説明

操舵角検出装置

【課題】 イグニッションスイッチが抜かれたときに操舵軸の絶対舵角や中立位置を記憶する必要がない操舵角検出装置を提供する。
【解決手段】 操舵ハンドルを左操舵限界位置−θmaxから右操舵限界位置+θmaxにまで操舵したときにn回の周期波形信号を出力する第1レゾルバセンサと、(n+1)回の周期波形信号を出力する第2レゾルバセンサと、(n+2)回の周期波形信号を出力する第3レゾルバセンサとを備え、第3レゾルバセンサで得られる相対角θcと第2レゾルバセンサで得られる相対角θbの相対角差θcbと、第3レゾルバセンサで得られる相対角θcと第1レゾルバセンサで得られる相対角θaの相対角差θcaとに基づいて絶対舵角θと中立位置とを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾルバセンサを用いて操舵部材の絶対角度を検出する操舵角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レゾルバセンサを用いて車両の操舵軸の絶対角度(絶対舵角)を検出する技術が知られている。例えば、特許文献1に提案された車両用操舵装置は、操舵軸に設けられる一対のレゾルバセンサと、イグニッションキーが抜かれたとき操舵軸回りに等間隔で設けられたロック位置で操舵軸の回転を規制するロック機構とを備える。また、操舵軸の絶対角度を検出するために、一対のレゾルバセンサの出力信号の軸倍角をそれぞれm×,n×(m>n)に設定するとともに、操舵軸回りのロック位置の数Nを、(m−n)≦Nという関係に設定している。
【0003】
この構成においては、一対のレゾルバセンサの出力信号の差をとることにより、操舵軸が360°/(m−n)回転するごとに繰り返される周期波形信号を得ることができる。この場合、イグニッションキーが抜かれて操舵軸がロック機構により回転規制される状況においては、この周期波形信号の出力は、操舵軸が回転できる規制角度領域内の異なる角度において同一レベルの値にはならない。
従って、イグニッションキーが抜かれた時点の操舵軸の絶対角度を記憶しておくことにより、次回の車両運転時に、この記憶した絶対角度と現時点における操舵軸の回転角度位置との関係から操舵軸の絶対角度を検出できる。
【0004】
また、特許文献2には、操舵軸の中立位置を舵角センサに記憶させ、この中立位置を基準にした回転角を舵角センサにより測定することで操舵角を検出する舵角検出装置が提案されている。この装置においては、ステアリング組み付け工程において中立位置を舵角センサに記憶させるが、その記憶させる中立位置がずれてしまうことがある。そこで、電動パワーステアリング装置に使用される電動モータの1回転以内の絶対回転角に基づいて中立位置のずれを検出し、正しい中立位置に更新記憶するようにしている。
【特許文献1】特開2003−269953号公報
【特許文献2】特開2004−168191号公報
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、特許文献1の装置においては、ロック機構が複雑になってしまう。また、イグニッションキーが抜かれた時点の操舵角を記憶しておく必要がある。このため、電源バッテリを外した場合においても記憶保持できる構成を備えなければならない。
また、特許文献2の装置においては、組み付け工程において中立位置を正確に記憶させる必要があり、製造工数が多くなってしまう。また、中立位置のずれ補正といった処理も必要となってくる。
【0006】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、操舵軸の絶対角や中立位置を記憶する必要がない操舵角検出装置を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、左操舵限界位置から右操舵限界位置まで操舵部材が操舵されるとn回の周期波形信号を出力する第1レゾルバセンサと、左操舵限界位置から右操舵限界位置まで操舵部材が操舵されると(n+1)回の周期波形信号を出力する第2レゾルバセンサと、左操舵限界位置から右操舵限界位置まで操舵部材が操舵されると(n+2)回の周期波形信号を出力する第3レゾルバセンサと、上記第1レゾルバセンサの信号出力値と上記第2レゾルバセンサの信号出力値との差、あるいは、上記第2レゾルバセンサの信号出力値と上記第3レゾルバセンサの信号出力値との差に基づいて、上記左操舵限界位置から右操舵限界位置までの操舵可能範囲において操舵角の変化に対して1つのピーク値が現れる特性を有する第1電気角を算出する第1電気角算出手段と、上記第1レゾルバセンサの信号出力値と上記第3レゾルバセンサの信号出力値との差に基づいて、上記左操舵限界位置から右操舵限界位置までの操舵可能範囲において操舵角の変化に対して2つのピーク値が現れる特性を有する第2電気角を算出する第2電気角算出手段と、上記第1電気角算出手段により算出された第1電気角と、上記第2電気角算出手段により算出された第2電気角とに基づいて、上記操舵部材の中立位置と絶対舵角とを算出する絶対舵角算出手段とを備えたことにある。
【0008】
この発明によれば、操舵部材が左操舵限界位置から右操舵限界位置まで操舵されると、第1レゾルバセンサはn回の周期波形信号を、第2レゾルバセンサは(n+1)回の周期波形信号を、第3レゾルバセンサは(n+2)回の周期波形信号を出力する。従って、第1レゾルバセンサの信号出力値と第2レゾルバセンサの信号出力値との差、あるいは、第2レゾルバセンサの信号出力値と第3レゾルバセンサの信号出力値との差を求めることにより、左操舵限界位置から右操舵限界位置までの操舵可能範囲において操舵角の変化に対して周期性を有しない1つのピーク値が現れる特性を有する電気角を得ることができる。第1電気角算出手段は、この電気角を第1電気角として算出する。
【0009】
また、第1レゾルバセンサの信号出力値と上記第3レゾルバセンサの信号出力値との差を求めることにより、左操舵限界位置から右操舵限界位置までの操舵可能範囲において操舵角の変化に対して2つのピーク値が現れる特性を有する電気角を得ることができる。第2電気角算出手段は、この電気角を第2電気角として算出する。
そして、絶対舵角算出手段は、第1電気角算出手段により算出された第1電気角と、第2電気角算出手段により算出された第2電気角とに基づいて、操舵部材の中立位置と絶対舵角とを算出する。
【0010】
第2電気角算出手段で算出される第2電気角は、操舵可能範囲において操舵角の変化に対して2周期分の周期波形信号として現れる。従って、その周期波形信号の境界(1周期目と2周期目との境界)を算出することで操舵部材の中立位置を求めることができる。例えば、第2電気角を、操舵角の変化に対して鋸歯形状に変化する周期波形信号として出力させた場合には、その鋸歯形状信号における三角形頂点の通過を検出したときに操舵部材が中立位置に存在すると判断することができる。
従って、中立位置の検出を正確に簡単に行うことができる。また、操舵部材の操舵中に中立位置を検出することができるため、製造工程において中立位置を記憶させる必要がなく、製造工数を低減することができる。
【0011】
一方、第1電気角算出手段で算出される第1電気角は、レゾルバセンサの出力する周期波形信号の位相差により、周期性を有することなく変化し、操舵可能範囲にわたって操舵部材の位置(絶対舵角)と一対一に対応する値となる。
従って、第1電気角により操舵部材の絶対舵角を算出することができる。この場合、例えば、第1電気角と第2電気角とを組み合わせて絶対舵角をさらに精度良く検出することもできる。
第2電気角は、中立位置より右操舵側の右操舵領域と左操舵側の左操舵領域との2つの領域において、それぞれ1周期分の周期波形信号を出力するため、第1電気角に比べて操舵角の変化に対する出力変化が大きい。また、この第2電気角の値は、2つの操舵領域において操舵部材の位置(絶対舵角)と一対一に対応する。従って、第1電気角に基づいて操舵領域を特定し、この特定された操舵領域における第2電気角の値から絶対舵角を検出することで検出精度を向上できる。
また、絶対舵角の算出は、操舵部材の操舵中に行うため、次回の運転走行まで絶対舵角を記憶する必要がない。従って、記憶装置の暗電流の消費を低減することができる。
【0012】
