説明

樹脂ワニス、樹脂付きキャリア材料、プリプレグおよび積層板

【課題】 本発明の目的は、樹脂ワニス中の溶存酸素量が少なく、成形時の外観不良が少ない樹脂ワニスを提供することである。また、前記樹脂ワニスを用いた樹脂付きキャリア材料、プリプレグ、積層板を提供することである。
【解決手段】 本発明の樹脂ワニスは、絶縁層を形成するために用いる樹脂ワニスであって、前記樹脂ワニスは、熱硬化性樹脂と、充填材と、溶剤と、を含む樹脂組成物で構成され、かつ樹脂ワニスの溶存酸素量が50%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ワニス、樹脂付きキャリア材料、プリプレグおよび積層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充填材を含む樹脂ワニスは、耐熱性、成形性に優れるため、従来から自動車、航空機、建築材料、日用品、工業部品分野等、多岐に渡り使用されている。これらの樹脂ワニスに共通する課題として、充填材の含有量が増えるにつれ、樹脂ワニスの高粘度化、および高分散処理工程が必須となるため、樹脂ワニス中に気泡が発生しやすくなることが挙げられる。発生した気泡は、樹脂ワニスに一部溶解したり、気泡のまま残存する。そうすると、加熱による成形時に、溶解した空気が気泡、ボイドとして成形品の内部に発生する。そのため、成形品の物理的強度が低下したり、気泡部分から水分が浸入し、ひび割れや剥がれなどが起こったり、製品劣化を引き起こす原因となる。また成形品表面近傍に気泡が残存した場合には、外観不良の原因となる。樹脂ワニス中の気泡を除去するために、様々な脱泡処理が検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
近年、高機能化等の要求に伴い、電子部品の高密度集積化、高密度実装化等が進み、これらに使用される高密度実装対応の電子部品は、従来にも増して小型化が進んでいるため、電子機器においては、成形品中の気泡の影響が特に大きい。さらにプリプレグ等、気泡を発生させやすい繊維状の基材に樹脂ワニスを含浸させる場合には、樹脂ワニス段階での脱泡処理は特に重要である(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、脱泡効果の確認は、成形品の空洞率を測定したり、成形品を目視してボイドの数やカスレを確認したりと、成形後の判断となり、確実に歩留まりを向上することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−234037号公報
【特許文献2】特開2003−39567号公報
【特許文献3】特開2002−307433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、成形時の外観不良が少ない樹脂ワニスを提供することである。
また、前記樹脂ワニスを用いた樹脂付きキャリア材料、プリプレグおよび積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)〜(8)の本発明により、達成される。
(1) 絶縁層を形成するために用いる樹脂ワニスであって、前記樹脂ワニスは、熱硬化性樹脂と、充填材と、溶剤と、を含む樹脂組成物で構成され、かつ前記樹脂ワニスの溶存酸素量が50%以下であることを特徴とする樹脂ワニス。
(2) 前記充填材の含有量は、前記熱硬化性樹脂100重量部に対して65〜400重量部である上記(1)に記載の樹脂ワニス。
(3) 前記熱硬化性樹脂は、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂又はフェノール樹脂からなる群から選ばれるものである上記(1)又は(2)に記載の樹脂ワニス。
(4) 前記溶剤は、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選ばれるものである上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の樹脂ワニス。
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の樹脂ワニスをキャリア材料に塗布して得られることを特徴とする樹脂付きキャリア材料。
(6) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の樹脂ワニスを基材に含浸して得られることを特徴とするプリプレグ。
(7) 上記(5)に記載の樹脂付きキャリア材料を使用して得られる積層板。
