説明

油圧作業機械のポンプトルク制御装置

【課題】主ポンプとは性質の異なる副次ポンプが原動機に接続されている場合に、環境条件等に合わせて主ポンプのポンプ吸収トルクを正確に、簡単に調整できる。
【解決手段】調整スイッチ25を備え、メインコントローラ12が、冷却ファンポンプ20の吸収トルクの状態を使用上の最大吸収トルクにする処理手段と、メインポンプ13に対する調整用の目標吸収トルクを十分に小さなポンプ吸収トルクから緩やかな速度で増量する処理手段と、エンジン3の負荷率と目標負荷率との差が所定の範囲内かどうか判断する第4判断手段と、この第4判断手段で偽とされる間は、負荷率信号の取り込みと調整用の目標吸収トルクの増量を繰り返す処理手段と、第4判断手段で真とされた際に、調整用の目標吸収トルク等を調整値AdjValとして記憶する処理手段と、トルク制限手段で演算された目標吸収トルクを調整値AdjValで制限する処理手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共に原動機によって駆動される可変容量型の主ポンプと可変容量型の副次ポンプとを有する油圧ショベルなどの油圧作業機械に備えられ、主ポンプの吸収トルクを制御する油圧作業機械のポンプトルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高地に油圧作業機が配置されたり、気温が著しく低い環境で作業が行われるなどの種々の環境条件、あるいは、粗悪燃料を使用して作業が行われるとか、油圧作業機に異なる作業負荷が与えられるなどの油圧作業機械の使用条件によって、同じ油圧作業機械であっても原動機つまりエンジンが過負荷になることがある。このようなときには、エンジン出力を抑える必要があり、保守サービス員は現場に出かけて油圧作業機械の主ポンプの最大吸収トルクを調整しなければならない。この主ポンプの最大吸収トルクの調整には、サービスツールの特殊な装置が必要であり、また、保守サービス員の熟練した技能や経験が必要となる。
【0003】
エンジンには主ポンプの他に、この主ポンプとは制御方法や使用方法が異なるポンプである冷却ファンポンプやパイロットポンプなどの副次ポンプが接続されているので、すなわち、エンジンには互いに性質の異なる複数のポンプが接続されているので、前述の調整が上手く行かないと、互いの間でポンプ吸収トルクの干渉が起こり、このために油圧作業機械の操作性、作業性に悪影響を及ぼすことになる。
【0004】
なお、この種の従来技術として、特許文献1,2に示されるものがある。特許文献1に示される従来技術は、標高毎にエンジン回転数の設定を変更するようになっている。また、特許文献2に示される従来技術は、大気圧に対して伸縮するベローズ状の密閉容器を使ってポンプの吸収トルクを大気圧に合わせて可変にできるようになっている。
【特許文献1】特開2004−132197公報
【特許文献2】特開平9−126150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1に示される従来技術では、標高条件が同じであっても、気温、大気圧、燃料の種類、作業負荷等に応じて主ポンプの最大吸収トルクを調整する必要があり、前述したように保守サービス員が現地に出向いて調整を行わなければならず、煩雑なものとなっている。同様に、特許文献2に示される従来技術では、大気圧条件が同じであっても、気温、作業負荷、燃料の種類等に応じて、やはり保守サービス員による煩雑な主ポンプの最大吸収トルクの調整が必要となる。
【0006】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、主ポンプとは性質の異なる副次ポンプが原動機に接続されている場合に、環境条件及び使用条件に合わせて主ポンプの最大吸収トルクを正確に、しかも簡単に調整することができる油圧作業機械のポンプトルク制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、
原動機と、この原動機の回転数を設定する回転数設定手段と、
前記回転数設定手段で設定された設定回転数信号を取り込む入力手段、前記設定回転数信号に基づいて前記原動機の回転数を制御する制御手段、前記原動機の実回転数に相当する信号を外部に出力する出力手段、及び前記原動機の出力トルクに相当する負荷率信号を外部に出力する出力手段を有する原動機コントローラと、
可動体を駆動するアクチュエータと、前記原動機によって駆動され、前記アクチュエータに圧油を供給する可変容量型の主ポンプと、この主ポンプから前記アクチュエータに供給される圧油の流量と方向を制御する方向切換弁と、前記主ポンプの押しのけ容積を制御する主ポンプ用レギュレータと、
前記原動機によって駆動される可変容量型の副次ポンプと、この副次ポンプの押しのけ容積を制御する副次ポンプ用レギュレータとを有する油圧作業機械に備えられ、
前記主ポンプ用レギュレータを駆動する主ポンプ用電磁比例弁、及び前記副次ポンプ用レギュレータを駆動する副次ポンプ用電磁比例弁と、
前記方向切換弁の操作量を検出する操作量検出器、及び前記主ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出器と、
前記回転数設定手段で設定された設定回転数信号を取り込む入力手段、前記操作量検出器から出力される操作量信号を取り込む入力手段、前記吐出圧検出器から出力される吐出圧信号を取り込む入力手段、及び前記操作量検出器から出力される前記操作量信号に基づいて目標押しのけ容積を演算するポジティブ制御手段、前記回転数設定手段から出力される設定回転数信号から前記主ポンプの目標吸収トルクを演算し、この演算された目標吸収トルクと前記吐出圧検出器から出力される吐出圧信号とから前記主ポンプの目標押しのけ容積を演算するトルク制限手段、及び前記ポジティブ制御手段で演算された目標押しのけ容積と前記トルク制限手段で演算された目標押しのけ容積とを比較し、小さいほうを目標押しのけ容積に選択する選択手段、この選択手段で選択された主ポンプの目標押しのけ容積に基づいて前記主ポンプ用電磁比例弁に制御信号を出力する出力手段、前記副次ポンプの目標押しのけ容積を演算する演算手段、この演算手段で演算された前記副次ポンプの目標押しのけ容積に基づいて前記副次ポンプ用電磁比例弁に制御信号を出力する出力手段を含むメインコントローラを備えるとともに、
前記主ポンプの最大吸収トルクの調整開始を指示する開始手段を備え、
前記メインコントローラが、
前記開始手段の指示によって、前記回転数設定手段による設定回転数の設定が定格回転数に固定されているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第1判断手段と、
前記開始手段の指示によって、前記吐出圧検出器で検出される吐出圧が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第2判断手段と、
前記開始手段の指示によって、前記操作量検出器で検出される操作量が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第3判断手段と、