本発明の他の特徴は、上記絶対舵角算出手段は、上記第1電気角の値が零でなく、かつ、上記第2電気角の値が零となったとき、上記操舵ハンドルが中立位置にあると判定することにある。
【0013】
第2電気角は、第1レゾルバセンサの信号出力値と第3レゾルバセンサの信号出力値との差に基づいて算出されるが、この2つの信号出力値は、操舵可能範囲における中立位置において同一値となる。この2つの信号出力値は、中立位置以外にも操舵限界角度位置において同一となる。そこで、第1電気角の値が零でなく、かつ、第2電気角の値が零になったことを検出することで、操舵部材の中立位置を高精度でしかも簡単に求めることができる。
【0014】
本発明の他の特徴は、上記絶対舵角算出手段は、上記第1電気角と上記第2電気角との大小関係に基づいて上記操舵部材の操舵位置が右操舵領域にあるいか左操舵領域にあるかを判定し、その領域判定結果と上記第2電気角の値とに基づいて上記絶対舵角を算出することにある。
【0015】
第2電気角は、中立位置より右操舵側の右操舵領域と左操舵側の左操舵領域との2つの領域において、操舵部材の位置(絶対舵角)と一対一に対応する値をとり、第1電気角に比べて操舵角の変化に対する出力変化が大きい。従って、操舵部材の操舵領域が分かれば、この第2電気角の値から精度の高い絶対舵角を算出することができる。一方、第1電気角と第2電気角とは、左右の操舵領域によってその大小関係が異なる。
そこで、絶対舵角算出手段は、第1電気角と第2電気角との大小関係に基づいて操舵部材の位置する操舵領域を判定し、この判定された操舵領域における第2電気角の値から絶対舵角を算出する。この結果、絶対舵角を高精度に算出することができる。
【0016】
本発明の他の特徴は、上記第1レゾルバセンサと第2レゾルバセンサと第3レゾルバセンサの異常を検出する異常検出手段と、上記3つのレゾルバセンサのうち1つのレゾルバセンサの異常が検出されたとき、異常が検出されていない2つのレゾルバセンサの信号出力値の差に基づいて、上記操舵部材の絶対舵角を算出する異常時絶対舵角算出手段とを備えたことにある。
【0017】
これによれば、1つのレゾルバセンサが故障しても、他のレゾルバセンサにより操舵部材の絶対舵角を算出するため車両の安全性が向上する。
【0018】
本発明の他の特徴は、異常時絶対舵角算出手段は、上記第2レゾルバセンサの異常が検出されたとき、上記第2電気角算出手段により算出される第2電気角の推移に基づいて、上記操舵部材の操舵位置が右操舵領域にあるいか左操舵領域にあるかを判定し、その領域判定結果と上記第2電気角の値とに基づいて上記操舵角を算出することにある。
【0019】
第2レゾルバセンサの異常時においては、第1電気角を算出することができないため、第2電気角のみにより絶対舵角を算出する必要がある。第2電気角は、操舵可能範囲において操舵角の変化に対して2周期分の周期波形信号として現れる。従って、第2電気角の推移を検出することにより、操舵部材の位置する操舵領域を判定することができる。
【0020】
例えば、第2電気角を、操舵角の変化に対して鋸歯形状に変化する周期波形信号として出力させた場合には、その鋸歯形状信号における三角形頂点の通過を検出したときに操舵部材が中立位置を通過したと判断することができる。また、第2電気角の信号出力の変化は、右方向に操舵されて中立位置を通過した場合と、左方向に操舵されて中立位置を通過した場合とで相違する。従って、第2電気角の推移から操舵部材の位置する操舵領域を判定することができる
【0021】
異常時絶対舵角算出手段は、こうした原理を利用して、第2電気角の周期波形信号の推移に基づく操舵領域判定と第2電気角の値とに基づいて操舵角を算出する。
従って、第2レゾルバセンサが故障しても、精度良く操舵角を算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、一実施形態としての操舵角検出装置を備えた車両の操舵装置を示している。
【0023】
この車両の操舵装置は、運転者によって操舵操作される操舵操作装置10と、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を運転者の操舵操作に応じて転舵する転舵装置20とを機械的に分離したステアバイワイヤ方式を採用している。操舵操作装置10は、運転者によって回動操作される操作部としての操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下部には操舵反力用電動モータ13が組み付けられている。操舵反力用電動モータ13は、減速機構14を介して操舵入力軸12を軸線周りに回転駆動する。
【0024】
転舵装置20は、車両の左右方向に延びて配置されたラックバー21を備えている。このラックバー21の両端部には、図示省略したタイロッドおよびナックルアームを介して、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ラックバー21の軸線方向の変位により左右に転舵される。ラックバー21の外周上には、図示しないハウジングに組み付けられた転舵用電動モータ22が設けられている。転舵用電動モータ22の回転は、ねじ送り機構23により減速されるとともにラックバー21の軸線方向の変位に変換される。また、転舵装置20は、軸線周りに回転可能な操舵出力軸24も有している。操舵出力軸24の下端にはピニオンギヤ25が固定されており、同ピニオンギヤ25はラックバー21に設けたラック歯21aに噛み合っていて、操舵出力軸24の軸線周りの回転によりラックバー21が軸線方向に変位する。
【0025】
操舵入力軸12と操舵出力軸24との間には中間部材としてのケーブル31が配置されている。ケーブル31は、操舵入力軸12の軸線周りの回転を操舵出力軸24に伝達するものである。このケーブル31の上端の固定部材31aと操舵入力軸12の下端との間には第1電磁クラッチ32が配置されている。第1電磁クラッチ32は、通電状態にて切断状態に設定されてケーブル31と操舵入力軸12とを動力伝達不能に切り離し、非通電状態にて接続状態に設定されてケーブル31と操舵入力軸12とを動力伝達可能に連結する。ケーブル31の下端の固定部材31bと操舵出力軸24の上端との間には第2電磁クラッチ33が配置されている。第2電磁クラッチ33は、通電状態にて切断状態に設定されてケーブル31と操舵出力軸24とを動力伝達不能に切り離し、非通電状態にて接続状態に設定されてケーブル31と操舵出力軸24とを動力伝達可能に連結する。
【0026】
次に、操舵反力用電動モータ13、転舵用電動モータ22および電磁クラッチ32,33を制御する電気制御装置40について説明する。
電気制御装置40は、操舵ハンドル11の操舵角θを検出するための操舵角検出装置50と、操舵反力用電子制御ユニット(以下、操舵反力用ECUという)60と、前輪転舵用電子制御ユニット(以下、前輪転舵用ECUという)70とを備えている。
【0027】
操舵角検出装置50は、第1レゾルバセンサ51と、第2レゾルバセンサ52と、第3レゾルバセンサ53と、絶対角検出用演算装置(以下、絶対角検出用ECUと呼ぶ)54とから構成される。
第1レゾルバセンサ51は、操舵入力軸12の中間部に設けられる第1レゾルバ51sと、第1レゾルバ51sの出力信号から相対角θaを検出する第1相対角検出回路51cとからなる。
第2レゾルバセンサ52は、第1レゾルバ51sと並んで操舵入力軸12の中間部に設けられる第2レゾルバ52sと、第2レゾルバ52sの出力信号から相対角θbを検出する第2相対角検出回路52cとからなる。
第3レゾルバセンサ53は、第2レゾルバ52sと並んで操舵入力軸12の中間部に設けられる第3レゾルバ53sと、第3レゾルバ53sの出力信号から相対角θcを検出する第3相対角検出回路53cとからなる。
【0028】
各レゾルバ51s,52s,53sは、それぞれ環状のレゾルバロータ51sr,52sr,53srとレゾルバステータ51ss,52ss,53ssとを備える。各レゾルバ51s,52s,53sにおいては、レゾルバロータ51sr,52sr,53srが操舵入力軸12の外周面上に固定されており、レゾルバステータ51ss,52ss,53ssがその内周面にレゾルバロータ51sr,52sr,53srの外周面が対向するように車体側に固定して設けられる。
各レゾルバ51s,52s,53sは、それぞれレゾルバロータ51sr,52sr,53srに励磁コイルである1次巻線(図示略)が設けられ、レゾルバステータ51ss,52ss,53ssに検出コイルである2次巻線(図示略)が複数設けられる。
