ220に印加されることはないので、CMOS素子アレイ220をバイアス電圧から保護するための新たな耐電圧保護手段を付加する必要がなくなる。
【0114】
なお、以上では、第2光電変換部及び信号読み出し部をCMOS素子アレイ220で実現する撮像デバイス50について説明したが、第2光電変換部及び信号読み出し部を一つの素子として実現する素子は、CMOS素子アレイ220に限られるものではない。例えば、CMOS素子アレイ220の代わりに、CCD(Charge Coupled Device)素子アレイを用いてもよい。ここで、CCD素子アレイは、シリコン基板(シリコンウェハ)に半導体製造工程で作製した半導体素子である。
【0115】
また、裏面照射型のCCD素子アレイを用いてもよい。さらにまた、信号読み出し部を信号電荷を読み取るためのCMOS型スイッチング素子アレイ222又はTFT(Thin Film Transistor)型スイッチング素子アレイのみで構成し、透光性電極24と該信号読み出し部の間に、膜内で電荷のアバランシェ増倍現象が生じうるような光導電膜で構成される第2光電変換部と、第2電界発光薄膜部と、第3透光性電極を、順次積層して、アバランシェ増倍率を向上させてもよい。
【0116】
[実施の形態3]
図4は、実施の形態3の撮像デバイス60の構成を示す断面図である。
【0117】
実施の形態3の撮像デバイス60は、電子ビーム源とガラス管の構成が実施の形態1の撮像デバイス40と異なるが、その他の構成要素は、光導電膜22の材質を除いて実施の形態1の撮像デバイス40に含まれる構成要素と同一である。このため、実施の形態1の撮像デバイス40に含まれる構成要素と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0118】
実施の形態3の撮像デバイス60は、実施の形態1の撮像デバイス40と同一の透光性基板10、金属ピン11、インジウムリング12、ターゲット部20、電源34、及び電源35の他に、冷陰極アレイ61、カップ状のガラス管63を含む。
【0119】
実施の形態3の光導電膜22としては、種々の材料を用いることができるが、撮像デバイス60に用いるためには、可視光波長の全領域について、高い光電変換効率を有することが望ましい。
【0120】
例えば、非晶質セレンは、バンドギャップが約2eVで、波長620nmよりも長波長の光は吸収されず、光電変換が生じない。一方、例えば、セレン化カドミウムは、可視光波長のほぼすべての領域において、100%に近い光電変換効率を有している。
【0121】
このため、実施の形態3の撮像デバイス60の光導電膜22には、セレン化カドミウムを用いる。
【0122】
セレン化カドミウムのように、可視光のすべての波長領域において高い光電変換効率を有する材料を用いることにより、結果としてターゲット部20の光電変換効率を可視光全域において高めることができる。なお、実施の形態3では、光導電膜22にセレン化カドミウムを用いる形態について説明するが、可視光波長領域のほぼ全域において、高い光電変換効率を有する材料であれば、セレン化カドミウム以外の種々の材料を用いてもよい。
【0123】
なお、セレン化カドミウムの最適な動作電界は約1×10[V/m]であるので、この動作電界となるようなバイアス電圧を、光導電膜22の膜厚に応じて電源34から印加すればよい。
【0124】
冷陰極アレイ61は、複数の微小なカソードがマトリクス状に配列された電子ビーム源であり、任意のカソードを選択して電子ビーム64を発射させることができる。
【0125】
ここで、実施の形態3のターゲット部20の動作は、光導電膜22の材料及び印加電界が異なるだけで実施の形態1と同じであるので省略する。
【0126】
実施の形態1と同様に、光導電膜25のビーム走査面25Aに到達した正孔によって正方向に上昇したビーム走査面25Aの電位が、冷陰極アレイ61から発射された電子ビーム64により、再び冷陰極アレイ61と同じ電位に戻る際に、光導電膜25、透光性電極24、インジウムリング12、電源35、冷陰極アレイ61、及び電子ビーム64によって実現される閉回路に流れる電流変化が信号読み出し装置36から撮像信号として取り出される。
【0127】
このように、実施の形態3のターゲット部20は、光導電膜22及び光導電膜25の印加電圧を、それぞれ電源34、電源35により独立に制御することが可能であるため、最適な動作電界が異なる2種類以上の光導電膜を組み合わせて使用する場合に好適である。
【0128】
[実施例]
次に、実施の形態3のターゲット部20の具体的な実施例について説明する。
【0129】
実施の形態3の実施例のターゲット部20は、図4に示すターゲット部20と同一の構成であるため、実施の形態3の実施例において、図4に対応する構成要素には、同一の参照符号を付して説明する。
【0130】
透光性基板10は、直径が26.4mmの透光性ガラス製の円板状の基板である。透光性基板10の一方の面上には、直径20mm、膜厚30nmの酸化インジウムスズ製の透光性電極21をスパッタ蒸着法により形成し、その上に順次、光導電膜22、電界発光薄膜23、透光性電極24、光導電膜25を形成した。なお、透光性電極21、光導電膜22、電界発光薄膜23、透光性電極24、及び光導電膜25は、平面視で円形である。
【0131】