前記第1、第2、第3判断手段における全ての判断が真とされると前記副次ポンプの吸収トルクの状態を使用上の最大負荷にするように前記副次ポンプの目標押しのけ容積を切り替える処理手段と、
前記原動機コントローラから出力される前記原動機の前記負荷率信号を取り込む入力手段と、
調整用の目標吸収トルクを十分に小さなポンプ吸収トルクから緩やかな速度で増量する処理手段と、
前記原動機の負荷率と目標負荷率との差が所定の範囲内に存在するか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第4判断手段と、
この第4判断手段で偽と判断される間は、前記負荷率信号の取り込みと調整用の目標吸収トルクの増量を繰り返し行う処理手段と、
前記第4判断手段で真と判断された際に、このときの調整用の目標吸収トルクを取得し、この取得した目標吸収トルクを、あるいは取得した目標吸収トルクと所定の基準トルクとの差を調整値として記憶する処理を行う処理手段と、
前記トルク制限手段で演算された目標吸収トルクを前記調整値で制限する処理手段とを含むことを特徴としている。
【0008】
このように構成した本発明は、開始手段によって主ポンプの最大吸収トルクの調整開始が指示されると、副次ポンプの負荷を最大負荷、すなわち最大吸収トルクにした状態において、原動機の負荷率が目標値、すなわち目標負荷率となるまで、主ポンプの吸収トルクを最小側からゆっくり増量させる処理が行われる。このようにゆっくり増量させることにより、静的なポイントでの調整が可能となる。原動機の負荷率が目標負荷率に一致したときに、主ポンプの吸収トルクが取得され、この取得値が調整値となる。この調整値以下となるように主ポンプの最大吸収トルクが制限された状態で、主ポンプの吸収トルク制御がなされる。これにより、原動機の負荷率が目標負荷率を超えないように制限される。すなわち、主ポンプとは性質の異なる副次ポンプが原動機に接続される場合に、環境条件及び使用条件に合わせて主ポンプの最大吸収トルクを正確に、しかも簡単に調整することができる。また、副次ポンプの吸収トルクを最大負荷に、すなわち最大吸収トルクにした状態で、現状の主ポンプの最大吸収トルクを正確に調整できるので、主ポンプと副次ポンプとの間のポンプ吸収トルクの干渉を防ぐことができる。
【0009】
また、前述の目的を達成するために、本発明は、
原動機と、この原動機の回転数を設定する回転数設定手段と、
前記回転数設定手段で設定された設定回転数信号を取り込む入力手段、前記設定回転数信号に基づいて前記原動機の回転数を制御する制御手段、前記原動機の実回転数に相当する信号を外部に出力する出力手段、及び前記原動機の出力トルクに相当する負荷率信号を外部に出力する出力手段を有する原動機コントローラと、
可動体を駆動するアクチュエータと、前記原動機によって駆動され、前記アクチュエータに圧油を供給する可変容量型の主ポンプと、この主ポンプから前記アクチュエータに供給される圧油の流量と方向を制御する方向切換弁と、前記主ポンプの押しのけ容積を制御する主ポンプ用レギュレータと、
前記原動機によって駆動される可変容量型の副次ポンプと、この副次ポンプの押しのけ容積を制御する副次ポンプ用レギュレータとを有する油圧作業機械に備えられ、
前記主ポンプ用レギュレータを駆動する主ポンプ用電磁比例弁、及び前記副次ポンプ用レギュレータを駆動する副次ポンプ用電磁比例弁と、
前記方向切換弁の操作量を検出する操作量検出器、及び前記主ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出器と、
前記回転数設定手段で設定された設定回転数信号を取り込む入力手段、前記操作量検出器から出力される操作量信号を取り込む入力手段、前記吐出圧検出器から出力される吐出圧信号を取り込む入力手段、及び前記操作量検出器から出力される前記操作量信号に基づいて目標押しのけ容積を演算するポジティブ制御手段、前記回転数設定手段から出力される設定回転数信号から前記主ポンプの目標吸収トルクを演算し、この演算された目標吸収トルクと前記吐出圧検出器から出力される吐出圧信号とから前記主ポンプの目標押しのけ容積を演算するトルク制限手段、及び前記ポジティブ制御手段で演算された目標押しのけ容積と前記トルク制限手段で演算された目標押しのけ容積とを比較し、小さいほうを目標押しのけ容積に選択する選択手段、この選択手段で選択された主ポンプの目標押しのけ容積に基づいて前記主ポンプ用電磁比例弁に制御信号を出力する出力手段、前記副次ポンプの目標押しのけ容積を演算する演算手段、この演算手段で演算された前記副次ポンプの目標押しのけ容積に基づいて前記副次ポンプ用電磁比例弁に制御信号を出力する出力手段を含むメインコントローラを備えるとともに、
前記主ポンプの最大吸収トルクの調整開始を指示する開始手段を備え、
前記メインコントローラが、
前記開始手段の指示によって、前記回転数設定手段による設定回転数の設定が定格回転数に固定されているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第1判断手段と、
前記開始手段の指示によって、前記吐出圧検出器で検出される吐出圧が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第2判断手段と、
前記開始手段の指示によって、前記操作量検出器で検出される操作量が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第3判断手段と、
前記第1、第2、第3判断手段における全ての判断が真とされると前記副次ポンプの吸収トルクの状態を使用上の最大負荷にするように前記副次ポンプの目標押しのけ容積を切り替える処理手段と、
前記原動機コントローラから出力される前記原動機の前記負荷率信号を取り込む入力手段と、
調整用の目標吸収トルクを前記原動機がストールしない範囲で十分に大きな予め定めるポンプ吸収トルクから緩やかな速度で減量する処理手段と、
前記原動機の負荷率と目標負荷率との差が所定の範囲内に存在するか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第4判断手段と、
この第4判断手段で偽と判断される間は、前記負荷率信号の取り込みと調整用の目標吸収トルクの減量を繰り返し行う処理手段と、
前記第4判断手段で真と判断された際に、このときの調整用の目標吸収トルクを取得し、この取得した目標吸収トルクを、あるいは取得した目標吸収トルクと所定の基準トルクとの差を調整値として記憶する処理を行う処理手段と、
