説明

改善された溶液処理方法による有機半導体膜の性能特性の向上

共役ポリマー膜の特性を向上させる改善された処理方法、ならびに前記方法によって製造される向上した共役ポリマー膜を開示する。共役ポリマー膜の形成に使用される溶液に低分子量アルキル含有分子を添加すると、光伝導性が向上するほか、他の電子特性も改善される。向上した共役ポリマー膜は、太陽電池およびフォトダイオードなどの種々の電子デバイスで使用することができる。本発明は、光伝導性、電荷輸送、太陽光変換効率および/または光起電力効率である膜の性能特性を向上させるために、共役ポリマー膜などの有機半導体膜を改良する方法に関する。一実施形態において、本発明は、性能特性を向上させるために、有機半導体膜の内部構造および形態を改良することを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2006年12月1日に出願された米国仮特許出願第60/872,221号、2007年3月23日に出願された米国仮特許出願第60/919,602号、および2007年5月16日に出願された米国仮特許出願第60/938,433号の優先権利益を主張する。これらの仮特許出願の全体の内容は、ここによって本明細書中に参考として援用される。
【0002】
政府援助による研究または開発に関する陳述
本発明は、研究過程において部分的に、米国エネルギー省からの奨学金番号DE−FG02−06ER46324およびDE−FG24−04NT42277、米国海軍省のthe Office of Naval Researchからの奨学金番号N−00014−04−0411の下、ならびに米国国防省からのNDSEG特別奨学金の下、なされた。米国政府は本発明における一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本願は、ポリマー系電子デバイスに関し、具体的には有機光検出器、太陽電池および薄膜トランジスタに使用されるような有機半導体膜の特性を向上させる溶液処理方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
太陽電池は、広範な地域で実現することができる再生可能エネルギー資源を提供する。しかし、太陽電池は、エネルギー生産のごくわずかな比率を占めるにすぎない(例えば、米国の2005年の太陽エネルギーは、光起電力エネルギーと太陽熱エネルギーの両方を含めも、エネルギー生産の0.065%を占めるにすぎない)。最も一般的な種類の光起電力電池はシリコンから製造されるが、これらの製造に必要となる高純度シリコンを調製することは、経済的な観点からも、シリコンを純化するのに必要となるエネルギー入力の点からも高くつく。従って、シリコン系太陽電池は、主に遠隔地、または環境的持続可能性が無機太陽電池のコストよりも重要である市場で使用される。
【0005】
ポリマー系太陽電池などの有機薄膜系太陽電池は、高コストの無機太陽電池の代替品として多くの研究の対象とされてきた。これらの太陽電池は、典型的には、光子によって生成された電子正孔対(励起子)が分離し、電流を生成することを可能にする電子供与体物質および電子受容体物質で作製される。一方の物質(例えば、供与体)の層を他方の物質(例えば、受容体)の上に形成して、二層間に平面ヘテロ接合を形成することによって、供与体と受容体の間に接合を作ることができる。平面二層ヘテロ接合は、電荷分離が生じるための面積を比較的小さくするため、種々の形態が調査されてきた。供与体物質と受容体物質の相互浸入網を使用することができるが、これらは、二層ヘテロ接合における拡散界面からバルク接合にまで及び、供与体物質と受容体物質とが混合されて、多成分活性層を形成する。
【0006】
バルクヘテロ接合(BHJ)太陽電池は、共役ポリマーとフラーレン誘導体とを含有する混合物から作製することができ、光検出器や太陽電池などの安価な軟質光伝導デバイスを生成して、シリコン系デバイスのコスト制限を回避する可能性を有する。このようなプラスチック太陽電池の大きな利点には、溶液から処理できることがあり、この特徴により、ポリマー系デバイスは小分子系有機光起電力電池よりも経済的存続可能性の高いものになると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の開示
本発明は、光伝導性、電荷輸送、太陽光変換効率および/または光起電力効率である膜の性能特性を向上させるために、共役ポリマー膜などの有機半導体膜を改良する方法に関する。一実施形態において、本発明は、性能特性を向上させるために、有機半導体膜の内部構造および形態を改良することを包含する。一実施形態において、共役ポリマー膜は、バルクヘテロ接合(BHJ)膜であり、本発明は、BHJ膜、またはBHJ膜から作製されるデバイスの光伝導性、電荷輸送、太陽光変換効率および/または光起電力効率を向上または増大させる方法に関する。別の実施形態において、本発明は、光伝導性、電荷輸送、太陽光変換効率および/または光起電力効率が向上または増大した膜を包含する。本発明はまた、本明細書に開示される方法に従って処理される有機半導体膜、共役ポリマー膜および/またはバルクヘテロ接合膜を組み込む電子デバイスにも関する。
【0008】
別の実施形態において、本発明は、膜の形成前に、膜の形成に使用される溶液に処理添加剤を添加することによって、有機半導体膜、共役ポリマー膜および/またはバルクヘテロ接合膜を改良する方法を包含する。
【0009】
一実施形態において、本発明は、有機半導体膜の光伝導性、電荷輸送、太陽光変換効率または光起電力効率を増大させる方法であって、一定量の1つ以上の低分子量アルキル含有分子を1つ以上の有機半導体の溶液に添加するステップと、該溶液から有機半導体膜を形成するステップとを含む方法に関する。
【0010】
一実施形態において、1つ以上の低分子量アルキル含有分子は、アルカン、アルコールおよびアルキルチオールから選択される。別の実施形態において、低分子量アルキル含有分子は、C〜C20アルカンから選択される。別の実施形態において、低分子量アルキル含有分子は、C〜C20アルコールから選択される。別の実施形態において、低分子量アルキル含有分子は、C〜C20アルカンチオールから選択される。
【0011】
一実施形態において、1つ以上の低分子量アルキル含有分子は、約0.1%v/v〜約10%v/vの量で、共役ポリマー膜の形成に使用される溶液中に存在する。
【0012】
有機半導体膜は共役ポリマー膜を含むことができる。共役ポリマー膜は電子供与体の役割を果たすこともできれば、あるいは共役ポリマー膜は電子受容体の役割を果たすこともできる。共役ポリマー膜が電子供与体の役割を果たす場合、有機半導体膜はさらに有機電子受容体も含むことができ、共役ポリマー膜が電子受容体の役割を果たす場合、有機半導体膜はさらに有機電子供与体も含むことができる。有機電子供与体および/または有機電子受容体は、第2の共役ポリマー膜であってよい。
【0013】
一実施形態において、共役ポリマー膜の電子供与体は、ポリアセチレン、ポリフェニレン、アルキルが6〜16個の炭素であるポリ(3−アルキルチオフェン)(P3AT)、ポリ−(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリ[2,6−(4,4−ビス−(2−エチルヘキシル)−4H−シクロペンタ[2,1−b;3,4−b’]−ジチオフェン)−alt−4,7−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)](PCPDTBT)、ポリフェニルアセチレン、ポリジフェニルアセチレン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)およびこれらのアルコキシ誘導体、ポリ(2−メトキシ,5−(2’−エチル−ヘキシルオキシ)−p−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)、ポリ(2,5−ジメトキシ−p−フェニレンビニレン)(PDMPV)、ポリチオフェン、ポリ(チエニレンビニレン)、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)、ポリポルフィリン、大環状ポルフィリン、チオール誘導ポリポルフィリン、ポリメタロセン、ポリフェロセン、ポリフタロシアニン、ポリビニレン、ポリフェニルビニレン、ポリシラン、ポリイソチアナフタレンまたはポリチエニルビニレンからなる群から選択されるポリマーを含む。別の実施形態において、共役ポリマー膜の電子供与体は、前述の物質の1つ以上の誘導体を含むことができる。別の実施形態において、共役ポリマー膜の電子供与体は、前述の物質の2つ以上の混合物または組み合わせを任意の割合で含むことができる。
【0014】
有機電子受容体は、式:
【0015】
【化1】

(式中、「フラーレン」として示される円は、C60、C70またはC84フラーレン成分から独立して選択され、Arは独立して、場合により置換され得るフェニルまたはチエニルであり、Rは独立してC〜C12アルキルであり、Rは独立して−O−C〜C12アルキルまたは−O−C〜C12アルキル−SHである)
の化合物から選択されるフラーレン誘導体などのフラーレン誘導体であってよい。一実施形態において、フラーレン誘導体はC61−PCBMである。別の実施形態において、フラーレン誘導体はC71−PCBMである。
【0016】
有機半導体膜が共役ポリマー電子供与体/フラーレン誘導体電子受容体を含む一実施形態において、ポリマーとフラーレン誘導体の比率は、約5:1〜1:10、約2:1〜1:5、好ましくは約1:1〜1:5、より好ましくは約1:2〜1:4または約1:2〜1:3の範囲であってよい。他の実施形態において、ポリマー濃度は、約0.01重量%〜10重量%の溶液、約0.1重量%〜10重量%の溶液、約0.1重量%〜5重量%の溶液、約0.5重量%〜5重量%の溶液、約0.5重量%〜3重量%の溶液、約0.1重量%〜3重量%の溶液、約0.5重量%〜2重量%の溶液、約0.5重量%〜1重量%の溶液、または約0.8重量%〜1重量%の溶液であってよい。
【0017】
有機半導体膜は、電子正孔対を分離させるいずれかの形態で作製することができる。一実施形態において、有機半導体膜は、平面二層の形態で共役ポリマー膜の電子供与体および有機電子受容体から作製される。別の実施形態において、有機半導体膜は、拡散界面を有する二層の形態で共役ポリマー膜の電子供与体および有機電子受容体から作製される。別の実施形態において、有機半導体膜は、バルクヘテロ接合の形態で共役ポリマー膜の電子供与体および有機電子受容体から作製される。
【0018】
任意の形態の有機半導体膜、または共役ポリマー膜は、回転成形法(spin−casting)、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、逐次回転成形法、ラングミュア−ブロジェット膜の形成、静電気吸着法、および/または溶液への基材の浸漬によって形成することができる。その後の処理ステップは、場合により減圧および/または高温下で溶媒を蒸発させて膜を形成すること、ならびに堆積した膜を熱焼鈍することを含むことができる。一実施形態において、膜が回転成形法によって形成される場合、回転速度は、約500〜2000RPM、または約1200RPM〜1600RPMの範囲であってよい。
【0019】
有機半導体膜の形成に使用される溶媒は、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、キシレン、α,α,α−トリクロロトルエン、メチルナフタレン、クロロナフタレンまたはこれらの混合物から選択することができる。ジクロロベンゼンは、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、または任意の割合のこれらの混合物を含むことができる。メチルナフタレンは、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、または任意の割合のこれらの混合物を含むことができる。クロロナフタレンは、1−クロロナフタレン、2−クロロナフタレン、または任意の割合のこれらの混合物を含むことができる。
【0020】
一実施形態において、本発明は、本発明の方法に従って作製される有機半導体膜を包含する。別の実施形態において、本発明は、本発明の方法に従って作製される有機半導体膜から形成される電子デバイスを包含する。これらのデバイスには、太陽電池、光起電力電池、光検出器、フォトダイオードまたはフォトトランジスタが含まれるが、これらに限定されない。本発明による電子デバイスは、第1の電極と、第1の面および第2の面を有する有機半導体膜であって、有機半導体膜の第1の面が第1の電極と接触し、一定量の1つ以上の低分子量アルキル含有分子を、有機半導体膜の形成に使用される溶液に添加することによって膜が形成される有機半導体膜と、有機半導体膜の第2の面と接触する第2の電極とを含むことができる。該デバイスの有機半導体膜は、共役ポリマー膜を含むことができる。第1の電極および第2の電極は、異なる仕事関数を有することができる。一実施形態において、第1の電極は高仕事関数の物質であってよく、第2の電極は低仕事関数の物質であってよい。
【0021】
