説明

樹脂組成物及び成形体

【課題】植物由来であるリグニンを主原料とし、かつ難燃性を付与した樹脂組成物及び成形体を提供する。
【解決手段】有機溶媒可溶リグニン、硬化剤、硬化促進剤を含む樹脂組成物。さらに、難燃補助剤を含む前記の樹脂組成物。有機溶媒可溶リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得られたものである前記の樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料は、成形加工が容易、軽量、着色可能といった利点から、テレビやパソコン、電子機器、自動車等身の回りの幅広い用途に使用されている。しかし、樹脂材料はそのままでは非常に燃えやすく、また極めて幅広い範囲で利用されているため、一度着火すると火災や火傷等の災害につながりかねない。したがって、万が一の場合の被害を最小限にするため、難燃性、耐熱性が求められる。
【0003】
近年、樹脂原料として、地球温暖化防止の観点からバイオマス(生物資源)の有効活用が見直されており、包装資材や家電製品の部材、自動車部材等のプラスチックを植物由来樹脂(バイオプラスチック)に置き換える動きが活発化している。
【0004】
前記植物由来樹脂の具体例としては、ジャガイモやサトウキビやトウモロコシ等の糖質を醗酵させて得られた乳酸をモノマーとし、これを用いて化学重合を行い作製したポリ乳酸:PLA(PolyLactic Acid)や、澱粉を主成分としたエステル化澱粉、微生物が体内に生産するポリエステルである微生物産生樹脂:PHA(PolyHydoroxy Alkanoate)、醗酵法で得られる1,3−プロパンジオールと石油由来のテレフタル酸とを原料とするPTT(Poly Trimethylene Terephtalate)等が挙げられる。
また、PBS(Poly Butylene Succinate)は、現在は石油由来の原料が用いられているが、今後においては、植物由来樹脂として作製する研究が開発されており、主原料の一つであるコハク酸を植物由来で作製する技術についての開発がなされている。これらは熱可塑性樹脂であることから、融点、ガラス転移点以上の温度では使用できない。
【0005】
これまでにも、植物由来原料を用いた樹脂、特にポリ乳酸樹脂の耐熱性向上及び難燃化に関しては種々の試みがなされてきた。しかし、前記物性を向上させるために石油系樹脂を用いており、その含有量を増やす分、環境負荷を低減化させる観点から、化石資源使用量削減や二酸化炭素排出量削減の効果が低下してしまうという課題があった。
【0006】
公知の難燃剤としては、臭素系・ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤が挙げられる(特許文献1参照)。従来においても各種難燃剤が知られているが、前記の難燃剤は、化石資源を原料として合成されているものが多く、主材料として植物由来樹脂を用いたとしても、環境負荷削減効果は低いものとなっていた。また、非石油資源原料の難燃剤でも、大量に添加しなければ難燃効果を得られないといった問題もあった(特許文献2参照)。
【0007】
また、難燃剤自体の有害性も検討しなければならない。例えば、臭素系・ハロゲン系難燃剤は、焼却時に熱分解によりダイオキシン類が発生する。またリン系難燃剤は、化学物質過敏症(アレルギー)を引き起こす恐れもあり、さらに環境保全のため使用が制限されつつある(特許文献3参照)。今後において、難燃剤は、生体に無害かつ安全で、かつ少量であっても実用上充分な難燃効果が得られるものであることの要望が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−002120号公報
【特許文献2】国際公開05/061626号パンフレット
【特許文献3】特開2004−190026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明においては、環境負荷低減化の観点から、植物由来の樹脂組成物を提供することを目的とする。特に植物由来であるリグニンを主原料とし、かつ難燃性を付与した樹脂組成物及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の通りである。
(1)有機溶媒可溶リグニン、硬化剤、硬化促進剤を含む樹脂組成物。
(2)さらに、難燃補助剤を含む(1)に記載の樹脂組成物。
(3)有機溶媒可溶リグニンの重量平均分子量が、100〜5000である(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
(4)有機溶媒可溶リグニンの含有量が、20〜90質量%である(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)有機溶媒可溶リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得られたものである(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(6)有機溶媒可溶リグニンが、植物原料に水蒸気を圧入し、瞬時に圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得られたものである(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(7)硬化剤が、エポキシ樹脂である(1)〜(6)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(8)さらに植物繊維、炭素繊維、合成繊維、無機繊維のうち少なくとも1種の繊維を含むことを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化してなる成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、化石資源使用量の削減、及び二酸化炭素の排出量の低減効果が得られ、環境負荷低減化に好適であり、なおかつ、成形性、加工性に優れる樹脂組成物及び成形体を提供できた。
