既設管の更生方法
【課題】ライニング材を必要な温度まで確実に加熱して品質を確保し、十分な強度を発揮させて、老朽化した既設管を安全かつ作業性よく更生する方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む複合材料からなる可撓性を有するライニング材を用いる。既設管5の更生は、ライニング材を既設管5内に挿入して補修対象箇所に配置し、加熱して軟化させ、内周面に沿う管状に拡径する。本管51と支管52との接続部では、ライニング材により形成した本管ライニング層11を切開して支管52側に開口する削孔工程と、開口部13を介して本管ライニング層11と支管ライニング層12とを加熱処理して溶着又は融着させる結合工程により、本管51と支管52とを一体的にライニングする。
【解決手段】熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む複合材料からなる可撓性を有するライニング材を用いる。既設管5の更生は、ライニング材を既設管5内に挿入して補修対象箇所に配置し、加熱して軟化させ、内周面に沿う管状に拡径する。本管51と支管52との接続部では、ライニング材により形成した本管ライニング層11を切開して支管52側に開口する削孔工程と、開口部13を介して本管ライニング層11と支管ライニング層12とを加熱処理して溶着又は融着させる結合工程により、本管51と支管52とを一体的にライニングする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管の更生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道管等の地中埋設管を開削せずに更生する方法として、未硬化のFRP筒状体を管路内に挿入して一体化する方法や、熱可塑性樹脂製の管状のライニング材を既設管内に挿入して内面に貼り付けることにより、この既設管内面をライニングする方法などがあり、実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、既設管の内径よりも小径であって、形状記憶温度において管状に形状回復するライニング材を既設管内に挿入し、ライニング材を加熱して形状回復させた後、加圧して膨張拡径させ、既設管の内周面に密着させてライニングする更生方法がある。
【0004】
また、最近では、特許文献2に記載されているように、繊維で補強された熱可塑性複合材料からなるライナーをダクト内に挿入し、そのライナーを加熱するとともに内側から圧力を加え、既設管に接触させてライニングする方法もある。
【0005】
具体的に、この特許文献2に開示されているライナーは、加熱される前段階では、熱可塑性プラスチック材料でなる母材樹脂フィラメントと、ガラス繊維でなる補強繊維フィラメントとによる複合材料によって略筒型に形成されている。そして、このライナーを使用した既設管の更生方法としては、ダクト内に前記ライナーを挿入した後、加熱手段によってライナーを加熱することで、前記熱可塑性フィラメントを溶融させる。これにより、溶融したプラスチック材料の中に補強繊維フィラメントが分散されることになる。その後、ライナー内側に圧力を加えて拡径させるとともにプラスチック材料を冷却固化させることで、補強繊維フィラメントで補強された強固な複合ライニング材が成形され、この複合ライニング材によって既設管が更生されることになる。
【0006】
更生する既設管の中には、複数のマンホール間を連通した本管と、この本管と地上との間に配設された支管(取付管)とからなる管路もある。通常、支管は、地表付近に設けられた桝と本管とに通じるように設けられているが、本管やマンホールとは異なり、管径が小さく簡易的に構成されている場合がある。このため、長年の使用によって、支管の内面に破損や亀裂等の損傷を生じていると、損傷部分に地中からの浸入水が存在することがある。また、施工当初は堅固な本管と支管との接続箇所も、地盤変動などの影響を受けやすいため、その接続箇所からの浸入水も懸念される。
【0007】
このような地中から既設管路への浸入水は、本管の水量を増加させ、許容水量を超過させるおそれがあって好ましくなく、支管を有する本管の補修に際しては、本管と支管との双方を適切にライニングする必要があった。
【0008】
支管の更生に関して開示された文献は少ないが、例えば、特許文献3に、幹管と枝管とからなる管路の枝管管口におけるシール工法が記載されている。幹管は、硬質チューブライニングにより内面にライニングが施されており、管内穿孔機を枝管の管口へ挿入し、枝管の管口が開口される。この管内穿孔機には、加熱溶融型の穿孔ヘッドが設けられている。枝管の管口に管内穿孔機が挿入されることで、幹管の硬質チューブライニングを溶融し、その溶融物を接着剤として口金を嵌着固定する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−230412号公報
【特許文献2】特許第4076188号公報
【特許文献3】特公平6−39129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前記特許文献3には、このように口金を設ける枝管そのものの具体的な補修方法については記載されていない。また、かかるシール工法では、枝管の管口に口金を嵌着する構成であるので、溶融物と口金との厚み分が枝管の内壁に積層される。このため、もともと小さい枝管の口径がさらに縮径されてしまうという問題点があり、枝管側に溶融物と口金とによる段部が形成されてしまうという問題点もあった。
【0011】
よって、前記支管と本管との接続部分において、できるだけ口径を狭めることなく、納まりよく内面のライニング材を一体化させて、十分な強度と水密性を確保し、高い信頼性をもって更生する方法が求められた。
【0012】
そこで、本発明は、上記のような事情にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、マンホール間を接続する本管と、本管に接続する口径の小さい支管とを有する既設管に対し、一定の口径を維持した状態で十分な強度と水密性を確保しつつライニングすることを可能にし、さらに、安全かつ作業性よく更生することのできる既設管の更生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、マンホール間を接続する本管と、地上から本管に接続する支管とを備える既設管の内壁に、ライニング材によるライニング層を形成して更生する既設管の更生方法を前提とする。また、前記ライニング材を、熱融着性を有する管状体又は筒状体とし、本管に用いるライニング材と、支管に用いるライニング材との少なくとも一方を、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなるものとする。そして、既設管の更生は、管路内に前記ライニング材を挿入及び拡径してライニング層を形成し、本管と支管との接続部では、本管ライニング層と支管ライニング層とを加熱処理して溶着又は融着させる結合工程によりライニング層同士を接合して行うこととする。
【0014】
このような構成により、既設管の本管及び支管に形成したライニング層は、ライニング材が熱融着性を有するから、加熱することで双方が溶着又は溶融して一体化する。また、ライニング材は本管用ライニング材と支管用ライニング材の少なくとも一方に熱可塑性フィラメントを含んだ筒状布帛で構成されるので、本管と支管との接続部におけるライニング層が良好に結合一体化されるとともに、肉厚をそれほど増加させずに済む。したがって、口径の小さい管路の内径が大きく狭まることがなく、十分な強度と水密性を確保した既設管の更生が可能となる。なお、上記更生方法においては、本管ライニング層の形成と、支管ライニング層の形成とを同時に行っている必要はなく、いずれか一方が先に形成され、その後一定期間を経て、他方が形成されるような場合であっても、熱融着性を有するライニング材によって好適に双方の管路を一体的なものとしてライニングすることができる。
【0015】
上記更生方法の具体的な構成として、次の工程が含まれる。つまり、前記結合工程の後、本管ライニング層と支管ライニング層との接合部に、熱可塑性フィラメントを含むサドル材を加熱処理して溶着又は融着させる工程である。
【0016】
これにより、本管ライニング層と支管ライニング層とに異なる材質からなるライニング材を用いても、さらに熱可塑性フィラメントを含むサドル材を溶着又は融着することで、当該接合部の一体性が強化される。サドル材は、熱可塑性フィラメントを含む材料からなるので、一体化された接合部では肉厚の変化がほとんどなく、口径の小さい管路であっても内径を狭めることなく一定の内径を保ってライニング層の強度及び水密性を高めることができる。
【0017】
ここで、前記ライニング材として、より具体的には、本管用ライニング材及び支管用ライニング材ともに、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなるものを用いる。
【0018】
また、前記ライニング材は、本管用ライニング材又は支管用ライニング材のうちの一方が熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなり、他方が、軸方向に沿って凹状に圧潰され、形状記憶温度にて円筒体に形状回復する熱融着性を有する管状体からなるものであってもよい。
【0019】
これらのライニング材は、いずれも熱融着性を有し、加熱処理によって本管及び支管のライニング層同士を溶着又は融着して結合一体化させることができる。
【0020】