別の実施形態において、本発明は、有機半導体膜の光伝導性、電荷輸送、太陽エネルギー変換効率または光起電力効率を増大させる方法であって、一定量の1つ以上の低分子量アルキル含有分子を1つ以上の有機半導体の溶液に添加するステップと、該溶液から有機半導体膜を形成するステップと、該溶液から有機半導体膜を形成するステップとを含み、低分子量アルキル含有分子が、アルデヒド基、ジオキソ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、チオール基、チオアルキル基、カルボン酸基、エステル基、アミン基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ハロゲン化物基、フッ化物基、塩化物基、臭化物基、ヨウ化物基、ニトリル基、エポキシド基、芳香族基およびアリールアルキル基から選択される1つ以上の置換基で置換されるC〜C20アルカンからなる群から選択されるが、但し、チオール基またはヒドロキシ基の置換基が存在する場合は、少なくとも1つの独立して選択されるさらなる置換基も存在しなければならず、かつジ−ハロ置換化合物が低分子量アルキル含有分子から除外されることを条件とする、方法を包含する。別の実施形態において、ポリ−ハロ置換化合物は、低分子量アルキル含有分子から除外される。別の実施形態において、モノ−ハロ置換化合物は、低分子量アルキル含有分子から除外される。
【0022】
一実施形態において、低分子量アルキル含有分子は、少なくとも1つのヒドロキシ基および少なくとも1つのチオール基で置換されるC〜C20アルカンから選択される。別の実施形態において、1つ以上の低分子量アルキル含有分子は、C〜C20ジチオアルカンから選択され、C〜C20ジチオアルカンは、アルファ,オメガ置換されてもよい。別の実施形態において、低分子量アルキル含有分子は、C〜C20ヨードアルカンから選択される。
【0023】
一実施形態において、1つ以上の低分子量アルキル含有分子は、約0.1%v/v〜約10%v/vの量で、共役ポリマー膜の形成に使用される溶液中に存在する。
【0024】
有機半導体膜は共役ポリマー膜を含むことができる。共役ポリマー膜は電子供与体の役割を果たすこともできれば、あるいは共役ポリマー膜は電子受容体の役割を果たすこともできる。共役ポリマー膜が電子供与体の役割を果たす場合、有機半導体膜はさらに有機電子受容体も含むことができ、共役ポリマー膜が電子受容体の役割を果たす場合、有機半導体膜はさらに有機電子供与体も含むことができる。有機電子供与体および/または有機電子受容体は、第2の共役ポリマー膜であってよい。
【0025】
一実施形態において、共役ポリマー膜の電子供与体は、ポリアセチレン、ポリフェニレン、アルキルが6〜16個の炭素であるポリ(3−アルキルチオフェン)(P3AT)、ポリ−(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリ[2,6−(4,4−ビス−(2−エチルヘキシル)−4H−シクロペンタ[2,1−b;3,4−b’]−ジチオフェン)−alt−4,7−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)](PCPDTBT)、ポリフェニルアセチレン、ポリジフェニルアセチレン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)およびこれらのアルコキシ誘導体、ポリ(2−メトキシ,5−(2’−エチル−ヘキシルオキシ)−p−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)、ポリ(2,5−ジメトキシ−p−フェニレンビニレン)(PDMPV)、ポリチオフェン、ポリ(チエニレンビニレン)、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)、ポリポルフィリン、大環状ポルフィリン、チオール誘導ポリポルフィリン、ポリメタロセン、ポリフェロセン、ポリフタロシアニン、ポリビニレン、ポリフェニルビニレン、ポリシラン、ポリイソチアナフタレンまたはポリチエニルビニレンを含む。別の実施形態において、共役ポリマー膜の電子供与体は、前述の物質の1つ以上の誘導体を含むことができる。別の実施形態において、共役ポリマー膜の電子供与体は、前述の物質の2つ以上のブレンドまたは組み合わせを任意の割合で含むことができる。
【0026】
有機電子受容体は、式:
【0027】
【化2】

(式中、「フラーレン」として示される円は、C60、C70またはC84フラーレン成分から独立して選択され、Arは独立して、場合により置換されてよいフェニルまたはチエニルであり、Rは独立してC〜C12アルキルであり、Rは独立して−O−C〜C12アルキルまたは−O−C〜C12アルキル−SHである)
の化合物から選択されるフラーレン誘導体などのフラーレン誘導体であってよい。一実施形態において、フラーレン誘導体はC61−PCBMである。別の実施形態において、フラーレン誘導体はC71−PCBMである。
【0028】
有機半導体膜が共役ポリマー電子供与体/フラーレン誘導体電子受容体を含む一実施形態において、ポリマーとフラーレン誘導体の比率は、約5:1〜1:10、約2:1〜1:5、好ましくは約1:1〜1:5、より好ましくは約1:2〜1:4または約1:2〜1:3であってよい。他の実施形態において、ポリマー濃度は、約0.01重量%〜10重量%の溶液、約0.1重量%〜10重量%の溶液、約0.1重量%〜5重量%の溶液、約0.5重量%〜5重量%の溶液、約0.5重量%〜3重量%の溶液、約0.1重量%〜3重量%の溶液、約0.5重量%〜2重量%の溶液、約0.5重量%〜1重量%の溶液、または約0.8重量%〜1重量%の溶液であってよい。
【0029】
有機半導体膜は、電子正孔対を分離させるいずれかの形態で作製することができる。一実施形態において、有機半導体膜は、平面二層の形態で共役ポリマー膜の電子供与体および有機電子受容体から作製される。別の実施形態において、有機半導体膜は、拡散界面を有する二層の形態で共役ポリマー膜の電子供与体および有機電子受容体から作製される。別の実施形態において、有機半導体膜は、バルクヘテロ接合の形態で共役ポリマー膜の電子供与体および有機電子受容体から作製される。
【0030】
任意の形態の有機半導体膜、または共役ポリマー膜は、回転成形法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、逐次回転成形法、ラングミュア−ブロジェット膜の形成、静電気吸着法および/または溶液への基材の浸漬によって形成することができる。その後の処理ステップは、場合により減圧および/または高温下で溶媒を蒸発させて膜を形成すること、ならびに堆積した膜を熱焼鈍することを含むことができる。一実施形態において、膜が回転成形法によって形成される場合、回転速度は、約500〜2000RPM、または約1200RPM〜1600RPMの範囲であってよい。
【0031】
有機半導体膜の形成に使用される溶媒は、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、キシレン、α,α,α−トリクロロトルエン、メチルナフタレン、クロロナフタレンまたはこれらの混合物から選択することができる。ジクロロベンゼンは、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、または任意の割合のこれらの混合物を含むことができる。メチルナフタレンは、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、または任意の割合のこれらの混合物を含むことができる。クロロナフタレンは、1−クロロナフタレン、2−クロロナフタレン、または任意の割合のこれらの混合物を含むことができる。
【0032】
一実施形態において、本発明は、本発明の方法に従って作製される有機半導体膜を包含する。別の実施形態において、本発明は、本発明の方法に従って作製される有機半導体膜から形成される電子デバイスを包含する。これらのデバイスには、太陽電池、光起電力電池、光検出器、フォトダイオードまたはフォトトランジスタが含まれるが、これらに限定されない。本発明による電子デバイスは、第1の電極と、第1の面および第2の面を有する有機半導体膜であって、有機半導体膜の第1の面が第1の電極と接触し、一定量の1つ以上の低分子量アルキル含有分子を、有機半導体膜の形成に使用される溶液に添加することによって膜が形成される有機半導体膜と、有機半導体膜の第2の面と接触する第2の電極とを含み、低分子量アルキル含有分子は、アルデヒド基、ジオキソ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、チオール基、チオアルキル基、カルボン酸基、エステル基、アミン基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ハロゲン化物基、フッ化物基、塩化物基、臭化物基、ヨウ化物基、ニトリル基、エポキシド基、芳香族基およびアリールアルキル基からなる群から選択される1つ以上の置換基で置換されるC〜C20アルカンからなる群から選択されるが、但し、チオール基またはヒドロキシ基の置換基が存在する場合は、少なくとも1つの独立して選択されるさらなる置換基も存在しなければならないことを条件とする。該デバイスの有機半導体は共役ポリマー膜を含むことができる。第1の電極および第2の電極は、種々の仕事関数を有することができる。一実施形態において、第1の電極は高仕事関数の物質であってよく、第2の電極は低仕事関数の物質であってよい。
【0033】
本発明の一実施形態において、ジ−ハロ置換化合物は、低分子量アルキル含有分子から除外される。別の実施形態において、ポリ−ハロ置換化合物は、低分子量アルキル含有分子から除外される。別の実施形態において、モノ−ハロ置換化合物は、低分子量アルキル含有分子から除外される。別の実施形態において、任意のハロ置換化合物が、低分子量アルキル含有分子から除外される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ガラス基材上の膜(BHJ−NA(×印、×)、BHJ−A(アスタリスク、*)、BHJ−1%C8−NA(黒塗りの菱形、◆)およびBHJ−1%C8−A(白塗りの菱形、◇))の膜透過率を示す図である。
【図2】光伝導性に対して及ぼす、焼鈍および5%n−オクタンチオールによる濃縮(図2a)、アルキルチオール鎖長(図2b)、ならびにn−オクタンチオール濃度(図2c)の影響を示す図である。試料はアルミナ基材上のものであり、×印(×)で示されるBHJ−NA、アスタリスク(*)で示されるBHJ−A、白塗りの円(○)で示されるBHJ−5%C8−A、黒塗りの円(●)で示されるBHJ−5%C8−NA、黒塗りの正方形(■)で示されるBHJ−5%C12−A、白塗りの正方形(□)で示されるBHJ−5%C6−A、白塗りの逆三角形(▽)で示されるBHJ−0.1%C8−A、黒塗りの菱形(◆)で示されるBHJ−0.75%C8−NA、白塗りの菱形(◇)で示されるBHJ−0.75%C8−A、白塗りの三角形(△)で示されるBHJ−1%C8−A、および黒塗りの三角形(▲)で示されるBHJ−10%C8−Aからなる。
【図3】BHJ−C8−NAシリーズ(黒塗りの正方形(■)および実線)とBHJ−C8−Aシリーズ(白塗りの正方形(□)および点線)のデバイス効率の比較を示す図である。水平線は、BHJ−NAおよびBHJ−Aを使用して得られる効率である(C8は1−オクタンチオールを示す)。
【図4】0ボルト、−7.5ボルト、−15ボルト、−22.5ボルトおよび−30ボルトのゲート電圧における膜(BHJ−NA(点線)およびBHJ−5%C8−NA(実線))のトランジスタ挙動を対数スケールで示す図である。
【図5】トルエンからキャストしたP3HT/PCBM膜(BHJ−NA(×印、×)、BHJ−A(アスタリスク、*)、BHJ−0.75%C8−NA(黒塗りの菱形、◆)およびBHJ−0.75%C8−A(白塗りの菱形、◇))におけるP3HTの<100>回折ピークを強調したX線回折結果を示す図である。
【図6】膜(BHJ−NA(点線)およびBHJ−1%C8−NA(実線))の(ピーク時における)正規化した過渡光電流波形を示す図である。
【図7】クロロベンゼンからキャストしたPCPDTBTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステル(14:14mg/mL)から作製される太陽電池の電力変換率に対して及ぼす、ドデカンチオール添加剤(0%v/v、または対照の1%v/v、1.5%v/v)の影響を示す図である。
【図8】クロロベンゼンからキャストしたPCPDTBTおよびフェニル−C70酪酸メチルエステル(10:20mg/mL)から作製される太陽電池の電力変換率に対して及ぼす、ドデカンチオール添加剤(0%v/v、または対照の0.5%v/v、1%v/v、2%v/v)の影響を示す図である。
【図9】クロロベンゼンからキャストしたPCPDTBTおよびフェニル−C70酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して及ぼす、1%の種々の添加剤(ブタンチオール、オクタンチオール、1,8−オクタンジチオール、シアン化ヘプチル、1,8−ジシアノオクタン、スベリン酸1,8−ジメチル)、ならびに添加剤を含まない溶媒の影響を示す図である。
【図10】クロロベンゼンからキャストしたPCPDTBTおよびフェニル−C70酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して及ぼす、種々のジチオール添加剤(1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,9−ノナンジチオール)、ならびに添加剤を含まない溶媒の影響を示す図である。
【図11】クロロホルムからキャストしたPCPDTBTおよびフェニル−C70酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して及ぼす、2%ジチオール溶液、ならびに添加剤を含まない溶媒の回転成形法の種々の回転速度の影響を示す図である。
