説明

水晶振動子及び水晶発振器

【課題】周波数安定度に優れる水晶発振器を低価格且つ短期間で提供することを目的とする。
【解決手段】水晶結晶軸のY軸に直交する面をX軸を中心として約34°回転すると共に、Z軸を中心として約20°〜25°回転した面から切り出された2回回転Yカットの水晶振動片と、水晶振動片を支持する為の支持端子とを備えた水晶振動子に於いて、水晶結晶軸のZ軸をX軸を中心として約34°回転させた方向をZZ'軸方向とした場合、水晶振動片のほぼ中央を中心として前記ZZ'軸より水晶振動面に沿って15°〜30°回転した範囲内に位置する水晶振動片の外周縁部と、105°〜120°回転した範囲内に位置する水晶振動片の外周縁部と、195°〜210°回転した範囲内に位置する水晶振動片の外周縁部と、285°〜300°回転した範囲内に位置する水晶振動片の外周縁部とをそれぞれ支持端子に固定したことを特徴とする2回回転Yカット水晶振動子及びびこれを使用した恒温槽型の水晶発振器。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は水晶振動子及び水晶発振器に関し、特に重力変化に対し優れた周波数安定度を有する2回回転Yカット水晶振動子及びこれを用いた水晶発振器に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に水晶発振器の振動源として用いられる水晶振動子は水晶振動片自身の自重の影響により周波数が変動(重力感度特性)する。その為、従来、特に基準信号源として用いられることから重力感度特性をも含めて高い周波数安定度を必要とする恒温槽型の水晶発振器としては、特開平11−214949号公報に開示されているような構成の水晶振動子が考案されている。
【0003】以下に先の公報にて開示された水晶振動子の構造を図4を用いて説明する。同図(a)に示す水晶振動子100は、一例として水晶結晶軸のY軸に直交する面を中心として約34°回転すると共に、Z軸を中心として約22°回転した面から切り出されたSCカット水晶振動片101と、金属製の基台102にハーメッチク構造により固定された端子103と、端子103と接続し且つ、水晶振動子片101を支える為の支持端子104とを備えると共に、水晶結晶軸のZ軸をX軸を中心として約34°回転させた方向をZZ'とした場合、水晶振動片101の振動面のほぼ中心を通過し且つ、ZZ'軸方向と交わる水晶振動片101の二つの外周縁部分Aと支持端子104とを導電性接着剤にて固定するよう構成した所謂2点支持タイプの水晶振動子である。
【0004】尚、水晶振動片101の表裏の振動面には励振電極105が設けられており、この励振電極は外周縁部分Aまで延長するリード電極106と導電性接着剤とを介して支持端子104と導通しており、更に、図示してはいないが水晶振動片101を気密封止するよう金属製の蓋を基台102に搭載している。そして上記のような構成の水晶振動子100の特徴とする点は支持端子104の一部分を円弧状とした所にある。
【0005】即ち、図4(b)は、支持端子104の平面構成図を、同図(c)は支持端子104のa−a'部分の断面構成図を示すものである。同図(b)に示すように支持端子104は、金属製の板であるが、その側面構造は同図(c)に示すように水晶振動片101と接続部分107以外の支柱部分108が円弧状に加工されており、これにより支持端子104の板厚み方向に対する剛性を高めている。
【0006】従って、このような剛性の高い支持端子104にて水晶振動片101を支えるよう構成された水晶振動子100は、水晶振動片101の自重による支持端子104の撓み量が少なくなり水晶振動子片101の揺れが抑えられるので、重力感度特性としては約3ppb/G程度の特性が得られる。一方上記のような水晶振動子100を使用した恒温槽水晶発振器としては図5に示すような構成のものが一般的である。
【0007】即ち、同図は、一般的な恒温槽型の水晶発振器をブロック図にて示したものである。同図に示す水晶発振器109は、水晶振動子100を金属ブロックからなる恒温槽110内に収納された状態にて温度制御回路111が制御するヒータ112により恒温槽110と共に所定の温度に加熱し、これにより水晶振動子100が環境温度の変化の影響を受けずに所定の周波数にて励振するので高安定の出力周波数を得ることができるものである。