前記トルク制限手段で演算された目標吸収トルクを前記調整値で制限する処理手段とを含むことを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明は、開始手段によって主ポンプの最大吸収トルクの調整開始が指示されると、主ポンプ以外の冷却ファンポンプ等の副次ポンプの負荷を最大負荷、すなわち最大吸収トルクにした状態において、原動機の負荷率が目標値、すなわち目標負荷率となるまで、主ポンプの吸収トルクを最大側からゆっくり減量させる処理が行われる。このようにゆっくり減量させることにより、静的なポイントでの調整が可能となる。原動機の負荷率が目標負荷率に一致したときに、主ポンプの吸収トルクが取得され、この取得値が調整値となる。この調整値以下となるように主ポンプの最大吸収トルクが制限された状態で、主ポンプの吸収トルク制御がなされる。これにより、原動機の負荷率が目標負荷率を超えないように制限される。すなわち、主ポンプとは性質の異なる副次ポンプが原動機に接続される場合に、環境条件及び使用条件に合わせて主ポンプの最大吸収トルクを正確に、しかも簡単に調整することができる。また、副次ポンプの吸収トルクを最大負荷に、すなわち最大吸収トルクにした状態で、現状の主ポンプの最大吸収トルクを正確に調整できるので、主ポンプと副次ポンプとの間のポンプ吸収トルクの干渉を防ぐことができる。
【0011】
また、本発明は、前述のそれぞれの発明において、前記目標負荷率を変更可能な入力装置を備えたことを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、前述の発明において、前記調整値、及び調整結果を報知可能な出力装置を備えたことを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、前述のそれぞれの発明において、前記副次ポンプが冷却ファンポンプから成ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、副次ポンプの吸収トルクを最大吸収トルクにした状態で、主ポンプの調整用の目標吸収トルクを、十分に小さなポンプ吸収トルクから緩やかな速度で増量させて、あるいは原動機がストールしない範囲で十分に大きな予め定められるポンプ吸収トルクから緩やかな速度で減量させて、ポンプ吸収トルクの制限値である調整値を所得し、この調整値によって主ポンプの最大吸収トルクを制限する構成にしてあることから、主ポンプとは性質の異なる副次ポンプが原動機に接続されている場合に、環境条件および使用条件に合わせて主ポンプの最大吸収トルクを正確に、しかも簡単に調整することができ、この油圧作業機械のオペレータによる主ポンプの最大吸収トルクの調整が可能となる。
【0015】
また、副次ポンプの吸収トルクを最大吸収トルクにした状態で、現状の主ポンプの最大吸収トルクを正確に調整できるので、主ポンプと副次ポンプとの間のポンプ吸収トルクの干渉を防ぐことができ、これにより環境条件及び使用条件の違いに拘わらずこの油圧作業機械の優れた操作性、及び作業性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下,本発明に係る油圧作業機械のポンプトルク制御装置を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0017】
[本実施形態が備えられる油圧ショベルの基本構成]
図1は本発明の油圧作業機械のポンプトルク制御装置の一実施形態を示す油圧回路図である。
【0018】
この図1に示すように、本実施形態のポンプトルク制御装置は、油圧作業機械、例えば油圧ショベルに備えられるものである。この油圧ショベルは、原動機すなわちエンジン3と、このエンジン3の回転数を設定する回転数設定手段、例えばエンジンコントロールダイアル1と、エンジン3の実回転数を検出する回転ピックアップセンサ4とを備えている。また、エンジンコントロールダイアル1で設定された設定回転数信号Nrを取り込む入力手段、エンジンコントロールダイアル1で設定された設定回転数信号Nrに基づいてエンジン3の回転数を制御する制御手段、回転ピックアップセンサ4で検出されたエンジン3の実回転数に相当する信号を外部に出力する出力手段、及びエンジン出力トルクに相当する負荷率信号を外部に出力する出力手段を有する原動機コントローラ、すなわちエンジンコントローラ2を備えている。
【0019】
また、この油圧ショベルは、ブーム、アーム等の可動体を駆動するシリンダアクチュエータ16、及び旋回体、走行体等の可動体を駆動するモータアクチュエータ17と、これらのアクチュエータ16,17に圧油を供給する主油圧ポンプ、すなわちメインポンプ13と、このメインポンプ13とは性質の異なる副次ポンプ、例えばパイロットポンプ6、冷却ファンポンプ20を備えている。これらのメインポンプ13、パイロットポンプ6、冷却ファンポンプ20はエンジン3によって駆動される。
【0020】
また、メインポンプ13からアクチュエータ16,17に供給される圧油の流量と方向を制御する方向切換弁9,9aと、これらの方向切換弁9,9aを切換え操作するリモコン弁5,5aと、ゲートロック弁8と、メインポンプ13の押しのけ容積を制御する主ポンプ用レギュレータ、すなわちメインポンプレギュレータ14を備えている。パイロットポンプ6の吐出管路にはフィルタ7を設けてある。
【0021】
さらに、前述した冷却ファンポンプ20からの圧油が供給され、エンジン冷却水を循環させる放熱器、すなわちラジエータ18a、及び作動油を循環させる放熱器、すなわち作動油クーラ18と、これらのラジエータ18a及び作動油クーラ18に外気を送風する冷却ファン22aと、前述した冷却ファンポンプ20からの圧油が供給され、冷却ファン22aを駆動する冷却ファンモータ22と、冷却ファンポンプ20の押しのけ容積を制御する副次ポンプ用レギュレータ、すなわち冷却ファンポンプレギュレータ21とを備えている。同図1中、符号19は作動油タンクを示している。
【0022】
[本実施形態のポンプトルク制御装置の基本構成]
このような油圧ショベルに備えられる本実施形態のポンプトルク制御装置は、同図1に示すように、メインポンプレギュレータ14を駆動する主ポンプ用電磁比例弁、すなわちメインポンプ電磁比例弁23、及び冷却ファンポンプレギュレータ21を駆動する副次ポンプ用電磁比例弁、すなわち冷却ファンポンプ電磁比例弁24を備えている。
【0023】
また、シャトル弁10を介して方向切換弁9,9aを切換えるリモコン弁5,5aの操作量を検出する操作量検出器、例えばポジコン圧センサ11、及びメインポンプ13の吐出圧を検出する吐出圧検出器、すなわちメインポンプ吐出圧センサ15を備えている。なお図示しないが、エンジン3の冷却水温を検出する冷却水温検出器、すなわち冷却水温センサ、及び作動油温を検出する作動油温検出器、すなわち作動油温センサも備えている。
【0024】
さらに、エンジンコントロールダイアル1及びエンジンコントローラ2が接続されるとともに、前述したポジコン圧センサ11、メインポンプ吐出圧センサ15、及び図示しない冷却水温センサ、作動油温センサが接続されるメインコントローラ12を備えている。
【0025】
このメインコントローラ12は、例えば基本的に以下に列挙する要素を含んでいる。
【0026】
a. ポジコン圧センサ11から出力される操作量信号に基づいて目標押しのけ容積を演算するポジティブ制御手段
