気密電子部品の製造方法、及び気密電子部品
【課題】電子基板上の気密部を気密する部材に付与された圧縮歪を維持することによって電子部品の気密性を維持でき、且つ工程が簡易である気密電子部品の製造方法、及び、当該方法により製造される気密電子部品を提供すること。
【解決手段】電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置した後に、第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により第一成形品に圧縮歪を付与し、次いで、第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成することにより、電子基板上の気密域を覆う気密部を形成して、気密電子部品を製造する。
【解決手段】電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置した後に、第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により第一成形品に圧縮歪を付与し、次いで、第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成することにより、電子基板上の気密域を覆う気密部を形成して、気密電子部品を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子基板上に気密部が形成された気密電子部品の製造方法、及び気密電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子基板上に気密部が形成された気密電子部品が広く使用されている。これらの気密電子部品では、気密部が形成されるとともに、電気信号を取り出すために金属端子が設けられており、この金属端子の取り出し部の気密性がしばしば問題となる。
【0003】
例えば、屋外で使用される電子部品では、湿気にさらされるような場合、気密が不十分であると、内部の電子素子の動作不良が生じる場合がある。このため、電子基板を覆うケースが形成されたり、電子基板全体が樹脂により封止されたりする。
【0004】
かかる電子部品上に気密部が設けられた気密電子部品の製造方法としては、例えば、電子基板上に配置された撮像素子の周囲を囲むOリング等の密着部材を電子基板上に配置し、撮像素子の外周を囲む筒状の押さえ部材を密着部材上に配置し、密着部材の開口部上に開口部を塞ぐように透光性部材を配置した後に、押さえ部材、及び密着部材に対して力を印加し、電子基板上の撮像素子を密封して気密部を形成する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−201079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載される方法では、基板上でOリングが移動しやすく、気密部を形成するための各部材の所定の位置への配置が難しく、気密電子部品を組み立て難い問題がある。また、Oリングに生じた圧縮歪を維持して気密性を維持するためには、押さえ部材と基板とを接着等の方法により固定するか、基板上に固定された部材により、押さえ部材の位置を固定する必要があり、これらの点からも気密電子部品の組立てが容易ではない。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電子基板上の気密部を気密する部材に付与された圧縮歪を維持することによって電子部品の気密性を維持でき、且つ工程が簡易である気密電子部品の製造方法、及び、当該方法により製造される気密電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置した後に、第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により第一成形品に圧縮歪を付与し、次いで、第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成することにより、電子基板上の気密域を覆う気密部を形成することによって、第一成形品に付与された圧縮歪により生じる電子基板と第一成形品との間の反発力によって気密部の気密性が維持され、簡易な工程で気密性に優れた気密電子部品を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
(1) 1)電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置する工程、
2)前記第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により前記第一成形品に圧縮歪を付与する工程、及び、
3)前記第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成する工程、
の工程を含み、
電子基板上に形成され、前記気密域を覆って気密する気密部の少なくとも一部が、前記第一成形品、及び前記第二成形品からなる複合体である、
気密電子部品の製造方法。
【0010】
(2) 前記第一成形品の材料が充填材を含有する熱可塑性樹脂であって、前記圧縮歪が、0.5%以上2.0%以下である、(1)記載の気密電子部品の製造方法。
【0011】
(3) 前記第一成形品を前記電子基板上に射出成形する、(1)又は(2)記載の気密電子部品の製造方法。
【0012】
(4) 前記第一成形品の材料が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である、(1)か(3)何れか記載の気密電子部品の製造方法。
【0013】
(5) (1)から(4)何れか記載の方法により製造される気密電子部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子基板上の気密部を気密する部材に付与された圧縮歪を維持することによって電子部品の気密性を維持でき、且つ工程が簡易である気密電子部品の製造方法、及び、当該方法により製造される気密電子部品を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における、第一成形品及び第二成形品の断面を示す模式図である。
【図2】本発明の方法により形成される気密部の断面の模式図である。
【図3】本発明の方法により形成される気密部の断面の模式図である。
【図4】本発明の方法により形成される気密部の断面の模式図である。
【図5】端子付き電子基板を上面から見た模式図である。
【図6】表面に第一成形品が形成された端子付き電気基板を上面から見た模式図である。
【図7】金型内に載置された、表面に第一成形品が形成された端子付き電子基板の、型締めされる前の断面の模式図である。
【図8】金型内に載置された、表面に第一成形品が形成された端子付き電子基板の、型締めされた状態の断面の模式図である。
【図9】金型内に、第二成形品の材料が充填された状態の気密電子部品の断面の模式図である。
【図10】第一成形品、及び第二成形品により封止された気密電子部品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の実施形態は、下記の実施形態に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲は、これに限定されるものではない。
【0017】
なお、本願の発明の詳細な説明、及び特許請求の範囲において、電子基板上の「気密域」とは、電子基板上の気密状態が要求される領域である。気密域の具体例としては、自動車用部品等の腐食性ガス雰囲気下で使用される電子部品を構成する電子基板における、回路が形成されている領域や、ICチップや信号端子間の気密状態が要求される素子が配置されている領域が挙げられる。
【0018】
また、本願の発明の詳細な説明、及び特許請求の範囲において、電子基板上に形成される「気密部」とは、電子基板上に形成され、非接触又は接触の状態で、気密域を覆って、気密域を気密状態とする部材である。気密部は、少なくとも一部が、後述する第一成形品、及び第二成形品からなる複合体により構成される。
【0019】
本発明の、気密電子部品の製造方法は、以下の1)から3)の工程を含み、第一成形品、及び第二成形品からなる複合体を少なくとも一部に含む、気密域を覆って気密する気密部を電子基板上に形成する方法である。以下、1)から3)の工程、及び気密部の形成方法について順に説明する。
【0020】
1)電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置する工程、
2)第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により第一成形品に圧縮歪を付与する工程、及び、
3)第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成する工程、
【0021】
〔工程1)〕
工程1)は、電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置する工程である。
【0022】