さらに、上記更生方法の具体的な構成として、次の工程が含まれる。つまり、前記ライニング材を用いて本管にライニング層を形成後、本管と支管との接続部では、本管ライニング層を切開して開口する削孔工程により、支管に対応した開口部を本管ライニング層に設ける。
【0021】
本管にライニング材を施工すると、本管と支管との接続部は、本管ライニング層によって閉塞されている。そこで、本管ライニング層を形成後、支管の管口に対応した開口部を前記削孔工程によって設ける。これにより、本管と支管との接続部が開口部を介して連通する。
【0022】
また、前記削孔工程では、本管ライニング層の開口部に切開片を残存させ、前記結合工程では、当該切開片を本管側から支管側へ管路内壁に沿って立ち上げ、本管ライニング層の切開片と支管ライニング層とを密接させて加熱処理することが好ましい。また、前記削孔工程において本管ライニング層を放射状に切開して開口部を設けることが好ましい。
【0023】
これにより、本管ライニング層の一部である切開片が、支管ライニング層に溶着又は溶融して一体化されることとなる。よって、本管ライニング層と支管ライニング層とを接合し、一体的なライニング層を形成して本管及び支管を更生することができる。
【0024】
また、前記削孔工程に先立ち、本管と支管との接続部を、管路内に挿入した探知手段によって探知し、開口位置を決定するようにしてもよい。この場合、前記探知手段は照明装置を備えており、本管又は支管の一方の管路から本管ライニング層を照射し、他方の管路から照射位置を確認して開口位置を決定する。
【0025】
これにより、効率よく削孔工程を進めることができ、本管ライニング層に誤りなく開口部を設けることができる。
【0026】
また、前記接合工程の後、熱可塑性フィラメントからなる管状の内面被覆材を前記開口部の支管側に積層し、加熱処理により溶着又は融着させるようにしてもよい。
【0027】
これにより、本管ライニング層と支管ライニング層とに異なる材質からなるライニング材を用いても、さらに熱可塑性フィラメントからなる管状の内面被覆材を溶着又は融着することで、開口部の支管側のライニング層を補強し水密性を高めることができる。内面被覆材は、熱可塑性フィラメントを含む材料からなるので、一体化された接合部では肉厚の変化がほとんどなく、口径の小さい管路であっても内径を狭めることなく一定の内径を保ってライニング層の強度及び水密性を高めることができる。
【0028】
また、上記既設管の更生方法において、前記ライニング層の形成が、本管ライニング層の形成後に支管ライニング層を形成しても、また、支管ライニング層の形成後、本管ライニング層を形成してもよく、いずれの場合も本管と支管とを一体的にライニングすることができる。
【0029】
また、上記既設管の更生方法において、既設管内における樹脂の安定性及び施工性の観点から、前記ライニング材として、ポリプロピレン繊維又はポリエチレン繊維を用い留ことが好ましい。これにより、本管と支管とを有する既設管の内壁に強度及び水密性に優れたライニング層を形成することができ、作業性も高められる。
【発明の効果】
【0030】
上述のように構成される本発明の既設管の更生方法によれば、マンホール間を接続する本管と、本管に接続する口径の小さい支管とを有する既設管に対し、一定の口径を維持した状態で十分な強度と水密性を確保しつつライニングすることが可能となり、さらに、安全かつ作業性よく更生することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る既設管の更生方法に用いるライニング材の一例を示し、図1(a)は、ライニング材を既設管に配置した状態を示す断面図、図1(b)は、ライニング材により既設管を更生した状態を示す断面図である。す断面図である。
【図2】本発明に係る既設管の更生方法に用いるライニング材の他の例を示し、図2(a)はライニング材を既設管に配置した状態を示す断面図、図2(b)は、ライニング材により既設管を更生する過程を示す断面図、図2(c)はライニング材により既設管を更生した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る既設管の更生方法の一例を示す説明図である。
【図4】実施の形態に係る既設管の更生方法の一工程を模式的に示す説明図である。
【図5】図4の次工程を示す説明図である。
【図6】図5の次工程を示す説明図である。
【図7】図6の次工程を示す説明図である。
【図8】更生された既設管を模式的に示す説明図である。
【図9】本実施の形態に係る既設管の更生方法において、サドルを用いた例を説明する部分拡大断面図である。
【図10】本管と支管との接続部にサドルが一体化された状態を示す部分拡大断面図である。
【図11】本実施の形態に係る既設管の更生方法において、上記サドルの他の形態を用いた例を示し、本管と支管との接続部断面により示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態に係る既設管の更生方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
以下では、まず、既設管の内壁をライニングするライニング材の構成について説明し、その後、ライニング材を用いた既設管の更生方法について説明する。
【0034】
(ライニング材)
図1は、ライニング材の一例を示す断面図であり、図1(a)では、ライニング材1を既設管5に配置した状態を示し、図1(b)では、ライニング材1により既設管5を更生した状態を示している。
【0035】
ライニング材1は、主に熱可塑性フィラメント及び補強繊維(強化繊維)フィラメントを含む繊維強化複合材料からなり、可撓性を有する筒状布帛である。そして、ライニング材1は、かかる繊維強化複合材料からなるライナー基材1aと、その外周側を被覆する遮水層1bとを備えている。
【0036】
このライニング材1のライナー基材1aは、熱可塑性フィラメントを母材樹脂として繊維形態で補強繊維フィラメント束内に配置させた繊維束によって構成されている。複合材料の母材である熱可塑性フィラメントの樹脂と、強化材である補強繊維フィラメントとの組合せは、多種多様である。熱可塑性フィラメントには、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、または、ポリブチルテレフタレート等があげられる。また、補強繊維フィラメントには、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等があげられる。
【0037】
ライニング材1のライナー基材1aは、かかる繊維強化複合材料によって構成された編物または織物(織布)若しくは不織布を、縫合等によって筒状にして形成されている。また、ライニング材1は、繊維強化複合材料により形成された布帛そのものの厚みで構成するだけでなく、複数枚の布帛を重ね合わせて、所定の厚みを確保することにより構成されてもよい。
【0038】
また、ライニング材1の外側遮水層1bは、不透水性材料で形成され、かつ既設管5の内面形状に追従しうる柔軟性を有するように構成されている。外側遮水層1bの材料は、不透水性及び柔軟性を有する材料であれば特に限定されず、フィルム材やシート材の形状とされることが好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、またエラストマーや合成ゴム等の合成樹脂系材料を外側遮水層1bに用いることができる。ライニング材1の構成は、このような形態に限定されるものではなく、他に多様な形態が可能であり、3層以上の複層構造であってもよい。
【0039】
以上のように構成されるライニング材1は、ライナー基材1aの熱可塑性フィラメントが溶融するとともに、外側遮水層1bと一体化し、既設管5の内周面を覆うライニング層となる。
【0040】
本発明に係る既設管の更生方法において用いるライニング材1は、上記の熱可塑性フィラメントを含む構成のライニング材1に限定されず、他の様々なライニング材1を用いても実施することができる。
【0041】
例えば、既設管の更生に使用するライニング材として、熱可塑性樹脂からなる管状のライニング材10を用いてもよい。図2はライニング材10の例を示し、図2(a)は、ライニング材10を既設管5に配置した状態を示す断面図、図2(b)は、ライニング材10により既設管5を更生する過程を示す断面図、図2(c)はライニング材10により既設管5を更生した状態を示す断面図である。
【0042】
このライニング材10は、高密度ポリエチレン樹脂等からなる管状(円筒状)部材であり、その外面に軸方向に沿って延びる凹状部が形成されて、縮径させた状態で用いられる。また、このライニング材1は、所定の形状記憶温度(例えば80℃)に加熱及び加圧されることによって、元の円筒状に形状回復する性能を有している。
【0043】
つまり、図2(a)に示すライニング材10は、既設管5内に引込み、図2(b)に示すように、例えば蒸気過熱と圧縮空気等により内側から円筒形に復元させ、図2(c)に示すように既設管5に密着させて、内壁を更生するものである。
【0044】
(既設管の更生方法)
図3は、ライニング材1を用いて本管51の内壁をライニングする一工程を示す説明図である。既設管5の管路には、適当な間隔でマンホールM1、M2が設けられており、マンホールM1、M2の相互間を接続する本管51と、地上から本管51に接続した支管52とを備えている。
【0045】
