説明

治療装置

【課題】疾患の痛みを効果的に緩和することができる治療装置を提供する。
【解決手段】磁場発生部10とレーザ光照射部20とを有する治療装置100であって、磁場発生部10は、少なくとも先端部11a,11bが対向するように配置された磁性体よりなる一対のコア部材と、当該コア部材の基部11cに電線が巻回されてなるコイル12a、12b、12cと、を有し、コイル12a、12b、12cに通電することにより、一方の先端部11aから他方の先端部11bに磁力線を放射することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気とレーザ光とを併用する治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気およびレーザ光が生体に与える影響の研究が盛んである。
【0003】
磁気およびレーザ光を生体に作用させる技術としては、下記の特許文献1に示すようなレーザ医療器が知られている。特許文献1に開示されているレーザ医療器では、レーザ光照射孔が設けられているレーザ光照射手段と、レーザ光照射孔の近傍に配置された磁性体と、を備える。このような構成によれば、患者の患部またはツボに磁気とレーザ光とを同時に作用させることができる。
【特許文献1】特開昭60−24832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記レーザ医療器では、疾患の痛みに対して十分な緩和効果が得られず、より効果的に疾患の痛みを緩和する治療装置が望まれている。
【0005】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の目的は、疾患の痛みを効果的に緩和することができる治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の(1)〜(10)に記載の発明によって達成される。
【0007】
(1)磁場発生部とレーザ光照射部とを有する治療装置であって、前記磁場発生部は、少なくとも先端部が対向するように配置された磁性体よりなる一対のコア部材と、当該コア部材の基部に電線が巻回されてなるコイルと、を有し、前記コイルに通電することにより、一方の先端部から他方の先端部に磁力線を放射することを特徴とする治療装置である。
【0008】
(2)前記コイルに周期的に変動する電流を流すことによって、強度が周期的に変動する変動磁場を発生させることを特徴とする上記(1)に記載の治療装置である。
【0009】
(3)前記先端部は、前記一対のコア部材が所定間隔で対向して配置される対向磁路を有するように形成されることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の治療装置である。
【0010】
(4)前記対向磁路の長さは、10〜100mmであることを特徴とする上記(3)に記載の治療装置である。
【0011】
(5)前記一対のコア部材は、一体的に形成されることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の治療装置である。
【0012】
(6)前記レーザ光照射部は、レーザ光を生成するレーザ光発振器と、前記レーザ光発振器で生成されたレーザ光を前記先端部の間から照射する光ファイバと、を有することを特徴とする上記(1)に記載の治療装置である。
【0013】
(7)前記先端部近傍における磁場の強度は、30〜1000mTの範囲にあり、前記変動磁場の周波数は、10〜300Hzの範囲にあることを特徴とする上記(2)に記載の治療装置である。
【0014】
(8)前記レーザ光の波長は、500〜700nmの範囲にあり、前記レーザ光照射部近傍におけるレーザ光の強度は、50〜5000mW/cmの範囲にあることを特徴とする上記(1)に記載の治療装置である。
【0015】
(9)前記磁場発生部および前記レーザ光照射部を収容する外装部材をさらに有することを特徴とする上記(1)に記載の治療装置である。
【0016】
(10)前記外装部材には、治療対象物を挿入する挿入開口部が設けられており、少なくとも一つの前記磁場発生部が、前記挿入開口部の内側に向かって磁場を発生するように配置されることを特徴とする上記(9)に記載の治療装置である。
【発明の効果】
【0017】
上記(1)に記載の発明によれば、対向して配置される一対の先端部により磁場の強度が高められるため、皮下深部にまで磁気を作用させることができる。したがって、磁気とレーザ光とを併用することによって、疾患の痛みを効果的に緩和することができる。
【0018】
また、上記(2)に記載の発明によれば、痛みに関する神経が抑制されるとともに、痛みの増強因子である炎症が抑制される。したがって、疾患の痛みをより効果的に緩和することができる。
