説明

有機電界発光表示装置及びその製造方法

【課題】各発光セルの開口率の低下を防止すると共に、カラー表示を行う場合に適切なホワイトバランスを確保することが容易な有機電界発光表示デバイスを提供する。
【解決手段】所定の基板上にそれぞれが有機電界発光部を有する多数の発光セルを並べて構成した有機電界発光表示装置であって、互いに発光色が異なる少なくとも3種類の有機電界発光部10を設け、前記発光セルのそれぞれに、少なくとも前記有機電界発光部に対する通電を制御する駆動トランジスタ20Aを設け、前記駆動トランジスタの(ドレイン−ソース間の電流)/(ドレイン−ソース間の電圧)を表すI−V特性に関し、駆動対象の有機電界発光部の発光色の違いに合わせて各駆動トランジスタのI−V特性を作り分けた。R、G、Bの違いに応じて、移動度、ゲート絶縁膜厚、ゲート絶縁膜誘電率の少なくとも1つを変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれが有機電界発光部を有する多数の発光セルが基板上に配設された有機電界発光表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な表示装置に利用可能な有機電界発光(有機EL)表示装置については、一般的に半導体製造プロセスと同様のプロセスを用いて、半導体等の基板上にそれぞれが有機電界発光部を有する多数の発光セルを形成することにより作られる。それぞれの発光セルは表示される画像等を構成する画素の1つを表示するために利用される。
【0003】
有機ELは、注入型エレクトロルミネッセンスと言う、電子−正孔対の再結合で発光する現象を利用しており、発光原理がLED(light-emitting diode)に近いことからOLED(Organic light-emitting diode)とも呼ばれている。
【0004】
また、二次元配置された多数の発光セルのそれぞれの点灯/消灯を確実に制御するために、セル毎に独立したTFT(Thin Film Transistor)などのアクティブ駆動素子を設けたアクティブマトリックス駆動方式が一般的に用いられる。
【0005】
有機EL表示装置の場合には、例えば特許文献1の図8に示されているような構成の回路がセル毎に形成される。すなわち、有機EL素子(70)の通電を制御するためにこの素子と直列に接続された駆動用トランジスタ(80)を設け、この駆動用トランジスタの入力には信号を保持するためのキャパシタと、信号をスイッチングするための選択用トランジスタ(10)とが接続される。
【0006】
つまり、当該セルで表示すべき信号が現れるタイミングで選択用トランジスタを一時的にオンにして必要な信号をキャパシタに保持する。これにより、当該セルの駆動用トランジスタが、入力された信号に応じた電流を有機EL素子に流すので、この有機EL素子の発光光量が電流により制御される。
【0007】
ところで、多数の発光セルを並べて構成された有機EL表示装置においては、各セルの開口率を高めることが重要である。すなわち、各セルの面積が小さくなる傾向にあるので、セルの面積に対して発光する領域の面積の割合をなるべく大きくしないと、十分な光量が得られず鮮明な表示ができない。実際には、各セルを駆動する回路のトランジスタ等が大きくなると、このトランジスタ等によって光が遮られるためセルの開口率が下がり発光光量が小さくなる。
【0008】
そこで、例えば特許文献1に開示された従来技術においては、駆動用トランジスタの短チャネル化を可能にするために、駆動用トランジスタのキャリア移動度を選択用トランジスタのキャリア移動度に比べて小さくしている。具体的には、トランジスタの活性層(チャネルを形成する領域)としてシリコン系半導体を用い、その結晶粒径差によりキャリア移動度の変化を得ている。
【0009】
なお、特許文献2には、非晶質酸化物半導体をトランジスタの活性層に用いて構成した発光装置が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−300786号公報
【特許文献2】特開2006−186319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のようにポリシリコンを用いてトランジスタ(TFT)を構成すると、移動度が100〜200程度と大きいため、駆動用トランジスタのチャネル長(L)を大きくして電流量を制限しなければならない。このチャネル長が大きくなると、セル内の面積に占めるトランジスタの領域の割合が大きくなるため開口率が低下してしまう。従って、高精細の表示装置を実現するための有機EL表示装置を実現しようとする場合には、各セルにトランジスタを配置できない場合もある。
【0012】
一方、カラー表示を行うためには、例えばR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各色を発光する少なくとも3種類の有機EL素子を設ける必要がある。ところが、現状ではR、G、B各色の有機EL素子の発光効率がそれぞれ異なっているため、適切なホワイトバランスを確保するためには、R、G、B各色の有機EL素子に流すピーク電流を色毎に変更する必要がある。ピーク電流を色毎に変える方法としては、例えば駆動トランジスタのチャネル長Lを調整したり、電源電圧を調整したりすることが考えられる。しかし、駆動トランジスタのチャネル長Lを大きくすると開口率が低下するという問題があるし、色毎に電源電圧を調整するためには回路構成を複雑化せざるを得ない。
【0013】
本発明は、各発光セルの開口率の低下を防止すると共に、カラー表示を行う場合に適切なホワイトバランスを確保することが容易な有機電界発光表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機電界発光表示装置は、それぞれが有機電界発光部を有する多数の発光セルが基板上に配設された有機電界発光表示装置であって、前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、それぞれ発光色が異なる少なくとも3種類の有機電界発光部を含み、前記発光セルが、前記発光セルに含まれる前記有機電界発光部を駆動する駆動用トランジスタを有し、前記駆動用トランジスタの同一駆動条件下での出力電流量が、前記駆動用トランジスタを含む前記発光セルに含まれる前記有機電界発光部の発光色に応じて異なっている。