前記ライニング材1は、図3に示すように本管51の補修対象箇所に挿入して用いられる。更生作業に先立ち、本管51に下水等の流下水がある場合には、この流下水を管路からいったん除去することが好ましい。この場合、近傍のマンホールM2の上流側に堰き止め部材7を設ける。堰き止めた流下水は排水ポンプ等で汲み上げ、地上に配設した図示しない排水ホース等を迂回路として下流側へ放出することが好ましい。さらに、本管51内に存在する堆積物や木片等の異物を除去し、高圧水洗浄を行ってから管内の更生作業に入る。
【0046】
既設管5の更生方法は、本管51と支管52との更生順序はどちらが先であってもよく、本管にライニング層を形成後、支管にライニング層を形成する場合であっても、または、支管にライニング層を形成後、本管にライニング層を形成する場合であっても好適に実施することができる。また、これらの本管及び支管のライニングによる更生は、本管及び支管が同時(同時期)になされるだけでなく、一方の管路を更生後、時間を経て他方の管路が更生される場合にも適用することができる。
【0047】
本実施形態では、上記ライニング材1を用いて老朽化した本管51の更生作業を行い、これに続いて、本管51に接続する支管52の更生作業をともに行う例について説明する。
【0048】
まず、マンホールM1、M2を使用して、ライニング材1を既設管5の本管51に挿入する(挿入工程)。ライニング材1は、例えば、発進側マンホールM1と到達側マンホールM2との間の長さに余裕長さを加えた長さで用意されている。また、到達側マンホールM2の地上側に牽引ワイヤ91を巻き取るウィンチ9等の機器を設置する。牽引ワイヤ91は、到達側マンホールM2から本管51内に挿通されており、ライニング材1の内側に配備された加熱装置(加熱手段)6を、発進側マンホールM1から到達側マンホールM2方向に牽引する。
【0049】
挿入工程を経て本管51に配置されたライニング材1には、内側に加熱装置6が設置される。この加熱装置6は、図3に例示するように、ライニング材1を内外両面から加熱する(加熱工程)。
【0050】
この種の加熱装置6は、ライニング材1のライナー基材1aの内周面に沿う円筒状の外形を有するライニング用ピグ61と、ライナー基材1aに外装される筒状の補助用ピグ62とを備えている。ライニング用ピグ61は、ライナー基材1aを内周側から加熱蒸気等により加熱して、ライナー基材1aに含まれる熱可塑性フィラメントを融解する。また、補助用ピグ62は、ライナー基材1aの外周面を加熱し、外周側から熱可塑性フィラメントの融解を補助する。
【0051】
図3に示すように、加熱装置6のライニング用ピグ61は、後方部分が拡径したテーパー形状とされ、ライニング材1が軟化されて徐々に拡径するように作用する。この加熱工程では、ライニング材1における熱可塑性フィラメントの融点以上の温度で加熱する。これにより、ライニング材1の熱可塑性フィラメントが溶融し、ライニング材1の広範囲に亘って熱が均等拡散されて、ライニング材1が補強繊維フィラメントを混合した繊維強化樹脂層を形成するものとなる。
【0052】
このような熱可塑性フィラメントを母材樹脂とするライナー基材1aの加熱溶融によってライニング材1からなるライニング層を成形する場合、既設管5内の温度条件が作用する。一般的に、温度条件は、既設管5が下水管であれば60℃以下であり、電力管であれば105℃以下となるため、110℃以下の環境下で安定した性質を示す母材樹脂を選択することが望ましい。
【0053】
例えばポリプロピレンやポリエチレンは、樹脂軟化点であるガラス転移点が既設管5の前記温度条件よりも低いため、安定性が高く好適である。そこで、ライニング材1の熱可塑性フィラメントの構成材料として、ポリプロピレン(融点は160〜170℃程度)が採用される場合には、加熱装置6の加熱温度を、例えば180℃に設定することが好ましい。また、熱可塑性フィラメントの構成材料として高密度または低密度ポリエチレン(融点は140℃)が採用される場合には、加熱装置6の加熱温度を例えば150℃に設定することが好ましい。
【0054】
これにより、比較的短時間で、ライニング材1の熱可塑性フィラメントの全体を溶融させることが可能となる。また、熱可塑性材料(プラスチック材料)の中に補強繊維フィラメントを分散させた構成(前記繊維強化樹脂層)をライニング材1の全体に亘って得るための施工時間(加熱時間)の短縮化を図ることができる。ライニング材1には、熱可塑性フィラメントの溶け残りを生じることがなく、また、熱可塑性フィラメントの一部分が過剰加熱されて流動してしまうといったことも回避できる。
【0055】
ライニング材1は、加熱工程を経た段階では未だ完全に拡径、硬化した状態ではなく、また本管51の内面に密着した状態とはなっていない。図3に示すように、加熱装置6の後方には拡径手段が配備されている。
【0056】
加熱工程を経たライニング材1は拡径手段8により内側から加圧されて本管51の内周面に沿う管状に拡径される(拡径工程)。図3例示する拡径手段8は、反転機が地上に設置され、先端に拡径用チューブ81を備え、反転させつつ導入される。
【0057】
拡径用チューブ81は、内圧により十分に拡径することが可能であり、かつ拡張に際して十分な強度を有する拡張性及び耐熱性に優れたエラストマーなどを材料として形成されている。また、拡径用チューブ81は、拡径後にも拡径用チューブ81と第1ライナー基材21とが接着しない材質により形成されている。拡径用チューブ81の外径は、最大拡張時にライニング材1を内側から本管51の内周面に押圧し得る大きさで確保されている。
【0058】
拡径用チューブ81は、発進側マンホールM1側の地上に設置された反転機8に接続され、拡張していない状態でライニング材1の内側に導入されている。そして、その後、拡径用チューブ81には、反転機8から加圧気体が供給されて、加熱装置6の後方部分に追従しながら内周面が外周側に反転しつつ拡張していく。これに伴って、ライニング材1は、加熱装置6を経て軟化した部分から順に、拡径用チューブ81によって内側から押圧されて拡径する。ライニング材1の拡径した部分は本管51の内周面に密着する。加熱装置6が前進することにより、拡径用チューブ81の拡張範囲も前方へ広げられ、ライニング材1と本管51との密着状態はそのまま維持されて、広範囲で均一な力を付与することができ、均一に成形される。
【0059】
本管51の補修対象箇所の全域に亘ってライニング材1が拡径されたならば、冷却及び硬化させる(冷却工程)。これにより、既設管5の本管51の内周面がライニング材1(ライニング層)により更生されたものとなる(図1(b)参照)。
【0060】
次に、本管51と支管52とを接続し一体化するために、本管51と支管52との接続部に開口部を設ける。図4〜図8は、本管51にライニング層を形成した後の各工程を模式的に示した説明図である。
【0061】
前記のとおり、本管51をライニング材1で更生したことにより、支管52との接続部がライニング層11で閉塞されている。そこで、この本管ライニング層11を切開して、支管52に開口する開口部(13)を形成する(削孔工程)。
【0062】
図4、5に示すように、地上に開口して設けられた枡53の近傍に、巻取機41を設置し、この巻取機41に接続する探知手段としての小型カメラ42を支管52内へ導入する。この小型カメラ42により、本管ライニング層11と支管52との接続箇所を画像確認しながら、開口箇所を決定し、切削機43を用いて開口する。小型カメラ42には、照明装置を付属させることによって、本管ライニング層11を支管52側から照射して、支管52の配設位置を本管51側からも認識可能とすることが好ましい。また、本管51と支管52との接続部を探知するための探知手段には、適宜のセンサを用いてもよい。
【0063】
また、図5に示すように、本管ライニング層11は、拡径された際に支管52の管口52aに対応する円形の凹み(支管側から見れば円形の膨らみ)を生じている。そこで、この凹みを目安に、本管ライニング層11に放射状の切込みライン52cを入れて切開する。例えば、支管52の管口52aに対して十字状に本管ライニング層11を切開し、4枚の切開片を除去せずに残しておく。
【0064】
なお、切込みライン52cは、放射状や十字状のみに限定されず、このほか、三角形状の切込みを入れたり、四角形に切削したりしてもよく、本管51及び支管52の内面形状に合わせて選択される。
【0065】
本管ライニング層11には、複数の切開片112を形成する。これらの切開片112は、加熱処理により本管51側から支管52側へ押し拡げられ、支管52の内周面に沿って立ち上げられる。加熱処理には、図6に例示するような、公知の加熱パッカー44を用いることができる。加熱パッカー44は、内部が密閉された管状袋体441を頂部に備え、この袋体441が耐熱性を有する伸縮性材料、例えば、シリコンゴムから形成されている。そして、加熱パッカー44は、袋体441を収縮させた状態で開口部13の下部位置に設置され、内部に加熱蒸気を供給し袋体441を膨張させる。これにより、切開片112が袋体441で加熱溶融されるとともに、支管52の円管形状に沿って押圧され、支管52の内周面に沿って立ち上げられる。
【0066】
図7に示すように、本管ライニング層11には、支管52との接続部に開口部13が形成される。なお、支管側にライニング材1、10を用いて支管ライニング層12が形成されている場合、本管ライニング層11を支管52の内周面に沿って立ち上げ、加熱溶融して一体化することにより、本管51と支管52との一体的なライニング施工が完了する。
【0067】
また、かかる開口部13の上方に、支管ライニング層12を形成して、さらに支管52の更生を行ってもよい。支管52のライニングは、前記本管51のライニング工程と同様であり、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む繊維強化複合材料からなる筒状布帛のライニング材1を加熱溶融し、拡径及び冷却して支管52の内周面に一体化させることにより行う。このとき、支管52のライニング材1と、開口部13に立ち上げられた切開片112とを、ともに加熱して溶着又は融着することで、両者を密着させるとともに一体化させる(結合工程)。
