説明

波形鋼板耐震壁

【課題】交通や風等による微振動を低減できる波形鋼板耐震壁を提供することを目的とする。
【解決手段】波形鋼板22には、縦フランジ28、30が存在しない非補剛領域22B、22Cが設けられている。この非補剛領域22B、22Cは、他の波形鋼板22の領域22Aに比べて鉛直剛性が小さい。そのため、波形鋼板22のせん断変形により生じるせん断力の鉛直成分によって非補剛領域22B、22Cが上下方向に伸縮し、取付プレート46に対して縦フランジ28、30が上下方向に相対変位する。これにより、縦フランジ28、30と取付プレート46との間に設けられた粘弾性体56がせん断変形して、振動エネルギーを吸収する。このように、粘弾性体56によって波形鋼板耐震壁10に減衰を付与することで、風荷重や交通振動による微振動を低減することができ、波形鋼板耐震壁10が設置された建物の環境性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架構を構成する上下の水平部材の間に、波形鋼板を配置して構成された波形鋼板耐震壁に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物における耐震壁としては、特許文献1に示すように、波形に加工した波形鋼板を、波形の折筋の向きを横にして架構の構面に配置した波形鋼板耐震壁が提案されている。この波形鋼板耐震壁は、垂直方向にアコーディオンのように伸縮するため鉛直力を負担しないが、水平せん断力に対しては抵抗可能であり、せん断剛性・せん断耐力を確保しつつ優れた変形性能を有している。更に、せん断剛性及び強度については、鋼板の材質強度、板厚、重ね合わせ枚数、波形のピッチ、波高等を変えることにより調整可能であり、剛性及び設計強度の自由度が高い耐震壁を実現している。そして、地震荷重等の外力より架構を構成する上下の水平部材が相対移動すると、せん断力が波形鋼板に作用し、波形鋼板がせん断変形する。これにより、外力に対して波形鋼板が抵抗し、耐震効果を発揮する。また、外力に対して波形鋼板が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮させることができる。
【0003】
ところで、近年、居住空間における環境性能が注目されるようになり、交通や風等による微振動に対しても性能満足が求められている。このような微振動の対策としては、建物の重量を増したり、剛性を高めたりすることが考えられるが、建物に減衰を付与することが効果的である。波形鋼板耐震壁について見ると、波形鋼板が降伏した後の塑性域では、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーを吸収できるが、波形鋼板が降伏する前の弾性域では、波形鋼板の剛性を高めて微振動を抑制することになる。しかしながら、微振動に対する居住性向上の観点からすると、建物剛性を高める対策は、減衰を付与する対策よりも効果が低い。
【0004】
一方、架構の構面に配置されるブレースでは、微振動を抑制可能な複合型ダンパーが知られている(例えば、特許文献2)。この複合型ダンパーは、鋼製の大振幅用ダンパーと、粘弾性体で構成された小振幅用ダンパーを直列に結合し、小振幅用ダンパーの振幅範囲を制限するストッパーを設けている。しかしながら、耐震壁において、微振動を抑制する技術は開示されていない。
【0005】
また、特許文献3には、大振幅振動用の摩擦ダンパーと小振幅振動用の粘弾性ダンパーとを直列に結合して架構の構面に配置した壁部材が開示されている。この壁部材は、上側の梁に接合された上側鋼板と下側の床に接合された下側鋼板とに、粘弾性体シート(粘弾性ダンパー)が重ね合わせられた結合用鋼板をまたがるように当てがい、複数のボルトによって結合されている。ここで、上側鋼板と結合用鋼板とを結合するボルトとボルト孔との間には±2mm程度のクリアランスが設けられ、上側鋼板と結合用鋼板が相対変位可能とされている。また、結合用鋼板と下側鋼板とは、摩擦部材を間に挟んで高力ボルトによって摩擦接合され、摩擦ダンパーを構成している。この高力ボルトとボルト孔との間には±40mm程度のクリアランスが設けられ、結合用鋼板と下側鋼板とが相対変位可能とされている。そのため、風等の小振幅振動により架構に層間変形が生じた場合、先ず、結合用鋼板に重ね合わせられた粘弾性体シートがせん断変形して振動エネルギーを吸収し、地震等の大振幅振動により架構に層間変形が生じた場合は、高力ボルトで結合された結合用鋼板が摩擦部材上をスライドして振動エネルギーを吸収する。
【0006】
しかしながら、特許文献3の壁部材は、応力の伝達経路となる結合用鋼板に多数のボルト孔が形成されており、大振幅振動に抵抗する断面積が小さく、更に、充分な補剛処理が施されていないため、地震時に結合用鋼板がせん断座屈する恐れがある。
【特許文献1】特開2005−264713号公報
【特許文献2】特開平10−280727号公報
【特許文献3】特開平2007−247733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、地震に対する耐震性能を維持しつつ、交通や風等による微振動を低減できる波形鋼板耐震壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の波形鋼板耐震壁は、架構を構成する上下の水平部材の間に折り筋を横にして配置された波形鋼板と、前記波形鋼板の上下の端部に設けられ、上下の前記水平部材に取り付けられる横フランジと、前記波形鋼板の左右の端部に設けられた縦フランジと、前記波形鋼板に設けられ、該波形鋼板の左右の端部に前記縦フランジが存在しない非補剛領域と、前記架構に取り付けられた取付部材と、前記取付部材と前記縦フランジとの間に上下方向にせん断変形可能に設けられた粘弾性体と、前記取付部材と前記縦フランジとの間に設けられ、前記取付部材と前記縦フランジとの上下方向の相対変位を所定位置で止めるストッパー手段と、を備えている。
【0009】
