説明

機能性シラン化合物、コーティング液及びプラスチックレンズの製造方法

【課題】コート膜の密着性及び耐擦傷性を実現すると共に、反応の制御が容易である機能性シラン化合物を提供する。
【解決手段】鎖状分子の末端に加水分解可能な官能基を有するケイ素が形成され、鎖状分子の途中に1つ以上のウレア結合を有する機能性シラン化合物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性シラン化合物及び、この機能性シラン化合物を用いたコーティング液に係わる。また、本発明は、このコーティング液を使用したプラスチックレンズの製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズの表面には、種々のコーティングが施されている。
このようなコーティングとしては、例えば、耐擦傷性を向上させるハードコートが挙げられる。
【0003】
プラスチックレンズのコーティング層には、シランカップリング剤と無機微粒子ゾルが含まれている。
シランカップリング剤は、無機微粒子の界面や被塗布材の界面で化学結合をして仲立ちとなる。
また、シランカップリング剤は、無機微粒子の分散性も向上させる。
【0004】
ところで、プラスチックレンズは、人の顔面に装着されるものであり、第三者の目に触れるものである。
このため、プラスチックレンズに傷が付くことは好ましくない。
【0005】
また、眼鏡の着脱の頻度や、人の使用環境(例えば、湿度、温度、光環境)を考えると、プラスチックレンズは、比較的過酷な取り扱いを受ける。
従って、プラスチックレンズのコーティングは、耐擦傷性が高いこと、密着性に優れることが求められる。
さらに、プラスチックレンズの光学性能を考慮すると、その機能を発揮できる範囲で極めて薄いコーティングであることが求められる。
【0006】
そこで、例えば、複数種類のシラン化合物を調合して、耐衝撃性と密着性を高める技術が提案されている(特許文献1参照。)。
具体的には、アルコキシシランの加水分解生成物及び金属酸化物ゾルを含有するハードコート組成物において、アルコキシシランが、4官能シランと、グリシシジル基を有する3官能シランと、ウレイドアルキル基を有する3官能シランと、グリシジル基を有する2官能シラン又はテトラスルファンのどちらか一方とを含有している。即ち、4種類のシランを含有している構成である。
【0007】
また、プラスチックレンズ用コート膜以外でも、例えば、基板に樹脂を密着させるために、シランカップリング剤から成るプライマー層を形成することが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−138211号公報
【特許文献2】特開2003−320540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1に記載された構成のように、シランカップリング剤を複数種類混ぜ合わせると、反応の制御が難しくなる。
そのため、コート膜に不要な色味が生じてしまったり、他の要因でレンズに不具合が生じてしまったりする恐れがある。
【0010】
また、プラスチックレンズ用のコーティングに限らず、様々な用途のコート膜においても、コート膜が密着性及び耐擦傷性を共に有していることが求められる。
【0011】
上述した問題の解決のために、本発明においては、コート膜の密着性及び耐擦傷性を実現すると共に、反応の制御が容易である機能性シラン化合物及び、この機能性シラン化合物を用いたコーティング液を提供するものである。
また、本発明においては、このようなコーティング液を用いて作製したプラスチックレンズの製造方法も提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、シランカップリング剤の密着効果を向上させるバインダーの役割を果たす化合物について、検討した。
そして、発明者らは、シランカップリング剤に添加することにより密着性を著しく向上する機能性シラン化合物を見いだし、本発明に至った。
【0013】
本発明の機能性シラン化合物は、鎖状分子の末端に加水分解可能な官能基を有するケイ素が形成され、鎖状分子の途中に1つ以上のウレア結合を有する。
なお、鎖状分子の途中が分岐していてもよく、各種官能基を有していてもよい。
【0014】
そして、加水分解可能な官能基としては、アルコキシ基やハロゲン等が挙げられる。
より好ましい、加水分解可能な官能基は、アルコキシ基である。アルコキシ基は、例えば、メトキシ基やエトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。
【0015】
本発明のコーティング液は、シランカップリング剤を主体とするコーティング液であり、前記本発明の機能性シラン化合物を含む。
そして、本発明のコーティング液を実際に使用する際には、機能性シラン化合物とシランカップリング剤とを、溶媒に分散させて、液状(コート液)とする。
本発明のコーティング液には、用途を考慮して、必要に応じて、無機微粒子を含有させる。
【0016】
本発明のコーティング液は、例えば、プラスチックレンズの湿式成膜用のコーティング液として用いて好適である。プラスチックレンズ上に形成する湿式成膜とは、例えば、ハードコート層、プライマー層、フォトクロミック層、及び、有機反射防止膜層が挙げられる。
【0017】
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、前記本発明のコーティング液を調合する工程と、レンズ基板にコーティング液を塗布して塗膜を形成する工程と、この塗膜を硬化させて、レンズ基板上にコート層を形成する工程とを含む。
【0018】
上述の本発明の機能性シラン化合物によれば、鎖状分子の末端に加水分解反応可能なケイ素(シラン基)を有することにより、有機化合物と無機化合物の親和性を向上させることができる。
【0019】
さらに、上述の本発明の機能性シラン化合物によれば、鎖状分子の途中に1つ以上のウレア結合を有するので、ウレア結合のカルボニル基が、僅かな極性を有する官能基とでも原子間力結合を実現する。
これにより、例えば、対象物(機能性シラン化合物を使用する対象である、他の物質)の官能基に水素が露出している場合には、ウレア結合の酸素と、対象物の水素とが、水素結合をする。また、例えば、対象物の官能基に電気陰性度の強いハロゲンや酸素や窒素が露出していれば、対象物のそれらの元素と、ウレア結合の窒素と結合している水素とが、水素結合をする。
そして、カルボニル基は、酸素と結合している炭素の残りの結合手がいずれも窒素と結合しており、炭素を中心とした電子雲の形状が崩れにくい。
これにより、対象物に対して安定した反応性を維持することができる。
【0020】
上述の本発明のコーティング液によれば、コーティング液に含まれる機能性シラン化合物が、鎖状分子の末端に加水分解反応可能なケイ素(例えば、シラノール基、アルコキシ基と結合しているケイ素、又は、ハロゲン基と結合しているケイ素)を有することで、有機化合物と無機化合物の親和性を向上させることができる。
これにより、コーティング液に、例えば、顔料や酸化物ゾル等の無機物質を分散させる場合において、それら無機物質とコーティング液との親和性を向上させることができ、無機物質のコーティング液への分散性を向上させることができる。
【0021】
被コート材が無機物質の場合、コーティング液に含まれる機能性シラン化合物が、被コート剤の表面と加水分解による化学結合を生じ、接着力を向上させる。
その結果、コーティング液と被コート材の密着性が向上する。
【0022】
前述したように、ウレア結合のカルボニル基は、僅かな極性を有する化合物であれば結合可能である。
このような結合可能な化合物が有する構造としては、具体的には、ウレタン結合、チオウレタン結合、エピスルフィド結合、エーテル結合、等が挙げられる。
チオウレタン結合やエピスルフィド結合が含まれるプラスチックは、高屈折率プラスチックレンズ基板に適用されている。例えば、前記レンズ基板に前記コーティング液を塗工すると、レンズ基板上に密着性に優れた被膜を形成することができる。
【0023】
ここで、チオウレタン結合とウレア結合とが水素結合した状態を、以下に例示する。
【化1】