(8) 上記(6)に記載のプリプレグを使用して得られる積層板。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成形時の外観不良の発生を抑制し、成形品の歩留まりの高い樹脂ワニスを作製することができる。
また、前記樹脂ワニスを用いることにより、歩留まりの高い樹脂付きキャリア材料、プリプレグ、積層板を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の樹脂ワニス、樹脂付きキャリア材料、プリプレグ、積層板について説明する。
【0009】
本発明の樹脂ワニスは、絶縁層を形成するために用いる樹脂ワニスであって、前記樹脂ワニスは、熱硬化性樹脂と、充填材と、溶剤とを含む樹脂組成物で構成され、かつ樹脂ワニスの溶存酸素量が50%以下であることを特徴とする。
また、本発明の樹脂付きキャリア材料は、前記樹脂ワニスをキャリア材料に塗布して得られることを特徴とする。
また、本発明のプリプレグは、前記樹脂ワニスを基材に含浸して得られることを特徴とする。
また、本発明の積層板は、前記樹脂付きキャリア材料、又は、前記プリプレグを使用して得られることを特徴とする。
【0010】
本発明の樹脂ワニスは、絶縁層を形成するために用いる樹脂ワニスであって、前記樹脂ワニスは、熱硬化性樹脂と、充填材と、溶剤と、を含む樹脂組成物で構成され、かつ樹脂ワニスの溶存酸素量が50%以下であることを特徴とする。
【0011】
前記絶縁層は、特に限定されないが、コンデンサをはじめとした電子部品やモーターの絶縁外装、封止樹脂層、半導体集積回路における層間絶縁膜、絶縁基板、絶縁接着層、ソルダーレジスト、ビルトアップ層、平坦化膜、ウェハーコート等の半導体製品における非導電性の層が挙げられる。
【0012】
前記熱硬化性樹脂は、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、シアネートエステル樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、ユリア樹脂及びエポキシアクリレート、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、電気特性、コスト面で優れていることから、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、フェノキシ樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選ばれるものが好ましい。
これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0013】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。前記エポキシ樹脂は、高耐熱性であり、絶縁性、絶縁信頼性に優れ、かつ低価格であるため好ましい。
これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用したり、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーを併用したりすることもできる。
【0014】
前記シアネート樹脂は、例えば、ハロゲン化シアン化合物とフェノール類とを反応させ、必要に応じて加熱等の方法でプレポリマー化することにより得ることができる。具体的には、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等のビスフェノール型シアネート樹脂等を挙げることができる。
これらの中でもノボラック型シアネート樹脂が好ましい。これにより、架橋密度向上に起因する耐熱性向上と、樹脂組成物等の難燃性を向上することができる。ノボラック型シアネート樹脂は、硬化反応後にトリアジン環を形成するからである。さらに、ノボラック型シアネート樹脂は、その構造上ベンゼン環の割合が高く、炭化しやすいためと考えられる。さらに、絶縁層を厚さ0.5mm以下にした場合であっても、作製した絶縁層に優れた剛性を付与することができる。特に加熱時における剛性に優れるので、半導体素子実装時の信頼性にも特に優れる。
これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用したり、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーを併用したりすることもできる。
【0015】
前記ノボラック型シアネート樹脂としては、例えば、下記式(1)で示されるものを使用することができる。
【0016】
【化1】

【0017】
