説明

改善された硬質磁性体バイアス構造を備える面垂直電流(CPP)磁気抵抗(MR)センサ

【課題】改善された硬質磁性体バイアス構造を備える面垂直電流(CPP)磁気抵抗(MR)センサを提供する。
【解決手段】磁気記録ディスクドライブ用CPP−GMR又はCPP−TMR読み出しヘッドのための硬質磁性体バイアス構造が、2つのセンサシールドS1、S2間に位置し、センサの自由層110の側縁に隣接している。絶縁層116は、バイアス構造と下部シールドとの間、及び自由層110の側縁の間に位置する。バイアス構造150は、Ir又はRuのシード層114と、そのシード層114上の強磁性で化学的配列が規則付けられたFePt合金ハードバイアス層115と、そのFePt合金ハードバイアス層115上のRu又はRu/Irキャッピング層118とを含む。FePt合金は、そのc軸が全般的に層の平面内にある面心正方構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、一般に、センサスタックを構成する層の平面に垂直に向けられたセンス電流で動作する面垂直電流(CPP)磁気抵抗(MR)センサに関し、特に、センサの自由層に縦にバイアスをかけるための改善された硬質磁性体バイアス構造を備えたCPP MRセンサに関する。
【0002】
磁気記録ディスクドライブにおいて読み出しヘッドとして用いられる従来の磁気抵抗(MR)センサの一タイプが、巨大磁気抵抗(GMR)効果に基づいた「スピンバルブ」センサである。GMRスピンバルブセンサは、典型的には銅(Cu)である非磁性導電性スペーサ層によって分離された2つの強磁性層を含む層のスタック(堆積)を有する。スペーサ層に隣接する一方の強磁性層は、隣接する反強磁性層との交換結合により固定されることなどによって、その磁化方向を固定され、基準層と呼ばれる。スペーサ層に隣接するもう一方の強磁性層は、外部磁界が存在する状態で、その磁化方向を自由に回転させ、自由層と呼ばれる。センス電流がセンサに印加されると、外部磁界の存在ゆえに、基準層磁化に対する自由層磁化の回転は、電気抵抗における変化として検出可能となる。センス電流が、センサスタックにおけるいくつかの層の平面を通過するように垂直に向けられている場合には、センサは、面垂直電流(CPP)センサと呼ばれる。
【0003】
CPP−GMR読み出しヘッドに加えて、別のタイプのCPP MRセンサが、トンネルMR又はTMRセンサとも呼ばれる磁気トンネル接合センサである。このセンサでは、非磁性スペーサ層は、非常に薄い非磁性トンネル障壁層である。CPP−TMRセンサでは、いくつかの層を垂直に通るトンネル電流は、2つの強磁性層における磁化の相対的方向に依存する。CPP−GMR読み出しヘッドでは、非磁性スペーサ層は、導電性材料、典型的にはCuなどの金属で形成される。CPP−TMR読み出しヘッドでは、非磁性スペーサ層は、TiO、MgO又はAlなどの電気絶縁材料で形成される。
【0004】
CPP MR読み出しヘッドにおけるセンサスタックは、読み出されているデータビットに隣接するディスク上の記録されたデータビットから読み出しヘッドをシールドする、磁気透過性材料の2つのシールド間に位置する。センサスタックは、トラック幅(TW)と呼ばれる幅を備えた、ディスクに面するエッジを有する。センサスタックは、ディスクに面するエッジに対して奥の位置にある後縁を有し、ディスクに面するエッジから後縁までの寸法は、ストライプ高さ(SH)と呼ばれる。一般に、センサスタックにおけるTWエッジ及び後縁は、絶縁材料によって囲まれている。
【0005】
強又は高保磁力の強磁性材料の層を「ハードバイアス」層として用いて、静磁結合を介して自由層の磁化を縦に安定させる。ハードバイアス層は、センサのTWエッジの各側における絶縁材料上に、隣接する接合部として堆積される。ハードバイアス層は、一般に、高い異方性(K)、すなわち、高い保磁力(H)を備えた面内磁化方向を提示し、自由層において単一磁区状態を維持する安定した縦バイアスを提供することが要求される。この要求を満たすハードバイアス層により、自由層が全ての合理的に生じる外乱(perturbation)に対して安定し、センサが比較的高い信号感度を維持することになる。ハードバイアス層は、十分な面内残留磁化(M)を有しなければならないが、この面内残留磁化(M)はまた、Mがハードバイアス層の厚さ(t)に依存するので、Mtとして表現してもよい。Mtは、自由層において単一の磁区(magnetic domain)を保証するために十分に高くなければならないが、自由層における磁界が、記録されたデータビットからの磁界の影響下で回転するのを妨げるほど高くなってはいけない。MTが高いことは、重要である。なぜなら、そのMTによって、所与のストライプ高さ(SH)に関して、ハードバイアス層から自由層に向けて放射する全磁束が決定するためである。tがより小さなシールド対シールド間隔と共に減少するにつれて、高いMを持つことが一層重要となる。さらに、高いMを達成するため、高い飽和磁化(M)及び高直角度(S)の両方を有するハードバイアス材料が望ましく、すなわちS=M/Mは1.0に近づくべきである。
