説明

樹脂部材の嵌合構造

【課題】本発明は、樹脂部材の嵌合構造において、低い挿入荷重でありながら、嵌合力を高めることを目的とする。
【解決手段】取付け対象物14の嵌合孔14Aに第1部材12の爪部16を挿入して嵌合させ、更に第2部材22の楔部30を爪部16に挿入して嵌合させることで、各々の挿入荷重を高めることなく、嵌合孔14Aに対する爪部16の嵌合力を高めることができ、第1部材12及び第2部材22を取付け対象物14に対して強力に嵌合させて取り付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材の嵌合構造に係り、特に低い挿入荷重でありながら嵌合力が高い樹脂部材の嵌合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂部品を、ねじを用いることなく互いに嵌合させて固定する嵌合構造としては、例えば特許文献1に開示されている樹脂部品の固定構造がある。これは、一方の部材にボス部を設けると共に、他方の部材に通孔及び嵌合部を設けたもので、ボス部を通孔に挿通し、嵌合部と嵌合させると、二部品が互いに固定されるように構成されている。
【特許文献1】実用新案登録第3068533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来例では、係止板が薄肉部の弾力によりボス部と嵌合するように構成されているので、製造誤差が大きかったり、該薄肉部が経時変化により劣化して弾力が弱まったり、高温下で樹脂がクリープ変形する等して、嵌合部とボス部との嵌合状態にがたつきが生じ、異音が発生するおそれがあった。
【0004】
また、樹脂部材の嵌合構造では、一般に、嵌合状態における保持力(嵌合力)を高めようとすると、部品同士を嵌合させるために必要な挿入荷重も大きくなってしまうという関係があるため、逆に挿入荷重を小さくすると嵌合力も小さくなってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、樹脂部材の嵌合構造において、低い挿入荷重であっても嵌合力を高められるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、取付け対象物に形成された嵌合孔に嵌合可能に構成された爪部を一体的に有する第1部材と、前記第1部材へ差込み可能に構成され、前記爪部と係合して該爪部と前記嵌合孔との間の嵌合力が強まる方向に該爪部を弾性変形させる楔部を一体的に有する第2部材とを有することを特徴としている。
【0007】
請求項1に記載の樹脂部材の嵌合構造では、第1部材の爪部及び第2部材の楔部により、該第1部材及び第2部材の嵌合と取付け対象物への取付け(固定)ができる。
【0008】
また、第1部材及び第2部材の各々の挿入荷重は小さいが、取付け対象物の嵌合孔に第1部材の爪部を嵌合させ、更に第2部材の楔部を爪部に嵌入させることで、嵌合孔に対する爪部の嵌合力を高めることができ、第1部材及び第2部材を取付け対象物に対して強力に嵌合させて取り付けることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の樹脂部材の嵌合構造において、前記爪部は、自然状態において所定の間隔をもって相対する一対の板状に形成され、前記楔部は、前記爪部との係合状態において該爪部を弾性的に拡開させ該爪部と前記嵌合孔との間の嵌合力を強めるように構成されていること、を特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の樹脂部材の嵌合構造では、嵌合孔に差し込んだだけで該嵌合孔と嵌合状態となっている爪部を、楔部により弾性的に拡開させて、爪部と嵌合孔との嵌合力を更に強めることができる。
【0011】
また、爪部及び楔部が係合状態になると、爪部が楔部の引抜きを阻むので、楔部が意図せずに爪部から離脱することはない。
【0012】