上記の構成によれば、風荷重や交通振動の水平力(微振動)が架構に作用すると、横フランジを介して波形鋼板に水平力が伝達され、波形鋼板がせん断変形を繰り返す。波形鋼板がせん断変形すると、波形鋼板に作用したせん断力が水平方向の力として発生すると共に、このせん断力によって波形鋼板に発生する曲げモーメントを縦フランジ間の距離で(横フランジの長さ)で除した力が鉛直方向の力として縦フランジに作用する(以下、水平方向の力を「せん断力の水平成分」とし、鉛直方向の力を「せん断力の鉛直成分」とする)。
【0010】
ここで、波形鋼板には、縦フランジが存在しない非補剛領域が設けられている。この非補剛領域は、他の波形鋼板の領域に比べて鉛直剛性が小さい。そのため、波形鋼板のせん断変形により生じるせん断力の鉛直成分によって非補剛領域が上下方向に伸縮し、取付部材に対して縦フランジが上下方向に相対変位する。これにより、縦フランジと取付部材との間に設けられた粘弾性体がせん断変形して、振動エネルギーを吸収する。このように、粘弾性体によって波形鋼板耐震壁に減衰を付与することで、風荷重や交通振動による微振動を低減することができ、波形鋼板耐震壁が設置された建物の環境性能を向上させることができる。更に、波形鋼板に非補剛領域を設けることにより、非補剛領域を設けない場合と比較して粘弾性体のせん断変形量が大きくなり、振動低減効果が向上する。
【0011】
一方、地震荷重等の水平力により、取付部材と縦フランジの上下方向の相対変位が所定位置に達すると、ストッパー手段によって縦フランジと取付部材との相対変位が止められ、ストッパー手段を介して縦フランジと取付部材との間で応力伝達が相互になされる。これにより、波形鋼板に生じるせん断力の鉛直成分が、ストッパー手段を介して縦フランジから取付部材へ伝達され、波形鋼板が耐震要素として水平力に抵抗し、耐震効果を発揮する。また、水平力に対して波形鋼板が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮させることができる。このように、風や交通振動等の微振動に対しては粘弾性体をせん断変形させて振動を低減することができ、一方、地震荷重の大きな振動に対しては、波形鋼板耐震壁が本来の耐震性能、制震性能を発揮する。従って、波形鋼板耐震壁の耐震性能、制震性能を維持しつつ、風や交通振動等の微振動を低減することができるため、環境性能を向上させることができる。
【0012】
更に、ストッパー手段により、取付部材と縦フランジとの上下方向に相対変位を所定位置で止めることで粘弾性体の変形範囲が制限され、粘弾性体の破損、損傷が防止される。
【0013】
請求項2に記載の波形鋼板耐震壁は、請求項1に記載の波形鋼板耐震壁において、前記非補剛領域が、前記波形鋼板の上部及び下部に設けられ、前記取付部材が上及び下の前記水平部材にそれぞれ取り付けられ、前記縦フランジの上端部の側面及び下端部の側面と、該縦フランジの上端部の側面及び下端部の側面にそれぞれ対向する前記取付部材とに、前記粘弾性体を固定している。
【0014】
上記の構成によれば、波形鋼板の上部及び下部に非補剛領域が設けられている。また、取付部材が上及び下の水平部材にそれぞれ取り付けられている。そして、縦フランジの上端部の側面及び下端部の側面と、この縦フランジの上端部の側面及び下端部の側面にそれぞれ対向する取付部材とに、粘弾性体が固定されている。このように、縦フランジの上端部の側面及び下端部の側面に粘弾性体を設けることで、振動エネルギー吸収部位が増え、微小振動に対する振動減衰効果が向上する。更に、粘弾性体を縦フランジの中央部に設ける場合と比較して、上及び下の水平部材から粘弾性体までの距離が小さくなり、取付部材の高さを小さくすることができる。そのため、取付部材の設計強度を抑えることができる。
【0015】
請求項3に記載の波形鋼板耐震壁は、請求項1に記載の波形鋼板耐震壁において、前記非補剛領域が、前記波形鋼板の上部又は下部に設けられ、前記取付部材が上又は下の前記水平部材にそれぞれ取り付けられ、前記縦フランジの上端部の側面又は下端部の側面と、該縦フランジの上端部の側面又は下端部の側面に対向する前記取付部材とに、前記粘弾性体を固定している。
【0016】
上記の構成によれば、波形鋼板の上部又は下部に非補剛領域が設けられている。また、上又は下の水平部材に取付部材が取り付けられている。そして、縦フランジの上端部の側面又は下端部の側面と、この縦フランジの上端部の側面又は下端部の側面に対向する取付部材とに、粘弾性体が固定されている。このように、非補剛領域は、求められる環境性能(微振動減衰性能)に応じて、波形鋼板の上部又は下部に設けることができる。更に、粘弾性体を縦フランジの中央部に設ける場合と比較して、縦フランジの上端部又は下端部に粘弾性体を設けることで、上又は下の水平部材から粘弾性体までの距離が小さくなり、取付部材の高さを小さくすることができる。そのため、取付部材の設計強度を抑えることができる。
【0017】
請求項4に記載の波形鋼板耐震壁は、請求項1〜3の何れか1項に記載の波形鋼板耐震壁において、上下の前記水平部材の間に複数の前記波形鋼板が横方向に間隔を空けて配置され、対向する前記縦フランジの間に前記取付部材を配置し、該取付部材と前記縦フランジとの間にそれぞれ前記粘弾性体を設けている。
【0018】
上記の構成によれば、上下の水平部材の間に、複数の波形鋼板が横方向に間隔を空けて配置され、対向する縦フランジの間に取付部材が配置されている。対向する縦フランジと取付部材との間には、それぞれ粘弾性体が固定されている。この場合、地震荷重等の水平力が架構に作用し、隣接する波形鋼板の各々が同一方向(同一の水平方向)にせん断変形すると、対向する縦フランジにそれぞれ逆向きのせん断力の鉛直成分が作用する。従って、これらの縦フランジと取付部材との上下方向の相対変位が所定位置に達してストッパー手段が機能すると、対向する縦フランジから逆向きのせん断力の鉛直成分が取付部材に伝達される。そのため、隣接する波形鋼板のせん断変形により生じるせん断力の鉛直成分が取付部材で打ち消され、取付部材を介して上下の水平部材に伝達される集中力が低減される。よって、上下の水平部材の設計強度を下げることができる。
【0019】
また、対向する縦フランジで1つの取付部材を共用することで部材数が減り、コスト削減を図ることができる。
【0020】
請求項5に記載の波形鋼板耐震壁は、請求項1〜4の何れか1項に記載の波形鋼板耐震壁において、前記非補剛領域の波形形状が、他の前記波形鋼板の領域の波形形状よりも密とされている。