【0006】
従来のハードバイアス層は、典型的には、約2000Oe未満のHを有する、典型的なCoPt又はCoPtCr合金である。望ましい磁気特性は、典型的にはCrMo、CrTi及びTiW合金のシード層のような、ハードバイアス層の真下の1つ又は複数のシード層と、NiTa/CrMo及びTa/W二重層を含む二重層とによって達成される。ハードバイアス構造、すなわちハードバイアス層及びその1つ又は複数のシード層は、自由層の磁気安定化を確実にする一方で、できるだけ薄くすべきである。これは、データ密度が、磁気記録ディスクドライブにおいて増加するにつれて、読み出しヘッド寸法、特にシールド対シールド間隔を小さくすることが求められるためである。
【0007】
最近になって、Ll相に基づく、化学的配列が規則付けられた(chemically-ordered)FePt合金が、ハードバイアス層として提案されている。堆積された状態のFePt合金は、比較的低いK(約10erg/cm)を有する面心立方(fcc)の不規則合金であるが、焼なまし後は高いK(約10erg/cm)を有する、面心正方(fct)相(Ll相)の化学的に規則付けられた合金となる。しかしながら、化学的に規則付けられたLl相のFePt合金は、高温堆積(>400℃)又は高温焼なまし(>500℃)を必要としており、したがって、現在の記録ヘッド製造工程に適合していない。
特許文献1は、Pt又はFeシード層を有するFePtハードバイアス層、及びPt又はFeのキャッピング層を記載しており、この特許文献1では、焼なまし温度が約250〜350℃である焼なましの間に、シード層及びキャッピング層内のPt又はFe、ならびにハードバイアス層内のFePtが互いに混ざり合う。
特許文献2は、Cuが約20原子百分率まで存在するFePtCuハードバイアス層を記載しており、この特許文献2では、化学的配列の規則付けが約260〜350℃の焼なまし温度で生じる。しかしながら、FePtと、Cuのような非磁性元素とを合金化すると、それによってMが減少し、従って、それが所与のSに対してMを減少させるため、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/027493A1号明細書
【特許文献2】米国特許第7,327,540B2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、追加の合金化元素の無い、化学的配列が規則付けられたLl相のFePt合金のハードバイアス層を持ち、センサ製造工程に適合する温度において非常に薄くされ得る、改善された硬質磁性体バイアス構造を有するCPP MRセンサが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、磁気記録ディスクのドライブ用のCPP−GMR又はCPP−TMR読み出しヘッドのような、磁気抵抗(MR)センサのための硬質磁性体バイアス構造に関する。このバイアス構造は、2つのセンサシールド間に位置し、センサの自由層の側縁に隣接している。絶縁層は、バイアス構造と下部シールドとの間、及び自由層の側縁の間に位置する。バイアス構造は、Ir又はRuのシード層と、そのシード層上の強磁性で化学的配列が規則付けられたFePt合金ハードバイアス層と、そのFePt合金ハードバイアス層上のRu又はRu/Irキャッピング層とを含む。Ir又はRuのシード層は、望ましくは、10Å以上で25Å以下の厚さを有し、FePt合金ハードバイアス層は、望ましくは、130Å以上で200Å以下の厚さを有し、Ru又はRu/Irキャッピング層は、望ましくは、40Å以上で100Å以下の全体厚さを有する。FePt合金は、そのc軸が概して層の平面内にある面心正方構造を有する。焼なまし以前には、FePt合金の組成は、Fe(100−x)Ptであり、ここで、xは、原子百分率で、43以上そして48以下であることが望ましい。
【0011】
薄いRu又はIrのシード層及び、Ru又はRu/Irキャッピング層は、FePt合金のハードバイアス層が(約4500Oeまでの)高いH、(約1.4memu/cmまでの)高いMt、及び(約0.89までの)高い直角度Sを持つことを依然として可能にする一方で、バイアス構造を非常に薄くすることができる。
【0012】
本発明の性質及び利点のより完全な理解のために、添付の図面と共に記載された以下の詳細な説明を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】カバーを除去した従来の磁気記録ハードディスクドライブの概略上面図である。
【図2】図1の2−2線方向から見たスライダの拡大端面図及びディスクの一部である。
