説明

水蒸気アニール用治具及び水蒸気アニール方法

【課題】 両面が鏡面の半導体基板を高圧で水蒸気アニール処理する場合であっても、水蒸気アニール処理の効果を維持したまま、処理中に基板表面に付着するパーティクルやコンタミネーションを大幅に低減することによりアニール処理の品質及びデバイスの歩留まりを向上させることができると共に、半導体基板の装填領域をコンパクトにすることにより装置の小型化に寄与できる水蒸気アニール用治具及び水蒸気アニール方法を提供する。
【解決手段】 本発明の水蒸気アニール用治具は、半導体基板1の周縁部を覆うように形成されて内側に貫通開口10aを有するシート状部材10からなる。シート状部材10の半導体基板1との接触面は、半導体基板1を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する面粗さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーティクルやコンタミネーション等による半導体基板の汚染を有効に防止できる水蒸気アニール用治具及び水蒸気アニール方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶用TFT基板やシリコンウエハのような半導体基板を加圧水蒸気下で熱処理することにより、熱酸化膜形成、シリコン中欠陥の終端処理、層間絶縁膜のリフロー処理、等の処理が可能であることが知られている。以下、このような熱処理を「水蒸気アニール処理」と呼ぶ。
【0003】
水蒸気アニール処理を行うための方法に関する先行技術文献として、例えば、下記特許文献1が開示されている。
【0004】
特許文献1の「半導体装置の絶縁膜の平坦化方法」は、半導体装置の基板上の凹凸面上に形成された絶縁膜を熱フローにより平坦化する方法において、熱フローを酸素又は、水蒸気を含む雰囲気中において3atm以上の圧力下で行うものである。そして、この方法により、絶縁膜に拡散する酸素量及びその拡散速度が増大し、従来に比し低温でかつ短時間でBPSG膜の良好なリフローを実現している。
【0005】
また、水蒸気アニール処理を行うための装置や、その装置において半導体基板を載置するための治具に関する先行技術文献として、例えば、下記特許文献2及び3が開示されている。
【0006】
図5は、特許文献2に開示された水蒸気アニール装置の構成を示す図である。この水蒸気アニール装置は、上部圧力容器100と下部圧力容器102とからなり内部圧力を調整可能な圧力容器103と、上部処理容器104と下部処理容器106とからなり内部に処理室107を形成する処理容器108と、圧力容器103と処理容器108との間に設けられたヒータ110と、処理室107に導入するための水蒸気を発生させるボイラ118とを備えて構成されている。処理容器108は石英ガラスからなり、内部にウエハ搭載ボード112を収容できるようになっている。ウエハ搭載ボード112は、半導体基板111を多数枚(例えば、100〜150枚程度)を横向きにして縦方向に並べて搭載できるようになっている。
【0007】
このように構成された水蒸気アニール装置では、半導体基板111を処理室107に収納した後、ヒータ110により半導体基板111を加熱するとともに、ボイラ118にて水蒸気を発生させこれを処理室107に導入して処理室107を昇圧し、処理室107の昇圧に伴い圧力容器103内に空気を供給して圧力容器103の内部圧力を昇圧する。これにより水蒸気アニール処理を行う。
【0008】
また、特許文献3の「シリコン単結晶ウェーハの熱処理方法」は、図6に示すように、ウエハ201を10枚程度積層してこの一群を単位として、水平にあるいは0.5〜5°程度、僅かに傾斜させてウエハの外周の複数個所を接触支持するボード202に載置し、さらに多段に複数郡を垂直方向に配置し、熱処理するものである。
【0009】
【特許文献1】特開平5−67607号公報
【特許文献2】特開平11−152567号公報
【特許文献3】特開平10−74771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献2の水蒸気アニール装置によるアニール処理では、高温高圧の水蒸気の反応性が高いため、半導体基板に対する各種処理を加速する効果がある。しかしながら、その効果の高さゆえ、半導体基板以外の容器や配管とも反応し、パーティクルやコンタミネーションを発生させてしまう。これらのパーティクルやコンタミネーションは、容器や配管系内に滞留して経時的に増加するため、基板に付着して基板を汚染し、水蒸気アニール処理の品質低下やデバイスの歩留まり低下の要因となるという問題がある。
【0011】