【0008】
【本発明が解決しようとする課題】しかしながら、水晶発振器に於ける周波数安定度が重力感度特性、周波数温度特性、電源電圧変動特性等の周波数偏差量のトータル値として扱われるのが一般的である一方、水晶振動子特有のものである重力感度特性による周波数偏差を直接的に電子回路によって操作することが不可能である為、重力感度特性が劣悪なほど周波数温度特性及び電源電圧特性等の他の安定度特性を向上せしめ、重力感度特性が劣っている点を補う必要があり、これに伴い他の安定度特性の調整工程が複雑化するので水晶発振器の低価格化及び短期供給化に対応できない。
【0009】即ち、従来では当初、上記のような重力感度特性が3ppb/Gと比較的小さな値の水晶振動子100を使用することで周波数温度特性及び電源電圧変動特性等の他の安定度特性による重力感度特性の周波数偏差分のバックアップの比重を軽減し、これにより他の安定度特性の調整工程を簡素化することで水晶発振器の低価格化且つ短期供給化に努めてきたが、より低価格且つ短期供給が可能な水晶発振器を実現する為には、既に従来の構成の水晶振動子を使用した水晶発振器では限界が生じているという問題があった。尚、SCカット水晶振動子の不要振動を抑圧するものとしては特許第2531304号があるが、これには水晶結晶軸のZ軸から30°〜50°回転した板面を保持するもので、重力感度特性については全く考慮されていない。
【0010】本発明は水晶振動子の重力感度特性の向上を図ることによって短期間で低価格な水晶発振器を供給することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する為に本発明に係わる請求項1記載の発明は、水晶結晶軸のY軸に直交する面をX軸を中心として約34°回転すると共に、Z軸を中心として約20°〜25°回転した面から切り出された2回回転Yカットの水晶振動片と、該水晶振動片を支持する為の支持端子とを備えた水晶振動子に於いて、水晶結晶軸のZ軸をX軸を中心として約34°回転させた方向をZZ'軸方向とした場合、前記水晶振動片のほぼ中央を中心として前記ZZ'軸より該水晶振動面に沿って15°〜30°回転した範囲内に位置する前記水晶振動片の外周縁部と、105°〜120°回転した範囲内に位置する前記水晶振動片の外周縁部と、195°〜210°回転した範囲内に位置する前記水晶振動片の外周縁部と、285°〜300°回転した範囲内に位置する前記水晶振動片の外周縁部とをそれぞれ前記支持端子に固定したことを特徴とする。
【0012】請求項2記載の発明は、水晶結晶軸のY軸に直交する面をX軸を中心として約34°回転すると共に、Z軸を中心として約20°〜25°回転した面から切り出された2回回転Yカットの水晶振動片と、該水晶振動片を支持する為の支持端子とを備えた水晶振動子に於いて、水晶結晶軸のZ軸をX軸を中心として約34°回転させた方向をZZ'軸方向とした場合、前記水晶振動片のほぼ中央を中心として前記ZZ'軸より該水晶振動面に沿って約25°回転したZZ"軸と交わる前記水晶振動片の二個所の外周縁部及び、該水晶振動片のほぼ中央を中心として前記ZZ"軸とほぼ直交する軸と交わる前記水晶振動片の二個所の外周縁部を前記支持端子にそれぞれ固定するよう構成した2回回転Yカット水晶振動子を特徴とする。
【0013】請求項3記載の発明は請求項1または請求項2記載の発明に加え、前記水晶振動片がSCカット水晶振動片であることを特徴とする。
【0014】請求項4記載の発明は請求項1乃至請求項3記載の2回回転Yカット水晶振動子を備えた水晶発振器であることを特徴とする。
【0015】
【本発明の実施の形態】以下、図示した実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は本発明に基づく2回回転Yカット水晶振動子の一実施例の斜視構成図を示すものである。同図に示す水晶振動子1は、水晶結晶のY軸に直交する面を中心として約34°回転すると共に、Z軸を中心として約20°〜25°回転した面から切り出された水晶振動片2と金属製の基台3にハーメチック構造により固定された二本の支持端子4及び二本の支持端子5とを備えると共に、水晶結晶軸のZ軸を中心として約34°回転させた方向をZZ'軸とした場合、水晶振動片2の振動面のほぼ中央を中心として、ZZ'軸を水晶振動片2の振動面に沿って例えばα=15°〜30°回転したZZ"軸と交わる水晶振動片2の二個所の外周縁部Bを導電性接着剤を用いてそれぞれ支持端子4に固定すると共に、振動面のほぼ中央を中心として、ZZ'軸より水晶振動面に沿って105°〜120°回転した軸と交わる水晶振動片2の二個所の外周縁部Cを導線性接着剤を用いてそれぞれ支持端子5に固定するよう構成したものである。