前記式(1)で示されるノボラック型シアネート樹脂の平均繰り返し単位nは、特に限定されないが、1〜10が好ましく、特に2〜7が好ましい。平均繰り返し単位nが前記下限値未満であるとノボラック型シアネート樹脂は耐熱性が低下し、加熱時に低量体が脱離、揮発する場合がある。また、平均繰り返し単位nが前記上限値を超えると溶融粘度が高くなりすぎ、プリプレグに用いた場合成形性が低下することがある。
【0018】
前記フェノキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA・F混合型フェノキシ樹脂などのビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂のほか、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。これにより、可塑性を付与することができ、熱履歴に対する絶縁層の上下に配置された層の寸法変化を吸収することができる。
これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用したり、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーを併用したりすることもできる。
【0019】
前記フェノール樹脂としては、特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アリールアルキレン型フェノール樹脂等が挙げられる。前記フェノール樹脂は、耐熱性と打抜性が向上するため好ましい。これらの中でもアリールアルキレン型フェノール樹脂が好ましい。これにより、さらに耐熱性を向上させることができる。前記アリールアルキレン型フェノール樹脂としては、例えばキシリレン型フェノール樹脂、ビフェニルジメチレン型フェノール樹脂等が挙げられる。ビフェニルジメチレン型フェノール樹脂は、例えば下記式(2)で示すことができる。
【0020】
【化2】

【0021】
式(2)で示されるビフェニルジメチレン型フェノール樹脂のnは、特に限定されないが、1〜12が好ましく、特に2〜8が好ましい。これより少ないと耐熱性が低下する場合がある。また、これより多いと他の樹脂との相溶性が低下し、作業性が悪くなる場合があるため好ましくない。前述のシアネート樹脂及び/またはそのプレポリマー(特にノボラック型シアネート樹脂)とアリールアルキレン型フェノール樹脂との組合せにより、架橋密度をコントロールし、金属と樹脂との密着性を向上することができる。
これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用したり、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーを併用したりすることもできる。
【0022】
前記充填材としては、特に限定はされないが、無機充填材、有機充填材を用いることができる。これらのなかでも、耐熱性の面から無機充填材が好ましい。
【0023】
前記無機充填材としては、例えば、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラス等のケイ酸塩、酸化チタン、アルミナ、シリカ、溶融シリカ等の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩または亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の窒化物、カーボンブラック、無機顔料等を挙げることができる。
前記無機顔料としては、実質的に水に不溶性であれば特に限定はされないが、白色顔料としては、例えば、二酸化チタン(チタン白、チタニウムホワイト)、酸化亜鉛(亜鉛華)、塩基性炭酸鉛(鉛白)、チタン酸ストロンチウム、酸化アンチモン、リトポン(硫化亜鉛と硫酸バリウムの混晶)など、有色顔料としては、例えば、弁柄、紺青、郡青、コバルト青、クロムグリーン等が挙げられる。
これらの中でも、水酸化アルミニウムが好ましい。水酸化アルミニウムは加熱によって急激に水分を放出して、放出された水蒸気が気相の可燃性ガスを希釈するため、耐燃性を付与することができる。
【0024】
前記有機充填材としては、染料や有機顔料を用いることができる。前記有機染料および前記有機顔料は、樹脂中に溶解あるいは分散していてもよい。前記有機染料としては、特に限定されないが、ジアミノスチルベンジスルホン酸誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、クマリン誘導体、トリアゾール誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラゾリン誘導体、ナフタル酸誘導体、イミダゾロン誘導体等が挙げられる。