【0029】
また、各相対角検出回路51c,52c,53cは、それぞれレゾルバ51s,52s,53sの1次巻線を正弦波信号により励磁するとともに、その励磁信号による誘起電圧信号を複数の2次巻線から入力する。操舵入力軸12が回転して各レゾルバ51s,52s,53sのレゾルバステータ51ss,52ss,53ssとレゾルバロータ51sr,52sr,53srとの位置関係が変化すると、2次巻線を通過する磁束が変化する。従って、1次巻線に印加される正弦波電圧と2次巻線に作用する誘起電圧との位相差を比較することにより、レゾルバステータ51ss,52ss,53ssとレゾルバロータ51sr,52sr,53srとの相対的な角度位置を検出することができる。
【0030】
操舵入力軸12は、図示しないストロークエンドにより、その軸線回りの回転が規制されている。この操舵入力軸12の回転可能範囲は、操舵ハンドル11の回転可能範囲と同一である。以下、この範囲を操舵可能範囲と呼ぶ。
操舵可能範囲は、本実施形態においては、操舵ハンドル11の中立位置を「0」とし、左方向の操舵限界角度−θmaxから右方向の操舵限界角度+θmaxまでとする。
【0031】
そして、第1相対角検出回路51cは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において11回の周期波形信号を出力するように構成される。
一方、第2相対角検出回路52cは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において12回の周期波形信号を出力するように構成される。また、第3相対角検出回路53cは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において13回の周期波形信号を出力するように構成される。
【0032】
操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程における周期波形信号の出力回数については、上記示した値に限定するものではないが、各相対角検出回路51c,52c,53cにおいて、「1」ずつ異なるように設定する。以下、第1相対角検出回路51cの周期波形信号の出力回数をn回、第2相対角検出回路52cの出力回数を(n+1)回、第3相対角検出回路53cの出力回数を(n+2)回として説明する。
【0033】
図8は、第1相対角検出回路51c、第2相対角検出回路52c、第3相対角検出回路53cの出力する周期波形信号を表す。横軸は、操舵ハンドル11の操舵角θ(絶対舵角θ)を表し、縦軸は、電気角を表す。図中、破線で表される信号波形は、第1相対角検出回路51cの出力する相対角θaを、2点鎖線で表される信号波形は、第2相対角検出回路52cの出力する相対角θbを、1点鎖線で表される信号波形は、第3相対角検出回路53cの出力する相対角θc表す。
【0034】
相対角θaは、操舵可能範囲を値nで徐算した角度(2・θmax/n)を1周期(2π)とした電気角であり、第1レゾルバ51sのレゾルバステータ51ssに対するレゾルバロータ51srの相対的な位置を表す。同様に、相対角θbは、操舵可能範囲を値(n+1)で徐算した角度(2・θmax/(n+1))を1周期(2π)とした電気角であり、第2レゾルバ52sのレゾルバステータ52ssに対するレゾルバロータ52srの相対的な位置を表す。同様に、相対角θcは、操舵可能範囲を値(n+2)で徐算した角度(2・θmax/(n+2))を1周期(2π)とした電気角であり、第3レゾルバ53sのレゾルバステータ53ssに対するレゾルバロータ53srの相対的な位置を表す。
これに対して絶対舵角θは、操舵ハンドル11の中立位置を「0」として、この中立位置を基準とした操舵ハンドル11の機械的な回転角度(回転位置)を表す。
以下の説明において、相対角θaを表す第1相対角検出回路51cの出力信号を第1レゾルバセンサ51の出力信号θaと呼び、相対角θbを表す第2相対角検出回路52cの出力信号を第2レゾルバセンサ52の出力信号θbと呼び、相対角θcを表す第3相対角検出回路53cの出力信号を第3レゾルバセンサ53の出力信号θcと呼ぶ。
【0035】
図8に示すように、第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53の出力する周期波形信号θa,θb,θcは、横軸に対して垂直な辺を有する直角三角形を複数連ねた鋸歯形状の信号として現れる。この鋸歯形状の信号波形の一山分が1周期となる。
各レゾルバセンサ51,52,53は、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmax位置に回された状態において、出力がそれぞれ電気角で0ラジアンとなるようにそれぞれ設定され、操舵ハンドル11が右操舵限界角度+θmax位置にまで回されたときに、出力がそれぞれ2πラジアンとなるように設定される。
【0036】
各レゾルバセンサ51,52,53は、操舵ハンドル11を左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、その周期波形信号の出力回数がそれぞれ1回だけ異なるように設定されるため、操舵角θに対する出力(電気角)に位相差が生じる。
この場合、第1レゾルバセンサの出力信号θaと第2レゾルバセンサ52の出力信号θbとは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転すると位相差がなくなる。
同様に、第2レゾルバセンサ52の出力信号θbと第3レゾルバセンサ53の出力信号θcとは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転すると位相差がなくなる。
一方、第1レゾルバセンサ51の出力信号θaと第3レゾルバセンサ53の出力信号θcとは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転したときに、その中間位置においても同位相となる。この同位相となる中間位置は、操舵ハンドル11の中立位置に相当する。
【0037】
第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53の出力信号θa,θb、θcは、絶対角検出用ECU54に入力される。絶対角検出用ECU54は、マイクロコンピュータを主要部として構成され、相対角θa,θb,θcを用いて操舵ハンドル11の中立位置および操舵角θ(絶対舵角)を算出する。この絶対角検出用ECU54が行う操舵角算出処理については後述する。
【0038】
操舵反力用ECU60は、マイクロコンピュータを主要部として構成され、運転者のハンドル操作に対して適切な操舵反力を発生させる制御装置で、絶対角検出用ECU54および車速センサ41を接続している。車速センサ41は、車速Vを表す検出信号を出力する。操舵反力用ECU60は、絶対角検出用ECU54で算出された操舵角θおよび車速センサ41により検出された車速Vに基づいて目標操舵反力を算出する。この目標操舵反力の算出に当たっては、図9に示す操舵反力テーブルを参照する。この操舵反力テーブルは、操舵反力用ECU60のROM内に記憶されるもので、複数の代表的な車速値ごとに、ハンドル操舵角θの増加に従って非線形増加する複数の目標操舵反力値が設定されている。
なお、この操舵反力テーブルを利用するのに代えて、操舵角θおよび車速Vに応じて変化する目標操舵反力値を関数により予め定義しておき、同関数を利用して目標操舵反力値を計算するようにしてもよい。
【0039】
操舵反力用ECU60は、計算した目標操舵反力に対応した駆動電流を図示しない駆動回路を介して操舵反力用電動モータ13に流す。これにより、操舵ハンドル11の回動操作に対して、操舵反力用電動モータ13による目標操舵反力が付与され、運転者は、適度な操舵反力を感じながら、操舵ハンドル11を回動操作できる。
尚、操舵反力用電動モータ13は、3相同期式永久磁石モータが使用され、2相回転磁束座標系で記述されるベクトル制御により回転制御される。この場合、2相・3相変換処理を行うためにモータ回転角に同期した信号を入力する必要がある。そこで、操舵反力用ECU60は、絶対角検出用ECU54から同期信号として相対角θa、相対角θb、相対角θcのいずれかの信号を入力する。