【0016】即ち、ZZ'軸から見て、15°〜30°、105°〜120°、195°〜210°、285°〜300°の4点を支持端子4、5にて固定する。尚、図示はしていないが、水晶振動子1は、水晶振動片2の表裏の振動面にはそれぞれ励振電極と、励振電極と例えば支持端子4とを導通する為のリード電極とを備え、更に、水晶振動片2を気密封止する為に金属製の蓋を基台3に搭載するよう構成したものである。また、上記構成では、2つの外周縁部B同士及び2つの外周縁部C同士をそれぞれが対象となるように配置したが、必要とする重力感度特性が得る為にそれぞれの支持位置を上記支持範囲内(15°〜30°、105°〜120°、195°〜210°、285°〜300°)にて個別に調整するよう構成したものであっても構わない。
【0017】更に、外周縁部B、C共に導電性接着剤を塗布するとしたが、これは同種の接着剤を使用することにより接着剤の塗布工程及びアニール工程等の製造工程の簡略化を図ったものあり、このような配慮を必要としない場合は、リード電極との導通を必要としない支持端子との接続部分には非導電性接着剤を使用しても構わない。そして、このような4点支持構成とすることにより、従来の高剛性の支持端子を使用した水晶振動子では実現し得なかった3ppb/G以下の重力感度特性を有する水晶振動子が実現できる。
【0018】即ち、図2は、水晶振動子1の構造の例えばSCカット水晶振動子に於いて、横軸をα、縦軸を周波数偏差としてα=0°〜90°に於ける重力感度特性の変化を示したものである。尚、支持端子5と接続される外周縁部Cはα+90°の位置とした。同図から明らかなように、α=15°〜30°の範囲内で重力感度特性が3ppb/G未満であり、更に、α=20°〜30°の範囲内では重力感度特性が2ppb/G未満となり特にα=約25°では約1.5ppb/G以下と従来の水晶振動子の場合の重力感度特性(3ppb/G)と比較して周波数偏差量が約半分以下である最も優れた重力感度特性が得られる。
【0019】従って、上記のような構成の水晶振動子1を恒温槽型の水晶発振器の振動源として用いることにより、従来の2点支持構造の水晶振動子を使用した水晶発振器と比較して重力感度特性に優れるので周波数温度特性及び電源電圧変動特性等のその他の周波数安定度によるバックアップの負担を軽減することが可能である。尚、恒温槽型の水晶発振器としては、例えば先に図5を用いて説明した一般的な構成のものを用いればよく、その構成及び動作の説明についてはここでは省略する。
【0020】更に、約2ppb/G重力感度特性が得られれば十分である場合は、図2からも明らかなようにα=約60°〜90°に設定した水晶振動子1で足りる。また、上記では2回回転Yカット水晶振動子1として、SCカット水晶振動子を例にあげて効果を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばITカット水晶振動子等のその他の2回回転Yカット水晶振動子に適用しても上述したような機能を得ることができる。
【0021】更に、図3に示すような所謂2点支持構造の場合についてもZZ'軸に対して約15°〜30°回転した水晶振動片2の外周縁部Dを支持位置とすることにより、上述した所謂4点支持構造の水晶振動子1の重力感度特性には及ばないものの従来の場合の2点支持構造の水晶振動子が限界であった3ppb/G以下の重力感度特性が得られることも本発明を進める過程の中で判明した。
【0022】