また、前記有機顔料としては、水に不溶性であれば特に限定はされないが、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、イソインドリノン系イエロー、キナクリドン系レッド、ペリレン系レッド、シリコーンレジンパウダー等が挙げられる。
【0025】
前記充填材の含有量は、前記熱硬化性樹脂100重量部に対して、65〜400重量部が好ましい。100〜350重量部がさらに好ましく、150〜300重量部が特に好ましい。前記充填材の含有量が前記範囲内であると、前記樹脂ワニスに、低熱膨張性、低吸水性を付与することができる。
【0026】
前記充填材の平均粒径は、特に限定されないが、0.1〜5μmが好ましく、特に0.2〜3μmが好ましい。充填材の平均粒径が前記下限値未満であるとワニスの粘度が高くなるため、プリプレグ作製時の作業性に影響を与える場合がある。また、前記上限値を超えると、樹脂ワニス中で充填剤の沈降等の現象が起こる場合がある。
前記平均粒径は、例えばレーザー光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0027】
前記溶剤は、特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノールなどのアルコール類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶剤、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、カルビトール系、セルソルブ系、アニソール等を挙げることができる。
この中でも、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンが好ましい。これにより、前記熱硬化性樹脂を良好に溶解することができる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、2種類以上を併用したりすることもできる。また、悪影響を及ぼさない範囲で貧溶媒を併用することもできる。
【0028】
前記樹脂ワニスの溶存酸素量は50%以下であることが好ましい。本発明において溶存酸素量とは、エアレーション等により樹脂ワニスに溶解する酸素を飽和させた状態で測定した溶存酸素量を100%とした場合の相対値である。これを測定することで、樹脂ワニスに溶解しているエアー(空気)量を試算することができる。
前記溶存酸素量は、40%以下がより好ましく、20%以下が特に好ましい。これにより、前記樹脂ワニスの塗布及び塗工時に、ハジキ、スジ等の発生がなく良好な塗面の樹脂付きキャリア材料、プリプレグ等を歩留まり良く得ることができる。
前記樹脂ワニスの溶存酸素量の測定方法は、ガルバニ式酸素センサーを備えた溶存酸素計、例えば飯島電子工業社製D−506等を使用して測定することができる。
【0029】
溶存酸素量を前記範囲内にするために、前記樹脂ワニスに脱泡処理を行う。脱泡方法としては、真空脱泡、薄膜脱泡、自転公転脱泡等が上げられる。脱泡方法は樹脂ワニスの性状に合わせて適切なものを選択すればよく、単独の手法で処理してもよいし、2種類以上組み合わせて処理しても良い。また脱泡を促進するために樹脂ワニスを加温してから脱泡するのも有効である。特に、加温状態で自転公転脱泡方法を用いることが好ましい。
【0030】
次に、樹脂付きキャリア材料について説明する。
前記樹脂付きキャリア材料は、キャリアフィルム、金属箔等の面上に前記樹脂ワニスを用いて絶縁層を形成することにより得られる。
【0031】
各種塗工装置を用いて、前記樹脂ワニスをキャリアフィルム上または金属箔上に塗工した後、これを乾燥する。または、樹脂ワニスをスプレー装置によりキャリアフィルムまたは金属箔に噴霧塗工した後、これを乾燥する。これらの方法により樹脂シートを作製することができる。
前記塗工装置は、特に限定されないが、例えば、ロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーターおよびカーテンコーターなどを用いることができる。これらの中でも、ダイコーター、ナイフコーター、およびコンマコーターを用いる方法が好ましい。これにより、ボイドがなく、均一な絶縁層の厚みを有する樹脂付きキャリア材料を効率よく製造することができる。
【0032】
前記キャリアフィルムは、キャリアフィルムに絶縁層を形成するため、取扱いが容易であるものを選択することが好ましい。また、キャリアフィルムを使用する場合、絶縁層を内層回路基板面に積層後、キャリアフィルムを剥離することから、剥離が容易であるものであることが好ましい。したがって、前記キャリアフィルムは、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などの耐熱性を有した熱可塑性樹脂フィルムなどを用いることが好ましい。これらキャリアフィルムの中でも、ポリエステルで構成されるフィルムが最も好ましい。これにより、絶縁層から適度な強度で剥離することが容易となる。