【0040】
前輪転舵用ECU70は、マイクロコンピュータを主要部として構成され、運転者のハンドル操作に応じた舵角で前輪(転舵輪)を転舵する制御装置であり、絶対角検出用ECU54、車速センサ41、転舵角センサ43を接続する。
転舵角センサ43は、ラックバー21に組み付けられて、ラックバー21の軸線方向の変位を測定することにより、左右前輪FW1,FW2の実転舵角δを検出して出力する。なお、実転舵角δは、左右前輪FW1,FW2の中立位置を「0」とし、左右前輪FW1,FW2の右方向の転舵角を正の値で表し、左右前輪FW1,FW2の左方向の転舵角を負の値で表す。また、この転舵角センサ43を、操舵出力軸24の回転角を検出することにより、実転舵角δを検出するように構成してもよい。
【0041】
前輪転舵用ECU70は、絶対角検出用ECU54で算出されたハンドル操舵角θおよび車速センサ41により検出された車速Vに基づいて目標前輪転舵角を算出する。この目標前輪転舵角の算出に当たっては、図10に示す転舵角テーブルを参照する。この転舵角テーブルは、前輪転舵用ECU70のROM内に記憶されるもので、複数の代表的な車速値ごとに、ハンドル操舵角θの増加に従って非線形に増加するステヤバイワイヤ用の目標前輪転舵角が設定されている。この目標前輪転舵角のハンドル操舵角θに対する変化率は、ハンドル操舵角θの絶対値|θ|の小さな範囲内で小さく、ハンドル操舵角θの絶対値|θ|が大きくなると大きくなるように設定されている。なお、この転舵角テーブルを利用するのに代えて、ハンドル操舵角θと目標前輪転舵角との関係を示す関数を予め用意しておき、同関数を利用してステヤバイワイヤ用の目標前輪転舵角を計算するようにしてもよい。
【0042】
前輪転舵用ECU70は、転舵角センサ43により検出した実転舵角δが最終的な目標前輪転舵角に等しくなるように、その舵角差を用いて図示しない駆動回路を介して転舵用電動モータ22の回転を制御する。これにより、転舵用電動モータ22は回転駆動され、ねじ送り機構23を介してラックバー21を軸線方向に駆動して、左右前輪FW1,FW2を目標転舵角に転舵する。
【0043】
次に、操舵角検出装置50が行う操舵ハンドル11の操舵角検出処理について説明する。まず、車両起動時において行う初期制御ルーチンについて説明する。図2は、絶対角検出用ECU54が車両起動時において実施する初期制御ルーチンを表すフローチャートである。この処理は、絶対角検出用ECU54のROM内に制御プログラムとして記憶され、車両のイグニッションスイッチがONしたときに実行される。
【0044】
車両のイグニッションスイッチがONして本初期制御ルーチンが起動すると、絶対角検出用ECU54は、ステップS11において、第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53が全て正常であるか否かを判断する。この判断は、各レゾルバ51s、52s、53sに設けられる巻線の端子電圧をチェックすることにより行う。各レゾルバ51s、52s、53sに設けられる巻線に断線、ショート、絶縁不良等が発生した場合には、この巻線端子電圧が基準範囲から外れる。従って、このステップS11においては、第1相対角検出回路51c、第2相対角検出回路52c、第3相対角検出回路53cにより巻線端子電圧を検出し、検出電圧が基準範囲から外れているときにレゾルバ51s、52s、53sが異常であると判断する。
【0045】
尚、各レゾルバセンサ51,52,53の異常検出に当たっては、相対角検出回路51c,52c,53c自身の異常も含めて、絶対角検出用ECU54にて検出するようにしてもよい。例えば、相対角検出回路51c,52c,53cの出力する周期波形信号の電圧値を絶対角検出用ECU54にてチェックし、その電圧値が基準範囲から外れたとき回路異常と判断してもよい。また、相対角検出回路51c,52c,53cの出力信号の波形から回路異常を判断してもよい。
【0046】
第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53が全て正常であると判断された場合には(S11:YES)、ステップS12において、第1絶対舵角算出処理を行う。この第1絶対舵角算出処理については後述する。
また、第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53のうちいずれか一つでも異常が検出された場合には(S11:NO)、ステップS13において、第1電磁クラッチ32および第2電磁クラッチ33に接続指令を出力する。この接続指令により、第1電磁クラッチ32は、ケーブル31と操舵入力軸12とを動力伝達可能に連結する。また、第2電磁クラッチ33は、ケーブル31と操舵出力軸24とを動力伝達可能に連結する。この結果、操舵入力軸12と操舵出力軸24とは、ケーブル31を介して動力伝達可能に連結される。従って、運転者の行う操舵ハンドル11の回動操作により、左右前輪FW1,FW2が直接転舵される状態に設定される。
こうしてステップS12あるいはステップS13の処理が完了すると、本制御ルーチンを終了する。
【0047】
次に、初期制御処理が完了した後の絶対舵角算出処理について説明する。図3は、絶対角検出用ECU54が実施する絶対舵角算出ルーチンを表すフローチャートである。この処理は、絶対角検出用ECU54のROM内に制御プログラムとして記憶され、初期制御処理が完了した後に所定の短い周期で繰り返し行われる。
【0048】
本ルーチンが起動すると、絶対角検出用ECU54は、ステップS21において、第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53が全て正常であるか否かを判断する。この判断は、先のステップS11と同様な異常検出処理であるが、車両のイグニッションスイッチがオン状態にあるあいだ繰り返し行われる。
そして、レゾルバセンサ51,52,53の異常が検出されていないあいだは、第1絶対舵角算出処理を繰り返し行う(S22)。
【0049】
一方、レゾルバセンサ51,52,53のいずれかに異常が検出された場合には、その異常となるレゾルバセンサが、第1レゾルバセンサ51のみであるか否かを判断し(S23)、第1レゾルバセンサ51のみ異常が検出されている場合には(S23:YES)、第2絶対舵角算出処理を行う(S24)。
また、ステップS23における判断が「NO」、つまり、第1レゾルバセンサ51のみの異常ではない場合は、異常となるレゾルバセンサが第3レゾルバセンサ53のみであるか否かを判断し(S25)、第3レゾルバセンサ53のみ異常が検出されている場合には(S25:YES)、第3絶対舵角算出処理を行う(S26)。
また、ステップS25における判断が「NO」、つまり、第3レゾルバセンサ53のみの異常ではない場合は、異常となるレゾルバセンサが第2レゾルバセンサ52のみであるか否かを判断し(S27)、第2レゾルバセンサ52のみ異常が検出されている場合には(S27:YES)、第4絶対舵角算出処理を行う(S28)。
【0050】
更に、ステップS27における判断が「NO」、つまり、3つのレゾルバセンサ51,52,53のうち複数のレゾルバセンサに異常が検出されている場合には、第1電磁クラッチ32および第2電磁クラッチ33に接続指令を出力する(S29)。従って、運転者の行う操舵ハンドル11の回動操作により、左右前輪FW1,FW2が直接転舵される状態に設定される。
【0051】
本制御ルーチンは、車両の運転中において繰り返し実行される。従って、走行途中でレゾルバセンサ51,52,53のいずれかが故障した場合には、その故障したレゾルバセンサ51,52,53に応じた絶対舵角算出処理が選択される。また、複数のレゾルバセンサが故障した場合には、絶対舵角算出処理を行わずに、操舵操作装置10と転舵装置20とを機械的に連結して、運転者の操舵操作により左右前輪FW1,FW2が直接転舵される状態に設定する。
【0052】
次に、第1絶対舵角算出処理について説明する。図4は、絶対角検出用ECU54が実施する第1絶対舵角算出ルーチンを表すフローチャートである。この第1絶対舵角算出ルーチンは、上述した初期制御ルーチンにおけるステップS12の処理、および、絶対舵角算出ルーチンにおけるステップS22の処理に相当するもので、絶対角検出用ECU54のROM内に制御プログラムとして記憶される。
