説明

有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物及び有機薄膜トランジスタ

【課題】大気中で駆動する場合の閾値電圧の絶対値が小さい有機薄膜トランジスタを製造しうる有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物を提供すること。
【解決手段】分子内に環状エーテル構造を有する基を含有する化合物(A)と、含フッ素溶媒(B)とを含む有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタが有する絶縁層を形成するのに適した有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物に関し、特にオーバーコート絶縁層を形成するのに適した有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタは、無機半導体より低温で製造できるため、その基板としてプラスチック基板やフィルムを用いることができ、このような基板を用いることによりフレキシブルであり、軽量で壊れにくい素子を得ることができる。また、有機材料を含む溶液の塗布や印刷法を用いた成膜により素子作製が可能な場合があり、大面積の基板に多数の素子を低コストで製造することが可能な場合がある。
【0003】
さらに、トランジスタの検討に用いることができる材料の種類が豊富であるため、分子構造の異なる材料を検討に用いれば、幅広い範囲の特性のバリエーションを有する素子を製造することができる。
【0004】
有機薄膜トランジスタの1種である電界効果型有機薄膜トランジスタでは、ゲート電極に印加される電圧がゲート絶縁層を介して半導体層に作用して、ドレイン電流の電流量を制御する。そのため、ゲート電極と半導体層の間にはゲート絶縁層が形成される。
【0005】
また、電界効果型有機薄膜トランジスタに用いられる有機半導体化合物は、湿度、酸素等の環境の影響を受けやすく、トランジスタ特性が、湿度、酸素等に起因する経時劣化を起こしやすい。
【0006】
そのため、有機半導体化合物が剥き出しになるボトムゲート型有機電界効果トランジスタ素子構造では、素子構造全体を覆うオーバーコート層を形成して有機半導体化合物を外気との接触から保護することが必須となっている。一方、トップゲート型有機電界効果トランジスタ素子構造では、有機半導体化合物はゲート絶縁層によりコートされて保護されている。
【0007】
このように、電界効果型有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層を覆うオーバーコート絶縁層又はゲート絶縁層を形成するために、高分子化合物と溶剤とを含有する組成物が用いられる。本願明細書では、上記オーバーコート絶縁層、ゲート絶縁層などの有機薄膜トランジスタの絶縁層又は絶縁膜を有機薄膜トランジスタ絶縁層という。
【0008】
有機薄膜トランジスタ絶縁層を構成する材料(以下、有機薄膜トランジスタ絶縁層材料と記す)としては、例えば、テトラフルオロエチレンを含む共重合体が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−513788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、大気中の酸素又は水分が有機薄膜トランジスタ内部に侵入すると、有機半導体化合物に作用し、電荷のトラップが形成され、閾値電圧の絶対値が上昇する。それゆえ、上記有機薄膜トランジスタ絶縁層材料を用いて形成した絶縁層を含む有機電界効果トランジスタは、大気中で駆動する場合の閾値電圧の絶対値が大きいという課題がある。
【0011】
本発明の目的は、大気中で駆動する場合の閾値電圧の絶対値が小さい有機薄膜トランジスタを製造しうる有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は、環状エーテル構造を有する基を含有する化合物(A)と、含フッ素溶媒(B)とを含む有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物を提供する。
【0013】
ある一形態においては、前記環状エーテル構造を有する基が、式(1)
【0014】
【化1】

(1)
【0015】
[式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。該有機基中の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。]
で表される基及び、式(2)
【0016】
【化2】

(2)
【0017】
[式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。該有機基中の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。]
で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である。
【0018】
ある一形態においては、前記含フッ素溶媒が、炭素数6〜20の芳香族フッ素化合物である。
【0019】
ある一形態においては、前記有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物は、更に、フッ素樹脂(C)を含む。
【0020】
ある一形態においては、前記フッ素樹脂(C)が、下に定義されるフッ素樹脂(C−1)及び下に定義されるフッ素樹脂(C−2)からなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ素樹脂である。
フッ素樹脂(C−1):
式(3)
【0021】
【化3】

(3)
【0022】
[式中、Xは、フッ素原子を有する炭素数1〜20の一価の有機基、フッ素原子又は塩素原子を表す。]
で表される繰り返し単位と、式(4)
【0023】
【化4】

(4)
【0024】
[式中、Rは、アルキレン基を表す。該アルキレン基中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。]
で表される繰り返し単位とを含有するフッ素樹脂
フッ素樹脂(C−2):
式(5)
【0025】
【化5】

(5)
【0026】
[式中、R10〜R12は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。該有機基中の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。Rfは、フッ素原子又はフッ素原子を有する炭素数1〜20の一価の有機基を表す。Raaは、炭素数1〜20の二価の有機基を表す。該二価の有機基中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。aは、0〜20の整数を表し、mは、1〜5の整数を表す。Raaが複数個ある場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。Rが複数個ある場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。Rfが複数個ある場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。]で表される繰り返し単位を含有し、かつ、第1の官能基を2つ以上含有し、該第1の官能基が、電磁波の照射もしくは熱の作用により、活性水素と反応する第2の官能基を生成する官能基であるフッ素樹脂
【0027】
ある一形態においては、上記第1の官能基が、ブロック化剤でブロックされたイソシアナト基及びブロック化剤でブロックされたイソチオシアナト基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である。
【0028】
ある一形態においては、前記第1の官能基が、式(6)
【0029】
【化6】

(6)
【0030】
[式中、Xaは、酸素原子又は硫黄原子を表す。R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。]
で表される基である。
【0031】
ある一形態においては、前記第1の官能基が、式(7)
【0032】
【化7】