【図3】図2の3−3線方向から見た図であり、ディスクから見た読み出し/書き込みヘッドの端部を示す図である。
【図4】CPP MR読み出しヘッドの概略断面図であり、磁気シールド層間に位置する層スタックを示す図である。
【図5】実際のセンサの走査型透過電子顕微鏡(STEM)画像に基づいた線画であり、本発明によるハードバイアス層用の硬質磁性体バイアス構造を示す図である。
【図6】本発明による硬質磁性体バイアス構造に関する、イリジウム(Ir)シード層厚さの関数としての、ハードバイアス層の面内残留磁化と厚さの積(Mt)及び保磁力(H)を示すグラフである。
【図7】本発明による硬質磁性体バイアス構造に関する、堆積された状態のままの(焼なまし前の)Ptの原子百分率の関数としての、FePt合金ハードバイアス層のHを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0014】
本発明のCPP磁気抵抗(MR)センサは、磁気記録ディスクドライブで使用する用途を有するが、その動作を、図1〜3を参照して簡単に説明する。図1は、従来の磁気記録ハードディスクドライブのブロック図である。ディスクドライブは、磁気記録ディスク12と、ディスクドライブハウジング又はベース16上に支持された回転ボイスコイルモータ(VCM)アクチュエータ14とを含む。ディスク12は、回転中心13を有し、ベース16に取り付けられたスピンドルモータ(図示せず)によって方向15に回転される。アクチュエータ14は、軸17を中心に旋回する。また、アクチュエータ14は、剛性アクチュエータアーム18を含む。一般に可撓性のサスペンション20が、屈曲部23を含み、アーム18の端部に装着される。ヘッドキャリア又は空気ベアリングスライダ22が、屈曲部23に装着される。磁気記録読み出し/書き込みヘッド24が、スライダ22の後面25に形成される。屈曲部23及びサスペンション20によって、スライダ22は、回転するディスク12によって生成された空気ベアリング上で「ピッチ(前後方向での傾斜)」及び「ロール(左右方向での傾斜)」を行うことができる。典型的には、スピンドルモータによって回転されるハブ上に複数のディスクが積み重ねられ、別個のスライダ及び読み出し/書き込みヘッドが、各ディスク表面に対応付けられる。
【0015】
図2は、図1の2−2線方向から見たスライダ22の拡大端面図及びディスク12の一部である。スライダ22は、屈曲部23に装着されている。また、スライダ22は、ディスク12に面する空気ベアリング面(ABS)27と、ABS27に略垂直な後面25とを有する。ABS27は、回転するディスク12からの空気流を、ディスク12の表面に非常に近いか又はほぼ接触しているスライダ22を支持する空気ベアリングにする。読み出し/書き込みヘッド24は、後面25上に形成される。また、読み出し/書き込みヘッド24は、後面25上の端子パッド29に電気的に接続されることによって、ディスクドライブの読み出し/書き込みエレクトロニクスに接続される。図2の断面図に示すように、ディスク12は、離散データトラック50がクロストラック方向において間隔をおいて配置されたパターンを有するパターン化媒体ディスクであり、離散データトラック50の1つが、読み出し/書き込みヘッド24と整列するように示されている。離散データトラック50は、クロストラック方向におけるトラック幅TWを有し、かつ円周方向に連続して磁化可能な材料によって形成してもよく、この場合に、パターン化媒体ディスク12は、離散トラック媒体(DTM)ディスクと呼ばれる。代替として、離散データトラック50には、トラックに沿って間隔をおいて配置された離散データアイランドを含んでもよく、この場合には、パターン化媒体ディスク12は、ビットパターン化媒体(BPM)ディスクと呼ばれる。また、ディスク12は、記録層がパターン化されているものではなく、記録材料の連続した層からなる従来の連続媒体(CM)ディスクであってもよい。CMディスクでは、書き込みヘッドが連続記録層に書き込む場合に、トラック幅TWを備えた同心データトラックが生成される。
【0016】
図3は、図2の3−3線方向から見た図であり、ディスク12側から見た場合の読み出し/書き込みヘッド24の端部を示す図である。読み出し/書き込みヘッド24は、スライダ22の後面25上に堆積され、リソグラフィでパターン化された一連の薄膜である。書き込みヘッドは、垂直磁気書き込み極(WP)を含んでもよい。また、書き込みヘッドは、後部シールド及び側部シールド(図示せず)の両方又はいずれか一方を含んでもよい。CPP MRセンサ又は読み出しヘッド100は、2つの磁気シールド層S1及びS2間に位置する。磁気シールド層S1、S2は、磁気透過性材料、典型的にはNiFe合金で形成され、また、磁気シールド層S1、S2自体が読み出しヘッド100への導線として機能できるように導電性であってもよい。磁気シールド層は、読み出されているデータビットに隣接する記録されたデータビットから読み出しヘッド100をシールドするように機能する。また別個の導線を用いてもよく、この場合には、読み出しヘッド100は、磁気シールド層S1、S2と接しているルテニウム、タンタル、金又は銅などの導線材料の層と接して形成される。図3は、非常に小さな寸法のものを示すのが難しいため、縮尺比に従って縮尺されてはいない。典型的には、各磁気シールド層S1、S2は、トラックに沿う方向における読み出しヘッド100の全体の厚さ(20〜40nmの範囲であってもよい)に対して、トラックに沿う方向において数ミクロンの厚さである。
