説明

放電表面処理装置及び放電表面処理方法

【課題】大気圧下での多湿放電から発生する水酸基ラジカルを積極的に利用することで、高速処理が可能でかつ、環境にやさしい放電表面処理装置およびその方法を提供する。
【解決手段】 高電圧電極7と、前記高電圧電極に対向して配置され、前記高電圧電極との間にプラズマ生成領域18を形成する接地電極12A,12Bとを有し、前記高電圧電極と前記接地電極の少なくとも一方が誘電体で覆われた放電部10A,10Bと、前記高電圧電極と前記接地電極との間に高電圧を印加する高電圧電源5と、前記プラズマ生成領域にガスを供給するガス供給部3と、前記ガス供給部から供給されるガスに湿分を付与して多湿ガスとする多湿化装置2と、を具備し、前記高電圧電極7は、該高電圧電極7から前記接地電極12A,12Bまでの距離Cの5%以上の曲率半径で処理対象側の端部が凸曲面加工されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスや高分子プラスチック、絶縁フィルムの表面処理(表面洗浄・表面改質)、半導体ウェハのデスミア処理に係り、主に処理対象の表面に付着する微小な有機物除去による洗浄および親水性向上を目的とし、高電圧が処理対象に印加されることなく、環境面負荷低減、製品の歩留まり向上ならびに工業的付加価値を高める放電表面処理装置及び放電表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面処理技術は主に酸化性化合物や有機溶剤を利用したウェット処理が主流であった。酸化性化合物や有機溶剤は人体に有害であるが、それら自体のコストは高くなく、技術も確立されているため、多くの表面処理工程で利用されている。しかしながら、ウェット処理は後段に乾燥工程が必要であること、乾燥中に揮発性有機物が発生し処理設備が必要であること、さらに処理後に酸化性化合物や有機溶剤の処理を行う必要があることなどの問題がある。近時、有害な酸化性化合物や有機溶剤に対する法的規制が強まり、処理に使用した後の規制値以下までの低減、処理中に使用される酸化性化合物や有機溶剤に替わる新たな技術の開発が強く望まれている。
【0003】
酸化性化合物や有機溶剤を使用しないドライ処理に関する研究開発は近年において盛んに行われ、種々の提案がなされている。例えば特許文献1は面状の誘電体バリア放電をSFガスに対して発生させる方法を、また特許文献2ではマイクロ波放電により行う方法を、また特許文献3では真空紫外線ランプにより行う方法をそれぞれ提案している。
【0004】
これらのドライ処理は、従来のウェット処理に比べて環境面で優れていると一般には考えられているが、それぞれに解決しなければならない未解決の問題点がある。特許文献1の方法では、地球温暖化係数が二酸化炭素の23,400倍も高いSFガスを利用すること、および面状の誘電体バリア放電は放電が一箇所に集中しやすいことが問題となる。また、特許文献2の方法では、マイクロ波放電を用いるので高分子材料基板の表面が熱により損傷するおそれがあることが問題となる。また、特許文献3の方法では、真空紫外線発生のためのキセノンガスが非常に高価であること、および酸素雰囲気中では真空紫外線のほとんどが酸素に吸収されてしまうため窒素等のガス空間もしくは真空雰囲気下で処理を行う必要があることが問題となる。
【特許文献1】特開2006−4684号公報
【特許文献2】特開2005−347619号公報
【特許文献3】特開2005−336615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、大気圧下において処理対象近傍で処理対象に高電圧を印加させることなく多湿放電から活性種で特に、OHラジカルを発生させ、高速処理でかつ、環境にやさしい、表面処理を行うことが可能な放電表面処理装置及び放電表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1)の発明に係る放電表面処理装置は、高電圧電極と、前記高電圧電極に対向して配置され、前記高電圧電極との間にプラズマ生成領域を形成する接地電極とを有し、前記高電圧電極と前記接地電極の少なくとも一方が誘電体で覆われた放電部と、前記高電圧電極と前記接地電極との間に高電圧を印加する高電圧電源と、前記プラズマ生成領域にガスを供給するガス供給部と、前記ガス供給部から供給されるガスに湿分を付与して多湿ガスとする多湿化装置と、を具備し、前記高電圧電極は、該高電圧電極から前記接地電極までの距離Cの5%以上の曲率半径で処理対象側の端部が凸曲面加工されていることを特徴とする。
【0007】
1)の発明によれば、放電部の両電極間に高電圧を印加して両電極間で放電を発生させ、ガス供給部からのガスを多湿化装置に通過させることで多湿されたガスは、放電部で発生する放電内を通過した後に被処理基板まで到達する。多湿ガスを放電内に通過させると、以下の反応により強力な活性種の1つであるヒドロキシルラジカル(・OH)が発生する。すなわち、放電プラズマ内で多湿ガス中の酸素からは下式(1)と(2)に従って酸素原子やオゾンが発生し、また多湿成分である水からは下式(3)に従って水酸基ラジカル、すなわちヒドロキシルラジカル(・OH)が発生する。また、酸素原子と水が反応する下式(4)と(5)に従ってヒドロキシルラジカル(・OH)が発生する。
【0008】
オゾンの生成反応
e + O2 → O(1D) + O(3P) + e …(1)
O(3P) + O2 + M → O3 + M …(2)
ヒドロキシルラジカル(・OH)の生成反応
e + H2O → ・OH + ・H + e …(3)
O(1D) + H2O → ・OH + ・OH …(4)
