説明

有機ニッケル化合物及び該化合物を用いたニッケル含有膜の製造方法

【課題】有機金属化学蒸着法により高い平坦性で膜を形成することができる有機ニッケル化合物の提供。
【解決手段】本発明の有機ニッケル化合物は、Ni(R12N)2で表される有機ニッケル化合物である。但し、式中のR1及びR2は水素又は炭素数が1〜4の直鎖若しくは分岐状アルキル基をそれぞれ示し、R1とR2は互いに同一又は異なっていてもよい。また、本発明のニッケル含有膜の製造方法は、上記有機ニッケル化合物を用いてMOCVD法によりニッケル含有膜を作製することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル含有膜を有機金属化学蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、以下、MOCVD法という。)により作製するための材料として好適な有機ニッケル化合物及び該化合物を用いたニッケル含有膜の製造方法に関するものである。更に詳しくは、高誘電体膜をゲート絶縁膜として使用する際に、その特長を引出すために必要とされるメタルゲート電極として有望視されているニッケルメタル膜、ニッケルシリサイド膜などのニッケル含有膜や、バリアメタルや拡散防止膜として有望視されているニッケルナイトライド膜などのニッケル含有膜を作製するための材料として好適な有機ニッケル化合物及び該化合物を用いたニッケル含有膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、論理回路、RAM(Random Access Memory)、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、LCD(Liquid Crystal Display)等の半導体デバイスの高速化、高集積化、多種混載化が急速に進んでいる。このような半導体デバイスのMOS(Metal Oxide Semiconnductor)構造におけるゲート絶縁膜やトンネル絶縁膜等の絶縁膜には、SiO2よりなる絶縁膜が用いられていた。図1はMOS構造を有するn-チャネル-MOSトランジスタの断面構成図である。このn-チャネル-MOSトランジスタは、基板10中に間隔をあけてn型領域を2つ形成してソース領域10a及びドレイン領域10bとし、このソース領域10a及びドレイン領域10bの間をチャネル領域10cとする。チャネル領域10c直上にはゲート絶縁膜11が、更にゲート絶縁膜11の上にゲート電極12が形成される。またソース領域10a直上にソース電極14が、ドレイン領域10b直上にドレイン電極15がそれぞれ形成され、両端にフィールド酸化膜13を備えることで、トランジスタとして機能する。
しかしながら、半導体デバイスの微細化に伴って、ゲート絶縁膜やトンネル絶縁膜の薄膜化が進行すると、量子トンネル効果によって絶縁膜を透過して流れ出てしまうリーク電流が増大し、消費電力と発熱が増大するという難点が顕在化する問題点があった。
【0003】
かかる難点を解消するために、SiO2よりも誘電率の高い絶縁膜(以下、High−k材料という。)をゲート絶縁膜等として用い、ゲート絶縁膜等の物理膜厚を厚くすることが検討されている。このようなHigh−k材料として、その高い誘電率、シリコンとの高い反応自由エネルギー、高いバンドギャップ等の特性から酸化ハフニウム、ハフニウムアルミネート、酸化ジルコニウムが近年注目されている。
また、このようなHigh−k材料は、従来よりゲート電極に使われていたポリシリコンとの相性に問題があるため、このポリシリコンに代わる新しい材料が模索されている。ポリシリコンに代わる材料としては、金属膜、金属シリサイド膜、あるいはこれらの積層構造が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−145407号公報(段落[0022]、[0023])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このうちゲート電極に使用される金属膜として、Niメタル膜、Niシリサイド膜等のNi含有膜が検討されているが、このNi含有膜を作製する際に、どのような化合物を用いればゲート電極として優れた膜を作製することができるのか、膜形成材料の選定は成されていなかった。