また、特許文献2の水蒸気アニール装置において、半導体基板を装填するための治具として用いるウエハ搭載ボード112は、半導体基板を装填する際に搬送装置ハンド(半導体基板を把持しウエハ搭載ボードへの装填や取り出しを行うための装置)が他の半導体基板と接触しないように、半導体基板間に所定の間隔(例えば10mm程度)を置いて装填するようになっている。すなわち、ウエハ搭載ボードにおいて半導体基板は互いに少なくとも10mm程度の所定の間隔を置いて多数枚装填されるため、半導体基板自体は薄い(例えば0.5〜2.0mm程度)にもかかわらず、大きな装填領域が必要となり、装置が大型化するという問題がある。
【0012】
上述したパーティクルやコンタミネーションの付着を防止する方法として、特許文献3の方法のように、半導体基板を1枚ずつ積層する方法がある。従来の一方面が粗面で他方面が鏡面の半導体基板の場合には、この方法により半導体基板同士が接合することなく、パーティクル等の侵入を防止することができる。しかしながら、近年の半導体基板は、両面が鏡面であるため、そのような方法は適用できない。すなわち、両面が鏡面の半導体基板の場合、1枚ずつ直接積層すると基板同士が接合してしまったり、多数枚を積層することによる重量増大や基板の反りの影響で基板同士の接触面において接触圧が高くなる部分の酸化量が少なくなったりして、水蒸気アニール処理の品質低下やデバイスの歩留まり低下の要因となるという問題がある。
【0013】
本発明は上述した問題点に鑑み、両面が鏡面の半導体基板を高圧で水蒸気アニール処理する場合であっても、水蒸気アニール処理の効果を維持したまま、処理中に基板表面に付着するパーティクルやコンタミネーションを大幅に低減することによりアニール処理の品質及びデバイスの歩留まりを向上させることができると共に、半導体基板の装填領域をコンパクトにすることにより装置の小型化に寄与できる水蒸気アニール用治具及び水蒸気アニール方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記本発明の目的を達成するため、第1の発明は、処理対象となる平板状の半導体基板の周縁部を覆うように形成されて内側に貫通開口を有するシート状部材からなり、半導体基板と交互に積層した状態で該半導体基板に水蒸気アニール処理を行うための水蒸気アニール用治具であって、前記半導体基板との接触面は、半導体基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する面粗さを有する、ことを特徴とするものである。
【0015】
第2の発明は、処理対象となる平板状の半導体基板の周縁部を覆うように形成されて内側に貫通開口を有するシート状部材からなり、半導体基板と交互に積層した状態で該半導体基板に水蒸気アニール処理を行うための水蒸気アニール用治具であって、前記シート状部材は、半導体基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する開気孔をもつ多孔体からなる、ことを特徴とするものである。
【0016】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記シート状部材を複数備えると共に、該複数のシート状部材のうち最上段のシート状部材上に載置され当該シート状部材の貫通開口を閉じる蓋部材を更に備える、ことを特徴とするものである。
【0017】
第4の発明は、上記第1の発明において、前記シート状部材は、石英、SiC、グラファイト、又は無アルカリガラスからなる、ことを特徴とするものである。
【0018】
第5の発明は、処理対象となる平板状の半導体基板の周縁部を覆うように形成されて内側に貫通開口を有し、前記半導体基板との接触面が、基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する面粗さを有するシート状部材を用い、該シート状部材と半導体基板を交互に積層して、水蒸気雰囲気下で前記半導体基板に対して熱処理を行う、ことを特徴とする水蒸気アニール方法である。
【0019】
第6の発明は、処理対象となる平板状の半導体基板の周縁部を覆うように形成されて内側に貫通開口を有し、基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する開気孔をもつ多孔体からなるシート状部材を用い、該シート状部材と半導体基板を交互に積層して、水蒸気雰囲気下で前記半導体基板に対して熱処理を行う、ことを特徴とする水蒸気アニール方法である。
【0020】
第7の発明は、上記第5又は第6の発明において、最上段のシート状部材の上に、当該シート状部材の開口部を閉じる蓋部材を載置して、水蒸気雰囲気下で前記半導体基板に対して熱処理を行う、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