【0019】
また、上記(3)に記載の発明によれば、対向磁路を形成することによって、一対の先端部の端面から離れるにしたがって、磁場の強度が大幅に低下することが抑制される。したがって、皮膚表面に刺激を与えることなく、皮下深部により効果的に磁気を作用させることができる。
【0020】
また、上記(4)に記載の発明によれば、皮膚表面に刺激を与えることなく、皮下深部により効果的に磁気を作用させることができる。
【0021】
また、上記(5)に記載の発明によれば、効率的に磁場を発生させることができる。
【0022】
また、上記(6)に記載の発明によれば、対向して配置される先端部間の磁場の強度が高められた領域にレーザ光を照射することができる。
【0023】
また、上記(7)に記載の発明によれば、疾患の痛みを効果的に緩和することができる。
【0024】
また、上記(8)に記載の発明によれば、疾患の痛みを効果的に緩和することができる。
【0025】
また、上記(9)に記載の発明によれば、磁場発生部およびレーザ光照射部を一体的に取り扱うことができる。
【0026】
また、上記(10)に記載の発明によれば、治療対象物の周囲から磁気およびレーザ光を効果的に作用させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図中、同様の部材には、同一の符号を用いた。
【0028】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態における治療装置の概略構成を示す斜視図である。本実施の形態の治療装置は、患者の皮膚表面に交流磁場とレーザ光とを同時に照射するものである。
【0029】
図1に示すとおり、本実施の形態の治療装置100は、磁場発生部10およびレーザ光照射部20を備える。磁場発生部10およびレーザ光照射部20は、電源回路30,40とともに、外装部材50に収容されている。外装部材50には、レーザ光を照射するための窓部51が設けられている。
【0030】
(磁場発生部)
磁場発生部10は、皮膚表面に照射される変動磁場を発生させるものである。磁場発生部10は、両先端部11a,11bが対向するように配置された磁性体よりなるコア部材11と、コア部材11の基部11cに電線が巻回されてなるコイル12と、を有する。
【0031】
コア部材11は、フェライト、パーマロイ、およびアモルファス金属軟磁性体などの透磁率が高く磁気損失が低い磁性体より形成される。本実施の形態のコア部材11は、コの字状の基部11cと、コの字状の基部11cの両端部から内方に突出する突出部11d,11eと、突出部11d,11eの端部から所定間隔で対向して延長される一対の先端部11a,11bとから構成される。適切な強度の交流磁場を皮膚表面および皮下深部に作用させる見地から、対向して配置される一対の先端部11a,11bの間隔は、1〜10mmの範囲に形成され、先端部11a,11bの長さは、10〜100mmの範囲に形成されることが好ましい。また、先端部11a,11bの端面の合計面積は、8〜800mmの範囲に形成されることが好ましい。先端部11a,11bの間隔および長さについての詳細な説明は後述する。
【0032】
コイル12は、コの字状の基部11cを構成する3つの直状部に電線がそれぞれ巻回されてなる3つのコイル12a,12b,12cを含む。3つのコイル12a,12b,12cは、電源回路30に対してそれぞれ並列に接続されており、電源回路30から交流電流またはパルス電流の供給を受ける。
【0033】
このように構成される磁場発生部10によれば、コイル12a,12b,12cへの通電により、一方の先端部11aから他方の先端部11bに磁力線が放射される。さらに、本実施の形態の磁場発生部10では、電源回路30から交流電流またはパルス電流が供給されることにより、磁場の強度が周期的に変動する変動磁場が発生される。
【0034】
(レーザ光照射部)
レーザ光照射部20は、変動磁場が照射される皮膚表面にレーザ光を照射するものである。レーザ光照射部20は、レーザ光発振器21と光ファイバ22とを備える。
【0035】
レーザ光発振器21は、磁場発生部10のコの字状の基部11cの内側に配置され、500〜700nmの波長範囲における一の波長のレーザ光を生成する。レーザ光発振器21は、電源回路40に電気的に接続されており、電源回路40から交流電流の供給を受けてパルス光または連続光を生成する。
【0036】
光ファイバ22は、基部がレーザ光発振器21に接続され、端部が先端部11aと先端部11bとの間に配置される。光ファイバ22は、ポリメチルメタアクリレートなどのプラスチック、石英などのガラスから形成される。また、光ファイバ22は、直径0.5〜5mmの一または複数(5本程度)の光ファイバを含む。