【0024】
また、エーテル結合とウレア結合とが水素結合した状態を、以下に例示する。
【化2】

【0025】
このように、エーテル結合の酸素原子の周りの−の電荷の部分と、ウレア結合の窒素原子に結合した水素原子とが、水素結合する。
【0026】
上述の本発明のプラスチックレンズの製造方法によれば、本発明のコーティング液を調合して、このコーティング液をレンズ基板に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を硬化させてレンズ基板上にコート層を形成する。これにより、レンズ基板上に密着性良く、コート層を形成することができる。また、コーティング液中の無機物質の分散性を向上させることができるので、硬化して得られるコート層中においても無機物質の分散性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
上述の本発明の機能性シラン化合物によれば、有機化合物と無機化合物の親和性を向上させることができる。そして、ウレア結合のカルボニル基が、僅かな極性を有する官能基とでも原子間力結合を実現する。これにより、対象物に対する接着力を向上することが可能になる。
また、対象物に対して安定した反応性を維持することができるので、反応の制御が容易である。
【0028】
上述の本発明のコーティング液によれば、無機物質のコーティング液への分散性を向上させることができるので、コート液に無機物質を分散させても、その無機物が脆点になりにくい、強硬な膜をコーティングすることができる。これにより、耐擦傷性や耐衝撃性を有する強固なコート膜を形成することが可能になる。
また、コート膜自体にウレア結合による極性を与えることから、コート膜の下層及び当コート膜のさらに上層に被膜を形成する際に、その上下層に含まれる物質がウレア結合と水素結合を実現できる極性を備えていれば、上下層との密着も確実に得ることができる。
従って、本発明のコーティング液によれば、コート膜の密着性及び耐擦傷性を実現することが可能になる。
【0029】
上述の本発明のプラスチックレンズの製造方法によれば、レンズ基板上に密着性良く、コート層を形成することができ、下層のレンズ基板や他の被膜、上層の他の被膜との密着性の良好なコート層を形成することができる。
また、コート層中においても無機物質の分散性を向上させることができるので、耐擦傷性や耐衝撃性を有する強固なコート層を形成することが可能になる。
従って、本発明のプラスチックレンズの製造方法によれば、密着性及び耐擦傷性に優れたコート層を有するプラスチックレンズを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】レンズのハードコート層にクロスカットを形成した箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の機能性シラン化合物は、鎖状分子の末端に加水分解可能な官能基を有するケイ素が形成され、鎖状分子の途中に1つ以上のウレア結合を有するものである。
本発明のコーティング液は、シランカップリング剤を主体とするコーティング液であり、前記本発明の機能性シラン化合物を含むものである。
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、前記本発明のコーティング液を調合する工程と、レンズ基板にコーティング液を塗布して塗膜を形成する工程と、この塗膜を硬化させて、レンズ基板上にハードコート層を形成する工程とを含むものである。
【0032】
上述の本発明の機能性シラン化合物において、より好ましくは、機能性シラン化合物が鎖状分子の末端の加水分解可能なシラン及び鎖状分子の途中のウレア結合の間の部分を、シングルボンドの炭化水素のみで構成する。
他の官能基が含まれていると、化合物内で電気的な偏りが生じてしまうことがあり、ウレア結合による効果を弱めることがある。
また、他の官能基や芳香族環が含まれていると、化合物間での相互作用が強くなり、化合物同士で凝集する現象が生じることがある。
【0033】
また、上述の本発明の機能性シラン化合物において、2つ以上のウレア結合を含む場合には、2つのウレア結合の間が、炭素数1〜10の炭化水素又はエーテルである構成とすることが好ましい。
【0034】
本発明の機能性シラン化合物としては、多数の化合物が存在するが、そのうちの一部を以下に例示する。
【0035】
【化3】