O(3P) + H2O → ・OH + ・OH …(5)
上式(1)〜(5)のうちオゾンO3、酸素原子で励起状態のO(1D)、基底状態のO(3P)、ヒドロキシルラジカル・OHはそれぞれ活性種であり有機物との酸化反応の反応速度が非常に速い。特に、ヒドロキシルラジカルは上記の活性種の中でも最も反応性に富み、有機物を二酸化炭素にまで反応させることができる。すなわち、ごみなどが付着した物質の表面洗浄をドライ処理で行うことが可能となる。また、活性種は有機物と反応する際、有機物分解の中間性生物であるカルボキシル基を生成する。また、放電ではヒドロキシル基が生成される。これらが無機高分子材料基板の表面に付着することにより、物質表面の濡れ性が大幅に向上するため、接着剤における接着強度を大幅に向上させることが可能となる。また、用途に応じて供給ガス種を適宜選択して活性種の複合効果を高めてもよい。例えば上記の酸素含有ガスや窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどを使用してもよい。
【0009】
ヒドロキシルラジカル(・OH)の生成反応
e + H2O → ・OH + ・H + e …(6)
窒素ラジカル(・N)の生成反応
e + N2 → ・N + ・N + e …(7)
励起窒素分子の生成反応
e + N2 → N2* + e …(8)
上式(6)〜(8)式のうち、ヒドロキシラジカル(・OH)は有機物分解反応ならびに水酸基付着による親水性の向上に寄与する。窒素ラジカルは、例えばベンゼン環を有する有機物で炭素と結合する水素の間にヒドロキシラジカル(・OH)が反応した場合、水素が結合から離れる。このとき、水素との反応性の高い窒素ラジカル(・N)が近くにあるとN-H結合を形成することから、水素は再びベンゼン環に戻らずに水素が結合していた場所には例えばヒドロキシラジカル(・OH)が結合できる。このような反応が起こったときに、親水性が向上する。励起窒素分子は酸化力が高いため、有機物分解反応に寄与するだけでなくグロー放電化に寄与するとも言われており、放電の均一化が期待できる。
【0010】
1)の発明によれば、高電圧電極の被処理基板側の端部は、当該高電圧電極から前記接地電極までの距離Cの5%以上の曲率半径で凸曲面加工(R加工)されることにより、高電圧電極端部の電界強度を低減させることができるようになる。これにより高電圧電極から被処理基板に対する異常放電を低減させることができ、さらに高電圧電極と接地電極間の放電をより均一に発生できるようになる。大気圧放電には多湿の処理ガスを流すことにより、放電プラズマ内で生成した活性種をガス流により被処理基板のほうに移行させ、表面を処理する。このとき放電プラズマ自体は被処理基板に接触しないため、放電プラズマ内の電子もしくはイオン衝突による基板表面の損傷を有効に防ぐことができる。
【0011】
2)の発明では、高電圧電極と接地電極との間にガス流路が形成されるように接地電極が高電圧電極の周囲を取り囲み、高電圧電極の処理対象側の端部から処理対象までの距離L2は、高電圧電極から接地電極までの距離Cよりも長い。
【0012】
2)の発明によれば、高電圧電極から処理対象への異常放電を防ぐだけでなく、高電圧電極端部の高電界により生じる接地電極と高電圧電極間の放電を均一して発生できるようになる。これにより、処理対象の損傷を防ぐだけでなく、より安定した処理の制御が可能になる。
【0013】
3)の発明では、接地電極は、一端側に前記ガス供給部からのガスが流入するガス入口が連通し、他端側に前記一端側の流路の径d1より小さい径d2の狭い流路がガス出口として開口している。
【0014】
3)の発明によれば、ガス流速を大きくすることができるだけでなく、高電圧電極で被処理基板側の端部に発生する高電界が被処理基板に影響をおよぼす可能性をより低減させることができるようになる。これにより、放電内で発生した活性種をより効率よく被処理基板の表面で反応させ、さらに被処理基板を高電圧(放電プラズマ)にさらす可能性を低減させ、高電圧(放電プラズマ)による被処理基板の損傷を防ぐことができる。
【0015】
4)の発明では、処理対象側の端部で前記ガス流路が狭まれている前記接地電極の部位は、前記接地電極の内幅d1の50%以上の曲率半径で曲面加工されている。
【0016】
4)の発明によれば、ガス流をより安定して処理対象に吹き出すことができるだけでなく、高電圧電極端部の高電界を低減させることができるようになるため、高電圧電極から処理対象への異常放電を防ぐことができ、処理対象の損傷を防ぐことができるようになる。
【0017】
5)の発明では、前記接地電極の被処理基板側の端部開口に設けられ、少なくとも一箇所以上の通気部をもつ導電性の有孔板または導電性のメッシュを有する。
【0018】
5)の発明によれば、接地電極で処理対象側の端部は導電性で少なくとも一箇所以上の通気部もしくは導電性メッシュに覆われることにより、処理対象に異常放電が発生することを防ぐことができるようになるだけでなく、電界を接地電極の処理対象側から外に漏らすことなく放電を発生させることができるようになる。これにより、処理対象に高電圧を印加させることなく処理対象の電圧による損傷を防ぐことができるようになる。
【0019】
6)の発明では、前記高電圧電極と前記接地電極との間隙Cを所定の設定間隔に規定する絶縁スペーサをさらに有する。
【0020】
6)の発明によれば、絶縁スペーサを用いて間隙Cを一様な間隔にすることにより、生成される放電プラズマが均一化して処理の効率がさらに向上する。
【0021】
7)の発明では、前記高電圧電極と前記接地電極との間隙Cは、前記誘電体に覆われた高電圧電極の被処理基板側の端部から前記接地電極の端部までの距離(L2−L1)よりも短い。