本発明において、気密電子部品の製造に用いる電子基板は、従来から電気・電子部品の製造に使用される電子基板であれば特に限定されず、単層基板であっても、多層基板であってもよい。電子基板の材料は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来電子基板の材料として使用されてきた、有機材料、無機材料、又はこれらの複合材料から適宜選択できる。
【0023】
電子基板の好適な材料の具体例としては、エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアネート樹脂、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶性ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、又はこれらの組合せ等の樹脂が挙げられる。電子基板の材料が樹脂である場合、これらの樹脂は、ガラス繊維、高弾性樹脂繊維、炭素繊維、又は金属繊維等の繊維を含むのが好ましい。かかる場合、繊維材料は織布、又は不織布の形態であるのが好ましい。
【0024】
電子基板の形状は、気密部を形成可能であれば特に限定されず、平面状、曲面状、又はこれらの形状の組合せであってもよい。これらの形状の中では、第一成形品を所定の位置に固定しやすいことから、平面状が好ましい。
【0025】
第一成形品を電子基板上の気密域の近傍に配置する方法は特に限定されない。第一成形品を電子基板上の気密域の近傍の所定の場所に配置する具体的な方法としては、予め成形された第一成形品を電子基板上の所定の位置に載置する方法や、インサート射出成形により電子基板上の所定位置に第一成形品を形成する方法成形が挙げられる。インサート射出成形により第一成形品を形成する場合、電子基板の第一成形品を形成する箇所に予め凹部を設けることが好ましい。この場合、第一成形品がより強固に基板に固着される。第一成形品を電子基板上の所定の位置に載置する場合、第一成形品は、接着等の手段により電子基板上に固定されていてもよく、固定されていなくてもよい。
【0026】
第一成形品を電子基板上の気密域の近傍の所定の位置に配置する方法としては、第一成形品の製造、及び電子基板上での位置決めが容易であり、電子基板上で第一成形品が移動し難いことから、インサート射出成形により電子基板上の所定位置に第一成形品を形成する方法がより好ましい。
【0027】
予め成形された第一成形品を用いる場合の、第一成形品の製造方法は特に限定されない。かかる場合の第一成形品の製造方法としては、熱可塑性樹脂を用いる射出成形、押出成形等の溶融加工方法、切削加工方法、プレス加工方法等が挙げられる。
【0028】
第一成形品の材料としては、後述する工程2)において、型締力により所望の圧縮歪を付与できる限り特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の硬化性樹脂、ゴム等が挙げられる。前述する通り、第一成形品を電子基板上に配置する方法としてインサート射出成形がより好ましいことから、第一成形品の材料としては、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0029】
材料が熱可塑性樹脂である場合、射出成形可能であれば特に限定されず、結晶性樹脂及び非結晶性樹脂の何れも使用できる。好適な熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ4−メチル−ペンテン−1、ポリ環状オレフィン等)、ポリスチレン(PS)、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、(メタ)アクリル樹脂、セルロース系樹脂、エラストマー等の汎用熱可塑性樹脂;脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ナイロン6,12等)、芳香族ポリアミド(MXDナイロン等)、芳香族ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)等)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリアリーレンサルファイド(PAS)(ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等)、ポリスルフォン(PSu)、ポリイミド(PI)、液晶性ポリマー(LCP)(液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリアミド等)のエンジニアリングプラスチック;脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、及び、脂肪族ヒドロキシカルボン酸若しくはその環状化合物からなる群から選択される単量体を重縮合して得られる脂肪族ポリエステル、ジイソシアネート等により高分子量化された脂肪族ポリエステル等の生分解性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
これらの熱可塑性樹脂の中では、電気特性、耐熱性、及び耐久性のバランスに優れることからポリブチレンテレフタレート樹脂が特に好ましい。また、第一成形品に型締力を印加し圧縮歪を付与した際の、電子基板との密着性に優れ、気密性の良好な気密部を形成しやすいことから、第一成形品の材料として熱可塑性エラストマーも好ましい。
【0031】
本発明において、第一成形品の成形材料として熱可塑性樹脂を用いる場合、熱可塑性樹脂は、成形品の機械的特性の改良の目的等で充填材を配合できる。熱可塑性樹脂に配合される充填材の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から高分子材料の充填材として使用される種々の充填材を使用することができ、無機充填材及び有機充填材のいずれも使用できる。また、充填材の形状は、本発明の目的を阻害しない範囲で限定されず、繊維状充填材、粉粒状充填材、及び板状充填材のいずれも好適に使用できる。
【0032】
好適な繊維状充填材として、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。
【0033】
好適な粉粒状充填材としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。また、好適な板状充填材としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0034】
これらの充填材の中では、コストと得られる第一成形品の物性とのバランスに優れることからガラス繊維を用いるのが特に好ましい。
【0035】
ガラス繊維としては、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円筒、繭形断面、長円断面等の断面形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。本発明において、ガラス繊維の原料となるガラスの種類は特に限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0036】
また、熱可塑性樹脂のマトリックスと充填材との界面特性を向上させる目的で、シラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理された充填材が好ましく用いられる。かかる充填材に用いられるシラン化合物やエポキシ化合物としては公知のものがいずれも好ましく用いることができ、本発明で充填材の表面処理に用いられるシラン化合物、エポキシ化合物の種類には依存しない。
【0037】
充填材の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で限定されないが、典型的には、熱可塑性樹脂100質量部に対して、5質量部以上120質量部以下が好ましく、10質量部以上100質量部以下がより好ましく、15質量部以上80質量部以下が特に好ましい。
【0038】
また、第一成形品の材料として熱可塑性樹脂を用いる場合、必要に応じて、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等をさらに添加して使用できる。
【0039】
第一成形品として、電子基板との接触面に気密が保たれるとともに、第二成形品の材料との接合性に優れるものを選択することで、接着剤を塗布する等の加工を施すことなく気密電子部品を得ることが出来る。また、第一成形品の材料として、例えば、エラストマー等の表面硬度の低い材料を用いる場合、第一成形品に型締力を印加し圧縮歪を付与する際に電子基板と第一成形品との間で高い密着性を得られるため、気密性の良好な気密部を形成しやすい。
【0040】
第一成形品の形状は、後述する工程2)において型締力により圧縮歪を付与可能であり、第二成形品により圧縮歪を保持できる形状であれば特に限定されない。図1は、第一成形品の断面形状の具体例を示すである。以下、図1(a)〜図1(h)により、第一成形品の好適な断面形状について説明する。
【0041】