【0021】
上記の構成によれば、非補剛領域の波形形状を他の波形鋼板の領域の波形形状よりも密とすることで、波形鋼板の鉛直剛性が更に小さくなる。従って、取付部材に対する縦フランジの上下方向の相対変位が大きくなり、粘弾性体のエネルギー吸収効率が向上する。
【0022】
請求項6に記載の波形鋼板耐震壁は、請求項1〜5の何れか1項に記載の波形鋼板耐震壁において、前記ストッパー手段は、前記取付部材及び前記縦フランジの一方に設けられた開口部と、前記縦フランジ及び前記取付部材の他方から突出し前記開口部に挿入されると共に該開口部の上縁部又は下縁部に当接して前記取付部材と前記縦フランジとの上下方向の相対変位を所定位置で止めるストッパーピンと、を備えている。
【0023】
上記の構成によれば、地震荷重等の水平力により波形鋼板がせん断変形し、取付部材と縦フランジの上下方向の相対変位が所定位置に達すると、取付部材及び縦フランジの一方に設けられた開口部の上縁部又は下縁部に、取付部材及び縦フランジの他方に設けられたストッパーピンが当接して、取付部材と縦フランジとの相対変位が止められ、ストッパーピンを介して縦フランジと取付部材との間で相互に応力伝達がなされる。これにより、取付部材から縦フランジを介して波形鋼板に水平力が伝達され、波形鋼板が耐震要素として水平力に抵抗し、耐震効果を発揮する。また、水平力に対して波形鋼板が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、上記の構成としたので、地震に対する耐震性能を維持しつつ、交通や風等による微振動を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁について説明する。
【0026】
先ず、第1の実施形態に係る波形鋼板耐震壁10の構成について説明する。
【0027】
図1に示すように、鉄筋コンクリート製の左右の柱12、14と鉄筋コンクリート製の上下の梁16、18とに囲まれた架構20の構面には、波形鋼板耐震壁10が設置されている。波形鋼板耐震壁10は、鋼板を折り曲げて波形形状に加工した波形鋼板22と、波形鋼板22の上下の端部の設けられた鋼製の横フランジ24、26と、波形鋼板22の左右の端部に設けられた縦フランジ28、30と、固定部材42と、を備えている。
【0028】
板状の横フランジ24、26は、波形鋼板22の上端部(上端辺)又は下端部(下端辺)に沿って溶接等によって接合されており、この横フランジ24、26を梁16、18にそれぞれ取り付けることで、上の梁16と下の梁18の間に波形鋼板22が、その折り筋(折り目)を横にして配置されている。
【0029】
具体的には図5に示すように、下の梁18の上面18Aに埋設された接合プレート32を介して、下の梁18に横フランジ26が取り付けられる。接合プレート32の下面には、埋め込み式のアンカーナット34及びせん断力伝達要素としてのスタッド36が交互に溶接されている。また、接合プレート32には、アンカーナット34に対応する位置に複数のボルト孔38が形成されている。一方、横フランジ26には、ボルト孔38に対応する複数のボルト孔40が形成され、この横フランジ26を接合プレート32の上に載置し、ボルト孔38、40に貫通されるボルト35をアンカーナット34に捻じ込むことで、横フランジ26が接合プレート32に接合されている。これにより、下の梁18と横フランジ26とが、波形鋼板22に作用するせん断力を伝達可能に接合される。なお、説明を省略するが、同様の方法によって横フランジ24と上の梁16とが接合されている。
【0030】
また、下の梁18と横フランジ26とはせん断力を伝達可能に接合されていれば良く、上記した接合方法に限られない。例えば、横フランジ26と接合プレート32とを溶接接合しても良いし、また、エポキシ樹脂等の接着剤により、下の梁14の上面に直接横フランジ26を接着固定しても良い。
【0031】
図1に示すように、板状の縦フランジ28、30は、波形鋼板22の左端部(左端辺)及び右端部(右端辺)であって波形鋼板22の上部及び下部を除いた部分に、溶接等によって接合されている。縦フランジ28、30が存在しない波形鋼板22の上部及び下部の領域は非補剛領域22B、22Cとされ、縦フランジ28、30が取り付けられた領域22Aよりも鉛直剛性が小さくされている。なお、波形鋼板22の全体剛性、耐力を設計し易いように、非補剛領域22Bが左右の端部で同じ高さとなるように、縦フランジ28、30が取り付けられている。同様の理由により、非補剛領域22Cは、左右の端部で同じ高さとなっている。なお、波形鋼板22の非補剛領域22B、22Cの左右の端部は、必ずしも同じ高さである必要がない。
【0032】
波形鋼板22の幅方向両側には、上の梁16の下面及び下の梁18の上面にそれぞれ取り付けられた合計4つの固定部材42が設けられている。これらの固定部材42は同一構造であるため、下の梁18に取り付けられ、且つ縦フランジ28の側方に設けられた固定部材42を例に説明する。図3又は図4に示すように、固定部材42は、鋼板からなる固定プレート44と、この固定プレート44の縁に沿って立設された鋼板からなる取付プレート46(取付部材)とによって断面L字型に形成されている。固定プレート44と取付プレート46との間には、固定プレート44と取付プレート46とにまたがるようにして、補強用の2枚の補剛リブ48が対向して溶接されている。
【0033】
固定プレート44には、図5に示すように、接合プレート32に形成されたボルト孔38に対応する複数のボルト孔50が形成され、これらのボルト孔38、50にボルト35を貫通させてアンカーナット34に捻じ込むことで固定プレート44が接合プレート32に接合されている。これにより、梁18と固定部材42とが、架構20の作用する水平力を伝達可能に接合される。
【0034】
図3又は図4に示すように、対向する取付プレート46と縦フランジ28との間には、ストッパー手段が設けられている。このストッパー手段は、取付プレート46に形成された長孔52と、縦フランジ28の側面28Aに突設された鋼製のストッパーピン54と、から構成されている。
【0035】