【0017】
図4は、ディスク側から見たABSの図であって、CPP MRセンサ構造を構成する層を示す図である。図4は、先行技術のセンサ構造と同様に本発明によるセンサ構造を示すために用いられる。センサ100は、2つの磁気シールド層S1、S2間に形成された層スタックを含むCPP MR読み出しヘッドである。センサ100は、ABSにおける前縁と、トラック幅(TW)を画定する離間された側縁102、104とを有する。磁気シールド層S1、S2は、導電性材料から形成され、したがって、センス電流I用の導線として機能し得るが、センス電流Iは、一般に、センサスタックにおける層を通って垂直に導かれる。代替として、別個の導線層を、磁気シールド層S1、S2とセンサスタックとの間に形成してもよい。下部の磁気シールド層S1は、典型的には、化学機械研磨(CMP)によって研磨され、センサスタックの成長用の滑らかな基板を提供する。薄いRu/NiFe二重層などのシード層101が、典型的には、磁気シールド層S2の下にスパッタリングによって堆積され、比較的厚い磁気シールド層S2の電気めっきを容易にする。
【0018】
センサ100の層は、(ページの中へと)横に向けられた固定磁気モーメント又は磁化方向121を有する基準強磁性層120と、ディスク12からの横の外部磁界に応じて、層110の平面で回転できる磁気モーメント又は磁化方向111を有する自由強磁性層110と、基準強磁性層120と自由強磁性層110との間の非磁性スペーサ層130とを含む。CPP MRセンサ100は、CPP GMRセンサであってもよく、この場合には、非磁性スペーサ層130は、導電性材料、典型的にはCu、Au又はAgのような金属で形成され得る。代替として、CPP MRセンサ100は、CPPトンネルMR(CPP−TMR)センサであってもよく、この場合には、非磁性スペーサ層130は、TiO、MgO又はAlのような電気絶縁材料で形成されるトンネル障壁となるだろう。
【0019】
CPP MRセンサにおける固定強磁性層は、単一の固定層か又は図4に示すような逆平行(AP)固定構造であってもよい。AP固定構造は、非磁性逆平行結合(APC)層によって分離された第1(AP1)及び第2(AP2)の強磁性層を有し、2つのAP固定強磁性層の磁化方向は、ほぼ逆平行になっている。AP2層は、一方の側で非磁性APC層と接し、他方の側でセンサの非磁性スペーサ層と接しており、典型的には基準層と呼ばれる。AP1層は、典型的には一方の側で反強磁性又は硬質磁性体の固定層に接し、他方の側で非磁性APC層に接しており、典型的には固定層と呼ばれる。硬質磁性層に接する代わりに、AP1は、AP1が一方の側で下層と接し、かつ他方の側で非磁性APC層に接するように、それ自体、硬質磁性材料で構成することができる。AP固定構造は、基準/固定層とCPP MR自由強磁性層との間の正味の静磁結合を最小限にする。AP固定構造は、また「積層」固定層とも呼ばれ、時には合成反強磁性体(SAF)と呼ばれるが、これは、特許文献1において説明されている。
【0020】
図4のCPP GMRセンサにおける固定層は、AP結合(APC)層123をはさんで反強磁性的に結合された基準強磁性層120(AP2)及び下部強磁性層122(AP1)を備えた周知のAP固定構造である。APC層123は、典型的には、Ru、Ir、Rh、Cr又はそれらの合金である。自由強磁性層110と同様に、AP1及びAP2層は、典型的には、結晶CoFeもしくはNiFe合金、アモルファスもしくは結晶CoFeB合金、又は、これらの材料の多層構造、例えばCoFe/NiFe二重層などで形成される。AP1及びAP2強磁性層は、それらのそれぞれの磁化方向127、121が逆平行になっている。AP1層122は、図4に示すように、反強磁性(AF)層124と交換結合することによって、その磁化方向を固定してもよい。AF層124は、典型的には、Mn合金、例えばPtMn、NiMn、FeMn、IrMn、PdMn、PtPdMn又はRhMnである。代替として、AP固定構造は、「自己固定」であってもよく、又はそれは、Co100−xPt又はCo100−x−yPtCr(ここで、xは、約8〜30原子百分率である)などの硬質磁性層によって固定してもよい。