【0037】
このように構成されるレーザ光照射部20によれば、一方の先端部から他方の先端部に磁力線が放射される一対の先端部11a,11bの間からレーザ光が照射される。
【0038】
次に、図2および図3を参照して、本実施の形態の治療装置100における磁場発生部10で発生される磁場の強度について説明する。
【0039】
図2および図3は、種々の形状のコア部材の先端部より発生される磁場のシミュレーション結果を示す図である。なお、コア部材の断面寸法は、15mm角の矩形状であり、コの字状の基部に巻回される電線(マグネットワイヤ)の巻数は、両側の直状部において780ターンであり、底部の直線部において585ターンである。また、電線を流れる交流電流を50Hzかつ0.5Aとして、磁場の強度は計算されている。
【0040】
図2(A)は、一対の先端部の間隔が50mmに形成されたコア部材より発生される磁場のシミュレーション結果を示す図であり、図2(B)は、一対の先端部の間隔が12mmに形成されたコア部材より発生される磁場のシミュレーション結果を示す図である。
【0041】
図2(A)のグラフにおいて実線で示すとおり、一対の先端部の間隔が50mmに形成されたコア部材より発生される磁場は、一対の先端部の中間点から幅方向に24mm離れた箇所において最大値を呈し、その強度は41mTである。また、図2(A)のグラフにおいて破線で示すとおり、最大値を呈する箇所から上方に5mm離れた箇所における磁場の強度は、30mTであり、一点鎖線で示すとおり、最大値を呈する箇所から10mm離れた箇所における磁場の強度は、18mTである。
【0042】
一方、図2(B)のグラフにおいて実線で示すとおり、一対の先端部の間隔が12mmに設定されたコア部材より発生される磁場は、一対の先端部の中間点から幅方向に6mm離れた箇所において最大値を呈し、その強度は、110mTである。また、図2(B)のグラフにおいて破線で示すとおり、最大値を呈する箇所から上方に5mm離れた箇所における磁場の強度は、67mTであり、一点鎖線で示すとおり、最大値を呈する箇所から10mm離れた箇所における磁場の強度は、21mTである。
【0043】
したがって、図2(A)と図2(B)とを比較すれば、一方の先端部から他方の先端部に磁力線を放射する一対の先端部の間隔を小さく形成することによって、先端部より発生される磁場の強度が高まることが分かる。
【0044】
図3は、一対の先端部の間隔が12mmに形成され、かつ、先端部の長さが40mmに形成されたコア部材より発生される磁場のシミュレーション結果を示す図である。
【0045】
図3のグラフにおいて実線で示すとおり、一対の先端部の間隔が12mmであって、さらに、40mmの長さの対向磁路を有する先端部より発生される磁場は、一対の先端部の中間点から幅方向に6mm離れた箇所において最大値を呈し、その強度は110mTである。また、図3のグラフにおいて破線で示すとおり、最大値を呈する箇所から上方に5mm離れた箇所における磁場の強度は、82mTであり、一点鎖線で示すとおり、最大値を呈する箇所から10mm離れた箇所における磁場の強度は、52mTである。
【0046】
したがって、図2(B)と図3とを比較すれば、所定間隔で対向して配置される先端部の対向磁路を長く形成することによって、先端部の表面から離れるにしたがって磁場の強度が低下することを抑制できることが分かる。
【0047】
以上のとおり構成される本実施の形態の治療装置100では、所定間隔で対向して配置される一対の先端部11a,11bによって磁場の強度が高められることにより、患者の皮下深部にまで磁場が照射される。さらに、一対の先端部11a,11bの間の磁場の強度が高められている領域にレーザ光が照射される。このとき、対向して配置される一対の先端部11a,11bの間隔を狭く、さらに、一対の先端部11a,11bの長さを長くすることによって、より強い磁場をより遠方まで効率よく照射することができる。
【0048】
そして、外装部材50を介して先端部11a,11bの端面および光ファイバ22の端部が皮膚表面に対向するように、本実施の形態の治療装置100を皮膚表面に軽く押し付けて使用すれば、皮下深部にまで磁気を作用させることができるため、磁気とレーザ光とを併用することによって、疾患の痛みを効果的に緩和することができる。さらに、強度が周期的に変動する変動磁場とレーザ光とが作用することにより、痛みに関係する神経が抑制されるとともに、痛みの増強因子である炎症が抑制される。したがって、本実施の形態の治療装置100によれば、皮膚深部に病巣がある筋・筋膜性腰痛、肩こり、関節リウマチ、および糖尿病性神経障害などの痛みをともなう疾患を治療することができる。