取付プレート46には、対向する補剛リブ48の間に長孔52(開口部)が形成され、縦フランジ28の下端部の側面28Aに突設された円柱形のストッパーピン54が挿入可能となっている。この長孔52は上下方向に延びる楕円とされ、楕円の長軸に沿ってストッパーピン54が上下方向に相対変位可能となっている。また、長孔52の内壁には、取付プレート46に対して縦フランジ28が上方に相対変位したときにストッパーピン54が当接する上縁部52Aと、取付プレート46に対して縦フランジ28が下方に相対変位したときにストッパーピン54が当接する下縁部52Bとされている。これらの上縁部52A及び下縁部52Bにストッパーピン54が当接することでストッパー手段が機能し、取付プレート46と縦フランジ28との相対変位が所定位置で止められ、取付プレート46と縦フランジ28との間で応力伝達が相互になされる。これにより、波形鋼板22に生じるせん断力の鉛直成分が、ストッパーピン54を介して縦フランジ28から固定部材42へ伝達され、波形鋼板22が耐震要素として水平力に抵抗し、耐震効果を発揮する。この際、波形鋼板22のせん断力の鉛直成分の大部分が固定部材42に伝達されるように固定部材42の剛性が非補剛領域22Cの剛性よりも大きくされている。また、長孔52の長軸の長さを変えることで、後述する粘弾性体56のせん断変形量が調整される。
【0036】
対向する縦フランジ28と取付プレート46との間には、厚さ1〜2mm程度の粘弾性体56が設けられている。この粘弾性体56の中央部には、取付プレート46の長孔52と略同一形状の楕円とされた長孔58が形成され、この長孔58に挿入されたストッパーピン54が楕円の長軸に沿って上下方向に相対変位可能となっている。この粘弾性体56は、縦フランジ28の下端部の側面28Aと取付プレート46の取付面46Aとに接着材等で固定され、取付プレート46と縦フランジ28とが相対変位したときにせん断変形可能とされている。
【0037】
このように縦フランジ28、30の上端部及び下端部の側面28A、30Aには、取付プレート46の取付面46Aが対向して配置され、各縦フランジ28、30の側面28A、30Aと取付プレート46の取付面46Aとの間に粘弾性体56が上下方向にせん断変形可能に固定されている。
【0038】
なお、粘弾性体56の厚さ、形状、材質等は、波形鋼板耐震壁10が設置される建物に求められる環境性能(微振動減衰性能)に応じて適宜設計される。粘弾性体56の材料としては、例えば、ジエン系ゴム、ブチル系ゴム、アクリル系、ウレタンアスファルト系ゴム等を用いることができ、ジエン系ゴムを用いれば、せん断弾性係数G=2.0kg/cm、等価減衰定数heq=0.30程度を実現し得る。また、粘弾性体56に必要なせん断変形量から、長孔52とストッパーピン54とが当接して縦フランジ28と取付プレート46との相対変位を止める位置(所定位置)が決定される。
【0039】
次に、第1の実施形態に係る波形鋼板耐震壁10の作用及び効果について説明する。
【0040】
図6は、風荷重や地震荷重等の水平力が波形鋼板耐震壁10に作用したときの、波形鋼板耐震壁10の変形状態を誇張して表した説明図あり、図6(A)は、ストッパー手段が機能する前の波形鋼板耐震壁10の変形状態を示し、図6(B)は、ストッパー手段が機能したときの波形鋼板耐震壁10の変形状態を示している。なお、説明の便宜上、非補剛領域22B及び上の梁16の取り付けられた固定部材42を省略している。また、縦フランジ28と対向する取付プレート46を取付プレート46Lとし、縦フランジ30と対向する取付プレート46を取付プレート46Rとする。図6(B)では、縦フランジ28、30から取付プレート46R、46Lにせん断力の鉛直成分が伝達されることを視覚化するために、取付プレート46R、46Lの変形状態を誇張して表している。また、図6(A)及び図6(B)中の2点鎖線は、上下の梁16、18及び波形鋼板耐震壁10の変形前の状態を示している。
【0041】
図6(A)に示すように、風や交通振動等により架構20(図1参照)に水平力Fが作用すると、架構20に層間変形が生じて上下の梁16、18が相対変位する。これにより、横フランジ24、26(図1参照)を介して波形鋼板22に水平力が伝達され、波形鋼板22がせん断変形を繰り返す。波形鋼板22がせん断変形すると、波形鋼板22に作用したせん断力が水平方向の力(せん断力の水平成分Q)として発生すると共に、このせん断力によって波形鋼板22に発生する曲げモーメントを縦フランジ28、30間の距離(横フランジ24、26の長さ)が鉛直方向の力(せん断力の鉛直成分T、T)として縦フランジ28、30に作用する。
【0042】
このせん断力の鉛直成分T、Tにより、領域22Aよりも鉛直剛性が小さい波形鋼板22の非補剛領域22Cが集中的に伸縮する。即ち、非補剛領域22Cの左側の端部付近がアコーディオンのように伸びたり、縦フランジ28が上方へ移動すると共に、非補剛領域22Cの右側の端部付近がアコーディオンのように縮んだりして、縦フランジ30が下方へ移動する。これにより、縦フランジ28が取付プレート46Lに対して上方に相対変位すると共に、縦フランジ30が取付プレート46Rに対して下方に相対変位する。一方、水平力Fが逆向き(図6(A)において右から左)に作用した場合は、縦フランジ28が取付プレート46Lに対して下方に相対変位すると共に、縦フランジ30が取付プレート46Rに対して上方に相対変位する。
【0043】
従って、図7(B)又は図7(C)に示すように、取付プレート46Lと縦フランジ28との間に設けられた粘弾性体56がせん断変形を繰り返し、振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて風や交通振動等による微振動が低減される。このように、波形鋼板耐震壁10では、単に波形鋼板22のせん断変形を利用して粘弾性体56を変形させるのではなく、鉛直剛性が小さいという波形鋼板22の機械的性質を利用し、波形鋼板22に非補剛領域22B、22Cを設けてせん断力の鉛直成分T、Tによる波形鋼板22の上下方向の変形量を大きくし、粘弾性体56によるエネルギー吸収効率を向上させたものである。従って、単に壁式の鋼材系ダンパーのせん断変形を利用して粘弾性体を変形させる複合型ダンパーと比較して、風や交通振動等の微振動に対する振動低減効果を高めることができる。