硬質磁性層に接する代わりに、AP1層122は、それが一方の側で下層と接し、かつ他方の側で非磁性APC層123に接するようにして、単独で、硬質磁性材料を構成することができる。「自己固定」センサにおいて、AP1及びAP2層の磁化方向127、121は、典型的には、作製されたセンサ内に存在する磁気歪み及び残留応力によって、一般にディスク表面に垂直に設定される。AP1及びAP2層が、同様のモーメントを有することが望ましい。これによって、次のことが保証される。すなわち、自由層110への静磁結合が最小化され、かつAF層124の有効固定磁界(これは、AP固定構造の正味磁化にほぼ反比例する)が高いままであるために、AP固定構造の正味磁気モーメントが小さくなることが保証される。硬質磁性体固定層の場合には、硬質磁性体固定層モーメントは、自由層への静磁結合を最小限にするために、AP1及びAP2のモーメントのバランスを保つ場合の役割を負う必要がある。
【0021】
シード層125は、下部の磁気シールド層S1とAP固定構造との間に位置してもよい。AF層124が用いられる場合には、シード層125は、AF層124の成長を向上させる。シード層125は、典型的には、NiFeCr、NiFe、Ta、CuあるいはRuの1つの層であるか、又はこれらの材料からなる複数の層である。キャッピング層112が、自由強磁性層110と上部の磁気シールド層S2との間に位置する。キャッピング層112は、腐食を防止し、かつRu、Ta、Tiなどからなる単層、もしくは異なる材料からなる多層構造、又は、Ru/Ta/Ru、Ru/Ti/Ru、もしくはCu/Ru/Taの3層構造であってもよい。
【0022】
対象の範囲となる外部磁界、すなわちディスク上の記録データからの磁界が存在する状態において、自由層110の磁化方向111は回転し、一方で基準層120の磁化方向121は、固定されたままで回転しない。したがって、センス電流Iが、上部の磁気シールド層S2から、センサスタックを垂直に通って底部の磁気シールド層S1へ(又はS1からS2へ)印加される場合には、ディスク上の記録データからの磁界は、基準層磁化方向121に対して自由層磁化方向111の回転を引き起こし、これが、電気抵抗における変化として検出される。
【0023】
硬質磁性体バイアス構造150は、センサ100の側縁102、104の近く、特に自由層110の側縁の近くで、センサスタックの外部に形成される。構造150は、高い結晶異方性(K)及び高い保磁力(H)を有する強磁性バイアス層115を含み、それゆえ「ハードバイアス」層とも呼ばれる。また、構造150は、ハードバイアス層115の下部にシード層と、ハードバイアス層115上にキャッピング層118とを含む。構造150は、薄い電気絶縁層116によってセンサ100の側縁102、104から電気的に絶縁される。電気絶縁層116は、典型的には、アルミナ(Al)であるが、しかし、窒化ケイ素(SiN)、又はTa酸化物もしくはTi酸化物のような別の金属酸化物であってもよい。磁気シールド層S1は、バイアス構造150用の基板としての機能を果たし、絶縁層116は、バイアス構造150と磁気シールド層S1との間に位置している。シード層114は、絶縁層116上に堆積される。ハードバイアス層115は、ABSと略平行な磁化117を有し、したがって、自由層110の磁化111に縦にバイアスをかける。したがって、外部磁界が存在しない状態では、ハードバイアス層115の磁化117は、自由層110の磁化111と平行である。
【0024】
本発明は、記述され図4に示されるようなCPP MRセンサであるが、強磁性バイアス(ハードバイアス)層115は、化学的配列が規則付けられたFePtのLl相合金であり、シード層114は、イリジウム(Ir)又はルテニウム(Ru)の薄い層であり、キャッピング層118は、薄いRuの層又はRu/Irの二重層である。図5は、実際のセンサの走査型透過電子顕微鏡(STEM)の画像に基づく線画である。電気絶縁層116は、好ましくはアルミナであり、磁気シールド層S1上に、及び自由層110のTWエッジ110a、110bに接して堆積される。しかしながら、絶縁層はまた、窒化ケイ素、又はTa酸化物もしくはTi酸化物のような別の金属酸化物から形成してもよい。より好ましくは、自由層110のTWエッジ110a、110b近くで電気絶縁層116をより薄くしてハードバイアス層115をより近づけて、より高い有効磁界を得つつ、磁気シールド層S1上で自由層110から遠ざかった箇所では、電気絶縁層116をより厚くして、優れた絶縁特性を取得するとともに電気的分路を回避するのがよい。電気絶縁層116の典型的な厚さは、自由層110のTWエッジ110a、110b近くで約20〜40Åであり、磁気シールド層S1上で自由層110から遠ざかった箇所では約30〜50Åである。シード層114は、Ir又はRuの層であり、スパッタリング又はイオンビーム蒸着(IBD)により、5〜40Åの間、望ましくは10〜25Åの間の厚さに堆積される。