【図12】2%オクタンジチオールを含むクロロベンゼンと含まないクロロベンゼンからキャストしたPCPDTBTを使用して作製される太陽電池の電力変換効率に対して及ぼす、種々のフラーレン受容体の影響を示す図である。
【図13】キシレンからキャストしたPCPDTBTおよびフェニル−C70酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して及ぼす、2%1,8−オクタンジチオール、ならびに添加剤を含まない溶媒の影響を示す図である。
【図14】トルエンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、種々の添加剤(ヘキサンチオールおよびオクタンジチオール)、ならびに添加剤を含まない溶媒の影響を示す図である。
【図15】トルエンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、種々の添加剤(ヘキサンチオールおよびオクタノール)、ならびに添加剤を含まない溶媒の影響を示す図である。
【図16】トルエンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、種々の添加剤(ドデカンチオールおよびオクタンチオール)、ならびに添加剤を含まない溶媒の影響を示す図である。
【図17】トルエンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、種々の添加剤(オクタンチオールおよびウンデカン)、ならびに添加剤を含まない溶媒の影響を示す図である。
【図18】トルエンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、種々の添加剤(オクタンチオールおよびウンデカン)、ならびに添加剤を含まない溶媒の影響を示し、ウンデカンがデバイス性能に対して良い影響を及ぼすことを示す図である。
【図19】クロロベンゼンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、種々の添加剤(オクタンチオールおよびブタンチオール)、ならびに添加剤を含まない溶媒の影響を示す図である。
【図20】クロロベンゼンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、種々の添加剤(それぞれ1%のオクタノール、オクタンおよびオクタンチオール。比較のため、添加剤を含まない溶媒のみのものを左側に示す)の影響を示し、オクタノールがデバイス性能に対して良い影響を及ぼすことを示す図である。
【図21】クロロホルムからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、1%、2%および3%のドデカンチオール(比較対照として、添加剤を含まない溶媒のみのものを左側に示す)の影響を示す図である。
【図22】クロロベンゼンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、1%、2%および3%のフェニルヘキサン(比較対照として、添加剤を含まない溶媒のみのものを左側に示す)の影響を示す図である。
【図23】1,2−ジクロロベンゼンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、1%、2%および3%のドデカンチオール(比較対照として、添加剤を含まない溶媒のみのものを左側に示す)の影響を示す図である。
【図24】クロロベンゼンからキャストしたP3HTまたはポリ[3−(エチル−4−ブタノエート)チオフェン−2,5−ジイル]およびフェニル−C60酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、種々の添加剤(それぞれ1%のオクタンチオールおよびオクタンジチオール。比較対照として、添加剤を含まない溶媒のみのものを左側に示す)の影響を示す図である。
【図25】クロロベンゼンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C60酪酸メチルエステルまたはフェニル−C60酪酸ドデシルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、種々の添加剤(それぞれ1%のオクタンチオールおよびオクタンジチオール。比較対照として、添加剤を含まない溶媒のみのものを左側に示す)の影響を示す図である。
【図26】クロロベンゼンからキャストしたP3HTおよびフェニル−C70酪酸メチルエステルから作製される太陽電池の電力変換効率に対して焼鈍の前後に及ぼす、(添加剤を含まない場合と比較した)2%オクタンジチオールの影響を示す図である。
【図27】120nm(正方形)および220nm(円)にてトルエンからキャストしたP3HT:C60−PCBM膜の、焼鈍前(黒塗り)と焼鈍後(白塗り)における電力変換効率対オクタンチオール濃度の変化を示す図である。
【図28】CB(正方形)およびCB/2.5%オクタンチオール(円)からキャストしたP3HT/PCBMを有する太陽電池の、熱焼鈍前(黒塗り)と熱焼鈍後(白塗り)における電流電圧特性を示す図である。
【図29】P3HT:C60−PCBMデバイスの外部量子効率スペクトルに対して及ぼす、1%フェニルヘキサン(細線)および焼鈍(点線が焼鈍)の影響を示す図である。
【図30】クロロベンゼン(正方形)または2.5%オクタンチオールを含有するクロロベンゼン(円)からキャストしたP3HT/C−60PCBM膜におけるP3HTの、焼鈍前(黒塗り)または焼鈍後(白塗り)のいずれかにおける<100>回折ピークを強調したX線回折結果を示す図である。
【図31】1%チオール添加剤で処理した膜の電荷担体移動度が増加することを示す図である。左から右へ順に、Au、無添加、正孔;Au、オクタンチオール、正孔;Al、無添加、正孔;Al、ドデカンチオール、正孔;Al、無添加、電子;Al、ドデカンチオール、電子である。
【図32】(1%の)種々の添加剤を用いてキャストした膜の、焼鈍前(黒色棒)と後(陰影棒)における、対照と比較したピーク吸収変化を示す図である。左から右へ順に、棒の対は、対照、1−オクタンチオール、1,8−オクタンジチオール、1−オクタノール、カプリル酸メチル、スベリン酸ジメチル、シアン化ヘプチル、1,6−ジシアノヘキサンである。
【図33】(1%の)種々の添加剤を用いてキャストした膜の、焼鈍前(黒色棒)と焼鈍後(陰影棒)における、対照と比較した600nmの吸収変化を示す図である。左から右へ順に、棒の対は、対照、1−オクタンチオール、1,8−オクタンジチオール、1−オクタノール、カプリル酸メチル、スベリン酸ジメチル、シアン化ヘプチル、1,6−ジシアノヘキサンである。
【図34】クロロベンゼン(黒塗り)および1,8−オクタンジチオール(白塗り)により処理したP3HT:C60−PCBM(円)およびPCPDTBT:C70−PCBM(正方形)の定常状態の光伝導性を示す図である。
【図35】種々の溶液添加剤を使用してキャストしたPCPDTBT:C71−PCBM膜のUV−VIS吸収スペクトルを示す図である。スペクトル応答は、純粋なPCPDTBT:C71−PCBM膜(正方形)から、2.4mg/mLの1,3−プロパンジチオール(菱形)、1,4−ブタンジチオール(三角形)、1,6−ヘキサンジチオール(アスタリスク)および1,8−オクタンジチオール(円)を含むクロロベンゼンからキャストした膜へのレッドシフトを示す。
【図36】一連のPCPDTBT:C71−PCBM太陽電池のデバイスIV特性を、(80mW/cmにてシミュレートしたAM1.5G放射下における)電流密度体電圧曲線として示す図である。PCPDTBT:C71−PCBM膜は、添加剤を含まないクロロベンゼン(正方形)、ならびに2.4mg/mLのブタンジチオール(三角形)、ヘキサンジチオール(アスタリスク)またはオクタンジチオール(円)を含有するクロロベンゼンから1200RPMにてキャストした。
【図37】種々の太陽電池の入射光子変換効率を示す図である。上図(図37A)は、焼鈍前(黒塗りの正方形)と焼鈍後(白塗りの正方形)のP3HT:C61−PCBM、ならびに1,8−オクタンジチオールを含む(白塗りの円)PCPDTBT:C71−PCBMと含むまない(黒塗りの円)PCPDTBT:C71−PCBMで構成されたポリマーバルクヘテロ接合太陽電池のIPCEスペクトルを示す。参考としてAM1.5グローバル基準スペクトルを示す(線)。下図(図37B)は、1,8−オクタンジチオールで処理したもの(実線)と処理しなかったもの(点線)からなる、IPCE測定に使用した同じPCPDTBTデバイスの、100mW/cmにてシミュレートしたAM1.5G照明下における電流電圧特性を示す(Isc=16.2mA/cm、FF=0.55、およびVoc=0.62V)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の種々の実施形態を以下に記載する。本発明の特定の実施形態に関連して記載される態様は、その実施形態に必ずしも限定されるわけではなく、本発明のその他いずれの実施形態でも実践できることに留意する必要がある。例えば、以下の説明において、本発明のいくつかの実施形態は、P3HT/C61−PCBMおよびPCPDTBT−C71−PCBMなどのポリマーブレンドの実施形態を用いて記載される。また、請求される発明が他のポリマーブレンドとともに使用される場合もあることが理解されるであろう。
【0036】
高い電荷分離効率と、溶液処理に伴う作製コストの低減および軟質基材上での実装可能性とを組み合わせることにより、「プラスチック」太陽電池の有望な可能性に光が当たる。しかし、高い電力変換効率を達成するために必要とされるバルクヘテロ接合物質における供与体/受容体形態を制御する試みは、限られた成果しかあげていない。低バンドギャップポリマーとフラーレン誘導体とを含む膜を回転成形するのに使用される溶液にアルカンジチオールなどの添加剤を含めることによって、光起電力電池の電力変換効率(AM1.5G条件)が高められる。例えば、アルカンジチオールを用いると、バルクヘテロ接合形態を変化させることにより、電力変換効率が2.8%〜5.5%に高められる。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態は、ポリマー半導体とフラーレン誘導体の相分離ブレンドを主材料とする改善されたバルクヘテロ接合「プラスチック」太陽電池を包含する。ナノメートル長スケールの自己集合により、太陽放射線の吸収後に形成される移動性の担体と励起子は、再結合前にヘテロ接合に拡散し、ポリマーとフラーレンの界面で解離される。半導体ポリマーからフラーレンへの超高速電荷輸送は、電子がフラーレン網上に存在し、正孔がポリマー網上に存在する状態で、界面における電荷輸送(CT)の量子効率を1に近づける。2つの電極に異なる金属を使用することによって対称性を破壊した後、電子はより低い仕事関数の金属の方へと移動し、正孔はより高い仕事関数の金属の方へと移動する。高い電荷分離効率にもかかわらず、本質的にランダムな相互浸入網が回転成形後に形成されることに一部起因して、担体の大部分が、デバイスから抽出する前に、供与体と受容体の界面において再結合する。電極に到達する前に担体が再結合し、移動性が低いために、最適な活性層の厚さを減少させることによって、デバイス充填率(FF)と全光子集光の両方が制限される。担体の寿命は、大部分が供与体物質と受容体物質の間の相形態によって制御される。過去数年の間にポリマー系光起電力デバイスの性能が格段に進歩したものの、供与体/受容体網の形態を制御する能力が、効率の最適化に不可欠である。
【0038】
バルクヘテロ接合膜などの有機半導体膜をキャストする元となる溶液に特定の化合物を添加することによって、膜の相分離と相形態を改良できることが発見された。この手法により、後続の熱焼鈍を必要とすることなく、デバイス作製時に形態制御をバルクヘテロ接合物質に導入するできる可能性がもたらされる。
【0039】
今日までで最も効率的なバルクヘテロ接合デバイスは、高移動性半導体ポリマーであるP3HTを光供与体として利用し、可溶性フラーレン誘導体である[6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル(C61−PCBM)を受容体として利用していた。しかし、多大な努力が払われているにもかかわらず、主にP3HT吸収スペクトルと太陽光放射スペクトルとの重なりが不十分であるため、P3HT:C61−PCBM太陽電池から得られる電力変換効率は、約5%の値に制限されている。ポリ[2,6−(4,4−ビス−(2−エチルヘキシル)−4H−シクロペンタ[2,1−b;3,4−b’]−ジチオフェン)−alt−4,7−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)](PCPDTBT)などの低バンドギャップポリマーによる近赤外(NIR)での集光性が向上すれば、より高い電力変換効率が得られるはずである。PCPDTBTのエネルギーギャップ(E=1.46eV)は、太陽光起電力用途にとってほぼ理想的なものである。PCPDTBTの分子構造は、以下の通りである:
【0040】
【化3】

可視領域における吸収が大きいため、太陽光スペクトルとの重なりがC61類似体により得られるものよりも良くなることから、非対称C70フラーレンがいくつかの実施形態に選択されている。膜キャスティング後に行われる熱焼鈍または制御下の溶媒蒸発は、バルクヘテロ接合形態内における電荷分離と輸送を最適化するのに望ましいことが証明されている。しかし残念なことに、類似の方法によりPCPDTBT:C71−PCBM太陽電池の性能を向上させる試みは、成功に至っていない。本発明は、このような電池の性能を向上させる簡単かつコスト効率の高い方法を提供する。
【0041】