【0068】
これにより、図8に示すように、本管ライニング層11と支管ライニング層12とが完全に溶融されて一体化するとともに、開口部13がライニング材1によるライニング層11で被覆され既設管5の更生が完了する。なお、支管ライニング層12は、前記のとおり、熱可塑性フィラメントを含むライニング材1により形成するに限定されず、管状の前記ライニング材10等により形成されてもよく、ライニング材の組合せ方も多様であってよい。
【0069】
また、上記の既設管の更生方法において、本管ライニング層11と支管ライニング層12との接合部に、熱可塑性樹脂材からなるサドル2を用いて、加熱溶着又は融着させるようにしてもよい。
【0070】
例えば、本管ライニング層11が肉厚であり、支管52の内周面に沿って立ち上げることが困難な場合には、図9に示すように、開口部13にハット型のサドル2を嵌め込み、加熱溶融することによって、前記切開片112に相当する立ち上げ部22を形成してもよい。サドル2は、熱可塑性樹脂材料により形成され、より好ましくは熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントからなる複合材料により形成されていることで、加熱により溶着又は融着し、図10に示すように本管ライニング層11及び支管ライニング層12に対して一体化させることが可能となる。
【0071】
また、サドル2は、ハット型の形状であるに限らず、既設管5の内周面に沿うような形状であれば、どのような形状であってもよい。例えば、図11に示すように、本管ライニング層11と支管ライニング層12との接合部における本管51側に配設されて、本管51の内面形状に追従しうる略鞍形状のサドル2を用いることも可能である。
【0072】
この場合、サドル2を、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントからなる複合材料により形成することで、容易に内面形状に沿わせることができる。また、サドル2は、加熱処理して本管51に溶着又は融着させる。次いで、サドル2に削孔することにより、支管52の管口に対応する開口部を形成し、上記削孔工程及び結合工程と同様にして、支管52の内面に一体化させることができる。
【0073】
これにより、本管51と支管52との接続部(本管ライニング層11と支管ライニング層12との接合部)におけるライニング層同士をより強固に密着一体化させ、十分に強度と水密性とを高めることが可能となる。図10に示すように、一体化したサドル2は、本管51及び支管52のライニング層11,12と完全に溶融しているため、平滑な内周面を形成し、必要以上に口径を狭めることもない。
【0074】
さらに、開口部13において、図示しない熱可塑性フィラメントからなる管状の内面被覆材を開口部13の支管52側に積層して、加熱により溶着又は融着させて、接続部の強度及び水密性をより一層高めるようにしてもよい。
【0075】
以上のような既設管の更生方法により、本管51及び支管52には口径を大きく狭めることなく、特に口径の小さい支管52であっても容易にライニングすることができ、本管51とともに一体的なライニング層11、12を形成することができる。また、上記のようなライニング材1を用いることによって、補強繊維フィラメントにより補強された強固な複合ライニング層が本管51及び支管52に形成されて老朽化した既設管5が更生される。しかも、更生作業を比較的短時間で完了させることができ、周辺環境への影響が少なく、既設管5の下水を堰き止めておく時間も短時間で済ませることができる。
【0076】
なお、本発明に係る既設管の更生方法は、上記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。つまり、更生に用いるライニング材は、本管用ライニング材及び支管用ライニング材ともに、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛であるに限らず、本管用ライニング材又は支管用ライニング材に他の構成のライニング材を用いてもよい。また、本管ライニング層11と支管ライニング層12との形成順も上記形態に限定されず、本管ライニング層11を切開して支管52側に開口する前に、支管52をライニング材によりライニングしておいてもよく、また、支管52にライニング層が形成された後に本管51をライニングしていくような更生順序であってもよい。したがって上記の実施形態は例示であり、限定的なものではない。
【0077】
本発明に係る既設管の更生方法では、用いるライニング材により、上記以外の加熱手段や拡径手段を用いて既設管5の内面にライニング材を溶着又は融着させるようにすればよく、上記の形態には限定されない。つまり、例えば、ライニング材に対し適宜の内面被覆材をチューブ状に形成し、流体圧により内面被覆材の内周面が外周側となるように反転させつつ順に挿入し、拡径させることにより、同時に一体化するなどしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、老朽化した既設管を更生するのに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1、10 ライニング材
1a ライナー基材
1b 外側遮水層
11 本管ライニング層
12 支管ライニング層
13 開口部
5 既設管
51 本管
52 支管
53 枡
6 加熱装置
61 ライニング用ピグ
62 補助用ピグ
8 反転機
81 拡径用チューブ
9 ウィンチ
91 牽引ワイヤ
2 サドル
M1、M2 マンホール
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管の更生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道管等の地中埋設管を開削せずに更生する方法として、未硬化のFRP筒状体を管路内に挿入して一体化する方法や、熱可塑性樹脂製の管状のライニング材を既設管内に挿入して内面に貼り付けることにより、この既設管内面をライニングする方法などがあり、実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、既設管の内径よりも小径であって、形状記憶温度において管状に形状回復するライニング材を既設管内に挿入し、ライニング材を加熱して形状回復させた後、加圧して膨張拡径させ、既設管の内周面に密着させてライニングする更生方法がある。
【0004】
また、最近では、特許文献2に記載されているように、繊維で補強された熱可塑性複合材料からなるライナーをダクト内に挿入し、そのライナーを加熱するとともに内側から圧力を加え、既設管に接触させてライニングする方法もある。
【0005】
具体的に、この特許文献2に開示されているライナーは、加熱される前段階では、熱可塑性プラスチック材料でなる母材樹脂フィラメントと、ガラス繊維でなる補強繊維フィラメントとによる複合材料によって略筒型に形成されている。そして、このライナーを使用した既設管の更生方法としては、ダクト内に前記ライナーを挿入した後、加熱手段によってライナーを加熱することで、前記熱可塑性フィラメントを溶融させる。これにより、溶融したプラスチック材料の中に補強繊維フィラメントが分散されることになる。その後、ライナー内側に圧力を加えて拡径させるとともにプラスチック材料を冷却固化させることで、補強繊維フィラメントで補強された強固な複合ライニング材が成形され、この複合ライニング材によって既設管が更生されることになる。
【0006】
更生する既設管の中には、複数のマンホール間を連通した本管と、この本管と地上との間に配設された支管(取付管)とからなる管路もある。通常、支管は、地表付近に設けられた桝と本管とに通じるように設けられているが、本管やマンホールとは異なり、管径が小さく簡易的に構成されている場合がある。このため、長年の使用によって、支管の内面に破損や亀裂等の損傷を生じていると、損傷部分に地中からの浸入水が存在することがある。また、施工当初は堅固な本管と支管との接続箇所も、地盤変動などの影響を受けやすいため、その接続箇所からの浸入水も懸念される。
【0007】
このような地中から既設管路への浸入水は、本管の水量を増加させ、許容水量を超過させるおそれがあって好ましくなく、支管を有する本管の補修に際しては、本管と支管との双方を適切にライニングする必要があった。
【0008】
支管の更生に関して開示された文献は少ないが、例えば、特許文献3に、幹管と枝管とからなる管路の枝管管口におけるシール工法が記載されている。幹管は、硬質チューブライニングにより内面にライニングが施されており、管内穿孔機を枝管の管口へ挿入し、枝管の管口が開口される。この管内穿孔機には、加熱溶融型の穿孔ヘッドが設けられている。枝管の管口に管内穿孔機が挿入されることで、幹管の硬質チューブライニングを溶融し、その溶融物を接着剤として口金を嵌着固定する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−230412号公報
【特許文献2】特許第4076188号公報
