説明

樹脂組成物およびそれを用いたプリプレグ、印刷配線板

【課題】ハロゲンフリーでありかつ貫通孔の充填に優れた低誘電率の樹脂組成物およびそれを用いたプリプレグ、印刷配線板を提供する。
【解決手段】(a)粒形が球状でありかつ平均粒径が0.1〜5μmである無機充填材、(b)ハロゲンを含有しない熱硬化性樹脂、(c)ハロゲンを含有しない該熱硬化性樹脂の硬化剤、(d)ハロゲンを含有しない難燃剤を含み、かつ硬化物における周波数1GHzでの比誘電率が2.5〜3.5である樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物およびそれを用いたプリプレグ、印刷配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する意識の高まりから、電子機器等に使用されるプリプレグ、金属張積層板、印刷配線板(以下、配線板材料)は、廃棄等の焼却時におけるダイオキシン等の有害ガス発生のおそれがない、すなわちハロゲン系化合物を含まないハロゲンフリー製品の導入が進んでいる。ハロゲン系化合物を含まずに難燃性を付与するには、通常、ハロゲンを含まない難燃剤と比較的多量の無機充填材を併用して添加する方法が行われている。ここに用いられる無機充填材としては、難燃効果の高い水酸化アルミニウムが選択されることが多い。また同様に、鉛を含まない鉛フリーはんだの導入も進んでおり、従来よりも高温で行われる鉛フリーはんだプロセスに対応するため、配線板材料には高耐熱性や低熱膨張が要求されており、これらの要求を満足するため、配線板材料に用いられる樹脂組成物への無機充填材の添加が一層進んでいる。
【0003】
さらに、電子機器の高速化や高密度化に伴い、配線板材料の低誘電率化や印刷配線板の高多層化が求められている。しかし、前者の低誘電化に関してハロゲンフリーの配線板材料は、上述のように比較的誘電率の高い水酸化アルミニウムを多量に含むため、低誘電化することが困難であった。また、後者の印刷配線板の高多層化の手法として、金属張積層板の片面または両面に配線パターンを形成してなる2枚以上の内層板を、その内層板間の中間層にプリプレグを介して積層し加熱・加圧するシーケンシャル積層法が一般的に知られている。この方法では、成形時に内層回路板に形成された貫通孔をプリプレグに含まれる樹脂組成物で充填する場合があり、充填材として水酸化アルミニウムを含むハロゲンフリーのプリプレグを使用する場合、水酸化アルミニウムの形状が不定形であることに起因して成形時の流動が不十分なため内層回路板の貫通孔への充填が十分に行われない場合があった。
【0004】
ハロゲン系化合物を含まずに難燃性を付与するには、樹脂組成物にリン系難燃剤や無機充填材を添加する等の方法が行われている。リン系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル系や、レゾルシノールジホスフェート等の縮合リン酸エステル等が広く用いられている(特許文献1参照)。また、特許文献2に示されているように、難燃剤としてホスフィン酸塩やジホスフィン酸塩を用いる技術が導入されている。
【0005】
さらに近年では、大量のデータを高速で処理するために、コンピュータや情報機器端末などで、信号の高周波化が進んでいる。用いる周波数が高くなるにつれて、電気信号の伝送損失が大きくなる。それに対応するために、高周波化に対応した誘電特性を有する印刷配線板の開発が、強く求められている。
【0006】
高周波回路における伝送損失は、配線まわりの絶縁層(誘電体)の誘電特性で決まる誘電体損の影響が大きく、印刷配線板用基板(特に絶縁樹脂)の誘電率および誘電正接(tanδ)を低くすることが必要となる。たとえば移動体通信関連の機器では、信号の高周波化に伴い、準マイクロ波帯(1〜3GHz)における伝送損失を少なくするために、誘電正接の低い基板が強く望まれるようになっている。
【0007】
さらにコンピュータなどの電子情報機器では、動作周波数が1GHzを超える高速マイクロプロセッサが搭載されるようになり、印刷配線板における高速パルス信号の遅延が問題になってきた。印刷配線板では、信号の遅延時間が、配線まわりの絶縁物の比誘電率εrの平方根に比例して長くなるため、高速コンピュータなどでは、誘電率の低い配線板用材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−206392号公報
【特許文献2】特開2002−284963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解消し、ハロゲンフリーでありかつ貫通孔の充填に優れた低誘電率の樹脂組成物およびそれを用いたプリプレグ、印刷配線板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)(a)粒形が球状でありかつ平均粒径が0.1〜5μmである無機充填材、(b)ハロゲンを含有しない熱硬化性樹脂、(c)ハロゲンを含有しない該熱硬化性樹脂の硬化剤、(d)ハロゲンを含有しない難燃剤を含み、かつ硬化物における周波数1GHzでの比誘電率が2.5〜3.5である樹脂組成物。
(2)項(1)に記載の樹脂組成物を基材に含浸、乾燥させてなるプリプレグ。
(3)片面または両面に配線パターンを形成してなる2枚以上の内層板間に、項(2)に記載のプリプレグを介して、積層し加熱・加圧して得られる印刷配線板。
【発明の効果】
【0011】
