説明

水平多関節ロボット及び水平多関節ロボットの制御方法

【課題】制振制御に用いられる角速度センサーの数を低減するとともに該角速度センサーに接続される電気配線に要求される耐久性を低くした水平多関節ロボット及び水平多関節ロボットの制御方法を提供する。
【解決手段】ロボットは、基台に連結される第1水平アームと、第1水平アームを介して前記基台に連結される第2水平アーム15と、各アームを回転させる第1及び第2モーター13,16と、各モーターの回転角度及び回転速度を算出するための第1及び第2エンコーダー13E,16Eとを有している。第1モーター制御部43は、角速度センサー30が検出したセンサー角速度ωA2から第1及び第2エンコーダー13E,16Eに基づく第1及び第2角速度ωA1m,ωA2mを減算し、演算結果である振動角速度ωA1sに基づく振動速度V1sと第1回転速度V1fbとの加算した速度計測値が速度指令Vcとなるように第1モーター13を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、角速度センサーを備えた水平多関節ロボット、及び水平多関節ロボットの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に記載のように、アームの角速度を検出する角速度センサーを用いて該アームを制振制御する水平多関節ロボットが知られている。特許文献1に記載の水平多関節ロボットの基台には、基台に対して回転可能に第1アームが連結され、また、該第1アームの先端には、第1アームに対して回転可能に第2アームが連結されている。
【0003】
そして、上記第1アームが第1駆動源の駆動力を受けて回転する際には、第1アームの回転角度が、第1駆動源の回転角を検出する第1角度センサーによって検出され、また、基体に対する第1アームの角速度が、第1アームに搭載された第1角速度センサーによって検出される。この際、第1駆動源の駆動態様を制御するロボットコントローラでは、第1角度センサー及び第1角速度センサーが検出したデータに基づいて、該検出されるデータが所定の値となるように、第1駆動源に対するフィードバック制御が実行される。
【0004】
また、上記第2アームが第2駆動源の駆動力を受けて回転する際には、第2アームの回転角度が、第2駆動源の回転角を検出する第2角度センサーによって検出され、また、基体に対する第2アームの角速度が、第2アームに搭載された第2角速度センサーによって検出される。この際、上述したロボットコントローラでは、第1駆動源に対する制御の態様と同様に、第2角度センサー及び第2角速度センサーが検出したデータに基づき、該検出されるデータが所定の値となるように、第2駆動源に対するフィードバック制御が実行される。これにより、第1及び第2アームの制振制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−242794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した各角速度センサーを駆動するためには、角速度センサーに電源を供給する配線や角速度センサーの検出信号を送信する配線など、角速度センサーとコントローラーとの間に各種の電気配線を接続することが必要になる。こうした電気配線は、角速度センサーの他、駆動源にも必要とされるものであって、通常、中空の基体を通して外部のコントローラーに接続されている。そのため、上述した水平多関節ロボットのように、第1アーム及び第2アームに各別に角速度センサーが配置されている場合には、角速度センサーの数量と同じ数量の電気配線が必要になる。その結果、角速度センサー用の電気配線を引き回す作業が煩雑なものになる。
【0007】
一方、第1アームに生じた振動は、通常、第1アームに連結された他のアームによって増幅されて、その後、水平多関節ロボットのエンドエフェクターに伝わる。そのため、上述した第2角度センサー及び第2角速度センサーを割愛するとともに、第1角速度センサーの検出結果に基づく第1駆動源の制振制御のみを行うことによって、エンドエフェクターの振動を抑えることも可能ではある。しかし、第1アームが基体に対して描く軌道には、通常、他のアームが基体に対して描く軌道と比較して、小さい曲率の軌道が多く含まれる。そのため、第1アームから引き出される電気配線に対しては、他のアームから引き出