(7)
【0033】
[式中、Xbは、酸素原子又は硫黄原子を表す。R15、R16及びR17は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。]
で表される基である。
【0034】
また、本発明は、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、有機半導体層と、前記いずれかの有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物を用いて形成した絶縁層とを有する有機薄膜トランジスタを提供する。
【0035】
ある一形態においては、前記絶縁層がオーバーコート絶縁層である。
【0036】
また、本発明は、前記有機薄膜トランジスタを含むディスプレイ用部材を提供する。
【0037】
また、本発明は、前記ディスプレイ用部材を含むディスプレイを提供する。
【発明の効果】
【0038】
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物を用いて製造した有機薄膜トランジスタは、大気中で駆動する場合の閾値電圧の絶対値が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態であるボトムゲートトップコンタクト型有機薄膜トランジスタの構造を示す模式断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態であるボトムゲートボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタの構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明をさらに詳細に説明する。
【0041】
(有機薄膜トランジスタ絶縁用組成物)
<化合物(A)>
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物に含まれる化合物(A)は、環状エーテル構造を有する基を有する。環状エーテル構造とは環状の炭化水素の炭素が酸素で置換された構造をいう。環状エーテル構造中の環を形成する原子数は、10以下が好ましく、6以下がより好ましい。環状エーテル構造中の環を形成する酸素の数は、2以下が好ましく、1がより好ましい。
【0042】
前記環状エーテル構造を有する基は、加熱又は光照射等によりカチオンを生成するカチオン重合開始剤により開環して相互に付加反応する。その結果、化合物(A)は重合して高分子化し、高い引張り強度を示す皮膜が形成される。
【0043】
環状エーテル構造を有する基は、式(1)で表される基及び式(2)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。中でも、式(2)で表される基は耐溶剤性に優れる皮膜を提供することから、特に好ましい。
【0044】
式(1)及び(2)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。該有機基中の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0045】
炭素数1〜20の一価の有機基は、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0046】
炭素数1〜20の一価の有機基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の分岐状炭化水素基、炭素数3〜20の環状炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくは、炭素数1〜6の直鎖状炭化水素基、炭素数3〜6の分岐状炭化水素基、炭素数3〜6の環状炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。
【0047】
炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の分岐状炭化水素基、炭素数3〜20の環状炭化水素基は、これらの基に含まれる水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0048】
炭素数6〜20の芳香族炭化水素基は、基中の水素原子がアルキル基、ハロゲン原子などで置換されていてもよい。
【0049】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20の一価の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチニル基、シクロヘキシニル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、トリル基、キシリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、ジエチルフェニル基、トリエチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、メチルナフチル基、ジメチルナフチル基、トリメチルナフチル基、ビニルナフチル基、メチルアンスリル基、エチルアンスリル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基などが挙げられる。
【0050】
炭素数1〜20の一価の有機基としては、アルキル基が好ましい。
【0051】
環状エーテル構造を有する基としは、エポキシ構造を有する基、オキセタン構造を有する基等が挙げられる。オキセタン構造を有する基には、3−エチルオキセタン構造を有する基が含まれる。
【0052】
化合物(A)の環状構造を有する基を除いた部分は、水素原子又は有機基である。有機基の価数は、化合物(A)に含有される環状エーテル構造を有する基の個数である。該有機基としては、炭素数1〜20の一価の有機基、炭素数1〜20の二価の有機基等が挙げられる。
【0053】
化合物(A)の具体例としては、ビス(3’−グリシジルオキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、3−エチル−3−(2’−エチルヘキシルオキシメチ
ル)−オキセタン、3−エチル−3−{[(3−エチル−オキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンが挙げられる。
【0054】
<含フッ素溶媒(B)>
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物に含まれる含フッ素溶媒(B)は、有機薄膜トランジスタを製造する際に用いられる通常の環境条件の下で、組成物中の化合物(A)を流動化可能であり、また揮発可能である、フッ素原子を有する有機化合物である。
【0055】
有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物に含フッ素溶媒(B)を含有させると、有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物は薄膜として濡れ広がる特性が向上する。そのため、塗布法又は印刷法によって絶縁層を薄く形成可能であり、また、形成された絶縁層表面の平坦性が向上する。
【0056】
更に、フッ素原子を有する有機化合物はフッ素原子を有しない有機物質との親和性に乏しく、有機薄膜トランジスタを構成しているフッ素原子を有する有機化合物からなる有機層の機能又はフッ素原子を有する有機化合物からなる有機層の界面に悪影響を与えない。
【0057】
含フッ素溶媒は、炭素、水素及びフッ素からなり、これら以外の原子を含まないものであることが好ましい。そのようなフッ素原子を有する有機化合物は、フッ素原子を有しない有機物質との親和性が特に乏しいからである。
【0058】
フッ素原子を有する有機化合物として、フッ素原子を有する芳香族化合物が好適に用いられる。フッ素原子を有する芳香族化合物は化合物(A)を溶解する特性が優れているからである。
【0059】
中でも好ましい含フッ素溶媒は、炭素数6〜20の芳香族フッ素化合物である。炭素数6〜20の芳香族フッ素化合物としては、ヘキサフルオロベンゼン、ペンタフルオロトルエン、オクタフルオロトルエン、テトラフルオロアニソール等が挙げられる。含フッ素溶媒(B)としては、必要に応じてレベリング剤、界面活性剤等を添加した溶媒を用いてもよい。
【0060】
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物において、含フッ素溶媒(B)の含有量は、環状エーテル構造を有する基を含有する化合物(A)100重量部に対して、10〜3000重量部、好ましくは15〜2000重量部である。但し、上記含フッ素溶媒(B)の含有量は、形成する有機薄膜トランジスタ絶縁層の膜厚及び有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物中に一緒に組み合わせて使用する樹脂の種類及び量等を考慮して適宜調節することができる。
【0061】
<フッ素樹脂(C)>
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物は、更に、フッ素樹脂(C)を含有していてもよい。フッ素樹脂とは、フッ素原子を含む構造単位、例えば、フッ素原子を含む繰り返し単位を有する有機ポリマーをいう。
【0062】
有機薄膜トランジスタ絶縁層材料がフッ素原子を含む有機化合物を含むことにより、形成される絶縁層は極性が低くなり、撥水性が強化される。
【0063】
フッ素樹脂(C)は、ガラス表面、金属表面などの極性が高い表面の原子と結合することができる官能基を有することが好ましい。そうすれば、フッ素樹脂(C)を含んで成る絶縁層はガラス、金属などに対する密着性が向上する。
【0064】
<フッ素樹脂(C−1)>
好ましいフッ素樹脂(C)の一例は水酸基を含有するものであり、例えば、式(3)で表される繰り返し単位と式(4)で表される繰り返し単位とを含有するフッ素樹脂(C−1)である。
【0065】
【化8】