また、TiNやTaN等に代わる新たなバリアメタル、拡散防止膜に使用される金属含有膜としてNiナイトライド膜が検討されているが、Niナイトライド膜を形成する材料の選定も成されていなかった。
【0005】
本発明の目的は、高い平坦性の膜を形成することができる、有機ニッケル化合物及び該化合物を用いたニッケル含有膜の製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、不純物含有量の少ない膜を形成することができる、有機ニッケル化合物及び該化合物を用いたニッケル含有膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、次の式(1)に示される有機ニッケル化合物である。
Ni(R12N)2 ……(1)
但し、式中のR1及びR2は水素又は炭素数が1〜4の直鎖若しくは分岐状アルキル基をそれぞれ示し、R1とR2は互いに同一又は異なっていてもよい。
【0007】
請求項1に係る発明では、上記式(1)で表される有機ニッケル化合物は、価数が2価のニッケルを中心金属とし、R1及びR2を有するアミノ基が2つ配位した化合物である。2価のニッケル金属に配位するアミノ基にそれぞれ水素や特定のアルキル基を導入することで、分子の多量体化を防ぐことができるため、高い平坦性の膜を形成することができる。また、本発明の有機ニッケル化合物は配位不飽和であるため、この化合物を用いることで、不純物含有量の少ない膜を形成することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の有機ニッケル化合物を用いてMOCVD法によりニッケル含有膜を作製することを特徴とするニッケル含有膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機ニッケル化合物は、Ni(R12N)2で表される有機ニッケル化合物である。上記構造を有する本発明の有機ニッケル化合物は分子の多量体化を防ぐことができるため、高い平坦性の膜を形成することができる。また、本発明の有機ニッケル化合物は配位不飽和であるため、この化合物を用いることで、不純物含有量の少ない膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の有機ニッケル化合物は、次の式(1)に示される化合物である。
Ni(R12N)2 ……(1)
但し、式中のR1及びR2は水素又は炭素数が1〜4の直鎖若しくは分岐状アルキル基をそれぞれ示し、R1とR2は互いに同一又は異なっていてもよい。
上記式(1)で表される有機ニッケル化合物は、価数が2価のニッケルを中心金属とし、R1及びR2を有するアミノ基が2つ配位した化合物である。2価のニッケル金属に配位するアミノ基にそれぞれ水素や特定のアルキル基を導入することで、分子の多量体化を防ぐことができるため、高い平坦性の膜を形成することができる。また、本発明の有機ニッケル化合物は配位不飽和であるため、この化合物を用いることで、不純物含有量の少ない膜を形成することができる。
【0011】
上記式(1)で表される本発明の有機ニッケル化合物としては、Ni(H2N)2、Ni[(H)(Me)N]2、Ni[(H)(Et)N]2、Ni[(H)(n-Pr)N]2、Ni[(H)(i-Pr)N]2、Ni[(H)(n-Bu)N]2、Ni[(H)(i-Bu)N]2、Ni[(H)(s-Bu)N]2、Ni[(H)(t-Bu)N]2、Ni(Me2N)2、Ni[(Me)(Et)N]2、Ni[(Me)(n-Pr)N]2、Ni[(Me)(i-Pr)N]2、Ni[(Me)(n-Bu)N]2、Ni[(Me)(i-Bu)N]2、Ni[(Me)(s-Bu)N]2、Ni[(Me)(t-Bu)N]2、Ni(Et2N)2、Ni[(Et)(n-Pr)N]2、Ni[(Et)(i-Pr)N]2、Ni[(Et)(n-Bu)N]2、Ni[(Et)(i-Bu)N]2、Ni[(Et)(s-Bu)N]2、Ni[(Et)(t-Bu)N]2、Ni[(n-Pr)2N