アルキル含有分子
本発明では種々のアルキル含有分子を使用することができる。「アルキル含有分子」は、少なくとも1つのsp混成炭素を含有し、その少なくとも1つのsp混成炭素が少なくとも2つの水素原子と結合する分子として定義される。従って、−CH−または−CHを含有する分子は、メタン(CH)と同様に、アルキル含有分子の定義の範囲内に含まれる。低分子量アルキル含有分子は、分子量が1000ダルトン以下のアルキル含有分子である。アルキル含有分子はまた、ポリマー膜を形成または堆積させるのに使用される溶液に含められなければならない。アルキル含有分子が液体である場合は、それを溶液中に混合することができ、気体である場合は、溶液中に吹き込むか、またはその他の方法で分散させることができ、固体である場合は、溶液中に溶解もしくは融解させるか、または懸濁物として含めることができる。最後に、アルキル含有分子は、堆積プロセスに適するよう程度の安定性を有し、それらが接触する場合があるデバイスの有機半導体層や他の構成要素における物質と反応しないことが必要となる。
【0042】
アルキル含有分子は、アルデヒド基(−C(=O)−H)、ジオキソ基(すなわち、炭素原子上で2つの価を占有してケトン−C(=O)−を形成するsp混成酸素分子)、ヒドロキシ基(−OH)、アルコキシ基(−O−C〜C12アルキル)、チオール基(−SH)、チオアルキル基(−S−C〜C12アルキル)、カルボン酸基(−COOH)、エステル基(−C(=O)−O−C〜C12アルキル)、アミン基(−NH、−NH(C〜C12アルキル)または−N(C〜C12アルキル))、アミド基(−C(=O)−NH、−C(=O)−NH(C〜C12アルキル)または−C(=O)−N(C〜C12アルキル))、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(硫化物)(−S−)、ハロゲン化物基(例えば、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物)、ニトリル基(−CN)、エポキシド基、芳香族基(例えば、C〜C10アリール)、およびアリールアルキル基から選択される官能基で置換することができる。芳香族基には、フェニル基、ベンジル基およびナフチル基などのC〜C10アリール基が含まれるが、これらに限定されない。アリールアルキル(またはアラルキル)基には、C〜Cアルキル−C〜C10アリール−C〜Cアルキル基が含まれるが、これに限定されない。
【0043】
アルデヒドの例には、C〜C12アルキル−C(=O)−Hが含まれるが、これに限定されず、ケトンの例には、C〜C12ケトンが含まれるが、これに限定されず、ヒドロキシ置換化合物(アルコール)の例には、C〜C12アルキル−OHが含まれるが、これに限定されず、アルコキシ化合物の例には、−O−C〜C12アルキルで置換されるC〜C12アルキルが含まれるが、これに限定されず、チオール化合物の例には、C〜C12アルキル−SHが含まれるが、これに限定されず、チオールアルキル化合物の例には、−S−C〜C12アルキルで置換されるC〜C12アルキルが含まれるが、これに限定されず、カルボン酸化合物の例には、C〜C12アルキル−COOHが含まれるが、これに限定されず、エステル化合物の例には、C〜C12アルキル−C(=O)−O−C〜C12アルキルが含まれるが、これに限定されず、アミン化合物の例には、C〜C12アルキル−NH、C〜C12アルキル−NH(C〜C12アルキル)、またはC〜C12アルキル−N(C〜C12アルキル)が含まれるが、これらに限定されず、アミド化合物の例には、C〜C12アルキル−C(=O)−NH、C〜C12アルキル−C(=O)−NH(C〜C12アルキル)、またはC〜C12アルキル−C(=O)−N(C〜C12アルキル)が含まれるが、これらに限定されず、エーテル化合物の例には、C〜C12アルキル−O−C〜C12アルキルが含まれるが、これに限定されず、チオエーテル化合物の例には、C〜C12アルキル−S−C〜C12アルキルが含まれるが、これに限定されず、ハロゲン化物化合物の例には、C〜C12アルキル−X(式中、XはF、Cl、BrまたはIである)が含まれるが、これに限定されず、ニトリル化合物の例には、C〜C12アルキル−CNが含まれるが、これに限定されず、エポキシド化合物の例には、2つの隣接する炭素原子が酸素原子によって架橋されて3員エポキシド環を形成する、C〜C12アルキルが含まれるが、これに限定されず、またC〜C12アルキル−(CO)も含まれるが、これに限定されず、芳香族置換アルキル化合物の例には、C〜C12アルキル−C〜C10アリールが含まれるが、これに限定されず、アリールアルキル置換アルキル化合物の例には、C〜C12アルキル−C〜C10アリール−C〜C12アルキルが含まれるが、これに限定されない。すべての化合物上のすべての基を独立して選択することができ、例えば、アミド化合物C〜C12アルキル−C(=O)−N(C〜C12アルキル)では、CHCHCHCH−(C=O)−N(CH)(CHCH)化合物の如く3つのC〜C12アルキル基を独立して選択することができる。置換基が置換するアルキルのいずれの炭素にも置換基を結合させることができ、例えば、Cアルキル−OHは、1−プロパノール(HO−CHCHCH)または2−プロパノール(CHCH(OH)CH)を示すことができる。
【0044】
一実施形態において、アルキル含有分子は、アルカン、アルコールおよびチオールから選択される。
【0045】
アルカンには、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、ノナデカンおよびエイコサン(イコサン)などのC〜C20アルカンが含まれるが、これらに限定されない。アルキルは、直鎖(n−アルキル)、分枝鎖または環式であってよく、環式アルカンをn−アルキル基および/または分枝鎖アルキル基で置換することができる。別の実施形態において、アルカンは、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカンおよびドデカンなどのC〜C12アルカンから選択される。他の実施形態において、アルカンは、C〜C20アルカン、C〜C16アルカン、C〜C20アルカンまたはC〜C16アルカンから選択される。他の実施形態において、アルカンは、C〜C20n−アルカン(メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−オクタデカン、n−ノナデカンおよびn−エイコサン)、C〜C20n−アルカン、C〜C16n−アルカン、C〜C20n−アルカン、C〜C16n−アルカンまたはC〜C12n−アルカンから選択される。
【0046】
アルコールは、アルカンの1つの水素の代わりに1つのヒドロキシ(−OH)基が置換されるアルカンである。アルコールには、ヒドロキシ基が3個以下の他の炭素原子に結合するいずれかの炭素原子に位置することができる、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノールおよびエイコサノールなどのC〜C20アルコールが含まれるが、これらに限定されない。アルコールは、直鎖(例えば、n−デカノール)、分枝鎖(例えば、t−ブタノール)または環式(例えば、シクロヘキサノール)であってよく、環式アルコールは、n−アルキル基および/または分枝鎖アルキル基で置換することができ、環式アルカンは、1つの直鎖アルコールまたは1つの分枝鎖アルコールのほか、さらなるn−アルキル基および/または分枝鎖アルキル基で置換することができる。別の実施形態において、アルカノールは、C〜C16アルカノールまたはC〜C12アルカノールから選択される。他の実施形態において、アルカノールは、C〜C20n−アルカノール(メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、n−ドデカノール、n−トリデカノール、n−テトラデカノール、n−ペンタデカノール、n−ヘキサデカノール、n−ヘプタデカノール、n−オクタデカノール、n−ノナデカノールおよびn−エイコサノール)、C〜C16n−アルカノール、またはC〜C12n−アルカノールから選択される。別の実施形態において、前述のアルコール群は1−オールであり、すなわち、アルコール基が、分子の1−炭素またはアルファ−炭素上に存在する(メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、1−オクタデカノール、1−ノナデカノールおよび1−エイコサノール)。別の実施形態において、アルカノールは、C〜C20n−アルカン−1−オールから選択される。
【0047】
別の実施形態において、アルキル含有分子はアルカンチオールから選択される。アルカンチオール(またはアルキルチオール)は、アルカンの1つの水素の代わりに1つのチオール(スルフィドリル)基(−SH)が置換されるアルカンである。アルカンチオールには、チオール基が3個以下の他の炭素原子に結合するいずれかの炭素原子に位置することができる、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ドデカンチオール、トリデカンチオール、テトラデカンチオール、ペンタデカンチオール、ヘキサデカンチオール、ヘプタデカンチオール、オクタデカンチオール、ノナデカンチオールおよびエイコサンチオールなどのC〜C20アルカンチオールが含まれるが、これらに限定されない。アルカンチオールは、直鎖(例えば、n−デカンチオール)、分枝鎖(例えば、t−ブタンチオール)または環式(例えば、シクロヘキサンチオール)であってよく、環式アルカンチオールは、n−アルキル基および/または分枝鎖アルキル基で置換することができ、環式アルカンは、1つの直鎖アルカンチオールまたは1つの分枝鎖アルカンチオールのほかに、さらなるn−アルキル基および/または分枝鎖アルキル基で置換することができる。別の実施形態において、アルカンチオールは、C〜C16アルカンチオールまたはC〜C12アルカンチオールから選択される。他の実施形態において、アルカンチオールは、C〜C20n−アルカンチオール(メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、n−ブタンチオール、n−ペンタンチオール、n−ヘキサンチオール、n−ヘプタンチオール、n−オクタンチオール、n−ノナンチオール、n−デカンチオール、n−ウンデカンチオール、n−ドデカンチオール、n−トリデカンチオール、n−テトラデカンチオール、n−ペンタデカンチオール、n−ヘキサデカンチオール、n−ヘプタデカンチオール、n−オクタデカンチオール、n−ノナデカンチオールおよびn−エイコサンチオール)、C〜C16n−アルカンチオール、またはC〜C12n−アルカンチオールから選択される。別の実施形態において、前述のチオール群は1−チオールであり、すなわち、チオール基が、分子の1−炭素またはアルファ−炭素上に存在する(メタンチオール、エタンチオール、1−プロパンチオール、1−ブタンチオール、1−ペンタンチオール、1−ヘキサンチオール、1−ヘプタンチオール、1−オクタンチオール、1−ノナンチオール、1−デカンチオール、1−ウンデカンチオール、1−ドデカンチオール、1−トリデカンチオール、1−テトラデカンチオール、1−ペンタデカンチオール、1−ヘキサデカンチオール、1−ヘプタデカンチオール、1−オクタデカンチオール、1−ノナデカンチオールおよび1−エイコサンチオール)。別の実施形態において、アルカンチオールは、C〜C20n−アルカン−1−チオールから選択される。
【0048】
別の実施形態において、アルキル含有分子は、ハロゲン化アルキルから選択される。ハロゲン化アルキルは、アルカンの1つの水素の代わりに1つのハロゲン化物基(−F、−Cl、−Br、−I)が置換されるアルカンである。ハロゲン化アルキルには、ハロゲン化物基が3個以下の炭素原子に結合するいずれかの炭素原子に位置することができる、ハロメタン、ハロエタン、ハロプロパン、ハロブタン、ハロペンタン、ハロヘキサン、ハロヘプタン、ハロオクタン、ハロノナン、ハロデカン、ハロウンデカン、ハロドデカン、ハロトリデカン、ハロテトラデカン、ハロペンタデカン、ハロヘキサデカン、ハロヘプタデカン、ハロオクタデカン、ハロノナデカンおよびハロエイコサンなどのC〜C20ハロゲン化アルキルが含まれるが、これらに限定されない。ハロゲン化アルキルは、直鎖(例えば、ハロゲン化n−デシル)、分枝鎖(例えば、ハロゲン化t−ブチル)または環式(例えば、ハロゲン化シクロヘキシル)であってよく、環式ハロゲン化アルキルは、n−アルキル基および/または分枝鎖アルキル基で置換することができ、環式アルカンは、1つの直鎖ハロゲン化アルキルまたは1つの分枝鎖ハロゲン化アルキルのほかに、さらなるn−アルキル基および/または分枝鎖アルキル基で置換することができる。別の実施形態において、ハロゲン化アルキルは、C〜C16ハロゲン化アルキルまたはC〜C12ハロゲン化アルキルから選択される。他の実施形態において、ハロゲン化アルキルは、C〜C20ハロゲン化n−アルキル(ハロメタン、ハロエタン、ハロプロパン、n−ハロブタン、n−ハロペンタン、n−ハロヘキサン、n−ハロヘプタン、n−ハロオクタン、n−ハロノナン、n−ハロデカン、n−ハロウンデカン、n−ハロドデカン、n−ハロトリデカン、n−ハロテトラデカン、n−ハロペンタデカン、n−ハロヘキサデカン、n−ハロヘプタデカン、n−ハロオクタデカン、n−ハロノナデカンおよびn−ハロエイコサン)、C〜C16ハロゲン化n−アルキル、またはC〜C12ハロゲン化n−アルキルから選択される。別の実施形態において、前述のハロゲン化アルキル群は1−ハロ化合物であり、すなわち、ハロゲン化物基が、分子の1−炭素またはアルファ−炭素上に存在する(ハロメタン、ハロエタン、ハロプロパン、1−ハロブタン、1−ハロペンタン、1−ハロヘキサン、1−ハロヘプタン、1−ハロオクタン、1−ハロノナン、1−ハロデカン、1−ハロウンデカン、1−ハロドデカン、1−ハロトリデカン、1−ハロテトラデカン、1−ハロペンタデカン、1−ハロヘキサデカン、1−ハロヘプタデカン、1−ハロオクタデカン、1−ハロノナデカンおよび1−ハロエイコサン)。別の実施形態において、ハロゲン化アルキルは、C〜C20n−アルカン−1−ハロ化合物から選択される。一実施形態において、前述の化合物のハロゲン化物基はフッ化物である。一実施形態において、前述の化合物のハロゲン化物基は塩化物である。一実施形態において、前述の化合物のハロゲン化物基は臭化物である。一実施形態において、前述の化合物のハロゲン化物基はヨウ化物である。