ハードバイアス層115は、化学的配列が規則付けられたFePtのLl相二元合金である。FePtは、約130〜200Åの間の厚さまで、スパッタリングによりシード層114の上へ直接堆積される。堆積された状態では、FePtは、比較的低い異方性(K)(約10erg/cm)と、望ましくは43〜48原子百分率のPt成分とを有する面心立方(fcc)の不規則性合金である。キャッピング層118は、Ruの層又はRu/Irの二重層である。キャッピング層118のRuの層又はRu/Irの二重層は、約40〜100Åの間の厚さまで、スパッタリング又はIBDによりハードバイアス層115の上へ直接堆積される。層114、115、118の堆積後に、構造150は少なくとも270℃の温度で、少なくとも5時間焼なましされる。焼なまし温度を高くすると、一般的に、必要となる焼きなまし時間は、より短くなる。焼なまし処理によって、FePtが、高いK及び従って高い(3500Oeを超える)H、ならびに層の平面内に向いている磁化容易軸(c軸)を有する、化学的配列が規則付けられたLl(fct)相合金に変換される。焼なまし処理は、別のセンサ焼なまし工程の間に既に確立されている固定層の磁化方向を妨げないために、ABSに直角な5テスラの磁場の存在下で行なわれる。しかしながら、固定層の磁化方向を確立するためのセンサ焼なましは、ハードバイアス焼なましと同時に行われ得る。
【0025】
データ密度が、磁気記録ディスクドライブにおいて増加するにつれて、読み出しヘッド寸法、特に、シールド対シールド(S1対S2)間隔を短くすることが求められる。しかしながら、たとえS1対S2間隔が短くされても、自由層110の磁気安定化を保証するために、ハードバイアス層115における残留磁化と厚さとの積(Mt)を最大化することが望ましい。これは、次のことを意味する。すなわち、できるだけ薄いシード層114を有し、それでも一方でH、Mt及び直角度(S=M/M)などの適切な磁気特性を備えたハードバイアス層115の成長を可能にすることが望ましいことを意味する。また、できるだけ薄いシード層構造を有することは、それが、自由層対硬質バイアス層間隔を最小化し、これにより、静磁結合が増加するために自由層の安定化が向上するので望ましい。本発明において、シード層114の厚さは、ほぼ先行技術のシード層の最小厚さである40Å未満にすることができ、そして約10Åにまで薄くされ得る。図6は、以下に示す硬質磁性体バイアス構造に対するIrシード層厚さ(t)の関数としての、Mt及びHを示すグラフである。
t−Ir(シード)/150Å Fe56Pt44(ハードバイアス)/80Å Ru(キャッピング)
【0026】
図6は、Irシード層を約10Åにまで薄くでき、約3500OeのH及び約1.2memu/cmのMtを有するハードバイアス層を依然として達成できることを例証している。同様の結果がRuシード層で得られている。
【0027】
t及びHに対するRuキャッピング層の厚さ(t)の影響が、以下に示す硬質磁性体バイアス構造に対しても測定された。
15Å Ir又はRu(シード)/150Å Fe56Pt44(ハードバイアス)/t−Ru(キャッピング)
【0028】
Ir又はRuの15Åシード層のいずれかの構造に関し、約3000OeのHを有するハードバイアス層が、約40Åの薄いRuキャッピング層の厚さに対して達成された。約3500OeのHを有するハードバイアス層が、60〜80Åの間のRuキャッピング層に対して達成され、約80Åを超えるとHにおける顕著な改善は無かった。同様の結果が、Ru/Irの二重層、特にキャッピング層としての60Å Ru/20Å Irの二重層で得られた。同じ構造に対するMtの測定に関して、1.2memu/cmよりも大きいMtを有するハードバイアス層が、15ÅのIrシード層と、30〜90Åの間の厚さを有する、Ru又はRu/Irのキャッピング層とによって達成でき、そして、シード層が15ÅのRuシード層の場合では、1.3memu/cmよりも大きいMtを有するハードバイアス層が達成され得る。
【0029】
及びMtに対する、FePt合金におけるPtの原子百分率の影響もまた測定された。図7は、以下の様々な形態の構造に対するPtの原子百分率の関数としてのHを示している。
20Å Ir又はRu(シード)/170Å Fe(100−x)Pt(ハードバイアス)/60Å Ru−20Å Ir(キャッピング)
【0030】
図7は、Irシード層と、堆積された状態のままの(焼なまし前の)約43〜46の間のPtの原子百分率を伴うFePt合金とを有する構造に対して、最も高いH(約4000〜4500Oe)が達成されることを示している。Ruシード層と、堆積された状態の(焼なまし前の)約44〜48の間のPtの原子百分率を伴うFePt合金とを有する構造に対して、最も高いH(約3500〜4000Oe)が達成される。同じ構造に対してMtの測定を行った場合、Irシード層と、約43〜46の間のPtの原子百分率を伴うFePt合金とを有する構造に対して、最も高いMt(約1.35〜1.40memu/cm)が達成されることを示した。また、Ruシード層と、約44〜48の間のPtの原子百分率を伴うFePt合金とを有する構造に対して、最も高いMt(約1.40〜1.50memu/cm)が達成される。