【0022】
7)の発明によれば、接地電極と誘電体に覆われた高電圧電極の間は、高電圧電極で表面処理対象側の端部と接地電極の端部との距離よりも短くすることにより、高電圧電極から処理対象への異常放電を発生させにくくすることができることから、処理対象に高電圧を印加させることなく処理対象の電圧による損傷を防ぐことができるようになる。
【0023】
8)の発明では、前記高電圧電極から被処理基板までの距離L2および前記プラズマ生成領域から被処理基板までの距離L3のうち少なくとも一方を所定の設定距離に調整する離間距離調整手段をさらに有する。
【0024】
8)の発明によれば、距離L2又はL3を短くすることにより、生成したラジカルが被処理基板の表面まで短時間で到達できるようになり、処理効率が向上する。
【0025】
9)の発明では、前記接地電極の一端側に連結され、前記ガス供給部に連通するガス入口を有し、前記ガス入口から導入されるガスが一時的に溜まるガスバッファ部を形成するガスカバーをさらに有する。
【0026】
9)の発明によれば、多湿化装置を通過した多湿ガスはガスバッファ部にて一時的に滞留した後に、放電電極部で発生する放電プラズマ中を通過し、被処理基板に吹き付けられる。絶縁キャップの大きさ(容積)を変えることにより、それに応じてガスバッファ部の容量が変わり、接地電極のガス出口から吹出すガスの流速を種々変えることができる。ガスバッファ部の容量(ガスカバーの容積)は、生成した水酸基ラジカル(・OH)を10ミリ秒以下、好ましくは5ミリ秒以下の時間で被処理基板の表面まで到達させるための1つのパラメータとなる。
【0027】
10)の発明に係る放電表面処理方法は、(a)誘電体で覆われた高電圧電極、および前記高電圧電極を取り囲むように前記高電圧電極に対向して配置された接地電極を有する放電部を準備する、但し、前記高電圧電極は、被処理基板側の端部が高電圧電極厚さTの5%以上の曲率半径で凸曲面加工されていること、(b)被処理基板を基板載置台上に載置し、(c)前記放電部から前記基板載置台上の被処理基板までの距離を所定の設定間隔に調整し、(d)前記高電圧電極と前記接地電極との間隙に多湿ガスを通流させるとともに、前記高電圧電極と前記接地電極との間に高電圧を印加し、多湿ガスの雰囲気下で前記両電極間に放電を生じさせ、放電プラズマ中において前記多湿ガス中に含まれるH2Oから水酸基ラジカル(・OH)を生成させ、生成した水酸基ラジカル(・OH)を前記多湿ガスの流れに随伴させて被処理基板まで移行させ、該水酸基ラジカル(・OH)を被処理基板に作用させて表面を改質処理することを特徴とする。
【0028】
10)の発明によれば、高電圧電極から被処理基板に対する異常放電を低減させることができ、さらに高電圧電極と接地電極間の放電をより均一に発生できるようになる。このとき放電プラズマ自体は被処理基板に接触しないため、放電プラズマ内の電子もしくはイオン衝突による基板表面の損傷を有効に防ぐことができる。
【0029】
11)の発明では、工程(d)において、生成した水酸基ラジカル(・OH)が10ミリ秒以下の時間で被処理基板の表面まで到達するように前記多湿ガスの流速および行程距離を調整する。
【0030】
11)の発明によれば、生成したラジカルが消滅する前に、生成ラジカルの少なくとも一部を被処理基板まで到達させることができるため、被処理基板の表面を処理することができる(図5、図6)。
【0031】
12)の発明では、工程(d)において、生成した水酸基ラジカル(・OH)が5ミリ秒以下の時間で被処理基板の表面まで到達するように前記多湿ガスの流速および行程距離を調整する。
【0032】
12)の発明によれば、生成したラジカルが消滅する前に、生成ラジカルの全部または大部分を被処理基板まで到達させることができるため、被処理基板の表面をさらに高効率で処理することができる(図5、図6)。
【0033】
13)の発明では、工程(d)において、大気圧程度または大気圧より少し高い圧力雰囲気下で放電プラズマを生成する。
【0034】
13)の発明によれば、大気圧程度または大気圧より少し高い圧力雰囲気下で放電プラズマを発生させ、基板の表面を処理する。大気圧放電には多湿ガスを流すことにより、放電プラズマ中に活性種を生成させ、生成した活性種を被処理基板に吹き付けることにより被処理基板の表面を処理する。ここで「大気圧程度または大気圧より少し高い圧力」とは、1気圧前後(悪天候のときは1気圧以下の場合もありうる)から2気圧以下(101.325〜202.650 kPa)程度の範囲の圧力を意味するものと定義する。
【0035】
多湿ガスとして純酸素ガス(工業的なレベルでの純粋な酸素ガス)、純窒素ガス(工業的なレベルでの純粋な窒素ガス)、酸素と希ガスとの混合ガス、窒素と希ガスとの混合ガス(含む空気)、酸素と窒素との混合ガス、空気、空気と希ガスとの混合ガス、空気と酸素と希ガスとの混合ガス、空気と窒素と希ガスとの混合ガスなどを用いることができる。例えば、工業用の一般標準窒素ガス(純度99.5%以上)を水中にガスバブリングして窒素96.5%以上、水分3%程度の成分比率とした多湿窒素ガスを用いることができる。また、工業用の一般標準アルゴンガス(純度99.5%以上)を水中にガスバブリングしてアルゴン96.5%以上、水分3%程度の成分比率とした多湿アルゴンガスを用いることができる。
【0036】
また、処理温度は室温又は室温前後の温度域とし、具体的には0〜40℃の範囲で処理することが好ましい。高分子材料基板の材料の変質および変形を生じることなく処理できるからである。
【0037】