される電気配線と比較して、折り曲げられる機会が多くなり、また折り曲げ箇所における曲率が小さくもなる。それゆえに、第1角速度センサーに接続される電気配線には、第2角速度センサーに接続される電気配線よりも高い耐久性が求められるため、結局のところ、こうした電気配線の配置に関わる制約や同電気配線を引き回すことの煩雑さが依然として残ることになる。
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、制振制御に用いられる角速度センサーの数を低減するとともに該角速度センサーに接続される電気配線に要求される耐久性を低くした水平多関節ロボット及び水平多関節ロボットの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水平多関節ロボットは、少なくとも関節を介して基台に連結される基端を有して第1モーターの駆動により回転する第1アームと、前記第1モーターの回転速度を計測する第1速度計測部と、前記第1速度計測部の計測値に基づく速度計測値が速度指令値となるように前記第1モーターをフィードバック制御する制御部とを備える水平多関節ロボットであって、前記第1アームの先端に連結されて第2モーターの駆動により回転する第2アームと、前記第2モーターの回転速度を計測する第2速度計測部と、前記第1モーターの回転速度から前記第1アームの角速度を算出し、且つ前記第2モーターの回転速度から前記第2アームの角速度を算出する角速度算出部と、前記第2アームに配置されて角速度を検出する角速度センサーとを備え、前記制御部は、前記角速度センサーの検出値から前記第1アームの角速度と前記第2アームの角速度とを減算して該減算の結果である振動角速度から該振動角速度に応じた前記第1モーターの回転速度である振動速度を算出し、前記第1速度計測部の計測値と前記振動速度との加算値を前記速度計測値とする。
【0010】
上述した発明の水平多関節ロボットに関し、角速度センサーによって検出される角速度は、対応するモーターの回転速度に基づく各アームの角速度と振動に基づく各アームの角速度とを含む角速度である。そのため、対応するモーターの回転速度に基づくアームの角速度をアームごとに求め、その求めた角速度を角速度センサーが検出した角速度から減算することによって、振動によるアームの角速度である振動角速度を求めることが可能である。上記構成の水平多関節ロボットでは、第1及び第2速度計測部の計測値に基づいて第1及び第2アームの角速度が算出され、これらの角速度が角速度センサーの検出値から減算されることで振動角速度が算出される。そして、該振動角速度に応じた第1モーターの回転速度である振動速度と第1速度計測部の計測値との加算値である速度計測値が、速度指令値となるように第1モーターが制御される。すなわち、アームの振動の分をも加味した第1モーターの回転速度が速度指令値となるように第1モーターが制御されることから、第1アームの振動を抑えることができる。
【0011】
すなわち、第1アームに角速度センサーを配置する必要がなくなることから、配置される角速度センサーの数を低減するとともに該角速度センサーに接続される電気配線の数を低減することができる。その結果、角速度センサーに関わる電気配線を引き回す作業が煩雑になることを抑えることができる。そのうえ、角速度センサーが第2アームに配置されていることから、第1アームに配置される角速度センサーに接続される電気配線に比べて、折り曲げられる機会が少なくなるとともに折り曲げ箇所における曲率も大きくなる。その結果、角速度センサーに接続される電気配線に要求される耐久性を低くすることもできる。
【0012】
この水平多関節ロボットは、前記第1モーターの回転角度を検出する第1位置検出部を備え、前記制御部は、前記第1位置検出部の検出値と位置指令値との偏差から前記速度指令値を算出する。
【0013】
この水平多関節ロボットによれば、速度指令値が第1位置検出部の検出値と位置指令値との偏差であることから、第1アームの振動を抑えつつ、該第1アームの位置を位置指令値が示す位置に制御することができる。
【0014】
この水平多関節ロボットは、前記第2モーターの回転角度を検出する第2位置検出部を備え、前記第1速度計測部は、前記第1位置検出部の検出値から前記第1モーターの回転角度を算出し、前記第2速度計測部は、前記第2位置検出部の検出値から前記第2モーターの回転角度を算出する。