上記第1,第2,第5及び第6の発明によれば、シート状部材が半導体基板の周縁部全体を覆うように形成されているので、これを半導体基板と交互に積層して水蒸気アニール処理を行ったときに、パーティクルやコンタミネーションが容器や配管系内に滞留していても、シート状部材により基板上にパーティクル等が直接堆積するのを防止することができる。
【0022】
また、上記第1及び第5の発明によれば、シート状部材は、半導体基板との接触面が、半導体基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する面粗さを有するので、この接触面によりパーティクル等の侵入を阻止する一方、水蒸気は接触面を通過して半導体基板の表面に到達するので、従来の水蒸気アニール処理の効果とほぼ同等の処理効果が得られる。
【0023】
また、上記第2及び第6の発明によれば、シート状部材は、半導体基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する開気孔をもつ多孔体からなるので、この開気孔によりパーティクル等の侵入を阻止する一方、水蒸気は接触面を通過して半導体基板の表面に到達するので、従来の水蒸気アニール処理の効果とほぼ同等の処理効果が得られる。
【0024】
また、上記第1,第2,第5及び第6の発明によれば、両面が鏡面の半導体基板を水蒸気アニール処理する場合でも、シート状部材を介して積層するので、基板同士が接合する恐れはなく、また、局部的に酸化量が少なくなることもない。このため、水蒸気アニール処理の品質や歩留まりを向上させることができる。
【0025】
また、上記第1,第2,第5及び第6の発明によれば、シート状部材と半導体基板を交互に直接積層して水蒸気アニール処理を行うので、半導体基板を多数(例えば100枚)積層して処理する場合でも、従来技術に比して大幅に半導体基板の装填領域をコンパクトにすることができる。すなわち、上述した従来技術では、搬送装置ハンドの半導体基板との干渉を考慮して半導体基板間に所定の間隔を置いて装填していたが、上記本発明によれば、その間隔がシート状部材の厚さ分のみ(例えば0.5〜2.0mm程度)となる。このため、半導体基板を多数枚積層しても、その積層高さを、上述した従来技術のウエハ搭載ボードに装填する場合に比して大幅に低くすることができる。
【0026】
上記第3及び第7の発明によれば、シート状部材と半導体基板を交互に積層し、その最上段のシート状部材の上に、このシート状部材の貫通開口を蓋部材により閉じるので、最上段の半導体基板についても、最上段以外の半導体基板と同様に、パーティクル等が直接堆積することがなく、また、パーティクル等の侵入を阻止すると同時に水蒸気を基板の処理表面へ導入することができる。
【0027】
上記第4の発明によれば、シート状部材の材料として、石英、SiC、グラファイト、又は無アルカリガラスを用いることにより、半導体基板との熱膨張係数が近いため、熱膨張/熱収縮によるシート状部材と半導体基板との相対的なズレを抑制することができる。また、これらの材料は、高温、高圧の水蒸気との反応性が低いため、シート状部材の内側においてもパーティクルやコンタミネーションの発生を抑制することができる。
【0028】
したがって、上記本発明によれば、両面が鏡面の半導体基板を高圧で水蒸気アニール処理する場合において、水蒸気アニール処理の効果を維持したまま、処理中に基板表面に付着するパーティクルやコンタミネーションを大幅に低減することによりアニール処理の品質及びデバイスの歩留まりを向上させることができると共に、半導体基板の装填領域をコンパクトにすることにより装置の小型化に寄与できるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0030】
図1は、本発明の第1実施形態に係る水蒸気アニール用治具及び水蒸気アニール方法を説明する斜視図である。図1に示すように、本発明の水蒸気アニール用治具は、シート状部材10からなり、このシート状部材10と半導体基板1を交互に積層して、半導体基板1に対して水蒸気アニール処理を行うためのものである。
【0031】
この水蒸気アニール用治具は、平板状の半導体基板1を処理対象とし、半導体基板としては、例えば液晶用TFT基板やシリコンウエハ等である。本実施形態において、半導体基板1は、直径150mm、厚さ0.625mmのシリコンウエハである。なお、半導体基板1は、この例では円形であるが、矩形その他の形状でもよい。また、半導体基板1はガラスやシリコンの均質素材でも、表面に半導体素子が形成された複合材でも、あるいは中間工程の基板であってもよい。また、半導体基板1は、一方面が粗面で他方面が鏡面のものであっても、両面が鏡面のものであってもよい。