本発明では、各種の無機高分子材料や有機高分子材料からなる基板の表面を処理対象とすることができる。被処理基板が無機高分子材料である場合は、酸素を含む湿分含有ガスを用いて高効率に処理することができる。また、被処理基板が有機高分子材料である場合は、窒素を含む湿分含有ガスを用いて高効率に処理することができる。
【0038】
無機高分子材料としてNa2O-CaO-SiO2系ガラス(ソーダガラス等)、Na2O-B23-Al23-SiO2系ガラス(ホウケイ酸ガラス等)、Na2O-CaO-Al23-SiO2,Au,Ag,Cu系ガラス(感光写真ガラス等)、B23-La23-RO(RO;PbO,BaO,CdO)系ガラス(高屈折低分散光学ガラス等)、NaF-TiO2-SiO2系ガラス(低屈折高分散光学ガラス等)、Na2O-CaO--SiO2Ce,Eu系ガラス(透過率可変ガラス等)、V25-BaO-P25系ガラス(半導性ガラス等)、B23-TiO2-BaO系ガラス(強誘電性結晶化ガラス等)、Fe23-MnO(BaO)-Li2O-SiO2系ガラス(強磁性結晶化ガラス等)、MgO-CaO-B23-Al23-SiO2系ガラス(無アルカリガラス等)等を挙げることができる。高分子材料基板有機高分子材料としてポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリエステル(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF-PET)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリイミド(PI)等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を組み合わせた材料からなる高分子材料基板の表面を本発明により処理することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、大気圧下において処理対象近傍で処理対象に高電圧を印加させることなく多湿放電から活性種で特に、OHラジカルを発生させ、高速処理でかつ、環境にやさしい、表面処理を行うことが可能な放電表面処理装置及び放電処理方法が提供される。本発明によれば、活性種のみを被処理基板の表面まで到達させ、放電部に生じる高電界が被処理基板側に届かないため、半導体プロセスや液晶基板洗浄工程などに用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、添付の図面を参照して本発明を実施するための種々の形態を説明する。
【0041】
(第1の実施の形態)
図1と図2を参照して本発明の第1の実施の形態に係る放電表面処理装置を説明する。放電表面処理装置1Aは、放電部10A、多湿化装置としての曝気部2、ガス供給部3、移動機構4、高電圧発生電源5、高電圧電極7A、ガスカバー11A、接地電極12A、制御部30、基板載置台40、離間距離調整手段としての昇降シリンダ45を備えている。放電表面処理装置1Aは制御部30によって全体の動作が統括的に制御されるものである。すなわち、制御部30の入力側には図示しない温度センサ、圧力センサ、流量センサなどから各種の検知信号S1,S2,S3が入力され、制御部30のCPUは入力信号とデータベースに格納された処理条件データとに基づき制御量の演算を実行し、出力側からはガス供給部3、電源5、昇降シリンダ45、図示しない移動機構の駆動モータにそれぞれ制御指令信号が出力されるようになっている。
【0042】
ガス供給部3は、処理ガスとして工業的に純粋なアルゴンガス(純度99.5%以上)が貯留されている。ガス供給部3のガス供給口はラインL1を介して曝気部2の入口に連通している。ラインL1には図示しない流量制御弁および圧力制御弁が設けられ、曝気部2に供給されるガスの流量と圧力が所望値にコントロールされるようになっている。
【0043】
曝気部2は、処理ガスとしてのアルゴンガスに湿分を与える加湿液体として常温常圧の水を貯留している。曝気部2の下部には散気部31が設けられている。散気部31は、ラインL1を介してガス供給部3に連通し、曝気部2内の水中に浸漬されている。散気部31は円筒形状の多孔質部材またはバブリングノズルを備えている。散気部31から曝気部2の水中に処理ガスをバブリングすると、処理ガスは細かな気泡となって多量の湿分を含むようになり、ほぼ飽和蒸気量の湿分を含む多湿アルゴンガスが生成されるようになっている。
【0044】
曝気部2は、ラインL2が接続されたガスカバー11Aを介して放電部10A上部のガスバッファ部9に連通している。ガスカバー11Aの上部にはラインL2に連通するガス入口11aが形成されている。ガスカバー11Aの大きさ(容積)に応じてガスバッファ部9の容量が決まる。ガスバッファ部9は、所定レベル以上の大きさの容量をもつものであり、多湿のアルゴンガスが結露しないように図示しないヒータや断熱材を備えるようにしてもよい。
【0045】
次に、図2を参照して放電部10Aの詳細を説明する。
【0046】
放電部10Aは、高電圧発生電源5、高電圧電極7A、および接地電極12Aを備えている。高電圧発生電源5は、両電極7A,12A間に高電圧を印加するために、高電圧側が放電電極部7Aに接続され、接地側が接地電極12Aに接続されている。高電圧電極7Aは、一端側に電源5の配線が接続され、高電圧電極7Aおよび接地電極12Aのうち少なくとも一方は誘電体8で覆われている。誘電体8にはアルミナ、耐熱ガラス、石英、ジルコニアなどのセラミックが用いられる。このうち特にアルミナが誘電体8に適している。誘電体8は、例えばゾルゲル法を用いて高電圧電極7Aに所望厚さに塗布形成される。高電圧電極7Aは、複数の絶縁スペーサ16を介して接地電極12Aに支持固定されている。
【0047】