【0049】
なお、本実施の形態の治療装置100における交流磁場の周波数は、10〜300Hzの範囲にあり、外装部材50表面近傍における磁場の強度は、30〜1000mTの範囲にあることが好ましい。また、外装部材50の窓部51近傍におけるレーザ光の強度は、50〜5000mW/cmの範囲であることが好ましい。
【0050】
(第2の実施の形態)
次に、図4を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0051】
本実施形態は、治療装置100が複数の磁場発生部10およびレーザ光照射部20を備える実施の形態である。
【0052】
図4は、本発明の第2の実施の形態における治療装置を示す図である。本実施の形態の治療装置100は、複数の磁場発生部10およびレーザ光照射部20を備える。複数の磁場発生部10およびレーザ光照射部20を収容する外装部材50には、治療対象物を挿入するための挿入開口部52が設けられている。なお、本実施の形態の治療装置100が、複数の磁場発生部10およびレーザ光照射部20を備え、外装部材50に挿入開口部52が設けられていることを除けば、本実施の形態の治療装置100の構成は、第1の実施の形態における構成と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0053】
外装部材50には、患者の治療対象部位を挿入するための挿入開口部52が設けられている。挿入開口部52は、非磁性体より形成され、円筒形状を有する。円筒状の挿入開口部52の内周面には、レーザ光を透過させる窓部51が複数設けられている。挿入開口部51の内径は、治療対象部位の大きさに応じて、10〜200mmの範囲に形成される。磁場発生部10およびレーザ光照射部20は、挿入開口部52の中心軸に向かって磁場およびレーザ光をそれぞれ照射するように、挿入開口部52の周囲に配置されている。
【0054】
このような構成にすると、患者の治療対象部位の周囲から磁場およびレーザ光が照射され、より効率的に痛みを緩和することができる。
【0055】
以上のとおり、上述した第1および第2の実施の形態において、本発明の治療装置を説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【0056】
たとえば、第1および第2の実施の形態では、磁場発生部の一対の先端部は、一のコア部材の両端部により構成された。しかしながら、一対の先端部には、異なる一対のコア部材の先端部より構成されてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、本実施例によって何ら限定されるものではない。
【0058】
<痛みに関係する神経の抑制効果>
まず、交流磁場とレーザ光との併用による痛みに関係する神経の抑制効果を検証するために、ラットの坐骨神経の痛覚神経(C線維、Aδ線維)活動に及ぼす交流磁場およびレーザ光の影響を検証した。
【0059】
具体的には、交流磁場およびレーザ光が単独でラットの坐骨神経の痛覚神経活動に及ぼす影響と、交流磁場とレーザ光との併用がラットの坐骨神経の痛覚神経活動に及ぼす影響を検証した。
【0060】
使用動物としては、6〜8週齢のcrlj.WIラット(旧名crj:wistar)を日本チャールス・リバー株式会社から購入した。そして、1週間の馴化期間を設けた後に実験に供した。実験時のラットの体重は、270〜370gであった。
【0061】
実験手順としては、まず、ドラフト内でラットをエーテルで軽く鎮静させた後、1.1〜1.3g/kg程度のウレタンを腹腔内に投与してラットに麻酔をかけた。より具体的には、最初に20%のウレタン溶液を1.1mg/kg腹腔内に投与してから、麻酔の効き具合に応じて2倍希釈した40%のウレタン溶液を0.05mg/kg単位で追加的に投与した。これは、麻酔量が多すぎると坐骨神経からの誘発活動電位が出にくくなり、少なすぎると麻酔効果が弱くなりラットの呼吸が乱れ、時間に応じた誘発活動電位のばらつきが大きくなるからである。
【0062】
そして、ラットの呼吸が安定し、麻酔薬が適度に効いたのを確認(呼吸数が84〜120/分)した後に、固定台の上にラットを横向きに静かに乗せ、口、両前足、後ろ足片方を凧糸で軽く縛り、固定台に保持した。
【0063】
次に、ラットの大腿部皮膚を外科バサミで切開し、筋肉を露出させた後に、筋肉表面を外科バサミで浅く切り開いた。さらに、出血を最小限度にするために、以降は外科バサミを用いることなく鉗子で筋肉の切り口を押し広げるようにしながら筋肉を切り裂いた。切り口直下に坐骨神経が確認できたならば、筋肉の切り口をピンセットで摘みながら小さな鉗子を用いて、周囲の結合織から坐骨神経を丁寧に剥離した。