(3)
【0066】
【化9】

(4)
【0067】
フッ素樹脂(C−1)に含有される繰り返し単位の構造を示す式(3)中、Xは、フッ素原子を有する炭素数1〜20の一価の有機基、フッ素原子又は塩素原子を表す。
フッ素原子を有する炭素数1〜20の一価の有機基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0068】
式(3)で表される繰り返し単位のある一形態では、Xが塩素原子である。
【0069】
また、フッ素樹脂(C−1)に含有される繰り返し単位の構造を示す式(4)中、Rは、アルキレン基を表す。該アルキレン基中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等が挙げられる。
【0070】
式(4)で表される繰り返し単位のある一形態では、Rがブチレン基である。
【0071】
本発明に用いることができるフッ素樹脂(C−1)は、例えば、式(3)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマーと式(4)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマーとを、光重合開始剤もしくは熱重合開始剤を用いて共重合させる方法により製造することが出来る。
【0072】
式(3)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマーとしては、トリフルオロエチレン、1,1,2−トリフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。
式(4)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマーとしては、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0073】
該光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、4−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾフェノン、メチル(o−ベンゾイル)ベンゾエート、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインオクチルエーテル、ベンジル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ジアセチル等のカルボニル化合物、メチルアントラキノン、クロロアントラキノン等のアントラキノン誘導体、クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体、ジフェニルジスルフィド、ジチオカーバメート等の硫黄化合物が挙げられる。
【0074】
該熱重合開始剤としては、ラジカル重合の開始剤となるものであればよく、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、1、1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩等のアゾ系化合物、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、アセチルアセトンパーオキシド等のケトンパーオキシド類、イソブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、o−メチルベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、2,4,4−トリメチルペンチル−2−ヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、tert−ブチルパーオキシド等のヒドロパーオキシド類、ジクミルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、トリス(tert−ブチルパーオキシ)トリアジン等のトリアルキルパーオキシド類、1,1−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、ジ−tert−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ−tert−ブチルパーオキシアゼレート、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−tert−ブチルパーオキシトリメチルアジペート等のアルキルパーエステル類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシカーボネート類が挙げられる。
【0075】
本発明に用いることができるフッ素樹脂(C−1)は、式(3)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマー及び式(4)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマー以外の他の重合しうるモノマーを重合時に添加して製造してもよい。
【0076】
該他の重合しうるモノマーとしては、不飽和炭化水素及びその誘導体、ビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0077】
該他の重合しうるモノマーの種類は、オーバーコート絶縁層等の絶縁層に要求される特性に応じて適宜選択される。他の重合しうるモノマーの好ましい一形態としては、アルキル基等の活性水素含有基を有しないモノマーである。
【0078】
不飽和炭化水素及びその誘導体としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサン、塩化ビニル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0079】
ビニルエーテル誘導体としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等が挙げられる。
【0080】
これらの中では、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルが好ましい。
【0081】
式(3)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマーの使用量は、フッ素樹脂(C−1)に導入されるフッ素の量が適量になるように調節される。
【0082】
本発明に用いることができるフッ素樹脂(C−1)としては、ポリ(トリフルオロエチレン−コ−4−ヒドロキシブチルビニルエーテル−コ−エチルビニルエーテル)、ポリ(トリフルオロエチレン−コ−4−ヒドロキシブチルビニルエーテル−コ−ブチルビニルエーテル)、ポリ(トリフルオロエチレン−コ−4−ヒドロキシブチルビニルエーテル−コ−3−クロロメチルフェニルビニルエーテル)、ポリ(トリフルオロエチレン−コ−4−ヒドロキシブチルビニルエーテル−コ−ビニルシンナメート)等が挙げられる。
【0083】
<フッ素樹脂(C−2)>
好ましいフッ素樹脂(C)の他の例は活性水素と反応する官能基を含有するものであり、例えば、式(5)で表される繰り返し単位を含有し、かつ、第1の官能基を2つ以上含有し、該第1の官能基が、電磁波もしくは熱の作用により、活性水素と反応する第2の官能基を生成する官能基であるフッ素樹脂(C−2)である。
【0084】
【化10】