【0015】
本発明の有機電界発光表示装置は、前記駆動用トランジスタの出力電流量の違いが、前記駆動用トランジスタの移動度の違いによって得られている。
【0016】
本発明の有機電界発光表示装置は、前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、赤色を発光するR色有機電界発光部と、緑色を発光するG色有機電界発光部と、青色を発光するB色有機電界発光部とを含み、前記駆動用トランジスタのうち、前記R色有機電界発光部を駆動するR色駆動用トランジスタの移動度を表すR色移動度と、前記G色有機電界発光部を駆動するG色駆動用トランジスタの移動度を表すG色移動度と、前記B色有機電界発光部を駆動するB色駆動用トランジスタの移動度を表すB色移動度との関係が、R色移動度)>(G色移動度)>(B色移動度)となっている。
【0017】
本発明の有機電界発光表示装置は、前記駆動用トランジスタの移動度の違いが、前記駆動用トランジスタの活性層の電子キャリア濃度の違いによって得られている。
【0018】
本発明の有機電界発光表示装置は、前記駆動用トランジスタの出力電流量の違いが、前記駆動用トランジスタのゲート絶縁膜厚の違いによっても得られている。
【0019】
本発明の有機電界発光表示装置は、前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、赤色を発光するR色有機電界発光部と、緑色を発光するG色有機電界発光部と、青色を発光するB色有機電界発光部とを含み、前記駆動トランジスタのうち、前記R色有機電界発光部を駆動するR色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜厚を表すR色ゲート絶縁膜厚と、前記G色有機電界発光部を駆動するG色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜厚を表すG色ゲート絶縁膜厚と、前記B色有機電界発光部を駆動するB色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜厚を表すB色ゲート絶縁膜厚との関係が、R色ゲート絶縁膜厚)<(G色ゲート絶縁膜厚)<(B色ゲート絶縁膜厚)となっている。
【0020】
本発明の有機電界発光表示装置は、前記駆動用トランジスタの出力電流量の違いが、前記駆動用トランジスタのゲート絶縁膜の誘電率の違いによって得られている。
【0021】
本発明の有機電界発光表示装置は、前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、赤色を発光するR色有機電界発光部と、緑色を発光するG色有機電界発光部と、青色を発光するB色有機電界発光部とを含み、前記駆動トランジスタのうち、前記R色有機電界発光部を駆動するR色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜の誘電率を表すR色絶縁膜誘電率と、前記G色有機電界発光部を駆動するG色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜の誘電率を表すG色絶縁膜誘電率と、前記B色有機電界発光部を駆動するB色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜の誘電率を表すB色絶縁膜誘電率との関係が、R色絶縁膜誘電率)>(G色絶縁膜誘電率)>(B色絶縁膜誘電率)となっている。
【0022】
本発明の有機電界発光表示装置は、前記駆動用トランジスタの活性層が、非晶質酸化物半導体により形成されている。
【0023】
本発明の有機電界発光表示装置の製造方法は、それぞれが有機電界発光部を有する多数の発光セルが基板上に配設された有機電界発光表示装置の製造方法であって、前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、それぞれ発光色が異なる少なくとも3種類の有機電界発光部を含み、前記発光セルが、前記発光セルに含まれる前記有機電界発光部を駆動する駆動用トランジスタを有し、前記駆動用トランジスタの活性層を前記基板上に形成する第1の工程と、前記少なくとも3種類の有機電界発光部のうち少なくとも2種類の有機電界発光部の各々を駆動する前記駆動用トランジスタの活性層に紫外線又はプラズマを照射する第2の工程とを含み、前記第2の工程において、前記活性層への紫外線又はプラズマの照射量を、前記活性層を含む前記駆動用トランジスタが駆動する前記有機電界発光部の種類に応じて異ならせる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、各発光セルの開口率の低下を防止すると共に、カラー表示を行う場合に適切なホワイトバランスを確保することが容易な有機電界発光表示装置及びその製造方法が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の有機電界発光表示装置及びその製造方法に関する具体的な実施の形態について、図1〜図9を参照しながら以下に説明する。
図1は実施の形態の有機電界発光表示装置に含まれる多数の発光セルの1つに関する3種類の回路構成を示す電気回路図である。図2は実施の形態の有機電界発光表示装置に含まれる多数の発光セルの1つに関する基本的な回路構成を示す電気回路図である。図3は図2に示す回路に印加される信号の例を示すタイムチャートである。図4は図2に示す回路に含まれているトランジスタの電流−電圧特性を表すグラフである。図5は有機電界発光表示装置の各発光セルを実際に駆動する場合の諸条件の具体例を表す模式図である。図6は移動度特性の異なる2つのトランジスタを1つの基板上に作るための製造工程の具体例(1)を表す縦断面図である。図7は移動度特性の異なる2つのトランジスタを1つの基板上に作るための製造工程の具体例(2)を表す縦断面図である。図8は移動度特性が異なる3種類のトランジスタを1つの基板上に作るための製造工程の処理手順の例(1)を示すフローチャートである。図9は移動度特性が異なる3種類のトランジスタを1つの基板上に作るための製造工程の処理手順の例(2)を示すフローチャートである。
【0026】