【0033】
前記キャリアフィルムの厚さは、特に限定されないが、1〜100μmが好ましく、特に3〜50μmが好ましい。キャリアフィルムの厚さが前記範囲内であると、取扱いが容易で、また絶縁層表面の平坦性に優れる。
【0034】
前記金属箔は、前記キャリアフィルム同様、内層回路基板に樹脂シートを積層後、剥離して用いても良いし、また、金属箔をエッチングし導体回路として用いても良い。前記金属箔は、特に限定されないが、例えば、銅及び/又は銅系合金、アルミ及び/又はアルミ系合金、鉄及び/又は鉄系合金、銀及び/又は銀系合金、金及び金系合金、亜鉛及び亜鉛系合金、ニッケル及びニッケル系合金、錫及び錫系合金等の金属箔などを用いることができる。
【0035】
前記金属箔の厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上70μm以下であることが好ましい。さらには1μm以上35μ以下が好ましく、さらに好ましくは1.5μm以上18μm以下が好ましい。前記金属箔の厚さが上記下限値未満であると、金属箔に傷つき及びピンホールが発生し、金属箔をエッチングし導体回路として用いた場合、回路パターン成形時のメッキバラツキ、回路断線、エッチング液やデスミア液等の薬液の染み込みなどが発生する怖れがある。また、前記上限値を超えると、金属箔の厚みバラツキが大きくなったり、金属箔粗化面の表面粗さバラツキが大きくなったりする場合がある。
また、前記金属箔は、キャリア箔付き極薄金属箔を用いることもできる。キャリア箔付き極薄金属箔とは、剥離可能なキャリア箔と極薄金属箔とを張り合わせた金属箔である。キャリア箔付き極薄金属箔を用いることで前記絶縁層の両面に極薄金属箔層を形成できることから、例えば、セミアディティブ法などで回路を形成する場合、無電解メッキを行うことなく、極薄金属箔を直接給電層として電解メッキすることで、回路を形成後、極薄銅箔をフラッシュエッチングすることができる。キャリア箔付き極薄金属箔を用いることによって、厚さ10μm以下の極薄金属箔でも、例えばプレス工程での極薄金属箔のハンドリング性の低下や、極薄銅箔の割れや切れを防ぐことができる。前記極薄金属箔の厚さは、0.1μm以上10μm以下が好ましい。さらに、0.5μm以上5μm以下が好ましく、さらに1μm以上3μm以下が好ましい。前記極薄金属箔の厚さが前記下限値未満であると、キャリア箔を剥離後の極薄金属箔の傷つき、極薄金属箔のピンホールの発生、ピンホールの発生による回路パターン成形時のメッキバラツキ、回路配線の断線、エッチング液やデスミア液等の薬液の染み込みなどが発生する怖れがある。また、前記上限値を超えると、極薄金属箔の厚みバラツキが大きくなったり、極薄金属箔粗化面の表面粗さのバラツキが大きくなったりする場合がある。
通常、キャリア箔付き極薄金属箔は、プレス成形後の積層板に回路パターン形成する前にキャリア箔を剥離する。
【0036】
次に、プリプレグについて説明する。
本発明のプリプレグは、前記樹脂ワニスを基材に含浸させてなるものである。これにより、誘電特性、高温多湿下での機械的、電気的接続信頼性等の各種特性に優れたプリント配線板を製造するのに好適なプリプレグを得ることができる。
【0037】
前記基材は、特に限定されないが、ガラス織布、ガラス不織布等のガラス繊維基材、ポリアミド樹脂繊維、芳香族ポリアミド樹脂繊維、全芳香族ポリアミド樹脂繊維等のポリアミド系樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、芳香族ポリエステル樹脂繊維、全芳香族ポリエステル樹脂繊維等のポリエステル系樹脂繊維、ポリイミド樹脂繊維、フッ素樹脂繊維等を主成分とする織布または不織布で構成される合成繊維基材、クラフト紙、コットンリンター紙、リンターとクラフトパルプの混抄紙等を主成分とする紙基材等の有機繊維基材等が挙げられる。これらの中でもガラス繊維基材が好ましい。これにより、プリプレグの強度が向上し、吸水率を下げることができ、また熱膨張係数を小さくすることができる。
【0038】
前記ガラス繊維基材を構成するガラスは、特に限定されないが、例えばEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス、Hガラス等が挙げられる。これらの中でもEガラス、Tガラス、または、Sガラスが好ましい。これにより、ガラス繊維基材の高弾性化を達成することができ、熱膨張係数も小さくすることができる。