なお、部品の再利用等のために分解する必要が生じたときに、爪部を破壊することなく楔部を該爪部から離脱させることができるように、楔部には、例えば最大肉厚部から根本側に向かって厚さが漸減するテーパ部を設け、最大肉厚部が爪部を通過した位置で該爪部と楔部とを係合させることが好ましい。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の樹脂部材の嵌合構造において、前記第1部材及び前記第2部材には、互いの位置ずれを防止する係合部が夫々形成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の樹脂部材の嵌合構造では、係合部により爪部及び楔部における位置決めがなされるので、嵌合状態が安定しており、がたつきや異音の発生を更に有効に防止することができる。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の樹脂部材の嵌合構造において、前記第1部材及び前記第2部材の何れか一方又は両方には、前記第1部材及び前記第2部材を前記取付け対象物から取り外す際に前記楔部と前記爪部との係合状態を解除させ易くする取外し補助手段が設けられていることを特徴としている。
【0016】
取外し補助手段とは、例えばマイナスドライバー(図示せず)を差し込むための凹みであり、該マイナスドライバーを差し込んで回転させることにより、楔部を爪部から離脱させることができる。
【0017】
取外し補助手段の構成は、楔部を爪部から離脱させるために有用なものであればよく、例えば特定の操作を行った場合に、爪部が拡開して楔部との係合が解除されるようにしてもよい。
【0018】
請求項4に記載の樹脂部材の嵌合構造では、取外し補助手段を使用することで、第1部材及び第2部材を取付け対象物から容易に離脱させることができ、分解作業を容易にして、部品の再利用を行い易くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の樹脂部材の嵌合構造によれば、樹脂部材の嵌合構造において、低い挿入荷重であっても嵌合力を高めることができる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1から図4において、本実施の形態に係る樹脂部材の嵌合構造10は、第1部材12と、第2部材22とから構成されている。
【0021】
第1部材12には、平板部18へ一体的に連結された爪部16が、取付け対象物14に形成された嵌合孔14Aに嵌合可能に突出形成されている。
【0022】
平板部18は、取付け対象物14との嵌合時に該取付け対象物14に当接又は接近するようになっており、該平板部18に連続して爪部16の両側に凹部20及び立上り部24が一体的に形成されている。更に平板部18には、凹部20に続いて、突起状の係合部26を有する平面部28が連続している。
【0023】
第1部材12は、一般的な樹脂を用いて上記各部が一体的に成形されている。
【0024】
平板部18には、例えば四角形の開口部18Aが形成され、該開口部18Aの相対する二辺から連続して、爪部16が突出形成されている。
【0025】
図2に示すように、爪部16は、自然状態において所定の間隔をもって相対する一対の板状に形成されており、例えば平板部18から離れるに従って間隔が漸減するように構成されている。
【0026】
爪部16には、窓16Aが形成されている。これは爪部16の曲げ剛性を適度に低下させ、弾性変形し易くさせて、該爪部16自身を板ばねとして使用するためである。
【0027】
また、図3に示すように、一対の爪部16の一方又は両方には、爪部16が嵌合孔14Aと嵌合したときに該嵌合孔14Aと係合する突起部16Bが形成されている。
【0028】
突起部16Bが嵌合孔14Aと係合するとき、一対の爪部16は、互いの間隔が狭まる方向に弾性変形し、突起部16Bが嵌合孔14Aを乗り越えるようになっており、その弾性変形により生ずるばね力によって、突起部16Bが嵌合孔14Aと係合し、爪部16が嵌合孔14Aと嵌合するようになっている。
【0029】
立上り部24は、平板部18を挟んだ凹部20の反対側に、該平板部18の厚さ方向に立体的に形成された、例えば断面L字状の部分であって、リブ24A,24Bにより補強されている。
【0030】
第2部材22は、第1部材12へ差込み可能に構成されており、平板部32へ一体的に連結された楔部30が、第1部材12の爪部16へ差込み可能に突出形成されている。
【0031】
平板部32は、第1部材12との嵌合時に該第1部材12の平板部18の上に重なるようになっており、該平板部32に連続して、第1部材12の凹部20に入り込むように、例えば断面略V字形のばね部34が形成され、該ばね部34に続いて、第1部材の係合部26と係合するように第1部材12に向かって凹状の係合部36を有する平面部38が形成されている。
【0032】
第2部材22は、一般的な樹脂を用いて上記各部が一体的に成形されている。
【0033】
楔部30は、爪部16との係合状態において、爪部16を弾性的に拡開させ、該爪部16と嵌合孔14Aとの間の嵌合力を強める部分である。