【0064】
ラットの坐骨神経の活動電位は、Harvard Medical SchoolのGokinらの方法(Anestesiology 95:1441−54、2001)に準じて測定した。Gokinらの方法の特徴は、測定部位を流動パラフィンのプールの中に置くことである。筋肉の切り口の四隅に綿糸を結び、4本の綿糸を軽く引っ張り上げながら、綿糸を2本のアームの付いた保持台に縛りつけた。このようにすると、引っ張り上げた筋肉の切り口の真下に空間が形成されるので、この空間を満たすように流動パラフィン(関東化学)を注入した。坐骨神経は、流動パラフィンの中に浮くような形で存在した。
【0065】
次に、先端がかぎ状の双極電極(電極間隔5mm ユニークメディカル製)で坐骨神経をひっかけ、神経を軽く引き上げるような状態で、垂直方向に3次元微動可能な電極保持台に固定した。実験中、プールの温度が35℃以下にならないように、熱電対温度計(CUSTOM CT−1307)で温度をモニタリングしつつ、必要があれば放熱ランプ(TECHNOLIGHT KTS−150RSV Kenko)で保温した。
【0066】
活動電位の記録は、かぎ状の双極電極を記録電極とし、胸部皮膚下にアース電極としての皿電極を埋め込み、高感度生体電気増幅器(ER−1 Extracelular Amplifier、CYGNUS TECHNOLOGY)で2万倍に増幅した後に、活動電位波形をPowerLab 16/30(AD INSTRUMENTS)を介してMACBookパソコン(MacOSX バージョン10.4.9)の画面に表示した。なお、電位測定のノイズを最小限にするため、高感度生体電気増幅器のローパスフィルタおよびハイパスフィルタは、それぞれ3kHzおよび300Hzに設定した。
【0067】
ウレタン麻酔下において、通常、坐骨神経から自発性の活動電位は認められない。今回は、坐骨神経に活動電位を誘発するために、ラットの後足を電気的に刺激した。ラット後足片方(主として左足)の第2趾と第3趾との間と、第4趾と第5趾との間の皮膚にステンレス製ディスポ鍼(カナケン φ0.14mm×40mm)を貫通するように挿入して刺激電極とした。電気刺激装置(Model 238 High CURRENT SOURCE MEASURE UNIT KEITHLEY製)からIsolator(DSP−133B、DIA MEDICAL SYSTEM CO)を介して、ラットの後足を電気的に刺激した。電気的な刺激は、パルス刺激であって、一回のパルス刺激は、頻度1Hzかつパルス幅1msで、強度5〜15mAの5発のパルスであった。このようなパルス刺激を10分毎に繰り返し実施した。
【0068】
(神経への交流磁場の照射)
テルモ株式会社で試作した交流磁場発生装置または市販の50Hz磁場発生装置(交流磁場治療器 株式会社ソーケンメディカル)を用いて、ラットに磁場を照射した。前者は、25mmのエアギャップのあるドーナツ状のフェライト(外径151mm、内径91.5mm、厚さ20mm)に、絶縁体被覆銅線(直径0.8mm)を巻回したものであった。ファンクションジェネレータ(WF1973 NF corporation)により正弦波を発生させ、PRECISION POWER AMPLIFIER 4502(NF corporation)により増幅した交流電流を、上記の磁場発生装置に供給することによって、交流磁場を照射した。
【0069】
磁場照射部位は、ラットの後足の電気刺激部位周辺からかかと辺りであり、50Hz(1〜17mT)、1kHz(1〜10mT)、10kHz(3mT)の交流磁場を照射した。市販の磁場発生装置の磁場強度は、約50mTであった。磁場照射時間は20分とした。選択した周波数のバンドパスフィルタの効果で、交流磁場が50Hz(1〜17mT)の場合には、活動電位測定中にノイズが発生しなかった。しかしながら、交流電流が50Hz(50mT)、1kHz、および10kHzの場合、ノイズが発生したので、活動電位を測定する間は、数十秒間磁場照射を中断した。なお、磁場照射部位での磁場は、5180 Gauss/Tesla Meter(東陽テクニカ)で測定した。
【0070】
(神経へのレーザ光の照射)