ハロゲンフリーでありかつ貫通孔の充填に優れた低誘電率の樹脂組成物およびそれを用いたプリプレグ、印刷配線板を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の(a)成分は、粒形が球状でありかつ平均粒径が0.1〜5μmである無機充填材である。平均粒径が0.1μm未満の場合、金属箔引き剥がし強度が劣ることがあり、5μmを超える場合、樹脂組成物に有機溶剤を加えワニスとした場合に沈降しやすくなることがある。また、本発明では、無機充填材の最大粒径が20μm以下であることが好ましい。最大粒径が20μmを超えると、プリプレグの厚みが薄い場合や金属張積層板に形成される配線パターンが微細な場合に電気的特性等において信頼性に劣る場合がある。本発明で用いられる無機充填材としては、粒形が球状でありかつ平均粒径が0.1〜5μmであれば特に限定されないが、誘電率が小さいことからシリカが好ましい。市販品としては、SP−3B(扶桑化学工業株式会社製商品名、平均粒径3.0μm)、SO−25R(株式会社アドマテックス製商品名、平均粒径0.5μm)などが挙げられる。
【0013】
本発明で用いられる無機充填材の配合量は、樹脂組成物の樹脂固形分100重量部に対して、5〜100重量部配合することが好ましい。5重量部未満では無機充填材の効果が得られず、100重量部を超えると樹脂組成物に有機溶剤を加えワニスとした場合に無機充填材が沈降したり凝集を生じることがある。本発明において無機充填材を添加する際、必要に応じて各種表面処理剤を添加しても良い。
【0014】
本発明の(b)成分は、ハロゲンを含有しない熱硬化性樹脂であれば特に制限されず、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シアネート類化合物等が挙げられ、これらを単独で、または、2種以上使用することができる。これらの中でエポキシ樹脂を例に挙げると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールビフェニレンノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、および、これらのアルキル置換体、水素添加物等が用いられ、これらの中から単独で、または、2種以上を使用することができる。
【0015】
本発明の(c)成分は、ハロゲンを含有しない該熱硬化性樹脂の硬化剤であれば特に制限されない。熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合の硬化剤を例に挙げると、アミン化合物、多官能性フェノール化合物、酸無水物化合物等が挙げられ、これらから単独または2種以上選択される。硬化剤の配合量は、特に制限されないが、熱硬化性樹脂の主材の官能基に対して0.01〜5.0当量が好ましい。いずれの熱硬化性樹脂を用いる場合でも、硬化促進剤を使用しても良い。この場合の硬化促進剤としては、特に制限されないが、例えばイミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が用いられ、これらから単独または2種以上選択される。硬化促進剤の配合量についても、特に制限されないが、樹脂組成物中の有機成分の固形分総量100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましい。
【0016】
本発明の(d)成分は、ハロゲンを含有しない難燃剤であれば特に制限されず、例えばホスフィン酸金属塩系、ホスファゼン系、リン酸エステル系、縮合リン酸エステル系、リン酸アンモニウム系、リン酸メラミン系、環状エステル系等が挙げられ、これらの中から単独で、または、2種以上を使用することができる。
【0017】
また、本発明において使用される樹脂組成物は、必要に応じて触媒、可とう剤等を適宜加えても良い。また本発明の樹脂組成物の硬化物は、周波数1GHzでの比誘電率が2.5〜3.5である。比誘電率が3.5を超えると印刷配線板にした場合、高速パルス信号の遅延が問題になってくる。比誘電率が2.5未満の樹脂組成物は作製が困難となる。
【0018】
本発明の樹脂組成物のワニスは、上記の配合材料に必要に応じて有機溶剤を加え、混合することにより得られる。本発明に用いられる有機溶剤としては、特に制限されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物系溶剤、N−メチルピロリドン、N−メチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ系溶剤等が使用可能であり、これらから単独または2種以上選択される。
【0019】
本発明の樹脂組成物のワニスを基材に含浸させ、さらに乾燥させてプリプレグを製造する。本発明に用いられる基材としては、特に制限されないが、通常織布や不織布等が用いられる。基材の材質としては、特に制限されないが、ガラス、アルミナ、シリカアルミナガラス、シリカガラス、炭化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維や、アラミド、ポリエーテルイミド、カーボン、セルロース等の有機繊維等が用いられる。
【0020】