本実施の形態では、一般的な面表示装置の表示パネルと同様に、同じ構造を有する多数の発光セルを横方向及び縦方向に一定の間隔で二次元に並べて配置した有機電界発光表示装置に本発明を適用する場合を想定している。また、カラー表示を可能にするために、R色、G色、B色の各色の波長領域の光を発光する3種類の発光セルを所定の規則に従って配列する場合を想定している。また、二次元配置された多数の発光セルのそれぞれの点灯/消灯及び発光量を確実に制御するために、セル毎に独立したアクティブ駆動素子を設けたアクティブマトリックス駆動方式を採用する場合を想定している。以下では、R色を発光する種類の発光セルをR色の発光セルともいい、G色を発光する種類の発光セルをG色の発光セルともいい、B色を発光する種類の発光セルをB色の発光セルともいう。
【0027】
本実施形態の有機電界発光表示装置を構成する多数の発光セルのそれぞれは、図2に示すような回路構成となっている。半導体製造プロセスと同様の製造工程を用いて1つの基板上に図2に示す構成の発光セルを多数並べて配置することにより1つの有機電界発光表示装置が構成される。この有機電界発光表示装置により画像を表示する場合には、画像を構成する各画素が通常はそれぞれ1つの発光セルの発光により表示される。また、カラー画像を表示する場合には、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各色を発光する3つの発光セルが1画素の表示のために用いられる。
【0028】
図2を参照すると、この発光セルは、有機EL素子(OLED)10、駆動用トランジスタ20、キャパシタ30、及びスイッチング用トランジスタ40を備えている。有機EL素子10は発光ダイオードと同様に陽極と陰極とを有しており、有機EL素子10の陽極は電源ライン(直流電圧Vddが印加される)51と接続され、有機EL素子10の陰極は駆動用トランジスタ20を介してアースライン52と接続されている。つまり、有機EL素子10に流す電流Idsが駆動用トランジスタ20によって制御される。
【0029】
駆動用トランジスタ20の入力電圧(Vgs:ゲート−ソース電圧)を保持するために、駆動用トランジスタ20のゲート電極とアースライン52との間にキャパシタ30が接続されている。
【0030】
各発光セルの有機EL素子10に流す電流Idsを決定するために用いるプログラム電圧Vpは信号ライン53に印加され、このプログラム電圧Vpは信号ライン53から各発光セルのスイッチング用トランジスタ40を介して駆動用トランジスタ20のゲート電極及びキャパシタ30に印加される。つまり、プログラム電圧Vpを選択的に各発光セルに印加するためにスイッチング用トランジスタ40がオンオフ制御される。スイッチング用トランジスタ40は、選択制御ライン54に印加される選択信号Vg−mによってオンオフ制御される。
【0031】
例えば、1番目の発光セル、2番目の発光セル、3番目の発光セル、・・・、n番目の発光セルが順番に並んで配置されている場合には、図3に示す信号Vg1、Vg2、Vg3、・・・、Vgnのようにそれぞれ少しずつずれたタイミングで一時的に高レベルになる信号が各セルに図2に示す選択信号Vg−mとして印加され、この選択信号Vg−mが高レベルになっている時に、スイッチング用トランジスタ40がオンになってプログラム電圧Vpが駆動用トランジスタ20のゲート電極に供給される。この時にキャパシタ30が充放電するため、プログラム電圧Vpはキャパシタ30に保持され、スイッチング用トランジスタ40がオフになった後も駆動用トランジスタ20のゲート電圧(Vgs)は一定に維持される。
【0032】
図2に示す駆動用トランジスタ20における出力電流Idsと電圧Vds(ドレイン−ソース電圧)との関係を表す特性は図4のようになっている。図4に示すように、駆動用トランジスタ20のゲート電圧Vgsが小さいと電流Idsは小さくなり、ゲート電圧Vgsが大きいと電流Idsも大きくなる。電流Idsが小さいと有機EL素子10の発光量が小さくなり、電流Idsが大きいと有機EL素子10の発光量も大きくなる。
【0033】
本実施の形態では、駆動用トランジスタ20を飽和領域で使用する場合を想定している。飽和領域で使用する場合、電流Idsは次式で表される。
【0034】
Ids=(1/2)・μ・Cox・(W/L)・(Vgs−Vth)2
Vp=Vgs−Vth
Cox=ε0・εr/d
μ:移動度
W:トランジスタのチャネル幅
L:トランジスタのチャネル長さ(ドレイン−ソース間の距離)
Vth:トランジスタのしきい値電圧
Vp:プログラム電圧
εr:ゲート絶縁膜材料の誘電率
d:ゲート絶縁膜厚
【0035】
従って、電流Idsの調整に利用可能なパラメータとしては、W/L、μ、d、εr、Vpがある。
【0036】
次に、実際に各発光セルを構成する場合の各種数値の具体例について説明する。ここでは、有機EL素子10の特性及び駆動用トランジスタ20の特性として次に示す条件を想定している。
【0037】
プログラム電圧(Vp) :4V/2V
発光面積(S) :100×100(μm2
ピーク輝度(Bp) :300cd/m2(白)
発光効率(E) :R(5)/G(25)/B(10cd/A)
ピーク電流(Ip) :Ip=Bp/E・S
ゲート絶縁膜厚(d) :100nm
ゲート絶縁膜比誘電率(εr) :3.9(SiO
移動度(μ) :1cm2/Vs(活性層がアモルファスシリコン(a−Si)の場合)
:10cm2/Vs(活性層がIGZOの場合)
:100cm2/Vs(活性層がポリシリコン(p−Si)の場合)
EL素子性能(発光面積:0.1×0.1mm,白:300cd/m
【0038】
R、G、B各色の画素を適切に表示するために必要な1セルの有機EL素子10の駆動条件が図5(a)に示されている。すなわち、R、G、B各色を発光する有機EL素子10は互いに発光効率等が異なるので、適正なホワイトバランスを維持してカラー表示を行うためには、R色の有機EL素子10に流すピーク電流と、G色の有機EL素子10に流すピーク電流と、B色の有機EL素子10に流すピーク電流とが互いに異なるように制御しなければならない。
例えば、電源電圧(Vdd)を変更すれば各有機EL素子10に流すピーク電流を変えることができるが、電源電圧の制御を行うためには回路構成を複雑化せざるを得ない。そこで、本実施の形態では、有機EL素子10の電流を制御する駆動用トランジスタ20の特性(出力電流量Ids)の違いによってR、G、B各色の有機EL素子10に流すピーク電流に違いが現れるように制御する場合を想定している。