【0012】
本発明によれば、リグニンを主原料としたことにより、前記効果に加え、難燃効果を付与した樹脂組成物及び成形体を提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、リグニン、硬化剤、硬化促進剤を含み、前記リグニンが有機溶媒に可溶であることを特徴とする。以下、本発明において、リグニンとは、特に断りがない限り、有機溶媒可溶リグニンのことである。また、前記樹脂組成物は、好ましくはリグニンを20〜90質量%含み、より好ましくは30〜90質量%、さらに40〜80質量%含むことが特に好ましい。90質量%を超えると成形性が劣化するおそれがある。また、20質量%未満であると難燃性効果、環境負荷低減効果が得られないおそれがある。
【0014】
リグニンの重量平均分子量は、ポリスチレン換算値において、100〜5000が好ましく、100〜4000がより好ましく、溶媒溶解性の観点からは100〜3000が特に好ましい。リグニンの重量平均分子量が3000を超えるリグニンを有機溶媒に溶解するとき、一部の有機溶媒で溶けにくくなる。一方、リグニンの構造を活かした樹脂組成物を得る観点では、高分子量のものが好ましい。よって、溶解性、成形性、樹脂組成物の特性の観点から、リグニンの重量平均分子量は1000〜3000が最も好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算した値を使用した。
【0015】
リグニンは主に樹木から得られるポリフェノールを主成分とする。そのため、リグニンを樹脂原料とした場合、カーボンニュートラルの観点から環境負荷を低減することができる。リグニンの基本骨格は、ヒドロキシフェニルプロパン単位を基本単位とする構造である。樹木は親水性の線状高分子の多糖類(セルロースとヘミセルロース)と疎水性の架橋構造リグニンの相互侵入網目(IPN)構造を形成している。リグニンは、樹木の約25質量%を占め、不規則かつ極めて複雑なポリフェノールの化学構造をしている。
【0016】
本発明の目的は、リグニンを主原料とし、リグニンが有する複雑な化学構造を活かすことにある。植物からリグニンを取り出す際に、低分子量としてしまうと、複雑なポリフェノール構造を活かすことができず、高い耐熱性が得られない。また、リグニンが有するフェノール性水酸基及びアルコール性水酸基を利用し、硬化剤を用いて3次元架橋構造を形成できる。これにより、高いガラス転移温度を有する樹脂組成物を得ることが可能となった。
【0017】
また、フェノール類は燃焼の際、黒鉛を形成し易いため難燃性、耐熱性に優れることが知られている。本発明は植物から得られたリグニンの複雑な構造をそのまま活かし、樹脂原料とすることで、難燃性を有し、環境負荷低減効果のある樹脂組成物を提供するものである。
【0018】
リグニンの原料に特に制限は無い。スギ、マツ、ヒノキ等の針葉樹、ブナ等の広葉樹、タケ、イネワラ、バガス等が使用される。樹木からリグニンを分離し取り出す方法としては、クラフト法、硫酸法、爆砕法等が挙げられる。現在多量に製造されているリグニンの多くは、紙やバイオエタノールの原料であるセルロース製造時に残渣として得られる。
入手可能なリグニンとしては、主に硫酸法により副生するリグニンスルホン酸塩があげられる。他にもアルカリリグニン、オルガノソルブリグニン、ソルボリシスリグニン、糸状菌処理木材、ジオキサンリグニン及びミルドウッドリグニン、爆砕リグニン等がある。
【0019】
国内で容易に入手できるリグニンとして、例えば、前記のリグニンスルホン酸塩が挙げられるが、水溶性であり、有機溶媒に難溶である。そのため、硬化剤及び硬化促進剤との相溶性が悪く、均質な硬化物が得られない恐れがある。また、水酸基がスルホン酸塩に置換されているため、硬化剤との反応が低く剛直な骨格が得られにくい。よって、有機溶媒に難溶な、リグニンスルホン酸塩は、本発明の樹脂組成物に使用するのは不適当である。
【0020】
さらにリグニンは、取りだした際、リグニン以外の例えばセルロースやヘミセルロースのような成分が、多少含まれていても良い。また、これらのリグニンをアセチル化、メチル化、ハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、硫化ナトリウムや硫化水素との反応等によって作製されたリグニン誘導体も含む。
【0021】
主原料とするリグニンを取得する方法として、水を用いた分離技術を用いた方法が好ましい。使用するリグニンが、水のみを用いた処理方法により、セルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンであることが好ましい。また、リグニンを取得する方法としては、水蒸気爆砕法がより好ましい。水蒸気爆砕法は、高温高圧の水蒸気による加水分解と、圧力を瞬時に開放することによる物理的破砕効果により、植物を短時間に破砕するものである。この方法は硫酸法、クラフト法等他の分離方法と比較し、硫酸、亜硫酸塩等を用いることなく、水のみを使用するので、クリーンな分離方法である。