【0032】
図1に示すように、シート状部材10は、外周の直径が半導体基板1の直径とほぼ同じ(150mm)になっており、その内部が繰り抜かれてリング状に形成されている。すなわち、シート状部材10は、半導体基板1に重ねたときに、半導体基板1の周縁部全体を覆うように形成されている。また、シート状部材10は、内側に厚さ方向に貫通する貫通開口10aを有している。本実施形態において、シート状部材10の外径と内径の差の1/2、すなわち、半導体基板1の周縁部を覆う部分の幅wは3mmであり、厚さは半導体基板1と同じ0.625mmである。なお、本実施形態において、シート状部材10はリング状に形成されているが、半導体基板1の形状が円形以外の形状である場合は、その形状に合わせて形成される。例えば、半導体基板1が矩形である場合は、シート状部材10は、内部が繰り抜かれた矩形状に形成される。
【0033】
シート状部材10は、石英、SiC、グラファイト、又は無アルカリガラスからなることが好ましい。これらの材料は、半導体基板、例えば液晶用TFT基板やシリコンウエハと熱膨張係数が近いため、熱膨張/熱収縮による隙間の拡大/縮小や相対的なズレを小さくできる。また、これらの材料は、高温高圧の水蒸気との反応性が低いため、シート状部材10の内側においてもパーティクルやコンタミネーションの発生を抑制することができる。
【0034】
シート状部材10の上下面は、半導体基板1との接触面となるが、本実施形態においてこの接触面は、半導体基板1を処理する温度及び圧力(例えば、100〜800℃、0〜5MPa)の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する面粗さを有している。
【0035】
接触面の平面度は、10〜20μmの範囲で設定し、かつ表面粗さRaも、平面度と同等に設定する。この構成により、シート状部材10と半導体基板1を交互に積層したときに、接触面は、内部を気密にするほどには完全に密着せず、その間に、平面度と表面粗さで決まる微細な流路が形成される。この微細流路は、後述する実施例から、最大平面度の約1/10、すなわち、約1〜2μmの範囲となり、水蒸気分子を導入でき、かつ所定の粒径(この場合、1〜2μm)以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止することができることが確認された。
【0036】
本発明においては、シート状部材10と半導体基板1を交互に積層するため、その状態において互いに隣接する半導体基板1間の間隔は、シート状部材10の厚さによって決定される。つまり、シート状部材10の厚さが本実施形態のように0.625mmである場合は、互いに隣接する半導体基板1間の間隔は、0.625mmとなる。本発明において、シート状部材10の厚さは実施形態におけるものに限定されないことは勿論であるが、厚さが5mmを超えると、内部の水蒸気圧力が外部の水蒸気圧力に追従できなくなる恐れがある。したがって、シート状部材10の厚さは5mm以下であるのが好ましい。また、シート状部材10と半導体基板1を多数積層したときの積層高さを考慮すると、本実施形態のように、半導体基板1と同程度の厚さとするのが好ましい。
【0037】
また、図1に示すように、本発明の水蒸気アニール用治具は、シート状部材10を複数備えると共に、この複数のシート状部材10のうち最上段のシート状部材10上に載置される蓋部材14を備えている。この蓋部材14は、シート状部材10の外周の直径とほぼ同じ直径をもつ円盤状をなしており、これにより最上段のシート状部材10の貫通開口10aを閉じるようになっている。この蓋部材14も、石英、SiC、グラファイト、又は無アルカリガラスからなることが好ましい。
【0038】
次に、上述した水蒸気アニール用治具を用いた水蒸気アニール方法について説明する。この水蒸気アニール処理に際しては、例えば、図5に示したような水蒸気アニール装置を使用することができる。
【0039】
まず、図1に示すように、シート状部材10と、処理対象となる半導体基板1を交互に積層する。次に、最上段のシート状部材10の上に、蓋部材14を載置する。そして、これを図5に示したような水蒸気アニール装置の処理容器に収容し、要求されるアニール処理の種類(熱酸化膜形成、シリコン中欠陥の終端処理、層間絶縁膜のリフロー処理、等)に応じた所定の圧力、温度、時間により、水蒸気アニール処理を行う。
【0040】