【0053】
本ルーチンが起動すると、絶対角検出用ECU54は、ステップS31において、第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53の出力信号θa,θb,θcを読み込む。続いて、読み込んだ信号から相対角θcが相対角θb以上であるか否かを判断し(S32)、θc≧θbである場合には(S32:YES)、θcからθbを減算した値を相対角差θcb(=θc−θb)として算出する(S33)。一方、θc<θbである場合には(S32:NO)、θcからθbを減算し2πを加算した値を相対角差θcb(=θc−θb+2π)として算出する(S34)。
【0054】
図8に示すように、操舵ハンドル11を左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、第3レゾルバセンサ51は(n+2)回の鋸歯形状信号θcを出力し、第2レゾルバセンサ52は(n+1)回の鋸歯形状信号θbを出力する。
【0055】
ここで、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxの位置から右方向に操舵操作されるケースを考える。第3レゾルバセンサ53の出力信号θcと第2レゾルバセンサ52の出力信号θbとの位相差は、左操舵限界角度−θmaxの位置を基準(位相差=0)とすると、右操舵方向に進むにつれて増大し、右操舵限界角度+θmaxの位置で最大の「2π」となり同位相に戻る。従って、操舵可能範囲における位相差がわかれば操舵角θ(絶対舵角)を求めることができる。
【0056】
ステップS33,S34の処理は、この位相差を算出するものであるが、相対角θcと相対角θbとは、途中で大小関係が逆転する。そこで、相対角θcと相対角θbとの大小関係が逆転する場合(θc<θb)には、相対角差θcbに2πを加算する。
従って、相対角差θcbは、図8の実線にて示すように、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、周期性を有することなく操舵角θに比例して「0」から「2π」まで直線的に増加する。これにより、相対角差θcbを求めることで操舵ハンドル11の操舵角θを検出することができる。
【0057】
次に、絶対角検出用ECU54は、ステップS35において、相対角θcが相対角θa以上であるか否かを判断する。θc≧θaである場合には(S35:YES)、θcからθaを減算した値を相対角差θca(=θc−θa)として算出する(S36)。一方、θc<θaである場合には(S35:NO)、θcからθaを減算し2πを加算した値を相対角差θca(=θc−θa+2π)として算出する(S37)。
【0058】
この処理は、第3レゾルバセンサ53の出力信号θcと、第1レゾルバセンサ51の出力信号θaとの位相差を算出する処理である。
図8に示すように、第1レゾルバセンサ51は、操舵ハンドル11を左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、n回の鋸歯形状信号θaを出力する。一方、第3レゾルバセンサ53は、(n+2)回の鋸歯形状信号θcを出力する。
従って、第3レゾルバセンサ53の出力信号θcと、第1レゾルバセンサ51の出力信号θaとの位相差は、左操舵限界角度−θmaxの位置を基準(位相差=0)とすると、図8に示すように、右操舵方向に進むにつれて増大し、操舵可能範囲の中間位置において最大の「2π」となって同位相に戻った後、再度増大して右操舵限界角度+θmaxの位置で最大の「2π」となる。
【0059】
この位相差は、相対角θcと相対角θaとの差である相対角差θcaにより表すことができるが、途中で両者の大小関係が逆転する。そこで、相対角θcと相対角θaとの大小関係が逆転する場合(θc<θa)には、相対角差に2πを加算して相対角差θcaとしている。
この結果、相対角差θcaは、図8に示すように、操舵ハンドル11を左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、鋸歯形状の2サイクルの周期波形信号を出力することになる。従って、操舵ハンドル11の操舵位置が右操舵領域に属するのか右操舵領域に属するのか識別できれば、この相対角差θcaから操舵ハンドル11の絶対舵角を検出することができる。
【0060】
絶対角検出用ECU54は、ステップS36またはステップS37において相対角差θcaを算出すると、次に、ステップS38の判断処理を行う。
このステップS38においては、相対角差θcaが「0」であり(θca=0)、かつ、相対角差θcbが「0」でない(θcb≠0)か否かを判断する。図8に示すように、相対角差θcaは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxに位置する場合と中立位置において「0」となる。一方、相対角差θcbは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxに位置する場合に「0」となる。
従って、このステップS38において「YES」と判断された場合には、操舵ハンドル11の操舵角θ(絶対舵角)が「0」、つまり、中立位置にあると判定する(S39)。
この中立位置の検出に当たっては、例えば、相対角差θcaが「0」から「2π」側、あるいは、「2π」から「0」側に大きく変動したときに、操舵ハンドル11が中立位置にある(操舵角θ=0)と判定するとよい。
【0061】
続いて、絶対角検出用ECU54は、ステップS40において、操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に対して中立位置信号を出力する。これにより、操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70においては、この中立位置信号に基づいて、中立位置を認識して操舵角に応じた反力制御および転舵角制御における零点補正を行う。
【0062】
一方、ステップS38において「NO」と判断された場合には、ステップS41の判断処理を行う。このステップS41においては、相対角差θcaが相対角差cbより小さい(θca<θcb)、あるいは、相対角差θcaが相対角差θcbと等しく、かつ、「0」でない(θca=θcb≠0)か否かを判断する。
このステップS41における判断は、操舵ハンドル11の操舵位置が右操舵領域(にある否かを判断するものである。
ステップS41において「YES」と判断された場合は、操舵ハンドル11の操舵領域を表すフラグSIGを「1」に設定する(S42)。このフラグSIGは、操舵ハンドル11が右操舵領域に位置するときに「1」に設定され、左操舵領域に位置するときに「0」に設定される。
【0063】
続いてステップS43において、相対角差θcaに基づいて操舵角の大きさ|θ|を算出する。この操舵角の大きさ|θ|は、操舵ハンドル11が左操舵領域に位置するときは左操舵限界位置からの回転角度を表し、操舵ハンドル11が右操舵領域に位置するときは中立位置からの回転角度を表す。
相対角差θcaは、図8に示すように、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、2サイクルの周期波形信号を出力する。従って、相対角差θcaからは2通りの操舵角が求められる。そこで、このステップS43においては、操舵角θを算出する過程として、まず操舵角の大きさ|θ|を算出する。
【0064】
この操舵角の大きさ|θ|は、図11に示す操舵角|θ|テーブルを参照して算出することができる。この操舵角|θ|テーブルは、絶対角検出用ECU54のROM内に記憶され、操舵角の大きさ|θ|と相対角差θcaとが正比例の関係に対応付けられている。
尚、操舵角の大きさ|θ|は、関数を用いて算出してもよい。例えば、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する回転角度を2・θmaxとすると、相対角差θcaは、操舵ハンドル11が2・θmax回転するあいだに電気角で4π変化する。従って、操舵角の大きさ|θ|は次式のように算出することができる。
|θ|=θmax・θca/(2・π)
【0065】