(5)
【0085】
フッ素樹脂(C−2)に含有される繰り返し単位の構造を示す式(5)中、R10〜R12は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。Rfは、フッ素原子又はフッ素原子を有する炭素数1〜20の一価の有機基を表す。Raaは、炭素数1〜20の二価の有機基を表す。該二価の有機基中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。aは、0〜20の整数を表し、mは、1〜5の整数を表す。Raaが複数個ある場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。Rが複数個ある場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。Rfが複数個ある場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。
【0086】
炭素数1〜20の二価の有機基は、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよく、脂肪族炭化水素基であっても芳香族炭化水素基であってもよく、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含有していてもよい。例えば、炭素数1〜20の二価の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の二価の分岐状脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の二価の環状脂肪族炭化水素基、アルキル基等で置換されていてもよい炭素数6〜20の二価の芳香族炭化水素基、−O−CO−、−O−、−CO−NH−、−NH−CO−NH−、−NH−CO−O−が挙げられる。これらの基は、置換基を有していてもよい。中でも、炭素数1〜6の二価の直鎖状炭化水素基、炭素数3〜6の二価の分岐状炭化水素基、炭素数3〜6の二価の環状炭化水素基、アルキル基等で置換されていてもよい炭素数6〜20の二価の芳香族炭化水素基、−O−CO−が好ましい。
【0087】
二価の直鎖状脂肪族炭化水素基、二価の分岐状脂肪族炭化水素基及び二価の環状脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、イソプロピレン基、イソブチレン基、ジメチルプロピレン基、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられる。
【0088】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20の二価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アンスリレン基、ジメチルフェニレン基、トリメチルフェニレン基、エチレンフェニレン基、ジエチレンフェニレン基、トリエチレンフェニレン基、プロピレンフェニレン基、ブチレンフェニレン基、メチルナフチレン基、ジメチルナフチレン基、トリメチルナフチレン基、ビニルナフチレン基、エテニルナフチレン基、メチルアンスリレン基、エチルアンスリレン基などが挙げられる。
【0089】
10〜R12で表される炭素数1〜20の一価の有機基の例としては、Rで表される炭素数1〜20の一価の有機基の例と同じ基が挙げられる。Rfで表されるフッ素原子を有する炭素数1〜20の一価の有機基の例としてとしては、Xで表されるフッ素原子を有する炭素数1〜20の一価の有機基の例と同じ基が挙げられる。
【0090】
Rで表される炭素数1〜20の一価の有機基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の分岐状炭化水素基、炭素数3〜20の環状炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくは、炭素数1〜6の直鎖状炭化水素基、炭素数3〜6の分岐状炭化水素基、炭素数3〜6の環状炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。
【0091】
炭素数6〜20の芳香族炭化水素基は、基中の水素原子がアルキル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などで置換されていてもよい。
【0092】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20の一価の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチニル基、シクロヘキシニル基、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、トリル基、キシリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、ジエチルフェニル基、トリエチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、メチルナフチル基、ジメチルナフチル基、トリメチルナフチル基、ビニルナフチル基、メチルアンスリル基、エチルアンスリル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基などが挙げられる。
【0093】
式(5)で表される繰り返し単位のある一形態では、R10〜R12は、水素原子であり、Rfは、フッ素原子であり、aは、0であり、mは、5である。
【0094】
本発明に用いてもよいフッ素樹脂(C−2)は、式(5)で表される繰り返し単位を含有し、かつ、第1の官能基を2つ以上含有し、該第1の官能基が、電磁波の照射もしくは熱の作用により、活性水素と反応する第2の官能基を生成する官能基を含有する。
活性水素とは、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子のような炭素原子以外の原子に結合した水素原子をいう。
【0095】
活性水素と反応する第2の官能基は、ゲート絶縁層の形成工程において熱が加えられるまで保護(ブロック)されていることが好ましい。つまり、上記第1の官能基は熱により脱保護されて、活性水素と反応する第2の官能基を生成するものであることが好ましい。
組成物の貯蔵安定性が向上するからである。
【0096】
第1の官能基としては、ブロック化剤でブロックされたイソシアナト基又はブロック化剤でブロックされたイソチオシアナト基が挙げられる。
前記ブロック化剤でブロックされたイソシアナト基又はブロックされたイソチオシアナト基は、ブロック化剤1分子中にイソシアナト基又はイソチオシアナト基と反応しうる活性水素を1個のみ有するブロック化剤と、イソシアナト基又はイソチオシアナト基とを反応させることにより製造することができる。
【0097】
前記ブロック化剤は、イソシアナト基又はイソチオシアナト基と反応した後でも、170℃以下の温度で解離するものが好ましい。ブロック化剤としては、例えば、アルコ−ル系化合物、フェノ−ル系化合物、活性メチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系化合物、酸イミド系化合物、イミダゾール系化合物、尿素系化合物、オキシム系化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、重亜硫酸塩、ピリジン系化合物、ピラゾール系化合物が挙げられる。これらのブロック化剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。好ましいブロック化剤としては、オキシム系化合物、ピラゾール系化合物が挙げられる。
【0098】
以下に、具体的なブロック化剤を例示する。アルコ−ル系化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール等が挙げられる。フェノール系化合物としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、スチレン化フェノール、ヒドロキシ安息香酸エステル等が挙げられる。活性メチレン系化合物としては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等が挙げられる。メルカプタン系化合物としては、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等が挙げられる。酸アミド系化合物としては、アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム等、酸イミド系化合物としては、コハク酸イミド、マレイン酸イミド等が挙げられる。イミダゾール系化合物としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール等が挙げられる。尿素系化合物としては、尿素、チオ尿素、エチレン尿素等が挙げられる。オキシム系化合物としては、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等が挙げられる。アミン系化合物としては、ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール等が挙げられる。イミン系化合物としては、エチレンイミン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。重亜硫酸塩としては、重亜硫酸ソーダ等が挙げられる。ピリジン系化合物としては、2−ヒドロキシピリジン、2−ヒドロキシキノリン等が挙げられる。ピラゾール系化合物としては、3,5−ジメチルピラゾール、3,5−ジエチルピラゾール等が挙げられる。
【0099】
本発明に用いてもよいブロック化剤でブロックされたイソシアナト基は、式(6)で表される基であってXaが酸素原子である基、式(7)で表される基であってXbが酸素原子である基が好ましい。本発明に用いてもよいブロック化剤でブロックされたイソチアシアナト基は、式(6)で表される基であってXaが硫黄原子である基、式(7)で表される基であってXbが硫黄原子である基が好ましい。
【0100】
【化11】