レーザ光の照射には、532nm、635nm、または810nmの波長のレーザ光照射装置を用いた。波長532nmのレーザ光照射装置は、レーザヘッドがKTG LASER(DPGL−30:高知豊中技研社製)であり、ドライバ電源(LDC−800:高知豊中技研社製)と接続して20mWまで可変的に出力できるものであった。635nmのレーザ光照射装置は、半導体レーザ(オーディオテクニカ社製 SU−31C)であり、波長810nmのレーザ光照射装置は、3Wまで可変的に出力できる歯科用の半導体レーザ装置(株式会社ユニタック製)であり、それぞれの波長のレーザ光を、直径0.75mmのプラスチックファイバを介して照射した。ファイバの先端(照射口)をラットの足裏部の皮膚面に接触させて、レーザ光を照射した。照射時間は20分とした。今回、実施したレーザ光の照射強度は、532nmの波長のレーザ光では17mW(パワー密度:3.8W/cm)であり、635nmの波長のレーザ光では15mW(パワー密度:3.3W/cm)であり、810nmの波長のレーザ光では17mW(3.8W/cm)であった。なお、いずれのレーザ光も、LASERMATE−Q(COHERENT社製)を用いてその出力を測定した。
【0071】
(交流磁場単独での神経への影響)
本実験では、誘発活動電位のインパルス数を計測することにより、交流磁場およびレーザ光の神経への影響を評価した。
【0072】
誘発活動電位のインパルス数は、実験終了後にインパルス測定ソフトChart ProSpike module(AD INSTRUMENTS)を用いて計測した。インパルスの数は、痛覚神経であるAδ線維とC線維群の2つに分けて計測した。誘発電位がAδ線維またはC線維のどちらによるかは、神経伝導速度から判断した。Gokinらはラットの坐骨神経に含まれるAδ線維およびC線維の神経伝導速度は、それぞれ2〜10m/s、0.5〜2m/sであると報告している。よって、本実験では、刺激電極と記録電極との間の距離を、刺激してから誘発電位が記録される時間で除した値(神経伝導速度)が、Gokinらが報告した値のどの範囲内に当たるかで判別した。具体的に言えば、刺激と記録の電極間距離が10cmの場合、刺激してから誘発電位が記録される時間が10〜50msであれば、Aδ線維によるものとした。一方、50〜200msであれば、C線維によるものとした。得られた結果は、5発刺激で得られたインパルス数の合計の平均値±標準誤差で示した。統計学的有意差の評価には、Studentのt検定(一対の標本による平均の検定)を用いた。
【0073】
ラット足先に電気刺激(1Hz、1ms、5〜10mA、5発)を与えると、ほぼ全ての標本において坐骨神経から誘発活動電位が記録された。活動電位は、1発刺激後には殆ど記録されないが、2発刺激から徐々にインパルス数が増え3〜5発刺激後に最大となるようなワインドアップ(wind−up)現象を示した。最大になったところの活動電位を解析すると、Aδ線維からの発火と思われる活動電位が1〜2パルス記録され、続いてC線維の発火によると思われる活動電位が数パルス観察された。電気刺激を10分間隔で繰り返すと、Aδ線維成分およびC線維成分の両方ともわずかにインパルス数が減少していく比較的安定した反応を示した。
【0074】
10分間隔で足先を2回電気刺激した後に、50Hz(5mT、17mT、50mT)1kHz(10mT)あるいは10kHz(3mT)の交流磁場をそれぞれ20分間ずつ照射した。磁場を照射すると、すべての照射条件において、Aδ線維成分の活動電位にほとんど影響は認められなかった。
【0075】
一方、図5(A)に示すとおり、C線維成分は、50Hzかつ50mTの20分間の磁場照射によって、活動電位のインパルス数が統計学的にも有意に抑制された(約40〜50%)。この抑制は、磁場照射を終えた後でも20分以上持続した。また、図5(B)に示すとおり、50Hzかつ30mTの磁場照射においても、活動電位の抑制傾向が認められた(照射20分後で15%くらいの抑制傾向)。しかしながら、50Hzかつ5mTの磁場照射では、明確な効果は認められなかった。さらに、1kHz(10mT)または10kHz(3mT)でも、明確な効果は認められなかった。
【0076】
(レーザ光単独での神経への影響)
10分間隔で足先を2回電気刺激した後に、532nm(17mW)、635nm(15mW)、または810nm(17mW)のレーザ光を20分間照射した(n=7)。
【0077】
ラットの足裏に種々の波長のレーザ光を照射しても、電気刺激によるAδ線維成分の活動電位にはほとんど影響が認められなかった。しかしながら、図6(A)に示すとおり、C線維成分の活動電位では、532nmの波長のレーザ光を照射開始後10分および20分後に、活動電位のインパルス数の有意な抑制が認められた。具体的には、レーザ光の照射を開始してから20分後に、30%の抑制効果(p<0.05)が得られた。
【0078】
この抑制は、レーザ光の照射を終えた後でも20分以上持続した。また、635nmの波長のレーザ光においても、C線維成分の活動電位の抑制傾向が認められた。一方、図6(B)に示すとおり、810nmの波長のレーザ光では、明確な効果は認められなかった。
【0079】
(交流磁場とレーザ光との併用での神経への影響)