【0015】
この水平多関節ロボットのように、第1速度計測部は、第1位置検出部の検出値から第1モーターの回転角度を算出することができる。また、第2速度計測部は、第2位置検出部の検出値から第2モーターの回転速度を算出することができる。
【0016】
この水平多関節ロボットにおいて、前記第1アームは、関節を介して基台に連結されたアームである。
この水平多関節ロボットによれば、基台に連結されているアームを制振制御することができる。
【0017】
本発明の水平多関節ロボットの制御方法は、少なくとも関節を介して基台に連結される基端を有する第1アームを回転させる第1モーターの回転速度を計測し、その計測された回転速度に基づく速度計測値が速度指令値となるように前記第1モーターをフィードバック制御する水平多関節ロボットの制御方法であって、前記第1アームの先端に連結された第2アームを回転させる第2モーターの回転速度を計測するステップと、前記計測された第1モーターの回転速度から前記第1アームの角速度を算出するステップと、前記計測された第2モーターの回転速度から前記第2アームの角速度を算出するステップと、前記第2アームに配置された角速度センサーの検出値を取得するステップとを備え、前記角速度センサーの検出値から前記第1アームの角速度と前記第2アームの角速度とを減算して該減算の結果である振動角速度から該振動角速度に応じた前記第1モーターの回転速度である振動速度を算出し、前記計測された第1モーターの回転速度と前記振動速度との加算値を前記速度計測値とする。
【0018】
本発明の水平多関節ロボットの制御方法によれば、第2アームに配置された角速度センサーの検出値に基づいて第1アームを制振制御することができることから、配置される角速度センサーの数を低減するとともに該角速度センサーに接続される電気配線の数を低減することができる。その結果、角速度センサーに関わる電気配線を引き回す作業が煩雑になることを抑えることができる。そのうえ、角速度センサーが第2アームに配置されていることから、第1アームに配置される角速度センサーに接続される電気配線に比べて、折り曲げられる機会が少なくなるとともに折り曲げ箇所における曲率も大きくなる。その結果、角速度センサーに接続される電気配線に要求される耐久性を低くすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるロボットの正面構造を示す正面図。
【図2】ロボットの電気的構成を示す電気ブロック回路図。
【図3】第1モーター制御部の機能的な構成を示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかる水平多関節ロボットの一実施の形態について、図1〜図3を参照して説明する。
図1に示されるように、ロボット10における基台11の上端部には、鉛直方向に沿う
軸心C1を中心にして、基台11に対して回転する第1アームとしての第1水平アーム12の基端部が連結されている。基台11内には、第1水平アーム12を回転させる第1モーター13と、該第1モーターの回転軸13aに連結され、出力軸14aが第1水平アーム12に連結固定された第1減速機14とが設置されている。そして、第1モーター13の駆動力が第1減速機14を介して第1水平アーム12に伝達されると、第1水平アーム12は、基台11に対して水平面内で回転する。また、第1モーター13には、該第1モーター13の回転量に応じたパルス信号を出力する第1位置検出部としての第1エンコーダー13Eが設けられている。
【0021】
第1水平アーム12の先端部には、鉛直方向に沿う軸心C2を中心にして第1水平アーム12に対して回転する第2アームとしての第2水平アーム15が連結されている。第2水平アーム15を構成するアーム本体15aの内部には、第2水平アーム15を回転させる第2モーター16と、該第2モーター16の回転軸16aに連結されて出力軸17aが第1水平アーム12に連結固定された第2減速機17とが設置されている。そして、第2モーター16の駆動力が第2減速機17を介して第2水平アーム15に伝達されると、第2水平アーム15は、軸心C2を中心にして第1水平アーム12に対して水平面内で回転する。また、第2モーター16には、該第2モーター16の回転量に応じたパルス信号を出力する第2位置検出部としての第2エンコーダー16Eが設けられている。こうしたアーム本体15aの上側は、その全体がアームカバー18によって覆われている。