第一成形品12の好適な断面形状は、電子基板11の面方向に対して垂直方向であって、第二成形品13から電子基板11への方向に作用する力によって、工程2)で第一成形品12に付与される圧縮歪が保持される形状である。第一成形品12の断面形状の好適な例としては、四角形(図1(a)、(b)、及び(c))、三角形(図(d))、半円形(図(e)、及び図(f))等の突起を有する形状が挙げられる。第一成形品12の断面形状がかかる突起を有する形状である場合、第二成形品13と電子基板11との間に生じる密着力によって、第一成形品12の突起が電子基板11の方向に押さえつけられ、第一成形品12の圧縮歪が保持される。
【0042】
第一成形品12の材料と第二成形品13の材料とが密着性に優れる組合せである場合には、第一成形品12と第二成形品13との界面に生じる密着力により第一成形品の圧縮歪を保持することもできる。かかる場合、第一成形品12の断面形状は、図1(g)に示すような長方形であってもよく、図1(h)に示すような台形であってもよい。
【0043】
これらの第一成形品の断面形状の中では、圧縮歪により生じる第一成形品12と電子基板11との間の反発力を広範囲にわたって作用させることができ、気密性に優れる気密電子部品を製造しやすいことから、図1(a)に示されるL字型の断面形状がより好ましい。
【0044】
〔工程2)〕
工程2)は、第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により前期第一成形品に圧縮歪を付与する工程である。
【0045】
工程2)で使用される金型は、第一成形品が所定の位置に配置された電子基板上に、後述する工程3)において第二成形品を成形可能であって、型締力によって第一成形品に所望の圧縮歪を付与できるものであれば特に限定されない。また、工程2)で使用される金型のキャビティの形状は、型締力により、第一成形品に所定の圧縮歪を付与でき、第一成形品に付加された圧縮歪を保持できる形状の第二成形品を形成できるものであれば特に限定されず、最終的に製造される気密電子部品の形状に応じて種々の形状を選択できる。なお、金型のキャビティ面の第一成形品に当接する箇所の形状は、型締後に、第一成形品に所望の圧縮歪が付与されるように設計される。
【0046】
工程2)において、第一成形品に印加される型締力は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、第一成形品の材料の種類や形状を考慮して適宜選択される。第一成形品の材料としては、得られる気密電子部品が、機械的特性、電気的特性、耐久性、加工性、及び気密性が総合的に優れることから、充填材を含む熱可塑性樹脂が好ましいが、かかる場合、工程2)において第一成形品に付与される圧縮歪は0.5%以上2.0%以下が好ましい。圧縮歪が過小であったり、過大であったりする場合、所望の気密性を有する気密電子部品を得にくくなる場合がある。
【0047】
〔工程3)〕
工程3)は、工程2)において付加された第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成する工程である。
【0048】
工程3)では、工程1)について説明したように、工程2)で第一成形品に付加された圧縮歪を保持できるような形状の第二成形品を、射出成形により形成する。射出成形に使用される材料は熱可塑性樹脂であり、結晶性樹脂及び非結晶性樹脂の何れも使用できる。好適な熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ4−メチル−ペンテン−1、ポリ環状オレフィン等)、ポリスチレン(PS)、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、(メタ)アクリル樹脂、セルロース系樹脂、エラストマー等の汎用熱可塑性樹脂;脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ナイロン6,12等)、芳香族ポリアミド(MXDナイロン等)、芳香族ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)等)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリアリーレンサルファイド(PAS)(ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等)、ポリスルフォン(PSu)、ポリイミド(PI)、液晶性ポリマー(LCP)(液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリアミド等)のエンジニアリングプラスチック;脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、及び、脂肪族ヒドロキシカルボン酸若しくはその環状化合物からなる群から選択される単量体を重縮合して得られる脂肪族ポリエステル、ジイソシアネート等により高分子量化された脂肪族ポリエステル等の生分解性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
第一成形品及び第二成形品の材料の組合せは、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、第二成形品の材料は、第一成形品の材料との密着性を考慮して選定されるのが好ましい。第一成形品及び第二成形品の材料の組み合わせとしては、両者が芳香族ポリエステルであるのが好ましく、両者がポリブチレンテレフタレート樹脂であるのがより好ましい。第一成形品及び第二成形品の材料がポリブチレンテレフタレートである場合、ポリブチレンテレフタレートが電気特性、耐熱性、及び耐久性のバランスに優れることから、良好な気密性を長期に保持でき、性能に優れる気密電子部品を得やすい。
【0050】
第二成形品の材料である熱可塑性樹脂は、第一成形品の材料として熱可塑性樹脂を用いる場合と同様に、必要に応じて、充填材、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等をさらに添加して使用できる。
【0051】
〔気密部の形成方法〕
本発明において、気密域を覆って気密状態とする気密部は、以上説明した工程1)から3)により形成される第一成形品、及び第二成形品からなる複合体を少なくとも一部に含む。以下、本発明における気密部の形成方法の具体例について、気密部の電子基板と垂直方向の断面の模式図である、図2から図4を参照して説明する。また、気密部の形成方法の具体例として、一部に端子が露出した気密電子部品の形成方法について、図5〜図10を参照して説明する。
【0052】
気密部1を形成する方法の具体例としては、図2に示されるように、電子基板11上に配置された各種の電子素子等の被気密部材14の周囲を囲うように第一成形品12と第二成形品13とからなる筒状の複合体を形成し、上部の開口部を、例えば、接着、溶着等の方法により蓋材15により閉じて気密部1を形成する方法が挙げられる。かかる方法は、被気密部材14が表面弾性波素子等の気体中で使用される素子である場合に好適である。
【0053】
気密部1を形成する方法の他の具体例としては、図3に示されるように、電子基板11上に配置された各種の電子素子等の被気密部材14の周囲を囲うように筒状に第一成形品12を形成した後に、筒状の第一成形品12の内部に、被気密部材14に接触して被覆するように第二成形品13を形成して、第一成形品12と第二成形品13とからなる複合体を形成して、かかる複合体を気密部1とする方法が挙げられる。かかる態様は、被気密部材14が気体中で使用される必要がない場合、簡易な工程で気密電子部品を製造できるために好適である。
【0054】
また、被気密部材14の周囲に十分なスペースがある場合、図4に示されるように、電子基板11上に形成された被気密部材14に隣接する箇所に第一成形品12を形成した後に、被気密部材14に接触して被覆し、且つ、被気密部材14への気体の浸入を十分に防げる程度の、電子基板11の面方向に広がりを有する第二成形品13を成形して、第一成形品12と第二成形品13とからなる複合体を形成して、かかる複合対を気密部1とする方法も好適である。
【0055】
次いで、気密部の形成方法の具体例として、好適な電子部品の一つである、一部に端子が露出した気密電子部品の製造方法について、図5〜図10を参照して説明する。一部に端子が露出した気密電子部品2を製造する際には、図5に示される表面に複数の端子22が形成された端子付き電子基板21を用いる。
【0056】
工程1)について、図6、及び図7を参照して説明する。図6は、第一成形品23が形成された端子付き電子基板21を上面から見た図であり、図7は、上型24と下型25とからなる金型内に載置された、第一成形品23が形成された端子付き電子基板21の、図5に示されるA−A’断面における断面図である。
【0057】
工程1)では、図6、及び図7に示されるように、気密成形品において外部に露出する端子22を囲うように、端子付き電子基板21の面方向に対して垂直方向の断面がL字型の形状の第一成形品23を、端子付き電子基板21の前面、及び後面に形成する。第一成形品23の材料は、前述の種々の材料を用いることができるが、機械的特性、電気的特性、耐久性、加工性、及び得られる気密電子部品2の気密性が総合的に優れることから、ガラス繊維を充填されたポリブチレンテレフタレート樹脂であるのがより好ましい。