図2は、水蒸気アニール処理中におけるシート状部材10と半導体基板1の模式的断面図である。上述したように、シート状部材10の接触面は、半導体基板1を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する面粗さを有しているので、図2に示すように、装置内にパーティクルやコンタミネーションが発生しても、この接触面がフィルタ機能を発揮して、パーティクル等の貫通開口10a側への侵入が阻止される。一方で、水蒸気は、接触面の面粗さによって規定される微細な流路を通過して貫通開口10aへ入り、半導体基板1の処理表面に到達して水蒸気アニール処理が行われる。
【0041】
なお、半導体基板1のうち、シート状部材10と接触している部分(シート状部材10の接触面に対応する部分)については、アニール処理の能力が十分でない可能性があるが、通常の場合、半導体基板の外周から数ミリ範囲内にある周縁部は、基板の取り扱い上の理由から素子を形成しないため、シート状部材10の接触面の幅wが数ミリ程度であれば、実用上問題ないといえる。
【0042】
このように、本発明の第1実施形態によれば、シート状部材10が半導体基板1の周縁部全体を覆うように形成されているので、これを半導体基板1と交互に積層して水蒸気アニール処理を行ったときに、パーティクルやコンタミネーションが容器や配管系内に滞留していても、シート状部材10により半導体基板1上にパーティクル等が直接堆積するのを防止することができる。
【0043】
また、シート状部材10は、半導体基板1との接触面が、半導体基板1を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する面粗さを有するので、この接触面によりパーティクル等の侵入を阻止する一方、水蒸気は接触面を通過して半導体基板1の表面に到達するので、従来の水蒸気アニール処理の効果とほぼ同等の処理効果が得られる。
【0044】
また、両面が鏡面の半導体基板を水蒸気アニール処理する場合でも、シート状部材10を介して積層するので、基板同士が接合する恐れはなく、また、局部的に酸化量が少なくなることもない。このため、水蒸気アニール処理の品質や歩留まりを向上させることができる。
【0045】
また、シート状部材10と半導体基板1を交互に直接積層して水蒸気アニール処理を行うので、半導体基板1を多数(例えば100枚)積層して処理する場合でも、従来技術に比して大幅に半導体基板1の装填領域をコンパクトにすることができる。すなわち、上述した従来技術では、搬送装置ハンドの半導体基板との干渉を考慮して半導体基板間に所定の間隔を置いて装填していたが、上記本発明によれば、その間隔がシート状部材10の厚さ分のみ(例えば0.5〜2.0mm程度)となる。このため、半導体基板1を多数枚積層しても、その積層高さを、上述した従来技術のウエハ搭載ボードに装填する場合に比して大幅に低くすることができる。
【0046】
また、装填領域がコンパクトになることにより、処理する半導体基板1が、従来と同程度の処理枚数であれば、熱処理領域の温度均一性が向上し、従来のものより均等な熱処理効果が得られる。あるいは、熱処理領域の温度均一度が同等であれば、半導体基板1の装填枚数を増やすことが可能である。
【0047】
また、シート状部材10と半導体基板1を交互に積層し、その最上段のシート状部材10の上に、このシート状部材10の貫通開口10aを蓋部材14により閉じるので、最上段の半導体基板1についても、最上段以外の半導体基板1と同様に、パーティクル等が直接堆積することがなく、また、パーティクル等の侵入を阻止すると同時に水蒸気を基板の処理表面へ導入することができる。また、シート状部材10と蓋部材14は、容器、配管等と比較して小型、軽量であり、汚染しても容易に洗浄することができる。
【0048】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0049】
図3(A)、(B)は、本発明の第2実施形態に係る水蒸気アニール用治具及び水蒸気アニール方法を説明する図である。本実施形態が上述した第1実施形態と異なる点は、シート状部材10に代えて、図3(A)に示すシート状部材12を用いる点である。シート状部材12は、半導体基板1を処理する温度及び圧力の範囲(例えば、100〜800℃、0〜5MPa)において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する開気孔をもつ多孔体からなる。この多孔体としてのシート状部材12は、焼結金属、セラミックフィルタ、シリコン繊維板等であるのがよい。シート状部材12は、シート状部材10の貫通開口10aと同様の貫通開口12aを有しており、その他の形状や寸法は、上述した第1実施形態におけるシート状部材10と同様に設定することができる。
【0050】