【特許文献3】特公平6−39129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前記特許文献3には、このように口金を設ける枝管そのものの具体的な補修方法については記載されていない。また、かかるシール工法では、枝管の管口に口金を嵌着する構成であるので、溶融物と口金との厚み分が枝管の内壁に積層される。このため、もともと小さい枝管の口径がさらに縮径されてしまうという問題点があり、枝管側に溶融物と口金とによる段部が形成されてしまうという問題点もあった。
【0011】
よって、前記支管と本管との接続部分において、できるだけ口径を狭めることなく、納まりよく内面のライニング材を一体化させて、十分な強度と水密性を確保し、高い信頼性をもって更生する方法が求められた。
【0012】
そこで、本発明は、上記のような事情にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、マンホール間を接続する本管と、本管に接続する口径の小さい支管とを有する既設管に対し、一定の口径を維持した状態で十分な強度と水密性を確保しつつライニングすることを可能にし、さらに、安全かつ作業性よく更生することのできる既設管の更生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、マンホール間を接続する本管と、地上から本管に接続する支管とを備える既設管の内壁に、ライニング材によるライニング層を形成して更生する既設管の更生方法を前提とする。また、前記ライニング材を、熱融着性を有する管状体又は筒状体とし、本管に用いるライニング材と、支管に用いるライニング材との少なくとも一方を、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなるものとする。そして、既設管の更生は、管路内に前記ライニング材を挿入及び拡径してライニング層を形成し、本管と支管との接続部では、本管ライニング層と支管ライニング層とを加熱処理して溶着又は融着させる結合工程によりライニング層同士を接合して行うこととする。
【0014】
このような構成により、既設管の本管及び支管に形成したライニング層は、ライニング材が熱融着性を有するから、加熱することで双方が溶着又は溶融して一体化する。また、ライニング材は本管用ライニング材と支管用ライニング材の少なくとも一方に熱可塑性フィラメントを含んだ筒状布帛で構成されるので、本管と支管との接続部におけるライニング層が良好に結合一体化されるとともに、肉厚をそれほど増加させずに済む。したがって、口径の小さい管路の内径が大きく狭まることがなく、十分な強度と水密性を確保した既設管の更生が可能となる。なお、上記更生方法においては、本管ライニング層の形成と、支管ライニング層の形成とを同時に行っている必要はなく、いずれか一方が先に形成され、その後一定期間を経て、他方が形成されるような場合であっても、熱融着性を有するライニング材によって好適に双方の管路を一体的なものとしてライニングすることができる。
【0015】
上記更生方法の具体的な構成として、次の工程が含まれる。つまり、前記結合工程の後、本管ライニング層と支管ライニング層との接合部に、熱可塑性フィラメントを含むサドル材を加熱処理して溶着又は融着させる工程である。
【0016】
これにより、本管ライニング層と支管ライニング層とに異なる材質からなるライニング材を用いても、さらに熱可塑性フィラメントを含むサドル材を溶着又は融着することで、当該接合部の一体性が強化される。サドル材は、熱可塑性フィラメントを含む材料からなるので、一体化された接合部では肉厚の変化がほとんどなく、口径の小さい管路であっても内径を狭めることなく一定の内径を保ってライニング層の強度及び水密性を高めることができる。
【0017】
ここで、前記ライニング材として、より具体的には、本管用ライニング材及び支管用ライニング材ともに、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなるものを用いる。
【0018】
また、前記ライニング材は、本管用ライニング材又は支管用ライニング材のうちの一方が熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなり、他方が、軸方向に沿って凹状に圧潰され、形状記憶温度にて円筒体に形状回復する熱融着性を有する管状体からなるものであってもよい。
【0019】
これらのライニング材は、いずれも熱融着性を有し、加熱処理によって本管及び支管のライニング層同士を溶着又は融着して結合一体化させることができる。
【0020】
さらに、上記更生方法の具体的な構成として、次の工程が含まれる。つまり、前記ライニング材を用いて本管にライニング層を形成後、本管と支管との接続部では、本管ライニング層を切開して開口する削孔工程により、支管に対応した開口部を本管ライニング層に設ける。
【0021】
本管にライニング材を施工すると、本管と支管との接続部は、本管ライニング層によって閉塞されている。そこで、本管ライニング層を形成後、支管の管口に対応した開口部を前記削孔工程によって設ける。これにより、本管と支管との接続部が開口部を介して連通する。
【0022】
また、前記削孔工程では、本管ライニング層の開口部に切開片を残存させ、前記結合工程では、当該切開片を本管側から支管側へ管路内壁に沿って立ち上げ、本管ライニング層の切開片と支管ライニング層とを密接させて加熱処理することが好ましい。また、前記削孔工程において本管ライニング層を放射状に切開して開口部を設けることが好ましい。
【0023】
これにより、本管ライニング層の一部である切開片が、支管ライニング層に溶着又は溶融して一体化されることとなる。よって、本管ライニング層と支管ライニング層とを接合し、一体的なライニング層を形成して本管及び支管を更生することができる。
【0024】
また、前記削孔工程に先立ち、本管と支管との接続部を、管路内に挿入した探知手段によって探知し、開口位置を決定するようにしてもよい。この場合、前記探知手段は照明装置を備えており、本管又は支管の一方の管路から本管ライニング層を照射し、他方の管路から照射位置を確認して開口位置を決定する。
【0025】
これにより、効率よく削孔工程を進めることができ、本管ライニング層に誤りなく開口部を設けることができる。
【0026】
また、前記接合工程の後、熱可塑性フィラメントからなる管状の内面被覆材を前記開口部の支管側に積層し、加熱処理により溶着又は融着させるようにしてもよい。
【0027】
これにより、本管ライニング層と支管ライニング層とに異なる材質からなるライニング材を用いても、さらに熱可塑性フィラメントからなる管状の内面被覆材を溶着又は融着することで、開口部の支管側のライニング層を補強し水密性を高めることができる。内面被覆材は、熱可塑性フィラメントを含む材料からなるので、一体化された接合部では肉厚の変化がほとんどなく、口径の小さい管路であっても内径を狭めることなく一定の内径を保ってライニング層の強度及び水密性を高めることができる。
【0028】
また、上記既設管の更生方法において、前記ライニング層の形成が、本管ライニング層の形成後に支管ライニング層を形成しても、また、支管ライニング層の形成後、本管ライニング層を形成してもよく、いずれの場合も本管と支管とを一体的にライニングすることができる。
【0029】
また、上記既設管の更生方法において、既設管内における樹脂の安定性及び施工性の観点から、前記ライニング材として、ポリプロピレン繊維又はポリエチレン繊維を用い留ことが好ましい。これにより、本管と支管とを有する既設管の内壁に強度及び水密性に優れたライニング層を形成することができ、作業性も高められる。
【発明の効果】
【0030】
上述のように構成される本発明の既設管の更生方法によれば、マンホール間を接続する本管と、本管に接続する口径の小さい支管とを有する既設管に対し、一定の口径を維持した状態で十分な強度と水密性を確保しつつライニングすることが可能となり、さらに、安全かつ作業性よく更生することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る既設管の更生方法に用いるライニング材の一例を示し、図1(a)は、ライニング材を既設管に配置した状態を示す断面図、図1(b)は、ライニング材により既設管を更生した状態を示す断面図である。す断面図である。
【図2】本発明に係る既設管の更生方法に用いるライニング材の他の例を示し、図2(a)はライニング材を既設管に配置した状態を示す断面図、図2(b)は、ライニング材により既設管を更生する過程を示す断面図、図2(c)はライニング材により既設管を更生した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る既設管の更生方法の一例を示す説明図である。
【図4】実施の形態に係る既設管の更生方法の一工程を模式的に示す説明図である。
【図5】図4の次工程を示す説明図である。
【図6】図5の次工程を示す説明図である。
【図7】図6の次工程を示す説明図である。
【図8】更生された既設管を模式的に示す説明図である。
【図9】本実施の形態に係る既設管の更生方法において、サドルを用いた例を説明する部分拡大断面図である。
【図10】本管と支管との接続部にサドルが一体化された状態を示す部分拡大断面図である。
【図11】本実施の形態に係る既設管の更生方法において、上記サドルの他の形態を用いた例を示し、本管と支管との接続部断面により示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態に係る既設管の更生方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
以下では、まず、既設管の内壁をライニングするライニング材の構成について説明し、その後、ライニング材を用いた既設管の更生方法について説明する。