光導電膜22は、直径22mm、膜厚1μmのセレン化カドミウムを真空蒸着法により形成した。
【0132】
電界発光薄膜23は、直径20mmのα−NPD(膜厚50nm)/Alq(膜厚50nm)接合膜を真空蒸着法により形成した。
【0133】
透光性電極24は、透光性電極21と同様に膜厚30nmの酸化インジウムスズで形成したが、インジウムリング12と接続させるため、直径が22mm以上25mm以下の範囲となるように形成した。
【0134】
光導電膜25は、直径22mm、膜厚15μmの非晶質セレンを真空蒸着法により形成した。
【0135】
また、光導電膜25のビーム走査面25Aには、膜厚0.1μmの三硫化アンチモン(Sb)を圧力0.1〜0.4Torrのアルゴン(Ar)ガス雰囲気中で蒸着した。
【0136】
以上のようにして形成した実施の形態3の実施例のターゲット部20を、図3に示した撮像デバイス60に組み込み、テレビカメラに実装し、光導電膜22及び光導電膜25にそれぞれ約10V、約1500Vの電圧を印加したところ、可視光波長のほぼすべての領域における100%に近い光電変換効率と、光導電膜25でのアバランシェ増倍率200倍を両立することができた。
【0137】
このように、実施の形態3の実施例のターゲット部20を含む撮像デバイス60では、高い光電変換効率と安定したアバランシェ増倍を両立できるアバランシェ増倍方式の撮像デバイスを提供できることが分かった。
【0138】
なお、以上では、光導電膜22にセレン化カドミウムを用いることで、可視光領域全域での高い光電変換効率と安定したアバランシェ増倍を両立できるアバランシェ増倍方式の撮像デバイス60が実現できることを説明したが、光導電膜22を赤外光に感度を有する材料、例えば硫化鉛(PbS)で構成することにより、高感度なアバランシェ増倍方式の赤外光撮像デバイスを容易に実現することもできる。
【0139】
[実施の形態4]
図5は、実施の形態4の撮像デバイス70の構成を示す断面図である。
【0140】
図5に示すように、実施の形態4の撮像デバイス70は、透光性電極24の構成が実施の形態1と異なるが、その他の構成要素は実施の形態1の撮像デバイス40に含まれる構成要素と同一である。このため、実施の形態1の撮像デバイス40に含まれる構成要素と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0141】
実施の形態4の撮像デバイス70は、実施の形態1の撮像デバイス40と同一のインジウムリング12、電子ビーム源31、ガラス管32、電源34、及び電源35を含む。
【0142】
光導電膜22は、入射したX線を吸収し、電荷に変換(光電変換)する。
【0143】
光導電膜22は、X線を吸収する材料であれば、種々の材料から構成されてよい。例えば、光導電膜22は、非晶質セレンから構成されてよく、必要に応じて、他の添加物を含んでもよい。光導電膜22として非晶質セレンを用いる場合には、最適な動作電界は約1×10[V/m]であるので、この動作電界となるようなバイアス電圧を、光導電膜22の膜厚に応じて電源34から印加すればよい。
【0144】
ファイバーオプティックプレート310は、直径数μmの透光性ガラスファイバーを円形状に束ねた光学デバイスであり、片面に投影された光学像をそのまま反対の面に伝達することができる。ファイバーオプティックプレート310は、オプティカルファイバープレートの一例である。
【0145】
実施の形態4の透光性電極24A及び24Bは、ファイバーオプティックプレート310の一方の面に形成される一の第2透光性電極と、ファイバーオプティックプレート310の他方の面に形成される他の第2透光性電極との一例であり、外部で電気的に接続されている。光導電膜25は、透光性電極24Bに積層されている。
【0146】
実施の形態4のターゲット部320は、ファイバーオプティックプレート310の片面310A側に、透光性電極24A、電界発光薄膜23、光導電膜22、透光性電極21の順序で積層され、ファイバーオプティックプレート310の片面310Aと反対の面310B側に、透光性電極24B、光導電膜25の順序で積層された配置構成となっている。
【0147】
ここで、実施の形態4のターゲット部320の動作は、光導電膜22の印加電界と、実施の形態1では、電界発光薄膜23で発光した光は、透光性電極24のみを介して光導電膜25に入射していたのに対し、実施の形態4では、電界発光薄膜23で発光した光は、透光性電極24A、ファイバーオプティックプレート310、及び透光性電極24Bを介して光導電膜25に入射する点が異なるだけで実施の形態1と同じであるので省略する。
【0148】
以上のように、実施の形態4のターゲット部320は、透光性電極21、光導電膜22、電界発光薄膜23、及び透光性電極24Aをファイバーオプティックプレート310上に形成することができ、透光性基板が不要となるため、透光性基板でのX線の吸収が生じず、X線像を撮影する場合に好適である。
【0149】
また、非晶質セレンを主体とする光導電膜を用いたX線用撮像デバイスでは、入射X線の吸収量を高めるために光導電膜を厚くする必要があり、該光導電膜で同時にアバランシェ増倍現象を生じさせるほどの極めて高いバイアス電圧を該光導電膜に印加することは困難であったが、実施の形態4の撮像デバイス70では、膜厚の厚い光導電膜22では入射X線の吸収と光電変換だけを行い、アバランシェ増倍は膜厚の薄い光導電膜25で行えばよいため、高感度なアバランシェ増倍方式のX線撮像デバイスを容易に実現することができる。