このシート状部材12を用い、本実施形態においても、第1実施形態と同様に水蒸気アニール処理を行う。すなわち、シート状部材12と処理対象となる半導体基板1を交互に積層し、最上段のシート状部材12の上に、蓋部材14を載置する。そして、これを図5に示したような水蒸気アニール装置の処理容器に収容し、要求されるアニール処理の種類に応じた所定の圧力、温度、時間により、水蒸気アニール処理を行う。
【0051】
図3(B)は、水蒸気アニール処理中におけるシート状部材12と半導体基板1の模式的断面図である。上述したように、シート状部材12は、半導体基板1を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する開気孔を有する多孔体からなるので、図3(B)に示すように、装置内にパーティクルやコンタミネーションが発生しても、この多孔体としてのシート状部材12がフィルタ機能を発揮して、パーティクル等の貫通開口12a側への侵入が阻止される。一方で、水蒸気は、シート状部材12の開気孔によって規定される微細な流路を通過して貫通開口12aへ入り、半導体基板の処理表面に到達して水蒸気アニール処理が行われる。
【0052】
このように、本発明の第2実施形態によれば、シート状部材12が半導体基板1の周縁部全体を覆うように形成されているので、これを半導体基板1と交互に積層して水蒸気アニール処理を行ったときに、パーティクルやコンタミネーションが容器や配管系内に滞留していても、シート状部材12により基板上にパーティクル等が直接堆積するのを防止することができる。
【0053】
また、シート状部材12は、半導体基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する開気孔をもつ多孔体からなるので、この開気孔によりパーティクル等の侵入を阻止する一方、水蒸気は開気孔を通過して半導体基板1の表面に到達するので、従来の水蒸気アニール処理の効果とほぼ同等の処理効果が得られる。
【0054】
また、両面が鏡面の半導体基板1を水蒸気アニール処理する場合でも、シート状部材12を介して積層するので、基板同士が接合する恐れはなく、また、局部的に酸化量が少なくなることもない。このため、水蒸気アニール処理の品質や歩留まりを向上させることができる。
【0055】
また、シート状部材12と半導体基板1を交互に直接積層して水蒸気アニール処理を行うので、半導体基板1を多数(例えば100枚)積層して処理する場合でも、従来技術に比して大幅に半導体基板の装填領域をコンパクトにすることができる。
【0056】
また、装填領域がコンパクトになることにより、処理する半導体基板1が、従来と同程度の処理枚数であれば、熱処理領域の温度均一性が向上し、従来のものより均等な熱処理効果が得られる。あるいは、熱処理領域の温度均一度が同等であれば、半導体基板の装填枚数を増やすことが可能である。
【0057】
また、シート状部材12と半導体基板1を交互に積層し、その最上段のシート状部材の上に、このシート状部材の貫通開口12aを蓋部材14により閉じるので、最上段の半導体基板1についても、最上段以外の半導体基板1と同様に、パーティクル等が直接堆積することがなく、また、パーティクル等の侵入を阻止すると同時に水蒸気を基板の処理表面へ導入することができる。また、シート状部材12と蓋部材14は、容器、配管等と比較して小型、軽量であり、汚染しても容易に洗浄することができる。
【実施例】
【0058】
半導体基板1として、直径150mm、厚さ0.625mmのシリコンウエハを用い、約700℃で通常の水蒸気アニール処理を実施した。基板は治具を使用しない場合(従来例)と、本発明の水蒸気アニール用治具(第1実施形態のもの)を使用する場合(本発明)の両方を同一条件で行なった。従来例と本発明の表面汚染度を比較するため、水蒸気アニール処理後の基板表面を全反射蛍光X線分析により分析したところ、図4の結果が得られた。
【0059】
図4は従来例(A)と本発明(B)の基板表面の汚染状態を示している。この図において、横軸は汚染原子のエネルギーであり、縦軸は汚染個数である。また、表1は図4の結果をまとめたものである。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から、基板を構成する原子以外のCr,Mn,Fe,Ni等がすべて従来例(A)に比較して本発明(B)では大幅に減少しているのがわかる。また、処理雰囲気がパーティクルおよびコンタミネーションに汚染されている高圧水蒸気下での処理例として、6インチシリコンウエハを処理した場合で、水蒸気アニール用治具を使用しなかった場合は、パーティクル検出数=9745個以上(粒径0.27μm以上)、メタルコンタミネーションはFe分で96×1010[atoms/cm]であったのに対し、水蒸気アニール用治具を使用した場合は、パーティクル検出数=26個以上まで減少し、メタルコンタミネーションのFe分は検出されなかった。