【0058】
工程2)について、図7、及び図8を参照して説明する。図8は、型締力により第一成形品23に圧縮歪が付与された状態の、端子付き電子基板21の、図5に示されるA−A’断面における断面図である。
【0059】
工程2)では、前面、及び後面に第一成形品23を形成された、端子付き電子基板21は、上型24と下型25とからなる金型内に載置された後、図7、及び図8に示されるように、上型24と下型25とを合わせ、型締めすることにより、第一成形品23に所定の圧縮歪が付与される。型締めする際の型締め力は、圧縮歪量、及び第一成形品の23の材料の機械的性質に応じて、適宜設定される。第一成形品23の材料としてガラス繊維が充填されたポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合、第一成形品23に付与される圧縮歪の量は0.5%以上2.0%以下が好ましい。
【0060】
工程3)について、図8、図9、図10を参照して説明する。図9は、金型内のキャビティに26に、第二成形品27を形成する溶融状態の成形材料が注入された状態の、図5に示されるA−A’断面における断面図である。また、図10は、第一成形品23、及び第二成形品27によって封止された気密電子部品2の、図5に示されるA−A’断面における断面図である。
【0061】
図9に示されるように、工程3)では、射出成形機等の成形機によって、金型が備えるゲート(不図示)から、金型内のキャビティ26に、溶融状態の第二成形品27の成形材料が注入され、端子付き電子基板21の前面、後面、及び側面を被覆するように、第二成形品27が形成される。第一成形品23の断面形状がL字型であるため、端子付き電子基板21の表面に形成された第二成形品27によって、端子付き電子基板21の面方向に対して垂直な方向に第一成形品23が押さえつけられ、第一成形品23に付与された圧縮歪が保持され、気密部の気密性を実現できる。
【0062】
以上、説明した工程1)〜工程3)により製造された、第一成形品23、及び第二成形品27により封止された気密電子部品は、第二部品により被覆された気密部が良好に気密されるため、長期にわたり良好な性能を保持できる。また、以上説明した、端子付き電子基板21を封止した気密電子部品2は、一部、端子が露出しているため、露出した端子と他の電子部品と結線され、好適に利用される。
【0063】
以上説明した方法により、電子基板上に気密部を形成した後、所望により、筐体やその他の電子部品を、気密部又は気密部内の被気密部材と組み合わせて、気密電子部品が製造される。
【0064】
本発明の気密電子部品の製造方法によれば、射出成形により容易に製造可能であるため、安価に、十分な気密性を有する気密電子部品を製造できる。本発明の方法により製造される気密電子部品の具体例としては、車載用ICチップモジュール等が挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
第一成形品の材料として、以下の1)、及び2)の材料を用いた。
1)ジュラネックス303RA(ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、ガラス繊維15質量%配合、ウィンテックポリマー株式会社製)
2)ハイトレル5557(ポリエステルエラストマー、東レ・デュポン株式会社製)
【0067】
また、第二成形品の材料として、ジュラネックス305RA(ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、ガラス繊維15質量%配合、ウィンテックポリマー株式会社製)を用いた。
【0068】
電子基板として、厚さ1.6mm、縦横各45mmの形状の、ガラスエポキシ基板を用いた。
【0069】
〔参考例〕
(第一成形品の作成)
気密電子部品における、圧縮された第一成形品の高さ(電子基板の面方向に対して垂直方向の、電子基板の表面から第一成形品の表面までの距離)に対して、高さが3.0%高い形状の未圧縮の第一成形品(実施例3で使用)を、ジュラネックス303RAを使用し射出成形により製造した。第一成形品の断面形状は、図1(a)に示されるL字型の形状であった。
【0070】
気密電子部品における圧縮された第一成形品の高さに対して、高さが3.0%高い形状の未圧縮の第一成形品を、切削して、気密電子部品における圧縮された第一成形品の高さに対して、高さが0.5%高い第一成形品(実施例1で使用)、高さが2.0%高い第一成形品(実施例2で使用)、及び高さが同じである第一成形品(比較例1で使用)を作成した。
【0071】
また、材料をハイトレル5557に変えることの他は、実施例3で使用する形状と同じ形状の第一成形品(実施例4で使用)を作成した。
【0072】
〔実施例1〜3〕
型締め時に0.5〜3.0%の所定の圧縮歪が生じるように形状を調整された第一成形品を、電子基板の前面、及び後面に対称的になるように配置した。次いで、第一成形品が配置された電子基板を金型に載置し、型締めして、第一成形品に所定の圧縮歪を付与した。その後、ジュラネックス305RAを使用して、射出成形により、電子基板の、前面、後面、及び側面を被覆するように、第二成形品を形成して気密電子部品を得た。なお、気密電子部品における、第二成形品の高さ(電子基板の面方向に対して垂直方向の、電子基板の表面から第一成形品の表面までの距離)は、第一成形品の同じ高さである。得られた気密電子部品について、気密電子部品5個を用いて、下記の方法に従いインク浸入試験を行い、第二成形品で被覆された気密部の気密性を確認した。実施例1〜3で得た気密電子部品について、気密電子部品5個中の、気密性が不十分であった気密電子部品の数を、表1に示す。
【0073】
<インク浸入試験>
得られた封止電子部品を、赤インクに浸漬し、23℃で1時間放置し、次いで、封止電子部品表面に付着したインクを拭き取り、第一成形品、及び第二成形品を、工具を用いて電子基板から剥離し、気密部へのインクの浸入の有無を目視にて確認する。
【0074】
〔実施例4〕
ハイトレル5557で作成された、型締めに時に3.0%の圧縮歪が生じる形状の第一成形品を用いることの他は、実施例1と同様にして気密電子部品を得た。実施例4で得た気密電子部品のインク浸入試験の結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例1〕
型締め時に圧縮歪の生じない第一成形品を用いる他は、実施例1と同様にして気密成形品を得た。比較例1で得た気密電子部品のインク浸入試験の結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から、実施例1〜4と、比較例1との比較により、第一成形品に型締力により圧縮歪を与えた後に、第二成形品を形成して気密電子部品を製造する場合、気密電子部品における気密不良の発生を抑制できることが分かる。また、実施例1、及び2と、実施例3との比較により、第一成形品の材料が、充填材を含む熱可塑性樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)である場合、圧縮歪の量を0.5%以上2.0%以下とすることにより、気密不良の発生が効果的に抑制されることが分かる。一方、実施例4によれば、第一成形品の材料が熱可塑性エラストマーである場合、圧縮歪みの量が2.0%を超えていても、極めて優れる気密不良の発生の抑制効果が得られることが分かる。
【0078】
比較例1で得られた気密成形品についてインク浸入試験を行った結果、試験した5個の気密電子部品全てにおいて、第二成形品部分へのインクの侵入が確認された。つまり、第一成形品に圧縮歪を付与しない場合、第一成形品と電子基板との間に微小な隙間が生じるため、気密電子部品の気密性が不十分となることが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1 気密部
11 電子基板
12 第一成形品
13 第二成形品
14 被気密部材
15 蓋材
21 端子付き電子基板
22 端子
23 第一成形品
24 上型
25 下型
26 キャビティ
27 第二成形品
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子基板上に気密部が形成された気密電子部品の製造方法、及び気密電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子基板上に気密部が形成された気密電子部品が広く使用されている。これらの気密電子部品では、気密部が形成されるとともに、電気信号を取り出すために金属端子が設けられており、この金属端子の取り出し部の気密性がしばしば問題となる。
【0003】
例えば、屋外で使用される電子部品では、湿気にさらされるような場合、気密が不十分であると、内部の電子素子の動作不良が生じる場合がある。このため、電子基板を覆うケースが形成されたり、電子基板全体が樹脂により封止されたりする。
【0004】