]2、Ni[(n-Pr)(i-Pr)N]2、Ni[(n-Pr)(n-Bu)N]2、Ni[(n-Pr)(i-Bu)N]2、Ni[(n-Pr)(s-Bu)N]2、Ni[(n-Pr)(t-Bu)N]2、Ni[(i-Pr)2N]2、Ni[(i-Pr)(n-Bu)N]2、Ni[(i-Pr)(i-Bu)N]2、Ni[(i-Pr)(s-Bu)N]2、Ni[(i-Pr)(t-Bu)N]2、Ni[(n-Bu)2N]2、Ni[(n-Bu)(i-Bu)N]2、Ni[(n-Bu)(s-Bu)N]2、Ni[(n-Bu)(t-Bu)N]2、Ni[(i-Bu)2N]2、Ni[(i-Bu)(s-Bu)N]2、Ni[(i-Bu)(t-Bu)N]2、Ni[(s-Bu)2N]2、Ni[(i-Bu)(t-Bu)N]2、Ni(t-Bu2N)2である。なお、Meはメチル基、Etはエチル基、n-Prはノルマルプロピル基、i-Prはイソプロピル基、n-Buはノルマルブチル基、i-Buはイソブチル基、s-Buはセカンダリーブチル基、t-Buはターシャリーブチル基である。
【0012】
本発明の有機ニッケル化合物、例えばR1及びR2をそれぞれエチル基としたNi(Et2N)2を製造する方法としては、先ず、無水塩化ニッケル(II)を無水ジエチルエーテル等の有機溶媒に懸濁させ、この懸濁液に氷冷下で30分間〜1時間程度かけてゆっくりジエチルアミノリチウムを添加する。次に、ジエチルアミノリチウムを添加した懸濁液をろ過し、得られたろ液を減圧濃縮し、更に再結晶することによりNi(Et2N)2が得られる。例えば、ジエチルアミノリチウムをジメチルアミノリチウムに代えることでNi(Me2N)2が、メチルエチルアミノリチウムに代えることでNi(MeEtN)2がそれぞれ得られる。
【0013】
本発明のニッケル含有膜の製造方法は、上記方法により得られた有機ニッケル化合物を用いてMOCVD法により基材上、例えばシリコン基板上にニッケル含有膜を作製することを特徴とする。本発明の有機ニッケル化合物を用いてMOCVD法によりニッケル含有膜を作製すると、2価のニッケル金属に配位するアミノ基にそれぞれ水素や特定のアルキル基を導入した構造を有する本発明の有機ニッケル化合物は、分子の多量体化を防ぐことができるため、高い平坦性を有するニッケル含有膜が得られる。また、本発明の有機ニッケル化合物は配位不飽和であるため、不純物含有量の少ないニッケル含有膜が得られる。本発明の製造方法により作製されるニッケル含有膜のうち、Niメタル膜やNiシリサイド膜がメタルゲート電極の用途に、Niナイトライド膜がバリアメタルや拡散防止膜の用途にそれぞれ好適である。なおNiシリサイド膜は、Niメタル膜にSiが所定の濃度でドープして形成された膜であってもよい。
【実施例】
【0014】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ず、無水塩化ニッケル(II)200gを無水ジエチルエーテル500mlに懸濁させ、この懸濁液を氷冷下で30分間かけてゆっくりジエチルアミノリチウム350gを添加し、懸濁液を24時間冷却しながら攪拌した。次に、ジエチルアミノリチウムを添加した懸濁液をろ過し、得られたろ液を約399Pa(30torr)、30℃で減圧濃縮することにより固形物を得た。この固形物をN-ヘキサン100ccで再結晶することにより、精製物を20g得た。得られた精製物を1H-NMRにより測定した結果、測定値はδ=4.5ppm(m,C−H)及びδ=3.8ppm(s,C−H)であった。上記分析結果より得られた化合物はNi(Et2N)2であると同定された。
<実施例2>
ジエチルアミノリチウムをジメチルアミノリチウムに代えた以外は実施例1と同様にして精製物を得た。得られた精製物を1H-NMRにより測定した結果、測定値はδ=1.5ppm(s,C−H)であった。上記分析結果より得られた化合物はNi(Me2N)2であると同定された。
<実施例3>
ジエチルアミノリチウムをメチルエチルアミノリチウムに代えた以外は実施例1と同様にして精製物を得た。得られた精製物を1H-NMRにより測定した結果、測定値はδ=1.8ppm(s,C−H)、δ=3.5(s,C−H)及びδ=4.3ppm(m,C−H)であった。上記分析結果より得られた化合物はNi(MeEtN)2であると同定された。