本発明の印刷配線板は、金属張積層板等の片面または両面に配線パターンを形成してなる2枚以上の内層板を、その内層板間に本発明のプリプレグを介して積層し加熱・加圧して得られる。加熱加圧成形する際の条件は、熱硬化性樹脂と硬化剤との反応性に依存するため、用いられる樹脂材料により選択され、通常130〜250℃、好ましくは150〜200℃の範囲の温度、通常0.5〜20MPa、好ましくは1〜8MPaの範囲の圧力、通常10〜200分、好ましくは30〜120分の範囲の加熱加圧時間が選ばれる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
下記表1に示した配合量(固形重量部)の樹脂組成物とメチルエチルケトンを配合し、80℃で60分間撹拌し樹脂組成物のワニスを得た。なお、メチルエチルケトンはワニスの固形分が50重量%となるよう配合した。作製したワニスを厚さ0.1mmのガラスクロス(2116:旭シュエーベル株式会社製、商品名)に含浸後、160℃で5分間加熱、乾燥して樹脂分50重量%のプリプレグを得た。250mm×250mmに切断した板厚0.8mmの銅張積層板(MCL−E−67:日立化成工業株式会社製、商品名)に、ドリル加工により直交10mm間隔に直径0.1mmの貫通孔を576個形成し、この銅張積層板2枚の間に上記のプリプレグ1枚挟み、上記銅張積層板の両側に厚さ18μmの銅箔(GTS−18:古河サーキットフォイル株式会社製、商品名)を配置し、180℃、3MPa、60分間、真空下で加熱加圧成形することにより試験用基板を作製した。実施例および比較例で得られた試験用基板について、貫通孔への充填性を1穴毎に確認することで評価した。充填性は、貫通孔内に樹脂組成物が空隙なく充填されている場合をOKとし、次式(1)により算出した。結果を表1に示した。
【0023】
【数1】

【0024】
また、樹脂組成物の硬化物(30mm×30mm、厚み1mm)を作製し、RF Impedance/Material Analyzer(Hewlett Packard社製、4291B)により室温25℃下で硬化物の1GHzでの比誘電率を測定した。結果を表1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
また前記表1中の配合材料(樹脂組成物)の詳細を以下に示した。
1*:球状シリカ、平均粒径3.0μm(商品名:SP−3B、扶桑化学工業株式会社製)
2*:球状シリカ、平均粒径0.5μm(商品名:SO−25R、株式会社アドマテックス製)
3*:シリカ(不定形)、平均粒径1.1μm(商品名:FLB−1、株式会社瀧森製)
4*:水酸化アルミニウム(不定形)、平均粒径3.0μm(ナカライテクス株式会社製)
5*:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:ESCN−195、住友化学工業株式会社製、エポキシ当量:195)
6*:フェノールビフェニレンノボラック型エポキシ樹脂(商品名:NC−3000−H、日本化薬株式会社製、エポキシ当量:288)
7*:リン変性エポキシ樹脂(商品名:FX289、東都化成株式会社製、エポキシ当量:308)
8*:2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマ(商品名:AroCy B−30、旭チバ株式会社製、三量化率30%、シアネート当量:200)
9*:メラミン変性フェノールノボラック樹脂(商品名:エピキュアYLH828、ジャパンエポキシレジン株式会社製、水酸基当量:146)
10*:2−エチル−4メチルイミダゾール(商品名:エピキュアEMI24、ジャパンエポキシレジン株式会社製)
11*:2−エチルヘキサン酸亜鉛(和光純薬工業株式会社製)
12*:ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩(商品名:OP930、クラリアント社製)
【0027】
表1から明らかなように、本発明の実施例1〜3は、無機充填材として球状シリカの無機充填材を用いることにより、比較例1および2と比較して比誘電率が小さくかつ貫通孔への充填性に優れている。これに対し、比較例1は、不定形のシリカを用いているために貫通孔への充填性に劣り、比較例2は不定形の水酸化アルミニウムを用いているために貫通孔への充填性に劣りさらに比誘電率も大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)粒形が球状でありかつ平均粒径が0.1〜5μmである無機充填材、(b)ハロゲンを含有しない熱硬化性樹脂、(c)ハロゲンを含有しない該熱硬化性樹脂の硬化剤、(d)ハロゲンを含有しない難燃剤を含み、かつ硬化物における周波数1GHzでの比誘電率が2.5〜3.5である樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を基材に含浸、乾燥させてなるプリプレグ。
【請求項3】
片面または両面に配線パターンを形成してなる2枚以上の内層板間に、請求項2に記載のプリプレグを介して、積層し加熱・加圧して得られる印刷配線板。

【公開番号】特開2011−140661(P2011−140661A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60633(P2011−60633)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【分割の表示】特願2005−148148(P2005−148148)の分割
【原出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】