かかる電子部品上に気密部が設けられた気密電子部品の製造方法としては、例えば、電子基板上に配置された撮像素子の周囲を囲むOリング等の密着部材を電子基板上に配置し、撮像素子の外周を囲む筒状の押さえ部材を密着部材上に配置し、密着部材の開口部上に開口部を塞ぐように透光性部材を配置した後に、押さえ部材、及び密着部材に対して力を印加し、電子基板上の撮像素子を密封して気密部を形成する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−201079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載される方法では、基板上でOリングが移動しやすく、気密部を形成するための各部材の所定の位置への配置が難しく、気密電子部品を組み立て難い問題がある。また、Oリングに生じた圧縮歪を維持して気密性を維持するためには、押さえ部材と基板とを接着等の方法により固定するか、基板上に固定された部材により、押さえ部材の位置を固定する必要があり、これらの点からも気密電子部品の組立てが容易ではない。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電子基板上の気密部を気密する部材に付与された圧縮歪を維持することによって電子部品の気密性を維持でき、且つ工程が簡易である気密電子部品の製造方法、及び、当該方法により製造される気密電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置した後に、第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により第一成形品に圧縮歪を付与し、次いで、第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成することにより、電子基板上の気密域を覆う気密部を形成することによって、第一成形品に付与された圧縮歪により生じる電子基板と第一成形品との間の反発力によって気密部の気密性が維持され、簡易な工程で気密性に優れた気密電子部品を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
(1) 1)電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置する工程、
2)前記第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により前記第一成形品に圧縮歪を付与する工程、及び、
3)前記第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成する工程、
の工程を含み、
電子基板上に形成され、前記気密域を覆って気密する気密部の少なくとも一部が、前記第一成形品、及び前記第二成形品からなる複合体である、
気密電子部品の製造方法。
【0010】
(2) 前記第一成形品の材料が充填材を含有する熱可塑性樹脂であって、前記圧縮歪が、0.5%以上2.0%以下である、(1)記載の気密電子部品の製造方法。
【0011】
(3) 前記第一成形品を前記電子基板上に射出成形する、(1)又は(2)記載の気密電子部品の製造方法。
【0012】
(4) 前記第一成形品の材料が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である、(1)か(3)何れか記載の気密電子部品の製造方法。
【0013】
(5) (1)から(4)何れか記載の方法により製造される気密電子部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子基板上の気密部を気密する部材に付与された圧縮歪を維持することによって電子部品の気密性を維持でき、且つ工程が簡易である気密電子部品の製造方法、及び、当該方法により製造される気密電子部品を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における、第一成形品及び第二成形品の断面を示す模式図である。
【図2】本発明の方法により形成される気密部の断面の模式図である。
【図3】本発明の方法により形成される気密部の断面の模式図である。
【図4】本発明の方法により形成される気密部の断面の模式図である。
【図5】端子付き電子基板を上面から見た模式図である。
【図6】表面に第一成形品が形成された端子付き電気基板を上面から見た模式図である。
【図7】金型内に載置された、表面に第一成形品が形成された端子付き電子基板の、型締めされる前の断面の模式図である。
【図8】金型内に載置された、表面に第一成形品が形成された端子付き電子基板の、型締めされた状態の断面の模式図である。
【図9】金型内に、第二成形品の材料が充填された状態の気密電子部品の断面の模式図である。
【図10】第一成形品、及び第二成形品により封止された気密電子部品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の実施形態は、下記の実施形態に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲は、これに限定されるものではない。
【0017】
なお、本願の発明の詳細な説明、及び特許請求の範囲において、電子基板上の「気密域」とは、電子基板上の気密状態が要求される領域である。気密域の具体例としては、自動車用部品等の腐食性ガス雰囲気下で使用される電子部品を構成する電子基板における、回路が形成されている領域や、ICチップや信号端子間の気密状態が要求される素子が配置されている領域が挙げられる。
【0018】
また、本願の発明の詳細な説明、及び特許請求の範囲において、電子基板上に形成される「気密部」とは、電子基板上に形成され、非接触又は接触の状態で、気密域を覆って、気密域を気密状態とする部材である。気密部は、少なくとも一部が、後述する第一成形品、及び第二成形品からなる複合体により構成される。
【0019】
本発明の、気密電子部品の製造方法は、以下の1)から3)の工程を含み、第一成形品、及び第二成形品からなる複合体を少なくとも一部に含む、気密域を覆って気密する気密部を電子基板上に形成する方法である。以下、1)から3)の工程、及び気密部の形成方法について順に説明する。
【0020】
1)電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置する工程、
2)第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により第一成形品に圧縮歪を付与する工程、及び、
3)第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成する工程、
【0021】
〔工程1)〕
工程1)は、電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置する工程である。
【0022】
本発明において、気密電子部品の製造に用いる電子基板は、従来から電気・電子部品の製造に使用される電子基板であれば特に限定されず、単層基板であっても、多層基板であってもよい。電子基板の材料は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来電子基板の材料として使用されてきた、有機材料、無機材料、又はこれらの複合材料から適宜選択できる。
【0023】
電子基板の好適な材料の具体例としては、エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアネート樹脂、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶性ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、又はこれらの組合せ等の樹脂が挙げられる。電子基板の材料が樹脂である場合、これらの樹脂は、ガラス繊維、高弾性樹脂繊維、炭素繊維、又は金属繊維等の繊維を含むのが好ましい。かかる場合、繊維材料は織布、又は不織布の形態であるのが好ましい。
【0024】
電子基板の形状は、気密部を形成可能であれば特に限定されず、平面状、曲面状、又はこれらの形状の組合せであってもよい。これらの形状の中では、第一成形品を所定の位置に固定しやすいことから、平面状が好ましい。
【0025】
第一成形品を電子基板上の気密域の近傍に配置する方法は特に限定されない。第一成形品を電子基板上の気密域の近傍の所定の場所に配置する具体的な方法としては、予め成形された第一成形品を電子基板上の所定の位置に載置する方法や、インサート射出成形により電子基板上の所定位置に第一成形品を形成する方法成形が挙げられる。インサート射出成形により第一成形品を形成する場合、電子基板の第一成形品を形成する箇所に予め凹部を設けることが好ましい。この場合、第一成形品がより強固に基板に固着される。第一成形品を電子基板上の所定の位置に載置する場合、第一成形品は、接着等の手段により電子基板上に固定されていてもよく、固定されていなくてもよい。
【0026】
第一成形品を電子基板上の気密域の近傍の所定の位置に配置する方法としては、第一成形品の製造、及び電子基板上での位置決めが容易であり、電子基板上で第一成形品が移動し難いことから、インサート射出成形により電子基板上の所定位置に第一成形品を形成する方法がより好ましい。
【0027】