(6) (7)
【0101】
式(6)中、Xaは、酸素原子又は硫黄原子を表し、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。R13及びR14で表される炭素数1〜20の一価の有機基の例としては、R10〜R12で表される一価の有機基の例と同じ基が挙げられる。
式(6)で表される繰り返し単位のある一形態では、Xaは、酸素原子であり、R13は、メチル基であり、R14は、エチル基である。
【0102】
式(7)中、Xbは、酸素原子又は硫黄原子を表し、R15、R16及びR17は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。
15、R16及びR17で表される炭素数1〜20の一価の有機基の例としては、R10〜R12で表される一価の有機基の例と同じ基が挙げられる。
式(7)で表される繰り返し単位のある一形態では、Xbは、酸素原子であり、R15〜R17は、水素原子である。
【0103】
ブロック化剤でブロックされたイソシアナト基としては、例えば、O−(メチリデンアミノ)カルボキシアミノ基、O−(1−エチリデンアミノ)カルボキシアミノ基、O−(1−メチルエチリデンアミノ)カルボキシアミノ基、O−[1−メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ基、(N−3,5−ジメチルピラゾリルカルボニル)アミノ基、(N−3−エチル−5−メチルピラゾリルカルボニル)アミノ基、(N−3,5−ジエチルピラゾリルカルボニル)アミノ基、(N−3−プロピル−5−メチルピラゾリルカルボニル)アミノ基、(N−3−エチル−5−プロピルピラゾリルカルボニル)アミノ基が挙げられる。
【0104】
ブロック化剤でブロックされたイソチオシアナト基としては、例えば、O−(メチリデンアミノ)チオカルボキシアミノ基、O−(1−エチリデンアミノ)チオカルボキシアミノ基、O−(1−メチルエチリデンアミノ)チオカルボキシアミノ基、O−[1−メチルプロピリデンアミノ] チオカルボキシアミノ基、(N−3,5−ジメチルピラゾリルチオカルボニル)アミノ基、(N−3−エチル−5−メチルピラゾリルチオカルボニル)アミノ基、(N−3,5−ジエチルピラゾリルチオカルボニル)アミノ基、(N−3−プロピル−5−メチルピラゾリルチオカルボニル)アミノ基、(N−3−エチル−5−プロピルピラゾリルチオカルボニル)アミノ基が挙げられる。
本発明に用いられる、第1の官能基としては、ブロック化剤でブロックされたイソシアナト基が好ましい。
【0105】
次に、本発明に用いられるフッ素樹脂(C−2)の製造方法について説明する。フッ素樹脂(C−2)は、例えば、式(5)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマーと、第1の官能基を含有する重合性モノマーとを、光重合開始剤もしくは熱重合開始剤を用いて共重合させる方法により製造することが出来る。
光重合開始剤及び熱重合開始剤としては、前述のフッ素樹脂(C−1)の製造に使用され得るのと同じ光重合開始剤及び熱重合開始剤が挙げられる。
【0106】
式(5)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマーとしては、2−トリフルオロメチルスチレン、3−トリフルオロメチルスチレン、4−トリフルオロメチルスチレン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、4−フルオロメチルスチレン等が挙げられる。
【0107】
第1の官能基を含有する重合性モノマーとしては、ブロック化剤でブロックされたイソシアナト基又はブロック化剤でブロックされたイソチオシアナト基と不飽和結合とを有するモノマーが挙げられる。該ブロック化剤でブロックされたイソシアナト基又はブロック化剤でブロックされたイソチオシアナト基と不飽和結合とを有するモノマーは、イソシアナト基又はイソチオシアナト基と不飽和結合とを有する化合物と、ブロック化剤とを反応させることにより製造することが出来る。不飽和結合としては、不飽和二重結合が好ましい。
【0108】
不飽和二重結合とイソシアナト基とを有する化合物としては、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(2’−メタクリロイルオキシエチル)オキシエチルイソシアネート等が挙げられる。不飽和二重結合とイソチオシアナト基とを有する化合物としては、2−アクリロイルオキシエチルイソチオシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソチオシアネート、2−(2’−メタクリロイルオキシエチル)オキシエチルイソチオシアネート等が挙げられる。
【0109】
ブロック化剤としては、前記のブロック化剤を好適に用いることができる。ブロック化剤でブロックされたイソシアナト基又はブロック化剤でブロックされたイソチオシアナト基と不飽和結合とを有するモノマーの製造においては、必要に応じて有機溶媒、触媒等を添加してもよい。
【0110】
前記不飽和二重結合とブロック化剤でブロックされたイソシアナト基を有するモノマーとしては、2−〔O−[1’−メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ〕エチル−メタクリレート、2−〔N−[1’,3’−ジメチルピラゾリル]カルボキシアミノ〕エチル−メタクリレート、2−〔O−[1’−メチルプロピリデンアミノ]チオカルボキシアミノ〕エチル−メタクリレート、2−〔N−[1’,3’−ジメチルピラゾリル]チオカルボキシアミノ〕エチル−メタクリレート等が挙げられる。
【0111】
本発明に用いることができるフッ素樹脂(C−2)は、式(5)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマー、第1の官能基を含有する重合性モノマー以外の他の重合しうるモノマーを重合時に添加して製造してもよい。
【0112】
該他の重合しうるモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル及びその誘導体、メタアクリル酸エステル及びその誘導体、スチレン及びその誘導体、酢酸ビニル及びその誘導体、メタアクリロニトリル及びその誘導体、アクリロニトリル及びその誘導体、有機カルボン酸のビニルエステル及びその誘導体、有機カルボン酸のアリルエステル及びその誘導体、フマル酸のジアルキルエステル及びその誘導体、マレイン酸のジアルキルエステル及びその誘導体、イタコン酸のジアルキルエステル及びその誘導体、有機カルボン酸のN−ビニルアミド誘導体、マレイミド及びその誘導体、末端不飽和炭化水素及びその誘導体等、不飽和結合含有有機ゲルマニウム化合物が挙げられる。
【0113】
該他の重合しうるモノマーの種類は、絶縁層に要求される特性に応じて適宜選択される。優れた耐久性や有機薄膜トランジスタのヒステリシスを小さくする観点からは、スチレンやスチレン誘導体のように分子密度が高く、硬い膜を形成するモノマーが選択される。
また、ゲート電極や基板の表面等の絶縁層の隣接面に対する密着性の観点からは、メタアクリル酸エステル及びその誘導体、アクリル酸エステル及びその誘導体のように、柔軟性を付与するモノマーが選択される。好ましい一形態では、メチル基、エチル基等のアルキル基のような活性水素含有基を有しないモノマーが選択される。
【0114】
例えば、式(5)で表される繰り返し単位の原料となる重合性モノマーと活性水素含有基を有しないスチレン又はスチレン誘導体を組み合わせて重合したフッ素樹脂を有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物に用いることにより、特に耐久性が高く、ヒステリシスが小さいゲート絶縁層が得られる。
【0115】
アクリル酸エステル類及びその誘導体としては、単官能のアクリレートや、使用量に制約は出てくるが多官能のアクリレートをも使用することができ、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−sec−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−2−ヒドロキシブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシフェニルエチル、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールペンタアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルフォリン、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルアクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチルアクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチルアクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルアクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルアクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチルアクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチルアクリレート等が挙げられる。
【0116】
メタアクリル酸エステル類及びその誘導体としては、単官能のメタアクリレートや、使用量に制約は出てくるが多官能のメタアクリレートをも使用することができ、例えば、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸−n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸−n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸−sec−ブチル、メタアクリル酸ヘキシル、メタアクリル酸オクチル、メタアクリル酸−2−エチルヘキシル、メタアクリル酸デシル、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸ベンジル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシブチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシフェニルエチル、エチレングリコールジメタアクリレート、プロピレングリコールジメタアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタアクリレート、ジエチレングリコールジメタアクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、トリメチロールプロパンジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、ペンタエリスリトールペンタメタアクリレート、N,N−ジメチルメタアクリルアミド、N,N−ジエチルメタアクリルアミド、N−アクリロイルモルフォリン、2,2,2−トリフルオロエチルメタアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタアクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルメタアクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタアクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルメタアクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルメタアクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチルメタアクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチルメタアクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチルメタアクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピルメタアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタアクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルメタアクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルメタアクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチルメタアクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチルメタアクリレート等を挙げることができる。
【0117】
スチレン及びその誘導体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、2,4,5−トリメチルスチレン、ペンタメチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、p−ブロモスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、2−ビニルビフェニル、3−ビニルビフェニル、4−ビニルビフェニル、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、4−ビニル−p−ターフェニル、1−ビニルアントラセン、α−メチルスチレン、o−イソプロペニルトルエン、m−イソプロペニルトルエン、p−イソプロペニルトルエン、2,4−ジメチル−α−メチルスチレン、2,3−ジメチル−α−メチルスチレン、3,5−ジメチル−α−メチルスチレン、p−イソプロピル−α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−クロロスチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソプロピルベンゼン、4−アミノスチレン等が挙げられる。
【0118】
アクリルニトリル及びその誘導体としては、アクリロニトリル等が挙げられる。メタアクリルニトリル及びその誘導体としては、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0119】
有機カルボン酸のビニルエステル及びその誘導体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、アジピン酸ジビニル等が挙げられる。
【0120】
有機カルボン酸のアリルエステル及びその誘導体としては、酢酸アリル、安息香酸アリル、アジピン酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル等が挙げられる。
【0121】
フマル酸のジアルキルエステル及びその誘導体としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジ−sec−ブチル、フマル酸ジイソブチル、フマル酸ジ−n−ブチル、フマル酸ジ−2−エチルヘキシル、フマル酸ジベンジル等が挙げられる。