【0031】
また、約130〜180Åの間のFePtハードバイアス層、及び約10〜40Åの間のRu又はIrシード層を有する全ての例において、直角度Sは、0.85以上であり、FePtの厚さによって大幅には変動せずに比較的一定であり、一般に約0.87〜0.89であった。
【0032】
本発明によるハードバイアス構造を有するMRセンサ構造が、磁気記録ディスクドライブ用のCPP GMR又はTMR読み出しヘッドにおける、その適用に関して上述されてきた。しかしながら、本センサ構造はまた、自動車用途及び磁力計としての使用に関するような、別のタイプのMRセンサにも適用可能である。
【0033】
好ましい実施形態に関連して本発明を特に図示して説明したが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに、形態及び詳細における様々な変更をなし得ることが当業者によって理解されよう。したがって、開示される本発明は、単に実例として見なされ、添付の特許請求の範囲において特定される範囲においてのみ限定される。
【符号の説明】
【0034】
12 磁気記録ディスク
13 回転中心
14 回転ボイスコイルモータアクチュエータ
15 方向
16 ベース
17 軸
18 剛性アクチュエータアーム
20 サスペンション
22 空気ベアリングスライダ
23 屈曲部
24 読み出し/書き込みヘッド
25 スライダの後面
27 空気ベアリング面
29 端子パッド
50 離散データトラック
100 センサ又は読み出しヘッド
101 シード層
102 側縁
104 側縁
110 自由層
110a TWエッジ
110b TWエッジ
111 磁化方向
112 キャッピング層
114 シード層
115 ハードバイアス層
116 電気絶縁層
117 磁化
118 キャッピング層
120 基準強磁性層
121 磁化方向
122 下部強磁性層
123 逆平行結合層
124 反強磁性層
125 シード層
127 磁化方向
130 非磁性スペーサ層
150 構造
ABS 空気ベアリング面
S1 磁気シールド層
S2 磁気シールド層
AP1 第1の強磁性層
AP2 第2の強磁性層
APC 逆平行結合層
TW トラック幅
WP 磁気書き込み極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上にある磁気抵抗センサであって、該磁気抵抗センサが、強磁性の自由層を含む層のスタックを含み、前記自由層が、前縁と、前記前縁に対して奥の位置にある後縁と、間隔をあけて位置している2つの側縁とを有する、磁気抵抗センサと、
前記自由層の前記側縁上にあって前記自由層の前記側縁に接触し、前記磁気抵抗センサに隣接する前記基板の領域にある電気絶縁層と、
前記電気絶縁層上にあり、前記電気絶縁層に接触するシード層であって、Ir及びRuから選択される材料で構成されるシード層と、
前記シード層上にあり、前記シード層に接触するFePt合金層であって、該FePt合金層のc軸が概して前記FePt合金層の平面内にある面心正方構造を有し、強磁性の化学的配列が規則付けられたFePt合金層と、
前記FePt合金層上にあって前記FePt合金層に接触する、Ru層を含むキャッピング層と
を備える磁気抵抗センサ構造。
【請求項2】
前記シード層が、10Å以上で40Å以下の厚さを有する、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項3】
前記キャッピング層が、40Å以上で100Å以下の厚さを有するRu層から構成されれる、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項4】
前記キャッピング層が、前記Ru層の上にあって前記Ru層に接触するIr層をさらに含む、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項5】
前記キャッピング層の全体厚さが、40Å以上で100Å以下である、請求項4に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項6】
堆積された状態にある前記FePt合金が、Fe(100−x)Ptの形態の組成を有し、ここで、xは、原子百分率であり、xは、43以上で48以下の値である、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項7】