【0015】
<比較例1>
従来よりゲート電極として使用されているポリシリコンを形成するための材料としてヘキサジクロロジシラン(HCD)を用意した。
<比較例2>
従来よりゲート電極として使用されているポリシリコンを形成するための材料としてトリクロロシラン(TCS)を用意した。
<比較例3>
従来よりゲート電極として使用されているポリシリコンを形成するための材料としてジクロロシラン(DCS)を用意した。
【0016】
<比較試験1>
実施例1〜3の有機ニッケル化合物及び比較例1〜3の有機シリコン化合物を用いて次に表1に示す成膜条件でMOCVD法により基材上にNiメタル膜、ポリシリコン膜をそれぞれ作製し、以下に示すような成膜時間当たりの膜厚試験及び表面粗さ試験を行った。
【0017】
【表1】

【0018】
(1)成膜時間あたりの膜厚試験
成膜を終えた基材上のNiメタル膜、ポリシリコン膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。
(2)表面粗さ試験
成膜を終えた基材上のNiメタル膜、ポリシリコン膜をAFM(原子間力顕微鏡)アナライザーを用いて膜表面における表面粗さが一番高いRtopと一番低いRBottomをそれぞれ測定した。
【0019】
<評価>
実施例1〜3の有機ニッケル化合物及び比較例1〜3の有機シリコン化合物でそれぞれ得られたNiメタル膜、ポリシリコン膜の結果を表2にそれぞれ示す。なお、表2中の表面粗さは、表面粗さ試験で測定したRTopとRBottomの差を示す。
【0020】
【表2】

【0021】
表2より明らかなように、比較例1〜3の有機シリコン化合物を用いて形成したポリシリコン膜は、成膜時間に対する膜厚が不均一であり、また十分な膜厚も得られていなかった。また、表面粗さは、RTopとRBottomの差が大きく、均一な膜質のポリシリコン膜が得られていない結果が得られた。これは成膜の途中でパーティクルが発生して、成膜室へ至るまでの配管に閉塞が生じたため、膜厚や表面粗さが不均一になったのではないかと考えられる。
【0022】
一方、実施例1〜3の有機ニッケル化合物を用いて形成したNiメタル膜は、成膜時間に比例して膜厚が厚くなる結果が得られており、成長速度が安定していることが判る。また、表面粗さは、RTopとRBottomの差が非常に小さく、均一な膜質のNiメタル膜が得られていた。また、実施例1〜3でそれぞれ作製したNiメタル膜を元素分析したところ、膜中に含まれる炭素不純物は数ppm以下であり、純度の高い膜が得られていた。これらの結果から実施例1〜3の有機ニッケル化合物は、ゲート電極として従来のポリシリコン膜に代わるNiメタル膜を作製するために好適な材料であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】n-チャネル-MOSトランジスタの断面構造図。
【符号の説明】
【0024】
10 基板
10a ソース領域
10b ドレイン電極
10c チャネル領域
11 ゲート絶縁膜
12 ゲート電極
13 フィールド酸化膜
14 ソース電極
15 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)に示される有機ニッケル化合物。
Ni(R12N)2 ……(1)
但し、式中のR1及びR2は水素又は炭素数が1〜4の直鎖若しくは分岐状アルキル基をそれぞれ示し、R1とR2は互いに同一又は異なっていてもよい。
【請求項2】
請求項1記載の有機ニッケル化合物を用いて有機金属化学蒸着法によりニッケル含有膜を作製することを特徴とするニッケル含有膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−124291(P2006−124291A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312033(P2004−312033)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】