【0022】
第2水平アーム15の先端部には、アーム本体15aとアームカバー18とを貫通し、第2水平アーム15に対して変位するスプラインシャフト19が設けられている。スプラインシャフト19は、第2水平アーム15の先端部に配置されたスプラインナット19Sに嵌め合わされるように挿通され、第2水平アーム15に対して回転可能に、かつ、上下方向に移動可能に支持されている。
【0023】
第2水平アーム15内には、回転モーター20が設置され、回転モーター20の駆動力は、図示しないベルトを介してスプラインナット19Sに伝達される。回転モーター20がスプラインナット19Sを正逆回転すると、スプラインシャフト19は鉛直方向に沿う軸心C3を中心にして正逆回転する。回転モーター20には、該回転モーター20の回転量に応じたパルス信号を出力する第3エンコーダー20Eが設けられている。
【0024】
第2水平アーム15内には、ボールねじナット19Bを正逆回転する昇降モーター21が設置されている。昇降モーター21がボールねじナット19Bを正逆回転すると、スプラインシャフト19は鉛直方向に昇降する。昇降モーター21には、該昇降モーター21の回転量に応じたパルス信号を出力する第4エンコーダー21Eが設けられている。スプラインシャフト19の下端に連結された作業部25には、例えば被搬送物を把持するものや被加工物を加工するもの等の取り付けが可能になっている。
【0025】
また、第2水平アーム15内には、基台11に対する第2水平アーム15の角速度を測定する角速度センサー30が配設されている。角速度センサー30は、本実施形態では、水晶型振動子を用いた振動型のジャイロスコープを採用している。第2水平アーム15における上側には、他端が基台11に連結された配管部材として可撓性を有する配線ダクト33の一端が連結されている。第2モーター16や第2エンコーダー16E、回転モーター20、昇降モーター21等、第2水平アーム15内に設置されている各機器に接続される電気配線は、配線ダクト33内を通じて第2水平アーム15内から基台11内まで引き回される。
【0026】
そして、第2水平アーム15内から基台11内まで引き回された各電気配線は、基台11内でまとめられることによって、上記第1モーター13及び第1エンコーダー13Eに
接続される電気配線とともに、基台11の外部に設置されロボット10を統括制御する制御装置40まで引き回される。制御装置40は、角速度センサー30等から入力される各種信号に基づいて第1水平アーム12の角速度を演算し、該第2水平アーム15の振動が抑制されるように第1モーター13を制御する。
【0027】
次に、制御装置40の電気的構成について図2を参照して説明する。
図2に示されるように、制御装置40の位置指令生成部41は、ロボット10が行う処理の内容に基づいて作業部25の目標位置を演算し、該目標位置に作業部25を移動させるための軌道を生成する。また、位置指令生成部41は、該軌道に沿って作業部25が移動するように、各モーター13,16,20,21の回転角度を所定の制御周期ごとに演算し、該演算の結果である目標回転角度を第1位置指令Pc、第2位置指令Pc2、第3位置指令Pc3、第4位置指令Pc4としてモーター制御部42に出力する。
【0028】
モーター制御部42は、第1モーター制御部43、第2モーター制御部44、回転モーター制御部45、及び昇降モーター制御部46によって構成されている。
第1モーター制御部43には、位置指令値である第1位置指令Pcの他、第1エンコーダー13E、第2エンコーダー16E、及び角速度センサー30の各々から検出信号が入力される。第1モーター制御部43は、第1エンコーダー13Eの検出信号から算出される回転角度が第1位置指令Pcになるように、各検出信号を用いたフィードバック制御によって第1モーター13を駆動する。
【0029】
第2モーター制御部44には、第2位置指令Pc2の他、第2エンコーダー16Eから検出信号が入力される。第2モーター制御部44は、第2エンコーダー16Eの検出信号から算出される回転角度が第2位置指令Pc2になるように、これらを用いたフィードバック制御によって第2モーター16を駆動する。