b. エンジンコントロールダイアル1から出力される設定回転数信号Nrからメインポンプ13の目標吸収トルクを演算し、この演算された目標吸収トルクとメインポンプ吐出圧センサ15から出力される吐出圧信号からメインポンプ13の目標押しのけ容積を演算するトルク制限手段
c. エンジンコントロールダイアル1で設定された設定回転数信号Nrを取り込む入力手段
d. ポジコン圧センサ11から出力される操作量信号を取り込む入力手段
e. メインポンプ吐出圧センサ15から出力される吐出圧信号を取り込む入力手段
f. 図示しない冷却水温センサから出力される冷却水温信号を取り込む入力手段
g. 図示しない作動油温センサから出力される作動油温信号を取り込む入力手段
h. 前述のポジティブ制御手段で演算された目標押しのけ容積と、前述のトルク制限手段で演算された目標押しのけ容積とを比較し、小さい方を目標押しのけ容積に選択する選択手段
i. 前述の「h」の選択手段で選択されたメインポンプ13の目標押しのけ容積に基づいてメインポンプ電磁比例弁23に制御信号、すなわち制御電流を出力する出力手段
j. 図示しない冷却水温センサ、作動油温センサに基づいて冷却ファンポンプ20の目標押しのけ容積を演算する演算手段
k. 前述の「j」の演算手段で演算された冷却ファンポンプ20の目標押しのけ容積に基づいて冷却ファンポンプ電磁比例弁24に制御信号、すなわち制御電流を出力する出力手段を備えている。
【0027】
[本実施形態の特徴とする構成]
特に本実施形態は、メインポンプ13の最大吸収トルクの調整開始を指示する開始手段、すなわちこの油圧ショベルのオペレータが操作可能な調整スイッチ25と、エンジン3の目標負荷率を変更可能な入力装置26と、後述の調整値、及び調整結果をオペレータに報知可能な出力装置27とを備えている。これらの調整スイッチ25、入力装置26、及び出力装置27は、運転室内に配置されるモニタ装置に含まれる構成要素である。また、これらの調整スイッチ25、入力装置26、及び出力装置27は、メインコントローラ12に接続されている。
【0028】
また特に、本実施形態は、メインコントローラ12が以下に列挙する要素を含んでいる。
【0029】
A. 前述した調整スイッチ25の指示によって、エンジンコントロールダイアル1による設定回転数信号Nrの設定が定格回転数に固定されているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第1判断手段
B. 調整スイッチ25の指示によって、メインポンプ吐出圧センサ15で検出される吐出圧が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第2判断手段
C. 調整スイッチ25の指示によって、ポジコン圧センサ11で検出される操作量が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第3判断手段
D. 前述の第1、第2、第3判断手段における全ての判断が真とされると、冷却ファンポンプ20のポンプ吸収トルクの状態を使用上の最大負荷に、すなわち最大吸収トルクにするように、冷却ファンポンプ20の目標押しのけ容積を切り替える処理手段
E. エンジンコントローラ2から出力されるエンジン3の負荷率信号を取り込む入力手段
F. 調整用の目標吸収トルクを十分に小さなポンプ吸収トルクから緩やかな速度で増量する処理手段
G. エンジン3の負荷率と目標負荷率との差が所定の範囲内に存在するか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第4判断手段
H. 前述の「G」の第4判断手段で偽と判断される間は、負荷率信号の取り込みと調整用の目標吸収トルクの増量とを繰り返し行う処理手段
I. 前述の「G」の第4判断手段で真と判断された際に、このときの調整用の目標吸収トルクを取得し、この取得値を調整値として記憶する処理を行う処理手段
J. 前述のトルク制限手段で演算された目標吸収トルクを調整値で制限する処理手段を備えている。
【0030】
[油圧ショベルの動作の概要]
前述した本実施形態の構成を含むこの油圧ショベルの動作の概要について以下に説明する。
【0031】
オペレータがエンジンコントロールダイアル1で目標のエンジン回転数を設定すると、このエンジンコントロールダイアル1の設定回転数信号Nrは、エンジンコントローラ2に取り込まれる。同様に、エンジンコントロールダイアル1の設定回転数信号Nrがメインコントローラ12に取り込まれる。エンジンコントローラ2は、エンジン3の回転数と出力を制御する。回転ピックアップセンサ4で検出された実エンジン回転数信号Nは、エンジンコントローラ2に取り込まれ、エンジン制御に用いられる。エンジンコントローラ2から出力される実エンジン回転数信号Nと、エンジン負荷率信号EngLoadはメインコントローラ12に取り込まれる。
【0032】
オペレータがリモコン弁5あるいは5aを操作すると、パイロットポンプ6から吐出される油は、フィルタ7、ゲートロック弁8、リモコン弁5あるいは5aを経由して方向切換弁9あるいは9aへ導かれる。シャトル弁10を経由した油はポジコン圧センサ11で検出され、ポジコン圧信号としてメインコントローラ12に取り込まれる。
【0033】
メインコントローラ12は、ポジティブ制御手段によるポジティブ制御、トルク制限手段によるトルク制御に基づき、メインポンプ電磁比例弁23に制御電流を出力する。
【0034】
メインポンプ電磁比例弁23は、メインポンプレギュレータ14を駆動し、メインポンプ13の傾転を制御する。メインポンプ13から吐出される油は、メインポンプ吐出圧センサ15で検出されポンプ吐出圧信号としてメインコントローラ12に取り込まれる。また、メインポンプ13から吐出される油は、方向切換弁9または9aによって流量と方向が制御され、シリンダアクチュエータ16,モータアクチュエータ17から戻された油は、方向切換弁9,9a、作動油クーラ18を経由して作動油タンク19へ戻される。
【0035】
図示しない冷却水温センサによって検出された冷却水温信号と作動油温センサによって検出された作動油温信号は、メインコントローラ12に取り込まれる。メインコントローラ12は、冷却水温信号、作動油温信号に応じて冷却ファンポンプ電磁比例弁24に制御電流を出力する。
【0036】
冷却ファンポンプ電磁比例弁24は、冷却ファンポンプレギュレータ21を駆動し、冷却ファンポンプ20の傾転を制御する。冷却ファンポンプ20から吐出される油は冷却ファンモータ22を駆動し、外気を送風して作動油、冷却水をクーリングする。冷却ファンモータ22から戻された油は、作動油タンク19に戻される。
【0037】
[本実施形態におけるメインポンプの最大吸収トルクの調整]
次に、本実施形態におけるメインポンプ13の最大吸収トルクの調整について説明する。
【0038】