水蒸気爆砕の条件は特に限定しないが、通常、原料を水蒸気爆砕装置用の耐圧容器に入れ、3〜4MPaの水蒸気を圧入し、1〜15分間放置した後、瞬時に圧力を開放することにより爆砕する。なお、前記有機溶媒可溶リグニンは、水蒸気爆砕リグニンとも表す。また、原料としては、リグニンが抽出できれば特に限定しないが、例えば、スギ、竹、稲わら、麦わら、ひのき、アカシア、ヤナギ、ポプラ、バガス、とうもろこし、サトウキビ、米穀、ユーカリ、エリアンサス等が挙げられる。
【0022】
この方法では、リグニン中に硫黄原子を含まないリグニン、又は、硫黄原子の含有率が少ないリグニンが得られる。通常、リグニン中の硫黄原子の含有率は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。硫黄原子の含有量が2質量%を超えると親水性のスルホン酸基が増加するため、有機溶媒への溶解性が低下するおそれがある。本発明者らは、さらに、爆砕物から有機溶媒による抽出により、リグニンの分子量を制御し得ることを見出した。
【0023】
本発明の樹脂組成物に含まれるリグニンの抽出に用いる有機溶媒としては、1種又は2種以上複数の混合のアルコール溶媒、アルコールと水を混合した含水アルコール溶媒、そのほかの有機溶媒または、水と混合した含水有機溶媒を使用することができる。水にはイオン交換水を使用することが好ましい。水との混合溶媒の含水率は、0〜70質量%が好ましい。リグニンは水への溶解度が低いため、水のみを溶媒とするとリグニンを抽出することが困難である。また、用いる溶媒を選択することにより、得られるリグニンの重量平均分子量を制御することが可能である。
【0024】
前記リグニンの抽出に用いられる有機溶媒としては、アルコール、トルエン、ベンゼン、N−メチルピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン等があり、これらは二種類以上、混合して用いることができる。
【0025】
アルコールには、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、n−ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール等のモノオール系とエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリエタノールアミン等のポリオールが挙げられる。また、さらに好ましくは、天然物質から得られるアルコールであることが、環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、天然物質から得たメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、グリセリン、ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられる。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、リグニン、硬化剤、硬化促進剤を含む。さらに所望の各種添加剤成分、難燃補助剤、粘度調整剤、離型剤、可塑剤(鉱油、シリコンオイル等)、滑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防黴剤、無機充填材、有機充填材等を樹脂組成物に配合することもできる。また、紙粉、木粉、セルロース粉末、籾殻粉末、果実殻粉末、キチン粉末、キトサン粉末、タンパク質、澱粉等の粉末状を樹脂組成物に添加しても良い。
本発明の樹脂組成物に含まれる硬化剤としては、エポキシ樹脂、イソシアネート、アルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物、アクリル樹脂、多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物、不飽和多価カルボン酸または不飽和多価カルボン酸無水物等が挙げられ、特にエポキシ樹脂が好ましい。
【0027】
本発明で用いるエポキシ樹脂には、ビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールSグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールADグリシジルエーテル型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシが挙げられる。また、さらに天然由来物質から得られたエポキシ樹脂であることが環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸エステル類、エポキシ化アマニ油、ダイマー酸変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0028】