予め成形された第一成形品を用いる場合の、第一成形品の製造方法は特に限定されない。かかる場合の第一成形品の製造方法としては、熱可塑性樹脂を用いる射出成形、押出成形等の溶融加工方法、切削加工方法、プレス加工方法等が挙げられる。
【0028】
第一成形品の材料としては、後述する工程2)において、型締力により所望の圧縮歪を付与できる限り特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の硬化性樹脂、ゴム等が挙げられる。前述する通り、第一成形品を電子基板上に配置する方法としてインサート射出成形がより好ましいことから、第一成形品の材料としては、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0029】
材料が熱可塑性樹脂である場合、射出成形可能であれば特に限定されず、結晶性樹脂及び非結晶性樹脂の何れも使用できる。好適な熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ4−メチル−ペンテン−1、ポリ環状オレフィン等)、ポリスチレン(PS)、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、(メタ)アクリル樹脂、セルロース系樹脂、エラストマー等の汎用熱可塑性樹脂;脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ナイロン6,12等)、芳香族ポリアミド(MXDナイロン等)、芳香族ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)等)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリアリーレンサルファイド(PAS)(ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等)、ポリスルフォン(PSu)、ポリイミド(PI)、液晶性ポリマー(LCP)(液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリアミド等)のエンジニアリングプラスチック;脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、及び、脂肪族ヒドロキシカルボン酸若しくはその環状化合物からなる群から選択される単量体を重縮合して得られる脂肪族ポリエステル、ジイソシアネート等により高分子量化された脂肪族ポリエステル等の生分解性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
これらの熱可塑性樹脂の中では、電気特性、耐熱性、及び耐久性のバランスに優れることからポリブチレンテレフタレート樹脂が特に好ましい。また、第一成形品に型締力を印加し圧縮歪を付与した際の、電子基板との密着性に優れ、気密性の良好な気密部を形成しやすいことから、第一成形品の材料として熱可塑性エラストマーも好ましい。
【0031】
本発明において、第一成形品の成形材料として熱可塑性樹脂を用いる場合、熱可塑性樹脂は、成形品の機械的特性の改良の目的等で充填材を配合できる。熱可塑性樹脂に配合される充填材の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から高分子材料の充填材として使用される種々の充填材を使用することができ、無機充填材及び有機充填材のいずれも使用できる。また、充填材の形状は、本発明の目的を阻害しない範囲で限定されず、繊維状充填材、粉粒状充填材、及び板状充填材のいずれも好適に使用できる。
【0032】
好適な繊維状充填材として、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。
【0033】
好適な粉粒状充填材としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。また、好適な板状充填材としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0034】
これらの充填材の中では、コストと得られる第一成形品の物性とのバランスに優れることからガラス繊維を用いるのが特に好ましい。
【0035】
ガラス繊維としては、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円筒、繭形断面、長円断面等の断面形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。本発明において、ガラス繊維の原料となるガラスの種類は特に限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0036】
また、熱可塑性樹脂のマトリックスと充填材との界面特性を向上させる目的で、シラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理された充填材が好ましく用いられる。かかる充填材に用いられるシラン化合物やエポキシ化合物としては公知のものがいずれも好ましく用いることができ、本発明で充填材の表面処理に用いられるシラン化合物、エポキシ化合物の種類には依存しない。
【0037】
充填材の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で限定されないが、典型的には、熱可塑性樹脂100質量部に対して、5質量部以上120質量部以下が好ましく、10質量部以上100質量部以下がより好ましく、15質量部以上80質量部以下が特に好ましい。
【0038】
また、第一成形品の材料として熱可塑性樹脂を用いる場合、必要に応じて、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等をさらに添加して使用できる。
【0039】
第一成形品として、電子基板との接触面に気密が保たれるとともに、第二成形品の材料との接合性に優れるものを選択することで、接着剤を塗布する等の加工を施すことなく気密電子部品を得ることが出来る。また、第一成形品の材料として、例えば、エラストマー等の表面硬度の低い材料を用いる場合、第一成形品に型締力を印加し圧縮歪を付与する際に電子基板と第一成形品との間で高い密着性を得られるため、気密性の良好な気密部を形成しやすい。
【0040】
第一成形品の形状は、後述する工程2)において型締力により圧縮歪を付与可能であり、第二成形品により圧縮歪を保持できる形状であれば特に限定されない。図1は、第一成形品の断面形状の具体例を示すである。以下、図1(a)〜図1(h)により、第一成形品の好適な断面形状について説明する。
【0041】
第一成形品12の好適な断面形状は、電子基板11の面方向に対して垂直方向であって、第二成形品13から電子基板11への方向に作用する力によって、工程2)で第一成形品12に付与される圧縮歪が保持される形状である。第一成形品12の断面形状の好適な例としては、四角形(図1(a)、(b)、及び(c))、三角形(図(d))、半円形(図(e)、及び図(f))等の突起を有する形状が挙げられる。第一成形品12の断面形状がかかる突起を有する形状である場合、第二成形品13と電子基板11との間に生じる密着力によって、第一成形品12の突起が電子基板11の方向に押さえつけられ、第一成形品12の圧縮歪が保持される。
【0042】
第一成形品12の材料と第二成形品13の材料とが密着性に優れる組合せである場合には、第一成形品12と第二成形品13との界面に生じる密着力により第一成形品の圧縮歪を保持することもできる。かかる場合、第一成形品12の断面形状は、図1(g)に示すような長方形であってもよく、図1(h)に示すような台形であってもよい。
【0043】
これらの第一成形品の断面形状の中では、圧縮歪により生じる第一成形品12と電子基板11との間の反発力を広範囲にわたって作用させることができ、気密性に優れる気密電子部品を製造しやすいことから、図1(a)に示されるL字型の断面形状がより好ましい。
【0044】
〔工程2)〕
工程2)は、第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により前期第一成形品に圧縮歪を付与する工程である。
【0045】
工程2)で使用される金型は、第一成形品が所定の位置に配置された電子基板上に、後述する工程3)において第二成形品を成形可能であって、型締力によって第一成形品に所望の圧縮歪を付与できるものであれば特に限定されない。また、工程2)で使用される金型のキャビティの形状は、型締力により、第一成形品に所定の圧縮歪を付与でき、第一成形品に付加された圧縮歪を保持できる形状の第二成形品を形成できるものであれば特に限定されず、最終的に製造される気密電子部品の形状に応じて種々の形状を選択できる。なお、金型のキャビティ面の第一成形品に当接する箇所の形状は、型締後に、第一成形品に所望の圧縮歪が付与されるように設計される。
【0046】
工程2)において、第一成形品に印加される型締力は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、第一成形品の材料の種類や形状を考慮して適宜選択される。第一成形品の材料としては、得られる気密電子部品が、機械的特性、電気的特性、耐久性、加工性、及び気密性が総合的に優れることから、充填材を含む熱可塑性樹脂が好ましいが、かかる場合、工程2)において第一成形品に付与される圧縮歪は0.5%以上2.0%以下が好ましい。圧縮歪が過小であったり、過大であったりする場合、所望の気密性を有する気密電子部品を得にくくなる場合がある。