1,3−bis−(3−(triethoxysilyl)propyl)urea
1,3−ビス−(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ウレア
両端の官能基がエトキシ基で、鎖状分子の中央にウレア結合を有している。
【0036】
【化4】

1,3−bis−(3−(trimethoxysilyl)propyl)urea
1,3−ビス−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)ウレア
両端の官能基がメトキシ基で、鎖状分子の中央にウレア結合を有している。
【0037】
【化5】

1−(3−(triethoxysilyl)propyl)−3−(3−(trimethoxysilyl)propyl)urea
1−(3−(トリエトキシシリル)プロピル)−3−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)ウレア
一端の官能基がメトキシ基で、他端の官能基がエトキシ基で、鎖状分子の中央にウレア結合を有している。
【0038】
【化6】

1−methyl−3−(3−(triethoxysilyl)propyl)−1−(3−(trimethoxysilyl)propyl)urea
1−メチル−3−(3−(トリエトキシシリル)プロピル)−1−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)ウレア
一端の官能基がメトキシ基で、他端の官能基がエトキシ基で、鎖状分子の中央にウレア結合を有し、ウレア結合の一方の窒素原子にメチル基が結合している。
【0039】
【化7】

1,1´−(ethane−1,2−diyl)bis(3−(3−(triethoxysilyl)propyl)urea)
1,1´−(エタン−1,2−ジイル)ビス(3−(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ウレア)
両端の官能基がエトキシ基で、鎖状分子の途中に2つのウレア結合を有している。
【0040】
【化8】

1,1´−(hexane−1,6−diyl)bis(3−(3−(triethoxysilyl)propyl)urea)
1,1´−(ヘキサン−1,6−ジイル)ビス(3−(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ウレア)
両端の官能基がエトキシ基で、鎖状分子の途中に2つのウレア結合を有している。1つ前の例よりも、2つのウレア結合の間の炭化水素が長くなっている。
【0041】
【化9】

N1,N4−bis(3−(triethoxysilyl)propyl)piperazine−1,4−dicarboxamide
N1,N4−ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ピペラジン−1,4−ジカルボキシアミド
【0042】
【化10】

N1,N4−bis(3−(trimethoxysilyl)propyl)piperazine−1,4−dicarboxamide
N1,N4−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)ピペラジン−1,4−ジカルボキシアミド
【0043】
【化11】

N1−(3−(triethoxysilyl)propyl)−N4−(3−(trimethoxysilyl)propyl)piperazine−1,4−dicarboxamide
N1−(3−(トリエトキシシリル)プロピル)−N4−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)ピペラジン−1,4−ジカルボキシアミド
これら3つの例は、2つのウレア結合の間が環状構造となっている。
【0044】
ここまでの例は、いずれも鎖状分子が単純な1本の鎖であったが、鎖状分子が分岐している例を、以下に示す。
【0045】
【化12】