【0049】
アルキル含有分子を、約0.1%〜約25%、例えば、約0.1%〜約20%、約0.1%〜約15%、約0.1%〜約10%、約0.1%〜約7.5%、約0.1%〜約7%、約0.1%〜約6%、約0.5%〜約15%、約1%〜約15%、約1%〜約10%、約1%〜約7.5%、約2%〜約7.5%、約3%〜約7%、もしくは約4%〜約6%の範囲の量で、または約0.1%、約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約12.5%、約15%、約17.5%、約20%、約22.5%もしくは約25%の量で、または最高約0.1%、最高約0.2%、最高約0.5%、最高約1%、最高約2%、最高約3%、最高約4%、最高約5%、最高約6%、最高約7%、最高約8%、最高約9%、最高約12.5%、最高約15%、最高約17.5%、最高約20%、最高約22.5%もしくは最高約25%の量で溶液に添加することができる。百分率は、好ましくは容積/容積として計算され、重量/重量、重量/容積、または容積/重量を使用することもできる。
【0050】
多官能性アルキル含有化合物
本発明では多官能性アルキル含有化合物も使用することができる。一実施形態において、多官能性アルキル含有化合物にはジ−ハロ置換化合物が含まれない。
【0051】
一実施形態において、アルキル含有分子は、アルデヒド基(−C(=O)−H)、ジオキソ基(すなわち、炭素原子上で2つの価を占有してケトン−C(=O)−を形成するsp混成酸素分子)、ヒドロキシ基(−OH)、アルコキシ基(−O−C〜C12アルキル)、チオール基(−SH)、チオアルキル基(−S−C〜C12アルキル)、カルボン酸基(−COOH)、エステル基(−C(=O)−O−C〜C12アルキル)、アミン基(−NH、−NH(C〜C12アルキル)または−N(C〜C12アルキル))、アミド基(−C(=O)−NH、−C(=O)−NH(C〜C12アルキル)または−C(=O)−N(C〜C12アルキル))、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(硫化物)(−S−)、ハロゲン化物基(例えば、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物)、ニトリル基(−CN)、エポキシド基、芳香族基、およびアリールアルキル基から選択される少なくとも2つの官能基で置換することができる。芳香族基には、フェニル基、ベンジル基およびナフチル基などのC〜C10アリール基が含まれるが、これらに限定されない。アリールアルキル(またはアラルキル)基には、C〜Cアルキル−C〜C10アリール−C〜Cアルキル基が含まれるが、これに限定されない。一実施形態において、多官能性アルキル含有化合物は、ジ−ハロ置換化合物を含まない。
【0052】
一実施形態において、多官能性アルキル含有化合物は、ジオール、ポリオール、ジチオール、ポリチオールおよび混合アルコール−チオール化合物から選択される。これらの多官能性アルキル含有化合物には、少なくとも2つの官能基がそれぞれ独立して−SHおよび−OHから選択される少なくとも2つの官能基で置換されるC〜C20アルキル分子が含まれるが、これに限定されない。少なくとも2つの官能基で置換されるC〜C20アルキルは、直鎖アルキル、分枝鎖アルキルもしくは環式アルキル、または直鎖アルキル成分と分枝鎖アルキル成分と環式アルキル成分との組み合わせであってよい。−SHおよび−OHから選択される少なくとも2つの官能基は、アルキル成分におけるいずれかの炭素原子上で置換されてよい。一実施形態において、−SHおよび−OHから選択される少なくとも2つの官能基は異なる炭素原子上で置換され、この実施形態では、分子内に存在する全−SH基および−OH基と少なくとも同数の炭素原子が存在しなければならない。別の実施形態において、多官能性アルキル含有化合物は、式C(i+j)(式中、iはゼロまたは正の整数であり、ヒドロキシ基の数を表し、jはゼロまたは正の整数であり、チオール基の数を表し、(i+j)は2〜20、2〜10、2〜6または2〜4の整数である)のアルキルからC20アルキルの化合物から選択される。
【0053】
一実施形態において、多官能性アルキル含有化合物は、ジオール(i=2およびj=0である直前の実施形態に対応)、ジ−チオール(i=0およびj=2である直前の実施形態に対応)、または1つの−OH基と1つの−SH基とを有するアルキル含有化合物(i=1およびj=1である直前の実施形態に対応)などの如く、各置換基が異なる炭素原子上に存在する二置換化合物である。これらの二置換化合物の一実施形態において、アルキル含有化合物は、n−アルキル化合物であり、すなわち、2つの−OH基と、2つの−SH基と、または1つの−OH基および1つの−SH基で置換されるC〜C20n−アルキルである。二置換n−アルキル化合物の一実施形態において、置換基は、アルファ位およびオメガ位、すなわち、n−アルキル鎖の最初と最後(すなわち、末端)の原子上に存在し、すなわち、アルファ,オメガ置換−OH基を有するC〜C20n−アルキル、またはアルファ,オメガ置換−SH基を有するC〜C20n−アルキル、またはアルファ−OH基とオメガ−SH基とを有するC〜C20n−アルキル(n−アルキル基は対称性であるため、アルファ−OH基とオメガ−SH基とを有するn−アルキル基は、オメガ−OH基とアルファ−SH基とを有するn−アルキルと同等である)。別の実施形態において、アルファ,オメガ置換−SH基を有するC〜C20n−アルキルは、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,7−ヘプタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、および1,9−ノナンジチオールから選択される。
【0054】
多官能性アルキル含有分子は、約0.1%〜約25%、例えば、約0.1%〜約20%、約0.1%〜約15%、約0.1%〜約10%、約0.1%〜約7.5%、約0.1%〜約7.5%、約0.1%〜約7%、約0.1%〜約6%、約0.5%〜約15%、約1%〜約15%、約1%〜約10%、約1%〜約7.5%、約2%〜約7.5%、約3%〜約7%、もしくは約4%〜約6%の範囲の量で、または約0.1%、約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約12.5%、約15%、約17.5%、約20%、約22.5%もしくは約25%の量で、または最高約0.1%、最高約0.2%、最高約0.5%、最高約1%、最高約2%、最高約3%、最高約4%、最高約5%、最高約6%、最高約7%、最高約8%、最高約9%、最高約12.5%、最高約15%、最高約17.5%、最高約20%、最高約22.5%もしくは最高約25%の量で溶液に添加することができる。百分率は、好ましくは容積/容積として計算され、重量/重量、重量/容積、または容積/重量を使用することもできる。
【0055】
有機半導体膜
有機半導体膜は、典型的には、光子によって生成された電子正孔対(励起子)が分離し、電流を生成することを可能にする電子供与体物質および電子受容体物質で作製される。一方の物質(例えば、供与体)の層を他方の物質(例えば、受容体)の上に形成して、二層間に平面ヘテロ接合を形成することによって、供与体と受容体の間に接合を作ることができる。ヘテロ接合の表面積を増加させながら、電子または正孔が再結合せずに移動するための経路を提供する、供与体物質と受容体物質の相互浸入網を使用することができる。相互浸入網は、供与体物質と受容体物質の一部が二層接合付近の他の物質内に拡がる二層ヘテロ接合の拡散界面によって形成することができる。バルクヘテロ接合は、供与体物質と受容体物質とを混合して多成分活性層を形成する際に形成することができる。一実施形態において、本発明の有機半導体膜は、バルクヘテロ接合として形成される。
【0056】
一実施形態において、半導体膜の形成に使用される溶液中の添加剤の当初の量にくらべると、わずか約10%以下、約5%以下、約2%以下、約1%以下、約0.5%以下、約0.1%以下、約0.05%以下、約0.01%以下、約0.005%以下、約0.001%以下のアルキル含有分子添加剤しか、作製後の有機半導体膜に残留しない。別の実施形態において、アルキル含有分子は、最終有機半導体膜のわずか約10重量%以下、約5重量%以下、約2重量%以下、約1重量%以下、約0.5重量%以下、約0.1重量%以下、約0.05重量%以下、約0.01重量%以下、約0.005重量%以下、または約0.001%重量以下を占めるにすぎない。
【0057】
供与体物質
1)共役有機ポリマー
共役有機ポリマーは、典型的には、バルクヘテロ接合膜などの有機半導体膜における電子供与物質として機能する。使用できる適切な共役有機ポリマーの例は、全体が(特に共役有機ポリマーの考察に関して)参考として本明細書で援用される、米国特許出願公開第2005/0279399号に示されている。このような共役ポリマーの例には、ポリアセチレン、ポリフェニレン、アルキルが6〜16個の炭素であるポリ(3−アルキルチオフェン)(P3AT)(例えば、ポリ−(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT))、ポリ[2,6−(4,4−ビス−(2−エチルヘキシル)−4H−シクロペンタ[2,1−b;3,4−b’]−ジチオフェン)−alt−4,7−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)](PCPDTBT)、ポリフェニルアセチレン、ポリジフェニルアセチレン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)およびそのアルコキシ誘導体(例えば、ポリ(2−メトキシ,5−(2’−エチル−ヘキシルオキシ)−p−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)およびポリ(2,5−ジメトキシ−p−フェニレンビニレン)(PDMPV))、ポリチオフェン、ポリ(チエニレンビニレン)(例えば、ポリ(2,5−チエニレンビニレン))、ポリフルオレン、ポリポルフィリン、大環状ポルフィリン、チオール誘導ポリポルフィリン、ポリメタロセン(例えば、ポリフェロセン)、ポリフタロシアニン、ポリビニレン、ポリフェニルビニレン、ポリシラン、ポリイソチアナフタレン、ポリチエニルビニレン、これらの内のいずれかの物質の誘導体、ならびに任意の割合のこれらの混合物または組み合わせの内の1つ以上が含まれる。これらの物質の誘導体の例には、側基(例えば、エポキシ、オキセタン、フランまたは酸化シクロヘキセンなどの環式エーテル)を有する誘導体が含まれる。これらの物質の誘導体は、他の置換基を代わりにまたはさらに含む場合もある。例えば、電子供与体のチオフェン成分は、各チオフェン成分の3位などにフェニル基またはアルキル基を含む場合がある。このようなチオフェンの例には、例えば:
【0058】
【化4】

(ポリ[3−(エチル−4−ブタノエート)チオフェン−2,5−ジイル])など、以下の形態:
【0059】
【化5】

(式中、Rは、C〜CアルキルまたはC〜Cアルキル−C(=O)−O−C〜Cアルキルである)のチオフェンがある。別の例としては、アルキル置換基、アルコキシ置換基、シアノ置換基、アミノ置換基および/またはヒドロキシ置換基が、ポリフェニルアセチレン共役ポリマー、ポリジフェニルアセチレン共役ポリマー、ポリチオフェン共役ポリマーおよびポリ(p−フェニレンビニレン)共役ポリマーのいずれかに存在する場合もある。
【0060】
受容体物質
1)フラーレン
フラーレン化合物は、典型的には、ヘテロ接合における電子受容物質として機能する。本発明で使用されるフラーレン誘導体の例には、[6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)およびC71−PCBMが含まれる。本発明で使用できるさらなる市販のフラーレンを、以下の表に示す。
【0061】
【表1−1】

【0062】
【表1−2】

一般的に、本発明で使用できるフラーレンは、以下に図示する、Ar−C(=フラーレン)−R−C(=O)−R(式中、Arは、場合により置換されてもよいフェニルまたはチエニルであり、Rは、C〜C12アルキル(好ましくはCアルキル)であり、Rは、−O−C〜C12アルキルまたは−O−C〜C12アルキル−SHである)の形態のものである。Ar上の任意の置換基には、C〜C12アルキル、F、Cl、Br、I、−O−C〜C12アルキル、および、化学的に適切である場合は、低分子量アルキル化合物について上に記載した他の置換基が含まれるが、これらに限定されない。「フラーレン」は、C60、C70またはC84フラーレン成分から選択される。
【0063】
【化6】


【0064】
2)炭素ナノチューブ