【0122】
マレイン酸のジアルキルエステル及びその誘導体としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジ−sec−ブチル、マレイン酸ジイソブチル、マレイン酸ジ−n−ブチル、マレイン酸ジ−2−エチルヘキシル、マレイン酸ジベンジル等が挙げられる。
【0123】
イタコン酸のジアルキルエステル及びその誘導体としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジイソプロピル、イタコン酸ジ−sec−ブチル、イタコン酸ジイソブチル、イタコン酸ジ−n−ブチル、イタコン酸ジ−2−エチルヘキシル、イタコン酸ジベンジル等が挙げられる。
【0124】
有機カルボン酸のN−ビニルアミド誘導体としては、N−メチル−N−ビニルアセトアミド等が挙げられる。
【0125】
マレイミド及びその誘導体としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0126】
末端不飽和炭化水素及びその誘導体としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサン、塩化ビニル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0127】
不飽和結合含有有機ゲルマニウム化合物としては、アリルトリメチルゲルマニウム、アリルトリエチルゲルマニウム、アリルトリブチルゲルマニウム、トリメチルビニルゲルマニウム、トリエチルビニルゲルマニウム等が挙げられる。
【0128】
これらのうちでは、アクリル酸アルキルエステル、メタアクリル酸アルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アリルトリメチルゲルマニウムが好ましい。
【0129】
フッ素樹脂(C)に導入されるフッ素の量は、高分子化合物の質量に対して、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは5〜40質量%である。フッ素の量が1質量%未満又は60質量%を超えると含フッ素溶媒(B)との相溶性が悪化して組成物を調製することが困難になることがある。
【0130】
フッ素樹脂(C)は、重量平均分子量が3000〜1000000の高分子化合物が好ましく、5000〜500000の高分子化合物がより好ましい。フッ素樹脂(C)は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。
【0131】
<カチオン重合開始剤>
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物には、さらに、光カチオン重合開始剤又は熱カチオン重合開始剤を添加することが好ましい。化合物(A)に含有される環状エーテル構造の開環付加反応が進行し易くなるからである。
【0132】
該光カチオン重合開始剤、該熱カチオン重合開始剤としては、例えば、ヨードニウム塩、スルホニウム塩などを挙げることができる。
【0133】
ヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリルキュミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0134】
スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウムホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4,4’−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、4−[4−(4−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニル−ジ(4−メチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0135】
該光カチオン重合開始剤として、具体的には、商品名ロードシル2074(ローディアジャパン株式会社製)、商品名アデカオプトマ−SP−150(株式会社ADEKA製)、商品名アデカオプトマ−SP−152(株式会社ADEKA製)、商品名アデカオプトマ−SP−170(株式会社ADEKA製)、商品名アデカオプトマ−SP−172(株式会社ADEKA製)などが挙げられる。また、特開平9−118663号公報記載のスルホニウム塩化合物も使用することができる。
【0136】
該熱カチオン重合開始剤として、具体的には、商品名アデカオプトンCPシリーズ(株式会社ADEKA製)などが挙げられる。
【0137】
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物における該光カチオン重合開始剤又は該熱カチオン重合開始剤の割合は、環状エーテル構造を有する基を含有する化合物(A)を100重量部としたときに、0.0001〜30重量部の範囲が好ましく、より好ましくは、0.001〜10重量部である。また、該光カチオン重合開始剤又は該熱カチオン重合開始剤は、それぞれ2種類以上を使用してもよい。
【0138】
環状エーテル構造を有する基を含有する化合物(A)、含フッ素溶媒(B)、及び、要すれば、フッ素樹脂(C)及びカチオン重合開始剤等を混合することにより本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物が得られる。
【0139】
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物中にフッ素樹脂(C)を含有させる場合、その含有量は、化合物(A)100重量部に対して600重量部以下、好ましくは100〜500重量部である。
【0140】
有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物中のフッ素樹脂(C)の含有量が化合物(A)100重量部に対して600重量部を超えると有機薄膜トランジスタ絶縁層の耐溶剤性が低下することがある。
【0141】
フッ素樹脂(C)として、水酸基を有するフッ素樹脂(C−1)のみを使用する場合は、本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物中のフッ素樹脂(C−1)の含有量は、化合物(A)100重量部に対して50〜600重量部、好ましくは100〜500重量部、より好ましくは200〜400重量部である。
【0142】
有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物中のフッ素樹脂(C−1)の含有量が化合物(A)100重量部に対して50重量部未満であると乾燥時に塗膜の凝集が起きることがあり、600重量部を超えると有機薄膜トランジスタ絶縁層の耐溶剤性が低下することがある。
【0143】
また、この場合、有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物中の含フッ素溶媒(B)の含有量は、化合物(A)100重量部に対して100〜3000重量部、好ましくは500〜2000重量部、より好ましくは800〜1500重量部である。
【0144】
有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物中の含フッ素溶媒(B)の含有量が化合物(A)100重量部に対して100重量部未満であると塗膜の平坦性が低下することがあり、3000重量部を超えると塗膜の膜質が低下し、有機薄膜トランジスタ絶縁層にピンホールが発生することがある。
【0145】
フッ素樹脂(C)としては、水酸基を有するフッ素樹脂(C−1)と活性水素と反応する官能基を含有するフッ素樹脂(C−2)とを混合して用いてもよい。フッ素樹脂(C−1)及びフッ素樹脂(C−2)に含有される官能基同士が反応して有機薄膜トランジスタ絶縁層の内部に架橋構造が形成されるため、絶縁層の分極が抑制され、耐溶剤性が高くなる。
【0146】
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物は、有機薄膜トランジスタに含まれる絶縁層の形成に用いられる組成物である。有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物としては、オーバーコート層の形成に用いられる有機薄膜トランジスタオーバーコート層用組成物、ゲート絶縁層の形成に用いられる有機薄膜トランジスタゲート絶縁層用組成物が挙げられる。該有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物は、有機薄膜トランジスタのオーバーコート層の形成に用いられることが好ましい。
【0147】
本発明の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物を用いて形成したオーバーコート層は、絶縁性及び気密性に優れている。そのため、該オーバーコート層を有する有機薄膜トランジスタは、該トランジスタに含まれている有機半導体化合物が周囲環境から有効に遮断されるので、大気中でも安定して駆動することができる。
【0148】
(有機薄膜トランジスタ)
図1は、本発明の一実施形態であるボトムゲートトップコンタクト型有機薄膜トランジスタの構造を示す模式断面図である。この有機薄膜トランジスタには、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2上に形成されたゲート絶縁層3と、ゲート絶縁層3上に形成された有機半導体層4と、有機半導体層4上にチャネル部を挟んで形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、素子全体を覆うオーバーコート絶縁層7とが、備えられている。
【0149】
ボトムゲートトップコンタクト型有機薄膜トランジスタは、例えば、基板上にゲート電極を形成し、ゲート電極上にゲート絶縁層を形成し、ゲート絶縁層上に有機半導体層を形成し、有機半導体層上にソース電極、ドレイン電極を形成し、オーバーコート絶縁層を形成することで製造することができる。
【0150】
図2は、本発明の一実施形態であるボトムゲートボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタの構造を示す模式断面図である。この有機薄膜トランジスタには、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2上に形成されたゲート絶縁層3と、ゲート絶縁層3上にチャネル部を挟んで形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6上に形成された有機半導体層4と、素子全体を覆うオーバーコート絶縁層7とが、備えられている。
【0151】
ボトムゲートボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタは、例えば、基板上にゲート電極を形成し、ゲート電極上にゲート絶縁層を形成し、ゲート絶縁層上にソース電極、ドレイン電極を形成し、ソース電極、ドレイン電極上に有機半導体層を形成し、オーバーコート絶縁層を形成することで製造することができる。
【0152】
オーバーコート絶縁層の形成は、本発明のオーバーコート絶縁層用組成物を有機半導体層上に塗布、乾燥、硬化させることにより行う。
【0153】
オーバーコート絶縁層用組成物は公知のスピンコート、ダイコート、スクリーン印刷、インクジェット等により有機半導体層上に塗布することができる。
【0154】
有機薄膜トランジスタを構成する基板1、ゲート電極2、ソース電極5、ドレイン電極6及び有機半導体層4は、通常使用される材料及び方法で構成すればよい。例えば、基板の材料には樹脂やプラスチックの板やフィルム、ガラス板、シリコン板などが用いられる。電極の材料には、クロム、金、銀、アルミニウム等を用い、蒸着法、スパッタ法、印刷法、インクジェット法等公知の方法で形成する。
【0155】
有機半導体化合物としてはπ共役ポリマーが広く用いられ、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、ポリアリルアミン類、フルオレン類、ポリカルバゾール類、ポリインドール類、ポリ(p−フェニレンビニレン)類を用いることができる。
また、有機溶媒への溶解性を有する低分子物質、例えば、ペンタセンなどの多環芳香族の誘導体、フタロシアニン誘導体、ペリレン誘導体、テトラチアフルバレン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、フラーレン類、カーボンナノチューブ類を用いることができる。具体的には、9,9−ジ−n−オクチルフルオレン−2,7−ジ(エチレンボロネート)と、5,5’−ジブロモ−2,2’−バイチオフェンとの縮合物等があげられる。
【0156】
有機半導体層の形成は、例えば、有機半導体化合物に要すれば溶媒などを添加して有機半導体塗布液を調製し、これをゲート絶縁層上に塗布、乾燥させることにより行う。
【0157】
使用される溶媒としては有機半導体化合物を溶解又は分散させるものであれば特に制限は無いが、好ましくは、常圧での沸点が50℃〜200℃の溶媒である。該溶媒としては、クロロホルム、トルエン、アニソール、2−ヘプタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。該有機半導体塗布液は、前記絶縁層塗布液と同様に公知のスピンコート、ダイコート、スクリーン印刷、インクジェット等によりゲート絶縁層上に塗布することができる。
【0158】
本発明の有機薄膜トランジスタを用いて、有機薄膜トランジスタを有するディスプレイ用部材を好適に作製できる。該有機薄膜トランジスタを有するディスプレイ用部材を用いて、ディスプレイ用部材を備えるディスプレイを好適に作製できる。
【実施例】
【0159】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0160】
合成例1
(高分子化合物1の合成)
不活性雰囲気下、2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレンを5.20g、ビス(4−ブロモフェニル)−(4−セカンダリブチルフェニル)−アミンを4.50g、酢酸パラジウムを2.2mg、トリ(2−メチルフェニル)ホスフィンを15.1mg、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(アルドリッチ製、商品名「Aliquat(登録商標) 336」)を0.91g、トルエンを70ml混合し、105℃に加熱した。この反応溶液に2モル/kg炭酸ナトリウム水溶液を19ml滴下し、4時間還流させた。その後、フェニルホウ酸を121mg加え、さらに3時間還流させた。次いでジエチルジチアカルバミン酸ナトリウム水溶液を加え80℃で4時間撹拌した。冷却後、水(60ml)で3回、3重量%酢酸水溶液(60ml)で3回、水(60ml)で3回洗浄し、アルミナカラム、シリカゲルカラムを通すことにより精製した。得られたトルエン溶液をメタノール(3L)に滴下し、3時間撹拌した後、得られた固体をろ取し、乾燥させた。得られた下記式で表される高分子化合物1の収量は5.25gであった。ここで、下記式中のnは重合度を表す。
【0161】
【化12】