【0047】
〔工程3)〕
工程3)は、工程2)において付加された第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成する工程である。
【0048】
工程3)では、工程1)について説明したように、工程2)で第一成形品に付加された圧縮歪を保持できるような形状の第二成形品を、射出成形により形成する。射出成形に使用される材料は熱可塑性樹脂であり、結晶性樹脂及び非結晶性樹脂の何れも使用できる。好適な熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ4−メチル−ペンテン−1、ポリ環状オレフィン等)、ポリスチレン(PS)、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、(メタ)アクリル樹脂、セルロース系樹脂、エラストマー等の汎用熱可塑性樹脂;脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ナイロン6,12等)、芳香族ポリアミド(MXDナイロン等)、芳香族ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)等)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリアリーレンサルファイド(PAS)(ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等)、ポリスルフォン(PSu)、ポリイミド(PI)、液晶性ポリマー(LCP)(液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリアミド等)のエンジニアリングプラスチック;脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、及び、脂肪族ヒドロキシカルボン酸若しくはその環状化合物からなる群から選択される単量体を重縮合して得られる脂肪族ポリエステル、ジイソシアネート等により高分子量化された脂肪族ポリエステル等の生分解性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
第一成形品及び第二成形品の材料の組合せは、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、第二成形品の材料は、第一成形品の材料との密着性を考慮して選定されるのが好ましい。第一成形品及び第二成形品の材料の組み合わせとしては、両者が芳香族ポリエステルであるのが好ましく、両者がポリブチレンテレフタレート樹脂であるのがより好ましい。第一成形品及び第二成形品の材料がポリブチレンテレフタレートである場合、ポリブチレンテレフタレートが電気特性、耐熱性、及び耐久性のバランスに優れることから、良好な気密性を長期に保持でき、性能に優れる気密電子部品を得やすい。
【0050】
第二成形品の材料である熱可塑性樹脂は、第一成形品の材料として熱可塑性樹脂を用いる場合と同様に、必要に応じて、充填材、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等をさらに添加して使用できる。
【0051】
〔気密部の形成方法〕
本発明において、気密域を覆って気密状態とする気密部は、以上説明した工程1)から3)により形成される第一成形品、及び第二成形品からなる複合体を少なくとも一部に含む。以下、本発明における気密部の形成方法の具体例について、気密部の電子基板と垂直方向の断面の模式図である、図2から図4を参照して説明する。また、気密部の形成方法の具体例として、一部に端子が露出した気密電子部品の形成方法について、図5〜図10を参照して説明する。
【0052】
気密部1を形成する方法の具体例としては、図2に示されるように、電子基板11上に配置された各種の電子素子等の被気密部材14の周囲を囲うように第一成形品12と第二成形品13とからなる筒状の複合体を形成し、上部の開口部を、例えば、接着、溶着等の方法により蓋材15により閉じて気密部1を形成する方法が挙げられる。かかる方法は、被気密部材14が表面弾性波素子等の気体中で使用される素子である場合に好適である。
【0053】
気密部1を形成する方法の他の具体例としては、図3に示されるように、電子基板11上に配置された各種の電子素子等の被気密部材14の周囲を囲うように筒状に第一成形品12を形成した後に、筒状の第一成形品12の内部に、被気密部材14に接触して被覆するように第二成形品13を形成して、第一成形品12と第二成形品13とからなる複合体を形成して、かかる複合体を気密部1とする方法が挙げられる。かかる態様は、被気密部材14が気体中で使用される必要がない場合、簡易な工程で気密電子部品を製造できるために好適である。
【0054】
また、被気密部材14の周囲に十分なスペースがある場合、図4に示されるように、電子基板11上に形成された被気密部材14に隣接する箇所に第一成形品12を形成した後に、被気密部材14に接触して被覆し、且つ、被気密部材14への気体の浸入を十分に防げる程度の、電子基板11の面方向に広がりを有する第二成形品13を成形して、第一成形品12と第二成形品13とからなる複合体を形成して、かかる複合対を気密部1とする方法も好適である。
【0055】
次いで、気密部の形成方法の具体例として、好適な電子部品の一つである、一部に端子が露出した気密電子部品の製造方法について、図5〜図10を参照して説明する。一部に端子が露出した気密電子部品2を製造する際には、図5に示される表面に複数の端子22が形成された端子付き電子基板21を用いる。
【0056】
工程1)について、図6、及び図7を参照して説明する。図6は、第一成形品23が形成された端子付き電子基板21を上面から見た図であり、図7は、上型24と下型25とからなる金型内に載置された、第一成形品23が形成された端子付き電子基板21の、図5に示されるA−A’断面における断面図である。
【0057】
工程1)では、図6、及び図7に示されるように、気密成形品において外部に露出する端子22を囲うように、端子付き電子基板21の面方向に対して垂直方向の断面がL字型の形状の第一成形品23を、端子付き電子基板21の前面、及び後面に形成する。第一成形品23の材料は、前述の種々の材料を用いることができるが、機械的特性、電気的特性、耐久性、加工性、及び得られる気密電子部品2の気密性が総合的に優れることから、ガラス繊維を充填されたポリブチレンテレフタレート樹脂であるのがより好ましい。
【0058】
工程2)について、図7、及び図8を参照して説明する。図8は、型締力により第一成形品23に圧縮歪が付与された状態の、端子付き電子基板21の、図5に示されるA−A’断面における断面図である。
【0059】
工程2)では、前面、及び後面に第一成形品23を形成された、端子付き電子基板21は、上型24と下型25とからなる金型内に載置された後、図7、及び図8に示されるように、上型24と下型25とを合わせ、型締めすることにより、第一成形品23に所定の圧縮歪が付与される。型締めする際の型締め力は、圧縮歪量、及び第一成形品の23の材料の機械的性質に応じて、適宜設定される。第一成形品23の材料としてガラス繊維が充填されたポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合、第一成形品23に付与される圧縮歪の量は0.5%以上2.0%以下が好ましい。
【0060】
工程3)について、図8、図9、図10を参照して説明する。図9は、金型内のキャビティに26に、第二成形品27を形成する溶融状態の成形材料が注入された状態の、図5に示されるA−A’断面における断面図である。また、図10は、第一成形品23、及び第二成形品27によって封止された気密電子部品2の、図5に示されるA−A’断面における断面図である。
【0061】
図9に示されるように、工程3)では、射出成形機等の成形機によって、金型が備えるゲート(不図示)から、金型内のキャビティ26に、溶融状態の第二成形品27の成形材料が注入され、端子付き電子基板21の前面、後面、及び側面を被覆するように、第二成形品27が形成される。第一成形品23の断面形状がL字型であるため、端子付き電子基板21の表面に形成された第二成形品27によって、端子付き電子基板21の面方向に対して垂直な方向に第一成形品23が押さえつけられ、第一成形品23に付与された圧縮歪が保持され、気密部の気密性を実現できる。
【0062】
以上、説明した工程1)〜工程3)により製造された、第一成形品23、及び第二成形品27により封止された気密電子部品は、第二部品により被覆された気密部が良好に気密されるため、長期にわたり良好な性能を保持できる。また、以上説明した、端子付き電子基板21を封止した気密電子部品2は、一部、端子が露出しているため、露出した端子と他の電子部品と結線され、好適に利用される。
【0063】