本明細書に開示される有機半導体膜で作製されるデバイスでは、炭素ナノチューブも電子受容体として使用することができる。例えば、Harris,P.J.F.,“Carbon Nanotubes and Related Structures,”Cambridge University Press,2002、Dresselhaus,M.S.et al.,“Carbon Nanotubes,”Springer−Verlag,2000、米国特許第4663230号、Guldi,D.et al.,Chemical Society Reviews(2006),35(5),471−487、Kymakis,E.et al.,Optical Science and Engineering(2005),99(Organic Photovoltaics),351−465、およびGuldi,D.et.al.,Accounts of Chemical Research(2005),38(11),871−878を参照されたい。単壁炭素ナノチューブおよび多壁炭素ナノチューブは、米国カリフォルニア州リバーサイドのCarbon Solutions,Inc.、および米国テキサス州リチャードソンのHelix Material Solutionsなどの種々の製造業者から市販されている。
【0065】
3)他の受容体物質
電子不足ポリマーおよび電子不足分子などの他の物質も電子受容体として使用することができる。このような物質の例には、2,7−ポリ−(9−フルオレノン)(2,7−PFO)、π共役有機ホウ素ポリマー(米国特許出願公開第2007/0215864号)、シアノ基で修飾されるポリ(パラ−フェニレンビニレン)(Granstrom et al.Nature 395,257−260,1998)、π共役オキサジアゾール含有ポリマー(Li et al.J.Chem.Soc.Chem.Commun.2211−2212,1995)、π共役キノキサリン含有ポリマー、ならびにポリマーの骨格にレジオレギュラージオクチルビチオフェンおよびビス(フェニルキノリン)単位を組み込むπ共役ポリマー(Babel,A.,Jenekhe,S.A.Adv.Mater.,14,371−374,2002)が含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
溶媒
共役ポリマー膜の形成に使用される溶液には、いずれの適切な溶媒も使用することができる。適切な溶媒とは、共役ポリマー、フラーレン誘導体およびアルキル含有分子などの膜成分を溶解、分散または懸濁させることができ、かつ所望の光伝導特性を有する共役ポリマー膜を形成することができる溶媒である。ハロゲン化アルカンならびに芳香族およびハロゲン化芳香族化合物(例えば、クロロアルカンおよび塩素含有芳香族化合物)を含むがこれらに限定されない溶媒を、本発明で使用することができる。適切な溶媒の例には、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、キシレン(例えば、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンおよびこれらの混合物)、α,α,α−トリクロロトルエン、メチルナフタレン、クロロナフタレン、ならびにこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
有機半導体膜の形成
共役ポリマー膜などの有機半導体膜の形成に使用される溶液は、種々の方法により、透明支持体または電極などの基材上に堆積させることができる。このような方法には、回転成形法、「ドクターブレード法」、ドロップキャスティング法、逐次回転成形法、ラングミュア−ブロジェット膜の形成、静電気吸着法、および/または溶液中への基材の浸漬によって形成することができる。その後の処理ステップは、場合により減圧および/または高温下で溶媒を蒸発させて膜を形成すること、ならびに堆積した膜を熱焼鈍することを含むことができる。
【0068】
有機半導体膜を使用して形成されるデバイス
本発明の方法で製造される共役ポリマー膜などの有機半導体膜を使用して、種々のデバイスを形成することができる。このようなデバイスには、太陽電池、光起電力電池、光検出器、フォトダイオード、フォトトランジスタおよび薄膜トランジスタが含まれる。
【0069】
一実施形態において、該デバイスは、第1の電極、第2の電極、および第1の電極と第2の電極との間の有機半導体膜を含む。第1の電極および第2の電極は、異なる仕事関数を有さなければならず、より高い仕事関数を有する電極は、高仕事関数電極と呼ばれ、より低い仕事関数を有する電極は、低仕事関数電極と呼ばれる。該デバイスは、ガラス上に堆積した透明インジウム錫酸化物(ITO)などの材料でできた電極(ITOが高仕事関数電極または正孔注入電極の役割を果たす)と、有機半導体膜と、アルミニウムなどの材料でできた電極(Alが低仕事関数電極または電子注入電極の役割を果たす)とを含むことができる。
【0070】
一実施形態において、高仕事関数電極は、約4.5電子ボルト以上の仕事関数を有する。高仕事関数電極は、典型的には、20オーム/スクエア以下の抵抗率および550nmにて89%以上の透過率を有するインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電性金属金属酸化物または硫化物材料である。金または銀の薄い透明層などの他の材料も利用可能である。通常、この電極は、熱蒸着、電子ビーム蒸着、RFもしくはマグネトロンスパッタリング、または化学蒸着などにより固体支持体上に堆積させる(これらの同じプロセスを、低仕事関数電極の堆積にも使用することができる)。高仕事関数電極の主な要件は、適切な仕事関数と、低い抵抗率と、高い透明度とを兼ね備えることである。別の実施形態において、低仕事関数電極は、約4.3eV以下の仕事関数を有し、このような材料の例には、アルミニウム、インジウム、カルシウム、バリウムおよびマグネシウムが含まれる。いずれの電極も支持体(例えば、ガラスまたはプラスチック基材上に堆積させたインジウム錫酸化物)上に堆積させることによって作製することもできれば、あるいは支持体を使用せずに作製することもできる。
【0071】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに理解が深まるであろう。
【実施例】
【0072】
(実施例1) 電池の作製および評価
PCBMは、文献(J.C.Hummelen,B.W.Knight,F.LePeq,F.Wudl,J.Org.Chem.1995,60,532)に記載の通りに合成し、P3HTはRieke metalsから購入し、バイトロンPはH.C.Starckから購入し、その他すべての化学物質はSigma/Aldrichから購入し、入手したままの状態で使用した。インジウム錫酸化物をコーティングしたガラススライドを石鹸および水で濯ぎ、10分間にわたり、石鹸水中で1回、脱イオン水中で3回、イソプロピルアルコールとアセトンのそれぞれの中で1回超音波処理してから、窒素ガンで埃を除去し、一晩乾燥させた。スピンコーティングを行う前に、試料をUV/オゾン下で30分間洗浄し、再度窒素で埃を除去した。バイトロンPポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スルホン酸スチレン)の層を5000RPMの雰囲気下で室温にて1分間スピンコーティングした後、120℃にて15分間乾燥させた。次いで、5ppm未満のO濃度に維持したグローブボックスにデバイスを移した。1重量%のP3HTと0.8重量%のPCBMとをトルエンに溶解し、溶液を70℃にて一晩撹拌させることにより、活性層溶液を調製した。P3HTとPCBMを溶解する前に、適切な容量のアルカリチオールを溶媒に添加することによって、アルキルチオール溶液を調製した。700RPMにて1分間スピンコーティングすることにより、活性層を塗布した。次いで、1ppm未満の酸素濃度を維持した第2のグローブボックスにデバイスを移し、このボックスで、アルミニウム陰極を1×10−6torr未満の圧力にて、0.15nm/秒以下の初期速度で少なくとも120nmの全厚まで堆積させた。デバイスをホットプレート上に配置することにより、150℃にて15分間焼鈍を実施した。成分には各実施例に記載の通り差があるものの、他の実施例でも同じ一般的技法を使用して電池を作製した。
【0073】
効率性試験は、既述の通りに実施した(U.Zhokhavets,T.Erb,H.Hoppe,G.Gobsch,N.S.Sariciftci,Thin Solid Films 2006,496,679)。上述の通りに調製した試料のTEM画像を、Ted Pella Inc.より仕入れた銅極板を使用して、Philips CM10により80kVにて得た。デバイス活性層をガラス上にスピンコーティングし、Shimadzu UV−2401PC UV可視分光光度計で走査することにより、光透過試験を実施した。厚さをスクラッチ法で測定するタッピングモードのVeecoマルチモードAFMで、原子間力顕微鏡測定を実施した。
【0074】
定常状態および過渡の光伝導性測定に使用する試料をアルミナ基材上に回転成形し、電極を表面接触オーストンスイッチ構成で堆積させた(D.H.Auston,IEEE Journal of Quantum Electronics 1983,19,639)。キセノンランプにより励起を行い、変調周波数を166Hzとし、印加電場をE=5KV/cmとした標準的な変調法(C.H.Lee,G.Yu,D.Moses,K.Pakbaz,C.Zhang,N.S.Sariciftci,A.J.Heeger,F.Wudl,Phys.Rev.B 1993,48(20)15425)により、定常状態の光伝導性を測定した。いずれの測定も、試料を真空(P<10−4Torr)に維持した状態で行った。
【0075】
便宜上、試料は組成と熱履歴によって示す。試料は、700RPMにてトルエンから回転成形したP3HTとPCBMの比率が10:8を示すバルクヘテロ接合(すなわちBHJ)と示す。BHJの後には、濃度値とアルキルチオール鎖長が続き、例えば、BHJ−5%C8とは、5容積%のオクタンチオールを含有するトルエン溶液から回転成形した10:8の比率のP3HT:PCBM膜である。溶媒混合物の組成の後には、それぞれ試料が焼鈍されたか否かを示すAまたはNAが続くことになる。この作業では、トルエンを溶媒として使用した点を除き、W.Ma et al.,Adv.Func.Mater.2005,15,1617に記載されるデバイス作製方法を使用した。デバイスは、原子間力顕微鏡法(AFM)による測定で、活性層の厚さが約100nmであった。較正したAM1.5の太陽光照明源下で、対照デバイスの焼鈍前(BHJ−NA)の効率は平均2%であり、150℃にて15分間焼鈍した後(BHJ−A)の効率は平均3.3%であった。
【0076】
図1は、BHJ−NAおよびBHJ−Aと比較したBHJ−0.75%C8−NAおよびBHJ−0.75%C8−Aの透過度の差を示す。n−オクタンチオールをP3HT/PCBM/トルエン溶液に(0.1容積%〜10容積%)含めると、熱処理後(BHJ−A)に認められるのと同様の透過度の低下がもたらされる(W.Ma et al.,Adv.Func.Mater.2005,15,1617、D.Chirvase et al.,Nanotechnology 2004,15,1317)。BHJ−NAと比較したBHJ−0.75%C8−NAの透過率の向上は、基材に対して垂直の入射光の吸収をもたらすより著しい鎖間相互作用による光吸収の増加、または膜における光散乱の増大により生じる場合がある。後者のプロセスは、活性層における多重散乱による吸収の増加に寄与する場合もある(T.Q.Nguyen et al.,J.Phys.Chem.B.2000,104,237)。回転成形の前にオクタンまたはウンデカンをトルエン溶液に混入することによっても、同様の透過性の低下が認められる。無極性添加剤と極性添加剤の両方に同様の効果が認められることから、透過度の変化が残留溶媒分子に起因するソルバトクロミック効果によるものとは考えがたい。
【0077】
焼鈍(図2a)、アルキル鎖長(図2b)およびアルキルチオール濃度(図2c)を関数として、定常状態の光伝導性測定を行った。光伝導応答は、試料応答度(R)、すなわち、F=5KV/cmの外部場を使用して測定される光電流/入射光出力(mA/W)で示される。図2(a)は、焼鈍によりBHJ−NA試料の応答度は6倍増加するのに対して、焼鈍と併用して5%のn−オクタンチオールを溶液に含めると、BHJ−NA試料の応答度は60倍増加することを示している。図2(b)は、n−オクタンチオールを使用する方が、n−ドデカンチオールまたはn−ヘキサンチオールを使用するよりも高い応答度が得られることを示し、図2(c)は、試験したn−オクタンチオールの濃度の中で、5容積%の溶液から得た試料が最大の応答性を生じたことを示している。
【0078】
定常状態の光伝導性は、式3(式中、eは電子の電荷であり、nは電子または正孔の数であり、μは担体移動度であり、τは担体寿命である)で示される(C.H.Lee et al.,Synt.Met.,1995,70,1353、D.Moses et al.,Synt.Met.,1997,84,539、C.Y.Yang et al.,Synt.Met.,2005,155,639)。
【0079】
【数1】

分離した担体数(n)を増加させ、担体寿命を延長する、光励起電子のP3HTへの超高速輸送により、フラーレンを添加すると、本来のP3HTの光伝導性が二桁超増大することがすでに明らかにされている。焼鈍すると、光伝導性がさらに6倍増加することが認められている。
【0080】