オペレータは、入力装置26によってエンジン3の目標負荷率をメインコントローラ12に入力する。また、エンジンコントロールダイアル1を定格回転数に固定する。また、ブーム上げ操作に対応するリモコン弁5を操作して、ブームに対応するシリンダアクチュエータ16を伸長させ、ブーム上げリリーフ状態にする。これにより、メインポンプ13の吐出圧はリリーフ圧Pd_maxに保持される。この状態において調整スイッチ25をONにすると、メインポンプ13の最大吸収トルクの調整が開始される。
【0039】
以下に示すポンプ流量がトルク制御により決まる流量であると判断できる条件が成立すると、メインコントローラ12は、副次ポンプである冷却ファンポンプ20の吸収トルクを使用上の最大吸収トルクに設定する。
【0040】
〔条件〕
・ ポジコン圧センサ11によって検出されるポジコン圧Piが、ポンプ流量がトルク制御により決まると第3判断手段で判断できる予め定められる操作圧値、すなわち所定値以上である。
【0041】
・ メインポンプ吐出圧センサ15によって検出されるメインポンプ13の吐出圧Pdが、ほぼリリーフしていると第2判断手段で判断できる若干低い、予め定められる圧力値、すなわち所定値以上である。
【0042】
・ エンジンコントロールダイアル1は操作されていない(今回のNr=前回のNr)。
【0043】
・ エンジンコントロールダイアル1から出力される設定回転数信号Nrが、第1判断手段で定格回転数であると判断されたとき。
【0044】
前述のように、冷却ファンポンプ20の吸収トルクが最大吸収トルクに設定されると、吐出される油は使用上の最大流量になり、冷却ファンモータ22は最高速度で回転する。次に、メインポンプ13の吸収トルクを最小吸収トルクに設定する。メインポンプ13から吐出される油は、最小吸収トルクに相当する流量となる。
【0045】
次に、エンジン3の出力が目標負荷率に等しくなるまでメインポンプ13の吸収トルクを緩やかに増量する。エンジン3の負荷率が目標負荷率に等しくなったときの吸収トルクを調整値として取得する。これは、メインポンプ13に割り当て可能な最大吸収トルクである。図3のP−Q線図に示すように、メインポンプ13に割り当て可能な最大吸収トルクT2は、エンジン定格回転数の目標負荷率に相当するトルクT1から、パイロットポンプ6の吸収トルク分t3と、冷却ファンポンプ20の吸収トルク分t2を差し引いたトルクである。なお、図3中、T3はメインポンプ13の最小吸収トルクを、t1はメインポンプ13に割り当てられた吸収トルク分を示している。
【0046】
[メインコントローラにおける処理の概要]
図2は本実施形態に備えられるメインコントローラにおける処理の概要を説明する図である。
【0047】
この図2に示すように、メインコントローラ12に電源が投入されると、はじめに初期化処理が行われ、このとき、不揮発性メモリEEPROMからエンジン3の目標負荷率、後述の調整値AdjVal、調整結果、主に調整失敗要因を示す調整ステータス等のデータが読み出される。また、変数の初期化等も行われる。
【0048】
入力信号処理では、メインコントローラ12に接続された調整スイッチ25のON,OFF信号、メインポンプ吐出圧センサ15で検出されるメインポンプ吐出圧Pd、エンジンコントロールダイアル1から出力されるエンジン3の目標回転数である設定回転数信号Nr、エンジンコントローラ2から出力される実回転数信号N等の各信号が取り込まれる。次に後述する調整値AdjValを求める処理1、求められた調整値AdjValに基づくメインポンプ13の最大吸収トルク制御に係る処理2が順次実行される。出力信号処理では、メインコントローラ12に接続した冷却ファンポンプ電磁比例弁24の制御電流FanVal、メインポンプ電磁比例弁23の制御電流MainVal、調整値AdjVal、調整結果、調整結果ステータスの信号が出力される。このような入力信号処理、処理1、処理2、及び出力信号処理は、繰り返し行われる。
【0049】
[メインコントローラで実施される処理1]
図4〜6は本実施形態に備えられるメインコントローラにおける調整値を求める処理1を説明するフローチャートである。図5は図4に示す処理に続く処理を示すフローチャート、図6は図5に示す処理に続く処理を示すフローチャートである。以下、これらの図4〜6に基づいて調整値AdjValを求める処理1について説明する。
【0050】
図4に示すように、電源投入直後は、ステップ0が実行される。このステップ0では、冷却ファン制御フラグに通常制御がセットされ、トルク制御フラグに通常制御がセットされる。次にステップ1へ移る。
【0051】
ステップ1では、調整スイッチ25のOFF,ONエッジが検出されるまで、ステップ1の処理を繰り返し実行する。調整スイッチ25のOFF,ONエッジが検出されると、ステップ2へ移る。
【0052】
ステップ2では、リリーフ条件継続待ちタイマtimer1に初期値TIME1がセットされ、ステップ3へ移る。
【0053】
ステップ3では、調整スイッチ25がOFFかどうかの判定とリリーフ条件継続待ちの判定を行う。調整スイッチ25がOFFのとき、調整中止と判断してステップ0へ戻る。リリーフ条件が成立し、一定時間継続した場合にはステップ4へ移る。リリーフ条件が継続されるまでステップ3を繰り返し行う。
【0054】
図5に示すように、ステップ4では、冷却ファン制御フラグに調整制御がセットされる。冷却ファン最高待ちタイマtimer2に初期値TIME2がセットされ、ステップ5へ移る。
【0055】
ステップ5では、調整スイッチ25がOFFかどうかの判定、リリーフ条件が成立したかどうかの判定、冷却ファン22aの最高回転数待ちの判定を行う。調整スイッチ25がOFFのとき、調整中止と判断してステップ0へ戻る。リリーフ条件が不成立のとき、調整結果に失敗をセットする。また、調整結果ステータスに、リリーフ条件不成立の旨をセットし、ステップ9へ移る。
【0056】
一方、調整スイッチ25がONであり、リリーフ条件が成立したときは、冷却ファン22aが最高回転数になるまでの時間待ちを行い、ステップ6に移る。
【0057】
ステップ6では、吸収トルク増減インターバルタイマtimer3に初期値TIME3をセットし、調整タイムアウト検出タイマtimer4に初期値TIME4をセットし、エンジン3の目標負荷率継続カウンタqに初期値QTをセットし、調整用の目標吸収トルクTr_tempに最小吸収トルクをセットし、トルク制御フラグに調整制御をセットし、ステップ7へ移る。
【0058】
図6に示すように、ステップ7では、調整スイッチ25がOFFのとき、調整中止と判断してステップ0へ移る。
【0059】
リリーフ条件が不成立のとき、調整結果に失敗をセットし、調整結果ステータスに条件不成立の旨をセットし、ステップ9へ移る。
【0060】
調整がタイムアウトしたとき、調整結果に失敗をセットし、調整結果ステータスに調整タイムアウトの旨をセットし、ステップ9へ移る。
【0061】
エンジン3の負荷率EngLoadが入力装置26によって入力された目標負荷率よりも小さいと第4判断手段で判断された場合には、調整用の目標吸収トルクTr_tempを一定時間ごとに、一定量ΔTr_tempずつ増量する処理がなされる。
【0062】