【0044】
このように、粘弾性体56によって波形鋼板耐震壁10に減衰を付与することで、風荷重や交通振動による微振動を低減することができ、波形鋼板耐震壁10が設置された建物の環境性能を向上させることができる。更に、波形鋼板22に非補剛領域22Cを設けることにより、非補剛領域22Cを設けない場合と比較して、粘弾性体56のせん断変形量が大きくなり、振動低減効果が向上する。
【0045】
一方、図6(B)に示すように、地震荷重等の水平力により、縦フランジ28と取付プレート46Lとの相対変位が大きくなると、図7(B)又は図7(C)に示すように、ストッパーピン54が長孔52の上縁部52A又は下縁部52Bに当接し、縦フランジ28と取付プレート46Lとの相対変位が所定位置で止められ、縦フランジ28と取付プレート46Lとの間で、剛性の高いストッパーピン54を介して、応力伝達が相互になされる。これにより、波形鋼板耐震壁10が耐震要素として水平力に抵抗し、耐震効果を発揮する。また、水平力に対して波形鋼板22が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮させることができる。なお、説明を省略するが、ストッパー手段が機能することで、縦フランジ30と取付プレート46Rとの間で応力伝達が相互になされる。
【0046】
なお、取付プレート46Lと波形鋼板22の非補剛領域22Cは、波形鋼板22の領域22Aに対して力学的に並列バネとして接合されている。従って、せん断力の鉛直成分の大部分が取付プレート46Lを経由して、架構20を構成する梁18等の構造部材へ伝達される。
【0047】
このように、風や交通振動等の微振動に対しては、粘弾性体56の減衰性能によって微振動を低減することができ、一方、地震荷重の大きな振動に対しては、波形鋼板耐震壁10が本来の耐震性能、制震性能を発揮して振動を低減することができる。従って、波形鋼板耐震壁10の耐震性能、制震性能を維持しつつ、風や交通振動等の微振動を低減することができ、波形鋼板耐震壁10が設置された建物の環境性能を向上させることができる。更に、ストッパー手段を設けることで、粘弾性体56の変形範囲が制限され、粘弾性体56の破損、損傷が防止される。
【0048】
また、図1に示すように、非補剛領域22Cを波形鋼板22の下部に設けることで、縦フランジ28、30の下端部と梁18との距離が短くなり、取付プレート46の高さを小さくすることができる。これにより、取付プレート46の設計強度を下げることができる。
【0049】
なお、一般的に建物に振動(揺れ)が生じると、建物の頂上で加速度(揺れ)が最大となる。この加速度は、建物の一次モード減衰係数hのルートに反比例する。従って、波形鋼板耐震壁10に粘弾性体56を設けない場合の減衰係数を1%と仮定し、波形鋼板耐震壁10に粘弾性体56を設けた場合の付加減衰を1%と仮定すると、1/√2≒0.7となり、建物の頂上に発生する加速度を30%程度減衰することができる。また、粘弾性体56は、Voigtモデルを用いてモデル化することができ、粘弾性体56のバネ定数Kは、K=G×A/t(G:せん断弾性係数、A:断面積、t:厚み)で求められ、減衰定数Cは、C=K×h/(π×f)(h:一次モード減衰係数、f:1次固有振動数)で求められる。また、粘弾性体56、固定部材42、非補剛領域22Cの振動モデル59は、図8のようになる。図8中のKは、固定部材42の剛性であり、Kは非補剛領域22Cの剛性である。このような振動モデル59を建物の振動モデルに組み込み、複素固有値解析や非線形応答解析を行うことで粘弾性体56による付加減衰を適宜設計することができる。
【0050】
次に、第2の実施形態に係る波形鋼板耐震壁60の構成について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に適宜省略して説明する。
【0051】
図9に示すように、波形鋼板耐震壁60は、2枚の波形鋼板22、62を備えている。
波形鋼板62は波形鋼板22と同一の構成とされ、この波形鋼板62の上端部(上端辺)又は下端部(下端辺)に設けられた板状の横フランジ24、26を介して上下の梁16、18に取り付けられている。また、波形鋼板62には、この波形鋼板62の左端部(左端辺)及び右端部(右端辺)であって波形鋼板62の上部及び下部を除いた部分に、縦フランジ64、66が溶接等によって取り付けられている。縦フランジ64、66が存在しない波形鋼板62の上部及び下部の領域は、それぞれ非補剛領域62B、62Cとされ、縦フランジ64、66が取り付けられた領域62Aよりも鉛直剛性が小さくされている。
【0052】
波形鋼板22と波形鋼板62とは、横方向に間を空けて上下の梁16、18の間に配置され、対向する縦フランジ30と縦フランジ64との間に、2つの固定部材68が配置されている。固定部材68は、上下の梁16、18にそれぞれ固定され、縦フランジ30と固定部材68との間、及び縦フランジ64と固定部材68との間にそれぞれ粘弾性体56が設けられている。なお、固定部材68は、固定部材42と同様の方法によって、上下の梁16、18に取り付けられている。
【0053】
下の梁18に取り付けられた固定部材68を例に説明すると、図10に示すように、固定部材68は、固定プレート44とこの固定プレート44の上に立設された鋼板からなる取付プレート70とによって、断面T字型に形成されている。取付プレート70の両面は、それぞれ粘弾性体56が接着される取付面70A、70Bとされている。また、取付面70A、70Bには、鋼製からなる円柱形のストッパーピン72、74がそれぞれ縦フランジ30、64に向かって突設されている。なお、固定部材68は、補剛リブ等で適宜補強しても良い。
【0054】
一方、縦フランジ30には、ストッパーピン72が挿入される長孔76(開口部)が形成されている。この長孔76は上下方向に延びる楕円とされ、楕円の長軸に沿ってストッパーピン72が上下方向に相対変位可能となっている。また、長孔76の内壁には、取付プレート70に対して縦フランジ30が上方に相対変位したときにストッパーピン72が当接する上縁部76Aと、取付プレート46に対して縦フランジ30が下方に相対変位したときにストッパーピン72が当接する下縁部76Bとされている。これらの上縁部76A及び下縁部76Bにストッパーピン72が当接することでストッパー手段が機能し、取付プレート70と縦フランジ30との相対変位が止められ、取付プレート70と縦フランジ30との間で、剛性が高いストッパーピン72を介して応力伝達が相互になされる。