絶縁スペーサ16は、処理ガスの通流を妨げないように取付け数と寸法が制限されている。これらの絶縁スペーサ16により両電極7A,12A間に実質的に等間隔の間隙Cとして放電プラズマ生成領域18が形成され、両電極7A,12A間に高電圧を印加すると、放電プラズマ生成領域18に均一な密度の放電プラズマが生成されるようになっている。例えば、高電圧電極7Aと接地電極12Aとの間に電源5から例えば1〜1.5万V以上の高電圧を印加すると、高電圧電極7Aと接地電極12Aとの間の領域18に放電プラズマが生成される。このとき例えば生成ラジカルの密度は1013〜1014個/cm3に達する。
【0048】
本実施形態の接地電極12Aは、その形状が中空のブレード状であり、上端および下端がそれぞれ開口している。接地電極12の上端開口にはガスカバー11Aが被せられ、そのガス入口11aを通って処理ガスが放電部10A内の放電プラズマ生成領域18に導入されるようになっている。
【0049】
本実施形態では高電圧電極7Aの両脇で放電が発生する構造にしているが、どちらか一方に放電が発生する構造を採用してもよい。また、条件によっては接地電極12Aで高電圧電極側を誘電体8により覆ってもよい。放電プラズマ生成領域18において高電圧電極7Aから接地電極12Aまでの距離Cは、高電圧電極7Aの最下端部から接地電極12Aの最下端部までの距離(L2−L1)よりも短くすることにより、高電圧電極7Aの最下端部から被処理基板Gへの異常放電を防ぐことができるようになる。
【0050】
また、高電圧電極7Aの最下端部を凸曲面加工(R加工)することにより、高電圧電極7Aの最下端部における電界強度を低減させることができるようになることから、高電圧電極7Aの最下端部から被処理基板Gへの異常放電を防ぐことができるようになる。
【0051】
一方、接地電極12Aの下端開口には導電性メッシュ15が取り付けられている。導電性メッシュ15は、高電圧電極7Aと被処理基板Gとの間に異常放電が発生するのを防止するとともに、放電部10A内で生じる電界を接地電極12Aの被処理基板側から外部に漏らすことなく、放電プラズマを生成する機能を有する。導電性メッシュ15を設けることにより、被処理基板Gに高電圧を印加することなく電界による被処理基板Gの損傷が有効に防止される。なお、導電性メッシュ15の代わりに1つ又は複数の孔をもつ有孔板を用いるようにしてもよい。
【0052】
多湿の処理ガスは、図1中に矢印19で示すように、ガス入口11a→ガスバッファ部9→放電プラズマ生成領域18→導電性メッシュ15(ガス出口)の順に通流して、最終的に流速vで被処理基板Gの表面(上面)に吹きつけられる。この処理ガスは、放電プラズマ中に生成された活性種を被処理基板Gまで搬送するキャリアガスとなる。
【0053】
被処理基板Gは基板載置台40の上に載置されている。本実施形態では被処理基板Gとしてプリント基板を模擬した絶縁用のポリイミドテープ(パーマセル社、P−222)を用いた。基板載置台40は、被処理基板Gよりも少し大きく、図示しない水平移動機構および昇降シリンダ45により可動に支持されている。水平移動機構および昇降シリンダ45は、それぞれ制御部30により動作が制御されるようになっている。基板載置台40上の被処理基板Gは、水平移動機構によってY方向に移動され、かつ昇降シリンダ45によってZ方向に移動される。
【0054】
水平移動機構(図示せず)は、モータと、モータの回転駆動軸に取り付けられた一対の駆動ローラと、駆動ローラに対して所定ピッチ間隔に配置された複数対のガイドローラ(図示せず)とを備えている。駆動ローラの回転駆動により被処理基板Gがガイドローラに案内されながらY方向に移動される。なお、駆動ローラおよびガイドローラの周面はスリップ防止のためにゴム等の摩擦係数が大きい材料でつくられている。水平移動機構による被処理基板Gの移動速度は、表面処理条件に応じて様々に変えられる。
【0055】
昇降シリンダ45が基板載置台40をZ方向に移動させることにより、ガスカバー11Aの最下端部から被処理基板Gの上面までの距離L1、高電圧電極7Aの最下端部から被処理基板Gの上面までの距離L2をそれぞれ所望の設定距離に調整することができる。距離L1は、ガスカバー11Aの最下端部が被処理基板Gに接触しない範囲で可能な限りできるだけ短くすることが好ましく、例えば約1mmに設定される。
【0056】
放電部10の両電極7,12間に高電圧を印加して両電極7A,12A間に放電を発生させるとともに、ガス供給部3から処理ガスを曝気部2に通過させ、多湿処理ガスを放電部10内に通流させる。多湿処理ガスは、領域18に発生する放電内を通過した後に被処理基板Gまで到達する。多湿処理ガスを放電内に通過させると、活性種の1つであるヒドロキシルラジカル(・OH)が生成される。生成されたヒドロキシルラジカル(・OH)は、処理ガス流にのって被処理基板Gの表面に到達し、被処理基板Gの表面に作用して表面を改質処理する。
【0057】
本実施形態の放電部10Aでは、誘電体8で覆われる高電圧電極7Aの被処理基板側の端部は高電圧電極の厚みTの5%以上の曲率半径で凸曲面加工(R加工)されることにより、高電圧電極端部の電界強度を低減させることができるようになる。これにより高電圧電極7から被処理基板Gに対する異常放電を低減させることができ、さらに高電圧電極Gと接地電極12との間の放電をより均一に発生できるようになる。大気圧放電には多湿処理ガスを流すことにより、放電プラズマ内で生成した活性種をガス流により被処理基板のほうに移行させ、表面を処理する。
【0058】
次に各部の好ましい数値範囲を示す。
【0059】
1)距離L1;0.1〜10mm
2)距離L2;高電圧電極と接地電極との間の距離Cよりも大きい
3)距離C;0.5〜5.0mm