1,1,3−tris(3−(triethoxysilyl)propyl)urea
1,1,3−トリス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ウレア
ウレア結合の一方の窒素原子から、2本の鎖状分子が分岐している。
【0046】
【化13】

2つのウレア結合のうちの一方のウレア結合の窒素原子に、他の鎖状分子が結合している。
【0047】
【化14】

1,1´−(hexane−1,6−diyl)bis(3,3−bis(3−(triethoxysilyl)propyl)urea)
1,1´−(ヘキサン−1,6−ジイル)ビス(3,3−ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ウレア)
2つのウレア結合の窒素原子から、それぞれ2本の鎖状分子が分岐している。
【0048】
【化15】

3つのウレア結合を有し、左と中央のウレア結合で鎖状分子が分岐している。
【0049】
上述の各例のいずれの化合物によっても、本発明の機能性シラン化合物の作用効果が得られる。
もちろん、本発明の機能性シラン化合物は、上述の各例に限らず、その他の構造も考えられる。
【0050】
<機能性シラン化合物と混合可能なシランカップリング剤の例>
本発明の機能性シラン化合物に混合して、コーティング液を調整できるシランカップリング剤は、特に限定されない。
具体的には、例えば、下記一般式(I)で表される構造を有する有機珪素化合物を使用することができる。
【0051】
Si(OR4−n (I)
:炭素数1〜20の炭化水素基で、分岐の有無、官能基の有無は問わない。Rが複数ある場合、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。
:加水分解可能な官能基であれば良く、特に限定されない。例えば、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数2〜10のアシル基、等が挙げられる。複数のORがある場合、Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。
n:0、1または2を示す。
【0052】
前記一般式(I)で表される化合物の例としては、メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、イソプロピルシリケート、n−ブチルシリケート、sec−ブチルシリケート、tert−ブチルシリケート、テトラアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0053】
<コーティング液に混入可能な無機微粒子の例>
コーティング液に含まれるゾルを構成する無機微粒子の種類は、特に限定されない。
酸化物、窒化物等の各種無機微粒子を使用することができる。
【0054】
なお、眼鏡用レンズのハードコートに適用する場合には、レンズ基板の屈折率とハードコート層の屈折率とを、近くする必要がある。
高屈折率の酸化物からなるゾルを選択すれば、高屈折率のハードコート層が形成される。また、低屈折率の酸化物からなるゾルを選択すれば、低屈折率のハードコート層が形成される。
【0055】
<酸化物の例>
無機微粒子のうち、酸化物の例としては、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタニウム(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)、酸化ベリリウム(BeO)又は酸化アンチモン(Sb)等が挙げられる。
そして、これらの酸化物の1種を単独使用する、又は、2種以上を併用することができる。
【0056】
<被塗布材料>
本発明の機能性シラン化合物は、シランカップリング剤を用いている各種塗料、接着剤等に適用可能である。
被塗布材の表面に非共有電子対を有する酸素や窒素等が存在しており、被塗布材料の表面と、本発明の機能性シランのウレア結合部分とが水素結合可能であれば、本発明の効果を引き出すことができる。
好適な被塗布材料としては、具体的には、金属(具体的には、表面に酸化被膜(不動態)を形成している金属材料)表面、各種ガラス基板、セラミックス基板、各種プラスチック基板、等が挙げられる。
【0057】
本発明のコーティング液は、特に、コート膜を形成する際に、曇りや余分な着色を生じないので、透明な接着剤や塗料に用いて好適である。
【0058】
<プラスチックレンズ用ハードコート調整液に使用する場合の適合基材の例>
本発明のコーティング液を、プラスチックレンズ用ハードコート調整液に使用する場合において、適合可能なレンズ基材に関しては、特に限定がない。
具体的には、メタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリスルフィド結合を有すハロゲン共重合体、等が挙げられる。
【0059】
<プラスチックレンズの製造方法>
本発明のコーティング液をハードコート調整液に使用してプラスチックレンズを製造する場合には、例えば、以下のようにして、プラスチックレンズを製造することができる。
まず、プラスチックレンズの基材である、プラスチックを用意する。
また、本発明のコーティング液として、本発明の機能性シラン化合物と、シランカップリング剤と、酸化物微粒子とを含有する、コーティング液を調整する。
次に、基材のプラスチックの上に、調整したコーティング液を塗布した後に、熱硬化させて、ハードコート層を形成する。
ハードコート層の上に、1層以上の反射防止層を形成する。具体的には、反射防止層用のコーティング液を作製して、コーティング液を塗布した後に、熱硬化させて、反射防止層を形成する。
さらに、反射防止層の上に、必要に応じて、撥水層を形成する。具体的には、撥水層用のコーティング液を作製して、コーティング液を塗布した後に、熱硬化させて、撥水層を形成する。
【0060】
なお、従来から、プラスチックレンズにおいて、密着性を向上させる目的で基材とハードコート層との間に、プライマー層を形成しているものがある。
本発明のコーティング液をハードコート調整液に使用してプラスチックレンズを製造することにより、機能性シラン化合物の作用により、基材とハードコート層との密着性を向上することができる。本発明をハードコーティング液に適用すると、基板との密着を目的としたプライマー層を設けなくても、充分な密着性を確保することが可能になる。
【0061】
続いて、本発明の機能性シラン化合物のうち、代表的なものについて、製造方法を詳細に説明する。
【0062】
<化合物1>
化合物1の名前は、B−TESU:1,3−bis−(3−(triethoxysilyl)propyl)urea、即ち、1,3−ビス−(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ウレアである。
この化合物1の構造式は、次の通りである。
【0063】
【化16】