【0039】
上述のように、駆動用トランジスタ20のチャネルサイズのパラメータ(W/L)を変更することにより、電流Idsの調整が可能である。そこで、具体例として、駆動用トランジスタ20のチャネル幅(W)が5(μm)の条件で、必要とされるチャネル長(L)の大きさが、R、G、B各色を発光する有機EL素子10を駆動するための駆動用トランジスタ20の条件として図5(b)及び図5(c)に示されている。また、図5(b)に示す例ではプログラム電圧(Vp)が4Vの場合、図5(c)に示す例ではプログラム電圧(Vp)が2Vの場合を想定している。
【0040】
例えば、図5(b)に示すように、プログラム電圧(Vp)が4Vの場合、ポリシリコン(p−Si)を用いて駆動用トランジスタ20を構成する場合には、R、G、B各色の発光セルに配置すべき駆動用トランジスタ20のチャネル長(L)は、それぞれ800、2000、4500(μm)になる。しかし、このようにチャネル長が大きいトランジスタをセル内に配置すると、開口率が低下するのは避けられないし、R、G、Bの色毎に開口率に大きな違いが生じることになる。更に、このようにチャネルサイズが大きいトランジスタはセル内に配置できない可能性もある。
【0041】
なお、図5(b)及び図5(c)に示すようにプログラム電圧(Vp)を小さくすればチャネルサイズ(L)を小さくできるが、発生するノイズが増えて表示品質に悪影響を及ぼすので、プログラム電圧(Vp)をあまり下げることはできない。
【0042】
そこで、駆動用トランジスタ20における移動度(μ)が駆動対象の有機EL素子10の発光色(R、G、B)の違いに応じて変わるように各色の駆動用トランジスタ20の特性を作り分ける。このようにすれば、チャネルサイズ(L)に違いを持たせなくても移動度(μ)の違いによって各駆動用トランジスタ20の出力電流(各駆動用トランジスタ20を同一条件で駆動したときの出力電流量)を制限することができる。これにより、適正なホワイトバランスでカラー表示できるようにR、G、B各色を発光する有機EL素子10のピーク電流を制御できる。その結果、R、G、B各色の発光セルで駆動用トランジスタのチャネルサイズを最適化することができる。例えば、駆動用トランジスタ20における移動度μを小さくすれば、図5(b)に示すようにチャネルサイズ(L)を小さくできるので発光セルの開口率を上げることができる。
【0043】
具体例として、ポリシリコン(p−Si)を活性層として駆動用トランジスタ20を構成する場合には、ポリシリコン層の膜厚の違いにより移動度(μ)を変えることができる。すなわち、ポリシリコン層の膜厚を薄くすれば移動度(μ)が大きくなり、膜厚を厚くすれば移動度(μ)は小さくなる。
【0044】
また、非晶質酸化物半導体(IGZO)を活性層として駆動用トランジスタ20を構成する場合には、その活性層に紫外線(UV)やアルゴン(Ar)プラズマを照射することにより、電子キャリア濃度や移動度(μ)が異なる駆動用トランジスタ20を形成することができる。紫外線(UV)やアルゴン(Ar)プラズマの照射量を多くするほど、移動度も大きくなるため、紫外線又はプラズマの照射量によって移動度(μ)を制御することができる。紫外線やプラズマを照射する工程の具体例については後で説明する。
【0045】
一方、チャネルサイズ(W/L)や移動度(μ)が同じ場合であっても、前述のように駆動用トランジスタ20のゲート絶縁膜厚(d)を調整することにより、各駆動用トランジスタ20の出力電流量を制限し、適正なホワイトバランスでカラー表示できるようにR、G、B各色を発光する有機EL素子10のピーク電流を制御することができる。つまり、ゲート絶縁膜厚(d)を薄くすればピーク電流が大きくなり、ゲート絶縁膜厚(d)を厚くすればピーク電流が小さくなる。従って、R、G、B各色の発光セルについてゲート絶縁膜厚(d)が互いに異なるように、各駆動用トランジスタ20を形成しても良い。
【0046】
また、チャネルサイズ(W/L)や移動度(μ)やゲート絶縁膜厚(d)が同じ場合であっても、前述のように駆動用トランジスタ20のゲート絶縁膜を構成する材料として互いに誘電率(ε)が異なる材料を用いることにより、各駆動用トランジスタ20の出力電流量を制限し、適正なホワイトバランスでカラー表示できるようにR、G、B各色を発光する有機EL素子10のピーク電流を制御できる。つまり、ゲート絶縁膜として誘電率(ε)が大きい材料を用いて各駆動用トランジスタ20を構成すれば、ピーク電流が大きくなり、ゲート絶縁膜として誘電率(ε)が小さい材料を用いて各駆動用トランジスタ20を構成すれば、ピーク電流が小さくなる。
【0047】
上記のような工夫を適用して各発光セルを構成する場合の3種類の構成例が図1に示されている。なお、図1(a)、(b)、(c)には、それぞれ1つの発光セルの構成だけを示してあるが、実際にはR、G、B各色の発光セルが互いに隣接する位置に配置される。R、G、B各色の発光セルの構成については、それに含まれる駆動用トランジスタ20の特性が互いに異なる以外は同じである。
【0048】
図1(a)に示す構成例では、図2の場合と同様に1つの発光セルの中に、有機EL素子10と、駆動用トランジスタ20Aと、キャパシタ30と、スイッチング用トランジスタ40Aとを作り込んである。但し、駆動用トランジスタ20Aの移動度μについては、R、G、B各色の発光セル毎に互いに異なる特性になるように作り上げてある。
【0049】
すなわち、図1(a)に示すように、R、G、B各色の発光セルに設ける駆動用トランジスタ20Aの移動度(μR,μG,μB)が、それぞれ「4」、「2」、「1」になるように形成してある。つまり、R、G、B各色の発光セルに含まれる駆動用トランジスタ20Bの移動度の関係が(μR>μG>μB)になるように構成してある。
【0050】
また、図1(a)に示す各駆動用トランジスタ20Aについてはチャネル幅Wが5(μm)、チャネル長Lが20(μm)であり、スイッチング用トランジスタ40Aについてはチャネル幅Wが5(μm)、チャネル長Lが5(μm)である。つまり、駆動用トランジスタ20Aのチャネルサイズ(W/L)に関するパラメータについては、R、G、Bいずれの色の発光セルについても同じであるので、R色の発光セルの開口率と、G色の発光セルの開口率と、B色の発光セルの開口率の間には違いが生じない。