本発明で用いる硬化剤として、イソシアネートが挙げられる。イソシアネートとしては、脂肪族系イソシアネート、脂環族系イソシアネート及び芳香族系イソシアネートの他、それらの変性体が挙げられる。脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられ、脂環族系イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。芳香族系イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。イソシアネート変性体としては、例えば、ウレタンプレポリマー、ヘキサメチレンジイソシアネートビューレット、ヘキサメチレンジイソシアネートトリマー、イソホロンジイソシアネートトリマー等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いる硬化剤としてアルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物が挙げられる。アルデヒドとしては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロラール、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。また、ホルムアルデヒドを生成する化合物としてはヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することもできる。また、硬化性、耐熱性の面からヘキサメチレンテトラミンが好ましい。
【0030】
本発明で用いる硬化剤としてアクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂としてはアクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、脂肪酸ビニルエステルから選ばれる一つ以上のモノマーを単独または共重合したものが使用できる。
【0031】
本発明で用いる硬化剤として多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族多価カルボン酸や、トリメリット酸、ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸が挙げられる。多価カルボン酸無水物の具体例としては、例えば、マロン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物、ピメリン酸無水物、スベリン酸無水物、アゼライン酸無水物、エチルナジック酸無水物、アルケニルコハク酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物等の脂肪族多価カルボン酸無水物や、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族多価カルボン酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が、リグニンが有する水酸基と反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0032】
本発明で用いる硬化剤として不飽和多価カルボン酸または不飽和多価カルボン酸無水物が挙げられる。不飽和多価カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、クロトン酸、α−エチルアクリル酸、α−n−プロピルアクリル酸、α−n−ブチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等が挙げられる。また、不飽和多価カルボン酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、シス−1,2,3,4−テトラヒドロフタル酸無水物等が挙げられる。不飽和多価カルボン酸または不飽和多価カルボン酸無水物が、リグニンが有する水酸基と反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0033】
本発明で用いる硬化促進剤としては、シクロアミジン化合物、キノン化合物、三級アミン類、有機ホスフィン類、金属塩類、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。
【0034】
本発明では、さらに難燃補助剤を使用することにより、リグニンにより付与される難燃効果をさらに向上させることができる。難燃補助剤としては、無機系難燃補助剤、有機系難燃補助剤、反応系難燃補助剤等が挙げられる。これらは、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
無機系難燃補助剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム系化合物、モリブデン系化合物、スズ酸亜鉛等が挙げられる。
【0036】
有機系難燃補助剤としては、臭素化エポキシ系化合物、臭素化アルキルトリアジン化合物、臭素化ビスフェノール系エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化架橋ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールシアヌレート樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA及びそのオリゴマー等のハロゲン系難燃剤、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トキヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート等のリン酸エステルやこれらを各種置換基で変性した化合物、各種の縮合型のリン酸エステル化合物、リン元素及び窒素元素を含むホスファゼン誘導体等のリン系難燃剤、ポリテトラフルオロエチレン、グアニジン塩、シリコーン系化合物、ホスファゼン系化合物等が挙げられる。