高分子化合物1
【0162】
高分子化合物1の標準ポリスチレンから求めた重量平均分子量は2.6×105であった。該重量平均分子量の測定条件は、装置:島津製GPC、カラム:「Tskgel super HM−H」1本+「Tskgel super H2000」1本、移動相:THFであった。
【0163】
合成例2
(高分子化合物2の合成)
2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン(アルドリッチ製)2.00g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.01g、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン(和光純薬製)3.00gを、50ml耐圧容器(エース製)に入れ、アルゴンでバブリングした後、密栓し、60℃のオイルバス中で24時間重合させて、下式で表される高分子化合物2の2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン溶液を得た。ここで、下記式中のnは重合度を表す。
【0164】
【化13】

高分子化合物2
【0165】
得られた高分子化合物2の標準ポリスチレンから求めた重量平均分子量は、88000であった。重量平均分子量の測定条件は、合成例1に記載した条件と同様であった。
【0166】
実施例1
(有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物1の調製)
20mlのサンプル瓶に、「ルミフロン(登録商標)LF200F」(旭ガラス製、OH価45mgKOH/g)を40重量%含む2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン溶液を2.00g、「アロンオキセタン(登録商標)OXT−221」(東亞合成製)を0.27g、「ロードシル(登録商標)2074」(ローディアジャパン株式会社製)を0.00054g、2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン(和光純薬製)を2.00g入れ、混合して溶液を調製した。得られた溶液を孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過して有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物1を調製した。
【0167】
「アロンオキセタン(登録商標)OXT−221」は、下記式で表される構造を有する化合物である。
【0168】
【化14】