続いて、ステップS44において、操舵ハンドル11の操舵角θ(絶対舵角)を次式のように算出する。
θ=|θ|
この場合、操舵ハンドル11が右操舵領域に位置するため、操舵角の大きさ|θ|は、そのまま操舵ハンドル11の操舵角θとして設定される。
【0066】
一方、ステップS41において「NO」と判断された場合には、操舵ハンドル11が左操舵領域に位置するため、ステップS45において、フラグSIGを「0」にセットする。続いて、ステップS46において、相対角差θcaに基づいて操舵角の大きさ|θ|を算出する。この算出処理は、ステップS43と同様に図11に示す操舵角|θ|テーブルあるいは関数を用いて行えばよい。
次に、ステップS47において、操舵ハンドル11の操舵角θ(絶対舵角)を次式のように算出する。
θ=|θ|−θmax
この場合、操舵ハンドル11が左操舵領域に位置するため、操舵角の大きさ|θ|から左操舵限界角度(−θmax)を減算した値が、操舵ハンドル11の操舵角θとして設定される。
【0067】
絶対角検出用ECU54は、ステップS39,S44,S47にて操舵角θを算出すると、ステップS48において、操舵角θ(絶対舵角θ)を表す舵角検出信号を操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力し、本制御ルーチンを終了する。
【0068】
本制御ルーチンは、図3にて示す絶対舵角算出ルーチンに組み込まれて繰り返し実行される。従って、第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53が正常であるときに、相対角差θcaと相対角差θcbとに基づいて操舵ハンドル11の中立位置と操舵角θが算出される。
操舵角θの算出に当たっては、相対角差θcaと相対角差θcbとの大小関係から操舵ハンドル11の左右の操舵領域を判別し、操舵角の大きさ|θ|については相対角差θcaから算出する。
【0069】
操舵角θは、相対角差θcbを用いても算出できるが、本実施形態においては、相対角差θcaを用いて算出する。この理由は、相対角差θcaを用いたほうが操舵角θの検出精度が高いためである。相対角差θcaは、図8に示すように、相対角差θcbに比べて、操舵角θに対する変化量が大きい。この例では、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転するあいだに、相対角差θcbでは電気角で2π変化するのに対して、相対角差θcaにおいては電気角で4πの変化が得られる。従って、相対角差θcaを用いたほうが検出精度が向上する。
【0070】
また、操舵ハンドル11の中立位置の検出については、相対角差θcbを用いても算出できるが、本実施形態においては、相対角差θcaを用いて算出する。この理由は、相対角差θcaを用いたほうが、その検出が容易であるためである。
相対角差θcbを用いて中立位置を検出する場合には、相対角差θcbが、右操舵限界角度+θmaxにおける値「2π」の半分、つまり、「π」となったことを検出すればよい。しかし、相対角差θcbは、操舵角θの変化に比例して緩やかに変化するため、その中立位置の判定が難しい。
【0071】
一方、相対角差θcaは、中立位置において、その値が大きく変動する。つまり、操舵ハンドル11が回転操作されて中立位置を通過するとき、相対角差θcaは、「2π」から「0」に(右方向に操舵したとき)、あるいは「0」から「2π」に(左方向に操舵したとき)大きく変動する。従って、相対角差θcaの大きな変化を検出したときに中立位置の通過を判断できる。例えば、直前回に検出した相対角差θca(n-1)と今回検出した相対角差θca(n)とを比較して、その差の絶対値|θca(n-1)−θca(n)|が所定値(例えば、π)以上あるときに中立位置を通過したと判断することができる。従って、相対角差θcbを用いる場合に比べて、中立位置通過時の大きな出力変動量を得ることができ、中立位置検出が容易となる。
【0072】
尚、この第1絶対舵角算出ルーチンにおいて、相対角差θcbに代えて、相対角θbから相対角θaを減算した相対角差θba(θb−θa)を用いても良い。操舵角θに対する相対角差θbaの特性は、図8に示すように、操舵角θに対する相対角差θcbの特性と全く同じになるからである。
【0073】
次に、第2絶対舵角算出ルーチンについて説明する。
この第2絶対舵角算出ルーチンは、第1レゾルバセンサ51のみに異常が検出されたときに実行される制御ルーチンで、図5に示すフローチャートに沿って処理される。
【0074】
この第2異常ルーチンが開始されると、絶対角検出用ECU54は、ステップS51において、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53の出力信号θb,θcを読み込む。続いて、読み込んだ信号から相対角θcが相対角θb以上であるか否かを判断し(S52)、θc≧θbである場合には(S52:YES)、θcからθbを減算した値を相対角差θcb(=θc−θb)として算出する(S53)。一方、θc<θbである場合には(S52:NO)、θcからθbを減算し2πを加算した値を相対角差θcb(=θc−θb+2π)として算出する(S34)。
【0075】
図8に示すように、操舵ハンドル11を左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、第2レゾルバセンサ52は(n+1)回の鋸歯形状信号θbを出力し、第3レゾルバセンサ53は(n+2)回の鋸歯形状信号θcを出力する。
従って、両レゾルバセンサ52,53の信号出力の位相差を、相対角θcと相対角θbとの差である相対角差θcbにより表すことができるが、途中で両者の大小関係が逆転する。そこで、相対角θcと相対角θbとの大小関係が逆転する場合(θc<θb)には、相対角差に2πを加算して相対角差θcbとしている。
【0076】
続いて、ステップS53あるいはS54において算出した相対角差θcbに基づいて操舵角θを算出する(S55)。この操舵角θの算出は、図12に示す操舵角θテーブルを参照して行う。この操舵角θテーブルは、絶対角検出用ECU54のROM内に記憶され、操舵ハンドル11の操舵角θと相対角差θcbとを関係付けたものである。
尚、操舵角θは、関数を用いて算出してもよい。例えば、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する回転角度を2・θmaxとすると、相対角差θcbは、操舵ハンドル11が2・θmax回転する間に電気角で2π変化する。従って、操舵角θは次式のように算出することができる。
θ=θmax・θcb/π
【0077】
絶対角検出用ECU54は、ステップS55にて操舵角θを算出すると、次のステップS56において、操舵角θ(絶対舵角θ)を表す舵角検出信号を操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力し、本制御ルーチンを終了する。
【0078】
本第2絶対舵角算出ルーチンは、図3にて示す絶対舵角算出ルーチンに組み込まれて第1レゾルバセンサ51の異常時に繰り返し実行される。従って、第1レゾルバセンサ51が故障した場合であっても、第2レゾルバセンサ52、第3レゾルバセンサ53による相対角差θcbに基づいて操舵角θが算出される。
【0079】
次に、第3絶対舵角算出ルーチンについて説明する。
この第3絶対舵角算出ルーチンは、第3レゾルバセンサ53のみに異常が検出されたときに実行される制御ルーチンで、図6に示すフローチャートに沿って処理される。
【0080】
この第3異常ルーチンが開始されると、絶対角検出用ECU54は、ステップS61において、第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52の出力信号θa,θbを読み込む。続いて、読み込んだ信号から相対角θbが相対角θa以上であるか否かを判断し(S62)、θb≧θaである場合には(S62:YES)、θbからθaを減算した値を相対角差θba(=θb−θa)として算出する(S63)。一方、θb<θaである場合には(S62:NO)、θbからθaを減算し2πを加算した値を相対角差θba(=θb−θa+2π)として算出する(S64)。