【0051】
このように、互いに移動度(μR,μG,μB)が異なる駆動用トランジスタ20Aを1つの基板上に作り上げる方法については、前述のように、駆動用トランジスタ20Aを構成するポリシリコン層の膜厚を調整することで実現できる。また、IGZO層を活性層とする場合には、膜厚を調整する代わりにIGZO層に紫外線又はArプラズマを照射することにより、照射量の違いにより移動度(μR,μG,μB)を作り分けることもできる。
【0052】
一方、図1(b)に示す構成例では、図2の場合と同様に1つの発光セルの中に、有機EL素子10と、駆動用トランジスタ20Bと、キャパシタ30と、スイッチング用トランジスタ40Aとを作り込んである。但し、駆動用トランジスタ20Bのゲート絶縁膜の膜厚(d)については、R、G、B各色の発光セル毎に互いに異なる厚みになるように作り上げてある。
【0053】
すなわち、図1(b)に示すように、R、G、B各色の発光セルに設ける駆動用トランジスタ20Bのゲート絶縁膜の膜厚(dR,dG,dB)が、それぞれ「3」、「4」、「5」になるように形成してある。つまり、R、G、B各色の発光セルに含まれる駆動用トランジスタ20Bのゲート絶縁膜の膜厚の関係が(dR<dG<dB)になるように構成してある。
【0054】
また、図1(b)に示す各駆動用トランジスタ20Bについてはチャネル幅Wが5(μm)、チャネル長Lが20(μm)であり、スイッチング用トランジスタ40Aについてはチャネル幅Wが5(μm)、チャネル長Lが5(μm)である。つまり、駆動用トランジスタ20Bのチャネルサイズ(W/L)に関するパラメータについては、R、G、Bいずれの色の発光セルについても同じであるので、R色の発光セルの開口率と、G色の発光セルの開口率と、B色の発光セルの開口率の間には違いが生じない。
【0055】
なお、実際には、ゲート絶縁膜厚dはあまり大きく変更することができず、ゲート絶縁膜厚dの調整だけでは開口率を充分に向上させられない。このため、現実的なデバイスを構成する場合には、図1(a)と同様に互いに移動度μが異なる駆動用トランジスタ20Aを作り、更に、(R色の発光セルの駆動用トランジスタ20Aのゲート絶縁膜厚d)<(G色の発光セルの駆動用トランジスタ20Aのゲート絶縁膜厚d)<(B色の発光セルの駆動用トランジスタ20Aのゲート絶縁膜厚d)とする。これにより、移動度μだけを調整する場合と比べて、駆動用トランジスタ40Aのチャネル長Lを更に小さくすることができ、更なる開口率の向上を図ることができる。
【0056】
一方、図1(c)に示す構成例では、図2の場合と同様に1つの発光セルの中に、有機EL素子10と、駆動用トランジスタ20Cと、キャパシタ30と、スイッチング用トランジスタ40Aとを作り込んである。但し、駆動用トランジスタ20Cのゲート絶縁膜については、R、G、B各色の発光セル毎に互いに誘電率εが異なる材料を用いて形成してある。
【0057】
すなわち、図1(c)に示すように、R、G、B各色の発光セルに設ける駆動用トランジスタ20Cのゲート絶縁膜の誘電率(ε3R,ε2G,ε1B)が、それぞれ「15」、「10」、「5」になるように形成してある。具体的には、R色の発光セル内の駆動用トランジスタ20Cのゲート絶縁膜の材料として「SiN」を採用し、G色の発光セル内の駆動用トランジスタ20Cのゲート絶縁膜の材料として「SiON」を採用し、B色の発光セル内の駆動用トランジスタ20Cのゲート絶縁膜の材料として「SiO」を採用してある。その結果、R、G、B各色の発光セル内の駆動用トランジスタ20Cのゲート絶縁膜の誘電率の関係が(ε3R>ε2G>ε1B)になる。
【0058】
なお、実際には、ゲート絶縁膜に使用できる材料は限られているため、ゲート絶縁膜誘電率εを大きく変更することは難しく、ゲート絶縁膜誘電率εの調整だけでは開口率を充分に向上させられない。このため、現実的なデバイスを構成する場合には、図1(a)と同様に互いに移動度μが異なる駆動用トランジスタ20Aを作り、更に、(R色の発光セルの駆動用トランジスタ20Aのゲート絶縁膜の誘電率ε)>(G色の発光セルの駆動用トランジスタ20Aのゲート絶縁膜の誘電率ε)>(B色の発光セルの駆動用トランジスタ20Aのゲート絶縁膜の誘電率ε)とする。これにより、移動度μだけを調整する場合と比べて、駆動用トランジスタ20Aのチャネル長Lを更に小さくすることができ、更なる開口率の向上を図ることができる。
【0059】
また、図1(a)に示すような移動度μの調整と、図1(b)に示すようなゲート絶縁膜厚(d)の調整と、図1(c)に示すようなゲート絶縁膜誘電率(ε)の調整とを組み合わせて必要な特性の駆動用トランジスタ20をR、G、B各色の発光セル毎に形成することも考えられる。
【0060】
次に、前述の駆動用トランジスタ20として互いに電子キャリア濃度が異なる複数の素子を共通の基板上に作るために利用可能な製造工程の具体例について説明する。
【0061】
(製造工程の具体例1)
図6に示すように、基板60上に絶縁膜を形成後、その上に、トランジスタを構成するゲート電極61、62を電極材料の成膜及びパターニングにより形成する。更に、これらの上にゲート絶縁膜63、64を、絶縁材料の成膜及びパターニングにより形成する。次に、これらの上に2つの活性層65、66を形成する。活性層65、66の形成に関しては次のように処理する。
【0062】
InGaZnOの組成を有する多結晶焼結体をターゲットとして、高周波マグネトロンスパッタ真空蒸着法により処理する。この例では次の条件を用いた。
アルゴン(Ar)流量:12sccm
酸素(O)流量 :1.4sccm
高周波パワー :200W
圧力 :0.4Pa
【0063】
この処理の結果、活性層65は次のような特性になった(活性層66も同様)。
電気伝導度 :5.7×10−3Scm−1
電子キャリア濃度:1×1016cm−3
ホール移動度 :3.0cm/V・S
【0064】
次に、図6に示すように活性層66と対向する箇所に開口部67aを有する紫外線マスク67を配置して活性層65の表面を覆い、紫外線(UV)光源68を用いて紫外線光(11.6mW)を活性層66にのみ1分間照射した。
【0065】
この処理の結果、活性層66は次のような特性になった。
電気伝導度 :4.0×10Scm−1