【0055】
縦フランジ30と同様に、縦フランジ64には、ストッパーピン74が挿入される長孔78(開口部)が形成されている。この長孔78は上下方向に延びる楕円とされ、楕円の長軸に沿ってストッパーピン74が上下方向に相対変位可能となっている。また、長孔78の内壁には、取付プレート70に対して縦フランジ64が上方に相対変位したときにストッパーピン74が当接する上縁部78Aと、取付プレート46に対して縦フランジ64が下方に相対変位したときにストッパーピン74が当接する下縁部78Bとされている。これらの上縁部78A及び下縁部78Bにストッパーピン74が当接することでストッパー手段が機能し、取付プレート70と縦フランジ64との相対変位が止められ、取付プレート70と縦フランジ64との間で、剛性が高いストッパーピン74を介して応力伝達が相互になされる。この際、波形鋼板62のせん断力の鉛直成分の大部分が固定部材68に伝達されるように、固定部材68の剛性が非補剛領域62Cの剛性よりも大きくされている。更に、長孔76、78の長軸の長さを変えることで、粘弾性体56のせん断変形量が調整される。
【0056】
縦フランジ30と取付プレート70との間に設けられた粘弾性体56は、縦フランジ30の下端部の側面30Aと取付プレート70の取付面70Aとに接着材等で固定され、取付プレート70と縦フランジ30とが相対変位したときにせん断変形可能とされている。また、縦フランジ64と取付プレート70との間に設けられた粘弾性体56は、縦フランジ64の下端部の側面64Aと取付プレート70の取付面70Bとに接着材等で固定され、取付プレート70と縦フランジ64とが相対変位したときにせん断変形可能とされている。
【0057】
次に、第2の実施形態に係る波形鋼板耐震壁60の作用及び効果について説明する。
【0058】
第1の実施形態と同様に、風や交通振動等の水平力が架構20(図9参照)に作用すると、架構20に層間変形が生じて上下の梁16、18が相対変位し、波形鋼板22、62がせん断変形を繰り返す。これにより、取付プレート70に対して縦フランジ30、64がそれぞれ相対変位し、取付プレート70と縦フランジ30との間に設けられた粘弾性体56、及び取付プレート70と縦フランジ64との間に設けられた粘弾性体56がそれぞれせん断変形して振動エネルギーが吸収される。従って、風や交通振動等によって建物に生じる微振動が低減される。
【0059】
一方、地震荷重等の水平力が架構20に作用し、縦フランジ30と取付プレート70との相対変位が大きくなると、図10(B)又は図10(C)に示すように、ストッパーピン72が長孔76の上縁部76A又は下縁部76Bに当接し、縦フランジ30と取付プレート70との相対変位が止められ、縦フランジ30と取付プレート70との間で応力伝達が相互になされる。これと同様に、縦フランジ64と取付プレート70との相対変位が大きくなると、ストッパーピン74が長孔78の上縁部78A又は下縁部78Bに当接し、縦フランジ64と取付プレート70との相対変位が止められ、縦フランジ64と取付プレート70との間で応力伝達が相互になされる。これにより、波形鋼板耐震壁60(図9参照)が耐震要素として水平力に抵抗し、耐震効果を発揮する。また、水平力に対して波形鋼板22、62が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮させることができる。
【0060】
また、波形鋼板22と波形鋼板62とは、同一方向(同一の水平方向)にせん断変形するため、対向する縦フランジ30、64に逆向きのせん断力の鉛直成分が作用する。即ち、図10(B)に示すように、水平力Fが波形鋼板22から波形鋼板62へ向って作用した場合、波形鋼板22の縦フランジ30には、波形鋼板22に作用したせん断力の鉛直成分Tが下向きに作用し、波形鋼板62の縦フランジ64には、波形鋼板62に作用したせん断力の鉛直成分Tが上向きに作用する。一方、図10(C)に示すように、水平力Fが波形鋼板62から波形鋼板22へ向って作用した場合、波形鋼板22の縦フランジ30には、波形鋼板22に作用したせん断力の鉛直成分Tが上向きに作用し、波形鋼板62の縦フランジ64には、波形鋼板62に作用したせん断力の鉛直成分Tが下向きに作用する。従って、取付プレート70には、縦フランジ30、64から逆向きのせん断力の鉛直成分T、Tが作用して打ち消し合う。そのため、取付プレート70の設計強度を下げることができ、また、取付プレート70を介して下の梁18に作用する集中力が低減されるため、梁18の設計強度を下げることができる。なお、説明を省略するが、上の梁16に固定された取付プレート70にも、同様に縦フランジ30、64からそれぞれ逆向きのせん断力の鉛直成分が作用する。
【0061】
更に、対向する縦フランジ30、64で1つの取付プレート70を共用することで部材数が減り、コスト削減を図ることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、架構20の上下の梁16、18の間に2枚の波形鋼板22、62を配置したが、2枚上の波形鋼板を配置しても良い。この場合、隣接する各波形鋼板における対向する縦フランジの間に取付プレート70を配置すれば良い。
【0063】
次に、ストッパー手段の変形例について説明する。
【0064】
第1の実施形態では、取付プレート46に形成された長孔52と、縦フランジ28の側面28Aに突設されたストッパーピン54と、からストッパー手段を構成したが、図11(A)又は図11(B)に示すように、取付プレート46の取付面46Aにストッパーピン54を突設し、縦フランジ28に長孔52を形成しても良い。更に、複数のストッパーピン54を設けても良い。例えば、図11(B)に示すように、波形鋼板22を両側から挟むように2本のストッパーピン54を設け、これらのストッパーピン54がそれぞれ挿入される長孔52を縦フランジ28の形成しても良い。