50Hz(30mT)交流磁場と532nm(17mW)の波長のレーザ光との併用による効果を検討した。ラットの足裏に、レーザ光と交流磁場とを同時に照射すると、図7に示すとおり、電気刺激による誘発活動電位のC線維成分は、照射開始20分後で活動電位のインパルス数が約50%抑制された(n=5、p<0.05)。なお、Aδ線維成分の活動電位に対しては、明確な効果は認められなかった。
【0080】
このように、532nmの波長のレーザ光と50Hzの交流磁場とを同時に付与すると、電気刺激による誘発活動電位のC線維成分に相当する活動電位が強く抑制されることが確認された。このようなC繊維成分は、遅い痛み(鈍痛)に関係することが知られている。
【0081】
<炎症の抑制効果>
次に、交流磁場とレーザ光との併用による炎症の抑制効果を検証するために、ラットの足浮腫に及ぼす交流磁場およびレーザ光の影響を検証した。
【0082】
具体的には、交流磁場(50Hzは50mT、1kHzは10mT)およびレーザ光(532nm、810nm)が単独でラットの足浮腫に及ぼす影響と、交流磁場とレーザ光との併用がラットの足浮腫に及ぼす影響を検証した。
【0083】
まず、6〜8週齢のcrlj.WIラット(旧名crj:wistar)を日本チャールス・リバー株式会社から購入し、1週間の馴化期間を設けた後に実験に供した。実験時のラットの体重は、200〜350gであった。
【0084】
次に、ラットの足蹠浮腫モデルを作製した。ドラフト内でラットをエーテルにより軽く麻酔した後、片方の足蹠部(足の裏)に1%のλ―カラゲニン(carrageenan)水溶液を0.15ml皮下注射して、足蹠足浮腫を作製した。対足の足蹠部には、生理食塩水を、同じく0.15ml皮下注射した。
【0085】
足浮腫は、足の容積および厚みにより測定した。測定時間は、足浮腫が最大になるカラゲニン投与3〜4時間後とした。足容積の増加分は、水を入れたメスシリンダにラット後足を浸し、増えた水量を計測することによって測定した。足浮腫は、カラゲニン投与側の足容積と生理食塩水投与側(カラゲニン投与足の反対足)の足容積との差で表した。足の厚みの増加分は、ノギスを用いて最も厚くなった部位を測定した。
【0086】
交流磁場およびレーザ光は、ラットを四角い木の枠組み(縦20cm×横30cm)の中に張られたネット上に置いて照射した。ネットとしては、ラケット用のガット(nylon mono−filament:0.78mm、ゴーセン株式会社)を用い、約1cm幅の網目のものを使用した。ラットがネット上から逃げないように、透明なプラスティック製ケージ(縦12cm×横20cm×高さ11cm)で蓋をしてから、交流磁場およびレーザ光を照射した。
【0087】
交流磁場の照射条件は、50Hzかつ50mT、1kHzかつ10mTであった。磁場照射部位は、ラットの後肢のカラゲニン注入部位とし、ネット下から照射した。照射時間は、カラゲニン投与直前の20分間、カラゲニン投与後は1時間毎に20分間ずつ照射した。カラゲニン投与後4時間で足浮腫を測定する場合、磁場照射時間は合計100分であり、カラゲニン投与後3時間で足浮腫を測定する場合、磁場照射時間は合計80分であった。
【0088】
レーザ光の照射条件は、532nmおよび810nmの波長のレーザ光で、それぞれ17mWを用いた。レーザ光を照射する部位は、ラットの後肢のカラゲニン注入部位とし、ネット下からレーザ光照射装置に接続されたファイバを介して照射した。照射時間は、カラゲニン投与直前の5分間、カラゲニン投与後は1時間毎に5分間照射した。カラゲニン投与後4時間後に足浮腫を測定する場合、レーザ光照射時間は合計25分であった。
【0089】
実験2は、1日2匹のラットを対象とし、1匹を磁場照射またはレーザ光照射に、もう1匹を何も照射していないコントロールとした(Time matched control)。足浮腫容積をml単位で、また、足浮腫の厚みをmm単位で表示し、それぞれ平均値±標準誤差で示した。コントロール群との差に統計学的有意差があるかどうかをStudentのt検定(一対の標本による平均の検定)で評価した。
【0090】
【表1】

【0091】
表1に示すとおり、50Hz(50mT)または1kHz(10mT)の交流磁場を単独で照射した場合、ラットのカラゲニン足浮腫には影響が認められなかった。また、532nm(17mW)または810nm(17mW)の波長のレーザ光を単独で照射した場合も、ラットのカラゲニン足浮腫には影響が認められなかった。
【0092】