エンジン3の負荷率EngLoadが目標負荷率よりも大きいと第4判断手段で判断された場合には、調整用の目標吸収トルクTr_tempを一定時間ごとに、一定量ΔTr_tempずつ減量する処理がなされる。
【0063】
エンジン3の負荷率EngLoadが目標負荷率に等しくなるまで、調整用の目標吸収トルクTr_tempの増減を繰り返し行う。エンジン3の負荷率EngLoadが目標負荷率に等しくなり、一定時間等しい状態が継続した場合には、調整用の目標吸収トルクTr_tempを調整値AdjValに代入する。すなわち、調整値AdjValが取得される。ここで調整結果に成功をセットする。調整結果ステータスに調整可能の旨をセットし、ステップ8へ移る。
【0064】
ステップ8では、調整値AdjValを不揮発性メモリに記憶させる処理がなされ、ステップ9へ移る。
【0065】
ステップ9では、調整結果、調整結果ステータスを不揮発性メモリに記憶させる処理がなされ、ステップ0へ戻る。このようにして処理1における調整値AdjValの取得の処理がなされる。なお、調整値AdjVal、調整結果、及び調整結果ステータスのそれぞれは、メインコントローラ12から出力装置27に出力され、この出力装置27によってオペレータに報知される。
【0066】
[メインコントローラで実施される処理2]
図7,8は本実施形態に備えられるメインコントローラにおける調整値に基づくメインポンプの最大吸収トルク制御に係る処理2を説明するフローチャートである。図8は図7に示す処理に続く処理を示すフローチャートである。
【0067】
はじめに、図7に示すように、ポジコン圧センサ11で検出されたポジコン圧Piからメインポンプ13の目標押しのけ容積Dr_Piが求められる。すなわち、ポジティブ制御が実施される。次にトルク制御フラグが通常制御ならば、設定回転数信号Nrからメインポンプ13の目標吸収トルクTrが求められる。トルク制御フラグが前述の調整制御ならば、目標吸収トルクTrに調整用の目標吸収トルクTr_tempを代入する処理がなされる。
【0068】
調整結果が成功ならば、目標吸収トルクTrを、前述の処理1で求められた調整値AdjValで制限する処理がなされる。
【0069】
目標吸収トルクTrのP−Q(Pd−Dr_Pd)特性曲線に基づき、メインポンプ吐出圧センサ15によって検出されるメインポンプ13の吐出圧Pdからメインポンプ13の目標押しのけ容積Dr_Pdを求める処理、すなわちトルク制限手段によるトルク制御が実施される。
【0070】
次に、図8に示すように、ポジティブ制御の目標押しのけ容積Dr_Piとトルク制御の目標押しのけ容積Dr_Pdとから最小押しのけ容積を選択する処理がなされ、メインポンプ13の目標押しのけ容積Dr_mが求められる。
【0071】
次に、メインポンプ13の目標押しのけ容積Dr_mからメインポンプ電磁比例弁電流MainValを求める処理がなされる。このようにして求められたメインポンプ電磁比例弁電流MainValが前述したように制御電流としてメインポンプ電磁比例弁23に出力され、これによってメインポンプ13の押しのけ容積を制御するメインポンプレギュレータ14が駆動する。
【0072】
また、冷却ファン制御フラグが通常制御ならば、冷却水温、作動油温から冷却ファンポンプ20の目標押しのけ容積Dr_fを求める処理がなされる。
【0073】
また、冷却ファンフラグが通常制御でないときには、冷却ファンポンプ20の目標押しのけ容積Dr_fを最大押しのけ容積DR_F_MAXとする処理、すなわち冷却ファンポンプ20の吸収トルクを最大吸収トルクにする処理がなされる。
【0074】
ここで、例えば冷却ファンポンプ20の目標押しのけ容積Dr_fに緩処理が実施される。この緩処理は、徐々に上述のようにして求められた目標押しのけ容積Dr_fに一致させるようにする処理であり、冷却ファン装置の加減速によるエンジン3の負荷変動の抑制のために、また、冷却ファン22aの急激な運転による冷却ファン装置の破損防止のために実施される。
【0075】
次に、上述のようにして求められた冷却ファンポンプ20の目標押しのけ容積Dr_fから、冷却ファンポンプ電磁比例弁電流FanValが求められる。このようにして求められた冷却ファンポンプ電磁比例弁電流FanValが前述したように制御電流として冷却ファンポンプ電磁比例弁24に出力され、これによって冷却ファンポンプ20の押しのけ容積を制御する冷却ファンポンプレギュレータ21が駆動する。
【0076】
以上のように構成した本実施形態によれば、調整スイッチ25によってメインポンプ13の最大吸収トルクの調整開始が指示されると、冷却ファンポンプ20の負荷が最大負荷に、すなわち最大吸収トルクにされた状態において、エンジン3の負荷率EngLoadが目標負荷率となるまで、メインポンプ13の吸収トルクを最小側から緩やかに増量させる処理が行われる。このように緩やかに増量させることにより、静的なポイントでの調整が可能となる。エンジン3の負荷率EngLoadが入力装置26によって入力された目標負荷率に一致したときに、メインポンプ13の最大吸収トルクが取得され、この取得値が調整値AdjValとなる。この調整値AdjVal以下となるように、メインポンプ13の最大吸収トルクが制限された状態で、メインポンプ13の吸収トルク制御がなされる。これにより、エンジン3の負荷率EngLoadが目標負荷率を超えないように制限され、メインポンプ13とともに、メインポンプ13とは性質の異なる副次ポンプ、例えば冷却ファンポンプ20がエンジン3に接続される場合に、環境条件及び使用条件に合わせてメインポンプ13の最大吸収トルクを正確に、しかも簡単に調整することができる。これにより、この油圧ショベルのオペレータによるメインポンプ13の最大吸収トルクの調整が可能となる。
【0077】
また、冷却ファンポンプ20を最大吸収トルクにした状態で、現状のメインポンプ13の最大吸収トルクを正確に調整できるので、メインポンプ13と冷却ファンポンプ20との間のポンプ吸収トルクの干渉を防ぐことができる。これにより、環境条件や使用条件の違いに拘わらず、この油圧ショベルの優れた操作性、及び作業性を確保できる。
【0078】
なお、前記実施形態では、メインコントローラ12が、特に、調整用の目標吸収トルクTr_tempを十分に小さなポンプ吸収トルクから一定時間ごとに一定量ΔTr_tempずつ増量、すなわち、緩やかな速度で増量する処理手段と、エンジン3の負荷率EngLoadと目標負荷率との差が所定の範囲内に存在するか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第4判断手段と、この第4判断手段で偽と判断される間は、負荷率信号の取り込みと調整用の目標吸収トルクTr_tempの増量を繰り返し行う処理手段と、第4判断手段で真と判断された際に、このときの調整用の目標吸収トルクTr_tempを取得し、これを調整値AdjValとして記憶する処理を行う処理手段と、トルク制限手段で演算された目標吸収トルクを調整値AdjValで制限する処理手段とを備えた構成にしてあるが、本発明は、このように構成することには限定されない。