【0062】
また、水蒸気アニール処理後の基板表面の酸化膜の厚さは、従来例(A)と本発明(B)で同一であり、水蒸気処理効果は低減していないことが確認された。
【0063】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、両面が鏡面の半導体基板を高圧で水蒸気アニール処理する場合であっても、水蒸気アニール処理の効果を維持したまま、処理中に基板表面に付着するパーティクルやコンタミネーションを大幅に低減することによりアニール処理の品質及びデバイスの歩留まりを向上させることができると共に、半導体基板の装填領域をコンパクトにすることにより装置の小型化に寄与できるという優れた効果が得られる。
【0064】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態を示す図である。
【図2】シート状部材と半導体基板の模式的断面図である
【図3】本発明の第2実施形態を示す図である。
【図4】本発明の効果を示す全反射蛍光X線分析結果である。
【図5】特許文献2に開示された従来技術を説明する図である。
【図6】特許文献3に開示された従来技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
1 半導体基板
10 シート状部材
10a 貫通開口
12 シート状部材
12a 貫通開口
14 蓋部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象となる平板状の半導体基板の周縁部を覆うように形成されて内側に貫通開口を有するシート状部材からなり、半導体基板と交互に積層した状態で該半導体基板に水蒸気アニール処理を行うための水蒸気アニール用治具であって、
前記半導体基板との接触面は、半導体基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する面粗さを有する、
ことを特徴とする水蒸気アニール用治具。
【請求項2】
処理対象となる平板状の半導体基板の周縁部を覆うように形成されて内側に貫通開口を有するシート状部材からなり、半導体基板と交互に積層した状態で該半導体基板に水蒸気アニール処理を行うための水蒸気アニール用治具であって、
前記シート状部材は、半導体基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する開気孔をもつ多孔体からなる、
ことを特徴とする水蒸気アニール用治具。
【請求項3】
前記シート状部材を複数備えると共に、該複数のシート状部材のうち最上段のシート状部材上に載置され当該シート状部材の貫通開口を閉じる蓋部材を更に備える、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水蒸気アニール用治具。
【請求項4】
前記シート状部材は、石英、SiC、グラファイト、又は無アルカリガラスからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の水蒸気アニール用治具。
【請求項5】
処理対象となる平板状の半導体基板の周縁部を覆うように形成されて内側に貫通開口を有し、前記半導体基板との接触面が、基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する面粗さを有するシート状部材を用い、
該シート状部材と半導体基板を交互に積層して、水蒸気雰囲気下で前記半導体基板に対して熱処理を行う、
ことを特徴とする水蒸気アニール方法。
【請求項6】
処理対象となる平板状の半導体基板の周縁部を覆うように形成されて内側に貫通開口を有し、基板を処理する温度及び圧力の範囲において、水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する開気孔をもつ多孔体からなるシート状部材を用い、
該シート状部材と半導体基板を交互に積層して、水蒸気雰囲気下で前記半導体基板に対して熱処理を行う、
ことを特徴とする水蒸気アニール方法。
【請求項7】
最上段のシート状部材の上に、当該シート状部材の貫通開口を閉じる蓋部材を載置して、水蒸気雰囲気下で前記半導体基板に対して熱処理を行う、ことを特徴とする請求項5又は6に記載の水蒸気アニール方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−59607(P2007−59607A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242849(P2005−242849)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】