4)誘電体で覆われた高電圧電極の幅T;2〜30mm
5)接地電極の内幅d1;5〜35mm
6)高電圧電極下端部の曲率半径R1;幅Tの5%以上
次に、上記構成の放電表面処理装置1Aを用いて被処理基板Gの表面を処理する場合について説明する。
【0060】
放電部の両電極7A,12A間に高電圧を印加し、両電極7A,12A間で放電を発生させる。ガス供給部3からアルゴンガスを多湿化装置2に通過させ、多湿アルゴンガスを生成する。多湿ガスは、放電部で発生する放電内を通過した後に被処理基板まで到達する。多湿ガスを放電内に通過させると、以下の反応により強力な活性種の1つであるヒドロキシルラジカル(・OH)が発生する。すなわち、放電プラズマ内で多湿ガス中の酸素からは式(1)と(2)に従って酸素原子やオゾンが発生し、また多湿成分である水からは式(3)に従って水酸基ラジカル、すなわちヒドロキシルラジカル(・OH)が発生する。また、酸素原子と水が反応する式(4)と(5)に従ってヒドロキシルラジカル(・OH)が発生する。
【0061】
上式(1)〜(5)のうちオゾンO3、酸素原子で励起状態のO(1D)、基底状態のO(3P)、ヒドロキシルラジカル・OHはそれぞれ活性種であり有機物との酸化反応の反応速度が非常に速い。特に、ヒドロキシルラジカルは上記の活性種の中でも最も反応性に富み、有機物を二酸化炭素にまで反応させることができる。すなわち、ごみなどが付着した物質の表面洗浄をドライ処理で行うことが可能となる。また、活性種は有機物と反応する際、有機物分解の中間性生物であるカルボキシル基を生成する。また、放電ではヒドロキシル基が生成される。これらが無機高分子材料基板の表面に付着することにより、物質表面の濡れ性が大幅に向上するため、接着剤における接着強度を大幅に向上させることが可能となる。
【0062】
上式(6)〜(8)式のうち、ヒドロキシラジカル(・OH)は有機物分解反応ならびに水酸基付着による親水性の向上に寄与する。窒素ラジカルは、例えばベンゼン環を有する有機物で炭素と結合する水素の間にヒドロキシラジカル(・OH)が反応した場合、水素が結合から離れる。このとき、水素との反応性の高い窒素ラジカル(・N)が近くにあるとN-H結合を形成することから、水素は再びベンゼン環に戻らずに水素が結合していた場所には例えばヒドロキシラジカル(・OH)が結合できる。このような反応が起こったときに、親水性が向上する。励起窒素分子は酸化力が高いため、有機物分解反応に寄与するだけでなくグロー放電化に寄与するとも言われており、放電の均一化が期待できる。
【0063】
本実施形態の装置1Aでは、高電圧電極7Aの被処理基板側の端部は、当該高電圧電極から前記接地電極までの距離Cの5%以上の曲率半径で凸曲面加工(R加工)されている。これにより高電圧電極端部の電界強度が低減され、高電圧電極7Aから被処理基板Gに対する異常放電が有効に防止され、さらに高電圧電極7Aと接地電極12Aとの間の放電がより均一になる。大気圧放電には多湿の処理ガスを流すことにより、放電プラズマ内で生成した活性種をガス流により被処理基板Gのほうに迅速に移行させ、表面を処理する。このとき放電プラズマ自体は被処理基板Gの表面に直接接触しないため、放電プラズマ内の電子もしくはイオン衝突による基板表面の損傷を有効に防止される。
【0064】
(第2の実施の形態)
次に、図3を参照して本発明の第2の実施の形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0065】
本実施形態の放電表面処理装置1Bでは、接地電極12Bの下端部開口の内径d2を放電プラズマ発生領域18における接地電極12Bの内径d1よりも小さくして、処理対象側のガス流路を狭めている。
【0066】
本実施形態においては、放電部10Bの両電極7B,12B間に高電圧を印加して両電極7B,12B間で放電を発生させるとともに、ガス供給部3から処理ガスを曝気部2に通過させ、多湿処理ガスを放電部10B内に通流させる。多湿処理ガスは、領域18に発生する放電内を通過した後に被処理基板Gまで到達する。多湿処理ガスを放電内に通過させると、活性種の1つであるヒドロキシルラジカル(・OH)が生成される。生成されたヒドロキシルラジカル(・OH)は、処理ガス流にのって被処理基板Gの表面まで5ミリ秒以下の短時間で到達し、被処理基板Gの表面に作用して表面を改質処理する。
【0067】
本実施形態の放電部10Bでは、誘電体8で覆われる高電圧電極7Bの被処理基板側の端部は凸曲面加工(R加工)されることにより、高電圧電極端部の電界強度を低減させることができるようになる。これにより高電圧電極7Bから被処理基板Gに対する異常放電を低減させることができ、さらに高電圧電極Gと接地電極12Bとの間の放電をより均一に発生できるようになる。大気圧放電には多湿処理ガスを流すことにより、放電プラズマ内で生成した活性種をガス流により被処理基板Gのほうに移行させ、その表面を処理する。このとき放電プラズマ自体は被処理基板Gの表面に直接接触しないため、放電プラズマ内の電子もしくはイオン衝突による基板表面の損傷が有効に防止される。
【0068】
各部の好ましい数値範囲を示す。
【0069】
1)距離L1;0.1〜10mm
2)距離L2;高電圧電極と接地電極との間の距離Cよりも大きい
3)距離L3;多湿化ガスの滞留時間が5ミリ秒以下となる距離
4)距離C;0.5〜5.0mm
5)誘電体で覆われた高電圧電極の幅T;2〜30mm
6)接地電極の主要部の内径d1;5〜35mm
7)接地電極の下端部開口の内径d2;3〜20mm
7)高電圧電極下端部の曲率半径R2;幅Tの5%以上