電子キャリア濃度:3×1019cm−3
ホール移動度 :8.3cm/V・S
【0066】
このようにして形成された活性層65を用いて構成されるトランジスタと、活性層66を用いて構成されるトランジスタとの間には電子キャリア濃度の差が生じ、移動度μの差も生じる。なお、紫外線の照射量を増やしたところ、電子キャリア濃度もその照射量に応じて増加することが分かったため、紫外線の照射量を調整することで、電子キャリア濃度の調整が可能となる。
【0067】
(製造工程の具体例2)
図7に示すように、基板70上に絶縁膜を形成後、その上に、トランジスタを構成するゲート電極71、72を電極材料の成膜及びパターニングにより形成する。更に、これらの上にゲート絶縁膜73、74を、絶縁材料の成膜及びパターニングにより形成する。次に、これらの上に2つの活性層75、76を形成する。活性層75、76の形成に関しては次のように処理する。
【0068】
InGaZnOの組成を有する多結晶焼結体をターゲットとして、高周波マグネトロンスパッタ真空蒸着法により処理する。この例では次の条件を用いた。
アルゴン(Ar)流量:12sccm
酸素(O)流量 :1.4sccm
高周波パワー :200W
圧力 :0.4Pa
【0069】
この処理の結果、活性層75は次のような特性になった(活性層76も同様)。
電気伝導度 :5.7×10−3Scm−1
電子キャリア濃度:1×1016cm−3
ホール移動度 :3.0cm/V・S
【0070】
次に、図7に示すように活性層76と対向する箇所に開口部77aを有するマスク77を配置して活性層75の表面を覆い、Arプラズマ装置78を用いてアルゴンプラズマを(150W,0.1Torr)の条件で活性層76にのみ30秒間照射した。
【0071】
この処理の結果、活性層76は次のような特性になった。
電気伝導度 :1.0×10Scm−1
電子キャリア濃度:8×1019cm−3
ホール移動度 :19.2cm/V・S
【0072】
このようにして形成された活性層75を用いて構成されるトランジスタと、活性層76を用いて構成されるトランジスタとの間には電子キャリア濃度の差が生じ、移動度μの差も生じる。なお、プラズマの照射時間を延ばした(照射量を増やした)ところ、電子キャリア濃度もその照射時間に応じて増加することが分かったため、プラズマの照射量を調整することで、電子キャリア濃度を調整することが可能となる。
【0073】
R、G、B各色の発光セルを用いて有機電界発光表示装置を構成する場合には、R、G、B各色の発光セル毎に移動度μの特性が異なる駆動用トランジスタ20を形成する必要がある。その場合にも、前述のように、活性層に紫外線又はArプラズマを照射することにより、電子キャリア濃度や移動度が異なる3種類の駆動用トランジスタ20Aを共通の基板上に作ることができる。
【0074】
また、図7に示すようなArプラズマの照射工程については、多数の発光セルについて一括して処理することができるので、セル間の特性のばらつきが小さくなり、表示むらが低減される。ポリシリコンではこのような一括処理が難しいが、活性層として、IGZO系やIZO系の非晶質酸化物半導体を用いることで、このような一括処理が可能となる。
【0075】
なお、図6及び図7に示した例では、InGaZnO(IGZO系)の組成を有する物質を用いて非晶質酸化物TFTを構成する場合を想定しているが、IZO系の組成を有する物質を利用して非晶質酸化物TFTを構成しても良い。
【0076】
移動度の特性が異なる3種類のトランジスタを1つの基板上に作るための製造工程の処理手順の例が図8及び図9に示されている。
【0077】
まず、図8に示す処理手順について説明する。
ステップS11では、図6に示す例と同様に、複数の独立した活性層を1つの基板上に形成する。但し、図6に示す例では2つの活性層(65,66)を形成しているが、図8に示す処理手順では3種類の特性の駆動用トランジスタ20Aを形成する場合を想定しているので、ステップS11では「R色活性層」、「G色活性層」、「B色活性層」の3つを基板上に形成する。
【0078】
ステップS12では、3つの活性層のうち「R色活性層」及び「B色活性層」だけをマスクで覆う。
【0079】
ステップS13では、表面に露出している「G色活性層」に対して、図6又は図7の例と同様に、紫外線又はプラズマを照射する。この処理における照射量をX1とする。
【0080】
ステップS14では、ステップS12のマスクを取り除いた後、3つの活性層のうち「G色活性層」及び「B色活性層」だけをマスクで覆う。
【0081】
ステップS15では、表面に露出している「R色活性層」に対して、図6又は図7の例と同様に、紫外線又はプラズマを照射する。この処理における照射量をX2とする。但し、「X1<X2」の関係を満たすようにする。
【0082】
以上の処理によって、3つの活性層のうち、「B色活性層」には紫外線やプラズマが照射されず、「R色活性層」及び「G色活性層」には紫外線又はプラズマが照射され、かつ「G色活性層」に対する照射量は「R色活性層」に対する照射量よりも小さくなるので、(「R色活性層の移動度」>「G色活性層の移動度」>「B色活性層の移動度」)の関係を満たすことになり、(「R色活性層の電子キャリア濃度」>「G色活性層の電子キャリア濃度」>「B色活性層の電子キャリア濃度」)の関係も満たすことになる。
【0083】
そこで、ステップS16においては、「R色活性層」を用いてR色の発光セル用の駆動用トランジスタ20Aを形成し、「G色活性層」を用いてG色の発光セル用の駆動用トランジスタ20Aを形成し、「B色活性層」を用いてB色の発光セル用の駆動用トランジスタ20Aを形成する。これにより、例えば図1(a)に示した構成のR、G、B各色の発光セル内の駆動用トランジスタ20Aに必要とされる特性を作り分けることができる。
【0084】
次に、図9に示す処理手順について説明する。
ステップS21では、図6に示す例と同様に、複数の独立した活性層を1つの基板上に形成する。但し、図6に示す例では2つの活性層(65,66)を形成しているが、図9に示す処理手順では3種類の特性の駆動用トランジスタ20Aを形成する場合を想定しているので、ステップS21では「R色活性層」、「G色活性層」、「B色活性層」の3つを基板上に形成する。
【0085】
ステップS22では、3つの活性層のうち「R色活性層」及び「G色活性層」だけをマスクで覆う。