【0034】
(ライニング材)
図1は、ライニング材の一例を示す断面図であり、図1(a)では、ライニング材1を既設管5に配置した状態を示し、図1(b)では、ライニング材1により既設管5を更生した状態を示している。
【0035】
ライニング材1は、主に熱可塑性フィラメント及び補強繊維(強化繊維)フィラメントを含む繊維強化複合材料からなり、可撓性を有する筒状布帛である。そして、ライニング材1は、かかる繊維強化複合材料からなるライナー基材1aと、その外周側を被覆する遮水層1bとを備えている。
【0036】
このライニング材1のライナー基材1aは、熱可塑性フィラメントを母材樹脂として繊維形態で補強繊維フィラメント束内に配置させた繊維束によって構成されている。複合材料の母材である熱可塑性フィラメントの樹脂と、強化材である補強繊維フィラメントとの組合せは、多種多様である。熱可塑性フィラメントには、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、または、ポリブチルテレフタレート等があげられる。また、補強繊維フィラメントには、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等があげられる。
【0037】
ライニング材1のライナー基材1aは、かかる繊維強化複合材料によって構成された編物または織物(織布)若しくは不織布を、縫合等によって筒状にして形成されている。また、ライニング材1は、繊維強化複合材料により形成された布帛そのものの厚みで構成するだけでなく、複数枚の布帛を重ね合わせて、所定の厚みを確保することにより構成されてもよい。
【0038】
また、ライニング材1の外側遮水層1bは、不透水性材料で形成され、かつ既設管5の内面形状に追従しうる柔軟性を有するように構成されている。外側遮水層1bの材料は、不透水性及び柔軟性を有する材料であれば特に限定されず、フィルム材やシート材の形状とされることが好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、またエラストマーや合成ゴム等の合成樹脂系材料を外側遮水層1bに用いることができる。ライニング材1の構成は、このような形態に限定されるものではなく、他に多様な形態が可能であり、3層以上の複層構造であってもよい。
【0039】
以上のように構成されるライニング材1は、ライナー基材1aの熱可塑性フィラメントが溶融するとともに、外側遮水層1bと一体化し、既設管5の内周面を覆うライニング層となる。
【0040】
本発明に係る既設管の更生方法において用いるライニング材1は、上記の熱可塑性フィラメントを含む構成のライニング材1に限定されず、他の様々なライニング材1を用いても実施することができる。
【0041】
例えば、既設管の更生に使用するライニング材として、熱可塑性樹脂からなる管状のライニング材10を用いてもよい。図2はライニング材10の例を示し、図2(a)は、ライニング材10を既設管5に配置した状態を示す断面図、図2(b)は、ライニング材10により既設管5を更生する過程を示す断面図、図2(c)はライニング材10により既設管5を更生した状態を示す断面図である。
【0042】
このライニング材10は、高密度ポリエチレン樹脂等からなる管状(円筒状)部材であり、その外面に軸方向に沿って延びる凹状部が形成されて、縮径させた状態で用いられる。また、このライニング材1は、所定の形状記憶温度(例えば80℃)に加熱及び加圧されることによって、元の円筒状に形状回復する性能を有している。
【0043】
つまり、図2(a)に示すライニング材10は、既設管5内に引込み、図2(b)に示すように、例えば蒸気過熱と圧縮空気等により内側から円筒形に復元させ、図2(c)に示すように既設管5に密着させて、内壁を更生するものである。
【0044】
(既設管の更生方法)
図3は、ライニング材1を用いて本管51の内壁をライニングする一工程を示す説明図である。既設管5の管路には、適当な間隔でマンホールM1、M2が設けられており、マンホールM1、M2の相互間を接続する本管51と、地上から本管51に接続した支管52とを備えている。
【0045】
前記ライニング材1は、図3に示すように本管51の補修対象箇所に挿入して用いられる。更生作業に先立ち、本管51に下水等の流下水がある場合には、この流下水を管路からいったん除去することが好ましい。この場合、近傍のマンホールM2の上流側に堰き止め部材7を設ける。堰き止めた流下水は排水ポンプ等で汲み上げ、地上に配設した図示しない排水ホース等を迂回路として下流側へ放出することが好ましい。さらに、本管51内に存在する堆積物や木片等の異物を除去し、高圧水洗浄を行ってから管内の更生作業に入る。
【0046】
既設管5の更生方法は、本管51と支管52との更生順序はどちらが先であってもよく、本管にライニング層を形成後、支管にライニング層を形成する場合であっても、または、支管にライニング層を形成後、本管にライニング層を形成する場合であっても好適に実施することができる。また、これらの本管及び支管のライニングによる更生は、本管及び支管が同時(同時期)になされるだけでなく、一方の管路を更生後、時間を経て他方の管路が更生される場合にも適用することができる。
【0047】
本実施形態では、上記ライニング材1を用いて老朽化した本管51の更生作業を行い、これに続いて、本管51に接続する支管52の更生作業をともに行う例について説明する。
【0048】
まず、マンホールM1、M2を使用して、ライニング材1を既設管5の本管51に挿入する(挿入工程)。ライニング材1は、例えば、発進側マンホールM1と到達側マンホールM2との間の長さに余裕長さを加えた長さで用意されている。また、到達側マンホールM2の地上側に牽引ワイヤ91を巻き取るウィンチ9等の機器を設置する。牽引ワイヤ91は、到達側マンホールM2から本管51内に挿通されており、ライニング材1の内側に配備された加熱装置(加熱手段)6を、発進側マンホールM1から到達側マンホールM2方向に牽引する。
【0049】
挿入工程を経て本管51に配置されたライニング材1には、内側に加熱装置6が設置される。この加熱装置6は、図3に例示するように、ライニング材1を内外両面から加熱する(加熱工程)。
【0050】
この種の加熱装置6は、ライニング材1のライナー基材1aの内周面に沿う円筒状の外形を有するライニング用ピグ61と、ライナー基材1aに外装される筒状の補助用ピグ62とを備えている。ライニング用ピグ61は、ライナー基材1aを内周側から加熱蒸気等により加熱して、ライナー基材1aに含まれる熱可塑性フィラメントを融解する。また、補助用ピグ62は、ライナー基材1aの外周面を加熱し、外周側から熱可塑性フィラメントの融解を補助する。
【0051】
図3に示すように、加熱装置6のライニング用ピグ61は、後方部分が拡径したテーパー形状とされ、ライニング材1が軟化されて徐々に拡径するように作用する。この加熱工程では、ライニング材1における熱可塑性フィラメントの融点以上の温度で加熱する。これにより、ライニング材1の熱可塑性フィラメントが溶融し、ライニング材1の広範囲に亘って熱が均等拡散されて、ライニング材1が補強繊維フィラメントを混合した繊維強化樹脂層を形成するものとなる。
【0052】
このような熱可塑性フィラメントを母材樹脂とするライナー基材1aの加熱溶融によってライニング材1からなるライニング層を成形する場合、既設管5内の温度条件が作用する。一般的に、温度条件は、既設管5が下水管であれば60℃以下であり、電力管であれば105℃以下となるため、110℃以下の環境下で安定した性質を示す母材樹脂を選択することが望ましい。
【0053】
例えばポリプロピレンやポリエチレンは、樹脂軟化点であるガラス転移点が既設管5の前記温度条件よりも低いため、安定性が高く好適である。そこで、ライニング材1の熱可塑性フィラメントの構成材料として、ポリプロピレン(融点は160〜170℃程度)が採用される場合には、加熱装置6の加熱温度を、例えば180℃に設定することが好ましい。また、熱可塑性フィラメントの構成材料として高密度または低密度ポリエチレン(融点は140℃)が採用される場合には、加熱装置6の加熱温度を例えば150℃に設定することが好ましい。
【0054】
これにより、比較的短時間で、ライニング材1の熱可塑性フィラメントの全体を溶融させることが可能となる。また、熱可塑性材料(プラスチック材料)の中に補強繊維フィラメントを分散させた構成(前記繊維強化樹脂層)をライニング材1の全体に亘って得るための施工時間(加熱時間)の短縮化を図ることができる。ライニング材1には、熱可塑性フィラメントの溶け残りを生じることがなく、また、熱可塑性フィラメントの一部分が過剰加熱されて流動してしまうといったことも回避できる。
【0055】
ライニング材1は、加熱工程を経た段階では未だ完全に拡径、硬化した状態ではなく、また本管51の内面に密着した状態とはなっていない。図3に示すように、加熱装置6の後方には拡径手段が配備されている。
【0056】
加熱工程を経たライニング材1は拡径手段8により内側から加圧されて本管51の内周面に沿う管状に拡径される(拡径工程)。図3例示する拡径手段8は、反転機が地上に設置され、先端に拡径用チューブ81を備え、反転させつつ導入される。
【0057】
拡径用チューブ81は、内圧により十分に拡径することが可能であり、かつ拡張に際して十分な強度を有する拡張性及び耐熱性に優れたエラストマーなどを材料として形成されている。また、拡径用チューブ81は、拡径後にも拡径用チューブ81と第1ライナー基材21とが接着しない材質により形成されている。拡径用チューブ81の外径は、最大拡張時にライニング材1を内側から本管51の内周面に押圧し得る大きさで確保されている。