【0039】
前記プリプレグを製造する方法は、特に限定されないが、例えば、基材を前記樹脂ワニスに浸漬する方法、各種コーターにより基材に前記樹脂ワニスを塗布する方法、基材に前記樹脂ワニスをスプレーにより吹き付ける方法等が挙げられる。これらの中でも、基材を前記樹脂ワニスに浸漬する方法が好ましい。これにより、基材に対する樹脂組成物の含浸性を向上することができる。なお、基材を前記樹脂ワニスに浸漬する場合、通常の含浸塗布設備を使用することができる。
【0040】
次に、積層板について説明する。
本発明の積層板は、前記樹脂付きキャリア材料又は前記プリプレグを使用して得られるものである。
前記樹脂付きキャリア材料又は前記プリプレグを、1枚もしくは複数枚積層したものの上下両面に、金属箔を重ね、加熱、加圧することで得ることができる。前記加熱時の温度は、特に限定されないが、120〜230℃が好ましく、特に150〜210℃が好ましい。また、前記加圧時の圧力は、特に限定されないが、1〜5MPaが好ましく、特に2〜4MPaが好ましい。これにより、誘電特性、高温多湿化での機械的、電気的接続信頼性に優れた積層板を得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
1−1.樹脂ワニスの作製
シアネート樹脂(プリマセットPT−30 ロンザ社製)を15.7重量部、エポキシ樹脂(NC3000 日本化薬社製、エポキシ当量275)を18.7重量部、充填材(AOH180 ナバルテック社製、平均粒径0.6μm)を39.0重量部、シランカップリング剤(KBM−573 信越化学工業社製、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)を0.2重量部、球状シリカ(SO−31R アドマテックス社製、平均粒径1.2μm)を21.6重量部、フェノール樹脂(MEH7851−4L 明和化成社製、水酸基当量187)4.8重量部をメチルイソブチルケトンに溶解・混合させた。次いで、高速撹拌装置を用い撹拌して樹脂ワニスを調製した。得られた樹脂ワニスを真空薄膜脱泡機にて脱泡処理した。
【0043】
1−2.樹脂付きキャリア材料の作製
前記樹脂ワニスをPETフィルム(ポリエチレンテレフタレート、厚み38μm)上に塗工し、150℃の乾燥機で2分間乾燥して、樹脂付きキャリア材を得た。
【0044】
1−3.プリプレグの作製
上記により調製した樹脂付きキャリア材料の樹脂面を両面に配し、ガラスクロス基材(日東紡社製、WEA−116E)に挟んで、圧力1MPa、温度120℃で時間5分の条件で、真空プレス中でラミネート含浸させた。次いで、PETフィルムを剥離して、厚み0.1mmのプリプレグを得た。
【0045】
1−4.積層板1の作製
上記により作成したプリプレグの両面に厚み12μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC−VLP)を重ねあわせて、220℃、3MPaで加熱加圧成形し、銅箔を両面に有する厚み0.1mmの積層板1を得た。
【0046】
1−5.積層板2の作製
前記積層板1に、0.1mmのドリルビットを用いてスルーホール加工を行った後、メッキによりスルーホールを充填した。さらに、両面をエッチングにより回路形成し、内層回路基板として用いた。
前記内装回路基板の両面に、前記樹脂付きキャリア材料のエポキシ樹脂面を内側にして1枚ずつ重ね合わせ、これを、真空加圧式ラミネーター装置を用いて、温度100℃、圧力1MPaにて真空加熱加圧成形させた。樹脂付きキャリア材料から基材のPETフィルムを剥離後、熱風乾燥装置にて170℃で60分間加熱し硬化させて、積層板2を得た。
【0047】
(実施例2)
脱泡処理を40℃加温後、真空静置脱泡とした以外は実施例1と同様とした。
【0048】
(実施例3)
脱泡処理を40℃加温後、真空式自転公転脱泡とした以外は実施例1と同様とした。
【0049】
(比較例1)
樹脂ワニスに脱泡処理をしなかったこと以外は実施例1と同様とした。
【0050】
2.評価
実施例および比較例で得られた樹脂ワニス、プリプレグ、積層板1および積層板2の評価を以下に示す。
【0051】
2−1.溶存酸素量
20℃における樹脂ワニスの溶存酸素量を、溶存酸素計(型式B−506、飯島電子工業社製)を用いて測定した。まず樹脂ワニスを20℃に調整した後、スターラーを用いて気泡を巻き込まないように樹脂ワニスを攪拌し流速を与えた。次に撹拌中の樹脂ワニスへセンサーを投入し、値が安定した所で数値を読み取った。
表1中の溶存酸素量は、予め樹脂ワニスの飽和溶存酸素量を測定しておき、その値を100%とした時の相対値で表記した。