【0037】
反応系難燃補助剤としては、テトラブロモビスフェノールA、ジブロモフェノールグリシジルエーテル、臭素化芳香族トリアジン、トリブロモフェノール、テトラブロモフタレート、テトラクロロ無水フタル酸、ジブロモネオペンチルグリコール、ポリ(ペンタブロモベンジルポリアクリレート)、クロレンド酸(ヘット酸)、無水クロレンド酸(無水ヘット酸)、臭素化フェノールグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0038】
上記各種難燃補助剤のうち、環境や人体への無害性から、無機系難燃補助剤が好ましく用いられる。例えば代表的な無機系難燃補助剤である水酸化アルミニウムは、比較的低温で脱水分解し、同時に熱を吸収することで難燃効果を発揮する。また、無機フィラーとして働くことにより可燃性ガスを低減させる。さらに、分解生成したアルミナが素材表面を覆うことで酸素を遮断することによっても難燃効果を発揮する。
【0039】
通常、例えば天然由来樹脂であるポリ乳酸樹脂に無機系難燃補助剤(例えば水酸化アルミニウム)を添加して難燃性を付与しようとすると、ポリ乳酸樹脂と同量、またはポリ乳酸樹脂の2倍量を添加する必要があり、環境負荷低減効果と強度の低下を招いていた。
【0040】
本発明では、難燃性を付与できるリグニンを樹脂原料とすることで、これら難燃補助剤の使用量を低減させることができる。添加量としては、樹脂組成物に対して0.5〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。添加量が50質量%より多いと環境負荷低減効果が小さく、また強度等の特性が低下するおそれがある。0.5質量%未満であると十分な難燃効果向上がみられない恐れがある。
【0041】
さらに、無機系難燃補助剤にモリブデン化合物を併用することで難燃効果をさらに向上させることができる。具体的には、三酸化モリブデン等の酸化物、二硫化モリブデン等の硫化物、ジモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム等のモリブデン酸塩が挙げられる。又モリブデン化合物で表面処理した金属水和物でもよい。これらは単独でも2種以上を併用してもよい。モリブデン系化合物を併用する場合、その添加量は無機系難燃補助剤に対して0.1〜10質量%とするのが好ましい。モリブデン化合物を併用した場合、難燃効果が向上するため難燃補助剤の使用量を減らすことができ、モリブデン化合物を含む無機系難燃補助剤の添加量を樹脂組成物に対して10質量%以下とすることができる。
【0042】
本発明の成形体は、リグニン、硬化剤、硬化促進剤を含む樹脂組成物、または、リグニン、硬化剤、硬化促進剤及び難燃補助剤を含む樹脂組成物を硬化することで得られる。成形時に加熱により流動性を持たせ、金型へ供給し、さらに加熱により硬化反応させることにより成形体を得る。樹脂組成物の流動性は選択する成形手法に合わせて調整する必要がある。粘度を調整する方法としては、粘度調整剤の添加又はあらかじめ加熱、混練により硬化を促進し分子量を増加させる方法がある。
また、本発明で成形をする際に用いる樹脂組成物は、圧縮、押出しまたは射出等の成形し易さの点から、平均粒子径0.01〜10mmの粒子、粉砕物、ペレット状のいずれかの形状又は形態であることが好ましい。また、粒子の平均粒子径としては、好ましくは0.5〜5mm、より好ましくは1〜3mmである。また、粉砕物としては、通常、樹脂組成物を半硬化状態にし、粉砕機で粉砕し得られる。
【0043】
樹脂組成物の構成の一つとしては、リグニン、硬化剤、硬化促進剤、難燃剤、難燃補助剤、及び植物繊維、炭素繊維、合成繊維、無機繊維のうち少なくとも1種の繊維を含む。用いる繊維の平均繊維長は、樹脂と混練した後の段階において、0.01〜10mmが好ましく、さらに0.05〜5mmが好ましく、0.1〜3mmであることが特に好ましい。樹脂組成物中の繊維の平均繊維長が0.01mm未満では機械的強度が低く、10mmを超えると成形しにくくなる。
また、樹脂組成物中の繊維の含有量は、5〜80質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましく、20〜50質量%が特に好ましい。
【0044】
植物繊維には、綿、竹、苧麻(ラミー)、亜麻(リネン)、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、黄麻(ジュート)、ケナフ、バナナ、ココナッツ、わら、砂糖黍、スギ、ヒノキ、トウヒ、松、モミ、カラマツの繊維が挙げられる。
【0045】
炭素繊維にはピッチ系とPAN(ポリアクリロニトリル)系があるが、強度、弾性率、熱伝導率の面ではPAN系の方が好ましく、軽量、耐薬品性、耐熱性、摺動性の特性からはピッチ系の方が好ましい。また、環境の面からはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)より取り出したリサイクル炭素繊維であることが好ましい。
【0046】
合成繊維には、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維が挙げられる。
【0047】
無機繊維には、ガラス繊維、ロックウール等の非晶質繊維とアルミナ繊維、酸化亜鉛等の多結晶繊維とウォラストナイトやチタン酸カリウム繊維等の単結晶繊維が挙げられる。
【0048】