一方、50Hz(50mT)の交流磁場と532nm(17mW)の波長のレーザ光とを併用した場合、統計学的にも有意に足浮腫を抑制していることが認められた。具体的には、浮腫の容積で約30%の抑制効果があることが確認された。痛みは炎症によって増強されるため、50Hz交流磁場と532nmグリーンレーザ光の併用によれば、炎症をともなう痛みを抑制できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の第1の実施の形態における治療装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図2(A)は、一対の先端部の間隔が50mmに形成されたコア部材より発生される磁場のシミュレーション結果を示す図であり、図2(B)は、一対の先端部の間隔が12mmに形成されたコア部材より発生される磁場のシミュレーション結果を示す図である。
【図3】一対の先端部の間隔が12mmに形成され、かつ、先端部の長さが40mmに形成されたコア部材より発生される磁場のシミュレーション結果を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態における治療装置の概略構成を示す図である。
【図5】ラットの神経に交流磁場を単独で照射した場合の誘発活動電位のインパルス数の変化を示す図である。
【図6】ラットの神経にレーザ光を単独で照射した場合の誘発活動電位のインパルス数の変化を示す図である。
【図7】ラットの神経に交流磁場とレーザ光とを照射した場合の誘発活動電位のインパルス数の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
10 磁場照射部、
11 コア部材、
11a,11b 先端部、
11c 基部、
12 コイル、
20 レーザ光照射部、
21 レーザ光発振器、
22 光ファイバ、
30,40 電源回路、
50 外装部材、
51 窓部、
52 挿入開口部、
100 治療装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場発生部とレーザ光照射部とを有する治療装置であって、
前記磁場発生部は、
少なくとも先端部が対向するように配置された磁性体よりなる一対のコア部材と、当該コア部材の基部に電線が巻回されてなるコイルと、を有し、
前記コイルに通電することにより、一方の先端部から他方の先端部に磁力線を放射することを特徴とする治療装置。
【請求項2】
前記コイルに周期的に変動する電流を流すことによって、強度が周期的に変動する変動磁場を発生させることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項3】
前記先端部は、前記一対のコア部材が所定間隔で対向して配置される対向磁路を有するように形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の治療装置。
【請求項4】
前記対向磁路の長さは、10〜100mmであることを特徴とする請求項3に記載の治療装置。
【請求項5】
前記一対のコア部材は、一体的に形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項6】
前記レーザ光照射部は、レーザ光を生成するレーザ光発振器と、前記レーザ光発振器で生成されたレーザ光を前記先端部の間から照射する光ファイバと、を有することを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項7】
前記先端部近傍における磁場の強度は、30〜1000mTの範囲にあり、前記変動磁場の周波数は、10〜300Hzの範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の治療装置。
【請求項8】
前記レーザ光の波長は、500〜700nmの範囲にあり、前記レーザ光照射部近傍におけるレーザ光の強度は、50〜5000mW/cmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項9】
前記磁場発生部および前記レーザ光照射部を収容する外装部材をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項10】
前記外装部材には、治療対象物を挿入する挿入開口部が設けられており、少なくとも一つの前記磁場発生部が、前記挿入開口部の内側に向かって磁場を発生するように配置されることを特徴とする請求項9に記載の治療装置。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−226040(P2009−226040A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75925(P2008−75925)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】