【0030】
回転モーター制御部45には、第3位置指令Pc3の他、第3エンコーダー20Eから検出信号が入力される。回転モーター制御部45は、第3エンコーダー20Eの検出信号から算出される回転角度が第3位置指令Pc3になるように、これらを用いたフィードバック制御によって回転モーター20を駆動する。
【0031】
昇降モーター制御部46には、第4位置指令Pc4の他、第4エンコーダー21Eから検出信号が入力される。昇降モーター制御部46は、第4エンコーダー21Eの検出信号から算出される回転角度が第4位置指令Pc4になるように、これらを用いたフィードバック制御によって昇降モーター21を駆動する。
【0032】
次に、第1モーター制御部43の構成について図3を参照して説明する。
図3に示されるように、第1モーター制御部43の第1減算器51には、位置指令生成部41から第1位置指令Pcが入力され、また、回転角度算出部52から位置フィードバック値Pfbが入力される。回転角度算出部52では、第1エンコーダー13Eから入力されるパルス数がカウントされるとともに、カウント値に応じた第1モーター13の回転角度が位置フィードバック値Pfbとして第1減算器51に出力される。第1減算器51は、これら第1位置指令Pcと位置フィードバック値Pfbとの偏差を位置制御部53に出力する。
【0033】
位置制御部53は、第1減算器51から入力された偏差に予め定められた係数である位置比例ゲインKpを乗算することによって、該偏差に応じた第1モーター13の回転速度を演算する。位置制御部53は、上記第1モーター13の回転速度である速度指令値を示す信号を速度指令Vcとして第2減算器54に出力する。
【0034】
第2減算器54には、上記速度指令Vcの他、回転速度演算部55から速度計測値としての速度フィードバック値Vfbが入力される。第2減算器54は、これら速度指令Vcと速度フィードバック値Vfbとの偏差を速度制御部63に出力する。
【0035】
速度制御部63は、第2減算器54から入力された偏差に予め定められた係数である速度比例ゲインKv等を用いた所定の演算処理を行うことで、該偏差に応じた第1モーター13のトルク指令Tcをトルク制御部64に出力する。トルク制御部64は、トルク指令Tcに応じた電流を生成して第1モーター13に供給する。
【0036】
次に、回転速度演算部55の構成について詳しく説明する。
回転速度演算部55は、第1回転速度算出部56、第1角速度算出部57、加減算器58、第2回転速度算出部59、第2角速度算出部60、振動速度算出部61、加算器62によって構成されている。
【0037】
第1速度計測部としての第1回転速度算出部56では、第1エンコーダー13Eからパルス信号が入力され、該パルス信号の周波数に基づいて、第1モーター13の回転速度である第1回転速度V1fbが算出される。そして、第1回転速度算出部56は、この第1回転速度V1fbを第1角速度算出部57と加算器62とに出力する。
【0038】
角速度算出部を構成する第1角速度算出部57では、第1減速機14の減速比N1と第1回転速度V1fbとが乗算されることで、第1水平アーム12の角速度である第1角速度ωA1mが第1モーター13の回転速度に基づいて算出される。そして、第1角速度算出部57は、この第1角速度ωA1mを加減算器58に出力する。
【0039】
角速度算出部を構成する第2速度計測部としての第2回転速度算出部59では、第2エンコーダー16Eからパルス信号が入力され、該パルス信号の周波数に基づいて第2モーター16の第2回転速度V2fbが算出される。そして、第2回転速度算出部59は、この第2回転速度V2fbを第2角速度算出部60に出力する。
【0040】
第2角速度算出部60では、第2減速機17の減速比N2と第2回転速度V2fbとが乗算されることで、第2水平アーム15の角速度である第2角速度ωA2mが第2モーター16の回転速度に基づいて算出される。そして、第2角速度算出部60は、この第2角速度ωA2mを加減算器58に出力する。
【0041】
加減算器58には、第1角速度ωA1m、第2角速度ωA2mに加えて、角速度センサー30の検出信号であるセンサー角速度ωA2が入力される。ここで、上述した構成からなるロボット10では、角速度センサー30の配置された第2水平アーム15が、下記(a)(b)(c)の角加速度が合成された角加速度で回転している。