BHJ−5%C8−Aにおいて590nmで測定した最大応答度から、かつ6×10−7cmのデバイス断面積を考慮の上、J=4×10A/cmの入射放射線の1ワット当たりの光電流密度を推定した。このJの大きさは、E=5KV/cmにおけるσ=200S/cmの入射放射線の1ワット当たりの光伝導性に対応する。担体数が光吸収に比例すると仮定し、BHJ−A試料の透過スペクトルがチオール改質試料と類似すると仮定すると、アルキルチオールによる処理が担体移動度と担体寿命の積を改変することが式3から分かる。
【0081】
電荷担体移動度および担体寿命に及ぼすアルキルチオールの影響を解明するため、高速(t≧100ps)過渡光伝導性測定を実施し、これより寿命を直接測定した。測定した担体寿命は、BHJ−NAにおける36nsからBHJ−Aにおける65nsにまで増加する。これは、焼鈍による担体寿命の1.8倍の向上に対応するのに対して、アルカリチオールを溶液に添加することによる寿命の増加はわずか1.3倍にすぎなかった。過渡光電流波形の大きさと光電流減衰率はいずれも、定常状態の光電流の大きさと一致する。従って、焼鈍と、アルキルチオールを用いた処理は、同程度の担体寿命の延長をもたらすが、BHJ−C8−NAで測定された光電流は、BHJ−A試料で測定された光電流よりも有意に大きかったため、担体移動度はアルキルチオールを用いた処理によって増加すると結論付けることができる。
【0082】
太陽電池デバイス性能に及ぼすチオール溶液の影響を特徴づけるために、光起電力デバイス効率の測定を実施した。図3は、BHJ−NA試料およびBHJ−A試料と比較して、電力変換効率(η)が、アルキル−チオール分子を含めることによってどのような影響を受けるかを示している。効率の増大が最大になったのは、0.75容積%のアルキルチオール濃度であった。この濃度において、効率は、対照デバイスと比べて熱焼鈍前に50%増加し、熱焼鈍後は20%増加した。図3に示す対照試料と比較した向上は、図2の光伝導性の測定で認められる向上よりも小さいことに留意されたい。
【0083】
光伝導性の向上が必ずしも太陽電池の効率の向上に直接つながるとは限らないことは興味深い点である。この差を説明する1つの考えられる理由は、チオール含有溶液からのスピニングにより、基材に対して垂直の方向でなく、基材と平行方向の電荷輸送特性が大幅に向上した膜が得られることが挙げられる。光伝導性試験は表面電極を用いて実施されたのに対して、太陽電池デバイスは膜厚を介して使用されることから、電荷輸送特性の異方性により、光伝導性の向上とデバイス効率の向上との差が生じると考えられる。別の考えられる説明としては、この太陽電池デバイスの構造が、厚さと担体拡散距離とが同等になるように最適化されたため、デバイス効率が担体移動度による制限をほとんど受けていないことが挙げられる。
【0084】
担体拡散距離が効率にどの程度の影響を及ぼすかを試験するため、より厚いデバイス活性層を生成するように2倍の濃度のP3HTおよびPCBMと1容積%のn−オクタンチオールとを用いてデバイスを調製した(W.Ma et al.,Adv.Func.Mater.2005,15,1617、G.Li et al.,J.Appl.Phys.,2005,98,043704)。デバイスは厚さが約200nmであり、吸収の増加により短絡電流の増加を示した。デバイス効率は、焼鈍前が3.5%であり、焼鈍後は4.0%であった。これらの値を、焼鈍前の効率が2.0%であり、焼鈍後の効率が3.3%であった厚さ100nmの対照と比較する。但し、内蔵電界の低下により、VOCは0.61Vから0.58Vに低下し、充填率は65%から59%に低下した。
【0085】
上記の通り、厚さ100nmのデバイスでは、溶液中のアルキルチオールが1容積%をわずかに下回る濃度でデバイス効率が最大になる。効率測定と光伝導性測定との間に最適アルキルチオール濃度の差が生じるのは、より高濃度の試料において過剰なアルキルチオールが表面に押し出されることによるものであると考えられる。AFMによる膜の調査により、アルキルチオール濃度が1容積パーセントを超えると、溶液から膜の表面に液滴が生じることが示された。光伝導性の設定に使用される表面接触幾何構造は、堆積した電極と活性層との間の低伝導性の島の影響を受けにくい。
【0086】
観察された効果に対する1つの考えられる説明としては、きわめて動的で動力学的に制限されたスピンコーティングプロセス時にP3HT鎖を潤滑することによって、アルキル鎖が相溶化剤の役割を果たすことが挙げられる。P3HT相における鎖間秩序、およびP3HTとPCBMの混合物のブレンド形態に影響を及ぼす要因を解明するツールとして、この処理法を使用することができる。
【0087】
以下の表は、溶媒添加剤を使用した場合と使用しなかった場合における、クロロベンゼンからキャストしたレジオレギュラーポリチオフェン(P3HT)/PCBMから作製される太陽電池の電流電圧特性をまとめたものである。
【0088】
【表2】


【0089】
(実施例2) 薄膜トランジスタ
図4は、半導体膜(BHJ−NA(点線)およびBHJ−5%C8−NA(実線))から作製されるトランジスタの挙動を示している。TFTデバイスを、オクチルトリクロロシランで処理した200nmのシリカ誘電層をコーティングした高濃度ドープn型Si上において2000rpmで回転させた。ソース電極およびドレイン電極は、底部接触幾何構造において厚さ5nmのTi接着層上に堆積した厚さ50nmのAuで構成されており、TFTチャネル長は5μmまたは10μmで、チャネル幅は1mmであった。5%のオクタンチオールを添加して作製した膜は、各試験電圧で著しい電流の増加を示す。
【0090】
(実施例3) X線回折結果
図5および図30は、添加剤を使用して処理した場合と使用せずに処理した場合、ならびに焼鈍を行って処理した場合または焼鈍を行わずに処理した場合の膜に対するX線回折試験の結果を示している。X線回折に使用する膜をガラス基材上で回転させた。焼鈍を行った場合も添加剤を使用した場合も、添加剤を使用せずにキャストした非焼鈍膜に比べて、膜構造の根本的な変化を示す、X線回折パターンの有意な変化が誘発される。図5は、トルエンからキャストしたP3HT/PCBM膜(BHJ−NA(×印、×)、BHJ−A(アスタリスク、*)、BHJ−0.75%C8−NA(黒塗りの菱形、◆)、およびBHJ−0.75%C8−A(白塗りの菱形、◇))におけるP3HTの<100>回折ピークを強調したX線回折結果を示している。図30は、クロロベンゼン(正方形)または2.5%のオクタンチオールを含有するクロロベンゼンからキャストしたP3HT/C−60PCBM膜におけるP3HTの、焼鈍前(黒塗り)または焼鈍後(白塗り)のいずれかにおける<100>回折ピークを強調したX線回折結果を示している。トルエン(図5)およびクロロベンゼン(図30)を使用して膜をキャストしたところ、膜をキャストする元となる溶媒も膜の構造に影響を及ぼすことが示される。
【0091】
(実施例4) 光電流トランジェント
図6は、添加剤を使用して処理した場合と使用せずに処理した場合の膜に誘発される過渡光電流を示している。添加剤処理膜は、初期ピークからの減衰後により高い過渡光電流を示す。入射光出力当たりの光電流(A/W)で示される光伝導応答(R)を、F=5KV/cmの外部場を使用して測定した。過渡光伝導性の測定では、オーストンスイッチ試料構成を採用した(D.H.Auston,IEEE Journal of Quantum Electronics 19,639(1983))。
【0092】
(実施例5) 電力変換効率
図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16、図17、図18、図19、図20、図21、図22、図23、図24、図25、図26および図27は、太陽電池電力変換効率に対して及ぼす、本発明に基づく種々の添加剤の使用の影響を示している。これらの図に示されるように、電力変換効率は、添加剤の化学的性質、キャスティング溶液における添加剤の割合、キャスティングに使用する溶媒、膜を焼鈍するかしないか、使用する供与体半導体または受容体半導体の種類、さらには回転成形時に使用する回転速度の影響を受ける可能性がある。
【0093】
(実施例6) 太陽電池の電流密度
図28は、2.5%のオクタンチオールを使用した場合と使用しなかった場合における、クロロベンゼンからキャストしたP3HT/PCBM膜の種々の電圧における電流密度の増加を示している。添加剤を使用すると、焼鈍を行った場合に認められるのと同様の電流密度の増加が示される。
【0094】
(実施例7) 外部量子効率
図29は、P3HT:C60−PCBMデバイスの外部量子効率(EQE)に及ぼす、フェニルヘキサンによる処理の影響を示している。太い実線は、添加剤を使用せずにキャストした膜に対応しており、太い点線は焼鈍後のEQEを示している。細い実線は、1%のフェニルヘキサンを使用してキャストした膜に対応しており、細い点線は焼鈍後の添加剤処理膜のEQEを示している。
【0095】
(実施例8) 担体移動度
図31は、デバイスに種々の接触金属を使用した場合に添加剤が正孔移動度と電子移動度とに及ぼす影響を示している。金とアルミニウムの両方に接触した膜は、本発明に基づく添加剤で処理した場合に、著しい正孔移動度の増大を示す。また添加剤は、アルミニウム接触金属を使用した場合に示すように、電子移動度をも増大させる。
【0096】
(実施例9) 吸収に対する影響
図32および図33はそれぞれ、最大ピーク吸光度値と600nmにおける吸収値に及ぼす添加剤の影響を示している。光透過に使用する膜をガラス基材上で回転させた。一般的に、種々の添加剤が、対照(非添加剤処理膜)と比べて非焼鈍膜の吸光度を増加させ、添加剤の中には、対照と比べて焼鈍膜の吸光度をも増加させるものもある。吸収の増加により、太陽光の単位入力当たりの電力出力の増加がもたらされる可能性がある。
【0097】
(実施例10) 定常状態の光伝導性に対する影響
図34は、クロロベンゼン(黒塗り)およびチオール(白塗り)により処理したP3HT:C60−PCBM(円)およびPCPDTBT:C70−PCBM(正方形)の定常状態の光伝導性を示している。添加剤処理膜は、添加剤を使用せずに処理した膜と比べて、600nm未満の波長における光応答度の著しい増加を示す。入射光出力当たりの光電流(A/W)で示される光伝導応答(R)を、F=5KV/cmの外部場を使用して測定した。定常状態の光伝導性の測定では、標準的な変調法を採用した(C.H.Lee et al.,Phys.Rev.B48(20)15425(1993))。
【0098】
(実施例11) アルキルジチオール実験のための電池の作製および評価
Thin Film Devices Inc.により140nmのインジウム錫酸化物(ITO)でパターン化したCorning 1737 AMLCDガラス上で、活性バルクヘテロ接合層をH.C.Stark Baytron P PEDOT:PSSの60nm層の上に回転成形することにより、光起電力電池を作製した。堆積前後に試料を加熱することなく、熱蒸発により厚さ100nmのアルミニウム陰極を堆積させた(面積17mm)。特に記載がない限り、10mg/mLのPCPDTBTおよび20mg/mLのC71−PCBMを含有するCBに2.4mg/mLのオクタンジチオールを溶解した溶液から、1200PPMにてバルクヘテロ接合層を回転成形した。PCPDTBTはKonarka Inc.から入手し、C71−PCBMはNano−C Inc.から購入した。活性層は、溶液中のアルカンジチオール濃度にかかわらず、厚さが約110nmであることが、原子間力顕微鏡法(AFM)により示された。
【0099】
デバイス効率を、80mW/cmで動作する150ワットのNewport−Oriel AM1.5G光源で測定し、検証のため100mW/cmで動作する300ワットのAM1.5G光源を使用して独立したクロスチェックを行った。National Renewable Energy Laboratory(NREL)により較正したKG5保護フィルタを有する標準的なシリコン光起電力電池を使用して、人工太陽照明強度を測定した。最も効率的なデバイスの多くは、2つの別個の研究所で異なる個人により独立して作製されており、2つの異なる照明光源下でクロスチェックを行った。入射光子変換効率(IPCE)のスペクトル測定は、250WのXe光源、McPherson EU−700−56モノクロメータ、光チョッパーおよびロックイン増幅器、ならびに単色出力密度較正用のNIST追跡型シリコンフォトダイオードを使用して実施した。
【0100】
光伝導デバイスは、既述の通りアルミナ基材上に回転成形することによって作製した。定常状態の光伝導性の測定には標準的な変調法を使用し、過渡光伝導性の測定にはオーストンスイッチ構成を使用した。TFTデバイスは、作製後、既述の通り、金電極を含む底部接触幾何構造で試験を行った。ナノスコープIIIaコントローラを備えたVeecoマルチモードAFMで、AFM画像を撮影した。UV−Vis吸収分光測定では、Shimadzu 2401ダイオードアレイ分光計を使用した。単色Al KαX線源を使用して、基底圧を1×10−10mbarとし、Kratos Axis Ultra XPSシステムでXPSスペクトルを記録した。XPSサーベイスキャンは160パスエネルギーで行い、高分解能スキャンは10パスエネルギーで行った。データ解析はCASA XPSソフトウェアパッケージを使用して行った。
【0101】
(実施例12) アルキルジチオール実験の結果