【0064】
化合物1は、下記の一般式に示す構造を有する機能性シラン化合物の一例である。
【0065】
【化17】

式中、R,Rは、直鎖の炭化水素である。また、式中、a1〜a3の官能基の少なくとも1つ、及び、b1〜b3の官能基の少なくとも1つは、加水分解可能な官能基である。
【0066】
この化合物1(B−TESU)の合成方法の一例を、以下に説明する。
原料1:γ−APS(γ−Aminopropyltriethoxysilane)
和名:γ−アミノプロピルトリエトキシシラン
原料2:γ−IPS(γ−Isocyanatopropyltriethoxysilane)
和名:γ−イソシアネートプロピルエトキシシラン
原料1であるγ−APSと、原料2であるγ−IPSとを、反応させることにより、B−TESUを製造することができる。
【0067】
なお、急激な反応による弊害(例えば反応熱による発熱)を抑制するために、両原料に対して安定な性質を有する溶媒を適宜選択し、溶媒が存在する反応系で行ってもよい。このような溶媒としては、例えば、PGM(ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル)、DAA(ダイアセトンアルコール)、等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0068】
上述したB−TESUの合成方法に関する反応式を、以下に示す。
【0069】
【化18】

【0070】
なお、合成によって得られるB−TESUの収率を向上させるために、各種触媒を入れてもよい。
また、必要に応じて、B−TESUの純度を高純度にするための精製作業を行い、分取することもできる。
【0071】
<化合物2>
次に、2つのウレア結合を有し、1つの枝分かれを有する機能性シラン化合物である化合物2を例示する。
この化合物2の構造式は、次の通りである。
【0072】
【化19】

【0073】
化合物2は、下記一般式に示す構造を有する機能性シラン化合物の一例である。
【0074】
【化20】

式中、R,R,R,Rは直鎖の炭化水素である。また、式中、c1〜c3の官能基の少なくとも1つ、d1〜d3の官能基の少なくとも1つ、及び、e1〜e3の官能基の少なくとも1つは、加水分解可能な官能基である。
【0075】
この化合物2の合成方法の一例を、以下に説明する。
原料1:β−AEAPS(β−Aminoethyl aminopropyltrimethoxysilane)
和名:β−アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン
原料2:γ−IPS(γ−Isocyanatopropyltriethoxysilane)
和名:γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
原料1であるβ−AEAPSと、原料2であるγ−IPSとを、1:2の割合で混合することにより、化合物2を製造することができる。
【0076】
上述した化合物2の合成方法に関する反応式を、以下に示す。
【0077】
【化21】

【0078】
<化合物3>
次に、4つのウレア結合を有し、2つの枝分かれを有する機能性シラン化合物である化合物3を例示する。
化合物3の構造式は、次の通りである。
【0079】
【化22】

【0080】
化合物3は、下記一般式に示す構造を有する機能性シラン化合物の一例である。
【0081】
【化23】

式中、R7,R8,R9,R10,R11は、直鎖の炭化水素である。また、式中、f1〜f3の官能基の少なくとも1つ、g1〜g3の官能基の少なくとも1つ、h1〜h3の官能基の少なくとも1つ、i1〜i3の官能基の少なくとも1つは、加水分解可能な官能基である。
【0082】
この化合物3の合成方法の一例を、以下に説明する。
原料1:TMS−DETA((3−Trimethoxysilylpropyl)diethylenetriamine)
和名:(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン
原料2:γ−IPS(γ−Isocyanatopropyltriethoxysilane)
和名:γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
原料1であるTMS−DETAと、原料2であるγ−IPSとを、1:3の割合で混合することにより、化合物3を製造することができる。
【0083】
上述した化合物3の合成方法に関する反応式を、以下に示す。
【0084】
【化24】