【0079】
すなわち、メインコントローラ12が、上述の構成に代えて、調整用の目標吸収トルクTr_tempをエンジン3がストールしない範囲で十分に大きな予め定めるポンプ吸収トルクから緩やかな速度で減量する処理手段と、エンジン3の負荷率EngLoadと目標負荷率との差が所定の範囲内に存在するか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第4判断手段と、この第4判断手段で偽と判断される間は、負荷率信号の取り込みと調整用の目標吸収トルクTr_tempの減量を繰り返し行う処理手段と、第4判断手段で真と判断された際に、このときの調整用の目標吸収トルクTr_tempを取得し、これを調整値AdjValとして記憶する処理を行う処理手段と、トルク制限手段で演算された目標吸収トルクを調整値AdjValで制限する処理手段とを備えた構成にしてもよい。このように構成したものも、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
また、上記実施形態では、メインコントローラ12が、第4判断手段で真と判断された際に、このときの調整用の目標吸収トルクを取得し、これを調整値として記憶する処理手段を備えているが、すなわち、エンジンの負荷率EngLoadが目標負荷率に等しくなり、一定時間等しい状態が継続した場合には、そのときの調整用の目標吸収トルクTr_tempを調整値Adjvalとして不揮発性メモリに記憶させる処理を行うようにしたが、本発明は、このように構成することには限らない。メインコントローラ12が、第4判断手段で真と判断された際に、このときの調整用の目標吸収トルクTr_tempと所定の基準トルクTb、例えばエンジン定格回転のトルクとの差を調整値Adjvalとして不揮発性メモリに記憶させる処理手段を備え(Adjval=Tr_temp−Tb)、上述の差に基づく調整値Adjvalでトルク制限手段で演算された目標吸収トルクを制限するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の油圧作業機械のポンプトルク制御装置の一実施形態を示す油圧回路図である。
【図2】本実施形態に備えられるメインコントローラにおける処理の概要を説明する図である。
【図3】本実施形態におけるメインポンプの吸収トルク、パイロットポンプの吸収トルク、及び冷却ポンプの吸収トルクの配分を説明するP−Q図である。
【図4】本実施形態に備えられるメインコントローラにおける調整値を求める処理1を説明するフローチャートである。
【図5】本実施形態に備えられるメインコントローラにおける調整値を求める処理1を説明するフローチャートであって、図4に示す処理に続く処理を示すフローチャートである。
【図6】本実施形態に備えられるメインコントローラにおける調整値を求める処理1を説明するフローチャートであって、図5に示す処理に続く処理を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態に備えられるメインコントローラにおける調整値に基づくメインポンプの最大吸収トルク制御に係る処理2を説明するフローチャートである。
【図8】本実施形態に備えられるメインコントローラにおける調整値に基づくメインポンプの最大吸収トルク制御に係る処理2を説明するフローチャートであって、図7に示す処理に続く処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
1 エンジンコントロールダイアル(回転数設定手段)
2 エンジンコントローラ(原動機コントローラ)
3 エンジン(原動機)
5 リモコン弁
5a リモコン弁
6 パイロットポンプ
9 方向切換弁
9a 方向切換弁
11 ポジコン圧センサ(操作量検出器)
12 メインコントローラ
13 メインポンプ(主ポンプ)
14 メインポンプレギュレータ(主ポンプ用レギュレータ)
15 メインポンプ吐出圧センサ(吐出圧検出器)
16 シリンダアクチュエータ
17 モータアクチュエータ
20 冷却ファンポンプ(副次ポンプ)
21 冷却ファンポンプレギュレータ(副次ポンプ用レギュレータ)
22 冷却ファンモータ
22a 冷却ファン
23 メインポンプ電磁比例弁(主ポンプ用電磁比例弁)
24 冷却ファンポンプ電磁比例弁(副次ポンプ用電磁比例弁)
25 調整スイッチ(開始手段)
26 入力装置
27 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、この原動機の回転数を設定する回転数設定手段と、
前記回転数設定手段で設定された設定回転数信号を取り込む入力手段、前記設定回転数信号に基づいて前記原動機の回転数を制御する制御手段、前記原動機の実回転数に相当する信号を外部に出力する出力手段、及び前記原動機の出力トルクに相当する負荷率信号を外部に出力する出力手段を有する原動機コントローラと、
可動体を駆動するアクチュエータと、前記原動機によって駆動され、前記アクチュエータに圧油を供給する可変容量型の主ポンプと、この主ポンプから前記アクチュエータに供給される圧油の流量と方向を制御する方向切換弁と、前記主ポンプの押しのけ容積を制御する主ポンプ用レギュレータと、
前記原動機によって駆動される可変容量型の副次ポンプと、この副次ポンプの押しのけ容積を制御する副次ポンプ用レギュレータとを有する油圧作業機械に備えられ、
前記主ポンプ用レギュレータを駆動する主ポンプ用電磁比例弁、及び前記副次ポンプ用レギュレータを駆動する副次ポンプ用電磁比例弁と、
前記方向切換弁の操作量を検出する操作量検出器、及び前記主ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出器と、
前記回転数設定手段で設定された設定回転数信号を取り込む入力手段、前記操作量検出器から出力される操作量信号を取り込む入力手段、前記吐出圧検出器から出力される吐出圧信号を取り込む入力手段、及び前記操作量検出器から出力される前記操作量信号に基づいて目標押しのけ容積を演算するポジティブ制御手段、前記回転数設定手段から出力される設定回転数信号から前記主ポンプの目標吸収トルクを演算し、この演算された目標吸収トルクと前記吐出圧検出器から出力される吐出圧信号とから前記主ポンプの目標押しのけ容積を演算するトルク制限手段、及び前記ポジティブ制御手段で演算された目標押しのけ容積と前記トルク制限手段で演算された目標押しのけ容積とを比較し、小さいほうを目標押しのけ容積に選択する選択手段、この選択手段で選択された主ポンプの目標押しのけ容積に基づいて前記主ポンプ用電磁比例弁に制御信号を出力する出力手段、前記副次ポンプの目標押しのけ容積を演算する演算手段、この演算手段で演算された前記副次ポンプの目標押しのけ容積に基づいて前記副次ポンプ用電磁比例弁に制御信号を出力する出力手段を含むメインコントローラを備えるとともに、
前記主ポンプの最大吸収トルクの調整開始を指示する開始手段を備え、
前記メインコントローラが、