【0052】
2−2.外観(樹脂付きキャリア材料およびプリプレグ)
樹脂付きキャリア材料およびプリプレグのハジキの数を目視により測定した。
表1中の各符号は以下の通りである。
○:ハジキなし。
△:5mm以上のハジキが1〜99個。
×:5mm以上のハジキが100個以上。
【0053】
2−3.外観(積層板1、積層板2)
積層板1および積層板2の断面観察を行った。断面観察は、金属顕微鏡(オリンパス株式会社製)を用いて行った。
表1中の各符号は以下の通りである。
○:断面観察結果において、ボイドが観察されなかったもの。
×:断面観察結果において、ボイドが観察されたもの。
【0054】
2−4.吸湿半田特性
積層板1および積層板2を50mm×50mmにグラインダーソーでカットした後、エッチングにより銅箔を1/4だけ残した試料を作製し、JIS C 6481に準拠して評価した。評価は、121℃、100%、2時間、PCT吸湿処理を行った後に、288℃の半田槽に30秒間浸漬した後で外観の異常の有無を調べた。
表1中の各符号は以下の通りである。
○:異常なし。
×:膨れが発生。
【0055】
2−5.個片反り
温度可変レーザー三次元測定機(日立テクノロジーアンドサービス社製、形式LS220−MT100MT50)を用い、前記測定機のサンプルチャンバーに前記で得られた積層板2から50mm×50mmのサイズでルーター加工により個片化し、個片化後のサンプルの高さ方向の変位を測定し、変位差の最も大きい値を反り量とした。
【0056】
得られた評価結果を、表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかなように、実施例1〜3で得られた樹脂ワニスは溶存酸素量が少なく、前記樹脂ワニスを用いて作製した実施例1〜3の樹脂付きキャリア材料およびプリプレグにはハジキが発生せず、外観が良好であった。また、前記樹脂ワニスを用いて作製した積層板1および積層板2もボイドがなく、外観が良好であった。さらに、吸湿半田耐熱性および反り量の評価においても優れていた。
一方、比較例1は、樹脂ワニスの溶存酸素量が多いため、樹脂付きキャリア材料およびプリプレグにハジキが発生した。また、前記樹脂ワニスを用いて作製した積層板1および積層板2には、ボイドが発生し、吸湿半田耐熱性および個片化後の積層板の反り量の評価において劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の樹脂ワニスを用いることにより、成形時の外観不良の少ない樹脂付きキャリア材料、プリプレグを生産することができる。また、これにより、積層板を歩留まり良く生産することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層を形成するために用いる樹脂ワニスであって、前記樹脂ワニスは、熱硬化性樹脂と、充填材と、溶剤と、を含む樹脂組成物で構成され、かつ樹脂ワニスの溶存酸素量が50%以下であることを特徴とする樹脂ワニス。
【請求項2】
前記充填材の含有量は、前記熱硬化性樹脂100重量部に対して65〜400重量部である請求項1に記載の樹脂ワニス。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂は、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂又はフェノール樹脂からなる群から選ばれるものである請求項1又は2に記載の樹脂ワニス。
【請求項4】
前記溶剤は、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選ばれるものである請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂ワニス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂ワニスをキャリア材料に塗布して得られることを特徴とする樹脂付きキャリア材料。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂ワニスを基材に含浸して得られることを特徴とするプリプレグ。
【請求項7】
請求項5記載の樹脂付きキャリア材料を使用して得られる積層板。
【請求項8】
請求項6記載のプリプレグを使用して得られる積層板。

【公開番号】特開2011−202053(P2011−202053A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71329(P2010−71329)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】