上記成形体は、電子機器用筐体として好ましく用いられる。筐体とは、何らかの機能を有する動力部品、電子部品を中に収めた箱、フレームを含めた外装を指す。一般的には単にその機器、部品を保護し、裸で設置することが困難な部品を外的要因から保護する目的で使用されるが、動力部品、電子部品はその動作させている間は何らかの形で熱を持つことになる。したがって、万一の場合、筐体はこのような内的要因から外部への被害を最小限にするため、難燃性が求められる。
【0049】
電子機器用筐体(成形体)は、通常、樹脂組成物を、射出成形機、コンプレッション成形機等の樹脂用の成形機により、圧縮、押出し、または、射出され、製造(成形)されるが、製造(成形)条件等は特に限定されない。
なお、例えば、射出成形機により、樹脂組成物を、ノズル温度80℃〜200℃、射出圧力1MPa〜30MPa、型締圧力1MPa〜30MPa、金型温度50℃〜300℃、硬化時間1分〜100分の条件で射出、成形し、さらに50℃〜300℃で1時間〜8時間熱処理し、十分に硬化させる。
また、例えば、80℃〜250℃に加熱したコンプレッション成形機の金型へ、樹脂組成物を充填し、1MPa〜30MPa、1分〜100分間加圧し、硬化、成形し、さらに50℃〜300℃で1時間〜8時間、熱硬化処理し、十分に硬化させる。
【0050】
電子機器用筐体は、様々な電子機器に適用することができる。電子機器とは、電子機器用筐体と、電子機器用筐体に収められた動力部品又は電子部品とからなるものであり、例えば、デジタルカメラ、携帯電話、パソコン、音楽プレーヤー、プリンター、コピー機等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
(リグニンの抽出)
リグニン抽出原料としては、竹を使用した。適当な大きさにカットした竹材を水蒸気爆砕装置の3Lの耐圧容器に入れ、3.5MPaの水蒸気を圧入し、3分間保持した。その後バルブを急速に開放することで爆砕処理物を得た。洗浄液のpHが6以上になるまで得られた爆砕処理物を水により洗浄して水溶性成分を除去した。その後、真空乾燥機で残存水分を除去した。得られた乾燥体100gにアセトン1000mlを加え、3時間攪拌した後、ろ過により繊維物質を取り除いた。得られた濾液から抽出溶媒(アセトン)を除去し、リグニンを得た。得られたリグニンは常温(25℃)で茶褐色の粉末であった。
【0053】
(水酸基当量測定)
前記で得られたリグニンの水酸基当量は、無水酢酸−ピリジン法により水酸基価、電位差滴定法により酸価を測定し求めた(下記の水酸基当量及びエポキシ当量の単位は、グラム/当量であって以下g/eq.で表わす。)。
リグニンの水酸基当量は128g/eq.であった。リグニンのフェノール性水酸基とアルコール性水酸基のモル比(以下P/A比)を以下の方法で決定した。リグニン2gのアセチル化処理を行い、未反応のアセチル化剤を留去し、乾燥させたものを、重クロロホルムに溶解させ、1H−NMR(BRUKER社製、V400M、プロトン基本周波数400.13MHz)により測定した。アセチル基由来のプロトンの積分比(フェノール性水酸基に結合したアセチル基由来:2.2ppm〜3.0ppm、アルコール性水酸基に結合したアセチル基由来:1.5ppm〜2.2ppm)からモル比を決定したところ、P/A比は1.4/1.0であった。
【0054】
(有機溶媒可溶リグニンの溶媒溶解性)
溶媒溶解性としては、前記有機溶媒可溶リグニン1gを、有機溶媒10mlに加えて評価した。常温(25℃)で容易に溶解した場合は「○」、50℃〜70℃で溶解した場合は「△」、加熱しても溶解しなかった場合を「×」として、評価した。溶媒群1としてアセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、溶媒群2としてメタノール、エタノール、メチルエチルケトンとして溶解性を評価した結果、溶媒群1ではいずれも「○」、溶媒群2ではいずれも「△」の判定であった。
【0055】
(有機溶媒可溶リグニンの重量平均分子量測定)
示差屈折計を備えたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてリグニンの分子量を測定した。多分散度の小さいポリスチレンを標準試料として用い、移動相をテトラヒドロフランとして使用した。流量は1ml/分とした。カラムとして株式会社日立ハイテクノロジーズ製ゲルパックGL−A120SとGL−A170Sとを直列に接続して分子量測定を行った。重量平均分子量は2400であった。
【0056】
(硫黄原子の含有率測定)
前記リグニンの硫黄原子の含有率は、燃焼分解−イオンクロマトグラフ法により定量した。装置は株式会社三菱化学アナリテック製自動試料燃焼装置(AQF−100)及び日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフ(ICS−1600)を用いた。前記リグニン中の硫黄原子の含有率は0.04質量%であった。
【0057】
(樹脂組成物の作製)
前記リグニン100gに硬化剤としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂104g(YDF−8170C、新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量156g/eq.)、硬化促進剤としてキュアゾール2PZ−CN:1g(四国化成工業株式会社製、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール)を添加し、180℃の加熱ロールで5分混練した。得られた混練物を粉砕機により平均粒子径2mmの粒子(粉砕物)に粉砕し、樹脂組成物を得た。樹脂組成物中のリグニンの含有量は、49質量%であった。