前記FePt合金層が、130Å以上で200Å以下の厚さを有する、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項8】
前記FePt合金層が、3500Oeよりも大きい保磁力Hを有する、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項9】
前記FePt合金層における残留磁化(M)の飽和磁化(M)に対する比率(S)が、0.85よりも大きい、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項10】
前記FePt合金層における残留磁化−厚さ積(Mt)が、1.2memu/cmより大きい、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項11】
前記電気絶縁層が、アルミニウム酸化物、タンタル酸化物、チタン酸化物及び窒化ケイ素から選択される材料で形成される、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項12】
前記基板が、磁気透過性材料で形成される第一シールド層であり、
前記磁気抵抗センサの前記スタック及び前記キャッピング層上に磁気透過性材料の第二シールド層をさらに含む、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項13】
前記磁気抵抗センサが、巨大磁気抵抗(GMR)センサである、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項14】
前記磁気抵抗センサが、トンネル磁気抵抗(TMR)センサである、請求項1に記載の磁気抵抗センサ構造。
【請求項15】
磁気記録ディスクのドライブ用の面垂直電流(CPP)磁気抵抗(MR)読み出しヘッドであって、
基板と、
前記基板上の磁気透過性材料の第一シールド層と、
前記第一シールド層上に強磁性の自由層を含む層のセンサスタックであって、前記センサスタックが、間隔をあけて位置している2つの側縁を有し、前記自由層が、前記磁気記録ディスク上の記録データからの磁界の存在下で自由に回転する磁化を有する、層のセンサスタックと、
前記自由層の前記側縁上にあって前記自由層の前記側縁に接触し、前記センサスタックに隣接する前記第一シールド層の領域にある電気絶縁層と、
硬質磁性体構造と
を備え、
前記硬質磁性体構造が、
Ir及びRuから選ばれる材料で構成されるシード層であって、前記シード層が、絶縁層の上にあって前記絶縁層に接触し、10Å以上で25Å以下の厚さを有する、シード層と、
前記自由層の磁化にバイアスをかけるための前記シード層の上に堆積され、前記シード層に接触する、化学的配列が規則付けられた強磁性のFePt合金層であって、前記FePt合金層が、堆積された状態でFe(100−x)Ptの形態の組成を有し、ここで、xは原子百分率で43以上かつ48以下の値であり、前記FePt合金層が、前記FePt合金層のc軸を概して前記合金層の平面内に持つ面心正方構造を有する、FePt合金層と、
Ru層を含むキャッピング層であって、前記FePt合金層の上にあって前記FePt合金層に接触し、40Å以上で100Å以下の厚さを有するキャッピング層と、
前記センサスタックとキャッピング層上の磁気透過性材料である第二シールド層と
を備える、読み出しヘッド。
【請求項16】
前記FePt合金バイアス層が、3500Oeよりも大きい保磁力を有する、請求項15に記載の読み出しヘッド。
【請求項17】
前記FePt合金バイアス層における残留磁化(M)対飽和磁化(M)の比率(S)が、0.85より大きい、請求項15に記載の読み出しヘッド。
【請求項18】
前記FePt合金バイアス層における残留磁化−厚さ積(Mt)が、1.2memu/cmより大きい、請求項15に記載の読み出しヘッド。
【請求項19】
前記絶縁層が、アルミニウム酸化物、タンタル酸化物、チタン酸化物及び窒化ケイ素から選択される材料で形成される、請求項15に記載の読み出しヘッド。
【請求項20】
前記CPP MR読み出しヘッドが、巨大磁気抵抗(GMR)読み出しヘッドである、請求項15に記載の読み出しヘッド。
【請求項21】
前記CPP MR読み出しヘッドが、トンネル磁気抵抗(TMR)読み出しヘッドである、請求項15に記載の読み出しヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−216275(P2012−216275A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−67040(P2012−67040)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(503116280)エイチジーエスティーネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】