(a)第1モーター13の回転速度に応じた第1角速度ωA1m
(b)第2モーター16の回転速度に応じた第2角速度ωA2m
(c)第1水平アーム12を介して第2水平アーム15に伝わる振動に基づく振動角速度ωA1s
それゆえに、角速度センサー30が出力するセンサー角速度ωA2には、第1角速度ωA1m、第2角速度ωA2m、及び振動角速度ωA1sが含まれている。加減算器58では、上記センサー角速度ωA2から上記(a)第1角速度ωA1mと上記(b)第2角速度ωA2mとが減算される。そして、加減算器58は、この減算結果である振動角速度ωA1sを振動速度算出部61に出力する。
【0042】
振動速度算出部61では、振動角速度ωA1sに対して所定の比例ゲインKgpが乗算されることで、振動角速度ωA1sを相殺するような第1モーター13の回転速度が振動
速度V1sとして算出される。そして、振動速度算出部61は、この算出結果である振動速度V1sを加算器62に出力する。
【0043】
加算器62では、第1回転速度V1fbと振動速度V1sとが加算される。加算器62は、その加算結果である補正回転速度V1aを速度フィードバック値Vfbとして第2減算器54に出力する。
【0044】
次に、上述した構成からなるロボット10の作用のうち、主に第1モーター制御部43による第1モーター13の制御の態様について説明する。
位置指令生成部41から第1モーター制御部43に第1位置指令Pcが入力されると、第1位置指令Pcと位置フィードバック値Pfbとの偏差が位置制御部53に出力される。次いで、該偏差に応じた速度指令Vcが位置制御部53から出力されて、速度指令Vcと速度フィードバック値Vfbとの偏差が速度制御部63に出力される。
【0045】
この際、速度フィードバック値Vfbが第1回転速度V1fbと振動速度V1sとの加算値であるため、速度制御部63に入力される偏差は、こうした振動速度V1s分が除かれた値、すなわち振動速度V1sを相殺するような値となっている。そして、速度制御部63から上記偏差に応じたトルク指令Tcが出力され、次いで、トルク制御部64から該トルク指令Tcに応じた電流が第1モーター13に供給される。
【0046】
こうした構成によれば、例えば、第1水平アーム12が振動によって速度指令Vcよりも大きい角速度で回転している場合、補正回転速度V1aが第1回転速度V1fbよりも振動速度V1sの分だけ小さくなる。こうした速度偏差に基づくトルク指令Tcは、第1水平アーム12を第1位置指令Pcが示す位置へと移動させつつ、且つ、上記振動の分だけ第1モーター13の回転速度を抑えるトルク指令である。それゆえに、振動を打ち消すようなトルク指令で第1モーター13が駆動される結果、第1水平アーム12が制振されることとなる。
【0047】
また例えば、第1水平アーム12が振動によって速度指令Vcよりも小さい角速度で回転している場合、補正回転速度V1aが第1回転速度V1fbよりも振動速度V1sの分だけ大きくなる。こうした速度偏差に基づくトルク指令Tcは、第1水平アーム12を第1位置指令Pcが示す位置へと移動させつつ、且つ、振動の分だけ第1モーター13の回転速度を大きくするトルク指令である。それゆえに、これもまた振動を打ち消すようなトルク指令で第1モーター13が駆動される結果、第1水平アーム12が制振されることとなる。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態に係るロボット10によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)上記実施形態によれば、第2水平アーム15に配置された角速度センサー30の検出信号であるセンサー角速度ωA2に基づいて、第1水平アーム12を制振制御することができる。すなわち、第1水平アーム12に角速度センサー30を配置する必要がなくなることから、第1及び第2アームのそれぞれに角速度センサーが配置されている構成に比べて、角速度センサーに接続される電気配線の数を低減することができるとともに、電気配線の引き回し作業が煩雑になることを抑えることができる。
【0049】