【発明の効果】以上説明したように本発明に基づく水晶振動子及びこれを使用した水晶発振器は、水晶結晶軸のY軸に直交する面をX軸を中心として約34°回転すると共に、Z軸を中心として約20°〜25°回転した面から切り出された2回回転Yカットの水晶振動片と、水晶振動片を支持する為の支持端子とを備えた水晶振動子に於いて、水晶結晶軸のZ軸をX軸を中心として約34°回転させた方向をZZ'軸方向とした場合、水晶振動片のほぼ中央を中心としてZZ'軸より該水晶振動面に沿って15°〜30°回転した範囲内に位置する水晶振動片の外周縁部と、105°〜120°回転した範囲内に位置する水晶振動片の外周縁部と、195°〜210°回転した範囲内に位置する水晶振動片の外周縁部と、285°〜300°回転した範囲内に位置する水晶振動片の外周縁部とをそれぞれ支持端子に固定したことにより、優れた重力感度特性を有する水晶振動子が実現され、更に、このような水晶振動子を恒温槽型の水晶発振器の振動源として用いることにより、従来の2点支持構造の水晶振動子を使用したものと比較して周波数温度特性及び電源電圧変動特性等のその他の周波数安定度によるバックアップの負担を軽減することが可能であるので、製造工程の簡素化に伴い水晶発振器を低価格に且つ短期間で提供することが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づく水晶振動子の一実施例の斜視構成図を示すものである。
【図2】本発明の基づく水晶振動子の重力感度特性を示す図である。
【図3】本発明を応用した2点支持構造の水晶振動子の斜視構成図を示すものである。
【図4】(a)従来の水晶振動子の構成図を示すものである。
(b)従来の水晶振動子に用いた支持端子の平面図を示すものである。
(c)(b)に示すa−a'部分の断面構成図を示すものである。
【図5】一般的な恒温槽型の水晶発振器のブロック図を示すものである。
【符号の説明】
1、100水晶振動子、2、101水晶振動片、3、102基台、4、5、104支持端子、103端子、105励振電極、106リード電極、107接続部分、108支柱部分、109恒温槽型の水晶発振器、110恒温槽、111温度制御回路、112ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】水晶結晶軸のY軸に直交する面をX軸を中心として約34°回転すると共に、Z軸を中心として約20°〜25°回転した面から切り出された2回回転Yカットの水晶振動片と、該水晶振動片を支持する為の支持端子とを備えた水晶振動子に於いて、水晶結晶軸のZ軸をX軸を中心として約34°回転させた方向をZZ'軸方向とした場合、前記水晶振動片のほぼ中央を中心として前記ZZ'軸より該水晶振動面に沿って15°〜30°回転した範囲内に位置する前記水晶振動片の外周縁部と、105°〜120°回転した範囲内に位置する前記水晶振動片の外周縁部と、195°〜210°回転した範囲内に位置する前記水晶振動片の外周縁部と、285°〜300°回転した範囲内に位置する前記水晶振動片の外周縁部とをそれぞれ前記支持端子に固定したことを特徴とする2回回転Yカット水晶振動子。
【請求項2】水晶結晶軸のY軸に直交する面をX軸を中心として約34°回転すると共に、Z軸を中心として約20°〜25°回転した面から切り出された2回回転Yカットの水晶振動片と、該水晶振動片を支持する為の支持端子とを備えた水晶振動子に於いて、水晶結晶軸のZ軸をX軸を中心として約34°回転させた方向をZZ'軸方向とした場合、前記水晶振動片のほぼ中央を中心として前記ZZ'軸より該水晶振動面に沿って約25°回転したZZ"軸と交わる前記水晶振動片の二個所の外周縁部及び、該水晶振動片のほぼ中央を中心として前記ZZ"軸とほぼ直交する軸と交わる前記水晶振動片の二個所の外周縁部を前記支持端子にそれぞれ固定したことを特徴とする2回回転Yカット水晶振動子。
【請求項3】前記水晶振動片がSCカット水晶振動片であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の2回回転Yカット水晶振動子。
【請求項4】請求項1乃至請求項3記載の2回回転Yカット水晶振動子を備えた水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2001−345672(P2001−345672A)
【公開日】平成13年12月14日(2001.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−162779(P2000−162779)
【出願日】平成12年5月31日(2000.5.31)
【出願人】(000003104)東洋通信機株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】