【0086】
ステップS23では、表面に露出している「B色活性層」に対して、図6又は図7の例と同様に、紫外線又はプラズマを照射する。この処理における照射量をX1とする。
【0087】
ステップS24では、ステップS12のマスクを取り除いた後、3つの活性層のうち「R色活性層」及び「B色活性層」だけをマスクで覆う。
【0088】
ステップS25では、表面に露出している「G色活性層」に対して、図6又は図7の例と同様に、紫外線又はプラズマを照射する。この処理における照射量をX2とする。但し、「X1<X2」の関係を満たすようにする。
【0089】
ステップS26では、ステップS24のマスクを取り除いた後、3つの活性層のうち「G色活性層」及び「B色活性層」だけをマスクで覆う。
【0090】
ステップS27では、表面に露出している「R色活性層」に対して、図6又は図7の例と同様に、紫外線又はプラズマを照射する。この処理における照射量をX3とする。但し、「X1<X2<X3」の関係を満たすようにする。
【0091】
以上の処理によって、3つの活性層のそれぞれに紫外線又はプラズマが照射されることになるが、照射量が「X1<X2<X3」の関係を満たすので、(「R色活性層の移動度」>「G色活性層の移動度」>「B色活性層の移動度」)の関係を満たすことになり、(「R色活性層の電子キャリア濃度」>「G色活性層の電子キャリア濃度」>「B色活性層の電子キャリア濃度」)の関係も満たすことになる。
【0092】
そこで、ステップS28においては、「R色活性層」を用いてR色の発光セル用の駆動用トランジスタ20Aを形成し、「G色活性層」を用いてG色の発光セル用の駆動用トランジスタ20Aを形成し、「B色活性層」を用いてB色の発光セル用の駆動用トランジスタ20Aを形成する。これにより、例えば図1(a)に示した構成のR、G、B各色の発光セル内の駆動用トランジスタ20Aに必要とされる特性を作り分けることができる。
【0093】
非晶質酸化物半導体を用いて駆動用トランジスタ20を構成する場合には、図8又は図9に示すような工程により各色の発光セル内の駆動用トランジスタ20Aの特性を作り分けることができるので、製造が容易になりコストの低減が可能になる。しかも、紫外線又はプラズマを照射する工程を2回又は3回繰り返すだけでよく、多数の発光セルを一括して処理できるので、セル間の特性のばらつきが小さくなり表示むらが低減される。
【0094】
また、移動度の違いによりR、G、B各色の発光セル内の駆動用トランジスタ20Aの特性を作り分ける場合には、各トランジスタのチャネルサイズ(L)を大きくする必要がないので、開口率が低下するのを防止することができ、色毎に開口率の違いが生じることもない。その結果、少ない消費電力で明るい表示を実現できる。
【0095】
また、移動度(μ)や、ゲート絶縁膜厚(d)や、ゲート絶縁膜の誘電率(ε)の違いにより駆動用トランジスタ20Aの電流を制限することにより、プログラム電圧(Vp)を低くする必要がなくなり、ノイズを抑制し高品質な表示を行うことが可能になる。
【0096】
以上のように、本実施形態の有機電界発光表示装置によれば、RGB各色の発光セル内に配置される各駆動用トランジスタ20を同一条件で駆動したときの出力電流量が、(R色の発光セル内に配置される駆動用トランジスタ20の出力電流量)<(G色の発光セル内に配置される駆動用トランジスタ20の出力電流量)<(B色の発光セル内に配置される駆動用トランジスタ20の出力電流量)となっているため、適切なホワイトバランスを確保することができる。しかも、有機EL素子10の発光色毎に電源電圧を調整する必要はない。
【0097】
また、本実施形態の有機電界発光表示装置によれば、駆動用トランジスタ20の移動度の違いにより適切な出力電流量を実現しているので、駆動用トランジスタ20のチャネル長を大きくする必要がなく、開口率の低下を防止することができる。また、この移動度の違いを、活性層の電子キャリア濃度の違いにより得ることができるため、製造プロセスが容易になり、しかも一括処理により発光セル間の特性のばらつきを低減することができる。特に、非晶質酸化物半導体を用いて駆動用トランジスタ20の活性層を形成する場合、非晶質酸化物半導体は移動度が10程度と比較的小さいので、ポリシリコンを用いる場合と比べて出力電流量の制限も容易になる。
【0098】
なお、以上の説明では、有機電界発光表示装置が、RGBの3色の発光セルを有するものとしているが、4色以上の発光セルを有する構成であっても、各色の発光セル内の駆動用トランジスタの出力電流量を上述した方法で調整することで、各発光セルの開口率を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施の形態の有機電界発光表示装置に含まれる多数の発光セルの1つに関する3種類の回路構成を示す電気回路図である。
【図2】実施の形態の有機電界発光表示装置に含まれる多数の発光セルの1つに関する基本的な回路構成を示す電気回路図である。
【図3】図2に示す回路に印加される信号の例を示すタイムチャートである。
【図4】図2に示す回路に含まれているトランジスタの電流−電圧特性を表すグラフである。
【図5】有機電界発光表示装置の各発光セルを実際に駆動する場合の諸条件の具体例を表す模式図である。
【図6】移動度特性の異なる2つのトランジスタを1つの基板上に作るための製造工程の具体例(1)を表す縦断面図である。
【図7】移動度特性の異なる2つのトランジスタを1つの基板上に作るための製造工程の具体例(2)を表す縦断面図である。
【図8】移動度特性が異なる3種類のトランジスタを1つの基板上に作るための製造工程の処理手順の例(1)を示すフローチャートである。
【図9】移動度特性が異なる3種類のトランジスタを1つの基板上に作るための製造工程の処理手順の例(2)を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0100】
10 有機EL素子
20,20A,20B,20C 駆動用トランジスタ
30 キャパシタ
40,40A スイッチング用トランジスタ
51 電源ライン
52 アースライン
53 信号ライン
54 選択制御ライン
60,70 基板
61,62,71,72 ゲート電極
63,64,73,74 絶縁膜
65,66 活性層
67 紫外線マスク
67a 開口部
68 紫外線光源