(2)そのうえ、角速度センサー30が第2水平アーム15に配置されていることから、第1水平アーム12に配置される角速度センサーに比べて、該角速度センサー30に接続される電気配線に関し、折り曲げられる機会を少なくなるとともに折り曲げ箇所における曲率も大きくすることができる。その結果、角速度センサー30に接続される電気配線に要求される耐久性を低くすることができる。
【0050】
(3)上記実施形態によれば、速度指令Vcが回転角度算出部52からの位置フィードバック値Pfbと第1位置指令Pcとの偏差に基づく値であることから、第1水平アーム12の振動を抑えつつ、該第1水平アーム12の位置を第1位置指令Pcが示す位置に制御することができる。
【0051】
なお、上記実施の形態は、以下のように適宜変更して実施することも可能である。
・上記実施形態において、第1モーター13の補正回転速度V1aを取得するうえでは、第1回転速度算出部56及び第1角速度算出部57が割愛される構成であってもよい。こうした構成における加減算器58では、第1水平アーム12に関し、角速度センサー30からのセンサー角速度ωA2と第2モーター16による回転の第2角速度ωA2mとの差分が演算結果として振動速度算出部61に出力されることになる。そして、振動速度算出部61において、所定の比例ゲインKgpが乗算されることによって補正回転速度V1aが算出されることになる。その結果、上記(1)〜(3)に記載した効果を得ることができるだけでなく、第1モーター制御部43の構成を簡素化することができる。
【0052】
・上記実施形態のロボット10は、基台11に連結された第1水平アーム12と、第1水平アーム12を介して基台11に連結される第2水平アーム15とを有している。これに限らず、ロボットは、例えば、第1及び第2水平アーム12,15を介して基台に連結される第3水平アームを有していてもよい。また例えば、基台11に連結された第3水平アームに第1水平アーム12が連結されていてもよい。
【0053】
・上記実施形態において第1回転速度算出部56は、第1エンコーダー13Eから入力されるパルス信号の周波数に基づいて第1モーター13の回転速度を検出した。これに限らず、第1モーター13の回転角度を算出するうえでは、例えば、速度センサーを別途配置して該速度センサーの検出値から第1モーター13の回転速度を算出してもよい。なお、同様のことが第2回転速度算出部59にもいえる。
【0054】
・上記実施形態のロボット10では、位置制御部53において、位置指令生成部41からの第1位置指令Pcと回転角度算出部52が算出した位置フィードバック値Pfbとの偏差に応じた速度指令Vcが算出されている。これに限らず、例えば、位置指令生成部41が作業部25の目標位置に応じて制御周期ごとの速度指令Vcを予め演算し、その速度指令Vcを第2減算器54に出力することによって、第1減算器51、回転角度算出部52、位置制御部53が割愛される構成であってもよい。
【0055】
・上記実施形態の第1モーター制御部43には、第1エンコーダー13Eから入力される信号に基づいて第1モーター13の第1回転速度V1fbを取得し、該第1回転速度V1fbを第1角速度算出部57に出力する第1回転速度算出部56が設けられている。
【0056】
これに限らず、第1モーター制御部43の外部から第1角速度算出部57に第1回転速度V1fbを入力可能に、あるいは、第1角速度算出部57が第1エンコーダー13Eからの信号によって第1回転速度V1fbを取得可能に構成することで第1回転速度算出部56を割愛してもよい。なお、同様のことが第2回転速度算出部59及び第2角速度算出部60にもいえる。
【符号の説明】
【0057】
C1,C2,C3…軸心、Kp…位置比例ゲイン、Kv…速度比例ゲイン、Kgp…比例ゲイン、N1,N2…減速比、Tc…トルク指令、Vc…速度指令、Pc…第1位置指令、Pc2…第2位置指令、Pc3…第3位置指令、Pc4…第4位置指令、Pfb…位置フィードバック値、ωA1m…第1角速度、ωA1s…振動角速度、ωA2…センサー