本実施形態の装置1Bによれば、高電圧電極7Bで被処理対象G側の端部は凸曲面加工(R加工)されることにより、高電圧電極端部の電界強度を低減させることができるようになる。これにより高電圧電極7Bから被処理基板Gに対する異常放電ならびに電界による直接的な被処理基板Gの損傷を低減させることができ、さらに高電圧電極7Bと接地電極12Bとの間の放電をより均一に発生できるようになる。
【0070】
また、図3に示すように接地電極12Bの処理対象側の端部でガス流路を狭めることにより、放電部10Bから被処理基板G間におけるガスの滞留時間を早めることができるようになるだけでなく、高電圧電極7Bから被処理基板Gまでの異常放電を低減させることができるようになる。具体的には、高電圧電極7Bとの距離は、接地電極12Bでガス流路が狭まれていない部位と高電圧電極7Bの距離よりも長くすることにより、高電圧電極7Bから処理対象Gへの異常放電を防ぐだけでなく、高電圧電極7Bの下端部の高電界により生じる接地電極12Bと高電圧電極7Bとの間の放電を均一化して発生でき、かつガス流速を早くすることができるようになることから、消滅前(寿命内)にヒドロキシルラジカルを被処理基板Gの表面に到達させることができるようになる。
【0071】
さらに、接地電極12Bで処理対象G側の端部で流路が狭まれている部位は、接地電極12Bの外幅Tの5%以上の曲率半径で凸曲面加工(R加工)が施されることにより、ガス流をより安定して処理対象に吹き出すことができるだけでなく、高電圧電極端部の高電界を低減させることができるようになる。
【0072】
また、誘電体8で覆われた高電圧電極7Bと接地電極12Bとの間の間隙Cを、同心配置された主要部分ばかりでなくガス出口側の部位(狭い流路)においても等間隔にすることによってラジカル発生効率がさらに向上する。
【0073】
なお、場合によっては、接地電極のほうを誘電体により覆ってもよい。これにより、処理対象の接地電極から発生する金属粉の影響を低減させることができるようになる。さらに、接地電極の短部を導電性で少なくとも一箇所以上の通気部が設けられた板もしくは導電性メッシュで覆ってもよい。これにより高電圧電極から処理対象への異常放電を防ぐことができ、処理対象の損傷を防ぐことができるようになる。
【0074】
次に、図4と図5を参照して本発明の基本的な原理とその効果について説明する。
【0075】
図4は、横軸にラジカルの滞留時間(ミリ秒)をとり、縦軸に窒素放電処理後の接触角(度)をとって、プロセスガスとして多湿窒素ガスを用いて放電プラズマを発生させたときの窒素放電処理におけるラジカル滞留時間の依存性について調べた結果を示す特性線図である。
【0076】
図5は、横軸にラジカルの滞留時間(ミリ秒)をとり、縦軸に窒素放電処理後の接触角(度)をとって、プロセスガスとして多湿アルゴンガスを用いて放電プラズマをそれぞれ発生させたときのアルゴン放電処理におけるラジカル滞留時間の依存性について調べた結果を示す特性線図である。
【0077】
ここで「接触角」とは、液体(この場合は水)を固体(この場合はガラス)に接触させたときの固体表面に対する液体の濡れ角度のことをいうものと定義する。接触角は純水を処理基板上に一滴たらした時の水平方向からの様子をデジタルカメラにより撮影し、パソコン上で解析することにより測定した。
【0078】
両図から明らかなように、ガスの種類にかかわりなく、10ミリ秒以下の滞留時間でガスを吹付けると表面接触角の低減効果が認められる。このため、ガス吹付け時間が10ミリ秒以下になるように、放電部から被処理基板までの距離Lおよびガス流速vを調整することが好ましい。さらに、ガス吹付け時間が5ミリ秒以下になるようにガスを吹付けると、ラジカルが消失することなく確実に基板の表面まで到達するようになり、最も好ましい表面処理効果が得られる。
【0079】
次に供試ガスについて説明する。
【0080】
窒素放電処理の場合は、ドライ条件では窒素99.5%以上の工業用の一般標準窒素ガスを用い、多湿条件では工業用の一般標準窒素ガス(純度99.5%以上)を水中にガスバブリングして窒素96.5%以上、水分3%程度の成分比率とした多湿窒素ガスを用いた。
【0081】
アルゴン放電処理の場合は、ドライ条件ではアルゴン99.5%以上の工業用の一般標準アルゴンガスを用い、多湿条件では工業用の一般標準アルゴンガス(純度99.5%以上)を水中にガスバブリングしてアルゴン96.5%以上、水分3%程度の成分比率とした多湿アルゴンガスを用いた。
【0082】
以上、種々の実施の形態を挙げて説明したが、本発明は上記各実施の形態のみに限定されるものではなく、種々変形および組み合わせることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、液晶表示装置(LCD)に用いられるガラス基板、あるいはポリイミド等の高分子材料基板を表面処理(表面洗浄、表面改質)する際に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る放電表面処理装置の要部を示すブロック断面図。
【図2】第1実施形態の装置の要部を示す拡大断面図。
【図3】本発明の第2実施形態の放電表面処理装置の要部を示す拡大断面図。
【図4】窒素放電処理におけるラジカル滞留時間の依存性について調べた結果を示す特性線図。
【図5】アルゴン放電処理におけるラジカル滞留時間の依存性について調べた結果を示す特性線図。
【符号の説明】
【0085】
1A,1B…放電表面処理装置、2…曝気部(多湿化装置)、
3…ガス供給部、30…制御部、31…散気部(多孔質部材またはバブリングノズル)、
40…基板載置台、45…昇降シリンダ(離間距離調整手段)、
5…高電圧電源、7A、7B…高電圧電極、8…誘電体、
9…ガスバッファ部、