75,76 活性層
77 マスク
77a 開口部
78 Arプラズマ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが有機電界発光部を有する多数の発光セルが基板上に配設された有機電界発光表示装置であって、
前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、それぞれ発光色が異なる少なくとも3種類の有機電界発光部を含み、
前記発光セルが、前記発光セルに含まれる前記有機電界発光部を駆動する駆動用トランジスタを有し、
前記駆動用トランジスタの同一駆動条件下での出力電流量が、前記駆動用トランジスタを含む前記発光セルに含まれる前記有機電界発光部の発光色に応じて異なっている有機電界発光表示装置。
【請求項2】
請求項1記載の有機電界発光表示装置であって、
前記駆動用トランジスタの出力電流量の違いが、前記駆動用トランジスタの移動度の違いによって得られている有機電界発光表示装置。
【請求項3】
請求項2記載の有機電界発光表示装置であって、
前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、赤色を発光するR色有機電界発光部と、緑色を発光するG色有機電界発光部と、青色を発光するB色有機電界発光部とを含み、
前記駆動用トランジスタのうち、前記R色有機電界発光部を駆動するR色駆動用トランジスタの移動度を表すR色移動度と、前記G色有機電界発光部を駆動するG色駆動用トランジスタの移動度を表すG色移動度と、前記B色有機電界発光部を駆動するB色駆動用トランジスタの移動度を表すB色移動度との関係が、
(R色移動度)>(G色移動度)>(B色移動度)
となっている有機電界発光表示装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の有機電界発光表示装置であって、
前記駆動用トランジスタの移動度の違いが、前記駆動用トランジスタの活性層の電子キャリア濃度の違いによって得られている有機電界発光表示装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の有機電界発光表示装置であって、
前記駆動用トランジスタの出力電流量の違いが、前記駆動用トランジスタのゲート絶縁膜厚の違いによっても得られている有機電界発光表示装置。
【請求項6】
請求項5記載の有機電界発光表示装置であって、
前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、赤色を発光するR色有機電界発光部と、緑色を発光するG色有機電界発光部と、青色を発光するB色有機電界発光部とを含み、
前記駆動トランジスタのうち、前記R色有機電界発光部を駆動するR色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜厚を表すR色ゲート絶縁膜厚と、前記G色有機電界発光部を駆動するG色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜厚を表すG色ゲート絶縁膜厚と、前記B色有機電界発光部を駆動するB色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜厚を表すB色ゲート絶縁膜厚との関係が、
(R色ゲート絶縁膜厚)<(G色ゲート絶縁膜厚)<(B色ゲート絶縁膜厚)
となっている有機電界発光表示装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の有機電界発光表示装置であって、
前記駆動用トランジスタの出力電流量の違いが、前記駆動用トランジスタのゲート絶縁膜の誘電率の違いによって得られている有機電界発光表示装置。
【請求項8】
請求項7記載の有機電界発光表示装置であって、
前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、赤色を発光するR色有機電界発光部と、緑色を発光するG色有機電界発光部と、青色を発光するB色有機電界発光部とを含み、
前記駆動トランジスタのうち、前記R色有機電界発光部を駆動するR色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜の誘電率を表すR色絶縁膜誘電率と、前記G色有機電界発光部を駆動するG色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜の誘電率を表すG色絶縁膜誘電率と、前記B色有機電界発光部を駆動するB色駆動用トランジスタのゲート絶縁膜の誘電率を表すB色絶縁膜誘電率との関係が、
(R色絶縁膜誘電率)>(G色絶縁膜誘電率)>(B色絶縁膜誘電率)
となっている有機電界発光表示装置。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項記載の有機電界発光表示装置であって、
前記駆動用トランジスタの活性層が、非晶質酸化物半導体により形成されている有機電界発光表示装置。
【請求項10】
それぞれが有機電界発光部を有する多数の発光セルが基板上に配設された有機電界発光表示装置の製造方法であって、
前記多数の発光セルに含まれる多数の前記有機電界発光部が、それぞれ発光色が異なる少なくとも3種類の有機電界発光部を含み、
前記発光セルが、前記発光セルに含まれる前記有機電界発光部を駆動する駆動用トランジスタを有し、
前記駆動用トランジスタの活性層を前記基板上に形成する第1の工程と、
前記少なくとも3種類の有機電界発光部のうち少なくとも2種類の有機電界発光部の各々を駆動する前記駆動用トランジスタの活性層に紫外線又はプラズマを照射する第2の工程とを含み、
前記第2の工程において、前記活性層への紫外線又はプラズマの照射量を、前記活性層を含む前記駆動用トランジスタが駆動する前記有機電界発光部の種類に応じて異ならせる有機電界発光表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−223036(P2009−223036A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68084(P2008−68084)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】