【0065】
また、ストッパーピン54は、必ずしも粘弾性体56を貫通させる必要はなく、図12(A)に示すように、取付プレート46から縦フランジ28側へ向かって突出する突設部80と、縦フランジ28の側面28Aに突設され、突設部80を上下方向から間を空けて挟み込む一対のストッパー部材82A、82Bと、でストッパー手段を構成しても良い。このストッパー手段は、図12(B)又は図12(C)に示すように、取付プレート46と縦フランジ28とに相対変位が生じると、突設部80の下端部80Bとストッパー部材82Bとが当接し、又は突設部80の上端部80Aとストッパー部材82Aとが当接することで、取付プレート46と縦フランジ28との相対変位が所定位置で止められる。このストッパー手段では、粘弾性体56に長孔58を形成しないため、粘弾性体56の形状が簡単になり、粘弾性体56の設計がし易くなる。
【0066】
更に、図13の示すように、取付プレート46及び縦フランジ28にそれぞれ長孔52を形成し、この長孔52にストッパーピン84を挿入しても良い。このストッパーピン84の軸方向両端部に抜止めプレート86を一体形成し、長孔52からストッパーピン84が抜け出さないよう構成されている。
【0067】
また、第1の実施形態では、取付プレート46を上下の梁16、18に固定したが、図14に示すように架構20(図1参照)としての柱12に取付プレート88を取り付けても良い。取付プレート88は、この取付プレート88の上部及び下部に形成されたボルト孔90にボルト92を貫通させ、柱12に埋め込まれたアンカーナット94に捻じ込むことで柱12に接合されている。更に、柱12の取付プレート88を固定せずに、柱12の側面に長孔52を形成し、ストッパーピン54を挿入することもできる。
【0068】
なお、上記の第1の実施形態では、非補剛領域22B、22Cを波形鋼板22の上部及び下部に設けたがこれに限らず、波形鋼板22の上部にのみ設けて良いし、図6(A)又は図6(B)に示す模式図のように、波形鋼板22の下部にのみ設けても良い。また、図15に示すように、非補剛領域22Cの下側に縦フランジ28が設けられた領域22Aを設けても良い。
【0069】
また、固定部材42の設計強度を考慮すると、梁16、18からストッパーピン54までの距離が小さい方が好ましい。梁16、18からストッパーピン54までの距離が離れていると、縦フランジ28、30から伝達されるせん断力によって固定部材42に生じる曲げモーメント等の付加応力が大きくなるためである。このような付加応力を抑えるためには、ストッパーピン54の取付高さを波形鋼板22の部材高さの1/3以下程度に抑えることが望ましい。ただし、必ずしもストッパーピン54の取付高さを波形鋼板22の部材高さの1/3以下に抑える必要はなく、ストッパーピン54の取付高さが波形鋼板22の部材高さの1/3を超える場合には、上記した付加応力を適切に考慮して固定部材42を設計すれば良い。
【0070】
更に、図16(A)又は図16(B)に示すように、波形鋼板22の非補剛領域22Cの波形形状を、他の波形鋼板22の領域22Aの波形形状よりも密に形成することで、非補剛領域22Cの鉛直剛性を小さくすることができる。ここで、波形鋼板22の軸方向弾性係数Eは、式(1)によって与えられる。
【0071】
【数1】

なお、α:波形形状係数(α=(a+c)/(3a+b))、a:山の頂面部の折り目長さ、b:斜辺部の折り目長さ、c:斜辺部の折り目の投影長さ、E:波形鋼板のヤング係数E0:鋼板のヤング係数、t:波形鋼板の板厚、h:波の高さ、である。
【0072】
従って、例えば、縦フランジ28が存在しない非補剛領域22Cの山の頂面部の折り目長さaを、縦フランジ28が設けられた波形鋼板22の領域22Aよりも小さくする(波形形状を密にする)とすることで、領域22Aに比べて非補剛領域22Cの軸方向弾性係数Eが小さくなるため、非補剛領域22Cの鉛直剛性を更に小さくすることができる。このように、非補剛領域22Cの鉛直剛性を小さくすることで、取付プレート46(図1参照)に対する縦フランジ28の相対変位を大きくすることができるため、粘弾性体56による振動低減効果を高めることができる。
【0073】
なお、上記第1、第2の実施形態では、横フランジ24、26及び縦フランジ28、30、64、66を板状に形成したがこれに限らず、H型鋼、L型鋼、アングル鋼、丸棒鋼等を使用しても良い。また、ストッパー手段を構成する長孔52、76、78は、楕円に限らず長方形等の多角形の孔でも良い。また、ストッパーピン54、72、74は円柱に限らず、角柱等で構成しても良い。
【0074】
また、上記第1、第2の実施形態における柱12、14、梁16、18は、鉄筋コンクリート造に限らず、鉄骨鉄筋コンクリート造、プレストレスコンクリート造、鉄骨造、更には現場打ち工法、プレキャスト工法等の種々の工法を用いた構造部材に適用可能である。例えば、第1の実施形態において、梁16に替えてコンクリートスラブ又は小梁等であっても良い。
【0075】
また、説明の都合上、柱12、14、梁16、18に配筋される、鉄筋、せん断補強筋等は省略したが、鉄筋、せん断補強筋は、各部材に求められる強度に応じて適宜設ければよい。更に、本発明の波形鋼板耐震壁10、60は、建物の一部に用いても良いし、全てに用いても良い。更に、波形鋼板22、62は、図17(A)〜(D)に示すような断面形状をした波形鋼板を用いても良い。
【0076】