以上説明した方法により、電子基板上に気密部を形成した後、所望により、筐体やその他の電子部品を、気密部又は気密部内の被気密部材と組み合わせて、気密電子部品が製造される。
【0064】
本発明の気密電子部品の製造方法によれば、射出成形により容易に製造可能であるため、安価に、十分な気密性を有する気密電子部品を製造できる。本発明の方法により製造される気密電子部品の具体例としては、車載用ICチップモジュール等が挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
第一成形品の材料として、以下の1)、及び2)の材料を用いた。
1)ジュラネックス303RA(ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、ガラス繊維15質量%配合、ウィンテックポリマー株式会社製)
2)ハイトレル5557(ポリエステルエラストマー、東レ・デュポン株式会社製)
【0067】
また、第二成形品の材料として、ジュラネックス305RA(ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、ガラス繊維15質量%配合、ウィンテックポリマー株式会社製)を用いた。
【0068】
電子基板として、厚さ1.6mm、縦横各45mmの形状の、ガラスエポキシ基板を用いた。
【0069】
〔参考例〕
(第一成形品の作成)
気密電子部品における、圧縮された第一成形品の高さ(電子基板の面方向に対して垂直方向の、電子基板の表面から第一成形品の表面までの距離)に対して、高さが3.0%高い形状の未圧縮の第一成形品(実施例3で使用)を、ジュラネックス303RAを使用し射出成形により製造した。第一成形品の断面形状は、図1(a)に示されるL字型の形状であった。
【0070】
気密電子部品における圧縮された第一成形品の高さに対して、高さが3.0%高い形状の未圧縮の第一成形品を、切削して、気密電子部品における圧縮された第一成形品の高さに対して、高さが0.5%高い第一成形品(実施例1で使用)、高さが2.0%高い第一成形品(実施例2で使用)、及び高さが同じである第一成形品(比較例1で使用)を作成した。
【0071】
また、材料をハイトレル5557に変えることの他は、実施例3で使用する形状と同じ形状の第一成形品(実施例4で使用)を作成した。
【0072】
〔実施例1〜3〕
型締め時に0.5〜3.0%の所定の圧縮歪が生じるように形状を調整された第一成形品を、電子基板の前面、及び後面に対称的になるように配置した。次いで、第一成形品が配置された電子基板を金型に載置し、型締めして、第一成形品に所定の圧縮歪を付与した。その後、ジュラネックス305RAを使用して、射出成形により、電子基板の、前面、後面、及び側面を被覆するように、第二成形品を形成して気密電子部品を得た。なお、気密電子部品における、第二成形品の高さ(電子基板の面方向に対して垂直方向の、電子基板の表面から第一成形品の表面までの距離)は、第一成形品の同じ高さである。得られた気密電子部品について、気密電子部品5個を用いて、下記の方法に従いインク浸入試験を行い、第二成形品で被覆された気密部の気密性を確認した。実施例1〜3で得た気密電子部品について、気密電子部品5個中の、気密性が不十分であった気密電子部品の数を、表1に示す。
【0073】
<インク浸入試験>
得られた封止電子部品を、赤インクに浸漬し、23℃で1時間放置し、次いで、封止電子部品表面に付着したインクを拭き取り、第一成形品、及び第二成形品を、工具を用いて電子基板から剥離し、気密部へのインクの浸入の有無を目視にて確認する。
【0074】
〔実施例4〕
ハイトレル5557で作成された、型締めに時に3.0%の圧縮歪が生じる形状の第一成形品を用いることの他は、実施例1と同様にして気密電子部品を得た。実施例4で得た気密電子部品のインク浸入試験の結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例1〕
型締め時に圧縮歪の生じない第一成形品を用いる他は、実施例1と同様にして気密成形品を得た。比較例1で得た気密電子部品のインク浸入試験の結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から、実施例1〜4と、比較例1との比較により、第一成形品に型締力により圧縮歪を与えた後に、第二成形品を形成して気密電子部品を製造する場合、気密電子部品における気密不良の発生を抑制できることが分かる。また、実施例1、及び2と、実施例3との比較により、第一成形品の材料が、充填材を含む熱可塑性樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)である場合、圧縮歪の量を0.5%以上2.0%以下とすることにより、気密不良の発生が効果的に抑制されることが分かる。一方、実施例4によれば、第一成形品の材料が熱可塑性エラストマーである場合、圧縮歪みの量が2.0%を超えていても、極めて優れる気密不良の発生の抑制効果が得られることが分かる。
【0078】
比較例1で得られた気密成形品についてインク浸入試験を行った結果、試験した5個の気密電子部品全てにおいて、第二成形品部分へのインクの侵入が確認された。つまり、第一成形品に圧縮歪を付与しない場合、第一成形品と電子基板との間に微小な隙間が生じるため、気密電子部品の気密性が不十分となることが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1 気密部
11 電子基板
12 第一成形品
13 第二成形品
14 被気密部材
15 蓋材
21 端子付き電子基板
22 端子
23 第一成形品
24 上型
25 下型
26 キャビティ
27 第二成形品
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置する工程、
2)前記第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により前記第一成形品に圧縮歪を付与する工程、及び、
3)前記第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成する工程、
の工程を含み、
電子基板上に形成され、前記気密域を覆って気密する気密部の少なくとも一部が、前記第一成形品、及び前記第二成形品からなる複合体である、
気密電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記第一成形品の材料が充填材を含有する熱可塑性樹脂であって、前記圧縮歪が、0.5%以上2.0%以下である、請求項1記載の気密電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記第一成形品を前記電子基板上に射出成形する、請求項1又は2記載の気密電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記第一成形品の材料が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項1から3何れか記載の気密電子部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4何れか記載の方法により製造される気密電子部品。
【請求項1】
1)電子基板上の気密域の近傍に第一成形品を配置する工程、
2)前記第一成形品が配置された電子基板を射出成形用の金型に載置し、型締力により前記第一成形品に圧縮歪を付与する工程、及び、
3)前記第一成形品の圧縮歪を保持する第二成形品を射出成形により形成する工程、
の工程を含み、
電子基板上に形成され、前記気密域を覆って気密する気密部の少なくとも一部が、前記第一成形品、及び前記第二成形品からなる複合体である、
気密電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記第一成形品の材料が充填材を含有する熱可塑性樹脂であって、前記圧縮歪が、0.5%以上2.0%以下である、請求項1記載の気密電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記第一成形品を前記電子基板上に射出成形する、請求項1又は2記載の気密電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記第一成形品の材料が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項1から3何れか記載の気密電子部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4何れか記載の方法により製造される気密電子部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−161921(P2012−161921A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21473(P2011−21473)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
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