【0058】
(成形体の作製)
180℃に加熱したコンプレッション成形機の金型へ、前記樹脂組成物を充填し、4MPa、10分加圧し、硬化させた。さらに200℃で4時間硬化処理し、十分に硬化させ、成形体を得た。
【0059】
(難燃性試験)
難燃性の評価としては、UL耐炎試験規格(UL−94)に準じて行った。試験片として前記成形体を、厚さ3mm、長さ130mm、幅13mmに切り出して使用した。この規格では、難燃性を有する組成物はその難燃性の大きな順にV−0、V−1、V−2、HBと格付けされる。試験片は、水平燃焼試験で燃焼速度40mm/分以下であり、HB相当の難燃性であった。結果を表1に示した。
【0060】
(環境負荷の程度)
樹脂組成物に対し、難燃補助剤の含有量が50質量%以下であるものを環境負荷低減効果あり「○」、添加量が50質量%を超えたものを環境負荷低減効果なし「×」とした。実施例1の成形体の環境負荷低減効果は「○」(難燃補助剤の含有量;0質量%)であった。結果を表1に示した。
【0061】
(実施例2)
樹脂組成物の作製の際に、前記リグニン100gに硬化剤としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂104g(YDF−8170C)、硬化促進剤としてキュアゾール2PZ−CN:1gを添加し、さらに難燃補助剤として水酸化アルミニウムを36.2g添加した以外は、実施例1と同様の方法で成形体を得た。実施例1と同様の方法で難燃性試験を行った結果、HB相当の難燃性があった。また、環境負荷低減効果は「○」であった。なお、樹脂組成物中のリグニンの含有量は、41質量%であり、難燃補助剤の含有量は、15質量%であった。
【0062】
(実施例3)
さらにモリブデン酸亜鉛を0.36g添加した以外は、実施例2と同様の方法で成形体を得た。実施例1と同様の方法で難燃性試験を行った結果、V−1相当の難燃性があった。また、環境負荷低減効果は「○」であった。なお、樹脂組成物中のリグニンの含有量は、41質量%であり、難燃補助剤の含有量は、15質量%であった。また、モリブデン酸亜鉛の含有量は、水酸化アルミニウムの含有量に対して1質量%に相当する。
【0063】
(実施例4)
樹脂組成物の作製の際に、前記リグニン100gに硬化剤としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂104g(YDF−8170C)、硬化促進剤としてキュアゾール2PZ−CN:1gを添加し、さらに難燃補助剤として水酸化アルミニウムを68g添加した以外は、実施例1と同様の方法で成形体を得た。実施例1と同様の方法で難燃性試験を行った結果、V−0相当の難燃性があった。また、環境負荷低減効果は「○」であった。なお、樹脂組成物中のリグニンの含有量は、37質量%であり、難燃補助剤の含有量は、25質量%であった。
【0064】
(実施例5)
樹脂組成物の作製の際に、さらに、植物繊維として竹繊維(平均繊維長が1mm)200g添加した以外は、実施例1と同様の方法で成形体を得た。実施例1と同様の方法で難燃性試験を行った結果、HB相当の難燃性があった。樹脂組成物中のリグニンの含有量は、25質量%であり、繊維の含有量は、49質量%であった。実施例5の成形体の環境負荷低減効果は「○」(難燃補助剤の含有量;0質量%)であった。
【0065】
(比較例1)
樹脂組成物作製の際に、実施例1記載のリグニンを配合せず、硬化剤としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂98g(YDF−8170C)、硬化促進剤としてキュアゾール2PZ−CN:2gのみを用いた以外は、実施例1と同様の方法で成形体を得た。実施例1と同様の方法で難燃性試験を行った結果、試験片は燃え尽きてしまい難燃性はなかった。また、環境負荷低減効果は「○」であった。
【0066】
(比較例2)
(リグニンスルホン酸塩の重量平均分子量測定)
実施例1記載のリグニンの代わりにリグニンスルホン酸塩(バニレックスN、日本製紙株式会社製)を用い樹脂組成物及び成形体の作製を試みた。元素分析によって測定された前記リグニンスルホン酸塩中の硫黄原子の含有率は2.5質量%であった。重量平均分子量を株式会社島津製作所製高速液体クロマトグラフィー(C−R4A)により測定し、標準ポリスチレンを用いた検量線により換算して求めた。移動相をDMF+LiBr(0.06mol/L)+リン酸(0.06mol/L)として使用し、カラムとして日立ハイテク株式会社製ゲルパックGL−S300MDT−5を2つ直列に接続して分子量測定を行った。その重量平均分子量は11000であった。
【0067】
(リグニンスルホン酸塩の溶媒溶解性)
実施例1と同様に有機溶媒への溶解性を評価した。溶媒としてアセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンを用いて溶解性を評価した結果、すべての溶媒に不溶であった。
【0068】
(樹脂組成物の作製)
実施例1記載のリグニンの代わりに前記リグニンスルホン酸塩を用いた以外は、実施例1と同様に成形体の作製を試みた。リグニンスルホン酸塩100gに硬化剤としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂104g(YDF−8170C)、硬化促進剤としてキュアゾール2PZ−CN:1gを添加し、180℃の加熱ロールで5分混練した。得られた半硬化物を粉砕機により平均粒子径2mmの粒子(粉砕物)に粉砕し、樹脂組成物を得た。その結果、リグニンスルホン酸とエポキシ樹脂が相分離し、均一な樹脂組成物が得られず、成形できなかった。