【0058】
拡径用チューブ81は、発進側マンホールM1側の地上に設置された反転機8に接続され、拡張していない状態でライニング材1の内側に導入されている。そして、その後、拡径用チューブ81には、反転機8から加圧気体が供給されて、加熱装置6の後方部分に追従しながら内周面が外周側に反転しつつ拡張していく。これに伴って、ライニング材1は、加熱装置6を経て軟化した部分から順に、拡径用チューブ81によって内側から押圧されて拡径する。ライニング材1の拡径した部分は本管51の内周面に密着する。加熱装置6が前進することにより、拡径用チューブ81の拡張範囲も前方へ広げられ、ライニング材1と本管51との密着状態はそのまま維持されて、広範囲で均一な力を付与することができ、均一に成形される。
【0059】
本管51の補修対象箇所の全域に亘ってライニング材1が拡径されたならば、冷却及び硬化させる(冷却工程)。これにより、既設管5の本管51の内周面がライニング材1(ライニング層)により更生されたものとなる(図1(b)参照)。
【0060】
次に、本管51と支管52とを接続し一体化するために、本管51と支管52との接続部に開口部を設ける。図4〜図8は、本管51にライニング層を形成した後の各工程を模式的に示した説明図である。
【0061】
前記のとおり、本管51をライニング材1で更生したことにより、支管52との接続部がライニング層11で閉塞されている。そこで、この本管ライニング層11を切開して、支管52に開口する開口部(13)を形成する(削孔工程)。
【0062】
図4、5に示すように、地上に開口して設けられた枡53の近傍に、巻取機41を設置し、この巻取機41に接続する探知手段としての小型カメラ42を支管52内へ導入する。この小型カメラ42により、本管ライニング層11と支管52との接続箇所を画像確認しながら、開口箇所を決定し、切削機43を用いて開口する。小型カメラ42には、照明装置を付属させることによって、本管ライニング層11を支管52側から照射して、支管52の配設位置を本管51側からも認識可能とすることが好ましい。また、本管51と支管52との接続部を探知するための探知手段には、適宜のセンサを用いてもよい。
【0063】
また、図5に示すように、本管ライニング層11は、拡径された際に支管52の管口52aに対応する円形の凹み(支管側から見れば円形の膨らみ)を生じている。そこで、この凹みを目安に、本管ライニング層11に放射状の切込みライン52cを入れて切開する。例えば、支管52の管口52aに対して十字状に本管ライニング層11を切開し、4枚の切開片を除去せずに残しておく。
【0064】
なお、切込みライン52cは、放射状や十字状のみに限定されず、このほか、三角形状の切込みを入れたり、四角形に切削したりしてもよく、本管51及び支管52の内面形状に合わせて選択される。
【0065】
本管ライニング層11には、複数の切開片112を形成する。これらの切開片112は、加熱処理により本管51側から支管52側へ押し拡げられ、支管52の内周面に沿って立ち上げられる。加熱処理には、図6に例示するような、公知の加熱パッカー44を用いることができる。加熱パッカー44は、内部が密閉された管状袋体441を頂部に備え、この袋体441が耐熱性を有する伸縮性材料、例えば、シリコンゴムから形成されている。そして、加熱パッカー44は、袋体441を収縮させた状態で開口部13の下部位置に設置され、内部に加熱蒸気を供給し袋体441を膨張させる。これにより、切開片112が袋体441で加熱溶融されるとともに、支管52の円管形状に沿って押圧され、支管52の内周面に沿って立ち上げられる。
【0066】
図7に示すように、本管ライニング層11には、支管52との接続部に開口部13が形成される。なお、支管側にライニング材1、10を用いて支管ライニング層12が形成されている場合、本管ライニング層11を支管52の内周面に沿って立ち上げ、加熱溶融して一体化することにより、本管51と支管52との一体的なライニング施工が完了する。
【0067】
また、かかる開口部13の上方に、支管ライニング層12を形成して、さらに支管52の更生を行ってもよい。支管52のライニングは、前記本管51のライニング工程と同様であり、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントを含む繊維強化複合材料からなる筒状布帛のライニング材1を加熱溶融し、拡径及び冷却して支管52の内周面に一体化させることにより行う。このとき、支管52のライニング材1と、開口部13に立ち上げられた切開片112とを、ともに加熱して溶着又は融着することで、両者を密着させるとともに一体化させる(結合工程)。
【0068】
これにより、図8に示すように、本管ライニング層11と支管ライニング層12とが完全に溶融されて一体化するとともに、開口部13がライニング材1によるライニング層11で被覆され既設管5の更生が完了する。なお、支管ライニング層12は、前記のとおり、熱可塑性フィラメントを含むライニング材1により形成するに限定されず、管状の前記ライニング材10等により形成されてもよく、ライニング材の組合せ方も多様であってよい。
【0069】
また、上記の既設管の更生方法において、本管ライニング層11と支管ライニング層12との接合部に、熱可塑性樹脂材からなるサドル2を用いて、加熱溶着又は融着させるようにしてもよい。
【0070】
例えば、本管ライニング層11が肉厚であり、支管52の内周面に沿って立ち上げることが困難な場合には、図9に示すように、開口部13にハット型のサドル2を嵌め込み、加熱溶融することによって、前記切開片112に相当する立ち上げ部22を形成してもよい。サドル2は、熱可塑性樹脂材料により形成され、より好ましくは熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントからなる複合材料により形成されていることで、加熱により溶着又は融着し、図10に示すように本管ライニング層11及び支管ライニング層12に対して一体化させることが可能となる。
【0071】
また、サドル2は、ハット型の形状であるに限らず、既設管5の内周面に沿うような形状であれば、どのような形状であってもよい。例えば、図11に示すように、本管ライニング層11と支管ライニング層12との接合部における本管51側に配設されて、本管51の内面形状に追従しうる略鞍形状のサドル2を用いることも可能である。
【0072】
この場合、サドル2を、熱可塑性フィラメント及び補強繊維フィラメントからなる複合材料により形成することで、容易に内面形状に沿わせることができる。また、サドル2は、加熱処理して本管51に溶着又は融着させる。次いで、サドル2に削孔することにより、支管52の管口に対応する開口部を形成し、上記削孔工程及び結合工程と同様にして、支管52の内面に一体化させることができる。
【0073】
これにより、本管51と支管52との接続部(本管ライニング層11と支管ライニング層12との接合部)におけるライニング層同士をより強固に密着一体化させ、十分に強度と水密性とを高めることが可能となる。図10に示すように、一体化したサドル2は、本管51及び支管52のライニング層11,12と完全に溶融しているため、平滑な内周面を形成し、必要以上に口径を狭めることもない。
【0074】
さらに、開口部13において、図示しない熱可塑性フィラメントからなる管状の内面被覆材を開口部13の支管52側に積層して、加熱により溶着又は融着させて、接続部の強度及び水密性をより一層高めるようにしてもよい。
【0075】
以上のような既設管の更生方法により、本管51及び支管52には口径を大きく狭めることなく、特に口径の小さい支管52であっても容易にライニングすることができ、本管51とともに一体的なライニング層11、12を形成することができる。また、上記のようなライニング材1を用いることによって、補強繊維フィラメントにより補強された強固な複合ライニング層が本管51及び支管52に形成されて老朽化した既設管5が更生される。しかも、更生作業を比較的短時間で完了させることができ、周辺環境への影響が少なく、既設管5の下水を堰き止めておく時間も短時間で済ませることができる。
【0076】
なお、本発明に係る既設管の更生方法は、上記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。つまり、更生に用いるライニング材は、本管用ライニング材及び支管用ライニング材ともに、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛であるに限らず、本管用ライニング材又は支管用ライニング材に他の構成のライニング材を用いてもよい。また、本管ライニング層11と支管ライニング層12との形成順も上記形態に限定されず、本管ライニング層11を切開して支管52側に開口する前に、支管52をライニング材によりライニングしておいてもよく、また、支管52にライニング層が形成された後に本管51をライニングしていくような更生順序であってもよい。したがって上記の実施形態は例示であり、限定的なものではない。
【0077】
本発明に係る既設管の更生方法では、用いるライニング材により、上記以外の加熱手段や拡径手段を用いて既設管5の内面にライニング材を溶着又は融着させるようにすればよく、上記の形態には限定されない。つまり、例えば、ライニング材に対し適宜の内面被覆材をチューブ状に形成し、流体圧により内面被覆材の内周面が外周側となるように反転させつつ順に挿入し、拡径させることにより、同時に一体化するなどしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、老朽化した既設管を更生するのに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1、10 ライニング材