前記開始手段の指示によって、前記回転数設定手段による設定回転数の設定が定格回転数に固定されているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第1判断手段と、
前記開始手段の指示によって、前記吐出圧検出器で検出される吐出圧が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第2判断手段と、
前記開始手段の指示によって、前記操作量検出器で検出される操作量が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第3判断手段と、
前記第1、第2、第3判断手段における全ての判断が真とされると前記副次ポンプの吸収トルクの状態を使用上の最大負荷にするように前記副次ポンプの目標押しのけ容積を切り替える処理手段と、
前記原動機コントローラから出力される前記原動機の前記負荷率信号を取り込む入力手段と、
調整用の目標吸収トルクを十分に小さなポンプ吸収トルクから緩やかな速度で増量する処理手段と、
前記原動機の負荷率と目標負荷率との差が所定の範囲内に存在するか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第4判断手段と、
この第4判断手段で偽と判断される間は、前記負荷率信号の取り込みと調整用の目標吸収トルクの増量を繰り返し行う処理手段と、
前記第4判断手段で真と判断された際に、このときの調整用の目標吸収トルクを取得し、この取得した目標吸収トルクを、あるいは取得した目標吸収トルクと所定の基準トルクとの差を調整値として記憶する処理を行う処理手段と、
前記トルク制限手段で演算された目標吸収トルクを前記調整値で制限する処理手段とを含むことを特徴とする油圧作業機械のポンプトルク制御装置。
【請求項2】
原動機と、この原動機の回転数を設定する回転数設定手段と、
前記回転数設定手段で設定された設定回転数信号を取り込む入力手段、前記設定回転数信号に基づいて前記原動機の回転数を制御する制御手段、前記原動機の実回転数に相当する信号を外部に出力する出力手段、及び前記原動機の出力トルクに相当する負荷率信号を外部に出力する出力手段を有する原動機コントローラと、
可動体を駆動するアクチュエータと、前記原動機によって駆動され、前記アクチュエータに圧油を供給する可変容量型の主ポンプと、この主ポンプから前記アクチュエータに供給される圧油の流量と方向を制御する方向切換弁と、前記主ポンプの押しのけ容積を制御する主ポンプ用レギュレータと、
前記原動機によって駆動される可変容量型の副次ポンプと、この副次ポンプの押しのけ容積を制御する副次ポンプ用レギュレータとを有する油圧作業機械に備えられ、
前記主ポンプ用レギュレータを駆動する主ポンプ用電磁比例弁、及び前記副次ポンプ用レギュレータを駆動する副次ポンプ用電磁比例弁と、
前記方向切換弁の操作量を検出する操作量検出器、及び前記主ポンプの吐出圧を検出する吐出圧検出器と、
前記回転数設定手段で設定された設定回転数信号を取り込む入力手段、前記操作量検出器から出力される操作量信号を取り込む入力手段、前記吐出圧検出器から出力される吐出圧信号を取り込む入力手段、及び前記操作量検出器から出力される前記操作量信号に基づいて目標押しのけ容積を演算するポジティブ制御手段、前記回転数設定手段から出力される設定回転数信号から前記主ポンプの目標吸収トルクを演算し、この演算された目標吸収トルクと前記吐出圧検出器から出力される吐出圧信号とから前記主ポンプの目標押しのけ容積を演算するトルク制限手段、及び前記ポジティブ制御手段で演算された目標押しのけ容積と前記トルク制限手段で演算された目標押しのけ容積とを比較し、小さいほうを目標押しのけ容積に選択する選択手段、この選択手段で選択された主ポンプの目標押しのけ容積に基づいて前記主ポンプ用電磁比例弁に制御信号を出力する出力手段、前記副次ポンプの目標押しのけ容積を演算する演算手段、この演算手段で演算された前記副次ポンプの目標押しのけ容積に基づいて前記副次ポンプ用電磁比例弁に制御信号を出力する出力手段を含むメインコントローラを備えるとともに、
前記主ポンプの最大吸収トルクの調整開始を指示する開始手段を備え、
前記メインコントローラが、
前記開始手段の指示によって、前記回転数設定手段による設定回転数の設定が定格回転数に固定されているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第1判断手段と、
前記開始手段の指示によって、前記吐出圧検出器で検出される吐出圧が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第2判断手段と、
前記開始手段の指示によって、前記操作量検出器で検出される操作量が予め設定した所定値を超えているか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第3判断手段と、
前記第1、第2、第3判断手段における全ての判断が真とされると前記副次ポンプの吸収トルクの状態を使用上の最大負荷にするように前記副次ポンプの目標押しのけ容積を切り替える処理手段と、
前記原動機コントローラから出力される前記原動機の前記負荷率信号を取り込む入力手段と、
調整用の目標吸収トルクを前記原動機がストールしない範囲で十分に大きな予め定めるポンプ吸収トルクから緩やかな速度で減量する処理手段と、
前記原動機の負荷率と目標負荷率との差が所定の範囲内に存在するか否か真偽を判断し、その判断結果を出力する第4判断手段と、
この第4判断手段で偽と判断される間は、前記負荷率信号の取り込みと調整用の目標吸収トルクの減量を繰り返し行う処理手段と、
前記第4判断手段で真と判断された際に、このときの調整用の目標吸収トルクを取得し、この取得した目標吸収トルクを、あるいは取得した目標吸収トルクと所定の基準トルクとの差を調整値として記憶する処理を行う処理手段と、
前記トルク制限手段で演算された目標吸収トルクを前記調整値で制限する処理手段とを含むことを特徴とする油圧作業機械のポンプトルク制御装置。
【請求項3】
前記請求項1または2記載の発明において、
前記目標負荷率を変更可能な入力装置を備えたことを特徴とする油圧作業機械のポンプトルク制御装置。
【請求項4】
前記請求項3記載の発明において、
前記調整値、及び調整結果を報知可能な出力装置を備えたことを特徴とする油圧作業機械のポンプトルク制御装置。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか1項記載の発明において、
前記副次ポンプが冷却ファンポンプから成ることを特徴とする油圧作業機械のポンプトルク制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−146924(P2007−146924A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340459(P2005−340459)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】