【0169】
「ルミフロン(登録商標)LF200F」は、式(2−a)で表される繰り返し単位と式(3−a)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物である。式(2−a)中、Xはフッ素原子、塩素原子又はトリフルオロメチル基を表す。式(3−a)中、Rはアルキレン基を表す。
【0170】
【化15】

(2−a) (3−a)
【0171】
(電界効果型有機薄膜トランジスタの作製)
高分子化合物1をキシレンに溶解して、濃度が0.5重量%である溶液(有機半導体組成物)を作製し、該溶液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過して塗布液を調製した。
【0172】
得られた高分子化合物1を含む塗布液を、ボトムゲートボトムコンタクト素子(協同インター製)上にスピンコート法により塗布し、窒素中200℃で10分間乾燥させて約60nmの厚さの活性層を形成した。
次いで、得られた活性層上に、有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物1をスピンコート法により塗布した。その後、50℃で5分間乾燥させ、アルゴン中、UV/オゾンクリーナー(Model UV−1、サムコ製)を用いて紫外線(254nm)を1分間照射した。その後、100℃で30分焼成して約4μmの厚さのオーバーコート絶縁層を形成し、電界効果型有機薄膜トランジスタ1を作製した。
【0173】
<トランジスタ特性>
作製した電界効果型有機薄膜トランジスタ1について、大気中でトランジスタ特性を測定した。ゲート電圧Vgを20〜−40V、ソース・ドレイン間電圧Vsdを0〜−40Vに変化させた条件で、そのトランジスタ特性を真空プロ−バ(BCT22MDC−5−HT−SCU;Nagase Electronic Equipments Service Co. LTD製)を用いて大気中で測定した。測定した閾値電圧(Vth)を表1に示す。
【0174】
比較例1
(電界効果型有機薄膜トランジスタの作製)
有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物1のかわりに、高分子化合物2の2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエン溶液1.00gに2,3,4,5,6−ペンタフルオロトルエンを1.00g添加し、孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過して調製した有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物2を用いた以外は、実施例1と同様にして電界効果型有機薄膜トランジスタを作製し、大気中でトランジスタ特性を測定した。オーバーコート絶縁層の厚みは、約6μmであった。閾値電圧の絶対値は40V以上であり、ゲート電圧Vgを20〜−40V、ソース・ドレイン間電圧Vsdを0〜−40Vに変化させた条件では駆動しなかった。
【0175】
【表1】

【符号の説明】
【0176】
1…基板、
2…ゲート電極、
3…ゲート絶縁層、
4…有機半導体層、
5…ソース電極、
6…ドレイン電極、
7…オーバーコート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状エーテル構造を有する基を含有する化合物(A)と、含フッ素溶媒(B)とを含む有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物。
【請求項2】
環状エーテル構造を有する基が、式(1)
【化1】

(1)
[式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。該有機基中の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。]
で表される基及び、式(2)
【化2】

(2)
[式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。該有機基中の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。]
で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物。
【請求項3】
含フッ素溶媒が、炭素数6〜20の芳香族フッ素化合物である請求項1又は2に記載の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物。
【請求項4】
更に、フッ素樹脂(C)を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物。
【請求項5】
フッ素樹脂(C)が、下に定義されるフッ素樹脂(C−1)及び下に定義されるフッ素樹脂(C−2)からなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ素樹脂である請求項4に記載の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物。
フッ素樹脂(C−1):
式(3)
【化3】

(3)
[式中、Xは、フッ素原子を有する炭素数1〜20の一価の有機基、フッ素原子又は塩素原子を表す。]
で表される繰り返し単位と、式(4)
【化4】

(4)
[式中、Rは、アルキレン基を表す。該アルキレン基中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。]
で表される繰り返し単位とを含有するフッ素樹脂
フッ素樹脂(C−2):
式(5)
【化5】

(5)
[式中、R10〜R12は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。該炭素数1〜20の一価の有機基中の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。Rfは、フッ素原子又はフッ素原子を有する炭素数1〜20の一価の有機基を表す。Raaは、炭素数1〜20の二価の有機基を表す。該二価の有機基中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。aは、0〜20の整数を表し、mは、1〜5の整数を表す。Raaが複数個ある場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。Rが複数個ある場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。Rfが複数個ある場合、それらは同一でも相異なっていてもよい。]で表される繰り返し単位を含有し、かつ、第1の官能基を2つ以上含有し、該第1の官能基が、電磁波もしくは熱の作用により、活性水素と反応する第2の官能基を生成する官能基であるフッ素樹脂
【請求項6】
第1の官能基が、ブロック化剤でブロックされたイソシアナト基及びブロック化剤でブロックされたイソチオシアナト基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である請求項5に記載の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物。
【請求項7】
第1の官能基が、式(6)
【化6】

(6)
[式中、Xaは、酸素原子又は硫黄原子を表す。R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。]
で表される基である請求項5に記載の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物。
【請求項8】
第1の官能基が、式(7)
【化7】

(7)
[式中、Xbは、酸素原子又は硫黄原子を表す。R15、R16及びR17は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の一価の有機基を表す。]
で表される基である請求項5に記載の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物。
【請求項9】
ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、有機半導体層と、請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタ絶縁層用組成物を用いて形成した絶縁層とを有する有機薄膜トランジスタ。
【請求項10】
絶縁層がオーバーコート絶縁層である請求項9に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の有機薄膜トランジスタを含むディスプレイ用部材。
【請求項12】
請求項11に記載のディスプレイ用部材を含むディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−74683(P2012−74683A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185734(P2011−185734)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】