1a ライナー基材
1b 外側遮水層
11 本管ライニング層
12 支管ライニング層
13 開口部
5 既設管
51 本管
52 支管
53 枡
6 加熱装置
61 ライニング用ピグ
62 補助用ピグ
8 反転機
81 拡径用チューブ
9 ウィンチ
91 牽引ワイヤ
2 サドル
M1、M2 マンホール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンホール間を接続する本管と、地上から本管に接続する支管とを備える既設管の内壁に、ライニング材によるライニング層を形成して更生する既設管の更生方法であって、
前記ライニング材は、熱融着性を有する管状体又は筒状体であり、本管に用いられるライニング材と、支管に用いられるライニング材との少なくとも一方が、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなり、
管路内に前記ライニング材を挿入及び拡径してライニング層を形成し、本管と支管との接続部では、本管ライニング層と支管ライニング層とを加熱処理して溶着又は融着させる結合工程によりライニング層同士を接合することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項2】
請求項1に記載の既設管の更生方法において、
前記結合工程の後、本管ライニング層と支管ライニング層との接合部に、熱可塑性フィラメントを含むサドル材を加熱処理して溶着又は融着させることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング材は、本管用ライニング材及び支管用ライニング材ともに、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング材は、本管用ライニング材又は支管用ライニング材のうちの一方が熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなり、他方が、軸方向に沿って凹状に圧潰され、形状記憶温度にて円筒体に形状回復する熱融着性を有する管状体からなることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング材を用いて本管にライニング層を形成後、本管と支管との接続部では、本管ライニング層を切開して開口する削孔工程により、支管に対応した開口部を本管ライニング層に設けることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項6】
請求項5に記載の既設管の更生方法において、
前記削孔工程では、本管ライニング層の開口部に切開片を残存させ、
前記結合工程では、当該切開片を本管側から支管側へ管路内壁に沿って立ち上げ、本管ライニング層の切開片と支管ライニング層とを密接させて加熱処理することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の既設管の更生方法において、
前記削孔工程では、本管ライニング層を放射状に切開して開口部を設けることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記削孔工程に先立ち、本管と支管との接続部を、管路内に挿入した探知手段によって探知し、開口位置を決定することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項9】
請求項8に記載の既設管の更生方法において、
前記探知手段は照明装置を備えており、本管又は支管の一方の管路から本管ライニング層を照射し、他方の管路から照射位置を確認して開口位置を決定することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記結合工程の後、熱可塑性フィラメントを含む管状の内面被覆材を前記開口部の支管側に積層し、加熱処理により溶着又は融着させることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング層は、本管ライニング層の形成後、支管ライニング層を形成することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング層は、支管ライニング層の形成後、本管ライニング層を形成することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記熱可塑性フィラメントは、ポリプロピレン繊維又はポリエチレン繊維からなることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項1】
マンホール間を接続する本管と、地上から本管に接続する支管とを備える既設管の内壁に、ライニング材によるライニング層を形成して更生する既設管の更生方法であって、
前記ライニング材は、熱融着性を有する管状体又は筒状体であり、本管に用いられるライニング材と、支管に用いられるライニング材との少なくとも一方が、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなり、
管路内に前記ライニング材を挿入及び拡径してライニング層を形成し、本管と支管との接続部では、本管ライニング層と支管ライニング層とを加熱処理して溶着又は融着させる結合工程によりライニング層同士を接合することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項2】
請求項1に記載の既設管の更生方法において、
前記結合工程の後、本管ライニング層と支管ライニング層との接合部に、熱可塑性フィラメントを含むサドル材を加熱処理して溶着又は融着させることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング材は、本管用ライニング材及び支管用ライニング材ともに、熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング材は、本管用ライニング材又は支管用ライニング材のうちの一方が熱可塑性フィラメントを含む筒状布帛からなり、他方が、軸方向に沿って凹状に圧潰され、形状記憶温度にて円筒体に形状回復する熱融着性を有する管状体からなることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング材を用いて本管にライニング層を形成後、本管と支管との接続部では、本管ライニング層を切開して開口する削孔工程により、支管に対応した開口部を本管ライニング層に設けることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項6】
請求項5に記載の既設管の更生方法において、
前記削孔工程では、本管ライニング層の開口部に切開片を残存させ、
前記結合工程では、当該切開片を本管側から支管側へ管路内壁に沿って立ち上げ、本管ライニング層の切開片と支管ライニング層とを密接させて加熱処理することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の既設管の更生方法において、
前記削孔工程では、本管ライニング層を放射状に切開して開口部を設けることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記削孔工程に先立ち、本管と支管との接続部を、管路内に挿入した探知手段によって探知し、開口位置を決定することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項9】
請求項8に記載の既設管の更生方法において、
前記探知手段は照明装置を備えており、本管又は支管の一方の管路から本管ライニング層を照射し、他方の管路から照射位置を確認して開口位置を決定することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記結合工程の後、熱可塑性フィラメントを含む管状の内面被覆材を前記開口部の支管側に積層し、加熱処理により溶着又は融着させることを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング層は、本管ライニング層の形成後、支管ライニング層を形成することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記ライニング層は、支管ライニング層の形成後、本管ライニング層を形成することを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一つの請求項に記載の既設管の更生方法において、
前記熱可塑性フィラメントは、ポリプロピレン繊維又はポリエチレン繊維からなることを特徴とする既設管の更生方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−121282(P2011−121282A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280818(P2009−280818)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
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