図35は、回転成形前に種々のアルカンジチオールをPCPDTBT:C71−PCBMのクロロベンゼン(CB)溶液に添加することによって生じた膜吸収のシフトを示している。2.4mg/mLの1,8−オクタンジチオールをCBに添加した時に、最大の変化が認められ、膜吸収ピークは41nmから800nmにレッドシフトする。このような低エネルギーへのシフトと、膜をアルカンジチオールで処理した場合のπ−π遷移に伴う吸収ピーク上の構造の出現は、PCPDTBT鎖がより強く相互作用し、かつ純粋なCBにより処理した膜に比べて局部構造秩序が向上することを示している。フーリエ変換赤外(FTIR)およびラマン分光法による分析により、室温にて10分間にわたり低真空(約10−3torr)中で乾燥させた後に分解性チオールシグナルが存在しないことが判明した(真空曝露前に湿潤膜でFTIRを測定した場合は、小さなチオールピークが認められる)。試料毎に多重走査していくつかの試料の平均を取ったX線光電子分光法(XPS)では、真空中で十分に乾燥させた後に有意な量のジチオールが認められず、おそらくPCPDTBT反復単位当たりのジチオール量は0.1未満であることが示されている。
【0102】
CBと、鎖長の異なる2.4mg/mL容積のアルカンジチオールを含むCBにより処理したデバイスについて80mW/cm下で得た電流電圧特性を、図36に示す。図36の電流電圧曲線から、1,8−オクタンジチオールで処理することによりISCとFFの両方が増加することが明らかである。
【0103】
デバイスの最適化では、250個を超える独立して調製したPCPDTBT:C71−PCBM膜から1000個を超えるデバイスを作製し、5.2%〜5.8%の最適光起電力効率が得られた。最も効率的なデバイスは、1:2〜1:3のポリマー/フラーレン比と、1200〜1600RPMの回転速度と、0.8重量%〜1重量%のポリマー濃度と、1.75〜2.5mg/mLの1,8−オクタンジチオール濃度で構成されていた。最も反復性の高い系列の高効率デバイスは、短絡電流ISC=16.2mA/cm、FF=0.55、および回路電圧VOC=0.62Vで、100mW/cm下における電力変換効率が平均5.5%であった。しかし、測定したFF=0.55からも示唆されるように、より効率的な太陽エネルギー変換をもたらす可能性がある有意な改善が成されるべきである。
【0104】
図37に示す通り、CBからキャストした膜で作製される光起電力電池のIPCEスペクトルは、オルト−ジクロロベンゼンから「ドクターブレード」堆積法により形成したPCPDTBT:C71−PCBM膜で既に報告されているスペクトルときわめて類似する。1,8−オクタンジチオールで処理したデバイスは、添加剤を使用せずに処理したデバイスに比べて、400nmから800nmの間で約1.6倍IPCEが増加した。同様に図37に示す通り、同じデバイスで測定した積分IPCEとISCは、約5%以内で一致する。P3HT:C61−PCBMのIPCEは、太陽スペクトルのより狭い部分に限定されるため、PCPDTBT:C71−PCBMデバイスの方がより高い効率が期待される。
【0105】
アルカンジチオールによる処理が担体輸送に及ぼす影響を測定するため、アルカンジチオールで処理して作製した場合と処理せずに作製した場合の膜で、定常状態の光伝導性と過渡の光伝導性を測定した。1,8−オクタンジチオールを使用して処理した膜のE=20KV/cm(Eは印加電場)における定常状態の応答度と、過渡光伝導性における電流応答の大きさはそれぞれ、ジチオールを使用せずに処理した膜から得られる値よりも約2倍大きい。過渡データで測定された電流は、抽出した移動性担体の数の増加を示し、波形は担体寿命のさらなる増加を示す。吸収の場合と同じように、アルカンジチオールを使用すると、765nmから825nmへのピーク光伝導性のレッドシフトが見られる。
【0106】
純粋なクロロベンゼン(CB)と、2.4mg/mLのアルカンジチオールを含むCBからキャストした膜の表面微細構造の変化をAFMにより調べた。1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオールまたは1,9−ノナンジチオールで処理した膜から得たデータ(図示なし)を比較すると、アルカンジチオールが形態に相当の影響を及ぼすには、約6個のメチレン単位が必要であることが分かる。但し、図36に示すように、1,4−ブタンジチオールを使用してキャストした膜から作製されるデバイスは、電流電圧特性の向上を示した。また、これに対応する内部ナノ構造の変化も、透過型電子顕微鏡法(TEM)により認められた。吸収、形態およびデバイス性能に見られるアルキル鎖長への著しい依存性は、ジチオールによる処理が、ポリマー鎖間および/またはポリマー−フラーレン間の物理的相互作用に影響を及ぼすことを示唆している。
【0107】
本明細書に記載する新規の方法は、熱焼鈍が有効でないシステムでヘテロ接合太陽電池形態を作製するための動作的に簡単で汎用性のあるツールを提供する。この手法は、ポリマーの結晶性が認められないシステムでも機能する。PCPDTBT:C71−PCBMから作製される光起電力電池についてBrabec等が行った計算によれば、形態のさらなる最適化と両極性輸送の均等化によって、電力変換効率はさらに向上させることができるとされている。この予測は、図37に示す入射光子変換効率データと十分に一致しており、IPCEを向上させる可能性を明確に示している。
【0108】
識別のための引用として本明細書で言及されるすべての刊行物、特許、特許出願および公開特許出願は、開示内容全体が参考として本明細書で援用される。
【0109】
上記の通り、本発明を、理解を明確にする目的から例示および一例としてある程度詳細に説明してきたが、一定の変更および修正が加えられることは当業者に明らかである。そのため、以上の説明および実施例は、本発明の適用範囲を限定するものと見なしてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体膜の光伝導性、電荷輸送、太陽エネルギー変換効率または光起電力効率を向上させる方法であって、一定量の1つ以上の低分子量アルキル含有分子を1つ以上の有機半導体の溶液に添加するステップと、該溶液から有機半導体膜を形成するステップとを含み、低分子量アルキル含有分子が、アルデヒド基、ジオキソ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、チオール基、チオアルキル基、カルボン酸基、エステル基、アミン基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ハロゲン化物基、フッ化物基、塩化物基、臭化物基、ヨウ化物基、ニトリル基、エポキシド基、芳香族基およびアリールアルキル基から選択される1つ以上の置換基で置換されるC〜C20アルカンからなる群から選択されるが、但し、チオールまたはヒドロキシ基の置換基が存在する場合は、少なくとも1つの独立して選択されるさらなる置換基も存在しなければならず、かつジ−ハロ置換化合物が低分子量アルキル含有分子から除外されることを条件とする、方法。
【請求項2】
有機半導体膜が共役ポリマー膜を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
低分子量アルキル含有分子が、少なくとも1つのヒドロキシ基および少なくとも1つのチオール基で置換されるC〜C20アルカンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つ以上の低分子量アルキル含有分子がC〜C20ジチオアルカンから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
〜C20ジチオアルカンが、アルファ,オメガ置換される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
低分子量アルキル含有分子がC〜C20ヨードアルカンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
溶液からの共役ポリマー膜の形成が回転成形法により実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
1つ以上の低分子量アルキル含有分子が、共役ポリマー膜の形成に使用される溶液中に、約0.1%v/v〜約10%v/vの量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
有機半導体膜が共役ポリマー膜の電子供与体と有機電子受容体とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
共役ポリマー膜の電子供与体と有機電子受容体がバルクヘテロ接合を形成する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
共役ポリマー膜の電子供与体が、ポリアセチレン、ポリフェニレン、アルキルが6〜16個の炭素であるポリ(3−アルキルチオフェン)(P3AT)、ポリ−(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリ[2,6−(4,4−ビス−(2−エチルヘキシル)−4H−シクロペンタ[2,1−b;3,4−b’]−ジチオフェン)−alt−4,7−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)](PCPDTBT)、ポリフェニルアセチレン、ポリジフェニルアセチレン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)およびこれらのアルコキシ誘導体、ポリ(2−メトキシ,5−(2’−エチル−ヘキシルオキシ)−p−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)、ポリ(2,5−ジメトキシ−p−フェニレンビニレン)(PDMPV)、ポリチオフェン、ポリ(チエニレンビニレン)、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)、ポリポルフィリン、大環状ポルフィリン、チオール誘導ポリポルフィリン、ポリメタロセン、ポリフェロセン、ポリフタロシアニン、ポリビニレン、ポリフェニルビニレン、ポリシラン、ポリイソチアナフタレンまたはポリチエニルビニレン、あるいは前述の物質の1つ以上の誘導体、あるいは任意の割合の前述の物質の2つ以上のブレンドまたは組み合わせから選択されるポリマーを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
有機電子供与体がフラーレン誘導体を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
フラーレン誘導体が、式:
【化7】

(式中、
「フラーレン」は、C60、C70またはC84フラーレン成分から独立して選択され、
Arは独立して、非置換であっても置換されてもよいフェニルまたはチエニルであり、
は独立してC〜C12アルキルであり、
は独立して−O−C〜C12アルキルまたは−O−C〜C12アルキル−SHである)
の化合物から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
フラーレン誘導体がC61−PCBMまたはC71−PCBMから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
溶液中で使用される溶媒が、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、キシレン、α,α,α−トリクロロトルエン、メチルナフタレン、クロロナフタレン、またはこれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
第1の電極と、第1の面および第2の面を有する有機半導体膜であって、有機半導体膜の第1の面が第1の電極と接触し、一定量の1つ以上の低分子量アルキル含有分子を、有機半導体膜の形成に使用される溶液に添加することによって膜が形成される有機半導体膜と、有機半導体膜の第2の面と接触する第2の電極とを含む、電子デバイスであって、低分子量アルキル含有分子が、アルデヒド基、ジオキソ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、チオール基、チオアルキル基、カルボン酸基、エステル基、アミン基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、ハロゲン化物基、フッ化物基、塩化物基、臭化物基、ヨウ化物基、ニトリル基、エポキシド基、芳香族基およびアリールアルキル基から選択される1つ以上の置換基で置換されるC〜C20アルカンからなる群から選択されるが、但し、チオール基またはヒドロキシ基の置換基が存在する場合は、少なくとも1つの独立して選択されるさらなる置換基も存在しなければならず、かつジ−ハロ置換化合物が低分子量アルキル含有分子から除外されることを条件とする、電子デバイス。
【請求項17】
有機半導体膜が共役ポリマー膜を含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
電子デバイスが、太陽電池、光起電力電池、光検出器、フォトダイオードまたはフォトトランジスタである、請求項16に記載のデバイス。
【請求項19】
第1の電極が高仕事関数物質である、請求項16に記載のデバイス。
【請求項20】
第2の電極が低仕事関数物質である、請求項16に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公表番号】特表2010−512005(P2010−512005A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539367(P2009−539367)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/024792
【国際公開番号】WO2008/066933
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】