【0069】
(比較例3)
樹脂組成物の作製の際に、実施例1記載のリグニンを配合せず、硬化剤としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂98g(YDF−8170C)、硬化促進剤としてキュアゾール2PZ−CN:2gのみを用い、さらに難燃補助剤として水酸化アルミニウムを33g添加した以外は、実施例1と同様の方法で成形体を得た。実施例1と同様の方法で難燃性試験を行った結果、試験片は燃え尽きてしまい難燃性はなかった。また、環境負荷低減効果は「○」であった(難燃補助剤の含有量;25質量%)。
【0070】
(比較例4)
樹脂組成物の作製の際に、実施例1記載のリグニンを配合せず、硬化剤としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂98g(YDF−8170C)、硬化促進剤としてキュアゾール2PZ−CN:2gのみを用い、さらに難燃補助剤として水酸化アルミニウムを233.3g添加した以外は、実施例1と同様の方法で成形体を得た。実施例1と同様の方法で難燃性試験を行った結果、V−2相当の難燃性があった。また、環境負荷低減効果は「×」であった(難燃補助剤の含有量;70質量%)。
【0071】
(比較例5)
樹脂組成物の作製の際に、熱可塑性の樹脂としてポリ乳酸100g(浙江海正生物材料股粉有限公司製REVODE)を用い、さらに難燃補助剤として水酸化アルミニウムを33g添加した以外は、実施例1と同様の方法で成形体を得た。実施例1と同様の方法で難燃性試験を行った結果、試験片は燃え尽きてしまい難燃性はなかった。また、環境負荷低減効果は「○」であった(難燃補助剤の含有量;25質量%)。
【0072】
(比較例6)
樹脂組成物の作製の際に、熱可塑性の樹脂としてポリ乳酸100g(浙江海正生物材料股粉有限公司製REVODE)を用い、さらに難燃補助剤として水酸化アルミニウムを233.3g添加した以外は、実施例1と同様の方法で成形体を得た。実施例1と同様の方法で難燃性試験を行った結果、V−2相当の難燃性があった。また、環境負荷低減効果は「×」であった(難燃補助剤の含有量;70質量%)。
【0073】
表1に上記実施例及び比較例の配合比、環境負荷低減効果、難燃性を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例1及び繊維を含む実施例5は、比較例1と異なりリグニンを含有しているため、HB相当の難燃性があった。実施例2は、難燃補助剤を用いることで実施例1よりさらに難燃性が向上した。実施例3は、モリブデン酸亜鉛を添加することで、実施例2よりさらに難燃性が向上した。比較例2は、溶媒難溶性であり、また反応性の悪いリグニンスルホン酸塩を使用したため、成形ができなかった。実施例4は、比較例3と異なりリグニンを含有していたため、V−0相当の難燃性があった。比較例4は、V−2相当の難燃性を示したが、リグニンを含まないため難燃効果が小さく、環境負荷低減効果が低かった。比較例5は、リグニンを含まないため難燃効果が小さく、難燃性がなかった。比較例6は、V−2相当の難燃性を示したが、リグニンを含まないため難燃効果が小さく、環境負荷低減効果が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒可溶リグニン、硬化剤、硬化促進剤を含む樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、難燃補助剤を含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
有機溶媒可溶リグニンの重量平均分子量が、100〜5000である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
有機溶媒可溶リグニンの含有量が、20〜90質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
有機溶媒可溶リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得られたものである請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
有機溶媒可溶リグニンが、植物原料に水蒸気を圧入し、瞬時に圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得られたものである請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
硬化剤が、エポキシ樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、植物繊維、炭素繊維、合成繊維、無機繊維のうち少なくとも1種の繊維を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化してなる成形体。

【公開番号】特開2012−92282(P2012−92282A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1931(P2011−1931)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】