以上、本発明の第1、第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、第1、第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る波形鋼板耐震壁を示す正面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る波形鋼板耐震壁を示す、図1の1−1線断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るストッパー手段を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るストッパー手段を示す分解斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る波形鋼板耐震壁の脚部を示す説明図である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施形態に係る波形鋼板耐震壁の変形状態を誇張して表した説明図あり、(A)は、ストッパー手段が機能する前の変形状態を示し、(B)は、ストッパー手段が機能したときの変形状態を示している。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るストッパー手段の動作を示す作動図であり、(A)は停止状態を示し、(B)、(C)はストッパー手段が機能した状態を示している。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る波形鋼板耐震壁の脚部の振動モデルである。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る波形鋼板耐震壁を示す正面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係るストッパー手段の動作を示す作動図であり、(A)は停止状態を示し、(B)、(C)はストッパー手段が機能した状態を示している。
【図11】(A)は本発明の第1、第2の実施形態に係るストッパー手段の変形例を示す正面図であり、(B)は図10(A)の2−2線断面図である。
【図12】本発明の第1、第2の実施形態に係るストッパー手段の変形例の動作を示す作動図であり、(A)は停止状態を示し、(B)、(C)はストッパー手段が機能した状態を示している。
【図13】本発明の第1、第2の実施形態に係るストッパー手段の変形例を示す正面図である。
【図14】本発明の第1、第2の実施形態に係るストッパー手段の変形例を示す正面図である。
【図15】本発明の第1、第2の実施形態に係るストッパー手段の変形例を示す正面図である。
【図16】(A)は本発明の第1の実施形態に係る波形鋼板耐震壁の断片を示す正面図であり、(B)は図10(A)の3−3線断面図である。
【図17】本発明の第1、第2の実施形態に係る波形鋼板の断面形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0078】
10 波形鋼板耐震壁
16 梁(水平部材)
18 梁(水平部材)
20 架構
22 波形鋼板
22B 非補剛領域
22C 非補剛領域
24 横フランジ
26 横フランジ
28 縦フランジ
30 縦フランジ
46 取付プレート(取付部材)
52 長孔(開口部)
52A 上縁部
52B 下縁部
54 ストッパーピン(ストッパー手段)
54A 上縁部
54B 下縁部
56 粘弾性体
60 波形鋼板耐震壁
62 波形鋼板
62B 非補剛領域
62C 非補剛領域
64 縦フランジ
66 縦フランジ
70 取付プレート(取付部材)
72 ストッパーピン(ストッパー手段)
74 ストッパーピン(ストッパー手段)
76 長孔(ストッパー手段、開口部)
76A 上縁部
76B 下縁部
78 長孔(ストッパー手段、開口部)
78A 上縁部
78B 下縁部
80 突設部(ストッパー手段)
82A ストッパー部材(ストッパー手段)
82B ストッパー部材(ストッパー手段)
84 ストッパーピン(ストッパー手段)
88 取付プレート(取付部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架構を構成する上下の水平部材の間に折り筋を横にして配置された波形鋼板と、
前記波形鋼板の上下の端部に設けられ、上下の前記水平部材に取り付けられる横フランジと、
前記波形鋼板の左右の端部に設けられた縦フランジと、
前記波形鋼板に設けられ、該波形鋼板の左右の端部に前記縦フランジが存在しない非補剛領域と、
前記架構に取り付けられた取付部材と、
前記取付部材と前記縦フランジとの間に上下方向にせん断変形可能に設けられた粘弾性体と、
前記取付部材と前記縦フランジとの間に設けられ、前記取付部材と前記縦フランジとの上下方向の相対変位を所定位置で止めるストッパー手段と、
を備える波形鋼板耐震壁。
【請求項2】
前記非補剛領域が、前記波形鋼板の上部及び下部に設けられ、
前記取付部材が上及び下の前記水平部材にそれぞれ取り付けられ、
前記縦フランジの上端部の側面及び下端部の側面と、該縦フランジの上端部の側面及び下端部の側面にそれぞれ対向する前記取付部材とに、前記粘弾性体を固定した請求項1に記載の波形鋼板耐震壁。
【請求項3】
前記非補剛領域が、前記波形鋼板の上部又は下部に設けられ、
前記取付部材が上又は下の前記水平部材にそれぞれ取り付けられ、
前記縦フランジの上端部の側面又は下端部の側面と、該縦フランジの上端部の側面又は下端部の側面に対向する前記取付部材とに、前記粘弾性体を固定した請求項1に記載の波形鋼板耐震壁。
【請求項4】
上下の前記水平部材の間に複数の前記波形鋼板が横方向に間隔を空けて配置され、対向する前記縦フランジの間に前記取付部材を配置し、該取付部材と前記縦フランジとの間にそれぞれ前記粘弾性体を設けた請求項1〜3の何れか1項に記載の波形鋼板耐震壁。
【請求項5】
前記非補剛領域の波形形状が、他の前記波形鋼板の領域の波形形状よりも密とされた請求項1〜4の何れか1項に記載の波形鋼板耐震壁。
【請求項6】
前記ストッパー手段は、前記取付部材及び前記縦フランジの一方に設けられた開口部と、前記縦フランジ及び前記取付部材の他方から突出し前記開口部に挿入されると共に該開口部の上縁部又は下縁部に当接して前記取付部材と前記縦フランジとの上下方向の相対変位を所定位置で止めるストッパーピンと、を備える請求項1〜5の何れか1項に記載の波形鋼板耐震壁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−37868(P2010−37868A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203952(P2008−203952)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】