10,10A…放電部、
11A,11B…ガスカバー、11a…ガス入口、
12A,12B…接地電極、
15,22…有孔板(またはメッシュ)、
16…絶縁スペーサ、
18…プラズマ生成領域、
21…ガス出口(狭い流路)、
L1,L2…ガス流路(ライン)、G…被処理基板、W…水、C…距離(間隙)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧電極と、前記高電圧電極に対向して配置され、前記高電圧電極との間にプラズマ生成領域を形成する接地電極とを有し、前記高電圧電極と前記接地電極の少なくとも一方が誘電体で覆われた放電部と、
前記高電圧電極と前記接地電極との間に高電圧を印加する高電圧電源と、
前記プラズマ生成領域にガスを供給するガス供給部と、
前記ガス供給部から供給されるガスに湿分を付与して多湿ガスとする多湿化装置と、
を具備し、
前記高電圧電極は、該高電圧電極から前記接地電極までの距離Cの5%以上の曲率半径で処理対象側の端部が凸曲面加工されていることを特徴とする放電表面処理装置。
【請求項2】
前記高電圧電極と前記接地電極との間にガス流路が形成されるように前記接地電極が前記高電圧電極の周囲を取り囲み、
前記高電圧電極の処理対象側の端部から処理対象までの距離L2は、前記高電圧電極から前記接地電極までの距離Cよりも長いことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記接地電極は、一端側に前記ガス供給部からのガスが流入するガス入口が連通し、他端側に前記一端側の流路の径d1より小さい径d2の狭い流路がガス出口として開口していることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の装置。
【請求項4】
処理対象側の端部で前記ガス流路が狭まれている前記接地電極の部位は、前記接地電極の内幅d1の50%以上の曲率半径で曲面加工されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記接地電極の被処理基板側の端部開口に設けられ、少なくとも一箇所以上の通気部をもつ導電性の有孔板または導電性のメッシュを有することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
前記距離Cを所定の設定間隔に規定する絶縁スペーサをさらに有することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
前記距離Cは、前記誘電体に覆われた高電圧電極の被処理基板側の端部から前記接地電極の端部までの距離(L2−L1)よりも短いことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
前記高電圧電極から被処理基板までの距離L2および前記プラズマ生成領域から被処理基板までの距離L3のうち少なくとも一方を所定の設定距離に調整する離間距離調整手段をさらに有することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
前記接地電極の一端側に連結され、前記ガス供給部に連通するガス入口を有し、前記ガス入口から導入されるガスが一時的に溜まるガスバッファ部を形成するガスカバーをさらに有することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
(a)高電圧電極と、前記高電圧電極に対向して配置され、前記高電圧電極との間にプラズマ生成領域を形成する接地電極とを有し、前記高電圧電極と前記接地電極の少なくとも一方が誘電体で覆われた放電部を準備する、但し、前記高電圧電極は、該高電圧電極から前記接地電極までの距離Cの5%以上の曲率半径で処理対象側の端部が凸曲面加工されていること、
(b)被処理基板を基板載置台上に載置し、
(c)前記放電部から前記基板載置台上の被処理基板までの距離を所定の設定間隔に調整し、
(d)前記高電圧電極と前記接地電極との間隙に多湿ガスを通流させるとともに、前記高電圧電極と前記接地電極との間に高電圧を印加し、多湿ガスの雰囲気下で前記両電極間に放電を生じさせ、放電プラズマ中において前記多湿ガス中に含まれるH2Oから水酸基ラジカル(・OH)を生成させ、生成した水酸基ラジカル(・OH)を前記多湿ガスの流れに随伴させて被処理基板まで移行させ、該水酸基ラジカル(・OH)を被処理基板に作用させて表面を処理することを特徴とする放電表面処理方法。
【請求項11】
前記工程(d)では、生成した水酸基ラジカル(・OH)が10ミリ秒以下の時間で被処理基板の表面まで到達するように前記多湿ガスの流速および行程距離を調整することを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記工程(d)では、生成した水酸基ラジカル(・OH)が5ミリ秒以下の時間で被処理基板の表面まで到達するように前記多湿ガスの流速および行程距離を調整することを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記工程(d)では、大気圧程度または大気圧より少し高い圧力雰囲気下で放電プラズマを生成することを特徴とする請求項10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−119356(P2009−119356A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295476(P2007−295476)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】