【0085】
(実施例)
実際に、プラスチックレンズ用ハードコート液を作製して、ハードコート層を成膜し、密着性及び膜硬度について評価した。
【0086】
<実施例1:コート液1>
化合物1(B−TESU)が含まれているプラスチックレンズ用ハードコート液を、以下の手順で調整した。
まず、第1の液として、B−TESU含有液を調整した。
材料として、DAA(ダイアセトンアルコール)、PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、γ−APS、γ−IPSを使用して、下記表1の配合で調合して、第1の液を得た。
【0087】
【表1】

【0088】
次に、作製した第1の液を使用して、シラン化合物のシランを予め加水分解した。加水分解の手順は、以下の通りとした。
(1)第1の液と、γ−GPSとをよく混合する。
(2)次に、0.01M塩酸液を混ぜ加水分解を行う。加水分解することにより、アルコキシシランの末端はシラノールになる。
このようにして、第2の液を得た。
それぞれの使用量は、下記表2の通りとした。全シラン化合物中で、γ−GPSの割合が90wt%となる。
【0089】
【表2】

【0090】
次に、作製した第2の液を使用して、ハードコート液を調整した。調整の手順は、以下の通りとした。
(1)第2の液と、ゾル液と、PGMとを混合する。ゾル液は、ジルコニアが主体の酸化物微粒子のゾルを含み、酸化物微粒子:分散液=40:60で混合したものである。
それぞれの使用量は、下記表3の通りとした。シラン化合物とゾルとの重量比(質量比)は、およそ1:1となる。
【0091】
【表3】

【0092】
(2)得られた混合液に、レベリング剤、硬化触媒、溶媒等を適宜添加し、総重量を500gに調整した。
このようにして、実施例1のハードコート液(コート液1)を得た。
【0093】
<実施例2:コート液2>
化合物2が含まれているプラスチックレンズ用ハードコート液を、以下の手順で調整した。
まず、第1の液として、化合物2含有液を調整した。
材料として、DAA、PGM、β−AEAPS、γ−IPSを使用して、下記表4の配合で調合して、第1の液を得た。
【0094】
【表4】

【0095】
次に、作製した第1の液を使用して、実施例1と同様にして、シラン化合物のシランを予め加水分解して、第2の液を得た。
次に、作製した第2の液を使用して、実施例1と同様にして、ハードコート液を調整した。
このようにして、実施例2のハードコート液(コート液2)を得た。
【0096】
<実施例3:コート液3>
化合物3が含まれているプラスチックレンズ用ハードコート液を、以下の手順で調整した。
まず、第1の液として、化合物3含有液を調整した。
材料として、DAA、PGM、TMS−DETA、γ−IPSを使用して、下記表5の配合で調合して、第1の液を得た。
【0097】
【表5】

【0098】
次に、作製した第1の液を使用して、実施例1と同様にして、シラン化合物のシランを予め加水分解して、第2の液を得た。
次に、作製した第2の液を使用して、実施例1と同様にして、ハードコート液を調整した。
このようにして、実施例3のハードコート液(コート液3)を得た。
【0099】
<比較例1:コート液4>
比較例1として、γ―GPS以外のシラン化合物を含まない、プラスチックレンズ用ハードコート液を、以下の手順で調整した。
まず、材料として、DAA、PGMを使用して、下記表6の配合で調合して、第1の液を得た。
【0100】
【表6】

【0101】
次に、作製した第1の液を使用して、配合量を下記表7の通りに変更した他は、実施例1と同様にして、シラン化合物のシランを予め加水分解して、第2の液を得た。
【0102】
【表7】

【0103】
次に、作製した第2の液を使用して、実施例1と同様にして、ハードコート液を調整した。
このようにして、比較例1のハードコート液(コート液4)を得た。
【0104】
<比較例2:コート液5>
比較例2として、Si−O−Xがない末端を有しておりウレア結合を有しているシラン化合物(化合物A)を含む、プラスチックレンズ用ハードコート液を、以下の手順で調整した。
まず、材料として、DAA、PGM、BuA(n−ブチルアミン)、γ−IPSを使用して、下記表8の配合で調合して、第1の液を得た。
【0105】
【表8】

【0106】
次に、作製した第1の液を使用して、配合量を下記表9の通りに変更した他は、実施例1と同様にして、シラン化合物のシランを予め加水分解して、第2の液を得た。
【0107】
【表9】

【0108】
次に、作製した第2の液を使用して、実施例1と同様にして、ハードコート液を調整した。
このようにして、化合物Aを含む、比較例2のハードコート液(コート液5)を得た。
化合物Aは、下記の化学構造を有する化合物であり、名称は、1−(3−(triethoxysilyl)propyl)−3−butylurea、即ち、1−(3−(トリエトキシシリル)プロピル)−3−ブチルウレアである。
【0109】
【化25】