こうして算出される相対角差θbaは、図8に示すように、操舵ハンドル11を左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転したときに、操舵角θの増加に比例して「0」から「2π」まで直線的に増加する。
【0081】
続いて、ステップS63あるいはS64において算出した相対角差θbaに基づいて操舵角θを算出する(S65)。この操舵角θの算出は、図12に示す操舵角θテーブルを参照して行う。この操舵角θテーブルは、絶対角検出用ECUのROM内に記憶され、操舵ハンドル11の操舵角θと相対角差θbaとを関係付けたものである。
尚、操舵角θは、関数を用いて算出してもよい。例えば、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する回転角度を2・θmaxとすると、相対角差θbaは、操舵ハンドル11が2・θmax回転する間に電気角で2π変化する。従って、操舵角θは次式のように算出することができる。
θ=θmax・θba/π
【0082】
絶対角検出用ECU54は、ステップS65にて操舵角θを算出すると、次のステップS66において、操舵角θ(絶対舵角θ)を表す舵角検出信号を操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力し、本制御ルーチンを終了する。
【0083】
本第3絶対舵角算出ルーチンは、図3にて示す絶対舵角算出ルーチンに組み込まれて第3レゾルバセンサ53の異常時に繰り返し実行される。従って、第3レゾルバセンサ53が故障した場合であっても、第1レゾルバセンサ51、第2レゾルバセンサ52による相対角差θbaに基づいて操舵角θが算出される。
【0084】
次に、第4絶対舵角算出ルーチンについて説明する。
この第4絶対舵角算出ルーチンは、第2レゾルバセンサ52のみに異常が検出されたときに実行される制御ルーチンで、図7に示すフローチャートに沿って処理される。
【0085】
この第4異常ルーチンが開始されると、絶対角検出用ECU54は、ステップS71において、第1レゾルバセンサ51、第3レゾルバセンサ53の出力信号θa,θcを読み込む。続いて、読み込んだ信号から相対角θcが相対角θa以上であるか否かを判断し(S72)、θc≧θaである場合には(S72:YES)、θcからθaを減算した値を相対角差θca(=θc−θa)として算出する(S73)。一方、θc<θaである場合には(S72:NO)、θcからθaを減算し2πを加算した値を相対角差θca(=θc−θa+2π)として算出する(S74)。
【0086】
続いて、絶対角検出用ECU54は、ステップS73あるいはS74において算出した相対角差θcaに基づいて操舵角の大きさ|θ|を算出する(S75)。
この操舵角の大きさ|θ|は、操舵ハンドル11が左操舵領域に位置するときは左操舵限界位置−θmaxからの回転角度を表し、操舵ハンドル11が右操舵領域に位置するときは中立位置からの回転角度を表す。
この操舵角の大きさ|θ|の算出については、図4の第1絶対舵角算出ルーチンにおけるステップS43,S46と同様に、図11に示す操舵角|θ|テーブルを参照して、あるいは関数を用いて算出する。
【0087】
続いて、絶対角検出用ECU54は、ステップS76において、相対角差θcaの値が「2π」から「0」側に変化したか否かを判断する。つまり、図8に示すように相対角差θcaの値は、操舵角θに対して鋸歯形状の周期波信号となるが、この波形頂点となる値「2π」から波形谷部となる値「0」側に変化したか否かを判断する。例えば、図8の相対角差θcaの信号波形において、点Aが波形頂点、点Bが波形谷部となる。この場合、直前回検出した相対角差θca(n-1)と今回検出した相対角差θca(n)との関係から、波形頂点Aの通過を判断する。
【0088】
左操舵領域に位置する操舵ハンドル11が右方向に回転して右操舵領域に入った場合には、図8の矢印a1にて示すように、相対角差θcaは、波形頂点Aを通過するときに2π減少する。そこで、本実施形態においては、例えば、直前回検出した相対角差θca(n-1)に対して、今回検出した相対角差θca(n)の値が所定値(例えば、π)以上減少した場合に、相対角差θcaの値が「2π」から「0」側に変化したと判断する。
この場合には、操舵ハンドル11が左操舵領域から右操舵領域に入ったと判断して、フラグSIGを「1」に設定する。
【0089】
一方、ステップS76において、相対角差θcaの値が「2π」から「0」側に変化していないと判断された場合には(S76:NO)、次に、ステップS78の判断処理を行う。このステップS78においては、相対角差θcaの値が「0」から「2π」側に変化したか否かを判断する。つまり、相対角差θcaの値を表す鋸歯形状の出力信号が、その波形谷部Bとなる値「0」から波形頂点Aとなる値「2π」側に変化したか否かを判断する。
【0090】
この場合においても、直前回検出した相対角差θca(n-1)と今回検出した相対角差θca(n)との関係から、波形頂点Aの通過を判断する。
右操舵領域に位置する操舵ハンドル11が左方向に回転して左操舵領域に入った場合には、図8の矢印a2にて示すように、相対角差θcaは、波形谷部Bを通過するときに2π増大する。そこで、本実施形態においては、例えば、直前回検出した相対角差θca(n-1)に対して、今回検出した相対角差θca(n)の値が所定値(例えば、π)以上増大した場合に、相対角差θcaの値が「0」から「2π」側に変化したと判断する。
この場合には、操舵ハンドル11が右操舵領域から左操舵領域に入ったと判断して、フラグSIGを「0」に設定する。
ステップS76およびステップS78の判断が「NO」の場合には、フラグSIGの設定処理は行わない。
【0091】
次に、絶対角検出用ECU54は、ステップS80に処理を進める。このステップS80においては、フラグSIGが「1」に設定されているか否かを判断する。フラグSIG=1である場合には(S80:YES)、ステップS81において、操舵ハンドル11の操舵角θ(絶対舵角)を次式のように算出する。
θ=|θ|
この場合、操舵ハンドル11が右操舵領域に位置するため、操舵角の大きさ|θ|は、そのまま操舵ハンドル11の操舵角θとして設定される。
【0092】
一方、ステップS80において「NO」と判断された場合、つまり、フラグSIG=0の場合には、操舵ハンドル11が左操舵領域に位置するため、ステップS82において、操舵ハンドル11の操舵角θ(絶対舵角)を次式のように算出する。
θ=|θ|−θmax
この場合、操舵ハンドル11が左操舵領域に位置するため、操舵角の大きさ|θ|から左操舵限界角度(−θmax)を減算した値が、操舵ハンドル11の操舵角θとして設定される。
【0093】
絶対角検出用ECU54は、ステップS81あるいはステップS82にて操舵角θを算出すると、次にステップS83において、操舵角θ(絶対舵角θ)を表す舵角検出信号を操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力し、本制御ルーチンを終了する。
【0094】
本第4絶対舵角算出ルーチンは、図3にて示す絶対舵角算出ルーチンに組み込まれて第2レゾルバセンサ52の異常時に繰り返し実行される。従って、第2レゾルバセンサ52が故障した場合であっても、第1レゾルバセンサ51、第3レゾルバセンサ53による相対角差θcaに基づいて操舵角θが算出される。
【0095】
尚、この本第4絶対舵角算出ルーチンにおいて、ステップS76あるいはステップS78にて相対角差θcaの変化(「2π」から「0」、あるいは、「0」から「2π」)を検出したときに、中立位置信号を操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力するようにしてもよい。
【0096】
以上本実施形態の車両の操舵装置によれば、3つのレゾルバセンサ51,52,53の出力信号からの相対角差θba,θcb,θcaに基づいて操舵角θおよび中立位置を算出するため、その算出が容易である。しかも、操舵量の変化に対して変動量の大きな相対角差θcaを用いて操舵角θを算出するため、操舵角検出精度が極めて高いものとなる。
また、操舵ハンドル11の中立位置の検出に当たっては、相対角差θcaの値に基づいている(θca=0)ため、その検出が容易である。つまり、相対角差θcaは、操舵ハンドル11の操舵位置が中立位置を通過すると、「0」から「2π」、あるいは、「2π」から「0」に大きく変動する。従って、この相対角差θcaの大きな変動を検出したときに、操舵ハンドル11が中立位置にある(操舵角θ=0)と判定しているため、その検出が容易であり検出精度も高い。