【0150】
以上、本発明の例示的な実施の形態の撮像デバイスについて説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、高画質が要求されるテレビカメラの撮像デバイスに最適であり、産業、医療、理化学分野等の画像解析システムに適用すれば、高感度、高品質、高S/Nでの信号処理が可能になる等の効果が得られる。
【符号の説明】
【0152】
1 第1透光性電極
2 第1光電変換部
3 電界発光薄膜部
4 第2透光性電極
5 第2光電変換部
6 信号読み出し部
7 第1電源
8 第2電源
9 ターゲット部
10 透光性基板
11 金属性ピン
12 インジウムリング
20 ターゲット部
21 透光性電極
22 光導電膜
23 電界発光薄膜
24 透光性電極
25 光導電膜
30、64 電子ビーム
31 電子ビーム源
32 ガラス管
34、35 電源
36 信号読み出し装置
40、50、60、70 撮像デバイス
61 冷陰極アレイ
63 ガラス管
200 ターゲット部
202 光導電膜
210 絶縁層
220 CMOS素子アレイ
221 フォトダイオードアレイ
222 CMOS型スイッチング素子アレイ
234 電源
310 ファイバーオプティックプレート
320 ターゲット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入射側に配設される第1透光性電極と、
前記第1透光性電極に積層され、前記第1透光性電極を介して入射する入射光を光電変換する第1光電変換部と、
前記第1光電変換部に積層され、前記第1光電変換部で生成される電荷が注入されて発光する第1電界発光薄膜部と、
前記第1電界発光薄膜部に積層される第2透光性電極と、
前記第2透光性電極に積層され、前記第1電界発光薄膜部で発光され前記第2透光性電極を透過した光を光電変換する第2光電変換部と、
前記第2光電変換部で生成される信号電荷を2次元の画像信号として読み出す信号読み出し部と
を含み、
且つ前記第1光電変換部又は前記第2光電変換部の少なくともいずれかが、前記光電変換部内で電荷のアバランシェ増倍を行う撮像デバイス。
【請求項2】
前記第1光電変換部及び前記第2透光性電極の面積が、前記第1電界発光薄膜部の面積より大きく、且つ前記第1電界発光薄膜部が外気と接触しないように密封される、請求項1に記載の撮像デバイス。
【請求項3】
前記第2光電変換部に積層され、前記第2光電変換部で生成される電荷が注入されて発光する第2電界発光薄膜部と、
前記第2電界発光薄膜部に積層される第3透光性電極と、
前記第3透光性電極に積層され、前記第2電界発光薄膜部で発光され前記第3透光性電極を透過した光を光電変換する第3光電変換部と
をさらに含み、
且つ前記第3光電変換部が、該第3光電変換部内で電荷のアバランシェ増倍を行い、前記信号読み出し部は、前記第3光電変換部で生成される信号電荷を2次元の画像信号として読み出す請求項1又は2に記載の撮像デバイス。
【請求項4】
前記第2光電変換部及び前記第3透光性電極の面積が、前記第2電界発光薄膜部の面積より大きく、且つ前記第2電界発光薄膜部が外気と接触しないように密封される、請求項3に記載の撮像デバイス。
【請求項5】
前記第3光電変換部は、シリコンウェハの片面に整列配備して形成されたフォトダイオードアレイで構成される、請求項3又は4に記載の撮像デバイス。
【請求項6】
前記第2光電変換部は、シリコンウェハの片面に整列配備して形成されたフォトダイオードアレイで構成される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の撮像デバイス。
【請求項7】
前記第2透光性電極は、オプティカルファイバープレートの一方の面に形成される一の第2透光性電極と、前記オプティカルファイバープレートの他方の面に形成される他の第2透光性電極とで構成されており、前記第2光電変換部は、前記他の第2透光性電極に積層される、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の撮像デバイス。
【請求項8】
前記信号読み出し部は、シリコンウェハの片面に整列配備されたCCD型又はCMOS型又はTFT型スイッチング素子アレイで構成される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の撮像デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−104729(P2012−104729A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253510(P2010−253510)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月2日 社団法人映像情報メディア学会発行の「映像情報メディア学会 2010年年次大会講演予稿集」に発表
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【Fターム(参考)】