【0110】
<比較例3:コート液6>
比較例3として、一つの末端にSi−O−Xがなく、ウレア結合もないシラン化合物(化合物B)を含む、プラスチックレンズ用ハードコート液を、以下の手順で調整した。
まず、材料として、DAA、PGM、IPA(イソプロピルアルコール)、γ−IPSを使用して、下記表10の配合で調合して、第1の液を得た。
【0111】
【表10】

【0112】
次に、作製した第1の液を使用して、比較例2(表9参照)と同様にして、シラン化合物のシランを予め加水分解して、第2の液を得た。
次に、作製した第2の液を使用して、実施例1と同様にして、ハードコート液を調整した。
このようにして、化合物Bを含む、比較例3のハードコート液(コート液6)を得た。
化合物Bは、下記の化学構造を有する化合物であり、名称は、isopropyl−3−(triethoxysilyl)propylcarbamate、即ち、イソプロピル−3−(トリエトキシシリル)プロピルカルバメートである。
【0113】
【化26】

【0114】
<比較例4:コート液7>
比較例4として、全ての末端にSi−O−Xがあるが、ウレア結合がないシラン化合物(化合物C)を含む、プラスチックレンズ用ハードコート液を、以下の手順で調整した。
まず、材料として、DAA、PGM、EG(エチレングリコール)、γ−IPSを使用して、下記表11の配合で調合して、第1の液を得た。
【0115】
【表11】

【0116】
次に、作製した第1の液を使用して、比較例2(表9参照)と同様にして、シラン化合物のシランを予め加水分解して、第2の液を得た。
次に、作製した第2の液を使用して、実施例1と同様にして、ハードコート液を調整した。
このようにして、化合物Cを含む、比較例4のハードコート液(コート液7)を得た。
化合物Cは、下記の化学構造を有する化合物であり、名称は、ethane−1,2−diyl bis(3−(triethoxysilyl)propylcarbamate)、即ち、エタン−1,2−ジイル ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピルカルバメート)である。
【0117】
【化27】

【0118】
<比較例5:コート液8>
比較例5として、全ての末端にSi−O−Xがあるが、ウレア結合がないシラン化合物(化合物D)を含む、プラスチックレンズ用ハードコート液を、以下の手順で調整した。
まず、材料として、DAA、PGM(ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル)、BMMD(ビスメルカプトメチルジチアン)、γ−IPSを使用して、下記表12の配合で調合して、第1の液を得た。
【0119】
【表12】

【0120】
次に、作製した第1の液を使用して、比較例2(表9参照)と同様にして、シラン化合物のシランを予め加水分解して、第2の液を得た。
次に、作製した第2の液を使用して、実施例1と同様にして、ハードコート液を調整した。
このようにして、化合物Dを含む、比較例5のハードコート液(コート液8)を得た。
化合物Dは、下記の化学構造を有する化合物であり、名称は、S,S‘−1,4−dithiane−2,5−diyl bis(3−(triethoxysilyl)propylcarbamothioate)、即ち、S,S‘−1,4−ジチアン−2,5−ジイル ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピルカルバモチオエート)である。
【0121】
【化28】

【0122】
<ハードコート成膜試験>
5種の異なる材料からなるプラスチックレンズ基板に、それぞれ、コート液1〜コート液8を用いてハードコート層を成膜した。
【0123】
プラスチックレンズ基板の材料は、下記の5種類とした。
CR39:アリルジグリコールカーボネート系樹脂
PNX:ウレタン系樹脂(TRIVEX)
EYAS(HOYA社製):チオウレタン系樹脂(屈折率1.6)
EYNOA(HOYA社製):チオウレタン系樹脂(屈折率1.67)
EYRY(HOYA社製):エピスルフィド系樹脂(屈折率1.70)
【0124】
ハードコート層の成膜方法は、以下の通りとした。
各プラスチックレンズ基板を、ディッピング法にて各コート液に30秒間浸漬した。
その後、各プラスチックレンズ基板を、それぞれのコート液から、30cm/分の速度で引き上げた。
さらに、110℃・60分間の条件にて硬化させて、各プラスチックレンズ基板に、ハードコート層を成膜した。
【0125】
得られたそれぞれのハードコート層について、評価を行った。評価項目は、(1)密着性と(2)膜硬度である。
【0126】
(1)密着性の評価
ハードコート層の硬化膜に1.5mm間隔で100目のクロスカットを行い、このクロスカットした箇所に、粘着テープ(セロファンテープ;ニチバン(株)製品)を強く貼り付けて、その後、粘着テープを急速に剥がして、硬化膜の剥離の有無を調べた。
測定箇所は、図1に示すように、レンズの上部、中央部、下部の3箇所として、レンズの凹面及び凸面(即ち、表裏両面)について、それぞれ3箇所ずつ測定した。
【0127】
(2) 膜硬度の評価
スチールウールで表面を摩擦し、傷のつきやすさを判定した
スチールウールとしては、商品名ボンスター(#1000)(日本スチールウール(株)製品)を使用して、以下の条件で評価試験を行った。
付加荷重:2000g
摩擦回数:往復20回
【0128】
そして、膜硬度の評価基準は、以下の通りとした。
5:傷が5本以内
4:傷が10〜20本
3:傷が30〜100本
2:傷が100本以上
1:ハードコートが残っていない
なお、5〜10本の傷がある場合には、4.5と評価した。
【0129】
評価の結果を、表13〜表20に示す。実施例1のハードコート液の結果を表13に示し、実施例2のハードコート液の結果を表14に示し、実施例3のハードコート液の結果を表15に示し、比較例1のハードコート液の結果を表16に示し、比較例2のハードコート液の結果を表17に示し、比較例3のハードコート液の結果を表18に示し、比較例4のハードコート液の結果を表19に示し、比較例5のハードコート液の結果を表20に示す。
【0130】
【表13】