【0097】
また、こうした絶対舵角θおよび中立位置は、車両が運転状態にあるときに常時算出されるため、運転停止後、次回の運転走行まで記憶しておく必要がない。従って、電源バッテリが外された場合を想定した構成を新たに設ける必要がなく低コストにて実施することができる。また、記憶装置の暗電流の消費を低減することができる。更に、従来装置のように、製造工程に中立位置を記憶させる必要がないため、製造工数を低減することができる。
【0098】
更に、車両運転途中においてレゾルバセンサの1つが故障しても、他のレゾルバセンサにより操舵角θを算出するため、操舵反力用ECU60による操舵反力制御、および、前輪転舵用ECU70による前輪転舵制御を継続することができる。
また、第1〜第4絶対舵角算出処理を制御プログラムとして記憶し、レゾルバセンサの故障状況に応じて処理を選択するため、故障状況にあった最適な絶対舵角算出処理を行うことができる。
また、車両の起動時からレゾルバセンサが一つでも故障している場合には、電磁クラッチ32,33の作動により操舵入力軸12と操舵出力軸24とを連結するため、操舵ハンドル11の回動操作により左右前輪FW1,FW2を直接転舵することができる。
これらの結果、ステアバイワイヤ方式の操舵装置の信頼性を向上することができ、車両の安全性向上を図ることができる。
【0099】
以上、本発明の回転角検出装置の実施形態として操舵装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0100】
尚、本実施形態における相対角差θbaおよび相対角差θcbが本発明の第1電気角に相当し、本実施形態における相対角差θcaが本発明の第2電気角に相当する。また、本実施形態における絶対角検出用ECU54が行う絶対舵角算出ルーチンにおけるステップS33,S34,S53,S54,S63,S64の処理が本発明の第1電気角算出手段に相当し、本実施形態における絶対角検出用ECU54が行う絶対舵角算出ルーチンにおけるステップS36,S37,S73,S74の処理が本発明の第2電気角算出手段に相当する。また、本実施形態における絶対角検出用ECU54が行う絶対舵角算出ルーチンにおけるステップS38〜S47の処理が本発明の絶対舵角算出手段に相当する。
また、本実施形態における絶対角検出用ECU54が行う絶対舵角算出ルーチンにおけるステップS21,S23,S25,S27の処理が本発明の異常検出手段に相当する。また、本実施形態における絶対角検出用ECU54が行う操舵角算出ルーチンにおけるステップS55,S65,S75〜S82の処理が本発明の異常時絶対舵角算出手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の一実施形態としての操舵角検出装置を備えた車両の操舵装置の全体概略図である。
【図2】初期制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図3】絶対舵角算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図4】第1絶対舵角算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図5】第2絶対舵角算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図6】第3絶対舵角算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図7】第4絶対舵角算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図8】相対角、絶対舵角、相対角差を表す説明図である。
【図9】操舵角から目標操舵反力を算出するための操舵反力テーブルを表す説明図である。
【図10】操舵角から目標前輪転舵角を算出するための転舵角テーブルを表す説明図である。
【図11】相対角差から操舵角の大きさ|θ|を算出するための操舵角|θ|テーブルを表す説明図である。
【図12】相対角差から操舵角θを算出するための操舵角θテーブルを表す説明図である。
【符号の説明】
【0102】
10…操舵操作装置、11…操舵ハンドル、12…操舵入力軸、13…操舵反力用電動モータ、20…転舵装置、22…転舵用電動モータ、24…転舵出力軸、40…電気制御装置、50…操舵角検出装置、51…第1レゾルバセンサ、51s…第1レゾルバ、51c…第1相対角検出回路、52…第2レゾルバセンサ、52s…第2レゾルバ、52c…第2相対角検出回路、53…第3レゾルバセンサ、53s…第3レゾルバ、53c…第3相対角検出回路、54…絶対角検出用ECU、θ…操舵角(絶対舵角)、θa,θb,θc…相対角、θba,θcb,θca…相対角差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左操舵限界位置から右操舵限界位置まで操舵部材が操舵されるとn回の周期波形信号を出力する第1レゾルバセンサと、
左操舵限界位置から右操舵限界位置まで操舵部材が操舵されると(n+1)回の周期波形信号を出力する第2レゾルバセンサと、
左操舵限界位置から右操舵限界位置まで操舵部材が操舵されると(n+2)回の周期波形信号を出力する第3レゾルバセンサと、
上記第1レゾルバセンサの信号出力値と上記第2レゾルバセンサの信号出力値との差、あるいは、上記第2レゾルバセンサの信号出力値と上記第3レゾルバセンサの信号出力値との差に基づいて、上記左操舵限界位置から右操舵限界位置までの操舵可能範囲において操舵角の変化に対して1つのピーク値が現れる特性を有する第1電気角を算出する第1電気角算出手段と、
上記第1レゾルバセンサの信号出力値と上記第3レゾルバセンサの信号出力値との差に基づいて、上記左操舵限界位置から右操舵限界位置までの操舵可能範囲において操舵角の変化に対して2つのピーク値が現れる特性を有する第2電気角を算出する第2電気角算出手段と、
上記第1電気角算出手段により算出された第1電気角と、上記第2電気角算出手段により算出された第2電気角とに基づいて、上記操舵部材の中立位置と絶対舵角とを算出する絶対舵角算出手段と
を備えたことを特徴とする操舵角検出装置。
【請求項2】
上記絶対舵角算出手段は、上記第1電気角の値が零でなく、かつ、上記第2電気角の値が零となったとき、上記操舵部材が中立位置にあると判定することを特徴とする請求項1記載の操舵角検出装置。
【請求項3】
上記絶対舵角算出手段は、上記第1電気角と上記第2電気角との大小関係に基づいて上記操舵部材の操舵位置が右操舵領域にあるいか左操舵領域にあるかを判定し、その領域判定結果と上記第2電気角の値とに基づいて上記絶対舵角を算出することを特徴とする請求項1または請求項2記載の操舵角検出装置。
【請求項4】
上記第1レゾルバセンサと第2レゾルバセンサと第3レゾルバセンサの異常を検出する異常検出手段と、
上記3つのレゾルバセンサのうち1つのレゾルバセンサの異常が検出されたとき、異常が検出されていない2つのレゾルバセンサの信号出力値の差に基づいて、上記操舵部材の絶対舵角を算出する異常時絶対舵角算出手段と
を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項記載の操舵角検出装置。
【請求項5】
異常時絶対舵角算出手段は、上記第2レゾルバセンサの異常が検出されたとき、上記第2電気角算出手段により算出される第2電気角の推移に基づいて、上記操舵部材の操舵位置が右操舵領域にあるいか左操舵領域にあるかを判定し、その領域判定結果と上記第2電気角の値とに基づいて上記絶対舵角を算出することを特徴とする請求項4記載の操舵角検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−333657(P2007−333657A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168231(P2006−168231)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】