角速度、ωA2m…第2角速度、V1a…補正回転速度、V1s…振動速度、Vfb…速度フィードバック値、V1fb…第1回転速度、V2fb…第2回転速度、10…ロボット、11…基台、12…第1水平アーム、13…第1モーター、13a…回転軸、13E…第1エンコーダー、14…第1減速機、14a…出力軸、15…第2水平アーム、15a…アーム本体、16…第2モーター、16a…回転軸、16E…第2エンコーダー、17…第2減速機、17a…出力軸、18…アームカバー、19…スプラインシャフト、19B…ボールねじナット、19S…スプラインナット、20…回転モーター、20E…第3エンコーダー、21…昇降モーター、21E…第4エンコーダー、25…作業部、30…角速度センサー、33…配線ダクト、40…制御装置、41…位置指令生成部、42…モーター制御部、43…第1モーター制御部、44…第2モーター制御部、45…回転モーター制御部、46…昇降モーター制御部、51…第1減算器、52…回転角度算出部、53…位置制御部、54…第2減算器、55…回転速度演算部、56…第1回転速度算出部、57…第1角速度算出部、58…加減算器、59…第2回転速度算出部、60…第2角速度算出部、61…振動速度算出部、62…加算器、63…速度制御部、64…トルク制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも関節を介して基台に連結される基端を有して第1モーターの駆動により回転する第1アームと、前記第1モーターの回転速度を計測する第1速度計測部と、前記第1速度計測部の計測値に基づく速度計測値が速度指令値となるように前記第1モーターをフィードバック制御する制御部とを備える水平多関節ロボットであって、
前記第1アームの先端に連結されて第2モーターの駆動により回転する第2アームと、
前記第2モーターの回転速度を計測する第2速度計測部と、
前記第1モーターの回転速度から前記第1アームの角速度を算出し、且つ前記第2モーターの回転速度から前記第2アームの角速度を算出する角速度算出部と、
前記第2アームに配置されて角速度を検出する角速度センサーとを備え、
前記制御部は、
前記角速度センサーの検出値から前記第1アームの角速度と前記第2アームの角速度とを減算して該減算の結果である振動角速度から該振動角速度に応じた前記第1モーターの回転速度である振動速度を算出し、前記第1速度計測部の計測値と前記振動速度との加算値を前記速度計測値とすることを特徴とする水平多関節ロボット。
【請求項2】
前記第1モーターの回転角度を検出する第1位置検出部を備え、
前記制御部は、
前記第1位置検出部の検出値と位置指令値との偏差から前記速度指令値を算出する
請求項1に記載の水平多関節ロボット。
【請求項3】
前記第2モーターの回転角度を検出する第2位置検出部を備え、
前記第1速度計測部は、前記第1位置検出部の検出値から前記第1モーターの回転速度を算出し、
前記第2速度計測部は、前記第2位置検出部の検出値から前記第2モーターの回転速度を算出する
請求項2に記載の水平多関節ロボット。
【請求項4】
前記第1アームは、関節を介して基台に連結されたアームである
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水平多関節ロボット。
【請求項5】
少なくとも関節を介して基台に連結される基端を有する第1アームを回転させる第1モーターの回転速度を計測し、その計測された回転速度に基づく速度計測値が速度指令値となるように前記第1モーターをフィードバック制御する水平多関節ロボットの制御方法であって、
前記第1アームの先端に連結された第2アームを回転させる第2モーターの回転速度を計測するステップと、
前記計測された第1モーターの回転速度から前記第1アームの角速度を算出するステップと、
前記計測された第2モーターの回転速度から前記第2アームの角速度を算出するステップと、
前記第2アームに配置された角速度センサーの検出値を取得するステップとを備え、
前記角速度センサーの検出値から前記第1アームの角速度と前記第2アームの角速度とを減算して該減算の結果である振動角速度から該振動角速度に応じた前記第1モーターの回転速度である振動速度を算出し、前記計測された第1モーターの回転速度と前記振動速度との加算値を前記速度計測値とする
ことを特徴とする水平多関節ロボットの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171052(P2012−171052A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35860(P2011−35860)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】