【0131】
【表14】

【0132】
【表15】

【0133】
【表16】

【0134】
【表17】

【0135】
【表18】

【0136】
【表19】

【0137】
【表20】

【0138】
表13〜表15に示すように、実施例1〜実施例3のコート液を使用した場合には、いずれも、5種類の基板に対して良好な密着性を有しており、かつ充分な膜硬度が得られていることがわかる。
【0139】
表16に示すように、比較例1のコート液を使用した場合には、CR−39、PNX、EYASに対しては良好な密着性を示したが、EYNOA及びEYRYに対しては密着性が得られなかった。
表17に示すように、比較例2のコート液を使用した場合には、CR−39、PNXに対しては良好な密着性を示したが、EYAS、EYNOA及びEYRYに対しては密着性が充分ではなかった。また、膜硬度も弱くなった。
表18に示すように、比較例3のコート液を使用した場合には、CR−39、PNX、EYNOAに対しては良好な密着性を示したが、EYAS及びEYRYに対しては密着性が充分ではなかった。また、膜硬度も弱くなった。
表19に示すように、比較例4のコート液を使用した場合には、CR−39、PNX、EYAS、EYNOAに対しては良好な密着性を示したが、EYRYに対しては密着性が充分ではなかった。また、膜硬度も弱くなった。
表20に示すように、比較例5のコート液を使用した場合には、5種類の基板に対して良好な密着性を有するが、膜硬度がかなり弱くなった。
【0140】
以上の結果からわかるように、鎖状分子の末端にSi−O−Xがあり、かつ、ウレア結合を有するシラン化合物を使用してコート液を作製することにより、5種類の基板に対して良好な密着性を有すると共に、充分な膜硬度を有するハードコート層を形成することが可能になる。
【0141】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖状分子の末端に、加水分解可能な官能基を有するケイ素が形成され、
前記鎖状分子の途中に、1つ以上のウレア結合を有する
機能性シラン化合物。
【請求項2】
前記鎖状分子の、前記末端のケイ素及び前記ウレア結合の間の部分が、シングルボンドの炭化水素のみで構成されている、請求項1に記載の機能性シラン化合物。
【請求項3】
前記ウレア結合を2つ以上含み、2つのウレア結合の間が炭素数1〜10の炭化水素又はエーテル鎖である、請求項1に記載の機能性シラン化合物。
【請求項4】
シランカップリング剤と、
鎖状分子の末端に、加水分解可能な官能基を有するケイ素が形成され、前記鎖状分子の途中に、1つ以上のウレア結合を有する機能性シラン化合物とを含む、
コーティング液。
【請求項5】
無機微粒子をさらに含む、請求項4に記載のコーティング液。
【請求項6】
プラスチックレンズを製造する方法であって、
シランカップリング剤と、鎖状分子の末端に、加水分解可能な官能基を有するケイ素が形成され、前記鎖状分子の途中に、1つ以上のウレア結合を有する機能性シラン化合物とを含む、コーティング液を調合する工程と、
レンズ基板に前記コーティング液を塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を硬化させて、前記レンズ基板上にコート層を形成する工程とを含む
プラスチックレンズの製造方法。
【請求項7】
前記コーティング液を調合する工程において、前記コーティング液に無機微粒子を混合する工程をさらに含む請求項6に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項8】
前記レンズ基板が、硫黄系高分子化合物を含んでいる、請求項6又は請求項7に記載のプラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−30993(P2010−30993A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146859(P2009−146859)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】