【0034】
楔部30には、例えば最大肉厚部30Aから根本側に向かって厚さが漸減するテーパ部30Cが設けられ、該テーパ部30Cの根本側に連続して薄肉部30Bが形成されている。
【0035】
図1及び図2に示すように、楔部30における最大肉厚部30Aの先端側についても、厚さが漸減するようにテーパ状に形成されている。最大肉厚部30Aは、爪部16を弾性的に拡開させることで爪部16を通過できるように構成されている。
【0036】
係合部26,36は、第1部材12及び第2部材22が嵌合した状態において、互いに嵌り込んで第1部材12と第2部材22の位置ずれを防止するためのものである。
【0037】
第2部材22には、第1部材12及び第2部材22を取付け対象物14から取り外す際に楔部30と爪部16との係合状態を解除させ易くする取外し補助手段40が形成されている。
【0038】
取外し補助手段40は、平板部32の一部がコ字形に屈曲され、第2部材22が第1部材へ嵌合密着した状態において第2部材22との間に形成される隙間であり、例えばマイナスドライバーDの先端を差し込むことができるように形成されている。
【0039】
該マイナスドライバーDの先端を差し込んで、例えば矢印R方向に回転させることにより、楔部30を爪部16から強制的に離脱させることができるようになっている。
【0040】
なお、取外し補助手段40は、上記の構成に限られず、特定の操作を行った場合に楔部30との係合が解除されるように、例えば爪部16を互いに拡開させるような構成であってもよい。
【0041】
図5及び図6に示すように、本実施の形態に係る嵌合構造10は、例えば自動車のデフロスターノズル46を構成する前部パネル42及び後部パネル44に一体的に形成される。この場合、取付け対象物14は、例えば自動車のフレームに設けられたデフロスターノズル取付け部である。
(作用)
図5及び図6において、前部パネル42及び後部パネル44をまとめて取付け対象物14に取り付けると、前部パネル42及び後部パネル44が組み合わされてデフロスターノズル46となる。
【0042】
順を追って説明すると、まず後部パネル44に係る第1部材12の爪部16を取付け対象物14の嵌合孔14Aに差し込むと、一対の爪部16は嵌合孔14Aに押されて互いの距離が狭まる方向に弾性変形する。
【0043】
そのまま差し込んで行き、爪部16の突起部16Bが嵌合孔14Aを乗り越えると、弾性変形により生ずる爪部16のばね力によって、該突起部16Bが嵌合孔14Aと係合し、第1部材12が取付け対象物14に取り付けられた状態となる。
【0044】
次に、図3及び図4に示すように、前部パネル42に連結されている第2部材22の係合部36を後部パネル44に連結されている第1部材12の係合部26に合わせるようにして平面部28,38を重ねると、第1部材12と第2部材22(前部パネル42と後部パネル44)との位置決めがなされる。
【0045】
このとき、図3に示すように、第2部材22は、ばね部34において弾性変形しており、楔部30が爪部16と係合する前に、係合部26,36を係合させて位置決めを行うことができる。そのため組付け作業性を向上させることができる。
【0046】
ここで、楔部30を爪部16の間に矢印I方向に差し込んで行くと、楔部30が爪部16を弾性的に拡開させながら該爪部16の間に嵌入されて行き、最大肉厚部30Aが爪部16の先端部を通過したところで、爪部16がテーパ部30Cと係合した状態となり、第2部材22の平板部32が第1部材12の平板部18に当接する。
【0047】
爪部16は、楔部30により弾性的に拡開された状態に固定され、これによって爪部16の突起部16Bがより強固に嵌合孔14Aと嵌合した状態となる。楔部30の最大肉厚部30Aは、爪部16の先端部を通過しているので、楔部30が意図せずに爪部16から離脱することはない。
【0048】
前部パネル42と後部パネル44が取付け対象物14に対して取り付けられると、同時にデフロスターノズル46が組み立てられた状態となる。
【0049】
このように、第1部材12及び第2部材22を、爪部16及び楔部30により取付け対象物14に取り付けるので、第1部材12及び第2部材22を取付け対象物14に対して強力に嵌合させて取り付けることができる。
【0050】
第1部材12を嵌合孔14Aに挿入するための挿入荷重は、一対の板状の爪部16における突起部16Bが嵌合孔14Aを乗り越えるまで該爪部16を弾性変形させる程度の荷重で足り、また、第2部材22を第1部材12に挿入するための挿入荷重も、楔部30の最大肉厚部30Aが爪部16を弾性的に拡開させながら通過できる程度の荷重で足りるので、いずれも軽く抑えられている。
【0051】
各々の挿入荷重は低いが、取付け対象物14で拘束されていない爪部16部の先端側を楔部30で弾性的に拡開させるので、爪部16の突起部16Bと嵌合孔14Aとの間の嵌合力は、第1部材12のみが取付け対象物14に嵌合しているとき(爪部16のばね力のみに基づいて嵌合しているとき)よりも一層高まり、取付け状態が強固となる。取付け状態が強固であるので、がたつきや異音の発生がない。
【0052】
爪部16及び楔部30は、第1部材12及び第2部材22に夫々一体的に形成されているので、取付け用の嵌合部品が別途必要となることはなく、部品点数が少ないため、コストを低くすることができる。
【0053】
また、図4に示すように、係合部26,36により爪部16及び楔部30における位置決めがなされるので、互いに矢印X方向及び矢印Y方向にずれることがなく、取付け状態が安定しており、がたつきや異音の発生を更に有効に防止することができる。
【0054】
デフロスターノズル46を車輌から取り外す際には、取外し補助手段40にマイナスドライバーDの先端を差し込んで、該マイナスドライバーDを例えば矢印R方向に回転させる。
【0055】
楔部30にはテーパ部30Cが形成されているので、該楔部30の強制的な引抜きに伴って爪部16が弾性的に拡開し、最大肉厚部30Aが爪部16から離脱する。
【0056】
このように、取外し補助手段40を利用することで、爪部16を破壊することなく楔部30を該爪部16から強制的に離脱させることができるので、デフロスターノズル46の分解作業は容易であり、部品の再利用も行い易い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】樹脂部材の嵌合構造を示す分解斜視図である。
【図2】樹脂部材の嵌合構造が取付け対象物に取り付けられた状態を示す、図4における2−2矢視断面図である。
【図3】樹脂部材の嵌合構造が取付け対象物に取り付けられた状態を示す、図4における3−3矢視断面図である。
【図4】樹脂部材の嵌合構造が取付け対象物に取り付けられ状態を示す斜視図である。
【図5】デフロスターノズルを示す分解斜視図である。
【図6】デフロスターノズルを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
10 樹脂部材の嵌合構造
12 第1部材
14 取付け対象物
14A 嵌合孔
16 爪部
22 第2部材
26 係合部
30 楔部
36 係合部
40 取外し補助手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付け対象物に形成された嵌合孔に嵌合可能に構成された爪部を一体的に有する第1部材と、
前記第1部材へ差込み可能に構成され、前記爪部と係合して該爪部と前記嵌合孔との間の嵌合力が強まる方向に該爪部を弾性変形させる楔部を一体的に有する第2部材と、
を有することを特徴とする樹脂部材の嵌合構造。
【請求項2】
前記爪部は、自然状態において所定の間隔をもって相対する一対の板状に形成され、
前記楔部は、前記爪部との係合状態において該爪部を弾性的に拡開させ該爪部と前記嵌合孔との間の嵌合力を強めるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材の嵌合構造。
【請求項3】
前記第1部材及び前記第2部材には、互いの位置ずれを防止する係合部が夫々形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂部材の嵌合構造。
【請求項4】
前記第1部材及び前記第2部材の何れか一方又は両方には、前記第1部材及び前記第2部材を前記取付け対象物から取り外す際に前記楔部と前記爪部との係合状態を解除させ易くする取外し補助手段が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の樹脂部材の嵌合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−214479(P2006−214479A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26162(P2005−26162)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】